預金者行動を考慮した コア預金モデルの構築 Core Deposits Modeling

預金者行動を考慮した
コア預金モデルの構築
影井 智宏、小柳 誠
株式会社 浜銀総合研究所
Core Deposits Modeling Under
Depositors’ Behavior
Tomohiro Kagei, Makoto Koyanagi
Hamagin Research Institute, Ltd.
要旨:
代表的なコア預金モデルを用いた推定結果を紹介
するとともに 我々の考える新たなコア預金モデルに
するとともに、我々の考える新たなコア預金モデルに
ついて提案する。
キ ワ ド
キーワード:
コア預金、上武・枇々木モデル、預金者行動、流動性預金モデル
2
アウトライン
1.
1
2.
3.
4.
コア預金とは
既存モデルの特徴
オリジナルモデルの提案
まとめと今後
3
使用データ・分析環境 概要
本報告では日本銀行が公開している全国銀行の預金残高や預金金利のデータを用い
る
る。
z 実際にコア預金を推定する際には自行の預金残高や預金金利のデータを使用する。
z 分析・モデル構築にはBASE SAS 9.2 M3を使用。
z
1 月次 流動性預金
2 月次 固定性預金
データ
取得元
要求払預金/一般法人・個人・公金
/末残/国内銀行 預金者別預金 日本銀行 「預金・貸出関連統計(DL)」 人格別残高
(月次)
内容
定期性預金/一般法人・個人・公金
/末残/国内銀行 預金者別預金 日本銀行 「預金・貸出関連統計(DL)」 人格別残高
(月次)
年月
期間
199804~201104 157ヶ月
199804~201104 157ヶ月
普通預金 預金種類別店頭表示
3 月次 普通預金金利
金利の平均年利率等
日本銀行 「預金・貸出関連統計(DL)」 週次データを月次(月末)に変換し使用 199410~201105 200ヶ月
4 月次 LIBOR
1, 3, 6, 12month LIBOR
Bloomberg
5 月次 コールレート
無担レート・O/N 月平均/金利
コールレート (月次)
日本銀行 「主要時系列統計データ表」 O/Nコール(月中平均)
1m, 3m, 6m LIBOR
198601~201106 305ヶ月
198507~201105 311ヶ月
4
コア預金とは
『明確な金利改定間隔がなく、預金者の要求によって随時払い出される預金(要求払預
金)のうち、引き出されることなく長期間銀行に滞留する預金。』(金融庁「中小・地域金融
金)のうち 引き出されることなく長期間銀行に滞留する預金 』(金融庁「中小・地域金融
機関向けの総合的な監督指針」)と定義される預金。
z 預金残高のうち市場金利に追随しない(金利リスクに晒されている)部分を指す。
z 金融機関はコア預金の設定に際して「標準的手法」と「内部モデル手法」を選択可能。
z
z
標準的手法は推定が容易であるが内部モデル手法に比べ過度に保守的なコア預金推
定となる。
内部モデル手法 コア預金イメージ図
残高
残高
標準的手法 コア預金イメージ図
過去実績
将来予測
過去実績
将来予測
将来予測
コア預金
平均2.5年
現残高の50%相当額
0(現在)
コア預金
5
時間(年)
0(現在)
5
時間(年)
5年以上の設定が可能
5
コア預金評価の流れ
①追随率推定
流動性預金のうち市場金利に追
随する部分は金利リスクフリー。
z 残りの部分(■)は金利リスクに
晒されていることになる。
z
②流動性預金残高の評価
②流動性預
残高 評価
金利上昇などによる流動性預金減少リスクを将来
に渡って推定。
z 金利リスクに晒されている部分(■)については経
過時間によらず一定の割合とするのが一般的。
z
ある時点での流動性預金残高
市場金利に
追随する部分
経過時間
②?
①?
