くまもとDIニュース №246(2001.2) D I 実 例 Q.1 天然ゴム(ラテックス)アレルギーと天然ゴムラテックス含有医薬品について 一般 ●安全性情報で注意喚起 1 9 99年3月に発表された医薬品等安全性情報15 3号の中で、天然ゴムアレルギーについて注意 喚起され、医療用天然ゴム含有製品は添付文書又はその容器若しくは被包に天然ゴムを使用して いること及びアレルギー症状を生じる可能性について記載が義務づけられた。 それ以前にも、19 9 2年3月の医薬品副作用情報1 1 3号の中で、手術用手袋等天然ゴム製医療用具 によるアナフィラキシー反応について注意喚起が行われていたが、昨今、感染症予防の観点から、 医療機関においてゴム手袋の装用が多くなったことに伴い、医療従事者の天然ゴムアレルギーの 症例が増えているようだ。 ●即時型アレルギー 天然ゴムアレルギー(ラテックスアレルギー)は特異的IgE抗体が関与する即時型(I型)アレ ルギー反応であり、天然ゴム製品中に残留する原料であるHevea brasiliensisというゴムの木の蛋白 質がアレルゲンとなっているが、現在までにわかっている主要アレルゲンは約10種類となってい る。この蛋白質に感作され、産生されたラテックス特異IgE抗体は、粘膜下、皮膚のマスト細胞方 面に結合し、アレルゲンとなる蛋白質の再侵入によりマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエ ンを始め様々なサイトカインが放出され、即時型アレルギー反応が惹起される。 ●症状 症状としては接触蕁麻疹、アナフィラキシーショック、呼吸器系症状などが報告されている (表1) 。これらの症状は抗原であるラテックス製品との接触をやめない限り進行性であり、初め は軽症でも症状が重篤になっていくことが指摘されている。特に、アナフィラキシーショックに よる死亡例が米国では2 0例以上報告されており、予防することの重要性が伺える。 表1:ラテックスアレルギーの諸症状 種類 接触蕁麻疹 原因 症状 ラテックス製品との接触 皮膚のそう痒、発赤、丘疹、膨疹、水疱形成など アナフィラキシー 粘膜などからの多量の抗原の侵入 ショック 末梢循環不全、血圧低下、気道収縮、血管運動性浮 腫など 呼吸器系症状 喘息発作、アレルギー性鼻炎、結膜炎症状など ラテックスアレルゲン蛋白質の吸引 ●ハイリスクグループ ラテックス製品は日用品として数多く使用されているが、一般集団でのラテックスアレルギー の頻度は低いようである。しかし、 医療用ラテックス製品を多用するグループはハイリスクグルー プであり、医療従事者の中でも特に手術室などでパウダー付手袋の使用頻度が高い人たち、さら −10− くまもとDIニュース №246(2001.2) にアトピー体質のある人に報告が多い。 医療従事者だけでなく、医療処置を繰り返しうけている患者もハイリスクグループに含まれる。 特に、先天性二分脊椎症や尿道奇形を有する小児患者等では生後から長期間ラテックス製のカ テーテルを留置していることから、欧米での調査では感作率が非常に高い。 また、食物アレルギーとしてバナナ、アボガド、キウイフルーツ、栗などに即時型アレルギー を持つ人もハイリスクグループである。これらの食物は、その抗原蛋白質のアミノ酸配列の一部 がラテックスに含まれる蛋白質と似ているため、特異的IgE抗体が交差反応性を示すのである。 表2:欧米でのラテックスアレルギー患者の頻度 1.一般 08 . % 2.手術室医師 75 . % 3.手術室看護婦 4.歯科医師 56 . % 137 . % 5.その他病院従事者 13 . % 6.二分脊椎症患者 36% ●診断 ハイリスクグループに該当する患者に長期間ラテックス製品を使うときにはあらかじめ検査を 行い、ラテックスアレルギーかどうか診断すべきであろう。診断の手順は、まず病歴聴取、血清 学的診断、皮膚テスト、負荷テストの順に行われる。 (1)血液検査 ラテックス特異的IgE抗体の測定で、保険適用があり利用できるのはPharmacia CAP,Ala STAT という測定キットである。