はじめに 和歌山県那賀郡の粉河寺には、 十二世紀後半頃に製作され

粉 河寺 縁 起 絵 巻 考
i 巻 頭 部 の復 原 を めぐ って ー
塩
で は 理解 さ れ 得 な い の であ る。
出
貴 美
子
和 歌 山 県 那賀 郡 の粉 河 寺 に は、 十 二 世 紀 後 半 頃 に製 作 さ れ た と 推 定
反 復 表 現 に着 目 し 、 これ を 利 用 し て 焼 失 部 分 の 一部 復 原 を 試 み る と と
た の は清 水 義 明 氏 であ る 。 清 水 氏 は、 本 絵 巻 の特 徴 であ る 同 一背 景 の
はじ め に
さ れ る 一巻 の縁 起 絵 巻 が 伝 存 す る 。 これ は 二話 か ら成 る も の で、 第 一
も に、 各 断 片 の描 写 内 容 に つい て も 多 く の重 要 な 意 見 を 出 さ れ た 。 こ
(3 )
こ の焼 損 の問 題 に つい て、 注 目 す べき復 原 的 考察 を は じ め に 提出 し
話 は本 尊 千手 観 音 像 の造 立 讃 、 第 二 話 は そ の利 生 諏 で あ る 。 本 絵 巻 に
れ に よ り 、十 二 枚 の断 片 はか な り の程 度 ま で整 理 さ れ る こと にな り 、
も は や 付 加 し 得 る も の は何 も 無 い か のよ う に見 え る 。 し か し 、 それ に
つい て は、 既 に 諸 先 学 の論 考 が あ り 、 縁 起 の内 容 、 説 話 集 な ど に 見 ら
れ る漢 文 縁 起 と の関 係 、 構 図 お よび 描 法 の特 徴 な ど が明 ら か に さ れ て
も か か わ ら ず 、 相 互 関 係 の 不明 な 断 片 は ま だ 残 って い る。 そ こ で、 本
(1 )
﹁
粉 河 寺 縁 起 ﹂ の内 容
料 は左 記 の 通 り であ る。
粉 河 寺 の縁 起 を 語 るも のと し て、 これ ま で の研 究 で知 ら れ て い る資
、
問 題 点 を ま と め て おく こと に し た い。
な お 、 本 題 には い る前 に、 諸 書 に 見 え る粉 河 寺 縁 起 を 通 覧 し 、 そ の
稿 で は、 こ の復 原 問 題 に敢 え て も う 一考 を 加 え てみ よ う と 思 う 。
い る 。 し か し な が ら 、 な お 不 明 な 問 題 も い く つか 残 さ れ て い る 。
そ の 中 で 、 本 絵 巻 の 理 解 を 困 難 に し て い る も の の 一 つに 、 罹 災 に よ
(2 )
る巻 頭 部 の焼 損 が あ る 。 こ の た め第 一段 の詞 書 と 絵 の 一部 は 失 わ れ て
おり 、 ま た 現存 す る 部 分 に お い ても 、 画 面 の上 下 に は、 波 線 状 の焼 痕
が 、 次 第 に小 さ く な り な が ら も巻 末 に 至 る ま で続 い て い る 。 現 在 の巻
頭 に は、 焼 け 残 った 断 片 が 並 べ合 わ さ れ て い るが 、 料 紙 の連 続 性 が 辛
う じ て認 あ ら れ る のは 第 13片 以 降 に つい て であ り 、 そ れ 以 前 の十 二 枚
の断 片 の配 列 順 序 に つい ては 、 いさ さ か疑 問 に 思 わ れ る箇 所 が あ る 。
こ の よ う な 特 殊 事 情 に よ り 、 本 絵 巻 の冒 頭 部 の 内容 は 、 現 状 か ら だ け
9一
粉 河 観 音 本 縁 事 ( ﹃三 国 伝 記 ﹄ 巻 第 二 )
紀 州 粉 河 寺 ( ﹃甲 子 夜 話 ﹂ 続 編 巻 六 十 五 )
粉 河 寺 (﹃元 亨 釈 書 ﹄ 巻 第 二十 八 )
粉 河 寺 (﹃伊 呂 波 字 類 抄 ﹄ 十 巻 本 )
粉 河 寺 縁 起 (宮 内 庁 書 陵 部 所 蔵 伏 見 宮 家 旧蔵 本 )
粉 河 寺 ( ﹃阿 娑 縛 抄 ﹄ 諸 寺 略 記 上 )
粉 河 寺 大 率 都 婆 建 立 縁 起 (醍 醐 寺 本 ﹃諸 寺 縁 起 集 ﹄ )
ここに 一
●
人 の童 行 者 が や って来 て寄 宿 を請 い、 佐 大夫 か ら 子 の病気 の
者 が い た が 、 そ の愛 子 は 重 病 で 、 種 々 の加 持 祈祷 も効 験 が な か った 。
本 絵 巻 の第 一話 に相 当 ) 。 ま た 、 河 内 国渋 河 郡 馬 馳市 に 佐 大 夫 と いう
専 ら菩 薩 を 慕 い、 唯 一人 帰 依 し て他 の人 に は 知 ら せ な か った (以 上 、
行 者 の姿 は 無 か った 。 こ れ 以後 、 猟 師 は 殺生 を や め 仏 法 に 帰 依 し た 。
の 戸 を 叩 く 音 を 聞 い て猟 師 が 庵 に行 く と 、 皆 金 色 の千 手 観 音 像 が あ り 、
の こ と を 語 る と 、 行 者 は 承諾 し て七 日 間 庵 に 籠 った 。 八 日 目 の朝 、 家
こと を 聞 い て加 持 す る こと を 申 し出 た。 行 者 が千 手 陀 羅 尼 を 唱 え て加
持 す ると 病 は治 り 、 父 母 は 喜 ん で 多く の布 施 を し よ う と し た。 し か し 、
こ のう ち最 も高 い資 料 的 価 値 が 認 め ら れ て いる のは 、 天 喜 二年 (一
〇 五 四) に僧 仁範 に よ って起 草 され たと いう ω であ る。 ② ∼⑥ は いず
行 者 は こ れ を断 わ って鞘 付 帯 一筋 だ けを 受 け 取 り 、 問 わ れ る ま ま に
﹁我 は 紀 伊 国 那賀 郡 風市 杜 粉 河 と いう 所 に住 む ﹂と 答 え て去 った。 佐
れ もω を 基 に し て、 そ の内 容 を 略 述 し た も のと 考 え ら れ る が、 簡 略 化
の程 度 は ま ち ま ち であ る 。 ゆ は草 創 諏 の み を 語 り 、 利 生 諏 は含 ま な い 。
起 であ る が、 こ の ㎝ は 訓 読 文 であ り 、 多 く の 潤 色 が 施 さ れ て い る点 で 、
ついた 。 夜 に な った の で人 々は 眠 った が 、 夜 中 に自 然 に火 が 点 り 、 驚
米 粉 を 流 し た よ う な 白 い川 を 見 つけ、 それ を 湖 って林 中 の草 堂 に辿 り
大 夫 は 妻 子 巻 属 を引 き 連 れ て粉 河 を 尋 ね るが 行 き 迷 って い たと こ ろ、
他 のも のと は趣 を 異 に す る 。 ま た、 ③ で は 、本 絵 巻 と 同 容 の内 容 を も
い て堂 内 を 見 る と、 行者 に奉 った 帯 鞘 刀 (鞘 付 帯 に同 じ か) を 手 に提
逆 に、 ㎝ は草 創 調 が な く 、 利 生 謂 一話 の み であ る 。 ω ∼ ⑥ は漢 文 の縁
つ漢 文 縁 起 の後 に 、 和 文 体 の利 生 諌 三十 三話 が 付 加 さ れ て い る。
右 の内 容 を 本 絵 巻 の 詞 書 と 比 較 す る と 、 いく つか の顕 著 な 相 違 点 が
げ た 皆 金 色 の千 手 観 音 像 が 立 って い た。 行 者 は 千 手 観 音 線 の 化 身 で
猪 鹿 を 狙 って い た と ころ 、 放 光 所 を 見 つけ た の で 柴 の庵 を 立 てた 。 こ
あ る こと に気 づ く 。 ま ず 、 ω は 漢 文 であ る の に対 し 、 詞 書 は 和 文 であ
さ て、 ま ず ω に よ り な が ら 、 縁 起 の内 容 を 概 観 す る こと にし よう 。
こ に精 舎 を 建 立 し仏 像 を 造 立 し た いと 思 って い る と 、 程 な く し て 一人
る 。 第 一話 に つい て は、 詞 書 は 後 半 部 し か な い の で全 体 の内 容 を 比 較
あ った (以 上 、 本 絵 巻 の第 二話 に 相当 )。 以下 略 。
の童 行 者 が や って来 て寄 宿 を 請 う た 。 も て なす と 、 喜 ん だ 行 者 は ﹁も
