球面上の幾何 内藤 久資 (Hisashi NAITO) [email protected] 名古屋大学多元数理科学研究科 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 1/46 はじめに 数学の学習は数学の進歩を学んでいる 高校の数学:紀元前の数学から18世紀頃までの数学 大学4年生までの数学:19世紀頃の数学 大学院以降:20世紀から現代の数学 数学の分野 代数学:種々の代数的な構造やその性質を調べる 幾何学:図形に代表される幾何学的な対象を調べる 解析学:微積分を用いて現象を探る・関数の性質を調べる この分類はあくまで「便宜的」なものにすぎない Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 2/46 はじめに 数学と他の学問との関わり 物理学(力学・電磁気学・量子力学・相対論 · · · ) 経済学(ゲーム理論・均衡理論 · · · ) 計算機科学(言語理論・数値解析・暗号理論 · · · ) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 3/46 内容と目標 内容 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう 到達目標 「曲線・曲面が曲がっている」ということの意味 「直線」や「距離」の一般化とはどんなものか Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 4/46 Section 1 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 5/46 ユークリッド幾何 「平面の幾何学」=「ユークリッド幾何」 ユークリッド幾何の公準 1 平面上の任意の2点を結ぶ直線を引くことができる 2 任意の線分は直線に延長することができる 3 任意の点を中心とする任意の半径の円を描くことができる 4 全ての直角は等しい 5 平行な2直線は, 一致するか, 互いに交わらないかのいずれ かである これら5つの公準から平面の幾何学の定理が導かれる Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 6/46 平面三角形 「平面上の三角形の内角の和は2直角に等しい」 「三角形」=「1直線上にない3点を直線で結んだ図形」 「平行線の2つの錯角は等しい」 ← 平行線の公準から証明できる. 「平面上の三角形の内角の和は2直角」 ← 錯角の性質から証明できる. Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 7/46 「直線」ってなに? 「ユークリッド幾何学」では「直線」は「無定義語」 「直線」=「2点間を結ぶ曲線の中で長さが最小のもの」 「2点を結ぶ線分の長さ」=「2点間の距離」 「直線(線分)」=「2点間の距離を与える曲線」 =「光が進むコース」 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 8/46 Section 2 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 9/46 球面の幾何 球面の代表例として「地球の表面」を考えよう 「北極点から南極点までの距離」 =「子午線(経線)に沿って測った長さ」 「同じ緯度の2地点間の距離」 = 「緯線に沿って測った距離」 (例外:赤道上の2地点) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 10/46 球面上で「直線」に相当するもの 「球面上の2地点 A, B 間の距離」を測る A, B と球の中心 O を通る平面 と球の交線 = A, B を通る「大円」 「球面上の2地点 A, B 間の距離」 = 「A, B を通る大円に沿って測った長さ(の短い方)」 「A, B を通る大円」=「球面上の『直線』」=「測地線」 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 11/46 球面三角形 球面上の3点 A, B , C を頂点に持つ三角形 = 「球面三角形」 (測地三角形) = A, B を結ぶ測地線, B , C を結ぶ測地線, C , A を結ぶ測地線 で作られる三角形 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 12/46 球面三角形の内角の和の例 A: 北極 B : 赤道上の東経0度の地点 C : 赤道上の東経 α 度の地点 → ABC の内角の和は? → ∠ABC = 90◦ , ∠BCA = 90◦ , ∠CAB = α◦ → ABC の内角の和 = (180 + α)◦ A B C Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 13/46 球面三角形の内角の和に関する事実 「球面三角形の内角の和」 > 180◦ 【知りたいこと】 この事実は球面のどのような性質を反映しているのか? 球面以外の曲面ではどうなるのか? 【予想】 この事実は球面が曲がっていることに起因しているだろう 「曲がっている」とはどういうことか? Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 14/46 Section 3.1 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 15/46 平面上の曲線の「曲率」 曲線の曲率 =曲線が「どのくらい曲がっているか?」を表す量 直線の曲率 = 0 半径 r の円周の曲率 = 1/r 曲線の曲率の物理的イメージ 質量 1 の物体が曲線上を速さ 1 で運動するときに働く力の大 きさ = 物体が曲線上を速さ 1 で運動するときの加速度の大きさ 直線上の速さ 1 の運動=等速直線運動 →加速度 = 0 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 16/46 ★★ 曲線の曲率の正確な定義 X(t) = (x(t), y(t)): 曲線の時刻 t での位置ベクトル V (t) = X (t) = (x (t), y (t)): 曲線の時刻 t での速度ベクトル A(t) = V (t) = (x (t), y (t)): 曲線の時刻 t での加速度ベクトル U (t): 速度ベクトルと直交する単位ベクトル (U (t) は V (t) からみて左向きに取る) |V (t)|2 = V (t), V (t) = (x (t))2 + (y (t))2 = 1: 速さが 1 (|V (t)|2 ) = 2A(t), V (t) = 