2010年発生口蹄疫について

2010年発生口蹄疫
~その記録と現状、そして今後の防疫のあり方~
宮崎大学
産業動物防疫リサーチセンター
防疫戦略部門長 末吉益雄
[email protected]
はじめに
発生当時、そしてこれまで、各方面、各領域の方々に多大なご迷惑・ご心配を
おかけしている中で、多くの方からご支援や叱咤・激励の言葉をいただき、大変元
気づけられました。ここに心から御礼申し上げます。
経験した私たちは、早く忘れたいあの地獄模様、しかし、今、想い出して、気
を引き締めなければなりません。
なぜなら、東アジアでは、今なお、ウイルスがうごめいていることから、日本
は危険に、依然、さらされている現実がここにあります。
繰り返さないためにはどうすべきなのか、もう一度、想い出して、前を向きつ
つ考えてみました。
******2010 年口蹄疫の発生経緯*************
2010 年 4 月 20 日に口蹄疫疑似患畜の発生報告がありました。国家防疫上、
発生した時点で負け戦です。
発生現場は、被害をいかに最小限に抑え込むかが緊急課題の戦場でした。
やれども、やれども、一向にゴールが見えてこない、しかし、現地従事者は皆、
必ず、ゴールがあることを信じていました。
ウイルスの驚異的な伝播力、猛暑、梅雨と戦い、休みのない労働、達成感が得ら
れない重労働、体力・気力を絞り出しながら作業を続ける毎日でした。
疑似患畜が発見される限り作業に終わりがない、まだ、カウントダウンにならな
いのか、峠はまだ越してはいないのか、それどころか、処理数より、疑似患畜発見
数の方が膨れあがってしまう。
まだ、頑張れる、が、頑張り抜けるかどうか自信がなくなりかけていました。
ワクチン接種後 2 週間目位、6 月になって、ようやく、新たな疑似患畜の発見
数が減少してきました。
いよいよ待望のゴールが見えてきた? まさにその時でした。
6 月 9 日、ワクチン未接種区域で日本一の畜産基地である都城市で陽性牛が確
認されました。
現地の従事者は皆、その時、疲労のピークはとっく過ぎていました。
今までのはまだ、パンデミック口蹄疫の序章だったのか?
これから、何百万頭に膨れるのだろうか。
九州内で抑えられるだろうか。
更なる発生拡大した日本地図がよぎりました。
そのような口蹄疫と今後の防疫対策としての提案を述べます。
それと、最後に当時のメモ書きを付けました。
2010 年の宮崎県における発生状況と、被害拡大の経緯
1) 発生状況について
2010年4月20日、宮崎県児湯郡都農町の農家の飼養牛に口蹄疫の疑似患畜が確
認されました。その後、児湯郡都農町および川南町に伝播し、さらに、約70km離
れたえびの市に飛び火し、また、児湯郡3町で拡大し、さらに周囲の4市、1町に拡
大しました。最終的に、疑似患畜は、5市7町315農場210,714頭(牛37,389頭、
豚173,261頭、他64頭)。ワクチン接種は、1,064農場の125,668頭。計5市7
-1-
町の1,362農場297,808頭(牛69,454頭、豚227,949頭、他405頭) に及びま
した(図1、図2)。
図 1. 疑似患畜の埋却頭数
および残頭数の推移(2010
年 6 月 24 日現在)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/
douei/katiku_yobo/k_fmd/pdf/g
raph_0625.pdf
図 2.発生場所
(2010 年 7 月 27 日現在)
http://www.maff.go.jp/j/syoua
n/douei/katiku_yobo/k_fmd/p
df/map0727b.pdf
2) 原因ウイルス
原 因 ウ イ ル ス は 、 動 物 衛 生 研 究 所 で の 検 査 の 結 果 、 口 蹄 疫 ウ イ ル ス (O型 )
(O/JPN/2010)と確定しました。また、英国のパーブライト研究所の分析結果か
ら、最近、香港、韓国、ロシア等のアジア地域で確認されているSoutheast topotype
と近縁のウイルスであることが分かりました。
-2-
3) 症状
発見された1例目の牛の臨床症状および経過観察は、次の通りでした。
○熱発(40度以上)と流涎、食欲廃絶で農家から獣医師に往診依頼。
○獣医師による初診時には、発熱はなく、流涎、食欲廃絶の症状以外はなく、口
腔内の異常は認められなかった。
○診療3日目、上唇基部に小豆大の潰瘍を1箇所認め、同時にすぐ横に大豆大の丘
疹部を手でこすると、脱落し、潰瘍を形成した。その時、舌は先端に3mm×20mm
程度の表皮の脱落と中央部に退色がみられた。
以上、最初に発見された1例目牛の症状の経過です。
ただし、第一発見となったA獣医師は、教科書に載っていない次の所見があった
ことを強調しています。すなわち、初めに観られた流涎(よだれ)は、泡状ではなく、
たら~り、たらり、と流れ出る、発情粘液のような、水あめ様であった、と。
その後の2例目以降の発生例では、泡沫性流涎(よだれ)( 牛:95%)、発熱(牛:88%、
豚:80%)、口腔(牛:91%)、舌(牛:86%)、鼻(豚:94%)、鼻腔(72%)および乳房・乳
頭の水疱(水ぶくれ)・びらん(赤むけ)形成、四肢の出血(豚:93%)、跛行(豚:52%)、
食欲不振、乳量減少等がみられました。今回、牛の蹄病変が稀(2例のみ)である以外
は典型的でした(図3)。
2010 年宮崎県で発生した口蹄疫の症状
発生件数内訳
牛
206
豚
84
山羊
1
水牛
1
牛
計
292
豚
症状等
発熱
泡沫性
流涎
舌
口腔
鼻腔
乳頭
比率(%)
88
94
蹄部
1
症状等
発熱
起立不
能・跛行
鼻
口腔
肢
乳房・乳
頭
子豚の
死亡
86
91
72
9
比率(%)
80
52
94
44
93
31
7
表中の症状と比率は病性診断立入時データです。
図3
2010 年口蹄疫の病性診断立ち入り時の症状
(※母豚450頭一貫経営で、埋却に 3 週間かかった農場では、約1,000頭の
子豚が死亡しました。)
4) 口蹄疫ウイルスの侵入経路と発生拡大の理由
a. 侵入経路
どこからどの経路で口蹄疫ウイルスが宮崎に入ってきたのでしょうか?
