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[地獄のタクシー]
損害賠償等請求事件
東京地裁平成八年(ワ)第一〇二一八号
平成一〇年六月二九日判決
判
決
原告 釋英勝 こと 西田昇
右訴訟代理人弁護士 高木佳子
同 桑野雄一郎
被告 株式会社フジテレビジョン
右代表者代表取締役 日枝久
被告 株式会社共同テレビジョン
右代表者代表取締役 坊城俊周
被告 中村樹基
右三名訴訟代理人弁護士 本橋光一郎
同 荻野明一
同 中島龍生
右三名訴訟復代理人弁護士 下田俊夫
主
一
二
文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、原告に対し、共同して、別紙6記載の謝罪広告を、株式会社朝日新
聞社発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社発
行の読売新聞の各全国版社会面に、縦二段抜き、横七センチメートル、見出しはゴ
チック体一・五倍活字、本文及び記名は明朝体一倍活字、宛名は明朝体一・五倍活
字を使用して各一回掲載せよ。
二 被告らは、原告に対し、各自金一一二二万円及びこれに対する平成八年六月一
五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いがない事実等
1 原 告 は 、「 釋 英 勝 」 の ペ ン ネ ー ム を 用 い て 、「 ハ ッ ピ ー ピ ー プ ル 」 と い う 題 名 の
下に一連の短編漫画を創作、発表している漫画家である。
原 告 は 、昭 和 五 九 年 二 月 こ ろ 、
「 先 生 、僕 で す よ 」と い う 題 名 の 短 編 漫 画( 以 下「 本
件 著 作 物 」と い う 。)を 創 作 し 、こ れ は 、右「 ハ ッ ピ ー ピ ー プ ル 」第 七 話 と し て 、株
式会社集英社が同年三月一日に発行した週刊漫画雑誌「ヤングジャンプ」一二号に
掲載された。
また、本件著作物は、同社発行の単行本「ハッピーピープル」第二巻に収録され
たが、右単行本は、昭和五九年一二月二五日に初版が発行され、その後に、増刷さ
れた。
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本件著作物の内容は、別紙1記載のとおりである。
2 株 式 会 社 フ ジ テ レ ビ ジ ョ ン( 以 下「 被 告 フ ジ テ レ ビ 」と い う 。)は 、被 告 株 式 会
社 共 同 テ レ ビ ジ ョ ン( 以 下「 被 告 共 同 テ レ ビ 」と い う 。)と 共 に 、
「地獄のタクシー」
と い う 題 名 の テ レ ビ ド ラ マ( 以 下「 本 件 番 組 」と い う 。)を 製 作 し 、こ れ は 、被 告 フ
ジテレビが平成七年一〇月四日午後九時三分から放映した「世にも奇妙な物語・秋
の 特 別 編 」中 の 一 作 品 と し て 放 映 さ れ た 。被 告 中 村 樹 基( 以 下「 被 告 中 村 」と い う 。)
は、本件番組の脚本を執筆した。
本件番組の内容は、別紙2記載のとおりである。
(右1の事実は、甲一、二、原告本人及び弁論の全趣旨により認める。右2の事実
は 争 い が な い 。)
二 本 件 は 、原 告 が 、
「 本 件 番 組 は 、本 件 著 作 物 を 翻 案 し た も の で あ る か ら 、本 件 番
組を製作、放映することは、原告が本件著作物について有する翻案権を侵害すると
ともに、原告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害する。本件番
組の製作、放映に関与した被告フジテレビ及び被告共同テレビの従業員並びに被告
中 村 に は 、故 意 又 は 少 な く と も 過 失 が あ っ た か ら 、共 同 不 法 行 為 が 成 立 す る 。」と し
て、被告らに対し、次の損害の賠償を求めるとともに、名誉回復の措置として謝罪
広告を求めるものである。
1 翻案権侵害による損害(原告が翻案権行使につき通常受けるべき金額)二〇万
円
2 著作者人格権の侵害による損害(慰謝料) 一〇〇〇万円
3 弁護士費用 一〇二万円
4 合計 一一二二万円
三 本件番組が本件著作物を翻案したものであるかどうかについての当事者の主張
は、次のとおりである。
1 原告
(一)本件番組は、別紙3記載のとおり、本件著作物とは、題材、ストーリーの内
容、ストーリーの展開、場面の流れ、映像等の各点において、同一であるか又は類
似しているのであって、本件番組は、本件著作物とは,著作物としての本質的同一
性を有している。
( 二 )右 の 本 件 番 組 と 本 件 著 作 物 と の 同 一 性 及 び 類 似 性 に 加 え て 、
( 1 )本 件 著 作 物
は、昭和五九年に発表されたもので、これを掲載した「ヤングジャンプ」の発明部
数は九二万部、これを収録した単行本「ハッピーピープル」第二巻の発行部数は一
七万部余りであり、本件著作物は、平成七年一〇月当時「恐怖」を描いた作品とし
て広く知られていたこと、
( 2 )被 告 フ ジ テ レ ビ 及 び 被 告 共 同 テ レ ビ に お い て 本 件 番
組 の 製 作 に 関 与 し た 従 業 員 や 被 告 中 村 は 、番 組 の 題 材 を 探 す 目 的 で 、
「 恐 怖 」を 描 い
た作品を日常的に目を通していたはずであり、本件番組製作の過程で出されたアイ
デ ア に は 、本 件 著 作 物 や 原 告 の 他 の 作 品 に 出 て く る ア イ デ ア が あ る こ と 、
( 3 )被 告
フ ジ テ レ ビ は 、平 成 四 年 に 、
「 ヤ ン グ ジ ャ ン プ 」に 掲 載 さ れ た 原 告 著 作 に 係 る「 ハ ッ
ピ ー ピ ー プ ル 」中 の 他 の 作 品(「 声 が 聞 こ え る 」)を 、原 告 の 許 諾 を 得 た 上 翻 案 し て 、
