“おもてなしの国”のはずなのに 世界で勝てるシステム

“おもてなしの国”のはずなのに世界で勝てるシステムは、なぜ出てこないのか?|齋...
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【第3回】 2014年9⽉29⽇ 齋藤ウィリアム浩幸 [内閣府本府参与、科学技術・IT戦略担当]
“おもてなしの国”のはずなのに
世界で勝てるシステムは、なぜ出てこないのか︖
今注目されている製品も
いずれ“パーツ”になる
今の時代、⼈気があって需要の多い製品ほど、値段はどんどん安くなり、いずれ新しい
システムの「パーツ」になります。
20〜30年前は、秋葉原でトランジスタやコンデンサなどのバラバラの部品を買ってき
て、ハンダ付けしてラジオを作っていました。やがてそれがIC化され、今ではラジオ⾃
体が1つの「パーツ」になっています。
カメラやビデオなども同じ道をたどっています。私が今⼿に持っているこのスマホに
は、電話やカメラ、動画、時計、計算機などおよそ17の機能が⼊っているといわれてい
ます。しかし、このスマホですら、いずれシステムの⼀部になるでしょう。ただのカメ
ラ、ただの電話、ただのラジオなど、シングルユースの製品はますます売れなくなりま
す。
この連載の第1回で「半導体やストレージなどの開発に投資してはいけない。これらは
値段がどんどん安くなり、いずれタダになる可能性が⾼いからだ」と書きましたが、同様
に「パーツ屋」の将来も明るいとはいえません。
1つひとつのパーツをつくる技術⼒が⾼くても、それだけではいずれ厳しい状況に追い
込まれてしまう可能性が⾼い。なぜかというと、競合先が現れ、パーツがどんどん安くな
る流れは⽌められないからです。
打開策として考えられるのが、⾰新的な技術を組み⼊れた新しいサービス全体を設計す
る「システムシンキング(システム思考)」です。ここが⽇本は非常に弱い。今注目され
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10/3/2014
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ている製品・技術はいずれ安くなってパーツになるということを先読みし、まったく新し
いビジネスモデルを考えることが重要なのです。
ウェアラブルを取り⼊れた
新しいビジネスを考える
今、アップル社製の「Apple Watch」など、ウェアラブルデバイスの「スマート
ウォッチ」が話題になっています。アップルの製品はルックスもよく、何百万個も売れる
ことでしょう。そして、もしかしたら独⾃の機能をたくさんつけた “ガラパゴス・スマー
トウォッチ”が登場するのかもしれません。⽇本製スマホの⼆の舞を踏まないかと、いさ
さか⼼配しているのですが…。
しかし、このブームに乗せられて、スマートウォッチの開発競争に参加するのは、ぜひ
とも避けなければいけない。ウェアラブルデバイスもどんどん安くなり、いずれパーツ化
されるからです。
ですから、安くなったウェアラブルデバイスを使うシーン全体をデザインし、新しいビ
ジネスモデルを今から考えることが必要なのです。
たとえば、⽶国のあるベンチャー企業は、ウェアラブルデバイスに内蔵される機能を絞
り込んで値段を安くし、荷物の中に⼊れるサービスを開発中です。
これが完成すれば、荷物が今どこにあるのかはもちろん、輸送途中の振動や温度はどう
だったか、乱暴な取り扱いはなかったかといったことがわかります。とくに壊れやすい精
密機器や傷みやすい果物などの場合、もし壊れていたり腐っていたりしたら原因は何か、
責任は誰にあるのかを特定することができるので、⼤変便利なことは想像できます。
もう少し例を挙げてみましょう。
⽶フェイスブックは、ゴーグル型の映像端末を開発する⽶ベンチャー、オキュラスVR
を買収しました。ゴーグル型映像端末は先⽇開催された東京ゲームショーでも⼤⼈気でし
たが、同社では目の網膜に直接映像を投影する実験も⾏っているそうです。その映像は本
