(64号)を掲載しました。 - 名古屋大学太陽地球環境研究所

February 2013
64
❋ᮨ᭽߆ࠄᄢ᳇ߩ਄ਅ⚿วࠍ⠨߃ࠆ‫ޓ‬гᄢ᳇శࠗࡔ࡯ࠫࡦ᷹ࠣⷰг
鈴木 臣 ( 電磁気圏環境部門 )
った、昔から大気重力波の観測に使われてきた機
大気中は様々な時間・空間スケールの波で満たさ
器に比べて波の水平構造 ( 伝搬方向や波長 ) が簡
れています。大気重力波は、
その大気波動の一種で、
単に分かることです。図 1 は最近の研究成果の一
前線や低気圧、ジェット気流といった天気予報でよ
つで、
日本に設置した4台の大気光カメラ (北から、
く耳にする大気現象 “ 気象 ” によって発生し、下層
陸別、酒田、信楽、佐多 ) で同時に観測された
大気から上空へと伝搬していきます。多くの大気重
2004 年 6 月 13 日の大気重力波です。日本列島を
力波は、高度 100 km 付近の中間圏・下部熱圏まで
覆う規則的な縞模様が高度 85 km 付近で観測され
達したところで崩れて、この領域の風や温度構造を
ました。縞模様の間隔 ( 水平波長 ) は 30 km ほどで、
変化させます。また、一部の波は、さらに上空の熱
北向きに速度約 40 m/s で伝搬する比較的小さなス
圏・電離圏高度まで伝搬して電離圏プラズマ変動
の種になると考えられています。大気重力
波による運動量やエネルギーの輸送の効果
は超高層大気の風や温度のバランスをコン
トロールする主要なメカニズムです。この
ように、私たちの身近で起こる大気現象は、
遥か上空の大気の運動にも大きく関わって
おり、その “ 大気の上下結合 ” を担う大気
重力波は、地球大気の運動を理解する上で
欠かせない現象といえます。
大気の波は普通、目には見えません。空
を見上げても風が見えないのと同じです。
私たちは、超高層大気で光っている弱い光
“ 大気光 ” を利用して、大気の波の可視化
( 大気光イメージング観測 ) をおこなって
います。地上から特定の波長 ( 色 ) の光だ
けをカメラで撮ると大気の波が縞模様とし
て目で見えるようになります。ただし、大
気光はとても弱い光 ( オーロラの数百分の
一から数千分の一以下の明るさ ) なので、
超高感度の CCD が必要となります。大気
の波を可視化する ( 波の写真を撮る ) こと
の一番の利点は、レーダーやライダーとい 図 1: 4 台の大気光カメラで観測された日本上空の大気重力波の縞模様
(2004 年 6 月 13 日)。
1
せん。図 2 に 2002 年 12 月 10 日の例を載せます。
佐多 ( 一番南の画像 ) は曇っていて波は見えませ
んが、陸別 ( 一番北の画像 ) では東西方向の波面
( 北向きに伝搬 ) が、信楽 ( 真ん中の画像 ) では南
北方向の波面 ( 西向きに伝搬 ) が現れました。よ
く見ると陸別と信楽の波面がつながっているよう
に見えませんか?どうやら、日本の南東の太平洋
の一点を中心とする同心円として波が広がってい
るようです。同心円状の大気重力波構造は非常に
観測例が少ないですが、これまでの報告では、同
心円の中心にある対流圏の積乱雲が波の発生源だ
と考えられています。これらの例は、下層大気の
一つの大気現象が超高層大気にどのようにつなが
っているのか ( 超高層大気でどのように見えるの
か ) が端的に表れています。まさに縞模様から大
気の上下結合をはっきりと読み解くことができる
とても面白い例だと言えます。図 2 のイベントは、
図 2: 3 台の大気光カメラで観測された日本上空の大気重
まだ解析中ですが、これまでのイベントと同様に、
力波の縞模様(2002 年 12 月 10 日)
。
同心円の中心に何か局所的な気象の存在が予想で
ケールの波ですが、その水平広がりは 1800 km 以
き、上下結合プロセスのさらなる理解につながる
上もあります。これまでの一点観測では、一様な
のではないかと期待しています。
波がこれほど広く長距離伝搬している様子を観測
超高層大気で観測される大気重力波の状態は、
することができませんでした。このイベントの面
その下の下層大気の気象や大気の状態に大きく影
白いところは、発生源 ( 恐らく赤道域の対流活動 )
響を受けるので、波が地球規模の大気の運動に
のエネルギーや運動量が、遠く離れた場所に運ば
与える影響を考えるためには、多くの場所で観測
れている様子が観測的に捉えられたという点にあ
する必要があります。太陽地球環境研究所では、
ります。赤道対流圏の気象が、こんな小さなスケ
1998 年から大気光カメラの多地点展開を進めて
ールの波を通して、オーロラが光っている高緯度
います。図 3 に太陽地球環境研究所で運用してい
域の電離圏ダイナミクスに作用しているかもしれ
る超高層大気イメージングシステム (OMTI) の観
ません。ただし、観測される縞模様は、日本上空
測網を示します。現在は世界 12 カ所 ( 国内 4 カ所、
のどこでも同じ方向に進んでいるわけではありま
国外 8 カ所 ) の光学観測ステーションがあります。
このようなたくさんの光学機器を持
つ超高層大気観測ネットワークは、
世界でも例がありません。大気重力
波の超高層大気での統計的な振る舞
いについては、観測データが揃いつ
つありますが、一つ一つの波の縞模
様がどこまで伝搬していて、どのよ
うに広がっているのかは、未だによ
く分かっていません。図 1、2 で紹
介したような、より広い視野を同時
にカバーする多地点ネットワーク観
測を生かした中性大気波動の研究は
まだ始まったばかりです。
ところで、図 3 で示した観測サ
イトは、主に日本の経度帯に位置
図 3: 太陽地球環境研究所が運用する超高層大気イメージングシステム(OMTI)の観測網。 しています。アメリカ大陸上空で
2
図 4:(左から順に)Kühlungsborn の IAP に設置された大気光カメラ(魚眼レンズ)
、IAP 建物の外観、Andenes の ALOMAR に設置した
大気光カメラ、飛行機から撮影した Andenes 付近のフィヨルド地形。
月から 2011 年 4 月まで )。キャンペーン中の大気光
画像データのクイックルックはウェッブ上 (http://
stdb2.stelab.nagoya-u.ac.jp/member/shin/archive/midoli/
midoli_main.html) で公開しており、毎日更新され
ます ( 図 5) 。
IAP と ALOMAR では、ライダー ( 光のレーダー )
が稼働しています。大気光観測だけでは、大気波
動の水平構造しか分からないため、波がその下の
大気とどのようにつながっているか ( どのように
波が伝搬してきたか ) 実は観測的にはよく分かっ
ていません。そこで、大気光観測によってヨーロ
ッパにおける大気重力波の統計的な描像を得る研
究と平行して、高度方向の構造を精度良く知るこ
とができるライダー観測を組み合わせた共同観測