「 世 に も 奇 妙 な 物 語 」中 の 一 作 品 と し て 放 映 し た こ と が あ っ た こ と 、
( 4 )被 告 フ ジ
テ レ ビ は 、「 ヤ ン グ ジ ャ ン プ 」 に 掲 載 さ れ た 他 の 作 品 (「 復 讐 ク ラ ブ 」) を 翻 案 し て 、
「世にも奇妙な物語」中の一作品として放映したことがあった上、同被告が「世に
も 奇 妙 な 物 語 」中 の 一 作 品 と し て 放 映 し た 作 品(「 運 命 の 赤 い 糸 」)に つ い て 、
「ヤン
グ ジ ャ ン プ 」 に 掲 載 さ れ た 作 品 (「 糸 」) の 翻 案 権 侵 害 が 問 題 に な っ た こ と が あ っ た
こと、
( 5 )本 件 番 組 に は 、不 自 然 な 設 定 や 脚 本 と 齟 齬 す る 部 分 が あ る が 、こ れ ら は 、
別紙4記載のとおり、本件番組が、本件著作物を基にこれを改変して製作したため
に 生 じ た も の で あ り 、 被 告 中 村 は 、「 少 年 ジ ャ ン プ 」 に 掲 載 さ れ た 他 の 作 品 (「 ア ウ
タ ー ゾ ー ン・血 と 爪 」)を 翻 案 し て テ レ ビ ド ラ マ と す る 際 に も 、同 様 の 不 合 理 な 改 変
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を行っていることを総合すると、本件番組は、本件著作物に依拠して製作されたも
のというべきである。
(三)したがって、本件番組は、本件著作物を翻案したものである。
2 被告
(一)本件番組と本件著作物とは、別紙5記載のとおり異なっており、本質的同一
性を有しているものではない。
「等身大化したネズミが復讐する」という、本件著作物のような話は、既に多くの
人によって作品化されており、それを原告のみが独占することができるというもの
ではない。また、原告が本件著作物と類似すると主張する本件番組の画像は、いず
れも、広く知られた古典的な手法によって撮影されたもので、特徴的な画像という
ことはできない。
(二)本件番組の製作の過程において、本件番組の製作に関与した者は、誰も本件
著作物を知らなかったから、本件番組は、本件著作物に依拠して製作されたもので
はない。
第三 当裁判所の判断
一 本件番組が本件著作物を翻案したものかどうかについて判断する。
1 本件番組が本件著作物を翻案したものということができるためには、被告らが
本件著作物に依拠して、本件番組を製作し、かつ、本件著作物の表現形式上の本質
的特徴を本件番組から直接感得することができることが必要である。
そこで、まず、本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得す
ることができるかどうかについて判断する。
2 前記第二の一の争いがない事実と証拠(甲一、二、四、一八、検甲一)により
認められる本件著作物と本件番組の各内容に基づき、本件著作物と本件番組とを対
比すると、次のようにいうことができる。
(一)本件著作物と本件番組との基本的なストーリ及びテーマの対比
本件著作物において主人公の医師は、
「 モ ル モ ッ ト の 皮 膚 に メ ス を 入 れ る 、こ れ は
も う 一 種 の 快 楽 だ も ん な 。」と 言 っ て 、笑 顔 で 麻 酔 も せ ず に モ ル モ ッ ト の 解 剖 を し た
り、首を切られたモルモットが何メートル走るかを賭けの対象にして、笑顔でモル
モットの首を切り落とすなど、実験動物を残虐に扱うことを楽しんでいる人物とし
て描かれている。そして、本件著作物では、そのような主人公が、麻酔をせず解剖
したモルモットに、逆に解剖され、殺されるというストーリーになっている。
これに対し、本件番組では、豪林は、部下の医師の意見を聞かず患者の脚の切断
を命じたり、実験に使っているネズミに与える新薬の濃度を増やすことを命じ、そ
のネズミの持ち主である少年の懇願にもかかわらず、そのネズミに薬を注射して殺
したりする人物で、
「 医 は 金 で あ る 。」、
「 患 者 も ネ ズ ミ も 同 じ 実 験 動 物 で あ る 。」、
「医
者 は 神 で 、 多 少 の こ と は 許 さ れ る 。」 な ど と 公 言 し て は ば か ら な い 人 物 、 す な わ ち 、
医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な医師として描かれている。
そして、本件番組では、そのような豪林が、かつての患者の亡霊から心臓などを返
すよう迫られたり、ネズミに脚を切断され、最後に地獄へ行くタクシーに乗せられ
て去っていくというストーリーになっている。
以上述べたところからすると、本件著作物の基本的なストーリーは、実験動物を
残虐に扱い、それを楽しんでいる主人公が、残虐に扱った実験動物から、自分が動
物に対してしたのと同じようなことをされ、殺されるというものであるのに対し、
本件番組の基本的なストーリーは、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視す
る傲慢な医師が、患者や動物から恐ろしい目にあわされ、地獄へ連れ去られるとい
うものであって、本件番組は、動物の命を軽視した医師が動物から恐ろしい目にあ
わされるという点では、本件著作物と共通しているものの、それのみをテーマとす
るものではなく、医師としての基本的なモラルを欠く医師が罰せられるという、本
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件著作物には見られない重要な点を含んでいる。
(二)ストーリーの流れの対比
(1)本件著作物においては、初めの部分で、主人公がモルモットを残虐に扱うと
ころが描かれている。他方、本件番組においても、ネズミの命を軽視する豪林の姿
が描かれている。しかし、本件著作物において、主人公がモルモットに対して行う
のは、笑みを浮かべながら、麻酔をかけずに解剖する、首を切り落とすといった行
