5.プラズマ科学における高ベータ自己組織化プラズマ

J. Plasma Fusion Res. Vol.84, No.11 (2008)8
12‐814
小特集
ITER 時代における大学の革新的閉じ込め概念研究のあり方
5.プラズマ科学における高ベータ自己組織化プラズマ
5.
2 プラズマ基礎科学への展開
5.
2.
2 ダイナモとリコネクションの研究
BROWN Michael
Swarthmore College, USA
(原稿受付:2
0
0
8年9月3
0日)
スフェロマックでは,プラズマには最低エネルギー状態に向かう時間発展すなわち緩和過程が生じる.この
ため,スフェロマックはダイナモや磁気リコネクションなどのプラズマ基礎過程を研究するのに有利なプラズマ
閉じ込め磁場配位である.ダイナモは流れや乱流などのプラズマの運動エネルギーを磁気エネルギーに変換する
過程であり,磁気リコネクションはその逆,すなわち磁場に蓄えられたエネルギーが流れや乱流,そして最終的
には加熱という形でプラズマの運動エネルギーに急速に変換される過程である.緩和過程の間にスフェロマック
配位でダイナモの研究が可能である.完全緩和したスフェロマックは自由エネルギーが最低の基本的なプラズマ
状態にあり,3次元リコネクション研究にはこの配位が有利である.ダイナモ,リコネクションとも MHD で記述
できるが,ここ数年の間に,実験における観測結果を理解するためには2流体モデルで現象を記述することの必
要性が明らかになってきた.ITER 時代におけるダイナモとリコネクションの研究は物理現象を2流体モデルあ
るいは完全な粒子モデルで記述することに焦点をあてることになるだろう.本節ではスフェロマックにおいてリ
コネクションとダイナモが果たす役割を議論する.
Keywords:
magnetic reconnection, spheromak, merging, dynamo, two-fluid MHD
うまで,層の幅 "は狭くなる.リコネクション層が薄いの
5.
2.
2.
1 リコネクション
磁気リコネクション[1]は磁化プラズマ中の一部の領域
で磁束とプラズマの外向きの流れが制限され,したがって
で,互いに逆向きになった磁束が急激に消滅する過程であ
MHD による予測ではリコネクション率は非常に小さくな
る.局所的に磁束が消滅すると,系全体にわたる巨視的な
る.リコネクション層の幅とリコネクション率はともに
磁力線トポロジーの再配分やプラズマの流速,さらには強
!!"!#の依存性をもち,!の増加とともに小さくなる.ここ
力な加熱が生じる.自然界では互いに逆向きの磁場をもっ
で !"#!"%%
$は Lundquist 数であり,%はリコネクション
た磁気流体の一部分が合体するときにリコネクションが発
が起こる領域の巨視的なスケール,$は導電率である.小
生する[2].強い電流シートが合体部分の境界面に発生す
さい実験室プラズマにおいても Lundquist 数は非常に大き
る.磁束が消滅してプラズマが加熱されるのはこの境界層
く(!#"!$),太陽コロナのように大きなプラズマにおいて
である.
は !#"!"# となる.
スフェロマックは最も単純な3次元構造の磁束とヘリシ
より詳しい2流体モデルに基づくリコネクションの記述
ティをもった磁化プラズマの塊である.宇宙物理学者や太
では,一般化されたオームの法則にホール項が含まれ
陽物理学者は太陽コロナや太陽風の研究において,スフェ
る.2流体モデルによる記述ではリコネクション層の幅は
ロマックに類似のフォースフリー配位の考え方に大いに助
MHD モデルの場合 よ り も 広 く な っ て イ オ ン の 慣 性 長
けられてきた.スフェロマック配位は実験室で比較的簡単
("$"#!
%'&)のスケールとなり,リコネクション率も大きく
に生成することができる.実際,プラズマガン,フラック
なる.スフェロマックの合体実験における最近の測定で
スコア,Z ピンチなどいくつかの生成法が適用され,いず
は,リコネクションが起こるときには抵抗項よりもホール
れの場合にもスフェロマック配位が実現されている.