⼈にしか⾒えませんから、⾯⽩いと思いませんか。ゲームだけでなく、セキュリティのア
プリケーションなどさまざまな分野に応⽤することが考えられます。
また、⽶ベンチャー、EMOTIVがつくっている脳の信号を計る「EPOC+」というウェ
アラブル機器があります。これを頭に装着すると、今集中しているかどうか、ストレスの
レベルはどれくらいか、今⾒ている⼈やモノが好きか嫌いかといったことがわかります。
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10年前は300万円もするものでしたが、現在は3万円で買えます。さらに5年後には3000
円程度になり、他の製品の付属機能になっていることでしょう。
こうしたユニークで⾰新的な技術をどのようにシステム化し、いかに儲かるしくみにす
るか、それを考えるのが「システムシンキング」です。たとえば前述した「EPOC+」
と、⾃分のジェスチャー・⾳声認識によって操作できるマイクロソフトの「キネクト」と
を組み合わせて、⾼齢者⽤の健康促進ツールにするというのもアリかもしれませんね。
「義理の⺟」に質問攻めにあうような
システムではNG
システムを作るにあたって、忘れてはいけないことは「シンプル・イズ・ベスト」。誰
でもすぐに使いこなせるようにつくることが⼤事です。ただ、あのスティーブ・ジョブズ
が⾔ったとおり、「シンプルにつくるのが⼀番難しい」のです。
マイクロソフトのビル・ゲイツは、シンプルにつくることの重要性を社員に⽰すために
「義理の⺟テスト」を⾏っています。ところで、マイクロソフトの社員にとって⼀番⾟い
ことは何だと思いますか︖
それは、親戚の⼈たちから電話が掛かってきて、⾃社製品の使い⽅を聞かれること。そ
ういう電話があるのは使い⽅がわかりにくい証しですから、社員にとっては⾃社製品の⽋
点を指摘されるようなものです。なかでも、⼀番気を遣うのは「義理の⺟」、つまり妻や
夫の⺟ですね。
もちろん、「義理の⺟テスト」はジョークなんですけど、要するにビル・ゲイツは「⾯
倒な電話がかかってこないように、わかりやすく使いやすいシステムを構築しなさい」と
いうことを⾔いたいわけです。
こうしたユーザビリティがなぜ、⽶国では徹底され、⽇本では⾏き届いていないのか。
本来、⽇本⼈のほうがきめ細かな気配りができるはず…と⾸を傾げる⼈もいるかもしれま
せんね。
たしかに⽇常⽣活において、⽇本⼈は気遣いにあふれています。「灰皿を持ってきて」
と頼まれると、ライターも⼀緒に持っていきます。こういう気遣いは、⽇本⼈はとてもよ
くできているんですね。
東京オリンピック招致でも話題になったように、「おもてなしの⼼」は⽇本⼈のもつ美
徳の1つ。でも、残念なことに、その「おもてなしの⼼」がIT製品には反映されていませ
ん。
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それは、⽇本ではIT製品の開発に際して多様な意⾒を取り⼊れていないからにほかな
りません。技術者がオタク思考で開発したまま製品化されているため、普通の⼈には“使
いにくいシロモノ”になってしまっているのです。
⽇本でユーザビリティが
進化しないのはなぜか
製品づくりに関する、⽇本と⽶国の違いを象徴するエピソードがあります。
以前、私がある⽇本のメーカーと共同で「USBカメラ」を開発したときのことです。
カメラが作動している間にUSBコネクタを抜くと、PCがフリーズすることがわかりま
した。
我々が開発を担当したソフトの改良では改善できないため、ハードでの対応をお願いし
たのですが聞き⼊れてくれない。私の⼤反対も押し切って、メーカーは強引に発売に踏み
切りました。「作動中にUSBコネクタを抜くようなバカな消費者はいない」と⾔うので
す。確かに、⽇本ではそれは正解でした。
でも、⽶国⼈は違います。⾃分勝⼿に平気で抜くんですね。⽶国では抜く⼈がたくさん
いてクレームが殺到し、結局、商品はリコールになりました。
