「幸せ」とは何だろう? 二つの物語を比べて読もう

中1
国語
№20
課題名 「幸せ」とは何だろう? 二つの物語を比べて読もう
付けたい読解力 ①「幸せ」という言葉の意味を深く,多角的にとらえる力
②「幸せ」という言葉について自分の考えを書く力
学習指導要領の領域・指導事項
第1学年
C読むこと
ウ
オ
『ザ・読解力』の活用 ここがポイント!
「幸せ」という言葉の意味を多角的にとらえるために,「読み比べ」「ワールド・カフェ」の手法
を使い,考え方の交流を通して言葉のもつ様々な意味をとらえられるように単元を工夫しました。
「幸
せ」という言葉を用いて,言葉は状況や場面の違いによって様々な意味を持つことを理解させます。
その上で意見を交流し合うことによって自分の考えを広げさせることが重要だと思います。和やか
に,ゆったりとした時間の流れの中で交流させられるような雰囲気づくりも必要です。
単元の指導計画と評価計画
観点
国語への
読む能力
言語についての知識・理解・
関心・意欲・態度
技能
評価規準 ①「幸せ」という言葉の意 ①本当の「幸せ」とは何かと ①語句の辞書的な意味と文脈
味を考えながら,二つの
いうことを考えるために,
上の意味との関係に注意
物語を読もうとする。
(関)
場面の展開や登場人物など
し,語感を磨くことができ
の描写に注意して読んでい
る。(伝国(1)イ(イ))
「ワールド・カフェ」
ファシリテーションの手法の一つ。
小グループ内で自由に対話し,自由
に模造紙に書き込みます。一定時間
で,1名だけを残し,残りのメンバ
ーは別々のテーブルに移動し,新た
な小グループを作ります。これを任
意の回数繰り返します。
詳しくは,96ページを参照して
ください。
る。(C読(1)ウ)
②二つの物語を読み比べたり,
物語中の言葉と自分が生き
る現実とを比べたりするこ
とで,文章に表れているも
のの見方や考え方をとらえ,
自分のものの見方や考え方
を広くしている。(C読(1)
オ)
時
主な学習活動
読解力向上・言語活動に関する
指導上の留意点
1 ・「幸せ」を定義する。
・生徒が感じる「幸せ」をノートにまとめさせる。
・「雪とパイナップル」を「幸せ」という言葉 ・場面の展開や登場人物の描写に注意させる。
に着目しながら読む。
・母親の思いを想像しながら「幸せ」の言葉の意
・「雪とパイナップル」の母親は何を考え,何
を思って我が子を幸せだと言ったのか,自
味を考え,発言できるようにノートにメモさせ
る。
分なりに考える。
2 ・ワールドカフェ方式で「雪とパイナップル」 ・リラックスした雰囲気の中で考えを交流させ,
の「幸せ」について対話する。
「幸せ」の意味について自分の考えを広げさせる。
3 ・「大人になれなかった弟たちに……」を「幸 ・場面の展開や登場人物の描写に注意させる。
せ」という言葉に着目して読む。
・母親の思いを想像しながら「幸せ」の言葉の意
・「大人になれなかった弟たちに……」の母親
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味を考え,発言できるようにノートにメモさせ
は何を考え,何を思って我が子を幸せだと
る。
言ったのか,自分なりに考える。
4 ・ワールドカフェ方式で「大人になれなかっ ・リラックスした雰囲気の中で考えを交流させ,
た弟たちに……」の「幸せ」について対話
「幸せ」の意味について自分の考えを広げさせ
する。
る。
5 ・2篇の物語を参考にしながら,「幸せ」とは ・2編の物語の「幸せ」に触れながら作文させ,
どんなものであるのか,作文する。
「幸せ」について考えたことを400字にまとめ
させる。
単元の導入部
単元の導入部 ここがポイント!