す る こと は でき な い が、 現存 す る 部 分 では 、 ω が 千 手 観 音 像 の こと を
紀 伊 国 那 賀 郡 の猟 師 大 伴 吼 子 古 は 、 あ る幽 谷 に 据木 を 定 め て夜 毎 に
し 願 う こと が あ る な らば 助 成 し よ う ﹂ と 申 し出 た 。 そ こ で猟 師 が 造 仏
一10一
(7)(6)(5)(4)(3)(2)(1)
﹁他 人 未 知 ﹂ と 語 る の に対 し 、 詞 書 では 猟 師 の妻 を はじ め 近 隣 の人 々
に も 言 い 散 ら し て 皆 帰 依 し た と い う 。 ま た 第 二話 に つい て は 、 詞 書
では 病 の 子 を 河 内 国 さ ら ら 郡 の長 者 の娘 と し 、 そ の病 状 を 具体 的 に 記
⑧
粉 河 十 一面 観 音 (金 沢文 庫 本 ﹃観 音 利 益 集 ﹄ 所 収 、 書 写 年 代 は
鎌倉 時代末頃)
後 白 河 法 皇 蓮 華 王 院 小 千手 堂 中 尊 供 養 願 文 (資 料 ③ 和 文 縁 起 第
で千 手 観 音 像 を 発 見 す る の に対 し 、 詞 書 では 庵 の発 見 に引 き 続 い て扉
音 堂 の中 で そ う と は 知 ら ず に 一度 眠 り 、 深 更 に至 って自 然 に点 った 燈
いる 。 し か し よ り 大 き な 相 違 は 、 ω 以下 ② ③ ㈲ ㈲ で は長 者 の 一行 が 観
と あ る い は 病 子 の こと を 語 り 、 そ こ で依 願 す る運 び にな って い る の に
第 一話 第 二 話 と も に、 た ま た ま寄 宿 し た 童 行 者 に、 家 の主 が 造 仏 の こ
の内 容 は ω 以 下 の漢 文 縁 起 に 大 方 は 一致 す る。 し か し 、 漢 文 縁 起 では
⑧ は 近 藤 喜 博 氏 に よ って紹 介 さ れ た も の で、 訓 読 文 では あ るが 、 そ
⑨
を 開 け 、 す ぐ に 千手 観 音 像 を 発 見 す る こ と であ る (㎝ で は堂 は な く 千
対 し、 ⑧ に は いさ さ か 異 な る 展開 が 見 ら れ る 。 ⑧ では 、 十 五 六 と 見 え
(5 )
手 観 音 像 は奇 巌 の上 に 立 って いた と い う ) 。 ま た 、 詞 書 の 最 後 に は
る ﹁ケ シ タ ル童 子 ﹂ が ﹁汝 仏 ヲ造 ラ ムト 云 願 ア ル由 ヲ聞 、 実 シ カ ラ ハ
二十 一所 収 )
﹁れ う し が 一家 件 の粉 河 の別 当 [目 い た れ る ま でな り き た る な り ﹂ と
我 此 願 ヲ ハタ シ テ ア タ ウ ヘ シ﹂ と 言 ってや って来 る 。 そし て ﹁先 ノ光
述 す る。 そ し て、 長 者 の 一行 が 粉 河 へ旅 立 つ時 期 を 翌 年 の春 に 定 め て
い う 一文 が あ る が、 こ れ に 相 当 す る内 容 は ω ∼ ㎝ の中 には 見 当 た ら な
寺 文 書 ﹄ )にも 縁 起 の略 述 が あ る ことなど から、ω 以前 に も 縁 起 文 が 成
た こ と 、 ま た 正 暦 二年 (九 九 一) 十 一月 二十 八 日 付 太 政官 符 ( ﹃粉 河
よれ ば 承 平 五 年 (九 三 五 ) 以 前 に既 に粉 河 寺 に 関 す る 流 来 縁 起 が あ っ
結 び つけ る こと に は問 題 が あ る 。 こ の点 に つい て梅 津 次 郎 氏 は 、 ω に
こ のよ う な相 異 が あ る こ と か ら 、 本 絵 巻 を ω 以 下 の漢 文 縁 起 に直 接
と 言 って来 る の であ り 、 漢 文 縁 起 か ら離 れ て、 ⑧ と 詞 書 の間 に共 通 性
はし ま す とき こ ゆ る は 、 ま [ 口 ら は 七 日 ば か り い のり ま い らせ [] ﹂
ふら む 、 こ の と の 、ひめ き み の よ に いみ じ き や ま ひ を し てし ぬ べく お
ると 、 第 一話 は 不 明 であ る が、 第 二 話 では 、 童 は ﹁ま こと に やさ ぶら
ニ加 持 セ ムト 思 也 ﹂ と 言 って や って来 る 。 と ころ が 詞 書 の こ の点 を 見
ま た同 じ く ⑧ の第 二話 に相 当 す る部 分 では 、 童 子 は 始 め か ら ﹁我 心 ミ
明 ノ所 二倶 二行 テ、 イ ホ リ ヲ結 ヒ タ ル ニイ タ リ ヌ﹂ と な る の であ る。
立 し て いた 可 能 性 が あ る と 考 え 、 本 絵 巻 の詞 書 は、 現存 の漢 文 縁 起 を
が 見 い出 さ れ る の であ る。 しか し 、 ⑧ は 佐 大 夫 の病 子 を ﹁子 息 ﹂ と す
い。
超 え て 、 今 は 失 わ れ た 縁 起 文 と の 関 係 に お い て成 立 し た も のか も し れ
る点 で詞 書 と 異 な る し 、 庵 発 見 の 過程 に つい ても ω にお け る展 開 を 継
(4 )
承 し て い る の で 、 これ を 詞 書 に直 接 結 び つけ る こと は でき な い。
な いと 推 論 さ れ た 。
と こ ろ で、 粉 河 寺 縁 起 の資 料 は他 に も 二点 が 紹 介 さ れ て いる 。
11
ω を は じ め と す る漢 文 縁 起 の展 開 順 序 と は 相 違 す る と 考 え ら れ た 。 と
結 ぶ よ り 以 前 に童 行 者 の 訪 問 が 描 か れ ていると 解 釈 さ れ る が 、これ は、
のは 亀 田 孜 氏 であ る。 亀 田 氏 は 、まず 、現 状 の画 面 からは 、猟 師 が 庵 を
し た も の であ る が、 画 面 と の直 接 的 な 関 係 に お い て、 これ に注 目 し た
次 に⑨ は、 本 絵 巻 の 製作 背 景 に関 す る考 察 の中 で大 串 純 夫 氏 が紹 介
け であ るが 、 門 の部 分 は そ の前 にも 登 場 し て い る。
る 。 ま た、 第 一話 で活 躍 す る 猟 師 の家 は、 全 体 が 描 か れ る の は 一回だ
話 の舞 台 と な る さ ら ら 郡 の長 者 の館 が 三 回 、 そ れ ぞれ く り 返 さ れ て い
音 像 の堂 と な る 柴 の庵 が そ の周 辺 の風 景 と と も に六 回、 第 二話 前 半 の
法 であ る。 本 絵 巻 では 、 料 紙 の連 続 す る第 13片 以降 を 見 ると 、 千 手 観
は じ め と す る 縁 起 あ る いは 説 話 絵 巻 に お い て、 しば しば 用 い ら れ た手
る 。 し か し な が ら 、 現 状 の 断 片 の順 序 に は 、 は じ め に述 べた よ う に疑
な ってお り 、 これ が 現 状 の 画 面 の 展 開 に 一致 す ると 考 え ら れ た の であ
に従 って山 中 の光 耀 の木 を 伐 り 、 そ の木 の下 に庵 を 結 ぶ と いう 展 開 に
る が 、 そ の前 に、 反復 さ れ る 内 容 と そ の描 写 の正 確 さ の度 合 を 検 討 し
以 下 では こ の点 を 手 掛 か り と し て復 原 の考 察 を 進 め て行 き た い の であ
庵 の周 辺 風 景 や猟 師 の家 に 相 当 す る と 思 わ れ る も のが あ る 。 そ こ で、
と ころ で、 十 二枚 の断 片 の描 写 内 容 を 見 る と 、 幸 いな こと に、 柴 の
(6 )
ころ が 、 ⑨ で は、 猟 徒 は 霊 童 に 会 つて造 像 の趣 を 教 え ら れ 、 そ の指 示
問 が あ る の であ る か ら、 亀 田 氏 の説 は 検 討 を 要 す る よう に 思 わ れ る 。
てお く 必 要 が あ る。 そ れ に は ま ず 、 画 面 の損 傷 の比 較 的 少 な い第 二 話
庵 は 第 三 段 の後 半 に 三 回 連続 し て描 か れ る 。 長 者 の館 は 第 一話 に は 登
