薄型テレビの国際マーケティング戦略

名城論叢
27
2011 年 12 月
薄型テレビの国際マーケティング戦略
大
目
﨑
孝
徳
次
1.問題の所在
2.薄型テレビ市場の変遷
3.世界の薄型テレビ市場
4.結論
1.問題の所在
2.薄型テレビ市場の変遷
2010 年,薄型テレビの世界市場における販売
1984 年,エプソンは“ET-10”という2イン
台数は2億台を突破した(日経産業新聞 2010.
チのポケットカラーテレビを発売した(エプソ
9.28,p. 32)。また,新興国市場が先進国市場
ン・ホームページ)。これが世界で初めて市場
の規模を上回るという変化もみられる(日本経
に 投 入 さ れ た 薄 型 テ レ ビ で あ る。そ の 後,
済新聞朝刊 2010.12.3,p. 13)
。これは発売当
シャープを中心に日本メーカーにより,市場は
初,高額のため,富裕層中心の商品であった薄
牽引され,2002 年における日本メーカーの薄型
型テレビが一般大衆型の商品に変化してきてい
テレビの国際シェアは 73.2%にも及んでいた
ることも意味している。
(総務省 2007,p. 79)。
薄型テレビを世界に先駆けて商品化させ,市
日本メーカーの技術力は高く,例えば 2004
場を席巻していた日本メーカーは世界規模に発
年には液晶のバックライトに発光ダイオード
展した現在の薄型テレビ市場で大きな存在感を
(LED)を採用した LED テレビ(日本経済新
示すことができなくなっている。上位には韓国
聞電子版 2010.4.6),2007 年にはバックライト
メーカーが存在し,また中国メーカーの追い上
などの別光源が不要な有機 EL テレビを世界で
げも本格化してきている。世界初となる LED
初めてソニーが商品化させている(ソニー報道
テレビや有機 EL テレビの商品化など,相変わ
資料 2007.10.1)。確かに,2009 年の日本の薄
らず日本メーカーの技術力は高いものの,なぜ
型テレビ市場のシェアをみると,市場を牽引し
急激に市場が拡大している現在の世界市場で大
てきたシャープが 39.2%,東芝 19.2%,パナソ
きな存在感を示すことができないのか?
ニック 17.4%,ソニー 12.2%と,日本メーカー
本研究では,北米,中国,日本の家電量販店
が完全に独占している(図1)
。
を中心とする店頭調査を踏まえ,今後展開すべ
しかしながら,世界市場のシェアの状況は日
き日本メーカーのマーケティング戦略について
本とは全く異なっており,首位は韓国のサムス
検討する。
ンで,18.7%のシェアを保有している(図2)
。
2位には同じく韓国の LG,3位にはかつては
テレビの圧倒的リーダー企業であったソニーが
28
第 12 巻
第 2・3 合併号
図1 日本市場における薄型テレビの
メーカーシェア(2009 年,%)
とながら,国ごとに文化や気候の影響などを受
けた消費者ニーズの相違は存在している。本章
では,テレビを販売している小売店での店頭調
その他,7.9
査を通じて収集した情報に基づき,各国の消費
三菱電機,4.1
者ニーズ,小売業者のマーケティング,各メー
カーの薄型テレビの店頭での状況などを中心に
検討していく。なお,本調査は 2010 年8月:カ
ソニー,12.2
シャープ,39.2
ナダ(バンクーバー)
・アメリカ(シアトル)
,
9月:中国(大連)
・日本(名古屋)で実施した
パナソニック,
17.4
“日本のエレクトロニクスメーカーの国際マー
ケティング戦略に関する調査”の1部である。
東芝,19.2
出所
日経産業新聞 2010.9.28,p. 32.