0 速度ベクトルと加速度ベクトルが直交 A(t) は U (t) と平行 ある κ(t) が存在して A(t) = κ(t)U (t) をみたす この κ(t) を曲率と定義する Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 17/46 ★ 半径 r の円周の曲率 半径 r の円周上の速さ 1 の運動(反時計回り) t t , r sin X(t) = (x(t), y(t)) = r cos r r t t V (t) = (x (t), y (t)) = − sin , cos r r t t , − sin U (t) = = − cos r r t 1 t 1 , − sin A(t) = (x (t), y (t)) = − cos r r r r 1 A(t) = U (t) r Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 18/46 ★ 楕円の曲率 楕円 x2 a2 + y2 b2 = 1 の曲率 X(t) = (x(t), y(t)) = (a cos(t), b sin(t)), ab κ(t) = 2 2 (a sin (t) + b2 cos2 (t))3/2 a < b の時 曲率の最大値: a/b2 曲率の最小値: b/a2 0.6 4 0.4 3 0.2 -1 -0.75 -0.5 -0.25 0.25 0.5 0.75 1 2 -0.2 -0.4 1 -0.6 1 2 3 4 5 6 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 19/46 ★ 双曲線の曲率 楕円 x2 − y 2 = 1 の曲率 X(t) = (x(t), y(t)) = (cosh(t), sinh(t)), −1 κ(t) = (sinh2 (t) + cosh2 (t))3/2 t = 0, (x, y) = (1, 0) で曲率 −1. 2 1.5 1 0.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0.5 -0.5 1 1.5 2 -1 -0.5 0.5 1 -0.2 -0.4 -1 -0.6 -1.5 -2 -0.8 -1 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 20/46 ★ 曲率の正確な定義 一般公式: x (t)y(t) − x(t)y (t) κ(t) = ((x (t))2 + (y (t))2 )3/2 0.6 0.4 4 0.2 2 -1 -0.75 -0.5 -0.25 0.25 0.5 0.75 1 1 -0.2 -0.4 -2 -0.6 -4 2 3 4 5 6 X(t) = (sin(t), sin(t) cos(t)) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 21/46 曲線の曲率の応用 (1) 応用 高速道路のカーブの作り方 ジェットコースターのコースの作り方 「直線」と「円」をつないではなぜいけないのか? 「力」の掛かり方が急に変化する 1 0.8 0.6 0.4 0.2 1 2 3 4 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 22/46 曲線の曲率の応用 (2) 「クロソイド曲線」 =起点から「長さ t」の位置での曲率が t となる曲線 (x(t), y(t)) = t 0 cos(s2 /2) ds, t 0 sin(s2 /2) ds 「力」の掛かり方がなめらかに変化する 2 1.5 1 1 0.5 0.8 -2 -1.5 -1 -0.5 0.5 1 1.5 2 0.6 -0.5 0.4 -1 0.2 -1.5 -2 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 1.75 2 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 23/46 ★ 曲線論の基本定理 2つの曲線 X1 (t), X2 (t) が平面上の合同変換(平行移動, 回転, 鏡 映)で一致する ⇐⇒ 2つの曲線の曲率 κ1 (t), κ2 (t) が全ての t に対して等しい. Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 24/46 Section 3.2 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 25/46 球面上の物体の運動と曲率 「球面上の曲線上を運動する物体に働く力] = 「球面に直交する方向の力」+「球面に接する方向の力」 「球面に接する方向の力」 = 0 ⇐⇒ 「最短線」⇐⇒ 大円上の運動 例:人工衛星の軌道 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 26/46 曲面の曲率 曲面の「曲率」 =曲面が「どのくらい曲がっているか?」を表す量 「平面の曲率」 = 0 「半径 r の球面の曲率」 = 1/r2 曲率 = 全ての方向の測地線の曲率の最大値と最小値の積 平面:全ての直線は「曲率 0」 半径 r の球面:全ての大円の曲率は 1/r 半径 r の円筒: 測地線は円(曲率 1/r)または直線(曲率 0) =⇒ 曲率 = 0 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 27/46 曲面の曲率の例 (1) 曲率 = 0 曲率 = 1/r2 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 28/46 曲面の曲率の例 (2) 楕円体 x2 a2 + y2 b2 + z2 c2 =1 (x, y, z) = (0, 0, c) での曲率は x2 a2 + z2 c2 =1と y2 b2 + z2 c2 c c b2 a2 = c2 a2 b2 =1 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 29/46 曲面の曲率の例 (3) : 曲率が負 x2 + y 2 − z 2 = 1 x2 + y 2 = 1 と y 2 − z 2 = 1 図の2つの曲線の交点での曲率 = −1 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 30/46 曲面の曲率の例 (4) : 場所によって曲率の符号が異なる 交点での曲率 > 0 交点での曲率 = 0 「オレンジ」の曲線は測地線ではない 交点での曲率 < 0 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 