項が支配的になることが示されている
[3].この2流体モ
Sweet と Parker によるリコネクションの MHD モデル
デルはさらに,リコネクション電流がリコネクションゾー
[1]では,有限の導電率 $のためにリコネクション層内で
ン内の非常に薄い層の中で電子流体によって運ばれること
生じるオーミック散逸が,この層に流入する対流と釣り合
を予測する.電子流体に凍結した磁力線は四重極磁場のパ
5.2.2 Dynamo and Reconnection Research
BROWN Michael
author’s e-mail: [email protected]
812
!2008 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Special Topic Article
5.2.2 Dynamo and Reconnection Research
M. Brown
ターンで外部に吐き出される.
太陽表面,太陽風の内部,宇宙ジェットなど自然界では
磁気リコネクションは頻繁に起こっている[4].たとえば,
磁気リコネクションの特にクリヤーな徴候が,太陽風のプ
ラズマと地球磁気圏のプラズマが合体する地球磁気圏尾部
において,POLAR 衛 星 に よ り 測 定 さ れ た
[5].POLAR
衛星はリコネクション層を通過する28秒の間に,リコネク
ションを起こしている磁場(!&!""!!)$)の信号に加え
て,MHD モデルでは予測されない,平面から外れた四重
極磁場の2つのローブの信号を得た.2つのローブは約
#
#だけ離れており,リコネクション層の幅(厚さ)は2流
#
図1
Swarthmore Spheromak Experiment
(SSX)
装置.スフェ
ロマックは磁化プラズマガンで装置の両側に生成される.
ヘリシティが逆符号(カウンターヘリシティ)のスフェロ
マック合体では中央面でリコネクションを駆動し巨視的な
磁気構造を形成する.計測器は磁気プローブ(配置は図に
示すとおり)
,分光器,静電プローブを含む.
図2
SSX の3次元四重極磁場構造.高分解3次元磁気プローブ
アレイ(ベクトル B を2
0
0箇所で同時に測る)のデータを2
次元平面に投影した(xz)平面におけるリコネクション磁場
と,面の外にある四重極磁場を示す.2流体理論の予測ど
おり構造はイオンの慣性長程度(#i=2 cm)である.
体モデルの予測どおりイオン慣性長のスケールであった.
Swarthmore Spheromak Experiment(SSX)では,実験
室でこの観測結果を確認するためにスフェロマックの合体
実験が行われた.SSX の概念図を図1に示す.無力配位の
スフェロマックが合体して起こるリコネクションの3次元
構造を,5×5×8のグリッド状に配置された6
00個の磁
気プローブでマッピングし,200点でベクトル !の時間発
展を決定した
[6].SSX のプラズマは密度が %%∼1020 m−3,
温度は "'#"%∼20 eV である.イオンの慣性長とリコネク
ション層の厚さ(幅)は約 2 cm,イオンの平均自由行程は
約 10 cm であり,典型的な磁場は 0.1 T である.宇宙空間の
測定(実験)では衛星の軌道に沿った構造を数個のプロー
ブで測定できるだけであるが,実験室実験ではリコネク
ション構造を多点で同時に測定できる.
SSX の実験では四重極構造の全体を観測することができ
た.それぞれのプローブは約 #
#
#だけ離して設置した.(図
2)
.リコネクション層の測定も行われ,2流体モデルの予
測どおりイオンの慣性長程度であった.実験の鍵となった
のは完全に緩和したスフェロマックプラズマを,真空磁場
のない,中性粒子を無視できる超高真空中で合体させたこ
とである.
類似の実験が MRX 装置でも行なわれた
[7].この実験で
は四重極や速いリコネクション率などの2流体効果が衝突
率の低下とともに顕著になることが示された.合体するプ
ラズマは完全に緩和した3次元構造をもつスフェロマック
ではなく,準2次元的なプラズモイドであった.9
0チャン
ネルの2次元磁気プローブアレイに加えて7
1チャンネルと
るのに利用される.運動学的にはダイナモは磁束管の伸張
29チャンネルの1次元アレイが用いられた.この実験で鍵
−ねじれ−折り重ねである.閉じた磁束管が流れによって
となる観測結果は,平面からはずれた四重極磁場は低衝突
伸び,絡みついて自分自身の上に折り重ねられ,磁束が増
率領域(リコネクション幅 #!$(&*)で最大となるが,衝突
幅される.プラズマのダイナモ実験では原因とその結果を
率が大きくなると(#"$(&*)消失することである.無衝突
切り分けることが重要である.モーターを例にとるとわか
プラズマでは2流体効果あるいはホール効果が効いている
るように,電磁場がプラズマの運動を駆動することは可能
ことは明らかである.
