第52回 徳洲会奄美ブロック 研修医勉強会 2016.5.21(Sat.) 名瀬徳洲会病院 糖尿病診療Up date ~コントロール不良の糖尿病患者の1例 ほか糖尿病患者の診療を経験して~ 八尾徳洲会総合病院 2年次研修医 原田 彩奈 瀬戸内徳洲会病院 正高 祐志・成松 裕之・朴澤 憲和 症例 62歳 男性 【主訴】血糖コントロール目的 【現病歴】 ◆アルコール依存症で精神科入院歴のあるADL良好な方。 ◆4年前に2型糖尿病と診断され、血糖降下薬による内服治療:ジャヌビア +グルファストが開始となったが自己中断していた。 ◆1年前にアルコール依存症のため精神科病院に入院した際に 空腹時血糖150mg/dL, HbA1c 10.6と上昇を認め、食事療法と BOT療法(Basal-oral therapy):ランタス+グリメピリド+テネリアで 治療再開となった。 症例 62歳 男性 【現病歴】 ◆入院1か月前 自宅内で転倒し左橈骨遠位端骨折を発症、糖尿病 コントロールに関して当院内科にコンサルトがあった。 ◆術前は食事療法とインスリンスライディングスケールで対応、その後 他院で手術施行された。 ◆術後に血糖コントロール目的に当院入院となった。 【既往歴】 膵仮性動脈瘤、慢性膵炎、アルコール性肝障害、アルコール性膵炎、 胃潰瘍、慢性閉塞性肺疾患、陳旧性結核、左上葉洞陰影 【内服歴】 キネックス50mg 3包/分3 酸化マグネシウム330mg 3包/分3 牛車腎気丸 2包/分2 抑肝散 2包/分2 センノシド12mg 2錠/分2 リボトリール0.5mg 2錠/分2 ヒューマリンR (4-2-3) ランタス (0-0-0-2) 【嗜好歴】 喫煙:40本/日 10か月前に喫煙 飲酒: 3合/日 10か月前に禁酒 食事は宅配弁当であり、間食なし 【アレルギー】 食物、薬剤ともになし 診察所見 【バイタルサイン】 意識:清明, GCS 15. BP : 108/62 mmHg, HR:64/min. RR <20/min. BT:36.2℃ SpO2:98%(室内気) 【身体所見】 ・頭頸部:眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染あり ・胸部 :呼吸音 清、心音 整 心雑音聴取せず ・腹部 :平坦 軟, 腸蠕動音良好. 圧痛なし. ・四肢 :下腿浮腫なし 足潰瘍なし 両側足部にしびれあり ・末梢血管:左右差なし 触知良好 ・神経学的所見:脳神経Ⅱ-ⅩⅡ異常なし、膝蓋骨/アキレス腱反射正常 両側内顆で振動感知せず、脛骨内側上顆で振動覚低下 ・眼底 :白内障のためか透見できず 採血結果 CBC******** WBC 4470/μL Neut. 47.6% Eo. 5.1% Mono. 11.9% Ly. 34.7% Baso 0.7% RBC 378×10⁴/μL Hb 11.8/μL MCV 90.5fl Plt 25.5×10⁴/μL 生化学******* Glu 154mg/dL HbA1c(NGSP値) 8.2 AST 48IU/L ALT 37IU/L ALP 426IU/L LDH 167IU/L γ-GTP 23U/L T-Bil 0.4mg/dL TP 6.5g/dL ALB 3.5g/dL TC 147mg/dL TG 54mg/dL HDL-Cho 61mg/dL LDL-Cho 68mg/dL Na 138mEq/L K 4.9mEq/L Cl 105mEq/L BUN 11.3mg/dL Cre 0.58mg/dL 採血結果 尿検査***** 尿蛋白 (-) 尿糖 (-) 赤血球 <1/HPF 白血球 <1/HPF インスリン 7.3 Cペプチド 1.0ng/mL FT4 1.40 TSH 1.130μIU/mL 抗GAD抗体/EIA 5.0未満 インスリン抗体 61.7% コルチゾール 12.4μg/dL 心電図 胸部レントゲン検査 病態 #インスリン分泌能 HOMA-β=28.9% c-peptide Index=0.65 #インスリン抵抗性 HOMA-R=2.78 >20% 分泌能低下 <0.8 分泌能低下 >1.73 抵抗性あり →インスリン使用中のため、HOMA-βとHOMA-Rは参考程度 C-peptide Indexより内因性の分泌能低下が考えられた 糖尿病合併症 網膜症:入院中の眼科受診で網膜症なし(NDR) 両側で白内障認める 腎障害:糖尿病性腎症第1期 eGFR 158 尿蛋白:2mg/dL 尿アルブミン:8.3mg/g・cr 神経障害:足部にしびれあり、膝蓋腱/アキレス腱反射正常 両側内顆振動触知せず、脛骨内側上課振動覚低下 MNSI:3点(8点満点、2点以上で神経障害あり) 血糖7検 朝食前:165 朝食2時間後:303 昼食前:246 昼食2時間後:298 夕食前:182 夕食2時間後:224 就寝前:263 治療経過① ランタス4単位(就寝前)+ ビグアナイド系(メトホルミン)750mg投与開始 治療経過② 1週間経過観察後 血糖:90(朝食前)-232(昼食前)-206(夕食前)-236(就寝前) ランタス4単位(就寝前)+メトホルミン 1250mgに増量。 治療経過③ 食事療法への意欲は高く、むしろかなり真面目な方で、入院中食べた もののカロリーを調べ記載しているほど几帳面であった。 