新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための総 合研究 6系 野菜(プロジェクト研究成果シリーズ454) 誌名 新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための総合研究 巻/号 454号 掲載ページ p. 1-239 発行年月 2007年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 新 鮮 で お い し い ﹁ ブ ラ ン ド ・ ニ ッ ポ ン ﹂ 農 産 物 提 供 の た め の 研 究 成 果 新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」 ② ⑦ ・ ③ ︶ 農産物提供のための 合研究 6系 野菜 Integrated Research for Providing Fresh and Delicious Brand Nippon Agricultural-products, VI, Vegetables 合 研 究 6 系 野 菜 農林水産省農林水産技術会議事務局 研 究 成 果 新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」 農産物提供のための 合研究 6系 野菜 Integrated Research for Providing Fresh and Delicious Brand Nippon Agricultural-products, VI, Vegetables 2007年3月 序 文 研究成果シリーズは、農林水産省農林水産技術会議が研究機関に委託して推進した研究の成果を、 合的 かつ体系的にとりまとめ、研究機関及び行政機関等に報告することにより、今後の研究及び行政の効率的な 推進に資することを目的として刊行するものである。 この第454集「新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための 合研究(6系:野菜) 」は、 農林水産省農林水産技術会議の作物対応研究として、2003年度から2005年度までの3年間にわたり、独立行 政法人農業・食品産業技術 近年、消費者における 合研究機構を中心に実施した研究成果をとりまとめたものである。 康・栄養の維持・向上や安全性への関心の高まりから、機能性があり付加価値の 高い野菜のニーズが求められていること、また、生産現場では担い手の減少・高齢化等による生産基盤の脆 弱化が進み、野菜生産の維持・向上の実現を図るために作業の省力化・機械化による作業の軽作業化と低コ スト化技術の確立が不可欠である。 本研究は、高リコペントマト、高ケルセチンタマネギ、高アントシアニンジャガイモなどの 関連性の高い成 康・栄養に を付与した有効成 の多い野菜品種の育成、より安定的な地域特産野菜の湘南ネギの作期 拡大技術や栽培適応性の広いナス・トウガラシ類用台木品種や系統の育成を行うとともに、短節間トマト、 短節間カボチャなどの省力・軽作業化のための短節間性品種の育成、施設内環境の夏期高温抑制技術の開発 を実施しており、野菜の高品質・安定生産に資することを目的とした。 この研究の成果は、今後の農林水産関係の研究開発及び行政を推進する上で有益な知見を与えるものと え、関係機関に供する次第である。 最後に、本研究を担当し、推進された方々の労に対し、深く感謝の意を表する。 2007年3月 農林水産省農林水産技術会議事務局長 髙橋 賢二 目 次 研究の要約…………………………………………………………………………………………………………… 第1編 1 康増進型高品質野菜開発チーム……………………………………………………………………… 27 高カロテノイド含有野菜品種の育成と品質評価技術の開発……………………………………… 27 1 高カロテノイド野菜の迅速判別法の開発……………………………………………………………… 27 2 高リコペントマト系統の育成と栽培条件等による変動要因の解明………………………………… 29 3 高リコペン生食用トマト品種の育成…………………………………………………………………… 30 4 高カロテン含有ニンジン品種の選定と素材系統の開発……………………………………………… 32 第1章 第2章 高フラボノイド含有野菜品種の育成と品質評価・制御技術の開発……………………………… 1 フラボノイド等の栄養・機能性成 の簡易・簡 36 な評価手法の開発……………………………… 36 2 赤系アントシアニンを高含有するジャガイモ品種の育成…………………………………………… 38 3 暖地有色ジャガイモ品種の育成………………………………………………………………………… 40 4 有色ジャガイモ品種の用途特性の解明と品質制御技術の開発……………………………………… 42 5 高機能性タマネギ品種の育成…………………………………………………………………………… 45 6 収穫後の紫外線照射による高機能性野菜作出技術の開発…………………………………………… 47 第3章 高ビタミン含有野菜品種等の選定・育成と生産技術の開発……………………………………… 51 1 高ビタミンC含有イチゴ品種の育成…………………………………………………………………… 51 2 ホウレンソウ等の抗酸化活性の変動要因の解明と制御技術の開発………………………………… 53 3 ホウレンソウの低シュウ酸栽培技術及び低シュウ酸素材系統の開発……………………………… 56 4 高ビタミンU含有キャベツ品種の選定と肥培管理や収穫後の温度処理による制御技術の開発… 58 第4章 高エリタデニン含有シイタケ系統の育成及び特性解明と高品質生産技術の開発……………… 62 1 エリタデニンを高含有するシイタケ系統の育成と高品質生産技術の開発………………………… 62 2 シイタケ中のエリタデニンの特性解明………………………………………………………………… 64 第5章 地域特産ナス科野菜品種の育成と接木栽培技術の確立…………………………………………… 67 1 多様な地域特産品種に対応した栽培適応性の広いナス・トウガラシ類用台木品種及び 系統の育成…………………………………………………………………………………………………… 67 2 水ナスの加温栽培による収穫期拡大技術の開発と加工適性評価法の開発………………………… 70 3 熊本長ナスの品種育成及び栽培技術の開発…………………………………………………………… 72 4 辛味の発現しない万願寺とうがらし品種の育成と安定生産技術の開発…………………………… 75 第6章 地域特産ユリ科野菜品種の育成と高品質安定生産技術の確立…………………………………… 1 ネギの げつ性ネギの効率的選抜法の開発………………………………… 79 2 光質制御・密閉ハウス育苗による 湘南ネギ の作期拡大技術の開発 …………………………… 81 3 九条 系等葉ネギの耐暑性関連要素の解明と夏季安定生産技術の開発…………………………… 84 4 光質制御によるワケギの夏季安定生産技術の確立…………………………………………………… 87 第7章 げつ要因の解明と非 79 地域特産アブラナ科野菜品種の育成と高品質安定生産技術の確立……………………………… 90 1 アブラナ科野菜のグルコシノレートの迅速評価法の開発と種・品種間差異の解明……………… 90 2 近赤外 光法によるアブラナ科野菜の食物繊維、硝酸含量及び辛み度評価法の開発…………… 93 3 高香気性根こぶ病抵抗性ヒロシマナ品種の育成……………………………………………………… 95 4 新たな根こぶ病菌株の判別法と高度抵抗性ハクサイ類育種素材系統の開発 98 ………………… 5 富山県特産赤カブの根こぶ病防除栽培技術の開発…………………………………………………… 100 第8章 新たな土壌微生物性評価手法を利用した有機質資材施用畑の微生物性の解析ならびに 土壌病害抑制技術の開発………………………………………………………………………………… 104 1 生化学成 の 析による有機質資材施用畑の土壌微生物相の解析と微生物指標の策定………… 104 2 DNA 解析に基づく土壌細菌群集構造の評価法の開発と土壌微生物性に及ぼす有機質資材の 影響の解明…………………………………………………………………………………………………… 106 3 有機質資材施用下における土壌病原糸状菌の迅速モニタリング技術の開発と実証……………… 109 4 トマト青枯病を抑制する有機物施用条件とその機構の解明………………………………………… 112 第9章 有機質資材連用圃場の土壌特性の解明と高品質野菜生産のための有機質資材施用技術の 開発………………………………………………………………………………………………………… 116 1 長期連用土壌の一般理化学性の解明…………………………………………………………………… 116 2 有機質資材施用における微量元素等の土壌中動態と野菜による吸収特性の解明………………… 118 3 有機態窒素の直接吸収現象等に基づいた有機質資材施用効果の高い条件の解明………………… 121 4 有機質資材連用農家圃場の土壌特性および野菜生育特性の解明…………………………………… 124 5 キャベツの高品質栽培のための家畜ふん堆肥施用技術の開発……………………………………… 126 6 有機質資材長期連用によるホウレンソウ・ダイコン品質向上技術の開発………………………… 129 第2編 低コスト・省力型野菜開発チーム……………………………………………………………………… 133 第1章 短節間性によるカボチャの省力・軽作業化栽培技術の開発……………………………………… 133 1 カボチャの短節間性発現変動要因の解明と短節間系統の育成……………………………………… 133 2 高品質短節間カボチャ品種の育成……………………………………………………………………… 135 3 寒地における短節間カボチャの栽培方式の開発……………………………………………………… 138 4 暖地における短節間カボチャの生育・品質特性の解明……………………………………………… 141 第2章 短側枝性によるメロンの省力・軽作業化栽培技術の開発………………………………………… 144 1 立ち作りに適する単性花型・短側枝性メロン系統の育成…………………………………………… 144 2 地 い放任栽培に向く短側枝性メロン F1品種の育成 ……………………………………………… 146 3 作型適応性を改良した短側枝性メロン品種の育成と省力栽培技術の開発………………………… 148 第3章 短節間性等によるトマトの省力・軽作業化栽培技術の開発……………………………………… 152 1 短節間トマト系統の育成と短節間特性の解明………………………………………………………… 152 2 短節間ミニトマト系統の育成と短節間性の作業特性の評価………………………………………… 154 3 受光体制の改善等による短節間トマトの生育制御技術の開発……………………………………… 157 4 短節間トマトのセル成型苗利用による省力・高品質生産技術の確立……………………………… 158 5 短節間トマトの周年栽培における高品質生産技術の確立…………………………………………… 161 6 完熟収穫型単為結果性トマトの長期どり省力・高品質生産技術の開発…………………………… 163 第4章 機械収穫によるキャベツ・レタスの低コスト・省力・機械化栽培技術の開発………………… 167 1 キャベツの機械収穫に適した品種の選定と選抜手法および素材系統の開発……………………… 167 2 キャベツの機械収穫に適した業務用 F1品種の育成 ………………………………………………… 169 3 活着促進と肥培管理によるキャベツの生育斉一化技術の開発……………………………………… 172 4 レタスの機械収穫に適した品種の選定と栽培技術の開発…………………………………………… 174 第5章 省力品種とセル成型苗を核にしたネギ・ホウレンソウの低コスト・省力・機械化 栽培技術の開発…………………………………………………………………………………………… 178 1 短葉性ネギ品種の育成…………………………………………………………………………………… 178 2 短葉性ネギの省力生産技術の開発……………………………………………………………………… 180 3 ネギのセル成型苗の省力大量育苗・移植システムの開発…………………………………………… 182 4 ネギの移植適性要因の解明と移植適性に優れた品種の選定………………………………………… 185 5 ホウレンソウのセル成型苗育苗技術の開発…………………………………………………………… 188 6 ホウレンソウの機械収穫に適した品種の選定………………………………………………………… 191 第6章 一粒播種によるニンジン・ダイコンの低コスト・省力・機械化栽培技術の開発……………… 194 1 高発芽性種子の選別・ハンドリング技術の開発……………………………………………………… 194 2 微弱発光による種子発芽力の計測技術の開発………………………………………………………… 196 3 一粒播種におけるダイコンの生育斉一化技術の開発………………………………………………… 199 4 一粒播種におけるニンジンの生育斉一化技術の開発………………………………………………… 202 5 ニンジンの機械収穫に適した品種の育成……………………………………………………………… 205 第7章 高温期における果菜類の生理・生態的特性解明…………………………………………………… 208 1 トマト周年高生産を可能とする作型開発のための温度―生育反応の解明………………………… 208 2 高ビタミンCイチゴにおける新作型開発のための最適温度条件の解明…………………………… 209 3 トマト生体情報の連続モニタリングによる高リコペン生成の安定化……………………………… 211 4 夏秋どりイチゴの苗生産における花芽 化特性の解明……………………………………………… 213 5 夏季栽培におけるトマトの裂果抑制条件の解明……………………………………………………… 215 6 高リコペントマトに適した台木用品種の選抜と養液温度管理法の検討…………………………… 216 第8章 高温期の高品質生産のための生理・生態特性に基づいた環境制御技術の開発………………… 219 1 外気導入式強制換気法による高温抑制システムの開発……………………………………………… 219 2 細霧冷房方式による降温効果および日射低減効果の特性解明……………………………………… 221 3 CFD 手法による大型施設内の気流・環境特性の解明 ……………………………………………… 223 4 高温期のトマト高品質生産のための自然換気下における CO 施用技術の開発 ………………… 225 5 気化冷却を用いた局所温度制御による安定着果技術の開発………………………………………… 226 6 ネットワーク自律 散協調型低コスト環境制御システムの構築…………………………………… 228 7 園芸施設における降温装置の設置実態調査に基づく 第9章 用効果の評価……………………………… 230 高軒高大型施設における省力高生産のための空間の高度利用技術の開発……………………… 232 1 単為結果性トマトの生育特性に適したハイワイヤー誘引法の開発………………………………… 232 2 トマトのハイワイヤー誘引におけるつる下ろし支援装置の開発…………………………………… 233 3 短節間トマトの立体栽培法による省力多収生産技術の開発………………………………………… 234 4 イチゴの立体式超多植栽培システムによる多収生産技術の開発…………………………………… 236 5 大型施設における自動搬送装置の自律協調動作アルゴリズムの開発……………………………… 237 研究の要約 Ⅰ 研究年次・予算区 果菜研究部長 研究年次:2003年度∼2005年度 予算区 :農林水産技術会議 田中 和夫(2005年度) 合研究 研究推進事務局: (独)農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶 Ⅱ 主任研究者 業研究所 主 査:(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 葉根菜研究部ユリ科育種研究室長 野菜茶業研究所 小島 昭夫(2003年度) 所長 機能解析部収穫後生理研究室長 石内 傳治(2003∼2004年度) 門馬 信二(2005年度) 永田 雅靖(2004∼2005年度) チームリーダー:(独)農業・生物系特定産業技術 Ⅲ 研究担当機関(※独立行政法人農業・生物系特 研究機構野菜茶業研究所 定産業技術研究機構は、現在、独立行政法人農 野菜研究官 業・食品産業技術 宍戸 良洋(2003∼2004年度) 萩原 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 廣(2005年度) 野菜茶業研究所 葉根菜研究部長 吉岡 小島 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 宏(2003∼2004年度) 中央農業 昭夫(2005年度) サブリーダー(1 合研究機構) 合研究センター 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 康増進型高品質野菜開発チ 北海道農業研究センター ーム): 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (独)農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶 東北農業研究センター 業研究所 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 葉根菜研究部キク科育種研究室長 杉山 慶太(2003∼2004年度) 野口 裕司(2005年度) 近畿中国四国農業研究センター 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター 果菜研究部ナス科育種研究室長 独立行政法人農業環境研究所 吉田 独立行政法人農業工学研究所 齊藤 実(2003年度) 猛雄(2003∼2005年度) (独)農業・生物系特定産業技術研究機構中央農 独立行政法人食品 合研究所 独立行政法人森林 合研究所 業研究センター (委託先)国立大学法人千葉大学 土壌肥料部資材利用研究室長 (委託先)国立大学法人東京農工大学 木村 (委託先)国立大学法人静岡大学 武(2003∼2005年度) サブリーダー(2 低コスト・省力型野菜開発チ (委託先)国立大学法人神戸大学 ーム): (委託先)東海大学 (独)農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶 (委託先)東洋大学 業研究所 (委託先)北海道立花・野菜技術センター 果菜研究部ウリ科育種研究室長 (委託先)岩手県農業研究センター 坂田 (委託先)秋田県農業試験場 好輝(2003∼2005年度) 葉根菜研究部作型開発研究室長 (委託先)茨城県農業 岡田 (委託先)群馬県農業技術センター 邦彦(2003∼2005年度) 1 合センター (委託先)神奈川県農業技術センター 産技術の開発を行い、ニッポン・ブランドを確立す (委託先)新潟県農業 る。 合研究所 (委託先)富山県農業技術センター (委託先)石川県農業 合研究センター Ⅴ (委託先)長野県野菜花き試験場 1 研究方法 (委託先)長野県中信農業試験場 康増進型高品質野菜開発チーム リコペンやカロテン等カロテノイド、アントシア (委託先)岐阜県中山間農業技術研究所 ニンやケルセチン等フラボノイドを高含有するトマ (委託先)愛知県農業 合試験場 ト、ニンジン、ジャガイモ、タマネギを開発する。 (委託先)京都府農業 合研究所 ビタミンC高含量イチゴ系統やシュウ酸低含有ホウ (委託先)京都府農業資源研究センター レンソウ系統を開発する。ビタミンC含量の高いホ (委託先)大阪府立食とみどりの ウレンソウ栽培技術を開発する。ビタミンU高含有 合技術センタ ー キャベツ生産技術を開発する。シイタケ中のエリタ (委託先)兵庫県立農林水産技術 合センター デニンの効率的 (委託先)広島県立農業技術センター シイタケ系統を開発する。辛味果の出ない京都万願 (委託先)福岡県農業 合試験場 寺トウガラシ品種、複合病害抵抗性の台木用ナス品 (委託先)長崎県 合農林試験場 種及びトウガラシ台木用品種の開発とこれらを利用 (委託先)熊本県農業研究センター した大阪「水ナス」・熊本「長ナス」の高品質生産技 (委託先)沖縄県農業試験場 術を開発する。非 けつ性「湘南ネギ」品種を開発 (委託先)社団法人日本施設園芸協会 する。ネギの夏季高温時の葉先枯れ症発生抑制技術、 (委託先)財団法人日本土壌協会 ワケギの夏期生産におけるりん茎の肥大抑制技術を (委託先)カゴメ株式会社 開発する。アブラナ科野菜のグルコシノレート組成 (委託先)タキイ種苗株式会社 の簡易評価技術を開発する。ダイコン、コマツナ等 (委託先)株式会社サカタのタネ アブラナ科野菜の食物繊維、硝酸含量及び辛味度の (委託先)株式会社渡辺採種場 近赤外 光法による非破壊計測技術を開発する。根 (委託先)浜 こぶ病抵抗性高香気ヒロシマナ品種を開発する。有 ホトニクス株式会社 (委託先)株式会社誠和 析技術とエリタデニン含量の高い 機質資材施用による土壌微生物相・多様性の 析手 法及び土壌病原糸状菌の遺伝子診断技術の開発と動 Ⅳ 研究目的 態を解明する。トマト青枯病の発病を抑制するため 従来、生鮮野菜の輸入は、国産の端境期における の有機質資材施用条件を解明する。有機質資材長期 供給不足を補う限られたものであったが、 近年では、 連用圃場の土壌特性をデータベース化する。有害微 低価格等を背景に国内の生産と競合する時期を含め 量元素等の投入量の解析と施用限界を策定する。有 て急激に増加しており、国内の野菜作経営に大打撃 機質資材施用効果の高い作物・高い土壌・土壌有機 を与えている。一方、消費者は、最近の 康・安全 態窒素の吸収機構を解明する。キャベツの高品質化 志向等を反映して、高品質で安全・安心な野菜を強 機構の解明と耕畜連携に対応する高品質化技術を開 く求めるようになっている。 発する。 今後、生鮮野菜の輸入急増に対抗し国産野菜を持 続的に生産していくためには、消費者が求める栄 養・機能性成 に富んだ 2 低コスト・省力型野菜開発チーム 康増進型の高品質で安 短節間カボチャ品種と省力・軽作業化栽培技術を 全・安心な個性的な野菜を生産する技術と、主要野 開発する。側枝管理の省力化が可能な短側枝性メロ 菜生産の低コスト・省力軽作業化技術の開発を強力 ンを開発する。栽培管理作業が省力化できる短節間 に推進する必要がある。 性トマト系統とその省力高品質栽培体系及び低段密 そこで、本プロジェクトでは、⑴ 康増進型高品 植栽培技術を開発する。単為結果性トマトの省力長 質野菜の生産技術の開発、⑵低コスト・省力野菜生 段栽培技術を開発する。機械収穫に適した業務用キ 2 ャベツ品種の開発とキャベツの機械収穫一貫体系を 方番号系統「久留米60号」を育成し、キャベツでビ 確立する。消費者のニーズに応える短葉性根深ネギ タミンU高含有品種を選定した。夏作ホウレンソウ 系統とその栽培技術を開発する。ネギのセル成型育 のアスコルビン酸含量が収穫2日以上前の遮光除去 苗と機械移植による省力安定生産技術を開発する。 で十 に増加し、シュウ酸・硝酸含量が高温で高ま ホウレンソウのセル成型育苗・機械移植・機械収穫 ること、キャベツのビタミンU含量が低温貯蔵後の システムを開発する。種子選別技術を開発する。ダ キムチ加工で高まることを明らかにした。また、シ イコン・ニンジンの一粒播種・無間引き省力栽培体 イタケでは、品質低下させずにエリタデニン含量が 系の開発、機械収穫適性ニンジン品種を開発する。 増加する栽培温度を明らかにする一方、エリタデニ 高温期におけるトマトとイチゴの生理・生態的特性 ンの簡 な定量法を開発し、高含有シイタケのラッ を解明する。高温期の高品質生産のための生理・生 トに対する安全性を確認するとともに、コレステロ 態特性に基づいた細霧冷房、CFD 手法等環境制御技 ール低下機構の詳細を解明した。 術を開発する。高軒高大型施設におけるトマト及び 地域特産野菜関連では、ナスで、青枯病・半枯病 イチゴの省力高生産のための空間の高度利用技術を 複合抵抗性の台木用品種「なす農林台3号『台三郎』 」 開発する。 を命名登録した。水ナスで、収穫開始期が3週間前 進し、高値時期(2∼4月)の収量が2倍となる加 Ⅵ 1 研究結果 温栽培技術の確立、果実 康増進型高品質野菜開発チーム カロテノイドやビタミン等の機能性成 度測定法や漬物加工適性 評価法の開発を行い、熊本長ナスで、 「ヒゴムラサキ」 が高含量 の不良果発生抑制のための栽培法を開発した。トウ の野菜や、ナス科、ユリ科、アブラナ科等の地域特 ガラシでは、疫病・青枯病複合抵抗性の台木用地方 産野菜の品種・系統を多数開発した。また、機能性 番号系統 「安濃4号」 、辛味果実の発生しない万願寺 成 析法や現場に適応可能な地域特 とうがらしの新品種候補3系統「BC5DH19、35、 産野菜等の栽培技術等を開発した。さらに、土壌微 146」を育成し、トウガラシ「安濃4号」を台木とす 生物性の評価法や有機質資材の施用法について技術 る場合の育苗法を確立した。ネギでは、非 げつ性 開発や新知見を明らかにした。概要は次の通り。 で高品質の新品種「湘南一本」を神奈川県育成品種 の簡易・迅速 カロテノイドやフラボノイド関連では、 トマトで、 として品種登録出願するとともに、作型開発により 高リコペン性の中間母本「とまと中間母本農10号」 作期を2倍に拡大し、ジベレリン処理などが 及びこれを片親とする生食用 F1系統「Kc02-115」を に大きな影響を及ぼすことを見出した。葉ネギでは、 育成した。ジャガイモでは、アントシアニン高含量 葉先枯れ症の発生と空気湿度や葉面ワックス量との で栽培特性に優れる命名登録品種「北海91号」、さら 関連等を見出し、ワケギの夏期生産では、光質制御 に高含有の地方番号系統「勝系17号」、及び暖地向き 等による株重の5割増加と、電照で収穫期を2ヶ月 赤肉高でん 前進する種球生産技術を確立した。アブラナ科野菜 の命名登録候補系統「西海31号」を育 げつ 成した。タマネギでは、ケルセチン高含量の命名登 では、グルコシノレートの迅速 録 F1品種「月 種・品種間や根こぶ病抵抗性品種間での差異を明ら 22号」を育成した。ニンジンでは、 析法を開発して、 画像解析によるカロテン高含量個体一次選抜法を開 かにするとともに、硝酸イオンや辛味成 発した。また、各種野菜のカロテノイド色素の簡易 赤外 光法による非破壊計測の可能性を明らかにし 定量法、フラボノールの非破壊検出法と高感度蛍光 た。また、ハクサイ根こぶ病菌の新たな病原性判別 検出法を開発した。有色ジャガイモは、北海道・暖 法を確立し、ヒロシマナで香気の強い根こぶ病抵抗 地産ともにアントシアニンと高リン型でん を含み 性系統を育成した。さらに、赤カブ根こぶ病の発病 加工利用特性も共通することから、周年供給可能な 予測法を開発し、 合防除体系確立に移植栽培や太 ことを明らかにした。さらに、収穫後の紫外線照射 陽熱処理が有効であることを明らかにした。 でタマネギ切片のケルセチン含量等が高まることを などの近 土壌微生物性の評価関連では、土壌からの抽出 明らかにした。 DNA の PCR-DGGE 解析による土壌細菌群集構造 ビタミン等では、イチゴでビタミンC高含有の地 の多様性 析法を開発するとともに、リン脂質脂肪 3 4 5 6 7 9 酸 析、キノン 析などにより有機質資材施用の影 一化を避けた方が効果的であるなどの優良野菜農家 響の解析を行った。また、簡 ・安定な DNA の土壌 技術のポイントを整理した。有機質資材長期連用圃 抽出法とリアルタイム PCR 法により、キャベツバ 場ではホウレンソウ、ダイコン、キャベツの生育は ーティシリウム萎 病菌の定量技術を開発し、現地 やや遅れるが、全窒素で化成区と同等になる管理を 圃場で検証した。トマト青枯病の発病を抑制する有 すれば収穫適期には同収量となり、硝酸濃度が低下 機質資材の主要なメカニズムが土壌微生物の活性化 するものの内部品質には明確な差を認めなかった。 による病原菌の生残性低下にあることを解明し、一 部のアミノ酸、グルコースなどが顕著な青枯病抑制 2 能を示すことを明らかにした。 低コスト・省力型野菜開発チーム 果菜類の栽培における省力・軽作業化や葉根菜類 有機質資材施用関連では、これまで蓄積された長 の栽培における省力・機械化を可能にする品種・系 期連用試験の情報をデータベース化し、短期間の試 統を多数育成・開発するとともに、育成品種・系統 験研究では得難い有機質資材施用の影響を解析可能 の特性を発揮するための栽培技術を開発した。また、 とした。また、家畜ふん堆肥による化学肥料代替が、 果菜類施設生産における生産性向上のため、高温期 野菜畑への Cd 投入量低減や葉菜類の Cd 濃度低減 のトマトやイチゴの高品質生産性技術を開発すると に優位性があることを連用試験データに基づき検証 ともに、高軒高大型施設における省力生産技術を開 した。土壌中に存在するタンパク様窒素(PEON) 発した。概要は次の通り。 に反応する野菜の種類と可給化機構を解明し、混作 カボチャ栽培の省力・軽作業化を可能にする短節 による PEON 利用を検証するとともに、ホウレンソ 間性を有し、果実形質の優れた地方番号系統「北海 ウが PEON または PEON 1号」∼ 「北海4号」を開発し、「北海1号」と普通 解物を直接吸収するこ とを検証した。農家圃場での施用試験により、有機 節間性高品質系統との F1系統「TC2A」を育成した。 質資材施用でニンジンのカロテン含量が増大するこ 本系統は短節間性、果実品質、収量性において優れ とを確認し、有機質資材施用は土壌中での極端な ている。栽培技術では、短節間カボチャの育苗には 10 72 セル成型ポットを利用した12日育苗が適当であ りも早く、また、葉ネギ用品種のように辛味が少な り、「えびす」の12cm ポリポット苗を用いた栽培体 く柔らかいため、葉身も利用可能な短葉性ネギ地方 系に比べて、育苗から収穫までの作業時間が約60% 番号合成系統「安濃1号」、「安濃2号」を育成した。 削減されることを明らかにした。 短葉性ネギは平植え栽培が可能で、土寄せは2回で メロンの省力・軽作業化栽培を可能にする短側枝 よく、省力的な生産が可能であることを明らかにし 性の「メロン中間母本農4号」を育種素材として、 た。また、288 標準セルトレイ播種機を改良してネ 低温肥大性を付与したトンネル半促成栽培用試 ギの高精度播種技術を開発するとともに、7.5cm の F1系統を開発した。本系統を用いたトンネル半促成 株間で植付けすることができる288 用全自動移植 栽培では、整枝・摘果に関わる労働時間が慣行区に 機を開発した。全自動機械定植には、葉の開きが小 対して半減し、短側枝性の効果を明らかにした。ま さく直立した苗が最も適し、露地順化処理が有効で た、地 F1系統も開発 あることを明らかにした。ホウレンソウのセル成型 した。さらに、単性花型で短側枝性を有し、うどん 育苗では、エブ&フロー潅水育苗における培地への こ病抵抗性も併せ持つ系統を開発した。 モミガラ混合により、根の生育が促進され T/R 比 い放任栽培用の短側枝性試 短節間性を有し、裂果に強く房どり収穫でき、収 の小さい理想の苗が得られることを明らかにした。 量性、食味等の優れるミニトマト F1地方番号系統 「桔梗 41号」∼「桔梗 野菜や作物の光照射後の種子から発せられる遅 43号」を育成した。また、 蛍光を測定可能な遅 蛍光測定装置を開発した。た 短節間性生食用大玉トマトの中間母本を育成した。 だし、種子の発芽力評価に利用できるかどうかは不 栽培技術では、短節間性を導入すると、大玉トマト、 明であった。ダイコンの一粒播種においては、種子 ミニトマトともにつる下ろし回数を減少できるこ の発芽力を重視した品種選定が必要であることが判 と、ミニトマトではホルモン処理作業を省力化でき 明した。ニンジンの一粒播種では、種子プライミン ること、房どり収穫は収穫作業を大幅に省力化でき グの効果が確認された。また、冬どりニンジンの機 ることを明らかにした。短節間トマトは密植が可能 械収穫適性有望系統として、収穫調整時の裂根が少 であると えられた。また、短節間トマトの短節間 なく、根部の品質も優れる F1系統「T-466」を育成 性を生かす誘引法を検討し、管理作業時間が削減で し、タキイ種苗(株)育成品種「シロムタルカス」 き、収量性も向上するUターン整枝法及びQターン として品種登録出願した。 整枝法を開発した。単為結果性トマトでは、長期ど 高温期のトマトのリコペン含量について、果房位 りの10a 当たり作業時間が通常の品種と比べ約10% 置や株の生育ステージがリコペン含量に影響を及ぼ 短縮でき、単為結果性の効果を明らかにした。 すことが示唆された。水ストレスをかけると、果実 一球重の変動係数が小さく、一斉収穫に適してい 重は小さくなるが、糖度は若干高まり、ビタミン C ると えられるキャベツ F1系統「K2-227」を育成し 含量は明らかに高まる傾向が認められた。トマトの た。 「K2-227」は現行市販品種と同等の球品質を有し 高温ストレスの指標として、正常花 率とがく裂片 ている。キャベツの機械収穫適性としては、 「球の揃 のクロロフィル蛍光 Rfd 値が有効であることが示 い」に加えて、「在圃性」、「直立性」も重要な形質で 唆された。 あることを明らかにし、軸の曲がりの小さい34系統 夏季晴天日におけるハウス内気温上昇は、外気導 を含む45系統を開発した。また、塩化カリ処理セル 入ファン+換気扇ハウスにより顕著に抑制され、ト 成型苗・畦内条施肥の改良体系の一斉収穫では、出 マトの果実糖度やリコペン含量が高くなる傾向が認 荷量あたりの作業時間が約25%短縮することを明ら められた。循環扇と細霧ノズルを組み合わせた形式 かにした。レタスについては、機械収穫適性が高い の市販の細霧冷房装置を対象にして、植物体に濡れ 品種を選定するとともに、エブアンドフロー育苗や を生じさせにくく、しかも、効率的な運転制御が可 定植前の畦面鎮圧、作畦法や作業手順の改良により 能なセンサおよび制御アルゴリズムを組み込んだ、 機械収穫の効率化が可能であり、軽労化の効果を明 ユビキタス環境制御システム用細霧冷房ノードを開 らかにした。 発した。約1 ha のトマト大規模温室において、CO 従来の根深ネギより葉身、葉 が短く、葉 の太 施用速度を決定するための最適な制御ロジックを構 11 築し、光合成を著しく促進できることを実証した。 F1系統「K2-227」を、(株)サカタのタネ単独育成 トマト等の誘引つる下ろし作業時に作物を持ち上 品種として品種登録出願準備中であり、平成18年中 げずに誘引具の横移動を可能とし、作業者の負担を の出願を目指す。短葉性ネギ「安濃1号」 、「安濃2 軽減することができる可動式誘引器具を開発した。 号」は平成17年度より特性検定試験・系統適応性検 培土量が0.5L/株の少量栽培槽を立体配置したイ 定試験を実施中であり、命名登録を目指す。短節間 チゴ「さちのか」、 「久留米58号」の立体式多植栽培 性ミニトマト F1地方番号系統「桔梗 41号」∼ 「桔梗 は、2.5L/株の慣行高設栽培と比較して、単位面積 43号」については、命名登録を目指して、特性検 当たり収量の3倍増が可能であり、また下位段栽培 定試験・系統適応性検定試験を平成18年度より開始 槽の受光量の低下が少なく、光環境改善効果がある する。短側枝性メロンについては、実用品種育成を ことを明らかにした。 目指し、果実の外観と内部品質のさらなる改良が必 要である。 Ⅶ 今後の課題 また、露地野菜の栽培技術については、機械化一 康増進型高品質野菜の品種育成では、育成品種 貫体系を確立する上で、生育斉一化技術の開発が依 の早期普及を目指すとともに、高リコペン性の生食 然として大きな課題として残っている。生育斉一化 用トマト F1系統「Kc02-115」を、カゴメ(株)と東 は、品種の遺伝的な生育特性以外に、品種の原種採 北農研の共同育成品種「KGM 051」として、平成17 種方法や F1種子の生産・調整技術に依存する部 年度中に品種登録出願予定である。アントシアニン 大きく、これら3つの要因を切り けて技術開発を 含量が極めて高いジャガイモ「勝系17号」の特性検 行う必要があるが、採種性形質の育種や F1種子生産 定試験・系統適応性検定試験を平成18年度より開始 技術の研究が基礎・応用ともに遅れており、今後は し、命名登録を目指す。ビタミンC高含有のイチゴ これらの 野の研究を推進する必要がある。機械に 系統「久留米60号」の特性検定試験・系統適応性検 ついては、キャベツ収穫機やホウレンソウ収穫機の 定試験を平成19年度より開始し(平成18年度に増殖 低価格・高精度な普及機の開発が今後の重要課題で 用苗の配布)、命名登録を目指す。辛味果実の発生し ある。 が ない万願寺とうがらしの新品種候補3系統「BC5 DH19、35、146」については、京都府における今後 Ⅷ 2カ年の栽培審査・選抜を経て1系統に り、京都 1) 阿江教治、吉光寺徳子(2004)アポプラストと 府育成品種として平成19年度末の品種登録出願を目 植物栄養―無機元素を中心として―5.根キレー 指す。香気の強い根こぶ病抵抗性ヒロシマナ育成系 ト能力による難溶性成 統については、平成18年度に広島県における栽培試 -721 験を経て、広島県育成品種として平成19年度の品種 研究発表 の溶解.土肥誌.75:715 2) 壇和弘、大和陽一、今田茂雄、鈴木誠司、神谷 登録出願を目指す。 昭文、杉江正美(2004)ダイズ種子における光照 また、品質評価法や栽培法については、引き続き 射後の遅 実用化に向けた装置の改良や栽培技術の改善を進 発光と種子活力との関係.園学雑. 73(別2):200 め、利用現場での検証と普及を図る必要がある。有 3) 壇和弘、大和陽一(2005)葉ネギ葉先枯れ症の 機質資材施用については、微生物性の評価法や品質 発生原因の解明.園学雑.74(別1):130 との関連解明の継続調査が必要である。 4) 遠藤千絵(2003)ばれいしょの品質に関わる 低コスト・省力型野菜野菜の品種育成では、機械 様々な特性.日本イモ類研究会第7回 収穫適性を有するニンジン登録品種「シロムタルカ 会講演要 旨 ス」の産地試作を拡大し、採種性も確認した上で普 5) 遠藤千絵(2003)ジャガイモの品質について-最 及を目指す。また、カボチャ F1系統「TC2A」の品 近の研究から.第43回澱 種登録を(株)渡辺採種場と北海道農業研究センタ 集:46-47 ーの共同育成品種として出願準備中であり、平成18 研究懇談会講演要旨 6) 遠藤千絵、高田明子、中尾敬、瀧川重信、野田 年前半の出願を目指す。機械収穫に適するキャベツ 高弘、山内宏昭、森元幸(2004)アントシアニン 12 含有ジャガイモの成 特性.日本植物学会第68研 動多条移植機導入による労働負担軽減効果.農作 究発表記録:191 業研究.41:(印刷中) 7) 遠藤千絵(2004)ジャガイモの品質と様々な品 18) 藤原隆広、亀井雅浩、内藤和男、熊倉裕 、高 種たち.日本植物学会第67回大会 開シンポジウ 田 一郎、吉田祐子、窪田潤(2006)電動型半自 ム要旨集:9-11 動移植機を利用したホウレンソウ移植栽培技術確 8) 遠藤千絵(2004)寒さで甘くなるジャガイモた 立のための2,3の栽培的知見.農作業研究.41: ちは….先端シンポジウム植物科学の新展開講演 (投稿中) 要旨集:32-37 19) 福永亜矢子、吉田祐子、藤原隆広、須賀有子、 9) 遠藤千絵、瀧川重信、高田明子、小林晃、中尾 池田順一、堀兼明、熊倉裕 (2003)コマツナの 敬、森元幸、野田高弘、橋本直人、金善州、山内 抗酸化活性に及ぼす夏季遮光および冬季二重被覆 宏昭(2005)アントシアニン、カロチノイド含有 の影響.2003年度土壌肥料学会講演要旨集:108 ジャガイモの成 特性.日本食品科学工学会第52 20) 福永亜矢子、吉田祐子、藤原隆広、須賀有子、 回大会講演集:88 池田順一、堀兼明、熊倉裕 (2003)ホウレンソ 10) 藤村真(2005)土壌病原菌の PCR 検出・定量法 ウとコマツナの抗酸化活性および抗酸化物質含量 の確立と有機質資材による病害抑止への応用.プ に対する栽植密度の影響.園芸学会雑誌.72(別 ロジェクト研究「ブランドニッポン」6系(野菜) 2):176 研究成果トピックス集:23 11) 藤原隆広、熊倉裕 21) 福永亜矢子、吉田祐子、藤原隆広、須賀有子、 、井上昭司(2002)ホウレ 池田順一、堀兼明、熊倉裕 (2004)ホウレンソ ンソウの播種粒数がセル成型苗の生育と斉一性に ウの抗酸化活性に及ぼす夏季遮光および冬季二重 及ぼす影響.農作業研究.37(別1) :69-70 被覆の影響.2004年度土壌肥料学会講演要旨集: 12) 藤原隆広、熊倉裕 、中川泉、吉田祐子 (2003) 106 ホウレンソウセル成型育苗におけるセルサイズと 22) 福永亜矢子、小森冴香、須賀有子、池田順一、 播種粒数が定植後の生育に及ぼす影響.農作業研 堀兼明(2005)紫外線カットフィルム及び熱線カ 究.38(別1):115-116 ットフィルムがホウレンソウの抗酸化活性に及ぼ 13) 藤原隆広、熊倉裕 、吉田祐子(2003)ホウレ す影響.2005年度土壌肥料学会関西支部講演会講 ンソウ移植栽培における定植後の生育と品質成 演要旨集:37 との関係.園学雑.72(別2):408 14) 藤原隆広、熊倉裕 23) 浜中康弘、豊田剛己、池田恭子(2003)コーヒ 、吉田祐子(2004)エブ& ー粕堆肥連用土壌のトマト根腐萎ちょう抑制機構 フロー潅水方法を用いたホウレンソウセル成型苗 に関与する微生物群集の推定.2003年度日本土壌 育苗における培地へのモミガラ添加が根鉢形成に 微生物学会 及ぼす影響.農作業研究.39(別1) :105-106 24) 浜中康弘、豊田剛己、林(池田)恭子、勝山真 15) 藤原隆広、亀井雅浩、内藤和男、熊倉裕 、高 (2004)コーヒー粕堆肥連用土壌の糸状菌群集構 田 一郎、吉田祐子(2005)電動型半自動移植機 造とトマト根腐萎 を利用したホウレンソウ移植栽培技術確立のため 本土壌微生物学会 の2,3の栽培的知見.農作業研究.40 (別1): 病抑制について.2004年度日 25) 浜中康弘、豊田剛己、林(池田)恭子(2005) 61-62 コーヒー粕堆肥連用土壌におけるトマト根腐萎 16) 藤原隆広、吉田祐子、熊倉裕 、亀野貞 (2005) 病菌に対する高い静菌作用に関与する微生物因子 セル成型苗育苗における育苗日数と播種粒数がホ の推定.日本土壌肥料学雑誌.76⑹:817-824 ウレンソウの抽だいに及ぼす影響.園学雑.74 (別 26) 橋本典久、吉川正巳、 1) :134 永啓、齊藤猛雄、吉田 実(2002)京都府内で発生しているトウガラシ 17) 藤原隆広、亀井雅浩、内藤和男、熊倉裕 、高 疫病に対する抵抗性台木の選抜.平成14年度日本 田 一郎、吉田祐子、窪田潤(2006)ホウレンソ 植物病理学会関西部会講演要旨集:48 ウセル成型苗を利用した移植栽培への電動型半自 27) Hashimoto, A., Yasui, K., Takahashi, M., 13 Rahman, M ., Kawazu, Y., Sugiyama, K., 36) 東尾久雄、佐藤文生、徳田進一、浦上敦子 (2003) Kameoka, T. (2005) Simple and Rapid Deter- 収穫後の紫外線照射がイチゴ果実のアントシアニ mination of Carotene Content in Carrots by ン生成に及ぼす影響.園学雑.72(別2) :487 Color Image Analysis Using a Digital Camera. 37) 東尾久雄(2004)光環境制御による高品質化技 Proceedings of 7th International Symposium on 術.野菜茶業研究集報.1:17-22 38) Higashio, H., Hirokane, H., Sato, F., To- Fruit,Nut,and Vegetable Production Engineer- kuda, S., Uragami, A. (2004) Effect of UV ing 28) 畠山勝徳、藤村みゆき、石田正彦、鈴木徹 (2003) irradiation after the harvest on the content of 根こぶ病抵抗性ハクサイ品種、ひろ黄 、隆徳 を flavonoid in vegetables. Abstruct of 5th Inter- 用いた根こぶ病菌群の病原性 national Postharvest Symposium:47 類.育種学研究. 5(別2):326 39) 東尾久雄、廣兼久子、佐藤文生、徳田進一、浦 29) 畠山勝徳(2003)ハクサイ根こぶ病菌の病原性 上敦子(2004)イチゴ果実のアントシアニン生成 類法.日本育種学会中部地区談話会第11回講演 に及ぼす光質の影響.園学雑.73(別2) :520 会講演要旨:6 40) Higashio, H., Hirokane, H., Sato, F., To- 30) Hatakeyama, K., Fujimura, M., Ishida, M., kuda, S., Uragami, A. (2005) Effect of UV Suzuki, T. (2004) New classification method irradiation after the harvest on the content of for Plasmodiophora brassicae field isolates in flavonoid in vegetables. Acta Hort. 682:1007- Japan based on resistance of F1 cultivars of 1012 Chinese cabbage (Brassica rapa L.) to clu- 41) Higashio, H., Hirokane, H., Sato, F., To- broot. Breeding Science. 54:197-201 kuda, S., Uragami, A. (2005) Enhancement of 31) 畠山勝徳(2004)アブラナ科野菜の根こぶ病抵 functional compouns in Allium Vegetables with 抗性育種.土壌伝染病談話会レポート.22:120- UV radiation. Abstruct of FAV Health:34 129. 42) 東尾久雄、廣兼久子、佐藤文生、徳田進一、浦 32) Hatakeyama, K., Fujimura, M., Suzuki, T., 上敦子(2005)イチゴ果実の着色に及ぼす紫外線 Ishida, M ., Sato, T. (2004) Classification of の効果.園学雑.74(別2):474 pathogenicity of Plasmodiophora brassicae 43) 平井剛、杉山裕、中野雅章(2004)短節間カボ field isolates in Japan based on resistance of F1 チャ つるなしやっこ の収量性および省力性.園 cultivars of Chinese cabbage (Brassica rapa 学研.3⑶:287-290 L.)to clubroot.Brassica 2004,the joint meeting 44) 星岳彦、林泰正(2005)効率化・低コスト化を of the 14th crucifer genetic workshop and the 4 達成するユビキタス施設環境制御システム.施設 th ISHS symposium on Brassicas, Korea. と園芸.131:22-26 Abstract:90 45) 星岳彦(共著)(2005) 6.6コンピュータ支援シ 33) 畠山勝徳、藤村みゆき、石田正彦、鈴木徹、佐 藤隆徳(2004)ハクサイ根こぶ病菌の病原性 ステム.新農業気象・環境学(長野敏英・大政謙 類 次共編).朝倉書店:181-185 のための新たな判別品種.平成15年度野菜茶業研 46) 星岳彦、内野宏美、古屋洋輔(2005)温室自律 究成果情報:1-2 散環境制御ネットワークシステムの負荷解析. 34) 畠山勝徳(2005)ハクサイ根こぶ病菌の病原性 農業環境工学関連7学会2005年合同大会講演要旨 判別法.農業技術.60⑹:27-31 集.GS62-1:428 35) 林泰正、内野宏美、高市益行、相原祐輔、山口 47) 今田茂雄、壇和弘(2003)微弱発光計測装置を 浩明、星岳彦(2005)温室自律 散環境制御シス 用いた 全種子と死滅種子の発光量の比較.園芸 テム用ユビキタスエンジンの開発.農業環境工学 学会平成15年度東北支部会要旨:65-66 関連7学会2005年合同大会講演要旨集.GS57-4: 48) 猪股敏郎(2005)堆肥利用の現状と利用促進. 406 平成17年度コンポスト生産管理者養成研修テキス 14 ト:59-115 によるチンゲンサイ葉柄及び辛味ダイコン硝酸含 49) Ishigami, Y., Ohno, Y., Goto, E., Niibori, K. 有量の非破壊測定法の開発.第20回記念非破壊計 (2006) Application of a CO2 control system in 測シンポジウム講演要旨集:148-149 a large-scale greenhouse with open ventilators. 60) Ito, H., Horie, H. (2006) Non-destructive IHC 2006(発表予定) estimation of nitrate in leaf stalk of Qing gin 50) 石井現相(2003)煮沸と切断処理が野菜のグル cai using visible-near infrared spectroscopy. コシノレ−ト含量に及ぼす影響.日本農芸化学会 IHC2006(発表予定) 北海道支部春季合同学術講演会講演要旨集:17 61) Ito, H., Horie, H. (2006) Potential of non- 51) 石井現相(2003)グルコシノレ−トのイオンペ ア HPLC destructive determination of pungent compo- 析.日本食品科学工学会第50大会講演 nent in Japanese radishes using visible - near 要旨集:77 infrared spectroscopy. IHC2006(発表予定) 52) 石 井 現 相(2005)大 根 グ ル コ シ ノ レ−ト の 62) 門田伸彦(2005)ニンジンの機械収穫に適した DPPH ラジカル消去および抗酸化活性.日本農芸 品種の育成.プロジェクト研究「ブランドニッポ 化学会2005年度大会講演要旨集:270 ン」6系(野菜)研究成果トピックス集:29 53) 石井現相(2005)ダイコンのグルコシノレ−ト 63) 亀井雅浩、藤原隆広、内藤和男、熊倉裕 、高 迅速定量法の開発とその加工・調理食品への応用. 田 一郎、吉田祐子、窪田潤(2005)ホウレンソ 日本食品科学工学会第52大会講演要旨集:78 ウのセル成型苗利用移植栽培への電動型半自動移 54) Islam, T., Toyota, K. (2002) Comparison of 植機導入による労働負担軽減効果.農作業研究. 40(別1):63-64 disease receptivity against bacterial wilt of tomato (Lycopersicon esculentum Mill)among 64) 亀野貞、畠山勝徳、石田正彦、鈴木徹(2003) soils amended with different levels of farmyard キャベツ機械収穫適性品種の選定.園学雑.72 (別 manure. 2002年度日本土壌肥料学会関東支部会 2):399 55) Islam,T.,Toyota,K. (2004)Susceptibility of 65) 金井幸男(2005)栽培面からみた省力・快適化 への研究戦略.野菜茶業研究集報.2:23-28 soils with or without repeated application of farmyard manure to bacterial wilt of tomato 66) 金井幸男(2005)短節間トマトのセル成型苗利 caused by Ralstonia solancearum.土と微生物. 用による省力・高品質生産技術の確立.プロジェ 58:33-42 クト研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研究 56) Islam, T., Toyota, K. (2004) Suppression of 成果トピックス集:25 67) 金井幸男(2006)施設トマトの省力的な新整枝 bacterial wilt of tomato by Ralstonia 法.群馬農技セ研報.3:(印刷中) solanacearum by incorporation of composts in 68) 金子賢一、宮城慎、小原隆由、坂田好輝、佐久 soil and possible mechanisms. Microbes and Environments. 19⑴:53-60 間文雄(2005)短側枝性メロンの地 57) Islam, T., Toyota, K. (2004) Effect of mois- い栽培にお ける省力性.園学雑.74(別2) :384 ture conditions and pre-incubation at low tem- 69) 笠野実希、山本嘉彦、遠藤千絵、山内宏昭、小 perature on bacterial wilt of tomato caused by 林晃、森元幸、石橋憲一(2002)ジャガイモ塊茎 Ralstonia solanacearum. Microbes and Envi- 貯蔵中の糖変動特性.日本植物学会第66回大会研 ronments. 19⑶:244-247 究発表記録:123 58) Ito, H., Horie, H., Ippoushi, K., Azuma, K. 70) 片岡園、由比進、 永啓(2003)ホウレンソウ (2003) Potential of visible-near infrared のシュウ酸・硝酸含量の測定におけるリーフディ spectroscopy for non-destructive estimation of スク法の実用性.平成15年度園芸学会東北支部会 nitrate content in Japanese radishes. Acta 要旨集:61-62 Hort. 604:549-552 71) 片岡園、由比進、 59) 伊藤秀和、堀江秀樹(2004)可視近赤外 光法 永啓、岡本潔(2004)ホウ レンソウのシュウ酸および硝酸含量に及ぼす温度 15 の影響.平成16年度演芸学会東北支部会要旨集: 旨:160 35-36 72) 片岡園、由比進、 84) 河田隆弘、野路稔,曽我綾香、北宜裕(2005)ネ 永啓、岡本潔(2004)ホウ ギ良食味品種「湘南一本」の育成経過と特性.神 レンソウのシュウ酸および硝酸含量に関する選抜 奈川県農業 効果 1.選抜第1世代のシュウ酸および硝酸含 85) Kim,Y.-K.,Ishii,G.,Kim,G.-H.(2004)Isola- 量.園学雑.73(別2):420 73) 片岡園、由比進、 合研究所研究報告.147:17-21 tion and Identification of Glucosinolates in 永啓、岡本潔(2004)ホウ Edible Parts of Chinese Cabbages (Brassica レンソウの乾物重当たりのシュウ酸および硝酸含 campestris L. ssp. Peckinensis.). Food Science 量に及ぼす温度の影響.園学雑.74(別2) :187 and Technology Research. 10:469-473 74) 片山新太、山川晴義、水谷浩孝、井上康、豊田 剛己、吉田重方(2002) 86) Kim, S.-J., Jin, S., Ishii, G. (2004) Isolation 肥を施用した農耕地断 and Structural Elucidation of 4-(β-D - 面における硝酸溶脱の実態例.環境科学会誌.15 Glucopyranosyldisulfanyl) butyl Glucosinolate ⑷:287-291 from Leaves of Rocket Salad (Eruca sativa L.) 75) 加藤祐介(2005)キャベツの機械収穫に適した and Antioxidative Activity.Biosci.Biotechnol. 業務用 F1品種の育成.プロジェクト研究「ブラン Biochem. 68:2444-2450 ドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集: 87) Kim, S.-J., Fuji, K., Yamauchi, H., Ishii, G. 27 (2004) Identification of Glucosinolates in 76) 川口岳芳、房尾一宏(2003)自然日照下での遠 Hanakkori (Brassica rapa L.×B.oleracea L.) 赤色光と紫外線の制御がワケギのりん茎肥大に及 and Effects of Nitrogen Application on its ぼす影響.園学雑.73(別2):593 Glucosinolate Content.Abstracts of Joint Meet- 77) 川口岳芳、房尾一宏(2004)夏どり栽培ワケギ の土壌の乾燥に伴う ing of the 14th Crucifer Genetics Workshop and 合部径の日変化特性.園学 the 4th ISHS Symposium on Brassicas. Dae- 雑.73(別2):181 jeon, Korea Republic:63 78) 川口岳芳、房尾一宏(2004)ワケギの初夏どり 88) 木村武、渋谷加代子、石岡厳(2003)豚ぷん堆 栽培用種球のりん茎肥大に及ぼす長日処理時の光 肥連用土壌における葉菜類のカドミウム吸収抑 源並びに PPFD の効果.園学雑.74 (別2) :619 制.平成14年度共通基盤研究成果情報:98-99 79) 川口岳芳、房尾一宏(2005)ワケギの初夏どり 89) 木村武、渋谷加代子、石岡厳(2004)豚ぷん堆 栽培用種球生産におけるりん茎肥大に及ぼす暗期 肥の連用が葉菜類の根群域土壌溶液と可食部にお 中断光源への遠赤色光付加の影響.園学雑.74 (別 ける銅、亜 2) :194 本土壌肥料学会大会講要集.49:145 80) 川口岳芳、房尾一宏(2005)ワケギの初夏どり 、カドミウム濃度に及ぼす影響.日 90) 木村武(2004)農地還元に向けた有機性資源利 栽培用種球のりん茎肥大に及ぼす日長並びに暗期 用研究.季刊肥料.96:46-52 中断の影響.園学雑.74(別2) :660 91) 木村武(2004)有機質資材施用に伴う肥料成 ・ 81) 川口岳芳(2005)光質制御フィルムによるワケ 重金属の負荷量とリスク低減.平成15年度専門技 ギの夏季増収・高収益効果.施設と園芸.日本施 術員研修テキスト(環境保全型施肥・土壌管理技 設園芸協会.132:(印刷中) 術).中央農業 合研究センター:61-70 82) 川口岳芳(2005)ワケギ夏季安定生産のための 92) 木村武、草場敬、豊田剛己、阿江教治(2005) 光質制御技術の確立.プロジェクト研究「ブラン 有機物施用の機能解明とその利用.プロジェクト ドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集: 研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研究成果 21 トピックス集:1-2 83) 川嶋浩樹、高市益行、渡辺慎一、中野有加、東 93) 北宜裕、河田隆弘、高柳りか、深山陽子 (2005) 出忠桐(2003)短節間トマトの生育特性と受光体 「湘南ネギ」の新品種育成、作期拡大及び新需要 制の解析.農業環境工学関連5学会合同大会講演要 開拓.プロジェクト研究「ブランドニッポン」6 16 系(野菜)研究成果トピックス集:7-8 の実態と肥培管理が土壌特性・土壌環境に及ぼす 94) 小田島ルミ子、阿江教治、吉光寺徳子、 本真 悟(2005)土壌中に蓄積している窒素の形態 影響.平成17年度革新的農業技術習得研修(高度 別 先進技術研修)環境保全型農業推進における土 法の検討.土肥誌.76(6):833-841 壌・養 管理技術.九州沖縄農業研究センター: 95) 小出隆子(2005)完熟収穫型単為結果性トマト 1-10 の長期どり省力・高品質生産技術の開発.プロジ 107) 増田真美、沖智之、小林美緒、須田郁夫、中尾 ェクト研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研 敬(2003)紫色、赤色バレイショから得たアント 究成果トピックス集:25 シアニン含有濃縮物の抗酸化活性.九州農業研究. 96) 小島昭夫、安藤利夫、塚崎光、山下謙一郎、小 65:53 原隆由(2004)ネギの葉身長径比およびピルビン 酸生成量のダイアレル 108) Matsumoto, S., Ae, N. (2004) Characteris- 析.育種学研究.6(別 tics of extractable soil organic nitrogen deter- 1) :240 mined by various chemical solution and its 97) 小 和彦、鈴木尚俊、小澤智美、元木悟、矢崎 significance for nitrogen uptake by crops. Soil 明美、臼井冨太、塚田元尚(2005)レタス機械収 Science and Plant Nutrition. 50:1-9 穫に適した品種の選定.園学雑.74(別1) :125 98) 熊倉裕 109) Matsumoto, S., Ae, N., M atsumoto, T. 、吉田祐子、藤原隆広(2005)セル成 (2005) Extraction of Soil Organic Nitrogen by 型苗移植栽培した初夏まきホウレンソウの生育特 Organic Acids and Role in Mineralization of 性.近畿中国四国農研.6:35-41 Nitrogen in Soil.Soil Science and Plant Nutri- 99) 草場敬、三浦憲蔵、森泉美穂子(2003)非黒ボ tion. 51:425-430. ク土の長期連用畑圃場での土壌炭素含有率の増減 110) 要因.平成13年度共通基盤研究成果情報:148-149 永啓、矢ノ口幸夫、村山敏、時枝茂行、竹川 昌宏、小 正紀(2005)房どり収穫に適した短節 100) 草場敬、三浦憲蔵、石岡厳(2003)基準点調査 間ミニトマトの育成.プロジェクト研究「ブラン に基づく長期連用野菜圃場の土壌理化学性の経年 ドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集: 変化.日本土壌肥料学会大会講要集.48:116 11-12 101) 草場敬、石岡厳(2003)肥培管理によって土壌 111) 永啓、矢ノ口幸夫、村山敏(2005)短節間性 の肥沃度はどのように変化するか?−土壌保全調 トマト系統の栽培管理別労働量.園学雑.74(別 査データベースを活用した作物収量と土壌特性の 1):298 変動解析−.中央農業 合研究センターニュース. 112) 9:5 永啓(2005)短節間ミニトマトの育種につい て.ながの農業と生活.Vol 4.93:26-27 102) 草場敬(2003)基準点一般調査データベースと 113) 永啓(2005)房どり収穫が可能な短節間ミニ これを用いた土壌肥沃度の解析事例.農林水産技 トマトの育成.ブラニチ6系(野菜)研究成果ト 術研ジャーナル.26(11):5-9 ピック集:11-12 103) 草場敬、石岡厳(2003)基準点調査データベー 114) スの活用.平成15年度革新的農業技術習得研修委 トマトの育成.野菜茶業研究集報(投稿中) 託事業(専門技術員研修)環境保全型施肥・土壌 管理技術.中央農業 永啓(2006)房どり収穫が可能な短節間ミニ 115) 合研究センター:31-59 永啓、村山敏(2006)短節間性ミニトマト F1 系統の特性.園学雑(投稿中) 104) 草場敬、三浦憲蔵(2004)長期同一土壌管理の 116) 岡智生、豊田剛己(2003)連作軽石のトマト 野菜・畑作物収量に及ぼす影響.日本土壌肥料学 青枯病抑制培土としての可能性と抑制メカニズ 会講演要旨集.50:119 ム.2003年度日本土壌肥料学会 105) 草場敬(2004)わが国農耕地土壌の実態と肥培 117) 岡智生、豊田剛己(2003)連作軽石のトマト 管理の土壌特性・土壌環境に対する影響.圃場と 青枯病抑制に関与する微生物の特定.2003年度日 土壌.36(10/11):1-5 本土壌肥料学会関東支部会 106) 草場敬(2005)わが国農耕地土壌の養 含量等 118) 17 岡智生、豊田剛己、増田和成、黒田哲生 (2004) 連作軽石のトマト青枯病抑制培地としての抑止力 ツにおける施肥位置および地力ムラの違いが斉一 とその抑制メカニズム.土と微生物.58:25-32 性に与える影響.園学雑.73(別1):110 119) 岡智生、豊田剛己、佐藤一朗、増田和成、黒 131) Murakami,K.,Okada,K.,Ikoma,H. (2004) 田哲生(2005)繰り返し栽培した軽石培地におけ Effect of fertization technique and cultivar for るトマト青枯病の発病抑制メカニズム.土と微生 unformity of cabbage growth. ITALUS HOR- 物.59⑴:15-20 TTUS. 11⑶:37 120) 南山泰宏、稲葉幸司、氷上涼子、木下紗矢香、 132) 村上 二、生駒泰基、岡田邦彦、塚本証子 (2005) 井上雅好(2004)辛くない万願寺トウガラシ育成 培養液への塩化カリ添加によるキャベツセル成型 のための辛味遺伝子座連鎖マーカーの開発.育種 苗への耐干性付与.平成16年度野菜茶業研究成果 学研究.6(別1):96 情報:21-22 121) 南山泰宏(2005)辛味果のない万願寺とうがら 133) 村上 二、生駒泰基、岡田邦彦(2005)定植時 し品種の育成と疫病・青枯病複合抵抗性台木によ 期および施肥位置の違いががキャベツの斉一性に る安定生産技術の開発.プロジェクト研究「ブラ 与える影響.園学雑.73(別1) :122 ンドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス 134) Murakami,K.,Okada,K.,Ikoma,H. (2005) 集:20 Effect of Fertilization Technique and Cultivar 122) 三浦伸之、阿江教治(2005)茶園表層土壌に存 on Uniformity of Cabbage. Acta Hort. (in 在する水溶性有機態窒素.土肥誌.76(5):587- press) 592. 135) 室崇人、野口裕司(2005)高ケルセチンタマネ 123) 三浦伸之、阿江教治(2005)有機物の多量施用 ギの育種.第2回ネギ類研究小集会講演 時における有機態窒素溶脱の可能性=土壌充塡カ 136) 永田雅靖、今西俊介、竹内敦子、杉山慶太 (2004) ラムによるモデル実験=.土肥誌.76:843-848. ニンジンのカロテノイド簡易 124) 森元幸、高田明子、小林晃、津田昌吾、高田憲 別定量法.日本食 品科学工学会第51回大会講演集:94 和、梅村芳樹、木村鉄也、百田洋二、串田篤彦、 137) 永田雅靖、渡瀬智子、今西俊介、竹内敦子 (2004) 植原 人(2006)赤皮赤肉で調理適性が優れるば ホウレンソウに含まれる β-カロテンの簡 れいしょ新品種候補「北海91号」.平成17年度北海 法.園学雑.73(別2):239 道農業研究成果情報(印刷中) 138) 永田雅靖(2005)平成16年度委託プロジェクト 125) 森下昌三、野口裕司、室崇人(2005)カボチャ (ブランドニッポン6系・野菜)推進会議.野菜 の節間長に及ぼす植物生育調節剤の効果.北海道 茶業研究所ニュース.15:7 園芸研究談話会報.38:96-97. 139) 永田雅靖(2005)ニンジンに含まれる α-カロ 126) 森下昌三、野口裕司、室崇人(2005)短節間カ テンと β-カロテンの簡易 ボチャの育種.園学雑.74(別1) :319 果トピックス集:15 二倍体バレイショの倍加処理による特性の変化. 140) 中野洋子、豊田剛己(2004) 肥連用土壌に生 九州農業研究.65:37 育するトマト青枯病抑制に関わる微生物群の特定 二、生駒泰基、岡田邦彦(2003)エブ& とそのメカニズム.2004年度日本土壌肥料学会 フロー育苗における培養液および組成がキャベツ 141) 仲谷紀男(2004)堆肥はみんなの宝もの.日本 セル成型苗の耐干性に与える影響.日本生物環境 土壌協会:10-11 調節学会講演要旨集:372 129) 村上 別定量法.プロジェク ト研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研究成 127) 向島信洋、中尾敬、森一幸、小村国則(2003) 128) 村上 定量 142)中澤尚、橋本典久、樫本紀博(2005)万願寺ト 二、生駒泰基、岡田邦彦(2004)キャベ ウガラシの疫病・青枯病複合抵抗性台木.平成17 ツにおける施肥位置および作型の違いが斉一性に 年度園芸学会近畿支部滋賀大会研究発表要旨およ 与える影響.日本農作業学会講演要旨集.39(別 び講演要旨:24 1) :139-140 130) 村上 143) 根路銘美穂、豊田剛己、Tajul M D Islam、 二、生駒泰基、岡田邦彦(2004)キャベ 岡智生、西島孝紀、佐藤一朗(2003)生ゴミ炭化 18 物施用がトマト青枯病の発病に及ぼす影響.2003 154 年度日本土壌肥料学会関東支部会 156) 小原隆由、杉山充啓、坂田好輝、金子賢一、宮 144) 根路銘美穂、豊田剛己(2004)生ゴミ炭化物に 城慎、佐久間文雄(2005)メロン栽培の軽労化が よるトマト青枯病抑制とそのメカニズム.2004年 可能な短側枝性・単性花型メロンの育成.プロジ 度日本土壌微生物学会 ェクト研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研 145) 根路銘美穂、豊田剛己、Tajul M D Islam、西 島孝紀、 究成果トピックス集:24 岡智生、佐藤一郎、山口安幸(2005) 157) 大川浩司、菅原眞治、矢部和則(2003)秋期、 生ゴミ炭化物の土壌施用によるトマト青枯病抑 冬期の温室栽培における単為結果性トマト ルネ 制.土と微生物.59⑴:9-14 ッサンス の着果および果実肥大特性.園学雑. 146) 西島孝紀、豊田剛己、Tajul MD Islam、根路 72(別2):380 銘美穂(2003)拮抗微生物と有機物併用によるト 158) 大川浩司、高市益行、菅原眞治、矢部和則 (2004) マト青枯病の抑制にむけて.2003年度日本土壌肥 単為結果性トマトの着果に及ぼす高温及び弱光処 料学会関東支部会 理の影響.園学雑.73(別1):276 147) Nishijima, T., Toyota, K., M ochizuki, M . 159) 大川浩司、菅原眞治、矢部和則(2004)単為結 (2005)Predominant culturable Bacillus species 果性トマトの着果に及ぼす低温の影響.園学雑. in Japanese arable soils and their potential as 73(別2):378 biocontrol agents.M icrobes and Environments. 160) 斎藤新、吉田 20⑴: 61-68 玉トマト育種における短節間形質の利用、短節間 148) 西畑秀次、林保則(2004)コンパクト野菜の生 形質と果実形質の関係.園学雑.72(別2):149 産技術.野菜茶業研究集報.1:9-16 161) 斎藤新、 永啓、吉田 149) 野口裕司、室崇人、森下昌三(2003)赤タマネ ギ新育成系統「月 実、齊藤猛雄(2003)生食用大 実、齊藤猛雄、門馬信 二、佐藤隆徳、山田朋宏(2006)短節間形質を有 22号」の貯蔵性と品質特性. する トマト安濃10号 の育成とその特性.園学 園芸学会講演要旨集.72(別2) :486 雑.75(別1) :(投稿中) 150) 野口裕司、室崇人、森下昌三(2003)短節間カ 162) 斉藤秀成、森沙織、酒井宏、漆原寿彦、藤村真 ボチャの主枝伸長および着果位置に及ぼす播種時 (2005)バーティシリウム萎 病菌 Verticillium 期の影響.北海道園芸研究談話会報.36:12-13 longisporum の PCR 検出と 子系統解析.糸状 151) 野口裕司(2004) 光光度計を用いたタマネギ 菌 子生物学研究会第5回コンファレンス講演要 のケルセチン含量の簡易評価法.平成15年度野菜 旨集:51 茶業研究成果情報:17-18 163) 佐藤文生、徳田進一、東尾久雄、浦上敦子、広 152) 野口裕司、室崇人、森下昌三、西村弘行 (2004) 兼久子、代永道裕(2004)各種家畜ふん堆肥の施 タマネギにおける揮発性含硫化合物生成量の生育 用がキャベツの生育、窒素吸収および土壌の窒素 および貯蔵中の変化.園芸学会講演要旨集.73 (別 含量に及ぼす影響.園学雑.73(別2) :371 1) :301 164) 佐藤一朗、豊田剛己(2003)有機物連用がトマ 153) Noguchi, Y., Muro, T., Morisita, M., ト青枯病の発生に及ぼす影響.2003年度日本土壌 Okamoto,D. (2004)Breeding of high quercetin 肥料学会 onion (Allium cepa). International seminar on 165) Satoh,K.,Toyota,K. (2004)Comparison of Developing Agricultural technology for Value- disease suppressiveness of different soils with added Food Production in Asia:31 or without repeated application of organic 154) 野口裕司、室崇人、森下昌三(2004)短節間カ matters to bacterial wilt of tomato caused by ボチャの主枝伸長および着果位置に対する育苗温 Ralstonia solanacearum. Microbes and Envi- 度の影響.北海道園芸研究談話会報.37:34-35. ronments. 19⑷:310-314 155) 小原隆由、杉山充啓、坂田好輝(2005)メロン 166) 関谷敦、河岸洋和(2005)機能性を高めるシイ の単性花性と果実形質の関係.園学雑.74 (別2): タケ栽培方法の検討.第55回日本木材学会大会研 19 究発表講演集:144 カロテン含量の季節変動.園学雑.72 (別2):192 167) 重本直樹(2005)根こぶ病抵抗性で香りの強い 181) 杉山慶太、安井翔、高橋正樹、川頭洋一、橋本 広島菜の育成.プロジェクト研究「ブランドニッ 篤、亀岡孝治(2004)高カロテン含有ニンジンの ポン」6系(野菜)研究成果トピックス集:22 効率的な選抜法の検討.園学雑.73(別2):186 168) 曽我綾香、渡邊清二、山田裕(2005)有機質資 182) 杉山慶太(2004)ニンジンのカロテンと選抜法. 材の長期連用がホウレンソウの品質に及ぼす影 平成16年.課題別研究会「ニンジンの育種と栄養・ 響.園学雑.74(別2):186 機能性に関する諸問題」.野菜茶業研究所:40-47 169) 曽根一純、望月龍也、沖村誠、野口裕司、北谷 183) 杉山慶太(2005)ケルセチンの多い赤タマネギ 恵美(2003)イチゴ果実中のビタミンC含量の遺 の開発.プロジェクト研究「ブランドニッポン」 伝.園学雑.72⑵:141-147 6系(野菜)研究成果トピックス集:17 170) 曽根一純(2003)イチゴ果実中のビタミンC含 184) 杉山慶太、森下昌三、野口裕司、室 崇人、渡 量の遺伝様式.平成14年度野菜茶業研究成果情 辺春彦、早坂良晴、浜田佳子、杉山 裕、長尾明宣、 報:17-18 坂本守章、川上光男、計良貴子、棚原尚哉 (2005) 171) 曽根一純(2004)高ビタミンC含有イチゴ品種 省力的な短節間性カボチャの品種育成と栽培技術 の育成.ブランドニッポン H15年度成果トピック の開発.プロジェクト研究「ブランドニッポン」 ス 6系(野菜)研究成果トピックス集:9-10 172) 須賀有子、堀兼明、福永亜矢子、池田順一 (2002) 185) 杉山裕、平井剛、田中静幸、長尾明宣(2006) PCR-DGGE 法による有機物連用土壌の細菌群集 短節間カボチャの蔓傷発生要因に関する知見.北 構造解析.日本土壌肥料学会関西支部会講演要旨 海道園芸研究談話会報.39:(投稿中) 集.98:12 186) 鈴木尚俊(2003)レタス収穫機の開発(第2報) . 173) 須賀有子、堀兼明、福永亜矢子、池田順一 (2003) 第62回農業機械学会年次大会発表要旨:373-374 PCR-DGGE 法を用いた肥料・有機物連用土壌の 187) 鈴木尚俊(2006)一貫作業型レタス収穫機の開 細菌群集構造解析.日本土壌微生物学会講演要旨 発とその実用性.長野県農業 集:43 第7号(印刷中) 174) 須賀有子、堀兼明、浦嶋泰文、福永亜矢子、池 合試験場特別報告 188) 鈴木敏征、 博美、森川信也、吉田 実 (2003) 田 順 一(2003)DNA 直 接 抽 出 法 お よ び PCR - 台木品種の違いが水ナス果実の果皮の DGGE 法を用いた土壌細菌群集の多様性解析法. (別2): NaCl の浸透性に及ぼす影響.園学雑.72 平成14年度近畿中国四国農業研究成果情報:191- 373 192 189) 鈴木敏征、 博美、森川信也、吉田 175) 須賀有子(2003)DNA で土壌診断.日本農業 さおよび 実 (2004) 台木品種の違いが水ナス果実の果皮および果肉の 新聞記事(2003.9.10) さに及ぼす影響.園学研.3⑵:179-182 176) 須賀有子(2003)最近の主な研究成果(近中四 190) 鈴木敏征(2004)水なす果皮の 農研センター):13 さ計測方法. 大阪“食とみどり”の新技術:13-14 177) 須賀有子(2003)土壌細菌群集の多様性解析法. 191) 鈴木敏征、 近中四農研センターニュース.11:5 博美、森川信也(2005)水ナスの 加温栽培における最低気温が収量および果実品質 178) 須賀有子、堀兼明、福永亜矢子、池田順一 (2004) に及ぼす影響.園学研.4⑶:303-306 土壌管理来歴の異なる圃場における細菌相の多様 192) 高田明子、中尾敬、田宮誠司、遠藤千絵、野田 性解析.日本土壌肥料学会講演要旨集.50:47 高弘、瀧川重信、向島信洋、森一幸、津田昌吾、 179) 須賀有子、豊田剛己(2005)土壌中の遺伝子・ 小林晃、山内宏昭、森元幸(2005)カラフルポテ 遺伝子情報…何ができるのか、何がわかるのか. ト次世代の到来.プロジェクト研究「ブランドニ 5.土壌微生物の群集構造解析(その1)DGGE、 ッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集:5- 原理と畑土壌への適用.土肥誌.76⑸:649-655 6 180) 杉山慶太、川頭洋一(2003)ニンジンにおける 193) 高田 20 一郎、藤原隆広、吉田祐子(2005)ホウ レンソウのセル成型苗育苗における種子の予措方 207) 瀧川重信(2005)低温保存中のキャベツ中のビ 法および播種後の潅水量の違いが出芽に及ぼす影 タミンC含量の消長.園学雑.74(別1) :158 響.農作業研究.40(別1):123-124 194) 高田 208) 瀧川重信(2005)茹で時間がキャベツおよびブ 一郎、藤原隆広、吉田祐子(2005)ホウ ロッコリーのビタミンCおよびビタミンU含量に レンソウのセル成型苗育苗における播種後の潅水 及ぼす影響.園学雑.74(別2) :180 量および温度の違いが出芽に及ぼす影響.農作業 209) 瀧川重信(2005)ビタミンU含量が高いキャベ 研究.40(別1):125-126 195) 高田 ツ品種とそれをさらに増加させる技術.プロジェ 一郎、藤原隆広、吉田祐子(2005)ホウ クト研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研究 レンソウのセル成型苗育苗における培養土および 成果トピックス集:18 播種後の潅水量の違いが出芽に及ぼす影響.農作 210) 時枝茂行、小 業研究.40(別1):127-128 196) 高田 一郎、藤原隆広、熊倉裕 正紀、中南暁夫、土屋和 (2004) 人工光源を用いた閉鎖型育苗がトマトの生育・収 、吉田祐子 量に及ぼす影響.平成16年度園芸学会近畿支部兵 (2006)セル成型苗育苗における播種後のミスト 庫大会研究発表要旨および講演要旨:21 潅水処理がホウレンソウの出芽に及ぼす影響.農 211) 時枝茂行(2004)閉鎖型育苗方式によるトマト 作業研究.41:(投稿中) 優良苗の計画生産.ひょうごの農林水産技術. 197) 高橋昭喜(2005)機械収穫に適したほうれんそ 136:9 うの形質.岩手県農業研究センター試験研究成果 212) Tokai,T.,Fujimura,M.,Inoue,H.,Aoki,T., (提案中) Ohta, T., Shibata, T., Yamaguchi, I., Kimura, 198) 高橋昭喜(2005)ほうれんそう種子特性と生育 M. (2005) Concordant evolution of trichoth- の関連.岩手県農業研究センター試験研究成果(提 ecene 3-O-acetyltransferase and an rDNA 案中) species phylogeny of trichothecene-producing 199) 高橋昭喜(2005)ほうれんそう収穫時の草 and non-producing fusaria and other as- 布と一斉収穫の可能性.岩手県農業研究センター comycetous fungi.Microbiology.151: 509-519. 試験研究成果(提案中) 213) 豊田剛己(2002)土壌病原菌の生態解析―土壌 200) 武田悟、本庄求、田口多喜子、加賀屋博行 (2004) 環境と病害―.第21回土壌伝染病談話会 ネギのセルトレイ育苗における出芽揃いの要因と 214) 豊田剛己(2003)人工的土壌病害抑止土壌の 収穫物への影響.東北農業研究.57:205-206 出に向けて.バイオコントロール研究会 201)武田悟、本庄求(2004)ネギのセルトレイ育苗 215) 豊田剛己(2003)土壌伝染性病原菌の土壌中に における出芽揃いの要因解析と収穫物への影響. おけるオートエコロジー研究.2003年度日本土壌 平成15年度東北農業研究成果情報:234-235 肥料学会 202) 瀧川重信(2002)キャベツ幼植物のビタミンU 216) 豊田剛己(2004)土壌微生物群集の生態系機能 含量と品種間差異.園学雑.71(別2) :159 ―持続型社会構築へ微生物の働きを活かす―.日 203) 瀧川重信(2003)収穫したキャベツのビタミン 本学術会議 U含量とその品種間差異.