■今,生徒たちがどんな時を幸せだと感じているか話し合わせたり,「こんな状況でこんな幸せそ
うな姿を見たことがある」ということを発表させながら,生活の中での幸せに目を向けさせます。
今みなさんは「幸せ」ですか。あなたはどんなときに「幸せ」だと感じ
ますか。あなたが生きているこの世界の中で,「幸せ」とは何ですか。
好きな音楽を一日中聴いていられたり,好きな映画をゆっくり見られたと
きは,幸せだなって感じます。
スポーツ選手が大事な試合で勝ったときの様子をテレビなどで眼にする
と,嬉しいだろうなとか,幸せだろうなって思います。
「幸せとは運がよいことだ」と辞書には書いてありますが,今のみん
なにとって「幸せ」とは何ですか?
僕にとって幸せとは,「自由であること」です。
私にとって幸せとは,「家族や友達と笑っていられること」です。
では,「雪とパイナップル」という作品を読んでみましょう。作品中に
アンドレイという少年が登場します。この少年は,「幸せ」ですか?
ザ・読解力の35ページの点線の枠中にある①~⑦を参考にしてみまし
ょう。
まずは自分なりにこの物語中の「幸せ」に関する考えを固めておき,次
回のカフェで話せるように準備をしましょう。
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この時間・この場面がポイント
ここがポイント!
■ワールドカフェ方式で,物語中の母親が何を考え,何を思って我が子を幸せだと言ったのか,自
分の考えを交流し合います。その中で,幸せの意味を多角的に考えられるようにします。
過程
学習活動
指導上の留意点
評価
導入
1.学習課題(「母親が何を考
・学習課題を確認し,板書も
・学習課題を理解すること
え,何を思って我が子を幸
しておくことで学習の目的
せだと言ったのか」意見交
を適宜確認できるようにし
換をする)を確認する。
ておく。
2.ワールドカフェ方式の注意
事項を確認する。
・ワールドカフェ方式(リラ
ックスした雰囲気をつくる
ができる。
・注意事項を理解すること
ができる。
こと,会話すること,落書
き風でも絵でも図でも何か
の方法で自分の考えを伝え
ること,相手を批判しない
こと,相手の考えをもち帰
ること)
・落書きシートの用意
カフェのホストは学習課題から話題がそれないように気をつけてください。
では,ワールドカフェの心構えを確認します。
出してくれた考えを基本的には全部認めるつもりで,肯定的に聞くことが
大切です。
自分の考えを広げることも大切だから,仲間の意見を自分のものにしよう
という心構えも大切です。
今回のワールドカフェのルール
①課題の確認(5 分):中心に据える話題を全員で確認する。
②第1ラウンド(10 分):4人1グループ。ワールドカフェ・ホスト(1 名)は話をリードする。
ホスト以外の3名は第1ラウンド終了後に新たな視点を得るために他のテーブルに移動する。落
書きシートに書き込みをしながら,リラックスした雰囲気で意見交換をする。
③第2ラウンド(10 分):新たなグループで意見交換を行う。ワールドカフェ・ホストは第1ラウ
ンドで話し合われたことを他のワールドカフェからのゲストに説明する。
④第3ラウンド(10 分):全てのワールドカフェをまわり,落書きシートの書き込みを見る。新た
な考えを集める。
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過程
