9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法 - 東北大学サイクロトロン・ラジオ

9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9-1.[11C]SCH23390 合成法
SCH23390 はドーパミン D1 レセプタに選択的なアンタゴニストで、その
11C
標識体は脳内
ドーパミン D1 受容体測定用放射薬剤として米国 Johns Hopkins 大学、スウェーデンのカロリ
ンスカ研究所、放射線医学総合研究所などで用いられてきた 1-3)。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する。
Cl
Cl
NH
N
11
CH3I
HO
11
CH3
HO
DMF, 70oC, 3 min
SCH24518
[11C]SCH23390
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
SCH24518(R(+)−7−chloro−8−hydroxy−1−phenyl−2,3,4,5−tetrahydro−1H−3−benzazepine)
Schering 社提供品または RBI 社製品(Cat. No. S-114)を用いる。
(註1)
無水 DMFAldrich (22705-6)
註1) RBI 社製品は塩酸塩の形で供給されるため、その炭酸バッファー溶液(570 mg Na2CO3
+ 414 mg NaHCO3/100 mL H2O)から酢酸エチルを用いて抽出して脱塩する。抽出液
は減圧下、室温で蒸発乾固した後、無水 DMF で溶解し、1 mg/mL 溶液とする。得ら
れた溶液は N2 置換し、冷凍室に保管する。このようにして調製、保管した溶液は数カ
月程度にわたり繰り返し使用することが可能である。1回の使用量は 0.3 mL 程度であ
る。
[方法]
SCH24518 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.3 mL)を-15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100
mL/min)[11C]よう化メチルを通し、70C で 3 分間反応させる。反応液は窒素ガス気流下 HPLC
用インジェクターに輸送し、分離精製する。[11C]SCH23390 を含む分画はロータリエバポレー
95
ターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、生理食塩水(10 mL)で溶解し、メンブレンフィ
ルター(0.22 m)に通し、無菌バイアルに捕集する。
[合成法の特長と問題点]
Halldin や、放医研での初期頃の合成では Schering 社により提供されたフリーの SCH24518
を反応基質として用いていたため、塩基を特別に加えず[11C]よう化メチルと反応させていたが、
RBI 社製品は塩酸塩の形で市販されているのでそのままでは反応が進行しない。SCH24518 に
対し、10 倍量の KOH を加えた実験でもフリーの SCH24518 を用いた場合に比し反応収率は 1
桁程度低い結果が得られている。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)
、日本分光
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4(425/75)(註1)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:目的物 6.5 分、原料 9 分
註1) 溶媒組成の比率により[11C]SCH23390 と SCH24518 の溶出順序が入れ替わるので注意
が必要である。アセトニトリルの比率を低くすると[11C]SCH23390 の溶出位置は
SCH24518 よりも後ろになる傾向にあり、SCH24518 の除去を困難にする。
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
次の反応スキームにより合成する。
96
喜一)
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
Cl
Cl
NH
11
CH3OTf
HO
N
11
CH3
HO
NaOH, acetone
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
SCH24518RBI 製(塩酸塩、70-0320-50)、ABX 製(塩酸塩)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
SCH24518 の塩酸塩あるいはトリフルオロメタンスルホン酸塩(トリフレート)(註1)の
アセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)(註1)に 1 当量の NaOH 水溶液を加え、これに室温下
で He 気流下(30~50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。SCH24518 の
遊離塩基(註2)を用いる場合には NaOH は必要としない。直ちに反応液に H2O で 2 倍希釈
した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) トリフレートの調製法は、[11C]ラクロプライドの[11C]メチルトリフレート法の註2を
参照。
註2) 遊離塩基の調製法は、上記の[11C]よう化メチル法の註1に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]メチルトリフレートによるメチル化に SCH24518 の遊離塩基を使用する場合には
NaOH は不要であるが、塩の場合は 1 当量の NaOH が必要である。トリフレートや遊離塩基
型の前駆体を使用するとき、[11C]メチルトリフレートに対して 65~70%の収率であるのに対し、
塩酸塩の前駆体での収率はほぼ 50%に低下する。しかし、臨床診断に十分対応できる収率であ
り、必ずしも化学形を変換しなくともよい。一方、大過剰の NaOH 存在下には、いずれの場合
にも収率は 50%以下に低下する。(石渡、未発表データ)
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Finepak SIL C18S(5 m, 内径 4.2 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 1.7 分、目的物 2.1 分
97
A rbitrary U nit
[11 C ]SC H 23390
SC H 24518
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
R etention Tim e (m in)
C.その他
[毒性]
SCH23390(10 mg/kg)を雄性 ddY マウス(10 匹)の尾静脈より投与し、10 日間にわたっ
て、生死の観察を行った結果、死亡例は認められず、剖検においても特記すべき変化は認めら
れなかった。この値は、37 GBq/mol の比放射能で標識した[11C]SCH23390 を体重 60 kg のヒ
トに 370 MBq(10 mCi)投与するものと仮定すると、少なくとも 200,000 倍以上の安全計数
を有していることを示しており、毒性的には問題がないと考えられる。
また、前記合成法に従って製造された最終製剤3ロットについて、0.2 mL を雄性 ddY マウ
スに静注し、10 日間にわたって生死、中毒症状の有無を観察した結果(1 群 10 匹)、死亡例は
認められず、また何らの中毒症状も認められなかった。
[被曝線量]
[11C]SCH23390 を雄性 ddY マウスの尾静脈より投与し、経時的に血、肝、腎、心、肺、小脳、
筋肉、睾丸、脳を摘出し、その重量及び放射能を測定した。得られた結果より、ヒト(25 歳、
体重 60 ㎏)における被曝線量を MIRD 法に準じて推定した。
なお、直接放射能分布を測定しなかった臓器については、その放射能濃度は血流中のそれと
同一と仮定して計算した。その結果を次表に示す。
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
腎臓
5.61
膵臓
2.00
甲状腺
1.07
胸部
0.427
肝臓
11.9
肺
3.01
生殖腺
1.75
全身の線量当量は 3.34 Sv/MBq
参考文献
1.
Halldin C., Stone-Elander S., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 37, 1039–1043 (1986).
2.
Farde L., Halldin C., Stone-Elander S., et al.: Psychopharmacology, 92, 278–284
(1987).
3.
Okubo Y., Suhara T., Suzuki K., et al.: Nature, 385, 634–636 (1997).
