アフリカ開発銀行によるインフ ラの取り組みについて

「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
『アフリカ開発銀行によるインフ
ラの取り組みについて』
アフリカ開発銀行
民間局インフラファイナンス&PPP
シニアインベストメントオフィサー
木下
直茂
1.はじめに
筆者がアフリカ開発銀行(AfDB)の
民間局に所属し、電力や通信のプロジェク
トに従事してから2年以上の月日が経った。
アフリカにおけるインフラの新規案件は多
く、この大陸が日々成長していることを実
感している。
日本でも、安倍首相のイニシャティブに
よる政府の後押しもあり、日本の事業者や
メーカーがアフリカのインフラに注目する
度合いは増えてきているという印象を持つ。
近年は電力やLNGの分野等で、日本の事
業者がイニシャティブを取っている案件も
増え始めている。
先日、ケニアに出張した際に、地熱発電
の現場に訪問したが、複数の日本製のメー
カーによる蒸気タービンが建設・利用され
ているのを目の辺りにした。世界の地熱大
型発電の市場は日本のメーカーが独占して
いるという。そこでの技術は蒸気から発生
する錆を予防する為に、特殊な金属を利用
するなど、きめ細かい対応が見られた。
今後も、アフリカで多くのインフラのプ
ロジェクトが目白押しである。日本には優
れた技術があり、それを後押しする勤勉な
ビジネスマンも多い。是非、日本の事業者
とメーカーには、更にアフリカ大陸のプロ
ジェクトに関与して頂き、この大陸の貧困
削減、持続的な成長に貢献して頂きればと
切に願っている。
2.アフリカの経済
アフリカは豊富な天然資源を擁し、多く
の若い労働人口を抱えている可能性に満ち
た大陸であるが、過去の歴史においては、
内戦、貧困、腐敗等の問題点ばかりが注目
され、その軌跡は必ずしも順調とはいえな
かった。
しかし、過去10数年のアフリカにおけ
る経済成長は、日本人を含む世界の人々の
アフリカに対するイメージを変えたに違い
ない。2000年~2010年において、
アフリカは5.7%の経済成長を達成し、
この間、世界で最も経済成長が著しかった
10カ国の内、6カ国がアフリカ諸国であ
った1。この成長の背景には、アフリカの主
な輸出品目である天然資源価格の高騰があ
ったことは事実である。しかし、マクロ経
済の向上、持続可能な改革、強いガバナン
スや民間セクターの発展がその成長に寄与
したことは否めないだろう。
アフリカにおける今後の経済成長の見込
みは依然として強い。11億人の人口を抱
えるアフリカでは多くの中間層が生まれつ
つあり、市場としての魅力も増し始めてい
る。今後、国によっては紆余曲折も予想さ
れるが、全体的には高い成長と共に、女性
や若者を含む全ての層に対する雇用の機会
が増え、貧困が減少していくと思われる。
3.アフリカにおけるインフラの現状
このような成長を持続する為には、イン
フラストラクチャー(以下“インフラ”)
1
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th
The Economist, Jan. 6 , 2011 “The Lion King?”
「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
の整備が欠かせない。インフラとは、電力、
水道、輸送、通信等、日常生活や商業活動
を実施する上で必要な社会基盤となる設備
である。インフラ整備は民間セクターによ
る開発や投資、中小企業の発展、新たなビ
ジネスの創造の促進を可能とし、雇用の創
出と富の創造を行う。
高い経済成長を続けている一方で、アフ
リカにおけるインフラの環境は未だに脆弱
であるといわざるを得ない。アフリカにお
けるインフラへの投資はGDPの4%のみ
であり、中国の14%と比べて圧倒的に少
ない2。依然としてアフリカ大陸においては、
舗装された道路にアクセスできる人口は3
4%(他途上国の平均は50%)であり、
電力を利用できる人口は30%程度(他途
上国は70~90%)である。水の供給に
おいては、水源の3.8%しか開発されて
いない状況である3。
国際電気通信連合(ITU)のデータに
よるとインターネットの普及率は未だに全
人口の16%であり、アジアにおける普及
率の半分にも満たない。一方で、携帯電話
の普及率の伸びは顕著である。アフリカに
おける携帯電話の普及率は63%にまで達
しており4、現在、世界で最も普及率の伸び
が高い地域である。
このように、分野によって差異はあるも
のの、アフリカにおけるインフラの需給の
ギャップは依然として大きい。2008年
にアフリカのインフラの資金需要はUS9
30億ドルの内、450億ドルしか満たし
ておらず、480億ドルの資金が不足であ
2
African Development Bank Group “At the Center of
Africa’s Transformation Strategy for 2013-2022”
3
PIDA “Africa’s infrastructure Outlook”
4