為であり、殊に首を切り落とすという行為は、明らかに行う必要のない、ことさら
に残虐な行為であって、それによって、実験動物を残虐に扱い、それを楽しむとい
う主人公の性格が明確に描写されている。これに対し、本件番組において、豪林が
ネズミに対して行うのは、実験のために薬を注射するという行為であり、豪林には
そのことを楽しむ様子はなく、少なくとも外形的には、新薬開発のための実験とい
うことができる行為であり、豪林の他の行為(部下の医師の意見を聞かず患者の脚
の切断を命じる、少年の懇願を聞かないといった行為)とあいまって、
豪林の、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な姿が描かれている
といえる。したがって、そこにおいて描かれている医師の行為やそれに現れている
性格は、異なっているといえる。
(2)次に、本件著作物においては、主人公は眠り、目を覚ますと、実験の対象と
されている人間や頭を切られて殺される人間を見、自身も手術台の上で動けないよ
うにされており、ネズミによってがん細胞を注射されるという体験をする。これに
対し、本件番組においては、豪林が、同僚の医師と飲みに行った帰りに、一人タク
シーに乗り、病院に帰ったところ、かつての患者の亡霊から心臓などを返すよう迫
られる。以上を比べると、主人公又は豪林が奇妙な世界へ入っていくという点は共
通しているが、その入り方は、本件著作物においては、主人公が眠ることによって
奇妙な世界へ入っていくのに対し、本件番組では、豪林がタクシーに乗ることによ
って奇妙な世界へ入っていくのであり、タクシーが番組のタイトルになるなど、重
要な役割を果たしている。また、その後の体験の内容も、右認定のとおり明らかに
異なっている。
な お 、本 件 著 作 物 で は 、主 人 公 が 眠 る 前 に 、
「 ペ ッ ト じ ゃ な い ぞ 。モ ル モ ッ ト な ん
だぞ。実験で殺すために飼ってんだぞ。バカメ。ひと思いにやっちゃったって同じ
こ っ ち ゃ ネ エ か 。」と 、主 人 公 の 考 え が 述 べ ら れ る 。こ れ に 対 し 、本 件 番 組 で は 、豪
林 が 、 同 僚 の 医 師 や タ ク シ ー の 運 転 手 に 対 し て 、「 医 は 金 で あ る 。」、「 患 者 も ネ ズ ミ
も 同 じ 実 験 動 物 で あ る 。」、「 医 者 は 神 で 、 多 少 の こ と は 許 さ れ る 。」 な ど と 自 身 の 考
えを述べるが、本件著作物では、主人公が自己の実験動物に対する残虐な行為を正
当化するものとして、実験動物に対する考えを述べるに過ぎず、主人公対実験動物
という関係から主人公の性格が描かれているのに対し、本件番組では、豪林は、医
師の在り方全般について意見を述べ、豪林の、医師のモラルを忘れ、人間や動物の
命を軽視する傲慢な姿が描かれるのであって、人物を描く視点が異なっているとい
うほかない。
( 3 )次 に 、本 件 著 作 物 に お い て は 、
( a )主 人 公 は 、一 旦 は 目 を 覚 ま す が 、再 び 眠
り 、目 を 覚 ま す と 、手 術 台 の 上 で 動 け な い よ う に さ れ て い る 、
( b )ネ ズ ミ の 医 師 が 、
今朝主人公によって麻酔なしで解剖されたネズミであることを告げ、
「 麻 酔 は 」と 聞
か れ て も 「 必 要 な い 。」 と 答 え 、「 人 間 の 肌 に メ ス を 入 れ る の っ て 一 種 の 快 楽 な ん で
す よ ね 。」と 、主 人 公 が 言 っ た の と 同 じ こ と を 言 い な が ら 、麻 酔 な し に 主 人 公 の 腹 部
をメスで切り始める、
( c )主 人 公 は 、目 を 覚 ま す が 、精 神 安 定 剤 を 飲 ま さ れ て 再 び 眠 り 、目 を 覚 ま す と 、
ネ ズ ミ に 腹 部 を 切 り 開 か れ て お り 、ネ ズ ミ に 眉 間 に メ ス を 突 き 刺 さ れ て 、殺 さ れ る 。
これに対し、本件番組では、豪林は、殴られ気を失い、気がつくと、手術台の上で
動 け な い よ う に さ れ て お り 、 ネ ズ ミ の 医 師 が 、「 新 薬 実 験 の た め 患 部 を 摘 出 す る 。」
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と 言 い 、「 麻 酔 は 」 と 聞 か れ て も 「 ネ ズ ミ に 麻 酔 な ど 贅 沢 だ 。」 と 答 え 、 麻 酔 も せ ず
に 、 チ ェ ン ソ ー で 脚 を 切 断 し 始 め 、「 ネ ズ ミ 一 匹 の 命 で 何 万 人 救 わ れ る か も し れ ん 。
医 学 進 歩 の た め に は ネ ズ ミ の 命 な ん て 安 い も ん だ 。」、
「新しい治療を試みれば時には
失 敗 だ っ て あ る 。医 者 は 神 だ 。多 少 の こ と は 許 さ れ る 。」と 、豪 林 が 言 っ た の と 同 じ
ことを言う。
以 上 を 比 べ る と 、主 人 公 又 は 豪 林 が 手 術 台 の 上 で 動 け な い よ う に さ れ て い る こ と 、
ネズミの医師に手術されること、ネズミの医師は「麻酔は」と聞かれて必要ない旨
答 え 、主 人 公 又 は 豪 林 が 先 に 言 っ た の と 同 じ こ と を 言 う こ と 、以 上 の 各 点 に お い て 、
本 件 著 作 物 と 本 件 番 組 は 共 通 し て い る 。し か し な が ら 、本 件 著 作 物 で は 、主 人 公 は 、
自分が解剖したネズミから解剖されるのであり、ネズミは、右のように述べて、主
人公を残虐に扱うことを楽しんでいるように見えるのに対し、本件番組では、ネズ
ミは豪林が殺したネズミとは特定されておらず、ネズミは豪林によって脚を切断さ
れたわけではないから、必ずしもネズミが豪林に対して自分がされたのと同じ行為