98
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9-2.[11C]ラクロプライド合成法
ラクロプライドはドーパミン D2-like 受容体に選択的に結合するアンタゴニストである。神
経遮断薬としては用いられていないが、その高い選択性のため、薬理学、神経化学の実験によ
く用いられる。炭素-11 標識体である[11C]ラクロプライド注射液は静脈注射後脳内へ移行し、
黒質線条体経路のシナプス後神経に存在するとされる D2-like 受容体に結合する 1)。この結合は
可逆的かつ PET 測定可能な時間内に平衡化するため、薬剤分布の時間変化を解析することによ
り結合と解離の速度定数をもとめることができる
2)。また、内在性のドーパミンとの受容体の
競合、治療薬による受容体占有率の測定など様々な試みが行われているのも、この薬剤が優れ
た性質を持っているためである。
[11C]ラクロプライド合成法としては当初[11C]よう化エチルによる N-エチル化反応
3)が報告
されたが、[11C]よう化メチルによる O-メチル化(DMSO 中)が主流となった 4)。この反応を
DMF−NaH 系で行う方法も報告された 5)。最近、より反応性に富む[11C]メチルトリフレートに
よる O-メチル化を用いたものが報告されており 6)、その有効性が注目されている。
A-1.[11C]よう化メチル法
(籏野
健太郎)
下記の反応スキームにより合成する。
OH
Cl
O
OH
N
H H
OH
Cl
11CH I
3
Cl
N
H H
11
O CH3
N
C2H5
O
DMSO, NaOH
N
C2H5
Cl
HBr
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチルラクロプライド臭化水素酸塩(DMR・HBr)Astra 製(無償提供)、RBI 製(D-204)
(註1)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
水酸化ナトリウム(無水)Sigma(S-8045)(註2)
註1) 乾燥したバイアルに 1 mg を秤量し窒素置換して密栓する。RBI 製は推奨しない。
註2) 純度の良い水酸化ナトリウムを推奨する。注射用蒸留水に約1時間窒素を通じて製し
た脱酸素水に溶解し、5 M NaOH 水溶液を調製する。
[方法]
DMR・HBr(1 mg)を含むバイアルに DMSO(0.4 mL)を加え溶解する。ここに 5 M NaOH
(3 L)を加え強くかくはんする(註1)。この溶液を超音波照射すると 10~20 分で淡緑色を
呈する。ここに室温下、N2(50 mL/min 程度)によって[11C]よう化メチルを通じる。合成装置
の放射能センサーの指示値が最大になったところで直ちに導入を停止し、密閉加温して反応を
行う(100C、5 分)。反応液に 10 mM リン酸(0.5 mL)を加え、N2 気流によって未反応の[11C]
99
よう化メチルを除いた後 HPLC にて精製する。
精製された[11C]ラクロプライドはロータリエバポレーターに分取し、溶媒を除いた後、生理
食塩液に溶解し、メンブランフィルターを通じて無菌バイアルに捕集する。
註1) DMR の量が多いと収率が向上しかつ安定化する傾向があるが、製剤への DMR 混入は
増加すると考えられる。
[合成法の特長と問題点]
本法は反応溶媒に DMSO を用いるため、[11C]よう化メチル捕集時に冷却することができな
い(m.p. 18˚C)。このため、合成装置の放射能センサーの指示値に注意し、適当なところでメ
チル化反応のステップに移らなくてはならない。また、収率は 5~40%とばらつく。DMR 溶液
が着色することが必須であるが、NaOH の加えすぎは必ずしも良好な結果につながらない。収
率のばらつきは反応活性種である遊離 DMR が DMSO 中で不安定であることが原因であると推
定される。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(三宅
義徳)
下記の反応スキームにより合成する。
OH
Cl
O
OH
N
H H
OH
Cl
11CH OTf
3
Cl
N
H H
11
O CH3
N
C2H5
O
Acetone, NaOH
N
C2H5
Cl
CF3SO3H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
DMR・トリフレート(註1)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
註1)
DMR・HBr より調製する。
DMR・HBr(42.5 mg)を蒸留水(約 3 mL)に溶かし、0.1 M NaOH 水溶液で中性と
し、一夜冷蔵庫静置後析出する沈殿を濾取し、少量の蒸留水で洗い乾燥すると遊離
DMR が無色の粉末(33.8 mg、収率 98.6%)として得られる。この粉末(12.8 mg)
に 0.1 M トリフルオロメタンスルホン酸水溶液(0.6 mL)を加えると溶解後短棒状結
晶が析出する。暫く冷蔵庫に静置後に結晶を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄した後
乾燥し、DMR・トリフレート(14.6 mg)を得る。
[方法]
DMR・トリフレート(2 mol、0.97 mg)をアセトン(0.4 mL)
(註1)に溶解後、0.5 M NaOH
(15 L)を加える。この溶液に、[11C]メチルトリフレートを室温にて 2 分間トラップし、そ
100
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
の後適宜加温して反応する。反応液に 10 mM リン酸を加え、HPLC に導入して精製する。精
製した[11C]ラクロプライドは予めアスコルビン酸またはエタノール(註3)を入れたロータリ
エバポレーターに分取、溶媒を除いた後生理食塩液に溶解し注射剤の製法で製する。
註1) アセトンなどのケトンを溶媒とするとき反応するが、DMF では反応しない。
註2) 濃縮時に放射線に起因すると思われる不純物が生成するため、アスコルビン酸または
エタノールの添加が必要である。
[合成法の特長と問題点]
[11C]よう化メチルを用いた[11C]ラクロプライドの合成には DMSO が反応溶媒として用いら
れる。しかし、遊離 DMR の反応活性種は DMSO 中では不安定であり、これが[11C]ラクロプラ
イドの収量のばらつきの原因と推定される。一方、[11C]メチルトリフレートを用いる本法は、
反応溶媒に DMR の反応活性種が安定に存在するアセトンを用いることができ、その反応は速
やかに進行するため、高収量で再現性に優れた方法である。
本法では、トリフレートを用いているが、遊離型(ABX 製)でも同様に合成される。しかし、
前者の方が収率は高く、NaOH はトリフレートでは 2 当量、遊離型では 1 当量以上が必要であ
るが、大過剰の方が高収率であり、また臭素酸塩では低収率である。
[HPLC 分取条件]
i)
カラム:Capcellpak C18 UG120(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(33/67)
流
速:10 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間: 13 分
ii)
カラム:YMC PackODS-AQ323(内径 10 mm X 長さ 250 mm + ガードカラム、内径
10 mm×長さ 30 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(30/70)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:20 分
iii)
カラム:YMC PackODS-A(内径 20 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(35/65)
流
速:15 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:6.5 分
101
Radioactivity
UV (254nm)
0
2
4
6
8
10
Time (min)
12
14
16
18
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Capcellpak C18 UG120(内径 4.6 mm×長さ 150 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(25/75)
速:2 mL/min
流
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:DMR 4 分、目的物 6.5 分
C.その他
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ17)
実効線量: 6.26 Sv/MBq
胆嚢壁:31.5 Gy/MBq
小腸:25.8 Gy/MBq、肝臓:17.7 Gy/MBq、膀胱壁:13.5 Gy/MBq
全身:2.83 Gy/MBq
線量データ28)
実効線量: 男 6.7 Sv/MBq、女 8.4 Sv/MBq
腎臓:40.6 Gy/MBq、膀胱壁:25.2 Gy/MBq、胆嚢壁:24.6 Gy/MBq
[毒性]9)
LD50(腹腔注射):660 mol/kg (229 mg/kg)
102
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
[薬理効果]10,11)
下表に示すとおり、ラクロプライドの薬理効果はハロペリドールと同程度である。健常者に
投与する場合は問題を生じる可能性は無いと考えられるが、錐体外路疾患患者等に投与する場
合はハロペリドールとの比較により慎重に行うこととする。
製剤への混入が考えられる、原料のデメチルラクロプライドはインビトロの受容体結合実験
において不活性な化合物であることが報告されており、検査上支障はない。
[3H]Spiperone
binding
Apomorphine antagonism ED50 (mol/kg, ip)
IC50 (M)
Hyperactivity
ラクロプライド
0.032
0.13
(R)—Remoxipride
1.57
(S)—Sulpiride
0.21
ハロペリドール
0.012
Stereotype
1.70
120
28.2
1.70
162
0.29
0.27
参考文献
1.