を実施することで、大気光で観測される波の鉛直
伝搬の直接的な調査を目指しています。ALOMAR
での同時観測の一例では、大気光で観測された大
気重力波 ( 水平波長約 300 km、
周期 1 時間程度 ) が、
ライダーのデータでも高度 50 km から 95 km に
渡って同じような波として観測されていることが
分かり、大気光で観測された大気重力波の鉛直伝
搬構造を捉えることに成功しています。また、気
象の客観解析データを使った波の伝搬経路の計算
(3 次元レイトレーシング解析 ) から、この波は対
流圏界面付近 ( 高度 10 km) の極渦 ( 北極付近に中
心を持つ大きな低気圧 ) から発生していることが
示唆されました。このイベントも、極域下層大気
の気象が超高層大気の波として現れる大気の上下
結合を示していると考えることができます。
大気波動の全球分布や上下結合過程の解明 ( 例
えば、プラズマ大気変動への影響とそのプロセス
の理解 ) には、未だ観測が不十分ですが、今後の
さらなる観測網の展開と観測技術の発展によって
明らかになっていくことでしょう。目には見えな
い大気の波は、私たちのいる下層大気と宇宙の下
端の大気の運動をつなぐ重要な役割を果たしてい
ます。そんな大気の縞模様が今も皆さんの上を通
過しているのです。
の大気重力波の統計的な解析は、アメリカやブラ
ジルの研究グループによって盛んに行なわれて
おり、南極大陸でも各国の基地で観測が進めら
れています。また、最近では中国やインドでも中
性大気波動の光学イメージング観測が始まってい
ます。その一方で、ヨーロッパ・アフリカの経度
帯では、未だ観測例が少なく、大気重力波の統計
的な振る舞いは謎のままとなっています。大気重
力波の活動分布の経度変化を知るためには、この
観測の空白領域を埋める必要があります。そこ
で、北欧大気光観測キャンペーンとして、ドイ
ツ・Kühlungsborn ( 北緯 54 度、東経 12 度 ) にある
Leibnitz-Institute of Atmospheric Physics ( 以 下 IAP) お
よび、ノルウェー・Andenes ( 北緯 69 度、東経 16
度 ) の Arctic Lidar Observatory for Middle Atmosphere
Research ( 以下 ALOMAR) において大気光カメラ
( 国立極地研究所所有 ) を使った大気重力波観測
を始めました ( 図 4) (IAP では 2010 年 9 月および
2012 年 3 月から現在まで、ALOMARでは 2010 年 10
図 5: 北欧大気光観測キャンペーン中の大気光画像のク
イックルック。キャンペーン中における各波長 (OH バン
ド、557.7-nm,ナトリウム ) について1時間毎の画像とケオ
グラムを公開しています。ALOMR で得られた図中の画像 (a.
22:10:01 UT と b. 23:10:05 UT) には ALOMAR ライダーの 2 本の
ビーム ( 北から天頂に伸びる 2 本の光 ) とオーロラ ( 東西方
向の帯状の明るい構造 ) が確認できます。
3
稼働開始から1年、太陽フレア高速撮像装置
一本 潔 ( 京都大学・理学研究科附属天文台 )
スペース・地球環境に大きな影響を及ぼす太陽フ
レアの研究において、高エネルギー粒子の加速メカ
ニズムは最大の課題の一つと考えられています。太
陽フレアで生成される高エネルギー粒子の診断には、
RHESSI 衛星など硬 X 線での撮像分光観測や、野辺山
電波ヘリオグラフなどの電波観測がありますが、いず
れも空間分解能が十分でないためフレアを構成する
多数の要素構造 ( カーネル ) をみることはできません。
また、高い空間分解能を誇るひので衛星の観測では、
データ量の制約から時間分解能に制限があり、フレア
の爆発的な時間発展をとらえることは難しいのが実情
です。そこで我々は地上望遠鏡の利点を生かし、可視
光でフレアカーネルの時間発展を高速かつ高空間分解
能で撮像することを目的として、平成 23 年度地上ネ
ットワーク観測大型共同研究 ( 重点研究 )( 代表:一本
潔、増田智 ) により、京都大学理学研究科附属飛騨天
文台の太陽磁場活動望遠鏡 (SMART、図 1) に、Hα/ 連
続光撮像装置を製作しました。フレア初期にみられる
多数の輝点 ( 高エネルギー粒子の降下場所 ) の急激な
発達過程を詳細に捉えることにより、コロナにおける
磁気ループの繋がりや粒子加速領域の 3 次元構造、エ
ネルギー解放の連鎖的発展過程、さらにフレアのトリ
ガー機構の解明を目指そうというものです。
この装置は口径 25 cm の望遠鏡に Hα 線 (656 nm) と
連続光 (647 nm) を撮像する 2 台の高速 CCD カメラ
(1600×1200 画素 ) を搭載し、0.22 秒角/ピクセルの空
間サンプリングで 350×260 秒角 2 の視野を毎秒 25 フ
レームの速さで撮像するもので、空間情報と時間分
解能の高さにおいて世界でもユニークな観測装置で
す。連続光画像はとくにエネルギーの高い非熱的粒
図 2:2012 年 7 月 10 日の M1.1 クラスフレア(Hα 画像を処理したもの)
。
子と深い関係があるとされながら、その発光機構が
未だ謎である白色光フレアの研究に用いられると同
時に、地球大気の揺らぎ ( シーイング ) によって劣化
した画像の回復処理にも用いられます。
2011 年 8 月 18 日に迎えたファーストライトの後、し
ばらく装置の調整・手直しを行い、2011 年 11 月から定
常的な観測を開始しました。調整期間中の 2011 年 9 月
には白色光の増光を伴う 2 つの X クラスフレアの観測
に成功しました。9 月 6 日 (UT) のフレア ( 図 1 右下の
挿絵 ) では、小さな(2~3”)白色光の増光が約 25 秒間
と短命であることが分かり、高分解観測の必要性が改
めて認識されました。晴れた日にはその日最も活発な
活動領域に望遠鏡を向け、連続撮像を行いながらフレ
アの発生を待ちかまえます。一日に 7 - 8 TB に及ぶデ
ータは、イベントの起こった時間帯を除いて殆どを消
去しながら観測を続けています。観測の開始から 2012
年 12 月末までの間に、4 個の X クラスフレアを含み C
クラス以上のフレアが約 30 イベント記録されました。
図2は2012年7月10日のフレア (M1.1) を示しています。
シーイングの良いときには、たくさんのフレア輝点が
次々と連鎖的に増光していく様子が見て取れます。現
在いくつかのデータについて、光球磁場、硬 X 線、電波、
EUV 等の観測データと比較解析を進めています。今後
質の良いデータを増やすと共に、電磁流体や高エネル
ギー粒子輸送の数値モデリングと協力して、フレア機
構の総合的研究に取り組んでいきます。
本装置によって得られたデータは、http://www.hida.