ITU “The World in 2013 ICT Figures and Facts”
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った5。このようなインフラの需給ギャップ
は、従来の財政支出による公共事業や、2
カ国間の援助のみでは十分ではないことを
証明しており、民間企業による投融資や、
官民パートナーシップ(PPP)等による
新たな創造的な解決方法が求められている。
4.アフリカ開発銀行対応
AfDBは、1964年に設立され、5
3カ国の域内国と日本も含む24カ国の域
外国が加盟する国際開発金融機関(DFI)で
ある。本部はコートジボアール•アビジャン
にあるが、同国の政情不安に伴い、200
3年以来、暫定的にチュニジアに移動して
いる。AfDBはアフリカ諸国に対する融
資、無償資金協力、政策対話、民間のファ
ンドへの出資、民間企業や民間プロジェク
トへの融資、技術協力等を行っている。
AfDBは長期戦略(2013~202
2年)において、『インクルーシブ成長』
と『グリーン成長』を目標の2本柱として
掲げている。『インクルーシブ成長』とは
全ての人に恩恵が行き届くことを意味する
が、その目標において、機会平等を推し進
めるのみならず、大幅な雇用の拡大や抜本
的な貧困の削減を目指している。さらに、
グリーン成長においては、インクルーシブ
成長を維持するべく、アフリカの天然資源
を活用し、水質を向上し、エネルギーや食
料の安全を確保することを目指している。
AfDBはこれらの目標を実現する為に
も、運用における優先項目として『インフ
ラの発展』及び『民間セクターの発展』を
挙げている。今日まで、AfDBはアフリ
カ大陸において、電力、水、輸送、通信等
5
AfDB “An Integrated Approach to Infrastructure
Provision in Africa”
「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
の分野において投融資を行い、インフラ発
展に貢献し、何千万人もの暮らしを改善し
てきたが、自らの資金提供のみならず、他
の資金源、特に民間の資金を呼び込むよう
な施策を推し進めることによって、持続的
なインフラの構築を目指している6。
5.アフリカ開発銀行の特徴
ここでAfDBの特徴について紹介した
い。上述した通り、AfDBは域外国と共
に、アフリカ大陸の53カ国7が株主となっ
ており、各政府と密接な関係を構築してい
る。
AfDBの活動はアフリカ諸国のみを対
象としており、アフリカ全土にある37の
フィールドオフィスと共に日々活動を行っ
ている。
AfDBは株主である各国の政府による
資本に支えられ、磐石なバランスシートを
保有している。ムーディーズ等による格付
けがトリプルAのため、市場から競争力の
ある調達金利の確保が可能である。貨幣は
ドル、ユーロ、円のようなハード・カレン
シーのみならず、南アフリカ・ランド、西
アフリカ・CFA、ケニア・シリング、ナ
イジェリア・ナイラ等のローカル貨幣によ
る投融資も行なっている。
AfDBは、一般的に取りにくいリスク、
例えば、政府保証がないプロジェクトや、
貸付期間が15年以上の長期に及ぶプロジ
ェクトに対しても融資を行う。これらの強
みは他銀行をクラウド・アウト(排除)す
る為ではなく、プロジェクトのリスクを軽
減することによって、他銀行をクラウド・
6
African Development Bank Group “At the Center of
Africa’s Transformation (Strategy for 2013 to 2022)”
7
南スーダンの加盟は準備中。
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イン(呼び込む)為に利用されていること
をご理解頂きたい。
また、アフリカ各国においては、AfD
Bは優先債権者待遇(PCS)が付与されてお
り、各国が有事の際に何らかな規制(外貨
規制等)を行う場合においても、債権者と
して返済される優先順位が高い。AfDB
は、商業銀行が協調融資することを前提と
して、商業銀行に対して PCS のステータス
を付与する A/B ローンというスキームを提
供している。
更に近年では、AfDBは保証商品に注
力している。AfDBはスポンサー(株主)
やレンダーである商業銀行の流動リスクを
軽減する為にも PRG(部分リスク保証)と
呼ばれる商品を提供している。これは、政
治リスク並びに契約不履行により、オフテ
ーカーがプロジェクトに対して支払いを怠
った場合に、一定期間においてAfDBが
L/C 銀行を通じて、支払い保証を行うもの
である。この商品は政府が IMF の指導等に
より、オフテーカーの義務に対して政府保
証の付与ができない場合、AfDBが代わ
って部分的保証を行うというものである。
このスキームはAfDBが提供するアフリ
カ開発基金(ADF)等の政府に対する譲
許性の高いローン等の一部を利用する保証
スキームであり、各政府による合意が必要
となる。
AfDBの強みは、各国の政府に対して
融資を行う複数の公共関連の局(以下“公