Farde L., Hall H., Ehrin E., et al.: Science, 231, 258–260 (1986).
2.
Farde L., Eriksson L., Blomquist G., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 9, 696–708
(1989).
3.
Ehrin E., Farde L., de Paulis T., et al.: Appl. Radiat. Isot., 36, 269–273 (1985).
4.
Ehrin E., Gawell L., Hoeberg T., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 34, 931–940
(1987).
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6.
Langer O., Någren K., Dolle F., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 1183–1193
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Slifstein M., Hwang D.-R., Martinez D., et al.: J. Nucl. Med., 47, 313–319 (2006).
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Ribeiro M.-J., Ricard M., Bourgeois S., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 32,
952–958 (2005).
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de Paulis T., Kumar Y., Johansson L., et al.: J. Med. Chem., 28, 1263–1269 (1985).
10. de Paulis T., Kumar Y., Johansson L., et al.: J. Med. Chem., 29, 61–69 (1986).
11. Pike V.W., Kensett M.J., Turton D.R., et al.: Appl. Radiat. Isot., 41, 483–492 (1990).
9-3.[11C]メチルスピペロン合成法
[11C]メチルスピペロン(3−N−[11C]メチルスピペロンあるいは 3−N−[11C]メチルスピロペリ
ドール)は脳内の D2 ドーパミン受容体測定剤であり、最も早く臨床利用が行われた PET 用レ
セプターリガンドである
5)。このリガンドはスピペロンと[11C]よう化メチルとの反応により合
103
成されるが 1-4)、スピペロンはメチルスピペロンと同等の受容体親和性を有するため、原料の混
入は見かけの比放射能を下げ、したがって HPLC による成績体の精製が重要である。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する 2,6)。
O
O
O
O
NH
N
N
11CH I
3
NaH/DMF
CH3
N
N
F
11
N
F
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
スピペロン———エーザイ製(提供品)、RBI 製(塩酸塩、70-0320-50)
無水 DMF———Aldrich(22705-6)(註1)
NaH ———和光純薬(7646-69-7)(註2)
ポリソルベート 80(註3)
局方エタノール
註1) 乾燥 N2 で置換した褐色バイアル瓶に小分けして使用する。
註2) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加える(~0.2 g NaH/1 mL
DMF)。使用時にはよく撹拌する。他に、NaH 粉末、tetrabutylammonium hydroxide
(TBAOH)溶液も利用できるが、スピペロンがアルカリ雰囲気下で不安定なため、そ
の使用量、混合のタイミングに注意する必要がある。要するに、可能な限りその使用
量を低く押さえ、スピペロンとの接触時間も短くすることがポイントである。
註3) Polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate(和光純薬製、164-15741)を静注薬添加用
に第 1 ラジオアイソトープ研究所が無菌処理した(放医研への提供品)。
[方法]
スピペロンの DMF 溶液(1 mg/mL、0.4 mL)
(註1)に NaH の DMF 溶液(10 L、1 mg
程度の NaH を含む)を加え、−15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)の[11C]
よう化メチルを通し、捕集する。50C で1分間スピペロンと反応した後、反応液を HPLC 注
入用容器(註2)に N2 気流下移送する。エタノール(0.4 mL)で反応容器、輸送ライン中の
反応残液を洗い出し、反応液と混合した後 HPLC に導入し、分離精製する。
精製した[11C]メチルスピペロンは、ロータリエバポレーターのフラスコ(150 L のポリソル
ベート 80 と 500 L の局方エタノールを含む)に分取し、溶媒を除いた後、生理食塩水(11 mL、
局方エタノール 80 L を含む)に溶解し、メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集
する(註3)
。
[11C]メチルスピペロンの場合、放射化学純度が時間とともに低下する現象がしばしば観察さ
104
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
れるため、迅速な品質検査が不可欠である。そのため、分析法に示す分析条件は、製品の放射
化学純度、スピペロン混入量、比放射能などを 3 分以内に決定できるようにする。
註1) スピペロンの DMF 溶液や NaH の DMF 溶液は、N2 加圧下(0.1~0.2 気圧)冷凍庫内
に保存すれば長期にわたり繰り返し利用が可能である。前者に関しては 1 ヵ月程度、
後者に関しては 1 年以上の使用実績がある。
註2) HPLC 用ループインジェクターを使用せず、HPLC ポンプ吸引側に配置した注入容器
に反応液を移送し、HPLC に導入する。この方法は、装置としては簡便で、反応液を
無駄なく全量 HPLC に導入できるが、注入時の試料の拡散に問題がある。この防止に、
液面レベルセンサーを用いている。
註3) [11C]メチルスピペロンの場合、比放射能や放射能濃度が高くなると、その放射化学純
度が時間とともに低下する現象がしばしば観察される。ポリソルベート 80 と局方エタ
ノールはその防止のため使用される。
[合成法の特徴と問題点]
本法は、[11C]よう化メチルを反応前駆体としたメチル化反応に最も広く適用できる方法であ
る。本法により非常に多くの 11C-標識薬剤が高収量・高比放射能で合成されている。反応は one
pot で行えるため、準備・合成・後片付け作業等に要する手間はそれほどでもない。
本法では、反応基質を含んだ溶媒中に[11C]よう化メチルを直接バブリングして捕集し反応さ
せるため、効率良く[11C]よう化メチルを捕集するためには溶媒の冷却が必要である。そのため、
DMSO 等の高融点溶媒の利用が困難となる欠点がある。また、本法では、反応混合物を全量
HPLC に導入できるよう、反応容器や輸送ラインの洗浄液も反応液と一緒にポンプ吸入口手前
に設置したガラス製の液溜に集め、それを HPLC に導入している。そのため、標識物のロスは
少なくなるが、HPLC ピークが広がる欠点がある。これを補うため、分離条件は多少余裕を持
たせて設定する必要がある。
[11C]メチルスピペロンは、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こし
やすい。本法ではその防止のためヒドロキシルラジカルスキャベンジャーとして局方エタノー
ルとポリソルベート 80 を添加している。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)
、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/3 mM AcONH4(265/2.5/235)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:スピペロン 6.5 分、目的物 10 分
105
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
O
O
NH
N
11CH OTf
3
N
11
N
N
CH3
N
NaOH/acetone F
F
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
スピペロンRBI(塩酸塩、70-0320-50)、Med-Life System(遊離塩基、Upper Darby, PA,
USA)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
0.2 M NaOH(6 L)を含むスピペロン塩酸塩のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
(註1)
に、室温下で He 気流下(30-50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ち
に反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離
精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) スピペロン塩酸塩のアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することができる。
[合成法の特徴と問題点]
上記の方法では、スピペロンの塩酸塩に対して 2 当量の NaOH を用いているが、前駆体のト
リフレートや遊離塩基も同様に使用でき、前駆体の化学形はそれほど大きな影響を与えない。
塩の場合は 2 当量の、遊離塩基の場合には 1 当量以上の NaOH が必要であるが、大過剰の NaOH
106
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
存在下では収率が多少低下する傾向がみられた。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Finepak SIL C18S(5 m, 内径 4.2 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:3 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:スピペロン 1.6 分;目的物 2.2 分
C.その他
[被曝線量]6)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
腎臓
16
小腸壁
7.3
肝臓
15
膵臓
5.9
肺
14
副腎
5.9
脾臓
11
膀胱
2.7
全身の線量当量は 6.8 Sv/MBq
参考文献
1.