kyoto-u.ac.jp/SMART/ から閲覧することができます。
【文献】High Speed Imaging System for Solar Flare Research
at Hida Observatory, T. T. Ishii, T. Kawate, Y. Nakatani, S.
Morita, K. Ichimoto, and S. Masuda, 2012, PASJ, 65-3
図 1:飛騨天文台 SMART 望遠鏡に新設された高速フレア撮像
装置。右下挿絵は2011年9月6日に発生した白色光フレア
(左
が連続光、右が H α画像)
。
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Visiting STEL at Nagoya University
Vafi Doumbia, Visiting Professor
(from Universite Felix Houphouet Boigny de Cocody, Cote d’Ivoire)
From July 1st to September 30, 2012, I visited
Solar Terrestrial Environment Laboratory (STEL),
Nagoya University as visiting professor. The main
purpose of my stay at STEL was to undertake
studies on the relationship between the EEJ and
mid latitude Sq current system. The three months
of my stay have been fully devoted to the 210°
magnetic meridian data analyses for the EEJ study
along this meridian.
Enjoying the delicious “hitsumabushi (three-style-snack-fish)”
with Professor Shiokawa.
This study has been fruitful since it has yielded
to very interesting results. Indeed, we have
analyzed the latitudinal profiles of the horizontal
northward (H), eastward (D) and vertical
downward (Z) components of the Geomagnetic
field diurnal variations. The latitudinal profiles
that include low and mid latitude daily variations
are suitable to address studies of the EEJ as well
as that of the mid latitude Sq current systems. As
a first approach, we have analyzed the diurnal
variation of the D component along with H and
Z components in order to show its possible links
with the EEJ. The latitudinal variations of the three
components clearly exhibit distinct modulations in
the EEJ magnetically influence area. The H and Z
components show respective expected prominent
amplification and anti-symmetric structure near
the dip-equator. As for H and Z, the D component
also shows remarkable latitudinal variations near
the dip equator. In magnetically quiet period
without significant counter electrojet (CEJ) event,
variations of D are westward in the south and
eastward in the north during the morning hours,
the contrary is observed in the afternoon. The
contour map of D suggests meridional current flow
in the EEJ area, which is northward and southward
in the morning, southward and northward in the
afternoon, respectively in south and north. The
vector maps of the resulting equivalent current
associating the EEJ and the meridional currents
show the main eastward EEJ current between -5°
and +5° dip-latitudes, and return current on either
side, with clear southern vortex at about -7.5° diplatitude. A manuscript presenting the results that
have been submitted to Journal of Geophysical
Research (JGR) is currently under review.
Other manuscripts on further interesting results,
especially on special features of the EEJ along
the 210°MM on one hand, and on the interactions
between the EEJ and the mid latitude Sq current
systems on the other hand, are being prepared.
All aspects of this work have been possible
thanks to very active collaboration with Professor
Shiokawa and his staff that included senior
researchers, students and administrative staff. Their
kindness has strongly smoothed my integration in
STEL working teams. My three months’ stay in
Japan was also a wonderful opportunity to interact
with people from diverse cultural background. I
keep very strong souvenirs of the Japanese culture,
by its diversity. These souvenirs were built during
my stay in Nagoya as well as during my 10 days
visit at Kyushu University in Fukuoka.
I particularly enjoyed the Japanese food. I had
already tasted few Japanese specialities like sushi,
sashimi, etc. But it was during my stay in Nagoya
that I really appreciated the diversity of Japanese
food.
5
Collaboration with Colleagues at STEL and Exploring Buddhism
Mahboubeh Asgari-Targhi, Post Doctoral Fellow
(from Harvard-Smithsonian Centre for Astrophysics, USA)
I visited Japan on first of September 2012. I first
heard about the JSPS fellowship from Prof Tetsuya
Watanabe at Sun 360 meeting in Kiel in 2010. After
learning about the JSPS fellowship, I applied for it to
be able to work with Prof. Kusano’s group at STEL
and was fortunate enough to be accepted.
When I arrived in Japan, I was able to live
comfortably on the Nagoya Campus. This provided
easy access to work at STEL. On weekends I visited
many temples in Nagoya. The Buddhist temples
in Japan, their tranquility and the beauty they offer
are incredible. They are certainly my most favorite
places that I have visited while in Japan. I would
visit the Togan-ji temeple, which is in the vicinity of
Nagoya university, almost every day. This provided
me with the opportunity to reflect on research and life
in general. I also visited Kyoto
At a temple in Kyoto with the kindergarten children who
were there meditating.
An important point in any theoretical modeling of the
heating of the corona is that the theoretical results must
be compared with observations. This is what took me
to STEL. In order to understand the plasma dynamics
occurring within these coronal loops, one needs to look
at the observations of the Sun’s internal structure by a
spectrometer. The heating events within the loops result
in continual heating and cooling events that produce
plasma flows. These flows usually appear as Doppler
shifts or line broadening measured by the spectrometer.