金利リスクに
晒されている部分
6
追随率の推定
預金金利の市場金利に対する金利リスク(追随率)を推定。
z
将来残高のうち市場金利に追随する(金利リスクに晒されていない)部分を排除した残
高をコア預金とする。
z 今回の報告では、追随率=0.3876として使用。
z
追随率推定結果
O/Nコール金利と普通預金金利の時系列推移
0.6%
0.25%
O/Nコールレート
普通預金金利
0.5%
y = 0.38647 x + 0.00002
0.20%
0.15%
預金金利
金利
0.4%
0.3%
0.10%
0.2%
0.1%
0.05%
0.00%
201104
201004
200904
200804
200704
200604
200504
200404
200304
200204
200104
0.0%
0.0%
0.2%
0.4%
0.6%
O/Nコールレート
7
流動性預金残高の評価方法
過去の預金残高や預金金利、市場金利の推移などの情報を用いて流動性預金残高を
モデル化
モデル化。
z モデルを用い、将来各時点の流動性預金残高Volume at Risk(VaR)99%残高を推定。
z 採用するモデルによって将来の流動性預金残高は異なる。
残高
z
Volume at Risk(VaR)とは
将来予測
ドリフト水準
モデルの構築
Volume at Risk
99%残高
ドリフト
水準
過去の残高推移
時間
0(現在)
残高・低
残高・高
Volume at Risk
99%残高
8
既存の流動性預金モデル
z
流動性預金モデルに関する先行研究をまとめる。
z
本報告ではコア預金推定で金融機関に広く採用されているレジームシフトモデルと、固定
本報告では ア預金推定で金融機関に広く採用されているレジ ムシフトモデルと 固定
性預金との関係を考慮した上武・枇々木を推定し、上武・枇々木モデルの改良を行なう。
モデル
モデルの特徴
代表的なモデル
必要データ
1 OTSモデル
市場金利・預金金利で残高変動を説明する流動性預 Net Portfolio Value
モデル, OTS(2001)
金モデル。
流動性預金残高
預金金利
市場金利
2 JvDモデル
市場金利で残高変動を説明する流動性預金モデル。 JvDモデル
Jarrow and Deventer(1998)
金利にはHWモデルを使用。
流動性預金残高
市場金利
コア預金モデルとして現在最も標準的なモデル。
AA-Kijimaモデル
3 レジ
レジームシフトモデル
ムシフトモデル 4つモデルの中で最も保守的な推定方法と言われて
伊藤 木島(2007)
伊藤・木島(2007)
いる。
4 上武・枇々木モデル
流動性預金と固定性預金の関係を考慮した流動性
預金モデル。
5 (参考)標準的手法
コア預金は現在時点で残高の50%相当額。
満期は5年、平均2.5年。
流動性預金残高
固定性預金残高
流動性預金残高
市場金利
上武・枇々木モデル
上武・枇々木(2009)
流動性預金残高
9
レジームシフトモデル:概要
多くの金融機関が採用、内部モデルとして標準的なモデル。
レジ ムシフトモデルを用いて流動性預金残高を推定
レジームシフトモデルを用いて流動性預金残高を推定。
z 使用するデータは流動性預金の時系列データのみ。
z
z
過去には下降レジーム
は存在しないものする
μ安定
• 各時点のレジームは上昇・安定・下降の3種類(ただ
し過去に下降レジームは存在しない)だとする
• 過去の各時点レジームは観測できない(尤も確から
しいレジームを推定するだけしかできない)
• レジームと金利水準の整合性が取れているという保
μ上昇
μ安定
障はない(上昇期は金利低下期と一致するであろ
う・・・という仮説を設定した上でモデル化する)
う
と う仮説を設定した で デル化する)
• そのため、金利を直接扱うことはない
上昇レジーム
μ上昇
安定レジーム
μ安定
下降レジーム
μ下降
10
レジームシフトモデル:モデル推定式
yt ≡ logg Dt − logg Dt −1
ε t ~ N (0,1),
yt = μ R + σε t ,
P(Rt +1 = j | Rt = i ) = pij ,
P(R1 = 安定 ) = ρ ,
R = 安定, 上昇
i, j = 安定, 上昇
P(R1 = 上昇) = 1 − ρ ,
0 ≤ ρ ≤1
Dt
: t時点の流動性預金残高
μR
: レジームRのドリフト項