第 二 話 は 三段 で構 成 さ れ てお り 、 長 者 の館 は 各 段 に 一回 ず つ、 柴 の
か ら 見 る こと に し よ う。
以 上 述 べ てき た よ う に 、 粉 河 寺 縁 起 の資 料 は比 較 的 多 数 あ る が 、 い
ず れ にも 本 絵 巻 と の直 接 的 関 係 を 認 め る こと は でき な い。 そ こ で、 焼
損 し た 巻 頭 部 に つい て は 、 縁 起 文 に 頼 る 前 に、 画 面 そ のも の の検 討 を
す べき であ ろう と 思 う。
場 し な いか ら 、 復 原 の考 察 に は 関 係 な い の であ る が 、 本絵 巻 の反 復 表
現 の 一例 と し て概 観 し て おく こ と に し た い。
き た よ う に、 同 一背 景 のく り 返 し が 多 い こと であ る。 こ れ は 、 説 話 が
本絵 巻 の構 図 に見 ら れ る 最 も 大 き な 特 徴 は 、 既 に何 度 も指 摘 さ れ て
て い る 。 第 二段 で は、 櫓 門 や 母 屋 は省 略 さ れ て、離 れ 屋 に 続 く 渡 り 廊
り廊 で つな が れ た 離 れ屋 が あ って 、 長 者 の病 気 の娘 は こ こ に横 た わ っ
門 の中 に は いる と 、 母 屋 の 他 に 馬 屋 な ど の別 棟 が あ る 。 そ の奥 に、 渡
二、 反 復 表 現 の検 討
一定 の場 所 で進 行 す る場 合 、 そ の 時 間 の推 移 を 絵 画 化 す る た め に 必 要
か ら始 ま る 。 離 れ 屋 の左 方 に は 、 鉤 形 の網代 垣 を は さ ん で、 前 段 に は
第 一段 の長 者 の館 は、 深 い濠 を 廻 ら し た 門 前 か ら始 ま り、 立 派 な 櫓
と さ れ た 手 段 であ り 、 ﹁信 貴 山縁 起 絵 巻 ﹂ や ﹁吉 備 大 臣 入 唐 絵 巻 ﹂ を
一12一
た 、 離 れ 屋 の右 横 の柿 の木 、 左 横 の 二本 の交 叉 す る 木 立 ち 、 そ れ か ら
構 図 の取 り 方 、 建 物 の構 造 と も に、 三 段 を 通 じ てほ ぼ 同 じ であ る。 ま
の土 手 の下 には 、 W ・W では 、 大 き く 変 曲 し た流 水 が あ る。 V で は こ
左 右 にあ る 一組 の同 じ土 手 が 三 回 く り 返 さ れ たも の であ る。 庵 の右 方
ま ず 近 景 を 通 覧 す る と 、 一連 の風 景 の よ う に見 え る が、 こ れ は 庵 の
空 間 が あ る。 こ れ は 、 こ こが 説 話 の展 開 の場 と な る た め であ る 。 そ し
倉 の 左 横 の 三本 の木 立 ち も、 枝 ぶ り に多 少 の相 違 は あ る が 、 同 様 にく
の部 分 に焼 損 が あ って、 流 水 の有 無 は不 明 であ るが 、 ま る で水 を飲 む
な か った 格 子 板 壁 造 の倉 が あ る 。 第 三段 は 、 第 二 段 と 同 じ く 離 れ屋 と
り 返 さ れ て い る。 し か し、 厳 密 に 比 較 す ると 、 建 物 の 大 き さ は 各 段 で
か のよ う に頭 を 垂 れ た 馬 が いる こと か ら 、 こ こ にも 流 水 が 描 か れ て い
て、 画 面 の上 方 と下 方 には 、 山 中 に建 っ庵 に ふ さ わ し い 風 景描 写 が 、
異 な ってお り 、 画 面 上 の位 置 も いく ら か ず れ て い る 。 さ ら に 細 部 を 見
た と 推 定 さ れ る 。 土 手 の上 に は 、 W ・V ・Wを 通 じ て、 枝 ぶり に共 通
倉 を 描 く が 、 倉 の 左横 の木 立 ち の背 後 に、 館 と 外 と の境 界 を 示 す 板 塀
ると 、 渡 り 廊 と 離 れ 屋 の接 続 箇 所 な ど に、 微 妙 な相 違 を指 摘 す る こと
性 が 認 め ら れ る 二本 の木 が あ る 。 こ のう ち 右 の木 は 、 上 方 が 強 く 右 に
遠 景 と 近 景 に分 か れ て互 い に平 行 し な が ら展 開 し て い る 。
が でき る 。 従 って、 こ の 反復 表 現 は 、 ﹁信 貴 山 縁 起 絵 巻 ﹂ に つい て推
傾斜 し た 特 徴 のあ る形 態 を し て いる 。 そ の幹 の二 股 にな った 箇 所 に は
が描 き 添 え ら れ て い る 。 こ のう ち 、 く り 返 し描 か れ る 離 れ 屋 と 倉 は、
定 さ れ て いる よ う な 共 通 の下 敷 を も と に し て描 いた も の で は な い こと
数本 の 横 木 が 組 ま れ て い る が 、 これ は 、 第 一話 で猟 師 が 鹿 を 狙 う 時 に
(7 )
が わ か る 。 し か し 、 大 略 に お い て は 、 正 確 な く り 返 し が行 な わ れ て い
1 の2)では閉 じ、 V ・W では 開 い て い る 。 庵 は 常 に正 面 か ら捉 え ら れ
柴 の庵 は藁 葺 の寄 棟 造 で、 正 面 に観 音 開 き の扉 があ る。この扉 は W (図,
次 に、 柴 の 庵 を 見 る こと にし よ う (
前 か ら 順 に W、 V、 W と す る )。
態 も 異 な って お り 、 く り 返 し に こ だ わ ら な い自 由 な 表 現 が と ら れ て い
土 手 に も 大小 数 本 の木 立 ち が あ る が 、 こち ら は 三 回 そ れ ぞ れ で数 も 形
ほ ぼ水 平 に 張 り 出 し た 木 が あ る こ と が 注 目 さ れ る 。 一方 、 庵 の左方 の
フで あ る 。 な お 、 W で は、 こ の 二 本 の木 の右 にも う 一本 、 流 水 の上 に
登 って いた と いう 据 木 で あ り、 柴 の庵 と と も に本 絵 巻 の重 要 な モチ ー
てお り 、 大 き さ は や や 異 な る が 、 そ の描 写 は 三 回 を 通 じ て殆 ど同 じ で
る。 し か し、 左 端 に S 字 形 の切 れ 込 み のあ る 土 手 の形 は 、 基 本 的 には
ると言 えるだろう。
あ る 。 し か し、 W の屋 根 が 他 よ り も 扁 平 に な った り 、 Vと Wと で は奥
同 じ であ る。
林 が あ り 、 左 後 方 に は 枝 先 を 扇 状 に広 げ た樹 木 が数 本 ず つ立 ち 並 ぶ 。
で は、 遠 景 は ど う であ ろ う か 。 ま ず、 庵 の背 後 か ら右 に か け ては 杉
壁 の構 造 に違 い が あ る な ど 、 細 部 に微 妙 な 異 同 が あ る こと は 、 先 に 述
べた 長 者 の館 の場 合 と 同様 であ る 。
柴 の庵 は 画 面 の中 景 に あ た る 位 置 に描 か れ て お り 、 そ の前 に は広 い
一13一
そ し て、 こ れ ら全 体 を 包 み 込 む よう な大 き な 山 が あ る 。 そ の頂 は 画 面
に ー 、 H 、 皿 と す る 。 な お n に つ い て は 、 清 水 氏 の復 原 案 を 妥 当 な も
第 一話 に お い ても 、 柴 の庵 を 中 心 に近 景 と 遠 景 が 一体 と な って 一つ
の と 認 め て 、 第 21 片 を 引 き 抜 き 、 第 20 ・22 片 を つ な い で 取 り 扱 う こ と
共 通 す る描 写 であ る 。 た だ し 、 V で は、 杉 林 の 右 は 薄 墨 の霞 を 描 く だ
の景 を 構 成 す る こ と は 、 第 二 話 と 同 様 であ る 。 庵 は、 柱 が 太 い木 材 に
の外 に は み出 し て いる が 、 左 右 に広 が る 山 裾 の 輪 郭 線 が 、 これ に連