をするという設定にはなっていない上、ネズミは、医師の在り方全般に対する意見
を述べ、視聴者に、そのような意見に従って行動する者は、報いを受けるという印
象を与える。
また、相手からされたのと同じ行為をする際に相手が以前に言ったのと同じ言葉
を述べて、その行為の意味を説明する手法は、それ自体としては、目新しいもので
はないと考えられる上、ネズミが述べる内容も右のとおり全く異なっている。
(4)次に、本件著作物においては、主人公が死亡し、それは、自殺であったとし
て、主人公の体験が夢の中の出来事であったかのように読者に印象づけるが、その
後、ネズミが姿を現わし、主人公の体験が現実である可能性を示唆して物語が終わ
るのに対し、本件番組では、豪林は、タクシーの中で目を覚まし、今までの体験が
夢であったと一瞬視聴者に思わせるが、脚に触れた手に血が付いていることによっ
て、豪林の体験が実は現実であったとの印象を視聴者に与え、その後、豪林は、タ
クシーで地獄に連れ去られる。
以上を比べると、主人公又は豪林の体験を一瞬夢であったと思わせておいて、最
後には現実であったとの印象を与える点は、同じであるということができるが、証
拠( 甲 一 二 )と 弁 論 の 全 趣 旨 に よ る と 、夢 と 思 っ た が 実 は 現 実 で あ っ た と い う 話 は 、
従前から多くの作品において採用されている手法であると認められる。そして、一
瞬夢であったと思わせておいて、最後には現実であったとの印象を与える具体的な
話 の 筋 立 て は 、本 件 著 作 物 と 本 件 番 組 で は 、右 の と お り 、全 く 異 な っ て い る 。ま た 、
本件著作物は、主人公の死で終わるのに対し、本件番組では、豪林がタクシーで地
獄に連れ去られるという設定で終わっており、異なっている。
(三)画像の対比
本件著作物と本件番組を比べた場合、最初が病院の全景から始まる点、主人公又
は豪林が手術台の上で手術用のライトに照らされて目を覚ます点、主人公又は豪林
が服を着たままベルトで手術台に固定されている点、主人公又は豪林が手術台の上
にいるとき、当初は、医師たちの顔は見えず、後にネズミの顔を大写しにすること
によって医師の正体がネズミであることを読者又は視聴者に分からせる点、以上の
各 点 に お い て 、共 通 す る 部 分 が 見 ら れ る 。し か し 、証 拠( 甲 五 の 一 な い し 六 、乙 一 、
証人岩田祐二)と弁論の全趣旨によると、話の始めに建物全体を見せる手法、手術
台の上で目を覚ます際に手術用のライトに照らされる手法、正体を見えないように
しておいて、後に正体を明らかにして、驚きや感動を与える手法は、広く用いられ
ている映像表現であると認められる。また、主人公又は豪林が服を着たままベルト
で手術台に固定されている姿や大写しになったネズミの顔は、本件著作物と本件番
組 を 比 べ た 場 合 、似 て い る と い う こ と が で き る が 、証 拠( 被 告 中 村 樹 基 )に よ る と 、
実際の手術でも体を固定することはあるものと認められるから、手術台に体を固定
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されている姿は、必ずしも本件著作物特有のものとはいえず、ネズミの顔も、実際
のネズミの顔を基にしている以上、ある程度似ることは避けられない。
3 以上の対比を基に翻案権侵害について判断する。
(一)証拠(甲一二)と弁論の全趣旨によると、動物が人間の姿になって人間を襲
うという話は、以前から多くの映画や漫画に取上げられたが、ネズミが人間のよう
な姿になって手術をするという話は、本件著作物より前には存せず、これは原告の
創作に係るものと認められ、この点で本件著作物と本件番組は類似するといえる。
しかし、原告の創作に係る右のような話は、それ自体としては、アイデアに過ぎな
いものといわざるを得ないのであり、その点が似ているからといって、直ちに本件
著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができることに
はならない。
(二)もっとも、本件著作物と本件番組を対比した場合、右2で認定したとおり、
ストーリーや画像において似ている点があるものと認められる。
しかし、右2(一)のとおり、本件番組と本件著作物とはテーマが異なり、その
ため、本件番組は、基本的なストーリーにおいて本件著作物には存在しないものが
含まれているし、本件著作物の主人公と本件番組の豪林とはその人物の描き方も相
違している。また、ストーリーの流れも、具体的な表現を捨象した粗筋を見れば、
主人公又は豪林が非現実の世界に入り込み、そこで等身大化したネズミから手術さ
れるという点で同じであるが、右粗筋を具体的に表現したものとして本件著作物と
本件番組を比較すれば、右2(二)のとおり大部分は異なっており、ネズミの医師
が主人公又は豪林を手術するという部分には、似ている部分があるが、そこにおけ
るせりふやその場面から感得される印象は異なっている。さらに、画像についても
似ている点があるが、右2(三)のとおり、いずれも必ずしも本件著作物特有の表
現と言い難いものである。以上を総合すると、本件著作物の表現形式上の本質的特
徴を本件番組から直接感得することができるとまでいうことはできない。
二 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二九部
裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也
裁判官
中平健
別紙1
家 城 大 学 病 院 の 研 究 医 で あ る 主 人 公( 氏 名 は 明 ら か で な く「 先 輩 」
「 あ い つ 」等 の
愛 称 で 呼 ば れ て い る 男 性 で あ る 。以 下「 甲 」と す る 。)が 、同 病 院 研 究 室 で 麻 酔 を か
けずにネズミの解剖を行っている。甲の隣でネズミの体を押さえている甲の後輩の
研究医は、甲に対しネズミに麻酔をかけることを懇願するが、甲はそれを一笑に付
