長崎大学 保健・医療推進センター勉強会 関節リウマチ:最近の知見 平成21年12月22日 玉井 慎美 関節リウマチとは 概念:多発性関節炎を主徴とする、原因不明の 進行性炎症性びらん性疾患。 関節の破壊と進行をきたす。 →日常生活の制限→寝たきり 時に関節外症状(皮下結節、間質性肺炎、血管炎)を示す 疫学:全人口の約1%(つまり1人/100人) 男女比 1:3∼4(女性に多い) 好発年齢 30∼50歳代(働き盛りの人) 1987年アメリカリウマチ学会分類基準 1. 朝のこわばり:1時間以上 2. 3カ所以上の関節炎 3. 手関節炎 4. 対称性関節炎 5. リウマトイド結節 6. リウマトイド因子 7. X線異常所見 6週間以上持続 *7項目中4項目陽性で関節リウマチと診断 リウマトイド因子陽性者は 関節リウマチになりやすいか? リウマトイド因子の疾患別頻度 関節リウマチ シェーグレン症候群 全身性エリテマトーデス 肝硬変 結核 ウイルス性感染症 健常者 陽性率(%) 70∼80 70∼80 30∼40 30∼50 10∼20 10∼20 2∼5 出典:「よくわかる関節リウマチのすべて」宮坂信之編集, 2009. 関節リウマチの新しい自己抗体; 抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体) シトルリン化 H O H N Peptidyl arginine deiminase (PAD) NH NH2+ O N 荷電の変化 Ca2+ NH O NH2 L-アルギニン残基 (+荷電) 結合の変化 変性しやすくなる NH2 L-シトルリン残基 (中性) 脱イミノ化 Klareskog L, et al. Ann Rev Immunol 2008 26: 651-75.より改変 出典:「リウマチ科」第40巻第3号 関節リウマチにおける リウマチ因子と抗CCP抗体の診断的価値 発症する0∼5年前の献血者 5年以内に関節リウマ チを発症するリスク% 感度 % 特異度 % PPV % NPV % 全住民 ハイリス ク住民 IgM-RF+ 20.5 98.6 88.2 71.1 1.5 37.7 抗CCP抗体+ 28.9 99.5 96.6 73.5 5.3 69.4 IgM-RF+ or 抗CCP抗体+ 36.5 98.1 90.6 75.4 1.9 43.8 IgM-RF+ and 抗CCP抗体+ 13.0 100 100 75.4 100 100 IgM-RF; リウマトイド因子, PPV; positive predictive value発症予測値, NPV; negative predictive value発症しない予測値, ハイリスク住民;2親等以内に患者あり 出典:「よくわかる関節リウマチのすべて」宮坂信之編集, 2009. 関節リウマチ発症前の血清抗CCP抗体価 抗体は、発症の数年前よ り認められ、特に2−3年前 から急激に上昇する。 Rantapaa-Dhlqvist S, et al. Arthritis Rheum 48(10): 2741-9 関節リウマチは遺伝するのか? 病因:遺伝 • ヒト白血球抗原(HLA)クラスII(第6染色体に コード)が関与:HLA-DR4(特にDRB1*0405)保 有者は非保有者に比べ2.8倍発症しやすい上、 4.3倍重症化しやすい。 • PADI4遺伝子多型:PADIはアルギニンをシトル リン化する酵素 • 家族内発症:一卵性双子で15∼34%、二卵 性双子で3∼7%。つまり、親子では更に低い 確率。 関節リウマチになりやすい 環境因子は何か? 図 抗シトルリン化タンパク抗原陽性関節リウマチの進展モデル 免疫学的反応 Stage 1 遺伝的素因 環境的要因 病理学的炎症反応 Stage 2 抗シトルリン化蛋白抗体 産生 関節リウマチ Stage 3 臨床的 発症 発症 Klareskog L, et al. Ann Rev Immunol 2008 26: 651-75.