図2 世界市場における薄型テレビの
メーカーシェア(2010 年,%)
3.1.北米市場
北米市場は,欧州,中国とともに世界3大市
場の1つとなっており,販売台数は 3,000 万台
を大きく回っている。世界シェア同様,トップ
はサムスンであるが,2位にはビジオが入って
いる(図3)
。ビジオは 2005 年に米国カリフォ
サムスン,18.7
ルニア州で設立され,現在,急速にシェアを伸
ばしている。完全なファブレス企業であり,液
その他,34.2
LG,13.1
晶テレビの企画と設計だけに特化している
(ファイブスター通信 2010.4.7,p. 2)。また,
ソニー,
10.7
出所
れる倉庫型会員制店舗を中心に商品を流通させ
るなど,チャネル戦略においても独自性が確認
東芝,6.7
シャープ,7.1
コスコを代表とするホールセールクラブと呼ば
パナソニック,
9.6
日本経済新聞朝刊 2011.5.30,p. 22.
できる。3位にはシルバニアというブランドで
薄型テレビ事業を展開する船井電機が入ってお
り,4位はかつて北米市場で圧倒的なトップ
シェアを保持していたソニー,5位は LG と
位置し,シェアは 10.7%にまで落ち込んでい
なっている。
る。以下,パナソニック,シャープ,東芝と日
・カナダの店頭
本の名だたるメーカーが続くものの,1ケタの
大 型 AV シ ョ ッ プ で あ る ベ ス ト バ イ や
シェアにとどまっており,大きな存在感を示せ
フューチャーショップ,大型 GMS のシアーズ,
てはいない。
小型の AV ショップであるスクウェアなどの
店頭を回った。薄型テレビの取扱点数はベスト
3.世界の薄型テレビ市場
グローバル時代と言われるものの,当然のこ
バイやフューチャーショップが 80∼100 台で最
も大きな売り場となっていた。シアーズは 60
台程度で他の家電製品とは分離させ,特別な売
薄型テレビの国際マーケティング戦略(大﨑)
図3
北米市場における薄型テレビの
メーカーシェア(2009 年,%)
29
店の広告が映る薄型テレビはすべてサムスンの
ものであった。ブラックを基調とする薄型テレ
ビが大半を占めるなか,シルバー・フレームの
サムスン,
17.2
サムスンの商品は完全に差別化され,現地の消
費 者 か ら の 人 気 も 高 い よ う で あ る。一 方,
シャープ,パナソニック,東芝はとりあえず置
その他,35.4
いているという印象で全く存在感がない。
ビジオ,15.9
価格に関して,小型の AV ショップであるス
クウェアには FLUID など,知名度の低いブラ
船井電機,
LG,
12.7
7.2 ソニー,
11.6
出所
日経産業新聞 2010.9.28,p. 32.
ンドの製品が置かれており,低価格で販売され
ていた。しかし,日本と韓国の大手メーカー間
において大きな価格差は確認できない。つまり
昔のように韓国メーカーは低価格という訳では
ない。
り場が設定されていた。スクウェアでは 16 台
直営店という形態に関して,バンクーバーの
の商品が販売されていた。画面のサイズに注目
ダウンタウンにおいて,ソニー製品のみを扱う
すると,20∼50 インチが中心となっている。
ソニーショップを3店舗,確認した。高級感の
接客に関して,売り場に店員は配置されてい
ある店舗であり,ソニーのブランド向上に大き
るものの,どの店も日本と比べれば,その数は
く貢献していることであろう。価格は概ね大型
少なく,商品説明はしてくれるものの,ドライ
AV ショップと変わらず,競争力があると思わ
な印象を受けた。画面に関して,日本ではいろ
れるが,
客の入りはどの店舗も非常に悪かった。
いろなテレビ番組や映画などが流されており,
こうした他社製品と比較できない形態はソニー
またリモコンにより,チャンネルを変更するこ
に対するロイヤリティの高い特別な消費者を除
とも可能である。しかし,カナダではベストバ
けば主たる購買の場とはなっていないようであ
イやフューチャーショップを中心に自社の広告
る。
や映画のダイジェストで構成された,各小売店
・アメリカの店頭
オリジナルのプログラムが全商品で放映されて
おり,消費者によるリモコン操作などは一切行
えない。
カナダ同様,ベストバイ,シアーズをはじめ,
大手ディスカウントストアであるウォルマート
や K マート,大手 GMS のフレッドマイヤー,
