法学部長からのメッセージ(PDFダウンロード )

新世代法学部の順調な発展
法学部長「有明日記」その1―ある日の教室風景から
法学部長
池田眞朗
「新世代法学部」を標榜して 2014 年に誕生した本学の法学部は、順調に 2 年目の冬
を迎えようとしています。幸い、教員・学生の一丸となった努力によって、ここまでは
目標通りの急速な発展を達成できていると申し上げられるようです。来年度の 3 期生を
迎えるにあたって、私と学生諸君の日常を織り込んだ文章をお示ししましょう。これに
よって、わが「新世代法学部」の雰囲気を読みとっていただければ幸いです。
プロローグ
ご紹介するのは、二つの教室風景です。
まず一つは、2015 年 11 月 24 日の有明キャンパス 3-302 教室。民法4B(法律学
科 2 年生第 4 学期、債権総論後半、池田担当)の、最初の講義が終わった直後の大教室
の風景です。半分近くの学生はすぐに立ち去らず、教室のあちこちに、10 数人ずつく
らいの学生諸君の輪ができています。一つの輪では、表彰の盾を持った女子学生を中心
ににぎやかな笑い声が広がっています。もう一つの輪でも満足そうな笑顔での反省会で
しょうか。リーダー格の男子学生のコメントにうなずく顔が。いや、その後ろでハンカ
チを目に当ててしまった女子学生も見えます。
二つめは、2015 年 12 月 8 日の武蔵野キャンパス 1101 教室。法学2(法律学科1年
生後期、金尾先生担当)の授業後の風景です。一人の男子学生が、にこにこしながら一
枚の書類を持って教壇にやってきました。先生は、びっくりした顔をして、それから、
今にも泣きだしそうに喜びました。たちまち学生の輪ができて、一人の男子学生が、ち
ょっと悔しそうにしながらも、しっかり祝福の言葉をかけています。
――これらの教室風景はどうしてでき上がったのか。まずは以下の1.2の説明をお
読みください。
1
大教室双方向授業
2014 年 4 月に 1 期生を迎えた法学部で、私は最初に法律学科 150 名政治学科 100 名
の全員を対象にした「法学1(法学の基礎)」という授業を担当しました(注、二年目
からは法律学科と政治学科の法学は別の授業になっています)。最初が肝心、と思った
私は、金尾悠香先生の担当科目に共同担当者として加えてもらったのです。そこで私が
始めたのが、長年かけて開発した、
「大教室双方向授業」です。これは、約 250 人の受
講者のいる大教室で、ハンドマイクを 2 本持って学生諸君の中に入って行き、彼らに質
1
問をしたり会話を交わしたりしながら授業を進めるやり方です(ちなみに私はこの授業
方法について法律学科の先生方を相手に「講習会」を開きました。共同担当の金尾先生
はいまや免許皆伝の腕前です)。これをすると、後ろのほうの席で私語をしている学生
がいれば私がすぐに飛んで行って質問するので、教室中が静かになって、緊張感のある
授業ができますし、何より学生諸君が集中して学ぶことができます。法律学では、伝統
的に教授が教壇の上からえらそうに一方的に講義をして学生諸君はそれを聞きながら
ノートを取る、などという授業が行われてきました。けれどもそれでは退屈です。「新
世代法学部」ではそういうことはしないのです。しかも私は質問をしながら一人ひとり
の学生の名前を憶えていきます。こういう授業をやっている大学はまだほかにはそうな
いと思います。さて、それを一年半以上続けるとどうなるのでしょうか?
2
完全 4 学期制の実施
最近、大学の4学期制ということがマスコミでも取り上げられています。けれども、
わが国の大学、ことに法学部では、4 学期制を採用したといっても、実際は試験がまだ
前期後期の2回であったり、一部の教員が任意に 4 学期にしているだけというところも
多いのです。それはことに法律学のほうの、主要科目の講義の分量が伝統的に通年 4 単
位に適していて 4 学期に分けることが困難、ということが大きな理由です(この点、政
治学のほうは、対応がしやすい科目が多いのです)。しかし本学法学部では、2015 年 4
月からの全学の 4 学期制採用に伴い、法政両学科ともに(1 年生の一部科目を除いて)
完全 4 学期制を実施しました。
そこで私たちは工夫をしました。具体的な対処方針として、①政治学科では、4 学期
制のメリットを最大限に享受して、6 月第 2 週から始まる第2学期に極力必修科目を入
れないようにして、6 月から 9 月までの語学研修などの海外留学やその他の学外研修を
可能にすることにしました。②しかし法律学科では、基本法律科目を 4 分割するのは困
難なことから、いわば 4 学期制を逆手に取って、
「民事基本法先行集中学習カリキュラ
ム」と名付けた最先端のカリキュラムを採用し、民法の物権法や債権法をすべて週 2 コ
マの集中授業として、民法財産法を 2 年生のうちに修了することとしたのです(他大学
では 3 年生までかかるのが通例です)
。これは、法律の学習が一つの系統樹のようにな
っているので、その幹のところに当たる民法を先に集中して学ぶことに合理性があり、
またメリットがあるということから採用したものです。その結果、2 年生の諸君は、一
年間の半分は民法を週に 4 コマ学習します。
さて、それを 4 月から実施してきた結果はどうなったでしょうか?