ただし、血清中の特異IgE抗体を測定はラテックスアレルゲンに限ら ず多くの抗原で稀に偽陰性になることがあるので注意が必要である。 (2)皮膚テスト ラテックス手袋を刻んで試験管に入れ、これに生理食塩水を加えて1時間振盪させた液を用 いてプリックテストを行うことができる。陽性コントロールとして生食で希釈した1 0mg/ml塩 酸ヒスタミンを、陰性コントロールとして生食を使用する。 (3)負荷テスト 実際にラテックス手袋をはめてみる use test が行われるが、強い反応が予想される場合には 十分な注意が必要であり、危険な場合には行わない。 ●治療と予防 ラテックスアレルギーの治療はまず回避することである。日用品では炊事用手袋、輪ゴム、ゴ ム風船、粘着テープ、絆創膏、コンドーム等数多くの製品にラテックスが含まれているので、こ れらを使わないようにすることである。医療用具では、ラテックス手袋、点滴ルート、カテーテ ル、バルーン、注腸用カフ、マスク、麻酔バッグ、歯科用ラバーダム、絆創膏などが該当する。 緊急時、ラテックスフリー製品がない場合に使えるアイデアとして、点滴回路につながるラテッ −11− くまもとDIニュース №246(2001.2) クス管は除去し、三方活栓につなぐ。IVH用のルートにはラテックス管が存在しないので使用し やすい。血圧計などを使用する時にはサランラップを巻いて使用する、などが紹介されている。 ●医薬品に含まれる天然ゴムラテックス 医薬品の中では湿布薬(貼付剤)にラテックス含有のものがいくつかあるが、医薬品について は医療用具のようにラテックスアレルギーについての注意事項の記載が義務づけられてはいない。 ラテックス含有の有無の表示は、医療用医薬品では添付文書の組成の欄に添加物(天然ゴムラ テックス)として記載されている。一般用医薬品の中にもラテックス含有貼付剤があるはずだが、 一般薬の添加物を検索できるデータベースがないので残念ながら製品名を把握できていない。こ れら天然ゴムラテックス含有湿布薬をラテックスアレルギー患者が使用した場合には重篤でない にしても何らかのアレルギー症状が出ると予想されるので、医療用具同様の注意が必要だろう。 ラテックスアレルギーと診断された患者に対しては、非含有製品を勧めるべきである。 表3:天然ゴムラテックス含有医薬品(200 0年3月現在) 薬 品 名 会 社 名 アイデーTP 製:昭栄 発:昭栄 キュウパップ・M 製:救急薬品工業 発:山之内製薬 サニックH 昭栄 サニックM 昭栄 サリエスターM 昭和ケミカ セラスター 製:救急薬品工業 発:山之内製薬 タッチロンテープ 製:昭和ケミカ 販:三和化学研究所 ナクラスM 製:救急薬品工業 発:昭和薬品化工 ハリホット 製:大協薬品工業 発:ゼリア新薬工業 ファルジー 製:沢井製薬 発:沢井製薬 フェルビナクP「EMEC」 製:昭和ケミカ 販:エルメッド エ−ザイ フループテープ 製:昭和薬品化工 発:昭和薬品化工 ミリモス 製:メディサ新薬 発:メディサ新薬 ライラテープ 製:原沢製薬工業 発:原沢製薬工業 リフェロン 製:沢井製薬 発:沢井製薬 レイナノンテープ 製:シオノケミカル 発:大洋薬品工業,日本ケミファ 販:メルク・ホエイ 熊本大学医薬品情報データベース(http://zoa.medic.kumamoto-u.ac.jp/test/index.html)より 1)秋田浩孝・松永佳世子:ラテックスアレルギーの診断法とラテックスフリー製品,日本医事新報,39541 , 142 , 000 2)赤澤 晃:手術用手袋によるラテックスアレルギー ,日本医事新報,39761 , 082 , 000 3)赤澤 晃:ラテックスアレルギー ,日本医事新報,3 93 52 , 21 , 999 4)吉川邦彦:皮膚科学,日本医事新報,39 074 , 41 ,9 99 5)早川律子・杉浦真理子:ラテックスによる即時型アレルギー ,医薬ジャーナル,367 , 5 , 2 , 000 6)赤澤 晃:最近注目されているアレルギー疾患,薬局,5 11 , 01 , 002 , 000 −12−
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