My experience of visiting Japan as a research fellow
has been one of the highlights of my academic career.
It has resulted in a collaboration that will hopefully
stretch for many years. I have learned so much about the
culture and history of Japan, one of the most ancient and
beautiful civilizations in the world. I started learning
Japanese before traveling to Japan and I am still using
self-taught courses to improve my Japanese skills.
Using the expertise of Dr Imada from STEL in
spectroscopy, we considered dynamics of corona
loops using the spectra obtained from the Extremeultraviolet Imaging Spectrometer (EIS) on the Hinode
spacecraft.
In my research at Harvard-Smithsonian centre for
Astrophysics (CfA) I worked on coronal heating
problem with Dr A. Van Ballegooijen. The solar
corona is two orders of magnitude hotter than the
underlying photosphere. This has been puzzling
scientists for many decades as they try to identify the
mechanism behind these extreme conditions.
In our research with STEL, which is currently
on going we look at the dynamics of the coronal
loops first by applying our theoretical model and
calculating the heating rates and different parameters
characterizing the loops. Then using the EIS data,
we look for flows within the loops and measure their
speed. We derive the intensities, Doppler shifts and
line widths for each coronal loop. Then our theoretical
results and the observations are compared.
At CfA, we developed a theoretical model looking
at how the dissipation of waves that originate from
the solar photosphere could result in the heating of
the solar corona. We looked at the 3D modeling of
corona loops in an active region and fit magnetic field
lines to the observed coronal loops. For each loop
we constructed a model of Alfven waves near the
selected field line. Based on this model, we predict
the heating along the selected field lines.
We are making steady progress with our work
and are hopeful to present our results in Hinode 7
meeting in 2013 in Japan.
6
Catching ULF waves in the ionosphere
Viacheslav (Slava) Pilipenko, Visiting Professor
(from Space Research Institute, Moscow, Russia)
I was invited to Nagoya University (NU) as a
visiting professor to work in September-December
2012 in the Division led by a young researcher
and my old friend, Kazuo Shiokawa. My research
comprises several topics of physics of ULF (time
scale from fractions of min to several tens of min)
pulsations and interpretation of their observations.
ULF waves are intensively studied with satellite
detectors in the magnetosphere, and magnetometer
arrays - on the ground, but the interface between
the outer space and the atmosphere - ionosphere is
poorly studied to date, though it is the region where
the energy transfer from near-Earth environment
into habitat occurs.
Together with my NU colleagues we analyzed
events with simultaneous occurrence of ULF
periodic oscillations of diverse physical nature (Pc5
and Pi2 pulsations) on the Hokkaido SuperDARN
radar and Kamchatka magnetometers. In fact, these
observations have enabled us to determine the input
impedance of the combined system magnetosphere ionosphere - atmosphere - ground. To interpret these
observations, a theory of MHD interaction with this
multi-layered system has been elaborated within the
thin E-layer approximation. The developed analytical
relationships have been compared with the measured
ratio between the simultaneous ionospheric electric
and ground magnetic fields. This approach turned
out to be very fruitful. In particular, based on these
observations the physical mechanism of low-latitude
Pi2 waves has been revised: in contrast to the
commonly spread understanding, we have shown
that the notion about Pi2 as a cavity mode is not
sufficient and should be augmented by the idea of
coupled magnetosonic and Alfven modes.
Author in the Toyota Automobile Museum.
seismic or internal gravity waves. This technique
has turned out to be unexpectedly sensitive to ULF
waves as well! During periods with intense Pc5
geomagnetic wave activity (with periods about 5
min) very clear pulsations with the same periodicity
were found in the TEC data from high-latitude
GPS receiving stations in Scandinavia and Arctic
Canada. Moreover, the relative amplitude of TEC
periodic fluctuations ΔTEC/TEC was about an
order of magnitude larger than relative amplitude
of geomagnetic variations ΔB/B! So far, the effect
of TEC modulation by Pc5 waves is not well
understood and is still a challenge for the MHD
wave theory.
It is fascinating that the expertise of space physics
can be useful in a completely another field earthquake prediction, namely in developing the
physical basis of electromagnetic methods for
seismic activity monitoring. The high-frequency
acoustic fields produced by the crust micro-cracking
during earthquake preparation are known to modify
the crust fluid dynamics essentially. Laboratory
experiments showed that the acoustic impact on
pore samples destroys a film with bound fluid and
results in a steep increase of its permeability up to
two orders of magnitude. We suggested that the
The most intriguing effect was found while
analyzing the small-scale variations of total electron
content (TEC) derived from global positioning
system (GPS) signals. Earlier, NU professors
Nozomu Nishitani and Yuichi Otsuka demonstrated
that the GPS-TEC technique is a very powerful
method to study the propagation pattern of transient
disturbances in the ionosphere, generated by
7
the scientific community’s response to our ideas.
occurrence of a region with distinct hydrodynamic
and electrokinetic parameters due to acoustic
emission will result in the appearance of anomalous
telluric/magnetic fields on the surface above. This
effect has been estimated analytically using a simple
model with an elliptic-shaped inhomogeneity. To
verify the predicted effect, the same high-sensitivity
magnetometers deployed by STEL for the space
physics applications can be used. If this effect of
possible coupling between acoustic emission and
geoelectrical anomalies is supported experimentally
it might be used in complex earthquake prediction
systems as one of the markers of ongoing crust
destruction process.
I have to confess that I fell in love with Japan and
its people during my first visit many years ago. This
2012 trip has also become one of my brightest recent
experiences: friendly atmosphere, constant readiness
of all the NU staff to help, excellent working and
living conditions. So, for me these four months
were not just a professional visit, but a wonderful
chance to immerse into a world so different from
my own and yet so exciting and welcoming. One
of the reasons of my deep respect for the Japanese
people is that they are a very morally healthy nation.
I have lived for quite some time on all continents
and can compare. In contrast to Russia, USA, or
Europe, people in Japan are ready to do all the jobs,
including hard and dirty jobs, with dignity and
diligence themselves instead of putting them on the
shoulders of the immigrant workforce. If I were a
Buddhist and believed in reincarnation, in my next
life I would like to be born in Japan.
