職場におけるユーモアの効果

職場におけるユーモアの効果
-ユーモアは仕事の薬にも毒にも“なる”-
○丸山
淳一1・藤
桂2
(1 中京大学,2 筑波大学 人間系 )
キーワード:ユーモア,精神的健康,職場
The Effects of Humor at Workplace; The humor could work as medicine or poison.
Junichi Maruyama and Kei Fuji
(1 Chukyo University,
2
University of Tsukuba, Faculty of Human Sciences)
Key Words: Humor, Mental-health, Workplace
問題と目的
昨今,日本の職場におけるコミュニケーション不足が組織
力低下につながる要因として問題視されている一方(中
村,2010;高橋他,2008)
,職場活性化のための施策として笑い
やユーモアに注目する動きがある(宮内,2011)
。
ユーモアを職場で活かすという動きは海外で先行しており,
ユーモアがメンバー間の潤滑剤となり (Morreall,1991),社
会的距離を縮め(Graham,1995),良い関係を構築・維持するた
めに重要な機能を果たすと指摘されている(Holmes,2006)。
またユーモアは職場での関係構築に効果的だけでなく,困難
な出来事を楽観的に解釈しなおすことを促し,バーンアウト
の減少や(Jessica & David,2012)
,創造性を喚起させ職場の
目標達成に寄与する可能性も示されている(Holmes,2007)。
さらに,働く個人の精神的健康に対してポジティブな影響を
及ぼすという主張もある(Talbot & Lumdern,2000)
。
一方,国内のユーモア研究に目を向けると,多くは学生を
対象にしたものが中心で(朝野他,2003;宮戸・上野,1996;
谷・大坊,2008;塚脇他,2011 など),職場や社会人を対象に
した研究は少ない。また,文化や社会の性質の違いにより,
日本と欧米は違った内容や機能,文脈でユーモアが使われて
いるという指摘や(桾本,2007;大島,2006),ビジネス組織に
おける文化間差異(Adler,1991)を考慮すると,職場のユー
モアの効果について海外の先行研究で示されてきた知見が,
我が国の職場環境にもそのまま適用できるとは限らない。
そこで本研究では,そもそも我が国の職場ではどのような
内容のユーモアが生まれているのか,そしてそれらのユーモ
アが働く個人にどのような影響を及ぼしているかを検討する。
方 法
調査対象 組織に勤める社会人に対する質問紙調査を実施
し,408 名(男性 300 名,女性 107 名,不明 1 名;平均 36.78
歳,SD=7.06)の回答を得た(2013 年 9 月~10 月)
。
質問紙の構成 (A)職場ユーモア:現在勤務している職場
でどのような内容のユーモアが交わされているかについて,
予備調査の結果(組織に勤める社会人 16 名を対象に,
“職場
内で生じるユーモア”に関する半構造化面接を実施し,発言
内容を分類した結果,23 カテゴリーが得られた)
,および既
存尺度(牧野,1997: 塚脇他,2009)に基づき独自に作成した
51 項目(5 件法)。
(B)職場ユーモア反応:職場で交わされる
ユーモアに対する感情的反応として,多面的感情状態尺度(寺
崎・岸本・古賀,1992)などを参考に独自に作成した 15 項目
(5 件法)
。
(C)自己開示:職場における自己開示の程度とし
て,Jourard(1959)の日本語版自己開示尺度(中村,1983)
より,仕事に関する 10 項目(5 件法)
。
(D)職場コミュニケ
ーション:職場内外における他者とのコミュニケーションの
程度に関する 15 項目(5 件法)。
(E)精神的・身体的健康:
福原・鈴鴨(2005)の 8 項目(5 件法,一部 6 件法)
。
(F)業
務パフォーマンス:業務の自己評価に関する 4 項目(5 件法)
。
結果と考察
まず職場ユーモアに関して因子分析(主因子法・Promax 回
転)を行った結果,
“内部揶揄的ユーモア”
“自己開示的ユー
モア”
“遊戯的ユーモア”
“人物想起的ユーモア”
“外部揶揄的
ユーモア”の 5 因子が示された。これに基づき共分散構造分
析を行った結果(Fig. 1),職場内で自己開示的ユーモアや人
物想起的ユーモア,外部揶揄的ユーモアが生じていることで,
ユーモアをきっかけとした職場内コミュニケーションが活発
となり,最終的には精神的・身体的健康や業務パフォーマン
スにも促進的影響を与えることが示された。一方で,内部揶
揄的ユーモアや遊戯的ユーモアは,ネガティブな自己開示を
促し,職場内コミュニケーションを低減させ,精神的・身体
的健康や業務パフォーマンスに悪影響を及ぼしていた。
ゆえに先行研究と同様,職場ユーモアにおいても攻撃性や
遊戯性,自己開示性を含むユーモアが確認された他,集団内
の関係性が固定的かつ長期的に継続する環境ならではのユー
モアも示された。また職場ユーモアはその内容の違いにより,
職場内のコミュニケーションに様々な効果を及ぼし,精神
的・身体的健康や業務成績にも影響する可能性が示唆された。
内部揶揄的ユーモア
-.15*
.60**
ポジティブ反応
.25**
.12*
-.17**
.50**
人物想起的ユーモア
**
.56
.53**
.52**
外部揶揄的ユーモア
.26
-.12*
.26**
.67**
-.18**
.11*
.14*
遊戯的ユーモア
**
ポジティブ開示
**
-.28
.14**
**
.16**
.21**
.16*
*
.17**
-.13*
.12*
.18
業務内コミュニケーション
ネガティブ反応
-.16**
ネガティブ開示
-.20**
.54**
.67**
.17**
.17**
自己開示的ユーモア
.56**
.50
.13*
.13**
-.13**
.23**
.17**
業務外コミュニケーション
Figure 1. 共分散構造分析の結果. χ2(37)=125.86(p<.01),GFI=.96,AGFI=.89,CFI=.94,RMSEA=.08
有意なパスのみを記載し,誤差変数の図示は省略した.数値は標準偏回帰係数を示す(** p<.01, * p<.05).
精神的・
身体的健康
業務パフォー
マンス