心の病気の症状と治療

心の病気の症状と治療
心の疲労で
起こりやすい病気を知っておこう
心の疲労が関係する病気は専門医でも区別が難しく、
確定的な診断ができないこともよくあります。
本人や周囲の人が体調や心の状態を観察しながら、医師とともに経過を見ていくことが大切です。
病名をはっきりと診断できない
ケースもあります
うつ病
抑うつ状態が 2 週間以上続く
心の疲労が引き金になって発症する病気の代表的な
ものとしては、次のような病気や障害があります。
●症状(抑うつ状態)
複数の病気が重なっている例もあり、また、毎日の
・気持ちが落ち込む、何もする気が起きない
患者さんの状態を知ることができないため、精神科医
・集中力が落ちる
や心療内科医のような専門医でも、はっきりとした診
・イライラする
断名が付けられない場合もあることも覚えておきまし
・楽しさやうれしさを感じない
ょう。
・ひどく疲れている感じがする
別の病気の治療のために飲んでいる薬の副作用や、
・眠れない
脳神経の病気などが抑うつ状態を引き起こし、うつ病
・朝はとくに調子が悪い
のように見えることもあります(P11「薬の副作用
・頭痛や肩こり、めまい、動悸 など
や病気による抑うつ状態」参照)
。
●治療
・休養
・抗うつ薬などによる薬物療法
・物事の捉え方を見直す認知行動療法
・カウンセリング など
●特徴
・100人に6~7人は一生のうちでうつ病になるとさ
れている
・男性よりも女性のほうがなりやすい
・責任感が強い人、自分を責めてしまう人、完璧主義
の人がなりやすい傾向がある
・自分ががんばれば解決すると考えるので、心の病気
になっていることを認めず、受診するのも遅れがち
・上記のような抑うつ状態が2週間以上続く場合に、
うつ病と診断される
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双極性障害(躁うつ病)
躁状態のときにトラブルが起きやすい
・抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法 など
●特徴
・異動や転職、引っ越しなどから体の不調や抑うつ状
態が出てくる
●症状
・「職場不適応」とも呼ばれる
<躁状態のとき>
・患者さん本人と環境の両方の要素が関係する
・早口で多弁になる
・うつ病につながる場合もある
・短時間の睡眠でも活発に動き、さまざまなことを手
がけるが、程度が進むと、横柄な態度からトラブル
社会不安障害
になることも
<抑うつ状態のとき>
人前に出ると極端に緊張する
・うつ病と同様の症状が出る(P10)
・うつ病とは異なり、食欲が落ちず、睡眠が長くなる
こともよくある
●症状
・過度に人前で緊張し、赤面したり、汗をかいたり、
●治療
手が震えたりする
・気分安定薬(抗てんかん薬など)や抗精神病薬など
による薬物療法
・人前で話す、書く、食べるといった日常の行動がし
にくくなる
・行動を振り返る心理療法 など
・進行すると外に出ること自体をためらう
●特徴
●治療
・抑うつ状態と活発な躁状態を繰り返す
・抗不安薬や抗うつ薬などの薬物療法
・躁状態が軽い双極性障害(双極Ⅱ型障害)は本人も
・認知行動療法
家族も気づかないことがよくある
・この抑うつ状態の間に診察を受けて、うつ病と診断
されてしまうケースもある
・カウンセリング など
●特徴
・一生のうちで100人に1人程度がなるといわれる
・うつ病やパニック障害、アルコール依存症などを併
適応障害
発するケースもある
職場環境や仕事と合わないのが原因
●症状
薬の副作用や病気による
抑うつ状態
<情緒面の症状>
<行動面の症状>
・抑うつ気分
・行きすぎた飲酒や暴食
ステロイド(副腎皮質ホルモン)や抗エストロゲン薬
・不安
・無断欠席・欠勤
のようなホルモン薬、肝炎に使われるインターフェロン、
・怒り
・無謀な運転やけんか
・焦りや緊張
など
●治療
・本人の適性や体力と仕事の内容が合わない場合には、
配置転換などで解決を図る
・認知行動療法
・カウンセリング
禁煙補助剤、高血圧の薬などでは、薬の副作用として、
抑うつ状態があらわれることがあります。
また、認知症や体の動きが悪くなるパーキンソン病
のような脳神経系の病気、甲状腺機能障害などの病気
でも、気分の落ち込みや集中力の低下など、うつ病に
似た症状が出ます。
これらの薬や病気が思い当たる場合は医師に相談し
てみましょう。
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パニック障害
依存症
突然の体調の変化で不安が募る
習慣的に物や行動などに頼る
●症状
●症状
・突然の動悸、過呼吸、めまい、吐き気、手足のしび
・アルコール、薬物、食べ物、買い物、パチンコなど
れなど
・自分は死ぬのではないかという恐怖感
のギャンブル、インターネットなどが習慣になり、
仕事や生活に影響するほどになってもやめられない