可能性として、下記が挙げられました。
① 輸入稲わらにウイルスがくっついていた?
② 水牛が元々ウイルスを持っていた?
③ 黄砂にウイルスが付着して中国から運ばれた?
④ 外国人の農場研修宮崎旅行でウイルスが運ばれた?
⑤ 農場関係者が外国に旅行してウイルスを知らずに持ち帰った?
-3-
⑥ 2000 年発生時のウイルスが野生動物の中で、あるいは環境中に残ってい
た?
以下の理由で、上記のことは否定され、あるいは不確かでした。継続して検証す
る必要があります。
① 同じ輸入稲わらのロットを使用していて、発生と非発生農場間での違いがな
い。中国からの輸入稲わらについては、過去 3 年間、半径 50km 以内の地
域に口蹄疫などの発生がない場所で生産、処理、保管されたもので、湿熱
80 度以上で 10 分以上加熱処理が課せられている。
しかし、常にリスクはつきまといます。過去には、輸入わらから生きた昆虫
が見つかったこともあります。それは、完全に熱が通っていなかったことを
意味します。
口蹄疫が発生している中国から、高いリスクをかかえて、わざわざ輸入しな
いで、稲作農家との連携をとって、稲わらの「地産地消」を目指すべきです。
以前の循環農業に戻りましょう。
② 当該水牛は、口蹄疫の発生していないオーストラリア生まれのオーストラリ
ア育ちでした。その水牛は他のどの国にも寄港せず、直接日本に輸入されま
した。動物検疫の際に、採血し、残っていた水牛の血清についても検査して、
口蹄疫ウイルス抗体が陰性であったことが分かりました。
よって、もともと口蹄疫ウイルスを持っていたということはありません。水
牛も、また、犠牲者でした。
③ 黄砂から口蹄疫ウイルスの遺伝子が検出されたと報告がありました。
しかし、検査方法などその信頼性について疑問が残されています。
韓国では、米国との共同研究で、黄砂について調査したところ、否定されま
した。
また、黄砂で運ばれたのであれば、もっと広い地域で同時多発的に発生して
もおかしくありません。
④ 外国人の農場研修宮崎旅行は確認できませんでした。
関連した外国人の農場訪問については、うわさはたくさんありました。それ
らについて、元を辿っていくと、確証が得られませんでした。このことから、
農場訪問者については、記帳することが求められています。
「記憶」より「記
録」です。
⑤ 農場関係者の直近(3 週間以内)の外国旅行の事実も確認できませんでした。
少なくとも、最初の 10 件についてでも、全関係者にパスポート提出を求め
る強制捜査ができれば、もう少し、詳細に詰められたと思いますが、農水省
の疫学調査チームには警察庁関係者は含まれておらず、捜査権はありません
でした。
この教訓を元に、農水省だけではなく、国を挙げ、省庁間を超えた合同特命
調査チームの編成が必要ではないでしょうか。
⑥ まず、2000 年と 2010 年の口蹄疫ウイルス株は相同性が低く、同じウイ
ルス株ではありませんでした。
口蹄疫ウイルス感受性野生動物として、シカとイノシシが挙げられます。し
かし、シカもイノシシも、2010 年の血清学的調査、PCR による遺伝子検
査で、全て陰性でした。イノシシは豚同様キャリアーにはならないと考えら
れます。但し、シカやイノシシは年々増頭し続けており、今後、益々、里(農
場近く)に現れることが多くなることが予想されます。
口蹄疫は広い地域で流行しています。とくに、2010 年には、東アジアで O
型、A 型が流行していました。香港、韓国、ロシアで流行していた O 型ウイル
スと 2010 年の宮崎でとれたウイルスは類似していました。
このことから、海外から侵入したことは間違いないと考えられますが、その侵
入経路は分かっていません。このままでは、また、いつ、同じ経路で侵入するか
も知れないリスクが残されています。継続して侵入経路を探ると同時に、アジア
で流行している口蹄疫ウイルスの株を把握し、そのウイルスに対する有効なワク
-4-
チン(後述)を備蓄しておく必要があります。
b. 拡大した理由
下記のことが考えらます。
① 2000 年口蹄疫防疫や 2007 年高病原性鳥インフルエンザ防疫にも成功し