す 。後 輩 の 研 究 医 が「 少 し で も 苦 痛 を 与 え な い の が 研 究 医 の 良 心 じ ゃ な い ん で す か 。」
と非難するのに対しても、
「良心、ハハハ、関係ないね。モルモットの皮膚にメスを入れる、これはもう一種
の 快 楽 だ も ん な 。」 と 解 剖 を 続 け る 。
そのとき、別のネズミを使って実験をしていた別の研究医が、ネズミに手を噛ま
れ て 悲 鳴 を 上 げ る 。 そ れ を 見 て 、 甲 は 、「 そ い つ は 質 が 悪 い ん だ よ な 。」 と 言 い 、 研
究医の手を噛んだネズミを摘み上げると、
「 ど う だ 、何 メ ー ト ル 走 る か 賭 け る 奴 は い
な い か 。」と 周 囲 の 研 究 医 に 尋 ね る 。質 間 の 趣 旨 が わ か ら ず け げ ん そ う な 顔 の 研 究 医
達 の 前 で 、 甲 は 傍 ら の メ ス を 掴 む と 、「 俺 は 五 〇 セ ン チ だ 。」 と 言 う な り 一 気 に メ ス
を振りおろしてネズミの首を切り落とす。一歩も動かず絶命したネズミを見て、甲
は 「 チ ェ ッ 。 元 気 の な い 奴 め 。」
と言い、おびえた表情で見つめる研究医達に対して仮眠する旨を告げて研究室を後
にする。
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甲が立ち去った後、甲の行為を激しく非難する女性の研究医たちに対して、男性
の研究医である落合が甲の立場を弁護する。甲が横になっている仮眠室は研究室の
隣室らしく、甲にはそれが筒抜けである。甲は女性研究医の言葉を「ペットじゃな
いぞ。モルモットなんだぞ。実験で殺すために飼ってんだぞ。バカメ。ひと思いに
や っ ち ゃ っ た っ て 同 じ こ っ ち ゃ ネ エ か 。」 と 笑 い 流 し 、 や が て 眠 っ て し ま う 。
「ハアハアゼエゼエ」という何者かの荒い息に甲が目を覚ますと、傍らに頭髪を半
分剃られ、無数の電極やチューブを体に差し込まれた上半身裸の男が立っている。
後ろ手に縛られ、かろうじて立っている衰弱したその男は、甲に対し、ひと思いに
殺してくれ等と訴えている。驚いてベッドから起き上がろうとして、甲は、自分が
手術台らしい台の上にベルトで固定されていることに気づく。突然女性の悲鳴がし
て、目を向けると、隣の手術台に横になっている女性が助けを求めている。甲は自
分の置かれている状況がまだ理解できない。しかし、その女性は手術台の両脇に立
っている手術着を着た二人の医師(実はネズミ)が腹部に麻酔注射をすると、やが
て 眠 っ て し ま う 。よ う や く 自 分 が 手 術 室 に い る こ と だ け は 認 識 で き た 甲 の 目 の 前 で 、
女性に麻酔注射をした医師は、その女性の頭皮をメスで切った後、頭髪ごと引き抜
き、むき出しになった頭部を鋸で切断した後、その首を切断して何の躊躇もなくゴ
ミ 箱 に 捨 て る 。医 師 が 、
「 失 敗 だ 。」、
「 次 は ど れ に し ま す か 。」と 言 い な が ら 切 断 し た
首を捨て、マスクを外すと、人間だと思っていたその医師は実はネズミであった。
ネズミは、愕然とする甲に考える余地を与えず、甲をモルモットにしようと甲の首
を押さえ甲のシャツを破いてしまう。甲は、夢だと思うことにより恐怖を克服しよ
うとするが、混乱したまま、やがてネズミによって眉間にがん細胞を注射される。
後 輩 の 研 究 医 に 肩 を た た か れ 、目 を 覚 ま す と 、甲 は 仮 眠 室 の ベ ッ ド に い る 。甲 は 、
やっぱり夢だったのかといったんは安堵し一服しようとして、ふと手元を見ると両
手 首 に 圧 迫 に よ る 痣 が あ り 、自 分 で は 脱 が な か っ た は ず の 服 が 傍 ら に 破 ら れ て あ り 、
さらに眉間にイボ(実は初期の皮膚がん)が出来ていることを知り、自分の見た夢
が現実だったのではないかと思い始める。しかし、治療室で落合に皮膚がんを治療
してもらっているうちに、そのまま甲は治療台の上で再び眠ってしまう。
突然点灯したライトの眩しさに甲が目を開けると、ネズミの医師が甲の顔をのぞ
き込み、落合の治療により治癒した甲の眉間のがん細胞を触っている。悲鳴をあげ
た甲は、先刻と同じように手術台にベルトで固定されている。自分の夢が現実かも
しれないと恐れている甲の前で、ネズミの医師達は、がん細胞が破壊された原因を
探 る た め 、甲 を 解 剖 す る こ と に す る 。執 刀 を 申 し 出 た ネ ズ ミ が あ り 、そ の ネ ズ ミ は 、
執刀の許可に対して不気味な笑みを浮かべ、甲に対し、自分が今朝甲によって麻酔
なしで解剖されたネズミであることを告げる。そして「人間の肌にメスを入れるの
っ て 一 種 の 快 楽 な ん で す よ ね 。」と 甲 が ネ ズ ミ に 対 し て 言 っ た 言 葉 と 同 じ こ と を 言 い
ながら麻酔なしに甲の腹部をメスで切り始める。
叫び声を上げる甲は、落合と後輩の研究医に起こされ、目を覚ます。再び夢であ
ったかと一瞬思う甲であったが、腹部に切り傷があり血痕があるのに気づき、やは
り現実なのだと確信する。落合は腹部の傷はポケットに入っていたメスによるもの
でメスの血糊と血痕の符合を見せ安心させようとするが、甲にはもはや自分の経験
が夢とは思えず、落合に対し、興奮した口調で、ネズミに解剖されて殺されてしま
うから自分を寝させないようにと訴える。落合は、甲が変な夢でも見たのであろう
と笑っているが、再び睡魔に襲われた甲が、眠るまいとしながらも、何か抵抗しが
たい別の力も加わって自分の脚にメスを突き立てる異常な行為を見て、徹夜続きで
精神的におかしくなっているのだろうと思い、甲を熟睡させるため精神安定剤を飲
ませ、眠らせる。
顔に何かの液体が垂れてきて甲が目覚めると、何者かが手にした臓器が目の前に
ある。激痛を感じた甲が自分の体を見ると、腹部が先程のネズミの医師たちによっ
