第79回日本内分泌学会総会 クリニカルアワー7 バセドウ病の薬物治療 平成18年5月 投薬中止の目安 すみれ甲状腺グループ すみれ病院 院長 浜田 昇 はじめに 投薬中止の目安とは? 投薬を中止しても、少なくとも 一年以上(出来れば2年以 上)血中甲状腺ホルモンが上 昇してこないことを判断する 目安である。 ATD中止後寛解を保っている例 再発する時期 1年 この目安をつくるためには、 バセドウ病の活動性を正確に判断する必要がある。 これまでのエビデンスから、どのように考えれば良い かをまとめる。 これまでの、バセドウ病の活動性に関する多くの研究で は、 薬を減量するだけで機能が亢進してくる症例、すなわ ち投薬を中止できないことが明らかな症例も含めて活 動性の指標が検討されていた。 そのような検討では、寛解しにくい症例を選び出すの には良いが、寛解の指標としては適切とは言えない。 したがって、投薬中止の目安のための活動性の指標を 考えるときには 薬剤の投与量を最小量にして一定期間機能正常が保 たれている症例、すなわち投薬を中止できるかどうか 分からない症例を対象に検討されていないといけない。 二年間の抗甲状腺薬治療で1日一錠にまで減量できなかった症例が106人中21人、 19.8%に見られた( Mashioら) 寛解しにくい症例の特徴;TRAbが高値を持続、T3/T4比が高値、甲状腺腫が増大 ATD治療によるバセドウ病の寛解率 投薬中止の方法の違いによって見ると 投薬量と関係なく 治療期間で中止 最少量で一定期間正常を 確かめた後中止 報告者、 高松 1986 報告年 治療期間(年) 2 真尾 柏井 岡本 田尻 1997 2003 2006 1991 2.3 6 4.2 2.4 中止後の観察 1.5 期間(年) 2 2 1 1.6 寛解率(%) 42 80 63 67 51 最少量のATDで、一定期間機能正常を確かめた後に 投薬中止を検討するのが実際的(最小維持量法)だが そのときに役に立つ指標は? 甲状腺自体の活動性の指標 TSH,TRHテスト 服薬中は甲状腺の活動性は見ていない 報告なし Tg、T3/T4比 有用ではない(柏井ら) 甲状腺腫の大きさ 有用と思われるが、繁雑 T3抑制試験 免疫学的な寛解の指標 ある程度有用 TRAb 有用なものはない そのほかの指標 最小維持量法の予後予測におけるTRAbの有用性 ATD隔日一錠投与3ヶ月間機能正常後に中止した症例 経過観察1年 岡本泰之、すみれ病院 コスミックⅢ コスミックCT ヤマサDYNO 4.0 35 3.5 30 3.0 25 2.5 20 2.0 15 1.5 10 1.0 5 0.5 0 0.0 再発なし 再発あり 30%以上、3.0以上は全例再発 Kashiwai らもTBII30%以上は全例再発を発表している EJ 2003 ヤマサDYNO(IU/L) コスミックⅢ、コスミックCT(%) 40 TRAb値と寛解予測 (最小維持量法、中止1年後) 陽性例 寛解率 陰性例 寛解率 (寛解/陽性) (寛解/陰性) TRAb-PEG 57% 64% N.S. TRAb-CT 45% 71% P<0.05 TRAb-DYNO 48% 74% P<0.05 高値例(TRAb-CT 30%以上、TRAb-DYNO 3.0以上)は全例再発 ガイドライン;投薬の中止 甲状腺学会ワーキンググループ バセドウ病が寛解しているかどうかを正確に判断す る方法はまだ見つかっていない。現時点で実際的な 方法は、最少量の抗甲状腺薬で一定期間甲状腺機 能が正常であることを確かめた後に投薬中止を検討 することである。(グレードB2、レベル4) 薬物治療中止の目安としては、これまでTRHテスト、 T3抑制試験、血清Tg値、血清T3/T4比、TSH受容体 抗体などが用いられているが、いずれも絶対的なも のでない。現在は簡便さと有用性で、TSH受容体抗 体が参考にされている。(レベル4) ガイドライン;投薬の中止;問題点 甲状腺学会ワーキンググループ バセドウ病が寛解しているかどうかを正確に判断する方法は まだ見つかっていない。