31/46 曲面の曲率の「意味」と地図の作り方 曲率が異なる曲面は「長さ」, 「面積」, 「角度」を全て保っ て写すことができない 「長さ」, 「面積」, 「角度」を全て保った地図を書くことが できない. メルカトル図法:全ての地点で「角度」が正しい (United States Geological Survey より転載) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 32/46 地図の例 立体射影:全ての地点で「角度」が正しい ランベルト正積図法:全ての地点で「面積」が正しい (United States Geological Survey より転載) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 33/46 球面三角形の内角の和と曲率の関係 球面三角形の面積 = 360◦ − 外角の和 = 内角の和 − 180◦ 「球面三角形の面積」> 0 より「内角の和」> 180◦ 注意:この公式を使うときは, 角度は「弧度法」で与える 360◦ = 2π = 半径 1 の円周の長さ Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 34/46 ★ より一般的な定理(ガウス・ボンネの定理) 閉曲面上の測地三角形に対して K(x) dx = 内角の和 − 180◦ ∆ が成り立つ. K(x) < 0 ならば「測地三角形の内角の和」< 180◦ 曲率 > 0 曲率 < 0 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 35/46 例の計算 A: 北極 B : 赤道上の東経0度の地点 C : 赤道上の東経 α 度の地点 → ABC の内角の和 = (180 + α)◦ 1 α ABC = 半径 1 の球面の面積 × × 2 360 α =π 180 ABC の内角の和 − 180◦ = ABC の内角の和 − π α ABC の内角の和 = π( + 1) = (180 + α)◦ 180 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 36/46 ★ より詳しい説明と注意 曲面の曲率の正しい定義はもっと難しい ここでは直観的に分かりやすい説明を行った 円環面の曲率の図は適切ではないかも... 曲面の曲率の別の説明(曲率一定の曲面の場合) K > 0 ⇐⇒「円周率」< π K = 0 ⇐⇒「円周率」= π K < 0 ⇐⇒「円周率」> π K = 0 の時には「半径と円周の長さの比」は半径によって 異なってしまい, 「円周率」とは言えなくなる Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 37/46 Section 4 平面の幾何・ 「直線」 球面の幾何・球面上の「直線」 曲線と曲面の「曲がりかた」を測る 曲線の「曲率」 曲面の「曲率」 「距離」を一般化しよう Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 38/46 一般的な「距離」の定義 2点 x, y の間の「距離」 = x と y を結ぶ(最短)測地線の長さ 以下の性質を持つ関数 d を「距離」と呼ぶ d(x, x) = 0, (x から x までの距離は 0) d(x, y) = 0 =⇒ x = y , (x から y までの距離が 0 ならば x = y ) d(x, y) = d(y, x) (x から y までの距離は y から x までの距離に等しい) d(x, y) ≤ d(x, z) + d(z, y) (三角不等式) Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 39/46 グラフと距離 「グラフ」とは「頂点」と「辺」でできたもの 「グラフの頂点 x, y の間の距離」= x と y を結ぶ最短経路の 辺の数 辺の両端の頂点間の距離 = 1 1 3 2 4 5 d(1, 2) = d(1, 3) = d(1, 4) = d(1, 5) = 1 d(2, 3) = d(2, 4) = 1, d(2, 5) = d(3, 4) = 2, d(4, 5) = 3 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 40/46 グラフの例 (1) 「頂点」=「世界中の人」 AさんとBさんがお互いに知り合いなら辺で結ぶ AさんとBさんがお互いに知り合いなら d(A, B) = 1 d(笹原先生, 内藤) = 1, d(内藤, 仲間由紀江) ≤ 5 d(笹原先生, 仲間由紀江) ≤ d(笹原先生, 内藤) + d(内藤, 仲間由紀江) ≤6 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 41/46 グラフの例 (2) 「頂点」=「ウェブのページ」 ページ A からページ B へのリンクがあれば A から B へ矢印 を引く 「辺」に向きがついたグラフ(有向グラフ) 1 3 2 4 5 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 42/46 グラフを数学的に表す 頂点に番号をつける 行列 X の成分 xij を, 頂点 i から頂点 j への辺(矢印)があれ ば 1, そうでなければ 0 「(有向)グラフ」=「行列」 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 43/46 グラフを行列で表す 1 1 3 2 0 1 1 1 1 5 4 1 0 1 1 0 1 1 0 0 0 1 1 0 0 1 1 0 0 1 0 3 2 0 1 1 1 1 5 4 0 0 1 1 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 44/46 Google Page Ranking ウェブページのリンクの情報からなる有向グラフ(=巨大な サイズの行列) この行列に対して「計算」をおこなう 各ページの「重要度」を表す「ランキング」を計算する 「リンクが集まっているページ」ほど重要であると考える 重要なページの順に並べると 1, 3, 2, 4, 5 となる 1 3 2 4 5 Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 45/46 Any Question or Comment ? Dec. 14 2006, 彦根東高校 – p. 46/46
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