学習活動
指導上の留意点
評価
展開
3.ヒロユキの母親が何を考
・
「幸せ」の言葉の意味を多角
・
「幸せ」の意味を交流し,
え,何を思って我が子を
的に考えさせられるように,
自分の考えを広げること
幸せだと言ったのか,自
適宜メンバーの組み合わせ
ができる。
分の考えをワールドカフ
を変える。
ェ方式で交流し合う。
ヒロユキの母親は何を考え,何を思って我が子を幸せだと言ったのでしょう
か。自分の考えを出し合ってみましょう。
僕がこのカフェのホストです。ヒロユキ
の母親は,どうして「ヒロユキは幸せだっ
た」と言ったのでしょうか。
わたしは,ヒロユキが母と兄とお医者さん,
看護婦さんにみとられて死んだことが,我が
子を幸せだと言った理由だと思う。
空襲の爆撃で家族がばらばらに逃げ惑いな
がら死ぬことを考えれば,幸せな死に方だと
言ったんだと思う。
「ヒロユキは幸せだった」って…,こん
な我が子の死に方を幸せだと言わなければ
ならないお母さんって,つらいと思う。
では,いったんカフェを閉めてください。ゲストは移動しましょう。
それでは,第2ラウンドをはじめてください。
わたしがこのカフェのホストです。ヒロユキはお
兄さんの「僕」にかわいがってもらったんだよね。
そのヒロユキのミルクを飲んでしまったっていう罪
悪感って,相当のものがあったように思う。
「ヒロユキは幸せだった」って,「僕」に
向けた言葉なのかもしれないね。お母さん
が「僕」を気遣って言ったのかもしれない。
「ヒロユキは幸せだった」って言葉がお兄さんの「僕」に向けられていたかも
しれないという考え方はわたしにはなかったな。
97
過程
学習活動
指導上の留意点
評価
終末
4.全てのカフェで話された
・
「幸せ」の言葉の持つ意味を
・「幸せ」の意味を多角的
内容が書き込まれたシー
自分なりにどう考えるかを
に考えることができる。
トを見てまわり,さらに
念頭に置きながらカフェを
「幸せ」の言葉の持つ意
まわらせる。
味を広げる。
第2ラウンドを終了してください。ここからは自由に各カフェをまわって,
どんな意見が交流されていたのかを見に行ってみましょう。
そうかあぁ。こういう見方や考え方があるんだな。同じ「幸せ」という言葉で
もたくさんの意味を持っているんだなぁ。
「ヒロユキの母親が何を考え,何を思って我が子を幸せだと言ったのか」
ワールドカフェで交流された生徒の考え
静かに死ぬことができたから。みんなに見守られたから。みんなにみとられたから。安らかに眠れ
たから。バラバラにならなかったから。最後まで母と兄が一緒だったから。ヒロユキが死ぬ前にき
れいな景色を見せられたから。みんなに思ってもらえたから。爆撃ではなく,死ねたから。兄とい
っぱい遊べたから。母と兄とお医者さん,看護婦さんに見守られて死ねたから。ヒロユキは甘い甘
いミルクを飲めた。楽しく遊べた。兄にかわいがってもらえた。家族に愛されていたから。ヒロユ
キが死ぬ前に,世界は広いことを田舎に行くことで見せてあげることができたから。私の所に生ま
れてきたから。兄を安心させようとした。母が兄をかばった言葉。僕がミルクを飲んでしまったこ
とに対して,自分を責めているから。ヒロユキは誰にも憎まれない存在だった。兄を落ち込ませな
いように母が言った。
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単元の終末部
単元の終末部 ここがポイント!
