情報整理の6ステップ

情報整理の6ステップ
アイデアクラフト 代表 開米瑞浩
目次
1.
2.
はじめに .............................................................................................................................................. 2
1.1.
図に書けない・・・それは理解の混乱です ................................................................................ 2
1.2.
料理にレシピ、情報整理の6ステップ ....................................................................................... 3
情報整理の6ステップ ........................................................................................................................ 4
2.1.
ステートメント分解 .................................................................................................................... 4
2.2.
グループ化 ................................................................................................................................... 5
2.3.
キーワード化 ............................................................................................................................... 6
2.4.
配置調整....................................................................................................................................... 7
2.5.
チェック....................................................................................................................................... 8
2.6.
表現調整....................................................................................................................................... 9
2.7.
まとめ .......................................................................................................................................... 9
©アイデアクラフト 2004
本書の一部または全部の無断転載を禁じます
http://www.ideacraft.jp
p.1
1. はじめに
みなさんこんにちは。アイデアクラフト代表の開米瑞浩です。
本書は、「考える力を高める」ための初歩的な習慣として重要な「情報整理の6ステップ」という手
順について説明します。
1.1. 図に書けない・・・それは理解の混乱です
私は2002年に「ネクストエンジニア」という雑誌(翔泳社、現在廃刊)で、「正しい仕様書の書
き方」という連載を始めました。そのテーマは、文章を減らしてもっと図を書くようにしよう、という
ことでした。
ややこしいことを考えたり説明したりするときには明らかに図を描いたほうがいいわけで、その連載
はかなりの人気を博しました。しかし「そうは思っても、いざ図を書こうとするとなかなかいいイメー
ジがわいてきません・・・」という嘆きの声もよく聞きます。やっぱり、「図解する」ことに苦手意識
を持っている方は少なくないようです。
そこで「じゃあこれを図解してみてください」といろいろな練習問題を出してその様子を見ていると、
ひとつ気がついたことがありました。それは、「図解が苦手」というのは実は「図解のテクニックを知
らないことが原因ではなく、そもそも問題の理解が弱いことに原因があるらしい」ということです。そ
のイメージを書くと下記のようになります。