Burns H.D., Dannals R.F., Langstrom B., et al.: J. Nucl. Med., 25, 1222–1227 (1984).
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6.
放射線医学総合研究所サイクロトロン製造放射薬剤品質管理基準.
9-4.[11C]FLB457 合成法
FLB457((S)−5−bromo−2,3−dimethoxy−N−[(1−ethyl−2−pyrrolidinyl)methyl]benzamide)
はドーパミン D2 受容体に高い親和性を有する(Ki: 0.018 nM)。PET によるドーパミン D2
受容体の測定は[11C]ラクロプライドや[11C]メチルスピペロンを用いて線条体においてなされて
きた。しかし精神分裂病をはじめとする人間の高次機能の異常を伴う疾患においては大脳皮質
特に大脳辺縁系における異常の有無が問題となる。[11C]FLB457 はこれまでのドーパミン D2
107
受容体測定用のリガンドでは測定できなかった線条体以外の領域のドーパミン D2 受容体を測
定できる初めてのリガンドとしてスウェーデンのカロリンスカ研究所で開発され、臨床利用さ
れてきた 1-3)。
A−1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
Br
N
H
11
H
CH3I
Br
N
H
N
OH
NaH, DMSO
H
N
11
O CH 3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
FLB604((S)−5−bromo−N−[(1−ethyl−2−pyrrolidinyl)methyl]−2−hydroxy−3−
methoxybenzamide)ABX 製
無水 DMFAldrich(22,705-6)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
NaH和光純薬(191-07662)(註1)
註1) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加え(0.1g NaH/1 mL
DMF)、N2 置換をした後、冷凍庫中に保管する。使用時にはよく撹拌し、均一にして
から使用する。
[方法]
FLB604(1.5 mg)を無水 DMSO( 220 L)に溶かし、NaH の DMF 溶液(10 L)を添
加した溶液に N2 気流下(100 mL/min)の[11C]よう化メチルを通し、80C で 3 分間反応させ
る。反応液は N2 気流下 HPLC 用インジェクターに輸送し、分離精製する。[11C]FLB457 を含
む分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、3.5% Na2HPO4 ・
12H2O 水溶液(7.5 mL)で溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通し、無菌バイアル
に捕集する。
[合成法の特長と問題点]
[11C]よう化メチルを効率的に捕集するには反応溶液を冷却する必要があるが、その場合には
DMSO が凝固してしまい[11C]よう化メチルを含んだガスが流れなくなるため注意が必要であ
る。DMSO を冷却する場合にはガス導入用の針が反応液と接触しないように注意する必要があ
る。反応溶媒としては DMF が利用しやすいが、この場合には反応収率を著しく低下させるた
め、上のような条件を採用した。
[HPLC 分取条件]
カラム:Diasil 10C18(内径 8 mm X 長さ 300 mm)クロマトテック(GL サイエンス
108
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
取扱)
流
速:6 mL/min
溶離液:CH3CN/100 mM H3PO4(22/78)(註1)
検出器:UV(230 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 8.0 分、目的物 12 分
註1) [11C]FLB457 の溶出位置は溶媒組成の比率により大きく変化する傾向があるので注意
が必要である。溶離液に加える酸としてリン酸の代わりに酢酸を試みたが、ピークが
テーリングするため採用しなかった。リン酸は減圧下においても除くことは困難なた
め、乾固後の溶解液に 3.5% Na2HPO4・12H2O 水溶液を用いて pH 調製を行っている。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
Br
N
H
11
H
CH3OTf
Br
N
H
N
OH
NaOH, acetone
H
N
11
O CH 3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
FLB604ABX 製
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
0.25 M NaOH(5 L)を含む FLB604 のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)に、室温下で
He 気流下(30 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ちに反応液に H2O で
2 倍希釈した HPLC 溶璃液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
109
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-Pro(内径 10 mm×長さ 250 mm)
、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(25/37.5/37.5)
流
速:5 mL/min
検出器:UV、260 nm、線検出器
保持時間:9.3 分、原料 3.8 min
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Diasil 5C18(内径 4 mm X 長さ 200 mm)、クロマトテック(GL サイエンス
取扱)
溶離液:CH3CN/100 mM H3PO4(22/78)
流
速:1.5 mL/min
検出器:放射能検出器および UV(208 nm)
保持時間:原料 3.3 分、目的物 4.0 分
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
ii)
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(20/40/40)
流
速:0.5 mL/min
保持時間:原料 2.5 分、目的物 2.6 分
C.その他
[毒性]
FLB457 塩酸塩の生理食塩水溶液(0.1%)10 mg/kg を C3H 雄性マウス(5 匹)の尾静脈よ
り、1 回静脈内投与し、7 日間にわたって観察を行った結果、死亡例は認められなかった。この
値は、37 GBq/mo1(1 Ci/mo1)の比放射能で標識した[11C]FLB457 を体重 60 kg のヒトに
370~740 MBq(10~20 mCi)投与するものと仮定すると、少なくとも 20 万倍以上の安全係数
を有していることを示しており、毒性的には問題がないと考えられる。また、前記規格試験に
用いた最終製剤3ロットについて、C3H 雄性マウスに静注し(0.2 mL/30 g、1 群 5 匹)、7 日
110
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
間にわたって生死、中毒症状の有無を観察した結果、死亡例はなく、中毒症状も認められなか
った。また、体重の増減は、対照群(生理食塩水 0.2 mL/30 g)と同じ増加率が観測された。以
上から、[11C]FLB457 注射液は、毒性的には問題がないと考えられる。
以下に、スウェーデンで人体投与を前提に報告された毒性データの一部を示す。
FLB457 は OECD ガイドライン No 420 による GLP の基準に従った毒性試験のデータが報
告されている。雌ラットに FLB457 を 561 mg/kg(1.4 mmol/kg)静脈内投与ところ 30 秒でラ
ットは死亡、55.4 mg(0.14 mmol/kg)では静注後約 50 秒で死亡した。静注量 5.4 mg/kg(0.013
mmol/kg)では静注後 1−6 時間にわたって活動量が軽度低下したが他に異常は認められなかっ
た。静注量 10.9 mg/kg(0.027 mmol/kg)では静注直後にけいれんが認められ 1~6 時間にわた
って活動性の低下が認められた。10.9 mg/kg と 5.4 mg/kg 静注ラットは 14 日間にわたって観
察されたが著明な異常は認められなかった。(Scantox test report 1996)
[被曝線量]
[11C]FLB457 注射液を雄性 ddY マウスの尾静脈より投与し、経時的に血液、肝、腎、肺、脾、
小腸、筋肉、睾丸を摘出し、その重量及び放射能を測定して、放射能分布を求めた。その結果
に基づいて、各臓器にわたる生物学的半減期を推定し、MIRD 法により、ヒト(25 歳、体重
60 kg)における被曝線量を推定した。なお、直接放射能分布を測定しなかった臓器については、
その放射能濃度は血液中のそれと同一と仮定して計算した。その結果を次表に示す。
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
腎臓
5.71
膵臓
1.27
肝臓
2.55
脾臓
2.75
肺
4.24
小腸壁
0.608
生殖腺
0.863
全身の線量当量は 1.17 µSv/MBq
参考文献
1.