ていたことが、裏目に出て、国、県、市町村、個人までが油断していた。
2000 年と 2010 年の口蹄疫発生地の家畜農場密度と家畜飼養頭数密度の
違いや流行したウイルス株の病原性の違いを早く認識すべきであった。
国を挙げての防疫体制が遅延してしまい、人手・物資の補給が発生件数に追
いつかなかった。
② 埋却地確保に時間がかかった。
レンダリング施設に運ぶ安全な搬送車がなかった。
③ 封じ込めの過信、ワクチン接種時期が遅かった。
④ 人に対して病原性がない口蹄疫に対して、畜産関係者以外の関心が薄かった。
また、畜産関係者もウイルスがよだれなどにいることに気がつかず、靴、衣
服、帽子、手などにくっつけたまま持ち回ってしまった。
発症する前もウイルスが動物体から出ていることが周知されていなかった。
⑤ 牛農家と養豚場が近接した家畜飼養頭数の密集地帯にウイルスが侵入した。
大規模農場(牛、豚)の従業員が自宅で牛を飼っているケースがあり、流行時
も自宅と行き来している時期があった。
⑥ 道路に面している農場が多い。
⑦ 消毒剤の組合せ、希釈方法、有効期間、その効果など、消毒剤の使用方法に
ついて周知されていなかった。例えば、踏み込み消毒槽の使い方が悪かった。
消毒液は新しく、靴底のゴミを落としてから、再度消毒するなど。
5) 防疫として---口蹄疫を発生・拡大させないために--①地球防疫
世界には、口蹄疫ウイルスの溜ま
り場として、7つのプールが挙げられ
ています(図4)。
FAO お よ び OIE は 共 同 で 、「 OIE
PVS Pathway」として、地球上から
の 口蹄 疫 の 清 浄 化を 究 極 の目 的 と し
て掲げ、口蹄疫をコントロールするた
めの工程を定めています(図5)。
日本は、今、プール1(東アジア域)
に直接的に脅かされています(図6)。プ
ール2(南アジア域)に位置するインド
の牛の数はブラジルと並んで、世界一
図 4 口蹄疫ウイルスの溜まり場
です。その牛は宗教上神的存在ですの
(2012.6.OIE/FAO 国際会議資料から引用)
で、牛が口蹄疫に罹患してもスタンピ
ングアウトできません。有効なワクチ
ン プロ ジ ェ ク ト 対策 で コ ント ロ ー ル
する以外手段がありません。
私たち、日本への侵入リスクを軽減
化するためには、これら諸国の口蹄疫
ウイルスを抑える必要があります。特
に、これからの畜産経営が大規模化し、
従業員として、東アジア諸国の方々を
雇用していく場合、国際的なネットワ
ークの構築が必要です。東南アジア諸
国と中国における口蹄疫防疫の取り組
みが「SEACFMD2020」としてあり
図 5 口蹄疫コントロールのための工程表
- 5(2012.6.OIE/FAO
国際会議資料から引用)
ます。これは、2020年までに東南ア
ジア地域のワクチン接種清浄国を達
成するためのプログラムです。日本も
積極的に支援することで、日本へのウ
イルス侵入のリスクを下げることが
できると考えられます。
2010~2012年の流行をみると、
血清型Oは依然多いけれど、やや減少
し、少なかったAsia1型が右肩上がり
に増加しています。アジア地域の口蹄
疫ウイルスの動きは、牛の動き(購
入・販売)と関係している部分があり
ます。国間の連携が必要です。
図 6 南アジア、東アジアにおける流行口蹄疫ウ
イルス株(2012.6.OIE/FAO 国際会議資料から
引用)
②国家防疫
日本は、アジアからの来訪者が多く、
観光地と畜産施設が非常に近い位置にあります。当然、
口蹄疫の侵入リスクは高くなります。清浄化を維持する
日本としては、水際防疫の強化をしなければなりません。
各国際空港、港湾などにおける動物検疫について、税関
同様、自己申告制ではなく、少なくとも口蹄疫汚染アジ
ア諸国からの旅行者や帰国者に対して積極的に検査す
べきです。もっと、身近な開かれた動物検疫所に、私た
ちがしていきましょう。みんなカウンターにどしどし相
談に行きましょう。
渡航者、外国人従業員についても増加傾向は続きます。
探知犬の活躍で、
畜産関係者については、特別、相談窓口が必要です。ま
2010.12.~2011.3.