園学雑.72 (別1) :133 開シンポジウム「土壌資源の秘めた る可能性と未来―土壌科学からのアプローチ―」 204) 瀧川重信(2003)新鮮ブロッコリーとブロッコ 217) 豊田剛己(2004)有機性廃棄物を利用した土壌 リーパウダーのビタミンU含量.園学雑.72(別 病害防除.再生と利用.106:63-68 2) :233 218) 豊田剛己(2005)モデル土壌中における土壌伝 205) 瀧川重信(2004)施肥量の違いがキャベツのビ 染性病原菌の個生態研究−ダイコン萎黄病菌とト タミン U 含量に及ぼす影響.園学雑.73 (別1): マト青枯病菌を例に−.土と微生物.59⑴:45-52 111 219) 豊田剛己(2005)各種堆肥の土壌病害抑制能. 206) 瀧川重信(2004)低温保存中のキャベツキムチ 圃場と土壌.37⑻:12-18 中のビタミン U 含量の消長.園学雑.73 (別2): 220) 豊田剛己(2005)土壌微生物.環境保全型農業 240 事典.朝倉書店:152-156 21 221) 豊田剛己(2005)土壌病害.環境保全型農業事 コマツナ連作が土壌のリン脂質脂肪酸組成に及ぼ 典.朝倉書店:171-176 す影響.日本土壌肥料学会講演要旨集.51:46 222) 豊福博記、曽根一純、山口博隆、沖村誠、北谷 235) 和田さと子、豊田剛己、柳井洋介、大橋真理子 恵美(2004)イチゴの抗酸化活性におけるエラグ (2005)土壌機能と微生物多様性.土と微生物. 酸の寄与率.園学九研集.12:41 59⑵:91-98 223) 内野宏美、星岳彦(2005)温室自律 散環境制 236) 若生忠幸、小島昭夫、塚崎光、山下謙一郎 (2004) 御システムの計測制御データ記録プログラムの開 短葉性ネギ系統の育成.第12回日本育種学会中部 発.農業環境工学関連7学会2005年合同大会講演 地区談話会講演要旨集:12 要旨集.GS33-3:290 224) 梅林智美、金森 237) 若生忠幸、小島昭夫、塚崎光、山下謙一郎、小 夫(2003)赤カブの移植栽培 原隆由、西畑秀次、向井和正、北田幹夫、布目光 による根こぶ病防除技術.園芸学会北陸支部研究 勇、林保則、 発表要旨:9 すい短葉性ネギの開発.プロジェクト研究「ブラ 225) 梅林智美、多田季 (2004)葉ダイコン栽培に 本浩二(2005)作りやすく いや ンドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス よる赤カブ根こぶ病軽減効果.平成15年度関東東 集:13-14 海北陸農業研究成果情報:146-147 238) 若生忠幸、小島昭夫、塚崎光、山下謙一郎 (2005) 226) 梅林智美、畠山勝徳、 元哲、藤村みゆき (2004) 短葉性ネギ合成第1代の特性.育種学研究.7 (別 RAPD 解析を用いた根こぶ病病原性判別法の開 1・2):370 発.園学雑.73(別2):151. 239) 矢部希見子(2005)紫外線(UV)写真を利用 227) 梅林智美、畠山勝徳、 元哲、藤村みゆき、金 した野菜のフラボノール簡易検出法.平成16年度 森 夫(2004)RAPD 解析を用いた根こぶ病菌病 食品研究成果情報:46-47 原性判別方法の開発.園学雑.73(別2) :151 240) 矢部希見子(2005)紫外線(UV)写真法を利 228) 梅林智美、北田幹夫(2005)赤カブ根こぶ病防 用したフラボノールの検出と定量.プロジェクト 除技術の組合せによる防除効果.園芸学会北陸支 研究「ブランドニッポン」6系(野菜)研究成果 部研究発表要旨:4 トピックス集:16 229) 梅林智美、北田幹夫、金森 夫(2006)検定植 241) 矢部希見子、安藤義路、星野幸子、南指原孝子、 物による赤カブ栽培土壌の根こぶ病の発病予測. 中川博之、野口裕司(2006)紫外線(UV)写真を 平成17年度関東東海北陸農業研究成果情報(印刷 利用したタマネギのフラボノール簡易検出法. 中) 2006年度農芸化学会大会講演要旨集 230) 浦嶋泰文、浦上敦子、村上弘治(2003)リン脂 質脂肪酸 242) 谷内田学、前田浩(2006)砂丘地におけるニン 析による有機物施用畑の微生物相の解 ジン1粒播種無間引き栽培での発芽及び生育斉一 析.2003年度日本土壌微生物学会講演要旨集:75 化技術.平成18年度新潟県農林水産業研究成果集 231) 浦嶋泰文、浦上敦子、村上弘治、堀兼明 (2003) リン脂質脂肪酸 (提案中) 析による有機物連用畑の微生物 243) 山田朋宏・斎藤新(2005)多様な地域特産品種 相の解析.日本土壌肥料学会講演要旨集.49:43 に対応した栽培適応性の広いナス・トウガラシ類 232) 浦嶋泰文、中嶋美幸、金田哲、岡野正豪 (2004) 用台木品種・系統の育成.プロジェクト研究「ブ 土壌 EC が畑土壌のリン脂質脂肪酸組成に及ぼす ランドニッポン」6系(野菜)研究成果トピック 影響.2004年度日本土壌微生物学会講演要旨集: ス集:19 52 244) 山口博隆、曽根一純、沖村誠、荒木陽一 (2003) 233) 浦嶋泰文、中嶋美幸、金田哲、村上敏文、堀兼 イチゴの抗酸化成 明(2005)キノンプロファイル法による有機物連 の評価.園学雑.72 (別2): 482 用圃場の土壌微生物群集構造解析.日本土壌微生 245) 大和陽一(2003)葉ネギの葉先枯れ症対応に苦 物学会2005年度名古屋大会講演要旨集:52 心.テクノイノベーション.13⑶:52 234) 浦嶋泰文、中嶋美幸、金田哲、村上敏文 (2005) 246) 山崎博子、矢野孝喜、長菅香織、山崎篤 (2004) 22 ネギの げつを促進する外部要因の探索 1.株 ホウレンソウのセル成型苗移植栽培における抽だ 間、施肥条件および育苗条件の影響.園学雑.73 い特性.園学雑.73(別2):192 (別2):180 257) 吉田祐子、福永亜矢子、熊倉裕 247) 山崎博子、矢野孝喜、長菅香織、山崎篤 (2006) ネギの 、藤原隆広、 亀野貞(2005)ホウレンソウのアスコルビン酸含 げつを促進する外部要因の探索 2.ジ 量および ベレリン処理の影響.園学雑.75 (別1) :(発表 ポリフェノール含量の遮光除去後の変 動.園学雑.74(別1):136 予定) 258) 吉田祐子、藤原隆広、熊倉裕 248) 矢ノ口幸夫、村山敏(2004)短節間ミニトマト 、亀野貞 (2005) ホウレンソウのセル成型苗移植栽培における抽だ 系統の長期どり栽培における作業特性.長野県園 い要因.園学雑.74(別2):185 芸研究会第35回研究発表講演要旨:56-57 259) 吉田祐子、藤原隆広、熊倉裕 (2005)ホウレ 249) 屋代幹雄(2005)ネギセル成型苗の省力かつ大 ンソウのセル成型苗を用いた移植栽培における栽 量育苗・移植システム.プロジェクト研究「ブラ 培時期別抽だい特性.近畿中国四国農研.6:57- ンドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス 61 集:28 260) 由比進、岡本潔、片岡園、伊藤博孝、津布楽洋 250) 安井翔、高橋正樹、橋本篤、亀岡孝治、川頭洋 和、細井克敏(2005)色素リコペンを多く含むト 一、杉山慶太(2004)色彩画像解析によるニンジ マト品種を作る.プロジェクト研究「ブランドニ ンのカロテン含量の推定.育種学研究.6 (別2): ッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集:3- 254 4 251) 吉田 実、門馬信二、 永啓、佐藤隆徳、齊藤 猛雄、坂田好輝(2003)青枯病・半枯病複合抵抗 Ⅸ 性のナス台木用固定品種候補 ナス安濃2号 .平 1)「とまと中間母本農10号」 (品種登録出願第17319 成14年度野菜茶業研究成果情報:5-6 特許取得・申請 号)石内傳治、矢ノ口幸夫、藤野雅 252) Yoshida, T., M atsunaga, H., Saito, T., 内海敏子、沖村誠、由比進、川頭洋一、片岡園、 Yamada, T., Saito, A. (2004) Verticillium wilt 永啓(2004) 2) トマト「KGM 051」品種登録出願済(2006.3. resistance and cytoplasmic male sterility in progenies of eggplant rootstook 、石井孝典、 10)伊藤博孝、細井克敏、由比進、片岡園、岡本 variety, 潔、 永啓 Taibyo VF . XIIth EUCARPIA Meeting on 3)「画像解析を利用した植物体の色素含有量の定 Genetics and Breeding of Capsicum & Eggplant:97 量方法」(特開2005-315877)杉山慶太、亀岡孝治、 253) Yoshida, T., Monma, S., Matsunaga, H., 橋本篤、川頭洋一 Sakata, Y., Sato, T., Saito, T., Saito, A., 4) ばれいしょ「北海91号」命名登録申請予定 (2006) Yamada, T. (2004) New rootstook Eggplant 森元幸、小林晃、高田明子、津田昌吾、高田憲和、 Ano 2 with highly resistance to bacterial wilt 梅村芳樹、木村鉄也、百田洋二、串田篤彦、植原 人 and fusarium wilt. XIIth EUCARPIA Meeting 5) ばれいしょ「西海31号」品種登録出願予定 (2006) on Genetics and Breeding of Capsicum & Eggplant:98 254) 吉田 中尾敬、向島信洋、森一幸、石橋祐二、田宮誠司 実(2004)青枯病・半枯病複合抵抗性の 6)「高リン含量の馬鈴 澱 を用いた食品」 (特願 ナス台木用固定品種 台三郎 の育成.農業技術. 2003-323004)野田高弘、山内宏昭、遠藤千絵、瀧 59:501-506 川重信、森元幸、津田昌吾、斉藤勝一、小田有二 255) 吉田祐子、福永亜矢子、熊倉裕 、藤原隆広 7)「風味、 食感の改善された馬鈴 食品素材とそれ (2004)ホウレンソウの抗酸化活性に及ぼす夏期 を用いた食品」 (特願2004-353077)瀧川重信、山 の遮光と紙マルチの影響.園学雑.73 (別1) :120 内宏昭、遠藤千絵、野田高弘、金善州 256) 吉田祐子、藤原隆広、熊倉裕 、亀野貞 (2004) 8) タマネギ「月 22号」命名登録申請予定(2006) 23 室崇人、野口裕司、森下昌三、杉山慶太、近藤友 海道農業研究センター 宏、榑沼安壽彦、大野幸広 高田明子 、森元幸、小林晃、津田昌吾、遠藤千絵 、 9) タマネギ「SRG-12」 (F1系統「月 22号」の親 野田高宏、山内宏昭、野口裕司、室崇人 、森下昌 系統として)命名登録申請予定(2006)室崇人、 三、杉山慶太、瀧川重信 、石井現相 野口裕司、森下昌三、杉山慶太 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構東 10) なす農林台3号「台三郎」命名登録 門馬信二、 吉田 実、 北農業研究センター 永啓、坂田好輝、佐藤隆徳、齊藤猛 由比進 、 雄(2003) 永啓、片岡園 、岡本潔、山崎博子 、 長菅香織、矢野孝喜、山崎篤、浦嶋泰文 、中嶋美 11) ネギ「湘南一本」(品種登録出願第18118号)北 幸、金田哲、村上敏文、石井孝典、藤野雅 宜裕、河田隆弘、野路稔(2005) 、矢 ノ口幸夫、石内傳治、内海敏子、 永啓、沖村誠、 12) カボチャ「北海1号」品種登録出願予定(2006) 川頭洋一 森下昌三、伊藤喜三男、野口裕司、杉山慶太、室 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構近 崇人 畿中国四国農業研究センター 13) カボチャ「TC2A」品種登録出願予定(2006)森 熊倉裕 、福永亜矢子 、吉田祐子、藤原隆広、須 下昌三、伊藤喜三男、野口裕司、杉山慶太、室崇 賀有子 、堀兼明、池田順一 人、渡邉春彦、早坂良晴、浜田佳子 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構九 14)「トマト安濃10号」中間母本登録申請予定 (2006) 州沖縄農業研究センター 永啓、斎藤新、吉田 実、齊藤猛雄、門馬信二、 曽根一純 、沖村誠、大和陽一、壇和弘 佐藤隆徳、山田朋宏 独立行政法人農業環境研究所 15)ニンジン「シロムタルカス」 (品種登録出願第 阿江教治、杉山恵 17819号)岸田英三、大原良寛(タキイ種苗株式会 独立行政法人食品 合研究所 社) (2004) 矢部希見子 、濱 16)「バイオミネラル含有物の製造法および有機養 独立行政法人森林 合研究所 液栽培法」(特願2005-309250)篠原信、上原洋一、 関谷敦 河野真人、岩切浩文 国立大学法人東京農工大学 17)「植物栽培用誘引装置」(特願2005-349083)黒崎 秀仁、大森弘美、河野真人、 潮香 豊田剛己 山敏夫 国立大学法人静岡大学 河岸洋和 Ⅹ 研究担当者 :中課題のとりまとめ責任者、 国立大学法人神戸大学 :執筆者> 1 阿江教治 、 康増進型高品質野菜開発チーム 国立大学法人三重大学 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構野 安井翔、橋本篤、亀岡孝治 菜茶業研究所 萩原廣 東洋大学 、永田雅靖 、杉山慶太、野口裕司 、川 頭洋一、東尾久雄 、広兼久子、吉田 本真悟 藤村真 実、斎藤新 、 神奈川県農業技術センター 齊藤猛雄、山田朋宏 、伊藤秀和 、堀江秀樹、畠 北宣裕 、河田隆弘、衣巻巧、高柳りか、深山陽子、 山勝徳 、石田正彦、鈴木徹、佐藤隆徳、吉秋斎、 藤原俊六郎、渡邊清二、岡本昌広、山田裕 佐藤文生、徳田進一 、浦上敦子 富山県農業技術センター 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構中 央農業 梅林智美 、金森 合研究センター 京都府農業 草場敬 、三浦憲蔵、森泉美穂子、渕山律子、木村 夫、北田幹夫 合研究所 中沢尚 、樫本紀博、橋本典久 武 、石岡厳、渋谷加代子 京都府農業資源研究センター 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構北 南山泰宏 、稲葉幸司、古谷規行 24 大阪府立食とみどりの 合技術センター 石井雅久 、奥島里美、森山英樹、佐瀬勘紀 鈴木敏正、 博美、森下正博、磯部武志 、森川信 国立大学法人千葉大学 也 後藤英司 、石神靖弘 広島県立農業技術センター 東海大学 川口岳芳 、房尾一宏、重本直樹 、渡邊弥生、甲 村浩之、 星岳彦 、山本泰隆、林真紀夫 下修司、塩田俊 北海道立花・野菜技術センター 長崎県 合農林試験場 杉山裕 、田中静幸、長尾明宣、中野雅章 中尾敬、向島信洋、森一幸、田宮誠司 岩手県農業研究センター 熊本県農業研究センター 高橋昭喜 、佐藤(根田)美和子、折坂光臣、目時 古閑三恵 、森田敏雅 梨佳、茂市修平、高橋修 財団法人日本土壌協会 秋田県農業試験場 仲谷紀男 、古畑哲、井町玲子、猪股敏郎 武田悟 、本庄求、加賀屋博行、田口多喜子 カゴメ株式会社 茨城県農業 伊藤博孝 、津布楽洋和、細井克敏 合センター 宮城慎 、冨田 夫、金子賢一、鈴木雅人、高津康 正 2 低コスト・省力型野菜開発チーム 群馬県農業技術センター 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構野 金井幸男 菜茶業研究所 小島昭夫 新潟県農業 、小原隆由 、杉山充啓、坂田好輝、斎 合研究所 笠原敏夫、阿部正行、谷内田学 、高岡裕樹 藤新 、吉田 実、齊藤猛雄、山田朋宏、川嶋浩樹 、 富山県農業技術センター 高市益行 、渡邉慎一、中野有加、佐々木英和、鈴 西畑秀次、林保則、金森 木徹、石田正彦、畠山勝徳、亀野貞、佐藤隆徳、 二、北田幹夫、布目光勇 吉秋斎 、岡田邦彦、生駒泰基、村上 二 、塚本 石川県農業 夫、向井和正、 本浩 合研究センター 証子、塚崎光、山下謙一郎、若生忠幸 、今田茂雄、 橋本尚、清水恵美、西村康平、増田大祐、福岡信 壇和弘、萩森学、本多一郎 、福田真知子、古谷茂 之 、 本淳 貴 、荒木陽一、鈴木克己 、河崎靖、篠原信 、黒 長野県野菜花き試験場 崎秀仁 、大森弘美 金子博、小 和彦 、鈴木尚俊、土屋宣明、臼井冨 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構北 太、小澤智美、塚田元尚 海道農業研究センター 長野県中信農業試験場 森下昌三、野口裕司、室崇人、杉山慶太 矢ノ口幸夫、村山敏、 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構東 岐阜県中山間農業技術研究所 北農業研究センター 鈴木隆志 、野村康弘 屋代幹雄 、安場 一郎、 尾 太郎、山崎篤 、 愛知県農業 矢野孝喜 合試験場 大川浩司、矢部和則、小出隆子 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構近 兵庫県立農林水産技術 畿中国四国農業研究センター 藤原隆広 、熊倉裕 永啓 時枝茂行、小 、吉田祐子、池田敬 、山崎 福岡県農業 敬亮、浜本浩 合センター 正紀、竹川昌宏 合試験場 森山友幸 、井手治、龍勝利、奥幸一郎 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構九 沖縄県農業試験場 州沖縄農業研究センター 坂本守章、計良貴子、棚原尚哉、川上光男 、和田 壇和弘 、大和陽一、沖村誠 、曽根一純、北谷恵 美由紀、田場奏美 美 株式会社渡辺採種場 独立行政法人農業工学研究所 渡辺春彦 、早坂良晴、浜田佳子 25 株式会社サカタのタネ 勝又憲一 、岩本辰也、加藤祐介 、赤 開始された農林水産省の委託プロジェクト研究であ 浜 豊和 る「国産野菜の持続的生産技術の開発」を組みかえ ホトニクス株式会社 たもので、実際は4年にわたって実施された。 野崎 、鈴木誠司、神谷昭文、杉江正美 その結果、品種開発ではカロテノイド含量が高い タキイ種苗株式会社 「高リコペントマト」、アントシアニンを多く含む 岸田英三、門田伸彦 「有色ジャガイモ」、機械収穫に適したニンジン品 社団法人日本施設園芸協会 種、地域特産野菜では神奈川「湘南ネギ」、広島「ヒ 石内傳治、米澤博行 ロシマナ」の高品質生産技術、有機質資材利用では 株式会社誠和 渋谷和男、新堀 「有機物施用の機能解明とその利用」、省力化では 二、後藤格士 「ネギセル成型苗の省力かつ大量育苗・移植システ ム」等の数多くの研究成果が得られている。これら 取りまとめ責任者あとがき の成果には直ぐに野菜の生産現場で活用できるも 野菜の自給率は平成初期までは90%以上であった の、生産現場での利用にはもう少し時間を要するも が、その後の輸入量の増加に伴って減少を続け、平 の、さらには基礎的なものもあるが、今後の我が国 成15年度は82%にまで落ち込んでいる。このような の持続的な野菜生産に有用なものと確信している。 輸入量の増加に対抗して国産野菜の持続的生産に有 最後に、本研究の推進に当たりご指導・ご尽力頂 効な技術開発を行うため、新鮮でおいしい「ブラン いた農林水産技術会議事務局、研究を担当し推進さ ド・ニッポン」農産物提供のための 合研究(6系 れた方々に対し深謝の意を表するとともに、成果の 野菜)は、研究期間が平成15年度から17年度までの 普及に向けた担当者による 3年間の予定で始められた。元来、本プロジェクト る。 研究は、平成14年度から研究期間が3年間の予定で なるご尽力をお願いす (主査:門馬 信二) 26 第1編 第1章 1 康増進型高品質野菜開発チーム 高カロテノイド含有野菜品種の育成と品質評価技術の開発 高カロテノイド野菜の迅速判別法の開発 計算式を導いた。 ア 研究目的 市販の輸入野菜に簡易 野菜の潜在能力を活用し、国際化に対応した魅力 析法を適用した。 ウ 研究結果 ある野菜を生産するため、野菜の機能性成 のひと トマト果実の主要な色素は、 クロロフィルa、 つであるカロテノイド含量の簡易・迅速測定技術を b、リコペン、β-カロテンおよびルテインである。 開発する。 このうち、クロロフィルa、b、リコペン、β-カロ これまでに、我々は、トマト果実に含まれるクロ ロフィルおよびカロテノイドの同時簡 テンの4成 について、濃度と吸光度の関係式を立 定量法を開 て、逆行列を求めることにより、吸光度から各色素 発してきた 。この原理を発展させて、トマト、ニン の濃度を求める式を導いた。さらに、HPLC による ジン、ホウレンソウおよびカボチャに適用するとと 析値との差を補正する係数を求めて、リコペンお もに、多点数の試料の HPLC による 析値で補正す よび β-カロテンの濃度を精度良く推定可能な計算 ることにより、さらに高精度なカロテノイド簡易定 式が得られた(式1、2)。 量法の開発を目ざした。 ニンジン(普通種)の主要な色素は、α-カロ イ 研究方法 テン、β-カロテンで、少量のルテインを含んでいた。 トマト果実に含まれる主要な色素は、クロロ このうち、α-カロテン、β-カロテンの2成 につい フィルa、b、リコペン、β-カロテンで、それぞれ て、上記と同様の手順で、α-カロテン、β-カロテン 663、645、505、453nm に吸収極大を持つ。各色素の および カロテノイドの濃度を精度良く推定可能な 濃度と、これらの波長における吸光度との関係式を 計算式が得られた(式3−5) 。一方、金時系のニ 導き、その逆行列を用いて、各波長の吸光度から、 ンジンの主要な色素は、リコペンと β-カロテンで、 各色素の濃度を計算することができる。今回、トマ それぞれの濃度を精度良く推定可能な計算式も得ら ト「桃太郎」の熟度の異なる試料を用いて、アセト れた(式6、7) 。このうち、β-カロテン濃度につい ン抽出液の可視吸収スペクトルを測定し、逆行列式 ては、根色が赤色ではない未熟な試料は、推定式か で濃度を計算するとともに、同じサンプルを HPLC ら外れることが明らかで、計算から除外する必要が で 析して、計算値が HPLC による 析値に近似す ある。さらに、普通種と金時系のニンジンのデータ るように補正係数を定め、リコペンおよび β-カロテ を併せて検討した結果、両方の試料に共通して適用 ンの濃度推定式を作成した。 可能な計算式も得られた(詳細は省略)。 ニンジン(普通種)は、収穫時期の異なる ホウレンソウの主要な色素は、クロロフィル 「向陽2号」「黒田五寸」「秀紅」「ベーターリッチ」 a、クロロフィルb、β-カロテンおよびキサントフ を用いた。アセトン抽出液の可視スペクトルを測定 ィル類であった。カロテノイド簡易定量法の開発に するとともに、HPLC で定量 あたっては、まず、クロロフィルa、クロロフィル 析してデータ解析 を行って、濃度推定式を導いた。金時系のニンジン bおよび β-カロテンの3成 については、 早生金時 の手順で計算式を導いた結果、β-カロテン濃度を精 本紅金時 を用いて検討を 行った。さらに、普通種と金時系の両方に共通して について、上記と同様 度良く推定可能な計算式が得られた(式8) 。 適用可能な計算式についても検討した。 カボチャの主要なカロテノイドは、 ルテイン、 ホウレンソウは、「アイクル」および「おか α-クリプトキサンチン、α-カロテン、β-カロテン め」を用い、上記と同様の手順で計算式を導いた。 で、品種により含量とパターンが大きく異なった。 カボチャは、「味みね」「白菊座」「白爵」お カボチャについては、 よび育成中の系統94を用いて、上記と同様の手順で カロテノイド濃度を精度良 く推定可能な計算式が得られた(式9)。 27 米国産ミニキャロットに含まれる α-カロテ エ ンは3150μg/100g、β-カロテンは2130μg/100g、中国 察 この研究では、長年、クロロフィルa、bの 産冷凍ホウレンソウに含まれる β-カロテンは、4070 定量に用いられてきたマッキニー法の原理を発展さ μg/100g、トンガ産カボチャに含まれる せ、HPLC の実測値で補正することにより、多少の カロテノ イドは、12,900μg/100g であった。 不純物が混入している場合にも高い推定精度の計算 式を得ることができるよう改良を加えた。 トマトに含まれるカロテノイドの推定式と HPLC この一連の研究結果により、他の野菜、果実 析値との相関係数 類に含まれる色素の簡易定量法の開発につながる新 リコペン (mg/L)(r=0.992) たな実験モデルを作ることができたものと えてい =−0.58xOD663+2.56xOD645+4.67xOD505− る。 1.01xOD453−0.16 式1 この方法では、従来 HPLC で1点約40 程度 β-カロテン (mg/L)(r=0.809) かかって 離・定量していたカロテノイドの含量を、 =0.26xOD663−1.47xOD645−0.37xOD505+0.55 xOD453+0.03 光光度計による測定と計算により数 式2 以内でめる ことができるため、育種、栽培や品質管理の現場な どでの 析にも向いていると えられ、国産野菜の ニンジン(普通種)に含まれるカロテノイドの推定 高品質化を通して、輸入野菜対策に貢献できるもの 式と HPLC と期待している。 析値との相関係数 β−カロテン (mg/L)(r=0.967) =5.4xOD492−1.9xOD443−0.7 オ 今後の課題 式3 ニンジンの α-カロテンの β-カロテンの簡易 別 α−カロテン(mg/L)(r=0.972) 定量については、これまでに例が無く、オリジナル =−6.3xOD492+4.9xOD475+2.2xOD443−0.4 性が高いので、論文化を急ぎたい。また、国産野菜 式4 振興の観点から日本語による成果の普及にも努める カロテノイド(mg/L)(r=0.991) =4.3xOD475−0.6 必要がある。 式5 カ 要 約 野菜に含まれるカロテノイド色素の含量を、アセ 金時系ニンジンに含まれるカロテノイドの推定式と HPLC トン抽出物の吸光度から簡易に精度良く定量可能な 析値との相関係数 方法を開発した。測定可能な項目は、トマト果実に リコペン (mg/L)(r=0.995) =−0.942xOD453+4.48xOD505−0.200 含まれるリコペン、β-カロテン、ニンジン (普通種) 式6 に含まれる β-カロテン、α-カロテンおよび β−カロテン (mg/L)(r=0.953) =3.38xOD453−2.44xOD505−0.04 カロ テノイド、金時系ニンジンに含まれるリコペン、β式7 カロテン、ホウレンソウに含まれる β-カロテン、カ ボチャに含まれる カロテノイドである。 ホウレンソウに含まれるカロテノイドの推定式と HPLC キ 文 献 析値との相関係数 1) 永田雅靖、山下市二(1992)トマト果実に含ま β−カロテン (mg/L)(r=0.992) れるクロロフィルおよびカロテノイドの同時,簡 =0.86xOD479−0.33xOD645+0.04xOD663− 0.004 定量法.日本食品工業学会誌.39 :925-928 式8 2) 永田雅靖ら(2004)ニンジンのカロテノイド簡 易 別定量法.日本食品科学工学会第51回大会講 カボチャに含まれるカロテノイドの推定式と HPLC 演集:94 析値との相関係数 3) 永田雅靖ら(2004)ホウレンソウに含まれる β- カロテノイド (mg/L)(r=0.986) カロテンの簡 =2.264xOD475−1.622xOD645+0.265xOD663− 0.103 定量法.園学雑.73(別2):239 担当研究者(永田雅靖 ) 式9 28 2 高リコペントマト系統の育成と栽培条件等によ 育成系統との間の試 F 統組み合わせを雨よけ栽 る変動要因の解明 培して、特性を調査した。 特性検定試験および系統 ア 研究目的 適応性検定試験> トマトに含まれる色素リコペンは、 康増進に効 「農10号」と「桃太郎」を14時間日長で温度の 果が高い機能性物質である。しかしながら、現在国 異なる人工気象室で栽培し、リコペン含量を調査し 内で生食用に用いられているトマト品種は、リコペ た。 リコペン含量に及ぼす温度の影響> ン含量の低いものが大部 を占めている。そこで、 ウ 研究結果 リコペン含量の高いトマト系統を育成して、その特 F 世代において、高リコペンと低リコペンの 性や遺伝性を調査し、中間母本登録を目指す。また、 個体が1:3に合致する 得られたトマト系統について、環境条件 (特に温度) この結果から、「農10号」の高リコペン性は、1個の によるリコペン含量の変動を明らかにする。 劣性遺伝子に支配されると推定された。 イ 研究方法 離比を示した(表1-1)。 2004年の試験結果によると、 「農10号」 の収量 「とまと中間母本農10号(以下、農10号)」の は、標準品種である「桃太郎」とほぼ同等で、 配 高リコペン形質の遺伝様式を調べる目的で、両親と 親である「Mo16411、M anapal」より多かった。た 雑種後代を供試した。 遺伝様式の解明> だし、裂果が多く、糖度が低く、食味が「桃太郎」 「農10号」など東北農研の育成系統とカゴメの よりやや劣った(表1-2)。3年間の結果から、本系 表1-1 「とまと中間母本農10号」のリコペン含量の遺伝(2003年秋作) 表1-2 高リコペントマトの特性検定および系統適応性検定試験(2004年夏作) 29 統は実用栽培向けの品種ではなく、支柱栽培用の高 がら「農10号」は昼夜温20-13℃といった低温下で既 リコペントマト育成のための中間母本として登録さ 存の生食用トマトと比較して高いリコペン含量を示 れた。カゴメ育成の親との F 試 系統の中では、 し、十 に着色していることが観察された。このた 「KCo02-28、KCo02-115」などの特性が優れ、有望 め、本系統のような高リコペントマトは、抑制作型 な組み合わせと えられた。 など低温下で栽培される場合に高い利用価値が生ま 「農10号」は、昼夜温20-13℃、同25-18℃区、 れると えられる。 同30-23℃区のいずれにおいても、「桃太郎」より高 オ 今後の課題 いリコペン含量を示した(図1-1)。しかしながら、 「農10号」などを用いた F 組み合わせ検定を 昼間の温度が高い35-23℃においては、「農10号」の 実施し、有望な実用品種育成を試みる。 リコペン含量は2.5mg/100gFW と、30-23℃区と比 従来から指摘されている通り、高リコペン性 較して大きく低下しており、対照の「桃太郎」より を持たせることによる晩生化や茎葉のもろさなど 低かった。以上より、「農10号」のリコペン含量は、 は、「農10号」においても認められる。高リコペン系 昼温が高い場合にはかなり低くなるものの、これ以 統の利用を促進させるためには、これらの欠点の克 外では「桃太郎」のリコペン含量が大きく低下する 服が必要である。 低い温度域を含めて、高い値を維持していることが カ 要 約 明らかになった。 エ 高リコペン性を持つ非心止まり型の「とまと 察 中間母本農10号」を育成した。 「農10号」の高リコペン性は、主に1個の主働 本系統の高リコペン性は、1個の劣性遺伝子 遺伝子に支配されることから、この形質を実用品種 育成に利用するのは比較的簡単であると に支配されることを明らかにした。 えられ 本系統の高リコペン性は低い温度域でも発揮 る。ただし、この遺伝子は劣性であるため、実用的 されることから、抑制栽培などトマトの着色不良が な F 品種を育成するためには高リコペン性を持っ 問題化しやすい作型において、利用価値が高いと た両親同士の えられた。 配組み合わせとする必要がある。 「農10号」は果実品質などの実用面においてさ らに改良が必要であるが、試 本系統を用いた F 組み合わせ検定の中から、 F の中には「KCo02 食味などの優れた有望な F が見いだされている。 -115」などのように食味の優れるものも出てきてお 担当研究者(由比 り、F 品種の親に直接利用できる可能性がある。 ノ口幸夫、片岡 園、石内傳治、内海敏子、 トマトは、一般に低温期に栽培されるとリコ 啓、沖村 進 、石井孝典、藤野雅 、矢 永 誠、川頭洋一) ペン含量が減って着色不良に陥りやすい。しかしな 3 高リコペン生食用トマト品種の育成 ア 研究目的 野菜に含まれる成 の生理機能に関する研究で は、カロテノイド色素のひとつであるリコペンが生 活習慣病の予防に効果的であることが多く報告され ている 。リコペン含量の高い生食用トマト品種を 開発することで、生鮮野菜流通の国際化に対応し得 る価値を国産トマトに付与するとともに、生食用ト マト市場の活性化を図る。 イ 研究方法 高リコペントマト品種の最適養液濃度の検討 a 評価品種「Kc02-115」 、「Kc02-30」 、 「こく みトマト」 (対照、カゴメ市場導入品種) 図1-1 トマトの生育温度とリコペン含量 b 養液濃度(表1-3) (2003∼2004年、単位はmg/100g FW ) 30 表1-3 試験に用いた養液の濃度 「Kc02-115」は尻腐れ果の発生が比較的少な かった(図1-3)。 e いずれの供試品種も養液濃度が濃くなるに 従いリコペン含量が高くなる傾向が認められ た。また「Kc02-30」および「Kc02-115」のリ c 耕種概要 定植日:2005年5月17日、収穫 コペン含量はいずれの濃度区においても目標 期間:7月12日∼8月26日 d 評価項目 値であ る10mg/100gFW 以 上の 値を示した 収量性および内容品質(リコペ (図1-4)。 ン含量、Brix) f いずれの供試品種も養液濃度が濃くなるに 高リコペントマト品種の長期栽培適性の評価 従い Brix が高くなる傾向が認められたが、 試験 Ⅰ区とⅡ区の差は小さかった(図1-5)。 a 評価品種「Kc02-115」、「Kc02-30」 、「こく g 以上の結果から、高リコペン品種「Kc02- みトマト」(対照、カゴメ市場導入品種) b 養液濃度 研究方法 の濃度区 30」および「Kc02-115」の養液濃度は収量性 Ⅱに準じ が良好で、高リコペン含量が期待できるⅡ区 た。 c 耕種概要 が最も適していると判断した。 定植日:2005年4月26日、収穫 高リコペントマト品種の長期栽培適性の評価 期間:5月30日∼10月31日) d 評価項目 収量性および内容品質(リコペ ン含量、Brix)の推移 ウ 研究結果 高リコペントマト品種の最適養液濃度の検討 a 良果収量が最も高い区は「Kc02-30」およ び「こくみトマト」がⅡ区∼Ⅲ 区、「Kc02115」がⅡ区であった(図1-2)。 b 最も収量の高い区で比較すると、 「Kc02-30」 図1-3 養液濃度と良果収量および不良果の比率 および「Kc02-115」はそれぞれこくみトマト の約70%および80%の値であった(図1-2)。 c 「Kc02-115」およびこくみトマトは養液濃 度が濃くなるに従い平 果重が小さくなり、 特に「Kc02-115」は濃度区による差が大き かった。「Kc02-30」は濃度区による平 果 重の差は小さかった(図1-2)。 d 「Kc02-30」およびこくみトマトはⅢ区お 図1-4 養液濃度とリコペン含量 よ び Ⅳ 区 で 尻 腐 れ 果 の 発 生 が 多 か っ た。 図1-2 養液濃度と良果収量および平 果重 図1-5 養液濃度とBrix 31 試験 ら、リコペン含量が目標値である10mg %以上を示 a 良果収量は「Kc02-115」がこくみトマト し、栽培適性に優れ、生食用に適した Kc02-115を市 の76%、「Kc02-30」が51% の 値 で あ っ た 場導入品種として選定した。 (図1-6)。 キ 文 献 b 「Kc02-30」および「Kc02-115」は共にリ 1) 石黒幸雄、坂本秀樹(1999)野菜の色には理由 コペン含量が目 標 値の10mg % 以上 を推移 がある.毎日新聞社 し、長期栽培においても高いリコペン発現能 担当研究者(伊藤博孝 、細井克敏、津布楽洋和) 力が確認された(図1-7)。 c Brix はこくみトマトよりもやや低めであ 4 るが、実用レベルと判断した(図1-7)。 高カロテン含有ニンジン品種の選定と素材系統 エ の開発 察 ア 研究目的 以上の結果から収量性が比較的良好で、安定的に ニンジンには機能性物質として注目されているカ 高いリコペン含量を示す「Kc02-115」を市場導入 ロテンが多く含まれているが、ジュース等の加工用 品種として最終選定した。「Kc02-115」はカゴメ市 途の増大や消費者の 場導入品種であるこくみトマトと比較して収量性が 有のさらに高い品種が望まれている。そこで、市販 やや劣るが、栽培方法の再検討により実用導入は可 品種からカロテン含量の高い品種を選定するととも 能と判断した。 に、含量が標準品種「向陽2号」の2倍以上の系統 オ 今後の課題 康志向などから、カロテン含 を作出する。また、高含有系統育成を効率化する迅 「Kc02-115」については、カゴメ(株)と(独)農 速で簡易な選抜法を開発するとともに、高カロテン 業・生物系特定産業技術研究機構との共同で品種登 ニンジンの安定供給に資するため、その季節変動を 録出願を実施する(2005年度中に出願予定) 。 明らかにする。 カ 要 約 イ 研究方法 カゴメ(株)と東北農業研究センターが保有する 2003年から2005年の3カ年において、春播栽 高リコペン親品種を評価し、リコペン発現能力に優 培で市販品種( べ99品種)からの高カロテン含有 れた親品種を選抜した。それらの F1 雑品種の中か 品種の選定を行った。カロテン含量は αおよび βカ ロテンの合計値とした。 根の断面をデジタルカメラで撮影し、その色 彩情報とカロテン含量との関係を調査し、育成途中 の集団を用いて、色相値と彩度値による一次選抜の 効果を検証した。 2002年に高カロテン含有系統育成を目的とし た 配を行い、根色・形態およびカロテン含量によ る個体選抜と自殖を繰り返した。 カロテン含量の季節変動を明らかにするた 図1-6 長期栽培における良果収量の推移 め、毎月播種を行い約95日後に収穫し、カロテン含 量を調査した。 ウ 研究結果 2005年度の春播き栽培の結果では「KAM A 、 「夕紅五寸」、 「紅晴五寸」、 「千浜五寸」、 「カロ F」 テンキング」、「ベーター312」 、および「ベーターリ ッチ」のカロテン含量が高く、ほとんどの品種が秋 播き栽培においても高い値を示した(図1-8) 。秋播 図1-7 長期栽培におけるリコペン含量およびBrixの き栽培では「T-466」の含量が高かった。研究期間 推移 32 図1-8 カロテン含量の品種間差異(2005年) 中に供試した 表1-4 高カロテン選定品種の標準品種(向陽2号) べ99品種のうち、複数年にわたり標 対比割合 準品種「向陽2号」と同等以上のカロテン含量を示 した品種は「千浜五寸」、 「カロチンキャロット」、 「カ ロチンキング」および「ベーターリッチ」の4品種 であったが、平 で標準品種の2割り増しには達し なかった(表1-4) 。 一定条件下で、肩から3/4の部位のニンジン切 片の断面をデジタルカメラで撮影、RAW 形式で保 ンジン選抜の可能性が示された 存し(図1-9)、画像データから算出した色相値およ 値を変化させ、選抜割合を低下させることにより、 び彩度値と、切片のカロテン含量との間には有意な 選抜差は大きくなった。(表1-5)。 相関関係が認められ、画像解析による高カロテンニ 。彩度と色相の閾 2002年に高カロテン含有系統育成を目的とし 表1-5 選抜割合の設定と高カロテン含有個体割合および選抜差との関係 図1-9 画像解析のための撮影方法 33 た 配を行い21組合せの F から、根色・形態および カロテン含量により14組合せ45個体を選抜した。 2003年に選抜個体の自殖による F (45系統)から 2002年と同様にして25個体を選抜した。2004年に選 抜個体の自殖による F (25系統)から2002年と同様 にして12系統(40個体)を選抜した。選抜した12系 統は「向陽2号」の2倍∼5倍のカロテン含量を示 した(図1-10)。2005年には選抜系統毎に集団 配し て F M を採種した。 αカロテン含量は播種期が遅くなるにつれ てカロテン含量が低下する(図1-11)のに対し、βカ ロテン含量は7月から8月播種区にかけてわずかに 図1-12 βカロテン含量の季節変動(2005年) 増加したが、播種期による変化が少なかった(図1- 播種95日後収穫、垂直線は標準誤差(n=3) 12) 。 エ 察 ジュースなどの加工用途には不充 であると 既存の高カロテン含有品種は、一般消費者へ の付加価値を持つものと えら れることから、標準品種の2倍以上の高カロテン含 えられる。しかし、その 有系統育成の必要性が再認識された。 含量は標準品種「向陽二号」の2割り増しに留まり、 目的の選抜割合になるよう最適な彩度と色相 の閾値を設定して一次選抜することにより、高カロ テン含有個体の割合を高め、高速液体クロマトグラ フィーによる選抜を効率よく行うことができ、大幅 なコストと 析時間の削減が可能になると えられ る。 得られた F M についてカロテン含量による 集団選抜を数回行い、系統としての確立を図ること により、標準品種の2倍以上のカロテンを含有する 系統の育成が期待できる。 播種期が遅くなるにつれて カロテン含量が 図1-10 選抜系統のカロテン含量 根長の肩から3/4の部位の1cm厚切片による測定結果 低下することを明らかとした が、その低下は βカ 垂直線は標準誤差(系統によりn=1∼8) ロテン含量の変化が少ないのに対し、αカロテン含 量が低下するためであった。一般的にニンジンには αカロテンよりも βカロテンが多く含まれるとさ れているが、春播き栽培では αカロテン含量の方が 高くなることを明らかとした。この結果、αおよび βカロテンそれぞれが持つ異なる機能性を目的とし た新たな利用の可能性が示された。 オ 今後の課題 なし。 画像データから簡 な色彩情報の抽出方法の 開発。 高カロテン含有系統の実用形質の評価。 αおよび βカロテン含量変動要因の解明。 図1-11 αカロテン含量の季節変動(2005年) 播種95日後収穫、垂直線は標準誤差(n=3) 34 カ 要 約 キ 文 献 標準品種「向陽2号」と同等以上のカロテン 1) 杉山慶太ら(2004)高カロテン含有ニンジンの 含量を示した品種は「千浜五寸」、「カロチンキャロ 効率的な選抜法の検討.園学雑.73(別2):186 ット」 、「カロチンキング」および「ベーターリッチ」 の4品種であり、平 2) 安井翔ら(2004)色彩画像解析によるニンジン で標準品種の2割り増しには のカロテン含量の推定.育種学研究.6(別2): 達しなかった。 254 ニンジンを輪切りにした断面をデジタルカメ 3) 杉山慶太(2004)ニンジンのカロテンと選抜法. ラで撮影し、画像データから得られる色相値が低く、 平成16年度課題別研究会「ニンジンの育種と栄 彩度値が高い個体を抽出することにより、高カロテ 養・機能性に関する諸問題」 .野菜茶業研究所:40 ン含有個体割合を高めるとともに集団を縮小するこ -47 とができる。本手法によって、HPLC を用いた選抜 4) Hashimoto, A., et al. (2005) Simple and を効率よく行うことができ、大幅なコストと 析時 Rapid Determination of Carotene Content in 間の削減が可能になる。 Carrots by Color Image Analysis Using a Digi- 高カロテン含有系統育成を目的とした 配を tal Camera. Proceedings of 7th International 行い、 「向陽2号」 の2倍∼5倍のカロテン含量を示 Symposium on Fruit, Nut, and Vegetable Pro- す12系統を選抜し、選抜系統毎に集団 duction Engineering. 配して F M を採種した。 5) 杉山慶太、川頭洋一(2003)ニンジンにおける 播種期が遅くなるにつれカロテン含量は低下 カロテン含量の季節変動.園学雑.72 (別2):192 した。その理由は βカロテン含量の変化が少ないの 担当研究者(杉山慶太、野口裕司 、川頭洋一、安 に対し、αカロテン含量が低下するためであった。 井翔(三重大学)、橋本篤(三重大学)、亀岡孝治 (三重大学)) 35 第2章 1 高フラボノイド含有野菜品種の育成と品質評価・制御技術の開発 フラボノイド等の栄養・機能性成 の簡易・簡 外線フィルターを装備した簡易紫外線写真撮影装置 な評価手法の開発 を構築する。 ア 研究目的 高速液体クロマトグラフィーを用いて各サンプル 生体調節機能を有する機能性成 として知られる のフラボノール含有量を測定し、写真結果とフラボ フラボノイド類は野菜や果実類に多く含まれてい ノール含量の関係を確認する。 る。フラボノイド類の中でもアントシアニンは可視 蛍光観察によるフラボノールの検出法 光領域に吸収を持つため紫や赤の色を示し、その存 植物色素は古来より染料として利用されてきてお 在を目で判断できる。一方、フラボノール類は360nm り、黄色タマネギの外皮が含むフラボノール、ケル 近傍の長波長紫外光領域に吸収をもつため、高濃度 セチンは媒染剤のミョウバン(硫酸アルミニウムカ に存在する際には黄色を呈するが、目による検出感 リウム)と反応させ、繊維を黄色に染める(媒染法) 度は極めて低い。そこで、野菜に含まれるフラボノ ために利用されてきた 。また、ケルセチンが蛍光を イド類を 示すことも報告されている。そこで、種々の金属イ 光光度計を用いずに簡 かつ高感度に検 出できる方法を開発することが目的である。 オン、特にミョウバン液と、ケルセチンを含んだタ 本研究では、フラボノールの吸収特性を利用した マネギ抽出液を混合し、色調の変化、蛍光性の変化 紫外線(UV)写真法 と、ミョウバンなどの媒染 を観察する。 剤を利用した 蛍光検出法 に着目し、野菜が含む フラボノールについて簡易・簡 フラボノール濃度やミョウバンの濃度を変えて混 な検出法の開発を 合し、溶液のまま観察したり、薄層プレートやろ紙 検討した。 などの上に混合液をスポットして、濡れたまま、ま イ 研究方法 たは乾燥後、紫外光下で蛍光強度の変化を観察する。 紫外線写真法を利用したフラボノールの検出 ウ 研究結果 と定量 非破壊法:黄色タマネギや赤タマネギの鱗葉 紫外線写真は長波長紫外光領域の光を利用して撮 を外側から紫外光写真で撮影すると、表皮に局在す 影する映像技術であり、紫外線透過レンズと可視光 るフラボノールが紫外光を吸収し、紫外線写真上で を遮断する紫外線フィルターを装備した写カメラを 黒い像となった(写真1-1)。一方、裏側(内側)は 用いる 。そこで、フラボノール含量の異なる種々の フラボノールがないため白い像となった。フラボノ タマネギを紫外線写真で撮影し、フラボノールの非 イドを含まない白タマネギではいずれの側も白い像 破壊検出法を検討する。 となった。したがって、紫外線写真上の濃淡を見る 溶液中のフラボノール検出にも紫外線写真を利用 ことによって、抽出操作することなくフラボノール するため、タマネギからフラボノールを抽出し、抽 の局在が検出できた。なお、ポラロイド写真を用い 出液をマイクロタイタープレートやチューブなど ても類似の写真が得られ、現場での利用が可能とな 種々の容器に入れて紫外線写真を撮影する。また、 った 一滴の抽出液を撮影し条件を検討することによっ 。 抽出法:フラボノールが局在せず、また他の成 て、フラボノール含量の微量検出法を検討する。 が混在する野菜の場合には、野菜の抽出液を紫外線 濃度の異なるフラボノール標準液(濃度の定規) 写真で撮影するほうがより簡 な場合がある。そこ を作成し、サンプルと一緒に撮影することによって、 で野菜抽出液を直接、紫外線写真で撮影した(写真 紫外線写真によるフラボノール濃度定量システムを 1-2)。その際、種々の濃度のフラボノール標準液を 構築する。 作り、標準液と一緒に撮影することで、野菜のフラ 撮影の簡易化のため、ポラロイドフィルム及び紫 ボノール含量を見積もることができた。さらに、抽 出液一滴(100μl)を紫外線写真で撮影してもフラボ :動物衛生研究所と北海道農業研究センターとの協力に ノールの検出が可能であることが確認された よる。 。 試験管に入ったタマネギ抽出液に種々の濃度 :北海道農業研究センターとの協力による。 36 写真1-1 タマネギの紫外線写真と可視光写真 タマネギを縦に半 に切って、内側の鱗葉を剥がして開いて台の上に置き、上部から紫外光(UV写真)また は可視光(通常の写真)を照射し写真撮影した。White keeper(白タマネギ)(左)、北早生3号(黄タマネ ギ) (中央)、月 22号(赤タマネギ) (右) 。 写真1-2 小チューブまたは1滴を撮影した紫外線写真 種々の濃度のフラボノール溶液が入った小チューブ(左) 種々の品種のタマネギ抽出液(中央) ビニールシートに滴下したタマネギ抽出液(右) のミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)液を加 え、試験管の外側から長波長紫外光で照射した場合、 顕著な色の変化及び蛍光は観察されなかった。 一方、 黄色タマネギの横断面にミョウバン液を塗り、色の 変化を観察してもわずかに黄色が増したが、明瞭な 変化は観察されなかった。しかし、ミョウバン液を 塗ったタマネギ断面をろ紙に押し付け、ろ紙をぬれ たまま直接観察すると黄色の色素が見え、紫外線照 写真1-3 タマネギのフラボノールの蛍光 射下では弱い蛍光が観察された。しかし、そのろ紙 断面のミョウバン処理後、ろ紙に押し付け液をしみこ を乾燥後、再度観察すると極めて強い黄色の蛍光が ませ、ろ紙を乾燥した後、蛍光写真(左)と自然光写 観察された(写真1-3)。また、種々の濃度のフラボ 真(右)を撮影した。 ノール抽出液と2%ミョウバン液を1:1に混合 後、3 μl をろ紙上にスポットし乾燥すると、60ng 以 エ 察 上のフラボノールがあれば明瞭に蛍光が見えること 野菜が含むフラボノイド類の検出には紫外線 が観察された。さらに、スポットに うろ紙やフィ 写真が極めて有効であることが明らかとなった。ま ルターについて検討したところ、完全にバックグラ た、ポラロイドカメラを利用した簡易撮影も可能と ウンドをなくすためにはニトロセルロースフィルタ なった。これらの方法によって、野菜をまるごと、 ーが優れているが、3 MM のろ紙でも安定した結果 またはカットして、または抽出することで、その場 が得られることが確認された(写真1-4)。 でフラボノールの検出が可能である。 ミョウバン添加後乾燥し蛍光観察することに 37 講演要旨集 5) 矢部希見子(2005)「ブランドニッポン6系・野 菜」研究成果発表会ポスター発表 6) 矢部希見子(2005)プロジェクト研究「ブラン ドニッポン」6系(野菜)研究成果トピックス集: 21 担当研究者(矢部希見子 、濱 潮香) 写真1-4 フラボノールの蛍光観察 タマネギ抽出液単独(上) 2 タマネギとミョウバン液の混合 (デジカメによる撮影) 赤系アントシアンを高含有するジャガイモ品種 の育成 ア 研究目的 よって、高感度にフラボノールを検出できるように 赤∼紫の色素であるアントシアニンは植物界に広 なった。 く存在し、食品に彩りを添えるばかりでなく抗酸化 オ 今後の課題 性などの機能性を有するが、pH 条件や加熱等に対 紫外線写真法を野菜の育成や品質評価の現場 で利用するには、装置の し不安定である。近年育成された赤や紫肉のジャガ なる軽量化とフラボノー イモには、比較的安定性が高い赤系の色素を含むも ルの標準物質の供給が必要と思われる。 のがあるが、既存品種は色素量が少ない上に栽培・ ミョウバン添加、不添加、また乾燥の前後に 利用上の実用性に劣る。本研究は、赤系アントシア おける蛍光特性の変化について、科学的裏づけのデ ニン(R-AN)を高含有し、栽培・利用特性を改良し ータを揃えるためには、各条件での蛍光スペクトル た品種を育成することを目的とする。 の解析が必要である。 イ 研究方法 ジャガイモ等で蛍光検出法を試みたが、品種によ 高赤系アントシアン品種有望系統の育成とそ りミョウバンを添加しなくても強い黄色の蛍光を示 の栽培・利用特性評価 すものがあり、ジャガイモに含まれる何らかの成 育成中のアントシアニン含有系統を栽培特性とア がミョウバンと同様な役割をしていると予想され ントシアニン量により選抜、緊急増殖を行い育種年 た。今後、タマネギ以外の種々の野菜についても蛍 限を短縮した。有望系統について生産力検定試験や 光検出の条件を検討し、本法の利用の可能性を広げ 施肥栽植密度反応試験等の栽培特性の評価を行うと る必要がある。 ともに、アントシアニン含量の調査、食味の官能評 カ 要 約 価、ポテトチップ、サラダ、新規用途等の適性評価 紫外線写真を利用して、野菜が含むフラボノ を行った。 ールの非破壊検出法及び抽出液検出法を開発した。 高赤系アントシアニン後続系統の育成 野菜抽出液をミョウバン存在下でろ紙にスポ に赤系アントシアニン含量が高い後続系統の育 ットし乾燥後、蛍光を観察することによって、野菜 成を、 配種子から栄養繁殖性作物の育種方法に従 が含むフラボノールの高感度検出法を開発した。 って行った。初期には主として肉色と内部異常、塊 キ 文 献 茎形成性から、後期には肉色、草型、収量性、アン 1) 安藤義路、矢部希見子(1990)写真で見つける トシアニン含量などにより選抜した。 発癌物質.写真工業.48:43-46 ウ 研究結果 2) 林孝三 編(1988)植物色素:427 高赤系アントシアニン品種有望系統の育成と 3) 矢部希見子(2005)紫外線(UV)写真を利用し その栽培・利用特性評価 た野菜のフラボノール簡易検出法.平成16年度食 品研究成果情報.独立行政法人食品 赤肉既存品種「インカレッド」より栽培特性に優 合研究所: れ、赤系アントシアニンを同程度含有する「ノーザ 46-47 4) 矢部希見子ら(2006)2006年度農芸化学会大会 ンルビー」を育成した (写真1-5、表1-6、図1-13) 。 「ノーザンルビー」の来歴は「キタムラサキ」の放任 38 受 表1-7 調理適性 種子である。「ノーザンルビー」は、「インカレ ッド」に比べて、枯 期が早く、茎長が短く、一個 重が大きく、収量も多く、 にジャガイモシストセ ンチュウ抵抗性を有する (表1-6) 。また、でん 価 が適正であることから、「インカレッド」よりも調理 適性に優れ、油加工を含めた様々な加工品への対応 が可能である (表1-7、写真1-6、写真1-7)。 高赤系アントシアニン後続系統の育成 2002年に5組み合わせ14,224粒を播種し、世代促 進によって育種年限を短縮し、選抜を繰り返した中 から「勝系17号」(2005年度付与)を選抜した。「勝 系17号」の来歴は「インカレッド」×「T9641-8」で ある。 「勝系17号」は「インカレッド」「ノーザンル ビー」 に比べてアントシアニン含量が2∼1.5倍程度 多い(図1-13)。枯 は少なく、でん 期は晩生で、茎長は長いが倒伏 写真1-6 価は「ノーザンルビー」並で、収 量は多い(表1-8) 。また、外観に優れる。一方、シ 写真1-5 ノーザンルビー」のチルド加工品(左)とサ ラダ(右) (平成15年度ばれいしょ加工適性研究会) ノーザンルビー」 (左)と 「インカレッド」 (右) 写真1-7 ポテトチップ試作品 インカレッド」 (左) と「ノーザンルビー」 (右) 表1-6 育成地における生産力検定試験成績 ストセンチュウ抵抗性を持たない。 エ 察 カラフルポテトの需要は徐々に大きくなって おり、「ノーザンルビー」は「インカレッド」よりも 栽培しやすく、調理加工適性も優れるため、今後の 需要増に対応でき、また新しい需要の開拓を担うと えられる。試作した現地において品種化の要望が あり、2005年度に北海道の地域在来品種等として認 表1-8 生産力検定試験成績(2005年度) 図1-13 ノーザンルビー」および「勝系17号」のアン トシアニン含量(2005年度) 39 定され、2006年度に命名登録および種苗法に基づく 担当研究者(高田明子 、森元幸、小林晃、津田省吾) 品種登録申請を行っており、今後の普及が見込まれ る。 3 「勝系17号」 は、品種化までに今後3年程度の 暖地有色ジャガイモ品種の育成 ア 研究目的 栽培試験が必要だが、シストセンチュウ抵抗性を持 国産ジャガイモの需要拡大のために、高機能性が たない、熟期が遅いために適応地帯が限られる等の 期待されるアントシアニンを含み、肉色が紫色、赤 農業特性上の欠点がある。品種化には欠点を上回る 色の個性的性質を持つ、暖地二期作栽培に適したジ 利点として、より高アントシアニンを生かした付加 ャガイモ品種を育成し、一期作産ジャガイモと組み 価値の高い新商品開発が必要と 合わせた周年供給を可能とすることを目的とする。 えられる。高色素 含有母本として利用可能である。 また、赤や紫の肉色が濃い系統や高でん オ 今後の課題 系統など 利用適性の高い系統の育成を図る。 「勝系17号」 にシストセンチュウ抵抗性を付加 イ 研究方法 した栽培特性に優れた高アントシアニン含有品種の 肉色が赤および紫の系統について春作、秋作 育成が必要である。また、天然色素(食品添加物) におけるアントシアニン含有量、栽培特性、病害虫 として利用するには、「勝系17号」のアントシアニン 抵抗性等の調査を実施する。 含量では低いため、さらに高アントシアニン含量の 有望系統については実需者による加工品の試 系統育成が必要である。 カ 要 作と評価を行うとともに、地域適応性試験を実施す 約 る。 既存品種「インカレッド」に比べ、アントシ 高でん アニン含量が同程度で栽培特性が格段に向上した の 「ノーザンルビー」を育成した。命名登録および種 成を図る。 系統や、赤や紫の肉色が濃い系統と 苗法に基づく品種登録申請を行った。 配および選抜を行い、利用適性の高い系統の育 ウ 研究結果 「インカレッド」や「ノーザンルビー」に比べ、 2003年から肉色が赤および紫の6系統につい アントシアニン含量が約2倍多い「勝系17号」を選 て調査を行った。このうち、赤肉系統の「西海31号」 抜した。品種化への試験継続と高色素の母本利用が はアントシアニン含有 量が春作で115mg/100gF. 見込まれる。 W .、秋作で143mg/100gF.W .と調査した系統の中 キ 文 献 では高く(表1-9)、アントシアニンも塊茎全体にほ 1) 森ら(2006)赤皮赤肉で調理適性が優れるばれ ぼ 一に 布する(写真1-8) 。また、出芽が早く、 いしょ新品種候補「北海91号」.平成17年度北海道 生育が良好であり、春作の収量がほぼ「デジマ」並 農業研究成果情報 みで(表1-9)、Lサイズの割合が高く(図1-14) 、で 表1-9 西海31号の試験成績 40 的にはやや いもののポテトチップに対する適性が あると判定された (表1-11)。またフライドポテトに ついてもカットの方法によっては適性が認められ、 油加工適性があると えられる。 2倍体濃赤肉系統「WB902209-1」よりチュー バーディスク培養法により作出した倍加系統 「TD0104」は親系統と比較して少収小粒で、皮色、 肉色ともに赤色が薄くなったが、塊茎の形は良くな った(写真1-10)。なお、倍加系統間では培養変異に よる形質の差は認められなかった。 「TD0104」を 配母本に用いた実生集団の濃赤肉個体の出現率は他 の有色系統を 写真1-8 ん 配母本に用いた実生集団より高くな 西海31号」(左)「デジマ」(右) 価も14.2%と「デジマ」、 「ニシユタカ」よりも 3%程度高い(表1-9)。耐病虫性は全般的に弱いが YウイルスについてはO系統に強、T系統にやや強 の抵抗性を示した(表1-10)。 「西海31号」 のポテトチップ、 フレンチフライ、 サラダなどの加工適性試験を実需者の協力により実 施した。サラダについては色がくすむ、雑味がある など評価が低かったが、ポテトチップについては揚 げた後の赤色が 一で(写真1-9)外観が良く、食感 写真1-9 西海31号」のチップ 表1-11 「西海31号」のポテトチップ加工適性 図1-14 春作での規格別収量 表1-10 耐病虫性 41 31号」を育成し、新品種候補とした。 赤肉系統の 配母本として、雑種後代での濃 赤肉色個体の出現率が高い「TD0104」を育成した。 担当研究者(中尾敬、向島信洋、森一幸、 田宮誠司 ) 4 有色ジャガイモ品種の用途特性の解明と品質制 御技術の開発 ア 研究目的 TD0104(4X) 国内産ジャガイモの需要拡大のためには、新規性 WB90229-1(2X) や高機能性を有する品種の育成とその利用法の開発 写真1-10 倍加処理による形質の変化 が必要である。本研究では、アントシアニンを高含 った(表1-12) 。「TD0104」を母本とした 配後代か 有し、肉色が紫・赤色の有色ジャガイモの暖地産品 ら「長系129号」を選抜し特性を調査中である。 エ 種・系統について、北海道産品種と同様な用途とし 察 て利用できるように品質特性等を明らかにし、北海 「西海31号」 はアントシアニンを含む赤肉系統 道産を補完して周年供給が可能な新規用途開発に資 で生育が良く、春作の収量も「デジマ」並であり、 することを目的とした。 油加工適性があることから、1期作産ジャガイモと イ 研究方法 組み合わせた周年供給を可能とする品種になると 長崎産の有色品種・系統:「長系114号」、 「長 えられることから、新品種候補とすることとした。 系122号」、「西海31号」を、北海道産の品種・系統: 2倍体濃赤肉系統「WB902209-1」の倍加系 「キタムラサキ」、 「シャドークイーン」、 「インカレッ 統「TD0104」は親系統よりも赤色が薄くなったが、 ド」、「ノーザンルビー」等を用いた。 形状などが改善されており、また、 配母本とした 生イモ中の成 として糖、遊離アミノ酸、グ 場合の雑種後代での濃赤色の個体の出現率が高くな リコアルカロイド量等を解析、また塊茎よりでん ることから、 配親として利用できると を単離してその特性を解析した。 えられる。 オ 今後の課題 アントシアニン色素の特性として塊茎内の局 「西海31号」 はシストセンチュウ抵抗性を持た 在性を解析、また生育期間の夜間温度を20℃/10℃ ないため、発生地域での栽培が難しい。このため、 の2種設定し、色素集積量を比較解析した。 シストセンチュウ抵抗性など耐病虫性を改善した系 暖地産、北海道産ともに同じ用途での利用法 統を育成する必要がある。 を検討した。秋収穫の北海道産有色ジャガイモを貯 紫肉では収量性の点などから西海番号を付け 蔵して、翌春に暖地春作産ジャガイモで引き継ぎ翌 るほど有望な系統を育成できなかった。さらに収量 秋までこれを利用することを前提に、各加工法ごと 性を改善した系統の選抜を進める必要がある。 にその特性を調べた。 カ 要 約 ウ 研究結果 アントシアニンを生いも100g 当たり100mg 遠藤らは、ジャガイモを低温貯蔵すると糖含 以上含有し、生育が良く、油加工適性がある、 「西海 量が増加、増加パターンは品種により3タイプに 類できると報告した 。本研究で用いた有色ジャガ 表1-12 有色系統と次世代の肉色 離 イモにおいても、収穫直後は糖含量はトータルで4 mg/g 生重量以下と低いが、4℃貯蔵では増加が見 られた(表1-13) 。「長系114号」は、「インカのめざ め」と同様の「ショ糖増加型」を示すことがわかっ た。これら増加した糖含量は、18℃4週間のリコン ディショニング処理により減少させることができ 42 表1-13 有色ジャガイモ品種・系統の糖含量の変化 た。 主要な遊離アミノ酸はいずれの品種・系統に おいても白肉品種と同様、アスパラギン、グルタミ ン、グルタミン酸、アスパラギン酸がこの順の量で 含まれることがわかった。グリコアルカロイド量は 「シャドークイーン」、長系122号で10mg/100g 生重 量以上であったが、それ以外は低かった。 ジャガイモの単離でん 田らは、でん 写真1-11 有色品種塊茎内の色素の局在性 の特性について、野 塊茎より薄切片を切り出し光学顕微鏡で観察。維管束 結合性リン含量の高い「高リン型の 環内側の柔組織部位。 でん 」を持つ品種の存在を報告している 。有色品 種・系統の単離でん は、長崎産、北海道産いずれ に反映していると示唆された。また、紫系のイモで もピーク粘度が高く、リン含量が1000ppm を超える は有色細胞の色調が主要の赤紫以外に青紫の2種類 高リン型であることがわかった(表1-14) 。 あることがわかった(写真1-11)。 塊茎内の色素の局在性は、紫、赤系イモいず 紫系イモの組織薄切片を pH の異なる低張緩 れも維管束環外側および内側の柔組織部位で、液胞 衝液で処理したところ、pH11では青、pH6では紫、 内に色素を含まない無色の細胞と有色細胞とがキメ pH2では赤と色調が変化した(写真1-12)。これらか ラ状に存在することがわかった(写真1-11)。有色細 ら組織内の2種の色調の存在は、液胞内の pH の違 胞の色の濃さは、 「長系114号」=「122号」=「シ いなどが一因と えられた。 ャドークィーン」>「インカパープル」>「キタム 「93080-4」 (紫:ペタニン)では、生育期間の ラサキ」の順で濃いが、有色細胞の数は、「シャド 夜間温度が低い(10℃)方が色素集積量が高かった ークィーン」>「長系114号」=「122号」>「イン が、「ノーザンルビー」(赤:ペラニン)では逆の傾 カパープル」=「キタムラサキ」の順で多いなど、 向が見られ、色素によって温度に対する反応に違い 品種・系統間差があり、これらのことが色素量の差 があることが推測された。 北海道産ともに暖地産有色ジャガイモにおい 表1-14 有色ジャガイモ品種・系統の単離でん の特性 ても、ボイル、グリルなどの通常調理、チップ、サ ラダ、レトルトなどの加工調理が同様に行えること が示された。また、洋菓子などへの加工では、酸性 ∼中性側の加工法では赤から紫に発色し、系統によ り色調に差が見られ(写真1-13)、卵黄等を添加した アルカリ側では緑がかった発色となることがわかっ た。秋収穫の北海道産を貯蔵して、翌春に暖地春作 産で引き継ぎ翌秋までこれを利用する場合、特に低 43 写真1-12 異なるpH下での液胞内アントシアニン (ペタニン:紫)の色調の違い 「93080-4」の組織薄切片をA:pH11、B:pH6、 C:pH2の低張緩衝液下で観察。 温貯蔵で糖含量が増加するので(表1-13)、油加工で ン型」 (脂質代謝改善効果を持つとされる)であるこ は製品の色を良好に保つためにリコンディショニン となど、白肉品種と比べ機能性成 を多く含んでお グ処理による糖の減少が必要となり、ボイル、グリ り、有色ジャガイモの需要拡大にアピールできる特 ル、洋菓子などでは収穫直後のイモに砂糖、スキム 性を持つことがわかった。 ミルクなど調味料を利用して味を整える必要がある 有色ジャガイモは白肉品種と同様、低温貯蔵 ことがわかった(表1-15)。 エ により糖含量が増加する特性があり、増加した糖を 察 生かすなど、両産地のイモで同様の加工利用法が可 北海道産、暖地産有色ジャガイモともに、生 イモ中の成 能であることがわかった。しかし、周年を通して利 はほぼ類似しており、抗酸化性、抗イ 用する場合は、減耗・腐敗・萌芽等の抑制の点から ンフルエンザ活性を持つとされるアントシアニン色 低温貯蔵が好ましいが、加工法によっては増加した 素に加え、でん 糖に対する処置が必要であることがわかった。 は、結合性リン含量の高い「高リ アントシアニンは塊茎細胞の液胞内に集積す るが、色素を含む有色細胞と無色の細胞とがキメラ 状に存在、その局在性が品種・系統間で異なり色素 量の差に反映していると示唆された。また、生育期 間中の夜間温度の色素集積量への影響については、 ペタニンとペラニンで異なっており、両アントシア ニンの集積メカニズムについてはさらに解析する必 要があると えられた。 オ 今後の課題 今後は、高カロチノイド系品種系統も含めて、カ 写真1-13 酸∼中性側での菓子作成例 上段左より 「シャドークィーン」 、「長系122号」、 「長系 ラフルポテトの食風味や機能性、貯蔵特性等を明ら 114号」 、「愛系109号」。 かにし、 新規利用技術の開発研究を行う予定である。 カ 要 約 下段左より 「ノーザンルビー」、「西海31号」、 「愛系114 北海道産、暖地産有色ジャガイモともに、生 号」。 表1-15 有色系統を貯蔵し周年利用する場合 44 イモ中の成 はほぼ類似しており、アントシアニン 色素に加え、でん 行い、特定の、もしくは複数の機能性成 は、結合性リン含量の高い「高 い高機能性一代雑種系統を育成する。機能性成 リン型」であることなど、白肉品種と比べ機能性成 の 評価は前述に拠る。 を多く含んでおり、有色ジャガイモの需要拡大に 高機能性素材系統の開発 アピールできる特性を持つことがわかった。 機能性成 有色ジャガイモは白肉品種と同様、低温貯蔵 含量の高い品種・系統個体の自殖を行 い、より機能性の高い素材系統を育成する。機能性 により糖含量が増加する特性があり、増加した糖を 成 生かすなど、北海道産、暖地産のイモで同様の加工 の評価は前述に拠る。 高機能性早期選抜法の開発 利用法が可能であることがわかった。 生育期間中における機能性成 アントシアニンは塊茎細胞の液胞内に集積す 評価など、育種に 即した早期個体選抜手法を開発する。 るが、有色細胞と無色細胞とがキメラ状に存在、そ ウ 研究結果 の局在性が品種・系統間で異なり色素量の差に反映 「クエルリッチ」は既存市販品種に比べ、2003 していると示唆された。 キ 文 含量の高 年はケルセチンを約21%多く含み、揮発性含硫化合 献 物生成量も約24%多かった。2004年および2005年も 1) 遠藤ら(2002)Changes in sugar content and 傾向に変化はなく、「クエルリッチ」の機能性成 含 activity of vacuolar acid invertase during low- 量は年次(図1-15)および栽培地(図1-16)を問わ temperature storage of potato tubers from six ず相対的に安定していた。 Japanese cultivars. J. Plant Res. 117:131-137 親 系 統 の ケ ル セ チ ン 含 量 は、花 2) 野田ら(2004)Properties of starches from 親では 「K9047」が、種子親では「W 404A」が高い値を示 potato varieties grown in Hokkaido. J. Appl. した。また、複数の試 系統を用いた解析では、種 Glycosci. 51:241-246 子親、花 親ともに、ケルセチン含量の高い親ほど 担当研究者(遠藤千絵 、野田高弘、瀧川重信、山内 高い後代が得られる傾向が認められた。一方、揮発 宏昭) 性含硫化合物生成量は、花 親「W 202A」や「U4026 -7」などが高い値を示したものの、試 5 高機能性タマネギ品種の育成 系統を用い た解析では親系統との間に一定の関係が認められな ア 研究目的 かった。また、試 系統の中からは既存品種の揮発 近年、タマネギの輸入量は急増しており、輸入品 性含硫化合物生成量を大きく上回る系統は得られな に対抗するため競争力のある品種育成が切望されて かった。 いる。タマネギに含まれる機能性成 含量を高めた 品種を育成することにより、付加価値の高いタマネ ギ生産に貢献する。 イ 研究方法 クエルリッチ(月 22号)」の機能性成 含量 の調査 ケルセチン含量は、細断した試料を80%メタノー ル中で抽出し、HPLC (検出波長360nm)における3 種類のケルセチン合計量で表した。揮発性含硫化合 物生成量は、細断した試料をジエチルエーテル中で 抽出し、GC を用いて主要なスルフィド類の内部標 準(α-テルピネオール)に対するピーク面積割合の 合計値で表した。 高機能性一代雑種系統の開発 既存親系統を用いて高機能性の期待できる 配を 図1-15 市販品種のケルセチン含量 45 に混和、 一化が図られ、再現性のある測定値を 示すことが明らかとなった。さらに、 用いた 析値と HPLC の 光光度計を 析値とは高い相関を示 した。続いて早期選抜を目的に、生育期間中の機能 性成 含量の変化を調査した。揮発性含硫化合物生 成量は球肥大の開始とともに上昇するが、球肥大が 旺盛になるにつれて減少し、茎葉の倒伏が始まるこ ろに一時的に安定するものの、それ以降減少傾向と なり収穫に至った。生育期間中の揮発性含硫化合物 生成量には、明確な品種間差異は認められなかった 図1-16 栽培地によるケルセチン含量の変動 高ケルセチンを目的とした花 親系統組み合 わせ能力検定において、「クエルリッチ」以上の含 量を 示し た のは「HFTX0403」と「HFTX0405」 であった。高揮発性含硫化合物を目的とした花 との組合せでは、 親 ての組合せが「クエルリッチ」 以上の生成量を示した(図1-17)。 ケルセチン 析の簡易化を目的に 析手法を 検討した。細断にフードプロセッサーの 用を検討 した結果、調理カッターでサンプルを5 mm 角以下 図1-18 生育期間中の揮発性含硫化合物生成量の に細断することで、複数個体からのサンプルでも十 図1-17 試験 経時的変化 配系統のケルセチン含量、揮発性含硫化合物生成量および一球重(2004年10月8日調査) 1) 揮発性硫化合物生成量はDipropyl disulfide、Propyl cis-l-propenyl disulfide、Propyl trans-l-propenyl disulfide、Dipropyl trisulfide、Propyl l-propenyl trisulfideの内部標準対比ピーク面積割合合計値 2) 1球重の垂直線は標準誤差 46 (図1-18)。他方、ケルセチン含量は肥大の開始とと 他方、系統の早期選抜については、揮発性含硫化 もに減少するが、茎葉が倒伏に至ると上昇に転じ、 合物生成量は生育期間中に明確な品種間差異が認め 以降上昇傾向のまま収穫となった。ケルセチン含量 られず、ケルセチン含量は生育期間中の含量と球の には生育期間を通じて明確な品種間差異が認められ 含量との間に一定の関係が認められないことから、 た。 難しいと えられた。 エ 察 オ 今後の課題 「クエルリッチ」は、機能性成 を高含有す 「クエルリッチ」の特性を生かした取り組み る品種として特性を生かした利用が期待されること による、地域ブランドの確立 から、新品種命名登録した。 開発された高機能性一代雑種系統「W 404A/ 揮発性含硫化合物生成量は、親系統と 雑後 K9047」の特性評価 代系統との間に一定の関係が認められないことか 高機能性素材系統の固定および組み合わせ ら、これを育成目標とした品種の育成は困難である と 配 えられた。一方、ケルセチン含量は、親系統と 次世代の採種が可能となるようなサンプリン 雑系統の間に正の相関が認められることから、親 グならびに評価法の確立 系統を選抜することで、高ケルセチン F1系統が育成 カ 要 約 できることが示された。また、ケルセチンを高含有 既存品種の中ではケルセチン含量が最も多 する親系統間の一代雑種系統「W 404A/ K9047」 く、主要スルフィド類の生成量も多い「クエルリッ は、2004年および2005年の結果、「クエルリッチ」 チ」を育成した。 よりも高いケルセチン含量を示したため、高ケルセ 「クエルリッチ」よりもケルセチンを高含有 チン系統として選抜した。 機能性成 する「W 404A/ K9047」を開発した。 含 量 と 一 球 重 に 基 づ い て、 慣行法に比べ作業性が大幅に向上し、作業時 「SLB3」、「Com1」、「ZR1」および「WE5」の4系統 間が短縮されるケルセチン簡易評価法を開発した。 を選抜した。選抜系統2005年度に採種し、自殖後代 担当研究者(野口裕司、室 崇人 、杉山慶太) および 配系統を得た。 調理カッターを用いることでサンプルの 一 化が図られ、再現性のある測定値を示すことと 光 6 収穫後の紫外線照射による高機能性野菜作出技 術の開発 光度計と HPLC の測定値が高い相関を示すことか ア 研究目的 ら、一連の作業をタマネギのケルセチン含量簡易評 農産物の流通が国際化する中で、わが国における 価法として確立した(図1-19) 。簡易評価法を用いる 野菜産地の維持・発展させる方策の1つとして、消 ことで慣行法に比べ(図1-19)に示すような利点があ 費者の関心が強い野菜の生理機能を高める生産・流 る。 通技術の開発が求められている。この為、タマネギ 鱗茎のケルセチン、イチゴ果実のアントシアニン、 葉ネギ中のビタミンC等の含量倍増を目標に、植物 が紫外線に対して示す生理反応を積極的に活用し、 これらの成 含量を高める紫外線処理技術を開発す る。また、紫外線照射法が栄養価・食味に及ぼす影 響を明らかにし、実用化を目指す。 イ 研究方法 イチゴ果実はつくば研究拠点でハウス栽培 し、1月から4月に白熟期以降の着色程度の異なる 10∼20g の「とよのか」、「さちのか」、「とちおとめ」 図1-19 および「女峰」を一斉収穫して試験に供試した。タ 光光度計を用いたケルセチン含量簡易 マネギは慣行により栽培した「ソニック」、 「ターボ」 、 評価法 47 「ラッキー」、「猩々赤」、「紅秀玉」に加え、北海道農 業研究センターで栽培された「トヨヒラ」 、「月 22 号」、 「Dr.ヘルシー」、 「スーパー北もみじ」、 「北早生 3号」 、「猩々赤」を供試した。また、葉ネギはガラ ス室で水耕栽培した「小春」、 「小夏」を 用した。 アントシアニンの抽出液はイチゴ果実を日表 面と日裏面に2 割し、別々に細断した後、5%ギ 酸溶液にて浸漬、1晩室温暗所に放置し、濾過して 得た。そして、溶液の530nm における吸光度を測定 し、単位重量当たりに換算してアントシアニン含量 図1-20 イチゴ果実の着色に及ぼす紫外線蛍光 とした。タマネギのケルセチン含量は80%メタノー ルを加え、酸加水 ランプ照射の影響 解後に濾過した溶液を高速液体 クロマトグラフにより 1)紫外線照射:高さ10cm直上より24時間 離、定量した。アスコルビ 2)処理1日後に着色程度を評価 ン酸含量は RQ フレックスで測定した。 3)品種「女峰」 市販の3種類の紫外線蛍光ランプ(20W 、4 連)を って、イチゴ果実の日裏面に対して直上よ り照射した。また赤色光の影響を調べるため、市販 の蛍光ランプ4種類を同様に処理するとともに、紫 外線カットフィルムを 用し、紫外線単独の影響を 評価した。タマネギに対する紫外線ランプの照射は 厚さ1 cm のスライスを調製後、折半し、ラップした 切片の両面に対し20℃下で照射処理し、処理後も 20℃暗黒条件で保管した。葉ネギに対する紫外線の 照射は両面より照射後、根部のみポリ包装し、同様 に20℃の暗所に保管した。 ウ 研究結果 イチゴ果実の着色には、温度だけでなく光環 境条件も影響し、光環境条件の中では紫外線の照射 で着色が促進されることが知られている 。そこで、 市販の紫外線蛍光ランプを収穫後のイチゴ果実に照 射し、果実の着色に及ぼす紫外線の効果を調べた。 写真1-14 ブラックライトを24時間照射した その結果、紫外線の UV-C 領域を放射する殺菌灯や UV-B 領域を放射する イチゴ果実 康線用蛍光ランプでは、着 1)処理開始2日後 色促進効果は見られず、UV-A 領域の紫外線を放射 2)品種「さちのか」 するブラックライトの照射でイチゴ果実の着色が促 進されることを認めた(図1-20)。このブラックライ 色促進効果はイチゴ果実のアントシアニン発現にお トの照射による果実着色促進効果は、果実成熟温度 いて見られなかった。なお、照射時の室温が10℃と の上昇と UV-A 領域の紫外線によるアントシアニ 低くても、紫外線の照射は有効で、処理後に果実が ンの生合成の促進作用によるものであり、着色開始 常温に戻されたり、照射時にポリ袋包装されていた した熟度の果実で大きく、照射時間が長くなるとと り、蛍光灯の紫外線によっても、果実の着色は促進 もに効果が大きく現れた(写真1-14)。しかし、品種 された。ただし、紫外線照射で着色が促進された果 による反応の違いは明確ではなかった。また、他の 実の果肉は 作物で確認されている赤色光との相乗効果による着 とがあった。 48 いものの、糖度が低く、酸味が残るこ タマネギ鱗茎には、植物の紫外線防御物質と えられ、機能性性成 ることで、葉 として注目されているフラ 中のビタミンC含量が増加すること を認めた(図1-22)。 ボノイドの一種であるケルセチンが配糖体として特 エ 察 異的に多く含まれる。このケルセチンは外皮に最も これまでに、温度だけでなく、紫外線がイチゴ果 多く含まれ、食用部でも外側鱗片で含量が高い 。こ 実の着色に関与していることが明らかにされ、実用 のため、タマネギに対する紫外線処理は剥皮後にス 場面を想定した果実の着色促進方法として、反転時 ライスした切片に照射することとした。また、タマ 期やマルチフィルムとエアーマットを組み合わせて ネギは収穫後に休眠に入り、生理活性が低くなるこ 着色を促進する技術が開発されている 。今回、市販 とから、収穫後から休眠覚醒、出芽期に至るタマネ の3種類紫外線蛍光ランプを ギについて紫外線処理効果を調べた。その結果、休 影響を調べることで、イチゴ果実の着色促進に UV- 眠覚醒に伴い UV-A 領域の紫外線を放射するブラ A 領域の紫外線のみが促進的に作用することを確 ックライトの照射でケルセチン含量が増加すること 認した。また、実用化に向け、ブラックライトによ を認めた(図1-21) 。なお、この場合も、イチゴ果実 る処理条件を明らかにした。イチゴ果実は生産現場 と同様に処理時間が長くなるほど効果は大きく、処 においては、低温期の着色促進のため「玉回し」等 理後の時間経過とともにケルセチン含量が増加し の管理作業が行われたり、低温期でも着色良好な品 た。また、カット処理直後に処理した方が有効であ 種を育成することでこの問題の解決に向けた取り組 ることを認めた。 みが行われている。また、イチゴ果実は成熟させる って、詳細に紫外線の 緑黄色野菜にはビタミンCが多く含まれる。 と果実が傷みやすくなる問題もある。これらの場面 そこで、葉ネギのビタミンC含量に対する紫外線照 で、本研究を通じて得られた成果が役立つと思われ 射の影響について検討した。その結果、殺菌蛍光ラ る。タマネギのケルセチン含量も、同じく UV-A 領 ンプの照射では、葉 部に葉やけが生じ、ビタミン 域の紫外線を照射することで、増加することを示す C含量は減少した。一方、ブラックライトによる照 ことができた。紫外線の作用特性のため、適用でき 射では照射による障害の発生はなかったものの、含 る範囲が、休眠覚醒期のスライスしたタマネギに限 量の増加作用も見られらかった。しかし、 康線用 定されることが明らかとなったが、高ケルセチン含 蛍光ランプで UV-B 領域の紫外線を短時間照射す 量のタマネギとして育成された品種の特性を強調す る技術として適用場面があると えられる。一方、 葉ネギのビタミンC含量は、UV-B 領域の紫外線照 射で促進された。上述の成 と異なり、作用が異な ることが示唆される。アントシアニンやケルセチン の紫外線照射による含量増加には、ある程度長い処 図1-21 タマネギ鱗茎のケルセチン含量に及ぼす ブラックライト照射の影響 1) 紫外線照射:高さ10cm直上よりスライス両面に 24時間処理 図1-22 葉ネギのアスコルビン酸(ビタミンC)含量に 2)ケルセチン含量は処理1日後に測定し、暗黒に置 かれた半 及ぼす の含量に対する相対値として表示 康線用蛍光ランプの照射の影響 1) 紫外線照射:高さ10cm直上より両面に処理 3) 品種「ターボ」 2)処理1日後に含量を測定 4) ①出芽なし、②2.1cm出芽、③7.7cm出芽 3) 品種「小春」 49 理時間を必要とするが、ビタミンCの場合には、短 も、紫外線の照射は有効で、処理後に果実が常温に 時間の処理が有効に作用する。このため、処理技術 戻されれば、果実の着色は促進される。ただし、紫 としては魅力的であり、さらに影響を調べることで、 外線照射で着色が促進された果実の果肉は いが、 有効な場面が出てくる可能性がある。 糖度や酸度には影響を与えない。 オ 今後の課題 休眠覚醒期にあるタマネギを剥皮し、薄くス 紫外線処理技術の実用化のためには、処理時間の ライスした状態で UV-A 領域の紫外線を照射する 短縮が不可欠である。そのためには、効果的な作用 と、タマネギに多く含まれるケルセチン含量が増加 領域を持ち、放射エネルギー する。 布の狭いランプ開発 が必要である。 カ 要 葉ネギの葉 中のビタミンC含量は 康線用 約 蛍光ランプによる UV-B 領域の紫外線を短時間照 イチゴ果実の着色はブラックライト蛍光ラン 射することで高めることができる。 