Halldin C., Farde L., Hogberg T., et al.: J. Nucl. Med., 36, 1275–1281 (1995).
2.
Farde L., Suhara T., Nyberg S., et al.;.: Psyshopharmacology, 133, 396–404 (1997).
3.
Suhara T., Sudo Y., Okauchi T., et al.: Int. J. Neuropsychopharmacol., 2, 73–82 (1999).
9-5.[18F]フルオロドーパ合成法
[18F]フルオロドーパ(L−3,4−dihydroxy−6−[18F]fluorophenylalanine、[18F]FDOPA)は、
脳のドーパミン代謝を診断する薬剤として使用される。タイロシンと同様のアミノ酸輸送によ
り血液脳関門を通過し、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素により脱炭酸されて[18F]フルオロドーパミ
ンとなり、ドーパミンニュ-ロンのシナプス小胞内に蓄積される。
このドーパミン合成を評価するためのトレーサとしては、天然基質である 11C−標識ドーパも
111
用いられているが、合成の容易さや PET による測定時間などから
18F−標識のフルオロドーパ
が最も多くの施設で使用されている。しかし、[18F]フルオロドーパは代謝されやすく、定量的
解析に血漿中代謝物を分析することなどが要求され、また、この代謝を抑える目的で酵素阻害
剤が併用される。この欠点を補う目的で、最近になってより代謝的に安定な[18F]フルオロメタ
タイロシンの利用も検討され始めた。
A-1.Adam 法 12)
(岩田
錬)
下記の反応スキームにより合成する。
CO2Me
MeO
AcO
NHAc
CO2Me
MeO
AcO18F
AcOH
18
AcO
HI
F
NHAc
CO2H
HO
HO
18
F
NH2
[使用試薬]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
L−Methyl−N−acetyl−[−(3−O−methoxy−4−acetoxyphenyl)]alanine(註2)
57%よう化水素酸(註3)———和光純薬特級試薬(083-01012)
0.1%酢酸水溶液(註4)
局方 25%アスコルビン酸注射液
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成法の使用試薬の註
1を参照のこと。
註2) 自家調製試薬である。その方法は参考文献 2 に記載されている。
註3)
空気酸化されていない未開封のアンプル入りのものを使用する。
註4) 酢酸(精密分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
反応基質(約 20 mg)を酢酸(10~12 mL)に溶かした溶液に、Ne 気流下(500 mL/min)
の acetyl [18F]hypofluorite(約 100 mol の担体フッ素を含む)を吹き込んで反応させる。
反応液をロータリエバポレーターに移し、減圧下酢酸を留去する。(註1)
残渣によう化水素酸 5 mL を加え、加熱還流下 20 分間加水分解する。(註2)
よう化水素酸を減圧下留去する。(註3)
水(1 mL)をフラスコに加え、残渣をよく溶かして HPLC 注入用のシリンジに採り、HPLC
により分離精製する。0.1%酢酸水溶液で溶出された目的分画をメンブレンフィルターを通して
バイアルに捕集する。(註4)これに 25%アスコルビン酸注射液(2 mL)を加えることで pH
調整を行い注射用薬剤とする。(註5)
註1) 合成システムとして、オートジャッキに取り付けたロータリエバポレーターに逆流止
112
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
めのガラス球を介して 30 mL の梨型フラスコを取り付け、水溶性のオイルを 100C に
加熱した油浴をその下に用意する。800~1,000 W 位の強力なドライヤーを加水分解用
の熱源として使用する。フラスコが油浴に浸った時にちょうどガラス球がドライヤー
で加熱されるように調整すると、酢酸およびよう化水素酸の減圧留去時、還流する溶
媒をガラス球部分で止め、ここを強力に加熱することで留去時間を短縮できる。
註2) この時オートジャッキで反応液の入った梨型フラスコをちょうどドライヤーの熱風に
直接当たる部分に持ち上げる。よう化水素酸の沸点は 127C であるためフラスコ内で
還流するが、一部ガラス球に貯まる。
註3) 次の精製操作である HPLC 分取用カラムの劣化を防ぐため、茶褐色のよう素の色が完
全に消えるまで、乾固しても少量の水を加えて留去を繰り返す。
註4) [18F]フルオロドーパは、0.1%酢酸溶液で分離したのち濃縮乾固することにより、化学
形の異なる成分を生じる。
註5) 比放射能の測定が必要な場合、アスコルビン酸を添加する前に分取した液から必要量
採取する。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC R-ODS-5(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー(註1)
溶離液:0.1% AcOH
流
速:15 mL/min
検出器:UV(280 nm)
溶出時間:15 分
註1) カラム管理:通常カラムはエタノールで満たしておく。使用前に、0.1%酢酸水溶液(200
mL 以上)でエタノールを十分に除きつつ平衡化する。使用後は再びエタノールで十分
にカラムを洗い、乾燥しないように保存する。
Radioactivity
6-FDOPA
FDOPA
2-FDOPA
UV
0
4
8
12
Elution time (min)
113
16
20
A-2.Ishiwata 法 3)
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
CO2H
HO
(CH3)3CCOO
NH2
AcO18F
AcOH
CO2H
HO
18
(CH3)3CCOO
4 M HCl
F
NH2
CO2H
HO
HO
18
F
NH2
[使用試薬]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
4−O−Pivaloyl−L−dopa(註2)
8 M HCl
0.1%酢酸水溶液(註3)
局方 25%アスコルビン酸注射液
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成法の使用試薬の註