⽶国では、電⼦レンジの取説に「猫を⼊れるな︕」という注意書きがあります。これは
アメリカンジョークではありませんよ。シャンプーした猫を乾かすために本当に⼊れる⼈
がいるんです。
⽇本では、真⾯目で従順な消費者に⽢え、しかも狭い視野で開発を進めているため、い
つまで経ってもユーザビリティは進化しません。こうした未熟なシステム製品が次々出て
くるのは、今の⽇本企業が抱える製品開発の⼤きな問題点といえるでしょう。これではグ
ローバルな競争を勝ち抜けません。
開発チームにさまざまな考えの⼈がいて「こんなの使いづらいよ」という意⾒が出れ
ば、簡単に直せることも多いはず。多様性がない開発体制ではシステムシンキングも望め
ないでしょう。
多様な⼈に発⾔権を与えて
知恵を集めることが絶対必要
では、どうすればいいのか。解決策は、多様な⼈の頭脳を集結させること。技術者だけ
でなく、顧客窓⼝、クレーム応対などもチームに⼊らなければ、イノベイティブなシステ
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ムシンキングは⽣まれません。いろいろな経験を持つ⼈の知恵や意⾒を集められるチーム
でなければ失敗することは明らかです。
私は経営者たちが集う場によく参加しますが、そこでこんな質問を投げかけています。
「アップルが躍進するきっかけとなったiTuneとiPodのパーツは、ソニーには全部そろっ
ていました。やろうと思えば、すぐに製品化できたはずですが、できませんでした。どう
してだと思いますか︖」
それは、前述したような多様な⼈の頭脳を集結させた開発チームがなかったからです。
そうした開発チームがなければ、パーツだけあってもiTuneやiPodのようなシステムは⽣
まれないというわけです。おそらく、多くの⽇本企業がソニーと同じような課題を抱えて
いるのではないでしょうか。
「おもてなしのIT化」は
世界で通⽤する強⼒な武器になる︕
海外企業に格好の例があります。
たとえば、ボーイングでは開発チームに修理担当者も参加しています。運航にはメンテ
ナンスが不可⽋なため、機体がどういう構造であれば修理しやすいかという視点も、設計
の重要なポイントになるからです。いくら最新鋭の⾶⾏機でも修理に時間がかかれば航空
会社は買わないでしょう。
またマイクロソフトでは、開発チームにエンジニアだけでなくテスターも加わっていま
す。さらに、⼀般の⼈に操作してもらい、使い勝⼿を確認。ウィンドウズで主要な機能の
8割が2回のクリックで操作できるようになったのも、その成果だとされています。
⼀⽅、⾃動⾞の開発でも中⼼となりつつあるのは、デザイナーやエンジニアではなく⼼
理学者です。ユーザーの乗り⼼地や運転のしやすさ、事故を起こさせない操作性などをメ
ンタルな視点から検討し、製品に反映させています。
とくに⾃動⾞は今後IT化が急速に進み、システム製品になるでしょう。そうなれば、
パーツのすり合わせ技術で優位に⽴ってきた⽇本⾞メーカーの⽴場は苦しくなるでしょ
う。トヨタやホンダが今の地位をキープするには戦略の転換が必要です。
いまや製品開発は、従来の技術者だけのチームから、より多様なメンバーによるチーム
に変わってきています。
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ただし、そのメンバーが⽇本の組織にありがちなイエスマンばかりではダメ。多様な価
値観を持つ⼈たちが意⾒を⾔い合い、⾃由に議論できるチームでなければ意味がありませ
ん。
そこから⽣まれた「システムシンキング」に、⽇本の美徳である“おもてなしの⼼”が加
われば、より魅⼒的な製品やサービスが誕⽣するはず。おもてなしの⼼をIT化する「デ
ジタルおもてなし」が実現すれば、それは⽇本ならではの産物。世界で通⽤する強⼒な武
器になるでしょう。
※ご意⾒・ご感想は、齋藤ウィリアム浩幸⽒のツイッター @whsaito まで。
(構成/河合起季)
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