プによる UV-A 領域の紫外線照射により促進され キ 文 献 る。この場合、品種間差は明確でなかった。また、 1) 東尾久雄(2004)光環境制御による高品質化技 着色し始めた果実で処理効果は大きく、照射時間が 術.野菜茶業研究集報.1:17-22 長いほど促進される。照射時の室温が10℃と低くて 担当研究者(東尾久雄 ) 50 第3章 1 高ビタミン含有野菜品種等の選定・育成と生産技術の開発 高ビタミンC含有イチゴ品種の育成 ポリフェノール含量を 析するとともに、ビタミン ア 研究目的 C 含量、アントシアニン含量およびエラグ酸含量に ビタミンC含量に特徴のある品種を素材として、 ついて 析し、それぞれの含量に対する抗酸化活性 これらの遺伝的制御の可能性を検討し、収穫期間を を算出した。それぞれの 通じて安定してビタミンC含量が高い品種・系統を ニル-2-ピクリルヒドラジル) ラジカル消去活性測定 育成する。そのため、ビタミンCの検定効率を上げ 法、フォーリン・チオカルト法、ヒドラジン法、510 るため、RQ フレックスを用いた簡易検定法を確立 nm 吸光度、HPLC を用いた。 する。さらに、育成された高ビタミンC含有系統に 析には DPPH(1-ジフェ ウ 研究結果 ついて収量性、果実品質、抗酸化活性の評価を行う。 高位安定高ビタミンC含量品種間(「さちの イ 研究方法 か」及び「あかしゃのみつこ」)の実生集団における ビタミンCの遺伝性評価:安定性の高い高含 ビタミンC含量の 布は、正逆 配とも両親より高 有品種間(「さちのか」及び「あかしゃのみつこ」) い側に多くの個体が および低含有品種間(「Cesena」及び「山形2号」) がみとめられた。高位安定低ビタミンC含量品種間 の実生集団を用いて、HPLC によりビタミンC含量 (「Cesena」及び「山形2号」)の実生集団を用いた を調査し、ビタミンC含量に関する遺伝解析を行な 解析では、正逆 い、広義の遺伝率を求めた。さらに、 を 示 し た が、両 親 よ り も けるビタミンC含量の 雑集団にお 布し、量的遺伝子の累積効果 配とも中間親と近似した平 含量 布 範 囲 が 広 く、特 に 散を調査し、組合せ能力を 「Cesena」×「山形2号」の組み合わせでは、両親 高精度(目標精度10%、危険率5%)に評価するた よりも2倍程度高い個体もみとめられた。これらの めに必要な標本数を検討した。 F 集団では両親の平 値近傍の狭い範囲に多くの 育成中の51系統を用いてビタミン C 含量に 個体が 布することから、ビタミンC含量は不完全 ついて、HPLC と RQ フレックスによる簡易検定法 優性で量的遺伝を示し、関与遺伝子数も比較的少数 の比較・評価を行った。また、育成中の59系統を用 であると推測された。さらに、それぞれの組み合わ いて、ビタミンC含量と平 せにおける広義の遺伝率は0.712∼0.888と比較的高 果重、果実品質等との 関係について検討した。 かった(表1-16) 。 2000年に「9505-05」と「さちのか」を 配親 雑集団でのビタミンC含量に関する組合せ とした高ビタミンC含有系統の育成を進め、2004年 能力を高精度(目標精度10%、危険率5%)に評価 に 久 留 米60号 を 育 成 し た。さ ら に、90mg/100 するために必要な標本数は、組み合わせあたり概ね gFW 以上を示す高ビタミンC含有10系統 につい 30個体以上であった。また、HPLC による 析値と て、山口ら の方法により完熟果をメタリン酸およ RQ フレックスによる簡易検定値との間には、相関 び80% MeOH にて抽出し、それぞれメタリン酸画 係数0.953 (n=51)と高い正の相関がみられ、RQ および M eOH 画 における抗酸化活性および 表1-16 さまざまな フレックスによる指示値はビタミンC含量を推定す 配組合せにおけるビタミンC含量の広義の遺伝率 51 る上で十 利用可能であった。 における含量の占める割合が約70%を占めることか ビタミンC含量と平 果重、果実品質等との ら、水溶性ポリフェノール成 関係については、収量、平 果重との間には有意な が推測された(図1-24)。 負の相関が、果実糖度とは有意な正の相関がみとめ エ られた。また、果皮色、酸度、アントシアニン含量、 の寄与度が高いこと 察 ビタミンC含量の遺伝は、不完全優性で量的 果実 度および早晩性等との間には有意な関係はみ 遺伝を示し、広義の遺伝率も比較的高かった。また、 とめられなかった(表1-17)。 ビタミンC含量は収量、平 果重との間には有意な 2000年に促成栽培に適し、ビタミンC含量が 負の相関が、果実糖度とは有意な正の相関がみとめ 高く、果実品質が優れた品種の育成を目的として、 られたことから、果実品質が優れ、なおかつ収量性 炭そ病抵抗性が高いがやや晩生である「9505-05」を が高いビタミンC含有品種の育成は困難と えられ 子房親に、食味が優れ、ビタミンC含量が高く、促 た。しかしながら、 「久留米60号」は果実糖度が高く、 成栽培に適した「さちのか」を花 親として 配を 「とよのか」よりも平 行った。得られた実生について、2001年より選抜試 量も同等確保できたことから、これら形質間の負の 験を重ね、2004年に「さちのか」と比べビタミンC 相関関係の打破は十 含量が安定して高く、栽培管理が容易で、高糖度で 可能と えられた。 さらに、ビタミンC含量の遺伝力は比較的高いこ 食味に優れた「久留米60号」を選抜した。 とから、 育種初期段階で選抜圧を加えることにより、 供試した高ビタミンC含有系統の抗酸化活性 は、「とよのか」対比で平 果重が大きく、なおかつ収 効率的な選抜が可能であり、RQ フレックスによる 2.3倍、1.8∼3.5倍の高 検定効率の向上と実生段階での高精度の組合せ能力 い活性を示し、特にビタミンC含有量の高い「0155 の評価法を用いて、高ビタミンC含有系統間の m07」および「0155m05」は、「とよのか」対比2.8倍 とこれら系統間の循環選抜を行うことにより、より 以上の非常に高い抗酸化活性がみとめられた(図1- 効率的に高ビタミンC含量系統が得られる可能性が 23)。また、抗酸化活性のうちビタミンCおよびアン トシアニン含量に基づく寄与率は平 48%程度であ ったのに対し、エラグ酸含量に基づく寄与率は52% 程度と高く、エラグ酸はイチゴの抗酸化活性にビタ ミンC以上に大きな役割を果たしていることが示唆 された。さらに、高ビタミンC含有系統の ポリフ ェノール含量は、「とよのか」 と比較して平 1.6倍、 1.3∼1.9倍と高く、特に「0155m02」および「久留米 60号」の含有量が高かった。また、メタリン酸画 表1-17 ビタミンC含量と他形質との相関 図1-23 有望系統のDPPH抗酸化活性 図1-24 有望系統の 52 ポリフェノール含量 配 示唆された。 較的高いことから、育種初期段階で選抜圧を加える 本プロジェクトにより育成した高ビタミン C ことにより、効率的な選抜が可能であると えられ 含有系統の抗酸化活性は、「とよのか」対比で平 た。 2.3倍と高い活性を示した。さらに、イチゴの抗酸化 育成した高ビタミンC含有系統の抗酸化活性 活性はエラグ酸の寄与率がビタミンC以上に大きな は、「とよのか」対比で平 役割を果たしていることが示唆された。今後、高機 い活性を示した。さらに、抗酸化活性のうちビタミ 能性イチゴの育成にあたっては、これら成 にも十 ンCおよびアントシアニン含量に基づく寄与率は平 配慮した育種と素材の検索が必要である。 2.3倍、1.8∼3.5倍の高 48%程度であったのに対し、エラグ酸含量に基づ 「久留米60号」は促成栽培に適 し、「とよの く寄与率は52%程度と高く、エラグ酸はイチゴの抗 か」よりやや晩生ではあるが、「とよのか」並みの 酸化活性にビタミンC以上に大きな役割を果たして 収量性とビタミンC含量が収穫期間を通じて安定し いることが示唆された。 て高 く、「と よの か」対比 で 約1.7倍 90∼100mg/ 「久留米60号」は促成栽培に適し、「とよのか」 100gFW を有する。さらに、 ポリフェノール含量 並みの収量性とビタミンC含量が収穫期間を通じて は「とよのか」と比較して約1.8倍 14.0mmolGA/ 安定して高く、「とよのか」対比で約1.7倍 90∼100 gFW と高く、高い抗酸化活性を有することから、高 mg/100gFW 含有する。さらに、 ポリフェノール 付加価値品種としての利用が期待される(表1-18) 。 含量は「とよのか」と比較して約1.8倍 14.0mmol- オ 今後の課題 GA/gFW と高く、高い抗酸化活性を有することか 「久留米60号」の特性検定・系統適応性検定試 ら高付加価値品種としての利用が期待される。 験を実施するとともに、より実用形質の向上した品 キ 文 献 種の育成を進める。 1) 山口博隆、曽根一純、沖村誠、荒木陽一 (2003) 遺伝資源として保存しているイチゴ品種200 イチゴの抗酸化成 品種を用いて、イチゴ果実の抗酸化活性について品 482 種間差異および熟度別の変動特性を調査するととも に、主要な抗酸化成 担当研究者(曽根一純 、沖村誠) であるアスコルビン酸、アン トシアニン、エラグ酸等について、それらの寄与率 2 を明らかにする。 カ 要 の評価.園学雑.72 (別2): ホウレンソウ等の抗酸化活性の変動要因の解明 と制御技術の開発 約 ア 研究目的 イチゴ果実のビタミンC含量の遺伝は、不完 野菜類の 康維持機能に対する消費者の関心が高 全 優 性 で 量 的 遺 伝 を 示 し、広 義 の 遺 伝 率 は まっており、周年的に栽培される軟弱野菜類につい 0.712∼0.888と比較的高かった。ビタミンC含量は ても、栄養成 RQ フレックスによる簡易検定が可能である。高ビ 必要が生じてきている。抗酸化活性を有する代表的 タミンC含有系統を効率的に得るためには、高ビタ な物質の一つであるビタミンC含量についてはホウ ミンC含有系統間の レンソウの周年栽培において季節変動があることが 配が有効であり、遺伝力は比 ・機能性成 表1-18 「久留米60号」の普通促成栽培における収量・果実特性 53 含有量を常に保証する 指摘されているが、抗酸化活性との関係は明らかで はない。そこで、ホウレンソウのビタミンC含量が 夏作でも40mg/100g(現状は30mg/100g 以下)を維 持し、抗酸化活性の年間変動幅を低減できるような プレハーベスト栽培管理技術を開発する。またその 他の抗酸化物質についても調査し、抗酸化物質と抗 酸化活性との関連性に関する知見を得ることを目的 とする。 イ 研究方法 雨よけハウス栽培における作期の異なるホウ 図1-25 作期の異なるホウレンソウの抗酸化活性 レンソウの抗酸化活性を調査した。12月16日∼3月 9日、2月25日∼4月10日、6月30日∼8月12日、 1) 冬作は2/25からハウスサイド開放 10月27日∼12月13日の4作期( 2) 夏作は56%遮光 宜上それぞれを冬 作、春作、夏作、秋作とする)での収穫株を試料と 3) 異なる文字間に危険率5%での有意差あり した。近中四農研野菜部(京都府綾部市)の青野圃 場(細粒褐色低地土)にて、冬、春、夏作は「アク さらに、抗酸化活性は栽培環境や栽培方法によって ティブ」を栽培、秋作は「アトランタ」を用いた。 も変動した。栽植密度84株/m の標準的な栽培と比 また、栽培条件(栽植密度の違い、遮光、冬季二重 較して392株/m の密植栽培での抗酸化活性は2割 被覆)が抗酸化活性および抗酸化物質含量の変動に 程度低く、39株/m の粗植栽培では3割程度高かっ 及ぼす影響を調査した。抗酸化活性は新鮮試料の5 た。夏季遮光の影響については対照区の抗酸化活性 %メタリン酸抽出液について DPPH ラジカル消去 が3.0μmol Trolox 相当 量/gFW であ っ た の に 対 能法により測定した。 し、遮光区では2.1μmol Trolox 相当量/gFW と有 冬・春・夏作の作期および栽培条件(栽植密 意に低く、収穫3∼5日前に遮光を取り除いた遮光 度、遮光処理や紙マルチ、二重被覆の有無や処理変 除去区では対照区と同レベルとなった 。冬季の二 、異なる光量での人工気象室栽培)の異なるホウ 重被覆により4割程度、赤外線透過抑制型フィルム レンソウ「アクティブ」について、抗酸化物質であ によっても約5割低下した。一方、近紫外線透過抑 る β-カロテン、α-トコフェロール(HPLC)、アス 制型フィルムを被覆資材をして用いた影響は小さか コルビン酸(RQ フレックス) 、 ポリフェノール含 った。光量子センサーで測定可能な400∼700nm 波 量(フォーリンチオカルト法)の変動を測定し、抗 長域の光強度(以下光強度)を3段階設けた人工気 酸化活性と抗酸化物質の相関関係を検討した。 象室での栽培においても光強度が弱いほど抗酸化活 ホウレンソウの抗酸化活性低下が生じやすい 性が低かった(図省略)。 夏季の栽培において、慣行的に生育確保の目的で行 作期および栽培条件の異なるホウレンソウの われている遮光処理が、主要な抗酸化物質であるビ 抗酸化活性と抗酸化物質含量との関係を検討したと タミンC含量に及ぼす影響を検討した。 「アクティ ころ、ビタミンC含量との間に高い正の相関があっ ブ」を6月28日に播種し、無遮光区、遮光区、遮光 た(図1-26) 。また、 除去区の3試験区を設けた。7月27日∼8月1日に 活性の間に冬作でr=0.77と高い相関が見られるこ 収穫期(20∼28cm)に達した株を毎日午前9時に収 とがあったものの、 穫し、ビタミンC含量、水 低下する抗酸化活性とは異なり、季節変動が小さく、 含有率を調査した。 ウ 研究結果 冬・春・夏作を 抗酸化活性は作期による変動があり、春・夏 ポリフェノール含量は夏季に 合した場合の相関係数はr=0.23 と低くなった。β-カロテン、α-トコフェロールと抗 作では約3μmol Trolox 相当量/gFW と秋・冬作の 半 ポリフェノール含量と抗酸化 酸化活性との相関関係は小さかった。 近くであった(図1-25)。夏作は苗立ち率や最大 夏季の遮光除去効果について検討したとこ 葉長、 株当たりの生重が他の作期に比べて低かった。 ろ、ビタミンC含量は遮光除去後2日目に50mg/100 54 mg/100gFW であるとされる。ホウレンソウのビタ ミンC含量は夏季に低下する事は藤原ら も確認し ているが、抗酸化活性も夏季に低下することが判明 した。その原因としては温度や日照などの気象条件、 生育速度の変化などが えられる。遮光により抗酸 化活性が低下し、遮光除去により回復したこと 、人 工気象室において光強度が抗酸化活性の変動に関係 していたこと、フィルムを透過する光強度が近紫外 線透過抑制型フィルムより小さかった赤外線透過抑 制型フィルムにおいて抗酸化活性の低下が顕著だっ たことなどから、光強度は重要な変動要因であると 図1-26 抗酸化活性とアスコルビン酸の抗酸化活性 えられた。 含量の相関 ビタミンC含量と抗酸化活性の間に高い相関 1)「アクティブ」冬・春・夏作での被覆資材、栽植密 が見られ、共に春・夏作で低かった。このことから 度、遮光条件の異なる飼料のデータ 夏季のホウレンソウの抗酸化活性低下は、ビタミン 2) 人工気象室は日長10h、昼/夜温:20/15℃ C含量の低下と関係が深いと 光強度を150∼360μmol/m /Sに設定 えられた。各種野菜 類間を比較すると、抗酸化活性はポリフェノール類 (図1-27a) 。遮 gFW 台の無遮光区の値に近づいた の含量と正の相関がある 光除去後には水 リでは抗酸化活性のほぼ全てがビタミンCに由来す 含有率の低下がみられたが、ビタ とされる。一方、ニガウ ミンC含量は乾物当たりでも遮光除去後に増加した るのではないかとする報告 もある。 (図1-27b)。無遮光区では可販株がほとんど得られ ール含量と抗酸化活性は一部 なかったが(6%) 、遮光除去区では生育が確保され、 が、作期を越えた普遍的なものではなかった。この 可販株率40%となった。 ことからホウレンソウの エ 察 五訂食品標準成 ポリフェノ で相関が見られた ポリフェノール含量は抗 酸化活性と同じ要因によって変動する場合もある 表ではホウレンソウの ビ が、抗酸化活性への直接的な影響は小さいのではな タミ ンC 含 量 は 夏 季 に20mg/100gFW 、冬 季 に60 いかと えられた。 図1-27 遮光資材除去後のアスコルビン酸含量の変動 1) 遮光除去後0日目」の朝に調査後、同日夕方遮光資材を除去した。 2) 遮光区、遮光除去区の遮光率は72%。ハウス全体に30%被覆した上で、除去可能な資材(60%)で遮光。 55 夏季はホウレンソウの初期生育の抑制やビタ 5) 津志田ら(1994)各種野菜の抗酸化活性の評価 ミンC含量の低下が起きる。しかし、遮光除去によ および数種の抗酸化成 り、生育を確保しつつビタミンC含量を増加させる 611-618 ことが可能であり、ビタミンC含量40mg/100gFW 6) 山口ら(2004)ニガウリの抗酸化成 の目標値を達成した。ビタミンC含量の遮光除去後 の増加は水 含有率の低下による見かけの増加であ る可能性が えられた。しかし、ビタミンC含量は 担当研究者(福永亜矢子 、吉田祐子、熊倉裕 3 えられた。遮光除去後、ホウレ ンソウは光条件の変 ) ホウレンソウの低シュウ酸栽培技術及び低シュ ウ酸素材系統の開発 に1∼2日で反応し、ビタミ ア 研究目的 ンCの新たな合成もしくは他の物質への代謝の抑制 が起きていると の変動. 九州農業研究.66:218 乾物当たりでも増加がみられたため、物質含量の増 加も起きていると の同定.日食工誌.41: ホウレンソウは栄養豊富な野菜であるが、食味の えられた。 低下や結石の原因となるシュウ酸や発ガン物質生成 オ 今後の課題 のもとになるといわれる硝酸を含んでいるため、こ 抗酸化活性・抗酸化物質含量の変動に関して収穫 れらの低減が望まれている。そこでシュウ酸・硝酸 前の天候による影響、光条件と光以外の条件との相 含量の少ないホウレンソウ系統を育成するための基 互関係の解明が必要である。 礎データを得ることを目的とする。 カ 要 約 イ 研究方法 ホウレンソウの抗酸化活性は夏季に低下し、 春・夏作の平 値は秋・冬作平 選抜を効率化し、葉身・葉柄の大きさの比率 値の56%であった。 によるシュウ酸・硝酸含量の変動を除外するため、 また、光強度の減少を伴う栽培条件では抗酸化活性 葉切片(リーフディスク)によるシュウ酸・硝酸含 の減少が見られた。 量の簡易比較方法を検討した。 ホウレンソウの抗酸化活性とビタミンC含量 気温がシュウ酸・硝酸含量に及ぼす影響を調 との間に高い正の相関がみられ、夏季の抗酸化活性 査した。人工気象室内で、異なった気温区(昼夜温 低下は、ビタミンC含量の低下と関係があると思わ 30-25℃、21-16℃、15-10℃、30-25℃の後15-10℃) れた。 で栽培し、両含量を調査した。調査時の植物体の葉 ホウレンソウは光条件の変 に1∼2日で反 長を揃えるため、 播種後しばらくは全区21-16℃下で 応し、ビタミンC含量は遮光除去後2日目に無遮光 栽培し、その後、区ごとに温度を変え3週間栽培し 区の値に近づいた。遮光除去により、夏季のビタミ た。 ンC含量が増加し、周年的に40mg/100gFW 以上と シュウ酸含量、硝酸含量について、それぞれ する目標値を達成した。 キ 文 数回の選抜を行い、後代のシュウ酸・硝酸含量を調 献 査した。硝酸含量について選抜を行なった系統につ 1) 福永ら(2004)ホウレンソウの抗酸化活性に及 いては、夏期に播種日を変えて3度の調査を行なっ ぼす夏季遮光および冬季二重被覆の影響.土壌肥 た。 料学会講演要旨集.50:106 ウ 研究結果 2) 吉田ら(2005)ホウレンソウのアスコルビン酸 含量および シュウ酸は葉身に多く含まれ、硝酸は葉柄に ポリフェノール含量の遮光除去後の 多く含まれていた。両含量は葉位(外側から1葉、 変動.園学雑.74(別1):136 2葉とする)によって異なり、葉位が上がるに従い 3) 藤原ら(2005)市販ホウレンソウの L-アスコル 減少した(図1-28、1-29)。第5葉の含量と、他の葉 ビン酸および硝酸塩含量の周年変動. 園芸学研究. 位の含量の間には高い相関がみられた(図1-30) 。葉 4:347-352 身の硝酸含量は低いものの、葉柄の含量と高い相関 4) 東敬子(2001) 高い野菜とその成 康増進に有効な抗酸化活性の があった (図1-31)。このため、リーフディスクによ .農業および園芸.76:1049 る測定方法で、両含量の株全体の高低の推定が可能 -1056 であることが明らかになった 。 56 生育温度が高くなるに従って、両含量は著し く増加した(図1-32、図1-33) 。高温下で含量は増加 するが、生育後期だけ低温にすることで含量は低下 した 。 シュウ酸含量について選抜を行なった系統の F4世代では、葉身の新鮮重あたりシュウ酸含量にお いて、原品種よりもやや下がる傾向があったが、差 異は明確でなかった(表1-19) 。硝酸含量について選 抜を行なった系統のF5世代では、硝酸含量の平 が 葉身と葉柄において乾燥重当たりそれぞれ原品種の 図1-28 葉位によるシュウ酸含量の変化 61%、66%となった(図1-34、図1-35) 。3度のいづ れの播種においても同様に、F5世代では原品種より も含量が低下した 。 エ 察 シュウ酸・硝酸について、葉身の含量と葉柄 の含量には高い相関関係があり、初期選抜をおこな う上では、葉身のリーフディスクを用いた方法が省 力化のために有効である。また、この方法では、葉 身と葉柄の大きさの違いが両含量に与える影響を除 いた選抜を行なうことが可能である。 生育後半に冷涼な温度で栽培することによっ 図1-29 葉位による硝酸含量の変化 て、両含量は減少する。 硝酸含量については、原品種よりも安定して 低い系統が得られた。しかし、この系統では、シュ ウ酸含量が増加する傾向があった。シュウ酸含量に ついては、本年は選抜効果がみとめられ、遺伝変異 の存在が示唆された。 図1-30 第5葉の葉身と第10葉までの葉身のシュウ酸 含量の相関 図1-32 葉柄の硝酸含量 図1-31 第5葉の葉身と第10葉までの葉柄の硝酸 含量の相関 図1-33 葉身のシュウ酸含量 57 表1-19 ホウレンソウのシュウ酸含量に対する選抜効果 親品種の6割程度の硝酸含量を示す系統を選 抜した。 キ 文 献 1) 片岡園ら(2003)ホウレンソウのシュウ酸・硝 酸含量の測定におけるリーフディスク法の実用 性.平成15年度園芸学会東北支部要旨集:61-62 2) 片岡園ら(2004)ホウレンソウのシュウ酸およ び硝酸含量に及ぼす温度の影響.平成16年度園芸 図1-34 葉身の硝酸含量 学会東北支部要旨集:35-36 3) 片岡園ら(2005)ホウレンソウの乾物重当たり のシュウ酸および硝酸含量に及ぼす温度の影響. 園学雑.74(別2):187 4) 片岡園ら(2004)ホウレンソウのシュウ酸およ び硝酸含量に関する選抜効果 1.選抜第1世代 のシュウ酸および硝酸含量.園学雑.73 (別2): 420 担当研究者(片岡園 、由比進、岡本潔) 図1-35 葉柄の硝酸含量 オ 今後の課題 4 リーフディスクの利用による含量の高低の比 高ビタミンU含有キャベツ品種の選定と肥培管 較と、株全体の含量の測定の場面を目的により 理や収穫後の温度処理による制御技術の開発 い ア 研究目的 ける必要がある。 北海道では夏期冷涼な気候を活かして、野菜類の 温度により含量が変化する機作を解明し、実 生産が増加しており、畑作物の輪作体系の中に、高 用栽培技術を開発する。 収益作物としてキャベツ等野菜類が作付けされ、キ シュウ酸含量の低減のために、循環選抜など の適用を ャベツでは年間15万トン(全国の約一割)が北海道 える。低硝酸系統については種子増殖お で生産されている。このキャベツには、抗胃潰瘍性 よび雌雄性の制御や、硝酸含量の低下が近 弱勢に 成 よるものでないことを調査する。 よりその含量が増加することが明らかにされてい カ 要 約 であるビタミンUが多く含まれ、低温貯蔵に る 。しかし、キャベツ品種の多くでその含量が明ら リーフディスクにより株全体のシュウ酸・硝 かにされておらず、高含有品種を選定することは内 酸含量の比較が可能である。 部品質を評価する上で重要である。また、ビタミン 生育温度が高くなるとシュウ酸・硝酸含量は Uは含硫アミノ酸の一種であるため、硫黄の肥培管 増加する。 理により、含有量の向上が期待される。さらに、収 58 穫後の低温処理によりビタミンU含量の向上も期待 ウ 研究結果 される。 キャベツのビタミンU含量の品種間差は、播 本課題は、幼植物と収穫物のビタミンU含量の関 種後90日後では「夏山」の外側が最も高く、 「シテ 係を明らかにし、ビタミンU含量の品種間差を幼植 ィ」の内側が低く、この二つの間では10倍の差があ 物で検定する方法を検討する。また、硫黄施肥、低 った。48品種中では「夏山」が高含有品種であると 温処理により、キャベツの現状のビタミンU含量50 えられた(図1-36)。 μmol/100gFW を、200∼300μmol/100gFW に上げ 25℃24時間照明下より24時間暗黒下の方がビ ることを目標とする。 タミンUが多く蓄積され、クロロフィルなどの夾雑 イ 研究方法 物が少なく幼植物検定に有効であると キャベツのタイプ別に品種を収集し、播種後 えられた (図1-37)。 しかしながら結球時との相関は認められ 90日に収穫して結球の外側、中間部および内側の3 ず簡易検定法としては 用不可能と えられた。 部位に け、80%エタノールで抽出後濃縮してから 水耕栽培では窒素施肥量を100mM に固定し HPLC を用いて OPA(オルトフタルアルデヒド)法 硫黄施肥量を変えたとき、「夏山」、 「冬駒」の両品 でビタミンUを測定し高ビタミンU含有品種を選定 種とも低硫黄区のほうがビタミンU含量が高くなっ した。 た(図1-38)。逆に硫黄施肥量を10mM に固定し窒 双葉展開期に25℃で24時間/日の遮光処理を 素施肥量を変えたとき、「夏山」、「冬駒」の両品種 行い幼植物でのビタミンU蓄積量および結球時のビ とも窒素施肥量が高いほどビタミンU含量が高かっ タミンU含量を測定比較して、幼植物でのビタミン た(図1-39)。 U簡易検定法の可能性を探った。 窒素施肥量を1.5倍に変えたとき、 ビタミン 硫黄および窒素施肥量を変えてキャベツ (「夏 C含量は低下する品種がほとんどであった。結球の 山」および「冬駒」)を水耕栽培し、蓄積してくるビ 外側が内側よりビタミン C 含量が高い傾向であっ タミンU含量を測定し、ビタミンUを高めるための たが、貯蔵中にその差が無くなった。貯蔵するとほ 肥培管理法を検討した。 とんどの品種のビタミン C 含量は急激に低下し、そ 窒素施用を標準区と1.5倍区として栽培し、収 の後一定の含量で推移した(図1-40、1-41) 。 穫したキャベツを低温貯蔵した。貯蔵時の品質の指 収穫直後のキャベツをキムチ加工した場合、 標としてビタミンC含量の消長を調査した。 寒玉系品種はビタミンU含量が低く推移した。サワ キャベツを低温貯蔵してビタミンUを増加さ ー系品種はビタミンU含量が高い傾向であった。ボ せたのちにキムチ加工した場合のビタミンU含量の ール系品種はその中間の値を示した。低温貯蔵後の 消長を調査し、機能性から見たキムチの有効性を検 キャベツはビタミンU含量がどの品種も高くなって 討した。 おり、これをキムチ加工した場合、熟成中に減少す 図1-36 キャベツ結球外側のビタミンU含量 59 図1-37 光条件がキャベツ幼植物のビタミンU含量に 図1-41 低温貯蔵中における「冬駒」のビタミンC 及ぼす影響 含量の消長 図1-38 硫黄施肥量が「冬駒」のビタミンU含量に 及ぼす影響 図1-42 貯蔵0ヶ月のサワー系キャベツにおける キムチ熟成中のビタミンU含量の消長 図1-39 窒素施肥量が「冬駒」のビタミンU含量に 及ぼす影響 図1-43 貯蔵2ヶ月のサワー系キャベツにおける キムチ熟成中のビタミンU含量の消長 図1-40 低温貯蔵中における「夏山」のビタミンC エ 含量の消長 察 キャベツのビタミンU含量は品種群よりも品 ることはなく、2ヶ月貯蔵キャベツのキムチは熟成 種間で差が大きく、サワー系が寒玉系より高いとは 中にビタミンU含量が高まる傾向であった (図1-42、 限らなかった。最もビタミンU含量が高いのは「夏 1-43) 。 山」で低いのは「冬駒」であった。 キャベツの幼植物では暗黒化でビタミンUを 多く蓄積したが、これは光合成にかかわる代謝が進 60 まないことから蓄積したものと えられ、生育結球 したキャベツの含量とは相関がなかったものと 必要があると え えられた。 オ 今後の課題 られる。このため幼植物によるビタミンU含量の簡 今後は、キムチ加工時の食味・機能性を含めた成 易検定は困難であると 変化を明らかにして最適な加工出荷の適正化技術 えられた。 窒素施肥量を100mM に固定し硫黄施肥量を の開発研究を行う予定である。 変えたとき、「夏山」、 「冬駒」の両品種とも低硫黄 カ 要 約 区のほうがビタミンU含量が高くなったのは、低硫 キャベツを48品種収集しビタミンU含量を比 黄濃度の区ではキャベツの生育が著しく不良で0.1 較した結果「夏山」が最も高い品種であった。 mM および0.2mM の区では枯死したことから、正 双葉展開期に24℃24時間暗黒処理でビタミン 常な代謝が進まないためにビタミンUが蓄積したと U含量が高くなり品種比較ができるが、結球時の含 えられた。逆に硫黄施肥量を10mM に固定し窒素 量とは相関がなく簡易検定法に用いることは困難で 施肥量を変えたとき、「夏山」、 「冬駒」の両品種と あった。 も窒素施肥量が高いほどビタミンU含量が高かった 肥培管理においてビタミンU蓄積のためには ことから、窒素がビタミンU合成の律速に関与して 硫黄施用は効果が無く窒素施用が効果的であった。 いると えられた。以上のことから硫黄施肥量を高 低温貯蔵キャベツは貯蔵直後ビタミンCが急 くしてもビタミンU含量は高められず、窒素施肥量 激に減少するがその後一定値で推移し、貯蔵90日間 を高くすることがビタミンU含量を高めるのに有効 ではビタミンCという観点からの品質の低下はない であると と えられた。 えられた。 ビタミンUは貯蔵により増加することが明ら 収穫直後より低温貯蔵後のキャベツを用いて かになっているが、ビタミンCは急激に減少するも キムチを加工した方がビタミンU含量の高いキムチ のの、その後3ヶ月間は一定の含量を保ったことか となることが明らかとなった。 ら、貯蔵によるビタミンCの減少は貯蔵後3ヶ月間 はマイナス要因にならないと キ 文 献 えられる。この間に 1) 渡辺ら(1994)ラットエタノール潰瘍における ビタミンUは増加するため、機能性の高いキャベツ 胃粘液糖蛋白質の量的変動に対するメチルメチオ の出荷が可能と ニンスルホニウムクロライド(MMSC)前投与の えられる。 キムチが熟成するときに多くの遊離アミノ酸 効果.薬理と治療.22 :155-161 類が増加して旨みが増すが、それと比較してビタミ 2) 瀧川ら(1999)キャベツに含まれる機能性成 ンUの増加は顕著ではなく、加工時のビタミンU含 「ビタミンU」について.今月の農業.43 :56 量がそのまま推移しており、ビタミンUの合成や -59 解はほとんど行われていないと えられた。しかし 担当研究者(瀧川重信 、遠藤千絵、野田高弘、山内 ながら、貯蔵2ヶ月のキャベツのキムチでビタミン 宏昭) Uが増加した原因は明らかではなく、今後精査する 61 第4章 高エリタデニン含有シイタケ系統の育成及び特性解明と高品質生産技術 の開発 1 エリタデニンを高含有するシイタケ系統の育成 した。 と高品質生産技術の開発 保存時におけるエリタデニン含量の変動を検 ア 研究目的 討するため、収穫直後、5℃で1日、3日、5日、 シイタケ生産は山村の主要収入源の1つである 7日保存した子実体中のエリタデニン含量を調査し が、2000年の生シイタケの自給率は62%となり、厳 た。調理によるエリタデニン含量の変動を検討する しい現状にあった。そのため、生シイタケで、2001 ため、収穫直後にシイタケを炒める、煮る調理を行 年暫定セーフガードの発動を行った。2003年の自給 い、調理後のエリタデニン含量を調査した。 率は72%と回復し、生産額は731億円となった。しか ウ 研究結果 し、回復は中国産に対抗して国内産の体質強化を行 エリタデニン高含量菌株、品種の探索を行っ った結果ではないため、抜本的な中国産との差別化 た結果、市販品種(図1-44)及び森林 が緊急の課題となっている。その解決策の1つとし (図1-45)において中国産菌株(図1-46)より高含 て、高エリタデニン含有シイタケの育成が 研保有菌株 えられ、 本課題で、含量を高めるシイタケの育成あるいは栽 培技術の開発を行う。本研究では、高含有するシイ タケ系統の育成、エリタデニン含量を高める栽培方 法、保存、調理がエリタデニン含量の及ぼす影響に ついて検討を行った。 イ 研究方法 中国産シイタケに対抗できる国内産シイタケ のエリタデニン高含有する系統の育成のため、まず 高含量菌株の探索を行った。中国産シイタケ、森林 研保有国内産菌株、国内産市販品種を用いて栽培 を行い、子実体を収穫した。収穫した子実体は 析 (河岸)に供した。高含量系統の育成のため、高い 含量の2菌株を を栽培し、 用して、 配を行った後、子実体 析に供した。 図1-44 市販品種のエリタデニン含量 エリタデニン含量を高める栽培技術を開発す るため、まず子実体の生育時における子実体中のエ リタデニン含量の変動を検討した。一般に広く普及 している、高含量品種ではない市販品種を 用して、 原基、傘が1-2cm 時、同2-3cm 時、同3-4cm 時、傘が開く前、傘が開いた直後、7 開き時、10 開き時での子実体を収穫し、エリタデニン含量を 調査した。次に発生温度が含量に与える影響を検討 するため、前述の市販品種を 用し、子実体原基形 成後、発生温度を28℃にするなど発生温度を変え、 発生温度がエリタデニン含量に与える影響について 検討した。次に通常の栽培でも高い含量の品種を 用して、子実体原基形成後、発生温度を変え、発生 温度がエリタデニン含量に与える影響について検討 図1-45 森林 62 研菌株のエリタデニン含量 さらすと、傘の色は淡色化、ひだは波状となり形質 が悪化した。そこで、通常より多少高い24℃の温度 で発生させると含量はそれほど高くならないが、 24℃にする前に2℃の低温処理するとエリタデニン 含量が増加することが認められた。この条件では、 傘の色はほとんど変化せず、ひだは波状にならなく、 形質は良好であった。 保存時におけるエリタデニン含量の変動を図 1-48に示す。エリタデニン含量は収穫直後と比較し て、保存3日目まで増加し、その後減少したが、保 存は収穫直後よりエリタデニン含量が増加すること が明らかになった。収穫直後にシイタケを炒める、 図1-46 中国産のエリタデニン含量 煮る調理を行い、調理後のエリタデニン含量を調査 量な品種、菌株を選抜した。高含量菌株を 子実体中のエリタデニン 配させ、 した結果、炒めた場合は調理前の74%、煮た場合は 析を行った結果、親株よ 子実体中に53%、煮汁に22%の残存していた。調理 り著しく高い菌株は作出できなかった。また、市販 により1/4程度減少することが明らかになった。 品種の収量は良好であるが、森林 研保有菌株は収 量性に劣っており、 エ 配株も市販品種を超える収量 察 豊増ら は25℃以上の高温で栽培するとエリ の菌株は作出できなかった。 タデニン含量が増加すると報告しており、本研究で 子実体の生育段階別のエリタデニン含量を調 28℃栽培を行うと含量が増加することと一致してい 査した結果、原基形成時から傘が大きくなるに従っ る。しかし、形質が悪化する問題点も生じる。形質 てエリタデニン含量は減少し、傘が開く前に増加し、 が悪化しない24℃で栽培すると含量はそれほど高く 後ほぼ一定であった(図1-47)。このエリタデニン含 ならないが、24℃で栽培する前エリタデニン含量の 量が高くない品種を 変動に低温処理を行ったところ含量は高くなった。 用して、子実体発生時に温度 を通常の15℃より28℃に高くすると子実体中のエリ 温度の較差を大きくすることが必要であると タデニン含量は増加した。そこで、高含量菌株を れた。 えら 用して、同様な試験を行った結果、高含量菌株はよ 豊増 は保存温度を高くすると含量が増加す り高い含量となった。しかし、長時間28℃の高温に る報告をしているが、保存温度を高くすると品質は 急激に悪化するため、通常では保存温度を上げるこ とは えられない。今回、通常の保冷温度でも含量 が高くなることが確認された。これまで調理による 含量の挙動に関する報告はなく、本調査により調理 図1-47 子実体生育時における子実体中のエリタデニ 図1-48 冷蔵(5℃)保存によるエリタデニン含量の ン濃度 変動 63 による減少量が明らかになった。エリタデニンは水 出液を得た。その抽出液をメンブランフィルターで 溶性であるため、煮汁にもっと移行していると推測 濾過後、濾液50l を取り、等量の4mM K HPO を加 していたが、子実体中にある程度残存することが明 え、さらに2 mM K HPO を100l 加え、抽出液の2 らかになった。 mM K HPO 4倍希釈液を調整した。その希釈液を オ 今後の課題 HPLC に供し、検量線よりエリタデニン含量を算出 市販品種と同程度の収量がある高含量系統の育成 した。HPLC 条件、Column; Develosil ODS-UG- が必要である。 カ 要 3(size、φ4.6mm×250mm)、溶 媒:5 mM 約 HPO /CH CN=95:5。 中国産シイタケよりエリタデニン含量の高い市販 品種、森林 K エリタデニン高含有シイタケの安全性試験 研保有菌株を選抜した。子実体発生温 5週齢の Wistar 系雄ラットを 用した. 末の 度を高めると子実体中のエリタデニン含量が高まる 合成食(実験食の組成成 ;カゼイン 25(重量%) 、 が、温度が高すぎると形質が悪化した。そこで形質 コーンスターチ43.5∼33.5、ショ糖20、コーン油5、 が悪化しない程度の高温処理前に低温処理を行うこ ミネラル混合3.5、ビタミン混合1、セルロース2、 とにより、良好な形質であるともに含量も高くなっ シイタケ 末10)に添加してラットに自由摂取させ た。保存は含量が高くなる一方、調理により含量は た。投与期間は3週間とし、断頭により 減少した。 液および各種臓器を採取した測定項目は以下であ キ 文 る。⑴ラットの体重増加量、摂食量、飼料効率、⑵ 献 1) 豊増ら(2003)シイタケ子実体、レンチヌラ・ 殺し、血 各臓器重量(肝臓、腎臓、心臓、肺、脾臓、睾丸、 エドデス並びにその育種及び栽培方法.特願2001 脳、脂肪組織)、⑶血漿脂質濃度;コレステロール、 -037020 中性脂肪、リン脂質。 2) 豊増(2003)高エリタデニン含有シイタケ子実 エリタデニンの血漿コレステロール低下の作 体およびその生産方法.特願2003-035035 用機構 担当研究者(関谷敦 ) 6週齢の雄ラットにコントロール食およびエリタ デニン添加(50mg/kg)食を2週間与えた。肝臓ミ 2 シイタケ中のエリタデニンの特性解明 クロゾームを調製し、全脂質を抽出した後、主要な ア 研究目的 リン脂質であるフォスファチジルコリンとフォスフ 生シイタケは、外国産との差別化が緊急の課題で ァチジルエタノールアミンの濃度を TLC で測定し あり、きのこにおいて皆無に近い成 育種を行い、 た。また、主要なフォスファチジルコリンを調製用 差別化することを目的とした。その成 TLC で単離した後、脂肪酸組成を GLC で測定し としてエリ タデニンに注目した。エリタデニンはコレステロー た。 ル低下作用を示し、多くの疾病の予防や治療に有効 と 血漿ホモシステイン濃度に及ぼすエリタデニ えられている。 本研究では、エリタデニンの効 ンおよびシイタケの影響 率的 析技術の開発を行い、中国産、国内産の品種 について Wistar 系雄ラット(日本 SLC、6週齢)を購入し 析を行い、品種間差異を明らかにする。 実験に用いた。実験には高エリタデニン含有シイタ また、エリタデニン高含有シイタケの安全性を動物 ケを用い、乾燥 実験で確認する。さらにエリタデニンの新たな機能 基本食ならびにシイタケ添加食をラットに10日間投 性の追求とエリタデニンのコレステロール低下作用 与したのち、メチオニン(300mg/kg 体重)を腹腔 のメカニズム解明を試みることを目的とした。 内注射し、2時間後に解剖して血液と肝臓を採取し イ 研究方法 た。実験1では食 エリタデニン定量 にシイタケ 末を0.25、0.5、1、 2%添加し、シイタケの効果の用量依存性を検討し 試料(乾燥シイタケ)200mg をアセトン4ml 中で 1時間撹拌した後、ろ過して残 末化したものを基本食に添加した。 た。また、実験2ではシイタケ を得た。残 に水 食 4ml を加え1時間撹拌しながら抽出後、ろ過して抽 末を2%添加した をラットに1、3、5、10日間投与し、シイタ ケ添加食投与期間の効果を検討した。ホモシステイ 64 ンやシステインは蛍光誘導体化して HPLC で測定 した。また、肝臓内のメチオニン代謝中間体である S-アデノシルメチオニンや S-アデノシルホモシス テインは直接 HPLC で測定した。シスタチオニン合 成を触媒するシスタチオニン合成酵素の活性は、反 応生成物であるシスタチオニンを誘導体化したのち HPLC で 析 し 測 定 し た。統 計 処 理 は Duncan s multiple range test で検定し、危険率5%以下を有 意差ありとした。 ウ 研究結果 極めて簡 なエリタデニン定量法を開発し た。各サンプルの定量結果と 察は協力 図1-50 肝臓小胞体のリン脂質濃度に及ぼすエリタデ 担 (関谷) ニンの影響 の報告書にまとめた。 エリタデニン高含有シイタケのコレステロー ル低下作用を確認し(図1-49)、安全性試験を行い、 ラットの体重増加量、摂食量、飼料効率や各臓器重 量に対して、シイタケ添加食は全く悪影響を及ぼさ なかった。(データ省略) エリタデニンはコレステロールのみならずフ ァスファチジルエタノールアミンとリノール酸と濃 度を増加させ、アラキドン酸濃度を低下させた(図 1-50、1-51)。 メチオニンを注射すると血漿ホモシステイン 濃度は上昇するが、シイタケ 末を食 図1-51 肝臓ミクロソームのPCの脂肪酸組成に及ぼす に添加した エリタデニンの影響 群ではホモシステイン濃度の上昇が用量依存的に抑 制された。シイタケの効果は1%添加でほぼ最大に 図1-49 血漿脂質濃度に及ぼす食 添加シイタケ 末の影響 異なるアルファベットを有する数値間に危険率5%以下で有意差あり。 65 達した。一方、比較のために血漿システイン濃度を の仮説はなお検証の余地が多いものの、エリタデニ 測定したが、システイン濃度はホモシステインほど ンは食物繊維などのように単純な機構(コレステロ 明確な影響を受けなかった。食 ールや胆汁酸の吸収抑制)ではなく代謝カスケード へのシイタケ 末 添加量に応じて肝臓 S-アデノシルメチオニンや S- を介して作用を発揮するという画期的なもので、エ アデノシルホモシステイン濃度は上昇したが、肝臓 リタデニンの作用機構を ホモシステイン濃度はシイタケ われる。 末群で顕著に低下 したシスタチオニン合成酵素活性はシイタケ 末添 える上で有益なものと思 シイタケあるいはエリタデニンが血漿ホモシ 加により上昇する傾向を示した。シイタケ 末2% ステイン濃度の上昇を抑制する機構として、 添加食を1日投与しただけでもメチオニン注射によ タデニンが S-アデノシルホモシステインの加水 る血漿ホモシステイン濃度の上昇は有意に抑制さ 解を触媒する S-アデノシルホモシステイン加水 れ、3日間投与で最大の効果が見られ、この効果は 解酵素を阻害してホモシステインの生成を遅 少なくとも10日間持続した。一方、血漿システイン る、 シスタチオニン合成を触媒するシスタチオニ 濃度は変化が見られなかった。 ン合成酵素活性を上昇させてホモシステインからシ エ 察 エリ させ スタチオニンへの変換を促進する、という2つの機 エリタデニンの簡 な定量法を開発したこと 構が えられる。肝臓中のメチオニン代謝中間体な によって、シイタケの成 育種研究を大いに加速し らびにシスタチオニン合成酵素活性の測定結果はこ たと えられる。 の シイタケあるいはエリタデニンの安全性み初 え方を支持していると思われる。本研究ではメ チオニン負荷による高ホモシステイン血症モデルを めての知見を与えた。 用いたが、その他のタイプの高ホモシステイン血症 エリタデニンはラットなどの実験動物におい に対してもシイタケが有効かどうかに興味が持たれ て血漿コレステロール濃度を効果的に低下させるこ る。他の実験で、グアニジノ酢酸負荷による内因性 とが以前から知られているが、その機構については の高ホモシステイン血症に対してもエリタデニンは なお不明な点が多い。そこで、コレステロール以外 抑制効果を示すことを観察しており、シイタケの有 の脂質の代謝に及ぼす影響も詳しく検討し、コレス 効性はメチオニン負荷モデルに限定されないようで テロール濃度低下の機構を解析しようとした。エリ ある。本研究で、シイタケはコレステロール低下作 タデニンはコレステロールのみならずリン脂質や脂 用に加えてホモシステイン濃度上昇抑制という2重 肪酸の代謝にも大きな影響を及ぼすことを明らかに の機構で抗動脈 し、これらが血漿コレステロールの低下に関与する 根拠がある程度提示されたものと えられる。 化的に作用しうるキノコと言える ことが示唆された。この知見に基づき、エリタデニ オ 今後の課題 ンの作用機構に関する推定機構を提示した。すなわ エリタデニンのコレステロール低下作用機構を完 ち、エリタデニンは肝臓のホスファチジルエタノー 全に明らかにする。 ルアミンというリン脂質を増加させ、これが肝臓の カ 要 約 D6不飽和化酵素活性の低下をもたらし、リノール酸 シイタケ中に含まれるコレステロール低下物質エ の代謝を抑制して体内リノール酸濃度を高め、その リタデニンの簡 結果、血漿リポタンパク質の代謝が促進して血漿コ ニンの作用機構の詳細を明らかにした。 レステロール濃度が低下するというものである。こ な定量方法を開発した。エリタデ 担当研究者(河岸洋和 ) 66 第5章 1 地域特産ナス科野菜品種の育成と接木栽培技術の確立 多様な地域特産品種に対応した栽培適応性の広 定したビニルハウス内に、2004年11月2日に定植し、 いナス・トウガラシ類用台木品種及び系統の育成 同様に調査した。期間末日の草 を期間初日の草 ア 研究目的 で除した値をその期間の伸長度として評価を行っ ナス、トウガラシ類(ピーマンを含む)は F 品種 た。 が広く利用されているが、海外からの輸出攻勢にさ ナスの選抜供試材料としては、半身萎 らされていることなどから、「水ナス」など地域に 抗性「耐病 VF」と 青枯 病抵抗 性「LS1934」を 抵 伝わる在来品種を掘り起こし、地域特産品としての 抗性素材とした組合せである「ER98B」(F (耐病 利用を図ろうとする機運が高まっている。また、ト (耐病 VF×LS1934)× VF×LS1934))、「ER98C」( ウガラシ類ではカラーピーマンなどの新たな品目の な す 中 間 母 本 農 1 号)お よ び「ER98E」 ((耐 病 特産化も検討されている。 VF×なす中間母本農1号)×なす中間母本農1号) これらの特産品利用においては、特定地域におけ の選抜後代系統を供試した。また半身萎 病抵 病・青枯 る周年供給が求められ、連作による土壌病害の発生 病抵抗性「LS2436」 の や暖房費等の生産コスト増大等が問題となってい 対照品種は半身萎 る。そこで地域特産ナス並びにトウガラシ類に適応 病抵抗性の「LS1934」ならびに両病害に罹病性の 性を有し、主要な土壌病害に複合抵抗性の台木を育 「中生真黒」、「千両二号」を用いた。ナスの半身萎 成するとともに、低温伸長性にも優れた台木素材を 病抵抗性検定については本葉2∼3葉期の苗を掘 開発する。 離後代系統を供試した。 病抵抗性の「耐病 VF」 、青枯 り上げ、根を洗浄して胞子濃度を2×10 個/ml に イ 研究方法 調製した接種菌液を用いて浸根接種後、地温23℃に トウガラシ類の選抜供試材料としては、青枯 設定 した土壌恒 温 槽(土 壌 病 害 抵 抗 性 選 抜 装 置 病に抵抗性を示す「三重みどり」 と疫病に強度の (株)小澤製作所)に植え付け、約3週間後に病徴 抵抗性を示す「SCM 334」を用いて 雑を行い、青 を5段階で評価した。青枯病抵抗性検定については 枯病および疫病抵抗性に関して選抜した後代「トウ 青枯病汚染圃場に定植した苗を断根して、株当たり ガラシ安濃3号、同4号」を試験に用いた。疫病抵 50ml の接種菌液(4×10 個/ml)を株元に灌注し、 抗性検定については本葉2∼3葉期の苗を掘り上 約2ヵ月後に病徴を5段階で評価した。 げ、根を洗浄して遊走子囊濃度を6×10 個/ml に調 ウ 研究結果 製した接種菌液を用いて浸根接種後、地温28℃に設 疫病抵抗性検定では「トウガラシ安濃3号、 定した土壌恒温槽(土壌病害抵抗性選抜装置(株) 同4号」は発病指数が低く、「スケットC」と同程 小澤製作所)に植え付け、約2週間後に病徴を5段 度の強い抵抗性を示した(表1-20)。青枯病抵抗性 階で評価した。青枯病抵抗性検定については青枯病 検定では両系統ともに「スケットC」に比べ、強い 汚染圃場に定植した苗を断根して株当たり50ml の 抵抗性を示したが、「トウガラシ安濃3号」よりも 接種菌液(2×10 個/ml)を株元に灌注し、約2ヵ 「トウガラシ安濃4号」の方がやや強い抵抗性を示 月後に病徴を5段階で評価した。台木として用いた した(表1-20)。台木として用いた際の収量性につ 際の収量性についてはピン接ぎ法で幼苗接ぎを行 いては「京波」を穂木とした時、「トウガラシ安濃 い、うね幅120cm の1条植え、株間40cm として一般 3号、同4号」台の収量は「スケットC」台よりや 露地圃場に定植し、5株2反復で試験を行った。 や少なかった(表1-21)。「紀州ししとう1号」を穂 暖房開始温度を7℃に、換気開始温度を27℃ 木とした時、「トウガラシ安濃3号、同4号」台の に設定したビニルハウス内に2003年11月18日に定植 して約2週間おきに草 収量は自根と同等であった(データ略)。 を調査し、低温伸長性を示 低温伸長性を示すトウガラシ類の素材検索で すトウガラシ類の素材検索を行った。また、トウガ は栽培種(Capsicum annuum)よりも近縁種が伸長 ラシ類を台木として用いた際の穂木の伸長性につい 性に優れる傾向にあり、特に「PERON O MAN- ては暖房開始温度を12℃、換気開始温度を27℃に設 ZANO」および「LS1659」(C. pubescens)が低温伸 67 表1-20 トウガラシ安濃3号、同4号の疫病および青枯病抵抗性検定 表1-21 トウガラシ安濃3号、同4号台の収量性 (2005年) 長性に優れていた(表1-22)。C. pubescens と栽培種 の 雑を試みたが、 えられる。 雑することができなかった。 オ 今後の課題 伸長性に優れたトウガラシ類を台木として 用した 「トウガラシ安濃4号」についてはより固定 際の穂木の伸長性については明確な差違が認められ を進めながら、特性および系統適応性について検討 なかった(データ略)。 する。 ナス選抜系統に対する半身萎 病・青枯病の 低温伸長性を示すトウガラシ類の素材として 抵 抗 性 検 定 の 結 果、 「ER98C -3-3-3-2-1-2-1」、 C. pubescens が見出されたが、栽培種と 「ER98E-8-2-4-3-1-3-2」 、「LS2436-2-6-1-1-3-2- かったため、雑種を作出するためには 1」および「LS2436-3-2-1-6-3-1-2」で強度抵抗性 法を用いる必要がある。低温期の栽培では伸長性以 が確認された(表1-23)。 外に着花(果)性についても検討を行う必要がある。 エ 察 雑できな 雑以外の方 ナスの選抜系統についてはより固定を進めな 「トウガラシ安濃4号」は疫病および青枯病 がら、特性および系統適応性について検討する。 に対し、市販の台木品種と同等以上の強度抵抗性を カ 要 約 示すため、トウガラシ類用台木系統として有望と 「トウガラシ安濃4号」は疫病および青枯病 えられる。 に対して強度の抵抗性を有することが明らかになっ トウガラシ類の低温伸長性について台木とし た。 て検討を行ったが、穂木の伸長性に対する効果はほ トウガラシ類の低温伸長性について検討を行 とんどなかった。穂木自身に低温伸長性を付与する い、C. pubescens が低温伸長性に優れていることを 必要がある。 明らかにした。 ナスの選抜系統については、半身萎 病およ 半枯病および青枯病に対して強度の抵抗性を び青枯病に対し、市販台木品種等とほぼ同等の強度 有する「ナス安濃2号」を「なす農林台3号」とし 抵抗性を示すため、ナス用台木系統として有望と て命名登録するとともに「台三郎」として品種登録 68 表1-22 トウガラシ類の低温伸長性検定結果(抜粋2003∼2004年) 表1-23 ナスの半身萎 出願を行った。また、半身萎 病・青枯病抵抗性検定結果(2005年) 病および青枯病に対 キ 文 献 して強度の抵抗性を有するナス選抜系統、「ER98C 1) Matsunaga,H.and Monma S.(1999)Sources -3-3-3-2-1-2-1」、「 ER98E -8-2-4-3-1-3-2」、 of resistance to bacterial wilt in Capsicum. J. 「LS2436-2-6-1-1-3-2-1」お よ び「LS2436-3-2-1 Japan. Soc. Hort. Sci. 68:753-761 -6-3-1-2」を開発した。 2) Sakata, Y. et al. (1996) Evaluation of resis69 tance to bacterial wilt and Verticillium wilt in ったA∼Cの3系統を用い、最低気温を16℃および eggplants (Solanum melongena L.)collected in 18℃に設定し、収量品質を調査した。栽培管理その M alaysia. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 65:81-88 他は台木品種比較試験に準じた。 担当研究者(斎藤新 、山田朋宏 、吉田 実、齊 水ナスの最適加温条件の解明 藤猛雄) 2003年度は台木に「トレロ」、穂木に「A系統」を 用い、最低気温を14、16および18℃に設定して、水 2 水ナスの加温栽培による収穫期拡大技術の開発 ナス収量品質を調査した。栽培管理その他は台木品 と加工適性評価法の開発 種比較試験に準じた。2004年度は、最低気温を16お ア 研究目的 よび18℃とし、燃料消費量の比較と、水ナスの果実 水ナスは大阪府泉州地域の伝統的野菜であり、漬 度および漬物加工特性を調査した。 物用ナスとして高い人気を得ている。漬物業者及び 加工適性評価法の開発 消費者からの需要は強く、栽培面積及び生産量は増 水ナスの果実 度を測定する手法として、貫入応 加傾向にある。漬物業者及び消費者からは、漬物加 力を万能試験機 INSTRON5540 (MERLIN 社製)で 工適性に優れた水ナスの安定供給が望まれている 測定する諸条件を検討した。果実の漬物加工特性は、 が、水ナスは低温期の樹勢が弱く、現在の栽培体系 漬物加工時の NaCl 浸透量での評価法を検討し、果 では低温期の生産は非常に少ない。そこで、水ナス 実のみずみずしさの指標として、果実に含まれる水 加温栽培技術を確立することにより収穫期間を拡大 を測定した。 するとともに、加工適性評価法を開発し、高品質な 最適な水ナス系統、台木品種および加温条件 水ナスの安定生産を図る。 を組み合わせた実証試験 イ 研究方法 台木に「トレロ」、穂木に「A系統」を用い、12月 加温栽培に適した台木品種および穂木系統の 定植では2004年12月22日に、1月定植では2005年1 選定 月19日に二重被覆ハウス内に定植した。加温区では 台木に関しては、2003年度は「ヒラナス」 、「トレ 最低気温を16℃とした。畝間1.4m 株間0.5m の3本 ロ」および野茶研が育成した「AE-RS01」の収量品 仕立て栽培とし、 施肥量は10aあたり窒素50kg、 質を調査した。穂木を水ナス「A系統」とし、2002 リン酸42kg、加里45kg とした。収量品質を比較し、 年12月25日に加温二重被覆ハウス内 (最低気温16℃) 半促成栽培における加温の有効性を評価した。 に定植した。畝間1.4m 株間0.5m の3本仕立て栽培 ウ 研究結果 とした。 施肥量は10aあたり窒素50kg、リン酸42 加温栽培に適した台木品種および穂木系統の kg、加里45kg と した。2004年 度は「ヒ ラ ナ ス」、 選定 「トレロ」および野茶研が育成した「03ER55-1」、 台木に関して、2003年度の試験から、可販果収量 「03ER44-1」、「03ER51-3」を供試した。穂木を水 は「トレロ」が最も多く、低温期の果色は「ヒラナ ナス「A系統」とし、2003年12月22日に加温二重被 ス」が最も濃いことが明らかとなった。また果皮は 覆ハウス内(最低気温16℃)に定植した。栽培管理 「ヒラナス」と「AE-RS01」で柔らかかった(平成 は前年度に準じた。2005年度は「ヒラナス」 、「トレ 15年度試験研究成績書)。2004年度の結果から、低温 ロ」お よ び 野 茶 研 が 育 成 し た「03ER55-1」 、「03 期の可販果収量は「03ER55-1」、 「03ER44-1」で多 、 「03ER54-2」を 台 木 と し ER44-1」、「03ER51-3」 く、果実品質も「トレロ」と同程度であることが明 て供試した。2004年12月22日に加温二重被覆ハウス らかとなった(平成16年度試験研究成績書) 。2005 内(最低気温16℃)に定植した。栽培管理は前年度 年 度 の 結 果 か ら は、低 温 期 の 可 販 果 収 量 は「03 に準じた。 ER54-2」及び「03ER55-1」がトレロと同程度であ 穂木に関しては、2003年度は最低気温18℃とし、 り、 トレロを台木として在来系統よりA∼Fの6系統を 収量は「03ER54-2」が多いことが明らかと なった(図1-52) 。 用い、収量品質を調査した。栽培管理その他は台木 穂木に関して、2003年度の結果から、 品種比較試験に準じた。2004年度は前年度有望であ 収量には 系統間差は認められなかったが、可販果収量はA 70 を推定しており、キュウリについても菅野ら が同 様の指摘をしている。そこで本研究においても果皮 部の抵抗値から直下組織の抵抗値を引くことによっ て果皮の さを計測した。水ナスでは果実赤道部よ り直径19mm 厚さ10mm の果皮付き試験片を調整 し、直径1.5mmφ のディスク状の感圧軸を果皮側か ら貫入速度20mm/min で貫入させることで果実の さ評価ができることを明らかとした 。果実の漬 図1-52 台木品種の違いと水ナスの収量 物加工特性は、果実を5% NaCl+0.3% Al 溶液に 1) 異符号間で有意差有り(t-test5%) 25℃で3日間浸漬処理(漬物加工)し、処理後の 2) 最低16℃に設定、穂木A系統 NaCl 浸透量により評価できることを明らかにした (平成16年度試験研究成績書)。 ∼D系統で多くなる傾向であった。低温期の果色は 最適な水ナス系統、台木品種および加温条件 「D系統」でうすかった(平成15年度試験研究成績 書)。2004年度の結果から、「B系統」で を組み合わせた実証試験 収量が減 水ナスの好適条件を組み合わせた実証試験を実施 る傾向が見られた。A系統は低温期の果色が濃く、 した結果、12月定植の加温区で果実の色、形を損ね 果形が太くなる傾向があった(平成16年度試験研究 ることなく低温期の収量が増えること、収穫開始時 成績書)。 期が24日前進することが明らかとなった(表1-25) 。 水ナスの最適加温条件の解明 加温区と無加温区で果実の 最低気温14℃の可販果収量は著しく少なくなった 温区で果皮が が、最低気温16℃と18℃の収量差はわずかであった さを評価した結果、加 くなる傾向が見られたが、果実水 率は加温区で高くなった(表1-26) 。 (平成15年度試験研究成績書)。2004年度に、最低温 エ 察 度16℃と18℃で収量品質について調査を行った結 加温栽培に適した台木品種の選定では、 「ト 果、収量及び外観上の品質(果形、果色)はほとん レロ」が安定して低温期の収量性が良好であった ど差はないが、加工適性(中果皮の さ、NaCl 浸透 が、野菜茶研が育成中の台木の中で「03ER54-2」 性)は18℃で向上した(平成16年度試験研究成績書)。 や「03ER55-1」で、「トレロ」と同程度の収量が得 燃料消費量は16℃で18℃の約70%に減少した(表1- られたため、有望な台木と 24)。 品質に関しては、草勢が強くなる台木で果皮が 加工適性評価法の開発 く なる傾向が見られるという報告があり 、 「トレロ」 門馬 らの研究では、果皮側から直接果実に感圧 軸を貫入して得られた果皮の 直下組織の えられた。一方、果実 についても果皮が くなる傾向が観察されている。 さ測定値は、果皮の しかし、外観から選別した良果収量は「トレロ」で さの影響を受けるため、果皮部の抵抗 増加することから 、外観を重要とする現状の評価 値(仮の果皮の さ)から直下組織の抵抗値を引く ことによってイチゴ果皮の では、良果収量の多い台木の選択が有利と えられ さ(真の果皮の さ) る。穂木については大阪府在来系統である「A系 表1-24 最低気温の違いによる燃料消費量の差 71 表1-25 加温栽培が水ナスの収量品質および収穫開始時期に及ぼす影響 量が、従来の無加温作型に比較して2倍以上となり、 表1-26 加温栽培が水ナスの さおよび果実水 に 収穫開始期も約3週間前進する。また、果実品質に 及ぼす影響 関しては加温区で果皮が くなる傾向があるが、外 観(果色、果形)には大きな違いはない。 キ 文 献 1) 門馬信二、上村正二、吉川宏昭(1977)イチゴ 果実の さ測定法と品種間差異. 野菜試報. B⑴: 1-11 2) 菅野紹雄、上村正二(1978)キュウリの果皮・ 果肉の さ測定法とその品種間差異.野菜試報. B⑵:25-42 統」が良好であることを明らかとしたが、系統によ 3) 鈴木敏征、 り収量品質が大きく異なることが明らかとなったた 博美、森川信也、吉田 実 (2004) 台木品種の違いが水ナス果実の果皮および果肉の め、加温栽培においては穂木系統の選抜も重要な要 さに及ぼす影響.園学研.3⑵:179-182 因と えられる。 4) 鈴木敏征、森下正博(2002)少施肥条件で栽培 水ナスの最適加温条件を検討した結果、16℃ 以上の加温が必要であると されたナスの生育・収量に及ぼす穂木および台木 えられた。鈴木ら は 品種の影響.園学雑.71:568-574 最低気温をさらに上げると果実品質の向上が期待で 5) 鈴木敏征、 博美、森川信也(2005)水ナス の きるとしているが、現状において、低温期の加工適 加温栽培における最低気温が収量および果実品質 性は果実価格に反映されないため、収量・外観上の に及ぼす影響.園学研.4⑶:303-306 品質・加温コストを が適すると え合わせると、最低気温16℃ 担当研究者(磯部武志 、鈴木敏征、森川信也) えられた。 最適な水ナス系統、台木品種および加温条件 3 熊本長ナスの品種育成及び栽培技術の開発 を組み合わせた結果、慣行の無加温半促成栽培に比 ア 研究目的 較して収穫開始時期が24日前進し、高値時(2∼4 熊本県の一部のナス産地では、食味が良く、 『赤 月)の収量が2倍以上とまり、大幅な収益増が見込 ナス』の愛称で親しまれてきた食味の良い在来種の まれることが明らかとなった。 「熊本長ナス」が栽培されている。この在来種は生 オ 今後の課題 産者が個々に自家採種によって継代してきたため、 野菜茶研が育成中の新たな台木は有望であ 果実品質にばらつきがみられることなどが問題とな り、さらに検討する必要がある。 カ 要 っていた。そこで、熊本県農業研究センターでは 約 「熊本長ナス」の選抜と 配によって2001年度に新 水ナスの加温栽培では、最低気温16℃とし、 品種「ヒゴムラサキ」を育成して品質の安定化を図 台木に「トレロ」、穂木に在来「A系統」の組み合わ った。新品種の育成に伴い、その栽培技術の開発が せで、12月定植の場合、低温期である2∼4月の収 要望されている。一方、この品種は夏秋用であるた 72 め、他の作型に適応する「熊本長ナス」タイプの品 育苗温度の影響 (2005年度) :30−25℃、25−20℃ 種育成が望まれている。また、育成品種「ヒゴムラ (昼温−夜温) サキ」は、舌出し果等の奇形果発生が多いなどの問 ウ 研究結果 題点が発生し、技術的解決も要望されている。 優良品種・系統の選抜 本試験では、果実形質に優れ、低温伸長性を有す a 2002年に作出した、「ヒゴムラサキ」の両 る「熊本長ナス」タイプの優良系統を選抜する。ま 親系統と市販品種である「橘田」、「静岡11号」との た、「ヒゴムラサキ」の生産性の向上と舌出し果抑 F 系統は、冬期の主枝伸長が早く、果皮色が濃くな 制技術について検討する。 り、低温伸長性と着色性が向上した。しかし、果形 イ 研究方法 は短く果皮が 優良品種・系統の選抜 くなった(表1-27) 。 b 上記 F に両親系統「No.9」、「No.60」を 2002年に「ヒゴムラサキ」の両親系統「No.9」、 2回戻し 配した BC F 系統でも、ガラスハウス内 「No.60」と、市販品種との F を作出した。この で果皮色が濃く、ヘタの下にも淡く着色する個体が F に、両親系統を2回戻し みられ、着色性の向上につながる形質が確認できた 配し、さらに自殖固定 を進めた。 (表1-28)。 果実は熊本長ナスより短くなる傾向にあ 栽培技術の確立 ったが、熊本長ナスに類似した果形を示す個体も得 a 仕立て方法及び台木品種の検討(2002∼ られた。着色性及び果実形質について優れる個体か 2003年度、夏秋栽培:4月下旬定植) ら自殖種子を採種して、低温伸長性について継続し 誘引方法:V字、垣根(一文字)。 誘引本数:2、 て選抜を行っている。 3、4本、比較品種「筑陽」 栽培技術の開発 台木品種:「安濃2号」、「台太郎」、 「トナシム」、 a 仕立て方法及び台木品種の検討 「トルバム・ビガー」、「トレロ」、「茄の力」 、「ヒラ 「ヒゴムラサキ」の夏秋栽培では、垣根誘引で草 ナス」 の伸長は早く、節間が長くなった(表1-29)。また、 b 舌出し果発生抑制技術の検討(2004∼2005 垣根誘引では5∼7月の初期収量は多いが、 年度、夏秋露地栽培、6∼10月収穫) 収量 はV字誘引の3本仕立てが優れ、一果重も重かった。 基肥量及び追肥量の検討(2004年度):基肥量(窒 台木品種では、「トルバム・ビガー」を台木とし 素成 で20、30、40kg/10a) 追肥量 (窒素成 で1、 たときに生育が早く、「ヒラナス」台木で遅い傾向 2、4 kg/10a/回) にあった(表1-30)。収量は、 基肥の種類の検討(2005年度):夏秋ナス一発、ロ ングステージ(窒素成 収穫果数が多く平 一果重の重い「トルバム・ビガー」、 「トナシム」 で45kg/10a) で優れ、残りの5品種はそれより劣った。 表1-27 熊本長ナス系統と市販品種とのF における生育、収量及び果実特性 表1-28 BC F 系統の果実特性(2005年3月定植) 73 表1-29 異なる誘引方法における ヒゴムラサキ の生育及び収量特性 表1-30 異なる台木品種を用いた栽培における ヒゴムラサキ の生育及び収量特性 b 舌出し果発生抑制技術の検討 った(表1-32)。全期間を通してみると、舌出し果は 台木によって、舌出し果の発生割合は傾向が異な 5∼6.5%の発生であったが、 7月までに開花した花 り、「トルバム・ビガー」では、基肥量、1回の追 の調査では、開花数の10%前後が舌出し果であった。 肥量ともに多い方で発生が多かったのに対し、「安 側枝より主枝において舌出し果は発生が多く、個体 濃2号」では基肥量の少ない方で多く発生し、追肥 間差が認められた。25-30℃区では苗が徒長し、20- 量の多少による差は小さかった。また、舌出し果は 25℃区で収量は多かった。舌出し果の発生に及ぼす、 収穫開始期から発生し、7月までに集中していた(表 育苗期間中の温度の影響は認められなかった。 1-31) 。 エ 基肥の種類では、初期の溶出を抑えた夏秋ナス一 察 優良品種・系統の選抜 発肥料を用いた場合、舌出し果の発生はやや少なか 中長形に近い長形で赤紫色である「熊本長ナス」 表1-31 ヒゴムラサキ の収量特性に及ぼす基肥量及び追肥量の影響 表1-32 ヒゴムラサキ の舌出し果発生に及ぼす基肥の種類及び育苗温度の影響 74 系統と、長卵形黒紫色ナスである市販品種との 配 えた肥料を用いることで、舌出し果の発生が軽減で では、果皮色が濃く、伸長性に優れる傾向にあり、 「熊本長ナス」系統の戻し きると えられた。 配により、着色性及び低 担当研究者(古閑三恵 、森田敏雅) 温伸長性に優れた系統を作出することが可能と思わ れた。 4 栽培技術の開発 辛味の発現しない万願寺とうがらし品種の育成 と安定生産技術の開発 「ヒゴムラサキ」の夏秋栽培において、V字誘引 ア 研究目的 で一果重が重く主枝の着果数が多く、収量が優れ 京のブランド野菜「万願寺とうがらし」は、肉厚 た。垣根誘引では、収量性はV字誘引より劣った で甘くておいしく、消費者の高い人気を集めている。 が、受光体制が良いこと、節間長が伸びることなど しかし、栽培環境の影響で、時折激しい辛味を生じ から、作業性は向上する。誘引本数はどちらも、3 る果実が発生することがあり、大きな問題となって 本が適当と いる。そこで、ピーマン品種から辛味を抑制する遺 えられた。 2003年の結果から、8月中旬まで低温寡日照の年 伝子(劣性単一遺伝子)を連続戻し 配により「万 は、初期生育が早く草勢の強い「トルバム・ビガー」 願寺」に導入し、辛味の発現しない新品種を育成す 等で収量が多く、草勢が弱い台木品種で低収となる る。 と えられた。草勢維持は弱勢台木の方が容易で、 また、京都府内のトウガラシ産地では、連作によ 2004∼2005年の結果からは、「安濃2号」が「トル る疫病、青枯病の多発が産地の維持、発展上の大き バム・ビガー」よりやや多収であったことから、弱 な不安定要因となっており、 勢台木を用い、基肥量を N30kg/10a、1回当たりの 抗性台木に期待が寄せられている。そこで野菜茶業 追肥量を N2kg/10a とすると、舌出し果はやや発生 研究所で育成中の疫病・青枯病複合抵抗性台木「ト するが、収量及び秀品率が高く有望と えられた。 ウガラシ安濃3号」 「同4号」について京都府での有 舌出し果の発生は、定植時またはそれ以前の施肥 効性を検討するとともに、それらを利用した接木栽 や土壌中肥料成 に影響されると えられ、発生を 培技術を確立し、トウガラシ生産の安定化を図る。 抑えるためには、初期の溶出を抑えた肥料の施用が イ 研究方法 望ましいと思われた。 戻し オ 今後の課題 検討した。 「熊本長ナス」の食味・果形を維持し、着色性と低 連続戻し 温伸長性を向上させた系統の固定化。 配により得られた BC F 世代及 び BC F 世代について、葯培養により固定系統を作 栽培技術の開発 出した。 定植時期の施肥量や温度管理等について、舌出し 得られた固定系統から辛味がなく、 果実特性、 果を抑制する管理技術の構築。 栽培特性及び生産性の優れる系統を選抜した。 約 「トウガラシ安濃3号」 、「同4号」(以下「安 熊本長ナス系統と市販品種との F に熊本長 ナス系統を2回戻し 配の当代における辛味遺伝子型の判定 方法として連鎖マーカーの有効性を後代検定により 優良品種・系統の選抜 カ 要 合防除対策として抵 濃3号」 「安濃5号」と表記)及び「万願寺」の慣行 配し、自殖により採種した 台木「ベルマサリ」について、接木適期に至るまで BC F 系統より、着色性及び果実形質に優れる系統 の茎径の肥大を調査した。 を選抜し自殖種子を得た。 3月下旬∼4月上旬定植の「万願寺」と「伏 熊本県育成品種「ヒゴムラサキ」は、V字誘 見」について、それぞれ「安濃3号」と「安濃4号」 引で収量が多く、誘引本数は3本が適当である。台 の接木株の生産性を11月末まで調査した。 穂木は 「万 木は「トルバム・ビガー」で収量が多いが、舌出し 願寺」では在来系、 「京都万願寺1号」及び戻し 果が多肥料で発生しやすいことから、草勢の維持が 固定系統の BC5DH35系を、「伏見」では「伏見甘長 比較的容易で舌出し果の発生がやや少ない弱勢台木 とうがらし」(タキイ種苗)を用いた。 が適当と えられた。本圃の基肥に初期の溶出を抑 配 ポリポットで育苗した「万願寺」接木株(台 75 木「安濃3号」、「安濃4号」及び「ベルマサリ」)、 培養を行った。その結果、BC F 世代由来の倍加半数 「万 願 寺」自 根 株 及 び「伏 見」自 根 株 に、疫 病 菌 体40個体と BC F 系統由来でマーカー選抜により (Phytophthora capsici P-5株)、青枯病菌(Ralstonia 辛味なしと判定された倍加半数体38個体を得た(図 を接種して、発病株率・ solanacearum KP-99121株) 1-54)。 発病度を調査した。 2004年に BC F 及び BC F 由来の半数体倍 ウ 研究結果 加系統、各24及び35系統を栽培し、収量性、果実形 M inamiyama らが開発した辛味遺伝子連 状、草型、草勢等により BC F 由来の10系統を一次 鎖マーカーを用いて辛味遺伝子がヘテロ型として選 選抜した。さらに、2005年にこれらの10系統の系統 抜(図1-53)した、BC F 、BC F 及び BC F 世代の 栽培試験を行い、アントシアニン果の発生率、収量 各14、 10及び10個体について後代検定を行った結果、 性、果実形状を調査し(表1-33)、新品種候補として 全ての後代で辛味の有無が 3系統(BC5DH19、35、146)を選抜した。 離し、マーカー選抜の 有効性が示された。 幼苗の茎径肥大速度は「安濃3号」と「安濃 辛味なしとしてマーカー選抜した BC F 世 4号」がともに「ベルマサリ」より遅かった(表1- 代124個体を栽培し、有望と思われた11個体と、特に 34)。各台木・穂木とも接木活着率は高く、ピン接ぎ、 果実形状のよかった BC 個体(No.7-9-28)由来の 割接ぎともに100%活着した(データ略)。 「安濃3号」 BC F 系統を用いて、山口 らの無移植法により葯 と「安濃4号」に接木した「万願寺」と「伏見」の 図1-53 戻し 配当代における辛味遺伝子連鎖 マーカー(CAPS)のプロファイル M :万願寺ホモ型、H:ヘテロ型 図1-54 新品種の育成経過 表1-33 系統比較試験(5/19∼7/19) 76 表1-34 各台木幼苗の茎径肥大 おいて、2回目以降の戻し 配当代は果実形質等に おいて戻し親に近い表現型を示したため、遺伝的に どの程度戻し親に近づいているか判定が難しかった が、結果的には5回の戻し 配により、数パーセン ト程度と低いトウガラシの葯培養効率でも、戻し親 と同じ果実形質や栽培特性を示す固定系統が得られ ることが明らかとなった。 生産性・病害抵抗性に関する試験結果から、 京都府内産地のトウガラシ台木品種として「安濃4 号」が有望と 表1-35 接木株の生産性(可販果収量kg/10a) えられた。なお「万願寺」の台木と して「安濃4号」を 用する際には、1月播種では 「ベルマサリ」よりも10日∼14日程度早く播種する ことで、 「ベルマサリ」と同程度の茎径で接木が可能 になると えられた。 オ 今後の課題 新品種候補として選抜した3系統について、 品種登録出願のための系統・品種比較試験を行うと 共に、現地試験を開始し早期の普及を目指す。 「安濃4号」を「万願寺」と「伏見」の台木と して 用する場合、穂木からの PMMoV 感染時に 不親和を起こし枯死する危険性がある。そのため 「万 生産性は、慣行と同程度であった(表1-35) 。疫病・ 願寺」と「伏見」への PMMoV 抵抗性を付与する必 青枯病に関しては、発病を完全に抑えることはでき 要がある。 なかったが、「安濃4号」の複合抵抗性が優れた(表 カ 要 約 1-36) 。 エ ピーマンやトウガラシの品種育成において、 察 辛味の有無の判定に Minamiyama らが開発した 本研究では辛味遺伝子連鎖マーカーを利用し た連続戻し 辛味遺伝子連鎖マーカーが有効に利用できることを 配による辛味形質の改良を検討し、そ 明らかにした。また、この DNA マーカーを利用した の有効性を示した。しかし、辛味のない形質は劣性 連続戻し 配により辛味果実の全く発生しない「万 形質であるため、今後は南山 らの開発した辛味遺 願寺」固定系統を育成した。 伝子を挟む2種の DNA マーカーの育種利用を検討 する必要がある。また、今回の連続戻し 「トウガラシ安濃4号」は「万願寺」と「伏見」 配育種に の疫病・青枯病複合抵抗性台木として有望である。 表1-36 疫病・青枯病に対する抵抗性 77 キ 文 献 における無移植法の開発.園学雑.64 (別2) :28- 1) Minamiyama, Y., S. Kinoshita, K. Inaba and 29 M . Inoue (2005) Development of a cleaved 3) 南山泰宏、稲葉幸司、氷上涼子、木下紗矢香、 amplified polymorphic sequence (CAPS) 井上雅好(2004)辛くない万願寺トウガラシ育成 marker linked to pungency in pepper (Cap- のための辛味遺伝子座連鎖マーカーの開発.育種 sicum annuum L.). Plant Breeding. 124:288- 学研究.6(別1) :96 291 2) 山口和典、湯地 担当研究者(南山泰宏 、稲葉幸司、古谷規行、中澤 一(1995)ピーマンの葯培養 尚 、樫本紀博、橋本典久) 78 第6章 1 ネギの 地域特産ユリ科野菜品種の育成と高品質安定生産技術の確立 げつ要因の解明と非 げつ性ネギの効 植物生長調節物質の影響 率的選抜法の開発 a サイトカイニン関連物質 ア 研究目的 葉 径約8mm 根深ネギは遺伝的に低い のポット苗「小春」の根部の土を除去し、濃度40-1000 げつ特性を有するもの が多いが、生産場面では不時 μM のベンジルアデニン(BA)、キネチン溶液に24 げつの発生によって 時間浸漬した。 商品価値を損なう場合があり、非 げつ性は根深ネ b オーキシン、ジベレリン(GA)関連物質 ギの品種育成において重要な選抜要素のひとつとな 葉 っている。 げつ性は栽培環境によりある程度変動 し、図1-2に示す、7種類の植物生長調節物質に24時 するが、個々の環境条件の影響はほとんど明らかに 間浸漬した。試験a、bとも、処理終了後、苗をプ なっていない。本課題では、ネギの げつを促進す ランタに定植し、14週後に生育を調査した。 る外部要因を明らかにし、安定した非 げつ性を有 径約8mm のポット苗「小春」の根部の土を除去 GA による する品種を育成するための強選抜条件を選定するこ げつ促進効果 a 2004年試験 試験アと同じ4品種を供試 とを目的とする。 し、1.5および2.5か月齢のセル成型苗(葉 径それ イ 研究方法 ぞれ約2.8、4.6mm)に濃度0-200μM の GA 溶液 (セ 育苗条件の影響 ルトレイ当たり1.5L)を底面吸水で与え、3日後の 葉ネギ品種「浅黄系九条」、「小春」、根深ネギ品種 2004年5月27日に本圃に定植した。 「湘南」、「長悦」を供試した。2003年5月1日に200 b 2005年試験 セルトレイに播種した苗を、播種粒数 (1、3粒/ 育苗期間4水準(6、8、10、 12週間)と育苗セルサイズ2水準(128、200 )を セル)とトレイ下層への培養土追加の有無(2L/ト 組み合わせた生育程度の異なる苗「湘南」に対して、 レイ)を組み合わせた4種類の条件でガラス室で約 2005年6月2日に濃度100μM の GA を2004年試験 2か月間育苗し、うね幅1m、株間5cm で本圃に定 と同様の方法で処理し、4日後に本圃に定植した。 植した。 両試験とも、各処理区約100株を供試し、 げつの発 本圃での栽培条件の影響 生状況を経時的に調査した。 上記試験と同じ4品種を供試し、2003年5月1日 乾燥の影響 に200 セルトレイに播種し、 ガラス室で約2か月間 播種後6、9、12週間、72 (12週苗のみ)およ 育苗した。本圃での栽培条件として、株間3水準 び128 セルトレイで育苗した「湘南」に対して、2 (2.5、5、10cm、うね幅は1m)と施肥量2水準(N、 週間のかん水制限処理(1回/4日、期間中、計3回 P O 、K O をa当たりそれぞれ約2.4kg)を組み合 かん水)を行い、処理終了3日後の2005年5月30日 わせた処理区を設定した。肥料は緩効性肥料を全量 に本圃に定植した。かん水制限は全処理区で同時期 元肥で与えた。試験ア、イでは、各処理区約100株を に行い、対照区は毎日かん水した。各処理区90株を 供試し、10月上旬から11月上旬に生育を調査した。 供試し、 げつの発生状況を経時的に調査した。 施肥処理の影響 ウ 研究結果 1.5か月齢のネギ苗「小春」を川砂と市販培養土の 播種粒数および培養土の追加処理は、育苗中 等量混合土を詰めたプランタに定植し、定植6日後 の苗の生育には影響したが、 から水道水および大塚A処方1/2液をかん水する5 明確な影響はみられなかった(データ略) 。 種類の施肥処理、液肥(8週間)→液肥(10週間)、 げつの発生に対する 品種や施肥条件に関わらず、 げつ数および 液肥→水、水→液肥、水→水および施肥中断(液肥 株重は株間が広くなるほど増加し(表1-37)、株間は 8週→水3週→液肥7週)を開始した。各処理区16 げつの発生に大きな影響を及ぼした。株間の影響 株(8株/プランタ)を供試し、処理期間終了後に生 に比べると、施肥条件の影響は小さかった。 げつ 育を調査した。 数 と 株 重 と の 間 に は 正 の 相 関 が み ら れ(r= 0.42∼0.71)、 げつの発生は、 じて、栄養生長が 79 表1-37 本圃での栽植密度および施肥条件が 旺盛なほど促進される傾向がみられた。 げつの発生に及ぼす影響 ーキシン、アンチオーキシン、オーキシン移動阻害 株重は液肥→液肥区で最も重く、 施肥中断区、 剤はいずれも 水→液肥区では液肥→液肥区の約80%と生育はやや げつの発生を促進せず、むしろ、抑 制する傾向がみられた。 劣り、液肥→水区、水→水区では極端に劣った(図 2.5か月齢苗への GA 処理は4品種すべての 1-55) 。 げつ数は生育の旺盛な液肥→液肥区で最多 げつ開始時期を早め、収穫時の げつ数も 「長悦」 (3.9本)、水→水区で最少(2.1本) となり(図1-55)、 を除く3品種で有意に増加した(データ略)。 しかし、 一時的あるいは連続的な養 1.5か月齢苗への処理は、逆に、すべての品種の 欠乏はいずれも げつ の発生を促進しなかった。 つ発生を抑制した。 BA およびキネチン処理は 進したが、1つの葉 げつの発生を促 GA 処理時の苗の大きさを段階的に変えた試験で に2つの葉身をもつ双身葉や 1節から2個以上の腋芽が げ 化する多 は、GA の げつ促進作用は12週/128 、12週/200 げつなどの および10週/128 区では顕著に、10週/200 区およ 異常が多発した(データ略)。また、これらの処理は び8週/128 区では 葉の黄化、枯死などの障害を引き起こし、生育を抑 週/128 および6週/200 区ではほとんど発現しな 制した。 かった(図1-57)。GA 処理時の苗の生育は表1-38に 供試した7種類の植物生長調節物質のうち、 げ かに発現し、8週/200 、6 示す通り、育苗期間が長いほど、また、セルサイズ つの発生は GA 処理でのみ促進された(図1-56) 。オ が大きいほど優れ、効果の顕著な発現には、葉 径 5mm、株重7g 以上に生育した苗に GA を処理す る必要があった。処理により げつ株率が急増した 時期(処理7週後)は、GA 処理後に約5枚の葉が展 開した時期に相当し、定植頃のネギ苗が茎頂まで約 4枚の未展開葉を含むことを 慮すると、GA は処 理直後の茎頂に作用して腋芽形成を誘導したと 図1-55 図1-56 え げつの発生に及ぼす施肥濃度の影響 げつの発生に及ぼす植物生長調節物質の影響 図1-57 GAの 1) **Dunnett test,P≦0.01で対照区に対して有意 げつ促進作用と処理時の苗の大きさ との関係 差あり 1) ↓は、GA処理 80 表1-38 GA処理時の苗の生育 直接の要因ではないと えられ、乾燥や一時的な養 欠乏などのストレスが げつを促進する明確な証 拠は得られなかった。 