みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい 教育研究全国集会2012 第 1 分科会 国語教育 メディア・リテラシーの授業実践 パソコン室を使った『国語表現』 組織名 :静岡高教組 報告者 :谷 職場等 :静岡県立島田工業高校 1 峰夫 ■ レポートの経緯 このレポートは昨年度秋に開かれた「静岡県の教育研究のつどい(旧県教研) 」の国語分科会で発表し たレポートの一部です。 分科会では小学校のレポートが出されなかったため、分科会では高校のこのレポートのみとなりまし た。会場はレポーターの高校であり、授業がパソコン室で行われているため、分科会会場を急遽、パソ コン室へ変更して、授業のようにパソコンを使いながら、レポートを発表しました。参加者も生徒のよ うにパソコンを利用しました。参加者は高校教員が三人、小学校教員OBが一人でした。 実際の授業では、プリントアウトした印刷物も使いながら、ほとんどパソコンのワード書類やレポー ト用紙などに書き込んでゆく授業でしたので、ここにあるレポート(とくに資料集)も、パソコンの中 のワード書類をまとめたものです(ので、見にくいところ・わかりにくいところがあります) 。 また、レポート全体は大部になりますので、本文と資料集とに分け、本文だけ製本しました。資料集 は分科会のおりに配布する予定です。 ■ レポートの概要と分科会の推移 レポート内容は一年間の授業の概要と二学期に行った(行っている)メディア・リテラシーの授業で す。とくに福島原発事故にかかわるメディア・リテラシーを中心に置いていますが、二学期の授業の途 中までのレポートです。 そのなかでいくつかのポイントがありました。 一つは原発事故・放射能にかかわる新聞記事などの比較検討 一つは宇和島水産高校の事故にかかわる新聞記事などの見出しの比較検討 一つはウィキリークスが暴露したイラクでの民間人射殺事件の各メディア映像による比較検討 一つは戦中の商業雑誌やコマーシャルにおけるスローガンなどの語句の検討 です。 あまりまとまらず、しかも新聞記事の比較検討は冗長すぎて授業としてはあまりうまくまとくらなか ったと思います。しかも教える側の一方的な教え込みになってしまったような怖れを感じます。 分科会としては、授業の概要をなぞって質問意見を設けたのですが、ほどんど発表で終わってしまっ たように思います。 ■ レポーターの高校 レポーターの高校は工業高校で、普通科専用のパソコン室が完備されています。それで三年生の国語 表現の時間をほとんどすべてパソコン室で行いました。本校の生徒は比較的おとなしい生徒です。工業 科目でパソコン等もよく使用しているようです。 「国語表現Ⅰ」は二単位で、三年生のみの履修です。わたしが担当したのは機械科、電子機械科、電 気科、情報技術科の四クラスです。 レポートは二学期のメディア・リテラシーにかかわる授業のレポートで、発表時点では、その途上に あるレポートですが、「教育のつどい」のために後で加筆しました。 2 2011年度 県教育研究のつどい 国語分科会 レポート(を加筆) レポーター 島田工業高校 2011、11、27 谷 峰夫 於島田工業高校 メディア・リテラシーの授業実践───パソコン室を使った『国語表現』 ○概説 クラスは三年生4クラス(週2時間、パソコン室)。 1学期は論理的な文章を書かせた。2学期は感覚的な文章、さらにレトリックの手法からメディアリ テラシーの授業へ入る。3学期は自分史を制作させる予定。 メディア・リテラシーの授業はパソコン室を利用し、パソコンやネットを利用した。 ○パソコン室 工業高校なのでたくさんのパソコンが設置され、しかも普通科優先のパソコン室がある。この部屋を ほぼ独占するような形でほとんど1年間利用した。41台のウインドウ7がある。サーバーは三つのパ ーテーションに分けられ、一つは教師の「教材」(生徒の書き込み不能)、一つは生徒のレポートの「提 出」(生徒の書き込み可能)、一つは生徒の個々のバックアップ用に分けられている。インターネットに もつながり、それを使って、原発事故・放射能にかかわるさまざまな情報をあつめ、レポートさせるこ とができるが、生徒用のフィルターもかけられてもいる。 ○経過(資料参照) 1 「メディア・リテラシー 0」 (1時間) まず、動機付けのような映像を見せた。「4つの映像から」。いずれも原発事故関係の映像。感想をパ ソコンで書かせて、保存させた。これら4つの映像は、外国のドキュメンタリーなども含めた、日本の マス・メディアではおそらく報道しないマイナーな映像もある。 