ジャズバンド組織

ジャズバンド組織
いよいよ実行に移す時が来た、と感じた。私は戸建事業部内の
4人の部長と常務を呼び、組織改革の必要性を説いた。
「今の組織、すなわち営業、工事、設計と言う縦割り方は、自分
達からのみ見た所謂得手勝手な組織である。例えば、お客様が工
事の進行状況について知りたいと思って会社に電話してこられ
たとしよう。運悪く工事担当者が留守で設計担当者しかいなくて、
『大変申し訳ありません、工事担当者はただ今留守をしています。
帰りましたら電話させます』と言うだろう。それが当たり前にな
っているところが怖いのである。そうではなくて『工事の○○は
ただ今外出しております。○○時頃には帰社の予定ですが、私で
分かる範囲内のことでしたら代わってお伺いします』と言う組織
にしたいのだ。つまり営業、工事、設計を一緒にした小集団を作
るのである。そしてチームでお客様に対応するのだ。お客様本位
の組織にしたいのだ。当然効率は悪くなるだろう、生産性は落ち
るであろう、でも今からは効率を求める時代ではないと思うのだ。
効率よりは CSである」と私は言い、10月1日に行うと伝え、
その名称をジャズバンド組織と命名した。
先ず彼らにジャズバンド組織(以下JB組織と呼ぶ)のバンド
マスター、即ちチームリーダーに相応しい人物を期日をきって推
薦させた。彼らは5∼6 名しか推薦してこなかった。私は、
「これはどう云う事?たったこれだけしかいない訳?お前達の
信頼できる部下は。よくそれで部長やなどと大きな顔しているな
あ。私は少なくともお前達に7∼8割任してるつもりやで。そう
と違うか」おそらくもっと口汚く叱ると言うよりは罵ったと記憶
している。もう1週間時間を与えるから、推薦をしなおしてくる
ように伝えた。その1週間後、出てきた名簿は15∼16名だっ
た。私は満足げに『これくらいは出てこないと』と言った。199
8年5月の事だった。
6月初めの方針発表会の終了後、戸建事業部全員を残し、しか
る後各部長と推薦を受けた者をその場から退場させた。残った者
に、各部長達と推薦された人達の名前を記した書類を配布し、
「ここに名前が書いてある人と是非一緒に仕事がしたいと思わ
れる方は、名前の下に( )がありますが、そこに○を付けて下さ
い。但し、3つ付けて下さい。多くても少なくてもだめです」と言
った。つまり部下に上司を選択させたのである。すぐ集計し、○が
5つ以上ついているものを選ぶと、13人になった。こうして JB
組織のバンドマスターは決まった。
それから約1ヶ月ほどたって、13人のバンドマスターを集め、
「お盆休み明けまで君達に時を上げよう。その間に以下のことを
考えておくように」と伝えた。拠点の選択、つまりどこで事業を
行いたいか、決めておくこと。もちろん拠点は8つしかないのだ
から君達は13人だから、ダブりもトリプルも基本的には OK だ
が、よく考えて決めること。次に自分が誰と一緒に仕事がしたい
か、チームのメンバー構成も考えておくこと。当然取り合いにな
る人間もあると思うが、そういうことに余り拘らないで自分本位
で良いから考えておくこと。
お盆休み明け、早速13人のバンドマスターを集めて、拠点の
決定とメンバー構成について討議した。拠点についてはすぐ決ま
った。淡路 1,明石 1,加古川 2,姫路北 3,姫路南 1,社 2,相
生 2,山崎 1,合計 13 の拠点が誕生した。メンバー構成について
は、あらかじめ用意しておいた一人一人のやや大きめの名札を私
が掲げながらその人の名を呼び、その人物を欲しいマスターたち
が挙手し、順に決めていった。当然たくさんの手が挙がる人もい
ればそうでない人もいる。その調整役を私が引き受けた。午後か
らはじめて、最初の予想では深夜近くまでかかるかもしれないと
思っていたが、8 時ごろにはすべて終了した。行いながら私は段々
気が滅入ってきた。行う前はグッドアイデアだと思っていたが、
やり始めると何か人身売買のような気持ちになり、憂鬱になり、
二度とこのようなやり方はすべきでないと心に刻み込んだ。(申
し訳ない、御免なさい、今この紙面で心から謝ります)
最後に、
「この組織で1年半は何があっても行う、私も辛抱し見守ってい
く、その間に JB 組織の何たるかをよく理解し、完成させるよう
に」と言った。私は約束どおり1年半は見守った。しかしその 1 年
半の間に、JB の中でさまざまな変化がおきてきた。良い演奏をし
ている JB,もう少し時間を与えればよい音色を出しそうな JB,
演奏者を入れ替える必要がある JB,不協和音だらけで解散しな
ければならない JB 等々である。
2000年4月に大幅な組織改革を行い、現在に至っているが、
その完成はまだまだ遠い。しかし21世紀になっても十分通用す
る組織であると自負している。何故かといえば、目線をお客様に
合わせた組織だからである。取りも直さず21世紀は顧客が主体
なのである。それを解ることが最も大切なのであるが……