け の余 白 と し 、 山 の右 半 分 が 省 略 さ れ て い る 。庵 の背 後 の こ の山 の左
な る こと を 除 けば 、 第 二 話 のそ れ と 全 く 同 じ であ る。 し か し 、 近 景 に
(8)
にす る)。
には 、 杉 林 を は さ ん で も う 一つの山 が あ る が、 こ の部 分 の描 写 に は異
は か な り の相 違 が 認 め ら れ る 。 庵 の右 前 に は 、 第 二 話 で見 慣 れ た 二本
な る小 さ な山 々と と も に描 か れ て い る の で あ る 。 以 上 は W ・V ・W に
同 が 多 い。 W で は、 中 央 の 山 よ り や や 小 さ い が ゆ った り と し た 起 伏 の
の木 が 据 木 を 添 え て枝 ぶ り も 同 じ に現 れ る が 、 幹 の下 方 は 霞 に覆 わ れ
れ て い る 。 これ は 、 春 の出 来 事 で あ る第 二話 に お い ては そ れ に ふ さ わ
あ る も の で、 そ の麓 の中 央 に は 枝 先 の広 が る 二本 の木 が 、 稜 線 の左 端
箇 所 に 描 か れ て い る。 な お W では 、 中 央 の山 の右 方 に も ゆ る や か な 起
し い桜 の 花 を 描 いた の に対 し 、 第 一話 を秋 と 想定 し て、 全 体 と し て春
てお り 、 土 手 は 姿 を 見 せ な い。 一方 の左 前 に は 、 1 では S 字 形 の土 手
伏 を も つ大 き な 山 が あ り 、 麓 の中 央 や 山 裾 の左 端 に 三角 形 の叢 林 と 枝
秋 の対 比 を 意 図 し た も の であ ろう 。 従 って近 景 で は、 1∼ W に 通有 の
に は 数 本 の松 が 描 か れ て い る 。 V では 、 いく つか の 山 が 重 な り 合 い な
先 を 広 げ た 木 立 ち の群 れ が あ る こと に 注 目 し ておきたい (図 1 の ー )。
モチ ー フは庵 の右 前 の 二本 の木 と 曙木 だ けと い う こと に な る (皿 の こ
が描 か れ て い るが 、 H ・皿 に は な い。 こ のあ た り は 焼 損 が は げ し い の
以 上 の こと か ら 、 第 二話 の柴 の 庵 に つい ては 、 近 景 と 遠 景 を 含 め て
の部 分 に は 燃損 が あ る た め 鋸 木 は確 認 さ れ な い が、 他 か ら推 定 し て、
が ら 左 方 に展 開 し て行 き 、 そ のま ま W の庵 後 方 の山 に連 ら な る 。 こ こ
一つの景 が 構 成 さ れ 、 これ が く り 返 し描 か れ て い る こと が わ か る 。 一
これ が 鋸 木 を設 け た 木 であ る こと は疑 いな い)。 しか し 、 第 一話 だ け
で 、 あ る いは 焼 け 落 ちた 部 分 に描 か れ て いた 可 能 性 が あ る が 、 いず れ
部 の 変 更 や 細 部 の相 違 はあ る も の の 、 主 要 な モ チ ー フに つい て は ほ ぼ
に つい て 見 る と 、 萩 の花 が く り 返 し の重 要 な モチ ー フにな って い る。
には 松 は な く 、 杉 林 や 三角 形 の叢 林 が 散 在 し て い る 。最 後 の W では 、
正確 に く り 返 さ れ て いる の で あ る 。 では 、 第 一話 では どう で あ ろ う か 。
ま た 、 H の第 22 片 の左 端 、 萩 の枝 先 あ た り に見 え るも の は、 1 ・皿 の
に せ よ 、 こ こ には 木 立 ち は な く そ のか わ り に 萩 と お ぼ し い花 が 咲 き乱
第 一話 では 、 第 13 片 と 第 14片 が 接 続 す る と ころ (図 3 の 3) 、 第 二 段
庵 の左 前 に放 置 さ れ て い る木 材 と 同 じ も の であ り 、 これ も く り 返 し の
山 と いう よ り は丘 の よ う な ゆ る や か な も のと な り 、 三角 形 の叢 林 が 二
の は じ め (図 2 ) と 最 後 の 三箇 所 に柴 の 庵 が 描 か れ て い る (前 か ら順
一14一
モチ ー フ であ る 。
次 に 遠 景 を 見 ると 、 焼 損 に よ り 寸 断 さ れ て は い る が 現存 す る 部 分 に
は 、 第 二 話 の遠 景 、 特 に W (図 1 の2 ) の そ れ に近 似 す る 風 景 が 認 あ
は 小 さ な 濠 が あ る。 門 の中 に は 一本 の木 が あ って、 枝 に藁 の よう な も
のが 干 し てあ る。 ど ち ら の画 面 に も 大 き な 焼 損 が あ る が 、 右 の描 写 は
共 通 し て認 め ら れ る。
並 、 これ ら は いず れ も ー ∼ Wに 共 通 し て描 か れ る も の であ る 。 中 でも
木 立ち、それらを包 みこむような大きな山、 そ し て左 方 に連 な る 山
陥 る こと のな い よう に と加 え ら れ た 積 極 的 な 変 更 であ ろ う が 、 ま た 一
う よ う な 厳 密 に 正確 なく り 返 し では な い。 そ の 一部 は 、 画 面 が 単 調 に
す る が 細 部 に微 妙 な 相 違 が あ る 場 合 が 多 く 、 共 通 の下 敷 を 用 い ると い
以 上 述 べ てき た よう に、 本 絵 巻 の反 復 表 現 は、 大 略 にお い ては 一致
特 に 、 遠 景 の左 端 が 常 に特 徴 のあ る 形 を し た 松 の並 木 を 以 て、 余 韻 を
方 で は 、 描 く 対 象 ご と に自 由 に 筆 を 走 ら せた 結 果 と し て生 じ た 相 違 で
ら れ る 。 樹 木 の種 類 や配 置 に 多少 の相 違 は あ る も の の、 庵 後 方 の杉 林 、
残 し な が ら 終 息 す る こと は注 目 さ れ る 。 こ の点 で も 、 第 二話 の W ∼ W
も あ ろ う 。 し か し 、 いく つか の主 要 な モ チ ー フを く り 返 す こと に よ っ
三 、 巻 頭 部 の復 原 案
て、 場 所 の同 一性 を 示 す こと に 成 功 し て い る の であ る。
よ り 第 一話 の ー∼ 皿 の方 が 強 い共 通性 を も つと 言 え る 。
以 上 の こと か ら、 第 二話 の描 写 内 容 と は 異 な る部 分 が あ る にし ても 、
第 一話 に お い ても 、 柴 の庵 は 近 景 、 遠 景 と と も に 一つの同 じ 景 を 構 成
し て お り 、 そ の全 体 が く り 返 し描 か れ て い る こと が わ か る 。
と ころ で、 皿 の前 に は、 く り 返 し の モ チ ー フの中 に は 相 当 す るも の
こ のう ち 第 2 ・3片 と第 4 ∼ 7 片 に つい て は、 清 水 氏 が 既 に妥 当 な復
完 全 に断 片 と な った も のは 第 ー∼ 12片 と 第 21片 の合 計 十 三枚 であ る。
な り 合 い、 そ の所 々 に 三角 形 の叢 林 と 枝 先 を 広 げ た 木 立 ち が あ る。 こ
原 案 を 発 表 さ れ て い る の で、 こ こ で は省 略 す る。 ま た 第 -片 は白 紙 な
の な い遠 景 が 描 か れ て い る 。 ゆ る や か な 起 伏 を も つ いく つか の山 が 重
れ は 、 W の遠 景 のと こ ろ で指 摘 し た 右 方 の山 に相 当 す る も のと 思 わ れ 、
の で考 察 の対 象 か ら除 外 す る と 、 問 題 と し て残 さ れ る の は第 8 ∼ 12 片
右 上 に は ゆ る や か な 左 下 が り の列 を なす 三本 の松 が あ る。
