鶴の恩返し 昔、貧しい村に一人の若者が住んでいました。若者が、町に薪を売りに出か けると、山の方から「コウコウコウ」という鳴き声が聞こえました。山に入っ て行くと、動物用の罠に、一匹の鶴が掛かっていました。若者は、傷ついた鶴 を助け、逃がしてあげました。鶴は、傷ついた体で、必死に飛び立ち、その場 から離れました。 「もう引っかかるんじゃないぞ!」 若者は、鶴に声を掛け、山を下り、町に向かい、薪を売り、村に戻りました。 数日経った、大雪の日、夜中に人が訪ねてきました。 見ると、若い女の子が一人で、立っていました。 「しばらくここで住まわせてもらえませんか」 「ここで? 何もないが、とりあえずお入り。こんな雪の中を、さあ、白湯を 飲んで温まりなさい」 若者は、女の子を部屋に入れてあげました。 次の日、若者が目を覚ますと、朝ごはんが作ってありました。 「この食事は、君が作ったのかい?」 「これしかできませんが」 「いやいや、すごいよ」 「あまり褒められたことがないので・・・(泣)」 「泣くことないさ。本当に素晴らしいよ」 「一つお願いがあります」 「何だい?」 「機織り機を借りても良いですか?」 「もちろん。何か作るのかい?」 「ええ・・・でも、絶対に部屋をのぞかないでください」 「分かった」 その日から、夜を徹して、女の子は機織りを始めました。 数日して、素晴らしい反物ができました。 「これを町で売ってください」 若者は、反物を町で売り、驚くほどのお金を得ました。喜んで、家に戻って きました。 「おーい、高値で売れたよ!」 若者は、女の子に売上金をあげようとしましたが、女の子は断りました。 「お金は要りません」 「良いのかい? ・・・じゃ、二人でおいしいものを食べよう」 「優しいんですね」 二人はご馳走を食べ、若者は、寝入ってしまいました。 「トントン・・・」 若者は、女の子の機織りの音で目が覚めました。 そして、禁じられていたのに、部屋のふすまを開けてしまいました。 そこに、女の子はおらず、機を織る鶴が一匹いました。驚いた若者は、すぐ にふすまを閉じました。 女の子は、集中していたため、ふすまを開けられたことに気付きませんでし た。 「はい、また作りましたよ」 女の子は、嬉しそうに、また反物を渡します。 そんなやり取りが数回あり、ついに、若者が言いました。 「僕、ふすまを開けたんだけど・・・」 「え!見たんですか?」 「うん、鶴がいた」 「ごめんなさい。もうここには居られません」 女の子は、鶴に変身し、飛び立ってしまいました。 若者は、大変後悔しました。でも、鶴の元気になった姿を見て、少し安心し ました。 しばらくして、若者が町に薪を売りに行くと、山の方から「コウコウコウ」 と鳴き声がしました。見に行くと、またしても鶴が引っ掛かっていました。助 けてあげると、鶴は元気に飛んでいきました。 その夜、また尋ね人が。 「また、来ちゃった」 「また?」 「はい、機織りをしますので、のぞかないでください」 「分かった」 今度は、知っているので、若者はふすまを開けませんでした。 何年間か経ち、女の子は随分と痩せました。 「体、大丈夫?」 若者が心配すると、女の子は答えます。 「元々が肥満気味だったので、大丈夫です」 「そうかい、でも、もうお金は十分あるから、機織りしなくていいよ」 「そうですか、良かった。良い恩返しができました」 「それより、僕と結婚しないか」 「・・・私、ダウン症なんです」 「なにを怖れているんだい?」 「でも・・・」 「僕は君が好きだ。それだけだよ。ダウン症なんて関係ない。好きだから結婚 するんだ。さあ、指を出してくれ、婚約指輪を買ってきたよ」 「ありがとうございます」 「君の織った反物を売ったお金で買ったんだけどね」 「ふっ・・・嬉しい」 「誰でも幸せになる権利があるんだ。どんな状況でもね」 「誰でも・・・」 「そうさ、誰でもだ」 女の子と若者は、無事結婚して、幸せに暮らしました。 女の子は、ひとり呟いた。 「罠に掛かったのはわざとだけど」 了 Copyright (C) 2016. Angel RISA. All Rights Reserved.
© Copyright 2024 Paperzz