問題
図解
紙の上
頭の中
理解
文章に書かれ
た情報を正しく
読み取る
理解した内容を正し
く表現すること
図 1:問題→理解→図解
「問題」は簡単な文章で書いてあるので、それを図に描くためには、まず「理解」する必要がありま
す。ところが、ここですでにつまづいてしまう。そもそも「問題」に書かれている文章をきちんと読め
ていないというケースが多くありました。
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となると、「図に書けない」といっても、図の書き方ではなく、まず最初に情報を整理分析して「理
解」する方法を身につける必要がありそうです。
1.2. 料理にレシピ、情報整理の6ステップ
そこで私はそれまで私が無意識に行っていた「情報整理の 6 ステップ」を表に出し、明文化してその
手順にのっとって考えるように研修プログラムを組みました。その「情報整理の 6 ステップ」を前述の
図に加筆すると下記のようになります。
問題
図解
紙の上
頭の中
理解
表 現調整
チェック
配置調整
キー ワード化
グ ループ化
ステートメント分解
問題を理解し表現する過程がこの6つのステップ
図 2:情報整理の6ステップ
「問題」を「理解」し、
「図解」するまでの間に、ステートメント分解、グループ化、キーワード化、
配置調整、チェック、表現調整の6つのステップを踏みます。ひとつひとつの手法は非常にシンプルな
ものですし、全体を通してもこの手法自体が何か難しいというものではありません。本来は高校1年ぐ
らいで国語の時間にやっておくべき内容です。この手順を意識的に踏襲することで、書かれている情報
を「正確に」「もれなく」理解し、表現することができます。
これは料理でいうところのレシピのようなものです。誰でも料理にはレシピ(手順書)があることを
ご存じでしょう。カレーを作る、ハンバーグを作る、スシを作るなど、食材を料理する場合には標準的
な手順(レシピ)があります。情報を料理する場合も標準的な手順があるわけです。それがこの「情報
整理の6ステップ」です。本書ではその手順を説明します。
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料理の場合は作る料理ごとにレシピも違いますが、「情報整理の6ステップ」は極めて基本的なとこ
ろですので、問題によって違うということはありません。非常に応用範囲の広い基本技術です。その意
味で無駄になりませんので誰にとっても役に立ちます。だからこそ、高校1年の国語でやるべきことな
のですが、今からでも遅くありません。
「情報整理の6ステップ」を確実に身につけてください。
2. 情報整理の6ステップ
「情報整理の6ステップ」は、主として文章で書かれた情報を読んでそれを自分なりに理解し、ひと
つのチャートに書き直すという作業の標準的な手順です。これを実例とともに紹介しましょう。
2.1. ステートメント分解
まずはステートメント分解です。
原文
ステートメント
著しく進展している情報通信
1) 情報通信技術は著しく進展している
技術を活用して、農林水産
2) 農林水産省は政策を担っている
省が担う政策の透明性を高
3) 政策の透明性を高めるべきである
め、開かれた行政の実現を
4) 開かれた行政を実現すべきである
図るためにも、省内に蓄積さ
5) それには情報提供が必要だ
れている各種行政情報を電
6) 情報提供は電子的な手段で行うべき
子的な手段により積極的に
7) 情報提供を積極的に行うべき
提供していくべきである。
図3:長い文章を短いステートメントに分解
図3の左側の原文はある省庁の公開文書の一部ですが、世の中の「情報」の大半はこうした文章の形
で流れています。しかし文章として構成された形というのは、実はそれを土台にしてあれこれと考えを
展開させていくには向いていません。そこで、「文章」ではなく、明確に記述された短文(ステートメ
ント)の集まりとしてバラバラに分解し、ナンバーをつけておくのが最初の作業です。
ステートメント分解をする場合の注意点がいくつかあります。
まずその1は「極限まで短くする」ということです。たとえば、「省内に蓄積されている各種行政情
報を電子的な手段により積極的に提供していくべきである」では長いので、この場合は「各種行政情報
を積極提供していくべき」でよいでしょう。「省内に蓄積されている」とか「電子的な手段により」と
いった付随的な情報は省略するか、別なステートメントとして切り出しておきます。
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第2に、隠れたステートメントに注意すること。たとえば、「著しく進展している情報通信技術を活
用して・・・・行政情報を提供していくべき」という部分。普通に考えると「行政情報を提供するべき」
のほうだけをステートメントと認識しがちですが、それでは十分ではありません。文法的には単なる形