山 を 示 す 輪 郭 線 は見 え な いが 、 これ は ー ∼ W の庵 の景 に お い て遠 景 の
第8片
こと か ら 始 め よう (
図 3 のー ・2 参 照 )。
と第2
1片 の六 枚 だ け で あ る 。 ま ず 、 こ の六 枚 の断 片 の内 容 を 検 討 す る
(9 )
と も に 庵 の立 っ粉 河 の地 への導 入 の役 割 を 果 たす も の であ る 。
さ て、 最 後 に第 一話 に あ る も う 一つの反 復 表 現 で あ る 猟 師 の家 に つ
い てふ れ てお き た い。 こ れ は 、 第 一段 の最 後 に門 の部 分 だ け が 、 ま た
第 二 段 の中 ほ ど に そ の全 容 が描 か れ て いる 。 そ の共 通 す る 部 分 を 見 る
と 、 門 は 冠 木 門 の簡 略 なも の で片折 戸 が あ り 、 左 右 は 生 垣 でそ の前 に
一15一
う に 見 え る の は幹 の下 方 を霞 に 覆 わ れ て い る か ら であ り 、 根 は 一本 で
伸 ば し て い る の は、 1∼ Wに 通 有 の鋸 木 を 設 け た木 であ る 。 二本 の よ
最 後 に描 か れ て い た松 と 同 じ も の であ ると 思 わ れ る 。 そ の下 に枝 先 を
ある。
あ った と 思 わ れ る物 象 の端 が わ ず か に見 え る が 、 何 であ る か は 不 明 で
中 央 あ た り の焼 け 焦 げ て茶 色 く な った と ころ に、 も と は 緑 青 が 塗 って
中 間 を 霞 に 隠 さ れ た 五 本 の松 が立 っ。下 方 に は 土手 が あ り 、 そ の脇 を
中 景 に、 こ こ か ら 左 に向 か って盛 り 上 が る 丘 が あ り 、 幹 の
前 の風 景 を 構 成 す る重 要 な モチ ー フ であ る 。 左 上 端 に は 山 の右 裾 が 残
水 が 流 れ て いる 。 庵 の景 の中 に は これ に相 当 す る風 景 は な いが 、 Wの
第 10 片
る が 、 樹 木 は 見 え な い。 従 って第 8 片 に は 、 庵 の景 の左 端 と 右 端 の要
前 に 展 開 す る 粉 河 への導 入 部 に類 似 が認 め ら れ る。 そ こ で は松 は 三本
あ ろ う 。 そ の左 にわ ず か に枝 先 だ け を 残 し て い る木 と と も に 、 庵 の右
素 が 共存 し て い る こと に なり 、 こ れ は 庵 の景 が 二回 連 続 し て描 か れ た
そ の右 に は、 桜 な ど 数 本 の木 立 ちが あ って、 土 手 の下 に大 き く 弩 曲 し
で あり 、霞 も な いが 、 丘 の起 伏 や松 の形 態 に は共 通 性 が強 い。 さ ら に
近 景 に土 手 が あ り 、 根 を 接 す る よ う に 二本 の木 が立 っ。 右
際 に そ の転 換 点 に位 置 し た も の で あ る こと が 予 想 さ れ る。
第 9片
た 流 水 が あ る 。 こ れ は 、 長 者 の 一行 が 粉 河 を 尋 ね る 際 に目 印 と し た も
水 は これ を 表 し た も の であ ろ う 。 従 って第 10 片 は 、 W の前 に比 較 す る
の木 は半 分 焼 失 し て い るが 幹 の途 中 に鋸 木 の端 が 出 て い る こと か ら 、
土 手 が描 か れ て いる こと と 木 が 根 元 ま で描 か れ て いる 点 は 、 第 一話 の
と 簡 略 化 さ れ て は い る が 、 粉 河 への導 入 の役 割 を も つ風 景 の 一部 に 相
の で、 本 絵 巻 の 重 要 な モ チ ー フの 一つであ る 。 第 10 片 の端 に見 え る流
ー ∼ 皿 よ り も 第 二 話 の W∼ W の描 写 に近 い も の であ る 。 左 上 の杉 林 は
当 す る も のと 思 わ れ る。
こ れ は 庵 の 右前 の風 景 に相 当 す るも の で あ る こと が わ か る。 た だ し、
庵 の右 後 方 に あ った そ れ であ り 、 上 方 の山 と そ の中 腹 の木 立 ち は 庵 の
が あ り 、 こ の右 方 に 別 の風 景 が あ る こと を 予 想 さ せ る。 し か し 、 これ
裾 の端 が 、 ま た中 景 に も 丘 を 示 す ら し いゆ る やか な 右 上 が り の輪 郭線
景 の右 部 に あ た る も の で あ る が 、 と ころ が 、 右 上 端 に は 右 上 が り の山
間 に萩 の花 が少 し ば か り 見 え る。 ま た、 断 片 の右 下 の縁 に添 う か の よ
画 面 の下 方 に は 、 丘 を 表 す ら し い輪 郭 線 と 小 さ な 木 が 二本 あり 、 そ の
は左 か ら続 く 山 の裾 の部 分 に あ た り 、 そ の上 に は 三角 形 の叢 林 が あ る。
左 の木 は か な り 左 方 に傾 い て い る 。 丘 の向 こ う に は流 水 が あ る 。 遠景
中 景 は 小 高 い 丘 の左 腹 と そ こ に生 え る 二本 の木 か ら な り、
は 庵 の景 と は思 え な い の で、 ひ と ま ず 粉 河 への導 入 部 であ る と 考 え て
う に太 い タ ッチ の墨 線 が あ り 、 こ の丘 はも っと 右 に続 く よ う であ る。
第 11 片
お き た い。 以 上 の こと か ら、 第 9 片 は 、 導 入 部 を 経 て、 こ こ か ら 庵 の
断 片 の左 端 か ら は 枝 先 が 突 き 出 し 、 そ の少 し 上 には 丘 を 表 す らし い輪
景 の遠 景 の右 部 に相 当 す る も のと 看 倣 さ れ る。 従 って 、 第 9 片 は 庵 の
景 が 始 ま る と いう と こ ろ に相 当 す る も のと 考 え ら れ る 。 な お、 左 端 の
16一
郭 線 の 端 が ニ セ ン チば か り 見 え る 。 さ ら に そ の上 に は逆 さ に な った 五
徳 が あ る 。 五 徳 の周 辺 に は淡 墨 で描 か れ た 物 象 が 認 め ら れ る が 、 何 で
あ る か は 不 明 であ る 。
近 形 に は S字 形 の土 手 と そ こ に咲 き 乱 れ る萩 の花 が あ る。
風 景 を 構 成 す る モ チ ー フの 一つで あ る と 考 え て よ いだ ろ う 。
第 12 片
そ の 上 に見 え る細 い丸 太 の左 端 は 、 1∼ 皿 の庵 の左 前 に放 置 さ れ て い
が、 木 の傾 き や 遠 山 の様 子 に お い ても 両 者 は共 通 性 を も つ。 W で は、
あ る 丘 の左 端 部 分 が 第 11片 の中 景 に 近 似 す る。 W の前 に は 流 水 はな い
こ こ で も う 一度 W の前 の粉 河 へ の導 入 部 を 見 ると 、 先 述 の三 本 の松 の
以 上 の こと か ら、 第 12片 は 庵 の景 の左 部 に相 当 す るも の であ る こと が
予 想 さ れ る 。 左 端 に は ー∼ W の遠 景 の最 後 に現 れ る松 が 描 か れ て い る。
の山 裾 が 数 本 あ る こ と か ら 、 こ の右 方 にも 山 が 連 らな って い る こと が
い、 右 上 に杉 林 、 麓 に枝 先 を広 げ た 木 立 ちが あ る。 右 端 には 左 下 が り
た 木 材 と 同 じ も の であ ろ う 。 遠 景 には ゆ る やか な 起 伏 の山 が 重 な り 合
鋸木 を 設 け た 木 の右 にも う 一本 、 流 水 の上 に ほぼ 水 平 に 枝 を 張 り 出 し
わかる。
さ て 、 第 10 片 と 同 じ く 、 こ の よ う な 風 景 は 庵 の景 の中 に は な いか ら、
た木 が あ る こと を 指 摘 し て お いた が 、 こ の枝 先 と 第 11片 の下 方 左 端 に