これら1,2の答えが、最初に紹介した教室風景になるのです。
3
11 月 24 日有明キャンパス
まず 11 月の有明キャンパスです。その日は、11 月 12 日に実施した、第 3 学期の民
2
法4A(債権総論前半)の期末試験について、成績優秀者の発表をしました。本学では、
ABCDの評価の上にS(90 点以上)という評価があります。私の試験は、毎回 60 分
の試験時間ぎりぎりいっぱいまでかかる多数の問題を出しますので、途中で出ていく学
生は一人もいません。今回のメインの問題は、M子さんと恋人のU夫君の会話の形の文
章問題で、事業に失敗した父親が、母親と離婚することにして自宅の土地建物をM子さ
んたちに残そうとするという、かなりレベルの高い問題(離婚といっても家族法の問題
ではなく、債権総論の詐害行為取消権という制度の問題です)だったのですが、結局
144 名中 23 名がSという好成績でした。
盛り上がったのはある意味 4 学期制の賜物で、1 学期はS、2学期は安心してしまっ
たらD、という一人の女子学生が、3学期に奮起をしてSを取り返したのです。その学
生Kさんを、私は盾を作って表彰しました。
それで終了後に、おめでとう、よかったね、その盾見せて、などというグループがあ
り、優秀者名簿に何人もが載ったグループもあり、その中で、問題を読み違えてSを取
り損なった女子学生がくやしくて泣き出したり、という騒ぎになったのです。
この教室風景を見て、私は強い手ごたえを感じました。たかが民法の期末試験一つで
これだけ学生たちが盛り上がる大学は、そうないと思います。
私が彼らに願っているのは、一つでも多くの「成功のドラマ」を体現してもらうこと。
この大学のこの法学部に来てよかった、と思って卒業してくれることなのです。11 月
24 日の教室風景は、まずその一歩を感じさせてくれるものでした。
4
12 月 8 日武蔵野キャンパス
12 月 2 日に、宅地建物取引士の試験の合格発表がありました。法律学科1年生のU
君が金尾先生に見せに来たのは、その合格証だったのです。宅地建物取引士は、毎年多
くの合格者が出るとはいっても、立派な資格試験であり、大学1年生で受かるのは素晴
らしいことです。
実は私と金尾先生は、前期にこの宅建の資格のことを教室で話して、1年生の諸君に
受験を呼びかけていました。ただU君は、夏頃までその気がなく、それから勉強を始め
たのですが、金尾先生にも受験することを黙っていたのだそうです。彼はその理由を、
先生にサプライズがしたかったから、と答えています。それを聞いて私は、やはりうれ
しい手ごたえを感じました。
大学の1年生です。相手は4月からまだ半年と少し、大教室で週1回会うようになっ
ただけの教員です。マスプロの大学ならまず顔も覚えてもらっていません。そしてそん
な関係なら、「先生にサプライズで報告がしたかった」などとは決して思わないでしょ
う。さらに、彼にいさぎよくおめでとうと声をかけたのは、私も金尾先生も前期から期
待をかけていたN君。私もすでに半年でかなりの1年生の顔と名前を一致させて覚えて
いるのです。これが武蔵野大学法学部法律学科の教室風景なのです。
3
エピローグ
ちなみに宅地建物取引士については、法律学科2年生からも複数の合格者を出しまし
た。ただこれは私に言わせると、先に述べた「民事基本法先行集中カリキュラム」の成
果を考えれば当然のことなので、来年は新 3 年生と新2年生で大量の合格者を出したい
と思っています。というのも、宅地建物取引士は、不動産業に必要な資格であると同時
に、司法試験などを目指す人には、自分の実力を測る物差しにもなり、また不動産関係
以外の分野の一般企業就職を目指す人たちにとっては、就活で民法などの学習をしっか
りやってきたという証拠として示せるものになるからです。
そのうえ、私にはうれしいエピローグがありました。2年生で今回の宅建試験に合格
したT君とWさんは、先の 11 月 24 日有明キャンパス 302 教室で私が民法4Aの成績
優秀者を発表した、そのリストの一番上に、98 点のトップタイで名前があった二人な
のです。偶然とはいえ、大学の期末試験の成績と、資格試験の結果が見事に完全にシン
クロしたわけです。
私の持論は、「資格は予備校で取るものではない。まず大学の授業の成果で取るもの
だ」ということです。大学の期末試験でよい点数を取れば、資格試験の合格も当然につ
いてくる。それを証明してくれたT君とWさんには大感謝です。
以上、1期生と2期生の「サクセスストーリー」の第1章を紹介しました。続きは、
3 期生となる皆さんも加わって、一層素敵に綴ってほしいと願っています。
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