56 No. 2005 SEPTEMBER (財) 国際労働財団 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3−23−2錦明ビル5F TEL.03−3288−4188 FAX.03−3288−4155 URL:http://www.jilaf.or.jp E-mail:[email protected] ネパールにおける現地支援事業と ネパールの情勢 <2005年度事業運営> が課題である。NTUC側と 2005年度JILAFのネパールでの支 しては建設業で働く労働者 援事業は、「非正規学校の運営」と「労 を対象とした労働安全衛生 働安全衛生(POSITIVE)の促進」を に重点をおいて活動を進め 大きな柱とし、NTUC(ネパール労働 ていくことにしており、そ 組合会議)をカウンターパートとして のため今年度のJILAFの支 実施している。 援は、コアトレーナーのト 学校運営については、早速2005年5 レーナ−としてのスキルア 月9日∼15日の間で今年度の非正規学 ップを中心に支援を実施し 校における授業内容について教師が講 ていくこととなっている。 ▲教師会議 義を受ける「教師会議」と、いかにう まく学校を運営していくかを協議する 状況となっている。また、マオイスト <ネパールの情勢等について> の状況については、2002年をピーク 「学校運営会議」がカトマンズ市内で開 今回のネパール訪問では在ネパール に勢力は落ちてきているものの、国王 催され、JILAFから阿部副事務長、ネ 日本大使館の冨田晃次一等書記官、 とマオイストとの対立は引き続きつづ パール在住の和田フィールドマネージ JICAネパール事務所の小林健一郎さん いており、さらに激化する恐れもある。 ャー、元林の3名が参加した。 を訪問してネパールの現状、日本政府、 さらに、日本のネパールに対するODA JICAのネパールでの対応についてお話 の支援については、ネパール側からの をうかがった。 「保健 ニーズもあり、特に「初等教育」、 学校運営会議では昨年の運営状況に ついて各校からレポートがあり、国の 政治、経済が不安定な関係から「休校 在ネパール日本大使館の冨田さんか 関係」については日本政府としても可能 に し な け れ ば い け な い 日 が あ っ た 」、 らは、ネパールの治安状況について、 な限り支援していくとのことであった。 「学校の場所を変更しなければいけなか 2005年2月1日の国王による直接統治 JICAネパール事務所の小林さんから った」等の報告がされた。また今年度 以降、カトマンズ盆地では安全性は以 は、「国王とマオイストの対立により本 の運営については10校の非正規学校の 前より高まっているが、他の地域では 当に支援の必要な地域の安全性が確保 運営を行うことになっており、確実な 郡庁から離れた地方ではかなり危険な されないので、専門家を派遣できず非 運営に向けて「運営規則の改定、確認」 常に残念である」と話があった。また、 「授業日程の確認」等をおこなった。危 JICAのネパールへの支援の一つとし 険な地域で運営される学校もあり安全 て、ネパール政府に対し、非正規学校 面で少し心配な点もあるものの、 の運営方法等についてサポートを行っ JILAFとしてもしっかりモニタリング ているということであった。 を実施して指導等を行っていきたい。 今後もJILAFとして引き続きNTUC 労働安全衛生については、JILAFか をカウンターパートとして支援を実施 らの支援期間が残り2年となり、NTUC としていかに自立した運営ができるか することにより、ネパールが民主的な ▲れんが工場で働く子ども 国家運営を行えるように願っている。 ──➊ 東南アジア・南アジアチームを招聘 JILAFは、2005年5番目のチームとして、東南アジア・南ア るために連合山梨を訪問 ジアチームを7月21日から8月3日の14日間招聘した。チー した。産別訪問として自 ムのメンバーは、ICFTU−APRO(1名)、カンボジアCTUCC 動車総連、傘下の日産車 (2名)、インドから2組織HMS、INTUC(各1名)、インドネシ 体 ㈱ 湘 南 工 場 を 訪 問し アから2組織、ITUC、KSPSI(各1名)、マレーシアMTUC(1 た。