第2
1片
近 景 に は S 字 形 の土 手 と 萩 の花 が あり 、 第 12片 に よ く似 た
見 え る 枝 先 と の間 に は強 い相 似 性 が 認 め ら れ る。 以上 の こと か ら、 W
る。 こ こで 、 第 2 片 の左 端 下 方 の枝 先 は 据 木 の右 横 の木 の それ に、 右
の で、 鹿 の いる 位 置 は土 手 の下 の流 水 の近 く にあ た る と 推 定 さ れ て い
が参 考 と な る 。 こ の 二片 は猟 師 が据 木 の上 か ら鹿 を 狙 う 場 面 を 表 す も
が 可 能 であると 考 えられる 。また、この点 を 考 えるには第 2 ・3片 (図 4 )
て巻 頭 部 の復 原 を 考察 し た い の であ る が、 こ こ で、 二 つの物 理 的 条 件
さ て、 六 枚 の断 片 の内 容 は 右 のと おり で あ る 。 以 上 の検討 を 基 にし
る 内 容 を も って お り 、 同 じ く 庵 の景 の左 部 に相 当 す る も の と 思 わ れ る 。
あ り 、 遠 山 の左 端 に は 松 が あ る 。 こ の よ う に第 21 片 は第 12片 に 共 通 す
の右 方 にも 山 が あ る こと が 予 想 さ れ る。 麓 の右 方 に は数 本 の木 立 ち が
内 容 であ るが 、 例 の木 材 は 見 当 た ら な い。 遠景 の山 は 一本 の輪 郭 線 で
端 上 方 の 枝 先 は W の庵 の景 の前 の丘 に立 つ木 の そ れ に 相 当 す るも の と
を 考 憲 す る必 要 が あ る 。 第 一は 断 片 間 の焼 失部 分 の大 き さ であ る 。 現
の据 木 のあ る 土 手 と そ の前 の導 入 部 の丘 と を も う 少 し接 近 さ せ た な ら
看 倣 す こと が でき る 。 と こ ろ で、 焼 損 の はげ し い第 2 片 の下 端 に は、
在 、 画 面 の上 下 に は 波 線 状 の焼 痕 があ る が 、 これ は巻 末 に 近 づ く に つ
形 作 ら れ た 簡 略 な も のだ が 、 右 端 に は左 下 が り の山 裾 の線 が あ り、 こ
丘 の輪 郭 線 ま では 認 め ら れな いが 、 小 さ な 木 が 描 か れ て いる のが 辛 う
れ て次 第 に小 さ く な る も の であ る。 そ こ で、 断 片 を 配 列 す る 場 合 には 、
ば 、多 少 の相 違 点 はあるも のの 、第 11 片 に近 似 す る 風 景 を 作 り 出 す こと
じ て見 え る 。 これ は 第 11片 の下 端 の小 さ な 木 と 同 じ も の であ ると 考 え
そ の間 に でき る 焼 痕 の大 き さ が 前 後 の そ れ と 調 和 す る 大 き さ にな る よ
(m )
ら れ、 W の前 に は な いけ れ ど も 、 第 2 ・11片 を 通 じ て、 庵 の景 の前 の
一17一
長 さ の 平 均 は 約 五 一セ ンチ で あ る か ら 、 これ は 約 一 ・六 セ ンチ 短 い こ
(
第 13 ・14 片 に 相 当 ) は長 さ 四九 ・六 セ ン チ であ る。 本 絵 巻 の料 紙 の
紙 は後 ろ よ り 十 枚 目 ま でを 数 え る こ と が でき る が 、 こ の十 枚 目 の料 紙
は、 第 8 ・11 片 に紙 継 が あ る。 第 一話 に お い て は、 画 面 が 連続 す る 料
う に考 慮 す べき であ る 。 第 二 は紙 継 の問 題 であ る。 六 枚 の 断 片 の中 で
す る のは 第 8片 であ る。
求 め ら れ る と と も に、 紙 継 が あ る こと が 予 想 さ れ る 。 こ の条 件 に適 合
切 れ る が 、 さ ら に推 論 を 重 ね る な ら ば 、 X の右 には 鋸 木 が あ る こと が
一枚 分 の空 白 を おく こと に す る (これ を X と す る )。 こ こ で画 面 は途
れ に 相 当 す る も の は断 片 の中 に は な い の で、 第 12 片 の形 を 借 り て断 片
第 12 片 の右 に は、 前 述 の如 く 柴 の庵 が あ る こと が 予 想 さ れ るが 、 こ
と ころ が 、 第 8片 が 庵 の 景 の左 端 と 右 端 の要素 を 併 せ 持 つこと は 、
と に な る 。 従 って第 8 ・11片 に あ る紙 継 は 、 後 ろ よ り第 9紙 目 と 第 10
紙 目 の紙 継 か ら 計 って、 五 一セ ンチ の倍 数 の位 置 に近 い と ころ に置 か
で は 、 画 面 が 辛 う じ て連 続 し は じ め る 第 13片 を 基 に、 これ よ り 右 に
片 の松 は ゆ る や か な 孤 線 を 描 い て並 び 、 そ の つな が り は 自 然 であ る。
予 想 さ れ る 。 そ こ で、 第 21 片 を 置 き 、 松 の表 現 に 注 目 し てみ ると 、 両
前 述 の通 り であ る 。 従 って、 こ の右 にも ま た 庵 の景 が 展 開 す る こと が
描 か れ て いた 画 面 を 推 定 す る方 法 で 、復 原 を 試 み る こ と に す る (図 3
この 二 片 の連 続 性 を 否 定 す る 要 素 は 何 も な い の で、 推 論 を 進 め る と 、
れ な け れ ば な ら な い こと にな る。
のー ・2 ・3 参 照 )。
こに は 第 21 片 の形 を 借 り て断 片 一枚 分 の空 白 を お く こと にす る (これ
次 に は 再 び 柴 の庵 が あ る こ と が 予 想 さ れ る 。 第 12 片 の右 と 同 様 に、 こ
木 と 遠 山 の輪 郭 線 の左 端 は、 1∼ W の遠 景 の最 後 と 同 じ表 現 であ り 、
を Y と す る )。 第 8片 の次 の紙 継 は こ の空 白 の中 に 想 定 さ れ る 。 次 に
第 13 片 は ー の庵 の景 の発 端 部 で あ る 。 し か し 、 右 上 に 焼 け 残 る 松 の
こ の右 に も う 一つの庵 の景 が展 開 す る こと を 予 想 さ せ る 。 断 片 の中 で
は 鋸 木 の部 分 が 予 想 さ れ る の で、 残 る 三 枚 の中 か ら 第 9片 を 選 ん で置
さ て、 第 9片 に つい て は 、 先 に、 こ の右 方 にも 別 の風 景 描 写 が あ る
庵 の景 の左 部 に相 当 す る も の は 第 12 ・21 片 の 二枚 で あ る 。 後 者 は 、 遠
者 に は 可 能 性 が あ る の で、 焼 痕 の大 き さ に留 意 し な が ら 、 これ を 第 13
ら し い こと を 指 摘 し 、 こ れ を ひ と ま ず 粉 河 への導 入 部 であ る と 考 え て
く こと にす る。
片 の右 に 置 く と 、 そ の間 に は 二 ・五 セ ン チ の開 き が でき る 。 第 13 片 を
お いた が 、 こ こ で試 し に 第 11 片 を 置 い てみ る と 、 Wと これ に続 く 風 景
山 の輪 郭 線 が 断 片 内 で終 結 し て い る の で、 こ こ に は 不 適当 であ る 。 前
含 む 料 紙 は 平 均 より 約 一 ・六 セ ンチ 短 い の であ る か ら 、 こ の料 紙 の右
(図 1) に近 似 し た構 図 が 出 来 る こと に気 付 く 。 第 9片 の鋸 木 の右 に
も う 一本 の木 が あ ると 仮 定 す る な らば 、 そ の先 端 は ち ょう ど 第 11片 の
の紙 継 は 第 12片 と の開 き の間 に 想 定 さ れ る こと に な り 、 二 つの物 理 的
条 件 は 充 足 さ れ る。
一18一
紙 継 が あ る が 、 Y に想 定 し た紙 継 の次 の も の と看 倣 し て 不 都 合 は な