■今回,「幸せ」について考えたことを書いてまとめる際に,さまざまな意見を聞いた中で自分は
「幸せ」という言葉の意味を最終的にどう考えるかという点を明確にさせておくようにします。
簡潔に一文で「幸せとは~である。」とまとめられるとよいと思います。自分が考える幸せという
言葉の意味を単純なものにしておくことで,交流の際に友達と考え方を比べやすくなります。
これまで考えてきた「幸せ」の意味をまとめてみましょう。きっと,最
初に考えていたものとは変化してきていると思いますが,どうでしょうか。
400字の原稿用紙1枚にまとめます。
1段落目に「雪とパイナップル」から考えられる「幸せ」について,2
段落目に「大人になれなかった弟たちに……」から考えられる「幸せ」に
ついて,3段落目に「幸せ」の意味を自分なりに考えてまとめるという構
成で書いてみてください。
○「幸せ」とは…(生徒の最終的な考え)
小さな願いが叶うこと。もし,自分って愛されているなぁと思ったら,それが幸せなのだと思う。
みんなに愛されることだ。自分が苦しいときに周りに助けてくれる人がいて,自分のことを気にか
けてくれる人がいること。人に愛されるということ。多くの人に大切だと思われること。大切に思
ってくれる人がいること。自分が人の心に残ること。みんなに愛されること。今生きていること。
一人ひとりで違うものである。自分のことを大切に思ってくれる人が身近にたくさんいること。家
族みんなに愛されながら平和に生きていくこと。今生きていること,家族に大切にされること。幸
せと感じること。みんなに見守られて生きること。自分が死んだことを悲しんでくれる人がいるこ
と。戦争もなく平和に,当たり前の生活が出来ること。何でもできること。愛されていること。尽
くしてくれる人がいること。自分のことを大切に思い,尽くしてくれる人がいること。たくさんの
人に愛される優しさ。
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実践を終えて
実践を終えての成果と課題
○成果として,生徒に「言葉」はさまざまな場面や状況によって,辞書で説明されている言葉の
意味以外の意味を持つことを体感させることができました。また,二つの物語に共通して使わ
れている言葉の意味を,状況を比較しながら考えさせることができました。交流の方法として,
ワールドカフェの手法を用いることで,和やかな雰囲気の中で意見交換をさせることができ,
生徒たちはさまざまな角度から考え方を交流していました。生徒それぞれが考える「幸せ」の
意味を広げ合うことができていました。
○課題としては,作品をゆっくり読み込む時間をとらなかったことで,内容を全て把握しきれな
い生徒もいたために,ところどころで補足説明を加える必要性を感じる場面がありました。し
かし,カフェを取り入れたことで,きちんと読めている生徒が自ら説明をしてあげている様子
もありました。
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指導主事からのコメント
○「読解力」の向上という本事業の趣旨を考えたとき,この実践のポイントは,二つのテキストを
読み比べることで,思考する場面を生み出すということだと思います。単元のはじめから「幸せ」
という言葉を意識させ,学習活動への目的意識をもたせます。「幸せ」とはどういう状況・境遇を
意味するのか,今の自分は「幸せ」かどうかなどについてしっかり考えさせた上で,二人の母親
が共に「幸せ」だと言うこの矛盾・疑問を単元の大きな「課題」とします。その課題解決のため
に二つの物語を比べて読むことを「単元を貫く言語活動」として設定することで,生徒たちが主
体的に学習活動に臨むことをねらっています。
○実践者のコメントの中に「作品をゆっくり読み込む時間をとらなかったことで,内容を全て把握
しきれない生徒もいたため,ところどころで補足説明を加える必要があった。」という指摘があり
ました,これは「単元を貫く言語活動」を設定するときに不安になることの一つだと思います。
実際,ワールドカフェで考えを交流する場面で,「僕がミルクを飲んでしまったためヒロユキを死
なせてしまったが,僕は反省しているから母は僕をかばってヒロユキを幸せだと言った」という
ような,誤読といえる考えが出されたようです。そういう場合は,誤りをしっかり指摘し,なぜ
誤りなのかを本文の叙述に返って確かめる必要があります。つまり,本単元の評価規準に照らし
合わせると,ここで大事なことは「場面の展開」「登場人物の描写」に注目して「幸せ」とは何か
という課題について考えているかどうかということです。このポイントがぶれてしまうと,自分
なりの考えならば何でも認められしまうような誤った授業になり,単元を貫く言語活動と切り離
された「読み」になってしまうおそれがあります。これは,かなりの注意が必要です。
○本単元では,思考する場面,考えたことを交流しさらに思考を深める場面で,ワールドカフェと
いうファシリテーションの手法を効果的に取り入れているため,言語活動がより主体的,能動的
に行われています。是非,参考にしてみてください。
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