また、どのチームも 名)、シンガポールNTUC(1名)、スリランカCWC(1名)、東 必ず広島か長崎を訪れて ティモールTLTUC(1名)であった。 平和運動と労働組合との JILAFは、1989年設立以来、アジア諸国を中心に労組指導 関わりについて学ぶ機会 者を招聘してきた。インド、スリランカはJILAF設立以来、マ を設けているが、今年は、 レーシア、インドネシア、シンガポールは、1991年から、新し 戦後・被爆60年の節目にあたり、様々な催しも行われていた中 い組織であるカンボジアと東ティモールは、2003年から招聘 での広島訪問は参加者にとって忘れられない訪問となった。平 してきている。今までアジア諸国からJILAFプログラムに参加 和記念資料館や平和公園の視察で、悲惨な状況を目の当たりに した労働組合リーダーは、各国の労働運動において活躍して し、深い衝撃と哀しみを感じ、このような悲劇を二度とおこさ いる。 ないためにも、それぞれの国で連合の平和運動、活動を支持す 今回も通常の招聘プログラムをベースに、労働講義や連合訪 るとともに、核兵器廃絶を訴えていきたいと口々に語っていた。 問などでは、日本の労働運動の歴史や活動、労働法制、労使関 また、組織化やパートタイム労働者等の問題など各国共通の 係などについて研修した。また厚生労働省訪問では、労働行政 問題についても、自国での今後の活動に活かしていきたいと各 一般や労働組合と行政との関わりなどについて、社会経済生産 訪問先や参加者同士でも意見交換を行っていた。今後もそれぞ 性本部では、各国でも展開している生産性運動について、それ れの参加者が各国労組の中心的リーダーとして活躍していくこ ぞれに知識を深めることができた。地方連合の活動を理解す とを期待する。 JILAFの調査研究活動について JILAFは1998年以来、雇用・能力開発機構からの受託業務 うため、去る7月、労働問題研究会を開催してそれぞれのテー として、労働問題に関する調査研究活動を実施している。当 マについて発表を行った。後者においては、電機連合、情報 調査研究に携わる委員には、学界、産業界、労働界から労働 労連、情報産業サービス協会のご協力をたまわり、多数の関 問題に造詣の深い専門家が名を連ね、国際的な視点から実情 係者のご出席をいただいた。この場を借りて御礼を申し上げ を分析し、日本の雇用政策に提言を行うための報告書を作成 たい。 している。 2005年度の研究テーマは「NPOによる雇用創出と雇用の 昨年度の研究テーマは「コミュニティビジネスによる雇用 質をめぐる国際比較調査研究」。わが国で特定非営利活動促進 創出に係る国内外の好事例」と「情報サービス業における雇 法、いわゆるNPO法が施行されたのは1998年12月。以来 用管理」の二つ。研究内容をより多くの関係者に知ってもら NPO法人数は着実に増え続け、2005年1月現在、その数は2 万を超えている。だが現状、わが国のNPOは雇用の促進にお いて十分な役割を果たしているとは言い難い。失業率の低減 を図るためにもNPOで働く者の割合を上昇させることは、わ が国にとって重要な課題といえる。そこでJILAFは、これまで の豊富な海外調査の経験と海外の人脈を活かして海外の好事 例を調査し、国内と比較した上でNPOによる雇用創出の量的 効果、質的意義の両側面から報告書を作成する。海外の主な 調査先はNPO先進国であるオランダ、アメリカ、イギリスな ▲「情報サービス業における雇用管理」発表会の様子。講師は主査を務 めた今野浩一郎学習院大学教授 ❷── どである。報告書が雇用問題解消の一助となることを願う。 JILAF NEWS LETTER 回 「南ア労働組合会議(COSATU)の存在感」 廊 南アの有力各紙が連日のように活動を報じ 一つは、優秀な活動家が政界に流出すること るCOSATU(組織人員約170万人、以下 により、(未来の)リーダーシップが欠如し 「C」)は、その社会的存在を誰もが認める当 つつある点である。二つとして、かつては打 国最大のナショナル・センターである。