・大声を出したり、泣いたりすることもある
・恋愛や暴力などの人間関係に依存することもある
・上記のようなパニック発作をまた起こしたらどうし
●治療
ようという不安から、電車や人混みを避ける
・カウンセリングで状況を認識し、行動を変える
●治療
・経験者が集まる自助グループでの支援
・抗不安薬や抗うつ薬
●特徴
・考え方や行動を修正していく認知行動療法
・本人も周囲もある物や行動、人間関係に心理的に頼
・呼吸法などのリラックス法 など
●特徴
・一生のうちで100人に1人程度がパニック障害に
っていることを認識しにくい
・依存しているとわかっていても止める方法が見つか
らず、苦しみながらもそのままにしておく
なるとされる
・男性よりも女性に発症しやすいといわれる
統合失調症
幻覚や幻聴、妄想で行動してしまう
●症状
・誰かに襲われるというような被害妄想
・幻覚や幻聴を感じやすい
・気力の低下、喜びも悲しみも沸かない感情の平板化
・考えや会話、行動がまとまらない
・幻覚や幻聴、妄想で行動し、周囲に意図がわからな
い など
●治療
・精神科専門医による抗精神病薬などの薬物療法
など
●特徴
・統合失調症になるのは100人に1人弱とされる
*文中の病気になる人の数の目安は、
『平成18年度厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関す
る研究」』
厚生労働省『知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト』
などを参考
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いわゆる新型うつ病
典型的なうつ病とは異なるタイプのいわゆる
新型うつ病が若い人に増えているといわれてい
ます。
新型うつ病では、職場に行ったり行こうとした
りすると抑うつ状態になるけれど、自分の好きな
仕事や趣味には熱心に取り組む、自らうつ病で
あると訴えて休職する、うまくいかないのは周囲
の人のせいと考えがち、プライドが高く、傷つき
やすい、食欲が落ちない、過眠傾向があるとい
うような特徴があります。 例えば、休職中に海
外旅行に行くなど、未熟でわがままに見えるた
め、周囲も対応に困っているケースがよくありま
す。一方、不安感や焦り、孤独感が強く、依存
症になりやすいという面も見られます。
また、一時的に行動的になりすぎるので、双
極性障害(躁うつ病)と診断されるケースもあ
ります。
このようないわゆる新型うつ病では、従来から
うつ病で使われている薬があまり効かないことが
あります。生活リズムを整えることや、考え方を
変えていく認知行動療法、グループワークを行
い、比較的長期間にわたって治療していきます。
発達障害がうつの原因になることも
心の疲労に発達障害の一つである
いている人も多いのです。
書類作成などでのケアレスミスが多い、
このような高機能広汎性発達障害の
遅刻する、仕事や用事を先延ばしにし
る場合があります。高機能広汎性発達
人が異動や昇進をきっかけにうつ病な
て締め切りを守れない、物事の優先順
障害には、高機能自閉症、アスペルガ
どの心の病気を発症するケースがあり
位をつけるのが苦手、書類や財布、携
ー症候群、その他の特定できない高機
ます。それまでは自分に合った専門職
帯電話などをなくしやすい、気が散り
能広汎性発達障害(PDDNOS)の三
で、自信を持って生き生きと働いてい
やすい、衝動買いや依存症になりやす
つが含まれます。
たのに、コミュニケーションが苦手であ
いといった傾向があり、自責の念から
「高機能広汎性発達障害」が隠れてい
知的な発達の遅れや言語の障害など
るため、チームを動かす、部下の面倒
気持ちが落ち込みます。ADHDは薬や
は伴わないものの、人と楽しい気持ち
を見るなどのマネジメントがうまくいか
行動の変化によってコントロールできる
や悲しい気持ちを共有したり、本音と
ず、気が滅入ってしまうのです。
場合があります。
建て前をくみ取ったり、身振りを読んだ
高機能広汎性発達障害は薬で治す
高機能広汎性発達障害もADHDも
りするのが苦手で、仕事や遊びなどを
ことはできませんが、自分の思考や行
診断が難しいので、自分で、あるいは
うまく分担できず、広く人間関係を築
動、コミュニケーションのパターンを知
周囲がこのような発達障害であると決
くのが難しいという特徴があります。
り、コントロールしていくことで、適応
めつけてはいけません。精神科の専門
一方で、興味のあるものには熱中す
できるようになる場合もあります。
医の診察を受けて診断を確定し、うつ
るため、ある分野に関して非常に知識
また、
注意欠陥多動性障害(ADHD)
病への対応も相談することが大切です。
を持っていることも多く、専門職に就
の人も、うつ病になることがあります。
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