TDR 研修結果報告書 経営情報学部 池田 奈穂 東京ディズニーリゾート(以下 TDR)研修を終えて、私たちが事前勉強で得た知識とは どのような差異があったのか。また、事前勉強と事前学習での TDR の工夫について、実際 にフィールドワークを通して感じたことを報告します。 1. TDR 良いところ ①世界観 まず挙げたいと思う TDR の良いところは東京ディズニーランド(以下 TDL)および東京デ ィズニー・シー(以下 TDS)は、その世界観とそのコンセプトが忠実に表現されているところ です。たとえば、TDL のコンセプトは「夢と魔法の国」です。これは来園するゲストがデ ィズニー・キャラクターたちに魔法をかけられて夢のような経験をする、ということです。 つまり、パークにいる間にゲストの夢を覚まさ せ、日常生活に戻してしまうことは NG だとい うことです。これは言葉では簡単に言えますが、 いざ行動に移してみるととても難しいことで す。何故なら人はちょっとしたことでも夢から 覚めてしまうからなのです。たとえばパーク外 にある車道が見える、魔法の国とは関係のない 現実味のある物が存在するということです。 TDL はこの対策としてバームという高い草 写真 1 バームによる日常との遮断 木で囲み、余計な外観を遮断します。しかしこ のバームでさえも非日常の遮断のためにそこにあるのではなく、TDL の景観の一部なのだ、 とゲストに違和感を覚えさせないところが素晴らしいと感じました。 次に TDS では「冒険とイマジネーションの海」をコンセプトとしています。これは、 私たちゲストが探究心と想像を働かせて、TDS を冒険する、ということです。そのコンセ プトの表れとして顕著なものは TDS の地図だといえるでしょう。TDS の内部構造は TDL のものよりも複雑で、地図も読み取りづらいものとなっています。そうすることでただ地 図を読み取りながら歩くのではなく、ゲストは道筋を考えながら歩かなければなりません。 それこそが「冒険」であり、「想像」なのです。 ②ゲストを使った借景(カリブの海賊とレストラン) TDL のアトラクションにある「カリブの海賊」は他のアトラクションでは見ない工夫が なされていました。それはアトラクションに隣接するレストラン「ブルーバイユー・レス トラン」を使った工夫です。「ブルーバイユー」とは青い入り江という意味で、黄昏時のロ マンティックな雰囲気で食事が楽しめる、ガーデンスタイルのレストランです。 「カリブの 海賊」ではアトラクションに乗ってすぐ、このブルーバイユーで食事をしている人々を水 面から見上げるところから物語が始まるのです。それはつまり『獲物に見つからないよう 静かに、けれど確かに。楽しい食事が一瞬で恐怖と悲鳴に包まれることに快感を覚える…』 そんな海賊たちの視点・気持ちをゲストも同じ視点から見ることでよりリアルな臨場感を 出す工夫です。またここで面白いのが、食事をしているゲストには自分たちがアトラクシ ョンの借景となり、アトラクションに出演していることなど知らない、または知っていて も気にすることが無いということです。自分たちが借景となっていることを知れば、人は 少なからず何かしらの感情を感じるものなのですが、ゲストが不快にならないようにその 境界線を見定め、決して超えないようにしている TDL の工夫は素晴らしいものだと感じま した。 ③ホテルでのもてなし 私たちが宿泊したアンバサダーホテルにも多くの工夫がありました。ホテルは連泊するゲ ストのことを意識して、部屋に TDL と TDS のマップが置かれ、明日に行くだろうパーク の予定を計画することができます。他にもエレベーターのアナウンスをミッキーマウスが 勤めていたり、ベッドは子供が利用しやすいよう通常のものより背が低いスライド式のベ ッドを設置したりしています。また、各部屋に用意されているアメニティにもミッキーマ ウスのマークやかたどった物が用意され、ホテルに宿泊しないと入手できない点からもお 土産品としても十分価値があるといえると感じました。 ④パレード前の手拍子の練習・待ち時間の満足 テーマパークのパレードとなると大規模なものが多く、それを良い席で楽しもうとして 早くから席取りをしている人がいるのは、誰しも一度は見たことがある光景だと思います。 TDL も例外ではなく、多くのゲストがパレードを見ようと開始時間よりも早く席を確保し ています。この行動に共通していることは、席を確保しなければならないため、移動する ことができず、長い時間を持て余してしまうということです。TDL ではこのようなたくさ んのゲストにも満足してもらうためにパレード前に行っていることがあります。それが、 キャストによる「パレード前の手拍子の練習」なのです。 これは言葉の通り、パレードの前にキャストが手拍子のリズムの取り方、手をたたくタ イミングなどをゲストに面白おかしく、楽しく教えてくれるものです。「待つ」という行動 に飽きていたゲストにとっては、ただ手拍子を打つという行動だけでもパレードをより楽 しみに感じる良い刺激となるのです。またこの行動の隠れた効果としては、その場にいる ゲストみんなが同じ行動をすることで一体感が生まれ、いざパレードが始まって誰かが手 拍子を打つとみんなが手拍子をし始めるということです。