オ 今後の課題 明らかにした げつ促進条件(本圃での広い株間、 GA 処理)の非 げつ性ネギの強選抜条件としての 有効性の検証および げつ発生機構における内生 GA の役割解明。 カ 要 約 られた。また、GA 処理は葉の伸長促進には作用せ ネギの げつを促進する外部要因を明らかに ず、株重の増加を抑制する傾向がみられた(データ するため、育苗条件、本圃での栽植密度、栄養条件、 略)。収穫時の対照区の 植物生長調節物質処理、乾燥、軟白程度、日長が げつ株率は育苗期間が長い ほど低く(図1-57) 、定植適期を過ぎた老化苗では げつの発生に及ぼす影響を調査し、本圃での広い株 げつの発生が抑制された。 間、GA 処理、サイトカイニン処理に明確な げつ促 72 セル/12週育苗区では、収穫時の げつ株 進効果があることを明らかにした。このうち、サイ 率はかん水制限により有意に増加したが、 げつは トカイニン処理では異常 かん水制限終了時の茎頂から5枚以上葉が 化した が、前2条件は非 げつ性品種育成の強選抜条件と 後に発生し(データ略)、かん水制限は腋芽形成の直 して有望と 接的な要因ではないと げつの発生が目立った えられた。 えられた。 128 セル育苗区 GA の げつ促進効果は処理時の苗の大きさ では、 げつ発生に対するかん水制限の明確な影響 に依存し、顕著な効果の発現には葉 径5mm、株重 はみられなかった。 7g 以上の苗への処理が必要であった。 エ 察 育苗期間が短く若苗を定植するセル育苗で ここに記載した条件に加えて、軟白程度、日長、 は、 げつ発生に及ぼす育苗条件の影響は小さかっ 苗の掘り上げ乾燥処理の影響も検討したが、明確な た。また、適期を過ぎた老化苗の定植は げつ促進効果を示した要因は、本圃での広い株間、 生を抑制した。 GA 処理、サイトカイニン処理の3つであり、このう ち、サイトカイニン処理は異常 げつの発 キ 文 献 げつの発生が目立 1) Suge, H. and H. Iwamura (1993) Effect of ち、非 げつ性ネギの強選抜条件には適さないと cytokinin and ancticytokinin on the tillering of えられた。本圃での広い株間は、旺盛な栄養生長と barley. Jpn. J. Crop Sci. 62⑷:595-600 ともに、 げつ性の異なる品種に対して安定した 2) 村井ら(1981)根深ネギの げつ要因について. げつ促進効果を示し、ネギ栽培における一般的な株 間より広い、5cm 以上の株間が と 千葉原農研報.3:21-42 げつ促進に有効 担当研究者(山崎博子 、山崎 篤) えられた。一般に、植物の腋芽生長にはオーキ シン、サイトカイニンの関与が示唆されている が、 2 光質制御・密閉ハウス育苗による 湘南ネギ の ネギでは GA に顕著な腋芽形成作用が示され、ネギ 作期拡大技術の開発 の形態に大きな差異を生む要因となっている げつ ア 研究目的 の発生機構に内生 GA が関与する可能性が示唆さ 「湘南ネギ」は、湘南地区を中心に11∼2月収穫の れた。 げつの発生には育苗条件の影響が大きいと 秋冬作型で60ha にわたる栽培面積がある 。品種は、 の報告がある が、これは育苗期間の長い地床育苗 旧神奈川県園芸試験場で1960年に育成した食味の良 での結果であり、育苗期間が短く若苗を定植するセ い「湘南」が栽培されてきたが、 げつ性で葉折れ ル育苗では、育苗条件の影響は小さいと が多いなどの作業性・商品性に関わる生育特性が最 また、乾燥条件が えられた。 げつの発生に影響するともいわ 近の市販品種に比べ劣ることなどから年々作付け面 れているが、本試験の結果では、乾燥は腋芽形成の 積が減少している。そこで、本県では、「湘南」に 81 比べ栽培上の諸特性及び商品性に優れた個体の集団 アンケートで市販品種より軟らかくておいしいとい 選抜により、実用性が高く、食味の良い根深ネギ新 う評価を得る とともに、葉 品種「湘南一本」を育成するとともに、収穫期の前 ターを用いた破断強度測定でも対照品種より低い破 進化による作期拡大と集客力の強化のための新商 断強度を示した(図1-58)。 品・新需要の開発に取り組んだ。 部の 度をレオメー 「湘南一本」の9月19日まき高温処理区では イ 研究方法 生育が早まり、6月中旬には収穫期を迎えたもの 「湘南」の母集団から、①葉身 長い、②葉身が 岐の間隔が く、真直ぐで細長い、③首の締ま りが良い、④収量性が高い、ならびに⑤食味が良い、 という特性を有する個体を選抜・集団採種すること により新品種「湘南一本」の育成を進めた。 「湘南一本」の収穫・出荷期間を拡大するた め、9月中旬から1月下旬まで1ヶ月ごとに播種・ 育苗し、それぞれ12月下旬から4月上旬にかけて草 30cm、葉 径2∼3mm 程度の大きさの苗を順次 定植するとともに、定植後は生育促進を目的に3月 8日までビニルトンネル被覆を行った。また、高温 処理による花芽 化・抽台抑制の可能性について検 討するため、引き続き5月6日までトンネル被覆を 行う高温処理区を設定した。 「湘南一本」 、 「さとの香」、 「わかさま黒」、 「冬 写真1-15 湘南一本 っこ」 、「小春」の5品種を、2003年4月4日に、90 cm 幅のベッドに条間15cm で6条まきし、播種後は 遠赤色光カットフィルム(YXE5、三井化学)及び対 照としてポリオレフィン(PO)フィルム(ユーラッ ク、みかど化工)を用いてトンネル被覆栽培した。 ウ 研究結果 「湘南一本」は、対照品種とした「湘南」及び 「石倉」と比較して、葉折れは少なく、葉 部は長 くて軟らかく、葉 岐・間隔が長い(首伸びが良 い)など優良な特性を有する(写真1-15)。特性検定 栽培における収量は「湘南」及び「石倉」より25% も多収で、葉 部の伸びが良く、軟白部は40cm に達 写真1-16 ほ場における生育状況 した。 げつ株率は「湘南」より低く、葉折れも顕 1) 左:湘南、 著に軽減された(表1-39、写真1-16)。また、消費者 2) 右:湘南一本 表1-39 湘南一本 の収量と生育特性 82 べて品種で顕著な葉 基部の肥大が認められた(写 真1-17) 。さらに「湘南一本」は,草 の伸長性も良 いことなどから、 葉ネギとして高い商品性を示した。 エ 察 今回育成した根深ネギ新品種「湘南一本」 は、神奈川県で1960年に育成した「湘南」の良食味 はそのまま維持し つつ、 げつしにくく、葉 部が よく伸び、葉折れも少ないなど新たな特性を有して いることが明らかになった。 図1-58 葉 「湘南一本」を10月中旬以降1月下旬までの の破断強度の品種間差 間に順次播種し、厳冬期∼早春に定植した後、5月 の、抽台株率は59%と極めて高く、実用には適さな 上旬までトンネル被覆すれば、7月上旬から11月ま かった。10月21日まきでは6月下旬には両処理区と で連続して収穫できることが明らかになった。さら も軟白部が30cm に達したが、抽台株率については に、これを従来の3月中旬まき・6月下旬定植の作 5月中旬以降露地区と高温処理区での差が顕著とな 型と組み合わせることによって、これまで11月から り、高温処理区では抽台が顕著に抑制された。11月 翌2月までの4ヵ月間の収穫・出荷期間を7月から 20日まきでも7月上旬には収穫期を迎え、高温処理 翌2月までの8ヵ月間へと2倍に拡大することが可 により顕著に抽台が抑制された。12月19日まきでは 能となった。また、ネギの花芽 両処理区ともほとんど抽台せず、1月20日まきでは 感応性ではあるものの、その抽台性は品種により大 全く抽台しなかった(表1-40) 。2004年3月9日にお きく異なる が、 湘南一本 においては、3月上旬 ける葉 径とその後の抽台株率との関係を調べたと における葉 径が6mm 以下であればその後ほと ころ、葉 んど抽台しないことが明らかになった。 径が6mm 以下であればその後ほとんど 抽台せず、逆に葉 径が7mm 以上の個体は高率で 化は緑色植物低温 都市農業の有利性を生かした直売が伸展する 抽台した。 なかで、集客力の強化のための新商品・新需要の開 「湘南一本」の春まき、初夏どり葉ネギとし 発が求められている。一般の葉ネギ用品種は、春ま ての利用可能について検討した結果、YXE5被覆区 き・初夏どり栽培すると、葉 では葉 基部の肥大に品種間差は認められなかった てしまうため、ワケギでは遠赤色光をカットするこ が、PO フィルム被覆区では、 「湘南一本」以外のす とにより鱗茎形成を抑制している 。しかし、 「湘南 表1-40 湘南一本 の収穫時における播種期別生育状況 83 基部が顕著に肥大し 写真1-17 遠赤色光カットフィルム(YXE5)とポリオレフィンフィルム(PO)でトンネル被覆栽培したときの 葉 基部の肥大状況 一本」は、葉 が長くて太く、さらに遠赤色光カッ トフィルムを わなくても葉 30年度神奈川県農業試験場そ菜試験成績書:1-2 基部は肥大しないこ 3) Yamazaki, A., K. Tanaka, M . Toshida and とから、極めて有望な葉ネギ用品種として利用でき H. Miura (2002) Induction of devernalization ることが明らかになった。 in mid-season flowering cultivars of Japanese オ 今後の課題 bunching onion (Allium fistulosum L.) by high 「湘南一本」の現地への普及を積極的に進め day temperature. J. Japan Soc. Hort. Sci. 69: る。 611-613. 育苗ハウスや簡易施設を利用した中ネギ栽培 4) Rabinowitch, H. D. (1990) Physiology of にも適用するなど、より多様な利用を目指した技術 Flowering.In Onions and Allied Crops.Vol.I.: 開発に取り組む。 113-134. J. L. Brewster and H. D. Rabinowitch カ 要 約 (eds). CRC Press, Boca Raton, Florida. 神奈川県で育成した根深ネギ品種「湘南」か 5) 山崎博子(2003)ワケギのりん茎形成制御およ ら、良食味の特性を維持しつつ、葉 部の伸長性向 びりん茎形成・休眠の生理機構に関する研究.野 上、 げつ及び葉折れなどが顕著に軽減された商品 茶研報.2:139-212 性の高いネギ品種「湘南一本」を育成した。 担当研究者(河田隆弘、高柳りか、深山陽子、北宜 この「湘南一本」を用いて作期拡大のための 裕 ) 作型開発に取り組んだ結果、10月中旬以降1月下旬 まで順次播種し、厳冬期∼早春に定植した後、5月 3 「九条」系等葉ネギの耐暑性関連要素の解明と 上旬までトンネル被覆すれば、7月上旬から11月ま 夏季安定生産技術の開発 で連続して収穫でき、従来作型と組み合わせること ア 研究目的 により、収穫・出荷期間が7月から翌2月までの8 「九条」系等葉ネギ生産では、夏季高温時の葉の ヵ月間へと2倍に拡大することができた。 伸長性低下や葉先枯れ症の発生が問題となる。本研 「湘南一本」は、春まき・初夏どりの葉ネギ栽 培において、遠赤色光カットフィルムを 究では、葉先枯れ症の発生要因や葉ネギの生長およ わなくて び葉先枯れ症の発生に及ぼす夏季の高温、強光ある も長くて太いなど葉ネ いは乾燥等の環境条件の影響について検討し、その ギ用品種としても利用できることが明らかになっ 結果の活用により夏季の安定生産技術の開発を目的 た。 とした。また、葉ネギの生育に及ぼす遮光や AM 菌 も葉 基部は肥大せず、葉 キ 文 献 接種効果の品種間差についても調査し、耐暑性関連 1) 北畠晶子(2002)ネギにおける消費者の意識調 査.神奈川県農業 要素の解明を試みた。 合研究所平成13年度試験研究 イ 研究方法 成績書(経営情報):45-46. 大 県別府市の水耕葉ネギ生産農家ならびに 2) 板木利隆(1955)根深葱の系統 離育種.昭和 福岡県朝倉町および八女市の葉ネギ生産農家で葉先 84 枯れ発生に関する聞き取り調査を行った。 期に栽培した葉ネギでは、梅雨期の6月に栽培した プランタ(645×230×185mm、八江農芸)お よび10.5cm プラスチックポット(培養土: ものと比べて葉面ワックス量は多かった(図1-59) 。 苗)に 遮光・ミスト散水条件下で栽培した葉ネギに蒸散抑 時期を変えて葉ネギ「冬っこ」および「夏作」を播 制剤を処理し、乾燥条件のガラス室に移したところ、 種し、ガラス室内で栽培した。約3ヶ月間栽培した 無処理のものに比べ、葉先枯れ症の発生率は低下し 葉ネギを4日間多湿条件下(定期的なミスト散水と た(表1-42)。 遮光)に置き、再び晴天日にガラス室に戻すことで 葉ネギ14品種を7月13日に播種したところ、 湿度を急変させた。ガラス室に戻して7日後に葉先 8月中下旬に伸長生長がほとんど停止した。この時 枯れ症の発生率を調査した。また、葉面ワックス量 期に葉 基部が肥大する品種(冬用品種)もあり、 は、葉身を100%クロロホルムに30秒間浸漬して溶解 夏季休眠に関係すると させた後、エバポレーターを用いて乾固させ重量を 基部の肥大はほとんど認められなかった(データ省 えられた。遮光区では葉 測定することで求めた。さらに、遮光・ミスト散水 (3回/日、3 表1-41 高湿度処理の開始時期と葉ネギの葉先 間/回)条件下で栽培した葉ネギに 枯れ症発生率 パラフィン水和剤およびワックス剤を処理し、乾燥 条件のガラス室に移して7日後に葉先枯れ症発生率 を調査した。 葉ネギ14品種を7月13日にプランタ(645× 230×185mm、培養土: 苗、八江農芸)に播種し、 遮光(黒寒冷紗、遮光率50%)および無遮光(対照) のガラス室内で栽培した。1週間に3回程度液肥 (OK-F-1、大塚化学、2,000倍液)を施与した。 ガラス室内で、葉ネギ「雷山」を288 セルト レイ(培養土:メトロミックス350、Scotts)に播種 表1-42 蒸散抑制剤を処理した葉ネギの葉先 し、プランタ(645×230×185mm、培養土: 苗、 枯れ症発生率 八江農芸)に移植するモデル的な栽培試験を行った。 AM 菌(Dr.キンコン、出光興産)を播種時(30g/1 L 培養土)あるいは移植時(1∼2g/株)に処理し た。育苗中は潅水をかねて液肥(OK-F-1、大塚化学、 1,000倍液)を施与した。 ウ 研究結果 聞き取り調査の結果、水耕栽培でも葉先枯れ の発生は問題になり、水耕および土耕栽培ともに梅 雨明け頃から多く発生し、特に曇雨天が続いた後の 晴天時に発生が顕著であるが、真夏は発生が少ない とのことであった。このことから、葉先枯れの発生 には湿度の急激な変化に対して蒸散の変化が対応で きないことが発生原因の一つと推定された。 ガラス室で栽培した葉ネギを高湿度条件下に 4日間置き、再び低湿度のガラス室に戻すことで湿 度を急変させると、7月上旬の梅雨期に栽培した葉 ネギでは葉先枯れ症の発生率が高かった(表1-41)。 しかし、8月上旬の盛夏期に栽培した葉ネギでは葉 図1-59 葉ネギの葉面ワックス量 先枯れ症の発生率は低かった(表1-41)。8月の盛夏 1)品種 夏作 85 略)。夏用品種では、「ジャワ夏ネギ」を除いて草 著しく低下した(表1-45)。潅水制限下でも、播種時 および乾物重の値は高かった(表1-43)。いずれの品 の AM 菌接種により 全葉数は増加し、先枯れ葉数 種でも、遮光により草 は減少した(表1-45) 。乾物重も地上部、地下部とも は伸長した (表1-43)。葉先 枯れ発生に及ぼす遮光の影響については一定の傾向 に増加した(表1-45)。 は見られなかった(表1-43)。 エ 播種時に AM 菌を接種したものでは、すでに 察 葉先枯れ症の発生は、空気湿度の急変に対し 定植時に生育促進効果が観察された(データ省略)。 て蒸散の変化が対応できないことが主な原因と 播種時あるいは定植時の AM 菌接種により、草 の られたが、夏季の高温乾燥時期に栽培した葉ネギで 伸長、 全葉数の増加、ならびに乾物重の増加等の は、空気湿度を急変させても顕著な葉先枯れ症の発 効果が認められた(表1-44)。 生は認められなかった。これは、生産現場において 約1か月間の潅水制限により、草 の伸長、 え 全 真夏に発生が少ないことと一致する。この理由とし 葉数、ならびに地上部および地下部の乾物重増加は て、夏季の高温乾燥条件下で栽培した葉ネギでは、 表1-43 遮光および無遮光下における生育状況 表1-44 葉ネギの生育に及ぼすAM 菌接種の影響 表1-45 葉ネギの生育に及ぼすAM 菌接種と潅水制限の影響 86 葉面ワックス量が増加することで空気湿度が急変し ても、葉先の水 4 が過度に減少しなかったためと推 光質制御によるワケギの夏季安定生産技術の確 立 察された。 ア 研究目的 M atsubara ら はネギのセル成型苗生産シ 広島県のワケギは、県南部の尾道市、三原市を中 ステムにおいて、AM 菌接種による育苗期間の短 心として約100ha、年間1.800t の生産があり、生産額 縮、活着力の高い 苗の育成、移植後の初期生育の は10億円に達している。従来の出荷時期は秋季から 促進を報告している。本研究においても、播種時あ 春季にかけてであったが、休眠打破技術の開発によ るいは定植時に AM 菌を接種することにより、生育 り夏季出荷(初夏どり:5月∼7月中旬出荷、夏ど が促進され、先枯れ葉数も減少した。このことから、 り栽培:7月下旬∼9月出荷)が可能になった。現 高温時の葉の伸長性の低下の問題に対して、AM 菌 在の夏季出荷栽培は面積約12ha、生産量150t、生産 の接種は有効であると えられた。また、遮光によ 額1.2億円であるが、夏季の出荷物は、りん茎が肥大 る葉先枯れ症の防止効果は認められなかったもの し商品性が劣り収量も少なく、市場からは現在の3 の、夏季高温時の草 倍程度の出荷量を望まれている。そこで、夏季出荷 の伸長促進に有効であると えられた。 の安定のため、光質条件とりん茎肥大の関係を明ら オ 今後の課題 かにし、りん茎肥大を抑制する光質制御技術を確立 葉先枯れ症の発生予防には、水管理等で穏や するとともに、その効果を高める土壌水 かなストレス付与し、葉面ワックス量を増加させる ことが有効な手段の一つと 管理技術 の適正化を行う。 えられるが、その制御 さらに、初夏どり栽培用の種球生産においては、 方法の確立には到らなかった。次年度以降に葉面ワ 種球の充実肥大前の2次生育期に掘り上げ、これを ックス量の制御について検討する予定である。 種球として用いるため生育不良が生じ、生産が不安 被覆資材の利用等による夏季高温時のストレ 定である。そこで、初夏どり生産をさらに安定させ ス緩和技術の開発についてさらに検討する必要があ るため、良質種球生産のためのりん茎の肥大充実を ると えられる。 促す電照栽培技術を確立する。 カ 要 約 イ 研究方法 梅雨期の栽培期間中に高湿度から低湿度へ空 光質制御と土壌水 管理の適正化による夏季 気湿度を急変させると、葉先枯れ症が発生するが、 安定生産技術 盛夏期にはほとんど発生しなかった。盛夏期に栽培 a 光質制御による夏季安定生産技術 りん茎 した葉ネギでは梅雨期に栽培したものと比べ葉面ワ の肥大を抑制する光条件を明らかにするため、R (赤 ックス量が多く、この葉面ワックス量の増加により 色光600∼700nm)/FR(遠赤色光700∼800nm)比と 盛夏期の葉ネギでは空気湿度が急変しても葉先枯れ 紫外線(200∼380nm)の有無並びに遮光率とりん茎 症がほとんど発生しないものと 肥大の関係について検討した。さらに、これらの結 えられた。 AM 菌接種による葉ネギの生育促進効果を 果を基に適する光質制御資材を検索し、現地での実 確認した。また、灌水制限下でも、播種時の AM 菌 接種により 証を行った。 全葉数は増加し、先枯れ葉数は減少し b 土壌水 管理の適正化 適正な土壌水 管 た。遮光による葉先枯れ症の発生抑制効果は認めら 理を明らかにするため、土壌の乾燥に伴う 合部径 れなかった。 の日変化特性を把握し、強い水ストレスを与えない キ 文 献 土壌水 張力を検討した。さらに、ワケギの蒸散、 1) Matsubara, Y. E. Suzumura and H. Fukui 蒸発の基礎特性を把握すると共に1回のかん水量を (2002) Application of arbuscular mycorrhizal 検討した。 初夏どり栽培用の良質種球生産技術 fungi to plug seedling system in Welsh onion.J. Japan. Soc. Hort. Sci. 71⑵:203-207 担当研究者(壇 りん茎の肥大を促し、充実した種球を生産するた 和弘 、大和陽一) めの電照栽培技術を明らかにするため、処理時の光 源、光質および光量、暗期中断の時間、時間帯およ 87 び開始時期を検討した。さらに、好適な栽植密度、 判断した。 温度管理方法および水ストレス付与時期を検討し 畦面の光強度(PPFD、光合成有効光量子束密度) た。 を、0.5∼1.2μmol・m ・s 以上とすることで慣行 ウ 研究結果 の5月に掘り取る種球生産と同等の肥大指数2.5に 光質制御と土壌水 管理の適正化による夏季 達した。 安定生産技術 電照処理時の日長と暗期中断時間について、15時 a ワケギのりん茎肥大は、遠赤色光および紫 間以上の日長でりん茎の肥大指数および乾物率が大 外線の抑制により低下した。適切な遮光率は30%で きく高まった。また、3時間の暗期中断で15時間日長 あった。現場における市販の被覆資材としては、遠 と同等の効果が得られ、電照時間の短縮と深夜電力 赤色光、紫外線および熱線を抑制できる資材(商品 の利用により83%の電気代の削減が図られた。 名メガクール、M KV プラテック株式会社)が有効で さらに、暗期中断の時間帯は深夜電力内の23: あり、現地でもその効果を確認した(図1-60、写真 00∼5:00の3時間とし、開始時期は1月1日(掘 1-18) 。 り取り80日前)が適当であることを明らかにした。 b 土壌水 管理の適正化について検討したと また、栽植密度は、3月植えでは1111株/a(条間30 ころ、 合部径の日変化から強い水ストレスを与え cm×株間30cm)とすることが可能(従来の種球生産 ない 土壌の乾燥状態は、−0.049MPa(pF2.7)以 667株/a) であり、最低気温は、12月10日から2℃以 上を1日以上経過させないことであり、かん水開始 上に保つことにより生育量が約30%増加することを 点を−0.0061Mpa にすることで蒸散による 明らかにした(図1-61、写真1-19、1-20、1-21) 。 合部 径の収縮を上回る回復、肥大が確認された。さらに、 1日当たりの蒸散量は、晴天日で2.2mm、蒸発量は 2.5mm であり、1回あたりのかん水量は、7 mm 以 上必要である。 りん茎肥大を促し種球を充実させるための電 照時の光源として、R/FR 比の低い白熱電球が効果 的であった。さらに、LED での遠赤色光の付加で効 果が促進されたが、コスト面から白熱電球で充 と 図1-61 種球生産における掘り取り時のりん茎肥大と 植え付け後の(初夏どり栽培)の株重 1)株重:3、4、5月植えの平 値 2) 英小文字を付した数値間には、Tukey法で有意差 あり 図1-60 夏どり栽培におけるりん茎の肥大指数と株重 写真1-19 従来のりん茎の肥大 従来 光質制御区 写真1-18 夏季栽培におけるりん茎肥大 写真1-20 電照制御したりん茎の肥大 88 オ 今後の課題 上記の開発技術について、普及組織を通して現地 との連携を密に行い、マニュアルを作成・配布する とともに、所内主催の成果発表会、ワケギ技術部会、 広報紙、ホームページ等で本技術を紹介することに より、速やかに技術を移転する必要がある。 カ 要 約 夏季栽培において紫外線、遠赤色光および熱 線の透過を抑制することでりん茎肥大が抑制され、 日射量を30%遮光するのが適当である。生産現場で の実用化技術としては、光質制御資材(商品名メガ クール、MKV プラテック株式会社)が有効である。 写真1-21 初夏どり栽培の生育 また、土壌水 エ 察 管理については、かん水開始点を -0.0061M pa(pF1.8)とし、かん水量を7mm/回と 夏季栽培では、慣行の白寒冷紗被覆に比べ、 するのが適当である。 遠赤色光と熱線および若干の紫外線の透過を抑制す 初夏どり栽培用の良質な種球生産のための電 るメガクールを被覆することにより株重を約50%増 照方法は、白熱電球を地表面から高さ1.5m に設置 加させ、りん茎の肥大を抑制(肥大指数1.7以下)出 (地表面の PPFD1.0∼1.5μmol・m ・s 、90W 、 来ることが明らかとなった。このことは、寺 が報 25球/a)し、1月1日(掘り取り80日前)から3: 告しているように遠赤色光が光形態形成反応により 00∼6:00の3時間の暗期中断(電気代4千円/a) りん茎肥大を促進するためと とする。また、栽植密度を834株/a (条間30cm×株間 えられる。また夏季 での熱線の抑制による地温の低下などの複合的な効 40cm)とすることが可能(従来の種球生産667株/a) 果により得られた結果と であり、温度管理は12月10日から最低気温を2℃以 えられる。 初夏どり栽培用の種球生産における電照技術 上とする。 は、日長反応を利用したりん茎の肥大促進効果であ キ 文 献 り、約2ヶ月の種球収穫の前進を可能とした。また、 1) 寺 元一(1978)赤色光と遠赤色光混合による その際の光質もりん茎肥大に対して重要な要因と タマネギ、ワケギ及びニンニク肥大.神大農研報. えられ、遠赤色光がりん茎の肥大に促進的に作用す 13:1-6 ることが明らかとなった。 担当研究者(川口岳芳 、房尾一宏) 89 第7章 1 地域特産アブラナ科野菜品種の育成と高品質安定生産技術の確立 アブラナ科野菜のグルコシノレートの迅速評価 りである。機種:島津 LC-10Avp、検出器 SPD-10 法の開発と種・品種間差異の解明 Avp 波長237nm、カラム:Beckmann Ultrasphere ア 研究目的 C18 Ion Pair(5μm,4.6×250mm)と同ガードカ アブラナ科植物のグルコシノレート(含硫芥子油 ラム、温度45℃ 、溶離液:B液(MeOH)とA液(5 配糖体)とイソチオシアネートには抗ガン作用をは mM テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素水溶 じめ、多様な生理機能がある。そこで種・品種によ 液)のグラジェント(0.01 B12%、20 B34%、 るグルコシノレート種類・組成比の差異、貯蔵や調 35 B34%、35.01 B12%、45 B12%) 、流速1.0 理加工の収穫後処理による変動を明らかにするた mL/min、注入量5または10μL。また揮発性イオン め、その迅速定量法マニュアルを作成する。また根 ペアを用いる HPLC 条件は機種、検出波長237nm こぶ病抵抗性との関係を明らかにする。 及びカラム条件は前記に同じ、温度35℃ 、溶離液: イ 研究方法 B液(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有 MeOH) イオンペア HPLC によるインタクトなグル とA液(0.1%トリフルオロ酢酸水溶液)のグラジェ コシノレート測定条件 ント(0.01 B0%、10 B0%、25 B25%、40 a グルコシノレート含有試料の調製法と精 B50%、40.01 B0%、55 stop)、流速0.8mL/ 製・回収する条件 min 材料はグルコシノレートの種類が既知のアブラナ 測定法マニュアルの作成とその品種・鮮度別 科植物種子と貝割れ大根胚軸などの計31品目の55点 の品質評価への適用 余 を 供 試 し た。そ の 約100mg ず つ を 採 り、内 生 a ダ イ コ ン 根 部 か ら4-M ethylthio -3- myrosinase の失活処理(乾燥器100℃24hr)を行い、 butenyl(以下 MTB)グルコシノレート( 冷却後、乳鉢で摩砕して 子量418、同K塩1水和物は475)の単離・精 末とした。これを10mL 容 のネジ付きガラス試験管に移した。グルコシノレー ト抽出は種子 製法とイオンペア HPLC 条件 末に2mL の MeOH を加え、密栓し MTB-グルコシノレートの抽出:ダイコン根先 て2 間超音波処理を行い、その上澄を回収した。 端部600g を約1cm 角に切断し、約50g づつをナス なお、貝割れ大根胚軸は直接 MeOH に浸漬し、ガラ 型フラスコの沸騰 EtOH 中に入れ、還流冷却器を付 ス棒で摩砕して抽出し、以下は同様の操作を行った。 け80℃15 間、加熱した。冷却後、ホモジナイザー グルコシノレート含有画 で摩砕、ろ過液を集め、減圧濃縮、これに蒸留水を 先端に装着した陰イオン は5mL 容ガラス注射筒 換樹脂( 換容量79.2 加え、遠心 離して上清88mL のグルコシノレート μeq/360mg、Sep-Pak plus QMA 以下同じ)に通 含有水溶液を得た。この一定量を Cosmosil 75C18- してグルコシノレートを吸着させ、5mL 以上の脱 OPN 充塡カラムクロマトにかけ、0.1% TFA 含有 塩水で洗浄した。次いで2.5mL の0.3M 硫酸カリウ 10% MeCN 水溶液で数 mL づつ ム水溶液でグルコシノレートを脱着・溶出させ、回 グルコシノレート画 収した。これを0.2または0.45μm フィルターろ過し 縮後、再び同5% MeCN 水溶液で同様に て 析試料とした。グルコシノレートを QMA に吸 した。これを凍結乾燥して MTB-グルコシノレート 着させ、精製・回収する試験は4.5mg シニグリン/5 を得た。HPLC 機種と検出器は前記に同じ、波長227 mL 水を吸着させ、5mL の水で洗浄、次いで0.3M nm、カラム:Inertsil C8-3(3μm,4.6×150mm) 硫酸カリウム水溶液を0.5mL ずつ、4.5mL まで順 と同ガードカラム、検出波長227nm、温度35℃ 、溶 次、通過させてシニグリンを脱着・回収して HPLC 離液:A液(0.1% TFA 水溶液)+B液(0.1% TFA 定量して行った。 含有 MeOH 液、A:B、9:1、v/v)流速1.0mL/ b イオンペア HPLC 条件(不揮発性または揮 発性イオンペア試薬を min、注入量1∼20μL 用) 不揮発性イオンペア試薬を用いる条件は次のとお 90 画した。MTB- は HPLC で確認し、集めて濃 画回収 b ダイコン及びその市販調理・加工品におけ タネなど品種により組成比が変動した。種子などか る MTB-グルコシノレート含量の測定 らグルコシノレート混合標準液を作成して 析した 切干、たくあん、浅漬、煮物など一定量2∼20g を (図1-62左)。 ナス型フラスコの沸騰 MeOH 中に入れ、80℃30 また TFA を用いて種子など混合物(標準物質含 間、加熱した。冷却後、ホモジナイザーで摩砕、100 有)の相互 mL に定容、この液を0.2μm フィルターろ過して イムプログラム( b参照)も開発した(クロマト HPLC に注入。 略)。 異なるハクサイ根こぶ抵抗性品種のグルコシ 離が可能な溶離液のグラジェント・タ ダイコンのグルコシノレート定量については ノレートの品種間差異の解明 石井ら のイソチオシアネートに変換後、 GC 測定す ハクサイ根こぶ抵抗性品種「ス−パ−CR ひろ黄」 る報告がある。また同標準物質調製法は Visentin と罹病性品種「無双」を水耕、ポット及び圃場栽培 ら が陰イオン して種子、根、若葉のグルコシノレート含量を比較 る。ここでは生ダイコン先端部から MTB-グルコシ 測定した。 ノレートの凍結乾燥物(純度92%以上) 、収量約1% ウ 研究結果 既往の 換樹脂を用いて単離精製してい (w/w)を得た。その水溶液中の UV 最大吸収波長 析法は石井 らの研究では酵素ス は227nm 付近であった。本 HPLC 法は1点 析時 ルファターゼでデスルホグルコシノレートに変換 間を従来よりも1/4以下の10 に短縮した(図1-62 後、HPLC 右)。 析であったが、煩雑な酵素処理に長時 間を要し、迅速性に欠けた。また標準物質がシニグ 本法 による 検量線 は3∼60μg の範 囲で成立し リン(Singrin)以外は入手困難であった。そこでイ た。本法でダイコン調理・加工品の MTB-グルコシ オンペア HPLC 法を検討した。標準物質の調製及び ノレート 析した結果、切干は製造方法によるバラ 抽出・精製法では QMA にシニグリンを吸着回収す ツキが大きく、浅漬、カクテキや煮物でも検出、た る試験で、溶出用0.3M 硫酸カリウム水溶液量が2.5 くあんは微量か不検出であった。 mL で94%回収率に達した。各種アブラナ科植物種 ハクサイ根こぶ抵抗性品種「スーパー CR ひ 子と胚軸など13品目が14種のグルコシノレート同定 ろ黄」と罹病性品種「無双」のグルコシノレート含 に 用できた(表1-46)。その単独の組成比が37%以 量を比較した結果、抵抗性品種では種子、細根+根 上で単純かつ既知物質であれば標準物質となる。そ 毛、若葉、成熟根のいずれの部位でもフェニルエチ の同定・確認は myrosinase 粗酵素を試料に添加し ルグルコシノレート(gluconasturtiin)含量が罹病 て HPLC ピーク消滅で行った。なお、キャベツ、ナ 性品種よりも高かった。また罹病性品種「無双」へ 表1-46 アブラナ科植物に見出された主要グルコシノレ−トの種類と組成割合 91 図1-62 アブラナ科植物から抽出したグルコシノレート及び切干大根のイオンペアHPLC 1) (左図ピーク番号は表1-46参照) の根こぶ病菌(野菜茶研・安濃菌1×107胞子/mL 濃 カ 要 約 度)接種試験では対照(無接種)区に比べて、株当 グルコシノレートの迅速 析法として従来よ たり2mL 接種により葉と根にお ける glucobras- りも短時間で簡 sicin 及び gluconasturtiin 含量が高まる傾向があっ た。また標準物質として種子などが 用できること た(データ略)。 を明らかにした。 エ 察 なイオンペア HPLC 法を開発し 本法を用いてグルコシノレートについて種・ グルコシノレートは硫酸基を持ち、水溶液中 品種間差異、ダイコン調理加工品やハクサイ根こぶ で 酸 性、空 気 中 で 吸 湿 性 を 示 す た め、精 製 物 は 抵抗性品種間差異を明らかにした。 0.1∼1%水酸化カリウム水溶液を用いて化学形態 キ 文 献 (中性)k塩として乾燥状態保存する。特にダイコ 1) 石井現相(1990)農林水産技術会議事務局・食 ンのグルコシノレートは pH5付近の水溶液中でも 品 合研究所編.食品品質評価のための品質特性 徐々に 測定法マニュアル⑵⑶:82-98、55-60 解 が 進 む。イ オ ン ペ ア 試 薬0.1% TFA (pH1.9)は耐強酸性カラムの選定と、特に極性低 子量グルコシノレート種相互の 度傾斜の緩和)が重要と 2) 石井現相(1991)農林水産技術会議事務局編. 離条件(MeOH 濃 食品品質成 えられた。 の 析・測定技術による食品の品質 評価法の開発に関する研究.研究成果.256:52- 析試料調製は内生ミロシナ−ゼ失活処理、 タンパク質など夾雑物の除去を行い、陰イオン 64 換 3) Ishii ら(1989)A quantitative determination 樹脂にグルコシノレートを吸着させ、水洗後、硫酸 of 4-methylthio-3-butenyl glucosinolate in dai- カリウム水溶液で溶出・回収するのが簡 kon roots by gas liquid chromatography.園芸 であった。 根こぶ病菌接種で根肥大の植物ホルモン、イ 学雑誌.58⑵:339-344 ンド−ル酢酸の前駆物質の一つ glucobrassicin 含 4) Visentin ら(1992)Isolation and Identification 量が罹病性ハクサイ品種で高まる傾向がみられ、ま of trans-4-(Methylthio)-3-butenyl Glucosinolate た抵抗性品種では抗菌性イソチオシアネ−トの前駆 from Radish Roots(Raphanus sativus L.). J. 物質 gluconasturtiin 含量が高かった事実は Ludw- Agric. Food Chem. 40:1687-1691 ing-M uller ら のようにハクサイの罹病性が特定 グルコシノレート代謝と関与していると 5) Ludwing-Muller ら(1997)Glucosinolate con- えられ tent in susceotible and resistant chinese cab- た。 bage varieties during development of clubroot オ 今後の課題 disease. Phytochemistry. 44⑶:407-414 標準物質の単離精製法を今回用いた逆相系ク 担当研究者(石井現相 ) ロマト以外に疎水系樹脂などについても検討を加 え、純度と収率をあげる。 グルコシノレートと病害抵抗性との関係を育 種や生理 野と幅広く検討を行う。 92 2 近赤外 光法によるアブラナ科野菜の食物繊 b スペクトル測定 維、硝酸含量及び辛み度評価法の開発 試料中間部の400∼1100nm の原スペクトルを非 ア 研究目的 接触および接触測定し、各重回帰式を開発した。 アブラナ科野菜の栽培面積および生産量は多い c ダイコン辛味成 が、減少傾向にある。生産物の品質をアピールする ガスクロマトグラフを の定量法 って4-メチルチオ-3-ブ ことが消費の拡大に有効であるが、葉根菜類におい テニルイソチオシアネート(M TBITC)を定量した。 て、迅速かつ非破壊的に品質計測する手法開発は遅 なお、標品はダイコンから精製した。 れている。一方、近赤外 物の品質成 光法を利用すると、農産 ウ 研究結果 を迅速かつ非破壊的に計測可能であ ダイコン る。そこで、近赤外 光法によるアブラナ科野菜品 食物繊維の重回帰式において、独 立変数として原スペクトルの552、688、400及び684 質成 の非破壊計測法を開発する。 nm の吸光度を採用した結果、白色のダイコンでは イ 研究方法 実測値と推定値との相関係数は0.94 (n=19)で 食物繊維 あった(図1-63)。ただし、検量線作成用試料に含ま a 材料 れない赤色に着色したダイコンは大きな誤差を発生 市販および所内ビニルハウスで栽培した白色のダ した。 イコンを供試した。 辛味ダイコン硝酸イオンの重回帰式の独立変 b スペクトル測定 数として、可視波長域の利用も検討し、2次微 試料中間部の可視及び近赤外短波長域 (400∼1100 ス ペクトルの560nm の吸光度及び乾物に関連する波 nm)のスペクトルを非接触測定し、非破壊計測用検 長の吸光度(計4波長)を採用した結果、計79試料 量線(重回帰式)を開発した。 において、非接触測定では実測値と推定値との相関 c 食物繊維の定量法 係数は0.82 、一方、接触測定(従来法)では実測 AOAC 法に準じた。 値と推定値との相関係数は0.75 であり、従来法よ 硝酸イオン りも新たに提案する非接触測定法の方がやや精度の a 材料 良い計測が期待された。560nm は硝酸カリ水溶液に 市販および所内ビニルハウスで栽培した辛味ダイ おいても濃度との相関が高かった。チンゲンサイ葉 コン、チンゲンサイ及びコマツナを供試した。 柄硝酸イオンの重回帰式において、独立変数として b スペクトル測定 2次微 辛味ダイコン試料中間部の400∼1100nm の原ス スペクトルの514nm 及び乾物に関連する 波長の吸光度(計4波長)を採用した結果、実測値 ペクトルを非接触および接触測定(従来法)した。 と推定値との相関係数は0.77 (n=112) であった。 チンゲンサイでは葉柄の500-1000nm のスペクトル 514nm の代わりに、辛味ダイコンにおいて採用した を非接触測定した。コマツナでは葉を直径32mm の 560nm を コルクボーラーで切り抜いて、近赤外長波長域 (680 度の推定精度(相関係数=0.76 )であった。514nm -2500nm)を中心に表と裏のスペクトルを測定した。 付近は硝酸カリ って重回帰式を作成した結果、ほぼ同程 末およびチンゲンサイ葉柄の2次 各野菜ごとの重回帰式を開発した。 c 硝酸イオンの定量法 汁液を希釈後、ダイコンは RQflex2(Merk)、チ ンゲ ンサ イ 及び コマ ツナ は カ ード式 イオ ン電極 (Horiba, C-141)を って定量した。 辛味成 a 材料 市販および所内ビニルハウスで栽培したダイコン を供試した。 図1-63 ダイコン 93 食物繊維の実測値と推定値の関係 微 スペクトルにおいて明瞭なバンドが観察され、 硝酸カリ水溶液濃度との相関も認められた。外から 第1∼4葉を 析した場合、第4葉の推定値は実測 値よりも高くなりやすく、小さい試料の場合に第4 葉はそれよりも外側の葉に隠されてしまうので測定 が困難であった。また、外側の葉程、実際の硝酸イ オン濃度が高い傾向があるので、推定値が低くなり やすい高濃度域を避けるために第1及び2葉の は避けた方が良いと 析 えられた(図1-64)。これらの 結果から、外から第3葉を 析することが推奨され 図1-65 コマツナの硝酸イオン含量の実測値と推定値 た。チンゲンサイ葉柄(外から3枚目)の色彩測定 との関係 値(ハンター L,a,b)と硝酸イオン実測値との相関 係数は、それぞれ−0.65 、0.04、0.22であり、本法 ペクトルの470、926、476、680nm の吸光度を採用し による推定値との相関係数(0.91 、n=13)より た結果、計80試料において、実測値と推定値との相 低かった。このように、チンゲンサイ硝酸イオンの 関係数は0.84 (図1-66)であり、接触測定(従来 非破壊計測において、色彩測定よりも可視近赤外 法)した場合よりも若干良い推定精度が得られた。 光法の方が有効であることが明らかとなった。 また、 476nm は乾物との相関が認められ(0.60 、n=17) 、 測定部位濃度と全体濃度との相関が高い(実測値及 同4波長の吸光度とグルコシノレート含量との間に び推定値との相関係数はそれぞれ0.90 、0.76 、 相関が認められた(0.76 、n=17)。白色ダイコン n=15)ことが明らかとなった。コマツナ硝酸イオ 試料のスペクトルにおいて、680∼690nm はバンド ンの重回帰式を検討した結果、独立変数として正規 間の谷に相当する部 化した原スペクトルの738、2102、2138、2206nm が エ 選択され、実測値と推定値との相関係数は0.78 であった。 察 赤色に着色したダイコンで大きな誤差を発生 (n=118)であった(図1-65)。葉の表と裏では推 したのは、可視波長域におけるアントシアンの吸収 定精度における優劣が明らかではなかった。 同4波長 が影響したためであると で硝酸カリ水溶液濃度との相関も認められた。 また、 えられた。 新たに提案する非接触測定法が硝酸イオンの 2番目に大きい葉の測定部位と全体の濃度との相関 は高い(実測値及び推定値との相関係数はそれぞれ 0.85 、0.67 、n=13)であった。 ダイコン辛味成 の重回帰式の独立変数とし て可視波長域の利用も検討し、非接触測定した原ス 図1-64 硝酸イオンの実測値と推定値との関係 図1-66 ダイコン辛味成 (チンゲンサイ葉柄) (非接触測定) 94 の実測値と推定値との関係 推定精度を改善したのは、補正項である炭水化物に contact mode with a fiber optic probe. Near 関する情報の推定精度が改善されたためと えられ Infrared Spectroscopy. NIR publication 発行: た(Ito et al., 2001) 。 859-862 ダイコン辛味成 の検量線は乾物や辛味成 2) 岡野ら(1990)ダイコン品種の辛味成 含量. の配糖体であるグルコシノレートの情報を利用をし ていると 園学雑.59⑶:551-558 えられた。岡野 らの報告では、乾物と辛 担当研究者(伊藤秀和 、堀江秀樹) 味成 との間に正の相関が報告されている。 オ 今後の課題 3 実用化を進めたいが、可視波長域も利用して いるので、安価かつ高性能な ためには 高香気性根こぶ病抵抗性ヒロシマナ品種の育成 ア 研究目的 光光度計を利用する 広島県の特産であるヒロシマナは漬物に加工さ 用しているソフトウエアやハードウエア れ、広島菜漬として土産、贈答品として利用されて の改良が必要である。 いる。しかし近年、主要産地では根こぶ病が問題と 実用化を進めたいが、可視波長域も利用して いるので、安価かつ高性能な なっており、産地の維持が危うい状況である。広島 光光度計を利用する 県では根こぶ病抵抗性品種に取り組んできた結果、 用しているソフトウエア等の改良が必要 根こぶ病抵抗性品種「CR 広島1号」を育成した 。 である。また、本課題で検討してきたように試料特 しかし、本品種は香りが弱い欠点があるため、本形 定部位の非破壊計測法開発だけでなく、試料全体の 質の改良が要望されている。そこで、香りの強い在 スペクトルを測定して非破壊計測できるシステムを 来系統と根こぶ病抵抗性品種「CR 広島1号」を 構築することが望ましい。硝酸イオン非破壊計測時 して、根こぶ病抵抗性をもち、香りを高めた品種を の基礎的な知見を明らかに出来たので、今後はホウ 育成する。 ためには レンソウやコマツナ個体全体を非破壊計測できるよ 配 イ 研究方法 うに基礎的検討を継続し、他方でチンゲンサイやセ ヒロシマナの主要香気成 であるイソチオシ ロリ等濃度の高い野菜におけるモデル的実用化を進 アネート(ITC)2種(3-ブテニル ITC、4-ペンテ める予定である。 ニル ITC)の 実用化を進めたいが、可視波長域も利用して いるので、安価かつ高性能な ためには について検討した。供試部位は外葉と中心葉を比較 光光度計を利用する し、 析時期は中心葉を用いて9月下旬定植後の日 用しているソフトウエアやハードウエア 数別に ITC 含量を測定した。ITC はヘキサン抽出 の改良が必要である。 カ 要 析を行うために供試部位と 析時期 法を用い、ガスクロマトグラフィーで定量した。 約 ダイコン 根こぶ病抵抗性で香りの強い系統を作出する 食物繊維の非破壊計測の可能性を ために「CR 広島1号」と産地の在来系統を 明らかにすることが出来た。 配し、 自殖第2世代を作出した。488系統の自殖第2世代に 辛味ダイコン、チンゲンサイ及びコマツナに ついて根こぶ病抵抗性をセルトレイ底面給液法 に おいて、硝酸イオンの非破壊計測の可能性及び非破 より幼苗段階で調べ、根こぶ病抵抗性を有する系統 壊計測時の基礎的な知見を明らかにすることが出来 を選抜した。さらにこの選抜系統を圃場で栽培し、 た。また、チンゲンサイ硝酸イオンの非破壊計測に 外観 の優れる系 統に ついてヒロ シマ ナの主要な おいて、色彩測定よりも可視近赤外 光法の方が有 ITC の含量を測定し、高含量系統で集団 効であることを明らかにした。 た。母株毎に採種した集団 ダイコン辛味成 の非破壊計測の可能性及び 根こぶ病抵抗性検定と ITC 非破壊計測時の基礎的な知見を明らかにすることが 選抜し、集団 出来た。 キ 文 集団 献 配を行っ 雑第1世代について、 析により優良系統を 配を行って形質の固定を図った。 雑第2世代の育成系統について根こぶ 病抵抗性を幼苗検定により確認後、産地である広島 1) H. Ito, et al. (2000) Non-destructive estima- 市安佐南区の根こぶ病常発圃場で栽培して根こぶ病 tion of soluble solids in intact melons by non- 抵抗性の現地評価を行った。また、育成系統ならび 95 に「CR 広島1号」の ITC 含量を測定し、漬物加工 後の食味官能評価を行った。 ウ 研究結果 ITC の測定部位では、外葉より中心葉で含量 が安定して高かった(図1-67) 。また、定植後の日数 では定植61日目に顕著な蓄積が認められ、栽培後半 に高まった(図1-68)。 488系統の自殖第2世代から根こぶ病幼苗検 定で抵抗性を示した48系統を選抜し、さらに圃場で の栽培試験で外観特性が優れる30系統を選抜した (図1-69)。これらの ITC 含量を 析した結果、選抜 系統の ITC 含量は「CR 広島1号」と比べて3-ブテ 図1-69 高香気ヒロシマナの育成の流れ ニ ル ITC で0.1∼5.0倍、4-ペ ン テ ニ ル ITC で 0.4∼3.3倍の幅であった(図1-70)。さらに系統内の 個体数を増やして 析を行い、含量が安定して高い 5系統を選抜して集団 配により集団 雑第1世代 の種子を得た。集団 雑第1世代についても根こぶ 病抵抗性検定と ITC 析を行い、優良な母系を選抜 して集団 雑第2世代の種子を採種し、育成系統と した(図1-69)。 育成系統(集団 雑第2世代)の根こぶ病抵 抗性を幼苗検定法で調べた結果、「CR 広島1号」並 図1-70 自殖第2世代の系統別ITC含量 みであった。さらに、ヒロシマナ産地の根こぶ病常 発圃場での栽培試験では、対照品種であるT社の広 島菜が草 、葉数、株重において著しく生育不良を 示したのに対し、育成系統は根こぶ病抵抗性品種 「CR 広島1号」と同様に正常な生育を示した(写真 1-22、表1-47)。根こぶ病の発生状況については、対 照品種ではすべての株で病徴程度3、「CR 広島1 号」の数株で病徴程度1の根こぶが確認されたのに 図1-67 部位別のITC含量 対し、育成系統では根こぶは確認されなかった(表 1-47)。また、育成系統の ITC 含量は、3-ブテニル ITC および4-ペンテニル ITC ともに「CR 広島1 号」の約2倍であった(図1-71)。育成系統の漬物加 工後の食味官能評価は、味覚、香気、 合評価にお いて「CR 広島1号」より優れる結果となったが、外 観については育成系統でゴマ症が発生したこともあ り、劣る結果となった(表1-48)。 エ 察 ヒロシマナの香気成 図1-68 定植後の栽培日数とITC含量 96 量を的確に調べるため 写真1-22 根こぶ病常発圃場での生育状況 表1-47 育成系統の根こぶ病抵抗性 には、株の中心葉で測定し、少なくとも定植後60日 程度経過した株を用いる必要がある。 自殖第2世代の ITC 含量は系統間でかなり のバラツキがあり、中には 配親として用いた在来 系統の3∼5倍程度の ITC を含む高含有系統も存 在していた。このことは在来系統及び「CR 広島1 号」が ITC 含量について系統・品種内でも個体間差 が大きかったことから、不 に起因すると 一な集団どうしの 配 えられる。 育成系統(集団 雑第2世代)は根こぶ病常 発圃場での栽培試験で発病しなかったことから、根 こぶ病抵抗性系統の選抜に用いたセルトレイ底面給 液法は、 精度が高く有効な方法であると えられる。 また、自殖第2世代の ITC 含量は、系統間での差が 大きいが、自殖第2世代と集団 る2回の系統選抜と集団 図1-71 育成系統のITC含量 雑第1世代におけ 配により、「CR 広島1 号」の2倍量の ITC を有する系統を育成でき、食味 表1-48 育成系統の食味評価 97 官能評価においても香り形質の改善が図れた。 性の固定化を行う。さらに、根こぶ病菌の病原性の オ 今後の課題 異同に連鎖する DNA マーカーを作出する。 育成系統の県内産地全域への普及について、産地 イ 研究方法 数箇所での試験栽培あるいは産地別の根こぶ病菌を 接種検定に供試した根こぶ病菌には、2001年 用いた検定で、本系統の根こぶ病抵抗性を確認する 度に種苗会社及び富山県より収集した15種類の根こ 必要がある。また、育成系統の一部でゴマ症が発症 ぶ病菌株 (No.1∼15) 、野菜茶業研究所の標準菌株で したが、本系統の栽培条件、施肥条件などについて ある、Wakayama-01菌、結城-01菌、六戸-01菌及び 検討しておく必要がある。形質の安定性を確認した 。 Ano-01菌を用いた(Kuginuki ら 、Suwabe ら ) 上で平成19年度での品種登録申請を目指す。 供試品種には、市販 CR ハクサイの F 18品種、罹病 カ 要 約 性ハクサイ品種「無双」及び抵抗性カブ(GelriaR、 根こぶ病抵抗性品種「CR 広島1号」の香りを強く Siloga、Debra、Novitas)を用いた。Yoshikawa するために、「CR 広島1号」と在来系統と 配を行 の病土挿入法により接種検定を行った。 い、自殖第2世代を作出した。その後、セルトレイ 抵抗性を固定化するために、No.5菌を用いた 底面給液法による根こぶ病抵抗性検定とガスクロマ 接種検定と選抜個体の自殖を繰り返し行った。また、 トグラフィーでの ITC Sato ら の方法に従って小胞子培養を行い、CR ハ 析による系統選抜、集団 配を2回繰り返すことによって、「CR 広島1号」の クサイ品種からの doubled haploid(DH)系統の作 約2倍の ITC 含量を有する系統を育成できた。本系 出を行った。 統は、食味官能評価においても香り形質の改善が認 病原性グループ特異的な DNA マーカーを作 められ、産地の根こぶ病常発圃場においても「CR 広 出するために、RAPD マーカーの STS 化を行った。 島1号」並みの抵抗性を示した。 すなわち、梅林ら の方法に従って根こぶ病菌休眠 キ 文 献 胞子液からゲノミック DNA を抽出した。RAPD バ 1) 重本直樹(2002)根こぶ病抵抗性ヒロシマナ品 ンドを pCR2.1ベクター(Invitrogen)にクローニン 種「CR 広島1号」 (仮称)の育成.近畿中国四国 グし、両末端の部 塩基配列を決定した。得られた 地域における新技術.2:119-120 塩基配列情報からプライマーを設計した。根こぶ病 2) 吉本 (1997)セルトレイ底面給液によるハ 菌 DNA の検出には、Ito ら の PBTZ-3 (5-CCAC- クサイ根こぶ病菌密度の簡易検定法.近畿中国地 GTCGATCACGTTGCAAT -3)、PBTZ -4(5- 域における新技術.32:42-46 GCTGGCGTTGATGTACTG-3)を用いた。 担当研究者(重本直樹 、渡邊弥生、甲村浩之、 ウ 研究結果 下修司、塩田俊) 病原性の異なる結城−01菌と六戸−01菌を用 いて市販 CR ハクサイの F 18品種のスクリーニン 4 新たな根こぶ病菌株の判別法と高度抵抗性ハク グを行い、判別品種として利用可能な「スーパー CR サイ類育種素材系統の開発 ひろ黄」 を見いだした。本品種と Kuginuki ら で報 ア 研究目的 告された「隆徳」の2品種を判別品種に用いること 根こぶ病はアブラナ科野菜の連作により激発する により、日本には少なくとも4つの病原性グループ 難防除土壌病害である。ヨーロッパ由来の飼料用カ が存在することが明らかになった 。すなわち、日本 ブを抵抗性育種素材として、多数の根こぶ病抵抗性 各地より収集した15種類の根こぶ病菌は、両品種が (CR)ハクサイ品種が育成されたが、ハクサイ主要 罹病する菌(グループ1)、「隆徳」のみが罹病する 産地で CR 品種が発病する事例が増加しており、原 菌(グループ2) 、「スーパー CR ひろ黄」のみが罹病 因の一つとして、病原菌の病原性 化が する菌(グループ3)及び両品種が罹病しない菌(グ えられて いる。本課題では、罹病化に対応した新たな根こぶ ループ4)の4つのグループに 類された(表1-49) 。 病高度抵抗性ハクサイ類育種素材系統を育成するた また、No.5菌は、検定に供試した全ての市販 CR ハ めに、全国の CR 品種を侵す菌の病原性の クサイ品種が罹病する強病原性の菌株であることが 類、異な る病原性を示す菌を用いての育種素材の選抜、抵抗 わかった。 98 表1-49 「スーパーCRひろ黄」と「隆徳」を用いた根こぶ病菌の病原性 抵抗性素材カブの選抜には、宿主範囲の最も 類 マーカーを明らかにしている。本研究では、これら 広い No.5菌を用いた。Siloga と Gelria R について RAPD マーカーの部 は、選抜と自殖を2回進めた系統を育成した。選抜 行った。その結果、グループ1とグループ3の菌株 第2代について3回目の接種検定を行ったところ、 DNA(No.5、No.2、No.14)から明瞭なバンドが GelriaR では、全ての供試個体で全く根こぶが形成 得られる STS マーカー(G13-STS)とグループ3の されず、ほぼ抵抗性が固定されていると 菌株 DNA(No.2、No.14)から明瞭なバンドが得 えられる 塩基配列を決定し STS 化を 選抜系統(5S2GelriaR-5-1)が得られた(表1-50)。 られる STS マーカー(G3-STS)を作出することに 平 成功した(図1-72)。 発病指数が0で、根部の肥大程度が小さい個体 を選抜し、自殖種子を採種すると共に、ハクサイ品 種との戻し エ 察 配を開始した。Siloga の選抜系統で 本研究では、市販 CR ハクサイ F 品種「スー は、選抜第2代において若干の発病個体がみられ固 パー CR ひろ黄」と「隆徳」を判別品種として利用す 定は不十 えられた。Debra と Novitas る新たな根こぶ病菌の病原性判別法を開発した。本 については2回目の選抜を行い、現在自殖種子を採 法によって、日本には少なくとも4つの病原性グル であると 種している。 「スーパー CR ひろ黄」 と「ス CR ハクサイ F 品種、 ーパー CR 黄味85」より DH 系統を育成した。一部 の DH 系統について複数の菌株を用いて接種検定 を行ったところ、「スーパー CR ひろ黄」と同様の抵 抗性反応を示す系統、同一グループの2種の菌株に 対して異なる抵抗性反応を示す系統、No.5菌に対し て抵抗性を示す系統などが得られた。 梅林ら は、富山県由来の3種類の菌株と、本 研究課題において収集した12種類の菌株を用いた RAPD 解析を行い、本研究で明らかにした4つの病 図1-72 病原性グループに特異的なSTSマーカー 原性グループのうち、グループ1とグループ3の菌 A:Ano-01菌、W:Wakayama-01菌、C:ハクサイ 株、グループ3の菌株、それぞれに特異的な RAPD DNA、PBTZ:根こぶ病菌検出用マーカー(Itoら ) 表1-50 抵抗性素材カブ(Gelria R、Siloga)選抜系統のNo.5菌に対する発病程度 99 ープが存在することが明らかになった。また、4つ キ 文 献 の病原性グループのうち、グループ1とグループ3 1) Kuginuki, Y., et al. (1999) Eur. J. Plant の菌株を識別可能な DNA マーカーが得られてお Pathol. 105:327-332 り、これらの技術を組み合わせることにより、発病 圃場における根こぶ病菌の病原性 2) Suwabe,K.,et al. (2003) Theor. Appl. Genet. 化に対応した 107:997-1002 CR 品種選定、CR 品種育種、耕種的防除技術の開発 につながるものと 3) Yoshikawa, H. (1981) In Chinese cabbage, えられる。 (Talekar, N.S. and Griggs, T.D., eds.), pp.405- No.5菌を用いた素材カブの選抜では、2回の 413, AVRDC, Tainan, Taiwan. 選抜と自殖を行った GelriaR 選抜後代から安定し 4) Sato, S., et al. (2002) Breed. Sci. 52:23-26 て抵抗性を示す系統を育成したが、Siloga 選抜後代 5) 梅林智美ら(2004)園学雑.73(別2) :151 では固定が不十 6) Ito,S.,et al. (1997) Physiol. Mol. Plant Pathol. であった。Siloga 後代で固定が進 まない理由の一つとして、1回目の選抜に供試した 50:289-300 個体数が少なく抵抗性遺伝子の一部が欠落している 可能性が 7) Hatakeyama, K., et al. (2004) Breeding Sci- えられる。本研究では1回目の選抜に20 ence. 54:197-201 個体を供試したが、さらに多くの個体を集団から選 担当研究者(畠山勝徳 、鈴木徹、佐藤隆徳、吉秋 抜する必要がある。 斎、石田正彦) 判別品種と同様の抵抗性反応を示す DH 系 統、同一グループ内の2種の菌株に対して異なる抵 5 富山県特産赤カブの根こぶ病防除栽培技術の開 抗性反応を示す DH 系統を育成することができた。 発 これらは新たな病原性判別系統として利用できる。 ア 研究目的 オ 今後の課題 富山県の中山間地域では、特産の漬け物用として 判別品種は F1品種であるため、抵抗性遺伝子 赤カブが栽培されているが、長年の連作のため根こ を固定した汎用性のある判別系統を育成する必要が ぶ病が発生し、栽培上重大な問題となっている。そ ある。 「スーパー CR ひろ黄」については同様の抵抗 こで、圃場の根こぶ病汚染状況を簡易に判断できる 性反応を示す DH 系統は得られたが、 「隆徳」につい 判別法を開発し、その汚染程度に対応した防除法を ては小胞子培養が困難なため DH 系統を育成でき 取れるようにする。また、おとり作物、移植栽培、 なかった。自殖後代からの選抜を進めている。 薬剤防除等の耕種的防除法の効果的活用方法を検討 No.5菌に対して安定して抵抗性を示す素材 し、現地赤カブ栽培に適した防除体系を選定し実証 カブ系統が育成できたので、これを用いた強度抵抗 する。 性ハクサイ系統の育種を進める。固定が進んでいな イ 研究方法 い素材カブ系統についても、選抜と自殖を繰り返し、 固定化を進める。 カ 要 簡易な根こぶ病汚染土壌評価法の検討 a 約 子生物学的手法を活用した病原性判別法 富山県内4地域より採取した根こぶ病罹病組織か 市販 CR ハクサイ F 品種「スーパー CR ひろ ら精製した菌液の病原性を判別するため、ハクサイ 黄」と「隆徳」を判別品種とした根こぶ病菌の病原 を判別品種(畠山 による)に用い、病土挿入法で検 性判別法を開発した。 定した。また、その4菌株から DNeasy Plant Mini 検定供試品種の全てが罹病する強病原性の kit(キアゲン社)で抽出した根こぶ病菌 DNA(富 No.5菌を見いだした。 ①∼④)を RAPD 解析に用いた。プライマーは、 No.5菌に対して、安定して抵抗性を示す素材 Operon 社の10-mer kit 530種(OPA01∼AB20)を カブ系統を育成した。 用した。さらに、病原性グループ(畠山 による) 一部の病原性グループに特異的な DNA マー が明らかな15菌株(野茶研より12菌株 カーを開発した。 譲)を用い、 多型が認められたプライマーによる RAPD パター ンと病原性グループとの関連を検討した。 100 b 検定植物による根こぶ病の発病予測 低菌密度から罹病する判別しやすい検定植物の選 定及び安定した結果が得られる検定法を検討した。 アブラナ科作物を中心に54種類を供試し根こぶ病菌 に対する発病程度を調査し、その中から発病率の高 い品種を用い、休眠胞子密度 102∼105(個/g 乾土) の4段階の土壌を作成し発病程度を調査した。 また、 検定法の実用性を評価するため、この検定法を用い 図1-73 RAPD結果 1)レーン1∼4:菌株富①∼④ 現地赤カブ栽培予定圃場の土壌から発病程度を予測 2)プライマー:OPL14 し、土壌採取後の赤カブ「飛驒紅かぶ」栽培(薬剤 無処理)時の発病程度を聞取り調査した。 で安定的に多型バンドが得られる37種プライマーを 各種耕種的防除技術の効果的活用方法の検討 選定した。その37種プライマーで15菌株の RAPD 解 根こぶ病激発圃場において、おとり作物、太陽熱 析を行ったところ、野茶研での病原性判別において 消毒、薬剤施用を組み合せた処理区を設け「飛驒紅 同一の病原性「グループ3」に 類された3菌株を かぶ」を用い発病調査を行った。2004年5月27日に 識別可能なプライマーが8種類認められた(表1- 耕起・畝立て(畝幅150cm)し、その後はトラクター 51)。同様に「グループ1」に 類された「野⑤」菌 耕起せず各処理を行った。各処理方法は、①おとり 株を識別可能なプライマーが7種類、「グループ3」 作物:葉ダイコン「CR-1」を6月3日播種、7月23 と「グループ1」を識別可能なプライマーが7種類 日除草剤(グルホシネート液剤)処理。②太陽熱消 明らかとなった(表1-51)。 毒:7月30日∼9月6日の期間、透明ポリマルチ(厚 b ミズナ品種「京みぞれ」、ナバナ品種「早 さ:0.05mm)被覆。③薬剤施用:播種前にフルスル 陽1号」、ノザワナ、カブ品種「早生大蕪」は休眠 ファミド 剤、3kg/a 土壌混和。④移植栽培:9月 胞子密度10 個/g 乾土以上で発病が見られた。富山 3日播種(200 セルトレイ) 、9月22日定植。赤カ 県内の根こぶ病菌には異なる病原性を持つ菌株が確 ブ 栽 培 時 施 肥 量 は N -P O -K O=1.5-1.5-1.5 認されたが、上記の検定植物はいずれの菌株にも罹 (kg/a) 。9月6日播種(2条、株間15㎝)。試験規 病性を示し、菌株の違いによる影響は見られなかっ 模は1区12m 、3反復。 た。ミズナ、ナバナは ウ 研究結果 全株の場合、根部はほとん ど肥大しないが、罹病株では著しく肥大した。 簡易な根こぶ病汚染土壌評価法の検討 検定植物の栽培は、直径約6cm の底面から給水 a 富山県採取の4菌株はそれぞれ異なる病原 する素材のポットに圃場の作土を8 目まで詰め、 性を示した。また、4菌株の RAPD 解析で多型が認 その上にバーミキュライトを2∼3mm の厚さに められたプライマーは81種で193個の多型バンドが なるよう入れ、種子を5粒播種しバーミキュライト 観察された(図1-73)。多型が認められたプライマー で覆土し、その後は底面給水で約40日管理すること については、試験を2回行い再現性を確認し、明瞭 により、再現性の高い結果が得られた(図1-74) 。採 表1-51 RAPD解析で各パターンの多型が認められたプライマー数 101 表1-52 検定植物発病率と圃場での赤カブ根こぶ病 発病程度の比較 図1-74 検定植物栽培模式図 取した土壌で検定植物に根こぶ形成が認められた場 合、採取圃場における赤カブ栽培でも根こぶ病の発 「薬剤」 で1%水準で有意差がみられ、太陽熱消毒の 病が認められた(表1-52)。 効果が高く、薬剤処理と同程度の効果が認められた。 主に根くびれ病による根部異常株発生率は、 また、太陽熱消毒は商品化率向上にも大きく影響し 太陽熱消毒を行った区で低く、おとり作物栽培区で 高くなる傾向が見られた(表1-53)。根部異常株を除 ていた(表1-54) 。また、発病度、商品化率ともに、 「太陽熱」「薬剤」処理間に有意な二次 互作用が認 外した場合の根こぶ病発病程度を比較したところ、 められた (表1-54)。移植栽培は、商品化率が全処理 無処理区の発病率95%、発病度78に比べ、いずれの 区でほぼ9割以上となり高い防除効果が認められ 区も低くなり、商品化率は高かった(表1-53) 。「お た。 とり」 、「太陽熱」、 「薬剤」処理の効果を 散 析し エ 察 た結果、根こぶ病発病率では、「薬剤」のみに5%水 RAPD 解析により、15菌株間の DNA 多型と 準で有意差が認められた。発病度では、 「太陽熱」、 病原性グループとの関与が示唆され、一部病原性グ 表1-53 防除法の違いが赤カブ商品化率、根こぶ病及び根部異常株発生に与える影響 表1-54 各要因が処理効果に与える影響 102 ループについては RAPD 解析により判別が可能で 病予測については、 子生物学的手法を活用し、よ あると思われた。 り低密度を判別できる方法の開発が望まれる。 根こぶ病はその菌密度が低い場合でも、環境条件 発病予測と、様々な圃場条件、気象条件下で により多発することがあるため、低密度での検定法 の各防除法による発病程度のデータを蓄積し、関連 が求められているが、開発した検定法(図 1-74)は、 付けることが必要。 休眠胞子密度10 個/g 乾土以上で発病が見られ、栽 カ 要 約 培管理や発病の判断も容易である。この方法で検定 菌株間の DNA 多型と病原性との関与が示唆 植物に根こぶ形成が認められた場合、圃場における され、一部ではあるがその病原性タイプを判別でき 赤カブ栽培でも根こぶ病が発病する可能性が高く、 る RAPD プライマーを明らかにできた。 赤カブの栽培前の根こぶ病罹病土壌の診断に活用で 栽培予定圃場の土壌を底面から給水する素材のポ きると思われた。 ットに入れ、ナバナ、ミズナ等を検定植物とすれば、 根こぶ病多発圃場において、赤カブの根こぶ 土壌中の休眠胞子の密度が10 個/g 乾土以上の低密 病被害を軽減し商品化率を向上させるには太陽熱消 度から検定が可能で、根こぶ病の発病予測が可能と 毒の効果は高いと思われた。また、移植栽培は安定 なる。 した効果が期待できるものの作業性が悪く、おとり 根こぶ病多発圃場において、赤カブの根こぶ 作物は、圃場条件、気象条件によっては防除効果が 病被害を軽減し商品化率を向上させるには太陽熱消 低い場合もあることから、活用場面を 毒は有効であり、移植栽培も安定した効果が期待で える必要が あると思われた。 きる。 オ 今後の課題 キ 文 献 病原性判別 STS 化プライマーの作成により 1) 畠山勝徳(2005)ハクサイ根こぶ病菌の病原性 土壌からの判別法への発展や、各病原性グループの 判別法.農業技術.60:267-271 特性を明らかにする必要がある。栽培予定圃場の発 担当研究者(梅林智美 、金森 夫、北田幹夫) 103 第8章 新たな土壌微生物評価手法を利用した有機質資材施用畑の微生物性の 解析ならびに土壌病害抑制技術の開発 1 生化学成 の 析による有機質資材施用畑の土 コマツナ連作に伴う土壌微生物相の変動解析 壌微生物相の解析と微生物指標の策定 プランターに東北農業研究センター畑地利用部圃 ア 研究目的 場の土壌(淡色黒ボク土)をつめ、1作目は施肥量 土壌微生物は施肥や作付体系等の影響を受け現存 を変えてガラス温室にてコマツナ( 「楽天」:タキイ 量(バイオマス)や種類構成(フロラ)を変化させ 種苗)を栽培した。2作目以降は同一の施肥・栽培 る一方、これらを介して作物生育に直接・間接に影 条件でコマツナを栽培した。各作付け後の土壌を採 響している。野菜の持続的な生産のため土壌微生物 取し、リン脂質脂肪酸を抽出後、GC/MS により測定 の重要性は認識されているが、従来の培養法では土 した。 壌微生物の全体像を評価するのは困難である。 近年、 土壌中の生化学成 ウ 研究結果 (リン脂質脂肪酸やキノン等) 2003年から2005年の栽培終了後に土壌中のリ を測定し、その量から土壌微生物バイオマスとフロ ン脂質脂肪酸の含量および組成を測定すると、土壌 ラを推定する方法が開発されてきた。そこで、本研 バイオマスと相関のあるリン脂質脂肪酸含量は有機 究では、それら生化学成 の解析により、有機質資 物投入量の影響を最も受け、有機物の種類にかかわ 材の施用と土壌微生物の変動との関係を明らかに らず多量施用区で高い傾向にあり、化成肥料区では し、土壌微生物性の診断指標となり得る要因を摘出 低い傾向にあった。有機物の種類やマルチの有無の しようとした。さらに、連作に伴う土壌微生物相の 影響は認められなかった(図1-75)。リン脂質脂肪酸 変動を解析し、有機質施用圃場の結果を併せて 察 の組成の中で、糸状菌バイオマスとの高い相関が認 することにより、土壌微生物性の新たな診断指標策 められている18:2 ω 6、9の全リン脂質脂肪酸に 定のための基礎資料とする。 しめる含有率(mol %)は、化成肥料区で顕著に高 イ 研究方法 い傾向にあり、有機物施用区では全般に低かった。 有機物施用による土壌微生物相の変動解析 リン脂質脂肪酸の含有率(mol %)をもとに計算し a リン脂質脂肪酸 た多様性指数(Simpson 指数:1/D (種多様度を示す 近畿中国四国農業研究センター野菜部の連用試験 指数であり、値が大きいほど各種の個体数が近く、 圃場(細粒質褐色低地土)を供試した。この圃場は 多様であることを示す))は有機物連用区で高く資材 1992年秋作より有機物を連用しており、施用有機物 投入量が多いほど高い傾向にあり、化成肥料連用区 はいなわら牛ふん堆肥とおがくず豚ぷん堆肥であっ では低い傾向にあった。リン脂質脂肪酸組成に基づ た。対照(化成肥料区)には CDU 化成(15-15-15) き主成 を施用した。標準施用量は窒素全量で180kg ha と 用区の間の微生物相の明確な差異は認められなかっ した。試験区には無マルチ区とマルチ区(シルバー たが、化成肥料区と有機物施用区には明確な相違が 析した結果、牛ふん堆肥と豚ぷん堆肥施 ポリフィルム)を設け、2000年まで年2回のダイコ ン作付けを継続し、その後、タマネギ−エダマメ作 付体系に移行した。2003年から2005年のタマネギ作 およびエダマメ作後の土壌を採取し、荒尾ら の方 法に基づきリン脂質脂肪酸を抽出後、GC/MS によ り測定した。 b キノン aと同じ圃場の2004年のタマネギ作およびエダマ メ作後に、栽培跡地土壌を採取し、Hiraishi ら の方 法に基づきキノンを抽出し、HPLC の PDA 検出器 図1-75 有機物連用圃場のリン脂質脂肪酸含量 にて測定した。 2003年∼2005年の平 104 図中のbarは標準偏差を示す 認められ、その相違は主成 1に認められた。主成 1に関与しているリン脂質脂肪酸として、有機物 施用区側ではグラム陰性菌の指標となる16:1 ω 5や18:1 ω 7及び放線菌の指標となる10Me17: 0などが、化成肥料区側では糸状菌の指標となる 18:2 ω 6、9や18:1 ω 9及び細菌に共通して 認められる16:0や18:0が認められた。 キノンの含量は、リン脂質脂肪酸と同様に有 機物の多量連用区で高い傾向にあったが、リン脂質 図1-77 糸状菌の指標リン脂質脂肪酸割合の推移 脂肪酸の場合と異なり牛ふん堆肥区に比べ豚ぷん堆 平 肥区で高く、施用有機物の違いでキノン含量に差異 糸状菌の指標リン脂質脂肪酸(18:2ω6、9) が認められた(図1-76)。化成肥料区に特徴的な要因 図中のbarは標準偏差を示す 土壌EC(dS m-1) L:0.3 M :0.9 H:1.3 として、ユビキノン含有率(mol %) 、特にユビキノ ンの Q7と Q10の含有率(mol %)が高いことが認 められたが、リン脂質脂肪酸の18:2 ω 6、9含有 率や多様性指数の低下のような明確な傾向は認めら れなかった。 連作土壌のリン脂質脂肪酸含量は作付に伴い 横ばいもしくは増加する傾向にあった。糸状菌の指 標リン脂質脂肪酸(18:2 ω 6、9)の含有率は、 作付回数とともに増加する傾向にあり、その傾向は 土壌 EC が高いほど顕著であった (図1-77)。さらに、 図1-78 リン脂質脂肪酸組成に基づく多様度指数の リン脂質脂肪酸組成の多様性(シンプソン指数1/D) は作付とともに低下した(図1-78) 。 エ 推移 平 察 土壌EC(dS m-1) L:0.3 M :0.9 H:1.3 図中のbarは標準偏差を示す 有機物施用は、土壌バイオマスを増加させる ことが一般的に知られており、土壌バイオマスと相 化成肥料連用区でリン脂質脂肪酸組成の多様性低下 関のあるリン脂質脂肪酸含量も、有機物施用区の投 も認められた。微生物多様性の低下とリン脂質脂肪 入量の多い区で高くなったと思われる。糸状菌の指 酸組成の多様性低下は同義ではないが、同様の現象 標リン脂質脂肪酸の割合が化成肥料施用で増加して が反映されていると思われる。化成肥料区は13年間 いる理由としては、化成肥料の連用により土壌が細 も有機物を施用していないため有機物施用区に比 菌型から糸状菌型になったためと思われる。また、 べ、pH の低下や作物収量の低下等が生じ、土壌環境 が悪化していると推察される。糸状菌の指標リン脂 質脂肪酸の割合の増加とリン脂質脂肪酸の多様性の 低下の2項目が土壌微生物性の新たな診断指標とし て有望であると思われる。 キノンは、豚ぷん施用区で牛ふん施用区よりも顕 著に高い傾向が認められたが、バイオマスとの相関 はそれほど高くないために、そのような傾向が認め られた可能性もある。詳細な理由に関しては、今後 の検討が必要である。 コマツナの連作に伴い、土壌中の糸状菌の指 図1-76 有機物連用圃場のキノン含量 2004年の平 標リン脂質脂肪酸の割合が増加し、リン脂質脂肪酸 図中のbarは標準偏差を示す 105 の多様性が低下した。コマツナの連作に伴いコマツ り詳細な微生物相の変動解析を行う必要がある。 ナの生育は低下していくため、土壌環境は悪化して カ 要 約 いることが推定される。有機物連用圃場の化成肥料 区の結果と併せて リン脂質脂肪酸の解析の結果、有機物の多量 察すると、糸状菌の指標リン脂 施用区でリン脂質脂肪酸含量が多い傾向にあった。 質脂肪酸の割合の増加とリン脂質脂肪酸の多様性の 糸状菌の指標リン脂質脂肪酸である18:2 ω 6、9 低下は、有機物を施用していない条件下での土壌微 の含有率(mol %)は化成肥料区で顕著に高く、有 生物性の新たな診断指標ととして有望である。鈴木 機物連用区では比較的低い傾向にあった。リン脂質 ら は連作障害を土壌微生物、とくに作物根面の微 脂肪酸の含量(mol %)の多様性指数(Simpson 指 生物フロラとの関連で概説し、連作に伴い細菌型か 数:1/D)は有機物連用区で高く、資材投入量が多い ら糸状菌型への移行と糸状菌フロラの単純化がみら ほど高い傾向にあった。 れ、この現象は 全根面が細菌型、不 全根面が糸 連作土壌の糸状菌指標脂肪酸の含有率は、作 状菌型であるという一般的傾向と一致するとしてい 付けとともに増加する傾向にあった。加えて、リン る。これらは培養法に基づいた土壌微生物解析の結 脂質脂肪酸組成の多様性(シンプソン指数 1/D)は 果であるが、培養によらないリン脂質脂肪酸の解析 作付けとともに低下した。これらが、土壌微生物性 によっても同様の結果が導き出され、リン脂質脂肪 の新たな診断指標となる可能性が示唆された。 酸を解析することで、土壌生物性の良否を解析でき キ 文 献 る可能性が示唆された。さらに、作物生育と多様性 1) 荒尾ら(1998)淡色黒ボク土畑土壌におけるリ とを調査した事例は少なく、これまでの研究では、 ン脂質脂肪酸組成の解析および微生物バイオマス 口と新田 が連作障害発生圃場で根面の糸状菌フ との関係.土肥誌.69:36-46 ロラが単純化していくことを明らかにしたのみであ 2) Hiraishi ら(1990)Numerical analysis of lipo- る。我々の結果は細菌主体の解析で、非根圏土壌の quinone patterns in monitoring bacterial com- 結果であるが、連作に伴う微生物の変動に多様性が munity dynamics in wastewater treatment sys- 関わっていることを明確に示すものであり、多様性 tem. J.Gen. Appl. Microbiol. 37:57-70 という要因が土壌微生物性の新たな診断指標となり 3) 鈴木ら(1980)作物根圏の微生物.土と微生物. 得ると推察される。ただし、現地圃場の解析では、 22:47-63 この2つの微生物指標がそのまま適用できない事例 4) 口、新田(1998)連作に伴う根の糸状菌フロ が多く認められた。現地圃場は有機物施用を多く施 ラの変動と根群発達に及ぼす堆きゅう肥施用効 用している圃場が多く、様々な有機物を活用するこ 果. 土肥誌.59:1-11 とにより土壌微生物相がより複雑化しているため 担当研究者(浦嶋泰文 、中嶋美幸、金田哲、村上敏 に、全般的に適用可能な土壌微生物性の診断指標を 文) 提示することは、現時点の研究レベルでは困難であ る。今回、提示した土壌微生物診断指標は、連作等 2 DNA 解析に基づく土壌細菌群集構造の評価法 による土壌環境の悪化に伴う土壌微生物性の診断に の開発と土壌微生物性に及ぼす有機質資材の影響 は利用可能であり、この の解明 野での、今後の なる研 究が期待される。 ア 研究目的 オ 今後の課題 野菜作・畑作の持続的安定生産のためには適切な 土壌微生物性の新たな診断指標として、糸状 土壌管理が必要である。連作障害や塩類集積などが 菌の指標リン脂質脂肪酸の含有率の上昇やリン脂質 生じる劣化した土壌では、土壌微生物相の単純化や 脂肪酸組成の多様性低下が有効と推察された。しか 活性の低下等が見られる。また、土壌有機物管理の し、この結果は土壌中の微生物群レベルでの解析に 適正化が土壌微生物相の改善に重要であることも解 留まっており、機能別や種ごとのカテゴリー化など、 明され始めている。そこで、本研究では、野菜作・ より高次な解析には至っていない。そのために、本 畑作の持続的安定生産を目指した新たな土壌管理技 研究で解析した土壌を DNA レベルで再解析し、よ 術の確立のために、土壌からの DNA 直接抽出によ 106 る土壌細菌群集の多様性 析法を開発し、有機質資 目タマネギ栽培後土壌 材施用が土壌細菌群集の多様性に及ぼす影響を解明 ⒝ 化成肥料連用土壌(東北農研センター畑 する。また、多様性指数を指標とした土壌微生物性 地利用部) の新たな診断基準を確立し、その多様性を維持・増 ガラス温室においてプランターでコマツナ 大させるための有機質資材の質・量の適正レベルを を栽培、10作目栽培後土壌 策定する。 ⒞ 野菜栽培農家土壌:露地(6地点17種) 、 イ 研究方法 ビニルハウス(3地点10種) DNA 解析による土壌細菌群集構造の多様性 ウ 研究結果 析法の開発 Bead-Beating 法(2ml マイクロチューブ 土壌から直接抽出した微生物 DNA を用いて、細 に、土壌0.5g、0.1mm ビーズ0.5g、2% SDS 入り 菌の16SrDNA の PCR-DGGE 解析を行い、そのバ TEN バッファー1ml を入れ、4000rpm で1 間振 ンドパターンからシャノン・ウィナー法を用いて多 とう)によって、各種畑土壌から微生物 DNA を簡 様性指数を求めた。DNA 抽出法として Bead-Beat- に抽出することができた。16SrDNA の PCR 増幅用 ing 法、PCR 増幅では2種類の PCR プライマー(増 プライマーとしては、E.coli:985f-GC∼1384r の方 幅部位 E.coli:358∼517、985∼1384)の比較等、各 が増幅効率が高かった。供試土壌の量が0.5g と8g 実験条件の検討を行った。また、供試土壌の量の影 では、同様の DGGE パターンが得られたものの、0.5 響の検討とともに、風乾土を用いて PCR-DGGE 解 g を用いた方が DNA 抽出量が著しく多かった。ま 析を行い、生土を用いて解析した結果と比較した。 た、一晩通風乾燥した土壌を用いた場合、同量の生 有機質資材施用が土壌細菌群集の多様性に及 土に比べて DNA 抽出量は10∼20%減少するもの ぼす影響 の、DGGE パターンには大きな影響は見られなかっ a 化成肥料・有機物連用土壌(近中四農研野 た(図1-79)。 菜部青野圃場) 化成肥料・有機物連用土壌の多様性指数は、 連用13年(年2作、ダイコン16作栽培後エダ いずれの作においても化成肥料施用区より堆肥施用 マメ、タマネギを 区の方が高く、その施用量が多いほど高い傾向にあ 互に栽培) (イ ナワ ラ 牛ふ ん堆 肥・オガク ズ豚 ふん堆 った。23作目タマネギ栽培後土壌について、DGGE 肥)×(3倍量・標準量・半量)、(化成肥料)× バンドの濃度および位置関係を数値化して求めた土 (標準量・半量)、20∼26作目栽培後土壌 壌間のフロラ構成の類似度によるクラスター解析を b 堆肥・ワラ併用試験土壌(同上)(化成肥料、 行った結果、牛ふん、豚ふん堆肥および化成肥料の ノンストレス固形肥料)×ワラ(イネ、 コムギ) 半量施用区では類似した DGGE バンドパターンを に豚ふん堆肥の組合せ、チンゲンサイ(秋 示した。それらの施用量が増えるにしたがい、肥料・ ∼冬)栽培後土壌 堆肥の種類の違いによって DGGE バンドパターン 土壌微生物性指標としての多様性指数の検討 が変化し、フロラ構成が大きく異なってくることが a 多様性指数と DNA 抽出量、EC との関係 ⒜ わかった (図1-80)。