メーカーに注目すると,概ねサムスン,ソ
大手ホールセールクラブであるコスコ,小型の
ニー,LG を中心に商品が構成されている。と
AV ショップであるラジオショックなどの店舗
りわけ,サムスンは特別な待遇という印象を受
を回った。
ける。例えば,シアーズではテレビ売り場への
取扱点数に関して,ラジオショックは僅か5
アプローチがあり,そこにテレビが数台置かれ
台,フレッドマイヤー,K マートが 30 台,コス
ているが,最も目立つ場所にサムスンが展示さ
コ,ウォルマートが 60 台,ベストバイとシアー
れている。また,フューチャーショップのテレ
ズが 100 台程度であった。画面の大きさに関し
ビ売り場は2階にあり,消費者は入店に際して
ては,19∼63 インチまで確認できたが,中心の
エスカレータを利用するが,その上に連なり,
サイズは 20∼50 インチとなっている。ディス
30
第 12 巻
第 2・3 合併号
カウントストア,GMS,小型の AV ショップで
まさに中国の経済状況を象徴していると言え
は画面の小さな低価格モデルの割合が高い。売
る。ちなみに,この数字は日本の3倍以上の規
り場に店員は少なく,熱心な接客はどこも行っ
模である。こうした巨大な市場である中国で
ていない。放映されているプログラムに関し
は,中国メーカーによって熾烈な競争が展開さ
て,大型 AV ショップでは,カナダ同様,小売
れている。1位は 18.3%でハイセンス,2位に
店が独自に制作した広告が映し出され,消費者
は 14.1%でスカイワース,以下,TCL,チャン
はリモコン操作により番組などを見比べること
ホン,コンカと中国メーカーが並ぶ(図4)
。こ
はできない。また,他の業態の小売店では電源
うした大手中国メーカーのシェアの合計は6割
すら入っていないところも少なくはなかった。
を大きく上回っている。その後に,かつて中国
メーカーに注目すると,大型 AV ショップで
の薄型テレビ市場で強い影響力を保持し,
“3S”
は,サムスンの存在感が圧倒的である。ソニー
と呼ばれた,シャープ,ソニー,サムスンがそ
も多くの店で幅広く取り扱われていたが,例え
れぞれ6%程度のシェアで続いている。
ばテレビ売り場正面のディスプレイはサムス
・中国の店頭
ン,その裏側にソニーなど,常にサムスンの二
大手家電量販店である蘇寧電器や国美電器,
番煎じのような存在になってしまっている。ま
中国でも急速に勢力を拡大させているカルフー
た,ベストバイでは薄型テレビの PB 化も確認
ル,ウォルマートを中心に店頭調査を行った。
され,ダイナックス,インシグナといったブラ
カルフールやウォルマートでは,60∼80 台程度
ンドのテレビが箱詰めのまま高く積まれ,低価
の薄型テレビがメーカーと画面の大きさを基準
格にて販売されていた。コスコでは,ホール
に分類され,並べられている。売り場に店員の
セールクラブを主たる売り場とするビジオがサ
数は少なく,積極的な接客は行われていない。
ムスンとともに大きく取り扱われている。ま
しかしながら,中国資本の大手家電量販店の様
た,低価格モデルを中心とした品揃えの K マー
相はこれらとは全く異なっている。蘇寧電器や
ト,ラジオショックなどでは,船井電機のシル
国美電器のテレビ売り場は,メーカーごとに完
バニアが大きな売り場を確保していた。一方,
パナソニック,シャープ,東芝はどの店舗にお
いても存在感が薄かった。こうした店頭におけ
図4
中国市場における薄型テレビの
メーカーシェア(2010 年,%)
る光景はシェアにそのまま反映されている。大
型 AV ショップを中心に高級モデルを展開す
その他,
16.7
るサムスン,ソニー,ホールセールクラブで低
価格モデルを展開するビジオ,GMS や小型の
ハイセンス,
18.3
サムスン,6.3
AV ショップで低価格モデルを展開する船井電
スカイワース,
14.1
機はそれぞれ一定のシェアを確保している。
ソニー,6.4
3.2.中国市場
シャープ,6.4
中国市場の 2011 年の市場規模は 4,500 万台
に達し,世界最大の市場になると予測されてい
る(日経産業新聞 2011.5.27,p. 28)
。この数字
が達成されれば 2010 年比3割アップとなり,
コンカ,
9.6
チャンホン,
10.8
出所
日経産業新聞 2011.5.27,p. 28.