In addition to many internationally acclaimed
professors in space physics, STEL can be proud to
have under its wing so many diligent and promising
students. I was happy to work closely with a bright
young researcher, Mariko Teramoto. We have
submitted two joint papers and are now waiting for
なることを願います。
因みに、
日出乾坤輝の対句は雲収山岳青(く
もおさまりてさんがくあおし)です。太陽が
出て、天地は光り輝き、雲も消え失せ山々が
青々と見える情景を表します。雲は人の悩み
や疑問を示し、太陽が昇るとそれらが晴れ、
様々な物事が輝いて見えるという意味が含ま
れます。輝きとは本来一個人が持っているも
のをを暗示し、雲に隠れて見失いがちな自己
をもう一度見つめなおしなさいよ
とも解釈されます。STE 研に来
て半年、大気中のエアロゾル
の研究を通して、以前より天
気や雲の様子に注目するよう
になり、季節の変化に敏感に
なっていることをふと気付かされ
ます。また、新しい生活・研究の中で、
新たな出会いに助けられ自分を覆う雲をかき
分けて少しずつ成長をしていることを実感す
ることもあります。ご来光は自分の変化を気
付かせてくれるとともに、自分を見失わず引
き続き雲をかき分けていく努力をせよと諭し
てくれたようです。
秀森 丈寛
( 大気圏環境部門:GRENE 研究員 )
今年の初日の出は美しかった。実家のある
三重県志摩半島の大王崎で見たのですが、見
渡す限り水平線の絶好の日の出スポットで
す。夜明け前間近の海と空の境には幾重にも
重なったすじ雲が広がり、朝焼けと雲の影が
映し出すしま模様は今まさに出ようとしてい
る太陽を覆う一帖のベールのようでした。朝
焼けの綺麗な様を表す禅語に、
彩鳳舞丹霄(さ
いほうたんしょうにまう)があります。彩鳳
とは五色の羽毛を持つ鳳凰のこと
で瑞兆を示し、丹霄とは朝焼け
や夕焼けの赤い空を示し、彩
鳳が大空を舞っている天下泰
平の句です。いよいよ、雲の
間からを割って出た光は四方八
方に伸び、あたりを暁光が射し染
めました。太陽と大気が織りなす自然に
圧倒される素敵なご来光でした。初日の出を
示す禅語に日出乾坤輝(ひいでてけんこんか
がやす)という句があります。年が明け、朝
になり太陽が昇って光を放ち始めたので、そ
の光に照らされて天地万物(乾坤)が明るく
輝いてきためでたい様子を表します。少々強
引ですが STE 研らしい太陽と大気に関する二
つの慶句をもって今年 1 年が素晴らしい年に
8
さいえんすトラヴェラー
シベリア SuperDARN レーダーとの共同観測 ・ 共同研究へ向けて
- ロシア・イルクーツク太陽地球系物理学研究所を訪問 -
寺本 万里子
( ジオスペース研究センター・研究機関研究員 )
大型短波 (HF) レーダーネットワークである
Super Dual Auroral Radar Network (SuperDARN) は、
世界 11 ヶ国が協力する、国際プロジェクトです。
SuperDARN によって、1995 年以降、極域を中心
に広範囲で南北両半球の電離圏のプラズマ運動が
モニタリングされています。一方で、ロシア・シ
ベリア領域は、観測空白域になっていましたが、
この領域を観測するために、2012 年より 4 基の
SuperDARN レーダーが試験中・建設中あるいは、
建設準備中です。これらシベリア SuperDARN レ
ーダーと、名古屋大学太陽地球環境研究所が所
バ イ カ ル 湖 を 背 に し た 記 念 撮 影。 後 列 左 か ら、Oinats 博 士、
Kutelev 氏、小川名誉教授、渡辺くん。前列、著者、西谷准教授。
有する SuperDARN 北海道 - 陸別 HF レーダーと
共同観測および共同研究を進めるために、ロシ
ア・イルクーツクにある太陽地球系物理学研究所
(Institute of Solar-Terrestrial Physics, Siberian branch:
SuperDARN radars and THEMIS satellites」という
ISTP SB) を 2012 年 9 月 11 日から 15 日の 5 日間で、
を用いた中緯度の地磁気脈動の研究についての
西谷望准教授、小川忠彦名誉教授、修士 1 年の渡
講演を行いました。講演中には質問やコメント
辺大規君と共に、訪問しました。
をたくさんいただき、非常に有意義な講演にな
ISTP SB では、まず所長室にて、お茶とロシア
りました。
のお菓子を囲みながら、所長と共同研究計画につ
また、研究活動以外では、イルクーツク市街地、
いて話し合いが行われました。重厚感ある椅子に
バイカル湖博物館やバイカル湖見学などを行いま
座り、研究所の所長と話し合うという事態は予想
した。イルクーツクという都市は、日本人にとっ
していないことでしたので、面食らいました。緊
てはあまり馴染みがありませんが、滞在期間中、
張感いっぱいの会合の後は、研究施設の内にある
イルクーツクでたくさんの「日本」を発見するこ
シベリア SuperDARN レーダーのテスト用送受信機
とができました。例えば、日本とイルクーツクは
などを見学しました。ここでは Ekaterinburg レーダ
金沢と姉妹都市提携を結んでいるため、そのシン
ーの、試験運用期間 (2012 年 2 月 28 日と 29 日 ) の
ボルとして、金沢通りという通りが市内にありま
観測データを、実際に見ることができました。滞
した。「金沢通り」の看板は、崩れたフォントの
在期間中は、Oleg Berngardt 博士、Alexey Oinats 博士、
日本語と、ロシア語の両方で表記されていました。
Konstantin Kutelev 氏を始めとする、ISTP SB の研究
また、バイカル湖博物館ではバイカル湖周辺の地
員と、次々と顔を合わせ、彼らの研究に関する議
震活動に関する展示コーナーで、日本で起きた地
論を行いました。
震に関する展示もされていました。生態系が豊か
滞 在 3 日 目 に は、SuperDARN 北 海 道 - 陸 別