程 度 の変 更 あ る い は相 違 は許 容 さ れ 得 る で あ ろ う 。 な お 、 第 11片 に は
に は な い の であ るが 、 本 絵 巻 の他 の反 復 表 現 に 比較 す る な ら ば 、 こ の
第 11片 に 描 か れ て い る丘 の向 こう の流 水 や 画面 下方 の小 木 は 、 W の前
て、 一つの丘 を 形 成 す る も のと 看 倣 す こと も でき るだ ろ う。 た だ し 、
見 え る線 は 、 第 11片 左 端 の 五徳 と 枝 先 の間 に わ ず か に 見 え る線 に続 い
左 端 下 方 の枝 先 に 一致 す る で あ ろ う 。 ま た、 第 9 片 の土 手 の向 こ う に
れ な い。 だ が、 密 度 の高 い反 復 表 現 を 基 調 と す る 本 絵 巻 の構 成 を 見 る
のが 描 か れ る べき 箇 所 であ る こと は、 右 の 案 に 疑 念 を 抱 か せ る か も し
X ・Yと 仮 称 し た 失 わ れ た 部 分 が、 と も に 、 最 も 重 要 な 柴 の庵 そ のも
な く 、 結 果 と し ては 、 単 に 一つの 可 能 性 を 示 し 得 た に 過 ぎ な い。 特 に 、
立 って進 め て き た も の であ る。 し か し 、 こ こに は 何 ら 確 実 な る も のは
の庵 の景 と 同 じ よ う な 構 成 を 持 つ画 面 の 一部 であ った と いう 大 前 提 に
さ て、 右 の復 原 案 は 、 第 8 ・9 ・12 ・21 片 の図 様 が 、 も と は ー∼ W
片 を 考 え る こ と は でき な い はず で あ る 。 従 って第 13 片 よ り 前 に、 少 な
な ら ば 、 六 回 も く り 返 さ れ る庵 の 景 と の 関 連 を 無 視 し て、 これ ら の断
こ の よ う に考 え てく ると 、 残 る のは 第 10片 で あ る 。 これ も 粉 河 への
く と も 現 存 す る 据 木 の数 だ け の、 あ る いは 、 萩 の咲 き 乱 れ る 土 手 と 松
い。
導 入 部 の風 景 に相 当 す ると 考 え ら れ る の で、 第 11 片 の右 に置 い て み よ
う 。 こ こ で 、 第 10 ・11 片 が 形 成 す る 丘 は W の 前 の そ れ よ り も 短 い が 、
であ ろう 。 そ う であ る な らば 、 右 の案 は 、 現 状 で考 え ら れ る組 合 わ せ
の並 ぶ遠 山 の 数 だ け の庵 の景 が あ った と 推 定 す る こと は 誤 り では な い
(11 )
も し 、 こ の 間 に 断 片 も う 一枚 分 の 画 面 を 想 定 す る な ら ば 、 第 10 片 に は
数 に つ い て 考 え る と 、 こ の 復 原 部 分 は 四 枚 か ら 成 る 。 ま た 、 第 2 ・3
・12 片 と い う 順 序 に 並 び 、 第 13 片 以 降 に 続 く こ と に な る 。 こ こ で 料 紙
以 上 の 復 原 案 を ま と め る と 、 前 よ り 第 10 ・11 ・9 ・Y ・2
1 ・8 ・X
1が 約 七 四 セ ンチ 、 Hが 約 七 一セ ンチ 、 皿が 約 九 九 セ ン チ (松 並 木 を
六 セ ンチ )、 後者 が 約 七 一セ ンチ で あ る 。 第 一話 の庵 の景 の長 さ は 、
八 六 セ ンチ (松 並 木 を 除 外 し て 遠 山 の輪 郭 線 の左 端 ま でと す ると 約 六
な お、 復 原案 に よ って新 た に構 成 さ れ た 庵 の景 の長 さ は 、 前 者 が 約
(13 )
片 は 少 な く と も 一枚 分 の 幅 を 持 ち 、 さ ら に こ の 前 後 に も 風 景 が 続 く も
除 外 す る と約 七 四 セ ン チ) で あ る 。 松 並 木 の特 に長 く 描 か れ る部 分 を
の中 で は、 最 も 適 当 な も の であ る よ う に 思 わ れ る 。
の と 予 想 さ れ る 。 第 4 ∼ 7 片 は 三 枚 に わ た って い る 。 こ の ほ か 、 巻 頭
除 け ば 、 五 っ の景 は ほぼ 相 似 た長 さ に な る こと を 付 記 し てお く 。
紙 継 が求 め ら れ る こと にな る の で、 こ の 想定 は 不 適 当 であ る。
に あ った で あ ろ う 詞 書 や 現 存 す る 白 紙 の 第 - 片 を 考 慮 し て 、 第 13 片 以
(セ)
降 の 十 枚 に 加 え る と 、 第 一話 全 体 は 二 十 枚 前 後 の 料 紙 で 構 成 さ れ て い
たと推定 される。
一19一
庵 は完 成 し て いる の であ ろう か 。 第 9片 で は木 立 ち の根 本 や 土 手 ま で
え て い る。 ま た 、 第 2
1片 か ら 第 8片 にか け て は間 を広 く 取 り 、 遠 景 に
おわり に
さ て、 復 原 案 は縁 起 の内 容 と の関 連 に お い て 考察 さ れ る べき も の で
も 松 並 木 を 長 く 連 ら ね て、 こ こ に おけ る場 面 転 換 の意 識 が強 い こ と を
描 か れ て い る が 、 第 8片 で は霞 が か かり 、 こ の 二 片 は か な り表 現 を変
あ る が 、 右 の よう に仮 定 し た 場 合 、 現 状 で は 不 明 と な って い る巻 頭 部
予 測 さ せ る。 X に は Y と は 異 な る状 況 が あ る よ う に 思 わ れ る。 さ ら に、
第 12 片 の右 端 に あ る 木 材 の端 に注 目 す るな ら ば 、 これ は、 1 ∼ 皿 か ら
に つい て は、 何 が 考 え ら れ る であ ろう か 。
これ ま で、 最 も 大 き な 問 題 と さ れ てき た の は、 仁 範 の漢 文 縁 起 (
資
類 推 す ると 、 庵 を建 てた 残 木 であ ると 思 わ れ る の で、 こ こ で は庵 は既
右 の よう に考 え る と 、本 絵 巻 の内 容 と し ては 、 仁 範 の縁 起 よ り も 後
料 ω ) では 、 猟 師 が 放 光 所 を 発 見 し 、 柴 の庵 を 造 立 し た 後 に 童 行 者 の
問 の後 に、 庵 を 建 て たば か り と 思 わ れ る 場 面 (庵 1の 景 ) が 来 る こと
白 河 法 皇 蓮 華 王 院 小 千 手 堂 中 尊 供 養 願 文 の中 に略 述 さ れ た 縁 起 (資 料
に完 成 し て い る と考 え る こと が でき る か も し れ な い。
であ った 。 庵 1を 去 る 三人 の 男 の中 で、 猟 師 と 思 わ れ る 左 の男 は 斧 を
⑨ ) の展 開 順 序 が ふ さ わ し いよ う に思 え てく る。 つま り 、 童 行 者 の訪
訪 問 が あ る と いう 展 開 を と る の に対 し 、 現 状 の画 面 では 、 童 行 者 の訪
か つい でお り 、 庵 を 建 て終 わ って家 路 に つく と こ ろ と 考 え ら れ るか ら
問 (第 3 片 ) の後 、 山中 に は いり (
第 10 ・11 片 )、 光 耀 木 を 伐 って庵
を建 て (第 9 ・Y ・21 片 )、 行 者 は 庵 の中 には いる (第 8 ・X ・12 片 )、
であ る 。 と ころ が 、 これ の次 に 現 れ る 第 二段 の庵 H の中 に は 、 既 に千
手 観 音 像 が出 現 し て い る の で あ る か ら 、 そ の前 に あ る 扉 を 閉 じ た 庵 1
そ し て猟 師 た ち は庵 を 建 て る の に 用 いた 斧 を か つい で家 路 に つく (第
13片 以 降 ) と いう よう に、 縁 起 の 展 開 に 一致 し た 画 面 を 想 定 す る こと