1を参照のこと。
註2) 初めは萬有製薬株式会社より供給を受けた。その合成方法は参考文献 4 に記載されて
いる。ABX 社が販売している。
註3) 酢酸(精密分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
4−O−Pivaloyl−L−dopa(20~30 mg)を酢酸(6 mL)に溶かした溶液に、Ne 気流下(500
mL/min)の acetyl [18F]hypofluorite(100~200 mol の担体フッ素を含む)を吹き込んで反応
させる。
反応液に 8 M HCl(6 mL)を加え、還流下加水分解(20~25 分)する。(註1)
反応液を濃縮乾固し、残渣を注射用蒸留水(2 mL)に溶かし、以下A-1と同様の方法によ
り HPLC 分離し、[18F]フルオロドーパ注射薬とする。(註2)
註1) 油浴を使うときは 120C、10 分程度で十分であるが、エアーヒーターを使うときは、
多少長い時間を要する。
註2) 文献 3 では、HPLC 分離に酢酸緩衝液により pH を 55.5 にした生理食塩水を用いて
いるが、分取カラムへの負荷が大きく、また、カラムの種類によっても影響を受けや
すいため、0.1%酢酸溶液で分離する方法が実際的である。
[トラブル処理]
収量が低下したとき。
通常 6−[18F]フルオロドーパの比放射能を上げるため、担体としてのフッ素量を[18F]FDG 合
成の場合に比べ下げている。収量の減少は、[18F]F2 の生成量に依存しており(この点に関して
114
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
は[18F]FDG の項参照)、その原因は担体フッ素量の低下に起因することが多い。[18F]F2 の製造
に低圧ターゲットを用いるため照射ごとに再現性のある担体フッ素濃度の制御が難しいときは、
多少高めの濃度に設定すると良い。
一方、4−O−pivaloyl−L−dopa に対するフッ素の割合が多くなると、HPLC 分離において
6−[18F]フルオロドーパのあとに溶出する 2,6−[18F]ジフルオロドーパ 5)の生成量が増加し、結果
として 6−[18F]フルオロドーパの収量を低下させる。反対に、4−O−pivaloyl−L−dopa の使用量
を増やすことにより副反応を抑えることができるが、 HPLC による異性体の分離能を低下する
恐れがある。
従って、安定した 6−[18F]フルオロドーパの合成には、それぞれの施設における[18F]F2 の製
造システムと HPLC 分離に使用するカラムにより、担体フッ素量と反応原料の割合を見極める
必要がある。経験的には HPLC 分離において、原料が少なくとも 2 割程度は残っていること、
また、2,6−[18F]ジフルオロドーパの生成量が 6−[18F]フルオロドーパの 1 割程度までの条件に設
定することがその目安となる。上記の条件では、反応原料 30 mg 程度までは HPLC 分離にあ
まり影響を与えない。
[合成法の特徴と問題点]
[18F]フルオロドーパの合成法としては、acetyl [18F]hypofluorite を用いる親電子置換反応に
基づく方法と、最近では[18F]フッ素イオンによる親核置換反応による合成法も開発されている。
前者のうち、Adam らの方法 1,2)は 6 位と 2 位フルオロの異性体を生成し(約 1/1)、脱保護基反
応によう化水素酸を用いる。一方 Ishiwata らの方法 3)では、6 位と 2 位フルオロの異性体比が
多少向上し(約 3/2)、また、塩酸で容易に脱保護ができる点でも実際的である。どちらの方法
も 5−フルオロ体の割合は少ない。
欧米では 6 位特異的な反応として水銀化合物を前駆体とした方法 6,7)が一般的であるが、水銀
の混入のチェックをする必要がる。
[18F]フッ素イオンを用いる無担体添加の合成法は、[18F]FDG 合成の場合と同様に今後一般的
になっていくと予想されるが、現在のところ臨床使用している施設は少ない 8)。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Crestpak C18S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:MeOH/1% AcOH, 1 mM sodium octylsulphate, 1 mM EDTA(1/9)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(283 nm)(註1)
保持時間:6—FDOPA 15.9 分;2—FDOPA 13.8 分
ii)
カラム:TSKgel Super ODS(内径 4.6 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:MeOH/1% AcOH, 1 mM sodium octylsulphate, 1 mM EDTA(1/9)
流
速:1 mL/min
保持時間:6−FDOPA 3.6 分、2−FDOPA 3.1 分
115
註1) 比放射能の測定用の標準試料は、6−FDOPA の吸光計数 e283 = 3836 L/mole・cm9)を用
いて調製するのが簡単である。なお、2−FDOPA の吸光計数は e283 = 1850 L/mole・cm
と評価されている 9)。
C.その他
[毒性]
L—DOPA の毒性:LD50(経口)、ラット 4,000 mg/kg;マウス 3,650 mg/kg;ウサギ 609 mg/kg
(Merck Index)
[被曝線量]10)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
膀胱
215
精巣
15
腎臓
89
副腎
14
膵臓
30
大腸壁
14
子宮
20
骨髄
13
全身の線量当量は 26 Sv/MBq
編者註1)ヒト全身 PET 動態計測による評価が一部報告されている 11)。
実効線量当量:19 Sv/MBq
膀胱壁:159 Gy/MBq、子宮:16 Gy/MBq、下部大腸:11 Gy/MBq
参考文献
1.
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8.
Reddy G.N., Haeberli M., Beer, H.-F., et al.: Appl. Radiat. Isot., 44, 645–649 (1993).
9.
Cumming P., Hausser M., Martin W.R.W., et al.: Biochem. Pharmacol., 37, 247–250
(1988).
