領域別研究部門 研究課題 代表(所属・職位) 自然科学研究部 研究期間 2016.4.1~2018.3.31(2 年) グラフェン/金属錯体ハイブリッド構造を活用した世界最薄発光デバイスの開発 黄 晋二(理工学部 電気電子工学科・准教授) 《2016 年度研究計画》 1.研究目的 本研究では、黄(電気電子工学科)の持つグラフェ ン結晶成長・デバイス作製技術と、長谷川(化学・生 命科学科)の持つ光る金属錯体分子を合成する技術を 組み合わせ、世界で最も薄い発光デバイスを開発する。 グラフェンは、炭素原子 1 層分のシート状結晶であ り、優れた電気伝導特性、機械的強度、熱伝導特性、 図 1:グラフェン/金属錯体分子膜を用いた 光学的透明性などから世界的に注目を浴びている。黄 世界最薄発光デバイスの模式図 は、2013 年 4 月に本学に着任後、グラフェンの結晶成 長の研究を進め、化学気相成長法によるグラフェン成 長技術を確立した。また、金属箔上に成長した炭素原子 1 層のグラフェンを任意の表面に転写する技術も確立 している。一方、長谷川は、独自の視点から希土類元素の発光に関する研究を進め、極めて高効率かつ安定な 発光が得られる金属錯体分子の設計と合成に成功し世界的な注目を浴びている。本研究では、この二つの技術 を融合し、図 1 の「電池で動く世界最薄発光デバイス」の実現を目指す。発光層として長谷川の金属錯体 LB 膜(ラングミュアブロジェット膜)を利用し、電流注入用電極として黄のグラフェン結晶膜を用いる。これら をサンドイッチ型に積層したものがデバイス構造であり、その厚さはわずか数 10 ナノメートル(10 ナノメー トルは、1 億分の 1 メートル)である。グラフェン、金属錯体分子は両者ともソフトな材料であるため、この デバイスが実現すれば、複雑な 3 次元形状を持つ面にフレキシブルかつ極薄のディスプレイを設置することが 可能となる。 2.本学への貢献度 近年の大きなインパクトを持つ最先端研究は、学問体系の枠組みにとらわれないアイディア重視のものが多 く、融合研究の重要性が年々高まっている。しかし、本学において、学科や分野を越えた融合研究はごく少数 しか行われていない。本研究は、電気電子工学科の黄と化学・生命科学科の長谷川が共同して行うものであり、 物性物理学・電子デバイス工学・錯体化学・光化学などの異なる学問分野が融合する学際研究である。そのた め、本研究で得た成果を国内外の学会や学術誌において発表することで、本学における融合研究のアクティビ ティの高さを世界に対してアピールすることができる。また、共同研究活動を通じて、分野にとらわれない幅 広い視野を持つ人材が育成されるなど、教育的な効果も期待される。将来的には、共同研究で得られた成果を ベースとした競争的補助金への申請を行い、外部資金獲得へとつなげていきたい。 3.共同研究計画及び方法 目標とするデバイスを実現するために、以下のような役割分担で研究を進める。①グラフェンの結晶成長と 転写(黄):本項目については既に技術確立している。②グラフェンの表面状態制御(黄・長谷川):次項目 の LB 膜積層に適した表面状態について検討を行う。グラフェン表面の物理的・化学的処理技術について検討 し、最適な表面を実現する。③グラフェン上への LB 膜堆積とその評価(長谷川):LB 法を用いてグラフェ ン上に分子膜を積層する。評価には、ラマン分光、X 線光電子分光(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)観察、 などを用いる。これらの評価装置は、研究室および理工学部附置機器分析センターに完備されている。併せて、 高分解能の構造評価のために、大型放射光実験施設 SPring-8 の放射光を用いたエックス線回折測定を行う。④ 発光デバイスの作製と評価(黄・長谷川):実際にデバイス構造を作製し、その発光特性を評価する。電流注 入発光特性評価のための発光量子収率測定装置一式を機器備品として計上している。 2016 年度に、①から③までについて技術確立を完了し、2017 年度に④に注力する予定である。2 週間に 1 回程度、進捗報告会を開催し、正確かつ詳細に情報を交換しながら研究を進める。なお、現段階で、共同研究 の一部を既にスタートさせており、項目①~②についての予備実験を進めている。 4.研究期間終了後の成果公表 本研究において得られた成果は、関連する国内外の学術講演会において発表を行い、かつ、査読付き学術誌 へ英語論文として発表する。また、積極的に特許申請も行い、特許公報を通じて新しい技術を広く公表する。 《研究分担者》 代表 黄 晋二 研究分担者・兼担 長谷川 美貴
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