た、検疫探知犬も頑張ってくれています。しかし、国際
の間、成田、関西の空
路線でも宮崎空港など地方路線にはまだまだ配置され
港だけで、中国から
そうにありません。
7,828kg、台湾から
さらに、アグリ(バイオ)テロの可能性があるので、国
1,650kg、韓国から
家防疫として、防衛省も取り組むべきです。性悪説に基
688kg の違法肉類の
づき強化された組織体制作りが必要となります。省庁間
持ち込みが検挙され
の壁を越えた「越境疾病対策特命チーム」体制が必要で
た。探知犬は現在、羽
はないでしょうか。
田国際空港にも配置さ
また、宮崎県でも地域防疫としてではなく、国家防疫
れている。
として、全国に先駆けて、「発生現地防疫特命チーム」
を編成しておくべきです。2010年の教訓を活かし、発
生が起きたら、場所を選ばず、発生地に協力の申し出をして、先遣隊、初動防疫体
制など、率先して、今度は、恩返しをすべきです。
また、韓国では、畜産関係車両にGPS搭載の義務化が検討されました。
③地域防疫
現在、地域の空港でも中国、韓国、台湾などとの国際航空便の就航があります。
福岡空港には多くのアジア諸国との就航があります。長崎(壱岐・対馬)や沖縄(八重
山諸島)では、チャーター船による入国もあります。畜産地帯では、東京や大阪など
の家畜過疎地帯とは違う危機管理が必要です。
国家防疫とは別に、地域防疫として、国境を意識する必要があります。
最近の傾向として、清浄、汚染域の考え方として、国別(国境)単位ではない地域
割りの「ゾーニング」が導入されています。日本も、最近、ブラジルのサンタ・カ
タリーナ州からの豚肉の輸入に関わるリスク評価において、口蹄疫の地域主義が採
用されそうです。ということは、ますます、地域は地域で方針を立て、守っていか
なければ、逆に感染した地域は、そこだけが取り残されることになります。
よって、地域観光の支えにも貢献している観光牧場、動物園などの防疫も地域と
-6-
して、再考しなければなりません。
また、ペットの山羊、羊、豚についても飼育状況を把握しておく必要があります。
また、牛、豚、などの畜種別、農場密度、家畜飼養密度、主要道路、地盤・地形
について、発生時のシミュレーション訓練をしておく必要があります。
④農場防疫
農場防疫として、牛農家と豚農家の間では、伝染病の防疫意識に差があります。
農家間だけではなく、それぞれの農場に出入りする関係者間にも差があります。バ
イオセキュリティ(農場内に伝染病の病原体を侵入させない防衛態勢)のレベルは、
大規模な養豚場が増加してきた今日においては、一般的には養豚場の方が牛農家よ
り高い意識を持っています。口蹄疫は、牛と豚の両方に感染する疾病であり、養豚
農家としては日常でやっていることが、牛の方ではできていなかったことが目立ち
ました。養牛界も小規模農家からメガファームへ規模拡大していることから、農場
のバイオセキュリティを向上させ、出入りする普及指導員、人工授精師、削蹄師、
獣医師など関係者は、緊張感を継続して責任ある行動をとる必要があります。
油断点として、畜舎の電気・ガス・水道設備の修理等の工事業者があります。同
様に防疫について、説明し、ルールを守ってもらいましょう。
牛は牛、豚は豚と別々ではなく、互いにノウハウの交換が必要です。実際に、大
型農場において、従業員の自宅に牛を飼っているということがあり、自宅から通勤
している、というケースも散見されました。
201年、全国一の畜産市、都城での発生は1戸だけで封じ込めができました。国
と当該市は、その理由として、
a) 短時間で殺処分・埋却作業ができたこと、
b) 市町村合併により、動員組織力があったこと、
c) 発生場所が奥まった袋小路の場所であり、地の利があった、
としています。しかし、私は、それだけでは、1戸で封じ込めできず、えびの市
での発生例のように、続発が起きていたのではないと思います。 その続発を4件で
とどめたえびの市の防疫こそが見本となります。えびのに飛び火したとされるのは
4/13と推察されています。まだ、口蹄疫の「コ」の字が夢にも出てきていなかっ
たときのことです。6/9の都城の状況とは大きく異なります。平常時の「非常事態」
です。都城では、当時、児湯地区での尋常ではない発生・拡大をみて、畜産関係者
の集会を自粛(非常事態意識)していました。私は、1戸で封じ込められた理由として、
前述3つの理由の他に、このことがあると思います。なぜなら、口蹄疫には発症す
るまでに、感染から2週間程度の潜伏期があり、その間の一定期間、隠れた状態で
ウイルスが周囲に撒き散らされている時期があるのです。その期間に人が感染動物
のよだれなどを服につけて、集会などに行けば、ウイルスをさらに広い範囲に撒き
散らすことになってしまうからです。このウイルスは、別名、ヒッチハイクウイル
スとも言われています。しかし、日常生活では、集会を自粛するわけにはなかなか
いきません。勉強会もしなければならないし、競りにも行きます。そこで、一提案
です。作業服や作業長靴については、日常生活時でも、外に出かける時には、着替
えて、あるいは履き替える習慣はできないでしょうか。定着させるために、例えば、
畜産関係者の作業ユニフォームづくりはできないでしょうか。医師、歯科医、看護
師、獣医師、調理師には白衣があるように、消防士や警察官にも制服があります。
その作業ユニフォームを着て、買い物や集会など
に行く日常生活は止めるようにする。また、長靴
(図7)も使用する場所毎に、あるいは目的別に色
を変えるなどしませんか。そうすれば、見えない
敵(口蹄疫ウイルス)が身近にいたとしても、自分
の農場をより守ることができると思います。
中国からの入国審査制度が、これからもさらに
緩和されそうです。国際交流はいいことですが、
マナーを守って有意義な交流としていただきた
いです。海外研修生などを雇用する場合には、お
互いの信頼関係のためにも、彼らの生活行動、ま
図7
-7-
カラー長靴
た、故郷から送られてくる荷物に対しても用心が必要ではないでしょうか。
日本では、家畜伝染病予防法の見直しがなされました。まだ、今のところ、家畜
を何頭、どのように飼うかは農家の自由です。でも、その自由には責任が伴います。