エダマメ栽培後土壌における多 化成肥料・有機物連用土壌(同上) 23作 様性指数(3作 )を比較すると、堆肥施用区では 図1-79 供試する土壌の量、風乾処理がDNA抽出量、多様性指数、DGGEバンドパターンに及ぼす影響 107 施用量による一定の傾向は見られなかったが、化成 傾向は見られなかったが、窒素で50kg/10a 以上施 肥料区では連作が進むにつれて低下する傾向が見ら 用区で多様性指数が低下した(図1-83) 。野菜栽培農 れた。堆肥・ワラ併用試験土壌の解析により、化成 家の土壌では、多様性指数、DNA 抽出量ともに作物 肥料と堆肥を併用すると多様性、呼吸活性は高くな 生育が良好な地点では高く、不良の地点では低い傾 るが、バイオマスの増加効果は小さく、化成肥料と 向にあった。また、EC が1.5mS/cm 以上の土壌では ワラ類を併用するとバイオマスは増加するが、多様 多様性指数が低い傾向が見られたが、0.8mS/cm 以 性の増加効果は小さく、呼吸活性は下がることがわ 下では一定の傾向は見られなかった。多様性指数と かった。一方、化成肥料に堆肥およびワラ類を併用 栽培した作物の種類による一定の傾向は見られなか すると、イナワラを用いた場合では多様性、バイオ った。 マスが、ムギワラを用いた場合では呼吸活性、バイ エ オマスが、さらに高くなった(図1-81) 。 土 壌 か ら Bead -Beating 法 に よ っ て、PCR - 察 各種土壌の多様性指数と DNA 抽出量、土壌 DGGE 解析に供試可能な DNA を直接抽出するこ 懸濁液 EC との関係を調べたところ、化成肥料・有機 とができた。また、生土および風乾土サンプルから 物連用土壌では、いずれも化成肥料施用区よりも堆 得られた DGGE パターンに変化は見られず、風乾状 肥施用区で、またその施用量が多いほど高い傾向に 態で保存された土壌を用いた解析の可能性が示唆さ あった (図1-80、1-82)。化成肥料連用土壌では、多 れた。化成肥料・有機物連用土壌の多様性増加には施 様性指数および DNA 抽出量と EC との間に一定の 用量の効果が大きく、その施用量増加にしたがって 図1-80 DGGEパターンに基づく化成肥料・有機物連用土壌の細菌群集のクラスター解析 図1-81 堆肥・ワラ併用試験土壌の細菌群集の多様性指数、バイオマス炭素、呼吸活性 チンゲンサイ(秋∼冬)栽培後土壌。ノンストレス固形肥料:塩素、硫酸根を含まない肥料。 化成肥料:硝酸系(16-10-14)。C/N比:イナワラ(53)、コムギワラ(131) 108 結果からは多様性指数が0.9以下において野菜の生 育に対する悪影響が見られ、多様性指数の下限基準 値が推察された。 オ 今後の課題 微生物性の評価には、フロラ構成を示す多様性指 数だけなく、バイオマス、活性を合わせることが重 要であり、DNA 抽出量とバイオマスの関係を明ら かにすることによって、DNA 解析で土壌細菌群集 の多様性、バイオマスが評価可能かどうかを検討す 図1-82 化成肥料・有機物連用土壌の細菌群集の る必要がある。また、多様性指数と土壌病害発生の 多様性指数とDNA抽出量 関係解明によって、多様性の程度による病害抑止能 供試土壌は図2と同じ の評価が必要である。多様性解析手法としては、多 様性指数の標準サンプルの検討が必要である。これ らの課題に関しては、今後検討する予定である。 カ 要 約 土壌から DNA を直接抽出し、16SrDNA の PCRDGGE 解析を行うことによる土壌細菌群集構造の 多様性 析法を開発した。また、風乾土を用いた解 析の可能性が示唆された。化成肥料・有機物連用土 壌において、細菌群集の多様性指数および DNA 抽 出量は、 化成肥料施用区よりも有機物施用区で高く、 施用した堆肥の量が多いほど高い傾向にあった。ま 図1-83 化成肥料連用土壌の細菌群集の多様性指数と た、施用量が増えるにしたがい、肥料・堆肥の種類 EC の違いが DGGE バンドパターンの変化に及ぼす影 くみあい硝酸複合S604(16-10-14) 響が大きいことがわかった。化成肥料に豚ふん堆肥 種類の影響も高まることが えられた。また、連作 およびイナワラを併用することによって、細菌群集 が進むにつれて、多様性は化成肥料施用区では低下 の多様性指数、バイオマス炭素含量が高くなること するのに対して、堆肥施用区では増加または維持さ がわかった。 れることから、堆肥施用によって細菌群集の多様性 キ 文 献 が維持されると えられた。また、化成肥料と堆肥 1) 堀兼明・須賀有子ら(2004)未 解高 C/N 有機 の併用、さらにワラ類も併用することによって細菌 物と堆肥との併用がバイオマス、バイオマス当り 群集の多様性が高まることが明らかになった。同時 の呼吸活性に及ぼす影響.土壌微生物学会講演要 に土壌中のバイオマス炭素、バイオマス炭素当りの 旨集:19 呼吸活性が高まる ことから、化成肥料と堆肥およ 担当研究者(須賀有子 、堀兼明、福永亜矢子、池田 びワラ類の併用が、土壌微生物性の全般的な改善法 順一) として有用であると えられた。多様性指数を微生 物性指標として検討するため各種土壌の多様性解析 3 有機質資材施用下における土壌病原糸状菌の迅 を行ったが、農家土壌において、EC が1.5mS/cm 以 速モニタリング技術の開発と実証 上や野菜の生育が悪い土壌では、多様性指数が0.9以 ア 研究目的 下を示す傾向が見られたが、EC が0.8mS/cm 以下 有機質資材を有効利用して作物病害の低減を図る では多様性指数と作物の生育に一定の傾向は見られ ために、土壌病原糸状菌を遺伝子診断法により迅速 なかった。多様性指数による新たな微生物性の診断 にモニタリングする技術を開発する。まず、土壌の 基準の確立には至らなかったが、本研究で得られた 種類に影響されない DNA 調製法を確立する。さら 109 に、植物病原菌に特異的な DNA プライマーを作成 ウ 研究結果 し、リアルタイム定量 PCR を用いて土壌中の菌量 土壌中の植物病原糸状菌を検出するために を測定する手法を構築する。これらの定量的検出系 は、まず各種土壌から DNA を効率良く抽出する方 を用いて有機質資材連用圃場および病害発生圃場の 法が必要である。そこで、日本を代表する畑土(厚 土壌を解析することにより遺伝子診断系の有効性を 層多腐植質黒ボク土、淡色黒ボク土、黄色土と灰色 実証する。 低地土) を用いて、簡 かつ効率的に DNA を抽出す イ 研究方法 る方法について検討した。その結果、市販キットを 土壌の種類とゲノム DNA の抽出効率との関 用いた場合でも、黒ボク系の土壌では DNA 抽出が 係を明らかにするため、日本の代表的な畑土4種類 大きく低下した。図1-84は、灰色低地土から比較的 (厚層黒ボク土、淡色黒ボク土、黄色土と灰色低地 安定的に高収量の DNA 回収が可能であった市販キ 土:中央農研より ット FastDNA SPIN Kit for Soil(Qbiogene 社) 譲)を用いて比較した。さらに、 有機質資材の DNA 抽出効率に及ぼす影響は、牛ふ を ん(3倍量施用)、豚ぷん(3倍量施用)、化学肥料 の回収は困難であった。スキムミルクの添加により (標準量施用)の連用圃場(近中四より 譲)の土 改善するとの報告から 、30mg/g 土壌のスキムミル 壌を用いた。土壌からの DNA の抽出は、市販キット ク添加して抽出したところいずれの土壌からも効率 を中心に比較検討した。 良く DNA 抽出が可能となった(図1-84)。以後の研 土壌植物病原糸状菌として、Fusarium 属菌、 用した場合であるが、黒ボク系土壌では DNA 究には同キットを 用して実験を行った。有機質資 Verticillium 属菌、Phytophthora 属菌、Pythium 属 材の施用の有無は、DNA 回収量にほとんど影響し 菌、Rhizoctonia 属菌など計15菌種30株を用いて、こ なかったが、牛ふんや豚ぷんを施用した土壌から抽 れらの菌種の培養菌体から、ゲノム DNA を調整し、 出した DNA は PCR 反応の低下が見られ、遺伝子 菌特異的プライマーの選抜に供した。プライマーは 診断によるに検出・定量への影響が懸念された。こ 主に rDNA 領域内に作製した。 れは、同上キットで精製した DNA 溶液をさらにフ 土壌病原菌の定量解析は、リアルタイム定量 PCR 装置(LightCycler:Roche 社)を ェノール抽出・PEG 沈殿により精製することで改善 用して増幅 した。 DNA を SYBER Green 蛍光で検出する方法を用い 主要な土壌植物病原糸状菌を検出するプライ た 。なお、各土壌の菌密度は、リアルタイム PCR に マーとして、本研究では表1-55に示したプライマー お け る PCR 産 物 の 増 幅 を 示 す crossing point を作製した。従来は、 (CP) を用いて表示した。なお、CP 値が−1、− してデザインされており、比較的長鎖の PCR 産物 2、−3と減少すると菌密度は2倍、4倍、8倍に増 をゲル電気泳動で増幅の有無として判定するものが 加していることを示す。相対菌密度は、ΔCP 値(供 多い。土壌中の微量の病原菌を高感度かつ短時間で 試土壌の平 離菌株の判別が主な目的と CP−各土壌の CP)として表示した。 リアルタイム定量 PCR 法を現地圃場の解析 に適応できるかを検討するために、キャベツバーテ ィシリウム萎 病(病原菌 Verticillium longispor- um)の発病現地圃場(群馬県嬬恋)の土壌をサンプ リングし解析した。同一圃場内で発病程度の異なる 4プロットの土壌から各3カ所採取した(2005年8 月29日:収穫期)。発病度は、地上部の発病を指数化 し算出した。なお、それぞれの土壌について3反復 の解析を行い標準誤差を算出した。 図1-84 各種土壌からのDNAの抽出 1)上段:スキムミルク無添加、下段:添加 :リアルタイム PCR 増幅により描かれた PCR カーブの 2) +−:植物性有機質施用の有無 立ち上がりのサイクル 110 表1-55 土壌植物病原菌の検出プライマー 図1-86 キャベツバーティシリウム萎 検出すること、またリアルタイム PCR の定量性を と発病の相関 慮して PCR 産物が500bp 以下になるように設計 した。また、Nested-PCR 法 病の現地圃場 におけるリアルタイム定量 PCRによる菌密度 検出系1:primer VaF1-R2、検出系2:primer Vl を用いることにより、 検出感度の向上、様々な生物種を含む土壌 DNA か -spF1-R4 *サイクル数が小さいほど菌密度が高い らの誤検出の低減効果が認められたことから、First PCR で増幅される DNA の内部に検出プライマー 示唆された。 を作製した。 リアルタイム定量 PCR 法が実際の現地圃場 牛ふん、豚ぷん、化学肥料の連用圃場の土壌 の病原菌の菌密度測定に応用可能であるかについて を用いて、リアルタイム定量 PCR 法により、フザリ 調べるために、キャベツバーティシリウム萎 ウム菌、ピシウム菌とリゾクトニア菌の定量解析を 発病圃場(嬬恋)から発病程度の異なるプロットの 行い相対菌密度を算出した(図1-85)。その結果、フ 土壌を採取し解析した。萎 ザリウム菌の菌密度は有機質資材によりほとんど影 プライマーセットを用いて独立に解析したが、いず 響されなかったが、ピシウム菌は露地栽培よりマル れの検出系においても発病度の上昇に伴い CP 値が チ栽培が、リゾクトニア菌は牛ふん施用より豚ぷん 低い値を示し、発病度と菌密度に高い相関が認めら 施用が菌密度を低下させている結果が得られた。こ れた(図1-86)。なお、同じサンプルでフザリウム菌 れらのデータについては、今後多圃場のサンプルを の検出を行ったが、土壌間の CP 値に顕著な差は認 用いた解析結果と合わせて議論する必要はあるが、 められなかった。 リアルタイム定量 PCR 法により、比較的簡 に複 エ 数種の病原菌の菌密度変化をモニターできることが :外側のプライマーと内側のプライマーを 病の 病菌の検出は、2種類の 察 土壌微生物性評価手法として様々な方法が検討さ れておりそれぞれに特長があるが、本研究によりリ って2段階 アルタイム定量 PCR 法は、従来の PCR 検出法と比 の PCR を行う方法 図1-85 リアルタイム定量PCRによる土壌間の相対菌密度解析 表中の数値はΔCP(リアルタイム定量PCRによる相対的菌密度) 111 較して、定量性を付与できること、再現性が高いこ 4 トマト青枯病を抑制する有機物施用条件とその と、短時間で解析が終了しデータ解析が容易である 機構の解明 点が優れている。これらの利点は、多サンプルの土 ア 研究目的 壌間の病原菌相対密度の比較解析、あるいは同一サ 現在我が国においてトマト青枯病は最も防除が困 ンプル中における多種類の病原菌の密度解析に有効 難な土壌病害の一つであり、持続的で環境負荷の少 な手法であると ない防除法の開発が望まれている。そこで、本研究 えられる。今後、有機質資材の有 効利用や病害抑止技術開発などの 野への応用が期 ではトマト青枯病を例に、土壌病害を 合的に防除 待される。 する有機物施用条件を明らかにすることを目的とし オ 今後の課題 た。まず、これまでに 本研究で得られた病原菌の定量的検出技術は、バ 学部附属農場土壌ではトマト青枯病の発生が少ない ーティシリウム萎 病の定量化には有効であること 肥を連用した名古屋大学農 ことがわかっていたので、①本 肥連用土壌におい を実証したが、フザリウム菌などで問題となる非病 てトマト青枯病抑制に関わる微生物の単離・同定、 原性株の判別には至っておらず、今後の検討課題で ②トマト青枯病抑制効果を有する有機物のスクリー ある。また、土壌中の病原菌の絶対量の測定には、 ニン グとそのメ カ ニ ズ ム、③ 他 土 壌 病 害 と し て 土壌中の菌の形状(胞子、菌糸や菌核)が強く影響 Pythium による苗立枯病および Fusarium 病に及 すると えられ今後の検討が必要である。 ぼす影響評価、④小規模圃場における青枯病防除試 カ 要 約 験、を実施した。 土壌の種類や有機質資材の影響を受けることなく 安定して土壌から簡 イ 研究方法 に DNA を抽出する方法を確 肥連用土壌におけるトマト青枯病抑制に関 立し、主要な土壌病原糸状菌を PCR 検出する特異 わる微生物の単離・同定:名古屋大学農学部附属農 的プライマーを作製した。さらに、リアルタイム定 場において1998年に開始した有機物連用試験圃場を 量 PCR を導入することにより、従来の PCR 検出に 供試した。化学肥料のみを連用した化肥区土壌、 定量性を付与し、土壌中の菌密度を定量的に解析す 肥(40t/ha/y)と化学肥料を連用した慣行区、 る手法を構築した。リアルタイム定量 PCR 法を用 (400t/ha/y)のみを連用した 肥区土壌を採取し、 いて、有機質連用圃場の主要植物病原菌の密度 トマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum 布 肥 YU1 を明らかにできることを示唆するとともに、バーテ (桃 Rif43)を10 cfu g になるように接種後、トマト ィシリウム萎 病の発病現地圃場の解析を行い、リ 太郎)を播種し、人工気象機内(明期12時間、30℃) アルタイム定量 PCR 解析結果と発病度に良好な相 で30日間にわたり栽培し発病程度を評価した。また、 関が認められることを示し、本技術が現地圃場の病 化肥区、 肥区土壌で4週間栽培したトマト根を磨砕 原菌の定量化に有効であることを実証した。 後、適当に希釈した磨砕液を100倍希釈の普通ブイヨ キ 文 献 ン培地(1/100NA) 、クリスタルバイオレット含有1/ 1) Kabir, S., Rajendran, N., Amemiya, T., Itoh, 100NA 培地、キングズ B 培地、原・小野培地、ロー K. (2003) Quantitative measurement of fungal ズベンガル培地に塗布し、各種微生物を 離した。 DNA extracted by three different methods トマト青枯病抑制効果を有する有機物のスク using real-time polymerase chain reaction. J. リーニングとそのメカニズム:化肥区土壌に様々な Biosci Bioeng. 96⑷:337-43 堆肥を重量比で2-4%混合、 あるいは有機化合物を 2) Kageyama,K.,Komatsu,T.,Suga,H.(2003) 0.25%混合した後、病原菌を接種した。発病程度お Refined PCR protocol for detection of plant よび抗生物質耐性能を用いて病原菌数を経時的に追 pathogens in soil. J. Gen. Plant Path. 69⑶:153- 跡した。また、堆肥の理化学性、堆肥施用土壌の微 160 生物活性、微生物数の変化を測定した。 担当研究者(藤村 真 ) 各種有機物の Pythium による苗立枯病およ び Fusarium 病に及ぼす影響評価:土壌に各種の有 機物とともに、コーンミール培地で培養後ブレンダ 112 ーを用いて細断した Pythium aphanidermatum の 病菌に対して阻止円を形成せず、抵抗誘導性も示さ 菌糸片、あるいは、Czapek 培地で培養・集菌したレ なかった。グルコースおよびフルクトースを炭素源 タス根腐病菌 Fusarium oxysporum f. sp. lactucae として F3株と青枯病菌を培養すると、青枯病菌の生 の 育が顕著に抑制されたことから、F3株による青枯病 生胞子を接種した土壌にトマトあるいはレタス を播種し、発病程度を経時的に評価した。 抑制メカニズムの一因は根滲出物などの炭素源に対 小規模圃場試験:東京農工大学小金井キャン する競合であると推察された。また、この F3株なら パス内圃場(表層腐植質黒ボク土)に1mx1m のプロ びに同様に 肥区土壌で栽培したトマト根から 離 ットを3反復設けた。牛糞コンポストあるいは牛糞 した FN2株(Pseudomonas fluorescens)を化肥区土 尿由来のメタン消化液(2kg あるいは5kg/プロッ 壌に接種したところ、青枯病発生率が低下した(図 ト)、コーヒー粕堆肥(2kg) 、鶏糞資材(3.2kg)、 1-87)。 両菌株を堆肥と同時施用しても相乗効果は認 生ゴミ炭化物(2kg)、コーヒー粕炭化物(2kg)、 められなかったが、化肥区土壌より CaCO (1.5kg)・MgCl (343g)・KCl(66g)添加 株(Rhizobium mongolense)は堆肥と施用すること 区、及び対照区を設けた。いずれの処理区にも N-P でその拮抗能が増した。 離した CF5b -K 肥料をそれぞれ200kg/ha となるように添加し トマト青枯病抑制効果を有する有機物のスク た。また、表層10cm に10 cfu g となるように青枯 リーニングとそのメカニズム解析:各種堆肥の青枯 病菌を接種・耕耘した。4月中旬に播種したトマト 病抑制効果は、20g kg の添加量ではいずれの堆肥 (桃太郎)の幼苗を5月中旬に移植した。2003年度 にも抑制効果はなかったが、40g kg では、牛糞堆 は各プロットにつき10株を移植し、移植後56日後に 肥と鶏糞堆肥に抑制効果が認められた。60-80g kg 最も 全な3株に間引きした。2005年度は各プロッ ではトマトの発芽・生育が抑制された。堆肥中の各 ト5株を移植した。発病指数は、各個体につき0: 種化学成 ならびに土壌中の微生物数・活性との相 全から4:枯死の4段階で表し、すべての個体が 関を見たところ、発病抑制的な堆肥は水溶性炭素・ 枯死した場合を100%として示した。 ウ 研究結果および 窒素含量が高く、土壌に施用すると呼吸活性、デヒ 察 ドロゲナーゼ活性、一般微生物数をより高めた。ま 肥連用土壌におけるトマト青枯病発生率と た、発病抑制能を有する堆肥は、土壌中における青 青枯病抑制に関わる微生物の単離・同定:8回繰り 枯病菌の生残性を低下させた。豚糞堆肥、コーヒー 返した病原菌接種試験において、青枯病発病率は化 粕堆肥、バーク堆肥、木炭、活性炭、家畜糞炭化物、 肥区で70-100%、 青刈作物、ピートモスには顕著な抑制効果は認めら 肥区では20%以下であり、本 肥を連用した土壌は青枯病に対して抑止的であるこ れなかったが、発病を促進することはなかった。一 とがわかった。この抑止性は、 肥区土壌をガンマ 方、廃糖蜜および牛糞尿を原料としたメタン消化液 線殺菌あるいはクロロホルム燻蒸すると消失したこ には発病抑制効果が認められた。発病抑制型の有機 とから、土壌の生物性に由来すると判断された。ま 物には易 解性有機物が多く含まれるとみなされる た、発病助長的である化肥区土壌においても、水 ことから、各種の糖、アミノ酸、有機酸の青枯病抑 を最大容水量の30%以下に維持すること、 あるいは、 (+)/kg 添加することで発病 CaCl を0.7∼2.8cmol が軽減した。これら低水 および Ca 添加による病 害軽減メカニズムは病原菌の土壌中における生残性 を減少させるためと推察された。ついで、 肥区土 壌で栽培したトマト根より各種微生物を139株 離 し、それらのトマト青枯病抑制効果を評価した結果、 F3株に抑制効果が認められた。この F3株は F3a 株 ( Aquaspirillum arcticum ) お よ び F3b 株 図1-87 拮抗菌と牛糞堆肥の施用が化肥区土壌におけ (Pseudomonas citronellolis)の2株の混合であり、 それぞれ単独では抑制効果がなかった。F3株は青枯 るトマト青枯病に及ぼす影響 発病指数(%) :全個体が枯死しした場合=100% 113 一方、2005年度の圃場試験では、2003年度発病抑制 効果が認められた鶏糞資材区でもっとも顕著な発病 が見られ、ついでコーヒー粕堆肥区で高い発病率と なった。これらの発病傾向はトマトの生育と反比例 の関係にあり、生育の良好であった処理区で発病率 が高かった。生ゴミ炭化物区およびカルシウム・マ グネシウム・カリウム添加区では、同濃度をポット 図1-88 各種アミノ酸添加が化肥区土壌におけるトマ 試験で評価した場合にはトマトの生育傷害は全く認 ト青枯病発生に及ぼす影響 められなかったが、圃場では顕著に生育が抑制され 制効果を評価した。グルコース、プロリン、グルタ た。したがって、2006年度データの発病抑制効果は ミン酸、セリン、アルギニン、リジンを各2.5g kg 信頼性がないと判断され、今後、同程度のトマト生 添加した土壌では、青枯病が顕著に抑制された(図 育条件下で発病程度を評価し直す必要がある。 1-88) 。セリン、リジンなどの青枯病菌が資化できな エ 察 い基質を土壌に添加すると青枯病菌のより急速に死 今回供試した多くの有機物ならびに有機化合物の 滅し、病害が抑制されることが知られる が、本研究 中で、トマト青枯病を助長するケースはなかった。 では、グルコースやグルタミンのように病原菌が資 一部の有機物が顕著に青枯病を抑制し、多くが若干 化できる基質にも青枯病抑制効果があることがわか の遅 効果を示した。また、青枯病抑制効果を有す った。病害抑制能が認められた基質は、いずれの場 る有機物は易 合も病原菌の生残性を低下させ、ある種の有機化合 生物活性をより高めるタイプのものであった。易 物の添加により、土壌中の一般微生物活性が急速に 解性有機物を多く含む場合には一部が病原菌の栄養 高まり、その結果として病原菌の死滅が加速され、 源となり、却って病害を促進する可能性が危惧され 発病が軽減されたと推察された。 るが、今回、有機物施用の病害が助長されることは 解性有機物を多く含み、土壌中の微 各種有機物の Pythium による苗立枯病および なかった。病原菌が活発に資化するグルコースやグ Fusarium 病に及ぼす影響評価:P. aphanidermatum ルタミンを添加した場合でも、発病は軽減され、ま を人工的に接種した土壌にピートモス、生ゴミ炭化 た、土壌中における病原菌の生残性も顕著に低下し 物、食品汚泥コンポスト、廃糖蜜、牛糞堆肥、豚糞 た。堆肥および有機化合物のいずれを添加した場合 堆肥、キノコ廃培地コンポストを添加・混合し、ト でも、発病率と病原菌の生残性との間に負の相関が マトを播種した。3種類の土壌を用いて繰り返し計 認められたことより、土壌中における病原菌の死滅 8回行ったが、一貫した結果は認められなかった。 を促進することが主要な有機物の抑制メカニズムと しかし、いずれの有機物添加でも無添加と比べて発 見なすことができる。土壌中の病原菌密度を減少さ 病を助長することは稀であった。ついで、各種有機 せることは宿主への感染の確率を着実に減らすこと 物のレタス根腐病抑制効果を評価したところ、生ゴ になり、 圃場衛生の面で効果的な防除手段といえる。 ミ炭化物、鶏糞資材、牛糞堆肥、豚糞堆肥、鶏糞堆 オ 今後の課題 肥、乾燥鶏糞、コーヒー粕堆肥、キノコ廃培地コン 有機物施用による各種土壌病害の防除:青枯 ポスト、廃糖蜜、食品汚泥コンポストのいずれにも 病以外に、苗立枯病、フザリウム病など多様な病害 顕著な抑制効果ないし発病助長効果は認められなか に対して抑制能を有する有機物のスクリーニングを ったが、牛糞尿を原料としたメタン消化液を施用し 試みたが、マルチ土壌病害抑制資材を見つけること た土壌でレタス根腐病が軽減された。 はできなかった。しかし、両病害とも発病が助長さ 小規模圃場試験によるトマト青枯病防除: れることはほとんどの場合認められず、有機物施用 2003年度はポット試験で発病抑制効果の認められた によって病害リスクが高まる可能性は低いと判断さ 牛糞堆肥、生ゴミ炭化物、鶏糞資材いずれの施用区 れた。近年、有機物を連用した土壌では、土壌の有 においても、青枯病の発病程度は移植後90日目まで する各種ストレスに対する耐性能が高い可能性が示 一貫して低い値であり、効果が確認されたと言える。 唆され 、土壌への有機物施用の意義がより高まり 114 つつあると言える。土壌の物理性・化学性・生物性 生物活性をより活性化することで、病原菌の生残性 の改善だけでなく、土壌病害抑制能や環境ストレス を低下させることが主要な抑制メカニズムであると 耐性能、あるいは、廃棄物処理の点、地域における 推察された。牛糞堆肥、鶏糞資材、生ゴミ炭化物に 適正な資源循環のあり方など、今後より多様な視点 ついては小規模圃場試験でもトマト青枯病抑制効果 より、有機物施用を捉える必要がある。 が認められた。 有機物施用と拮抗菌の効果的な併用:今回ト マト根より トマト青枯病以外に、トマト苗立枯病、レタ 離した拮抗細菌を発病助長土壌である ス根腐病に対する病害抑制能を評価したが、いずれ 化肥区に接種することで青枯病を完全ではないが軽 の病害も抑制する有機物を見つけることはできなか 減することができた。拮抗菌による発病抑制は安定 った。しかし、病害を助長するケースはほとんどな しないケースが多々見られるので、拮抗菌に対する かった。 有効な基質添加と上記 合的な有機物管理の点で、 キ 文 献 両者を組み合わせて、より効果の高い発病抑制技術 1) 岡村幸治(2000)標的微生物の抑制方法.特願 を開発する必要がある。 カ 要 2000-534050 約 2) 和田さと子、豊田剛己、柳井洋介、大橋真理子 トマト青枯病を抑制する有機物資材として、 (2005)土壌機能と微生物多様性.土と微生物. 牛糞堆肥、鶏糞堆肥、廃糖蜜、メタン消化液が見つ かった。これらは易 59:91-98 解性有機物を多く含み土壌微 担当研究者(豊田剛己 ) 115 第9章 有機質資材連用圃場の土壌特性の解明と高品質野菜生産のための有機質 資材施用技術の開発 1 長期連用土壌の一般理化学性の解明 り(n+1)年以内の計測値の平 をあて、5年、 ア 研究目的 10年、15年、20年時について、作物類型、土壌群毎 有機質資材の長期にわたる農地投入は、土壌理化 に検討した。肥培管理の収量や理化学性に対する連 学性や作物生産に大きく影響する可能性があるもの 用の影響には、開始時の各処理区に対する連用n年 の、その実態については未解明な点が多い。そこで、 時の指数の平 本課題では土壌タイプ等の立地環境に注目して、化 上乗せ施用の作物収量や土壌理化学性に対する効果 学肥料単独連年施用や有機質資材上乗せ連年施用の にはn年時の化学肥料単用区の値に対するn年時の 野菜・畑圃場での土壌一般理化学性や作物収量など 有機質資材施用区の収量及び理化学性指数の平 の変動を解析し、長期肥培管理の土壌理化学性や作 用いた。 物生産への影響を明らかにする。 を、また、窒素無施用や有機質資材 を ウ 研究結果 イ 研究方法 肥培管理の作土の理化学性に対する連用の影響は 農水省の土壌保全対策事業の一環として、1979年 から1998年にかけて全国 項目によって大きく異なり、開始時の値の影響の有 立農業試験場にて実施さ 無により大きく2群に区 され、さらに一定傾向の れた基準点調査の結果を用いた。本調査は各都道府 有無や土壌タイプによる影響により、2群に区 県毎に、その地域の代表的な農用地の土壌群、作付 れた(表1-56)。 さ 体系、土壌管理にて設定された圃場に、窒素無施用 この中で開始時の値が土壌理化学性の変化量に大 区、化学肥料単用区、有機質資材施用区(化学肥料+ きく影響している項目群では、開始時からの変化量 有機質資材投入)などの処理区を設け、長期に渡り を増加および減少に区 土壌理化学性や作物収量を計測した連用試験調査で 値)が存在した。この傾向は非黒ボク土の炭素含有 ある 。そこで、2001年度に中央農研土壌肥料部にて 率等で明瞭に認められ、不変値は連用年数に関わら 構築した基準点一般調査データベースより 、10年 ずほぼ一定の値(炭素含有率では約1%)であり、 以上連用した野菜・畑作物圃場の窒素無施用区、化 非黒ボク土内での土壌群間での差異は認められなか 学肥料単用区および有機質資材施用区を抽出し、成 った。変化量が初期値と関係する項目では、投入量 績書を用いて欠落部 を補完後、これらを用いて立 の増加とともに不変値の上昇傾向が認められるもの 地環境や肥培管理の影響を検討した。実測値には依 の、変化量が一定となりほぼ平衡に達する連用年数 然として欠落部が多数認められること等から、試験 は項目や投入量によって異なっていた。また投入す 開始時の値には第1作作付後より連用3年以内の計 る有機物の副資材の種類の違いが理化学性に影響す 測値の平 る場合も認められ、木質系副資材を含まない非木質 を、連用n年時の値には(n−1)年よ 表1-56 肥培管理が土壌理化学性に及ぼす影響 116 する試験開始時の値(不変 表1-57 作物類型毎での肥培管理の違いが作物収量に 系有機質資材、および木質系副資材を含む木質系有 及ぼす影響 機質資材ともに年間施用量約2t/10a 以下では、土 壌炭素含有率変化に対しほぼ同等な効果を与えるの に対し、3t/10a 以上になると非木質系に比べ木質 系での土壌炭素含有率の増加量が大きくなり、施用 効果が大きくなった(図1-89)。 化学肥料単独連年施用の作物収量への影響は、土 壌群や作物類型によって異なった(表1-57、表1-58)。 表1-58 主な土壌群毎での肥培管理の違いが作物収量 に及ぼす影響 土壌群によって異なるものの、葉菜類・果菜類・イ モ類は減収傾向に、根菜類・飼料作物は変化が少な い傾向にあった。黒ボク土では作物類型によって収 量増減の傾向が異なり、葉菜類は減収、飼料作物類 では減収傾向は認められず、根菜類では幾 増収し エ た。黄色土ではいずれの作物類でも減収、特に葉菜 基準点調査では pH の矯正のため苦土石灰等を投 類やイモ類で著しく減収した。褐色森林土では葉菜 与した圃場がしばしば見受けられた。肥培管理の土 類・根菜類ともに収量変化は認められなかった。増 壌理化学性に及ぼす影響のなかで、pH や 収した土壌では CEC が増加し、減収の著しい土壌 ルシウムの動態が試験開始時の値に依存する傾向が では CEC や 換性カルシウムは減少傾向にあっ 認められたのは、土壌改良資材の投与が多 に影響 た。一方、有機質資材施用の増収効果は全ての作物 したものと推測される。一方、全炭素や全窒素など 類、土壌群で認められた(表1-57、表1-58)。葉菜類、 は根や作物残さ、有機質資材の土壌への付加や腐植 イモ類は効果の高く、果菜類や麦類では効果が低か の った。また、低地土や黄色土で効果が著しかった。 そのため、開始時の値が小さい場合には増加し、ま 収量増の土壌では可給態窒素や孔 率が増加する傾 た大きい場合には減少したと 向にあった。 物(腐植)の固定能が黒ボク土と非黒ボク土では大 基準点データベースに、畑・野菜作圃場の土壌物 理性項目および作物吸収養 察 換性カ 解などによってその動態が大きく決定される。 えられた。また有機 きく異なるため、動態の傾向が大きく異なったと 濃度データを付加した えられた。腐植含量は地力を簡易に表す指標として 長期連用畑・野菜作圃場データベースを構築した(現 しばしば用いられる。普通畑の土壌有機物含量の土 在、検索機能等を付加したシステムをカスタマイズ 壌改良目標値は非黒ボク土で3%となっている 。 中)。 有機質資材を上乗せ投入した圃場では化学肥料単独 施用に比べ、土壌炭素含有率の増減不変値が増加し、 有機質資材2t/10a/年以下では約1.6%、3t∼5t/ 10a/年で約1.8%となることから(図1-89)、長期に 渡って土壌炭素含有率を1.7%(腐植:3%)に維持 するには、通常の肥料に加え、有機質資材を2t/年/ 10a 以上投入する必要があると えられた。 肥培管理の作物収量の影響は葉菜類やイモ類など で大きく現れ、これらの作物類で有機物の施要効果 が極めて大きかった。果菜類は化学肥料単独施用で も減収し有機質資材施用でも増収効果が低いことか ら、肥培管理等に工夫が必要と えられた。土壌群 図1-89 10年間化学肥料(化学肥料一部施用も含む) 別の作物収量への影響では、黄色土が窒素無施用や に有機質資材を上乗せ連年施用した非黒ボク土 有機質資材の影響が大きいのは、物理性・化学性も 畑圃場での土壌炭素含有率の変化 不良であるためと推察された。一方、低地土では有 117 機質資材の施用効果が高く化学肥料単独施用では減 これを用いた土壌肥沃度の解析事例.農林水産技 収傾向となったのは、化学性に対し物理性が不良な 術研究ジャーナル.26 :5-9 ためと推測された。 4) 地力問題研究会(1985)地力増進法解説.地球 養 収支の算出等には、これまで作物吸収養 濃 社:138-139 度データ集は尾和 が活用されてきた。しかしなが 5) 尾和尚人(1996)わが国の農作物の養 収支. ら、集計値しか記載されてないこと、土壌タイプや 平成8年度関東東海農業環境調和型農業生産にお 肥培管理等作物生育の立地環境が不明であること ける土壌管理技術に関する第6回研究会.農水省 等、制約が大きかった。今後は肥培管理の施肥効率 農研センター:1-15 への影響や詳細な土壌表面養 収支の算出が可能と 担当研究者(草場敬 、三浦憲蔵、森泉美穂子、渕山 なる。 律子) オ 今後の課題 基準点一般調査データベースは欠落項目が多々存 2 有機質資材施用における微量元素等の土壌中動 在するものの、立地環境や肥培管理の土壌理化学性 態と野菜による吸収特性の解明 や作物生育等に与える影響の解析には極めて有効で ア 研究目的 ある。現地圃場にて欠落データなどを採取するとと 有機栽培野菜への関心や循環型社会への指向を背 もに基準点以外の長期連用圃場データを収集し、黒 景に野菜畑への利用促進が望まれる有機質資材は、 ボク土畑・野菜作圃場における全炭素の変動要因、 各種の有用及び有害微量元素を含有するので、安 水田における肥培管理や立地条件の理化学性や収量 全・安心な高品質野菜生産のためには、有機質資材 に与える影響などを明らかにする必要がある。 の施用に伴う微量元素投入量を勘案した肥培管理が カ 要 約 必要である。そこで、微量元素としてカドミウム 連年同一肥培管理の作土の理化学性に対する影響 (Cd)、銅(Cu)、亜 (Zn)を対象に、家畜ふん堆 は、土壌群よりむしろ項目によって大きく異なり、 肥等の施用に伴う野菜畑への投入量、堆肥連用土壌 変化の有無や開始時の値への依存性などにより5群 における蓄積形態および作物中の濃度等を解明し、 に大別された。特に全炭素の変動は開始時の値があ 微量元素等の供給における有機質資材の優位性の有 る値(不動値)以下の場合には増加、不動値以上の 無と根拠を明らかにする。 場合には減少した。非黒ボク土畑での不動値は化学 イ 研究方法 肥料単独施用では約1%、有機質資材2t/10a/年以 農林水産省の「農業生産環境調査」 から得ら 下では約1.6%、3t∼5t/10a/年で約1.8%であっ れる農家の生産資材投入量と、各種文献・資料から た。肥培管理の作物収量の影響は土壌群や作物類に 得られる生産資材中の微量元素濃度に基づき、野菜 よって大きく異なり葉菜類やイモ類などで大きく現 畑への肥料及び有機質資材施用に伴う Cd、Cu、Zn れ、これらの作物類で有機物の施要効果が極めて大 の平 投入量を試算した。 きかった。また、果菜類は化学肥料単独施用でも減 農林水産省の土壌保全対策事業「基準点精密 収し有機質資材施用でも増収効果が低いことから、 調査」 を利用し、有機質資材連用に伴う Cu、Zn の 肥培管理等に工夫が必要と 土壌への積算投入量の増大が各種野菜可食部の Cu、 えられた。また、土壌 群では、物理性・化学性も不良である黄色土が窒素 Zn 濃度に及ぼす影響を化学肥料連用試験区の濃度 無施用や有機質資材の影響が大きかった。 と比較して解析した。 キ 文 献 中央農研・谷和原畑圃場(淡色黒ボク土)よ 1) 農水省農産課(1999)土壌環境基礎調査基準点 り採取した豚ぷん堆肥連用土壌及び堆肥無施用土壌 調査(一般調査)中間取りまとめ.農水省農産課 を供試してホウレンソウ等をポット栽培し、栽培期 2) 石岡厳ら(2001)地力実態調査及び土壌環境基 間中にファイバー式採取器で吸引採取した根域の土 礎調査基準点調査(一般調査))結果のデータベー 壌溶液及び可食部の Cd、Cu、Zn 等の成 ス化.共通基盤研究成果情報平成13年度:148-149 定した。 3) 草場敬(2003)基準点一般調査データベースと 濃度を測 茨城県農業 合センターが実施している有機 118 質資材と化学肥料の連用9年目の試験における土壌 (腐植質黒ボク土)及び作物体試料(ハクサイ、レ タス)を 析し、牛ふん堆肥や乾燥豚ぷんによる養 代替の継続が Cd、Cu、Zn の土壌蓄積形態及び野 菜への可給性に及ぼす影響を解析した。 ウ 研究結果 露地野菜畑への肥料・資材施用に伴う Cu、 Zn、Cd の投入量は、各々253、837、9g/ha/作で、Cu、 Zn では全体の約90%、Cd では約50%が有機質の肥 料・資材由来と試算された(図1-90)。豚ぷん堆肥を 7年間連用した谷和原畑圃場から採取した土壌で は、Cu、Zn の蓄積が顕著であったが、Cd は化学肥 料施用区との顕著な差異は認められなかった(図191)。 「基準点精密調査」のデータ解析の結果、家畜 ふん堆肥や汚泥などの積算施用量が増大して Cu、 Zn の土壌蓄積が顕著に進むと、作物体中の Zn 濃度 は化学肥料区より高くなる傾向が認められたが、Cu 濃度は化学肥料区より低くなる場合が多かった(図 図1-92 家畜ふん堆肥、汚泥等の連用に伴うCu、Znの 1-92) 。 積算投入量と野菜可食部のCu、Zn濃度 豚ぷん堆肥連用土壌にポット栽培した葉菜類 の根域土壌溶液の pH は堆肥無施用土壌に比べて高 低濃度になり、葉菜類可食部の Cd はむしろ低濃度 かった。そのため、土壌溶液中 Cd は連用土壌の方が であった (図1-93)。また、栽培開始時に堆肥無施用 土壌の pH を石灰施用によって堆肥連用土壌と同一 にしても、栽培期間中の根域土壌溶液の pH は堆肥 連用土壌で高く、堆肥連用の方が石灰施用よりも土 壌 pH の低下抑制効果が顕著であった。それを反映 して作物体の Cd 濃度は堆肥連用土壌の方が低かっ た(データ略)。 野外試験において、家畜ふん堆肥等による養 代替量に応じて化学肥料施用量を削減すると、リ ン酸質肥料由来の Cd が少なくなるため、Cd の投入 図1-90 露地野菜畑への肥料・資材施用に伴うCu、Zn、 量が抑制され、作土の Cd 濃度は低い傾向があった Cd負荷量の試算 (表1-59)。また、家畜ふん堆肥等の連用土壌では、 その施用量が多いほど化学肥料連用に比べて作土の Cd 蓄積形態は可給性の高い 換性画 が少なく、有 機態画 が多い傾向があった(図1-94) 。そして、ハ クサイ及びレタスの Cd 濃度はより低下する傾向が 認められた(図1-95) 。一方、家畜ふん堆肥等の施用 量が多いほど、Cu は有機態画 として、Zn は酸化物 吸蔵態画 として土壌蓄積するが(データ略) 、作物 生育への悪影響は認められなかった(表1-59)。 図1-91 豚ぷん堆肥連用の有無と作土の重金属濃度の 実測値 119 図1-94 作土の形態別Cd濃度 図1-93 豚ぷん堆肥連用の有無がポット栽培した葉菜 類の根群域土壌溶液のpH、Cd濃度と可食部の Cd濃度に及ぼす影響 エ 察 野菜の Cd 濃度は、コーデックス委員会にお いて国際的な基準が決定され、安全・安心な農産物 図1-95 家畜ふん堆肥の連用試験における化学肥料 確保の視点からも関心が高い。家畜ふん堆肥を施用 代替と作物体のCd濃度 すると、土壌の緩衝力が増大して pH が低下し難く なり、土壌中の 換性 Cd 濃度が低下する。これらに のひとつにリン酸質肥料が挙げられる。家畜ふん堆 より、可給態 Cd 濃度が低下し、作物体の Cd 濃度が 肥も各種重金属を含むが、過リン酸石灰などのリン 低下したものと推定される。農地への Cd の負荷源 酸質肥料に比べて含有するリン酸当たりの Cd 濃度 表1-59 家畜ふん堆肥等の連用試験における肥料成 120 、重金属の積算投入量と土壌中濃度の変化 の低いものが多い。そのため、家畜ふん堆肥の養 機物は無機化過程で、可給態窒素の本体と えられ を勘案して化学肥料を削減する施肥管理は、窒素・ るタンパク様窒素(リン酸緩衝液で抽出され、その リン投入量の抑制とともに、中長期的視点から見れ 子 量 は8000程 度、PEON と 呼 ぶ:Phosphate- ば、土壌への Cd 負荷量や野菜の Cd 濃度の低減にも buffer Extractable Organic Nitrogen)が生成し、 寄与するものであり、環境保全に配慮した堆肥利用 これをある種の作物は直接吸収することがわかって の優位性を示す根拠となる。 きた。有機物の施用効果の高い条件および作付体系 一方、現状の家畜ふん堆肥では、その利用促 を確立するため、その吸収機構を明らかにする。 進により Cu 及び Zn 負荷量の増大をもたらす。これ イ 研究方法 による野菜生育への影響は認められないものの、土 根 壌蓄積の顕著な進行は好ましくない。そのため、Cu 泌有機酸:PEON の溶解に関わる要因 として、鉄やアルミニウムとキレートを形成する根 及び Zn の動態解明に基づく対策の検討が望まれ 泌物の存在が る。 えられる。そこで、14種類の作物 を3週間栽培した後、根 オ 今後の課題 根 有機質資材の連用における長期的視点からの 泌物を採取した。一方、 泌物の採取前、1週間、窒素欠如処理をした区 や水耕液の窒素濃度を(園試処方)の3段階に希釈 重金属リスクの評価と管理技術。 した区も設けた。 想定される Cd 濃度の国内基準を超過する恐 根細胞壁の PEON 溶解:ラッカセイは根細 れのある場合において、野菜の根域への有機質資材 胞表 面にキレー ト能 を持つこと が報 告されてい 局所施用による Cd 不可給化など、耕種的な Cd 低減 る 。PEON の溶解に関わる鉄やアルミニウムと結 技術への応用。 合した PEON を溶解させる要因として、作物根に着 カ 要 約 目した。砂耕栽培して採取した根(ニンジン、チン 家畜ふん堆肥による化学肥料代替率を高め、 ゲンサイ、ピーマン、トウモロコシ) を3-5mm に それに応じて化学肥料施用量を削減する管理を続け 切断し、塩酸で洗浄し、乾燥させたモノを用いた。 ると、土壌への Cd 投入量が抑制されるとともに、土 土壌からリン酸緩衝液 で抽出した PEON 本体に 壌中の Cd が可給化し難くなり、葉菜類可食部の Cd FeCl 溶液で PEON=Fe 結合体を作成し、これを 濃度は低減する。一方、現状の家畜ふん堆肥では、 pH=5.5の酢酸緩衝液に懸濁させ、調製した根の その利用促進により Cu 及び Zn の土壌蓄積が進行 砕物を加え反応させ、遊離した PEON を HPLC で する。これによる野菜中の濃度や生育に悪影響は認 定量した。 められなかったが、土壌中の動態解明に基づく対策 PEON 直接吸収の証明:つくば黒ボク土か の検討が必要である。 キ 文 らリン酸緩衝液で PEON を大量に抽出した。 これを 献 抗原としてウサギに注射し、その血清から抗-PEON 1) 農林水産省統計情報部(2000)農業生産環境調 抗体を得た。また、PEON を注射していない血清を 査報告書:1-252 対照とした。一方、オガクズ牛ふん堆肥で栽培した 2) 農林水産省農産園芸局農産課(1995)土壌環境 ホウレンソウと、化学肥料のみの水耕栽培したホウ 基礎調査成績「基準点精密調査中間とりまとめ」: レンソウから導管液を採取し、この導管液について 1-470 ウエスタンブロットによる 担当研究者(木村 武 、石岡 厳) 析を試みた。 有機物施用条件下での混作:窒素無施用で10 種類の作物を栽培(圃場)した。その窒素吸収量と 3 有機態窒素の直接吸収現象等に基づいた有機質 跡地根圏土壌の無機態窒素を測定した。跡地土壌の 資材施用効果の高い条件の解明 無機態窒素が多いコマツナと、窒素吸収量(生育) ア 研究目的 も少なく、跡地の無機態窒素量も比較的少ないトウ 窒素源としての土壌に施用された有機物は最終的 モロコシとを用いて、汚泥コンポストを窒素源とす には、 解されアンモニアやあるいは硝酸態窒素へ るポットでの混作を実施した。ポットあたり、トウ と無機化し作物に吸収利用される。しかし、土壌有 モロコシを1、2、3、4、5株単作で栽培する区 121 と、2、3、4、5株のうち1株をコマツナで代替 する混作区を設定した。約4週間栽培後、窒素吸収 量を測定した。 ウ 研究結果 14種類の作物について、検出された有機酸は シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、 およびグルタル酸であった。これら主要な有機酸を 土壌に添加し、抽出される PEON 量を HPLC で 析した(図1-96)。10mM の濃度で PEON の抽出が 最も多い有機酸はクエン酸であり、グルタル酸、コ ハク酸には PEON 溶解能はなかった。供試した14作 物では、酒石酸、コハク酸、グルタル酸の 泌量は 極めて低く、主な 泌有機酸はクエン酸とシュウ酸 であり、若干のリンゴ酸の 泌が認められた。最も 泌量の多いシュウ酸とクエン酸について、培地窒 図1-97 根から 泌されるキレート性有機酸 素濃度による影響を検討した(図1-97)。培地窒素濃 度が上昇するにつれ、 泌有機酸量は低下する傾向 有機酸の 泌は認められなかった。ニンジンはホウ にあった。シロナ、カブ、チンゲンサイ、コマツナ、 レンソウと同様に有機物施用で生育が旺盛となる作 ブロッコリーなどはアブラナ科作物であり、有機物 物であるが 、根からキレート性の有機酸の 施用効果の高い作物として報告されている 。また、 極めて少なかった。 泌は ホウレンソウ やフダンソウなどのアカザ科作物も 有機物施用反応が認められるニンジンはチン 有機物施用で生育が促進する作物であり、クエン酸 ゲンサイやピーマン、トウモロコシと比較し、高い ではなく、シュウ酸を大量に 泌し、窒素飢餓状態 (PEON 鉄錯体)から PEON を遊離させ PEON=Fe では、その傾向は顕著となった。しかし、トウモロ る能力が最も高かった。しかし、あらかじめニンジ コシ、ダイズ(インゲンも含めて)は、無機態窒素 ンの細胞壁を FeCl 溶液で処理した根では、PEON に反応をする作物種であり、PEON 溶解能を有する 溶解能はチンゲンサイやピーマン、ホウレンソウと 同様に低下した(表1-60)。すなわち、根表面細胞に は、鉄と結合する部位のあることが示唆された。 PEON を直接吸収すると えられているホ ウレンソウを土耕(有機物施用)と水耕(化学肥料 のみ)で栽培し、その導管液を採取した。導管液を サイズ排除 HPLC で 析した結果(図1-98) 、土耕栽 培の導管液には PEON のピークとほぼ同じ保持時 間の位置にピークが検出された。また水耕栽培の導 図1-96 作物根から主として検出される有機酸による 2種類の土壌からのPEONの溶出 図1-98 ホウレンソウ導管液のサイズ排除HPLC 析 122 表1-60 ニンジン根表面細胞によるPEON=Fe錯体からPEONの遊離 表1-61 無窒素条件で生育させた作物の窒素吸収量と 管液は、PEON の位置にピークが検出されなかっ 跡地根圏土壌の無機態窒素 た。導管液を濃縮し、精製 PEON から作出したウサ ギ PEON 抗体を用いてウエスタンブロットによる 反応を試みた結果、土耕の導管液と PEON 抗体との 反応が認められた。一方、水耕導管液には PEON 抗 体との反応は認められなかった。非免疫ウサギの 。土耕 IgG では PEON との反応はなかった(図1-99) 導管液と精製 PEON との反応パターンは若干異な っているが、これは凍結乾燥を繰り返した結果によ るか、否かは今後の検討課題である。 無窒素条件で栽培した9作物の窒素吸収量と その栽培跡地土壌の無機態窒素量の存在量を示した 結果を表1-61に示した。コマツナの生育(窒素吸収 量)は3.91g/m と比較的少ないが、栽培跡地に残さ れた無機態窒素量は(硝酸態窒素で168mg/kg とア ンモニア態窒素で57mg/kg)多かった。一方、トウ モロコシの窒素吸収量は1.89g/m と最も少なく、ま た跡地土壌の残存無機態窒素量も少なかった。図1- 図1-100 栽植本数および混作の有無が1株あたりの 97からコマツナはチンゲンサイと共に、根から大量 のクエン酸を 泌し、一方、トウモロコシは根 窒素吸収量に及ぼす影響 泌 量も少なく無機態窒素に反応する作物であり、この となり、コマツナを含めたポットあたりの全窒素量 両者の混作することから、トウモロコシとコマツナ はトウモロコシ単作よりも多くなった(図1-100)。 との混作をポット試験で行ったところ、コマツナを エ 1株加えることによってトウモロコシの生育は旺盛 察 有機物施用によって生育が促進されるアブラ ナ科やアカザ科の作物はクエン酸やシュウ酸を大量 に 泌し土壌中の PEON を溶解し、吸収すると え られた。しかし、有機物に反応するニンジンにはキ レート性の有機酸を 有機酸 泌しなかった。 泌能がないニンジンには、根細胞壁 表面に鉄あるいはアルミニウムと結合できる能力が 備わっている。 有機物施用反応が高いホウレンソウの導管液 とウサギから作成した PEON 抗体とが反応した。す なわち、PEON を直接吸収し、その体内(根)で一 部 図1-99 抗PEON抗体とホウレンソウ導管液との反応 123 解し修飾を受けた PEON が導管から検出され たことを示す。 タミン類や硝酸態窒素の含有量を測定するととも 有機物施用のあとには、無機態窒素が残され に、根の発達状況を調査する。なお、堆肥区では、 ており、無機態窒素を好む作物を栽培し、環境負荷 必要な窒素の全量を堆肥からとし、化学肥料は施用 を低減することが可能となる。 していない。いずれも基肥のみ。 オ 今後の課題 上記の処理区の土壌の硝酸態及びアンモニア 有 機 態 窒 素(PEON)吸 収 の 量 的 把 握 と 吸 収 態窒素の消長を経時的に追求するとともに、その土 PEON が作物の品質に及ぼす影響についての検討 壌を培養して可給態窒素(潜在的硝酸態・アンモニ が必要である。 ア態窒素)を追求し、さらに M /15リン酸緩衝液で抽 カ 要 約 出される有機態窒素(いわゆる PEON)の消長を追 作 物 に は、無 機 態 窒 素 だ け で な く 有 機 態 窒 素 求した。 (PEON)に反応する種類があり、それらの作物種 主に東京近郊の優良野菜農家で聞き取り調査 は土壌中の PEON の溶解と吸収の2つの機能を保 を実施し、堆肥施用が野菜の生育・収量や品質に及 有している。したがって、この機能を利用して作物 ぼす効果を解析した。 組合せを選択することにより、有機物施用効果の高 ウ 研究結果 い作付体系を構築できる。 キ 文 有機物施用の収量や品質に及ぼす効果は、夏 献 作においてプラスの効果が明瞭であったが秋作では 1) Ae,N.and Otani,T. (1997)Plant Soil. 196: マイナスを含めて効果が不明なことが多かった(図 265-270 1-101) 。その具体的な例を次に(表1-62、図1-102) 2) Matsumoto, S. et al. (1999) Soil Sci. Plant に示す。また、品質については、(表1-63)に示した Nutr. 45:269-278 3) ように、多くの堆肥施用区でプラスの効果がもたら 本ら(1999)土肥誌.40:31-38 担当研究者(阿江教治 、 された。 本真悟) (イ) 無機態窒素は施用初期に多く、栽培後半に 到ると、特に1ヶ月後において、著しく減少してい 4 有機質資材連用農家圃場の土壌特性および野菜 た。一方、PEON と称する低級有機態窒素は後半部 生育特性の解明 に無機態窒素を凌駕した(図1-103)。後半部に減少 ア 研究目的 する無機態窒素だけが後半部に肥大する植物体の増 農家段階で、堆肥等有機質資材連用による農作物 量に関与しているとは えにくい。ここで、ハクサ の生育、収穫物の特性、土壌条件の特質等を把握し、 イの収量と PEON の量との間には、栽培開始時には 野菜の品質向上のための機構解明と栽培技術の開発 相関が認められなかった(図1-104)が、栽培開始1 のための基礎的な知見を得るとともに、ハクサイ等 ヶ月後に明瞭な高い相関が求められた(図1-105)。 野菜の品質向上のための農家現地実証試験を行う。 優良野菜農家での聞き取り調査によると、ほ イ 研究方法 とんどの場合に積極的に有機物が施用されており、 千葉県白井市において、化学肥料との比較で、 それにはかなりの労力がかけられている。①先ず耕 生ゴミ堆肥(4種類)、牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥、鶏 耘は、深耕が心がけられているが、土塊を徹底的に ふん堆肥、下水汚泥コンポストやバーク堆肥連用下 は壊さない。特に降雨後の耕耘には錬り返さないよ で、ハクサイ等を栽培し、その生育特徴、収量、ビ う細心の注意が払われる。②施用する有機物資材で、 図1-101 有機物施用効果一覧(千葉県白井市) 124 表1-62 化学肥料区の収量を100とした時の、各有機物処理区の収量比 表1-63 ニンジンの品質 図1-102 ハクサイ収量と堆肥施用 *処理区は表1の注に同じ 養 を期待する場合は、完熟よりも一歩手前の堆肥 が、活力ある堆肥として用いられる。土壌物理的効 面に資材が播かれ (局所施用) 、そこに根が伸張し大 果を期待する場合は、落葉等を混ぜて、徹底的に腐 量に 布している。 熟化させている。特に根の発達を期待する場合は、 資材は土壌中に 不 エ 察 一に混和するのではなく、むしろ 露地の野菜作では、堆肥施用効果は、高温時 一に混ぜている例が多く、土壌中深くや土壌表 には養 的にも明瞭であるが、低温時には不明瞭の 図1-103 ハクサイ畑の無機窒素及びPEONの継時的変化 125 慮以上に、土壌の構造的な面を配慮する必要性が認 められた。 オ 今後の課題 有機質資材施用による経営・経済的評価 異種有機質資材の所在情報の完備 カ 要 約 有機物資材施用は夏作に効果が高い。 土壌の窒素肥沃度は無機態窒素量では不十 で、低級有機態窒素まで 量する必要がある。 有機物施用は土壌中での極端な 図1-104 定植時のPEONとハクサイ結実重との関係 一 布は避 けた方が効果が高い。 担当研究者(仲谷紀男 、古畑 哲、井町玲子、猪股 敏郎) 5 キャベツの高品質栽培のための家畜ふん堆肥施 用技術の開発 ア 研究目的 野菜栽培においては、消費者からの要望に応える ために、化学肥料の 用量を減らし、有機質資材を 活用した栽培技術の確立が求められている。 しかし、 堆肥などの有機質資材は品質が一定ではなく、肥料 図1-105 1ヶ月後のPEONとハクサイの結実重との 成 関係 の含有量やその肥効発現も堆肥の種類によって 様々である。そのため、家畜ふん堆肥を利用した野 みならず災害防止の効果が少ないと えられた。夏 菜栽培に関する試験は今までにも多く実施されてい 作における堆肥の積極的な利用は期待されるが、冬 るが、一定の結論は見いだされていない。そこで、 作では養 大規模堆肥連用圃場を利用して、堆肥施用がキャベ には安全と 的にはむしろ化学肥料施用の方が経営的 えられる。 ツの収量・品質に及ぼす影響を明らかにし、キャベ 従来土壌中の無機態窒素生成量が作物の生育 ツ栽培における堆肥施用技術を開発することを目的 と関係あると言われていたが、作物の後半部の急激 として試験を実施した。 な生長はこのことと矛盾する。無機態窒素のみが作 物に吸収されるとは イ 研究方法 えにくく、むしろ後半部に発 生量が増える PEON も吸収されると 畜産草地研究所(つくば)内で2002年から牛 える方が矛 ふん堆肥連用試験を行っている圃場のうち、表1-64 盾なく説明される。なお、図5において相関から相 に示す試験区において、連用6作目の春夏作と7作 当離れている1処理は、堆肥化過程が促成的な劣悪 生ゴミ堆肥であるため、相関から外れたと えられ 表1-64 試験区の施肥設計 る。 有機物施用の有無と関係なく、耕耘は丁寧に と一般に言われるが、必ずしも優良農家の事例では そうではない。その場合には土壌の構造が破壊され ることを懸念するとともに、降雨後等には錬り返し による土壌の圧密、すなわち透水不良を懸念してい る。優良農家はそのような圃場条件を熟知している。 優良農家技術のマニュアル化に際しては、養 的配 126 目の秋冬作での牛ふん堆肥や化成肥料の施用量とキ ャベツ生育量や土壌中の無機態窒素濃度との関係を 検討した。春夏作には「金系201号」、秋冬作には 「秋徳」を栽培し、セルトレイで育苗した苗を、 5×5m の試験区に、株間40cm、条間60cm で定植 した。堆肥は定植約1ヶ月前、化成肥料は定植前日 に施用した。定植後は定期的に、キャベツについて は1区当たり2株ずつ、土壌についてはキャベツ採 取跡2カ所から採取して 析した。春夏作の結球部 については硝酸イオン濃度と可溶性糖濃度を測定し た。また、栽培期間中の地温の変化に対応して1週 間ごとに培養温度を変化させた室内培養試験で、堆 肥 解過程を調査した。 1/2000a ワグネ ルポ ッ トでキャ ベ ツ(品種 「金系201号」)を栽培し、収穫までの 窒素投入量 が60、180、250、500kg ha になるように、硝酸ア ンモニウム溶液を8回、または12回に けて添加し た。結球肥大期に結球部を収穫し、硝酸イオン濃度 と可溶性糖濃度を測定した。 図1-106 春夏作キャベツの生育と土壌中の無機態窒素 ウ 研究結果 濃度の変化 春夏作の場合、堆肥区は化成肥料区と同等の 生育を生育初期から示した(図1-106)。地上部全体 の窒素含量は、結球し始めて生育が旺盛になる定植 30日目以降低下した(図1-106)。土壌中の無機態窒 素含量は、化成肥料区では定植直後は非常に高く、 定植20日目を過ぎると徐々に低下したが、収穫まで の間、常に堆肥区よりも高く推移した(図1-106)。 堆肥区の場合、定植直後は堆肥施用量に応じた濃度 を示し、その後上昇することなく低下し、45日目以 降ほとんど検出できなかった。 秋冬作の場合、定植50日目までは堆肥区の乾物重 量は化成肥料区の50%程度で推移したが、収穫時に はやや劣る程度となった(図1-107)。土壌中の無機 態窒素濃度は、化成肥料区は春夏作に似た変化を示 したが、堆肥区は施用直後は非常に低いものの、40 日目以降ゆるやかに増加した(図1-107)。 培養試験において、土壌のみでは徐々に無機態窒 素濃度が上昇したが、堆肥を混合すると、培養開始 4週目以降は無機態窒素濃度が低下し続けた(図1108)。しかし、秋冬作では、10週目以降(定植40日 図1-107 秋冬作キャベツの生育と土壌中の無機態窒素 目相当)になって無機態窒素濃度が上昇し、これは 濃度の変化 土壌中の窒素濃度増加時期と一致した。 結球部の硝酸イオン濃度は化成肥料区が最も 127 向が認められたが、施肥量の違いによる有意な差は 認められなかった (表1-66)。また、グルコシノレー トの一種であるシニグリン(辛味成 )の濃度は窒 素施肥量が少ないほど高まる傾向が見られた(デー タ省略) 。 堆肥に加え、50 kgN ha の化成肥料を基肥 として施肥したところ、秋冬作において堆肥区より 図1-108 牛ふん堆肥の土壌中での 解 生育が優れ、化成肥料区と同等の生育を示した(図 1-107) 。結球部の硝酸イオン濃度は化成肥料区より 高く、堆肥区は化成肥料区の1/3以下であった(表1 も低く抑えられ、可溶性糖濃度は化成肥料区よりも -65)。また、結球部の硝酸イオン濃度は、結球部よ 高くなった(表1-65)。 りも外葉部の全窒素含量との相関が高かった(図1- エ 109)。可溶性糖濃度は化成肥料区が最も低く、堆肥 察 試験圃場は2002年の秋冬作キャベツから連用 区は化成肥料区よりも多くなった(表1-65) 。 試験を継続しており、連用にともなう土壌の可給態 結球部の硝酸イオン濃度は、窒素施肥量が多 窒素含量などの変化から判断すると、熟畑化しつつ くなるほど高くなった(表1-66)。一方、結球部の可 あるものの、まだ安定していない。また、 用した 溶性糖濃度は、窒素施肥量が少ないほど高くなる傾 堆肥はおがくずを副資材として 用した牛ふん堆肥 で、酸素消費速度や他の性質から判断して、一般的 表1-65 結球部の硝酸イオンと可溶性糖の濃度 な牛ふん堆肥であった。 春夏作キャベツの場合、堆肥のみで栽培して も化成肥料並みの生育を確保することが出来た。こ れは、図3に示すとおり、施用した堆肥が元々速効 性窒素成 である硝酸態窒素を多く含んでいたため と えられる。一方、秋冬作では堆肥のみで栽培す ると、特に初期生育が化成肥料区よりも劣った。こ れは堆肥由来の無機態窒素が少ないことと、見かけ 上堆肥が 解されずに有機化が進んだため、土壌中 の無機態窒素濃度が低かったためと えられる。以 上の結果から、堆肥のみで栽培するキャベツの生育 を化成肥料並みに確保するには、生育初期において 土壌中の無機態窒素濃度を高める必要があると え られた。 堆肥のみと化成肥料のみで栽培したキャベツ の品質を、可食部である結球部の硝酸イオン濃度と 図1-109 キャベツの窒素含量と結球部硝酸イオン濃度 可溶性糖濃度から比較した。その結果、堆肥のみで との関係 表1-66 窒素施肥量とキャベツ結球部の硝酸イオン、可溶性糖濃度との関係 128 栽培すると、人体に有害な硝酸イオン濃度が低下し、 甘味成 である可溶性糖濃度が増加した。キャベツ キ 文 献 1) 佐藤ら(2005)キャベツの硝酸塩蓄積特性.平 の結球部では、アミノ酸等有機態窒素の蓄積は専ら 成16年度野菜茶業研究成果情報:17-18 外葉からの転流に依存するが、硝酸の蓄積は外葉部 担当研究者(佐藤文生、徳田進一 、廣兼久子、東尾 と同様に根からの直接流入による 。このことから、 久雄、浦上敦子) 堆肥のみを施用すると、結球肥大期の土壌中の無機 態窒素濃度が低く維持され、外葉部、結球部とも根 6 有機質資材長期連用によるホウレンソウ・ダイ からの硝酸イオン取り込み量が抑制されたと えら コン品質向上技術の開発 れる。 窒素施肥量を変えたポット試験の結果からも、 ア 研究目的 土壌中の窒素濃度と結球部の硝酸イオン濃度との間 有機質資材の施用は、地力維持に効果があるだけ に関連性が認められた。しかし、結球部の可溶性糖 でなく農作物の品質を高める効果があると言われて 濃度については一定の傾向が見られなかった。この いる。しかし有機質資材が農作物の品質に及ぼす影 ことから、可溶性糖濃度に及ぼす土壌中の窒素濃度 響については、不明な点が多く、とりわけ連用によ の影響は小さいものと る品質改善効果についてはほとんど検討されていな えられた。 秋冬作において少量の化成肥料を堆肥と併用 い。本研究では有機質肥料長期連用圃場で春まきホ したところ、化成肥料区と同等の生育を確保するこ ウレンソウ・秋まきダイコンを栽培し、品質等に及 とが出来た。これは、速効性の化成肥料の施肥によ ぼす影響を検討し、品質向上技術を開発する。 り土壌中の無機態窒素濃度が高まったためと えら イ 研究方法 れる。しかし、土壌中の窒素濃度を過剰に高めると、 試験実施場所は神奈川県農業技術センター内 結球肥大期の無機態窒素濃度も高まり、キャベツ結 の有機質資材長期連用圃場(灰色低地土25年連用) 球部の硝酸イオン濃度上昇につながるため、化成肥 で、2003∼2005年に亘り、ホウレンソウ「アクティ 料施肥量は可能な限り少なくする必要がある。 ブ」、「パレード」を3月上旬播種、4月下旬収穫、 オ 今後の課題 「アクティブ」、「おかめ」を5月下旬播種、6月下 本試験は堆肥連用6作目と7作目において行 旬∼7月上旬収穫、ダイコン「耐病 太り」を9月 った試験であり、今後も堆肥連用を続け、堆肥施用 中旬播種、11月下旬∼12上旬収穫とした。 の効果を継続調査する必要がある。 1:無窒素区、2:化成肥料単用区、3:菜 結球部の可溶性糖濃度については堆肥施用効 種油かす区、4:牛ふん堆肥標準区、5:牛ふん堆 果が認められなかったものの、グルコシノレート類 肥倍量区で、化成肥料単用区の N、P O 、K O 施肥 の濃度は高まる傾向が認められたので、グルコシノ 量(g/m )は、3月播きホウレンソウ(15-10-13) 、 レート類やそれ以外の品質関連成 、さらに物性に 5月播きホウレンソウ(13-10-13) 、ダイコン(15- ついても、堆肥施用の影響を明らかにし、キャベツ 13-15)とし、N施肥量を揃えた。 品質への堆肥の影響を多角的に検討する必要があ 収穫物の品質調査は、各試験区よりホウレン る。 ソウ5点、ダイコン3点ずつサンプリングし、重量 カ 要 約 測定後、細断して 析に用いた。硝酸、有機酸、糖 キャベツ栽培において、堆肥のみを施用する は水抽出後、ビタミンCは5%メタリン酸抽出後 と土壌中の窒素濃度が低く維持されるため窒素吸収 HPLC で測定した。アミノ酸は、1%スルホサリチ 量が抑制され、化成肥料での栽培に比べ生育量が低 ル酸で抽出後アミノ酸 下した。一方で、結球部の硝酸イオン濃度は低く抑 の辛味は、内部標準としてヘキサデカンを含むジエ えられ、可溶性糖濃度は高くなる傾向が認められた。 チルエーテルで、 4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオ 析計で測定した。ダイコン 基肥として堆肥を施用する他に、少量の化成 シアネート(MTB-ITC)を抽出し、GCMS で測定 肥料を施肥することによって、化成肥料のみを施肥 し、化成肥料単用区を100としたときのピーク面積割 した場合と同等のキャベツの生育を確保することが 合で比較した。全窒素(N)量は、元素 出来た。 った。 129 析計によ 土壌の無機N量は、生土を10% KCl で抽出 区は濃度障害による生育抑制がみられる場合があっ し、ろ液を FIA 法で定量した。可給態N量は、生土 を最大容水量の60%相当の水 た(表1-67)。 状態で、30℃、4週 化成区、菜種油かす区及び無窒素区のダイコ 間培養後に生成する無機態N量とした。リン酸緩衝 ンはセンチュウ被害が多発し、外観品質が著しく低 液抽出N(PEON)量は、Matsumoto らの方法 を 下したが、牛ふん堆肥施用の2区はセンチュウ被害 改良し、抽出液ろ液20mL にデバルダ合金0.2g と40 はみられなかった。また、ダイコンの収量は、処理 % NaOH 溶液0.1mL を加えて水蒸気蒸留し、無機 区間に大差がなかったが、生育は化成区が最も速く、 態Nを除去する。蒸留フラスコを放冷後、濃硫酸4 年度により菜種油かす区及び牛ふん堆肥標準区はこ mL を加えて有機物を加熱 れより遅くなる傾向がみられた(表1-68) 。 解した後、水蒸気蒸留 し、留出したNを滴定法で定量して PEON とした。 ウ 研究結果 ホウレンソウの硝酸含量は、牛ふん堆肥標準 区は低く、化成肥料、菜種油かす区で高かった。牛 ホウレンソウの生育は、化成区、菜種油かす ふん堆肥倍量区は年によって化成区と同等か低かっ 区及び牛ふん堆肥倍量区が早く、牛ふん堆肥標準区 た。また、3月播種より5月播種で高かった。全N は5∼7日程度遅れる傾向にあった。しかし、化成 含量は、各年度、両播種期ともに化成区と菜種油か 表1-67 ホウレンソウ アクティブ の品質及び生育・収量 表1-68 ダイコン品質・生育・収量 130 す区が高く、牛ふん堆肥標準区が低く、硝酸含量と い傾向にあり、一定の傾向は見られなかった(表1- 同様な傾向にあった。 68)。 シュウ酸は、3月播種より5月播種の方が高い傾 ホウレンソウ栽培時の無機態N量は、播種後 向だが肥料による明確な差はなかった。ビタミンC に化成区が最も多く、牛ふん堆肥標準区は低い水準 は無窒素区で高かった。また、3月播種では牛ふん で推移したが、ダイコン栽培時には処理間の差は小 堆肥標準区が2004、2005年作で化成肥料区より高い さかった。可給態N量は、牛ふん堆肥倍量区が3∼5 傾向であったが、5月播種では化成肥料区が有機質 mg、牛ふん堆肥標準区及び菜種油かす区が2∼4 肥料区よりも高かった。糖は2003年作ではほぼ同等 mg、化成区が1∼2mg であった。PEON は、牛ふ で、3月播種では牛ふん堆肥標準区で多かった。有 ん堆肥倍量区が2∼3mg、牛ふん堆肥標準区及び菜 機酸(リンゴ酸)は3月播種では有機質肥料区が化 種油かす区及び化成区が1∼2mg であり、処理間 成肥料区より高い傾向にあったが、5月播種では菜 の差は小さかった (表1-69)。また、培養前後におけ 種油かす区で低く、また一定の傾向はみられなかっ る PEON 量の違いはみられなかった(データ省略) 。 た(表1-67)。 エ ダイコン品質は、硝酸は無窒素区で低く、ま た2004年作は多雨の影響でN 察 作物の生育はホウレンソウ、ダイコンともに の流亡が大きいため 化成肥料区より牛ふん堆肥標準区でやや遅れ、菜種 全般に低かった。また、全N含量は、化成区が高く、 油かす区は、ホウレンソウでは化成区と同等の生育 無窒素区以外はほぼ同程度であり、硝酸含量とも関 が得られるが、ダイコンでは化成区より遅れること 連はみられなかった。 があった。 ビタミンCは同等で、全糖は無窒素区が高い傾向 施肥条件とホウレンソウ、ダイコンの内部品 にあり、牛ふん堆肥標準、菜種油かす区は化成区と 質に及ぼす影響は、ホウレンソウの硝酸含量を除い やや高いか同等だった。全アミノ酸は、2003年作で て一定の傾向がみられなかったが、牛ふん堆肥単独 は無窒素区が低い他は同等だったが、2005年作では 施用はセンチュウ被害を軽減し、外観品質を向上さ 化成区で高かった。アミノ酸はグルタミンが最も多 せる可能性が示唆されたものと かった。辛味成 えられる。 は、2003年作では無窒素、菜種油 土壌中の無機態Nは化成肥料区や菜種油かす かす区で高かったが、2005年作ではこれらの区で低 区で高く、生育初期から高濃度で供給されるが、牛 表1-69 土壌中の窒素の動態(2005年) 131 ふん堆肥標準区では栽培期間を通じて無機態N量が ウ、ダイコンの生育は、有機質肥料区で化成区より 低いことが生育の遅れに影響するとともに、ホウレ もやや遅れる傾向がみられたが、内部品質に明確な ンソウの硝酸含量の低下に繫がったと 差は見られなかった。 えられる。 土壌の可給態Nは、有機物施用の3処理区が多 作物栽培時の無機態N量は、化成区が多く、 い。一方、PEON は牛ふん堆肥倍量区がやや高い傾 牛ふん堆肥標準区は低く推移し、可給態N量は、有 向にあるが、可給態Nほど施肥条件は影響していな 機物施用量が多く牛ふん堆肥倍量区が多く、化成区 いと えられる。 では少なかった。PEON は、牛ふん堆肥倍量区が2 オ 今後の課題 ∼3mg と多かったが、処理間の差は小さかった。 有機質資材の施用が野菜の内部品質に及ぼす キ 文 献 影響は明らかではなかったが、牛ふん堆肥単独施用 1) Matsumoto, S., Ae, M. and Yamagata, M. とセンチュウ被害との関連を検討する必要がある。 (2000) Extraction of mineralizable organic 土壌中の PEON の動態とともに有機質資材 nitrogen from soil by a neutral phosphate 由来の PEON の動態解明が必要である。 カ 要 buffer solution. Soil Biol. Biochem. 32:1293- 約 1299 有機質資材長期連用圃場におけるホウレンソ 担当研究者(山田裕 、渡邊清二、曽我綾香) 132 第2編 低コスト・省力型野菜開発チーム 第1章 1 短節間性によるカボチャの省力・軽作業化栽培技術の開発 カボチャの短節間性発現変動要因の解明と短節 ウ 研究結果 間系統の育成 育成系統はいずれも初期短節間性を備え「え ア 研究目的 びす」に比べ乾物率が高く、食味が良好であった (表 カボチャの栽培は、果菜類の中では比較的省力的 2-1)。短節間性と果実形質の優れた個体を BM 系統 とされているが、生産者の高齢化、労力不足や国際 から2個体、BME 系統から5個体、BMC 系統から 競争力などの面から、なお一層の栽培の省力化が強 2個体の合計9個体を選抜した。このうち、F 組合 く望まれている。カボチャ栽培においては定植後に せ試験で親としての優秀性が認められた「BM 24-4- おける整枝、誘引、収穫作業に多くの労力を要して 7-2-A6-2-11」を「北海1号」と系統名を付し、他3 いる。そこで、これら作業の省力・軽作業化と果実 系統についても北海系統番号を付した。 の高品質化を目的に短節間性と高乾物率を兼備した 2004年度の試 F 系統はいずれも節間長は 品種を育成する。また、短節間性発現の変動要因を 「えびす」よりも短く、また側枝数が少なく、食味 明らかし、栽培技術への参 も良好であった。このうちの「TC1B」は乾物率、食 にする。 イ 研究方法 味において最も優れていたが、果皮色に 短節間・高品質固定系統の育成において、短 離が認め られた(表2-2)。「TC2A」は「TC1B」に次いで食 節間形質を有する「Bush Buttercup」を種子親とし、 味が良好であり、外観、果肉とも優れており最も優 高乾物率の「マサカリカボチャ」を花 良と判定した。2005年度は、 「TC7B」、「TC8B」、 親として 配した BM 系統、BM 系統に「えびす」、及び BM 系 「TC9B」の節間長は「つるなしやっこ」よりも短 統に「近成芳香」を 配した系統を供試した。各系 く、短節間性は優れていた。しかし、果皮色、果肉 統の 雑後代から短節間形質を有し、高乾物率で食 色はやや薄く、乾物率は「TC2A」、「TC2B」と比べ 味の優れる個体を選抜して固定を図った。 劣っていた。「TC6B」は果肉色、食味が良好で乾物 試 F 系統の能力検定として、渡辺採種場が 率も高かったが、果皮色がやや薄く、節間長も長か 雑した F 系統10点と対照品種「つるなしやっこ」、 った。正逆 雑の「TC2A」と「TC2B」はほぼ同様 標準品種「えびす」を供試した。2004年度は1区6 な特性であったが、「TC2A」は「TC2B」に比べて ∼7個体、2反復で配置した。株間60cm×条間150 節間長がやや短く糖度が高かった。現地試験におけ cm の無整枝で行った。2005年度は1区10個体、2反 る「TC2A」と「TC2B」は、生育初期で短節間性を 復で配置した。株間60cm×条間150cm の無整枝と 示し、「えびす」よりも短かった(表2-3) 。「つるな した。同様に恵 で現地試験を行った。 しやっこ」に比べ短節間性や収量性ではやや劣って 植物調節剤が節間伸長に及ぼす影響をみるた いたが、果皮色、果肉色が濃く、糖度、乾物率が高 め、ジベレリン(25、50、200ppm)を「Bush Butter- く果実品質では優れていた。「TC2A」は短節間性、 cup」の1∼4葉期、ウニコナゾールP(25倍、50倍) 果実品質、収量性において「TC2B」を上回った。 を「えびす」の1∼3葉期に葉面散布した。短節間 以上の結果から、試 発現に及ぼす施肥量の影響を明らかにするため、短 品種候補として有望と 節間系統(BM )と「黒皮デリシャス」、およびそれ 系統の中では「TC2A」が新 えられた。 ジベレリンの葉面散布によってブッシュ型の らの F を供試した。無施肥区、標準施肥区および1.5 「Bush Buttercup」は節間が伸長し、高濃度で伸長 倍量施肥区を設け各5個体3反復とした。短節間発 促進がみられた(図2-1)。ウニコナゾールPの葉面 現に及ぼす播種時期の影響をみるため短節間系統を 散布で普通草姿の「えびす」は節間が短縮したが、 用い、異なる播種日(5/10、5/24、6/7、6/21、7/5) その効果は一過性であった(図2-2)。主枝伸長及び を設け各6株を調査した。 側枝数は多施肥によってやや増加する傾向がみられ 133 表2-1 短節間育成系統の主要特性 表2-2 F1系統の特性検定 表2-3 現地圃場(恵 )におけるF1系統の特性検定 たが、節間長に及ぼす施肥量と播種日の影響は小さ エ く、短節間性の発現は安定していた(データ略)。 察 育成系統は「Bush Buttercup」と「マサカリ カボチャ」とを親として育成されてきたもので、い 134 ブッシュ性品種「Bush Buttercup」に対する ジベレリンの節間伸長効果は持続的で、高濃度処理 によって「えびす」のようなつる性にすることは可 能と思われた。他方、「えびす」の節間をウニコナゾ ールPの葉面散布によって短くすることは可能であ るが、その効果は一過性であった。短節間系統の節 間長に及ぼす施肥量や播種日の影響は小さいことか ら 、短節間性は安定した遺伝特性と えられた。 オ 今後の課題 短節間 F 優良系統「TC2A」を速やかに普及 する。 生育後半まで短節間性を示す固定系統の育成 図2-1 Bush Buttercupの節間長に及ぼすジベレリン (GA3)の効果 が必要である。 なし カ 要 約 短節間性と果実形質の優れた固定系統「北海 1号」∼ 「北海4号」を育成した。 試 F 系 統「TC2A」は短節 間 性、果 実 品 質、収量性において優れ、有望と判定した。 短節間性品種「Bush Buttercup」の節間はジ ベレリンにより持続的に伸長したが、普通品種「え びす」に対するウニコナゾールPの節間短縮効果は 一過的であった。短節間性に及ぼす施肥量、播種日 の影響は小さかった。 キ 文 献 1) 伊藤喜三男、室崇人(1998)カボチャの短節間 図2-2 ウニコナゾールPの葉面散布がえびすの節間長 系統と に及ぼす影響 外皮系統間の F 解析.園芸学会雑誌. 67(別2):282 ずれも生育初期の短節間性を有しているが、これは 2) 伊藤喜三男、室崇人、野口裕司(2000)カボチ 素材として利用した「Bush Buttercup」のブッシュ ャにおける短節間及び果実形質の遺伝.園芸学会 性に由来するもので 、 雑誌.69(別2):154 果皮性、高乾物率などは 「まさかり」の影響が大きいと の研究で、短節間性、果皮 えられる。伊藤ら 3) 野口裕司、室崇人、森下昌三(2003)短節間カ 度、糖度とは独立に遺 ボチャの主枝伸長および着果位置に及ぼす播種時 伝し、 短節間で高品質系統が育成可能とした予告が、 「北海1号」∼「北海4号」の育成で実証された形と 期の影響.北園談.36:12-13 担当研究者(森下昌三、野口裕司、室崇人、杉山慶 なった。 太 ) 短節間性系統と普通型高品質系統との F は 初期短節間性を示し、生育中期以降には節間が伸長 2 高品質短節間カボチャ品種の育成 したが、短節間系統どうしの F(TC6B-9B) では「つ ア 研究目的 るなしやっこ」より短節間性を示し、生育後期まで カボチャ栽培では整枝・誘引・収穫などの作業で 節間伸長が抑制された。このことから、生育全般に 多くの労力を要している。これらの作業を省力化・ 渡り短節間性を示す品種を育成するには、両親とも 軽作業化することは、生産者の高齢化、労力不足と に短節間系統を用いることが不可欠と 国際競争などの面から強く望まれている。そこで省 えられた。 135 力適性が優れ、かつ食味の優れる品種を育成する。 栽培は2005年3月23日播種、トンネル栽培による。 イ 研究方法 高品質短節間カボチャ品種の次期有望品種育 高品質短節間カボチャ品種を育成するため、 成の準備の為、新たに育成した北海道農業研究セン 北海道農業研究センターが育成した短節間系統と、 ターの高品質短節間系統と渡辺採種場の高品質短節 渡辺採種場が育成した普通型高品質系統との間で 間系統との間で2004年に F を採種し、2005年3月23 F 組合せ能力検定を行い、目的に う有望品種を育 日播種により F 特性検定試験を行った。 −aと同 成する。2003年に第1次選定、2004年に第2次選定 試験圃場、同調査方法で行った。また、同時進行で、 を行い、2005年に有望品種を選定した。有望品種選 さらに追加した高品質短節間系統を混じえて試 定にあたり2005年は F 特性検定試験、現地適応性試 統の F 採種も行った。 験、採種試験を行った。 系 ウ 研究結果 a F 特性検定試験は2005年3月23日播種、4 短節間系統と普通型高品質系統との F 育成 月19日定植、畦幅3m 株間40cm トンネル栽培、1系 a F 特性検定試験では、「TC2A」「TC2B」 統当り8株ずつ2反復、7月19日収穫で行った。節 は類似した特性を示し、「つるなしやっこ」より節 間長、着果位置は株元からの距離を測定し、子蔓数 間長がやや長いものの、果肉厚く、果肉色濃く、 は20節までの子蔓数で、伸長座止した子蔓数は数え 質強く、食味が優れていた。「えびす」よりも節間 なかった。果実の調査は8月1日に行った。 長が短く、子蔓数が極めて少なく、果肉厚く、果肉 b 現地適応性試験は北海道大滝村、 留寿都村、 名寄市、そして青森県 田村で行った。 色濃く、 質強く食味が優れていた。「TC6B」は 「TC2A」「TC2B」に近い特性であるが果皮色が c 採種試験は2005年3月17日播種、トンネル 緑やや淡く商品性に欠ける。 栽培、8月1日収穫で行った。 合評価として「TC2 A」「TC2B」が有望であった(表2-4)。 なお、現地適応性試験、採種試験は2004年に第2 b 現地適応性試験では「TC2A」 「TC2B」と 次選定した「TC2A」「TC2B」ついて行った。 もにほぼ同等の果実重量の大玉タイプであり、収量 合わせて、品種登録申請に向けて「TC2A」「TC2 が高かった。また、「TC2A」「TC2B」は畦幅1.5m B」を標準品種10種と比較して特性値調査を行った。 の栽培方法が、畦幅3m の慣行栽培方法より収量性 表2-4 F 特性検定 136 表2-5 現地適応性試験 と省力・軽作性の面から、適していた(表2-5)。 業化、作業性の改善に役立つ品種育成のため短節間 c 「TC2A」 「TC2B」の採種試験では、「TC2 と果実形質の遺伝性を検討し、短節間で高品質系統 A」が「TC2B」より10アール当り換算採種量が多か の育成の可能性が示された。これまでに既に短節間 った(表2-6)。 性を備えたカボチャ品種があるが、果実品質、食味 d 以上、F 特性検定試験、現地適応性試験、 が劣るため広く普及に至っていなかった。そこで、 採種試験の結果、 「TC2A」が優れていると判定した。 e 「TC2A」の特性値調査を標準品種10種と比 本課題は省力適正と高品質・食味を兼ね備えた品種 を育成するため、北海道農業研究センターが育成し 較して、品種登録申請に向けて準備した。 た短節間性系統と、渡辺採種場が育成した普通型高 高品質短節間系統どうしの F 育成 品質系統との F による高品質短節間品種の育成を 北海道農業研究センターが育成した高品質短節間 行った。その結果「TC2A」を育成できた。 「TC2A」 BM E 系統と渡辺採種場の高品質短節間系統との は既成短節間品種の「つるなしやっこ」より節間長 F1では、「TC7B」「TC8B」「TC9B」とも「つるなし がやや長いものの果実が高品質・高食味である。