R
: レジーム
σ
: ボラティリティ
pij
: レジーム間の遷移確率
ρ
: レジームの初期条件
流動性預金残高推移(変動率:yt)を尤も説明できる各パラメータ値を推定
P上昇→
上昇 安定
P安定→安定
残高安定期
レジーム
P上昇→上昇
残高上昇期
レジーム
P安定→上昇
yt = μ安定 + σε t
yt = μ上昇 + σε t
11
レジームシフトモデル:VaR99%
Volume at Risk 99%残高推定
各時点の局面(レジーム)
残高下降期
残高安定期
データから観測不可
残高上昇期
過去
将来
残高下降期
レジーム
残高上昇期
レジーム
データから推定済
残高安定期
レジーム
μ安定 − μ下降
μ下降
μ上昇 − μ 安定
Volume at Risk 99%残
0(現在)
高
μ下降
μ安定
距離が等しいと仮定
「預金者は金利の上下変動に対し対称な反応を示す」
μ安定 − μ下降 = μ上昇 − μ安定
μ下降 = 2 μ安定 − μ上昇
μ上昇
時間
現在以降は残高下降期レジームが続くとし、下降期レジームにおけ
る99%タイル(下1%タイル)点の残高をVolume at Risk9
9%残高とする。
⎧⎛
⎫
1 ⎞
Dt = D0 exp⎨⎜ μ下降 − σ 2 ⎟t + σε t ⎬
2 ⎠
⎩⎝
⎭
下1%
タイル点
ε t = N (0, t 2 )
Dt
: t時点の流動性預金残高
Volume at Risk
99%残高
12
上武・批々木モデル:概要
z
上武・枇々木(2009)で提案されたモデル。
z
流動性残高の増減は、金利変動を要因とした預金者の流動性預金と固定性預金の資
流動性残高の増減は 金利変動を要因とした預金者の流動性預金と固定性預金の資
金移動によるものと考える(預金者行動を考慮)。
z
総預り資産と固定性預金比率(総預りに占める固定性預金の比率)の2つを別々にモデ
ル化し、流動性預金残高はこの2つのモデルから推定。
流動性預金残高
固定性預金比率モデル
将来
×
固定性預金比率
率
残高
高
総預り資産残高モデル
将来
0(現在)
13
時間
上武・批々木モデル:モデル推定式
預かり資産残高
At ≡ DtL + DtF
y ≡ log At +1 − log At
At
: t時点の預かり資産残高
L : t時点の流動性預金残高
t
D
DtF: t時点の固定性預金残高
dy = μdt + σdzt
μ
σ
固定性預金比率
dzt : 標準ブラウン運動項
DF
ρt ≡ tL
Dt
: ドリフト項
: ボラティリティ
ρt
: 固定預金比率
rt
: t時点の市場金利
ρ t = α1 (log rt − α 2 )t + α 3 log rt + α 4
14
上武・批々木モデル:VaR99%
総預り資産の推定モデルから得られたドリフトを反転させる(これまでの増加スピードと
同じスピ ドで減少するという保守的な仮定を設定)。
同じスピードで減少するという保守的な仮定を設定)
z 反転後の下限1%タイル値を総預り資産のVaR99%とし、それに固定性預金比率をかけ
合わせることで、流動性預金のVaR99%とする。
z
総預り資産の推定ドリフト
総預り資産の推移
ドリフト
反転
総預り資産の
VaR99%
15
流動性預金VaR99%の評価結果
200
180
実測
OTSモデル
JvDモデル
レジームシフトモデル
上武・批々木モデル
140
120
100
80
60
40
20
201104
201004
200904
200804
200704
200604
200504
200404
200304
200204
0
200104
流動性預金残高(兆円)
160
16
実務的観点からモデルに求められるもの
z
実務的観点から考えると既存モデルでは上武・枇々木モデルが良いと思われる。
1.モデルコンセプトの納得感
銀行業務に通じた納得感のあるモデルコンセプトが望ましい。
高度な手法を用いることが重要なのではない。
上武・枇々木モデルは預金者行動を考慮しており納得感がある。
2.金利上昇によるストレステストが可能
流動性預金減少リスクは金利上昇時に高まると考えるのが妥当であり、
様々な金利シナリオ下でストレステストが可能なモデルが望ましい
様々な金利シナリオ下でストレステストが可能なモデルが望ましい。
上武・枇々木モデルでは金利上昇による固定性への資金移動をモデル化。