この時期、生徒たちはたいてい就職が内定している。地元の電力会社や原発関連に就職が決まってい る生徒もあり、シビアな映像を見せる授業となったようだ。 2 「メディア・リテラシー 1」 (2~3時間) まずはじめは、インターネットを使い、 (福島原発事故にかかわる)放射能関係の情報を、グループで 調べさせた。テーマはわたしが20ほど用意した。生徒は意欲的に調べていたが、ネットでは権威のあ る官庁関係の情報がヒットしやすく、民間からの情報はなかなか得られなかった。学校のネット環境で はフィルターがかかるホームページも多く、肝心なデータを調べる手立てがあまりないようだった。さ らに県内のこの手の(民間の)ホームページがすでに抹消されていたのはたいへん残念だった。 また、優秀な生徒ほど、権威ある公の、建前上の情報を善意に受け取っているような傾向が見られた。 テーマの大枠は 1 放射線全般について(物理現象) 3 2 被曝について(物理現象と政府の政策) 3 食品汚染について(内部被曝とその対応) 4 3.11以降における静岡県における放射能汚染について 5 静岡県に住むわたしたちの対処の仕方について(放射能汚染対策) 1や2の一般的な知識については、ある程度生徒たちのレポートはよく調べられていた。しかし、3 以降については現在進行形のような情報なので、調べ方もよくわからず、こちらから HP などを指摘す ることもあった。4、5については、わたしの関心事だったが、生徒たちにはよくわからなかったよう だ。しかし、まじめで優秀な生徒ほど地元の電力会社などに就職が決まっていて、そういう生徒たちに とっては、この課題はそれなりに危機感をよび起こしても、現実にどう対処してよいかわからないとい う「無力感」を多少漂わせていたような雰囲気があった。 3 「メディア・リテラシー 2」 (1時間) 福島原発事故関連の一つの事件を、5つの通信媒体からの記事を比較する。見出しからはじめて、内 容を分析していくが、なんとなく「誘導尋問」的な発問になってしまった。 まず、見出しを比較し、さらに内容を確認する。だれが、いつ、どこで、など。 具体的には原発近くの海水の汚染度の報道の仕方の比較である。計測地点は原発から何キロか、など をしつこく確認させた。 とくに「C 紙」 「D 紙」の分析をした。 「亀裂からの流出水」つまり海に出た汚染水が540万ベクレ ル/立方cmの放射性ヨウ素を含み、それが安全基準の「1億3500万倍」でありながら、前面に押 し出しているのは「付近の海水」の汚染であり、それが30万ベクレルの汚染で、安全基準の「750 万倍」あって、これを見出しにしている点など。この「付近」とはどのあたりか、と生徒に質問したら、 「D 紙」の別の箇所の測定地である「沖合約15キロ」と優秀な生徒が答えた。しかし、これは別の測 定地点のことであって、汚染の値は「19ベクレル/立方センチメートル」とあり、まったく別の地点 の測定値だった。ここからかえって生徒たちに浮き彫りにされたことは、19ベクレルという低い汚染 の数値が測定された地点は沖合約15キロと明記されているのに対し、30万ベクレル/立方センチメ ートルが検出され、見出しにもなっている測定地点が「取水口付近」としてくわしく記されていないこ とだった。そのあいまいな「付近」 (取水口から遠く離れた海水であればあるほど汚染濃度は当然低くな るから、 「付近」という測定地点は恣意的なものと考えられる)の測定値を前面に出し、作業用の穴から 海に流出している(つまり測定地点が明確な)540万ベクレルの汚染は、付け足しのように言及して も前面には出していないことが浮き彫りにされた。 わたしがこの記事に注目したのは、メディアによってあまりに見出しの内容が違うからであった。あ るメディアは「濃度限度750万倍」に対して、あるメディアは「1億3500万倍」とあり、いった いどちらを信じたらよいのか、ということから疑問をもったのである。 新聞記事を比較し分析するというこの授業は生徒たちには少し難しすぎたようだ。まず事実そのもの が煩雑であり、その事実確認だけで手一杯だった。しかも比較する通信媒体が5つもあって、煩雑にな ってしまった。 したがってこちらで解説してしまうことが多くて、あまりうまくゆかなかったように思う。とりあえ ず、事実をどのような視点で分析していくことが信憑性の基準となるか、を確認する。いろいろと細か 4 く誤解している生徒がいたので、 「メディア・リテラシー 2の補遺」のプリントを配布してまとめとし た。 