TCL,
11.4
薄型テレビの国際マーケティング戦略(大﨑)
31
全にブースで仕切られている。各社のブースに
対 応 と い う 2 つ の バ ブ ル に よ り,販 売 台 数
は 20∼30 台のテレビが並んでいる。画面サイ
2,500 万台を突破したものの,2011 年度は半数
ズは,30∼60 インチを中心とした品揃えとなっ
程度にまで落ち込むと予想されている(日経産
ている。スタッフは各メーカーから派遣されて
業 新 聞 2011.5.26,p. 20 )。過 去 10 年,概 ね
おり,売上が給与と直結するため,極めて積極
1,000 万台で推移しており,これが日本市場の
的な接客が行われている。価格に関しても,各
本当の姿と言えるであろう。こうした日本市場
スタッフにある程度の裁量があり,顧客との間
は日本メーカーにより独占されている。首位の
で個別に交渉が行われていた。
シャープはアクオスというプロダクトブランド
メーカーに注目すると,日本メーカー(ソ
で圧倒的に高い知名度を保有し,39.2%のシェ
ニー,シャープ,パナソニック)
,韓国メーカー
アを保持している。2位の東芝は海外 EMS の
(サムスン,LG)
,中国メーカー(ハイセンス,
活用など,日本企業には珍しくオープンな事業
スカイワース,TCL,チャンホン,コンカ)の
展開を行い,急速にシェアを伸ばしている(図
ブースがほぼ同じ広さで配置されている。こう
1)
。以下,パナソニック,ソニー,三菱電機と
したブースがメーカーの国籍ごとに集約されて
続いている。
いる場合が多いことは大変興味深い。中国メー
・日本の店頭
カーと日本・韓国メーカーの商品には大きな価
北米および中国市場との比較のために日本の
格差があるため,消費者はメーカーを選ぶ前に
店頭でも調査を行った。大手家電量販店のヤマ
まず国に注目するということであろう。多くの
ダ電機,ビックカメラ,エイデンを中心に,
小売店は日本メーカーのブースを最もよい場所
GMS 大手のジャスコも対象とした。大手家電
に配置していた。こうした売り場の状況を考慮
量販店には 15∼65 インチの薄型テレビが 150
すると,日本や韓国メーカーのシェアがもっと
∼200 台,取り揃えられている。中心のサイズ
大きくてもよいように思われるが,実際の販売
は 40∼46 インチとなっている。また,イオン
量は中国メーカーと大きく差がついている。テ
では 16∼52 インチの商品が 40 台程度,販売さ
レビのスペックは細かく分かれており,もはや
れていた。
画面サイズだけで単純に価格を比較することは
どの売り場も,シェアが示す通り,大手日本
できず,また発売されてからの経過日数も考慮
メーカーの商品がほぼ独占している。日本の店
しなければならないが,シャープのブースにい
頭調査を通じて,日本は北米と中国の中間に位
た販売スタッフの話によると中国メーカーの3
置している印象を持った。アメリカは,サイズ
倍となる場合もあるようである。また,「中国
を中心とした分類,中国は完全にメーカーごと
においてサムスンのデザインは高く評価されて
に分かれている。日本では従来はサイズを中心
おり,多くの中国メーカーが類似商品を投入す
に分類していたが,近年,アクオスやビエラな
るなか,日本メーカーは液晶は素晴らしいもの
ど,各社とも液晶テレビ向けのプロダクトブラ
のフレームのデザインに魅力がなく,価格に加
ンドを強く訴求し,他社との差別化を図ろうと
え,こうした点も中国の消費者から高く評価さ
しており,
こうした点が売り場にも現れている。
れない理由ではないか」
とのコメントがあった。
また,接客に関して,中国ではインセンティブ
が大きいため,
スタッフが極めて積極的であり,