の中 に は 、 童 行 者 が 籠 って い る と 考 え る べき であ ろ う 。従 って、 現 状
の画 面 は 仁 範 縁 起 か ら は説 明 さ れ に く い。 そ こ で、 復 原 し た 画 面 に つ
河 法 皇 の サ ロン に今 一歩 近 付 く こ と に な り 、 大串 純 夫 氏 が本 絵 巻 の製
が でき る の であ る 。 も し 、 こ の よ う に 仮 定 す る な らば 、本 絵 巻 は 後 白
復 原 し た部 分 か ら 第 15片 ま でに は 、 庵 の景 が 三 回 連 続 す る こ と に な
作 背 景 に 関 し て示 唆 さ れ た蓮 華 王 院 宝 蔵 と の関 係 も強 め ら れ る こと に
い ても、 仁範 縁 起 を 離 れ て考 え る 必 要 が あ ろう 。
る が 、 ま ず 注 目 さ れ る の は、 第 11片 の左 端 にあ る五 徳 で あ る 。 これ は 、
なると思われる。
は、 本 絵 巻 の 巻 頭 部 の復 原 を 考 察 し た次 第 であ る。
い さ さ か 推 論 に傾 き 過 ぎ た が、 右 の よ う な 可 能性 も含 め て、本 稿 で
(4
1)
完 成 し た 庵 皿 ・皿 の中 に置 か れ て いる 五徳 と 同 じ も のと 考 え ら れ る が 、
そ う で あ る な ら ば 、 Y にお い て は、 庵 は ま だ 完 成 し て い な い が 、建 設
の準 備 を し て いる よ う な 場 面 が想 像 さ れ る だ ろ う 。 で は、 次 の X では
一20一
(1 )
清 涼 殿 が 二回 ず つく り 返 し描 か れ て い るが 、 こ のう ち 命 蓮 の僧 房 一回
﹁信 貴 山 縁 起 絵 巻 ﹂ で は 、 山 崎 長 者 の家 が 二回 、 命 蓮 の僧 房 が 五 回 、
これ ま で に 発 表 さ れ た 本 絵 巻 に 関 す る 論 考 のう ち 主 な も の は次 の と
を 除 く と 、 他 は それ ぞ れ ほ ぼ 同 寸 同 角 であ り 、 共 通 の下 敷 を も と にし
(7 )
お り であ る 。 梅 津 次 郎 ﹁国 宝 粉 河 寺 縁 起絵 巻 ﹂ (﹃ミ ュー ジ ア ム﹄ 第
て 描 か れ た の では な い か と推 論 さ れ て い る。 (谷 口鉄 雄 ﹁信 貴 山 縁 起
註
二七 号 、 昭和 二 八 年 )、 同 ﹁粉 河 寺 縁 起 絵 と 吉 備 大 臣 入 唐 絵 ﹂ ( ﹃日
年 、 ﹃東 洋 美 術 論 考 ﹂ 所 収 )
絵 巻 に 於 け る 同 一構 図 の反 復 に つ い て﹂ ﹃清 閑 ﹄ 第 一九 号 、 昭 和 一九
粉 河 寺 縁 起 ﹂ (﹃美 術 研 究 ﹄ 第 一七 一号 、 昭 和 二 八年 )、 片 野 達
本 絵 巻 物 全 集 ﹄ 第 五 巻 、 角 川 書 店 、 昭 和 三 七 年 )、 大 串 純 夫 ﹁図版 要
項
続 か な い こ と 、 描 写 内 容 が類 似 し て い て第 21 片 が ま る で第 22片 の上 に
清 水 氏 は 注 2掲 載 論 文 に お い て、 第 2
1 ・22 片 に つい て、 画 面 が 直 接
芸 研 究 ﹄ 第 二 八 号 、 昭 和 三 三 年 )、亀 田孜 ﹁粉 河 寺 縁 起 絵 巻 綜 考 ﹂(﹃大
重 な って 置 か れ て い る よ う に 見 え る こと 、 ま た 、 第 19 片 の紙 継 と 第 22
(8 )
和 文 華 ﹄ 第 二七 号 、 昭 和 三 三 年 )、 清 水 義 明 ﹁ ﹃粉 河 寺 縁 起 ﹄ 復 原 へ
・23 片 間 にあ る 紙 継 と の間 が 、 第 21 片 を 引 き 抜 け ば 、 料 紙 一枚 の平 均
﹂(﹃文
の 一考 察 ﹂ ( ﹃
仏 教 芸 術﹄ 第 八 六 号 、 昭和 四 七 年 )、 河 原 由 雄 ﹁ ﹃
粉
法 量 に な る こと (
現 状 で は七 二 ・三 セ ン チ) な ど を 考 察 し て、 第 21片
郎 ﹁粉河寺縁起絵 巻絵詞 の研究 - 絵 詞 の文芸性 に ついてー
河 寺 縁 起 ﹄ の成 立 と そ の解 釈 を め ぐ る諸 問 題 ﹂ (﹃日本 絵 巻 大 成 ﹄ 第
注 2掲 載 論 文 。
は完 全 断 片 であ り 、 第 20片 は 第 22 片 に 続 く こと を 推 論 し た 。
(9 )
注 2掲 載 清 水 論 文 。
五 巻 、 中 央 公 論 社 、 昭 和 五 二年 )。
罹 災 の時 期 は 不 明 で あ る が 、 大 串 純 夫 氏 は 種 々 の理 由 か ら天 正 十 三
(10)
W の 前 の粉 河 への導 入 部 分 の 風 景 が 長 い こと に つい ては 、 こ こ が長
(3 )
注 2掲載梅津論文 ﹁
粉 河 寺 縁 起 絵 と 吉 備 大 臣 入 唐 絵 ﹂。
注2掲載論文。
で は な い か と 考 え るわ け であ る 。 同 様 に、 こ の丘 と W の土 手 と の間 が 、
つま り 、 多 く の人 々を 描 く た め に 、 長 い風 景 の設 定 が 必 要 と さ れ た の
者 の 一行 の 道 行 の舞 台 と な って いる こと が 関 係 す る よ う に思 わ れ る。
(2 )
年 (一五 八 五 ) の豊 臣秀 吉 の兵 火 に よ るも の であ ろ う と 考 証 さ れ た
(11)
(4 )
近 藤 喜 博 ﹁絵 巻 物 詞 書 研 究 の新 史 料 ﹂ ( ﹃国 華 ﹄ 第 六 九 九 号 、 昭和
同 じ場 所 を 描 い て いる と 考 え ら れ る 第 9 片 のそ れ よ り も 広 い こと に つ
(注 2 掲 載 論 文 )。 こ れ に対 す る 異 論 は 現 在 のと ころ 出 さ れ て い な い 。
(5 )
二 五 年 )。 な お 、 本 書 は ﹃中 世 神 仏 説 話 ﹄ ( ﹃古 典 文 庫 ﹄ 第 三 八 冊 、
れ る 。 こ のよ う な 人 々 の 動 き が 認 め ら れ な い第 一話 にお い て は、 風 景
い て は 、 庵 を 指 さ し つ つ、 人 々 に そ の発 見 を 告 げ る 男 の存 在 が 注 目 さ
注 2掲 載 大 串 論 文 お よび 亀 田論 文 。
昭和 二 五 年 ) に所 収 さ れ て いる 。
(6 )
一21一
(12)
(13 )
(14 )
は よ り簡 略 な も の であ った の かも し れ な い。
第 二 話 の料 紙 の枚 数 は 二十 二枚 (巻 末 の白 紙 二枚 は含 ま な い) であ
る か ら 、 こ の推 論 によ れ ば 、 第 一話 と 第 二話 は ほぼ 近 い長 さ に な る 。
二話 の 間 で料 紙 数 が 一致 す る 必 然性 は な いが 、 一応 の目 安 に は な る で
あ ろう。
庵 の景 の長 さ は 、 鋸 木 のあ る木 の 右 端 か ら 遠 景 の左 端 ま で を 測 定 し
記︺
注 2掲 載 論 文 。
た 。ただし 、端 が 欠 損 し て いる も のも あ る か ら 、正 確 な 数 値 で は な い。
︹付
掲 載 し た 図 版 に つい て は、 粉 河 寺 な ら び に 京 都 国 立 博 物 館 の金 沢 弘
氏 のお 世 話 に な り ま し た 。 記 し て御 礼 申 し 上 げ ま す 。
一22一
粉川へ の導 入風景
庵IVの
図1の1粉
景
河寺縁起絵巻
第 二 話第 三 段
図1の2同
継
片
23
第
※
庵Hの
景
図2
第
第19片
第20片
第22片
粉河寺縁起 絵巻
話第二段
※
第10片
図3の1
粉河寺縁起絵巻
巻頭部復 原案
※
・
紙継
紙継
第12片
第8片
※
第21片
図3の2同
※
後 ろ よ り第10紙
第15片
第14片
庵1の
景
図3の3
第13片
同
(第 一
一話 第1段)
※
※
第2片
第3片
図4粉
河寺縁起絵巻
巻頭部復 原案