~ 起業家編 ~ ~限界集落と日本の食卓を世界の野菜でつなぐ~ 今回ご紹介する企業は、激辛で有名なハバネロなど世 界の珍しい野菜を全国へ出荷している、1996 年創業の 有限会社篠ファームです。 同社は、契約農家からあらかじめ決めた買取り価格で 収穫後全量を買い取ることにより、農家の生産意欲を向 上させ、地域を活性化しようと取り組んでいる注目の企 業です。高田社長から「新しい町おこし」の取組みにつ いて熱いお話しをお伺いしました。 企業情報 名 称 有限会社篠ファーム 所在地 京都府亀岡市宮前町神前上 長野 2 設 立 1996 年 代表者 高田 成 従業員 10 名 資本金 3 百万円 H P http://shinofarm.jp/ ●創業のきっかけ、苦労したことは。 根っからの園芸小僧。高校の園芸課を卒業後、大阪の百 貨店にある園芸店へ就職し、その後、花屋の丁稚奉公をは じめ、切り花の輸入会社など、園芸や農業関係ばかりで 7 回転職しました。最後の集大成として、これまでの生産か ら流通、販売までの経験を生かすべく、脱サラして当社を 立ち上げました。ありきたりな野菜を取り扱えば、既に生 産・流通形態が確立していて勝てる余地はないと思い、最 初から日本にない野菜、付加価値の高い野菜で勝負しよう と思っていました。 創業当初は、野菜の苗・ポット・土などを 1 セットにし 有限会社篠ファーム 高田成社長 た簡易栽培セットを販売し、大型雑貨店でも取り扱われたことからよく売れました。しかしブー ムに陰りが見え始めたため、世界の野菜の苗を生産しはじめました。その後、数件の農家と提携 し、苗だけでなく野菜の生産もはじめたのですが、ハバネロはそんな中、面白半分で作ってみた ものでした。最初は、認知度がなかったのと辛すぎたため、市場に出すと「傷や目に入って、痛 い」や「危険なものを商品として出すな」などのクレームがあり、値段もつかなかったので、生 産しても即、畑に廃棄していました。お笑い芸人が来て罰ゲームで生のハバネロを食べるとか、 そんなことばかり続きました。 ほどなく、大手菓子メーカーのハバネロパウダーを使った スナック菓子がヒットし、激辛ブームがおこりました。日本 で唯一ハバネロを生産、取扱っていた当社にマスコミ取材が 増え、日本人の食のルーツである味噌や醤油にハバネロを入 れた加工食品を作ったところ辛いもの好きの方々から好評 をいただき、ようやく売れ始めたのです。 ●日本の農家の現状は。 現状、農家の平均年収は、200 万円とかなり収入が低く、年金のある高齢者しか成り手がいない のが現状です。こんな年収では子育て世代はなかなか就農できず、より一層高齢化が進む悪循環 に陥ってしまいます。また、作物の値段は品質だけでなく、供給量の多い少ないで決まってしま い、農家が自分たちで値を付けることはできないなど、流通主導の不安定なものとなっています。 さらに、畑に植わっている段階では商品価値はゼロで、洗浄・計量・袋詰め・箱詰めされて初 めて商品となることから、コストも非常にかかり、いざ出荷しても逆ザヤになるなどはざらにあ る話です。利益割合は、1 対 9 で流通部門が占めていますが、私はこれを 3 対 7 ぐらいにまでする ことで農業者も安心して生活ができると考えております。 ●農家を元気にするためには。 そのためには、流通主導ではない、 「自分たちで値を付ける」商品を生産しなければなりません が、農家には、企画力、販売力、販売促進力が欠けているので、これまでの経験を生かし当社が それを補っていきたいと思っております。私の使命は日本の農家を元気にすることだと思ってい ます。 提携している農家は農地が 3 反~5 反程度の零細農家(限界集落や中山間地の農家が多い)がほ とんどです。これらの農家と「あらかじめ野菜の買取り価格を決め、収穫後は全量を買い取る」 契約を結んでおり、農家の生産意欲の向上につなげています。これには農家に 2 つのメリットが あり、1 つ目は、全量を買取るため農家の所得も増えかつ安定すること、2 つ目は、収穫した状態 で買取るので袋詰めや箱詰めなどの作業が不要になり農家の作業負担軽減につながることです。 