「C」 倒アパルトヘイトに向けて命懸けで活動して はアパルトヘイト時代、組合員の賃金・労働 きた同志が政府要職と組合幹部のそれぞれの 条件等の改善に尽力してきただけでなく、非 立場で対峙しているため、政府の政策遂行面 白人市民の代表として反アパルトヘイト闘争 (失業対策、HIV/エイズ対策、経済再生政 策等)で折り合わないことが多々あることで に命懸けで参画してきた。 齋藤 P R O 「C」は民主化以降も与党ANC(アフリカ 亮 F I L E 在南アフリカ共和国日本国大使館書記官 (内政・レソト王国担当) 1973年東京都生。 1998年∼2002年、NTT労組東京支部 執行委員を務める。その間、JILAFに出向 し、支援事業の任にあたる。 2002年6月よりNTT労組コミュニケー ションズ本部執行委員。2002年9月か ら外務省に出向。 2003年1月よりNTT労組コミュニケー ションズ本部特別執行委員。現在に至る。 ある。三つとして、組織率の低下である。本 民族会議)が形成する「三者同盟」の一員と 部組織局によれば、04年だけでも10万人以 して政府の重責を担い、その社会的影響力を 上の組合員を失ったという。理由は一向に改 堅持し続けている。94年の第1回総選挙では、 善されない高失業率(約37%)と非典型雇 数十名の現役活動家が政界に転出、シロワ前 用化である。これに対し、「C」は組合員が 「C」事務局長が首都プレトリア及び南半球最 受益できる様々な利益をパートタイム労働者 大の商業都市ヨハネスブルグを擁すハウテン にも拡大し、組合費を満額支払えない産別に 州首相を務めていることからも、「C」と政府 は補助制度等を設けるなどして何とか組織率 の結びつきが想像以上に強いことが窺える。 の低下に歯止めをかけようと努力している。 他方、「C」が抱える懸念もいくつかある。 労働組合で取り組む国際協力 No. 8 中国黄土高原ワーキングツアー O F S(オリエンタルランド フレンドシップ ソサエティ) 酒井成治チェアマン 東京ディズニーリゾートの運営を担 地球ネットワークに協力する形でこの らわざわざ木を植えに人がやってくる うオリエンタルランドの労働組合・オ 活動を開始した。背景には組合員の間 からには何か重要な意味があるに違い リエンタルランド フレンドシップ ソサ に社会貢献への欲求が高まっていたこ ないと考えてくれるからだ。木が育つ エティ(以下OFS)は今年4月、第5回 とがあった。ツアーの実施により、横 のと同時に、木を大切にする気持ちも 目となる中国黄土高原ワーキングツア のつながりが緊密になるという予想外 育っている。 ーを実施した。参加者23人は沙漠地帯 の効果も見られた。日本とはまったく 人の意識を変えるには現場に人が行 の村の民家に通訳なしで滞在し、現地 違った過酷な環境の中で朝から晩まで って体を動かすことが大事――OFSの の人々と交流を図りながら植樹作業に 寝食を共にすることで、自然と強い一 活動は組合運動の原点を私たちに教え 汗を流した。 体感が醸成されるのである。歴代の参 てくれた。 「ツアーの直接の目的は沙漠の緑化。 加者に声をかけてパーテ だが一週間の日程で植えられる木の数 ィを開催すると、毎年多 は限られている。重要なのはむしろ沙 くの人が集まるという。 漠という過酷な環境で生きる人々の生活 ツアーはまた現地の人 や自生観を通してメンバーが生きがいや にも良い影響を与えてい 真の幸せについて考えるきっかけを得 る。緑化活動の意義を言 ること」酒井チェアマンはそう語った。 葉で伝えるのは難しい OFSはイオン労組、サントリー労組 が、植樹作業を目の当た の取り組みを参考に、NGO法人・緑の りにした人々が、日本か ――❸ JILAF NEWS LETTER インド・スタディーツアー参加報告 ∼NTT労働組合西日本本部・山中恵子∼ NTT労働組合西日本本部は、「児童労働撲滅」を国際活動の な児童労働から離れ、 主要テーマとしている。この度、JILAFにコーディネートを依 輝く目を取り戻した 頼し、5月27日から9日間、役員からなる調査団をインドへ 子どもたちに会うこ 派遣、労働組合組織INTUC、現地NGOの施設(シェルター) とができた。