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[地獄のタクシー]
て切り開かれ、内臓がむき出しになっている。ネズミは、甲の内臓に何ら抗体を作
る 特 別 な も の が な い と 分 か る と 、続 い て 脳 を 調 べ る こ と に す る 。ネ ズ ミ は 、
「助けて
く れ 。」 と 懇 願 す る 甲 に 対 し 、 笑 い な が ら 、「 大 丈 夫 で す よ 。 簡 単 に は 死 な な い よ う
に や り ま す か ら 。」 と 言 う な り 、 甲 の 眉 間 に メ ス を 突 き 刺 す 。
甲の眠っている治療室から甲の鋭い叫びがしたため落合が様子を見に中に入ると、
甲がメスを手にして体中切り裂かれた姿で死んでいる。
その後の落合ら同僚研究医二人の会話を通じて、甲の死因が自らの行為に良心の
呵責を感じたことによる自殺であり、全ては甲の夢であったことが匂わされるが、
最後に誰もいないはずの治療室が突然音をたてて開く。そのドアの方向を二人が振
り 向 く と 、 ネ ズ ミ が 姿 を 現 わ し 、「 お い 、 ま た モ ル モ ッ ト が 逃 げ て い る ぞ 。」 と 言 っ
て、現実である可能性を示唆して物語は終わる。
別紙2
豪 林 総 合 病 院 の 院 長 で あ る 主 人 公 の 豪 林 修 が 、診 療 室 で 若 い 医 師 の 沢 に 対 し て「 ク
ビ だ 。」と 強 い 口 調 で 言 っ て い る 。沢 は 豪 林 か ら 脚 の 切 断 手 術 を 命 ぜ ら れ て い る 車 い
すの高齢の女性患者の脚が治療により回復の兆候を見せており、手術を見合わせる
ことを説明しようとするが、豪林はこれを無視して、傍らにいる助手の近藤にその
患者の脚の切断を命ずる。異を唱えようとする患者の言葉を無視して、豪林は実験
スペースに向かう。実験スペースでは助手の野田が耳に白い模様のあるネズミに新
薬のテストをしている。豪林は野田に新薬の濃度を増やすよう命じ,ネズミが死ぬ
かもしれないという野田の言葉に対し、
「 や っ て み ん こ と に は わ か ら ん だ ろ う が 、ど
う せ ネ ズ ミ の 命 だ 。」と 言 い 放 つ 。そ こ に 自 分 の ペ ッ ト の ネ ズ ミ を 病 院 に 持 ち 込 ん だ
少年の入院患者が看護婦と共に現われ、野田が新薬のテストに使っているネズミが
自分の逃げたペットネズミであると豪林に訴える。しかし、豪林は少年を払いとば
し、
「 医 学 進 歩 の た め に 死 ね る な ら 、ネ ズ ミ も 本 望 だ 」と 言 っ て 少 年 の ペ ッ ト ネ ズ ミ
に注射を打ち、その結果死んでしまったネズミを少年に放り投げる。
場面が変わり、深夜の裏通りで酔っ払った豪林が野田、近藤らを連れて歩いてい
る。豪林は自分の医は仁ではなく金である等の病院経営や医学に対する考えを大声
で話す。やがて助手が豪林のためにタクシーを拾いに行き、一人残された豪林の目
の前に風変わりでレトロなタクシー「HELLCAB」が止まり、ドアが開く。豪
林は助手たちを呼ぶが返事がないため一人で乗り込んでしまう。顔がよく見えずど
こか不気味なタクシーの運転手は、豪林の職業が医師であると言い当てる。なぜ分
かったのかと聞く豪林に対し、運転手は、豪林に死の匂いがするからだと答える。
それを聞いて豪林は、自分の病院には重症の患者が多いし、新しい治療を試みれば
時には失敗もあると説明し、一人の患者、一人のネズミの命で何万人もの命が救え
るかも知れず、医学の進歩とはそういうものであり、自分にとっては患者もネズミ
も同じ実験動物であると述べる。そして、医者は現代の神であり、多少のことは許
されると語る。運転手から何か大切な物を忘れてないかと尋ねられ、豪林は財布を
忘れていたことに気づき、運転手に病院に向かうよう指示する。病院に着いてタク
シーを待たせて走っていく豪林に対し、運転手は忘れたのは財布などではないでし
ょうとつぶやく。
豪林が病院に入ると、宿直看護婦が誰もおらず、呼んでも誰も返事をしない。突
然 電 話 が 鳴 り 、豪 林 が 取 る と 、
「 い た い 、い た い 」と 苦 し そ う な 人 の 声 が す る 。電 話
の主は分からず不気味である。豪林は、ふざけるなと叫んで電話を切るが、さすが
に気味が悪くなってくる。その後、豪林が診療室に入り、財布を探していると、廊
下をこちらに向かって歩いてくる何者かの足音が聞こえ、それが診療室の前で止ま
る。豪林が思い切ってドアを開けると、そこには誰もいない。気のせいかと振り返
る と 、 青 白 い 顔 の 患 者 が 立 っ て い る 。 患 者 が 、「 心 臓 が 鼓 動 を 感 じ な い 。」 と 言 っ て
シャツをまくり上げると、心臓のあたりが丸く背中まで刳り抜かれている。それを
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[地獄のタクシー]
見 て 、そ れ が 二 年 前 に 死 ん だ 患 者 で あ る こ と に 気 付 い た 豪 林 が 、患 者 を 突 き 飛 ば し 、
診療室から飛び出すと、半透明の亡霊患者が廊下にあふれていて、豪林に対して、
豪 林 の 指 示 で 切 除 さ れ た 腕 、腎 臓 、脚 を 返 す よ う 訴 え な が ら 近 寄 っ て く る 。
「医学の
た め に 犠 牲 は つ き も ん だ 。」と 言 い な が ら 手 術 室 に 逃 げ 込 ん だ 豪 林 は 、何 者 か に 、後
頭部をハンマーで殴られ、気を失う。
気がつくと、豪林は手術台にベルドで固定されている。豪林が驚いていると、医
師、助手、看護婦らしき数人(実はネズミ)が近寄ってきて、そのうちの一人の医
師が新薬実験のため患部を摘出すると言う。その医師は叫んでいる豪林を「うるさ
い ネ ズ ミ だ 。」 と 呼 び 、「 ネ ズ ミ に 麻 酔 な ど 贅 沢 だ 。」 と 言 っ て 、 麻 酔 も せ ず 、「 ネ ズ