それは連鎖することでより大き な効果を生み、大きな満足感をゲストは得ることができます。 ⑤ショーによるコンセプトの実現 ~ディズニー・シー~ TDS のラストショーはパークのコンセプトを、物語に大きく反映さ せています。前述しましたが、TDS のコンセプトは「冒険とイマジ ネーションの海」です。ショーのストーリーは魔法使いイェン・シッ ドの弟子・ミッキーを主人公に、襲い来るディズニー・エヴィル・ヴ ィランズ(ディズニーの悪役の総称)たちをシンデレラやアラジンな どのディズニー・キャラクターたちの冒険を軌跡に、イマジ ネーションを働かせて倒す、というものです。こんなにもコ ンセプトである「冒険」と「イマジネーション」をはっきり と表現しているショースタイルは珍しい形であるし、ゲスト にも理解しやすいという2点から、このショーは最高に素晴 らしいものだと評価できると考えます。 写真 2 2. ヴィランズとイマジネーションの混合 TDR 改善すべきところ ①飛行機が見える 上記にも記述しました通り、TDL は魔法のような世界を提供することをコンセプトとし ています。そのためにバームなどの工夫を駆使し、非日常の世界を演出しているのだ、と 書き記しました。しかし、TDL にはその非日常の演出を壊す、かつ修正することが出来な い問題があります。それは、TDL 上空にて飛行機が飛び交っている、ということです。た だ TDL の上空を通過するのであれば、飛行機に気づかずに済むゲストも多く、特記するほ どの問題ではないのかもしれません。しかし飛行機の多くは TDL のシンボルであるシンデ レラ城の真上を通過するのです。シンデレラ城はシンボルであるが故に多くのゲストが注 目し、写真撮影が多く行われる場所です。もし写真を撮影した瞬間に飛行機が映ろうもの ならば、せっかくの非日常の演出が台無しであるといえるでしょう。とはいえ、飛行機の 空路についてはディズニーだけでは解決することの出来ない問題でもあることは確かなの です。 ②工事の様子が見える こちらも上記と同じく、夢を与えることを目的と する TDL で見つけた非日常を壊してしまうであろ う問題です。その問題とは修復工事や建築中のアト ラクションの様子があまりにも目に付いてしまうと いうことです。工事や建築という名目である以上、 完全に隠し通すということは難しいといえます。し かし右上に掲載している写真からも見て分かる通り、 工事の様子を隠す目的のはずの布が中途半端にかか 写真 3 丸見えの工事現場 っており上部は剥き出しになっていますし、布の色も 囲まれている色に合わず浮き出てしまっているように 感じます。右下の新エリアは設置物やアトラクション が見えているし、ライトが煌々とついていて公開前に もかかわらず隠す気がないのではないかと考えてしま うほどです。これらの問題は少しの対処で解決できる 問題だと思います。たとえば馴染まない色の布の代わ りにディズニー・キャラクターを使ったものを用意す 写真 4 るなど、ただ工事のためだけにあるのではないと思わ 新エリアの試運転の様子 せる工夫などが良いと考えます。これは、飛行機の問題と違って改善できる可能性がある と考えているため、残念だと感じました。 ③アトラクションの衝突 急流すべりとして人気の「スプラッシュマウンテン」にも問題がありました。それはア トラクションのライドに搭乗中、何度も前方のゲストのライドに衝突してしまい、アトラ クションがスムーズに進まないことです。このことから衝突をするたびにドンッと大きな 衝撃がライドに走る、ライドが進まないゆえに同じシーンを何度も見なければならない、 アトラクションが終わらないという問題点が浮かび上がりました。また、シーンを楽しみ たくてもそのたびに衝突し、現実に戻されるわけですので満足感を得ることができません。 私はこの問題はライドを出発させる間隔が短いことから発生した問題だと推察し、キャス ト内で報告・対処すれば直ぐ解決できる問題であると考えました。 ④キャストによる演出 「ジャングル・リバー」とは案内人に扮するキャストがジャングルの奥にある秘境まで のツアーをしてくれる、というアトラクションです。私はこのアトラクションを体験した 時、キャストの話術の未熟さによる、棒読みや一人でただ話すだけなどのアトラクション になってしまっているということに問題点を感じました。このアトラクションはキャスト が案内してくれるため必然的にキャストが一番多く話すことになります。それ故に、キャ ストの話術の経験の差がアトラクションの満足度に大きく影響すると考えます。そのため、 解決策としてキャストの話術を強化する必要があると考え、担当しているキャスト内でも う一度話術の研修やテストの実施、全体の技術の底上げを目標として改善すべきだと感じ ました。 ⑤カストーディアル ~掃除の行き届かない面~ ディズニーではパーク内の掃除を担当する人を「カストーディアル」と呼びます。カスト ーディアルはパーク内でゲストが不快感を得ないように迅速に清潔さを作ってくれていま す。この活動のおかげでゲストはゴミを見て気分を害するなどの障害を得ることなく、パ ークを楽しむことができているのです。