より改変 出典:「リウマチ科」第40巻第3号 図 関節リウマチの発症:抗CCP抗体/HLA-DRB1 SE/喫煙 抗CCP抗体陽性 21 抗CCP抗体陰性 非-smoker Smoker R.R 6.5 5.4 3.3 1.5 1.0 0 1.0 1 2 0.6 0 0.8 0.8 1 0.7 0.8 2 Klareskog L, et al. Ann Rev Immunol 2008 26: 651-75.より改変 出典「リウマチ科」第40巻第3号 関節リウマチの骨変化 初診時 1年後 抗CCP抗体、RF陽性の 症例は進行が速い 2年後 写真提供:長崎大学医学部放射線科 上谷雅孝教授 CCP陽性例はHLA-DRB1*SE、 喫煙習慣との相関が強い。 CCP陰性例とは異なる。 HE染色 A、C:抗CCP抗体陽性 B、D:抗CCP抗体陰性 CD3染色 抗CCP抗体陽性例は、 炎症性細胞、T細胞の 浸潤が強い。 van Oosterhout M., et al.Arthritis Rheum 58; 53-60, 2008. 新しい診断基準 早期関節炎、診断未確定関節炎の経過 診断確定関節炎 関節リウマチ 非関節リウマチ疾患など 早期関節炎 診断未確定 関節炎 2週間の身体診察、 一般検査、 画像検査で確定診 断に至らない 関節リウマチ 35-50% 持続性関節炎 26% 他の疾患 16% 寛解 26-55% 出典:van-der Helm van mil AH, et al .Arthritis Rheum 56; 433, 2007より改変 1987年アメリカリウマチ学会分類基準 1. 朝のこわばり:1時間以上 2. 3カ所以上の関節炎 3. 手関節炎 4. 対称性関節炎 5. リウマトイド結節 6. リウマトイド因子 7. X線異常所見 6週間以上持続 リウマトイド結節、 X線異常所見は、 発症早期では 通常認められない *7項目中4項目陽性で関節リウマチと診断 この基準は、罹病期間が長い関節リウマチの鑑別診断には有効(感度94%、 特異度89%)であるが、関節リウマチの早期診断には不向きである 2009年アメリカリウマチ学会/ヨーロッパリウマチ 学会診断基準(樹形図) 1個以上の関節炎 No Yes 関節リウマ チとは診断 されない 他疾患を除外 No Yes 単純骨X線上びらん有 No 関節リウマチ 診断基準へ Yes 関節リウマ チと診断 関節リウマ チとは診断 されない Final Criteria: Additive Scoring Algorithm : 2009年アメリカリウマチ学会において発表 Score (0-10) 身体所見 血液検査 現病歴 血液検査 罹患関節数と分布 =1 0 >1 lrg 1 1-3 sml 2 4-10 sml 3 >10 regardless 5 血清自己抗体価 Negative 0 Low positive 2 High positive 3 罹病期間 <6 weeks 0 >=6 weeks 1 急性期相反応物質 Normal 0 Abnormal 1 6点以上であれば 関節リウマチと分類 ↓ 抗リウマチ治療を 開始 (メトトレキサートが 第一選択) 2009年アメリカリウマチ学会/ヨーロッパリウマチ学会 関節リウマチ診断基準 1. 罹患関節:圧痛関節または腫脹関節 1. 中大関節1個:0点 2. 中大関節2∼10個:1点 3. 小関節1∼3個:2点 4. 小関節4∼10個:3点 5. 小関節1個を含む11個以上:5点 *小関節:MCP、PIP、第2−5MTP、第1IP、手関節。DIPや第1CMC、第1MTPは含めない。 中大関節:肩、肘、股、膝、足関節。 2. 血清学的検査:リウマトイド因子または抗シトルリン化蛋白抗体 1. いずれも陰性:0点 2. いずれか低力価(基準値の3倍未満)陽性:2点 3. いずれか高力価(基準値の3倍以上)陽性:3点 3. 罹病期間:滑膜炎持続 1. 6週間未満:0点 2. 6週間以上:1点 4. 