容詞句にすぎない「著しく進展している情報通信技術」のところを、「情報通信技術は著しく進展して
いる」というステートメントとして分離します。こうして分離しておくと、「本当に著しく進展してい
るのか?」という評価、見直しの対象として意識することができます。誤った前提を元にした推論では
当然誤った結論が出るため、こうした暗黙の前提を表に出しておくことが重要なのです。
第3に、
「それ」
「これ」といった代名詞をできるだけ使わず、固有名詞などに書き換えます。たとえ
ば図中の例とは違いますが「個人の成果を個別に評価し、それによって報酬を決める」という一文があ
ったら、
「個人の成果を個別に評価する」と、
「個別評価によって報酬を決める」という2つのステート
メントに分けておきます。
ポイントは、「代名詞がどの範囲を指示しているのかを明確にする」ということです。実は、普通の
文章の中で使われる「それ」「これ」といった代名詞は、どの範囲を指示しているのか曖昧な場合がよ
くあります。これには書く側と読む側の双方に原因がありますが、いずれにしても曖昧なまま読まれて
誤解されることは非常に多いので、代名詞を使わないようにします。そうすると、代名詞が実際どれを
指しているのかを改めて考え直して確定させなければなりません。これが大きいんですね。
逆に言えば、範囲が明確ならば代名詞を使ってもいいです。たとえば図3の(5)では新たな代名詞
を導入していますが、これはその直前の「開かれた行政」との関連性が明確なため、問題ありません。
2.2. グループ化
ステートメント分解の次はグループ化を行います。
2) 農林水産省は政策を担っている
3) 政策の透明性を高めるべきである
政策方針
4) 開かれた行政を実現すべきである
5) それには情報提供が必要だ
7) 情報提供を積極的に行うべきだ
実現手段
1) 情報通信技術は著しく進展している
6) 情報提供は電子的な手段で行うべき
図4:ステートメントを分類し、グループ化
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グループ化というのは、ステートメント分解で作ったステートメントの束を、いくつかのグループに
分類した上でラベリングをする作業です。
少々年配の方なら「KJ法」のブームをご存じかもしれませんが、この作業はKJ法によく似ていま
す。似通ったテーマのステートメントをグループ分けし、さらにそのグループに名前をつける(ラベリ
ング)
。図4に例示しましたが、前段階で分解した7つのステートメントは、2グループに分けた上で、
それぞれ「政策方針」と「実現手段」というラベルをつけました。
このようなラベルを考えるのは意外に難しいものです。逆に、それを考えさせることで、アタマの中
に情報の整理棚を作る効果があります。
2.3. キーワード化
次にキーワード化をします。これは、ステートメントよりもさらに細かく、「単語」を抜き出す作業
です。ステートメントを眺めて、これはと思ったキーワードを付箋紙に書き込んで、そのへんに適当に
(乱雑でかまわないので)貼っていってください。
透明性
政策
開かれた行政
情報提供
農林水産省
情報通信技術
電子的な手段
図5:キーワードを探して付箋紙に書き込む
複数のステートメントに登場している単語は特に重要ですが、それに限らず、目についた単語はすべ
て書き出すぐらいの勢いでやってしまってかまいません。
ただしここで書き出すのは文法的な「単語」とは限らず、たとえば「開かれた行政」は形容詞句だし、
短文であってもかまいません。
また、このキーワードはノートではなく付箋紙に書くことが重要です。私がよく使うのは名刺半分ぐ
らいの大きさの付箋紙です。結果として、作った付箋紙のうちの半分は使わずに捨てる、というケース
もあります。書くかどうか迷ったら書いてしまいましょう。使わなかったら捨てればいいだけです。
付箋紙のよいところは、勝手気ままに貼り替えて並べ替えができるということです。この「並べ替え」
という一見単純な作業の重要さが次の段階で明らかになります。
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2.4. 配置調整
キーワード化を終えたら、次は配置調整です。
配置調整というのは、前段で作ったキーワード付箋紙を並べ替えて、ストーリーを作る作業です。図
6にその一例を示しました。実はこの作業こそ「図解」そのものなんですね。図解というのは順番に読
むと意味が通るようにキーワードをうまく並べる作業なのであって、そこに使う図形が丸であろうと四
角であろうと実はどうでもいいんです。
たとえば図6の左端を下から上に読むと「農林水産省が行っている政策にも透明性が求められてい
る」と読めます。このようにキーワードをつなぎ合わせた「意味のある一文」をストーリーといいます。
こんな小さなストーリーが一枚の図の中にはいくつもできるものです。たとえば図6の中央一列は下か
ら「情報通信技術の発達によって、電子的な手段での情報提供が可能になった」となりますし、中央の