多くの責任を自覚し、受け入れた農家は、多くの自由な選択肢が得られます。逆に、
埋却地確保などについて、その責任を国や県に求め過ぎると、厳しい規制がかかり、
土地面積に見合った飼養頭数制限が韓国やヨーロッパのようにかかってくること
になると思います。欧米の安価な牛肉・豚肉価格競争に打ち勝つために、ギリギリ
の集約的畜産に取り組んでいた今までの自由はなくなっていくでしょう。規制前に
生産者から提案すべきではないでしょうか。
⑤ワクチン
2010年5月下旬、ワクチン接種後1~2週間で症状が日に日に軽くなっていく様
子が観察されました。それは、写真判定が難しくなったことをも意味しています。
感染動物の発見数は激減しました。結果的に、流行株とワクチンはマッチングして
いました。当時、O Manisaワクチンが使用されましたが、2011年の流行してい
たO型のうち60%程度がマッチしていたようです。しかし、流行株の変異は停まっ
てくれません。いつも今回のように流行ウイルス株と備蓄ワクチン株のタイプが一
致しているとは限りません。ワクチンへの過度な期待はできません。ワクチンを有
効に活かすためにも、地球レベルのネットワークを構築し、流行株の特性を事前に
知っておき、対処することが必要です。
⑥早期発見・初動防疫
早期発見・初動防疫のために、家畜保健衛生所で安全な口蹄疫のPCR(遺伝子)検
査体制づくりが検討されています。確定診断は(独法)動物衛生研究所に依頼するも
のの、早期発見・初動防疫のためには、現地検査体制の検討が必要です。前述した
ように、国際的にみても、口蹄疫の診断施設は国内に一つだけです。しかし、診断
技術は、日々、新しくなってきています。生ウイルスなどを畜産地帯で使用するの
には、私も反対ですが、遺伝子検査など安全な方法があれば、畜産地帯でも診断で
きる体制作りが必要だと思います。とくに、東京の(独)動物衛生研究所の海外病診
断施設まで、即日に送付できない遠隔地では、迅速な診断が求められます。
PCR検査で陽性と陰性の事例について臨床症状を比較鑑別することが必要です。
例え典型的な口蹄疫症状を示すウイルス株でも、動物種あるいは感染量によって、
その症状は変化します。
⑦ 焼却、埋却、レンダリング
焼却と埋却について、「海外悪性伝染病防疫要領」では、患畜および疑似患畜は
すべて安楽殺処分し、埋却あるいは焼却することになっています。疑似患畜には、
患畜と同居する感受性動物の全てと、口蹄疫の伝播において発生農場と関係のある
飼養施設の感受性動物全てが対象になっています。口蹄疫の伝播は極めて速いので、
発生した場合に最も重要なことは、可能な限り早期に発見して、発生農場の家畜を
移動禁止とし、感染が決定したら早急に安楽殺処分して、蔓延防止を図ることです。
汚染飼料、畜舎および汚染の可能性のある全ての器具、資材も消毒または焼却する
ことになっています。しかし、2010年の今回、焼却場の地理的位置による使用不
可問題、埋却地不足による殺処分の遅延、汚染糞尿の埋却ができないことによる環
境中の生存ウイルス残留の危険性などがありました。家畜排泄物を含めた全ての汚
染物が処理できる埋却地確保あるいは動物のレンダリングの体制を整備する必要が
あります。宮崎県にある南国興産は7トン/h、500kgの牛であれば、14頭/h間、
100kgの豚であれば、70頭/hの処理能力のある移動式レンダリング車を製造しま
した。今、中部国際空港に整備されています。
しかし、例えば、母豚1000頭規模の農場で発生した場合をシミュレーションす
るとどうなるでしょうか。
おわりに
口蹄疫に関する世界情勢をみると、日本の水際防疫は完全ではないものの、四方
-8-
を海に囲まれている点で、陸続きの国境線がなく、自然の要塞(海域)に助けられて
います。勿論、油断してはいけませんが、ガゼルなど感受性野生動物が歩いて、海
を渡っては来ません。「人の行動」に注意すべきです。
補足-2010 年口蹄疫防疫業務メモから
農家の生の声********
*恐怖***
毎日、毎日、消毒を繰り返しちょっとに、毎日、発生報告がある。
その数は増え続け、発生場所が段々自分の家に近づいてくる。
怖い。
まるで、戦時中の戦火が家に迫ってくる時に似ちょる。
野焼きの火が風に煽られ、
枯れ草に飛び火して抑えられんごとなってしまったような恐怖。
*怒り***検査に当たって
病性診断訪問 5 月中旬
国にウイルスを入れたっつが、
あんたたちが 悪っちゃわ。
あんたたちぁ、動物を殺すっために獣医になったんね。
助くっためなったっちぁねんね。
まっこち、腹が立っ。
*怒り***検査に当たって
病性診断訪問 6 月上旬
こん子はねぇ、わったちが毎晩ねむれんから、身代わり、犠牲になって、出て
くれたっちゃわぁ。でんねぇ、わったちゃ、殺されんけど、あんたたっちゃ、
殺さるっとよ。もぞなぎぃー。
あんたどんもたまらんねぇ。こんげなこつになって。
*初代オーナーのつぶやき***
昭和 22 年、終戦後、開墾に入った。
スコップと一輪車で始めて、牛舎と鶏舎を造った。
今、息子が運転しているような重機なんかなかった。
肥育が約 600 頭になった、と思ったら、このざま。
あの時、入植した 30 人のうち、生き残っているのは 3 人だけ。
病気になった牛だけでなく、まだ、健康な子牛まで、処分しなきゃあ、なら
ん、というのは、もぞなぎぃしてたまらん。
なんで、こんげなってしまったちゃろかいねぇ。
(83 歳になる初代の言葉。最後の 1 頭となった子牛の処分を看取って、自宅
に入っていった。奥さんはとても見ることができず、嫁の自宅に行ったとのこ
と。この防疫は、今だけを処置しているのではない。この 60 年間の歴史を reset
されてしまった。)
*後継者の涙***
防疫活動の休憩時間、牛がいなくなった牛舎を静かに見ていた若者に何か気の利
いた言葉を掛けられないかと考えたが、長い沈黙。
その後、しばらく世間話した後、互いに気持ちが通じたかなと思い、
『今回は、とんでもないことになってしまったね。』
と言った瞬間、20 代半ばの若者の目から、湧水のように涙がこぼれ、
『情けないです。』