炎症反応:ESRまたはCRP 1. 陰性:0点 2. 陽性:1点 6点以上を関節リウマチと診断 2009年アメリカリウマチ学会より 樹形図:診断未確定関節炎129症例(自験例) 診断未確定関節炎 (N=129) 腫脹関節なし 1年後に 関節リウマチ 14 非関節リウマチ30 と診断 腫脹関節あり 関節リウマ チとは診断 されない (N=44) 他疾患を除外 No Yes 単純骨X線上びらん有 No 1年後に 関節リウマチ 61 非関節リウマ24 と診断 関節リウマチ 診断基準へ (N=85) Yes 関節リウマ チ (N=0) 関節リウマ チとは診断 されない (N=0) 診断未確定関節炎129症例(自験例) 診断未確定関節炎 (N=129) リウマトイド因子および 抗CCP抗体陰性 血清学的陰性 診断未確定関節炎 (N=62) リウマトイド因子あるいは 抗CCP抗体陰性 血清学的陽性 診断未確定関節炎 (N=67) リウマトイド因子や抗CCP抗体の存在の有無により、治療反応性やX線進行が異なる。 遺伝的背景も異なるため(前述の、抗体/HLA/喫煙の図参照)、血清学的陽性関節リウ マチと陰性関節リウマチは、「異なる疾患」ととらえられる。 樹形図:血清学的陰性診断未確定関節炎62症例 血清学的陰性 診断未確定関節炎 (N=62) 腫脹関節なし 1年後に 関節リウマチ 6 非関節リウマチ 19 と診断 Yes 関節リウマ チとは診断 されない (N=25) 他疾患を除外 No Yes 単純骨X線上びらん有 No 1年後に 関節リウマチ 20 非関節リウマチ 17 と診断 関節リウマチ 診断基準へ (N=37) Yes 関節リウマ チとは診断 されない (N=0) 関節リウマ チ (N=0) 基準を満たすのは 関節リウマチ 26例で34.6%、非関節リウマチ 36例で22.2% 樹形図:血清学的陽性診断未確定関節炎67例 血清学的陽性診断未確定 関節炎 (N=67) 腫脹関節なし 1年後に 関節リウマチ 8 非関節リウマチ 11 と診断 Yes 関節リウマ チとは診断 されない (N=19) 他疾患を除外 No Yes 単純骨X線上びらん有 No 1年後に 関節リウマチ 41 非関節リウマチ 7 と診断 関節リウマチ 分類基準へ (N=48) Yes 関節リウマ チとは診断 されない (N=0) 関節リウマ チ (N=0) 基準を満たすのは 関節リウマチ 49例で77.6%、非関節リウマチ 18例で27.8% 現在の関節リウマチ治療 関節リウマチ治療の変遷 ピラミッド方式 手術 免疫抑制薬 逆ピラミッド 抗リウマチ薬 免疫抑制薬・生物学的製剤 ステロイド ステロイド 鎮痛剤 抗リウマチ薬 鎮痛剤 アメリカリウマチ学会 ガイドライン 2002年 手術 関節リウマチ診断確定 予後不良因子なし MTX効果 サラゾスルファピリジン 不十分 メトトレキサート レフルノミド 注射金剤 効果不十分 経口ステロイド 早期短期間 ( MTX ) 禁忌 不耐 MTX効果不十分 予後不良因子あり MTX + TNF阻害薬 予後不良因子 ヨーロッパリウマチ学会 効果不十分 関節リウマチ 治療指針2009年 他のTNF阻害薬 効果不十分 アバタセプト リツキシマブ トシリズマブ RF、抗CCP抗体 早期骨侵食型 急速進行型 高疾患活動性 アザチオプリン シクロスポリン シクロホスファミド 関節リウマチ滑膜組織の免疫異常 新生血管が豊富な滑膜炎 ≪関節リウマチ関節局所≫ IL-1β TNF-α IL-17 IL-6 Tocilizumab IL-6R Synovial cell IL-1β TNF-α IL-6 Infliximab Etanercept ≪末梢≫ Th17 CCR6 Chemotaxis IL-17 IL-6 TNF-α CCL20 IFN-γ IL-10 TGF-β Th1 Treg Th17
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