しかし「フィルハーマジック」というアトラクシ ョンではこの活動がうまく機能していないようでした。フィルハーマジックとは3D 眼鏡 を使い、大ホールにて座って鑑賞するアトラクションです。このフィルハーマジック、い ざ体験してみると床にジュースやポップコーンが何ヶ所にも落ちていることに気づきまし た。いくらアトラクションが終わるたびに掃除をすることはできないのだとしても、私が 体験したその時のゴミの量は「他のゲストが見たら気分を害するのではないかと問題意識 を感じてしまうほどだった」というのが率直な意見です。効率・回転率よりもゲスト一人 ひとりの満足度を得ることに重点を置いているのなら、掃除間隔を狭めるなどの早急な対 策を考案するべきだと感じました。 3. TDR の競争優位 ホスピタリティとキャラクター TDL やシーは他のテーマパークよりも圧倒的なキャラクター数を誇っています。にもか かわらず、注目すべきはゲストの多くがその個々のキャラクターがどんな性格か、どんな 物語の主人公なのかを把握している点です。通常、キャラクターが多ければ多いほど人気・ 不人気が生まれ、知名度が高い・低いに分かれます。しかし、ディズニーではその差が極 めて少ないのです。その理由を考えた結果導き出たのが「キャラクター1人1人の確立」 という答えでした。1人1人が他とは違う、そのキャラクターだけの絶対的な個性を持っ ていて、それをゲストにしっかりと伝えることができているからなのだ、と。そしてゲス トもそのメッセージを受け取り理解しているからだ、と。これは古くから書物や映画、ア ニメなど広い分野で様々なキャラクターが活躍してきたからこその知名度であって、他の テーマパークでは決して真似のできないことだと私は考えます。 4. グループ課題 誕生日のバースデーシール ~ホスピタリティを超えた瞬間~ TDR にはゲストの誕生日を TDR のキャストみんなが祝ってくれる工夫があります。自 分の誕生月に TDR に行って「今月は私の誕生日です」と自己申告すると、「バースデーシ ール」というものがプレゼントされます。そのバー スデーシールを体のどこかに貼ることで、それを見 たキャストの多くから「おめでとうございます」の お祝いの言葉がもらえるのです。ただ、ここまでな らば他のテーマパークと同じような工夫です。この バースデーシールの工夫には他のテーマパークを 追い抜く 2 つの工夫があるのです。 1 つ目にそのバースデーシールに自分の名前を記 写真 5 配布されたバースデーシール 入してもらえることです。これはバースデーシールをプレゼントされる際に行われるサー ビスなのですが、まずこの時点で「私だけのバースデーシール」が完成し、1 つ目の「私だ けのサービス」つまりオンリーワンのサービスが確立します。2 つ目に自分の名前が記入さ れたバースデーシールを所持することで「お誕生日おめでとうございます」という言葉の 前に「○○さん、お誕生日おめでとうございます」という「私だけに向けられた言葉」が もらえることです。 人というのは良いサービスを受けることで満足感を得ることができます。しかし人とは、 他人とは違う、自分だけに与えられるサービスに何よりも喜びと満足感を得るものです。 しかしそれはこの大量消費社会において、与えることが、与えられることが難しくなって います。その中でディズニーのオンリーワンの提供は素晴らしいと考えました。 5. 今後の課題点 TDL や TDS、また宿泊したアンバサダーホテルの調査を終えて感じたことは「TDR で はゲストと通じるホスピタリティについては高い評価をすることができるが、キャストが 介入できない箇所においては詰めが甘い」ということでした。これは、改善点として挙げ たフィルハーマジックやスプラッシュマウンテンなどがその例にあたると考えます。私は TDR の強みの一つに「現状に満足することなく成長を続けることを目標とし、それを実現 することができるシステムが存在している」ということだと考えます。そのためキャスト は、介入できない箇所のサービスを向上させるにはどうすればいいのか、効率・回転・サ ービスをまとめるにはどの方法が最善かをもう一度意識し、閑散期の検討・実施を行うこ とが今後の課題点であると考えます。 6. まとめ 書物で見る TDR、オリエンタルランド社から学ぶ TDR、そして自分たちの目で見て捉え る TDR、この研修に携わることでプラン・戦略・歴史・ニーズ、サービス業のあらゆる面 をあらゆる情報手段から他方向で見て学習をすることができました。あらゆる面から一つ の企業を研究し、メンバーとの討論をすることで強いギャップを感じるシーンがいくつも ありました。これらは実地研修を通したからこそ感じることができたのだと考えます。TDR 研修を通して、書物から学ぶのではなく実施調査をすることから学べることの大きさを痛 感しました。あらゆる面からあらゆる考え方を考察、仮説、インタビュー、検証し、自分 のスキルアップの底上げになることが今回の研修で一番身につけられる力だと考えます。
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