なバイカル湖では色々な種類の魚が豊富にとれる
HF レーダーの観測データを用いた各自の研究
ため、様々な魚料理が食卓に並びます。滞在期間
について、30 分程度の講演を行いました。私達
中は食事に飽きることがありませんでした。仁川
の講演を聞きに、50 人程度の研究者が集まりま
経由での乗り継ぎを含めると、片道九時間弱かか
し た。 私 は、「Propagating Pi2 pulsations observed
near the nightside plasmapause by the Asian-Oceanian
る長旅でしたが、非常に有意義な 5 日間になりま
タイトルで、SuperDARN レーダーと衛星の観測
した。
9
陸別 ( 北海道 ) と垂水 ( 鹿児島 ) での広報活動
広報委員会 塩川 和夫
陸別小・中学校で出前授業
本 年 度 の 出 前 授 業 が、2012 年 11 月 16 日、
北海道足寄郡陸別町の陸別小学校と陸別中学校
で開催されました。本年度から陸別町・名古屋
大学・北海道大学・北見工業大学・国立環境研
究所・ 国立極地研究所の 6 機関による陸別町社
会連携協議会の開催として、より広範なテーマ
がカバーされるようになっています。当研究所
はこの協議会の世話役として、この出前授業の
企画・推進を陸別町と協力して行いました。今
回は、スタンフォード大学のスバルガード博士
による地球と太陽についてのお話、国立極地研
究所の辻本恵博士による外来種のお話、北海道
大学の 6 名の大学院生による分光器を作る実
験、の 3 本立てで行われました。小学校・中学
校の子ども達が、太陽が地球の環境とどう関わ
っているかや、サルやタンポポなど身近なもの
における外来種と在来種の闘いと生態系の関係
に関する授業を受けたり、CD-ROM の破片を
使って分光器を作り、蛍光灯と太陽の光の分光
スペクトルの違いをみる実験を行ったりしまし
た。各講師のわかりやすく興味深いお話によっ
て、理科に対する子ども達の興味を引きだすこ
とができました。
上:スバルガード博士出前授業。
中:辻本博士出前授業。
下:北海道大学の学生による分光器の製作実験。
銀河の森天文台で「驚き!おもしろ科学実験」
名古屋大学太陽地球環境研究所、北海道大
学大学院理学研究院、りくべつ宇宙地球科学
館 ( 銀河の森天文台:足寄郡陸別町 ) により、
2012 年 11 月 17 日 ( 土 ) に「驚き!おもしろ科
学実験」というイベントを開催しました。子
どもにも参加しやすい実験を見せる、という
テーマで行われ、会場となった銀河の森天文
台 1 階では、工夫を凝らした様々なブースが
並びました。
「わぁ!本当に凍っちゃったよ!」(「液体窒素でいろい
ろなものを凍らせてみよう」の実験で)。
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実験ブースの内容は次の通りです。
・マシュマロと電子レンジで光の速度を測ろう
・地磁気をはかる-磁力計の実験
・宇宙線を目で見てみよう-霧箱実験
・液体窒素でいろいろなものを凍らせてみよう
・静電気の実験
・大気圧を感じてみよう
・分光器を作ってみよう
・プラネタリウムコーナー
・昼間の星を見てみよう-望遠鏡観望
本イベントでは、宣伝のために 2 万枚のチラ
シを作成して、陸別周辺の小学校から高校に配
布しました。その結果、当日はあいにくの悪天
候にもかかわらず、親子で参加した方々を中心
として 138 人のもの参加がありました。科学実
験を目の前で見ることや実際に体験することが
でき、会場ではあちこちから驚きの声が上がっ
上:「マシュマロと電子レンジで!?」スバルガード博士
の実験を覗き込む参加者ら。(「マシュマロと電子レン
ジで光の速度を測ろう」)
下:
「へぇ~、タイキアツってこんな感じなんだね。」(「大
気圧を感じてみよう」)
ていました。
鹿児島県垂水市の「青少年のための科学の祭
典」に参加
2012 年 12 月 1 日 ( 土 ) 、当研究所の鹿児島
観測所がある鹿児島県垂水市のキララドームた
るみずで開催された「青少年のための科学の祭
典」に参加しました。「発見・体験・科学の不
思議?」というテーマで開催されたこのイベン
トには、実験や工作を体験することで科学の不
思議や楽しさに触れてもうらおうと、25 の展
示ブースが出展し、小中学生を中心とした参加
者らでにぎわいました。当研究所の展示は「地
磁気をはかろう」というタイトルで行い、地磁
気の変化を調べる磁力計を使った簡単な実験を
しました。また、当研究所が作成している鹿児
島観測所のパンフレット、50 のなぜシリーズ、
マンガシリーズの配布をし、好評でした。当日
このイベントへは全体で 720 名の参加者があ
り、会場は科学実験を楽しむ子どもたちの歓声
上:「地磁気をはかろう」のブースでの実験。
下: 展示説明と資料配付。
であふれていました。
11
退職にあたって
コンピュータシミュレーションと共に 37 年
荻野 瀧樹 ( ジオスペース研究センター )
1976 年に名古屋大学工学部助手を経て 1978 年に
空電研究所助手として研究生活を始めて 37 年、私
の研究はコンピュータおよびその利用環境の進歩と
共にあったといえます。大学院生時代も、武田研究
室の他の学生がプラズマ実験を行っていたのに対し
てコンピュータシミュレーションによるプラズマ波
動の非線形現象の研究を行いました。助手になって
広島大学の西川恭治先生から外国の核融合研究者が
興味を持っている研究課題を選ぶようにと勧めら
れ、プラズマ研究所の上村鉄男先生達と協力してト
ロイダルプラズマの MHD ( 電磁流体力学 ) 不安定の
研究に着手し、3 次元 MHD モデルによるトカマク
の崩壊不安定性のシミュレーションを行いました。
1977 年にイタリアのトリエステで開催された国
際プラズマシミュレーション学校とキエフ国際会
議に参加するために初めて海外に行き、初めてだ
ったこともあって大変感銘を受けました。ソ連の
Kadomtsev 博士が校長先生でしたが、副校長の米国
の理論家 Rosenbluth 先生が星条旗のネクタイをし
てシミュレーションの講演をされました。その講演
は米国プリンストン大学のチームが世界最初のスパ
コン CRAY-1 を用いてトカマクの崩壊不安定性を
調べた結果の発表でした。米国でトカマクのシミュ