4 「メディア・リテラシー 3」 (1時間) 10年前にあった「えひめ丸事件」を扱う。が、はじめは一般的な新聞の見出しの印象の違いから入 る。 1 A(が)Bに衝突(した) 2 A(が)Bと衝突(した) 3 AとB(が)衝突(した) 4 AがBに衝突された などの違い。 このあと、実際の各新聞やHPの見出しの違いの検討に入る。 ◯水産高実習船が米原潜と衝突 ◯高校実習船と米原潜衝突 ◯USSグリーンヴィル、日本漁船に衝突 など。これらの違いを発表させた。また上の1から4のどのパターンに当てはまるかを考えさせた。 さらに、「主語(だれが衝突したのか)」は何か。また「日本漁船」と「高校の実習船」という表記の違 いとそこからの印象の違いなどを発表させた。 また、当時の日本の記事の内容から、疑問を思うことを発表させた。いくつかあったが、原潜側から の原潜の状況報告・コメントがないこと、原潜が遭難者を救助しなかったことなどがあげられた。 さらに、この事件を現在ではどのように伝えているのかをネットを使って調べさせ、現在ではどのよ うに判明しているかを確認させた。たとえば、 「えひめ丸が原潜に衝突された」事件として、ウィキペデ ィア等に記されていることを確認させた。しかし原因については今もなおネットでは明確にされていな いらしいことを確認したあと、米国原潜のホームページ(日本語)で、民間人が「操だ席でかじをとっ ていた」と現在(あっけらかんと?)記されていることも確認させた。 5 メディア・リテラシー 4(1時間) 昨年度にウィキリークスがイラク関係の米軍の機密情報を40万点公開したことが国際的に話題とな った。そのなかに米軍ヘリによるイラク民間人殺害シーンの動画情報があり、そのウィキリークスによ る殺害情報をどう伝えたのかを4つのメディアを使って比較検討させた。一つは米国のテレビ局、一つ は米国の独立系番組、一つはアルジャジーラ、一つは日本のテレビ局。一つの事件をどのように扱うの か、さらにそれをリークしたウィキペディアを(間接的に)どう扱うのか、がメディアによってずいぶ ん変わることを確認させた。たとえば表題の違い、ロゴによる強調、各メディアによる取材対象の違い、 カットされているシーンの確認など。さらに情報へのアプローチの仕方として、より確かなアプローチ の仕方を考えさせた。また、ウィキリークスによる情報開示についても感想を書かせた。 この映像にかかわってメディアによってずいぶん扱い方が違うことが生徒たちに理解できたようだっ た。一つの映像をメディアがどのような立場に立ち、どのような映像に仕立てあげて観せようとしてい 5 るのか、といういわば「メタ映像」の映像を扱ったものとなった。 昨年度(2010年度)も同じ映像を見せたが、昨年度と今年度(2011年度)の生徒たちの反応 の大きな違いは、今年度の生徒たちの中にはウィキリークス代表のアサンジという名前を聞いただけで、 「ああ、あの悪人か」という反応があったことだ。名前を知っているだけでなく、 「悪人」とすでに決め つけていた。 6 メディア・リテラシー 5(1時間) 戦前の女性・子ども雑誌の特集名などを中心に、戦前のプロパガンダがどのようなものであったかを 確認させる。戦争とはもっとも縁がなさそうな当時の主婦雑誌や子ども雑誌に、現在では考えられない ような見出しやロゴがあり、そこから「日常の中の異常」あるいは「異常の中の日常」を考えさせる(予 定)。 〔補足。レポート後に実践したこの授業についての補足します。戦時のプロパガンダに焦点を当てな がら、かえす刀で現在のさまざまな(政治的)プロパガンダについても考えさせたかったのですが、戦 争当時はひどかったのだな、という感想で終わってしまいました。現在の具体的なプロパガンダについ ては、わたし自身、知識も資料も不足していて、十分にこなすことができませんでした。 7 メディア・リテラシー 6(1時間) 立場を変えて、情報を発信する側に立って、あえて意図的に「誇大広告」を造らせる。データを挙げ て商品を勧めるのではなく、イメージで商品を売り込む売り込み方を考えさせる予定。 〔補足。一枚の写真に商品のロゴを入れ、キャッチフレーズなども入れて、印象によって売り込むポス ターをパソコン上でつくらせました。それら完成作品をパソコン上で比較させて、印象深いものを取り 上げさせました。実際のポスターなどを参考に利用し、作り方を分析し、そこから創作したほうがよか ったかなと思います。] 6
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