現 やっこ」よりさらに短節間となり、子蔓もほとんど 地適応性試験では、平井 らが報告した、短節間性を なく、強い短節間性を示した。しかし、果実が小さ 有する「つるなしやっこ」を用いて畦幅150cm、整 く、食味も劣り、これら F は「TC2A」より劣った 枝・誘引作業を行わないで、セル成型ポット苗の直 (表2-4)。 接定植が収量性、果実品質を損なわず省力になる事 同時進行で、北海道農業研究センターと渡辺採種 を明らかにしているので、本試験では、この方法を 場のそれぞれが新たに追加した高品質短節間系統を 試験区に入れ実施した。結果、「TC2A」において 混じえた F を12組み合わせ採種した。 も、このいわゆる「密植放任栽培」方法が多収性で エ 察 あり、省力・軽作業面から適していると えられた。 伊藤 らの研究により、カボチャの省力・軽作 本課題の当初育成方法は、短節間性と普通型 表2-6 採種試験の結果 137 高品質系統との F による育成であったが、その次期 および普通草姿品種「えびす」とした。2002年は2 品種の育成準備のため、北海道農業研究センターと 種類の育苗方式(12㎝ポリポット、セル成型ポット) 渡辺採種場とが、それぞれに育成を開始していた短 および直播で、うちセル成型ポット区は、50 10日 節間性高品質系統どうしの F による育成を試みた。 育苗、72 (14、10、7日)育苗および128 10日育 2005年の F 特性検定試験では「TC2A」より劣った 苗として設定した。12㎝ポリポット区は、5月8日 ため、さらに他の組合せについて検討する必要があ に播種し、6月3日に本圃に定植した。セル成型ポ る。 ット区は、処理区に従い播種日を変え、6月3日に オ 今後の課題 直接本圃に定植した。直播区は、5月30日に本圃に 「TC2A」を普及するにあたり、 「TC2A」の育 播種した。2003年についても同様の試験を行った。 成目的である省力化・軽作業化と高品質、しかも多 但し、セル成型ポット区は72 (20、12、7日)育 収性の能力発揮のためには、いわゆる「密植放任栽 苗として設定した。直播区は、欠株を防ぐため、1 培」方法が適切であるが、従来栽培方式と大きく異 株3粒播きとした。「つるなしやっこ」は株間50㎝、 なるので、技術指導面の普及も伴わなければならな 畦幅150㎝とし、摘心は行わず親蔓仕立てとし、定植 い。 後は放任栽培とした。 「えびす」 は株間80㎝、畦幅300 カ 要 約 ㎝、子蔓3本仕立てとした。試験区は、2002年は1 北海道農業研究センターが育成した短節間性 区あたり12株の2反復とし、2003年は1区あたり8 系統と渡辺採種場で育成した普通型高品質系統との 株の2反復とした。 間での F による高品質短節間品種の育成を行い、 b 育苗方法の違いによる作業時間への影響 「TC2A」を育成できた 省力性について試験時に実際に要した作業時間を 次期品種の育成準備のため、北海道農業研究 測定することにより評価した。 センターと渡辺採種場とが、それぞれが育成を開始 窒素施肥量の違いによる生育への影響 (2002、 していた短節間性高品質系統との間での F を採種 2003年) した。 キ 文 供試品種は、「つるなしやっこ」および「えびす」 献 とした。200kg/a の堆肥を施用した圃場を利用し 1) 伊藤喜三男、室崇人、野口祐司(2000)カボチ て、12㎝ポリポット区、72 セル成型ポット区の各 ャにおける短節間および果実形質の遺伝. 園学雑. 区につき、窒素施肥量について0、0.8、1.2、1.6kg/ 69(別2):154 a 区を設定した。栽培概要、栽植様式は上記試験に準 2) 平井剛、杉山裕、中野雅章(2004)短節間カボ じた。収穫後、作物体を果実、茎、葉、葉柄部に チャ つるなしやっこ の収量性および省力性.園 け、各部位について窒素吸収量を測定した。 芸学研究.3⑶:287-290 検討した栽培方式の短節間新系統への適応性 担当研究者(渡辺春彦 、早坂良晴、浜田佳子) の検討(2004、2005年) 「つるなしやっこ」 を用いて行った上記試験につい 3 寒地における短節間カボチャの栽培方式の開発 て、本プロジェクトにおいて育成された短節間新系 ア 研究目的 統への適合性を検討した。供試系統は「TC2A」とし 栽培の省力・軽作業化に適した短節間カボチャの た。72 セル成型ポットを利用して12日間育苗し、 新品種を育成するに当たり、育成系統の特性につい 2004年は6月3日、2005年は6月2日に定植した。 て栽培的視点から評価し、寒地に適した短節間カボ 栽植様式は上記試験に準じた。 チャの栽培方式について検討する。 ウ 研究結果 イ 研究方法 育苗方法の検討 育苗方法の検討 a セル成型ポットの大きさと育苗日数による a セル成型ポットの大きさと育苗日数による 生育への影響 生育への影響(2002、2003年) セル成型ポットの大きさと育苗日数が収量性等の 供試品種は、「つるなしやっこ(既存短節間品種)」 138 一般特性に及ぼす影響について調査した。 2002年は、 12cm ポリポット区の株当たりの収穫果数が多く、 平 一果重は小さかった。一方、各セル成型ポット 処理区間では、平 一果重に有意差は認められず、 各セル成型ポット処理区間における収穫果数は約 1.1果/株で差異はなかったことことから、 収量に おいても有意差は認められなかった(図2-3)。直播 区における収量性は、一部のセル成型ポット区と比 べて有意に低かった(データ略)。2003年における収 量性ついても検討したが、各セル成型ポット処理区 間で有意な差異は認められなかった(データ略)。 2002年、2003年ともに、72 セル成型ポット7日 育苗区や直播区では、花痕径の大きい果実が多かっ たことから規格内収量が低かった。 b 育苗方法の違いによる作業時間への影響 育苗方法および品種の違いが作業時間に及ぼす影 響について検討した(表2-7)。「つるなしやっこ」を 図2-4 窒素施肥量と養 吸収量 72 セル成型ポットを利用した栽培では、育苗に要 する時間が大幅に削減されることに加えて、圃場で 育への影響について検討した(図2-4)。 「つるなしや の摘心や誘引、整枝作業が不要であることから、一 っこ」における窒素吸収量は窒素施肥量0.8、1.2、 般的な「えびす」の12cm ポリポット苗を利用した栽 1.6kg/a 区において処理間に明白な差はなく、概ね 培と比較して、作業時間が約60%削減された。 同等であった。 窒素施肥量の違いによる生育への影響 収量は、窒素施肥量0.8kg/a 区の 時が1.2、1.6kg/a 区に比べてやや優れた。この傾向 窒素施肥量の違いによる「つるなしやっこ」の生 は、12cm ポリポット区、72 セル成型ポット区に関 わらず概ね同様であった。この傾向は「えびす」と も同様であったが、「つるなしやっこ」 は栽植密度が 高いことから、「えびす」に比べて全体的に窒素吸収 量は高くなった。 検討した栽培方式の短節間新系統への適応性 の検討 乾物率は内部品質のうち食味と深い関係のある指 標である。「TC2A」の収穫直後の乾物率は、約30% と高く高 質であった(表2-8)。貯蔵(50日)によ り乾物率は減少し、澱 図2-3 育苗方法と生育 表2-7 育苗方法の違いによる作業時間への影響 139 の糖化により糖含量が増加 表2-8 「TC2A」の内部品質(2004) くなるため規格内収量が低くなり、老化苗(14∼20 日育苗) を用いると活着が劣ることから (データ略) 、 セル成型ポット育苗には、72 セル12日育苗が適当 であると思われた。 育苗方法の違いによる作業時間への影響について は、72 セル成型ポット利用により、鉢上作業およ び苗ずらし作業が省けるほか、育苗スペースの削減 により潅水時間が短くなる等、育苗に要する全作業 した。同様に「つるなしやっこ」でも、貯蔵により 時間が大幅に短縮化された。また、定植作業時間は、 糖含量は増加が認められたが、乾物率は20%より低 72 セル成型ポット区では、12cm ポリポット区と くなった。また、 「TC2A」は甘くホコホコしており、 比べて、運搬が効率化されるうえ、植付け作業自体 実際の食味も非常に優れていた(データ略) 。 が簡易移植器(カラス口)の利用により大変容易で 「TC2A」は「つるなしやっこ」同様に、72 セル あることから、大幅に削減された。加えて、72 セ 成型ポット利用しても12cm ポリポット同等の収量 ル成型ポット区の場合に要する培土量は12cm ポリ 性を示した(図2-5)。また、「TC2A」は「つるなし ポットと比べて約1/10と少なく、軽労化も期待でき やっこ」と比べて窒素吸収量がやや高かった(図2- る。 6) 。 エ 「つるなしやっこ」 では、摘心作業、誘引作業が不 察 要であり、株元付近に揃って着果することから、果 育苗方法の検討 実を探す手間が省け、効率的な一斉収穫が可能であ 平井 らは短節間カボチャの栽培には、栽植密度 った。 を高めた133.3株/a が最適であり、セル成型ポット 以上から、短節間カボチャの72 セル成型ポット を利用することにより、育苗の省力化が図れること を利用した栽培では、一般的な「えびす」の12cm ポ を報告している。本報告では、セル成型ポットの大 リポットを利用した栽培と比べ、作業時間の大幅な きさや育苗日数により収量性に明らかな差は認めら 短縮につながった。 れなかった。しかし、若苗では果実の花痕径が大き 窒素施肥量の違いによる生育への影響 窒素施肥量0.8∼1.6kg/a 区まで養 吸収量およ び収量性に明確な差は認められず、また、乾物率は 同等であった(データ略)。このことから、短節間カ ボチャの栽培には0.8kg/a (堆肥200kg/a 施用後)で 十 であると思われた。 検討した栽培方式の短節間新系統への適応性 の検討 収穫直後の「TC2A」の乾物率は、育苗方法によら ず約30%と高く、 「つるなしやっこ」と比べて高 図2-5 「TC2A」の収量性 質 良食味系統であった。「TC2A」は「つるなしやっこ」 と比べて窒素吸収量がやや高かったが、収穫期まで の生育は概ね同等であった。 「TC2A」は「つるなしやっこ」と異なり、やや節 間長が長く乾物率が高いという特性を有している が、「つるなしやっこ」同様の栽培方式の適用が可能 であった。 オ 今後の課題 図2-6 「TC2A」の養 短節間カボチャは株元に着果することから蔓傷が 吸収量 140 付きやすい 。これを栽培面から改善する方法が求 で被覆し、株間40cm の主枝一本仕立てで行った。肥 められる。また、一層の省力化を図るためには、汎 料 は N:P:K=1.2:1.2:1.2:kg/a を 基 肥 と 用の機械移植機に適応できる斉一苗管理技術を確立 して全面に施肥した。試験区は系統当たり15株を2 し、移植効率を高める必要がある。 反復で配置した。 2003年度試 カ 要 約 系統の特性検定試 験> 短節間カボチャの育苗には72 セル成型ポットを 「Bush Buttercup」と「マサカリ」との 雑後 利用した12日育苗が適当であり、「えびす」の12cm 代である BM 系統の F 1系統、F 2系統、BM E 系統 ポリポット苗に比べて、作業時間が約60%削減され の F 6系統、BMC 系統の F 4系統の合計13系統を供 た。短節間カボチャの栽培には0.8kg/a (堆肥200kg/ 試した。2003年11月12日に播種、11月15日に9cm ポ a 施用後)で十 リポットに鉢上げし、11月23日にビニールハウスに であると思われた。 短節間新系統「TC2A」は、節間伸長性や内部品質 畦幅180cm、株間80cm の栽植密度で定植し、立体栽 について「つるなしやっこ」と異なる特性を有して 培した。試験区は系統当たり10∼14個体、対照およ いるが、「つるなしやっこ」同様の栽培方式の適用が び参 品種は3∼4個体として無反復で配置した。 可能であった。 施 肥 量 は N:P:K=1.2:1.2:1.2kg/a を 基 肥 キ 文 献 として施した。収穫は2004年3月16日に一斉収穫し、 1) 平井剛、杉山裕、中野雅章(2004)短節間カボ 調査マニュアルに従って果実特性を調査した。2003 チャ つるなしやっこ の収量性および省力性.園 年度親系統の世代促進試験> 学研.3⑶:287-290 短節間試 系統の「TC2A」 、「TC2B」と沖 2) 杉山裕、平井剛、田中静幸、長尾明宣(2006) 縄県内で栽培されている品種「えびす」(タキイ種 短節間カボチャの蔓傷発生要因に関する知見.北 苗)、「こふき」(ナント種苗) 、「くりゆたか」 (協和 海道園芸研究談話会報.39:投稿中 種苗)、 「味平」(協和種苗)を供試した。2004年11月 担当研究者(杉山裕 、田中静幸、長尾明宣、中野雅 1日に播種し、11月16日に定植した。栽培は大型ト 章) ンネル(間口2.1m)のビニールで被覆し、株間45cm、 畦幅3.0m の主枝一本仕立てで行った。肥料はN: 4 暖地における短節間カボチャの生育・品質特性 P:K=1.2:1.2:1.2:kg/a を 基 肥 と し て 全 面 の解明 に施肥した。試験区は系統当たり10株を2反復で配 ア 研究目的 置した。 「TC2A」と「TC2B」に関しては、トンネ 沖縄県のトンネル栽培カボチャは、 配期の2月 ル内での着果をめざし、低節位からの は蔓がトンネル外に伸長し、降雨期とも重なって着 果が不安定で、トンネル内での 2004年度試 配が可能な蔓の短 配を行った。 系統の特性検定試験> BM 系統の F 1系統、BME 系統の F 5系統、 い短節間カボチャに対する期待が大きい。そこで、 BMC 系統の F 2系統、試 北海道農業研究センターおよび(株)渡辺採種場に (標準品種)、「つるなしやっこ」(対照品種) の合計 おいて開発される短節間カボチャを早熟栽培に導入 12系統を供試した。2004年11月8日に播種、11月26 することを目的として、沖縄県における短節間カボ 日にビニールハウスに畦幅180cm、株間65cm の栽 チャの生育・品種特性を解明し、省力・軽作業化栽 植密度で定植し、立体栽培した。試験区は系統当た 培技術を開発する。 り20個体、標準品種および対照品種は10個体として イ 研究方法 材料には短節間試 系統2系統、「えびす」 無 反 復 で 配 置 し た。施 肥 量 は N:P:K=1.2: 系統の「BM 71-2-5-6- 1.2:1.2kg/a を基肥として施した。収穫は2005年 A6×AHO」他5組合せと「つるなしやっこ」と普通 3月15日に一斉収穫し、果実特性を調査した。 2004 品種「えびす」を供試した。2003年10月20日に播種、 年度親系統の世代促進試験> 10月28日に9cm ポリポットに鉢上げし、11月6日 ウ 研究結果 に定植した(つるなしやっこ10/28は種、 11/14定植)。 栽培は小型トンネル(間口1m)に1mm 目のネット 供試 F 系統はいずれも短節間性を示し、 「え びす」に比べて10節長は著しく短い値を示した。果 141 重はやや重く、食味、糖度とも高く、各組み合わせ それらの自殖種子が得られた(表2-10)。 とも品質は良好であった(表2-9)。 「TC2B」「くりゆたか」は短節間性を示した。 供試系統の短節間性は概ね「つるなしやっ 「TC2A」と「TC2B」において、低節位からの 配 こ」並であった。果形は BM 系統では心臓型で果 を行ったが、途中で自然落下する果実がほとんどで 実先端部が突出したが、BME および BMC 系統で あった。果重は「えびす」が最も重かったが、果皮 は「つるなしやっこ」、「えびす」に似た偏平果であ の地色が緑であった。又、「TC2A」と「TC2B」は、 った。果皮色は、多くの系統は黒あるいは濃緑色で 果実先端が尖るため、果形比が高くなった。乾物率 あった。食味はいずれも良好で、ホクホク感のある は、供試したすべての品種が「えびす」を上回った。 肉質をして乾物率も一部の系統を除き25∼33%の範 (表2-11)。 囲にあった。北農研において短節間性、果形、乾物 供試系統の短節間性は概ね「つるなしやっ 率、食味などに基づいて優良な18個体が選抜され、 こ」並であった。果形は BM 系統では心臓型で果実 表2-9 F1系統の諸性質(2003年度) 表2-10 短節間選抜個体の特性 表2-11 F1系統の諸性質(2004年度) 142 先端 部 が 突 出 し た が、BME 及 び BMC 系 統 で は 育成された「北海3号」は、果実先端の尖り 「つるなしやっこ」、「えびす」に似た偏平果であっ がなく、果実の品質も良好であることから短節間品 た。果皮色は、多くの系統が黒あるいは濃緑色であ 種の 配親としての活用が期待される。 った。食味、乾物率は、一部を除いていずれも良好 オ 今後の課題 で、ホクホク感のある肉質を持つ。北農研において 短節間 F 品種の大型トンネル内、又は、露地 短節間性、果形、乾物率、食味などに基づいて優良 粗放栽培における活用技術の確立。 な4個体が選抜され、「北海1号」∼「北海5号」 育成された「北海3号」を と付された(表2-12、表2-13)。 エ 系統の育成とうどん 察 配親にした新 F 病抵抗性の付与が望まれる。 カ 要 約 供試 F 系統は、暖地においても安定した短節 育成された短節間 F 系統は、暖地においても 間性を示し、各組み合わせとも品質は良好であった 安定した短節間性を示し、果実品質も良好であった。 が、果実先端部の尖りを改良する必要がある。 果形は BM 系統では心臓型で果実先端部が BM E および BMC 選抜個体は、偏平果で果 実品質も良いことから 配 突出したが、BME および BMC 系統では、 「えびす」 母本として有望であ に似た偏平果に改良された。世代促進により短節間 る。 性、果形、乾物率、食味などに基づいて優良な4個 果実品質が例年に比べ悪いのは、2月の極端 体が選抜され、「北海1号」∼「北海5号」と付さ な日照不足の影響と思われる。又、短節間 F 品種の れた。 「TC2A」と「TC2B」においては、低節位からの 担当研究者(川上光男 、坂本守章、棚原尚哉、計良 配と側枝除去が、自然落果を増やし樹勢の低下をも 貴子、和田美由紀、田場奏美) たらしたと えられる。 表2-12 短節間系統の特性(2004年度) 表2-13 短節間選抜個体の特性(2004年度) 143 第2章 1 短側枝性によるメロンの省力・軽作業化栽培技術の開発 立ち作りに適する単性花型・短側枝性メロン系 数を調査した(2005年抑制)。 統の育成 ウ 研究結果 ア 研究目的 側枝発生および花性に重点をいて評価・選抜 メロン栽培においては側枝摘除、摘果等の整枝作 を進めた結果、単性花型で短側枝性の優れた F 、F 、 業に多大な労力を要しており、この省力化が求めら B F 、B F を12系統選抜した(表2-14)。これらの系 れている。本研究では、側枝の伸長が短く抑えられ 統は実用品種に比較して果実外観はほぼ る短側枝性メロン系統に、着果の制御が可能で不要 度に向上しているが、内部品質(糖度、肉質、芳香 な自然着果が少ない単性花形質を導入し、整枝・摘 等)にやや不十 果作業が大幅に軽労化できる省力型メロン系統の育 統については、うどんこ病、つる割病レース2に抵 成を図る。 抗性を示す。2度の戻し イ 研究方法 色ない程 な点があるものが多い。多くの系 雑を行った世代について は、糖度、肉質の向上した B F 、B F 世代11系統 (う 短側枝系統と雑草メロン由来の単性花性を有 する単性花系統を ち4系統が単性花型)を選抜した。 配した後代から、単性花型で短 単性花性は単因子優性に遺伝した。また果実 側枝性の優れた系統を選抜し固定を進めた。これら 形質と花性の関係を検討し、単性花形質は縦長の果 に実用品種・系統を戻し 形や低糖度等の望ましくない形質と密接に関連して 雑して果実形質の向上を 図った。並行してうどんこ病およびつる割病レース いることを確認した(図2-7) 。 2抵抗性の評価を行った。 短側枝性の強い系統を両親とした試 単性花型・短側枝性系統を用いて系統間 Fの 配 大部 は強度の短側枝性を示し、中節位以上の側枝 F を作成した。2005年の抑制栽培にお 摘除が不要であった。片親または両親に短側枝性の いて45組合せを栽培し(立体、1株1果着果)、予備 不十 な系統を用いた場合は、普通に伸長する側枝 的な選抜を行った。 が多く発生する場合が多かった。強∼中程度の短側 を行い、試 単性花形質の省力効果を検討するため、訪花 枝性と単性花性を有し、果実形質の比較的良好な10 昆虫がいない条件で、放任した上部側枝の自然着果 組合せを予備選抜した(表2-15)。 表2-14 単性花型・短側枝性選抜系統の特性(抜粋) 144 が、単性花性により摘果作業がそれぞれ省力化でき ることが示された。これらのことから、整枝・摘果 労力を大幅に軽減できる省力型メロン F 品種の育 成が可能であると えられる。 単性花形質は望ましくない果実形質と連鎖し ていることから、単性花型系統の果実形質をさらに 向上させるためにはやや時間を要すると えられ た。 図2-7 花性の オ 今後の課題 離している世代における果実重と 糖度による個体 予備選抜した試 布 の品種化を検討する。世代の浅い戻し ○両性花個体、●単性花個体 定を進め、果実形質をさらに改良した試 金子ら は短側枝性系統の省力効果を検討 F を作出 カ 要 約 と、つらい姿勢での労働時間を3割に削減できるこ 整枝作業を軽労化できる省力型メロンの開発 とを確認した。 を目的とし、単性花型・短側枝性メロン系統を育成 放任した上部側枝の自然着果数は、両性花型 した。系統間 F の特性を評価し、優良な組合せを予 系統ではやや多かったのに対し(0.65果/個体)、単 備選抜した。 性花型系統では極めて少なかった(0.007果)。 単性花形質は、長形果や低糖度等の望ましく 察 ない果実形質と関連していた。 優れた短側枝性と単性花性を兼ね備えた系統 を育成できた。両形質は試 雑後代の固 する。 し、整枝作業時間を慣行の4∼5割に削減できるこ エ F の評価を行い、優良系統 単性花型・短側枝性系統では、整枝・摘果作 F においても発現する 業の省力効果が認められた。 ことが確認された。また、短側枝性により整枝作業 表2-15 単性花型・短側枝性試 145 F 系統の特性 キ 文 献 本仕立て放任栽培の試験区も設けて知見を得ること 1) 小原ら(2005)メロンの単性花性と果実形質の とした。株間は本葉3枚摘心後放任栽培、親づる1 関係.園学雑.74(別2):154 2) 金子ら(2005)短側枝性メロンの地 本仕立て放任栽培それぞれ40、90cm で各系統2 い栽培に ∼3株供試した。 おける省力性.園学雑.74(別2) :384 ウ 研究成果 担当研究者(小原隆由 、杉山充啓、坂田好輝) 効率のよい世代促進のため、年2回の栽培や 露地栽培での選抜等を行うことで2003年まで各系統 2 地 い放任栽培に向く短側枝性メロン F 品種 の自殖を行い、「GAN」5系統、「MGN」6系統の の育成 F 種子を得た。特に露地栽培での選抜では、株数の ア 研究目的 確保とともに耐候性・耐病性なども加味して、短側 「メロン中間母本農4号」(以下、 「農4号」)は短 枝性選抜を行うことができた。また「農4号」の短 側枝性を有し、整枝・誘引作業等の省力化が可能な 側枝性は高温条件下でその発現が抑制されることか 系統であるが、果実が小玉で糖度が低いため、その ら、2003年において8月上旬播種という厳しい条件 ままでは品種としての利用は難しい。そこで、省力 下でハウス栽培を行った。この結果、生育初期の高 型品種である「マルセイユ」の両親にこの形質を付 温条件・中期の高温寡日照条件・後期の低温寡日照 与することで、さらに省力・密植栽培が可能な地 条件という様々な環境下で栽培することで短側枝性 い放任栽培向けネットメロン F の育成を目指す。 を選抜することができた。 イ 研究方法 2004年春作で得た F 種子10系統の秋試作で 2002年に育成した、「農4号」と 「マルセイユ」 の両親をそれぞれ は、低節位における短側枝性が認められる組み合わ 配 し た 系 統「GAN」及 び せはなかったが、着果節位付近において「337-9-4- 「M GN」から短側枝性系統を選抜するために、年2 20」と「336-2-1-26」を組み合わせた2系統(No. 回の栽培を利用して高温条件下で栽培した。 202、203)に短側枝性が認められた(表2-16、写真 F 世代において、果皮色・果肉色・ストライ 2-1、2-2、2-3)。これは開花期まで高温条件だった プの有無など様々な形質が発現することが予想され ため短側枝性が発現せず、着果期以降の気温の低下 たため、2003年3月19日播種の作型では「GAN」5 とともに短側枝性が発現したと 系統、 「MGN」4系統の F を露地で展開することで、 葉3枚摘心後放任栽培、親づる1本仕立て放任栽培 ある程度の株数を確保した。2003年8月6日播種の ともに短側枝性の発現に差異はなかった。 えられた。また本 ハウス栽培では合計13系統の F を展開し、短側枝性 果実品質について、本葉3枚摘心後放任栽培 の強弱を見極めるため、栽培期間中3回の調査を行 では No.202、204、208、210が「マルセイユ」とほ い、選抜した。 ぼ同等の果重となり、特に No.208は「マルセイユ」 2003年の秋作で強度の短側枝性を示した、親 並みの糖度を示した(表2-16、写真2-4、2-5、2-6) 。 系統「GAN」(F )3系統、「M GN」(F )2系統の エ 合計5系統を用いて2004年1月28日に播種した。両 親ともに世代が若く短側枝性が 離することが 察 短側枝性に関して、極端な高温条件下で選抜 え した親系統を用いて F 種子を得たが、8月播種の られたため、各組み合わせにつき5株供試し、短側 F 試作では初期の高温によって、低節位の短側枝性 枝性を有する個体のみから合計10系統の F 種子を の発現が抑制された。これは遺伝的要因よりも環境 採種した。 要因によるところが大きいように思われた。 2004年春作で得た10系統の F 種子を8月3 着果節位付近の短側枝性の評価から判断する 日に播種し、50 プラグトレーで育苗した。通常、 と No.202、203が有望と思われたが、ネット発現は 「マルセイユ」は親づるの本葉を3枚で摘心した後、 放任栽培を行うため果実は主に孫づるに着果する。 良好ではなく、内容的にも十 なものではないこと から、即品種化・商品化は難しいと えられた。 しかし、放任栽培において「農4号」由来の短側枝 オ 今後の課題 性が安定して発現するか不明だったため、親づる1 促成栽培では安定した短側枝性が確認されて 146 表2-16 地 い親づる本葉3枚摘心後放任栽培における供試F1の主要特性 写真2-1 No.202の草姿 写真2-3 マルセイユの草姿 写真2-2 No.203の草姿 写真2-4 No.202の果実 いるが、抑制栽培での短側枝性は発現が打破されや 本研究課題では限られた期間内での品種育成 すい。両親系統の世代がまだ若いため、継続的に高 のため、抑制栽培のみでの F 評価となってしまっ 温条件下での選抜を戻し た。現在、地 配と併用して繰り返す必 要があると思われる。 いメロンは全国的に促成栽培での利 用が圧倒的に多いため、促成栽培での短側枝性およ 147 草勢の制御のため、側枝摘除等の整枝が必要である。 この作業は、暑いハウスの中、前屈みの窮屈な姿勢 で、多くの時間を要している。そこで、整枝作業の 省力化が期待できる短側枝性を、茨城県の主要な作 型である半促成栽培に導入する。そのため、茨城県 農業 合センター生物工学研究所所有の低温肥大性 系統と野菜茶業研究所育成の短側枝系統とを し、短側枝性メロン試 写真2-5 No.203の果実 配 F1を育成するとともに、品 種特性を活かす省力的な栽培技術の開発を行う。 イ 研究方法 栽培技術:短側枝性の発現特性を明らかにす るため「メロン中間母本農4号(以下農4号)」を供 試し、播種時期の違い、定植後のトンネル管理方法、 着果数の多少、摘果の有無について検討した。播種 時期については2002年の2月20日、4月6日、7月 19日および2003年の2月25日、3月10日、3月25日 に播種した。定植後のトンネル管理については、定 写真2-6 マルセイユの果実 植後14日間トンネル密閉区と昼間トンネル開放区と び果実品質を評価し、知見を得る必要がある。 カ 要 を比較した。着果数については、つる当たり着果数 約 1個と2個の区を設けた。摘果については、着果節 「メロン中間母本農4号」は短側枝性を有し、 整枝・誘引作業等の省力化が可能な系統であるが、 より上位節着果果実の摘果の有無により試験区を設 け、比較した。 果実が小玉で糖度が低いため、そのままでは品種と 短側枝性の省力効果を明らかにするため 「農4号」 しての利用は難しい。そこで、省力型品種である「マ および育成中の短側枝性系統を供試した。子づる2 ルセイユ」の両親にこの形質を付与することで、省 本仕立て後に、下位側枝摘除区(着果節より下位側 力・密植栽培が可能な地 枝摘除+摘果)、長側枝摘除区 (長側枝のみ摘除+摘 い放任栽培向けネットメ ロン F の育成を目指した。 果)、放任区の3区を設けて、 「アンデス5号」を供 年2回の自殖や露地栽培での選抜等を利用し 試した慣行区(着果節より下位側枝摘除+着果枝2 て、親系統「GAN」5系統、 「MGN」6系統の F 種 節摘心+主枝摘心+着果節より上位側枝1節摘心+ 子を得た。これらを用いて得られた F 種子10系統を 摘果+遊びづる3本放任)と、整枝・摘果に関わる 試作した結果、着果節位付近において2系統(No. 労働時間等を比較した。 202、203)に短側枝性が認められた。また整枝方法 品種育成:半促成の作型に適応した品種を育 の違いによる短側枝性発現に差異はなかった。 成するために、「農4号」および野茶研育成の短側枝 供試した F の中にはコントロールの「マルセ 性2AB1-2に生工研育成の低温肥大性、良食味、ネッ イユ」より大玉で同程度の糖度を示す系統も見られ ト系「メイスター」の親系統を たが、短側枝という特徴と高い果実品質を伴った系 さらに生工研系統を2回戻し 統はなく、即品種化・商品化は難しいと ら、半数体育種法により倍化半数体系統(固定系統) えられた。 研究担当者(勝又憲一 ) 配した(2002年) 。 雑した BC 系統か を作出した(2003∼2004年)。選抜した倍加半数体系 統 K32、L12、O33と野茶研育成系統 SB ♀1、SB ♀ 3 作型適応性を改良した短側枝性メロン品種の育 3、MSL031J1を親にして試 成と省力栽培技術の開発 春作)。試 ア 研究目的 検討した。 メロン栽培では、過繁茂による病害の蔓 防止や 148 F を作出した(2005年 F を2005年8月26日に播種し、適応性を ウ 研究結果 品種育成:生工研育成短側枝系統と野茶研育 栽培技術:播種時期の違いについては、着果 節より上位側枝における無・短側枝 成系統を栽培し、それぞれを の割合は、2 配して F を作出し た。短側枝性については、野茶研系統「MSL031J1」 月播種では100%だったが、4月、7月播種ではそれ が 最 も 優 れ、次 い で「 SB ♀1」、生 工 研 系 統 ぞれ16∼28%、0%と少なかった(表2-17)。トンネ 「K32」、「L12」がやや優れた。果実品質について ル密閉管理の有無により短側枝の発生に差は見られ は、生工研系統「K32」 、「L12」の果実重が大きく、 なかった。つる当たり着果数は、2個の方が短側枝 食味も優れた。野茶研系統は糖度が高いものの肉質 の発生がやや多かった。摘果の有無により短側枝の が 劣 っ た(表2-18)。作 出 し た19系 統 の F に つ い 発生に差は見られなかったが、摘果無区は摘果有区 て、短側枝系統の「農4号」、普通側枝品種の「メ より果重が小さかった。整枝・摘果に関わる労働時 イスター」及び「アンデス5号」を対照に、適応性 間は、慣行区に対して下位側枝摘除区が45∼49%、 を検討した。果実重は、いずれも「農4号」より大 長側枝摘除区が36∼38%、放任区が17∼20%と少な きくなったものの、「メイスター」よりやや小さか かった。つらさ指数 が10の労働時間は、慣行区に った。糖度は対照品種より高い系統が多く、特に 対して下位側枝摘除区が24∼25%、長側枝摘除区が 「TH12」、「TH18」は16%以上と高く、食味が優 12∼31%と少なく、放任区では0時間だった(図2- れた。短側枝性については、系統間で側枝長に差は 8、2-9、金子ら )。放任区では収穫果の1果重が小 あるものの、いずれの系統も11∼15節の下位側枝は さく、特に育成系統では低糖度となるなど果実品質 やや伸長し、15節から上位の側枝で短側枝性を発現 が低下した。 した。果実重、糖度・食味などの果実品質及び短側 枝性から、「TH12」及び「TH15」の2系統が有望 :無側枝;側枝伸長せず。短側枝;側枝長20cm 程度で弱 と 勢化。長側枝;弱勢化せずに伸長。 えられた(表2-19)。 エ :つらさ指数;10タイプの作業姿勢について、力学モデ 察 栽培技術:メロンの短側枝性については、小 ル、筋電図、心拍数、エネルギー代謝、心理的つらさの 原ら が「メロン中間母本農4号」の姉妹系統を供試 5種の相関研究から求められた指数(長町ら )。 表2-17 播種時期と着果数の違いが側枝発生割合に及ぼす影響(2002年) (%) 図2-8 作業別労働時間(2005年) 図2-9 つらさ指数別労働時間(2005年) 149 表2-18 短側枝親系統の果実品質及び短側枝性(2005年) 表2-19 F 系統 し、短側枝性の発現が高温・強光によって抑制され その後の温度、光強度の低下により、上位側枝で短 ることを明らかにした。本研究においても、2月、 側枝性が発現したと 3月播種の作型において短側枝性の発現が安定して る半促成作型では、育成した F 系統の短側枝性が発 いたことから、同様の結果が得られた。また、低温 現することが予想される。 時に慣行的に行われているトンネル密閉管理が短側 えられる。低温・寡日照であ オ 今後の課題 枝性の発現に影響を及ぼさないことが確認でき、短 栽培技術:無整枝栽培への適応性の検討、着 側枝性メロンの本県における半促成栽培への適応性 果制限技術の開発、適正な栽植方法等の各種栽培方 が明らかになった。短側枝性メロンにおいては、単 法を確立する。さらに、作型等を問わずに短側枝性 なる労働時間だけでなく、つらい姿勢での労働時間 メロンを用いた栽培を可能にするためには、短側枝 についても大幅な削減が図れた。これは、ベッド中 性発現安定化技術の開発が必要である。 央部での作業が少なかったことに加えて、着果枝摘 品種育成:育成した F 系統の半促成の地 心等の作業が省略された他に、側枝が短いために側 い栽培における栽培特性、短側枝性及び果実品質を 枝摘除や摘果等の作業が容易に行えたことが挙げら ついて検討し、作型適応性を確認する。 れる。放任区は労働時間が最も少なかったが、余剰 果の着果負担が大きいために、収穫果の1果重が小 さく、果実品質が低下したと えられた。 カ 要 約 栽培技術:短側枝性メロンの短側枝性は2 月、3月播種の無加温栽培で安定的に発現し、茨城 品種育成:F の適応性を検討した8月下旬 県の半促成栽培への適応性が明らかになった。また 播種の作型では、生育初期が高温・強光の時期であ 整枝・摘果に関わる労働時間を5∼6割削減でき、 ることから、供試した系統の下位側枝がやや伸張し、 特につらい姿勢での労働時間を7割以上削減できる ことが明らかになった。 154 品種育成:短側枝系統に低温肥大性系統を 2) 金子ら(2005)短側枝性メロンの地 配し、半数体育種法により3系統のネット系短側枝 親を育成し、 おける省力性.園学雑.74(別2):384 配親として果実品質の優れる短側枝 3) 小原ら(1998)メロン短側枝性の発現に関与す F を作出した。 キ 文 い栽培に る環境要因.園学雑.67(別2) :279 献 担当研究者(宮城慎 、金子賢一、高津康正、冨田 1) 長町編(1986)現代の人間工学.朝倉書店:153- 夫、鈴木雅人) 151 第3章 1 短節間性等によるトマトの省力・軽作業化栽培技術の開発 短節間トマト系統の育成と短節間特性の解明 短節間性を有する固定系統「トマト安濃10号」と ア 研究目的 「とまと中間母本農9号」(普通節間)を トマト栽培では整枝・誘引作業に多大な労力を要 得られた F 集団および F 集団を用い、短節間性の している。短節間性をトマトに導入することにより、 遺伝解析を行った。短節間性の指標として第6果房 普通節間のトマトと比較して、長期栽培ではつる下 位置を測定した。 ろし作業等が軽減され、短期栽培では一定の草 に 雑して ウ 研究結果 おける収穫可能な果房数が増加する。そこで、トマ 選抜系統はいずれも「桃太郎8」に比べて第 ト栽培の省力化を図るため、短節間性を有する生食 6果房位置が3/4程度と低く、短節間性を安定して発 用大玉トマトの優良な系統を育成する。 現していたが、果実糖度はやや低く、果実はやや小 イ 研究方法 さい傾向にあった(表2-20)。「TSN99A-76-2-3-2- 短節間性を有する固定系統「盛岡7号」と市 1-4-3」は短節間性を安定して発現するとともに、 販品種である「桃太郎8」および「瑞栄」などを用 非心止まり性で果実が大きく、完熟果色が桃色であ いて 雑を行い、後代について短節間性および果実 ったので、2003年に系統名「トマト安濃10号」を付 形質に関して選抜し、固定を図った。世代促進を図 与して2004∼2005年に特性検定試験ならびに系統適 るため、春夏期および秋冬期の年2作とし、うね幅 応性検定試験を実施した。作業省力性として誘引回 180cm、株間40cm の2条植えとして高さ180cm で 数を調査したところ、「トマト安濃10号」は「桃太郎 摘心して栽培を行った。短節間性の指標として第6 8」に比べて果房当たりの誘引回数がやや少なくな 果房位置(子葉着生部から第6果房着生部までの長 った(表2-21) 。高さ180cm までの収穫可能な果房 さ)を測定するとともに、植物体の特性および果実 段数は約2段増加したが、収量は「桃太郎8」と同 形質を調査した。また、これらの 雑後代間で F 組 等であり、変形果の発生が多くなった(表2-21) 。 合せを作出して同様に栽培し、果実形質および収量 「トマト安濃10号」は短節間性を有する生食用大玉 性の調査を行った。 トマト品種の素材として優秀性が認められ、中間母 「瑞栄」(普通節間・非心止まり性)と短節間 本登録候補となった。 性を有する系統「TSN97A-112-19-5-4」(心止まり 性)を 「トマト安濃10号」を片親として短節間系統との 雑して得られた F 集団を用いて、短節間性 F 組合せを作出したが、果実形質および収量性で および心止まり性と果実形質の関係を解析した。短 「トマト安濃10号」を上回る組合せは見出せなかっ 節間性の指標として第6果房位置を測定し、果実形 た(表2-22)。 質として果実糖度、果重および果実 度を調査した。 「瑞栄」と「TSN97A-112-19-5-4」の F 集団 表2-20 短節間系統の主な特性(抜粋2004年春夏期) 152 表2-21 トマト安濃10号 の作業省力性および収量性(2005年) 表2-22 短節間系統F 組合せの主な特性(2005年) では果実糖度と第6果房位置との間に相関はみられ ず、短節間性を有する個体でも果実糖度が高い個体 が存在した(図2-10) 。果実重や果実 度に関して も第6果房位置との間に相関はみられなかった(デ ータ略)。心止まり性と果実形質との間にも相関はみ られなかった(図2-10) 。短節間性の遺伝解析では F 集団の第6果房位置は正逆ともに両親(「トマト 安濃10号」および「とまと中間母本農9号」)の中間 の値となったが、F 集団の第6果房位置は80∼180 cm に連続して 布し、平 値は両親の中間の値と なった(表2-23) 。 エ 図2-10 第6果房位置と果実糖度の関係(2003年) 察 ◆:非心止まり性個体、 ×:心止まり性個体 「盛岡7号」と「桃太郎8」の 雑後代では短 節間性と赤色完熟果色の連鎖が確認されたが、連鎖 とが示唆された。また、「トマト安濃10号」の短節 が切れたと 間性は不完全優性に遺伝すると推定された。 えられる個体を見出すことができ、完 熟果色が桃色である「トマト安濃10号」を育成でき オ 今後の課題 た。これにより短節間性を有する桃色系の生食用大 短節間性を有する「トマト安濃10号」を育成 玉トマト系統の育成が可能であることを示した。 したが、果実形質および収量性に関して改良が必要 短節間性は果実糖度、果実 度および果実重 である。 との間に相関がみられず、遺伝的に独立しているこ 短節間性は不完全優性に遺伝すると推定され 153 表2-23 トマト安濃10号 の短節間性およびその遺伝(2005年) るため、短節間性を有する F 品種を育成する際に 系統、対照として「サンチェリー250」及び「千果」 は、短節間性を両親に付与する必要がある。 を用いた。2004年4月1日に播種し、5月18日に露 カ 要 約 地圃場に定植した。栽培は、高さ約180cm で摘心し 短節間性を有し、非心止まり性で完熟果色が た直立1本仕立てとし、節間長及び第3果房の一果 桃色である大玉系の「トマト安濃10号」を育成した。 短節間性は果実糖度や果重など、種々の果実 重と果実糖度を調査した。 b F 系統の育成 形質とは独立していることが明らかになった。「ト 当場で育成した短節間性ミニトマト固定系統間で マト安濃10号」の短節間性は不完全優性に遺伝する 組合せた12組合せの F 系統、対照として「サンチェ と推定された。 リー250」及び「千果」を用いた。2005年4月1日に キ 文 献 播種し、5月19日に雨よけハウス内に定植した。栽 1) 斎藤ら(2006)短節間形質を有する トマト安濃 培は、高さ約180cm で摘心した直立1本仕立てと 10号 の育成とその特性.園学雑.75 (別1)(投 し、15果以上の果実が完熟した果房を果房ごと収穫 稿中) した。調査は第1果房の高さ、第5果房の高さ、収 2) 斎藤ら(2003)生食用大玉トマト育種における 量性及び果実糖度について行った。 短節間形質の利用 短節間形質と果実形質の関 短節間性トマトの作業特性の評価 係.園学雑.72(別2):149 担当研究者(斎藤新 、齊藤猛雄、吉田 a 長期どり栽培試験 実、山田朋 ミニトマト3系統(bu 保有)と短節間性の大玉ト 宏) マト1系統(br 保有) 及び対照2品種を用いた。2003 年4月1日に播種し、5月21日に雨よけハウス内に 2 短節間ミニトマト系統の育成と短節間性の作業 定植した。栽培はつる下ろし誘引法により行い、収 特性の評価 穫は、ミニトマトの短節間性系統の「STBU01」と ア 研究目的 「STBU03」は房どり、他の4品種・系統は個どり トマトはつる下ろしや収穫などの作業に多大な労 とし10月26日まで行った。調査は、栽培期間中の脇 力を要するため、その省力・軽作業化が求められて 芽かき、ホルモン処理、下葉かき、誘引・つる下ろ いる。本課題では、つる下ろし作業や収穫作業を省 し及び収穫作業に要した時間を測定した。 力するため短節間性や房どり収穫適性を有するミニ b 短期どり栽培試験 トマト系統の育成と、短節間性トマトの作業特性の 短節間性のミニトマト2系統(bu 保有)と大玉ト 評価を行う。 マト1系統(br 保有)及び対照3品種を2004年4月 イ 研究方法 1日に播種し、5月19日に雨よけハウス内に定植し 短節間性ミニトマト系統の育成 た。栽培は直立一本仕立て法により行い、収穫果房 a 固定系統の育成 が180cm 以上の高さに達したらつる下ろしを行っ 当場で選抜した固定系統の短節間性ミニトマト25 た。収穫は、ミニトマトは10段果房までを房どり、 154 大玉トマトは8段果房までを個どりで行った。調査 モン処理、下葉かき及び誘引等は短かった(図2- は、栽培期間中の脇芽かき、下葉かき、誘引・つる 11) 。収穫は、房どりした系統は個どりした品種・ 下ろし及び収穫作業に要した時間を測定した。 系統と比べ明らかに作業時間が短かった。大玉トマ ウ 研究結果 トでは、誘引等が短かったが、他の栽培管理作業は 短節間性ミニトマト系統の育成 同等であった。 a 固定系統の育成 b 短期どり栽培試験 全ての固定系統の節間長は対照品種より短く、短 短節間系統の作業時間を栽培管理別に対照品種と 節間性固定系統間には、果実の大きさや糖度に大き 比較すると、ミニトマトでは脇芽かきは同等、下葉 な系統間差異が見られた(データ省略) 。 かきは長く、誘引等は短かった(図2-12) 。収穫は b F 系統の育成 対照品種の方が短かったが、その差は小さかった。 F 系統を対照品種と比較すると、開花到達日数は ほぼ同等、第1果房の着生節位は試 大玉トマトでは、脇芽かき及び下葉かきは同等で、 BU10以外の 誘引等は短かった。収穫作業は短節間系統の方が短 系統で低く、節間長は短く、収穫果房段数は対照品 かったが、これは収穫果数の差が影響していると 種が約8段であったのに対し F 系統では約10段で えられた。 あった(表2-24) 。F 系統の中には、収量、良果収 エ 察 量、果房当たりの着果数、果実糖度が対照品種より 選抜された3つの F 系統は、対照品種と比べ 優れるものが見られ、また、一果重が対照品種と同 節間長が明らかに短く、収量性が優れ、一果重及び 等の系統が多かった。 果実糖度が対照品種と同等である。また、この3系 本試験で供試した F 系統の中から、収量性、果房 統は裂果が少なく房どり収穫栽培に適しているの 当 た り の 着 果 数、糖 度 の 点 で 優 れ て い た 試 で、つる下ろし作業や収穫作業の省力・軽作業化が 「BU13」及び試 「BU15」、節間が短く、糖度が高 可能な実用品種候補として期待できる。また、通常 かった試 「BU11」を選抜し、次年度から特性及び のミニトマト品種を房どり収穫すると、収穫果房が 系統適応性検定試験に供試することとした。 長くなり、そのままでは出荷・流通が不 であるが、 短節間性トマトの作業特性の評価 この3系統は果間長が短いので(データ省略) 、房ど a 長期どり栽培試験 り収穫してもコンパクトな形態で出荷・流通できる 短節間系統の作業時間を栽培管理別に対照品種と 利点があると 比較すると、ミニトマトでは脇芽かきは長く、ホル えられた。 短節間系統は、栽培期間の長さや果実の大き 表2-24 短節間ミニトマトF 系統の諸特性 155 図2-11 長期どり栽培における短節間性系統の栽培管理別作業時間 1) 上段の4品種・系統はミニトマト、 下段の2品種・系統は大玉トマト 2) STBU01、STBU02、STBU03及びAT-SN02は短節間性系統 3) 誘引等につる下ろし作業が含まれる 図2-12 短期どり栽培における短節間性系統の栽培管理別作業時間 1) 上段の3品種・系統はミニトマト、 下段の3品種・系統は大玉トマト 2) STBU01、STBU03及び安濃10号は短節間性系統 3) 誘引等につる下ろし作業が含まれる さにかかわらず、誘引等の作業時間を短縮できた。 見て一貫性が無く、短節間形質の導入による省力化 これは、つる下ろし作業の回数が減少したことが大 の効果はあまり期待できなかった。 きな要因であり、短節間性をトマトに導入すること により、つる下ろし作業が軽減されると オ 今後の課題 えられた。 また、短節間性に関する遺伝子として brachtic (br) や bushy (bu)などの遺伝子があるが、bu を導入し 適応性検定試験を行う。 短節間ミニトマトの肥培管理、栽植密度等の た短節間ミニトマトは、果間長も短くなるので、着 最適条件を明らかにする。 果促進として行うホルモン処理の散布範囲が狭くな り、ホルモン処理作業が省力できると 短節間ミニトマト品種候補系統の特性・系統 カ 要 約 えられた。 短節間性を有し、裂果に強く房どり収穫でき また、当場では、短節間ミニトマト系統の育種目標 るミニトマト F 系統を作出し、収量性、食味等の優 に房どり適性を含めて育種研究を進めてきたが、房 れる3系統を選抜した。 どり収穫は個どり収穫と比べ収穫作業を大幅に省力 トマトに短節間性を導入すると、つる下ろし できることが明らかとなった。なお、他の管理作業 回数が減少でき、 この作業に係る労力を軽減できた。 については、試験区によっては短節間系統と対照品 また、bu 由来の短節間性を有するミニトマトはホル 種との間に差が見られる場合もあったが、 合的に モン処理作業を省力化できた。 156 房どり収穫は収穫作業の大幅に省力化でき 解析プログラムとする)により、節間長や栽植様式 た。 と受光量との関係を解析した。条間100cm、葉の着生 キ 文 1) 献 角度を37度として節間長を7cm、4cm と仮定した 永、村山(2005)短節間ミニトマト F 系統の 植物体の11月下旬における受光量を比較した。また 特性.園学雑75別1.(投稿中) 2) 条間(南北条)を変化させた時の節間長と受光量と 永ら(2004)短節間性トマトの栽培管理作業 の関係を検討した 。 別労働量.園学雑74別1:298 ウ 研究結果 担当研究者( 永啓 、矢ノ口幸夫、村山敏) 短節間の2系統はいずれも標準品種として用 いた「ハウス桃太郎」より節間が短く、草 も小さ 3 受光体制の改善等による短節間トマトの生育制 かったが、着生花房数や葉長、最大葉長は同程度で 御技術の開発 あった。一方、「レンブラント」は最も節間が長く、 ア 研究目的 他の系統(品種)と比較して葉長、葉の着生角度が 栽培期間が長期にわたるトマト栽培では生育の進 小さく、各葉を平 した葉面受光量は大きかった。 行に伴って、つる下げ(つる下ろし)作業が必要と また葉数も多く生育が速かった(表2-25) 。 なり、これに多くの労力を要する。現在、つる下げ 短節間トマトの葉面受光量は、第3∼4花房 作業の省力化を目的に短節間トマトの育種が進めら 間は「ハウス桃太郎」と同程度だったが、第3花房 れている。しかし、育成された品種の普及には、品 以下では「ハウス桃太郎」より小さかった(図2-13) 。 種特性を発揮できる栽培技術の構築が必要である。 「レンブラント」は生育が他より速かったため直接比 そこで、育成中の短節間トマト系統と草姿の異なる 較はできないが、葉面受光量は最も大きかった。 普通トマト品種を栽培し、生育ならびに受光体制を 解析プログラムで解析した模擬植物体の葉面 比較した。 受光量は、節間長7cm より4cm の方が大きかっ イ 研究方法 た。また株間が大きくなるほど大きくなった(図2- 育成中の短節間トマト系統「AT-SN-02」お 14)。一方、株間を40cm として条間および節間長を よび「02TS09」ならびに普通品種「ハウス桃太郎」 変化させると、節間長が2∼4cm の場合は条間を および「レンブラント」を2003年8月27日に128 セ 変化させても受光量は変わらなかった。これに対し ルトレイに播種し、鉢上げ後、10月11日に1/2000a ワ て、節間長がそれ以上長い場合には条間の広い方が グネルポットへ定植した。ガラス温室内でそれぞれ 受光量は大きくなった。節間を「ハウス桃太郎」と 株間40cm×条間100cm で3条(南北条)に配列し 同程度の7cm で計算したときが最も葉面受光量が た。11月28日∼12月11日の間、各系統(品種)2個 小さかった(図2-15)。 体の各葉中央付近に積算日射フィルム(オプトリー エ 察 フ R-2D、大成化工)を貼付して個葉の葉面受光量を 短節間トマトは、「ハウス桃太郎」の草姿を節 測定した。葉面受光量の測定後、各系統(品種)3 間だけ短くしたような草姿であった。短節間トマト 個体を対象に生育調査を行った。 は「ハウス桃太郎」と比較して下層での受光量は小 「植物個体群受光量解析プログラム」(以下、 さかった。「ハウス桃太郎」と「レンブラント」との 表2-25 生育および葉面受光量の品種(系統)間の差異 157 な栽植様式を検証する必要がある。 短節間トマトの管理技術として有効と思われ る摘葉による受光体制の改善効果についても検討す る必要がある。 カ 要 約 短節間トマトは「ハウス桃太郎」と比較して 図2-13 葉面受光量 下層の葉面受光量は小さいが、平 の葉面受光量に 布の品種(系統)間差異 大差はなかった。葉長や葉の着生角度も受光体制に 1) 葉面受光量は各葉面の受光量を花房(子葉)と花 房の間ごとに平 影響していると した値 えられた。 節間長が4cm 程度の短い模擬植物体は、密 植でも葉面受光量は変化しなかったことから、短節 間トマトでも密植が可能と えられた。 キ 文 献 1) 東出ら(2003)傾斜地作物個体群の受光シミュ レ−ションプログラム.農業環境工学関連5学会 2003年合同大会講演要旨:305 2) 川嶋ら(2003)短節間トマトの生育特性と受光 図2-14 株間および節間長と葉面受光量との関係 体制の解析.農業環境工学関連5学会2003年合同 1) 条間100cmとして計算した植物体の1日当たりの 大会講演要旨:160 葉面受光量 担当研究者(川嶋浩樹 、高市益行、渡辺慎一、中野 有加) 4 短節間トマトのセル成型苗利用による省力・高 品質生産技術の確立 ア 研究目的 トマトセル成型苗の直接定植栽培技術は、育苗・ 定植作業の省力化に大きく貢献する。しかし、若苗 図2-15 節間長および条間と葉面受光量との関係 のセル成型苗を直接定植した場合、定植後の生育が 1) 株間40cm、葉数20枚として計算した植物体の1日 過繁茂になり、果実品質が低下するなど多くの問題 がある。そこで、短節間トマトについて、セル成型 当たりの葉面受光量 苗を利用した直接定植栽培技術を開発し、育苗・定 比較から、葉長や葉の着生角度も葉面受光量に差を 植作業から整枝・誘引作業の省力化・軽作業化を図 生じさせる要因と る。また、草勢が強くなることを利用した多収量栽 えられた。 解析プログラムでの計算の結果、節間長が小 培技術を開発し、多収量・省力体系化技術を確立す さい場合には条間を変化させても葉面受光量に差異 る。 が生じなかったことから、短節間の植物体は密植が イ 研究方法 可能であり、単位面積当たりの栽植株数を増やせる 直接定植栽培における地下部環境制御による 可能性が示唆された。 草勢調節 摘葉等により葉長を適切な大きさに管理する 必要があるものと a 促成栽培における適正施肥量の検討 えられた。 2001年8月20日播種の促成栽培において、短節間 オ 今後の課題 トマト「AT-SN02」および「ハウス桃太郎」を供試 解析プログラムはトマト植物体の形状を忠実 した。育苗はポット育苗とセル成型育苗とし、施肥 に再現したものではないため、栽培試験により適切 量は、標準量施肥 (窒素量28.0kg/10a)、30%減肥 (窒 158 素量19.6kg/10a) 、60%減肥(窒素量11.2kg/10a) とし、施肥資材はスーパーロング220を ウ 研究結果 用した。 直接定植栽培における地下部環境制御による b 夏秋栽培における定植時根域制限処理の検 草勢調節 討 a 促成栽培における適正施肥量の検討 2002年3月22日播種の夏秋栽培において、「AT - 短節間トマト「AT-SN02」の生育は、「ハウス桃 SN02」および「桃太郎8」を供試した。育苗はポッ 太郎」に比べ、開花、収穫段数の差がなかったが茎 ト育苗とセル成型育苗とし、根域制限処理は定植時 長が2m 程度短かかった。 収量は、「AT -SN02」 にセル成型苗の根鉢を東洋ろ紙 No1 (90g/m )で包 はポット苗に比べセル成型苗が増加し、平 1果重 んで定植した。 もポット苗に比べセル成型苗が重かった。施肥量減 直接定植栽培における地上部環境制御による 肥の影響は、60%減肥では 草勢調節 収量・A品収量が減少 したが、30%減肥では影響がなかった。 a 短節間トマトに適した整枝法 b 夏秋栽培における定植時根域制限処理の検 2002年8月22日播種の促成栽培において、「AT - 討 SN02」および「ハウス桃太郎」を供試した。育苗 セル成型育苗中の生育では、「AT-SN02」は「桃 は、ポット育苗とセル成型育苗とし、整枝はトマト 太郎8」に比べ茎長が短く、茎の長さが揃っており の茎をハウス内に斜めに誘引する斜め誘引整枝と、 育苗中から短節間性が認められた。育苗・定植時間 垂直に誘引したのち捻枝してUの字型にするUター は両品種とも大幅に削減でき、ポット苗に比べセル ン整枝とした。栽植様式は、うね幅180cm、株間33cm 成型苗は、「AT-SN02」では54時間短縮した(図2- (1,684株/10a)、1条植えとした。 16)。収量は、ポット苗に比べセル成型苗で増加し、 b 最低夜温およびマルチの開始時期の検討 A品収量は根域制限処理により増加した。 2003年8月26日播種の促成栽培において、「AT - 直接定植栽培における地上部環境制御による SN02」および「桃太郎コルト」を供試した。育苗は 草勢調節 ポット育苗とセル成型育苗とし、最低夜温は8℃と a 短節間トマトに適した整枝法 10℃設定とした。マルチの開始時期は、11月7日、 「AT-SN02」はUターン整枝とすることで、斜め 12月11日および無マルチとした。 誘引より 収量・A品収量が増加した。誘引・葉か 草勢と多収量要因の解明 き・整枝作業などの管理作業時間は、斜め誘引に対 a 短節間トマトの長期どり栽培における播種 してUターン整枝で大幅に減少し(図2-17)、腰を伸 時期の検討 ばした楽な姿勢(写真2-7)で収穫できる果房(通路 促成栽培において、短節間トマト「安濃10号」お から高さ70cm 以上)が、斜め誘引の8果房に対し、 よび「麗容」を供試した。育苗はポット育苗とセル Uターン整枝では15果房に増加した。 成型育苗とし、播種は2003年の7月6日、7月26日、 8月17日の3回とした。整枝法は、Uターン整枝を b 最低夜温およびマルチの開始時期の検討 「AT-SN02」はセル成型育苗・夜温10℃管理で 長期どり栽培に発展させループ状に誘引するQター 収量が増加し、また、上物収量(出荷規格A、B品) ン整枝 とし、栽植様式はうね幅193cm、株間30cm (1,727株/10a)、1条植えとした。 b 短節間トマトの夏秋栽培における整枝法 2005年3月22日播種の夏秋栽培において、「安濃 10号」および「桃太郎8」を供試した。育苗はポッ ト育苗とセル成型育苗とし、整枝はつる下ろし整枝、 Uターン整枝およびUターン整枝で主枝を高さ150 cm で摘心し、第1果房下の側枝を伸長させUター ン整枝するUターン初期2本整枝とした。 図2-16 育苗法による作業時間 159 写真2-7 整枝法による収穫作業姿勢は茎の誘引方向 は茎の誘引方向 「安濃10号」の生育は、「桃太郎8」と比べ開花・ 収穫段数などは差がなかったが、茎長は80%程度で あった。「安濃10号」の 収量は、Uターン初期2 本整枝が多く、収穫果数が大幅に増加した(表227)。 エ 察 短節間トマトの育苗・定植作業においては、慣行 栽培品種よりも作業時間が短縮した。これは、短節 間トマトは育苗中から短節間性が認められ徒長しづ らいため、セル成型育苗においては、接ぎ木作業が 図2-17 育苗法・整枝法による作業時間 しやすいこと、定植作業がしやすいこと等から作業 も増加した。マルチの開始時期は、12月11日開始区 効率が向上したためと で上物収量が増加した。 苗においても、茎長が短いことにより育苗中の支柱 草勢と多収量要因の解明 が不要になったため作業時間が減少したと えられ a 短節間トマトの長期どり栽培における播種 た。 時期の検討 短節間トマトの本圃定植後の管理作業時間は大幅 短節間トマト「安濃10号」の促成長期どり栽培で は、播種期が早いほど えられた。また、ポット育 に減少したが、慣行栽培品種の3/4程度の茎長である 収量が増加し、いずれの播 ため、つる下ろし作業を行わないUターン整枝やQ 種期でも、セル成型苗直接定植がポット苗定植に比 ターン整枝を適応することができ、作業時間の削減 べ増加した(表2-26)。A品果実数割合は、7月27日 につながったと 以降の播種期が多い傾向であった。 ける収穫可能果房数が増加するため、Uターン初期 b 短節間トマトの夏秋栽培における整枝法 えられた。また、一定の草 にお 2本整枝なども短節間性を生かした多収量を可能に 表2-26 長期どり栽培における播種期と収量 表2-27 夏秋栽培における整枝法と収量 160 する整枝法として適応性が高いと えられた。 5 各年度の栽培試験を通じ、短節間トマトは、セル 短節間トマトの周年栽培における高品質生産技 術の開発 成型苗直接定植で収量性が向上したが、慣行栽培品 ア 研究目的 種に比べやや草勢が弱いことから、直接定植により 現在育成されつつある短節間型トマトの特性を発 草勢が強く維持されたため収量の増加につながった 揮させて、兵庫県で開発した1段果房どり養液栽培 と えられた。短節間トマトの栽培に当たっては、 技術などを応用しながら、さらなる省力、軽作業化 圃場の標準施肥量を30%減らし、セル成型苗を直接 と品質向上を目指した栽培技術の改善を推し進め 定植して初期生育はやや抑え気味に管理し、その後 る。 は、最低夜温を10℃程度と高めに管理し草勢を維持 する栽培が良いと イ 研究方法 えられた。 短節間ミニトマトの房どり一斉収穫に向く優 オ 今後の課題 良系統の選定を行う。 今後の課題としては、短節間トマトの品質面での 向上が望まれる。 短節間ミニトマトを房どり一斉収穫するた 収量は、作型や整枝法により慣 め、エセフォン処理の有無、培養液 EC 濃度管理の違 行栽培品種と同等の収量性が確保できるが、A品収 量や、果実品質面での糖度や が必要と い等の栽培方法の検討を行う。 度に対してより向上 短節間性を発揮できる育苗方式として、蛍光 える。 灯照明を った閉鎖型育苗方式の検討を行う。 栽培面では、より付加価値を高めたセル成型苗の 房どりミニトマトのアンケート調査による商 生産が挙げられる。生産者に届く前の2本仕立て苗 品性の評価を行う。 の生産や、作期拡大を可能にするセル成型苗の生産 が必要と ウ 研究結果 える。収穫管理作業面では、作業性を向 固 定 系 統 の「 STBU01」、「 STBU02」、 上させる効率の良い栽植様式や、誘引整枝法と栽植 「STBU03」の中では、「STBU01」が最も短節間性 密度の関係を に検討する必要がある。そして、環 境調節による着色のコントロールなど収穫のピーク を平準化させる収穫調整技術の開発が必要と を示した(図2-18)。収量性、品質等 「STBU01」が有望であった(図2-19)。F え 「試 る。 BU09」、「試 BU10」、「試 「STBU01」と比べると、 「試 収益性を に上げていくためには、品質を維持し たうえでの多収量が絶対条件になると 慮しても、 低く、「試 配系統 BU13」を BU09」は裂果率が BU10」は Brix が高かった(表2-28)。 える。育苗 着色の遅れる先端果実にエセフォン散布処理 から栽培管理を含め一貫した省力体系のなかで、多 を行うことで、熟期が促進された。このため、第2 収量技術を構築するため、品種、栽培技術の両面か 果房以降の収穫期は明らかに早まり、果房の一斉収 ら 穫が安定的に可能であった(表2-29)。エセフォン処 に試験研究を進める必要がある。 カ 要 約 理により先端部 短節間トマトのセル成型苗を利用した栽培におい の果実は色づいた時の1果重が軽 くなったが、糖度は高まった(図2-20)。NFT 栽培 て、セル成型苗を直接定植した場合の草勢調節技術 において、培養液 EC 濃度を1.2、2.4、4.8 (dS/m) を検討し、育苗・定植時間が短縮できることを明ら の3段階で栽培すると、果実糖度にはほとんど差が かにした。また、短節間トマトの短節間性を生かす なく、果実重は低 EC の方が重かった(表2-30) 。 誘引法を検討し、管理作業時間が削減できることを 短節間トマトを閉鎖型育苗方式で育苗した場 明らかにした。短節間トマトのセル成型苗を直接定 合、定植後の第1∼第4花房までの高さは慣行育苗 植栽培することにより、育苗・定植から整枝・誘引 を行った時より低くなった。(表2-31) 。 作業の省力化・軽作業化が可能である。 キ 文 アンケート調査の結果、約90%の消費者が房 献 どりミニトマトに興味を持ち、購買意欲があること 1) 金井幸男(2006)栽培面からみた省力・快適化 が判明した(図2-21)。 への研究戦略.野菜茶業研究集報.2:23-28 エ 担当研究者(金井幸男 ) 察 固定系統の中では、「STBU01」が短節間性、 161 図2-18 短節間ミニトマト系統の果房段位ごとの高さ 1)定植日2004年5月17日、高設型のNFT養液栽培 収量性等に優れていたが、房どり収穫を行うには、 エセフォン処理では熟期の促進により、先端 さらに裂果率の低下や果房内での成熟のそろいのよ 果実はやや小さくなるものの、糖度の上昇が認めら さが求められ、またミニトマトとしては、さらに糖 れ、房どり栽培には有効な処理であった。また、培 度の高さが要求される。そのため、F1 配系統3系 養液の EC は1.2∼4.8dS/m の範囲では、糖度に及 統を試作したが、 ぼす影響が認められず、果実重は EC が高いほど低 配系統による裂果率の低下や糖 度上昇の可能性が示された。 下したため、EC1.2dS/m で栽培するのがよかった。 図2-20 エセフォン処理が果実糖度に及ぼす影響 図2-19 短節間ミニトマト系統のサイズ別収量 1) 供試系統「STBU01」、定植日2004年5月17日、高 1)定植日2004年5月17日、高設型のNFT養液栽培 設型のNFT養液栽培 表2-28 短節間ミニトマト試 系統の特性 表2-29 エセフォン処理が房どりミニトマトの果房別収穫日に及ぼす影響 162 表2-30 培養液EC濃度が果実の品質に及ぼす影響 U01」が、短節間性、収量性に優れていた。また F1 配系統で、裂果率の低下や高糖度化が図られるこ とが判明した。 エセフォン処理により、熟期の促進が可能で、 房 ど り 化 に 有 効 で あ っ た。ま た 培 養 液 の EC は 1.2∼4.8dS/m の間では、1.2dS/m がよかった。 閉鎖型育苗によって、短節間性がさらに効果 的に発現された。 閉鎖型育苗は慣行育苗に比べ、短節間トマト アンケートの結果、約90%の消費者が房どり 系統の定植後の節間伸長を抑える効果が認められ、 ミニトマトに興味を示した。 短節間性の効果をさらに高めるものとして有効であ 担当研究者(時枝茂行、竹川昌宏 、小 正紀) る。 直売所におけるアンケートでは房どりミニト 6 完熟収穫型単為結果性トマトの長期どり省力・ マトに興味のある人が多く、さらに商品性について 高品質生産技術の開発 調査する必要がある。 ア 研究目的 オ 今後の課題 完熟収穫型単為結果性トマト(以下、単為結果性 F1組み合せ能力検定により、さらに房どりに トマト)の特性を解明し、セル苗直接定植、養液土 向くミニトマト系統を選定することが必要である。 耕栽培、着果制限技術を組み合わせた省力的かつ高 エセフォンはミニトマトに登録がないため、 品質安定多収の長期どり栽培法を確立する。 登録取得を目指すことが必要である。 イ 研究方法 閉鎖型育苗法はまだマニュアル化されていな セル苗の直接定植特性調査 いため、さまざまな条件による苗質の評価等を行っ 養液土耕方式を利用した抑制作型において、単為結 ていく。 果性トマト「ルネッサンス」と非単為結果性「桃太 房どりミニトマトの出荷形態等、消費者に向 郎ヨーク」の72 セルトレイ及び3.5号ポットによ けた品種、栽培方法の検討が必要である。 カ 要 り育苗した苗を利用して、生育状況、収量及び糖度 約 について調査した。 房どりミニトマトの固定系統の中では「STB表2-31 閉鎖型育苗が定植後の節間伸長に及ぼす影響 図2-21 房どりミニトマトに関するアンケート結果(回答者96名) 163 果実肥大特性の解明と摘花、摘果など栽培管 郎ヨーク」に比べ、低位から高位(6段摘心)まで 理個別技術の確立 茎径の変動が少ない安定した草姿を示した。良果収 「ルネッサンス」を材料に、長期どり栽培の期間 量は同じ育苗方式であれば「ルネッサンス」で多く、 中に遭遇する各種環境条件下における着果率、発育 育苗方式で比較するとセル苗直接定植区で多かった 不良果率及び一果重等を調査した。 設定した環境は、 (表2-32)。 高温:換気開始温度25及び40℃、低温:最低温度6、 「ルネッサンス」の単為結果性は、秋期、春 9及び12℃、高温期の弱光:遮光(70%)の有無で 期、冬期の最低温度6℃及び夏期の換気温度40℃の ある。花への処理方法は振動受 環境条件下でも安定していた ホルモン処理の4区 、除雄、放任及び で、花房当たり3花を処理し 。着果処理可能な 正常花の割合が、夏期遮光条件下の「ルネッサン 他の花は除去した。 ス」では、遮光しない場合や「桃太郎ヨーク」と比 着果数制限方法について、開花時に花を摘除する 摘花処理と摘果処理の2区 育と収量を比較した。 べて低かった。正常な花器であっても着果率がやや 設定し、17段収穫で生 低かった(表2-33)。 に摘除時期を蕾まで早くし 着果制限方法の検討では、着果数制限を摘花によ た摘蕾∼摘花処理について、収量性を検討した。 り処理した方が摘果処理するより収量が多かった 適切な施肥量を検討するために、水 センサーと少 (表2-34)。 なお茎長は摘花区と摘果区で差異は見ら 量多頻度かん水装置を用いた養液土耕栽培における れず、茎径は摘花区でやや太い傾向であった(デー 液肥の日施用量について、短期(促成+半促成)栽 タ略)。摘蕾∼摘花処理は、摘花処理に比べて収量が 培の基準量及び基準の3/2倍量の2水準設け、生育、 減少した。制限花数を全期間4花とした場合、最も 着果、収量に及ぼす影響を調査した。 収量が多くなった(図2-22)。 「ルネッサンス」を材料に確立した栽培技術を用 液肥の施用量は、基準区で窒素量20∼120mg/株・ い、単為結果性品種「ラークナファースト」 (愛知 日(生育状況に合わせて増減)、栽培期間中の合計 農 試育成中系統) 19.7g、基準×3/2倍区で20∼180mg/株・日(同)、 を栽培し、それらの体内窒素栄養状態の推移から技 合計29.3g であった。経時的に見た葉柄汁液中硝酸 術の適応性を調査した。 濃 度 は、「ル ネ ッ サ ン ス」の 基 準 区 で は1.8×10 試)及び「04S」(愛知農 養液土耕栽培による長期どり栽培技術の確立 ∼6.0×10 mg・kg 、基 準×3/2倍 区 で は3.8×10 単為結果性品種、セル苗、摘花による着果制限(4 ∼7.5×10 mg・kg 、 「桃太郎 J」の基準区で0.9×10 花)、養液土耕栽培の技術を組み合わせた区(技術組 ∼4.4×10 mg・kg 、基 準×3/2倍 区 で2.7×10 立て区)と非単為結果性品種、ポット苗、摘果によ ∼5.1×10 mg・kg の範囲で推移した(データ略)。 る着果制限(4果) 、基肥と追肥による肥培管理、定 正常果収量は、両品種とも基準×3/2倍区が多かった 期的かん水により栽培する区(慣行区)を設け、省 (表2-35)。 単為結果性品種を多収性が確保された基 力性を比較するとともに、本県のトマト専作経営に 準×3/2倍で施肥管理した場合、「ラークナファース 対する生産コスト削減効果と収益性を検討した。 ト」及び「04S」の葉柄汁液硝酸濃度は 桃太郎ヨ ウ 研究結果 ーク と比較して高く、「ルネッサンス」に近似した セル苗直接定植は、両品種とも茎径が過度に 傾向で推移した。 (図2-23)。 太くなることがなかった。「ルネッサンス」は「桃太 技術組立て区の正常果収量は、慣行区とほぼ 表2-32 品種と育苗方法が収量、品質に及ぼす影響 164 表2-33 環境条件が単為結果性トマトの着果に及ぼす影響 表2-34 着果制限方法が単為結果性トマトの着果数と 収量に及ぼす影響 図2-23 単為結果性品種の葉柄窒素濃度の推移 表2-36 品種、定植苗、栽培方法の違いによる 作業時間(10a当たりに換算) 図2-22 単為結果性トマトの着果制限処理別、時期別 正常果収量(10株当たり) 表2-35 促成長期栽培における液肥の日施用量が 着果、収量に及ぼす影響 同等(データ省略)で、慣行区に比べて労働時間を 143時間短縮できた(10a 当たり換算) (表2-36)。生 図2-24 技術組立て区の生産コスト削減効果 産コストは労働時間の短縮による雇用労賃削減を中 (10a当たり) 心に、10a 当たり約13万円の削減となった(図2-24)。 以上の試験結果を元に収益性を試算した結果、 約124 エ 万円の粗収入増加となった(表2-37) 。 察 低位から高位の茎径の変動が少なく、ポット 165 表2-37 経営試算 育苗に比べて収量が多かったことから、水 センサ 削減効果の実証。 ー付き少量多頻度かん水装置を用いた養液土耕栽培 カ 要 約 を併用するセル苗定植は、高品質安定多収を目指す 長期どり栽培技術として有効と 単為結果性品種を用い、セル苗定植、養液土 えられる。 耕栽培システム、摘花処理による着果数4果の技術 着果制限を摘花処理により行った場合摘果処 を組み合わせることにより、省力的かつ高品質安定 理より多収であったこと及び着果制限数の検討結果 多収の長期どり栽培が可能であり、省力、コスト低 から、摘花により全期間4果に着果制限することが 減及び粗収益が増加することが実証された。 適当と えられる。 「ルネッサンス」は、基準の3/2倍量で施肥管 養液栽培の1日当たり施肥量を短期促成栽 理した時、高い収量を得られた。 培、半促成栽培のマニュアルを結合した基準値の3/ 「ルネッサンス」で確立した栽培技術は、他 2倍量にすると高い収量が得られ、体内硝酸イオン濃 の単為結果性品種にも適応性がある。 度も2,000∼4,000ppm を維持できたので、有効な養 液管理基準(マニュアル)と キ 文 献 えられる。 1) 大川浩司、菅原眞治、矢部和則(2003)秋期、 上記養液管理をした場合、単為結果性品種の 冬期の温室栽培における単為結果性トマト ルネ 葉柄汁液硝酸態窒素濃度が「ルネッサンス」に近似 ッサンス の着果および果実肥大特性.園学雑. した濃度で推移したことから、「ルネッサンス」を 72(別2):380 材料に確立した栽培技術は、他の単為結果性品種に も適応性が有ると 2) 大川浩司、高市益行、菅原眞治、矢部和則 (2004) えられる。 単為結果性トマトの着果に及ぼす高温及び弱光処 本研究で確立した単為結果性品種を用いた長 理の影響.園学雑.73(別1):276 期どり省力・高品質生産技術は、省力効果と収益性 3) 大川浩司、菅原眞治、矢部和則(2004)単為結 に優れ、我が国のトマト生産の経営改善に寄与する 果性トマトの着果に及ぼす低温の影響.園学雑. と 73(別2):378 えられる。 オ 今後の課題 担当研究者(大川浩司、矢部和則、小出隆子 ) 農家栽培レベルでの省力効果及び生産コスト 166 第4章 機械収穫によるキャベツ・レタスの低コスト・省力・機械化栽培技術の 開発 1 キャベツの機械収穫に適した品種の選定と選抜 に用いて、品種間 雑した系統および自殖系統の後 手法および素材系統の開発 代を養成しながら、圃場での栽培特性や軸の曲がり ア 研究目的 等で選抜を加え、品種育成の素材となる系統を育成 キャベツは、土地利用型野菜の代表的作目であり、 を進めた。 輪作や転作作物としても重要である。反面、典型的 ウ 研究結果 な重量野菜であるがゆえの過酷な収穫作業が一因と 一斉収穫時におけるキャベツの可販率(球重 なり、栽培面積の減少が見られる。さらに、生産農 が900g 以上で収穫時の損傷等がない個体の割合) 家の高齢化、後継者不足という慢性的問題も存在す は、対照品種の「 波」を除き、ほとんどの品種が る。このような状況で、収穫作業の「機械化」は、 8割以上となり、中でも「YR 冬太郎」と「冬王」の 農家の生産意欲を維持しながら、低コスト化による 値が高かった。在圃性(在圃可能な日数)は、 「いろ 競争力向上を図るための不可欠な技術開発方向の一 どり」、 「デリシャス」、「SK8-116」以外の品種で高 つである。本課題では、機械収穫向き品種開発に向 く、60日以上の在圃日数であった。軸の曲がりは、 けての第一段階として、機械収穫に適するキャベツ 「デリシャス」、「K1-323」、「SK8-116」では、大き 品種を選定すると共に、それらの形質を評価・整理 く曲がりやすかったが、それ以外の品種では、直立 した上で選抜手法および素材系統を開発する。 に近く、やや曲がる程度であった。以上の結果から、 イ 研究方法 「YR 冬太郎」、 「冬王」、 「YR 藍宝」 、 「YR 冬系609」 、 国内主要産地での代表的な38品種を用いて予 「YR 湖月」の5品種と、試 備選抜試験を行った結果 、生育・球の揃いの良かっ 系統「SK9-321」を機 械収穫適性の高い品種として選定した(表2-38) 。 た7品種(「YR 冬太郎」(増田採種場)、 「冬王」(サ 胚軸の長い「玉輝155」や「 波」では軸の曲 カタのタネ)、 「YR 藍宝」 (日本農林社)、 「YR 冬系 がりが大きく、逆に胚軸の短い「YR 冬系609」や 609」 (石井育種場)、 「YR 湖月」 (タキイ種苗)、 「い 「SK9-321」等の品種では軸の曲がりが小さい傾向 ろどり」 (カネコ種苗) 、 「デリシャス」 (渡辺採種場)) がみられた。また、2004年は台風の影響で定植が遅 および機械収穫適性の高い試 系統「SK9-321」、 れ、育苗した苗が多少徒長したため、同じ品種の2003 「K1-323」 、 「SK8-116」 (以上サカタのタネ)の合計 年のデータと比べると胚軸が長く、軸の曲がりも大 10品種と、対照品種として「 波」(石井育種場)お きい結果となった (図2-25)。育苗時と収穫時の胚軸 よび「玉輝155」(野崎採種場)を供試材料に用い、 の長短をそれぞれ比較したところ、8品種中6品種 2003年7月30日にセルトレイに播種し、エブアンド において、育苗時と収穫時の胚軸の長短が一致した。 フロー方式で育苗した。同年8月26日に畝間60cm、 しかし、 「YR 冬太郎」と「SK9-321」の2品種にお 株間35cm、1条植えで定植し、収穫期に達した品種 いては、相対的な長短の順位が変動し、育苗時は から、キャベツ収穫機(ヤンマー HC10)による一 「玉輝155」の次に長かったのに対し、収穫時には 斉収穫を行い、機械収穫適性の調査を行った。 「YR 冬系609」の次に短かくなった(表2-39) 。 「YR 冬 系609」、「SK9-321」、「い ろ ど り」、 「YR 冬太郎」、「YR 湖月」 、「YR 藍宝」、「 機械収穫適性を有する素材系統として、16組 波」、 合せの品種間 雑を行い育成した系統の後代から25 「玉輝155」の8品種を材料に用いて、球の直立性に 系統(F S :14系統、F S :11系統)を、また、8 関連する軸の曲がり程度と胚軸の長さ(最上位根か 品種の自殖後代から20系統(F :13系統、F :7系 ら最下位の葉跡までの長さ)の調査を行った。2004 統)を選抜した(図2-26)。 年8月2日に播種し育苗した苗を同年9月3日に畝 エ 間60cm、株間40cm、1条植えで定植し、収穫適期に 達した品種から調査を行った。 察 機械収穫適性としては「球の揃い」、 「在圃性」 、 「直立性」が重要な形質であり、本研究で選定した5 機械収穫適性があると判定した品種等を母本 品種については、どれもこれらの適性が高いことか 167 表2-38 機械収穫選抜キャベツ品種の機械収穫適性(2003年) 図2-25 各品種における収穫時の胚軸の長さ と軸の曲がり (左図:2004年、右図:2003年の値 ) 1) 最上位根から最下部の葉跡までの長さ、40個体の平 値 2) 地上部の軸が、直立(0)< 湾曲(2) < 屈曲(4)、40個体の平 3) 参 値 値として2003年の値を右に並べて示した ら、適地・適作を行えば、機械収穫に適した玉揃い 「YR 湖月」の損傷率が選定品種中で最も高かった の良いキャベツの収穫が可能と が、収穫機の切断歯の位置を標準よりも低く調整す えられる。また、 168 表2-39 各品種における胚軸の長さの育苗時と収穫時との比較(2004年) 表2-40 選抜系統の軸の曲がり 図2-26 選抜系統の世代別系統数 れば、切断時の損傷を軽減できると えられる。 みられた。 収穫時の観察結果では、軸が大きく曲がる部 機械収穫適性の高い品種等を母本として品種 位は、そのほとんどが胚軸と茎との境界近傍であっ 間 た。このことから、定植後間もない幼苗が、強風や た。 大雨等の物理的要因で傾斜・倒伏した結果、軸の曲 雑や自殖を行い、その後代から45系統を選抜し がりが生じるものと キ 文 献 えられる。胚軸が長ければ、 1) 亀野貞ら(2003)キャベツ機械収穫適性品種の 定植後の苗の倒伏も起こりやすいと推察されるの 選定.園学雑.72(別2):399 で、胚軸の長さを一つの選抜指標に用いて、軸の曲 担当研究者(吉秋斎 、佐藤隆徳、鈴木徹、亀野貞、 がりやすさを評価できると 石田正彦、畠山勝徳) えられる。ただし、育 苗期と収穫時に測定した胚軸の長短が品種によって 一致しない場合もあることから、実生を用いた早期 2 キャベツの機械収穫に適した業務用 F1品種の 選抜手法を開発するためには、環境条件や低温伸長 育成 性等の特性も ア 研究目的 慮して、選抜条件を決定する必要が ある。 一般家 で消費される青果用キャベツの消費が低 本課題で育成した45系統の中には、軸の曲が 迷している中、カットキャベツ等として利用される りの小さい系統を34系統含む(表2-40)が、いずれ 業務用キャベツの需要が伸びている。業務用キャベ の系統もまだ世代が浅いことから、今後も選抜と自 ツの生産には機械による一斉収穫がより適合してい 殖を重ねて固定度を高める必要がある。 ると えられることから、本研究では収穫作業を含 オ 今後の課題 めた機械化一貫体系の確立を目的とし、生育斉一性 本課題で作出した素材系統の世代を進めさら に固定度を高めた上で、試 の高い機械収穫に適した業務用キャベツ F1品種を 系統を作出し特性を評 育成しようとした。 価する。 イ 研究方法 直立性に関する特性の遺伝様式を明らかにす 2003年度には、機械収穫適性品種候補品種に る。 ついて5箇所の地域で適応性の評価を行った。栽植 カ 要 約 方法等は各地域の慣行的な方法に準じて行った。収 機械収穫に適する品種として「YR 冬太郎」、 穫調査は各品種の熟期に合わせて、品種ごとに一斉 「冬王」、「YR 藍宝」、「YR 冬系609」、「YR 湖月」 収穫を行った。その際、結球している全株について の5品種と、試 一球重を測定し、その変動係数を算出した。 系統「SK9-321」を選定した。 胚軸の長さと軸の曲がりの大きさに関連性が また静岡県においては、これらの適性品種候補の 169 親系統を用いた新規試 品種についても生育斉一性 7日後に子葉が正常に展開しているものを発芽種子 を中心に機械収穫に対する適応性を評価した。出荷 としてカウントした。 可能株率の算出にあたっては、800g 以上の株を出荷 ウ 研究結果 可能とし、欠株および800g 未満の株を出荷不可能と 一球重の変動係数については、いずれの地域 した。 でも供試したほとんどの機械収穫適性候補品種は対 出荷可能株率(%)=出荷可能株数/栽培株数×100 照品種に比べて低い傾向が認められ、実際の産地に 2004年度には、2003年度の結果から機械収穫 おいても一斉収穫に適していることが確認された 適性品種として有望であると えられた「K2-227」 (図2-27)。中でも「K2-227」は栽培したいずれの地 について産地で栽培的・形質的特性の確認を行った。 域においても変動係数が最も低く、広い適応性が認 長野県で5月18日に播種した「K2-227」の苗(約640 められた。また「K2-227」は静岡県の収量調査でも 株、128 セルトレイ)を群馬県吾妻郡嬬恋村の農家 収穫可能株率、全収量ともに97.2%、53.6kg と最も 圃場に持ち込み、6月18日に定植した。対照品種に 高い値を示した(図2-28)。 は現地で主に栽培されている「岳陽」を用いた。施 「K2-227」は産地での栽培においても十 肥、栽植密度、病害虫防除などの栽培管理について 肥大しており、球形は厚みのある扁円球でよく揃っ は、実際に農家が行っている慣行的な方法で行った。 ていた。 対照品種に比べて一球重の平 9月2日に立毛、収穫物について調査を行った。 また一球重の変動係数は低い値となった(表2-41) 。 またミツバチ に 値は大きく、 配による F1種子の生産性の確認 このことから「K2-227」は収量性に優れ、球揃いが のため、9月に尺鉢へ移植した♀15株、♂15株を秋 良いことが確認された。現地で問題となっている生 ∼冬の間に外気の低温を利用して花芽 理障害や病害の発生は見られなかった。 