である.速度場と磁場が相関をもつことも可能であるが,
ダイナモの特徴はプラズマの自由な運動が磁場を成長させ
5.
2.
2.
2 ダイナモ
ることである.
MHD ダイナモの考え方の本質は,磁場の中を運動する
1990年代のはじめに MHD ダイナモの実験が SPHEX 装
導電性流体が電流をつくることである
[8].もしその電流
置で行なわれた[9].SPHEX スフェロマックの運転領域は
がすでにある磁場と同じ向きの磁場をつくれば磁束が増幅
密度 %∼4×1019 m−3,!∼0.1 T,"%∼20 eV であった.こ
される.電流を流す起電力の源は,互いに相関をもった流
のパラメータでは平均自由行程が装置サイズよりも短くな
体の速度の揺らぎと磁場の揺らぎである.ダイナモ機構は
る($!$
)ので衝突領域である.SPHEX グループはスフェ
太陽や惑星に存在する長寿命の巨視的な磁場構造を説明す
ロマックに2つのタイプ の MHD ダイナモを見出した.
813
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.11 November 2008
#!!%の起電力項に対して巨視的なスケールの運動が寄
$
"
"と !
与するシングルモードダイナモと,相関をもった #
る.現在のスフェロマックの合体実験では衝突の平均自由
の揺動がダイナモ起電力を発生する乱流ダイナモである.
い.イオンと電子の平均自由行程が装置サイズよりも長く
SPHEX グループが発見したのは,乱流ダイナモ起電力が
なって2流体効果がより顕著になると期待される高温低密
磁気軸上のトロイダル電流を駆動するのに必要な起電力と
度でスフェロマックの合体の研究を行うことは大変興味深
同程度になるということである.シングルモードダイナモ
い.太陽や地球磁気圏におけるリコネクションではプラズ
は,外部誘導電場と逆向きの起電力を生じる「反ダイナモ」
マは無衝突であり,2流体効果を考慮しなければならない
である.この研究領域でもっと詳細な研究,特にダイナモ
ことは明らかだと思われる.
行程は装置サイズと同程度であるが,慣性長はずっと短
の原因とその結果を切り分けることができればよかったと
【翻訳:政宗貞男】
思う.
参考文献
もっと最近の実験では,MST RFP(RFP とスフェロマッ
クは磁場配位が似ている)において,2流体あるいはホー
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V. Mirnov, S.C. Prager, J.S. Sarff and V. Svidzinski, Phys.
Rev. Lett. 93, 045002 (2004).
ルダイナモの測定がなされている[10,
11].MST RFP は無
衝突領域(密度∼1019 m−3,温度∼300 eV,!#!
)で運転さ
れているので,2流体効果の役割を観測しやすいと思われ
る.この実験の場合,起電力の源は,相関をもった電流と
"
"の測定には多チャン
"%である.磁場揺動 !
磁場の揺動$
"
!!
ネル FIR 干渉−ファラデー回転計が用いられている.隣接
"の線積分測定結果とアンペールの法則
するコード間の !
を用いて電流密度の揺動を導出している.MST グループ
はホールダイナモによる平均磁場方向の起電力が ""!
モードの共鳴面近傍で大きくなることを見出してる.ホー
ルダイナモ項は緩和において電流密度分布を平坦化するの
に主要な貢献をしている.この種の測定はスフェロマック
ではなされていない.ただし,SSX の測定では,一般化さ
れオームの法則の各項でホールダイナモの項が抵抗の項よ
りも大きくなることが示されている.
5.
2.
2.
3 ITER 時代における将来の研究方向
これからの10年間,スフェロマック研究の重要な役割は
磁気リコネクションとダイナモの物理の理解をさらに進め
ることであるが,無衝突領域の,より小さい空間的,時間
的スケールに向かう.これらの現象における電子とイオン
の慣性長が重要であることを,我々は理解しはじめてい
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