横一行は「政策に関する情報を国民に提供しなければならない」となります。
こうして、「一本のストーリーで関連するキーワードを一列に並べる」ように付箋紙の配置を調整し
ていくわけです。だからこの作業は配置調整であり、前段で付箋紙を使って書き出すというのは、この
配置調整のための前準備だったわけです。配置調整をしなければステートメントのままでいいんですが、
複雑な問題の場合はキーワード化と配置調整をしたほうがうまくいきます。
開かれた行政
透明性
政策
情報提供
農林水産省
電子的な手段
国民
情報通信技術
図6:付箋紙を並べ替えてストーリーを作る
この配置調整では、頻出する配置のパターンがいくつかあります。それを大まかに分けるとマトリッ
クス、ピラミッド、サーキットの3種類ですが、最近では私はもう少し細かく分けて「平行・並列」、
「幹
線・支線」、
「分類・分解」
、「循環」、
「介入・制御」の5種類で説明しています。
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2.5. チェック
配置調整をざっと終えたら次はチェックです。これは、ステートメント分解のところで書いたステー
トメントと、配置調整をしたチャートを見比べて、ステートメントの内容がモレなく正確にチャートに
表現されているかどうかをチェックする作業です。図7ではそのチェックのために該当するステートメ
ントの番号を書き込み、欠けていたステートメント(7)のキーワード「積極推進」を書き足してあり
ます(が、番号を書き込むのはこの原稿での説明のためなので、実際にはやらなくてもかまわないでし
ょう)
。
(4)
開かれた行政
透明性
積極推進
(7)
(3)
政策
情報提供
(2)
農林水産省
国民
(5)
電子的な手段 (6)
情報通信技術
(1)
図7:ステートメントとチャートを見比べて論理の過不足をチェック
モレなくといっても、重要でないと判断したステートメントは意図的に省略します。しかし見落とし
は困るので、チェックするわけです。実は最初の段階でステートメント分解をするのは、このチェック
をするための準備でもありました。ステートメント分解をしておかないと、チェック作業の効率が非常
に悪くなってしまいます。
もしこれをやらないとどうなるでしょうか? 私がときどき使う問題では、原文を分解するとだいた
い10個のステートメントになりますが、それを黙って出題すると、結果出来てくるチャートではその
うち4~5個程度のステートメントしか表現されていない場合が多いです。しかしステートメント分解
とチェックをやるようにガイドするとこれが8個~10個カバーされるようになります。
「よく読め!」と言うのは簡単ですが、実際に「よく読む」のにはそれなりの技術が必要で、こうし
たシステマチックな方法を習慣づけなければうまくいかないんです。よほど読解力が高ければステート
メント分解とチェックの作業を頭の中だけでやってしまえますが、普通はなかなかそうはいきません。
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2.6. 表現調整
チェックを終えたら次は表現調整をします。これが最後の作業です。
表現調整というのは、最終的な見せ方の仕上げということで、具体的には四角・三角・丸・矢印など
の使用する図形や色、細かな言葉遣い、文言の調整をします。
図8をその一つ前の図7と比べると、長方形だったところを吹き出しにしたり、そうしない場合でも
角を丸めたりといった調整が行われていることがわかるでしょう。こうした調整をすることで理解を助
けているわけです。
開かれた行政のため、電子的情報提供を推進
透明性が必要
政策
積極推進
情報提供
農林水産省
活用
電子的手段
を使用
国民
情報通信技術
図8:細部のビジュアルと文言を調整
「図解」というと、この段階の作業のことと一般的には思われがちです。しかしこの表現調整は情報
整理の6ステップの中でも一番最後の付け足しのようなもので、実はやらなくてもそんなに困りません。
この前までの過程、特に配置調整がうまく決まっていればほぼ意図は伝わります。
2.7. まとめ
以上、これが情報整理の6ステップです。一言で言うなら「細かく分けてストーリーを作れ」という
だけのことで、手法として何か難しいわけではありません。いまこの瞬間からでも始められるはずです。
ただ、それですぐ力がつくわけではありません。たとえば腕立て伏せを100回やってもそれでいき
なり翌日から筋肉モリモリになることはありませんね?
力をつけるには継続的なトレーニングが必
要です。継続的に筋力トレーニングを続けていくことによって筋力が少しずつついていくように、「情
報を整理分析する力」も少しずつついていくものです。「情報整理の6ステップ」はそのためのトレー
ニング方法のひとつであって、それ自体が魔法の呪文ではないことは知っておいてください。
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