と、震える声。無責任な言葉を掛けたと反省していると、
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『獣医さんにこんな嫌なことをさせて申し訳ないです。』
との気遣い。
一番つらいのは、自分たちなのに。
*作業指揮係***朝早くから夜遅くまで
リーダーは、当該農場に先遣隊として現場の動物舎配置、導線を確認。
前夜のうちに、発症動物の安楽殺処分と資材調達連絡。
当日早朝から本部から指示された人員配置で班構成の立案。
当日の現場指示(全体の流れを常に把握する。)後、動員者(獣医師、保定係、シ
ート係、消毒係、自衛隊、埋却係、評価係)が帰った後、全てのチェック後、農
場主と頭数など確認作業、後片付け、
本部に帰り、評価表消毒して、パソコンに入力し、翌日の資材準備をする。
時には、その夜、先遣隊として、明日予定の安楽殺現場の事前調査。
連日、この繰り返し。
*曇らないゴーグル***安く改良できないか
牛の鼻腔観察時、時折、鼻水を顔に浴びる。
そのためのゴーグル。しかし、マスクを付けるとすぐに曇って、視界が悪く、
使用できない。
マスクしても曇らないゴーグルの開発を早く。
塗抹を防ぐためであれば、眼の前にだけ板のある眼鏡(だて眼鏡)の方が better?
*防護服が破れる***丈夫なものを
養豚場への病性診断時、肥育豚が近寄って、防護服を噛み破る。
「あっちに行って」と、ボグッとたたいても平気な顔、いや、きっとあの表情
は、遊んでくれていると勘違いしているようにも思える。
防護服の下に、暑くても、カッパとつなぎを聞いていて良かった。
防護服にも丈夫なものが開発されることを望む。
*防護服が破れる 2***伸縮可能な開発を
防疫作業では、立ったり、座ったり、跨いだり、跳び逃げたり、・・だから、防
護服の内股部分が破れる。ガムテープで補強すると、動きがギクシャクする。防
護服にも伸縮できるものが開発されることを望む。
*防護服 3***機能性防護服の開発を
防護服を着用しての防疫作業は、とにかく暑い。
暑さに強い、雨に強い、ウイルスに強い、細菌に強い防護服の開発を!
この防疫作業での暑熱対策・・・沖縄ではどうすればいいだろう?
*ダイヤモンドダスト現象***舞い上がる消石灰
埋却作業。雨天は、地盤が緩んで危険。
晴天では、ただでさえ暑いのに、消石灰散布で、あたり真っ白で輻射熱。
焼けるし、暑い。
風が吹けば、太陽光反射で、ダイヤモンドダスト現象。
マスクをしても吸い込んでしまう。
消石灰が舞う。
縁に立つと、その埋却溝の深さを改めて、感じる。
落ちたら、自力では這い上がれない急斜面。
*アザ***赤い、青い、湿疹
温水シャワーを浴びて、イテテッ、
見ると、アザが、胸、内股、太もも、確かに思い当たる。
あのとき、角が、柱が・・・。
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それは自分だけではない、
他の皆は大丈夫だったろうか。
*食育***K 小学校
小学生から犠牲になった動物と一緒に埋めてほしいと折り鶴が届けられた。
子供たちなりに、考えてのことだ。
食育が各地で始まっている。
子供たちがどう、今の報道をとらえているか気になる。
学校の先生はこの口てい疫を
どう伝えているのだろうか?
*水疱と手マメ***やっぱり似ている
雨天のため、午前中で、動物運搬が終了した。
その後、ポロ出し、清掃を自衛隊さんに混じって、角スコでした。
終了後、手袋を取ったら、左中指のマメの皮がついたまま剥がれかけていた。
豚の鼻の水疱は皮が厚く、水疱と言うよりは、手マメに似ていると思っていたが、
やっぱり似ていると再確認できた。
*危険との隣り合わせ***行き交う重機
防疫現場、後ろを、前を、横を
ホイルローダー、フォークリフト、トラックが所狭しと、すれすれで、行き交う。
注意を怠ったら、大事故につながる。
緊張の中の重労働。
*熱中症寸前の戦い***ハンパない汗
毎日、後始末を終え、テント内で、つなぎを脱ぎ、衣服を着替えるとき、
つなぎの異常な濡れ方に気づく。
お漏らしどころではない。
この汗、 何 kg あるだろうか。
活動の休憩中、お茶、スポーツドリンクを補給する。
総計、何本補給したことか。
そう言えば、活動中、トイレに行っていない。尿意がない。
その分、汗として出ているのだろうか。つなぎがずっしり重い。
今日も暑い一日であった。
今日は特別、午前中、蒸し暑かった。
お昼のお弁当が十数個余っていた。
私と同じように、食べなければ、午後バテてしまう、と思いながらも、食欲が
なく、食べられなかった人がいたのだろう。
熱中症との戦いも、また現実。これから、ますます、暑くなる。
Y 班長のつぶやき「袋詰めのかき氷でもあれば、食べてよし、おでこを冷やし
てよし、なのですが、・・」
*巨大化***出荷停止による過肥
移動制限・出荷停止により、肥育牛も肥育豚も巨大化していた。
過肥も過肥。
次にこんなことが起きては困るが、過肥となった原因は、作業が遅れたことに
ある。
こんな場合、動物のおなかは満たしつつも、発育を止め、排泄物が減るような
飼料はないか。
そんなことを考えること自体が、人間のエゴで、アニマルウェルフェアーに反
することになるだろうか。
周辺の声********
*周辺動物のかかわり***50m 隣接でも伝染していない
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ある農場の防疫活動の終了後、
牛のいなくなった牛舎に落ちているシリンジ、針、薬瓶、手袋、PET ボトル、
マスク、など回収忘れはないか見回り点検していた。
すると、近くで牛の鳴き声がする。
近くまで、行くと、隣の農場があり、約 50 頭いて、ゆったり餌を食べていた。
その農場との間には、深い谷があり、真竹や雑木が茂り、人の往復はまずないと
思われた。
が、農場主に後で聴くと、ネコ、タヌキ、カラスはたくさんいる、
とのこと。その農場は、陽性と診断されてから、2 週間以上、防疫活動ができず、
保留されていた。
しかし、わずか 50m しか離れていない隣接農場は陰性を保っている。
それらの野生動物のウイルス媒介の確率はどれほどなのか?