10. Mejia A.A., Nakamura T., Itoh M., et al.: J. Radiat. Res., 32, 243–261 (1991).
11. Dhawan V., Belakhlef A., Robeson W., et al.: J. Nucl. Med., 37, 1850–1852 (1996).
9-6.[18F]フルオロメタタイロシン合成法
(阿久津
源太)
[18F]フルオロメタタイロシン([18F]6−fluoro−m−L−tyrosine)は m−tyrosine の誘導体で、
116
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
ド ー パ ミ ン 神 経 内 の 芳 香 族 L- ア ミ ノ 酸 脱 炭 酸 酵 素 ( AADC: aromatic amino acid
decarboxylase)の基質であり、AADC 活性の定量的評価に利用される 1)。パーキンソン病にお
いては神経細胞脱落(変性)による ADDC 活性の低下が認められ、病気の進行度や治療効果判
定のために、この AADC 活性の定量的測定は有用とされている。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する 1)。
1)
18
F2 /CCl3 F, 0o C
2) HI/H2 O, 130o C
[使用試薬]
N,O−di−Boc−6−trimethylstannyl−m−tyrosine ethyl ester (FMT 前駆体)(註 1)
トリクロロフルオロメタン(フロン 11)———東京化成(F0042)
よう化水素酸(55~57%)———特級試薬(和光純薬など)
註 1) Di−Boc−6−trimethylstannyl−L−phenylalanine ethyl ester(FMT precursor 2)の名
称で ABX(311.0100)から入手。
[方法]
FMT 前駆体(約 20 mg)をフロン 11(2 mL)に溶解し(註1)、0˚C 以下に冷却した反応容
器内に注入後、サイクロトロンで製造した[18F]F2 ガスを直接バブリングし反応させる(約 10
分)。
反応後よう化水素酸(1 mL)を加え 130˚C、10 分で加水分解させる。加水分解終了後、180˚C
でよう化水素酸を留去させる(減圧下、150˚C 留去でもよい)。残渣(註2)に少量の注射用水
を加え溶解し HPLC に導入、UV 検出器(280 nm)にて[18F]フルオロメタタイロシン画分を
分取する。
註1) 反応容器の形状にもよるが、バブリング中も蒸発するため多めのフロン 11 で溶解させ
たほうがよい。
註2) 反応容器を完全に乾固させてしまうと残渣がガラス用器に固着する恐れがあるため、
注意深く目視で確認する必要がある。
[合成法の特徴と問題点]
担体フッ素を多く含む[18F]F2 ガスから合成するため、フルオロメタタイロシンそのものの化
学量が多い。即ち比放射能が低く、通常の[18F]F-からの合成薬剤に比べておよそ 1000 分の 1
以下である。また、[18F]F2 ガスの担体量が過剰になると不純物(ジフルオロ体と推測される)
の生成割合が増えるため注意を要する。
117
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pak ODS-AQ(内径 10 mm×長さ 300 mm)
、ワイエムシー
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(3/97)
速:4 mL/min
流
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
溶出時間:約 18 分
下図にそのクロマトグラムを示す。
B.分析法
[化学的純度及び放射化学的純度]
HPLC
カラム:GRACE Alltima C18(内径 4.6 mm×長さ 250 mm)、GRACE
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(12/88)
流速:1 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:7.8 分
[残留スズ濃度測定]
ICP 発光分析法にて測定(事後検定)。総スズ量として 20 ppm 以下 2) 。
C.その他
[毒性]
[18F]フルオロメタタイロシン製剤をヒトに投与する場合、おおよそ 1 mg のフルオロメタタ
イロシン(コールド体)が投与されることになるが、現在のところ有害作用等の報告はなされ
ていない 2)。
118
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
[被曝線量]2)
臓器
線量(μGy/MBq)
臓器
線量(μGy/MBq)
膀胱
219
卵巣
18
脳
6
膵臓
7
臓器
線量(μGy/MBq)
臓器
線量(μGy/MBq)
胃
7
赤色骨髄
8
小腸
11
精巣
16
大腸
32
甲状腺
5
腎臓
17
子宮
37
肝臓
6
全身
9
参考文献
1.
VanBrockin H.F., Blagoev Mi.,t al.: Appl. Radiat. Isot., 61 1289-1294 (2004).
2.
Clinical Protocol No.AAV-hAADC-2-003-FMT-PET/MRI(2004)
(非公開資料;Genzyme
社から資料提供は可能)
9-7.[11C]—CFT 合成法
[11C]—CFT(2——[methyl— 11C]carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)tropane、[11C]WIN
35,428)はコカインに類似した構造を持ち、ドーパミントランスポータに高い親和性を示すリ
ガンドである 1-3)。また、18F—標識の—CFT も臨床使用され 4)、インビボ結合は高親和性のため
投与後 3~4 時間で平衡状態に達することが明らかにされている 5)。類似化合物の—[11C]CIT に
6)。パーキンソン症候群などのド
比べて高い選択性を有し、脳内線条体に特異的な結合を示す
ーパミン神経細胞の変性や脱落の程度を診断する薬剤として使われている。
A−1.[11C]よう化メチル法
(二ツ橋
下記の反応スキームにより合成する。
11
H
N
CH3
N
CO2CH3
11CH I
3
H
F
CO2CH3
H
DMF
H
F
H
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
119
昌実)
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropaneABX 製、PharmaSynth 製(註1)
無水 DMFAldrich(22705-6)
註1) 合成法は報告されているが
7)、麻薬取扱の対象となる試薬を使用するので特別の手続
きが必要である。
[方法]
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane(約 0.5 mg)の DMF 溶液(0.5 mg
前後/0.5 mL)を−15C に冷却し、これに N2 気流下(200 mL/min)の[11C]よう化メチルを通
し、捕集する。120C で 3 分間反応させた後、反応液を HPLC 注入用容器に N2 気流下で移送
する。注射用蒸留水(0.3 mL)で反応容器と輸送ライン中の反応残液を洗い出し、反応液と混
合した後 HPLC に導入し、分離精製する。
分離された[11C]—CFT 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除い
た後、生理食塩水に溶解する。
(註1)メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する。
(註2)
註1) [11C]—CFT 溶液は濃縮・乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビ
ン酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸注射液)を加えておくことで分
解を抑えることができる。
註2) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルター
TM(ミリポア)などを使用する。
[HPLC 分取条件](註1)
カラム:YMC-Pack ODS-AL(内径 10 mm X 長さ 250 mm)
、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/20 mM リン酸緩衝液(pH 6.9)(70/30)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
nor--C FT
UV
11
[ C ]-C FT
R adioactivity
保持時間:5.7 分、原料 9.7 min
0
5
R etention tim e (m in)
120
10
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
11
CH3
H
N
N
CO2CH3
11CH OTf
3
CO2CH3
H
H
F
Acetone
H
F
H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane
アセトン特級試薬
[方法]
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ち
に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
本方法では、どちらのメチル化剤でも塩基を加えることなく高収率で−[11C]CFT が合成され
る。[11C]よう化メチルを用いる方法では 3 分程度反応する必要があるが、[11C]メチルトリフレ
ートのときはアセトン溶媒で速やかに反応が進行する。[11C]メチルトリフレートの反応でも
DMF を反応溶媒とすることもできるが、その場合は 80~120C で反応した方がよいものの、ア
セトン溶媒での反応に比べ収率が低下する。この薬剤合成における最大の問題点は、標識前駆
体の入手である。RBI 社より個人輸入するか、報告されている方法 7)に基づいて合成すること
ができるが、どちらも麻薬取り締まりに関連した諸手続をする必要がある。これに代わっては
GMP 対応した業者に依頼する方法がある。
註1) HPLC 分離では−[11C]CFT が原料の 2−−carbomethoxy−3−−(4−fluorophenyl)−
nortropane より先に溶出するが、用いるカラムや溶離液の pH やイオン強度により著
しくされるため 8)、分離条件は本条件を基準に使用するカラム毎に検討することが望ま
しい。なお、アセトン溶媒中で[11C]メチルトリフレートと反応したときは、HPLC 分
離時にアセトン溶媒に由来する大きな UV 吸収があるので注意を要する。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Finepak SIL C18-S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)
、日本分光
121
溶離液:CH3CN/AcOH/30 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 4.1 分、目的物 5.3 分
ii)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/3% triethylamine-H3PO4(pH 2.0)(10/90)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:目的物 3.4 分、原料 4.3 分
iii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(15/42.5/42.5)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、263 nm、線検出器
保持時間:原料 2.5 分、目的物 2.1 分
C.その他
[被曝線量]
全身
4.2 Sv/MBq(ほぼ同一の体内分布を示す−[11C]CIT のデータ)
参考文献
1.
