テクノえっせい 290 牛の情報をケイタイで 広島工業大学名誉教授 中山勝矢 お馴染みのカーナビは、人工衛星による全地球測位システ ム(GPS)を利用するのですが、車が街角を曲がるところまで 細かく追随することはできません。 (写真1) 実は加速度センサ やジ イ などを積んでいて速度や方 実は加速度センサーやジャイロなどを積んでいて速度や方 向を算出し、地図に落としこみます。衛星からの情報とは適宜 照合して、正しい位置に修正するのだといいます。 この加速度センサーを、牛の日常の挙動監視に利用するこ とを考えた企業があります。データとカメラの映像は、携帯電 話の無線回線で飼い主に送るというのですから面白い。 (写真1)標準装備品となった カーナビ ○力のもとは農工連携 今年は口蹄疫で、畜産農家にとっては大変な年でした。そう でなくても、生き物を扱う仕事は常に気を配っていなければな りません。畜舎が離れていればなおさらです。 まずは牛の発情と出産に目をつけたと、島根県松江市にあ る㈱ワコムアイティの多久和厚社長はいわれます。それを予 知できたら ただちに備え付けのカメラで監視に入るのです 知できたら、ただちに備え付けのカメラで監視に入るのです。 牛の背中に、3軸に合わせて加速度センサーと方向セン サーを入れたボックスをバンドで取りつけます。発情が起き、 飛び跳ねが多くなったことは確実に見つかるといいます。 また出産前には、雌牛は柵のなかを円状に歩きまわり、行動 量が増えるのですが、このこともセンサーの信号変化から容 易に読み取れるというのです 易に読み取れるというのです。 (写真2) 当然、個体差はあるといいます。だが、こうしたお知らせが数 時間前から定期的に送られてくるようになったら牛舎内に設け られているカメラに切り替え、監視を始めるわけです。 (写真2)2時間おきに入手された牛の行動量を 図示。青線が当日、比較のために前日が黄色 線で示されている。 (㈱ワコムアイティのHPから) 旬レポ中国地域 12月号 現場に行くタイミングはカメラで判断できるし、夜ならリモート 操作で灯りをつけ、場合によっては内蔵してあるマイクで鳴き 声を聞くこともできるようになっています。 1 聞くと、この遠隔監視カメラには「養牛カメラ」、そして牛の発 情と出産を知らせる装置には「喜多佳(きたか)」と名付けてあ 情と出産を知らせる装置には「喜多佳(きたか) と名付けてあ るというのです。思わず微笑んでしまいました。 同じ映像を獣医さんにも見て貰うことで負担が減らせるだけ でなく、難産の処置も早く取りかかれて、5%の確率で発生して いた分娩での死産事故も防げるというのです。 考えてみれば方向の変化や、急速な動きにセンサーがきち んと応えて信号を送ってくるのは当たり前のこと。これは車でも んと応えて信号を送 てくるのは当たり前のこと これは車でも 牛でも、違いはありません。 むしろセンサーをどのようにして牛に取り付けるかという方に、 多くの苦労があったと聞きました。この畜産のIT化には、産学 官の農工連携が大いに力を発揮したといいます。 ○国産のソフト「ルビー」 問題は、この信号を携帯電話の無線回線によって手元まで 送り、整理した形で映像化し、さらにカメラに切り替えて監視を 続けるといったシステムに纏めるところにあります。 (写真3) つまり利用者の声を取り入れた使いやすいネットワークサー バーの構築が問題なのです。まさにソリューションビジネスな のであり、創意工夫が勝敗を決めることになります。 (写真3)システム全体の説明図。右上の 円内が「喜多佳」、下は「養牛カメラ」と分 娩の映像。 (㈱ワコムアイティのHPから) 現在は専門性が高いクラウドコンピューティング技術を使っ て省力化を図っていますが、これからは老齢化が進み、IT技 術に不慣れな人の多いことも考えなければなりません。 このシステムを集中管理するソフトには、松江発のプログラミ ング言語「ルビー」が使われています。ルビーは、非常にユ ニークであり、国内外で注目されているものです。 島根県情報産業協会の調べでは、ルビーが追い風になり、 2009年度の県内情報産業の雇用・売上高は前年に比べ2ケタ 成長となったというのですから素晴らしい。 いまでは養豚場、養鶏場からも声が掛かる横展開が進んで います。とくに無菌状態を強く望む養豚場や霜を嫌う茶畑では リモート操作のカメラが注目されているとのことでした。 このようなことで、㈱ワコムアイティの多久和社長さんは2010 年度(平成22年度)の第18回中国地域ニュービジネス特別賞 に輝いたのであります。 ホームページ:http://www.wacom-it.co.jp 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 Copyright 2010 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 旬レポ中国地域 12月号 2
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