レーションを行っていた研究者の名前はよく知って
いましたが、シミュレーションの実行とは全く関係
のなさそうな理論大家の Rosenbluth 先生がまとめ
の成果発表を行ったのには全く驚きでした。同じ内
容のシミュレーション研究を、英国、ソ連、日本で
行っていました。私は、米国のスパコンを用いた計
算がどれくらいの計算量か大体の検討はつき、同じ
計算を当時の日本の計算機富士通 M200 クラスで実
施するのは到底不可能だと思いました。米国の研究
者からは1つのパラメータ当たり CRAY-1 で約 300
時間、全体で 3000 時間の CPU Time を要したと聞
きました。私たちも、日本の計算機で精度は不十分
なものの似た結果は出していました。
同国際会議で米国のシミュレーション研究者にも
う一つ大きな衝撃が走っていることを知りました。
それは、ロスアラモス国立研究所で長年行われてい
た内部プラズマ電流でプラズマを閉じ込めるトロイ
ダルプラズマピンチ実験で、プロジェクトは終了し
一家離散になるというニュースでした。そのプロセ
スには Brackbill 博士の MHD モデル ( プラズマと真
空と壁を扱える ) が決定的だったそうです。トロイ
ダルプラズマピンチは、バンバン制御と言われてプ
ラズマが漏れ出そうとする時、外側に流れる電流を
強めて磁気圧を高め、動的制御を行うものでした。
まず、従来理論通り制御できなかったのはプラズマ
をシャープ境界として扱っていたためで、シミュレ
ーションではそれをディフューズ境界として扱えて
外部電流が 2 倍必要なことを示し、シミュレーショ
ンと実験がよく対応することが分かりました。更に、
内部電流を強めて高温高密度プラズマを作ろうとす
ると新たな交換型不安定が発生してプラズマを安定
に閉じ込めることは不可能だともシミュレーション
は示したそうです。
その後、空電研究所に移って、佐尾教授の研究
室で ELF 帯空電による雷発生源の検出の研究に加
わり、1978 年に米国フェルミ国立加速器研究所で
反陽子の電子冷却研究を行う機会を得ました。こ
れは陽子ー反陽子衝突実験を行うために反陽子の
温度を電子で下げるための研究でした。与えられ
豊川市内の食堂で、左から El-Alaoui 博士、筆者、Opgenoorth 博士、Troshichev 博士、Sergeev 博士、
Walker 博士、Bargatze 博士、Ahn 博士。
12
ンが 2 年目から研究代表者の申請ミスからほとんど
使えなくなることでした。それで私はスパコンが
使えないなら日本に帰ると言い、上司からは論文
を書くまで返さないと言われました。結局は UCLA
物理学科の Dawson 教授に代表者となってもらい、
申請書を自分で書き、NCAR のスパコン利用申請
が採択されてスパコンの利用が可能になりました。
その時、計算機利用時間はどれだけほしいかと聞
かれ、その 2 倍を申請するように助言されてそう
したら全部認められました。Dawson 先生の知名度
があったと思いますが、NCAR の戦略課題以外で
は最大の承認計算時間だと周りの人がみんな驚い
ていましたが、まったく幸運でした。
こ う し て、UCLA/IGPP の Ashour-Abdalla 教 授、
Walker 博 士 な ど と 協 力 し て 地 球 磁 気 圏 の 3 次 元
MHD シミュレーション研究を進め、さらに太陽地
球環境研究所の大学院生と協力して惑星電磁圏の 3
次元 MHD シミュレーションにも発展させました。
この間、研究所や周りの人の協力のもとに、最先端
の IT 技術の利活用、高速ネットワークの導入、広
域分散ファイル Gfarm の利用、3 次元可視化など熱
意をもって研究に従事することができました。一緒
に仕事をすることのできた研究者と学生の方々およ
び支援して頂いた技術職員と秘書・事務の方々には
大変感謝しています。さらに、コンピュータ、シミ
ュレーション、先端的 IT 基盤の進歩を予想するこ
とは難しいですが、若い研究者と学生のこれからの
挑戦と熱意に期待します。
た課題は解決しましたが、米国での研究は理論と
いえども本当に真剣勝負だと実感しました。フェ
ルミ国立加速器研究所からの帰途に UCLA 物理学
科の Dawson 教授を訪問して、Leboeuf 博士から 2
次元 MHD 粒子モデルによる地球磁気圏の MHD シ
ミュレーション結果を見せてもらいました。この
時、これは自分でもできると思いました。それが、
太陽風と地球磁気圏相互作用の 3 次元 MHD シミュ
レーションを始めたきっかけでした。帰国後、私
なりに地球磁気圏 MHD シミュレーションを推進し
ましたが、米国のスパコンは夢としてではなく是
非とも使ってみたいと思っていました。当時の日
本のコンピュータの 5 - 10 倍高速計算ができると
予測できたからです。
そ の よ う な 折、 米 国 UCLA 地 球 惑 星 物 理 研 究
所で地球磁気圏のシミュレーションを行う客員研
究員の話があり、1983 年から同研究所の AshourAbdalla 教授の下で太陽風地球磁気圏相互作用の 3
次元 MHD シミュレーションを Los Alamos 国立研
究所の CRAY-1 などで実行することになりました。
当時のネットワーク経由のスパコン利用環境は非
常に悪く、また UCLA からの宇宙科学分野の利用
者は教員も学生もほとんどいない状況でした。そこ
でマニュアルを読んで全部自分で始めました。もち
ろん、研究所のコンピュータの責任者 Cline 氏には
全面的に協力してもらえました。スパコン CRAY-1
が自由に使えるのが最大の魅力でした。1 年経過時
に重大問題が発生しました。Los Alamos のスパコ
STEL ニュースダイジェスト
太陽フレアの発生原因となる磁場構造を解明
当研究所総合解析部門の草野完也教授を中心
とする研究チームは、太陽表面に 2 種類の特殊
な磁場構造が現れるときに太陽フレアが発生す
ることを、そのメカニズムと共に初めて明らか
にしました。「地球シミュレータ」による詳細な
計算機シミュレーションと太陽観測衛星「ひの
で」による観測データの精密解析を通して突き
止めたもので、今まで困難であった巨大フレア
の発生条件の解明や、フレア発生予測の実現に
大きな貢献をするとして注目されています。