3.モデルの安定性
コア預金は長期のリスク量を推定するためのものであり、時期により結果
(推定値)が大きく異なるようなモデルは好ましくない。
17
固定性預金比率モデルの改良
z
上武・枇々木の固定性比率モデルはモデル構築期間(連続した期間である必要)の固定
性預金比率のトレンドに大きく依存する そして観測可能な期間のトレンドは大半がダウ
性預金比率のトレンドに大きく依存する、そして観測可能な期間のトレンドは大半がダウ
ントレンド。
z
一方、コア預金として必要なことは金利アップトレンドにおける流動性預金の減少リスク
定量化である(金利ダウントレンドに引きずられたモデルは好ましくない)。
z
そこで我々は金利上昇時の流動性預金減少リスク定量化という観点から、新たな固定
性預金比率モデルを提案する。
固定性預金比率(実測値)
3.0
3month LIBORの推移
ρ t = α1 (log rt − α 2 )t + α 3 log rt + α 4
2.5
9.0%
バブル期
8.0%
時間に依存
7.0%
6.0%
3month LIBOR
トレンド
1.5
1.0
5.0%
金利アップトレンド期間
4.0%
同時使用不可
3.0%
0.5
ゼロ金利解除
2.0%
固定性預金比率(実測)
ダウントレンドが基本
固定性預金比率モデル(全期間指定)
1.0%
0.0
200901
200701
200501
200301
200101
199901
199701
199501
199301
199101
198901
198701
201009
200909
200809
200709
200609
200509
200409
200309
200209
200109
200009
199909
0.0%
199809
固定性預金比率
2.0
18
新たな固定性比率モデルのコンセプト
z
市場金利の変化が固定性預金比率の変化に起因するというコンセプト。
z
これにより、連続した時点のデータである必要はなくなり、金利トレンドによって固定性比
これにより 連続した時点のデ タである必要はなくなり 金利トレンドによ て固定性比
率のモデルを変更することが可能となる(後述)・・・最も興味のある金利アップトレンドに
おける固定性比率をモデル化することが可能。
市場金利の変化
固定性預金比率の変化
T
T+1
固定性預金比率の変化(上昇)
固定性
性預金比率
市場金利
市場金利の変化(上昇)
時間
T
T+1
時間
19
金利感応度:金利トレンドによる非対称性
z
金利トレンドによって固定性比率における金利感応度は異なるであろうと考えられる。
流動性預金減少リスク定量化において重要な金利アップトレンドに限定した固定性預金
流動性預金減少リスク定量化において重要な金利ア
プトレンドに限定した固定性預金
比率モデルを構築。
z 金利変化に対する固定性預金比率変化のラグも考慮(36カ月)。
z
3month LIBORの推移とトレンド識別
9.0%
トレンド別 相関関係(ラグ)
3.0
1
2.5
0.8
アップトレンド3mL(左軸)
ダウントレンド3mL(左軸)
8.0%
その他トレンド3mL(左軸)
1.5
4.0%
3.0%
2.0%
アップトレンドの定義
z 12MAが上昇
z 金利が12MAよりも高い
z 上記状態が6m以上継続
1.0
固定性預金比率
2.0
5.0%
固定性預金比率の収益率との相
相関係数
6.0%
3month LIBOR
36ヶ月
固定性預金比率(平滑化)(右軸)
7.0%
0.6
0.4
0.2
全体
0.5
0
アップ
1.0%
ダウン
0.0%
198701 198901 199101 199301 199501 199701 199901 200101 200301 200501 200701 200901
0.0
-0.2
1ヶ月
6ヶ月
12ヵ月
18ヶ月
24ヵ月
36ヶ月
3month LIBORの収益率期間
48ヶ月
60ヶ月
72ヶ月
20
金利感応度:金利水準による非線形性
同一の金利変化でも金利水準によって、固定性預金比率変化への影響は異なるものと
考えられる(同
金利変化でも金利水準が高ければ影響大)。
考えられる(同一金利変化でも金利水準が高ければ影響大)
z この非線形性を考慮し、金利変化と金利水準どちらも考慮したモデルを構築。
z
金利水準による非線形性
0.006
ケースA
金利が0.5%から1.0%に変化