3.3.日本市場
2010 年の日本市場はエコポイントと地デジ
逆に北米は声をかければ対応してくれる程度で
ある。日本は小売店のスタッフに加え,メー
32
第 12 巻
第 2・3 合併号
カーからも派遣されており,スタッフの数は多
ウントストア,小型 AV ショップを中心に低価
いものの,中国ほどは積極的ではない。
格モデルというように,プロダクト,プライス,
売り場の雰囲気に関しては,日本と中国は類
プ レ イ ス 戦 略 が は っ き り し て い る。一 方,
似しており,店内に POP 広告がにぎやかに飾
シャープ,パナソニック,東芝は多くの店舗で
られているが,北米はすっきりとした印象であ
扱われているものの,その点数は少なく,大き
る。また,中国・北米同様,高級モデルの購買
な存在感を示せていない。どういう流通経路で
の場は日本においても大型の専門店である。イ
どのようなモデルに特化するのか?について明
オンでは知名度が低いメーカーの小型の薄型テ
確化させる必要があるだろう。また,大型 AV
レビが占める割合が高く,ソニー,シャープ,
ショップにおけるサムスンの露出は際立ってお
パナソニックといった大手メーカーの商品も取
り,日本メーカーは小売店との関係性強化に対
り揃えられていたが,中間的なモデルが中心で
して,より大きな資源を投入する必要がある。
あった。
中国市場では,各メーカーがブースを構え,
一方,中国・北米との相違点も確認できた。
スタッフも派遣している。これは製造業者であ
製品の特徴という点では,3D や LED などはど
るメーカー自身が小売りにも積極的に関与しな
この市場でも注目されていたが,録画テレビや
ければならないことを意味している。派遣され
ブルーレイ対応などは日本独自のものである。
ているスタッフは若者が多く,
顧客を無視して,
そもそも北米・中国ともに DVD やブルーレ
テレビで放映されている映画に見入っている者
イ・レコーダー自体,ほとんど販売されていな
も少なくはなかった。こうしたスタッフのマネ
い。
ジメントなども重要な課題である。また,製品
に注目すると,日本メーカーに技術の優位性は
4.結論
あるものの,もはや大きな価格差を埋めるほど
のものではない。東芝が早期より取り組んだ海
北米,中国,日本という3つの市場の店頭調
外 EMS の活用など,価格においても競争優位
査を通じて,グローバル化の時代ではあるもの
性を創出できる製品戦略は日本メーカーにとっ
の,各市場において小売マーケティングや消費
て大きな課題である。さらに,技術にこだわる
者ニーズに明確な相違があることが確認でき
傾向が強い日本メーカーは画面の美しさや新機
た。こうした相違を正しく理解し,有効な策を
能などに注力しがちであるが,そうした技術が
講じることが国際マーケティング戦略において
成熟化するなか,デザインの重要性は高まって
極めて重要となる。とりわけ,少子高齢化によ
おり,デザインも製品性能の1つであるという
り,市場が減少傾向にある日本メーカーにとっ
認識のもと,注力していくべきである。
て海外市場の重要性はこれまで以上に高くなる
今後の予定としては,まず世界3大市場の残
ため,徹底したきめ細かな対応を行っていかな
された1つである欧州市場への店頭調査を行
ければならない。
う。欧州市場は北米,中国とともに,3,000 万
北米市場において,ある程度のシェアを確保
台を大きく上回る巨大な市場である。首位はサ
しているメーカーの戦略は極めて明確である。
ムスンで 28.8%,2位には LG が 16.2%となっ
サムスン,ソニーは大型 AV ショップを中心に
ており,順位としては世界市場と変わりはない
高級モデル,ビジオはホームセールクラブを中