Solar Physics with Radio Observations 国際会議の参加者ら。
で講演・議論が行われました。また、太陽電波
観測の将来についてもパネルディスカッション
が行われました。参加者は国内 31 名、海外 10
ヶ国から 32 名の計 63 名でした。
太陽活動度と太陽極磁場反転の関係を解明
当研究所元所長の上出洋介・名古屋大学名誉教
授とスタンフォード大学の Leif Svalgaard 博士は、
太陽南北半球における黒点活動とそれぞれの半球
における太陽極域磁場反転のずれ (1 - 2 年 ) の間
に関係があることを突き止めました。これは太陽
周期活動のメカニズムを探る上に決定的な必要条
件を与えると共に、今後の太陽活動変動を予測す
るためにも重要であると考えられます。
太陽電波に関する国際会議開催
2012 年 11 月 20 日 - 23 日 に 名 古 屋 大 学 シ
ンポジオンホールにて、当研究所、国立天文
台、京都大学の主催で国際シンポジウム「Solar
Physics with Radio Observations」が開催されまし
た。シンポジウムでは、太陽電波観測に基づく
太陽研究についてさまざまなテーマ ( 太陽フレ
ア、黒点、宇宙天気、太陽活動長期変動など )
13
退職あいさつ 全学技術センター 加藤
泰男
どトラブルも多く発生したものの、その後の改
良のための基礎データを得られたと思っていま
す。5 年後にも再度お声がかかり、太陽活動極
大期の見事なオーロラを見て、21 世紀の幕開け
を南極で迎えるという幸運にも恵まれました。
2006 年に STE 研が豊川から東山に移転し、
私も 2 年後に名古屋に移りましたが、定年を豊
川キャンパスでと思っていた矢先の大事件で、
私にとっては大変な出来事でした。
長い様で短い 42 年間でしたが、何もわから
ない高校卒の 18 歳がここまでやってこられた
のも、気長に見守って頂いた諸先輩方のおかげ
と感謝しています。本当に長い間ありがとうご
ざいました。
昭和 46 年、当時の名古屋大学空電研究所に
お世話になって以来、実に 42 年間という技術
職員の職に一区切りをつける時となりました。
就職して間もない頃、世間知らずの極みから、
安月給を嘆く当時の部門主任(教授)に「好き
な仕事ができるのだから給料など二の次」など
と暴言を吐いて苦笑い ( 本当は呆れてコメント
も出なかった? ) をされた事を思い出します。
観測や機器の設置でいろいろな経験をさせて
もらいましたが、中でも二度の南極越冬が鮮明
に記憶に残っています。1994 年、昭和基地に極
地研究所が初めて設置する大型短波レーダー建
設のため第 36 次越冬隊に宙空担当として参加
しました。1 年間の運用ではアンテナの破損な
異 動
【外国人研究員】
2012.10.1 - 2013.3.31 客員教授
Vekstein, Grigory ( マンチェスター大学上席
研究フェロー )
【研究員】
2012.10.9 採用
李 星恩 ( 電磁気圏環境 )
【COE 研究アシスタント】
2012.9.30 退職
李 星恩 ( 電磁気圏環境 )
【研究アシスタント】
2013.1.1 採用
宮道 光平 ( 大気圏環境 )
石黒 恵介 ( 電磁気圏環境 )
瀧谷 寛樹 ( 太陽圏環境 )
佐々井 義矩 ( 太陽圏環境 )
日高 直哉 ( 太陽圏環境 )
松林 恵理 ( 太陽圏環境 )
牧野 友耶 ( 太陽圏環境 )
鈴木 麻未 ( 太陽圏環境 )
松下 敏法 ( 総合解析 )
伴場 由美 ( 総合解析 )
宿谷 大志 ( 総合解析 )
小山 響平 ( 総合解析 )
松永 和成 ( 総合解析 )
受賞
大塚
電磁気圏環境部門:准教授 )
大塚 雄一 (
雄一 (電磁気圏環境部門:准教授)
2012
年
10
月:2011
Radio
2012 年 10 月: 2011 Editors’
Editors’Citations
Citationsfor
forExcellence
ExcellenceininRefereeing,
Refereeing,
Radio
Science/American
Geophysical
Union
Science/American Geophysical Union
梅田
ジオスペース研究センター:助教 )
梅田 隆行
隆行 ((ジオスペース研究センター:助教)
2012 年 10 月:大林奨励賞 / 地球電磁気・地球惑星圏学会
2012 年 10 月:大林奨励賞/地球電磁気・地球惑星圏学会
「計算機シミュレーション手法の開発とその宇宙プラズマ現象への応用」
「計算機シミュレーション手法の開発とその宇宙プラズマ現象への応用」
宮道 光平 ( 大気圏環境部門・博士前期課程 1 年 )
宮道 光平
2012
年 11(大気圏環境部門・博士前期課程
月:若手ベストポスター賞 / 第118年)
回大気化学討論会
2012
年 11 月:若手ベストポスター賞/第 18 回大気化学討論会
「気球観測による対流圏および成層圏の二酸化炭素とオゾンの鉛直分布」
「気球観測による対流圏および成層圏の二酸化炭素とオゾンの鉛直分布」
寺本 万里子 ( ジオスペース研究センター:研究機関研究員 )
寺本 万里子
(ジオスペース研究センター:研究機関研究員)
2012
年 12 月:井上研究奨励賞
/ 井上科学振興財団
2012
年 12 月:井上研究奨励賞/井上科学振興財団
「極軌道および赤道軌道衛星の複数点同時観測による内部磁気圏
Pi2 地
「極軌道および赤道軌道衛星の複数点同時観測による内部磁気圏 Pi2 地
磁気脈動についての研究」
写真上から:梅田、宮道、寺本
磁気脈動についての研究」
写真上から:梅田、宮道、寺本
編集:名古屋大学太陽地球環境研究所 出版編集委員会 〒 464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町 F3-3(250) TEL 052-747-6306 FAX 052-747-6313
STEL Newsletter バックナンバー掲載アドレス:http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/doc/news_book_j.html
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