Frost J.J., Rosier A.J., Reich S.G., et al.: Ann. Neurol., 34, 423–431 (1993).
2.
Rinne J.O., Sahlberg N., Ruottinen H., et al.: Neurology, 50, 152–156 (1998).
3.
Ouchi Y., Kanno T., Okada H., et al.: Ann. Neurol., 46, 723–731 (1999).
4.
Laakso A., Bergman J., Haaparanta M., et al.: Synapse, 28, 244–250 (1998).
5.
Rinne J.O., Bergman J., Ruottinen H., et al.: Synapse, 31, 119–124 (1999).
6.
Rinne J.O., Laihinen A., Nagren K., et al.: Synapse, 21, 97–103 (1995).
7.
Meltzer P.C., Liang A.Y., Brownell A.-L., et al.: J. Med. Chem., 36, 855–862 (1993).
8.
Kawamura K., Ishiwata K., Futatsubashi M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 52, 225–228
(2000).
9.
Någren K., Halldin C., Müller L., et al.: Nucl. Med. Biol., 22, 965–970 (1995).
9-8.[11C]PE2I
(中尾
隆士)
PE2I( N−(3−iodoprop−2E−enyl)−2−carbomethoxy−3−(4−methylphenyl)−nortropane)
はフランスのツール大学によって開発されたコカイン誘導体であり 1)、−CFT や−CIT と同様
にドーパミントランスポータに対して高い親和性と選択性を有する。11C 標識体のほか
123I
で
標識した PE2I も臨床応用され、パーキンソン病などの疾患の病態研究に利用されている 2-4)。
122
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
11
CH3I
(C4H9)4NOH/DMF
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
PE2I acid———PharmaSynth(註1)
10% TBAOH(註2)メタノール溶液———和光純薬
無水 DMF———Aldrich (22705 -6)
局方 25%アスコルビン酸注射液
ポリソルベート 80
註1) 国内ではナード研究所より購入可能である。
註2) Tetra−n−butylammonium hydroxide
[方法]
PE2I acid(0.5~0.7 mg)を DMF(0.4 mL) に溶かし、10% TBAOH のメタノール溶液(5
L)を添加した溶液を−15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)[11C]よう化メチ
ルを通し、80C で 3 分間反応する。反応液に HPLC 分取用溶離液を加え、N2 気流によって
HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。
精製した[11C]PE2I を、ロータリエバポレーター(ナスフラスコ内に 400 L の 25%アスコル
ビン酸注射液、75 L のポリソルベート 80 及び 300 L のエタノールを含む)に分取し、減圧
下分離溶媒を除いた後、生理食塩水(10 mL)で溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に
通し、無菌バイアルに捕集する(註1)。
註1) [11C]PE2I は、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こしやすい。
その防止のためアスコルビン酸を添加する 5)。また、ナスフラスコやメンブランフィル
ターへの吸着防止のためポリソルベート 80 などの可溶化剤も必要とする。
[合成法の特徴と問題点]
塩基(TBAOH)の量が[11C]メチル化反応に大きく影響を与えた。反応基質に対して 10 倍量
の TBAOH を用いたとき副生成物(下記 HPLC 分取条件において[11C]PE2I の直前に溶出する)
を生じた。そのため、反応基質 0.5~0.7 mg(1.2~1.6 mol)に対し 1~2 当量分の 10%TBAOH
5 L(1.9 mmol)を加えることで高収率かつ安定した製造を行っている。また、[11C]よう化メ
チル以外にも[11C]メチルトリフレートを用いた方法が報告されている 6)。[11C]メチルトリフレ
ート法では、PE2I acid(0.4~0.6 mg)、反応溶媒にアセトン(0.3 mL)、塩基として 2.5 M NaOH
(2 L、PE2I acid に対して約 3~5 倍量)が用いられ、[11C]よう化メチル法と同様に高収率で
ある。
123
[HPLC 分取条件]
カラム:Bondapak C18(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters
溶離液:CH3CN/10 mM HCl(40/60)
検出器:UV(254 nm)
流
速:6.0 mL/min
[11C]PE2I
PE2I acid
溶出時間:前駆体 4.0 分、目的物 7.0 分
Radioactivity
UV (254 nm)
0
2
4
6
8
10
Time (min)
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge RP18(2.5 m、内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)、Waters
溶離液:90% CH3CN/100 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 2.1)(45/55)
検出器: UV(220 nm)、NaI(Tl)
流
速:1.0 mL/min
保持時間:前駆体 0.49 分、目的物 0.86 分
C.その他
[毒性]
ddy マウスを用いて PE2I の静脈内単回毒性試験を 1 mg/kg の用量で実施した結果、死亡例、
中毒症状はなく、体重測定、剖検においても PE2I に起因する変化は認められなかった(放医研での
試験結果)。
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:6.4 Sv/MBq
124
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
膀胱壁:18 Gy/MBq、腎臓:16 Gy/MBq、胃:14 Gy/MBq
全身:2.3 Gy/MBq
参考文献
1.
Guilloteau D., Emond P., Baulieu J.L., et al.: Nucl. Med. Biol., 25, 331–337 (1998).
2.
Poyot T., Conde F., Gregoire M.C., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 21, 782–792
(2001).
3.
Schwarz J., Storch A., Koch W., et al.: J. Nucl. Med., 45, 1694–1697 (2004).
4.
Prunier C., Payoux P., Guilloteau D., et al.: J. Nucl. Med., 44, 663–670 (2003).
5.
Fukumura T., Nakao R., Yamaguchi M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 61, 1279–1287
(2004).
6.
Frédéric D., Michel B., Stéphane D., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43,
997–1004 (2000).
7. Ribeiro M.-J., Ricard M., Liévre M-A., et al.: Nucl. Med. Biol., 34, 465–470 (2007).
125