固定性比率変化
同一の金利変化(2倍)
ケースB
同一ではない
ケースB
3mL 0.3%未満
0.004
y = 0.1541x - 0.0096
R² = 0.6822
3mL 0.3%以上
0.002
固定性比預金比率対数
数収益率
ケースA
0.000
-0.002
-0.004
y = 0.0805x - 0.007
R² = 0.5431
-0.006
-0.008
金利が3%から6%に変化
固定性比率変化
-0.010
-0.012
-0.04
-0.02
0.00
0.02
0.04
3mL 36ヶ月対数収益率
0.06
0.08
0.10
21
新たな固定性預金比率モデル推定式
DtF
ρt ≡ L
Dt
xt ≡ log ρ t − log ρ t −1
log rt
xt = β1
rt + β 2 D
log rt −36
DtL : t時点の流動性預金残高
DtF : t時点の固定性預金残高
ρt
: 固定預金比率
xt
: 固定預金比率の対数収益率
rt
: t時点の3month LIBOR
D
: ダミー変数(3month LIBORが
0.3%以下の場合1、それ以外0)
22
コア預金推定アプローチ
以下のアプローチで、各流動性預金モデルを用いた場合のコア預金を推定。
z
1. 追随率は0.3876とする。
2. 将来の金利は99%タイルの上昇シナリオで推移するものとする。
3. 金利シナリオはスタート時点で得られるイールドカーブを用いてHW
モデルにより推定。
4. 金利を取り扱う流動性預金
金利を取り扱う流動性預金モデルには上記の金利上昇シナリオを適
デルには上記の金利上昇シナリオを適
用(レジームシフトのように金利を取り扱わないものはそのまま)。
23
コア預金推定結果
120
OTSモデル
JvDモデル
(参考)2001年4月時点残高
96.204兆円
レジームシフトモデル
上武・枇々木モデル
80
オリジナルモデル
標準的手法
(1-追随率)= 0.61353
60
40
20
201104
201004
200904
200804
200704
200604
200504
200404
200304
200204
0
200104
流動性預金残高(兆円)
流
100
24
まとめ
z
本報告で提案したオリジナルのコア預金モデルの特徴を以下にまとめる。
1.モデルコンセプトの納得感
上武・枇々木モデルのコンセプトを踏襲し、流動性預金の減少要因を(金利
変動による)固定性預金への資金移動と考え、預金者行動を考慮したコア
預金モデルを構築した。
2.金利上昇によるストレステストが可能
固定性預金比率は金利によって決定することから、金利シナリオに準じたコ
ア預金推定が可能である。また、金利水準による非線形性も考慮すること
で、本格的な金利上昇時に想定されるこれまで以上の固定性預金へのシフ
トも想定している。
3.モデルの安定性
金利のトレンド非対称性を考慮して、(コア預金にとって重要な)金利アップ
トレンドを対象としたモデルを構築。今後、金利上昇局面を迎えるまではモ
デルの再構築は不要であり、安定性は非常に高いと言える。
25
今後の展望
z
今回の報告では、全預金者行動は統一的であるとして流動性預金全体での固定性預金
への移動特性を考えたが 厳密には様々な要因(属性 嗜好性 ロイヤリティなど)によ
への移動特性を考えたが、厳密には様々な要因(属性、嗜好性、ロイヤリティなど)によ
り、預金者の金融行動は統一的でない。
z
今後は、流動性預金の粘着性という観点から預金者をセグメンテーションすることで、よ
り預金者行動の特性を考慮したモデルの構築を行う予定である。
この預金者セグメンテーションにおいてロイヤリティ軸を考慮することで、ロイヤリティ低
下による流動性預金減少という要因も考慮することになる。
z また、これまでは流動性預金の(行内)資金移動先は固定性預金が主であったが、今後
は投資信託を代表とする預り資産への移動も重要な要素になると考えている。
主な減少要因(例)
z
セグメントによる違い
様々な要因で
預金者をセグメ
ンテーション
固定性嗜好高い
(行内流出)
預り嗜好高い
(行内流出)
ロイヤリティ低下傾向
(行外流出)
相続による流出
(行外流出)
26
参考文献
z
z
z
z
z
z
z
z
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27