作業が軽減した分、2~3 倍の生産性の向上につながります。当初は協力してくれる農家も少なく、 一部の農家だけでしたが、現在は、京都府をはじめ兵庫県、長野県、富山県、鳥取県、高知県な ど 10 府県 230 先にまで増えています。 国内の需要が見込まれ、国内では生産されていない野 菜を手掛けており、そのような野菜をメジャーにし流通 に乗せることを目標としています。例えば、中国原産の チョウテンラージャオ 唐辛子、朝 天 辣 椒 。これは、麻婆豆腐などの四川料理 に使われている唐辛子で、生で流通していないので名前 まで知っている人は皆無に近いと思います。その他、メ キシコ原産の唐辛子ハラペーニョや、アメリカ原産の完 熟しても赤くならないグリーン系トマトなど、今では 70 種類以上の「京の新野菜」を手掛けており(試験栽 培を含めると 120 種程度) 、 「新野菜のプロデューサー」 と自負しています!! ●当社にコストがかかるのでは。 この契約内容では、輸送費や袋詰めのコストが当社にかかってきますが、本物志向やトレンデ ィ志向の需要者を対象にしていることから、多少高めの値段でもよく売れます。京都府内の高校 生と一緒に取り組んでいるイタリア原産の赤縞茄子(「京しずく」)も、イタリア料理店の高級食 材などとして需要があるほどです。また、袋の裏面に「篠ファーム」のロゴを入れ商品に営業機 能をつけるなど販売促進の工夫をしています。今では 1 日に、2~3 件の問い合わせが必ず来るよ うになりました。また、商品のネーミングにもこだわっており、ドイツ原産のピンク色のニンニ クには「桃色吐息」と名付けるなど、インパクトを持たせるようにしています。 ●新しい町おこしとは。 過疎化により 65 歳以上の方が半数以上となって社会的な活動が困難とされる「限界集落」。提 携先の農家のほとんどは、そういった集落かその予備軍にある零細農家が中心となっています。 こういった農家と提携し、安定収入が確保されるようになれば、しだいに地域が活性化していく のではと考えています。まだ少ないですが、集落に若者が戻り新たに農業を始めた例もあります。 その他に、限界集落を元気にするため「ふるさと野菜おすそわけ」事業として、高齢者が自家用 に栽培された安心安全でおいしい農産物を、都市部の会員へ「手紙」を添えて宅配する事業も展 開しています。手紙のやりとりを通じ「心と心の交流により生きがいを感じるようになった」と 言う方もいらっしゃいます。 今後の目標は、海外の野菜を地域の特産品にして、加工食品を売ったりし、町おこしにつなげ ていきたいと思っています。加工食品が定着すれば、その分野菜の需要が増えるので、農家にと っても 1 年を通じて安定した収入確保が見込まれます。将来的には、契約農家を 1,000 先にし、 地方の小さな集落と日本全国の食卓を世界の野菜でつなげていきたいと考えています。 <取材後記> 取材中は、 「日本の農家を元気にしたい!」という高田社長の熱い思いがひしひしと伝わっ てきました。農家の現状を何となくでしか認識していなかった筆者にとって、高田社長の一 言ひとことは、新鮮さを感じつつも改めて考えさせられる内容ばかりでした。 取材の後、倉庫を見学させていただきましたが、世界各国原産の唐辛子をはじめ世界の野 菜が所狭しと積まれており、その種類の多さに圧倒されました。中にはハバネロより辛いと される唐辛子もあり、その辛さは世界“最狂”とのこと・・・。ただ、野菜の一つひとつは みずみずしさで光り輝いており、まるで宝石のようにきれいでした。 同社の取組みにより、農家が元気になり、限界集落が活性化されることを期待して止みま せん。 (京都財務事務所財務課 I.T) 掲載している情報は、平成 26 年 12 月時点のものです。 掲載している写真は、同社よりご提供いただいた写真を掲載しております。
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