サル痘の発生 鹿児島大学 岡本嘉六 OIE が「リスト疾病ではない」と断った上で、WHAIS に下記のカメルーン からのサル痘発生通知を 8 月 25 日に掲載した。リスト疾病以外を掲載すること は異例であり、何事か? と興味を持った。 サル痘、継続 1 件 緊急通知:25/8/2016 発生日:15/8/2016 通知の理由:新興感染症 発生場所:自然保護国立公園内 罹患動物:保護区のその他の区画(18 の 囲い)から隔離された、3 ヘクタールの囲 いで飼い慣らされた 22 頭のチンパンジー (病気 1 頭+死亡 1 頭)のグループ 総頭数:300 頭、発症数;2 頭、死亡数: 1 頭、殺処分数:1 頭 疫学的注釈:野生動物疾病の発生動向調査の枠組み内で、カメルーン畜水産動 物産業省の動物疾病疫学調査連携網(RESCAM)は、Mefou 霊長類保護区のチ ンパンジーの死亡について 8 月 16 日に知らされた。疫学的調査と試料採取に続 いて、動物衛生研究センター(CRESAR)は霊長類オルソポックスウイルスの 存在を確認し、サル痘として知られる人獣共通感染症を引起す病原体と判定し た。ポックスウイルス Congo basin と同定された。3 ヘクタールの囲いで飼い 慣らされた 22 頭のチンパンジー(病気 1 頭+死亡 1 頭)のグループは、保護区 のその他の区画(18 の囲い)から隔離された。臨床徴候は、食欲廃絶、顔面に 結節と水疱の出現であった。保護区は、約 900 ヘクタール以上あり、チンパン ジー、ゴリラおよびサル(全部で 300 頭)が生息している。区画化され、フェ ンスで囲まれている。動物は、保護区内に導入された。検疫が適用され(病気 の動物囲い内で飼育)、囲い内の作業員に対する生物学的安全対策が強化されて いる。疫学調査が継続され、保護区内における齧歯類および環境の積極的調査 が実施されている。 サル痘は 1958 年に研究用に飼育していたカニクイザルが痘瘡様疾患を発症 したことを契機に発見された(WHO:鍵となる事実)。最初のヒト症例は、ヒ トの痘瘡撲滅計画を実施していたコンゴ民主共和国で類似疾患として 1970 年 に発見され、それ以降、アフリカの中央部と西部の国々でヒト症例が報告され た。サル痘ウイルスは、アフリカのリス属を自然宿主とし、様々な齧歯類の保 -1- 有が確認されており、サルやヒトへの感染源になっている。 WHO:アフリカにおけるサル痘感染ヒト症例、1970~1986 年 ヒトの痘瘡は 1977 年の 1 症例を最後に発生しておらず、1980 年に WHO は痘瘡根絶を宣言し、それとともに、種痘(ワクチン)も中止された。種痘に よりサル痘への免疫も付与されていたのだが、種痘中止によってヒトの発症例 が顕在化してきた。コンゴ民主共和国で 1996 年 2 月に始まった流行は、1997 年末までに合計 511 名に達した。さらに、2003 年に突如米国で発生し、アフリ カ大陸以外でのヒトサル痘感染の最初の事例となった。ペットとして輸入した 齧歯類(サバンナオニネズミ)が原因であり、ペット業者がプレーリードッグ と一緒に飼育し感染を広め、5 つの州で 47 名の患者が発生した。その後も、ア フリカの赤道熱帯雨林地帯で発生が続いている。 かつての痘瘡は、ヒトだけが 感染することから種痘を徹底す ることによって撲滅できたが、サ ル痘ウイルスは齧歯類など様々 な野生動物の間で循環している ことから、撲滅することは不可能 である。感染動物の血液、体液お よび膿疱との接触によってヒト が感染し、さらに次のヒトへも伝 播する。ただし、野生動物および ヒトにおける発生状況は、アフリ カの現状では十分に把握されて いない。 感染研:サル痘 -2- サル痘に感染すると、6~16 日の潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、 筋肉痛、脱力感が表れ、その後、顔面、手、足、体幹部に多数の皮膚発疹がで き、斑丘疹から膿疱へと進む。死亡は 10%以下であるが、幼い子供が多い。痘 瘡より軽いとはいえ、サル痘の流行を軽視してはならない。 OIE への今回の通知がどこまで広がる可能性を秘めているのか判らないが、 アフリカの齧歯類、とくにリス類のウイルス保有率が 40%を超えるとの報告も あり、予断を許さない。 -3-
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