ただし、あまり厳しくしすぎると退院後実行が困難となりうること、 0か100かの思考になりやすくうまくいかなくなると暴飲暴食などする 可能性も考えらえた。 そのため、1日1つ食べたいものを挙げてもらい、可能な限り許可しな がら血糖管理を行っている。 糖尿病の定義と分類 【定義】 インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を 主徴とする代謝疾患群 【分類】 1型:自己免疫によってインスリンを合成・分泌する 膵ランゲルハンス島β細胞が破壊されインスリンが 絶対的に不足 2型:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性により インスリンが相対的に不足 糖尿病の診断 ①空腹時血糖値≧126mg/dL ②75gOGTTの2時間血糖値≧200mg/dL ③随時血糖値≧200mg/dL ④HbA1c≧6.5%(NGSP値) ①~③のいずれかと④で糖尿病と診断される HbA1cのみが反復して高くても、糖尿病との 確定診断にはならない。 糖尿病の治療目標 最終目標:QOL、寿命を保つ ↑ 合併症(細小血管、大血管)を予防 DKAなど致死的な高血糖を予防 ↑ 血糖コントロール 血糖コントロール目標 目標 血糖正常化を 目指す際の目標 HbA1c 6.0未満 合併症予防の ための目標 7.0未満 治療強化が 困難な際の目標 8.0未満 (1)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2014-2015 糖尿病病態評価の指標 インスリン分泌能の指標 ★HOMA-β=360×空腹時インスリン値/空腹時血糖値-63 正常値40-60 30%以下 インスリン分泌低下 ★CPI(C peptide index) = 空腹時CPR×100/空腹時血糖値 1.2以上正常 0.8以下でインスリン分泌低下 ★蓄尿のC-peptide検査 インスリン抵抗性の指標 ★HOMA-R=空腹時血糖値×空腹時インスリン値/405 1.6以下正常 2.5以上抵抗性あり 糖尿病の治療 ・食事、運動療法 ・経口血糖降下療法 ・インスリン療法 ・強化インスリン(Basal-Bolus)療法 ・追加インスリン療法 ・BOT療法 上記のような治療があるが、2型糖尿病患者で最も死亡率を下げる治療は 禁煙であるとの報告(2)もあるように、生活指導が最も重要である。 (2) Am Fam Physician. 2014 Fed 15;89(4):256-258 糖尿病の治療 BOT療法: 経口血糖降下薬+持効型インスリン BOT療法 6 持効型インスリン ランタス4単位 5 4 経口血糖降下薬 メトホルミン2T 経口血糖降下薬 メトホルミン1T 経口血糖降下薬 メトホルミン2T 3 2 1 0 朝食前 昼食前 夕食前 就寝前 考察:血糖降下療法を行う意義 Intensive glycemic control prevents microvascular disease in patients with type 2 diabetes (3)Lancet.1998 Sep 12;352(9131):837-53 考察:高齢者の血糖降下療法に関して 高齢者の2型糖尿病 • 厳格な治療をしても少なくとも10年間は大血管合併症を減らす 効果はない。 • 少なくとも8年間は細小血管合併症を減らす効果はない。 • 低血糖のリスクを1.5-3.0倍上昇させる 65歳以上の高齢者についてはHbA1c7.5-9.0で コントロールするのが 最も有益で最も有害が少ない (4)JAMA.2016;315(10):1034-1045.doi:10.1001/jama.2016.0299 結語 コントロール不良の糖尿病の1例を経験した 何故糖尿病は治療するのか、治療目標はどう設定するかを考える 良い機会だった 病態把握し、患者に一番合った、また帰宅後も続けられるような治療を 選択することの重要性を学んだ。 参考文献 (1)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2014-2015 (2)Lending a hand to patients with Type 2 Diabetes : A simple way to communicate treatment goals. Am Fam Physician. 2014 Fed 15;89(4):256-258 (3) Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes. Lancet.1998 Sep 12;352(9131):837-53 (4)Polypharmacy in the Aging Patient.A Review of Glycemic Control in Older Adults With Type 2 Diabetes. JAMA.2016;315(10):1034-1045.doi:10.1001/jama.2016.0299
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