共局”)と、民間の事業体やインフラ事業
に投融資を行う“民間局”との協調体制で
ある。上記の PRG スキームは、民間による
プロジェクトのみならず、各国政府との調
整が必要であり、公共局と民間局の連携が
必要となってくる。更に近年においては、
「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
AfDBは官民パートナーシップ(PPP)の
枠組み構築に注力している。AfDBは各
政府に対して技術支援や融資を行うことに
よって、PPP の実現を後押ししている。
6.組織体制と累積支出
AfDBにおいては、インフラの発展を
推進する為に、複数の公共局と、民間局の
両輪によりその体制を構築している。
公共局においては『農業及びアグロ産業
局』、『人間開発局』、『水及び衛生局』、
『アフリカ天然資源センター』、『エネル
ギー、環境、気候変動局』、『輸送及びI
CT局』、更に『NEPAD、地域統合、
貿易局』の各組織8により、様々なインフラ
の分野に対応している。また、『民間局』
においては、金融セクターの開発のみなら
ず、電力、輸送、ICT、水及び衛生、鉱
業、石油&ガス、健康及び教育の分野にお
いてインフラの対応を行っている。
2008年~2012年において、Af
DB全体のインフラに対する累積の支出は
UA113億(US175億ドル)であっ
た。これはAfDBの全ての投融資や無償
資金提供の内、51%を占めるものである。
この内、電力を含むエネルギーが44%、
輸送が42%、そして水及び衛生が12%、
そしてICTが1%となっている9。
7.公共局と民間局の取り組みの違い
必要なインフラを構築する目的において
は、公共局と民間局にその差異はないが、
その取り組み方法には大きな違いがある。
特に商業リスクに対する考え方の違いは顕
8
部署名は AfDB の組織図より筆者が和訳。
AfDB“An Integrated Approach to Infrastructure
Provision in Africa”
9
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著である。公共局が融資する場合は、各政
府を対象としており、国家の信用力が商業
リスクの主な審査対象となる。一方で、民
間局の取引は、コーポレートファイナンス
の場合は企業の信用力、プロジェクトファ
イナンスの場合はプロジェクトの事業性が
審査の対象となる。
AfDBの民間局にて、インフラに対し
て融資を行う際には、プロジェクトの事業
体に直接融資を行うプロジェクトファイナ
ンスの取引が多い。政府保証を伴わない場
合が多く、更に、プロジェクトのスポンサ
ー(株主)に対しては契約義務履行が限定
的に遡及するケース(リミテッドリコース)
が主である。故に、返済能力を精査する為
にも、プロジェクト自体が生むキャッシュ
フローが極めて重要となり、プロジェクト
の詳細な調査が必要となってくる。その内
容はスポンサー(株主)の実績のみならず、
EPC 契約者、オフテーカー、O&M契約者、
燃料の供給者等に対する信用リスク、各契
約内容、構成されるストラクチャーや様々
なリスクの中身が精査される。
公的局と民間局の共通の審査項目は、各
国政府やAfDBにおける『戦略の整合性』
や、プロジェクトにおいて雇用が生まれて
いるか、又は地域社会に貢献しているかを
問う『開発成果』が問われる。更には『環
境への配慮』や『公正な購買プロセス』、
AfDBが『付加価値』を提供しているか
も審査の対象となる。
8.民間局での活動分野
上述した通り、AfDBは中期戦略の中
で、『民間セクターの発展』を運用におけ
る優先項目の一つとして挙げており、これ
「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
により、『インクルーシブ成長』と『グリ
ーン成長』を目指している。
この10年間でIPPを実施している国は
急増している。
具体的には、金融取引の場合、域内国の
民間の金融仲介者に対して信用供与や貸付
を行い、企業家や中小企業に対して更なる
貸付が行われることによって現地の金融市
場の発展に努めている。また、インフラに
ついては民間のファンドに投資を行い、民
間企業が開発を行うプロジェクトへ直接又
は間接融資を行うことによって、民間企業
による投融資の呼び水となるべく努めてい
AfDBもこれらの流れの中で、過去、
『Kribi(カメルーン)』、『Azito (コー
トジボアール)』、 『KounouneI(セネガル)、
Bujagali (ウガンダ)』等の IPP プロジェク
る。
これらの需要に応えることにより、民間
セクター向けの拠出額は増えている。20
13年末には累積拠出金がUA40億(約
US$60億)を超えており、過去10年
間で10倍以上になっている10。
ここでAfDBが関与しているいくつか
の重要な分野について述べてみたい。
【電力関連分野】
アフリカにおける電力プロジェクトの形
態は急速に多様化している。1990年初
頭まで、アフリカの電力プロジェクトのフ
ァイナンス形態は各国による公共事業によ