化を促し た。3∼4月に抽苔や開花に関する形質の調査を行 うとともに、ミツバチによる 「K2-227」の♀♂の開花期間はほぼ同時であり、 配を行った。6月下 採種に影響するような花器の異常はなかった(表2- 旬に♀株についた種子を収穫し、精選を行った後に 42)。また採種した F1種子についてアイソザイムマ 採種量を測定した。種子の品質調査についてはアイ ーカーを用いて純度検定を行ったところ、98.9%の ソザイムマーカーを用いた F1種子の純度検定とセ 個体が F1種子であることが確認された(表2-43) 。残 ルトレイにおける発芽検定を行った。発芽検定では りの1.1%は♀固有のバンドのみを示したため、 ♂の 図2-27 各試験地における一球重の変動係数の品種間差 図2-28 静岡県における品種毎の全収量と出荷可能株率 170 表2-41 群馬県吾妻郡嬬恋村での形質調査結果 表2-42 K2-227の採種調査結果 表2-43 採種したF1種子の品質調査結果 花 がかからなかった♀の自殖種子であると えら での適応性を調べる目的で、長野県3月播き、北海 れた。播種後7日目の発芽率は96%であった。 エ 道6月播き、静岡県7月播き、三重県8月播き、岡 察 山県8月播きにおいて試作を行い、熟期での球重の 機械収穫適性品種候補の中では、「K2-227」 変動係数から生育の揃いを評価した。どの作型にお が栽培地や作型に関わらず一球重の変動係数が低 いても対照品種より機械収穫適性品種候補の変動係 く、安定して生育の揃いが良く、一斉収穫に適して 数が低い傾向が見られ、各産地・作型における適性 いると えられた。また一斉収穫した際の収量性(全 品種候補の適応性が確認された。特にサクセッショ 収量・出荷可能株率)についても最も優れており、 ンの「K2-227」は北海道・長野・静岡において変動 これらのことから「K2-227」が機械収穫に最も適し 係数が最も低く、また静岡での収量調査では全収量 ていると と出荷可能株率が最も高く、適応性の広さや収量性 えられた。 産地の農家圃場で栽培された「K2-227」は従 来品種と比較して立毛、収穫物ともに 際の慣行栽培に適していると の高さが注目された。 色なく、実 「K2-227」の産地における栽培的・形質的適 えられた。この場合 応性の評価と F1種子の生産性の確認を行った。栽培 においても収量性・生育の揃いは従来品種より優れ 試験においては収穫物の揃いは良く平 ており、一斉収穫に適していることが改めて確認さ ったことから、従来の結果と同様に生育斉一性およ れた。またミツバチにより生産された「K2-227」の び収量性に優れていることが確認された。また病害 F1種子の純度および発芽率は、実際に販売されてい や生理障害の発生も見られず、栽培的・形質的適応 る商品の品質基準をクリアしており、F1採種に関す 性に大きな問題はないと る大きな問題はないと は F1率98.9%、発芽率は96%であり、実際に販売さ えられた。 オ 今後の課題 えられた。F1採種試験で れている商品の品質基準をクリアしており、採種に 現在、「K2-227」の品種登録申請の準備を行 関する大きな問題はないと っている。 カ 要 重量も高か えられた。 担当研究者(加藤祐介 、赤 豊和) 約 機械収穫適性品種候補について各産地・作型 171 3 活着促進と肥培管理によるキャベツの生育斉一 に被覆肥料を畝内条施肥した圃場に KCl 苗を、全面 化技術の開発 全層施肥した圃場に頭上潅水苗を定植した。12月6 ア 研究目的 日に一斉収穫し収量および収穫作業時間を調査し 国産野菜の生産維持にとって、機械収穫一貫体系 た。また、慣行栽培体系として頭上潅水苗の一部を の確立による省力化が必要であるが、一斉収穫時の 11月28日∼12月20日にかけて選択収穫し一斉収穫と 収穫ロスが隘路となっている。本研究の目的は、機 収量および作業時間を比較した。 械収穫ロスを減少させる為に生育ムラの拡大を抑え ウ 研究結果 る生育斉一化技術を開発することである。 「いろどり」の球重は、条施肥の場合、模擬 そこで、エブ&フロー育苗法における培養液の改 地力の低下に従って緩やかに減少したが、全層施肥 良による耐干性の付与、畝内条施法肥のよる斉一性 の場合、模擬地力の低下に伴う球重の減少程度が条 向上メカニズムの解明によって育苗期および定植後 施肥の場合に比べ大きくなった。また、「湖月」の の斉一性を向上させることを検討した。 球重は、施肥法よる違いが認められなかった。 「い イ 研究方法 ろどり」の変動係数は、条施肥の場合、模擬地力に 畝内条施法肥のよる斉一性向上メカニズムの よって変化しなかったが、全層施肥の場合、模擬地 解明 力の低下に伴ってが大きくなった。また、「湖月」 2003年1月18日にキャベツ品種「いろどり」 、「湖 の変動係数は、施肥法による違いが認められなかっ 月」を128 トレイには種し野菜茶研の圃場に3月 た(図2-29)。 14日に定植した。定植前に模擬地力差をつけるため 対照区は、18時間断水処理によって全て枯死 化成肥料を N−0,5、10、15kg/10a 施用し、これら したが、KCl 添加区は、24時間断水処理後も生存し 4区の地力差区を串刺しにするように、N−15kg/10a た。また、その生存率は、0.09%添加区より0.18% の被覆肥料で全層施肥および畦内条施肥(畝中央、 添加区の方が高かった(図2-30)。KCl 添加区の機械 畦面下6-7cm)+同時作条を行った。2品種ともに 定植適性は、定植機による引き抜きミスが認められ 6月23日に収穫し、被覆肥料の施肥方法および高度 ず対照区と同等であった。収穫時の球重は、対照区 化成の施肥量ごとの球重、変動係数を算出した 。 より KCl 添加区の方が大きくなる傾向を示した(図 エブ&フロー育苗法における培養液の改良に 2-31)。 よる耐干性の付与 キャベツ品種「 一斉収穫の収量を比較した場合、KCl 苗・条 波」を窒素無添加の育苗用土を 施肥区のL級箱および2L、M級も含めた可販球の 充塡した128 のセルトレイに播種し、播種後5日日 箱数は、頭上潅水苗・全層施肥区より増加し、慣 から大塚A処方7/100単位の培養液(対照区)、A処 行区である選択収穫の 方液に KCl を0.09%、0.18%添加した培養液を用い し主要規格であるL級箱数で比較した場合、KCl エブ&フロー方式で30日間育苗した。育苗終了後、 苗・条施肥区の箱数は、選択収穫より大きく減少し 苗を乾燥用土を充塡したポットに定植し0、2.5、 た。また、一斉収穫の収穫時間は、選択収穫より約 4.0、18、22、24時間の断水処理を与えた後、潅水を 25%減少した(表2-44)。 再開し定植後16日目に苗の生存率を調査した。 また、 エ 箱数と同等であった。ただ 察 機械定植適性と好適環境下の生育を調査するため、 「いろどり」の場合、畝内条施肥は、地力低 播種後31日目の対照、KCl 苗を全自動移植機によっ 下に伴う球重の減少を抑制することから、地力差に て圃場に定植した。定植後、直ちに潅水し通常の肥 よって発生する生育ムラを抑制することで斉一性が 培管理後に球重を調査した 。 向上すると KCl苗と畝内条施肥法の組合せによる収量向 えられた。一方「湖月」の場合、この ような抑制効果がみられなかったことから、条施肥 上および一斉収穫法の検討 の斉一性向上効果には品種間差があると 2005年8月12日にキャベツ品種「いろどり」を播 えられ た。 種し、KCl0.05%を添加した培養液を用いたエブ& 育苗期間を通じ KCl を添加した培養液をエ フロー方式と慣行の頭上潅水で育苗した。9月12日 ブ&フロー潅水で供給することで、耐干性を持つ苗 172 図2-29 球重に対する施肥法と模擬地力の影響 1)異なるアルファベット間Tukeyの多重検定により5%水準で有意差あり 図2-30 断水処理時間の違いが定植後の生存率に 与える影響 図2-31 定植後速やかに灌水した場合の球重 を作出できるが明らかになった。また、この方法で 作出した苗は、機械定植適性に問題がないことから、 根鉢の形成が KCl 添加による塩ストレスよって阻 害されず好適環境下でも良好な生育を示したと られた。 え KCl 苗・条施肥を組み合わした改良栽培法に 表2-44 栽培法と収穫方法の違いが可販収量と収穫時間に与える影響 173 よって収穫球の斉一性が向上し一斉収穫でも慣行栽 4 レタスの機械収穫に適した品種の選定と栽培技 培体系と同等の収量を得ることができた。また、こ 術の開発 の時における収穫作業性は、改良栽培法による斉一 ア 研究目的 化の向上と一斉収穫による収穫時間の短縮によって わが国のレタス生産は、周年生産技術が確立し葉 慣行栽培で選択収穫した場合より向上したと えら 洋菜類の基幹品目として発展してきた。特に夏秋季 れた。 を中心にした生産は大規模な露地栽培が行われてお オ 今後の課題 り、定植と収穫作業が同時に連続的に行われ、この 条施肥の効果に対するキャベツの品種間差の 中で全て手作業で行われる収穫作業は労働過重が問 メカニズムを解明する。 題となっており、農作業の改善による軽労化が強く キャベツの場合、品種によって苗の大きさや 求められている。一方、自走式レタス収穫機の試作 根量が大きく異なるので、品種に対応した KCl の添 機が完成し、実用化試験の段階に入っている。これ 加量を検討する必要がある。 らのことから、レタス収穫機を用いた省力的な収穫 青果用の出荷を目指し一斉収穫を行う場合、 作業を進めるため、機械収穫に適した品種の選定を 収穫時期の遅れは、裂球および大玉化による収益の 低下を招くので、収益性を 進め、機械収穫に対応した栽培管理技術を開発する。 慮した一斉収穫適期を イ 研究方法 判定する方法が必要である。また、一斉収穫にとっ 機械収穫に適したレタス品種の特性評価 て選択収穫に対する優位性である高い収穫作業性 レタスの生育型、草姿、形状等の形質から機械収 は、一斉収穫時の作業手順によって大きく変わるの 穫に適した品種の形質の解析を行うため、長野県内 で、効率的な収穫手順の確立について検討する。 産地で栽培されている主要品種を供試し、春播き作 カ 要 約 型(19品種)及び夏播き作型(17品種)で当場レタ 畝内条施肥は、地力ムラが存在する圃場にお ス慣行栽培を行い品種特性試験を行った。収穫期に ける斉一性の低下を抑制した。また、その効果には 達したと判断された品種ごとに生育量、揃い、球形 品種間差があることが明らかになった。 状等について収穫調査を行った。(2002年) 新たに KCl を添加した培養液を用いエブ&フロー 市販された品種について、機械収穫適性調査を行っ 育苗することで、苗に耐干性を付与できることが明 た。(2005年) らかになった。 機械収穫に適した品種、系統の選定 KCl 苗と畝内条施肥に組み合わせ方法で栽 レタス市販品種及び当場育成系統について機械収 培し一斉収穫することで、慣行法で栽培し選択収穫 穫に適した作期別の適品種、系統を選定するととも した場合と同等の収量を得ることができ収穫作業時 に機械収穫に対応した栽培技術を確立する。機械収 間も短縮した。 穫に適したレタス品種の特性評価により有望とされ キ 文 献 た品種、春播き作型(5品種)及び夏播き作型(4 1) 村上ら(2004)キャベツにおける施肥位置およ 品種)を供試し、自走式レタス収穫機による収穫精 び地力ムラの違いが斉一性に与える影響. 園学雑. 度試験を行った(写真2-8)。切断の際に深切りなど 73(別1):110 によって結球部が損傷し販売不可能になったものを 2) 村上ら(2005)培養液への塩化カリ添加による 損傷球とし、各品種ごと可販率(販売可能球率)お キャベツセル成型苗への耐干性付与.野菜平成16 よび損傷率を算出した。販売可能球については、人 年度茶業研究成果情報:21-22 手により切り落とした外葉数を調製葉数としてを計 担当研究者(村上 二 、岡田邦彦、塚本証子、生駒 測した。 (2003年) 泰基) 当場育成系統の機械収穫適性について春播き作型 及び夏播き作型で検討した。機械収穫適性が高いと された当場育成2系統について、自殖による後代系 統を供試し斉一性を調査した。また、自殖による世 代 174 新 に よ り 斉 一 性 の 向 上 効 果 を 検 討 し た。 図2-33 レタス品種特性評価(夏播き) タス」「マイヤー」「オリンピア」、夏播き作型では 「極早生シスコ」 「キャスパー」「パルケ」が有望と 写真2-8 自走式レタス収穫機 えられた。 (2003∼2004年) 近年市販された品種の中では、F1品種である「フ 機械収穫に対応した栽培技術の検討 ァイングリーン」の生育の揃いが良く、機械収穫適 収穫機の作業精度を左右する生育斉一性の向上の 性も高いと えられた。 ため、場内圃場において、定植前の畦上面のローラ 春播き作型において、可販率は「ララポー ーによる鎮圧の有無、定植直後の潅水の有無、慣行 ト」「極早生シスコ」 「Vレタス」「マイヤー」 「オリ の頭上潅水育苗とエブアンドフロー育苗、 条施肥区、 ンピア」の順であった。「オリンピア」の損傷球は などの試験区を設置し収穫時の揃いについて調査し 深切りによるものが多く、「Vレタス」では地上部 た。(2004∼2005年) 切断後調製台に挟みながら持ち上げる際に結球葉が 機械収穫に適した作期別利用技術の確立 損傷したものが目立った。調製葉数は0枚(調製の 自走式レタス収穫機の性能及び作業性について長 必要なし)∼12枚程度まであり、成功率が高いほど 野県内のレタス産地にて検討した。作業性について 調製葉数が多い傾向であった(表2-45)。夏播き作 従来の前進作業後進後退作業から往復−外回り収穫 型での収穫成功率は、「パルケ」「Vレタス」 「極早 での作業効率について検討した。また、収穫作業の 生シスコ」「キャスパー」の順であった。「パルケ」 ビデオ映像を用いて、OWAS(Ovako Working は未熟球が多く、「キャスパー」では、結球部を斜 Posture Analyzing System)による作業姿勢 析を めに切断したミス球が目立った(表2-46) 。 行った。(2002∼2005年)県内主要レタス産地におけ 当場育成系統の中に春播き及び夏播きの各作型に る実用規模の実証試験を行い、技術の導入条件を明 おいて揃いが良く、形状も優れており機械収穫に適 らかにし、レタス機械収穫のマニュアルを作成した。 表2-45 春播き作型における機械収穫適性 (2005年) ウ 研究結果 春播き作型及び夏播き作型において揃いが良 く変形球などの発生が少ない品種が選定でき(図232、2-33)、春播き作型では「極早生シスコ」「Vレ 表2-46 夏播き作型における機械収穫適性 図2-32 レタス品種特性評価(春播き) 175 する特性を有する系統が認められた。育成系統の球 収穫機には運搬の機能が無いことから、運搬作業は 重の斉一性は、同一作期対照市販品種より優れてお 慣行とほぼ同等の作業となる(表2-47)。 り、球形の斉一性は対照品種と同等であった。世代 エ 新による球重、球形の斉一性の向上効果について 察 自走式レタス収穫機は、外葉数は多い方が深 は判然としなかった。 切りによる収穫ミスを防げ、外葉の大きさは小さい 育苗方法の違いによる収穫時の揃いについて 方が適すると えられた 。本収穫機は地上部切断 は品種により結果にバラツキがあるものの、エブア 後、調整台に挟みながら持ち上げる機構のため ンドフロー育苗の方が良い傾向となった。畦面鎮圧 径の揃いも良い方が作業精度が向上すると えられ の揃いに対する効果についても鎮圧有りの方が向上 た。また、一斉収穫になるため、生育の揃いの良い する傾向が見られた。定植後の潅水や条施肥による ものが適すると 生育斉一性の向上については認められなかった。 球 えられた。 生育斉一化技術として、エブアンドフロー育 2002年試験では、収穫作業を前進作業・後進 苗、畦面鎮圧の有効性が えられた。施肥法改善に 後退で行ったため後進時間に時間がかかり、作業能 よる斉一化向上については確認できず、これは土 率の低さが指摘された。前進作業・後進後退作業に 性・土質あるいは残存肥料成 比べて往復−外回り法は約8割の作業時間でできる とが えられた。 等の影響が大きいこ ことが、シミュレーションから推測された。2003年 収穫機の作業性から直線に作畦し、畦幅とク 塩尻市での試験では雨天日の収穫作業となったが収 ローラ間隔をあわせることが、重要と判断された。 穫ミスが少なくB等級を含め93%以上が販売可能で 前進作業後進後退でなく、旋回用の枕地を手収穫し あった。朝日村の試験では、全体的に生育の揃いが のち、往復作業で行い作業時間の効率化が図れた。 あまり良くなかった上、球締まりの良くなかった「ラ 収穫機の 用によって切り取り作業、箱詰め プトル」では損傷が10%を超えた(データ略)。いず 作業とも、作業位置が高くなり、下肢を直立とする れも収穫作業は旋回用の枕地を手収穫しのち、往復 ことができたことから、骨格形に有害で改善すべき 作業で行い作業時間の効率化が図れた。 作業姿勢が削減され、軽労化に貢献できた。 真田町の圃場はうねりのある傾斜地で、畦も曲が オ 今後の課題 っていたため、収穫機の設定が煩わしく、クローラ 各産地ごとの最適な栽培条件の解明と収穫精 でマルチフィルムを破く場合があった。また、クロ 度の向上が必要である。 ーラが転輪からはずれる故障が発生した。クローラ これまでに得られた成果を生かし、加工・業 が畦に添って乗り上げた際のねじれによると えら 務用レタスの低コスト安定生産に向けた機械化一貫 れた。 体系の確立を進める必要がある。 OWAS による作業姿勢 析では、慣行の切り取 カ 要 約 り作業で2割以上見られた筋骨格系に非常に有害な レタス自走式機械収穫機に適した品種特性と 姿勢の AC(Action Category)4の姿勢は機械収穫 して、球揃い(生育、球形および球径)の良いもの、 によ りす べ て改 善 さ れ て、ほ ぼ 問 題 の 無 い 姿 勢 外葉数は多く、外葉の大きさは小さい方が適すると (AC1)になった。箱詰め作業でも慣行作業で高か えられ、これらの基準により、機械収穫適性が高 った作業姿勢の有害程度が機械作業では低くなり、 い品種が選定できた。 作業姿勢が改善されることがわかった。しかし、本 機械収穫は一斉収穫が前提になるため、生育 表2-47 収穫作業のOWAS 析 176 斉一化が求められ、育苗時からの揃いが収穫時まで キ 文 献 影響するため、育苗時の潅水方法としてエブアンド 1) 小 ら(2005)レタス機械収穫に適した品種の フロー育苗が有効であることが示唆された。定植前 の畦面鎮圧も定植後の活着促進の効果があると 選定.園学雑.74(別1):125 え 2) 鈴木尚俊(2003)レタス収穫機の開発(第2報) . られた。 第62回農業機械学会年次大会発表要旨:373-374 収穫機作業性向上のため、作畦法の改良が必 3) 鈴木尚俊(2006)一貫作業型レタス収穫機の開 要になり、一部手収穫した上で往復作業することで 発とその実用性.長野県農業 効率化が可能になった。OWAS による作業姿勢 第7号(印刷中) 析から収穫機利用は筋骨格形に有害で改善すべき作 担当研究者(小 業姿勢が削減され、軽労化に貢献できた。 宣明、臼井冨太、塚田元尚) 177 合試験場特別報告 和彦 、鈴木尚俊、小沢智美、土屋 第5章 省力品種とセル成型苗を核にしたネギ・ホウレンソウの低コスト・ 省力・機械化栽培技術の開発 1 短葉性ネギ品種の育成 子は辛みを弱める方向に働くことが明らかになった ア 研究目的 根深ネギは葉 (表2-49)。 長を約30cm 以上とするため、土 短葉性育種素材の 雑後代において げつ性 寄せ深さを確保する必要から畦間90∼110cm を要 を淘汰しつつ、短葉性、辛味、外観特性、抽台性、 し、栽植密度が制約される。さらに、全長の流通規 病害感受性等について選抜・固定を進め、F 世代ま 格が約60cm であるため葉切り調製が不可欠であ でに6系統を選抜した。選抜系統の葉身長径比は12 り、この作業に多大の労力を要する。そこで、密植 前後と「下仁田」に近く、葉身部のピルビン酸生成 を可能にし葉切り調製を不要とするような短葉性を 量は8μmol/ml 以下と「九条太」に近い値を示した。 有し、葉 部も20cm 程度で収穫するような新しい F 世代の5系統の中から4個体ずつを相互 タイプの品種を育成する。短葉性に加えて、小型の 配した2集団の合成世代を育成し 、合成第2代 ネギでも市場の評価を獲得するため、葉身が柔らか (Syn )を「ネギ安濃1号」および「同2号」とし く、葉 とともに利用できるような品質を兼ね備え て特性検定・系統適応性検定に供試した。「安濃1 たものとする。 号・同2号」は、春まき(2005年4月28日播種)お イ 研究方法 よび夏まき(6月27日播種)栽培において、千住群 3つのネギ品種群に属する9固定品種に由来 品種の「吉蔵」、「元蔵」よりも明らかに葉身、葉 する自殖系統およびこれらを親とした9×9片側ダ が短く、葉 イアレル 配により作成した F を用いて、短葉性の 春まき栽培では、高温期の生育停滞や土壌病害の発 指標とする葉身長径比(=葉身長/葉身折径)およ 生により、収穫物の揃いがやや劣り、生重が小さか び辛味成 ったが、夏まき栽培では、育苗段階から旺盛な生育 を間接的に評価するピルビン生成量に関 する遺伝様式を 析した。 を示し、収穫物の揃いも良好であった。「安濃2号」 「下仁田」と九条群品種との 雑に由来すると え ら れ る 遺 伝 資 源「下 仁 田/九 条 の太りも早かった(表2-50、写真2-9) 。 は「同1号」と比較して生育が旺盛であった。両系 雑 系」 (JP219391)と、草勢の旺盛な千住群の根深ネギ循 統ともに げつの発生が見られ、「安濃1号」 では多 かった。ピルビン酸生成量は、千住群品種や短葉性 環選抜集団から選抜した比較的短葉性の個体との 表2-48 葉身長径比の遺伝パラメータ 雑後代から、葉身長径比、ピルビン酸生成量等によ り選抜を行い、自殖系統を育成した。 F 世代の選抜個体を用いて相互 配により 合成品種を育成した。 短葉性自殖系統を雄性不稔素材へ戻し 雑し た。また、千住群品種に由来する循環選抜集団から、 外観が優れ、生育の旺盛な短葉性系統を選抜した。 これらを両親とする試 F を育成し、特性を評価し た。 表2-49 ピルビン酸生成量の遺伝パラメータ ウ 研究結果 ダイアレル 析の結果 、葉身長径比は、固有 遺伝率が0.98と高く、 体的には不完全優性で、優 性遺伝子は短葉性を低下させる方向に作用するが、 「下仁田」由来の自殖系統は短葉性を強める優性遺伝 子を多く有していることが示された (表2-48)。ピル ビン酸生成量については優性効果が高く、優性遺伝 178 市販品種の「なべちゃん」および「太っこ」よりも エ 概ね低い値を示した。研究所一般 開来場者を対象 察 当初目標とした葉身および葉 が短く、葉 に「安濃1号・同2号」を配布し、アンケートを実 の太りが早く、また葉身も柔らかく、辛味の少ない 施した結果、短葉性系統に対する関心は高く、食味 ネギ系統が開発された。F 選抜個体の合成集団であ についても概ね好評であった(表2-51) 。 る「安濃1号」および「同2号」は、短葉性につい 雄性不稔素材に短葉性系統を3回戻し 雑 ては安定性が高いものの、 げつ発生率の低下、収 し、葉身長径比9∼11程度を示す短葉性雄性不稔系 穫物の揃い、収量性等についてさらに向上が望まれ 統を育成した(表2-52)。 る。これらについても において育成した短葉性 慮して短葉性固定系統や雄 固定系統のほか、千住群品種に由来する循環選抜集 性不稔系統を選抜し、試 団から、生育が旺盛で短葉性を有する自殖系統を育 く、生育旺盛な組合せが認められたことから、優良 成し、試 な短葉性 F 品種の育成が期待される。 F の花 親として用いた。2005年夏まき 栽培において48組合せの試 F を評価した結果、短 げつがな オ 今後の課題 葉性が高く、「安濃1号・同2号」よりも葉 の肥大 が旺盛で、収量性が高く、 F において 合成集団である「ネギ安濃1号・同2号」に げつの発生が認められ ついては、遺伝的 一性を高めるため世代を進めな ない優良組合せが見出された。 がら、特検・系適試験を継続する。 業務用ニーズにも対応するため、食味・食感 表2-50 夏まき冬どり栽培における「ネギ安濃1号」および「同2号」の特性 (2005年6月27日播種、12月19日収穫調査) 表2-51 短葉性ネギ育成系統の アンケート調査結果 写真2-9 短葉性育成系統と市販短葉性品種および 一般の根深ネギ品種の収穫物の比較 a:安濃2号、b:下仁田、c:なべちゃん d:太っこ、e:吉蔵 179 表2-52 F 親候補および試 F の優良系統の収穫物特性 (2005年6月27日播種、2006年1月16日収穫調査) に関する選抜法を確立し、食味を向上させるととも 2 短葉性ネギの省力生産技術の開発 に、湿害の回避等により安定生産が可能な短葉性 F ア 研究目的 品種を育成する。 根深ネギの一般的な流通規格は、葉 長30cm、葉 カ 要 約 長60cm 以上と されるが、短 葉性ネ ギは 葉 ダイアレル 析により、ネギの葉身長径比と 長20 cm、葉長40cm 程度とコンパクトで、土寄せ等の栽 ピルビン酸生成量に関する遺伝様式を推定した。 培管理が簡易化でき栽培期間が短くなる可能性があ 根深ネギの栽培期間の短縮、密植および土寄 る。また、葉が柔らかくおいしいことから、多様化 せ作業の省力化を可能とするため、従来の根深ネギ した消費者ニーズに対応する商品として期待されて より葉身、葉 の太りの早い系統を開 いる(西畑・林 )。そこで、本研究では短葉性ネギ 発した。短葉性系統は、葉ネギ用品種のように辛味 の消費者ニーズを把握し試作系統の評価を行うとと が少なく柔らかいため、葉身も利用可能である。 もに、省力かつ効率的な栽培技術を開発する。 キ 文 が短く、葉 献 イ 研究方法 1) 小島ら(2004)ネギの葉身長径比およびピルビ ン酸生成量のダイアレル マーケティング手法導入による消費者ニーズ 析.育種学研究.6 (別 の把握 1) :240 a ホームユーステスト(2004年) 2) 若生ら(2005)短葉性ネギ合成第1代の特性. 富山県内各19家 を対象に、鍋物利用として試作 育種学研究.7(別1・2) :370 系統「04試 01」を、みそ汁利用として試作系統 担当研究者(若生忠幸 、小島昭夫、塚崎光、山下 「TAB-122-2」を、いずれも対照に根深ネギ品種 謙一郎、小原隆由) 長宝 用い、5段階評価法によるアンケート調査を 行った。 b 商品化テスト(2005年) 富山県内在住者216名を対象に、短葉性ネギ購入希 180 望価格のアンケート調査を行った(対照の根深ネギ が158円とした場合の購入希望価格)。 短葉性ネギの安定栽培技術の開発 a 短葉性ネギに適した栽植様式の検討 「畝天植え」(グランドレベルより5cm 高い畝に 定植)及び「平植え」 (グランドレベルに定植)と慣 行の「畝溝植え」 (グランドレベルより10cm 低い溝 に定植)を比較した。定植は2002年5月14日。 b 短葉性ネギに適した播種・定植様式の検討 図2-35 短葉性ネギの購入希望価格アンケート調査 「220 セルトレイ1粒播種・2条定植」及び「220 セルトレイ2粒播種・1条定植」と慣行の「264 いが向上した。また、「葉 長20cm・全長40cm・緑 チェーンポット2粒播種・1条定植」を比較した。 葉4枚」で調製を行い比較したところ、セルトレイ 品種は「ホワイトツリー」、定植は2005年4月22日。 1粒播種・2条定植では、慣行のチェーンポット2 c 短葉性ネギに適した土寄せ時期の検討 粒播種・1条定植より単収が高く、規格別収量割合 定植後1回目及び2回目の土寄せ実施時期につい も向上した(表2-53、図2-38)。 て検討を行った。品種は「ホワイトツリー」 、定植 c 定植後1回目の土寄せを定植21日後と41日 は2004年5月27日。1回目の土寄せは定植後21日及 後に変えて比較したところ、定植21日後に土寄せす び41日。2回目の土寄せは8月26日。 ることでその後の生育が促進された (表2-54) 。2回 ウ 研究結果 目の土寄せ後の葉 の伸びは、土寄せ20日後で約5 試作系統の食味を対照品種と比較したとこ cm、40日後で約9cm となることから、定植後2回 ろ、鍋物、みそ汁の利用とも約90%が「良い」評価 を示し、 合的に高い評価がえられた (図2-34)。購 入希望価格調査では、158円、128円以下、138円の順 に購入希望が多くなった。なお、対照の根深ネギよ りも短いにも関わらず、対照価格と同じ158円が最も 多く、半数近い消費者が対照と同額またはそれ以上 の価格を希望した(図2-35)。 短葉性ネギの安定栽培技術の開発 a 慣行の畝溝植えに比較して、平植えや畝天 植えでは生育が促進された(図2-36) 。 図2-36 異なる植栽方法におけるネギ1本重の推移 b 栽植様式を変えて比較したところ、セルト レイを用い1 あたりの播種粒数を1粒にして2条 定植をした場合(図2-37)、慣行のチェーンポット2 粒播種・1条定植よりも生長が早まるとともに、揃 図2-37 2条定植の様式 表2-53 短葉性ネギの栽培様式と収量との関係 図2-34 試作短葉性ネギの食味アンケート結果 (ホームユーステストでの 合評価) 181 表2-54 定植後1回目の土寄せ日と短葉性ネギの生育との関係 合わせた軟白ができると えられた。なお、2回目 の土寄せはネギの出荷規格を左右することから、葉 長が20cm 確保された後に行うと良かった。 オ 今後の課題 短葉性ネギの商品化のため、確認した消費者 ニーズを活かしたパッケージ等を提案する必要があ る。 図2-38 短葉性ネギの栽培様式と規格別収量の割合 短葉性ネギ試作系統を用いての現地適応性を (全長40cm・緑葉4枚調製) 目の土寄せは葉 検討し、産地への導入を推進する必要がある。 長を約20cm 確保した後に行い、 カ 要 約 その後約20日で収穫できた(図2-39) 。 エ 短葉性ネギ試作系統の食味評価は高く、購入 察 希望価格は半数近い消費者が対照の根深ネギと同額 短葉性ネギ試作系統については、食味が高く 及びそれ以上の価格で評価した。 評価された。平成15年度に確認した商品コンセプト 短葉性ネギの育苗はセル育苗とし、1 の「新鮮でしかも軟白部はもちろん、緑葉まで美味 りの播種粒数を1粒に、定植は2条にすることで、 しく食べることができ、かさばらない」という点が 生育が促進され揃いも良く単収が向上する。また、 評価されたものと 平植え栽培が可能で、土寄せは2回でよく、省力的 えられた。 「平植え」栽培は耕起後畝を作らずに定植する な生産ができる。 ことから、定植及び土寄せ作業がしやすく省力化に 有効であると あた キ 文 献 えられた。セルトレイ1粒播種・2 1) 西畑、林(2004)コンパクト野菜の生産技術. 条定植は、慣行のチェーンポット2粒播種・1条定 野菜茶業研究集報.1:9-16 植と比較して、単収が高く、揃いも良くなることか 担当研究者(西畑秀次、向井和正、布目光勇 、金 ら、短葉性ネギ栽培に有効であると えられた。土 森 夫、北田幹夫、林 保則、 本浩二) 寄せは、1回目を定植後20日頃、2回目を収穫予定 日の20日前に行うことで、短葉性ネギの出荷規格に 3 ネギのセル成型苗の省力大量育苗・移植システ ムの開発 ア 研究目的 生鮮野菜の輸入急増に対抗し、国産野菜を持続的 に生産していくためには、省力化や軽作業化を強力 に推進しながら大規模野菜産地の体質強化を図る必 要がある。特にネギは厳しい国際競争を強いられて おり、早急に低コスト生産技術の確立が求められて いる。 本研究では、ネギを対象にし、用標準セルトレイ によるセル成型苗の省力大量育苗・移植システムを 図2-39 2回目の土寄せが葉 開発する。具体的には、 288 標準セルトレイを用 の伸長に及ぼす影響 いての高精度播種技術、底面給水等水耕育苗技術を 1)定植日:2004年5月27日 182 表2-55 セルトレイ播種機の主要諸元 用いた省力・大量育苗技術、そして育苗されたセル 成型苗の省力・高能率移植技術を開発し、ネギの育 苗・移植作業における省力・低コスト化を図る。 イ 研究方法 ネギのコーティング種子(2L サイズ)を288 用標準セルトレイに播種するための高精度播種技 術を開発する。 底面給水等の水耕育苗技術をネギの育苗に適 用し、大量のセル成型苗を安定的に育苗するための 底面潅水型育苗技術を開発する。 標準セルトレイ(288 )を用い、底面潅水法 で約一ヶ月 の肥料を有する市販の野菜専用培土 で育苗したセル成形苗を省力・高能率で移植するた を用い、毎日1回セル底から1∼2cm 程度まで灌 めの全自動移植技術を開発する。 水させて育苗することによって、根鉢がしっかりし 開発した播種・育苗・移植技術を用いて、標 た苗をほぼ50日で育苗することができる(写真2-12、 準セルトレイ(288 )のセル成型苗を育苗・移植し、 図2-40) 。なお、1ヶ月を過ぎると生育が停滞するの 圃場試験等を通じて、システムとして完成させる。 で、生育に応じて適宜液肥で追肥を投入し、生育を ウ 研究結果 安定させる。 288 標準セルトレイ用播種機(写真2-10)は、 288 用全自動移植機(写真2-13)は 市販の 培土を詰めたセルトレイに溝付けロールで播種溝を 移植機を288 標準セルトレイが 用できるように 付け、 ロール式播種装置で各セルに1粒ずつ播種し、 改造した機械で、育苗した苗を7.5cm の株間で植付 その後、覆土装置で土をかぶせて覆土する工程を1 けが可能である。苗の草 が15cm 以下の苗ではほ 工程で行える機械である。セルに複粒播種する場合 は播種装置部 を複数回通過させて播種する。この 機械は一部のメーカーで市販されているが、ネギの コーティング種子を播種する場合は播種 を2L サ イズ用に改良することにより、ほぼ99.5%以上の精 度で1時間に120枚程度播種することができる(表2 -55)。 セルトレイを用いてネギ苗を育苗する祭、底 面潅水型育苗装置(写真2-11)を用いることにより、 灌水作業の省力化と安定した生育苗を得ることがで きる。特に、ピートモスとパーミキュライトが主成 写真2-11 底面灌水型育苗装置(市販装置) 写真2-10 セルトレイ播種機(市販機改造版) 写真2-12 底面灌水型育苗装置 183 写真2-13 全自動ネギ移植機(市販機改造版) 図2-40 苗の生育特性(品種:白妙、灌水深:底から 種粒数が小さいほど、定植間隔が大きいほど大きく 20mm、灌水時間:15 /日) なる傾向が見られるが、220 専用セルトレイによる ぼ95%以上は良好に植付けることができる。また、 システムでの収量や太さと同等である(図2-41) 。 損傷苗や倒伏苗を防止するためには、苗径が2mm 288 標準セルトレイシステムは、既存の268 以上必要である。10a当たり2.5∼3.0時間で移植す 連結紙筒や220 専用セルトレイによるシステム ることができる(表2-56)。 と比較して、単位面積当たりのセルトレイ数が少な 288 標準セルトレイで播種・育苗した苗を くなり、育苗面積や移植時における苗補給回数が30 定植した場合、収量は定植間隔が小さいほど、播種 %程度低減する。また、セルトレイは安価であり、 粒数が増加するほど大きくなり、軟白部の太さは播 必要な培土量も少ないので、育苗に必要な資材費は 表2-56 全自動ネギ移植機の主要諸元 図2-41 288 標準セルトレイ苗による収量性 1)移植日:5/20、収穫日10/31、条間:0.9m 184 約50%削減できる(表2-57)。 エ 肥料を有する市販の野菜専用培土を用い、毎日2回 察 セル底から5cm 程度まで灌水させて育苗すること 288 標準セルトレイを用いたネギの播種・育苗・ によって、灌水作業から解放されるとともに、ほぼ 移植までのシステムが完成した。このシステムは、 50日で育苗することができる。 コスト的にも収量的にも従来の播種・育苗・移植シ ステムと 色はなく、十 市販されているネギ移植機を改造した288 に普及が期待できると 用全自動移植機で、7.5cm の株間で植付けすること えられる。また、これによって、安価だがこれまで ほとんど ができる。 われていなかった288 標準セルトレイ をネギ専用トレイとして 288 標準セルトレイを用い、ネギ種子を播種 用できるようになり、か し、底面灌水方式で生育の揃った苗を約50日間で育 つネギ栽培における播種・育苗・移植作業の省力化 苗し、全自動移植機で定植間隔7.5cm で移植する が図れ、ネギ苗の大量育苗・移植への道が開けたと 「288 標準セルトレイを用いたネギセル成型苗の えられる。 播種・育苗・移植システム」が完成した。 オ 今後の課題 担当研究者(屋代幹雄 、安場 一郎、 尾 太郎) 播種機および移植機は市販機を若干改造する 必要があり、製造メーカーで対応は可能であるが、 4 将来的にはより移植性能を向上させる必要がある。 ネギの移植適性要因の解明と移植適性に優れた 品種の選定 本システムの普及に向け、農家圃場による現 ア 研究目的 地デモ等 PR 活動を積極的に行うとともに、大規模 ネギの機械化一貫体系において、機械移植された ネギ産地の育成とシステム導入支援のための施策を 苗がすべて商品となることが、効率化にとって極め 図る必要がある。 て重要である。全自動移植機はセル成型苗などの小 カ 要 約 さな苗を うため、生育の斉一性の点で劣る。そこ 市販の288 標準セルトレイ播種機の播種 で移植時の苗質と移植後の生育との関係を明らかに を改良することによって、精度良く、コーティング し、全自動機械移植でも移植後安定して生育するネ 種子を播種することができる。 ギの移植適性要因を解明する。併せて、移植適性に 市販の底面灌水型育苗装置で、約一ヶ月 の 優れた品種を市販品種等の中から選定する。 イ 研究方法 表2-57 他のシステムとの比較(試算) 東北農業研究センターが開発・改良した新し い育苗法・定植機のシステムと、既存のものを同一 圃場で比較し、新システムを評価する。ヤンマー288 セルトレイ(Y式)をエアープルーニング育苗(秋 田)、プールベンチ育苗(盛岡)し、改良型全自動移 植機で植え付けた。慣行は、みのる式220 セルトレ イ(M式)、エアープルーニング育苗(秋田) 、専用 移植機を用いた。品種は「白妙」を用い、3月22日 に1 3粒播種し、5月18、23日に定植した。 県内で栽培されている主要10品種の中から、 表2-58 移植時の苗と植え付け状況 185 東北農研改良の移植機に適する品種を選定する。 120g(L規格)を越えた時期を収穫期としたが、定 のY式秋田方式で育苗し、改良型機械で移植し、評 植後それぞれ159、154日を要した。可販物収量は各 価した。 区とも平方メートル当たり4kg 程度となった(表2- 移植時の苗質、植え付け間隔の変動係数(以 59)。よって、1 3本育苗の場合、288 セルトレ 下:移植変動)の関係から、機械移植適性、適品種 イ、プールベンチ育苗、改良移植機のシステムは、 を明らかにする。2004年に慣行(M式)で育苗、機 慣行のM式220 セルトレイ、 エアープルーニング育 械移植した17品種と「夏扇4号」の2つの育苗処理、 苗、専用移植機と比べ、正常植え割合がやや劣るが、 計19種類の苗質、移植変動データを用い解析した。 ほぼ同等の収量が得られた。 ウ 研究結果 移植時の苗は、各品種とも生育が停滞し、盤 移植時の苗は、5月18日(57日育苗)はY式 茎部が太く、強い生育ストレスが認められた。苗姿 盛岡がやや小型で、特に深植えが目立った。両定植 は「吉蔵」がやや小型だった他は、品種による違い 期とも正常植えの割合が高いほど植え付け間隔の変 は明らかでなかった。同様に植え付け状況にも品種 動係数も小さい傾向が見られた(表2-58)。調製重が 間差は認められなかった(表2-60)。標準品種である 表2-59 収穫物の比較(収穫期:10月24日、定植後159、154日) 表2-60 移植時の苗と植え付け状況(5月18日定植) 表2-61 収穫物の比較(収穫期:10月24日、定植後159日) 186 「白妙」の収穫期に全品種の収穫調査を行った。「夏 与率22.7%)は「植えにくさ」を表すと 扇4号」、「夏扇2号」、「秀逸」など黒柄∼合黒系F (図2-42)。2個の成 による各項目の位置から、苗 1品種は調製重が大きく、より早い時期に収穫適期 開度(苗を直立させた時の苗の開き、最も開く葉の を迎えていたと見られた(表2-61) 。 水平面に対する角度 θの余弦値、図2-43)と移植変 移植変動と相関の高い苗の形質がなかったこ とから、これらのデータを用いて主成 えられた 動は類似しており (図2-44)、機械移植適性が高い苗 析を行っ とは、苗開度が小さい、すなわち直立している苗と たところ、2個の成 が抽出された。第1主成 (寄 えられた。主成 得点によって品種をクラスター 与率42.5%)は「苗の大きさ」を、第2主成 (寄 析で 類したところ(図2-45)、「夏扇4号」、 「白 図2-42 主成 ごとの主成 係数(寄与率) 図2-43 苗開度の測定法 図2-44 項目の主成 図2-45 品種や処理ごとの主成 1)図中の囲みは7 得点と、クラスター 析による 類 類したもの、矢印は処理による変動を示す 187 係数 妙」が含まれるグループの品種が、適性が高いと 率促進技術を開発する。 えられた。「夏扇4号」が露地順化処理によって移 電動型半自動移植機の導入効果の検証と栽培 植変動が低下したことも示されており、処理効果も 技術のマニュアル化を行う。 評価できた。 エ ウ 研究結果 察 1 定植後の生育(草 3本育苗では、慣行及び新システムとも 、生育のばらつき、欠株 率)と育苗効率から判断して200 セルトレイの 用 苗にかかるストレスが大きく、このことが生育に大 が最も合理的であると判断した(図2-46)。2粒播種 きな差がみられなかった原因と とすることで育苗トレイ中の欠株率の発生が最小限 えられた。 と同様、苗にかかるストレスが大きく、移 に抑えられ、早期に根鉢が形成した。定植後の生育 植時の品種間差が消去されることから、移植後の生 (RGR)は2粒播種では1粒播種と同等なのに対 育が早い品種が適応性が高いと見られた。 し、3粒播種では有意に劣った(図2-47) 。 慣行全自動移植では、露地育苗の大苗半自動 エブ&フロー灌水装置を用いた育苗におい 定植と同様に苗の剪葉が行われている。剪葉によっ て生育は阻害される(2004年)が、苗の直立性は向 上する。全自動機械移植では剪葉せずに直立性を向 上できる露地順化技術が有効と思われる。 オ 今後の課題 特になし。 カ 要 約 ネギの全自動機械定植に適する苗は、葉の開きが 小さく直立した苗である。この形質は品種で異なり、 露地順化処理により高まる。供試17品種の中では、 夏扇4号 ほか7品種の適性が高い。 担当研究者(武田悟 、本庄求、田口多喜子、加賀屋 図2-46 セルサイズが定植後21日目のホウレン 博行) ソウの生育に及ぼす影響 1) CVは変動係数を示す 5 ホウレンソウのセル成型苗育苗技術の開発 2) 品種;アクティブ ア 研究目的 3) 播種;8/8、(直播区9/4)、定植:9/4 ホウレンソウ栽培では、直播栽培が主流であるが、 周年生産化に伴う連作によって激発する高温期の萎 苗・立枯病への対策 や在圃期間の短縮による 年間作付け回数の増加 が可能であることから移 植栽培導入への関心が高まっている。本研究では移 植ホウレンソウの生育特性 を踏まえたうえで、ホ ウレンソウセル成型苗(以下、セル苗と表記する) の育苗技術の開発を行うとともにセル苗の長所を生 かす栽培方法を開発する。 イ 研究方法 図2-47 播種粒数がホウレンソウセル成型苗の ホウレンソウ移植栽培に適したセルサイズ、 定植後の生育に及ぼす影響 播種粒数、育苗日数を明らかにする。 1) Tukeyの多重検定により異なる英文字間に1% エブ&フロー灌水育苗における培地と培養液 水準の有意差有り 濃度との組み合わせを解明する。 2) 品種;アクティブ 播種後の培地へのミスト灌水処理による出芽 3) 播種;9/21、定植;10/19、調査;10/31 188 て、慣行のセル苗育苗用培地に擂潰モミガラ (以下、 により検証した結果、移植機の導入により、作業負 モミガラと表記する)を33%添加して園試処方標準 担の大きい姿勢が解消された(データ省略)。育苗マ 培養液1/5濃度液を用いて育苗することで根鉢の形 ニュアルは本研究で得られた成果を中心に構成され 成が促進され(表2-62)育苗期間の短縮が可能であ ている。 ると判断された。一方で、モミガラ添加によりトレ エ イ中の欠株率が増加することが明らかになった。 察 ホウレンソウのような栽植密度の高い作物で 播種直後にトレイ当たり200ml∼400ml のミ は苗の品質を高く保ちながら出来るだけ集約的に苗 スト灌水をして3日間発芽適温条件(15∼20℃)下 生産を行う必要がある。高温期に行った本研究では、 に置く「ミスト灌水処理」を行うことでモミガラ添 直播栽培では欠株が多く発生し、生育のばらつきが 加培地でも高い出芽率(90%以上)が得られ(図2- 目立ったのに対し、移植栽培では欠株率やばらつき 48)、出芽率が70%以下となる高温環境下でも90%程 が小さく高温期の安定生産につながることが示され 度の高い出芽率が得られた(図2-49) 。 た。苗の生産効率と定植後の生育の視点から、実際 電動型半自動移植機の導入効果を OWAS 法 栽培では200 セルトレイに2粒播種して15∼20日 表2-62 エブ&フロー灌水育苗における培養液濃度と育苗培地への モミガラ混合がホウレンソウセル成型苗の育成に及ぼす影響 図2-49 播種後のミスト灌水処理と播種後3日間の温 図2-48 播種後のミスト灌水処理がホウレンソウセル 度環境ホウレンソウセル成型苗の出芽率に及ぼ 成型苗の出芽率に及ぼす影響に及ぼす影響 す影響が及ぼす影響 1) 品種アクティブ(プライマックス) 1) 品種アクティブ(プライマックス) 2) ↓は底面給水による灌水を示す 2) ↓は底面給水による灌水を示す 3) 培養土:A;市販無肥料培養土 3) 培養土:A;市販無肥料培養土 B;モミガラ添加培養土 B;モミガラ添加培養土 C;市販肥料入り培養土 C;市販肥料入り培養土 189 程度育苗することが適当であると えられる。 カ 要 約 育苗管理の省力化と苗品質の 一化の面から ホウレンソウセル苗育苗では200 トレイを 有望な育苗技術であるエブ&フロー灌水育苗のホウ 用いた2粒播種栽培が適当である。 レンソウセル苗育苗への適用を検討した結果、モミ エブ&フロー灌水育苗ではモミガラ33%混合 ガラ33%添加培地と園試処方標準培養液1/5濃度液 培地を用いて、園試処方標準培養液1/5濃度液を用い を用た育苗で、根量が多く T/R 比の小さい理想の て育苗することで T/R 比の小さい理想の苗とな 苗を作ることが出来た。ただし、モミガラ混合培地 る。ただし、モミガラ混合培地では出芽率が低下す の利用にあたっては、出芽率を低下させない方法を る問題が示された。 発案する必要がある。 播種後のミスト灌水処理により、市販の培地 ホウレンソウの発芽は他の野菜と比較して播 種後の温度や水 だけでなく、モミガラ混合培地でも出芽率を90%以 環境により影響を受けやすく、い 上にまで高めることが出来た。この効果は種子の種 かにして種子の発芽能力を最大限に引き出すかが育 類に関係なく認められ、その後の高温条件下 (25℃) 苗技術の要となる。本研究ではミスト灌水処理を行 でも出芽率が90%以上となった。 うことで90%以上の出芽率を得ることに成功した。 電動型半自動移植機の導入効果を検証し、セ ミスト灌水処理による出芽促進技術の特筆すべき点 ル苗移植栽培技術のマニュアル化を図った。 は以下の3点である。①モミガラ混合培地でも市販 の培地と キ 文 献 色ない出芽率が得られる。②高温期の育 1) 荒井ら(1984)ホウレンソウの移植栽培法に関 苗でも出芽率を高く保つことが可能。③価格の安い する研究(第3報)ホウレンソウ萎ちょう病の耕 非プライミング種子(普通種子)でも90%以上の十 種的防除法について.奈良農試研報.15:10-20 な出芽が得られる。以上、出芽率の向上について 2) 村上ら(2000)移植栽培による高温期ホウレン は今回の一連の研究で必要かつ十 な情報が得られ ソウ生産の安定化.近畿中国農研.100:38-43 たと言える。 3) 千葉ら(2000)移植栽培によるホウレンソウ萎 本研究の成果が活用されるためには、移植作 病の発生軽減と根圏の糸状菌フロラの関係.宮 業の省力化と栽培技術の普及が重要である。本プロ 城園試研報.12:25-34 ジェクトの遂行と平行して近畿中国四国農研センタ 4) 山本ら(1994)野菜栽培におけるセル成型苗の ーで独自に開発した施設野菜用電動型半自動多条移 利用⑶セルの大きさと葉菜類の作付回数.福岡農 植機の適用を検討した結果、大きな労働負荷軽減効 試研報.B-13:15-20 果が得られることが明らかとなった。また、今回の 5) 亀田(1999)ホウレンソウ移植栽培法と周年連 研究で得られた成果をとりまとめを中心に、以下の 続栽培体型.鳥取園試報.3:37-47 3つの項目を柱とするホウレンソウ移植栽培マニュ 6) 藤原ら(2003)ホウレンソウ移植栽培における アルを作成した。①ホウレンソウの出芽技術、②根 定植後の生育と品質成 鉢形成促進技術、③セル成型苗移植後の生育特性(前 2):408 との関係.園学雑.72 (別 半逃げ切り型の生育と浅根性)を活かした栽培管理 7) 藤原ら(2003)ホウレンソウのセル成型苗育苗 技術(特に灌水方法については定植後の活着促進の におけるセルサイズと播種粒数が定植後の生育に ための灌水管理 及ぼす影響.農作業研究.38(別1):115-116 が重要である)。 オ 今後の課題 8) 藤原ら(2002)ホウレンソウの播種粒数がセル 今回の研究成果については経営的視点からさ 成型苗の生育と斉一性に及ぼす影響.農作業研究. らに検討する余地が残されていると えられる。資 37(別1):69-70 材費の低コスト化の工夫や安定した販売ルートの確 9) 藤原ら(2004)エブ&フロー灌水方法を用いた 立等、条件を整えた上で実際の生産現場に導入して ホウレンソウセル成型苗育苗における培地へのモ 現地実証することが本技術の普及を図る上で重要で ミガラ添加が根鉢形成に及ぼす影響.農作業研究. ある。 39(別1):105-106. 10) 高田ら(2006)セル成型苗育苗における播種後 190 のミスト灌水処理がホウレンソウの出芽に及ぼす 2005年) 影響.農作業研究.41⑴(印刷中) a セル成型苗による移植栽培の機械収穫適性 11) 岡山ら(1983)ホウレンソウの移植栽培法に関 の解明 する研究(第2報)生育と収量に及ぼす土壌水 200 セルトレイで15∼18日間無加温育苗した苗 の影響.奈良農試研報.14:29-39. を移植した場合の生育特性や機械収穫適性を調査 担当研究者(藤原隆広 、熊倉裕 、吉田祐子) し、直播栽培との比較を行った。 b 種子特性と生育の関連 6 ホウレンソウの機械収穫に適した品種の選定 種子の外観形質と出芽並びにその後の生育につい ア 研究目的 て検討した。 収穫機械の実用性の検討と合わせ、機械収穫適性 ウ 研究結果 の高い品種の選定や栽培法の開発を行い、大型経営 品種別適応性試験においては、品種のみなら 体育成の資とする。 ず、作型によっても損傷発生程度に違いがみられた イ 研究方法 (表2-63)。 品種間差異の確認(2002∼2003年) 収穫機の作業能率は2.28(hr/a)で、手収穫 生研センター試作機(以下、収穫機とする)によ と比較すると圃場作業量(a/hr)で113%、製品処理 る品種別の適応性(損傷の発生程度)について、本 量(本/hr)で133%であった(表2-64) 。また、製品 県の代表品種等を用いて調査した。 化上問題となる第3葉以降の損傷の内訳をみると、 収穫機の特性把握(2002∼2003年) 損傷部位が第3、4葉に集中しており、全体の80% 収穫機の作業精度や作業能率を調査し、慣行手作業 を占めた(図2-50)。 との比較を行った。 株間を4cm にすることによって慣行収量を 適正栽植密度の解明(2002∼2003年) 上回るが、調製重が軽くなった。また、慣行並みの 条間15cm での適正株間(4cm、6cm、8m、3 栽植本数を想定した株間6cm 区では慣行並みから 水準)について、収量、品質の面と、機械収穫適性 やや劣る調製重となり、収量比率でも94∼115%を示 の両面から検討した。 した。しかし、株間8.0cm 区では調製重が重くなる 適正形質の解明(2003∼2005年) ものの収量的には慣行より劣る結果となった。また、 ほうれんそうの外観形質(葉長、開帳角度など) 栽植密度別の機械収穫適性については、株間による と損傷発生程度との関連を調査した。 損傷程度に顕著な差が認められなかった(表2-65) 。 生育斉一化のための栽培技術の検討(2004∼ 第3葉以降の損傷が増えると、製品歩留が低 表2-63 ホウレンソウ収穫機の品種別適応性 191 表2-64 収穫機の作業能率、作業精度(2002年) 以上必要である(図2-53)。 移植栽培による一斉収穫率の顕著な向上はみ られず、損傷は直播栽培より増加した(図2-54) 。ま た、直播栽培を前提とした場合、種子の大きさが出 芽の早さや生育量に影響を与えていることがわかっ た(図2-55)。 エ 察 現行の機械化播種体系(条間15cm)との適合 性は問題ないと思われた。また、従来の知見通り立 性の品種の適性が高いと思われ、外観形質(葉高) のみで概ね適正形質を判断して良いと思われた。 図2-50 第3葉以降の葉位別損傷割合 慣行手収穫より収量水準が落ちることなどか 下し減収した。歩留低下率を5%以内にするために ら、1条収穫機の導入メリットは少ないと思われた。 は第3葉以降の株当たり損傷数を0.3∼0.4以下にす オ 今後の課題 る必要がある(図2-51)。 実用機が開発された時には、今回明らかにし 図2-52で定義する葉高と株当たり損傷数の相 た適正形質の判断基準を検証する。 関がみられた。葉高が高いほど株当たり損傷数が少 生育斉一化技術の確立が急務である。 なくなる傾向にあり、第3葉以降の株当たり損傷数 カ 要 約 を0.4以下にするためには第3・4葉高が概ね22cm 試作機における機械収穫においては、減収程 192 表2-65 栽植密度別の収量と収穫機適応性 図2-51 株当たり損傷数と製品歩留低下率(2004∼2005年) 図2-54 セル成型苗移植栽培の一斉収穫率、機械収穫 による損傷発生程度 図2-52 ほうれんそうの葉高 ※数字は葉位 図2-55 要した出芽日数・種子仮容積別の収穫時 生育量(品種A) 1) アルファベット同一文字はチューキーの多重検定 図2-53 葉高と株当たり損傷数(2003∼2005年) (危険率1%)で有意差が無いことを示す。 度を5%以内に抑えるためには、第3・4葉高が概 担当研究者(高橋昭喜 、佐藤(根田)美和子、折坂 ね22cm 以上になる品種の適性が高い。 光臣、目時梨佳、茂市修平、高橋修) 一斉収穫率を向上させる手段として、移植栽 培や種子選別の顕著な効果は期待できない。 193 第6章 一粒播種によるニンジン・ダイコンの低コスト・省力・機械化栽培技術 の開発 1 高発芽性種子の選別・ハンドリング技術の開発 らの発光を計測するとともに、試作3号機によるニ ア 研究目的 ンジンの発光測定の可能性についても検討した。 野菜の省力、軽作業化を進める上で、間引きや欠 ウ 研究結果 株の補植作業等を軽減することは重要である。それ ダイズ、エンドウ、インゲン、スイートコー には、的確な種子選別を行った高発芽性種子を一粒 ンを用いて、吸水開始直後から二時間までの発光量 播種する技術の開発が必要である。本研究では、一 を 粒播種する技術を開発するために、種子からの微弱 いずれも、その発光量は死滅処理種子の方が強いが、 発光現象に着目し、その判別や測定に必要な条件を その傾向は異なり、特に、ダイズは吸水前から顕著 明らかにすることを目的とする。また、共同研究者 な差が見られた(図2-56)。 の微弱発光計測装置の開発にも研究結果を役立て、 簡 全種子と死滅処理(熱処理)種子で比較した。 小粒ダイズほど発光値は低い。種皮色も影響 かつ高感度な微弱蛍光発光検出と種子判別のシ し、丹波黒などは発光値が低いため、比較には、品 ステムの開発を目指す。 種間差を 慮する必要がある(図2-57)。 イ 研究方法 古いダイズほど発光値が高い。すなわち発光 市販の微弱発光計測装置(浜 ホトニクス 値は劣化度の指標になる可能性がある(図2-58) 。 を用いて、さまざまな野菜種子からの微弱発 C8801) ダイズに加湿処理するとは発光値は顕著に減 光の検出を試みた。 少する(図2-59)。また、発光は種皮から発せられる 数種のダイズ品種や加湿劣化させた「フクユ ものが主である(図2-60)。種皮を剥ぐだけで発光値 タカ」種子を用い、品種、劣化度、種子の状態と遅 は大きく変わる(図2-61)ことから、観測している 発光値の関係について検討した。遅 定は、共同研究先(浜 発光値の測 発光は、種子の水 状態や種皮の種子への密着度な ホトニクス)で開発された どに大きく影響される。 改良版微弱蛍光発光装置(試作機、試作1号機、お 試作3号機は試作機、試作1号機に装備され よび試作3号機)を用い、25℃一定の条件下で種子 ている励起光源(375nm 付近の光源)の他、種々の 1粒からの発光値を測定した。 波長の励起光源が利用できる。厳密に調湿した種子 試作1号機を用いて、数種の野菜種子1粒か 図2-56 を 用した場合、試作1号機等で検出できる375nm 全種子と死滅種子の吸水直後から2時間後までの発光量の変化 (種子死滅処理;105℃4日間) 194 図2-60 種子、種皮からの発光(試作1号機) 図2-57 発光量と品種(試作機) 図2-61 剥皮種子からの発光(試作1号機) 1)かぶせは種皮を剥皮した種子にかぶせたもの 図2-58 フクユタカ貯蔵種子と発光量(試作機) 可能性が高い(図2-62)。この差は加湿処理により劣 化させた種子でも同様に検出できた。 試作1号機での測定において、ダイズ以外の 野菜では、ニンジンに強い遅 発光が見られた(図 2-63)。 ニンジンの古い種子ほど遅 発光値は高かっ たが、個々の種子では、発光値と発芽力には相関が 見られなかった。また、試作3号機で利用できる他 の励起光源では、これらの差が見られなかった。 エ 察 見出されたダイズからの遅 発光のうち、 375 図2-59 種子吸湿と発光量(試作機) nm 付近の光源で励起される遅 付近の光源で誘起される遅 発光量には顕著な差が 発光は、水 、種皮 の種子への密着度に強く影響される。このため、本 見られないが、470nm や505nm の光源で誘起される 遅 発光値を利用して、ダイズ種子の発芽力を検定 発光量には顕著な差が見られる。すなわち、470nm し、高発芽性ダイズを選別することは困難であると や505nm の光源の方が種子判別により有望である えられた。しかしながら試作3号機で検出可能な 図2-62 種々の光源下での経年劣化種子の発光値(試作3号機) 195 図2-63 他の野菜種子からの発光値(試作1号機) 470nm や505nm の光源で励起される発光値につい 種々の野菜種子からの遅 ては、 そのダイズ種子選別における有用性について、 ニンジンが強い遅 今後詳細な検討が必要であろう。また、これらの発 た。 光の生理機構についても検討が必要であろう。 発光を計測して、 発光を示すことを明らかにし 担当研究者(今田成雄、壇和弘、本多一郎 ) 種子サイズの比較的小さいニンジンに同様な 発光が見られ、古い種子ほど高かったことは興味深 2 微弱発光による種子発芽力の計測技術の開発 い。共同研究者らにより、375nm 付近の励起光で検 ア 研究目的 出できる本遅 野菜の省力、軽作業化を進める上で、高発芽率種 発光には600nm 付近の長波長成 が存在することが見出されている。しかしながら、 子の選別を行い、一粒播種する技術が求められてい 試作3号機で利用できる長波長域(470、505、525、 る。これまで、特定種子の発芽時に微弱な発光が観 590nm)の光源で励起した場合、検出できる発光には 察されることが報告されている。高発芽率を持つ種 差が見られなかった。現時点ではこの原因は不明で 子の選別を可能にするための微弱な発光を高感度で ある。 計測する技術の開発を行う。 ダイズ同様ニンジンにおいても、遅 発光機構の イ 研究方法 解明が不可欠であろう。 試作1号機∼種子自家発光・遅 オ 今後の課題 試作2号機∼励起光照射法の改良 見出されたダイズやニンジンよりの遅 発光 試作3号機∼小型化と励起波長の最適化 の機構解明が必要 試作4号機∼計測機能の充実 本方法、機器の他の野菜や作物種子への応用 ウ 研究結果 の可能性の検討 カ 要 蛍光の計測 初年度、励起光を用いずにダイズ種子からの 約 発光(自家発光)計測を試みたが、発光が微弱で計 野菜種子を一粒播種する技術の開発のため、 測に時間がかかり実用的でなかった。そのため、遅 種子からの微弱発光現象に着目し、その判別や測定 蛍光法に着目し、紫外励起光源、遮光用シャッタ に必要な条件を検討した。既存の機器や共同研究先 高効率光学系を内蔵した試作1号機を試作した(写 で新しく開発された機器をもちいて、種々の光源で 真2-14) 。 誘起されるダイズの遅 発光を測定するシステムを ダイズ種子の遅 蛍光評価を実施したところ、古 開発することができた。 い種子ほど遅 種々のダイズ品種、同一ダイズ品種の経年劣 化種子や加湿種子を用いて、遅 解析した。検出した遅 蛍光強度が高い結果を得た 。しか し、発芽試験の結果と相関を得ることは出来なかっ 発光のパターンを た。 発光は水 、種皮の状態の 試作1号機の評価結果から、励起エネルギー 影響を強く受けることを明らかにした。 が十 でないと判断し、励起エネルギーを向上させ 196 写真2-16 試作3号機 写真2-14 試作1号機 るため、紫外励起光源をパルス照射から定常照射に 切り替え蛍光成 のみを専用の光学フィルタにて選 別可能な試作2号機を試作した(写真2-15) 。 種子から出力される光成 励起光成 には、蛍光成 と紫外 を含むため、光学フィルタで励起光成 のみを減衰させる事が必須条件となった。 試作2号機の性能評価を実施したところ、光学フ ィルタ自身の蛍光成 からの蛍光成 が、本来計測対象である種子 を上回る結果となり、種子評価に至 らなかった。 試作1号機の励起波長を紫外域から可視域に 変 して種子評価が出来るよう、弊社製品を改造し 図2-64 装置の構成 励起波長を470nm、505nm、525nm、590nm の4種 類搭載可能な試作3号機を試作した。 2-17)。試作4号機は遅 写真2-16に外観、図2-64に内部構造図を示す。 蛍光計測以外にも蛍光寿 命・吸光度計測に対応する構造である。 野菜・茶業研究所から提供されたダイズ(フクユ 試作4号機を 用して様々な種子を評価した。た タカ)の発芽種子・発芽抑制種子で試作3号機を評 とえば、ニンジン (キントキ)においては、470nm で 価した。粒径を揃えた各10粒について4つの励起波 常時励起した際の種子からの遅 長に対する遅 て、600nm 以上で計測したところ、発芽良好種子と 蛍光強度を評価した結果、470nm、 505nm の励起波長において優位差のある遅 成 蛍光成 蛍光 が測定された(図2-65、図2-66) 。 多種な種類の種子に対応するため、遅 蛍光 以外の計測手段を検討し、1100nm までの近赤外域 まで、波長感度を有す試作4号機を試作した(写真 写真2-15 試作2号機 図2-65 470nmでの励起結果 197 につい 試作2号機で光学フィルタを用いて励起光源 波長と遅 蛍光波長の 離を試みたが、光学フィル タ自身の蛍光がサンプルからの発光を上回る結果と なってしまった。 可視領域の励起光源を任意に切り替える事が 出来る試作3号機は汎用性が高く、実際ダイズ(フ クユタカ)において有意差のある遅 蛍光計測結果 を得た。 近赤外域まで感度を有する試作4号機におい ては、試作3号機の可視域励起波長に加えて近赤外 域の計測も可能となり、幅広い波長での評価が実現 できた。 また、試作4号機において、有意差のある計測結 図2-66 505nmでの励起結果 果をニンジン(キントキ)で得た。 発芽不良種子との間で有意差のある結果を得た(図 オ 今後の課題 2-67) 。 種子の自家発光・遅 エ 察 法を開発した。特に、小型化や複合計測が可能な試 励起光源に紫外光を採用した試作1号機は強 い遅 蛍光成 部 蛍光を計測する機器及び手 作機を完成させた。今後はこれらをの技術を基に、 を期待できる反面、種子以外(筐体 など)の遅 蛍光成 国研、種子メーカなどにおける一粒播種を可能とす も計測値に混入し、計測 る各種研究に貢献し、省力化農業技術を一層躍進さ 誤差につながる結果となった。 せる有効な実用技術とするための改良研究に利用可 能と える。 カ 要 約 微弱発光計測技術を用いた、省力化農業技術 である一粒播種を可能するため、計測機器及び計測 手法を検討した。 本研究において、種子からの自家発光・遅 蛍光を計測できる紫外領域励起光源内蔵の試作1号 機、可視領域励起光源内蔵の試作3号機、近赤外域 まで感度を有する試作4号機が構築でき、これら手 写真2-17 試作4号機 図2-67 発芽良好種子(右)と発芽不良種子(左)の励起結果 198 法を用いて種子発芽力選別可能性を示唆するデータ 太」、「快進2号」 、「秋いち」は他の品種に比べて粒 が得られた。今後は試作機を 径2.5mm 以下の小さな種子が多かった(表2-66) 。 用して多くのデータ をとり、実用化への指針を探っていくこと。 キ 文 発芽の良否と種子の粒径 献 一定の関係は認められなかった(表2-67)。本実験 1) 壇和弘、大和陽一、今田茂雄、鈴木誠司、神谷 で発芽率、発芽勢がともに高く安定していたのは 昭文、杉江正美(2004)ダイズ種子における光照 射後の遅 布の品種間差との間には 「夏つかさ」であった。 発光と種子活力との関係.園学雑. 種子の粒径と本圃での生育との関係> 73(別2):200 2mm 未満の種子は出芽率が94%と低かった(図 担当研究者(杉江正美 、鈴木誠司、神谷昭文) 2-68)。収穫時の根重は、対照区に比べて粒径2mm 未満の小さな種子を播種した区では小さく、2mm 3 一粒播種におけるダイコンの生育斉一化技術の 以上2.5mm 未満の種子を用いた 区で 同程度とな 開発 り、2.5mm 以上の種子区では大きかった(図2-69) 。 ア 研究目的 播種法の検討 種子選別、播種法、肥効調節型肥料の種子近接施 欠株率は播種深度が深いと高くなる傾向で、特に 肥等を検討し、ダイコンの一粒播種栽培技術を開発 深度4cm では8%以上となった(図2-70)。土壌水 する。 の処理区間差と欠株の発生との間には明確な関係 イ 研究方法 は認められなかった(図2-71)。 種子の選別効果の検討 ソリ付き播種機(写真2-18)は慣行播種機に比べ、 7品種の種子について、粒径2mm 未満、2mm 特に1∼2cm の設定深度での播種精度が高く、実 以上2.5mm 未満、2.5mm 以上3mm 未満、3mm 際に播種された深度やその変動は小さかった(図2- 以上の4階級に種子選別を行い、各階級について発 72)。 芽率、発芽勢を調査した。また、粒径別の「夏つか 被覆尿素肥料の種子近接施肥の検討 さ」種子を本圃に播種し、欠株率や生育を調査した。 播種法の検討 被覆尿素肥料のテープシーダーへの封入量の検 討> 深度2、3、4cm で「夏つかさ」を一粒播種して 被覆尿素肥料を種子の両側2cm の位置にテープ 欠株の発生様相を検討した。また、通常の播種機と 封入した区は対照区に比べて葉根部の生育が促進さ ソリ付き播種機(TSA-8ST)を用いて圃場での播種 れる傾向であった(表2-68)。この生育促進効果は、 精度を比較した。 表2-66 種子の粒径 被覆尿素肥料の種子近接施肥の検討 布の品種間差 種子の両側2cm の位置に被覆尿素肥料(30日タ イプ)を各1粒あるいは2粒封入したテープシーダ ーを用いて播種し、被覆尿素肥料の封入が生育に及 ぼす影響を調査した。 一粒播種栽培技術確立のための開発技術の組 み合わせ効果の検討 表2-67 種子の発芽の品種間差 「夏つかさ」と「快進2号」について選別種子、被 覆尿素肥料の種子近接施肥、ソリ付き播種機での播 種を組み合わせた実証試験を実施し、欠株の発生や 葉根部の生育を調査した。 ウ 研究結果 種子の選別効果の検討 種子の粒径 種子の粒径 布の品種間差と発芽との関係> 布には品種間差があ り、「快調 199 図2-71 深度別の土壌水 図2-68 種子の粒径と出芽率との関係 1) 種子の粒径 の日変化 1)2002年8月23日に雨よけハウスで実施 A;2mm未満、B;2mm以上2.5 2)午前7時から1時間(10mm相当量)をかん水 mm未満、C;2.5mm以上3mm未満、D;3mm以 3)縦棒;標準偏差(n=3反復) 上 被覆尿素肥料を種子の両側に各2粒封入した LP4 粒区で各1粒封入した LP2粒区に比べて大きかっ た。 1粒播種栽培技術確立のための開発技術の組 み合わせ効果の検討 欠株率は、「快進2号」の 合1粒区で20.5%と 顕著に高かく、「夏つかさ」でも 合1粒区が2.9% と対照区の0.4%に比べて高かった(図2-73) 。収穫 図2-69 種子の粒径と収穫期の根重との関係 1)種子の粒径;図1-1に準ずる 期の根重は、「夏つかさ」「快進2号」ともに 合1 2)対照区;無選別種子 粒区で対照区より大きかった(表2-69)。また、根 3)縦棒;標準偏差(n=3反復) 重のバラツキは、 「夏つかさ」では 合1粒区と対 照区との間で大差なかったが、「快進2号」では 図2-70 播種深度と欠株率との関係 1)播種;2002年8月16日(品種;夏つかさ) 2)播種深度;播種機の深度ゲージで設定 図2-72 播種機の相違と播種深度との関係 3)縦棒;標準偏差(n=3反復) 写真2-18 ソリ付き播種機 1)左;全体、右;ソリ部 200 拡大 表2-68 被覆尿素肥料のテープシーダーへの封入量と葉根部の生育との関係 合1粒区が対照区に比べて極端に大きな個体や小さ ダイコンは播種深度を4cm とすると欠株率 な個体が発生することが認められた(図2-74) 。 エ が増大するが、これは土壌水 察 や地温の差によるの ではなく、子葉が小さく出芽後の生育が劣るなどの ダイコンの1粒播種栽培においては、種子の 幼苗の外的環境に対する抵抗力の低下が関与してい 大きさより発芽力を重視した品種選定が必要で、 るものと推察された。播種深度は2cm 程度が良く、 「夏つかさ」のような発芽力の高い品種を種子選別 この深度での播種精度を高めるには、ソリ付き播種 して粒径の小さな種子を除去すると、圃場での発芽 機の利用が効果的であると や生育がさらに向上するものと えられた。 えられた。 テープ封入したダイコン種子の両サイド2 cm の位置に被覆尿素を封入することにより、初期 生育が旺盛となり、この効果は生育後半まで持続す ることが認められた。1粒播種栽培では安定的な発 芽とともに外的環境の変化に耐え得る幼苗期の生育 確保が重要となることから、初期生育を確保できる 被覆尿素肥料の種子への近接施肥は1粒播種栽培に とって有効な1技術となるものと えられた。 種子の粒径選別、ソリ付き播種機を用いた深 図2-73 度2cm での播種、肥効調節型肥料の種子近接施肥 合技術体系の欠株発生状況 表2-69 図2-74 合技術体系の葉根部の生育様相 合技術体系の根重のバラツキの様相 201 を組み合わせた技術は、発芽力の高い「夏つかさ」 発芽及び生育・収量に及ぼす影響 では実用性があったが、発芽力が劣る「快進2号」 播種日は4月2日、4月14日、7月24日、8月6 では、欠株が多く発生し実用性はないものと えら 日、8月18日、8月24日、 用種子及び播種方法は、 れた。 プライミング種子1粒、無処理種子1粒、慣行(無 オ 今後の課題 処理種子2粒1回間引き)とし、クリーンシーダー 発芽力向上のための種子選別技術の開発や全量基 により播種を行った。 肥栽培と組み合わせたさらなる省力化技術の開発が b プライミング種子の保存温度条件の違いが 必要である。 カ 要 発芽に及ぼす影響 約 供試種子は、プライミング種子及び無処理種子を ダイコンの1粒播種栽培では、種子の大きさ 用。種子の保存温度を45、35、25、15℃、保存時 より発芽力を重視した品種選定が必要で、 夏つか 間6時間、24時間、3日間、7日間、4ヶ月(25℃ さ」のような発芽力の高い品種を種子選別して粒径 のみ)とし、常時5℃保存と比較検討を行った。室 の小さな種子を除去すると、圃場での発芽や生育が 内発芽試験方法は、含水比15%に水 調整した砂丘 さらに向上する。 未熟土を16.5×12.6×高さ5.1cm の密閉できる容 ダイコンは播種深度2cm で発芽が安定し、 器に3cm 厚に詰め、1容器に50粒を深さ1cm に播 出芽率が向上する。ソリ付き播種機は、通常の播種 種、覆土した。播種後は25℃、16h →30℃、5h →35℃、 機に比べてこの深度での播種精度が高い。 3h 繰返の温度設定の恒温器に入れた。 粒径2mm 以上で選別した「夏つかさ」種子 c 播種後かん水開始前までの温度条件の違い の両サイド2cm の位置に被覆尿素肥料を各2粒封 が発芽に及ぼす影響 入すると、葉根部の生育が促進され生育の安定化が 供試種子は、プライミング種子及び無処理種子を 図られる。 用。播種後の遭遇温度を43、35℃、遭遇時間を1 発芽力の高い品種の選定とその種子の粒径選 時間、3時間、5時間とし、室内発芽試験方法は含 別、深度2cm での播種と播種精度の高いソリ付き 水比2.5%に水 播種機の利用、初期生育を確保するための肥効調節 で土を詰め、播種覆土を行った。恒温器内で各処理 型肥料の種子への近接施肥を組み合わせることによ を行った後、含水比が10%となるように霧吹きによ り、欠株率が3%以程度の1粒播種栽培が可能とな り加水を実施。加水後は、試験bと同様の温度設定 る。 の恒温器に入れた。 担当研究者(福岡信之 、橋本尚、清水恵美、増田大 祐、西村康平、 調整した土を、試験2と同様の方法 施肥方法の違いが収量に及ぼす影響 本淳) 施肥方法は、畝内局所(播種予定条ごとに施肥幅 5cm となるように基肥散布、トラクター耕うん後 4 一粒播種におけるニンジンの生育斉一化技術の 播種)、表面局所(播種予定条ごとに施肥幅5cm と 開発 なるように基肥散布、耕うんを行わず、施肥箇所の ア 研究目的 真上をクリーンシーダーで播種)、全面全層の3水 ニンジンの大規模栽培は、間引き作業の省力化の 準、減肥方法は全量3割減(10a 当たり標準窒素施用 ため、一粒播種技術の開発が重要である。しかし1 量合計25kg(基肥15kg、追肥10kg)の3割減(N= 粒播種の場合、発芽不安定・発芽不揃いなどから収 17.5kg/10a))、基肥のみ3割減((基肥15kg)の3割 量・品質低下を招きやすい。そこで一粒播種に適し 減(N=10.5kg/10a))の2水準、追肥回数を2回、 た条件およびそのための栽培管理手法を明らかに 1回、無しの3水準とし2区制で実施した。基肥に し、技術の開発を図る。 は、化成肥料(N:P O :K O=11:13:13 (LP70 イ 研究方法 日タイプ5%含有)) 、追肥は1回目を9月22日、2 一粒播種無間引き栽培におけるプライミング 回目を10月6日に実施した。播種は8月21日に行っ 種子の実用性の検討 た。 a 播種時期によるプライミング種子の利用が 202 表2-71 生育に及ぼす影響 4条栽培における栽植密度、栽植様式の違い が収量に及ぼす影響 条間設定を等間隔(全ての条間20cm)、異間隔(中 央条間のみを30cm)、播種間隔設定6、8、10cm、 条別播種間隔設定を内外条等間隔、内外差1cm、内 外差2cm とし2区制で行った。播種は8月21日、収 穫は12月20日に実施した。 ウ 研究結果 ほ場発芽率は、いずれの播種時期においても、 プライミング種子は無処理種子に比べ、発芽が顕著 に促進され、発芽揃い時のほ場発芽率も高い傾向で あった。(表2-70) 。 初期生育は、プライミング種子が無処理種子、慣 行栽培に比べ優っていたが、7月24日播種では後期 表2-72 収量・品質に及ぼす影響 生育で差が認められなくなった(表2-71) 。 プライミング種子と無処理種子および慣行栽培と の根重や収量の差は、夏まきの遅い播種時期で大き くなる傾向が認められた(表2-72) 。 保存温度45℃ではいずれの保存時間においても常 時5℃保存と比較してプライミング種子は発芽率の 低下は見られなかった。他の温度でも同様な結果で あった(表2-73)。 遭遇温度43℃のプライミング種子では、遭遇時間 が長くなるほど発芽率が低下する傾向が見られた (表2-74)。 なかった (表2-75、表2-76)。収穫時も局所施肥は全 局所施肥は全面全層施肥に比べ、生育初期の 面全層施肥に比べ、施肥窒素利用率は高く収穫時の 施肥窒素利用率は高く、全重・根重のバラツキも少 根重の揃いが良い傾向であった(表2-76、表2-77) 。 根重の変動係数は、播種間隔が広いほど低く なる傾向が認められた。内条と外条との根重差は、 表2-70 ほ場発芽率に及ぼす影響 播種間隔の設定を内条を広めにすることにより小さ くなる傾向が認められた。条間設定を異間隔とする ことで根重、収量、LM 規格割合が増加した(表278)。 エ 察 プライミング種子の発芽開始の早さに由来す る初期生育の優位性は、高温条件下での生育期間が 長くなる播種時期は消失し、低温条件下へ向かって 表2-73 種子の保存温度および保存時間の違いが発芽に及ぼす影響 203 表2-74 種子の保存温度および保存時間の違いが発芽に及ぼす影響 表2-75 施肥方法の違いが生育に及ぼす影響 表2-77 施肥方法の違いが収穫時根重に (第1回目追肥直前) 及ぼす影響 表2-76 施肥窒素利用率に及ぼす影響 加水前に高温に長時間遭遇すると普通種子に比べ発 芽率が低下するため、地温がかなり高くなることが 予想される日および時刻の播種を避けることや播種 後すぐにかん水できる条件を整えることが必要と思 われた。 局所施肥は生育初期での生育のバラツキを抑 えられたことから、初期生育の肥効を高める肥培管 理が生育斉一化技術として有効と思われた。局所施 肥は、肥効保持力に乏しい砂丘未熟土の栽培でも効 生育する夏まきの遅い播種時期では優位性が持続 果が確認できた。 し、収量の差につながったと推察され、夏まき栽培 標準的な収穫日数で、根重の斉一性を高め での実用性を認めた。ただし、留意点として播種後 LM 規格を多収にするためには、4栽培においては、 表2-78 栽植様式の違いが条別の根重および根重の揃い、収量に及ぼす影響 204 播種間隔は狭めず、中央条間を外条間より広めにし、 「T-466」の現地栽培試験を行うとともに、一般地 中央条間の播種間隔を外条間の播種間隔より1∼2 年内どり栽培における機械収穫適性品種の選抜を行 cm 広くして受光体制を良好にすることで可能と思 った。 われた。 イ 研究方法 オ 今後の課題 冬どり機械収穫適性品種の栽培適応試験 プライミング種子利用栽培の複数年次のデー 昨年度までの検定結果により冬どり機械収穫適性 タを利用し、経済性の評価が必要。 が高いと評価した「T-466」を用いて、熊本県菊陽町 早い播種時期及び異なる土壌での効果確認、 において現地栽培試験を実施した。また、研究農場 実用的な施用方法による効果確認。 カ 要 (滋賀県)において、冬どり栽培主要品種である 「陽 約 州五寸」と「T-466」の特性比較試験を実施した。 プライミング種子利用の栽培について夏まき 一般地年内どり機械収穫適性品種の選抜 栽培において実用性がある。 昨年度の検定結果から年内どり栽培で機械収穫適 基肥の畝内及び畝表面の局所施肥は、全面全 性が高い品種を3点選抜した(TC-1001、TC-1002、 層施肥に比べ窒素利用率の増加、初期の生育量・生 その3品種について岐阜県各務原市およ TC-1003)。 育揃いおよび収穫時の根重揃いが向上する。 び熊本県菊陽町において現地栽培試験を実施した。 4条栽培おいて、内条条間を外条条間より10 cm 広げ内条の播種間隔を外条播 また、研究農場(滋賀県)において、年内どり栽培 種間隔より1 主要品種である向陽二号との特性比較試験を実施し ∼2cm 広く設定した栽植様式は、根重の斉一性が た。 向上する。 ウ 研究結果 担当研究者(谷内田学 ) 冬どり品種の特性比較試験結果(表2-79)お よび現地栽培試験結果(表2-80) 5 ニンジンの機械収穫に適した品種の育成 「T-466」は肌のテリツヤ・太りが「陽州五寸」よ ア 研究目的 りも少し劣っていたが、M∼2L の規格内でよく揃 ニンジンの継続的安定生産のためには、規模拡大 っていた。熊本県菊陽町で行った現地栽培試験では、 と機械利用による生産の省力化が必要である。そこ 収穫調整時に裂根が発生せず、出荷規格において 「陽 で、実用品種の品質・栽培適応性を具備し、かつ機 州五寸」を上回る収量性を示した。また、「T-466」 械収穫適性を兼ね備えた品種の育成が急務となって は根部の外色内色ともに優れており、機能性成 いる。現在、多くの産地で収穫機の 用が増加傾向 してカロテン含量が高く、硝酸塩濃度が低い値を示 にある中で問題点として、茎葉の弱さや裂根等が指 した。 と 摘されている。そのため、品種ならびに収穫機に関 一般地年内どり品種の特性比較試験結果(表 する実態調査を行うとともに、育種的立場から機械 2-81)および現地栽培試験結果(表2-82、表2-83) 収穫適性形質の整理および適品種・系統の選定・育 研究農場および熊本県菊陽町にて行った栽培試験 成を図る。 では、選抜3品種(TC-1001、1002、1003)は「向 本年度は、冬どり栽培で高い機械収穫適性を示す 陽二号」よりも草姿が若干強く、機械収穫適性が高 表2-79 冬どり品種特性比較調査結果 205 表2-80 冬どり品種現地栽培試験結果 表2-81 一般地年内どり品種特性比較調査結果 表2-82 一般地年内どり品種現地栽培試験結果 表2-83 一般地年内どり品種現地栽培試験結果 い結果を示した。しかし、岐阜県各務原市で行った 選抜3品種は全て、収穫調整時の裂根が少なく、 栽培試験では、草姿の強さに関して「向陽二号」と M ∼2L 内でよく揃い、根色が「向陽二号」よりも 選抜3品種の間に明確な差は認められなかった。 優れていた。「TC-1001」は「向陽二号」よりも若 206 干肥大が遅く根長は長めであり、「TC-1002」は現 受けやすいことを示唆しており、安定した機械収穫 地栽培において最も裂根が少なかった。 「TC-1003」 適性を示す素材の再検索が必要であると は根長がやや短めで尻詰りが早く肥大性に優れてい た。 た。 エ えられ オ 今後の課題 察 冬どり栽培用機械収穫適性品種として、 「T-466」 冬どり栽培での機械利用において、収穫調整 の現地栽培試験を拡大し、幅広い地域での栽培適応 時に起こる裂根が問題となっており、 「T -466」は 性を確認する。年内どり栽培用機械収穫適性品種に 現地栽培においても収穫調整時に割れにくく機械収 おいては、より安定した機械収穫適性を示す素材の 穫適性が高いことが明らかとなった。これまで研究 検索を行う。 農場で行った特性調査では太りが「陽州五寸」より カ 要 約 もおとなしく、収量性がやや劣ると えられていた 本研究により、冬どり栽培で収穫調整時に裂根が が、収穫調整時の裂根が非常に少なく揃いがよいこ 少なく機械収穫適性が高い品種として「T -466」を とから、出荷規格において「陽州五寸」を上回る収 選抜することが出来た。また「T -466」は根部の芯 量性を示した。また、根色が濃いことや、カロテン まで濃鮮紅色でカロテン含量が高いことから、 「機 含量が高く硝酸塩濃度が低いことなどから、「T - 能性成 の高い機械収穫適性品種」として現在、品 466」は高い商品性を示すと 種登録を出願(第17819号)している。今後は試作を えられた。 年内どり栽培で利用されている収穫機は葉柄 拡大し、現地での栽培適応性調査を行い、販売化を を摑むタイプが主流となっており、主力品種である 検討する。 「向陽二号」の草姿の弱さが機械利用上で大きな問 年内どり栽培用の機械収穫適性品種においては、 題点となっている。研究農場で葉柄の強さと耐裂根 昨年度3点の候補をあげたが、産地によって機械収 の点から選抜した3品種について現地栽培試験を行 穫適性が安定せず、再度素材の検索が必要であると った結果、この3品種の葉柄・草姿の強さが産地に えられた。 よって変動することが認められた。