ミ一匹の命で何万人救われるかもしれん。医学進歩のためにはネズミの命なんて安
い も ん だ 。」と 言 う な り 、豪 林 の 右 脚 を 切 断 し 始 め る 。隣 に い た 看 護 婦 か ら 、患 部 は
左 脚 じ ゃ な か っ た か と 指 摘 さ れ 、そ の 医 師 は 、
「新しい治療を試みれば時には失敗だ
っ て あ る 。医 者 は 神 だ 。多 少 の こ と は 許 さ れ る 。」と 、豪 林 が 先 に 言 っ た 言 葉 と 同 じ
ことを言い、それを受けて全員が大笑いする。その顔がネズミの顔になっている。
それを見て豪林が絶叫する。
絶 叫 す る 豪 林 が 気 づ く と 、 タ ク シ ー の 中 に 座 っ て い る 。 豪 林 は 「 夢 だ っ た の か 。」
とつぶやき一瞬ほっとするが、運転手に夢の話をしながら脚を見てはっとし、脚に
触れた手が血塗れになっているのに気づき、再び絶叫する。運転手は、豪林が医者
でありながら命を粗末にした報いを受けるのだとし、このタクシーの行く先は地獄
であると告げる。タクシーを探している助手たちに向かって窓を叩きながら助けを
求める豪林を乗せたままタクシーは霧の中に消えてゆく。タクシーの行く手には
「死」があることを暗示することで終わる。
別紙3
題材
ストーリーの内容
ストーリーの展開・場面の流れ
映像・演出面の類似点・反転している点
別紙4
本件番組における不自然な設定や脚本と齟齬する部分について
一 本 件 番 組 の 脚 本 に お い て 、舞 台 は 、本 件 著 作 物 と 同 様 に 、大 学 病 院 で あ っ た が 、
本件番組では、総合病院が舞台となっている。そして、その総合病院では、新薬開
発のための実験が行われているが、臨床と研究が区別されている医学の分野におい
て 、一 般 の 総 合 病 院 に お い て 新 薬 開 発 の た め の 実 験 を 行 っ て い る の は 不 自 然 で あ り 、
また、診察室が診療用スペースと実験用スペースに分けられているというのも不自
然である。これは、本件番組が、本件著作物を基に、舞台となる場所のみを変えた
ために生じた現象であるというべきである。
二 豪林が手術台で目をさます場面は、脚本では、薄明からの中、目をさますこと
になっているが、本件番組では、本件著作物と同様に、手術用のライトに照らされ
て目をさましている。また、脚本では、豪林が手術台で目をさました際に頭を万力
のような器具で固定されていることになっているが、本件番組では、本件著作物と
同様に、頭を固定されていない。これらは、本件番組が、本件著作物を基に製作さ
れたことを示している。
三 脚本では、豪林が手術台で目をさました際の服装は特に指定されていないが、
本件番組では、豪林は、手術着を着たり、裸ということはなく、普通の服を着てい
る。これは、本件著作物と同じあるが、手術台で普通の服を着ているということは
通常はないから、このことは、本件番組が、本件著作物を基に製作されたことを示
している。
四 本件番組において、実験動物であるネズミの復讐を描くとしても、本件著作物
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[地獄のタクシー]
と同様にネズミが等身大化し、擬人化される必然性はない。また、豪林は、患者を
冷たく扱う医師であるから、患者から復讐されるならともかく、ネズミから復讐さ
れるというのは、不自然であり、ネズミは脚を切断されたわけではないから、脚を
切断するというのは、ネズミの復讐になっていない。さらに、本件番組では、ネズ
ミ は 、「 新 薬 実 験 の た め に 患 部 を 摘 出 す る 。」 と 言 っ て 、 脚 を 切 断 す る が 、 患 部 を 摘
出するために脚を切断するというのも、不自然である。これらは、本件番組が、本
件著作物を基に、それを改変して製作されたことを示している。
五 本件番組では、豪林が脚を切断される際にチェンソーが使われており、脚本に
は、
「 ギ コ ギ コ 」と い う 擬 音 が 記 載 さ れ て い る が 、脚 を 切 断 す る 際 に チ ェ ン ソ ー を 使
うのは不自然である。本件著作物では、人間がネズミに頭を手術用の鋸で切られる
場面があり、その場面に「キィコキィコ」という擬音が記載されている。本件番組
は、本件著作物とは手術の道具を変えたために不自然なものとなったのであり、し
かも、擬音は、ほぼそのまま残っている。これらのことは、本件番組が、本件著作
物を基に製作されたことを示している。
六 本件番組の題名は「地獄のタクシー」であり、タクシーが登場するが、豪林が
奇妙な体験をする場所である病院へは、豪林は、自らの意思で赴くのであり、タク
シーが案内するわけではない。また、豪林は、奇妙な体験をした後タクシーの中で
目ざめるが、豪林がいつタクシーの中で眠ったかはっきりしない。このように、タ
クシーと豪林の奇妙な体験との結びつきは不自然であり、このことは、本件番組は
本件著作物を基に製作されたものであって、タクシーは付加的に加えられたもので
あることを示している。
本件番組の初めのころに脚を切断される老婦人も後には登場せず、この人物も付
加的に加えられたものである。
別紙5
一 基本的ストーリーの相違
本 件 著 作 物 の 基 本 的 ス ト ー リ ー は 、実 験 動 物 は 実 験 で 殺 さ れ る た め の も の だ か ら 、
ひと思いに殺しても同じであるとの考えの下で、一種の快楽として実験ネズミを切
り 刻 む 大 学 病 院 の 研 究 医 が 、眠 っ て い る 間 に 、人 間 大 の ネ ズ ミ か ら 逆 に 残 酷 な 実 験 、
手術をされて殺されてしまうというものである。他方、本件番組は、医師のモラル
を忘れ、金銭欲と名声欲に走り、人間や動物の命を軽視する傲慢な総合病院の院長
が、神に代わって悪しき者を罰するという地獄のタクシーによって奇妙な世界であ
る 自 己 の 病 院 へ 運 ば れ 、そ こ で 手 術 ミ ス を し て 死 な せ た 患 者 の 亡 霊 か ら 襲 わ れ た り 、