この やICFTU−APROシンガポール事務所等を訪問、児童労働の JILAFの取り組みの 実態と、各級レベルの様々な取り組みについて調査した。調 成果に敬意を表する 査団はマーカプール地区にあるINTUCとJILAFが運営する非 とともに、我々に貴 正規学校を訪問、授業視察、子どもたちとの交流、教員や担 重な経験を与えてい 当役員との意見交換を実施した。この地区では労働組合組織 ただき感謝を申し添え ▲報告者・山中恵子さん(写真右下)は2002年10 や政府機関等が連携し「ひとつの傘の下で」撲滅に向け取り たい。子どもは将来私 組み、INTUCは貧困家庭の子ども(七∼一四歳)を、地域や たちの仲間、労働者に 両親の説得活動を通じ児童労働から解放し、基礎教育の機会 なる。児童労働問題は労働者の、労働組合の課題である。西 を与え「児童労働は当然」という社会の「無関心」の克服を 本部は、今回の調査で得た経験をもとに、労働組合は国際社 目指し、撲滅に向け努力していることが強く印象に残った。 会の一員であることを再認識し、中・長期的な視点で、世界 更に、児童労働は労働者の失業の要因のひとつで、児童労働 の貧困の撲滅と平和の実現に寄与する取り組みのひとつとし の多い地域の平均賃金が低い等の理由からも、労使双方の課 て、児童労働撲滅に向け具体的な支援活動を検討していく。 月から2004年9月までJILAF招聘事業部と現地 支援事業部に在籍。現在は出身労組である 組織部に所属。 NTT労働組合西日本本部に戻り、 題であることを強く認識することができた。この期間、過酷 JILAFカレンダー (2005年6月∼2005年8月) ● 招聘 ● 中国チーム 2005年6月2日∼6月15日 ● アフリカ英語圏チーム 2005年6月16日∼6月29日 ● 中米・カリブチーム 2005年6月30日∼7月13日 ● 東南アジア・南アジアチーム 2005年7月21日∼8月3日 ● アジア労組研修チーム 2005年8月28日∼9月3日 ●現地支援 ● 中国ACFTU POSITIVEモニタリング 2005年6月18日∼6月24日 浙江省金華市 ● タイ 産別支援ワークショップ 2005年6月19日∼6月27日 パタヤ、バンコク ● インドネシアITUC及びITF/KSPSI 全国セミナー 2005年7月5日∼7月19日 バタム、ジャカルタ、スラバヤ NSIDE UT IO インサイド・アウト ● バングラデシュICFTU-BC POSITIVEコアトレーナー養成セミナー ダッカ 2005年7月10日∼7月20日 ● ベトナムVGCL POSITIVEコアトレーナー養成セミナー 2005年8月6日∼8月15日 ホーチミン、ハノイ ● その他 ● 国際協力スタディツアー2005 2005年7月17日∼7月24日 カンボジア ● ICFTU-APRO/OTC ILS/JILAF 第14回上級指導者コース 2005年8月15日∼9月2日 シンガポール ● 産業雇用問題等受託研究「NPOによる雇用創出と雇用の質をめ ぐる国際比較調査研究」 2005年8月18日∼8月29日 フランス、ハンガリー、チェコ、イギリス JEC連合から、連合を通してJILAFに出向してきました井上です。JILAFでは3年 前に1カ月間研修をさせていただき、短い間でしたが学ぶことが多く、今回改めて長 期に勤務できるということで、感慨深いものがあります。微力ですが、途上国におけ る労働運動の発展と、その活動を通した社会開発に貢献できるよう、努力したいと 思います。 井上友孝 (いのうえともたか) /連合より出向(2005年5月∼) JILAFの活動方針や労働運動をよく理解し、広い視野で仕事に邁進したいと思 います。ただ仕事をこなすだけではなく、自分の仕事が途上国に住む人々の命 に直結しているという意識を忘れず、先ずは一歩一歩取り組むつもりです。関 係者の皆様方、今後多方面に渡りお世話になるかと思います。ご指導、ご鞭撻の ほど宜しくお願いします。 加藤岳 (かとうたける) /JILAFスタッフ (2005年7月∼) ❹──
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