この結果は、こ 担当研究者(門田伸彦 ) れら3品種の葉柄の強度が土質や気象条件の影響を 207 第7章 1 高温期における果菜類の生理・生態的特性解明 トマト周年高生産を可能とする作型開発のため ウ 研究結果 の温度―生育反応の解明 それぞれのハウス内の気温 ア 研究目的 愛知県武豊町の普通軒高のハウス内の気温は高軒 高リコペントマトを作期を変えて栽培し、温度と 高ハウス内の気温に比べると高かった。特に日中の リコペン含量の関係を明らかにする。実際のハウス 最高気温が高い傾向にあった。最低気温に関しては 内の温度と果実のリコペン含量の関係から、高温限 やや高軒高ハウスの方が高かった。愛知県武豊町の 界を明らかにし、環境制御による高温抑制の目標値 ハウスでは岐阜県古川町のハウスより、8月では平 を明らかとする。 気温で約4℃∼5℃、最高気温で2℃∼5℃、最 イ 研究方法 低気温で4℃∼5℃、内部の気温が高かった(図2- 高リコペントマト「Kc02-30」、「Kc02-115」、 および「桃太郎8」 、 「ハウス桃太郎」、を「がんばる 75)。 リコペン含量 根」に接ぎ木して、6月より1ヶ月おきに定植し、 リコペン含量は収穫時期により差が見られたもの 普通ハウスで土耕栽培し、月ごとのリコペン含量を の、高温期に低下するようなことは見られなかった。 調査した。また高軒高ハウスで4月に定植しロック 定植日による違いが見られ、10月末に測定した結果 ウール養液栽培をした。 では早期には種した株から収穫した果実のリコペン 栽培期間の温度が異なる岐阜県中山間農業技術研 含量が高い傾向にあった(図2-76)。9月29日収穫果 究所においても土耕で栽培し、リコペン含量を調査 実で比較すると気温が高い武豊の普通ハウスでの含 した。 量が多かった(図2-77)。着色(岐阜県基準)とリコ それぞれのハウスの気温を通風温度計で測定し ペン含量の相関を見てみると、着色が進む程、リコ た。 ペン含量が増える傾向にあった(図2-78)。品種では 高リコペン系統はいずれの時期、ハウスでも従来の 図2-75 それぞれのハウスの気温 208 図2-76 武豊普通ハウスでの定植時期とそれぞれの品種のリコペン含量 H桃:ハウス桃太郎 桃8:桃太郎エイト K30:Kc02-30 K115:Kc02115 農10:トマト中間母本農10号 のでは早期に播種した株の果実が高い傾向が見られ たことから、果房位置や株の状態がリコペン含量に 影響を及ぼすことが示唆された。なお、高リコペン 系統果実の内部が他の品種と比較して極端に赤いこ とから、内部の着色も重要と思われた。 オ 今後の課題 高リコペン系統の着色の指標を作成し、リコ ペン含量と相関をとる必要がある。果房毎のリコペ ン含量を測定し果房による違いを検証する必要があ る。 「Kc-02-115」は、果実の形が不 一であり、 図2-77 9月29日収穫果実のリコペン含量 着果数など検討する必要がある。「Kc02-30」は尻腐 れ果が多発する傾向にあり、肥培管理の検討が必要 である。 カ 要 約 リコペン含量はハウス内の気温との相関はあまり なかった。収穫果実のリコペン含量と着色程度には 相関が見られた。 担当研究者(古谷茂貴 、荒木陽一) 2 高ビタミンCイチゴにおける新作型開発のため の最適温度条件の解明 図2-78 着色(岐阜県基準)とリコペン含量 ア 研究目的 品種よりも高いリコペン含量を示した。 エ イチゴはその生産額から最重要な園芸作物のひと 察 つであるが、冷涼条件を好む種であるため、高温に 高温期にリコペン含量が低下すると予想された 対し比較的脆弱な性質を持っている。しかしイチゴ が、高温期でも着色のよい完熟果実を収穫すれば高 の需要は一年を通してあり、高温期における果実生 くなるものと思われた。また、同時期に収穫したも 産の技術が必要となっている。またビタミンCは人 209 体で生産できない必須要素で、野菜の高品質生産を 目標とするときの重要な要素の一つである。そこで 施設内周年生産を目標とし、その基礎的データとし てイチゴ果実が高温にどのような影響を受けるのか を検討する。果実内ビタミンCに注目し、温度スト レスに対してどのような反応を示すのかを調査す る。また水ストレスも与えてその水 状態などを調 査する。 イ 研究方法 図2-79 ハウスにおけるトンネル内高温ストレス処理 本実験では高ビタミンC系統が 用できないた 区(○、破線)および対照区(●、実線)気温 め、「さちのか」を代替品種として 用した。試験は の日的変化 インキュベータとハウスで行った。ハウス実験は 1) 各点は、午前6時から午後6時の間の平 を表す。 2005年3月2日より5月2日まで行った。試験には 1花のみに摘花した12cm ポット苗(1果統一区)と ともに収穫までの日数、果皮 2花のみに摘花した15cm ポット苗(2果統一区)を 見られなかった。果実重は水ストレスをかけると小 用した。培地はピートモスとモミガラくん炭= さくなったが、温度ストレスには影響を受けなかっ 1:1のものを 用した。受 はハチを利用し、 度には大きな違いは た。糖度は水ストレスを与えると若干高まったが、 配後処理を開始した。ハウス内にさらにトンネルを 温度ストレスの影響は受けなかった。果実の水ポテ 用意して、温度ストレス区とした。試験区はそれぞ ンシャルは、水ストレスを与えても大きく下がるこ れ4区(1.温度・水ストレス区、2.温度ストレス とはなかった。ビタミンC含量は水ストレスを与え 水十 区、3.対照水ストレス区、4.対照水十 区) ると多くなる傾向が見られた。温度ストレスに対し 設定した。水ストレス区はかん水量を毎日50∼100 ては、2果統一区の2果目で水ストレスを受けた果 ml に制限した。 実で多くなったが、他では大きな差は見られなかっ またインキュベータ(サンヨー製)内で、実験を た。チップバーンの発生率は温度ストレス区で多少 3月17日より開始した。苗は上記の12cm ポット苗 高くなった。 と同条件である。試験区はストレス区(昼/夜35℃/ インキュベータ実験ではすべての項目において大 20℃、14/10h)、対照区(25/20)とした。 きな差が見られなかった(表2-86) 。 ハウス内温度計測はおんどとり(TandD 社)を、 水 状態計測には等圧式サイクロメータを、ビタミ ンC含量 エ 察 本結果から、ビタミンC含量は想定される高温条 析には RQ フレックス(M ERCK 社)を 件ではあまり増減効果が認められないが、水ストレ 用した。 スを併用することによって、高含量ビタミンC果実 ウ 研究結果 を得られた。 ハウス実験におけるトンネル内の高温ストレス処 オ 今後の課題 理と対照区の温度の推移を図2-79に示す。 高温期の安定生産技術を確立する必要。 表2-84、2-85において、1果統一区、2果統一区 表2-84 ハウス実験1果統一区における、温度、水ストレスがイチゴ果実に与える影響 210 表2-85 ハウス実験2果統一区における、温度、水ストレスがイチゴ果実に与える影響 表2-86 インキュベータ実験1果統一区における、温度ストレスがイチゴ果実に与える影響 カ 要 約 太郎」、 「DRW 7247F1」 をロックウール養液栽培、夏 イチゴ果実品質への温度ストレスの影響を見るた 秋採りの作型で栽培し、月ごとのリコペン含量と蒸 めに、果実数を制限したポット苗をパイプハウスお 発散量、葉温および花 稔性を比較した。 よびインキュベータ内にて温度ストレス、水ストレ トマト「桃太郎8」を湛液水耕にて栽培し、 スを与えて栽培し、果実のビタミンC、糖度、果皮 開花後人工気象室 (光源:蛍光灯)内へ移動させ35℃ 度などを調査した。糖度、果皮 度には大きな違 の高温処理を行った(対照区:25℃)。植物体のスト いは見られず、ビタミンC含量も想定される高温条 レスとして、がく片のクロロフィル蛍光(Rfd 値)に 件ではあまり増減が認められなかった。しかしなが ついて調査した。トマト「桃太郎8」を人工気象室 ら水ストレスを併用することによって、高含量のビ (光源:自然光)内でロックウール養液栽培にて栽 タミンCをもった果実を得られることが かった。 培し、開花後、33℃/26℃(昼/夜温)の高温処理 担当研究者(池田敬 、山崎敬亮、浜本浩) を行った。葉切片およびがく片のクロロフィル蛍光 (Rfd 値および φPS Ⅱ)についてそれぞれ調査し、 3 トマト生体情報の連続モニタリングによる高リ 比較を行った。 コペン生成の安定化 ウ 研究結果 ア 研究目的 蒸発散量は尻腐れ果の発生が多く生育が悪い トマトの植物体からの蒸発散量と葉温を連続的に 「Kc02-30」では他の品種と比較して低く推移した 計測することで、ストレス状態を数値化するととも が、気温や天候の影響が大きく、収量やストレスと に、リコペン含量との関係を明らかにする。それを の関連性は低かった(図2-80) 。葉温の連続モニタリ 指標にリコペンが安定的に生成する条件および、各 ングはつる下ろし作業の妨げとなり、器具の設置や 種対策技術の組み合わせの中で植物体のストレスを 測定誤差の関係から長期間の測定そのものが困難で 軽減させる条件を明らかにする。 あった。花 イ 研究方法 稔性は開花約10日前の気温と負の相関 がみられ、高くなると減少した。花 稔性の値はそ 高リコペントマト「Kc02-30」、「Kc02-115」、 国内およびオランダの品種「桃太郎8」 、「ハウス桃 の後の各品種の収量の増減と関係が見られた(図281)。花 211 稔性が低い時期に着果した果実は、障害果 4日後であった(図2-83)。葉切片のクロロフィル蛍 光の値は、処理後1日目は処理前よりも増加した。 また、減少の程度は Rfd 値が最も大きく(処理前の 約30∼50%)、光合成Ⅱが吸収した光量子あたりの電 子伝達量を示す φPS Ⅱは小さい(同約70%)傾向が 見られた。 図2-80 蒸発散量の変化 図2-82 高温処理によるがく片のクロロフィル蛍光の Rfd値の変化 図2-81 花 稔性の変化 (特に尻腐れ果および小果)の発生率が高くなる傾 向が見られた。リコペン含量と花 稔性との相関関 係は低かった(表2-87)。リコペン含量は開花から収 穫までの日数との相関が弱い正の相関を示し、気温 との相関では弱い不の相関を示した。 高温処理を行ったトマトは、処理後1日以内 に植物体の活力の指標とされる Rfd 値が低下した が、25℃で管理した対照区では変化が見られなかっ た (図2-82)。クロロフィル蛍光の数値が減少し始め 図2-83 高温処理によるクロロフィル蛍光の継時的 る時期は、がく片では高温処理後1日、葉切片では 変化 表2-87 トマト品種におけるリコペン含量、収量等 212 エ 察 イ 研究方法 蒸発散量および葉温はストレスとの相関や測 2004年11月に「女峰」、「さちのか」および「とち 定の困難さから、トマト植物体の指標とするのは困 おとめ」 の苗を径24cm の大型ポットに植え、屋外で 難であると 稔性は高温期のストレ 育て、2005年2月9日に無加温施設内に持ち込み、 用できることが示された。高温下で これを親株として 用した。6月30日に短日処理ト の花 稔性や収量の低下と比較し、リコペン含量は ンネル内に移動し、各親株につき3∼5本の2葉齢 それほど低下しないため、安定的な生成には温度よ のランナー苗を鉢受けすると同時に短日処理を開始 りも他の要因を した(写真2-19)。苗を受けたランナーの先端は摘心 えられた。花 ス指標として 慮に入れる必要があるものと思わ れた。 したが、親株との連結は維持するとともに、それ以 トマトの高温ストレスの指標として、がく片 外のランナーは随時摘除した。また翌7月1日から および葉切片のクロロフィル蛍光(Rfd 値、φPS Ⅱ) 各品種を3群に が利用でき、がく片の Rfd 値の測定が測定精度およ 液150ml によって、窒素成 び変化量、測定の簡 さなどから有効であるように 0mg の3水準の窒素追肥を親株ポットに対して行 思われた。がく片が顕著に反応するのは生殖器官で った。これをそれぞれ高N区、標準区、低N区とし ある花の方が栄養器官の葉よりもストレスを受けや た。これらの処理は短日処理中に、約1週間おきに すいためと思われた。 継続して行った。なお短日処理は、ホワイトシルバ オ 今後の課題 として75mg、37.5mg、 ー100を展張したトンネルを用いて、明期9:00∼ 高温ストレスの指標として簡易な花 稔性測 17:00の8時間日長となるよう行った。処理開始40 定法の開発を行う必要がある。 ほ場の材料を け、NH NO または KNO の水溶 日後の8月10日に、短日処理を終了して親株と切り 用してがく片の Rfd 値がス 離した苗を直ちに遮光下のビニルハウスに定植し トレスの指標として適切かどうかを検討し、リコペ た。次いで8月12日に親株についても同ハウスに定 ン含量と関係があるか明らかにする必要がある。 植した( 「女峰」、 「さちのか」のみ)。なお定植時の カ 要 約 株間は、苗では23cm、親株では46cm とした。11月 夏季のハウス内で栽培したトマトのリコペン 含量は、花 9日から二重被覆を行い最低気温5℃を維持しなが 稔性の低下程度と比較して、高温での ら、出蕾・開花、収穫調査を12月22日まで行った。 低下は少なかった。 ウ 研究結果 トマトの高温ストレスの指標として、がく片 出蕾・収穫開始日 親株のNレベルがランナ のクロロフィル蛍光(Rfd 値、φPS Ⅱ)が利用でき ー苗の出蕾日に及ぼす影響については、高N区で2 ることを示した。 日程度早くなる傾向がみられた(表2-88)。収穫の開 担当研究者(鈴木克己 、河崎靖) 始については、「女峰」の高N区で早くなったほか大 きな差はなかった。 4 夏秋どりイチゴの苗生産における花芽 化特性 の解明 ア 研究目的 寒冷地でのイチゴ夏秋どり栽培において、効率的 な苗供給システムを開発することを目的として、短 日下で発生するランナーの花芽 とともに、苗齢が花芽 化特性を解明する 化や定植後の生育・収量・ 品質に及ぼす影響について解明しようとする。ここ では、短日処理による夏秋どりにおいて、親株とラ ンナーで接続した苗の花芽 化や生産性に及ぼす親 株の窒素レベルの影響について検討した。 写真2-19 親株と連結したランナ−苗との同時短日 処理 213 収量 まずランナー苗についてみると、いず 採苗+育苗+短日処理の一連の工程を一か所で行う れの品種においても一定の傾向は認められなかった ことのできる省スペース・省力的な苗生産システム (表2-89)。しかし、「女峰」の高N区において収量 の開発につながる成果が得られたと えられる。 が低い傾向にあったが、これは収穫果数では他区と オ 今後の課題 差はないものの1果重が小さいことによると思われ 今後、 地床植えの親株を用いた同様の試験を進め、 た。 実用化に向けての検討を継続する必要がある。 次に親株についてみると、「女峰」、 「さちのか」と カ 要 約 もに400g 前後の収量が年内に得られ、短日処理によ 短日処理によるイチゴの夏秋どり作型において、 る秋どりとしては高い収量レベルとなった。両品種 早期から採苗ができない寒冷地の欠点を克服して育 ともに、高N区での収量が低い傾向があるほか、N 苗の効率化を図るために、親株とランナーで接続し レベルが低くなるにつれて1果重が小さくなること たままのランナー苗を採苗と同時に親株と同時短日 が認められた。これは5g 以下の小果の収量が多く 処理を行う省スペース・省力的な苗生産システムを なっていることから、低Nによって果数が増加した 開発しようとし、親株の窒素レベルの影響について ことによるものと 検討したところ、親株の窒素レベルは、開花や収穫 エ えられた。 察 の早晩や収量には大きな影響を及ぼさないこと、ま これまでに、親株とランナーで連結した小苗と親 た親株自身の生産性も非常に高いことが明らかにな 株自身を同時に短日処理した場合、慣行の育苗を行 った。 った苗に短日処理を行った場合に比較して出蕾・開 キ 文 献 花および収穫開始が早くなるほか収量性にも 色の 1) 山田 修、矢野孝喜、山崎 篤(2003)短日処 ないことを確認している(山田ら ;山崎ら ) 。今回 理前の育苗期間がイチゴの花芽 化に及ぼす影 の試験によって、さらに親株そのものの収量性が非 響.園芸学会平15東北支部大会要旨集:41-42 常に高いことも確認できたことから、親株床からの 2)山崎 篤、矢野孝喜、柳山浩之、山崎博子、長 表2-88 短日処理秋どり作型における親株への窒素レベルがランナーで 連結した苗の出蕾・収穫開始に及ぼす影響 表2-89 短日処理秋どり作型における親株への窒素追肥レベルがランナーで接続した苗および親株自身の 収量性に及ぼす影響 214 菅香織(2005)短日処理によるイチゴの花成に及 ぼす育苗期間および親株との同時処理の効果.園 学雑.74(別1):303 担当研究者(山崎 篤 、矢野孝喜) 5 夏季栽培におけるトマトの裂果抑制条件の解明 ア 研究目的 夏季栽培においてトマトの生産では、生化学的な リコピン含量の低下に加えて、物理的な裂果発生が 品質低下の大きな問題である。この課題では、裂果 の発生要因の 図2-84 試験区の構成 り込みを行い、主因を明確にする。 表2-90 試験区の構成 イ 研究方法 実施場所 岐阜県中山間農業技術研究所内 雨よけハウス 供試 品 種 「Kc02-115」 穂木:「桃太郎 8」 「Kc02-30」 台木:「がんばる根」 耕種概要 播種:3月25日 接ぎ木:4月25日 定植:5 月30日(24 セル成型苗若苗定植) 栽植距離:6m ハウス、条間80cm、5条植、株 間40cm、2,070株/10a 直立仕立て ても「桃太郎8」 「Kc02-115」 「Kc02-30」 「Kc02-30」 養液土耕法 基肥:なし 追肥: の順に重かった。尻腐れ果数については、慣行・ 大塚A処方または SA 処方 マルチ:白黒ダブル 「Kc02-30」 区で有意に多かった。放射状裂果および 受 :マルハナバチ(振 くず放射状裂果数については、いずれの品種におい 動受 ) ても玉出し処理の方が多かった。また、品種間差に 着果制限:「桃太郎8」3∼5果 ついては、「Kc02-30」で他の2品種より少ない傾向 「Kc02-30」4∼7果 が認められた(表2-92)。 「Kc02-115」3∼6果 放射状裂果およびくず放射状裂果の時期別発 試験区の構成 生状況についてみると、いずれの品種も玉出し処理 図2-84および表2-90参照。 区でほぼ全期間を通じて高い水準で推移した。また、 ウ 研究結果 いずれの処理も8月中旬∼9月上旬と10月中旬∼11 果房間長は、「桃太郎8」と比較して「Kc02- 月上旬に高い水準で推移した(図2-85、図2-86) 。 115」で明らかに短く、「Kc02-30」でほぼ同等であっ リ コ ペ ン 含 量 を み て み る と、 「Kc02-30」 た(表2-91)。 「Kc02-115」では、いずれの処理やいずれの時期に 収量および可販収量は、いずれの処理にお おいても、「桃太郎8」と比較して高まる傾向が認め いても「桃太郎8」「Kc02-115」で「Kc02-30」より られた。また、いずれの品種も8月1日および8月 有意に高かった。平 31日と比較して9月28日および10月20日で高まる傾 果重は、いずれの処理におい 表2-91 果房間長の推移(cm) (平成17年) 215 表2-92 受光条件および品種を異にして栽培したトマトにおける収量、平 果重、 収穫果数、尻腐果数、 放射状裂果数およびくず放射状裂果数(平成17年) 表2-93 受光条件および品種を異にしたトマトにおけ る収穫時期別リコペン含量の推移 図2-85 受光条件および品種を異にして栽培したトマ トにおける旬別放射状裂果発生率の推移 も玉出し処理によって有意に増加したことから、果 実に日射を当てない栽培法の有効性が示唆された。 オ 今後の課題 果実温の上昇がリコペン含量に及ぼす影響 定植位置が放射状裂果に及ぼす影響 カ 要 約 「Kc02-115」については、放射状裂果は発生 しやすいものの、リコペン含量は高く、可販収量も 高い。 図2-86 受光条件を異にして栽培したトマトにおける 果実に日射を当てることで、放射状裂果の発 旬別くず放射状裂果発生率の推移 生は助長される。 向が認められた。ただし、処理区による影響は判然 担当研究者(鈴木隆志 、野村康弘) としなかった(表2-93)。 エ 察 6 「Kc02-30」については、放射状裂果は発生し 高リコペントマトに適した台木用品種の選抜と 養液温度管理法の検討 にくく、リコペン含量は高いものの可販収量は低く ア 研究目的 かった。 「Kc02-115」については、放射状裂果は発生 高温期の作型では青枯病対策が不可欠であり、高 しやすいものの、リコペン含量は高く、可販収量は リコペントマトに適した高生産性台木用品種を選定 「桃太郎8」とほぼ同等であることから、今回検討 する。さらに、養液栽培(自根栽培)では液温の制 した2品種の中では有望であると判断された。 御が可能であり、青枯病の発生を抑制できる温度を 放射状裂果の発生は、いずれの品種において 明らかにする。 216 イ 研究方法 高リコペン含有トマト「c02-30」、 「Kc02-115」 の2品種を穂木とし、主要な台木用トマト品種に接 いで生育を観察し、青枯病菌を灌注接種して、抵抗 性の有無を検討した。 湛液式の養液栽培で養液温度を下げて青枯病 を抑制できるか検討を行った。ガラス室(コイトト ロン、小糸工業株式会社製)内で気温を昼夜32℃に 設定した。トマト品種「ポンデローザ」2週間苗を 16株定植し、3日後10 ∼10 cells の青枯病菌を灌注 接種した。養液の冷却には冷却水循環装置(東京硝 子器械(株)製、FC-01)に10m のシリコンチュー 図2-87 養液の温度の推移 ブ(内径3mm、外径5mm)を接続し、間接冷却し た。 ができるものと ウ 研究結果 えられる。 ただし、トマト植物の吸水が激しくなるなどで根 「Kc02-30」 を接ぐ台木として、 「がんばる根」、 の一部が水面上に露出すると、養液温度に関わらず 「Bバリア」、「根美」、「影武者」、「ボランチ」の5 発病株が急速に増えた。冷却水の循環を止め養液の 品種を、「Kc02-115」を接ぐ台木として、「カップル 温度が上昇すると、発病株はさらに増加した。この 、 「デュエット0」 、 「アキレスM」 、 「ヘルパーM」、 T」 ことから、青枯病を防ぐには根圏全体が持続的に 「LS-89」の5品種をそれぞれ用いた。 24℃以下にならなければならないと えられた。ま 「Kc02-30」、 「Kc02-115」のいずれも接ぎ木後の活 た、青枯病菌は24℃以下の水温では活動が抑えられ 着に時間がかかる傾向があり、5日目に日陰に出し るものの生残しており、25℃以上の高温条件に達す ても、わずかな時間で強く萎 ることでトマトに感染し、発症させることができる した。5日程度は湿 度を100%に保ち、 その後数日かけてゆっくりと湿度 を下げていくことで萎 ものと えられた。 を防ぐことができた。青枯 なお、養液温度によるトマト植物体の生長の差は 病菌03-01487株を10 cells 接種したところ、 「がんば 特に認められなかった。 る根」に接いだ「Kc02-30」 、「アキレスM」に接いだ エ 「Kc02-115」で青枯病を発病する株が一部観察され 察 高リコペントマト2品種はいずれの台木用品 たが、その他では青枯病を発病するものは見られな 種においても活着に時間を要する。 かった。 青枯病菌は感染時、鞭毛による運動性とペク 循環冷却水の温度を10℃、15℃、18℃、22℃ に設定したところ、養液の温度はそれぞれ、およそ 17.5±1℃、21.5±1℃、22.7±1℃、25.5±1℃ で推移し、無処理区は30∼33℃の幅で推移した(図 2-87) 。養液温度が30∼33℃の無処理区では、青枯病 菌接種後1∼2週間で半数以上が枯死したが、養液 温度を24℃以下に持続的に冷却した場合には青枯病 の 発 病 株 は 全 く 見 ら れ な か っ た。し か し、25℃ (25.5±1℃)を超える養液温度だと、無処理区と 比べて発病の遅れはあるものの、青枯病を発病する 図2-88 青枯病発病株数の推移 株が見られた(図2-88)。以上のことから、養液冷却 1) 冷却水の温度を22℃、18℃に設定、養液の温度が により根圏全体を25℃を超えることがなく24℃以下 それぞれ約25℃、23℃前後で推移したときの青枯病 に保つことができれば、青枯病の発病を抑えること の発病株数 217 チン 解酵素の生産能力を示すことで知られる。 地耕では温度条件が異なると思われる。 24℃以下の養液温度で発病しなかったのは、運動性 の低下とペクチン カ 要 約 解酵素の活性低下が原因として 高 リ コ ペ ン 含 有 ト マ ト 品 種「Kc02-30」、 えられる。養液温度が低いとき、すでに感染が成 「Kc02-115」の2品種はいずれも台木への活着に時 立しているのかどうかは不明である。ただし、養液 間がかかる傾向があり、接ぎ木後の乾燥への馴化は 温度が17℃であっても青枯病菌は生残し、根の水面 5日後以降に慎重に行う必要がある。 上への露出や冷却水の停止などによる温度上昇を契 トマトの根域全体を24℃以下の養液に完全に 機に活性化、青枯病を発症させるに至ると えられ 水没させることができれば、青枯病の発病は抑えら る。 れる。根の一部が水面上に露出したり、養液の温度 オ 今後の課題 が25℃を超えるようになると、青枯病菌は活性化し 活着に時間がかかる原因を特定できていな 青枯病を発症する。 い。 担当研究者(篠原信 ) 今回の試験は湛液式であり、ロックウール培 218 第8章 高温期の高品質生産のための生理・生態特性に基づいた環境制御技術の 開発 1 外気導入式強制換気法による高温抑制システム マト果実の糖度および機能性成 の開発 の 析 表2-95参照。 ア 研究目的 a 供試ハウス:間口6m、奥行20m、棟高3.2 夏季高温期におけるトマトの糖度および機能性成 m、南北単棟パイプハウス2棟 の含量低下を軽減するため、外気導入ファンと換 b 強制換気方法 気扇を組み合わせ、換気効率を高めた強制換気法を ⒜ 外気導入(北側)、換気扇(南側)は試験 開発し、ハウス内の昇温抑制効果およびトマトの収 1と同じ 量、品質、リコペン含量等への影響を明らかにする。 ⒝ 強 制 換 気 期 間、時 間:2005年 7 月19日 イ 研究方法 試験1 ∼9月30日、毎日9:00∼16:00 施設内の高温抑制のための外気導入 c 耕種概要:播種日、定植日は2005年4月6 式強制換気法の開発 日播種、5月25日定植(9cm ポリポット) a 検討1:換気法が異なる場合の高温抑制効 d 試験規模:1区10株、3反復 果の検討(調査2005年8月4∼11日) ウ 研究結果 換気法:①外気導入ファン+換気扇、②換気 8月の晴天日におけるハウス内の気温は、外 扇のみ、③換気扇無し(対照ハウス) 気導入ファン+換気扇ハウスにおいて強制換気を稼 b 検討2:ハウス形態が異なる場合の高温抑 働させた10∼15時に顕著な昇温抑制がみられた(図 制効果(調査2005年8月12∼29日) 2-89)。 表2-94参照。 外気導入ファン+換気扇を稼働させたハウス c 供試ハウス:間口6m、奥行18m、棟高3.1 の側面から1m 地点(図2の①∼③、⑦∼⑨)の風 m、南北単棟パイプハウス2棟 向、風速は、 ハウスの外から内に向けて常時0.2∼0.4 d 強制換気方法 ⒜ m/s の風が発生した(図2-90)。外気導入ファン+換 外 気 導 入(北 側):フ ル タ エ ア ビ ー ム 気扇ハウスでの位置別の気温は、対照ハウスに比べ (AB451)1台 設置高250cm ⒝ て側面地点では4.0∼4.5℃低く、中央部(図3の④ 換 気 扇(南 側):フ ル タ 換 気 扇(M GT 10406:羽根直径100cm)1台 ∼⑥)の高さ80cm では5.6∼8.1℃低かった(データ 設置高200 略)。 トマトの cm 試験2 外気導入式強制換気法利用によるト 収量は両品種ともに強制換気ハウ スでやや増加する傾向であったが、上中物収量は 表2-94 試験1(検討2)の構成 表2-95 試験2の構成 219 に比べて高くなった(図2-92)。 エ 察 外気導入ファンと換気扇を組み合わせること により、外気導入とハウス内空気の排出が連動する ことで、ハウス内空気の流動量が増大したために両 サイドの側面から外気が積極的に導入され、顕著な 昇温抑制効果が得られたと えられる。 強制換気ハウス の「kc02-115」は、強制換 気による昇温抑制により、自然換気ハウスに比べて 図2-89 導入ファン+換気扇、換気扇ハウスの気温 収穫果数が増えて 収量は増加したと 1)調査日は2005年8月4日、高さ80cm。 えられる。 トマトの糖度は、強制換気によりトマトの光 合成速度が両品種ともに高くなる傾向がみられた (データ略)ことから、同化産物の増加により糖度 が高まったと えられる。また、リコペン含量は、 高温により生成が阻害されることから、強制換気に よる昇温抑制により含量が増加したと えられる。 オ 今後の課題 強制換気によるトマトの高温および水 図2-90 外気導入ファン+換気扇稼働時のハウス内 スト レスが果実の肥大、不良果の発生に及ぼす影響につ 風向、風速 いて検討を要する。 1) 調査は、8月8日の9時∼12時40 。 カ 要 約 2) 調査高さは、①∼③、⑦∼⑨が80cm、④∼⑥が200 外気導入ファンと換気扇を組み合わせた強制 cm。 3) 調査時のハウス外は、南南東、風速0.2∼1.4m/sの 換気法により、ハウス内の昇温は顕著に抑制され、 夏秋どりトマトの糖度およびリコペン含量は増加す 風。 kc02-115ではほぼ同等、ハウス桃太郎ではやや減少 した。不良果の発生は kc02-115では強制換気ハウス で尻腐れ果が多く、 「ハウス桃太郎」では裂果が多 かった(表2-96)。 トマトの 糖 度は、品種 では「kc02-115」が 「ハウス桃太郎」に比べてやや低く、強制換気ハウ スでは両品種とも慣行ハウスに比べてやや高くなる 傾向がみられた(図2-91)。また、リコペン含量は、 図2-91 強制換気ハウスとトマトの糖度(2005年) 品種では「kc02-115」が「ハウス桃太郎」に比べ 1) 強制換気稼働期間:2005年7月19日∼9月30日 て高く、強制換気ハウスでは両品種とも慣行ハウス (9:00∼16:00) 表2-96 強制換気によるトマトの収量と不良果発生率(2005年) 220 図2-92 強制換気ハウスとリコペン含量(2005年) 1)2005年8月12日、17日収穫果実を供試 2)リコペン含量は 光光度法(永田ら1992)により測定 3)垂直線はSE(標準誤差)を示す(n=5∼6) る。また、強制換気法によりトマト果実の上中物率 め、10地点に日射計(ブリード社,PCM -01)および はやや低下するが、 通風乾湿計を設置し、データロガー(NEC 三栄、 収量は増加する。 担当研究者(森山友幸 、井手 治、龍 勝利、奥 幸 DC5200)で測定し、水滴がつきにくいように、乾湿 一郎) 計のファンの風が受光面に当たるようにした。また、 細霧の蒸発は換気の影響を受けることから、換気率 2 細霧冷房方式による降温効果および日射低減効 を熱収支法で算出するために、ハウス内の反射日射 果の特性解明 量は日射計を下向きにして2カ所で測定し、地中熱 ア 研究目的 流量は熱流板を用いて地表のマルチシート下の2箇 細霧冷房は高温期の施設内の高温抑制法として利 所に埋設して測定した。 用が広まっているが、細霧が日射環境に及ぼす影響 細霧噴霧による物体の濡れ は明らかになっておらず、細霧噴霧と遮光の複合利 高さ2.5m の位置に濾紙(直径9cm)を円錐型の 用の手法についてはまだ不明な点が多い。そこで本 山笠状に吊り下げて、電子天 研究では、いろいろな噴霧様式(頭上ノズル式、循 重量を測定し、その差から噴霧期間中の濡れ程度を 環扇+噴霧ノズル式)、噴霧条件(噴霧時間・噴霧量、 測定した。 細霧の粒径)による日射量の減衰特性の違いを明ら により噴霧の前後の ウ 研究結果 かにし、遮光と細霧冷房の複合利用についての基本 細霧システムの違いによる温度変化と日射遮 的な運用手法を検討する。 の違い イ 研究方法 循環扇拡散式細霧装置②では、粒径は30∼40μm 測定ハウスおよび検討した細霧方式 程度とされているが、噴霧実験をした多くの場合、 高軒高フェンロー型ハウス(単棟、間口9m×奥行 目視では細霧の霧はノズルから約1.5m 以上離れる 24m×軒高4.0m)にタイプの異なる細霧システムを とほとんど見えない状態であった。細霧ノズルシス 設置し、噴霧実験を行った。供試したシステムは、 テム①は一般的な噴霧圧のもので、粒径は40μm 付 ①細霧ノズルシステム(丸山製作所、ノズル径、0.3 近にピークがあり、噴霧時にはノズルから数十 cm mm・0.4mm、噴霧圧1.5∼2MPa)、②循環扇拡散式 程度までは目視で細霧が確認できるが、換気窓を開 細霧装置( けている状態では、ハウス全体が白く濁るほどには 下ナベック、NK-35MNA、噴霧圧3.5 、③高圧細霧システム(QP 超細霧システム、 MPa) ならなかった。③高圧細霧システムでは粒径が5 マツサカエンジニアリング、噴霧圧約7MPa)の3タ μm 程度で細霧の落下時間が長くノズル周辺に滞留 イプとした。 しやすいので、空気が白濁した。噴霧時の温度低下 温度変化および日射変動の測定 の程度は、高圧細霧冷房③がもっとも大きく、細霧 細霧噴霧によるハウス内の日射変動を測定するた の噴霧による日射量の変化も高圧細霧冷房③で最も 221 大きかった。 細霧噴霧による物体の濡れ 細霧噴霧時の日射量変動の特徴 細霧噴霧時の濾紙の濡れ量調べたところ、一般的 細霧の噴霧の ON/OFF に対応して、室内日射量 な細霧システム①では日射の変動は高圧細霧装置③ は変動する現象が見られ、とくに高圧細霧装置③で よりも小さかったが、濾紙の濡れは全体的に多くな 大きく現れた(図2-93)。日射量は晴天でも時間的変 った(図2-94)。高圧細霧システムでは、長時間の噴 動が大きく、ハウス内ではさらに構造材などの影響 霧による濡れが少なく、細霧の落下速度が低下が少 も受けるので、各測定点の細霧による日射変動を調 ないことから、日射を遮る目的の場合に噴霧時間を べるために、単純な時間平 長く設定できる。 値で判断するのは困難 であった。細霧噴霧中の日射量の低下は、細霧が滞 エ 察 留して目視で白濁している状態で30%程度であっ 細霧噴霧時には日射計受感部への細霧ができ た。測定位置によって、日射量の変動の仕方に時間 るだけ付着しないように乾湿計のファンの風を当て 差(位相の違い)がみられた。 たが、少量の付着があった。また、屋外日射の変動 と温室部材の影の影響で、各地点における細霧によ る日射の減衰程度を定量的に評価するのはかなり困 難であった。遮光カーテンを展張すると、細霧の変 動が抽出しやすくなった。細霧による日射の変動を 正確に評価するための手法を確立する必要がある。 細霧粒径の小さい高圧細霧システム③では、 日射の遮 効果が大きく、物体の濡れが少ないため 噴霧時間を長く設定できることから、細霧の滞留に より日射量を積極的に制御するためには、粒径の小 さい細霧装置の利用が有効であると えられる。ま た、日射の遮 により、作業者の暑熱環境の改善効 果もあるものと判断された。 オ 今後の課題 日射計受感部への細霧の付着と、屋外日射量 の変動や温室部材の影の影響などを除いた、正確な 図2-93 細霧噴霧による気温の変化と日射量の変化 評価法を確立する必要がある。 (高圧細霧システム) 換気率と日射の遮 1) TAは気温、TW は湿球温度、Iは日射量、数字は 程度の関係ついてのデー タをさらに蓄積し、細霧の粒径の違いによる日射の 測定場所を示す。 図2-94 噴霧システムの違いが濾紙の濡れ量に及ぼす影響(2005/10/12) 1)番号はハウス内の測定場所 222 遮 特性を明らかにするとともに、積極的な日射調 った。温室の寸法は、間口54.4m、奥行32m、軒高4.0 節あいは遮光との複合利用の運転指針を検討する必 。天 m、棟高4.7m、屋根勾配24°である(写真2-20) 要がある。 窓と側窓の開口条件が温室内の気流・温度特性に及 カ 要 ぼす影響を検討するため、換気窓の開口パターンを 約 細霧の粒径によって温度低下や遮 の効果は 2通り設けた(表2-97)。本計算の境界条件 直 には、 異なり、細霧粒径が小さい装置では、植物体の濡れ 自然風を模擬した風速の 布(高さ10m の基準 が少ない状態で日射量の減衰が大きくなった。細霧 風速は3.5m s )を与え、乱流モデルには標準k-ε を日射調節に利用するには、粒径の小さいシステム モデルを用いた。また、山本・林 が夏期に観測した 方が扱いやすいことがわかった。日射の遮 により、 屋外日射量や外気温などの環境要素を境界条件 作業者の暑熱環境が改善される可能性が えられ として与えた(表2-98)。CFD 解析には、汎用熱流体 る。 解析プログラム FLUENT6.2(Fluent Inc.)を用 担当研究者(高市益行 、川嶋浩樹、中野有加、佐々 い、計算には農林水産研究計算センターの科学技術 木英和) 計算システム(SGI、Altix3700Bx2)を 用した。 ウ 研究結果 3 CFD 手法による大型施設内の気流・環境特性の 天窓のみを開口した Case 1の気流は、屋外 解明 気流が風上側の温室軒付近で剥離し、温室中央部付 ア 研究目的 近で再付着した後、この周辺の天窓から流入した。 CFD に関わる研究は歴 が浅く、NASA が計 算機風洞として開発してきた技術である。その後、 CFD は計算機性能の向上とともに、航空、宇宙、自 動車、機械、土木、 築などの広汎な 野で研究が 進み、流れ場の実現象の解明、実設計や性能改善な どに活用されている。しかし、農業 野では CFD を 用いて研究を進めている事例はまだ少ない。 これは、 前述の研究 野が農業 野よりも格段に進歩してい るわけではない。農業 野の流れ場は自然風が対象 であり、工業的な一様流ではない。また、日射や地 写真2-20 供試温室の外観 表面の粗度、蒸発散などが複雑に関連する。したが 表2-97 供試温室の換気窓の開口パターン って、農業 野において、CFD を新たな研究基盤と して確立するためには、関連する様々な物理現象を 組み込んだ連成解析手法を確立する必要がある。 本研究では CFD の理論に基づき、大型施設内の 気流・温度 布を、風向や換気窓の関係から検討す る。また、実測値 と計算値を比較することにより、 表2-98 主な境界条件 CFD の有効性を検証する。 イ 研究方法 夏期におけるフェンロー温室の気流・温度特 性に関する CFD 解析 17連棟のフェンロー温室を対象に CFD 解析を行 :Computational Fluid Dynamics(数値流体力学)とは、 Navier-Stokes 方程式と言われる運動方程式やエネル ギ保存式、質量保存式などを連成させて解くものであ る。 :Navier-Stokes 方程式を解くには、計算領域内の固体面 (壁境界条件)や流体の流入出面(流入出条件)、それら の物性値などを境界条件として設定する必要がある。 223 図2-95 CFD解析による温室内の気流 布(Case1) 図2-98 CFD解析による温室内の気流 布(Case2) 図2-96 CFD解析による温室内の気温 布(Case1) 図2-99 CFD解析による温室内の気温 布(Case2) 図2-97 温室内の気温 布の比較(Case1) 図2-100 温室内の気温 また、天窓から流入した気流は温室中央部で2方向 に エ 布の比較(Case2) 察 かれ、屋外風向と逆方向の循環流と風向と同方 小規模温室では、屋外気流が風上側の温室軒 向の循環流が形成された(図2-95)。一方、Case 1の 付近で剥離した後、温室後方の地表面で気流が再付 気温は、風上側が風下側よりも約2℃高く、その 着する。しかし、大規模温室では気流の再付着点が 布は 一で な かっ た(図2-96)。CFD で予 測した 風下側の屋根面にあり、この周辺の天窓開口部で流 Case 1の内外気温差と実測値1)を比較すると、その 入出する気流に影響を与える。つまり、温室全体の 誤差は最大1.7℃あった(図2-97)。Case 1の条件に 天窓間の換気量に差が生じ、室内の気流・温度 風上側の側窓の開口を加えた Case 2の気流は、屋 が不 一になったと予測される。また、側窓の開口 外気流が風上側の側窓から流入し、風下側の天窓か は温室の内外気温差を小さくできるが、その効果は ら流出した。また、風上側の側窓付近の気流速度は 側窓から27m 付近までである。したがって、温室規 速く、風下側に向かって気流速度が低下した(図2- 模がさらに拡大すると、側窓による昇温抑制の効果 98)。一方、Case 2の気温は、風上側の側窓付近が最 は小さくなり、室内の気流・気温 布はより不 も低く、風下側に向かって約3℃高くなった(図2- になると予測される。一方、実測値 と CFD で予測 99)。CFD で予測した Case 2の内外気温差と実測 した計算値を比較すると、Case 1、Case 2は各測定 値1)を比較すると、側窓付近は精度良く再現したが、 点の内外気温差を1.7℃以下の精度で再現した。 しか 温室中央部は低く評価し、その誤差は最大1.5℃あっ し、Case 1は過大評価、Case 2は過小評価する傾向 た(図2-100)。 があり、CFD 解析に用いる乱流モデル、計算モデル、 布 一 境界条件などの検討を進め、予測精度をさらに高め 224 る必要がある。 性に基づいて、天窓換気条件下の適切な CO 施用を オ 今後の課題 行うための新しい制御手法を開発する。 1ha 以上の大規模温室で室内外環境を実測す イ 研究方法 るとともに、温室に関連する様々な物理現象 (植栽、 大規模温室内に CO 濃度測定装置を設置し、温室 蒸発散、ガス輸送など)を組み込んだ連成解析手法 内外の CO を測定し、温室内の環境条件および作物 の確立を目指す。 の状態と濃度変化の関係を解析するとともに、施用 カ 要 約 速度を決定するための最適な制御ロジックの構築を フェンロー温室で観測した実測値と CFD で 行い、施用試験を行った。試験には有限会社カンジ 予測した計算値を比較した結果、CFD は自然換気温 ンファーム(栃木県大田原市湯津上)に設置されて 室の実現象を精度良く再現できることが確認され いる、自然換気型両屋根式多連棟ガラス温室を た。 し、床面積1ha の温室内を南北に区切り、CO 無施 キ 文 献 用 用区と CO 施用区を設けた。 1) 山本泰隆、林 真紀夫(2005)フェンロー型温室 二酸化炭素濃度測定・施用装置 における側窓の開閉が換気率に及ぼす影響.農業 温室内と温室外の CO 濃度を測定する際、複数台 環境工学関連7学会2005年度合同大会講演要旨 の赤外線ガス 析装置を用いると、それぞれの装置 集:325 の測定誤差が求めたい濃度差の誤差を増幅させてし 担当研究者(石井雅久 、奥島里美、森山英樹、佐瀬 まう恐れがある。そこで一台の 析装置を用いて温 勘紀(農業工学研究所)、山本泰隆、林 真紀夫(東 室内外の CO 濃度を 海大学開発工学部)) 濃度差を求めることができる計測制御装置を製作し 互に測定し、温室内外の CO た。 4 高温期のトマト高品質生産のための自然換気下 施用速度の決定・施用方法 における CO 施用技術の開発 測定により得られた CO 濃度差をもとに施用速 ア 研究目的 度を決定するロジックを開発した。その際、温室内 従来わが国における温室への CO 施用は、換気窓 の CO 濃度が温室外のそれを超えず、かつなるべく が閉じている冬季の朝方等にのみ温室内 CO 濃度 近い値に維持できる最適な制御ロジックを検討し を700∼1,000μmol mol- となるように実施される た。施用には液化 CO ガスを用い、温室外の空気と ことが多い。これは CO 施用の時間帯が限定される 混合後に 岐した多孔チューブを通じて、温室内の ことになり、わが国において、温室への CO 施用の 畝毎(1m 間隔)に施用した。 普及が限られている主な理由と えられる。晴天時 光合成速度の推定 の天窓換気条件下では、温室の中の CO 濃度は、果 温室内の CO 濃度を外気と同等に維持すること 菜類のような作物が繁茂している状態では、換気窓 により、見かけ上、換気窓を通じた CO の移動がほ が全開の場合においても、作物の光合成活動により ぼ0となるので、施用した CO はほぼ全て温室内の 温室外に比べて低下していることが多い。 そのため、 作物に吸収されることになる。そして、地面が被覆 温室内の CO 濃度を大気(外気)の平 されており土壌呼吸などの影響が無い温室において 濃度である 380μmol mol 程 度 ま で 高 め る よ う に(ま た380 は、CO の施用速度が温室内作物の光合成速度と等 μmol mol 程度以上にならないように)温室内に しくなることから、施用区の作物群落の光合成速度 CO を施用すれば、晴天時で CO 濃度が光合成の制 の推定を行った。 限要因になっている場合には、作物の純光合成速度 ウ 研究結果 を数10%増大させることが期待できる。 結果の一例として2005年10月13日の測定例を示 本課題では、高温期に大型施設で天窓から換気し す。この日は午前中は晴天で、午後から曇天となっ ている状態で、果菜類の品質向上のための効率的な た。図2-101に晴天時と曇天時における、温室外の CO 施用技術の検討を行うことを目的とする。施設 、施用区の CO 濃度(CE)、無施用区 CO 濃度(CO) 内 CO 濃度の の CO 濃度(CN)、および施用速度から推定された 布特性および作物群落の光合成特 225 図2-101 CO に施用時における、換気窓開放時の温室内外CO 濃度、推定された純光合成速度の経時変化。 1) 左図は晴天時(2005年10月13日11:30―12:30;平 2) 右図は曇天時(同日14:00―16:00;平 純光合成速度(Pn)を示す。 純光合成速度の推定 制御について CO 施用速度と葉面積から推定される Pn の平 晴 天 時 に お け る CO の 平 mol 、CE の平 日射量700Wm ) 日射量267Wm ) 値 は392μmol 値は、晴天時で8.5μmol m 値は388μmol mol 、残差の平 s 、曇天時で4.3μmol s であった。 m 値 は5.9μmol mol だ っ た。残 差 の 最 大 値 は15 エ μmol mol で あ り、こ の 時、温 室 外 は394μmol 換気窓開放時における大型温室内の CO 濃度を mol だったことから、晴天時において施用区の濃 温室外の濃度と同程度に制御することができ、CO 度を温室外の濃度と比べて3.9%以内に制御するこ の温室外への流出を最小限に抑制しつつ光合成の促 とができた。また、曇天時における CO の平 値は 進をはかることができた。純光合成速度の連続推定 値は391μmol mol 、残 が可能となり、これを用いた潅水制御などの新しい 392μmol mol 、CE の平 差の平 値は4.3μmol mol だった。残差の最大値 察 栽培管理方法の確立の可能性が示された。 は15μmol mol で あ り、こ の 時 CO は393μmol オ 今後の課題 mol だったことから、曇天時において施用区の濃 個葉もしくは株ごとに光合成測定を行い、CO 施 度を温室外の濃度と比べて3.8%以内に制御するこ 用速度から推定される光合成速度と比較し、 さらに、 とができた。 本施用法の収量に及ぼす効果についても調査する必 温室作物の純光合成速度増加 要がある。 CO 濃度が50-500μmol mol の範囲において、日 カ 要 約 射量・気温等が等しい場合、植物の純光合成速度は 大型トマト温室において、換気窓開放時において CO 濃度の増大に対し、正比例的に増大することが も温室内の CO 濃度を温室外のそれに追従させる 知られている。当日の CN の平 値は、晴天時にお ように CO 施用を行う装置を製作し、施用試験を行 いて369μmol mol であった。CO 補償点を75μmol った。その結果、開発したロジックで温室内 CO 濃 mol とすると、理論上施用区の Pn は無施用区と比 度をほぼ温室外と同程度に制御することができた。 較して1.06倍(=(388-75) /(369-75) )に促進され 担当研究者(後藤英司 、石神靖弘) ていたと えられる。また、9月23日の測定におい ては、CO が421μmol mol の時に CN は341μmol 5 気化冷却を用いた局所温度制御による安定着果 mol となり、80μmol mol 以上の濃度低下が観察 技術の開発 された。このときに CN を CO と同程度までに高め ア 研究目的 たとすると、Pn を1.30倍(=(421-75)/(341-75)) イチゴ栽培農家の経営安定化のためには、収量性 に促進できたと えられる。 の向上と生産の安定化を図る必要がある。イチゴ栽 226 培では、特に高温期に生育不良や花芽の 化・発育 区では対照区より平 約5℃低下した(データ省 が不安定となるため、生産の安定化を図る上で大き 略)。培地培地底部温度の日最低値は、気化冷却区と な問題となっている。この問題の解決には、培地の 不織布区では対照区より平 冷却が有効な手段の一つになると えられる。培地 高市 らも、気化潜熱を利用した培地冷却法を用い 槽を水で湿らせた不織布で包み、蒸発による気化潜 ると晴天の最高気温時に培地温度を5℃∼10℃低下 熱を利用した培地冷却法は、培地全体の温度を比較 させることができると報告している。 的 一に冷却できる簡 な方法である。 本研究では、 約2℃低温になった。 開花花房数はいずれの処理区でも対照区より多か この気化潜熱を利用した培地冷却法を活用した局所 った。開花花房数は気化+クラウン冷却区で最も多 温度制御により、高温期のイチゴの生育および出 く、次いで気化冷却区、不織布区、対照区の順にな 蕾・開花を促進し、着果を安定させる技術を開発す った(表2-99)。一方、ランナー数は気化+クラウン ることを目的とした。 冷却区で最も少なく、次いで不織布区、気化冷却区、 イ 研究方法 対照区の順になった(表2-99) 。展開葉数は気化冷却 四季成り性品種の「エラン」を供試して、夏 区が最も多く、次いで対照区、気化+クラウン冷却 秋どり作型における培地気化冷却の影響を調査し 区、不織布区の順になった(表2-100) 。 た。ポリシートタイプの高設ベンチに、実験区とし ビニルハウス内気温は8月の高温期には、最 て、①気化冷却区(ポリシートを厚さ1mm の不織 高温度38℃、最低温度19℃程度で経過した。気化冷 布で包み、この不織布に蒸発用水 却区の培地底部温度の日最高値は対照区より平 を供給して冷 却。)、②気化+クラウン冷却区(ポリシートを厚さ 4℃低下し、日最低値は対照区より平 1mm の不織布で包み、この不織布に蒸発用水 した。 を 供給して冷却。さらにクラウン部近傍に設置した銅 管に冷却水を流すことによりクラウン部 約 約1℃低下 新生第3葉の葉柄長、葉身長、葉幅は処理区間で を20℃に 明確な差は認められなかった(データ省略) 。一方、 冷却(冷却機不調のため8月3日まで冷却)。 )、③不 頂花房の出蕾日は「章姫」、「さちのか」ともに対照 織布区(培地を不織布で包み、培地水 の蒸発によ 区に比べ気化冷却区で早まった(表2-101)。また、 り冷却。)、④対照区(無冷却)の4区を設定した。 定植後から頂花房出蕾までの葉数も両品種ともに対 2005年2月14日播種、4月5日に鉢上げした苗を5 照区に比べ気化冷却区の方が1枚程度少なくなった 月30日に寒冷紗(遮光率50%)をかけた雨よけハウ (表2-101) 。 ス内に株間20cm、1条植えで定植した。追肥は液肥 エ 察 (OK-F-1、大塚化学、2000倍液)を適宜施与した。 夏秋どり作型において、気化潜熱を利用した 促成栽培用品種の「章姫」および「さちのか」 培地冷却処理は開花花房数の増加や生育促進に有効 を供試して、促成作型における培地気化冷却の影響 であった。さらに、気化冷却にクラウン部冷却を組 を調査した。ポリシートタイプの高設ベンチに、実 表2-99 各区の開花花房数およびランナー数 験区として、①気化冷却区(ポリシートを厚さ1mm の不織布で包み、この不織布に蒸発用水 を供給し て冷却。)、②対照区(無冷却)の2区を設定した。 2005年7月にポット受けした苗を8月15日にビニル ハウス内に株間20cm、1条植えで定植した。気化冷 却処理は10月31日まで続けた。追肥は液肥(OK-F1、大塚化学、2000倍液)を適宜施与した。 表2-100 各区の展開葉数 ウ 研究結果 雨よけハウス内気温は7∼8月の高温期に最 高温度39℃、最低温度22℃程度で経過した。培地底 部温度の日最高値は、対照区>不織布区>気化冷却 区の順となり、最も冷却効果が大きかった気化冷却 227 表2-101 定植後から頂花房出蕾までの葉数および 性能な自律 出蕾・開花日 散協調型施設環境制御システムである ユビ キタス環境 制御 システムの 構築 が進んでい る 。本研究では、低価格センサで実現可能な細霧冷 房の噴霧アルゴリズムに基づいて動作するユビキタ ス環境制御システム用細霧冷房ノードを開発する。 イ 研究方法 循環扇と細霧ノズルを組み合わせた形式の市 販の細霧冷房装置を対象にして、植物体に濡れを生 み合わせることでさらに開花花房数が増加した。一 じさせにくく、しかも、効率的な運転制御が可能な 方、不織布区でも開花花房数は増加したが、生育の センサおよび制御アルゴリズムを検討した。このた 抑制が認められた。これは灌水量を各区で等しく管 めに、装置の細霧噴霧特性と開発センサの特性を計 理したため、不織布区の土壌水 測して、環境制御システム開発のための基礎資料を したためと が不足気味に推移 えられた。 促成作型では、未 得た。 化の小苗を定植し高設ベ で得られた細霧冷房装置の運転制御アルゴ ンチ上で株を養成した。そのため、肥培管理等の問 リズムとセンサを組み込んだ、ユビキタス環境制御 題により全体的に花芽 えられる。 システム用細霧冷房ノードを開発した。また、同じ しかし、気化冷却区では定植後から出蕾までの葉数 ノードで冬季の室内空気流動促進の制御も可能にし が対照区と比べ1枚程度少なく、出蕾日も早かった た。開発には、ユビキタス環境制御システム規格に ことから、気化潜熱を利用した培地冷却は花芽 準拠したコンピュータ基板(USE) および、開発用 化が遅れたと 時期の早期化に有効であると 化 えられた。 ソフトウェア(EOLUS) を用いた。 オ 今後の課題 ウ 研究結果 促成作型において、ポットで充 に養成した 異なる製造会社の2機種の細霧冷房装置につ 苗を高設ベンチに定植した場合に、気化潜熱を利用 いて噴霧特性を計測した。地上4m に設置時の1 した培地冷却がどの程度花芽の 間あたりの平 化促進に有効であ るのかを調査する必要がある。 カ 要 噴霧水量は、それぞれ、547cm(σ= 2.80、n=10)、388cm(σ=0.87、n=10)だった。 約 また、装置送風機から5m 地点での平 風速は、 イチゴの夏秋どり作型において、気化潜熱を 1.42 m s (σ=0.48、n=12)、0.50 m s (σ= 利用した高設ベンチの培地冷却処理を行うと、花房 0.21、n=12)だった。噴霧装置から1m 下の平面 の発生数が増え、ランナーの発生数は減少した。 の細霧付着個数、面積、粒径 布を感水紙で計測し イチゴの促成作型において、気化潜熱を利用 た。天候および機種により、細霧付着特性には大き した高設ベンチの培地冷却処理を行うと、頂花房の な違いがあった(図2-102、図2-103(一例) ) 。植物 出蕾時期が早くなった。 体の濡れを検出する目的で、フラクタルパターンを キ 文 献 利用したポリイミド樹脂製フレキシブル基板を 用 1) 高市益行、荒木陽一、中島規子、田中和夫 (2000) した濡れセンサを試作した。濡れはセンサの電圧低 気化潜熱を利用したイチゴ高設ベンチの培地冷却 下によって検出した(写真2-21)。基板1枚あたりの 法.平成11年度野菜・茶業研究成果情報:27-28 生産コストは4,830円になった。露点温度よりセンサ 担当研究者(壇 和弘 、大和陽一) 表面温度が低下する結露条件を感度良く検出できた (図2-104(一例))。 6 ネットワーク自律 散協調型低コスト環境制御 開発したユビキタス環境制御システム用細 システムの構築 霧冷房ノード(写真2-22)は、従来の市販制御装置 ア 研究目的 と比較して、約半 の容積で、35,000円程度の材料 各制御機器が自律した判断機能を持ち、コンピュ 費で試作できた。また、コンピュータを利用してい ータネットワークで連携して動作する低コスト・高 るので、各種の制御方法(表2-102) の実装や、また、 228 図2-102 機種による細霧付着率の相違 1)左右のグラフは異なる機種 2)10秒間噴霧の細霧付着面積割合を示す 図2-104 無暖房温室での濡れの検出特性 図2-103 気象条件による細霧付着個数の相違 1)左右のグラフは同機種 2)10秒間噴霧の1cm あたりの付着個数 3)左は晴天日(飽差0.031 kg kgDA ) 、右は雨天日 写真2-22 試作細霧冷房ノードの外観 (飽差0.001 kg kgDA ) 表2-102 試作ノードに搭載した制御方法 乾湿球温度センサや湿度センサの利用は、植物生産 写真2-21 開発した濡れセンサの外観 現場での保守管理やコストの問題がある。今回開発 した安価な濡れセンサは、細霧冷房の制御だけでな 機器の動作時間や計測値の記録も可能になった。細 く、植物体の濡れ検出にも幅広く利用できる有用性 霧冷房ノードの設定や動作の確認は、一般のパソコ の高いものであると ンと Web ブラウザだけで可能であり、特別なソフ 従来のタイマ等を組合せただけでコンピュー トウェアの開発や購入の必要はなかった。 エ える。 タを 用していない市販の制御装置の価格は13万円 察 程度であるのに対し、今回の試作ノードは利益を含 細霧付着特性は、装置の機種や気象条件によ めてもそれ以下で販売できると える。また、細霧 って大きく変化することが確かめられた。タイマの 冷房だけでなく、冬季の室内空気流動への利用も可 断続運転だけでは無駄な動作が生じ易く、センサを 能にした。従って、価格的・性能的にも、今回開発 用いたフィードバック制御が必要である。しかし、 した細霧冷房ノードは優れていると結論できた。 229 オ 今後の課題 なため、広く普及するには至っていない。そこで 商品化を目指し、実際の生産施設に設置して実証 本研究では、わが国の園芸施設における夏季降温の 試験を行い、開発したセンサおよびノードの性能評 ための装置・技術を 価を進める必要があると 状況、降温効果等についての実態調査を行い、その カ 要 える。 約 実用効果の評価を行う。 循環扇と細霧ノズルを組み合わせた細霧冷房 イ 研究方法 装置のフィードバック制御アルゴリズムと、濡れを 試験的あるいは実用初期段階として導入 検出する低コストセンサを開発した。 用 されている装置・技術等について、その種類別に ユビキタス環境制御システム用の低コスト高 類し、数カ所を選定して現地調査を実施した。 性能な細霧冷房ノードを開発した。 キ 文 類し、それぞれの装置の利用 併せて降温効果について計測可能な施設を選 献 び、現地観測を実施した。 1) 星岳彦ら(2005)効率化・低コスト化を達成す ウ 研究結果 るユビキタス施設環境制御システム. 施設と園芸. 131:22-26 我が国で、現在導入・ 用されている夏季高 温時の降温装置・機器・資材は、降温原理別に、① 2) 林泰正ら(2005)温室自律 散環境制御システ 外部からの熱源である IR の施設内侵入を遮断す ム用ユビキタスエンジンの開発.農業環境工学関 る、②施設内の蓄熱を外部へ発散する、③施設内の 連7学会2005年合同大会講演要旨集:406 温度を冷却する、の3つに 担当研究者(星 岳彦 ) 種類別に、導入・ 類された(表2-103)。 用している施設等で現地 調査を実施したが、各施設での聞き取りでは、地域・ 7 園芸施設における降温装置の設置実態調査に基 作物・栽培方法等により評価が相違した。特に、細 づく 用効果の評価 霧冷房はトマトの夏における育苗初期に有効である ア 研究目的 との評価を得た。しかし、導入コストが高額な割に わが国の施設園芸における降温のための種々の装 は、期待される効果が得られないとする評価が多く、 置・技術については、まだ試験的あるいは実用初期 未利用の施設が目立った。また塗布材では、種類に 段階として、一部の生産者が導入して利用している よってその降温原理が不明な資材や、利用後の被覆 状況で、それらの実用上の効果に対する評価が不十 資材の廃棄処理に支障が出るものもあった。 表2-103 夏季高温時の降温装置・機器・資材 230 図2-105 パッド&ファン冷房時の気温の経時変化 図2-106 外部遮光時の気温の経時変化 1)測定値:2005年8月9日8:30∼11:50 1)測定日時:2005年8月3日12:30∼14:00 2)内部カーテン:開 2)内部カーテン:開 3)外部遮光:開 3)換気:自然換気 4)ファン稼働台数:13台 5)温室外日射量:667W/m 外部遮光およびパッド&ファンを導入してい や病気の発生を助長することが懸念され、今後効果 る施設で現地観測を実施した結果、明確な降温効果 的・効率的な利用に向けた研究の蓄積が必要である が認められた(図2-105、図2-106) 。 と 高軒高ハウスで軒高の効果をトマト栽培ハウ えられた。 このため、降温装置・機器・資材について、 スで調査したところ、従来型鉄骨ハウスに比べ、利 設置費用や運転コストも含めて 用者は体感的に差があり有効であるとのことであっ した作物別・栽培条件別の利用技術の開発が必要で たが、観測結果からは、降温効果は明確でなかった。 あると えられる。 なお、湿度は10%程度高軒高の方が低かった。 エ オ 今後の課題 察 立研究機関による降温装置・機器・資材の 外部からの IR 侵入をカットする降温装置・ 性能確認試験の実施。 機器・資材では、外部遮光の効果が顕著であり、内 性能確認試験結果に基づく利用技術の開発。 部カーテン・塗布材にも一定の効果は認められた。 しかし、物質生産への影響から 立研究機関を軸と カ 要 約 用に制限があるも 現在、わが国で利用されている夏季高温時の のと えられる。 降温装置・機器・資材を 施設の構造・ファンによって内部の高温を外 類し、利用状況を調査し た結果、導入したものの、活用が不十 部へ発散させる降温装置・機器・資材では、外気温 十 ・効果が不 なものが見られた。 までの降温が限界であるが、物質生産への影響はほ その中で、パッド&ファンおよび外部遮光に とんど無く、利用しやすい方法と えられる。しか ついては、降温効果が認められた。一方、高軒高ハ し、機材の数・配置等は様々で、ハウスの種類や大 ウスの軒高の効果は、体感で明瞭な差があると感じ きさに応じた最適利用技術はまだ確立されていない られたが、観測結果では温度に明確な効果が認めら と判断された。 れなかった。 パッド&ファン、細霧冷房に代表される気化 種々の方法・装置について、効果的・効率的 熱による施設内の降温については、効果は十 期待 な利用技術の開発が必要である。 できるが、初期投資・ランニングコストが多大であ 担当研究者(米澤博行 、石内傳治) り、わが国の高湿度環境下では効果が低下する場合 231 第9章 1 高軒高大型施設における省力高生産のための空間の高度利用技術の開発 単為結果性トマトの生育特性に適したハイワイ ヤー誘引法の開発 ア 研究目的 トマトのハイワイヤー誘引法では、空間利用によ る多収が期待できる。そこで、ホルモン処理が不要 で省力的な単為結果性品種について、ハイワイヤー 誘引法における生育と環境との関係を解析すること 図2-108 生育期間中の温度変化と温度から推定した により、最適な誘引方法を明らかにする。 トマト植物体の茎長の推移 イ 研究方法 1)温度変化は実測値を移動平 養液栽培で促成長期栽培した単為結果性トマ (n=14)した値。 2)9/1に5cmの苗を定植したと仮定。 ト品種「ルネッサンス」の生育を調査し、茎伸長速 度と温度との関係について解析した。得られた一次 が高いほどその期間の 回帰式を用いて、「ルネッサンス」の生育を計算によ った(図2-109)。また下げ幅が大きいほどつる下げ り推定し、誘引高さを変えた時の状況を比較した。 回数は少なかった。誘引高さ2.7m では下げ幅を30 推定した生育と誘引高さ、つる下げ(つる下 cm にするとつる下げした時に下位葉と果房が栽培 ろし)頻度、果実収穫位置との関係について解析し 糟につかえた(図2-110)。生長点が誘引線に達した た。栽培糟の高さ40cm、誘引高さは2.7m、3.0m、 時の収穫果房の位置は、誘引高さ2.7m、3.0m、3.5 3.5m とし、9月1日に茎長5cm の苗を定植したと m でそれぞれおよそ27cm、42cm、107cm と推定さ 仮定した。 れた。 ウ 研究結果 エ だけつる下げ回数は少なか 察 トマト品種「ルネッサンス」の生育と温室内 つる下げ幅を大きくすることでつる下げ回数 環境との関係を解析したところ、温度と茎伸長速度 を減らすことができるが、つる下げ幅の大小が生育 との間に相関関係が認められた(図2-107)。得られ に影響を及ぼす可能性がある。単為結果性トマト品 た一次関数を用いて解析した。 種「ルネッサンス」は、節間がやや長く、収穫時に 実測した温室内温度の移動平 値を解析用の 開花・結実し着生している果房数が多いため、一般 基準温度として、トマト植物体の茎長の推移を算出 品種より誘引高さを高くする必要があると えられ した(図2-108) 。平 すると葉の着生位置間(節間) た。 の長さは9.4cm、果房の着生位置間の長さは28.2 果房間の長さは30cm 程度 であ ったことか cm、着生葉数は23枚であった(データ省略)。 ら、つる下げ幅を30cm 程度にすることで収穫位置 誘引高さが高いほどつる下げ開始までの期間 をほぼ一定に保てるものと推定される。収穫台車に が長かった。つる下げ幅が同じであれば、誘引高さ 図2-107 温室内日平 温度とトマトの茎伸長速度 との関係 図2-109 誘引高さとつる下げ幅との関係(模式図) 232 2 トマトのハイワイヤー誘引におけるつる下ろし 支援装置の開発 ア 研究目的 トマトのハイワイヤー誘引法において、収穫最盛 期のつる下ろし、誘引作業の労力を軽減するため、 これらの作業が簡単に行える蔓下ろし支援装置を試 作し、その性能及び作業性を明らかにする。 イ 研究方法 作業者が作物を持ち上げることなく誘引具を 図2-110 誘引高さとつる下げ幅、つる下ろし回数との 横に移動させることができる可動式誘引器具及び作 関係 物の荷重を 1)点線は栽培糟の高さ(40cm) 散し、可動式誘引器具への負担を軽減 できるランナーを試作した。 より座り姿勢で収穫作業をする場合、収穫位置の高 慣行法と可動式誘引器具を供試し、誘引具移 さは50cm 以上で作業性がよいこと、つる下げを繰 動時の作業時間及び作業者の両腕の筋電位を計測し り返すと最下位葉から株元側の茎が垂れ下がること た。慣行法による作業では、左手で作物を持ち上げ、 を 右手で誘引具を横移動させた。可動式誘引器具によ 慮すると、誘引高さは3.0m を確保し、つる下げ 幅30cm 程度が良いと推察される。 る作業では、左手でストッパーの着脱を行い、右手 立ち姿勢で収穫する場合、収穫位置が100cm 以上になるように誘引高さは3.5m 程度必要と で横移動させた。なお、移動には電動式の高所作業 え 台車を用いた。 られた。一方、誘引作業に作業台車が不要な誘引高 ウ 研究結果 さ(1.8m)では、下位葉の茎葉が隣接株とからむた め、作業が難しいと 試作した誘引器具は従来のワイヤーの代わり えられた。 にカーテンレールを オ 今後の課題 用することで、誘引具の横移 動を容易に行えるようにしたものである(図2-111) 。 つる下げ幅がトマトの生育や生産性に及ぼす この誘引器具は、複数のカーテンレールを連結した 影響を明らかにする必要がある。また誘引高さと受 ものであり、誘引具を吊り下げるランナーと、ラン 光体勢、物質生産特性との関係についても検討を要 ナーが株の自重で戻るのを防止するストッパーで構 する。 成した。ランナーは複数の支持点を一定距離おきに 管理作業の省力化・軽労化効果について検証 配置することで荷重を する必要がある。 カ 要 散できる。また、栽培ベッ ドの端に湾曲したレールを配置することにより環状 約 のレールを形成し、ベッドの端まで到達した株は折 つる下げ幅が大きければつる下げ回数を減ら すことができたが、収量との関係は不明である。つ る下げ幅を30cm 程度とすることで、収穫位置の高 さを一定に保てる。 収穫台車を 用して座り姿勢で収穫作業をす る場合には、誘引高さは3.0m を確保する必要があ る。立ち作業の場合の誘引高さは3.5m 以上必要で ある。 担当研究者(川嶋浩樹 、高市益行、中野有加、佐々 木英和) 図2-111 可動式誘引器具 233 り返すことができる(図2-112)。可動式誘引器具を 用いた方が少ない筋力で作業が行えることを確認し トマト栽培に供試し、数ヶ月間の負荷に耐えられる た。 ことを確認した。 担当研究者(黒崎秀仁 、大森弘美) 慣行法と可動式誘引器具を供試して誘引具移 動作業を行った結果、作業能率はほぼ同等であった 3 短節間トマトの立体栽培法による省力多収生産 が、筋電位を比較すると、試作器具を用いた方が所 技術の開発 要筋力が減少していることが確認された。 ア 研究目的 エ 察 4段摘心のトマトの株を上下2段で生育の時間差 可動式誘引器具は構造を簡略化し、一部にこれま をつけて連続的に株を入れ替える周年連続立体栽培 で利用されてきた誘引具を流用することで低コスト 法が開発されている。それにより単位面積当りの株 化が図れ、また、レールを環状に接続することで可 数および収量が飛躍的に増加した。さらなる収量増 動部 にマージンを必要としない構造とし、従来の 加、省力化のために、短節間トマトを採用し、限ら ワイヤーが張られた施設でもワイヤーの下にレール れた期間と立体空間で多くの段数を確保すること を増設する形で容易に導入できるものと で、周年多回転栽培における年間の収穫段数増加お えられ た。 よび誘引作業等管理作業の省力化の可能性について オ 今後の課題 検討する。 可動式誘引器具を用いた際の作業性について引き イ 研究方法 続き調査を行い、軽労効果をより詳細に明らかにす る必要がある。また、可動式誘引器具は長期間 短節間トマト系統「安濃10号」(以下「安濃」 ) 用 を供試し、2005年6月6日(1作目)と7月18日(2 した際の知見が不足しており耐久試験を行う必要が 作目)に播種し、上下立体時間差連続栽培方式、新 ある。さらに、試作器具では、ずれ防止用のストッ 堀 で栽培した。標準品種は「麗夏」(1作目)と「麗 パーを付加しているが、今後はこの機能をランナー 容」(2作目)を供試した。受光量を積算日射計測フ に内蔵し、ランナーを量産に適する形に改良する必 ィルム(オプトリーフ)を用いて、1作目が下段、 要がある。 2作目が上段の9月30日から7日間測定した。 カ 要 約 「安濃」において、上下2段のベットの間隔を トマトのハイワイヤー誘引法において、従来のワ イヤーの代わりにカーテンレールを 狭くした場合の収量・作業性の改善の可能性を推測 用すること した。 で、誘引つる下ろし作業時における誘引具の横移動 「安濃」においては4段摘心栽培の日程で5段 が容易に行える可動式誘引器具を開発した。作業能 摘心栽培を行い、5果房収穫までの栽培日程を推測 率は慣行法とほぼ同等であったが可動式誘引器具を し、5段摘心栽培の場合の増収効果や作業時間の削 減効果を検討した。 ウ 研究結果 定植苗は第1花房が蕾∼開花のステージまで 育成した。草 は「安濃」が標準品種より10cm 以上 低くなった(表2-104)。しかし、最大葉長は「安濃」 が大きく、葉の重なり合いが早い段階からあった。 栽培終了時の生育では、茎長は「安濃」の方が短く、 下段の誘引棒より下に収まったが、標準品種は誘引 棒より高く、上段の植物と接触した (表2-104)。 「安 濃」の収量は少なく、 正常果率も低かった(表2-104) 。 「安濃」は、誘引作業の時間を多く要したが、空間 調整(吊り降ろし)や片づけ作業の時間は少なかっ た(図2-113)。受光量は「安濃」の最上位果房上で 図2-112 可動式誘引器具を用いた栽培 234 表2-104 定植時および栽培終了時の株の生育と収量 多かったが、その他の葉位に差は見られなかった(図 収まった。第5果房も収穫開始となったが、未着色 2-114)。 果の割合からして7日間ほど栽培期間を 「安濃」の上下間隔から上段栽培ベットの位 置は20cm 低く出来ると 長する必 要がある。果房数増加に伴う誘引作業の時間増加が えられる(表2-104) 。しか あった(図2-113)。 収量では5段摘心栽培により し、上段の誘引作業では高所作業車で適切な位置で 増加したが、1果房当りの収量は少なかった(表2- 設定できるため、作業性の改善効果は少ないと 104)。 え られた。また、上下間隔か狭いと、上段の影により、 エ 下段の上位葉の受光量は減少すると予測された。 察 「安濃」の定植苗は草 現行栽培装置で5段摘心栽培でも栽培空間に が低く、苗運搬時の苗 の損傷も少なく優れていた。「安濃」は茎長が短いこ とで空間調整(吊り降ろし)などの作業時間削減の 効果はあったが、ヒモ巻きの誘引作業には時間を要 した。ヒモ巻き回数や誘引クリップ数を減らすこと で誘引作業の一部に時間削減の可能性はあった。 「安 濃」は収量性に問題があった。 短節間トマト系統により上段ベットを低い位 置にすることが可能であるが、上下間隔があること で、下段の受光量の増加、上段ベットへの病虫害の 直接的感染防止ができ、ある程度の上下間隔は必要 と 図2-113 1作当りの作業時間 えられる。 標準品種の収穫果房段数は年間8作×4段= 32段に対し、5段摘心栽培は6作と2果房 (6と2/ 5作)で32段となるため、約1.5作の作付け削減の可 能であり、育苗や定植、移動、片付けの作業回数削 減および苗代のコスト削減が可能と えられる。ま た、さらなる高生産性を目指すには、より多くの果 房数を確保することが必要である。短節間トマト系 統でコンパクトな苗作りにより、育苗期間を 図2-114 各果房間の平 長し 定植苗の生育ステージを進めることで、現行の栽培 積算日射量 日程においても5段摘心栽培を行える可能性が (1作目下段ステージ) 235 え られる。 本数:720株/a)について、イチゴ品種「さちのか」 オ 今後の課題 と「久留米58号」を用いて、7月採苗、10月5日定 「安濃10号」 育苗および栽培管理の改善と品種 植の促成作型により、生育、収量および果実品質を 特性改善による収量性向上。 検討した。培養土はヤシガラ、ピートモス、パーラ 5段摘心栽培での育苗期間 長と栽培技術開 イトの混合物を用い、養水 発および年間作付け実証栽培。 カ 要 管理は OK-F-1の2000 培液を5∼10 間ずつ毎日3回施用した。温度、電 約 照等の栽培管理は当研究室の慣行に準じた。 上下時間差立体栽培で、短節間トマト系統「安 濃10号」では草 慣行の2段高設栽培(下段栽培槽は上段栽培 が短いことで定植苗の運搬性の良 槽より30cm 下に雛壇状に設置)と立体式多植栽培 いこと、誘引棒下に収まることにより作業を軽減で について、各栽培槽の深さ5cm の培地温と測定し きた。しかし、収量性は劣った。 た。また、受光量を積算日射計測フィルム(オプト 短節間トマト系統の4段摘心栽培では、上段 リーフ)用いて、1月21日から7日間測定した。 ベットを現行より低位置に設置できるが、収量・作 ウ 研究結果 業性の向上効果は少ないと推測された。 少量培地の立体式多植栽培では、慣行高設栽 「安濃10号」 は現行の栽培装置で5段摘心栽培 培に比べて、「さちのか」、「久留米58号」ともに頂花 が可能であり、作付け削減による作業時間、コスト 房の開花および成熟日が5∼8日早まった。厳寒期 削減の可能性が示唆された。「安濃10号」の収量性に 1月の生育は両品種ともに立体多植栽培で葉柄がや 課題はあるが、栽培管理や品種特性改良と、育苗期 や長かったが、栽培法の違いによる大きな差は見ら 間の 長で本圃の利用率を高めた5段摘心栽培を行 れず、第1次腋花房の開花も差が認められなかった。 うことにより、さらなる増収の可能性が推測された。 高温期4月の生育は、「さちのか」では立体多植栽培 キ 文 献 が高設栽培に比べて地上部重は減少し、根重は増加 二(2005)高軒高ハウスの立体栽培を利 した。「久留米58号」 では立体多植栽培が高設栽培に 用したトマトの高生産システム.平成17年度課題 比べて地上部重、根重ともに増加した。T/R 比は両 別研究会資料「トマト生産の今後の方向と育種・ 品種ともに立体多植栽培で減少した(表2-105) 。立 養液栽培をめぐる諸問題」:72-76 体多植栽培と高設栽培に対する根の生育反応は両品 1) 新堀 担当研究者(後藤格士 、新堀 二、渋谷和男) 種間で異なり、立体多植栽培では、 「さちのか」 は太 根化傾向、「久留米58号」では逆にやや細根化傾向が 4 イチゴの立体式超多植栽培システムによる多収 認められた。 生産技術の開発 株当たり ア 研究目的 イチゴの促成栽培では、10a 当たり 収量は、立体多植栽培では慣行高 設栽培の70%程度であったが、a当たり収量は単位 労働時間が 面積当たり株数の増加により3倍以上となり、 「さち 2,000時間にも及ぶため、軽労化と省力化を目的とし のか」で1,084kg、「久留米58号」で918kg であった。 て各種の高設栽培システムが開発・導入されている 商品果率は、立体多植栽培が高設栽培に比べて低く、 が、高い導入コストを回収できる収量増大が大きな 特に「さちのか」では高温期の4・5月に小果が多 課題である。そのため、ハウス内空間を最大限利用 く、65%と低かった。果実品質については、立体多 できる極少量培地と円筒形架台からなる立体式多植 植栽培で平 栽培技術について、栽植株数の増加による収量の飛 糖度、酸度は高設栽培と同等であった(表2-106)。 躍的増大の可能性を検討する。 果重は小さかったが、果皮色、 度、 立体多植栽培における培地温は、慣行高設栽 イ 研究方法 培に比べて、培地量が少ないためにハウス内気温の 透水性シートを用いた少量培地栽培槽を直径 影響を強く受け、変化が大きかったが、透水性シー 2m、長さ4m の円筒形架台に立体配置した立体式 トを用いたために高温期には気化潜熱による地温上 多植栽培(培養土量:0.5L/株、栽植本数:3,240 昇抑制効果が認められた。受光量は、慣行2段高設 株/a)と慣行高設栽培(培養土量:2.5L/株、栽植 栽培では下位段が上位段より20%程度減少したのに 236 表2-105 栽培法の違いが生育および開花に及ぼす影響 表2-106 栽培法の違いが収量及び果実品質に及ぼす影響 対し、立体多植栽培では下位段でもほとんど減少が さらに、作業性を 慮した回転式の低コストな立体 見られず、また同一株における上位葉に対する下位 栽培システムの開発が必要である。 葉の受光量の減少も慣行2段高設栽培より低かった カ 要 約 (表2-107)。 エ 培地量が0.5L/株の少量栽培槽を立体配置 察 したイチゴの立体式多植栽培では、2.5L/株の慣行 少量培地の立体式多植栽培は慣行高設栽培に 高設栽培に比べて、株当たり収量は70%程度であっ 比べて、株当たり収量は少なく、平 果重も小さか たが、単位面積当たり収量は栽植株数の4倍増によ ったが、これは培地量が少ないために培地温や土壌 り3倍以上の約1,000kg/a であった。平 水 小さかったが、果皮色や 等の変化が大きいためと えられた。ハウス内 空間を有効利用した立体式多植栽培では、単位面積 少量培地の立体式多植栽培では、培地温はハ えられた。 ウス内気温の影響を強く受け、変化が大きいが、高 少量培地はハウス内環境の影響を強く受ける ために、温度管理や養水 と 度、糖度、酸度は同等で あった。 当たり栽植株数の飛躍的増大により、収量は慣行高 設栽培の3倍増が可能と 果重は 温期には透水性シートの利用により気化潜熱による 管理に注意が必要である 地温上昇抑制効果が認められ、また下位段の受光量 えられる。 の減少が少なく、光環境改善効果が認められた。 オ 今後の課題 担当研究者(沖村 誠 、曽根一純、北谷恵美) 少量培地栽培に適した培養土の開発、養水 供給技術の確立、品種の選定・育成、多植栽培が可 5 能となる効率的な苗生産技術の開発が必要である。 大型施設における自動搬送装置の自律協調動作 アルゴリズムの開発 ア 研究目的 表2-107 栽培法の違いが受光量に及ぼす影響 収穫物や廃棄物などの重量物の運搬は人力で行わ れており、大型施設になればその労力及び作業時間 は多大である。そのため、大型施設内において重量 物の自動搬送装置は不可欠であり、それを複数台導 入する際の施設規模に応じた最適な動作アルゴリズ ムを開発する。 237 イ 研究方法 荷台を切り離す。親機は、その荷台を調製地点まで 電動式四輪作業台車(エレバギー N-2、エレ 搬送する(図2-115) 。室内実験で動作に問題がない テック製)を試験車両とし、これに前輪操舵用の電 ことを確認した。 動シリンダ、走行用センサ、プログラマブルコント パソコンの web ブラウザ用画面の作成によ ローラ (PLC)、PLC データ収集装置、無線機器、積 り、各車両の積載量表示や現在位置、通信状況など 載物認識用センサ、ロータリエンコーダを取り付け が確認でき、また、マウスを た。試験車両は三台試作した。 することができる(図2-116) 。パソコンを調製地点 通路内の特定場所(一通路につき数カ所)を って車両を直接操作 に設置し、調製工程開始により搬送命令を実施する コンテナ収集地点、その地点と調製地点を搬送経路、 と、設定した積載量に達していなくても動作プログ 収集専用荷台の利用を前提とした搬送システムにお ラムに従い各車両を動かすことが可能である。 いて、試験車両三台を協調動作させるための動作プ エ 察 ログラムを試作した。試験車両三台のうち、一台を 試作した搬送システムでは、各試験車両が自 親機(高機能型:通路の荷台搬送及び子機の荷台の 律動作機能を有している。大型施設では一度の搬送 引き取り)、残り二台を子機(基本機能型:通路の荷 距離が100∼200m 程度となることから、車両間で通 台を親機へ渡す)として動作を検証した。また、パ 信不能となった場合でも、各試験車両は搬送作業を ソコンの web ブラウザを利用し、車両の動作確認及 び直接操作が行える画面を作成した。 ウ 研究結果 試験車両の機能は、前進、後進、右折、左折、 停止・非常停止、コンテナの積載量計測、走行距離 計測に基づく自車位置認識とし、自動走行を行える ようにした。積載量及び位置データは、ネットワー ク経由で他の車両に送信し、データを共有した。無 線通信は、見通しの良い通路では150m 程度まで可 能であったが、植物のある方向では通信距離が低下 した。 試作した動作プログラムは、親機が子機の積 載量及び位置データを受信し、コンテナを載せた荷 台を引き取る方式とした。子機は、設定した積載量 に達すると自動搬送を開始し、荷台引き渡し地点で 図2-115 動作フロー図 図2-116 車両の動作確認及び操作画面作成例 238 行うことができ、搬送中に通信可能となればその時 カ 要 約 点で各車両が協調動作を行えると えられた。 試験車両一台を親機(高機能型)、二台を子機(基 大型施設では搬送距離が長くなるため、各車 本機能型)とした搬送プログラムを試作した。車両 両が同一の搬送機能を持たせるよりも、車両一台を 間の通信は無線機器で行い、子機の積載量及び車両 高機能型とし、残りの車両を基本機能型のシステム 位置データは、ネットワーク経由で親機に送信し、 にすることにより、無駄な搬送距離を省き、車両間 親機がそのデータを基にコンテナを載せた荷台を引 の衝突も回避できると き取る方式とした。通信可能距離は、見通しの良い えられた。また、システム 全体の低コスト化に寄与すると えられた。 通路では150m 程度、植物のある方向では低下した。 オ 今後の課題 また、パソコンの web ブラウザ用の画面を作成し、 搬送車両一台を親機、残りの車両を子機とした搬 各車両の積載量表示や現在位置、通信状況などが確 送システムの場合、子機から親機への荷台の引き渡 認でき、マウスを って車両を直接操作することも し方法、または複数の荷台の連結法について検討す 可能であった。 る必要がある。また、実際の大型施設内で動作を検 担当研究者(大森弘美 、黒崎秀仁) 証する必要がある。 239
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