簡単に殺してしまったネズミから手術を受けて脚を切断されたうえ、地獄のタクシ
ー に よ っ て 地 獄 へ 連 れ 去 ら れ る と い う 基 本 的 ス ト ー リ ー を と る 。両 者 を 比 較 す る と 、
等身大の実験動物から復讐又は逆襲されるという展開がある点で似た部分はある。
しかし、この部分は、ありふれた表現であって創作性が認められないものである。
その上、この部分は、本件著作物においては、基本的ストーリーとなっていると言
えるであろうが、本件番組においては、院長が罰として病院の犠牲者らを通じて受
ける恐怖や復讐の中のひとつのエピソードに過ぎないものであって、この部分を取
出してこれが本件番組の基本的ストーリーであると決め付けるのは針小棒大という
ものである。
本件番組においては、ネズミから脚を切断された院長は、悲鳴を上げて助けを呼
ぶなかで、おぞましい顔を現した運転手の運転する地獄のタクシーによって、永遠
の罰を受けるという地獄へ連れ去られて、ストーリーのクライマックスが来る展開
となるのであって、ネズミから復讐を受けて終わりものではない。
二 テーマの相違
本 件 著 作 物 の テ ー マ は 、「 動 物 実 験 」 又 は 「 そ の ひ ど さ ( 残 酷 さ )」 に あ り 、 本 件
著作物には、純粋に実験のためというよりも実験者の快楽のためと思われるが、残
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[地獄のタクシー]
酷な動物(人体)に対する実験やその頭部を一刀のもとに切断するようなシーンが
繰り返し出てくる。これに対し、本件番組においては、最初の部分で、院長が新薬
実験中のネズミについて、
「( 新 薬 の )濃 度 を 増 や し て み ろ 。」、
「 ど う せ ネ ズ ミ の 命 だ 。」
と 言 う シ ー ン と 、続 い て 少 年 の ペ ッ ト の ネ ズ ミ に 自 ら 注 射 を し て 、
「医学進歩のため
に 死 ね る な ら ネ ズ ミ も 本 望 だ 。」と 言 う シ ー ン が 出 て く る が 、こ こ で は「 動 物 実 験 の
ひ ど さ( 残 酷 さ )」と い っ た 印 象 を 受 け る と い う よ り も 、む し ろ 院 長 の 患 者 や 部 下 に
対する態度とあいまって、院長の傲慢で人や動物の命を粗末にする性格についての
印象を強く受ける。ほかに、本件番組に「動物実験の残酷さ」を感得できる展開も
な い の で 、本 件 番 組 か ら 、
「 動 物 実 験 の 残 酷 さ 」と い う 本 件 漫 画 の テ ー マ を 直 接 感 得
できるものではない。本件番組のテーマは、医の仁術を忘れて算術に走った典型的
悪徳医師を神に代わる者(地獄のタクシー)が奇妙な世界となった病院や地獄に連
れ て 行 っ て 罰 す る 、広 く 言 え ば 、勧 善 懲 悪 が そ の テ ー マ で あ る こ と は 明 ら か で あ る 。
三 登場するもの及びそのキャラクターの相違
本件著作物には、研究医、その同僚男女数名、実験用ネズミと等身大のネズミが
登場する。これに対し、本件番組に登場するのは、ストーリーテラーから始まり、
地獄のタクシーとその運転手、院長、その部下、実験用ネズミ、ペットのネズミ、
脚を切られる患者の老婆、ネズミを殺される少年患者、多数の患者の亡霊、等身大
のネズミなどバラエティに富んでいる。登場するものは、すべて、本件番組のテー
マからみて必要不可欠なものである。まず、ストーリーテラーは、シリーズ番組で
ある「世にも奇妙な物語」に毎回登場し、ドラマの一番初めにテーマを述べて視聴
者の興味を喚起し、最後に締めくくりをするために不可欠の存在であるし、地獄の
タクシーやその運転手は、神に代わって、奇妙な世界となった病院へ連れて行った
り、最後に地獄へ院長を連れ去ったりする者で、院長を罰するという基本テーマか
らして、必須の存在である。また、院長の性格を浮き彫りにするためには、院長を
取 り 巻 く 部 下 、老 人 患 者 、実 験 用 ネ ズ ミ 、少 年 患 者 及 び そ の ペ ッ ト の ネ ズ ミ な ど が 、
必要かつ有用な存在である。さらに、奇妙な世界において院長に対し病院の犠牲者
による復讐を通じて恐怖を与えるには、病院の犠牲者たる患者の亡霊や手術医の格
好をしたネズミなどを登場させることは自然であるし、これらも必要かつ有用な存
在である。
本件著作物において、研究医は、実験動物は実験で殺されるためのものだから、
ひと思いに殺しても同じであるとの考えの持ち主で、一種の快楽として(表情にも
喜びを浮かべて)実験ネズミを切り刻む行動をとる。これに対し、本件番組におい
て、院長は、自己の金銭欲や名声欲が満たされるときには喜びや快感を覚えるので
あろうが、ネズミを切り刻む行為に喜びを感じるといった印象はどうしても感得で
きない。
別紙6
謝罪広告
平成七年一〇月四日フジテレビジョン及び同系ネットワーク局において放送され
た『世にも奇妙な物語・秋の特別編』の中の『地獄のタクシー』は、貴殿の漫画作
品 『 先 生 僕 で す よ 』(『 ハ ッ ピ ー ピ ー プ ル 』 第 二 巻 ・ 集 英 社 刊 収 録 ) を 無 断 で 利 用
し、その内容を改変したものであることを認めます。これにより、貴殿の著作権及
び著作者人格権を侵害し、多大のご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。
今後前記映画作品は、再放映いたしませんし、これを小説化したり二次的作品化
することはいたしません。
平成 年 月 日
株式会社 フジテレビジョン
株式会社 共同テレビジョン
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脚本家 中村樹基
釋英勝殿
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