*消毒例 1***陽性農場に向かう車輌
往路、一般車両消毒ポイントとは別に仮設消毒ポイントを通る。
消毒ポイントでは、「どこからどこへ」とドライバーの氏名を告げる。
農場に近づくと、農場内にできるだけ入らずに、農場主に駐車場所を尋ねる。
業務完了後、農場に消毒施設がある場合は、車輌全面の消毒をお願いする。
復路、一般車両消毒ポイントとは別に仮設消毒ポイントを通る。
消毒ポイントでは、「どこからどこへ」とドライバーの氏名を告げる。
事務所到着後、事前に用意していたクリーンなサンダルに履替え、車から降りる。
採取したサンプル、長靴、農場から持ち出したものを
全て、仕分けし、ビルコン S に浸漬する。
床マットも、そっと運び出し、浸漬消毒する。(あるいは、マットを動噴で消毒)
荷物が空になった車輌について、まず、動力噴霧器(ビルコン S)で車輌全体を念
入りに消毒する。タイヤ周りは特に。車内については、動憤の勢いを弱め、霧状
にして、噴霧する。(特に、荷台は念入りに)
その後、キムタオルで拭き上げる。
しばらく、次の出動まで、ドアを開けて、車内を乾燥させ、消毒後、乾かした床
マットを車内に入れ、出動待機する。その後、窓ガラスは、消毒液の曇りで視界
が悪くなるので、水道水の動憤で洗い流す。
*消毒例 2***農場での作業前後
農場主に許可してもらった場所(できるだけ外)に車を停め、
新しい、防護服を着用する。(あらかじめ、消毒・洗浄済みつなぎとカッパは着て
おく)消毒・洗浄済み長靴または農場専用の長靴を履く。
新しい、長い手袋、短い手袋を着用。新しいディスポマスク・キャップを着用。
必要があれば、消毒・洗浄済み軍手着用。バケツ 2 つ用意し、ビルコン S 液をつ
くる。
消毒・洗浄済みブラシを 1 本ずつ入れておく。
その他、必要に資材を消毒・洗浄済みカゴに入れて持って入る。
作業後、農場を出る前に、バケツに溜めたビルコン S 液 2 つを必要に応じて、系
列分けして長靴をブラシで念入りに消毒。靴底は特に。
防護服の上からビルコン S 液をポータブル噴霧器(細霧 弱)で噴霧する。
防護服を脱ぐ際に、表面にくっついたウイルスが飛散しないように、表面を内側に
折り込んでいくように防護服を脱ぐ。
手袋、マスク、帽子、カッパ、長靴と脱ぎ、焼却するものと、消毒後再生するもの
に仕分けして、厚めの 90 リットルビニル袋に詰める。
材料、聞き取り表、カメラ、についてもビニルに密封。最後に、車体とタイヤ周り
の消毒をする。長靴から、履いてきた車内のサンダルに履き替える。
手指をノロクリーナーで消毒する。--移動-上記の車輌消毒、資材の仕分け、消毒が終わった後、人は、シャワーを浴びる。
手指をイソジンウォッシュで洗浄し、うがいをし、鼻を何回もかみ、なくても痰を
出す努力し、うがいをし、顔、耳の穴、など念入りに洗う。
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農場に行く機会がある毎に、1 日何回でも、繰り返す。そのためか、喉がしばらく、
痛くなった。
病性診断********
*山羊・羊***難しい臨床検査
ペットで飼われていた山羊 2 頭中 1 頭が食欲不振と連絡があった。
鼻腔にイボができているらしい。診に行った。
確かに、鼻腔内に腫瘤があったが、舌、口唇、蹄、乳房、乳頭に異常はない。
体温は 38.2 度、ほぼ平熱。
陰性と思うが、確認のため、採血し、鼻腔と口腔粘液を採取し、検査にだした。
これが陽性だとすると、臨床検査ではかなり診断が困難である。
ところが、食欲不振の山羊について PCR で陽性と診断された。
食欲不振といっても、その放牧場にある青草を与えるとおいしそうに食べていた。
いつも食べている市販ペレットについては、容器に残していた。
それを飼い主が発見したのである。
さらに、無症状だったもう 1 頭は、後日、抗体陽性であったことが判明した。
心配になった。 他の山羊や羊について、見過ごされてはいないか。
不顕性感染となっていないか。最近、山羊をペットで飼っている人が増えている。
*牛の同居感染・空気感染、害獣、害虫の媒介はないのか***
川南町の多発区域で 1 ヶ月間以上清浄化を維持していた農場から病性 診断依
頼された。
臨床 症状が出ていた。しかし、その農場は牛の陽性農場に周囲を囲まれていたに
もかかわらず、約 1 ヶ月間、陰性を維持していた。
従業員は 1 名。飼養形態は、決して新しくはない。
開放型。周りの動物はいなくなったので、そこにいたネズミ、スズメ、ゴキブリ、
ハエなどもこの農場に来て、ウイルスを運ぶのではないかと思っていた。
しかし、1 ヶ月間以上、発生がなかった。ということは、害獣・害虫の関与は?