るものが主であった。しかし、90年の中
頃から、コートジボアール、ケニア、セネ
ガル、タンザニア11、エジプト、モロッコ、
チュニジア12に、民間の資金を活用するIP
P(独立系発電事業者)が開始されており、
トに融資を行っている。
近年においては国営電力会社の民営化や
電力の(部分)自由化に伴い、IPP事業
に伴う電力会社に対する卸契約ではなく、
需要家との相対を伴うプロジェクトも出始
めている。また、発電の形態においては、
石炭火力や、水力、石炭、ガスタービンの
みならず、風力発電、太陽光、太陽熱、地
熱発電等の再生可能エネルギーのプロジェ
クトの需要も増えている。特に、アフリカ
の内陸国においては、高騰した燃料と高い
輸送費により、再生可能エネルギーを利用
した発電コストが、化石燃料による発電コ
ストを下回るケースも見られる。また、エ
ネルギーの分散化やCO2削減を目的とし
て、電力インフラが発展している南アフリ
カ、ケニア、モロッコ等の国々においても、
IPP や固定買取価格(FiT)を通じて、再生
可能エネルギーの利用を奨励しているケー
スも増えている。
AfDBにおいては2010年に
Cabeolica 風力発電(ケープベルデ)に対
して融資を行い、急速に増えている再生可
能エネルギーの引き合いに対応している。
【交通分野】
10
内部調査による。
11
The Infrastructure Consortium for Africa
“When the power comes, An analysis of IPPS in
Africa”
12
DEG-FMO “Identifying critical barriers and success
factors in IPP investments on 4 February 2010”
Page | 5
アフリカにおける交通分野のインフラ構
築は急務である。現在、アフリカ大陸の交
通インフラは不足しており、更に非効率で
あるといわざるを得ない。前述したように、
道路へのアクセス比率は未だに低い、更に、
「アフリカビジネス振興サポートネットワーク」寄稿
アフリカの陸・空・海における輸送は高コ
ストであり、アフリカの商品の競争力を低
下させている主な原因となっている。
困難であること、そして、ラストワンマイ
ルを解決するような事業者が生まれてこな
かったという事に起因する。
このような背景により、AfDBは、P
PP並びに民間プロジェクトを推進するこ
とによって、非効率な交通の改善に務めて
い る 。 A f D B は 今 日 ま で 、 『 Blaise
Diase 国際空港(セネガル)』、『Dakar
有 料 道 路 ( セ ネ ガ ル ) 』 、 『 RiveraMarcory 有料橋(コートジボアール)』等
の数々の交通プロジェクトに対して融資を
行い、民間企業の資金とノウハウの導入に
努めている。
今後、無線通信である携帯(音声)のネ
ットワークがラストワンマイルの解決を容
易にしたのと同様に、3Gや4Gの携帯技
術や衛星通信により、インターネットにお
けるラストワンマイルの問題も解消してい
くだろう。
【情報通信技術(ICT)分野】
近年アフリカにおいて最も発展したのは
ICT の分野であろう。この分野に対して民
間企業は過去10年間にUS500億ドル
近くの投資を行った。主にその投資は携帯
電話関連であるが、国際海底ケーブルも含
まれている。アフリカにおける携帯電話の
普及率はこの10数年で20%から60%
以上まで爆発的に伸びており、最近の海底
ケーブル敷設によって利用できる帯域は3
倍程度増えた13。AfDBではこららの動き
から2007年に East African Submarine
Cable System ( EASS y ) 、 2 0 1 1 年 に
Seychelles Submarine Cable Project の融
資を実行している。
一方で、インターネットの普及率は未だ
に全人口の16%であり 14 、多くの地域が
サービスの対象となっていない。この原因
はアフリカ大陸は国の数が多く、地域統合
を前提とする効率的なネットワーク構築が
13
AfDB “Review of Bank’s ICT Strategy & Action Plan
for Medium Term”
14
ITU “The World in 2013 ICT Figures and Facts”
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AfDBはこれらの状況の中、8中軌道
衛星によって通信を確立するO3Bプロジ
ェクトに融資している。
9.最後に
なお、この「アフリカビジネス振興サポ
ートネットワーク」に対する寄稿文は、そ
の協力メンバーであるAfDBアジア代表
事務所の依頼に基づき、筆者の個人的な見
解により行われており、AfDBを代表し
ているものでないことをご承知頂きたい。
これらAfDBの展望、活動については
はホームページをご参照ください。
www.afdb-org.jp/
注:本稿は、筆者個人の見解であり、アフリカ開発
銀行の公式見解を代弁するものではありません。