が,それぞれ世界市場以上に大きなシェアを保
心に低価格モデル,船井電機は GMS,ディスカ
有しており,欧州に強い韓国メーカーという特
薄型テレビの国際マーケティング戦略(大﨑)
徴が確認できる。3位にはオランダを代表する
エレクトロニクスメーカーであるフィリップス
33
注
⑴
38 社のメーカー名と各社の商品点数は以下の通
が続いている。こうしたメーカーの欧州市場に
りである。
おける動向を明らかにしていく。また,流通に
シャープ(110),東芝(99),SONY(66),三菱電機
関して,フランスの大手家電量販店である fnac
社は商品検査を行う施設を自前で所有し,自ら
が発行する雑誌において取扱商品の評価を発表
(41),パナソニック(34),日立(34),オリオン(20),
LG エレクトロニクス(15),DX アンテナ(15),
MEK( 10 ),ユ ニ デ ン( 10 ),ピ ク セ ラ( 8 ),
BLUEDOT(7),ベルソス(7),TMY(6),ユニテ
しており(伊藤 2011)
,こうした小売店の取り
ク(6),三和コーポレーション(5),ゾックス(5),
組みの実態と消費者やメーカーに与える影響に
,モ ー シ ョ ン( 4 ),
ハ イ セ ン ス( 4 )
,fuze( 4 )
ついて検討していく。
REALLIFE JAPAN(4),SKNET(3),カンデラ(3),
さらに,既に 1,500 万台を突破し,世界有数
の市場となっているインドでもフィールドワー
クを行う予定である。インドではソニーがトッ
プシェアとなっており,こうしたポジションを
KEIAN(3)
,コヴィア・ネットワークス(3)
,
neXXion(3),Belson(3),ジェリコ(2),センチュ
リー(2),アズマ(1)
,AVOX(1),ZIVA(1),ツ
インバード(1)
,TECO(1)
,TruLuX(1)
,ビク
ター(1),HYUNDAI(1)
獲得した経緯や実態を明らかにしたい。また,
3位につけているビデオコンという地元インド
メーカーについても関心を持っている。
最後に,日本市場においては,大手エレクト
ロニクスメーカー以外にも多くの企業が薄型テ
レ ビ を 発 売 し て い る。例 え ば,価 格 .com
(2011.6.30)では 38 社の薄型テレビが紹介さ
(1)
参考文献
伊藤宗彦(2011)
「フランス fnac 社のケース」
『マーケ
ティングジャーナル』vol. 30,no. 4,pp. 92-107.
エプソン・ホームページ(http://www.epson.jp/ms/
1984_8.htm)(アクセス日:2011.7.7).
価格 .com(http://kakaku.com/kaden/lcd-tv/)(アク
セス日:2011.6.30).
れている 。こうした日本の薄型テレビ産業を
総務省(2007)
『平成 19 年情報通信白書』ぎょうせい.
詳細に調査するとともに,その大半を占める日
ソニー報道資料(2007.10.1).
本の中小メーカーのファブレス戦略についても
日経産業新聞(2010.9.28).
検討していく。
日経産業新聞(2011.5.27).
*本研究は,日本学術振興会・科学研究費補助
金・基盤研究「日本のエレクトロニクスメー
カーの国際マーケティング戦略」
(研究課題
番号:22530466)の援助に負っている。
日本経済新聞朝刊(2010.12.3).
日本経済新聞朝刊(2011.5.30).
日本経済新聞電子版(2010.4.6)
(http://www.nikkei.
com/tech/)(アクセス日:2011.6.30).
ファイブスター通信 vol. 11(2010.4.7).