周囲からの空気感染なとローカルスプレッドもなかったということ?
その農家周囲が牛の農場であったため、ウイルス排泄量が少なかったのか?
後日、動物衛生研究所で、分離されたウイルスを使用して、動物感染実験が、実施
されるはずであるが、牛→牛、牛→豚、豚→牛、豚→豚、牛→緬山羊、緬山羊→牛
など、接触感染、同居感染など、その伝播の可能性が明らかになる。
*密集多発地帯で 60 日間守り抜いた農場***決め手となるか
ワクチン接種未発症農家。開放型。
家族経営、息子さんが 1 週間分の買物。帰宅後、衣服は酢に漬けた後、洗濯。
ご夫婦は 2 ヶ月間外出していない。
農場周囲と道路に石灰散布 100 袋以上。スズメも通らない防鳥ネット。
50m 隣接して養豚場があった。
その養豚場も 40 日間陰性を維持していた。
周辺には家畜がいない、餌がない、では、ネズミ、スズメ、ハトなどは、残ったこ
れらの農場に集まってもおかしくない。
しかし、陰性を維持していた。 ウイルスを運ぶ確率が最も高いのは、やっぱり人?
非常事態時に備えて、大きな農場の場合も、敷地内に、従業員用宿舎・寮を用意で
きるか、が鍵か。
*バイオセキュリティ-2***陰性維持の秘訣は
1 ヶ月間以上、発生中心にもかかわらず、
陰性を維持していた養豚場、牛農家の共通点。
家族経営の小規模。
開放的。
外出を完全に控えた。
周りの農場や農家の動物がいなくなれば、そこの餌を狙っていたネズミやスズメ、
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ゴキブリなどが移動してきてもおかしくない。
にもかかわらず、陰性を保った。
世話している人数が家族だけに限られ、徹底した外出がストップできた。
大規模では、従業員が多い分その制限が困難なのか。
また、飼料運搬、薬品運搬など、頻度が抑えられるのか。
バイオセキュリティに関しては、大規模農場の方が意識は徹底している。
しかし、実態が、徹底されていないかも知れない。
*油断はできないけど***病性診断と発生数の激減
ワクチン接種しなくても、減少していたか?ワクチン接種の効果か?
症状が接種後 2 週間後くらいから軽症化?(変化)してきた。
写真診断が難しくなった。
症状があっても食欲を取り戻しているケース、蹄病変があっても鼻に水疱がないケ
ース(豚)、鼻に水疱があっても蹄病変がないケース(豚)など。
実験室内の検証が待たれるが、臨床的には、ワクチン効果が現れているのではない
かと思われる。よって、ウイルスの増殖が抑えられているのか?
ウイルスが感染していても症状が出にくくなっているようなので、ワクチン接種以
前とは違う、観察力、観察眼が必要だ。
ウイルスがいなくなったわけではないので、ある意味今まで以上に要注意!!
*耐水性メモ用紙***防水カメラ、防水懐中電灯
今回、陽性農場あるいは検査農場に入る際、
記録用紙を最後に消毒する必要があった。
その際、耐水性のペーパーが有用であった。
消毒後、キムタオルで、1 枚 1 枚挟み込み、消毒薬を吸い取る。
普通用紙であれば、破れたりするところが、この場合、丈夫。
(記録を急ぐ場合には、帰所後、清浄なビニル袋に入れ直して、とりあえず、コピ
ー機でコピー処理する。)
筆記用具にも、耐水性・防水性はないものか。
毎回、消毒し、再生したが、ボールペン内部の乾燥には時間を要し、時折、中に消
毒液を洗浄した水が溜まり、記録時に、ペン先から水が出て、書けないことがあっ
た。
消毒でデジタルカメラが何台ダメになってしまったことか。
また、夜中の観察には懐中電灯は必需であるが、広間でも畜舎内の薄暗いところで
は要携帯。また、重要なのが乾電池のキープとその防水対策。
*エメラルドクリーンの見開いた瞳が並ぶ*
牛の瞳は、ぶどうの巨峰の様。普通はそう。
それが、殺処分あとの倒れた牛の瞳の色は違った。忘れられない。
まるで、南海の海の色。
エメラルドクリーンの瞳。
悲しすぎる。
まぶたを閉じてやってもガシッと見開く。
何にも悪いことしていないのに、何で殺すんだ、と訴えているよう。
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