現時点で実際的な方法は、最少量の 抗甲状腺薬で一定期間甲状腺機能が正常であることを確かめ た後に投薬中止を検討することである。(グレードB2、レベル 4) 隔日1錠で機能が正常にコントロールされていれば、 治療期間と関係なく、いつでも中止を考えていいのか 薬物治療中止の目安としては、これまでTRHテスト、T3抑制試 験、血清Tg値、血清T3/T4比、TSH受容体抗体などが用いられ ているが、いずれも絶対的なものでない。現在は簡便さと有用 性で、TSH受容体抗体が参考にされている。(レベル4) そのときに指標になるものは、他にないか? 寛解率80%を報告している、柏井、網野らのデータを Clinical Thyroidology(ATA)は、長期に治療を受けてい たからではないかと紹介している 論文のタイトル;Practical treatment with minimum maintenance dose of antithyroid drugs for prediction of remission in Graves’ disease. R.D Utigerは下記のように紹介している Prolonged low-dose antithyroid drug therapy is associated with a high remission rate in patients with hyperthyroidism caused by Graves’ disease. Commentaryでは、 隔日に1Tの投与量で機能正常になっているひとの寛 解率が良いというが、長期間治療受けてその条件に いたる人はそれほど多くないと思われる。 隔日一錠で機能が正常に保たれていれば、治 療期間と関係なく、いつでも投薬中止を考えて いいのか? 最小維持量法における 治療期間と寛解率の関係 対象は抗甲状腺薬治療中のバセドウ病患者71名(女 60名、年齢18~71歳、中央値43歳)。 甲状腺機能正常化を指標に抗甲状腺薬を減量し、MMI またはPTU1日1錠にて6ヵ月以上TSHの正常が維持さ れ、その後 隔日1錠投与として3ヵ月後にTSHが正常であれば、抗 甲状腺薬を中止し 治療期間と投薬中止一年後の寛解率の関係を調べた。 最小維持量治療における 治療期間と寛解率の関係 80% 73% 70% 63% 61% N=12 N=31 N=28 2年以下 2年超5年以下 5年超 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 最小維持量法の予後予測における TRAbの役割 治療期間別 治療期 間 TRAb陽性者 再発率 症 例 数 CT TRAb陰性者 寛解率 DYNO CT 正診率 DYNO CT DYNO 2年以下 12 67 % 67 87 87 83 83 2年超 31 44 5年以下 50 65 68 58 61 5年超 54 70 73 68 68 28 63 最小維持量法においては、 治療期間が短い患者ほど、最小維持量後の 寛解率は高い傾向が見られた。 高感度TRAb測定による予後予測は、治療期 間が短い患者のほうで、より有用性が高いと 考えられた。 最小維持療法における 投薬中止時のT3/T4比と予後との関係 ATD隔日投与で6ヶ月以上機能正常例 投薬中止後一年以上経過観察 (11) (13) 伊藤病院 吉村弘 現時点ではワーキンググループの ガイドラインで大きな問題はないと思われる では、ガイドライン通りに治療をしたら どうなるか プレリミナリー データ ガイドライン通りに治療をした場合 治療開始からの期間とATD錠数との関係 6 錠数 5 4 3 まだ一年を経過していない が、すでにかなりの症例が 隔日1錠 でコントロールされている 2 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 経過月数 これらの症例が、ATD中止後 機能正常が保たれれば 治療期間が短くても、 ガイドラインの条件を満たせば 寛解すると言うことになる(?) おしまい
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