歩行障害に対する脳神経外科的治療 - TOHO Univ.講座・研究室一覧サイト

歩行障害に対する
脳神経外科的治療
2011年4月23日
市民公開講座
•脳深部刺激療法(DBS)
•髄液シャント術
•バクロフェン髄腔内投与
療法(ITB療法)
脳深部刺激療法/DBSとは・・・
DBS = Deep Brain Stimulation
脳の深部(視床、淡蒼
球、視床下核)に、機
能改善を目的として微
弱な電気インパルスを
放出する電極を脳に
埋め込む治療法。
電極を正確に脳内に埋め込む手術⇒
定位脳手術
穿頭あるいは小開頭を行って、脳の表面
から細い穿刺針を脳深部の病変部に正確
に進めて治療や検査を行う。
あらかじめ計測用のフレームで頭部を固
定しておき、CTスキャンもしくはMRIにより
病変部の位置を1mm以下の精度で計測。
これにより、脳の深部にある病変部に正確
に針を進めることが可能となる。
脳深部刺激療法の刺激部位(ターゲット)
脳深部刺激療法の効果
6
脳深部刺激療法の効果
• Off Timeの減少
Offの底上げ効果
• On Timeの増加
Onの肩代わり効果
• 薬剤の減量効果
・・ ・薬剤で誘発される異常運動(ジスキネジア)や
幻覚の減少
⇒日常生活の活動性の向上
手術効果が期待できるパーキンソン病の状態は・・・
「パーキンソン病の定位脳手術の適応と手技の確立に
関する多施設共同研究」班の手術適応指針
①L-DOPAに対する効果がある。
②十分な薬物治療が行われている。
③Hoehn&Yarh Stage:
On period;
Off period;
④全身状態が良好である。
⑤知能が正常である。
⑥情動的に安定している。
⑦画像上、著明な脳委縮のないこと。
⑧本人の同意が得られる。
1-3
3-5
脳深部刺激療法の手術の流れ①
定位脳手術装置を装着
標的の位置を測定
穿頭術
標的を同定
リード植込み、試験刺激
閉頭、手術後出血有無の確認
CT、MRIを検査し、脳地図(アトラス)と脳ナビ
装置を利用して脳内の基規準線(前交連と後
交連)、手術目標点の位置及び穿刺部位を決
定。
微小記録電極を脳内標的に挿入、記録装置を
用いニューロンの電気活動信号を記録する。さ
らに刺激を行い症状の変化を観察し、目標部
位の同定を行う。
決定した脳内の標的に脳深部刺激電極(リー
ド)を入れ替え留置し、その後体外式刺激装
置を繋ぐ。
刺激テストを行い、刺激の効果とリードの位置
を確認する。
定位脳手術装置を装着
標的の位置を測定
11
穿頭術
リード植込み
リード植込み
電極間隔が1.5ミリ
電極間隔が0.5ミリ
直径:1.27mm
材質:ポリウレタン
脳深部刺激療法の手術の流れ②
1.
2.
3.
手術後検査:手術後数日して留置
電極の位置の確認のためMRI撮
像を行う。
試験刺激:リードを体外式の刺激
発生装置につなぎ最適刺激部位、
刺激条件(強度、幅、周波数)を決
定する。
刺激発生器(IPG)の植込み:試験
刺激で有効性を確認し、その後全
身麻酔下でIPGを前胸部に植込み
皮下で脳深部刺激電極のリード線
と繋ぐ。
刺激装置
体内用パルスジェネレーター
(IPG=implantable pulse generator)
寸法:55×60×10(mm)
重量:49g
材料: チタン
電気回路と電池が内臓
単純レントゲン写真
CTスキャン
DBSの留意点
 電池寿命により、入れ替え手術が必要(電
池寿命は数年程度、使用条件による)
 刺激により神経活動を活発化させるので
はなく刺激電流により刺激部位をシビレさ
せ機能麻痺を誘発
 手術は安全だが、リスク0%ではないこと
– 1-2%の脳内出血(症状の持続は0.5%)
– 感染3-4%、抗生剤の使用。時に材料の
抜去が必要である
DBS使用上の注意点
(原則禁忌)
 MRI
MRI(原則禁忌)
(禁忌)
 ジアテルミー
ジアテルミー(禁忌)
 経頭皮磁気刺激装置、精神科用の
電気ショック療法装置
手術合併症
①出血性合併症:1~2%
②システム植え込みに関する合併症:3~4%
潰瘍形成と感染が多い。
③刺激による有害反応:
精神症状、感覚障害、構語障害、
ジスキネジアの悪化、めまい・頭痛、
眼球運動障害
精神症状: 17%で発生。ほとんどが一過性。
術前L-DOPA減量でも効果のない精神症状は
不変もしくは悪化することがある。
脳深部刺激療法で改善が期待できる症状
 振戦
 筋固縮
 無動・寡動
 姿勢反射障害
 薬剤の副作用
◇
髄液シャント術(短絡術)
◇髄液シャント術(短絡術)
水頭症
特発性正常圧水頭症
(iNPH: Idiopathic Normal
Pressure Hydrocephalus )
• 髄液の循環
– 頭の中には髄液が流れています。
– 髄液は体の中で一番透き通っている液体
(99%水)です。
– 脳室と呼ばれる風船のような脳の中心部
の部屋の中で髄液が作られます。
– 脳室内で作られた髄液は脳と脊髄の周りを
循環して静脈に吸収されます。
– 髄液は1日に約450ml産生され、2,3回入
れ替わっています。
– 髄液は体の中で一番透
き通っている液体
(99%水)です。
– 脳室と呼ばれる風船の
ような脳の中心部の部
屋の中で髄液が作られ
ます。
– 脳室内で作られた髄液
は脳と脊髄の周りを循
環して静脈に吸収され
ます。
– 髄液は1日に約450ml産
生され、2,3回入れ替
わっています。
水頭症とは
何らかの原因で髄液の流れや吸収が妨
げられると脳室に髄液が溜まってパンパン
になり、脳室が大きくなり脳を圧迫する。
頭蓋内圧が高くなって、様々な症状が出
てくる。
頭蓋内圧が正常範囲(150~180㎜H2O)
でありながら、脳室拡大と神経症状が現れ
る場合がある(高齢者)。
拡大した脳室のCT像
脳萎縮? 水頭症?
・脳室拡大
・高位円蓋部
のくも膜下腔
狭小化(脳溝
消失)
・シルビウス
裂拡大
INPHの画像所見の特徴
特発性正常圧水頭症 アルツハイマー病
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程度が
相関していない
血管性痴呆
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程
度が相関している
• 脳室の拡大。シルビウス裂の拡大。
• 高位円蓋部の髄液腔の狭小化。
• MRI上の脳室周囲および深部白質変化は健常者に比べて高頻度
で強いが必須の所見ではない。
正常圧水頭症は高齢者に多く発症
特発性正常圧水頭症:原因が不明で、先行
疾患が明らかでないために見過ごされる
可能性がある。
続発性正常圧水頭症:くも膜下出血の後に
多く、先行疾患が明らかなため的確に治
療されている。
水頭症の治療
◇
髄液シャント術(短絡術)
◇髄液シャント術(短絡術)
シャントシステム
なぜ、iNPHになるの?
何らかの原因で、髄液循環がスムースでなくなる
脳室や髄液腔(クモ膜下腔)が拡大すると周囲の
脳組織を 圧迫したり、血流が悪くなる。
歩行障害・認知症・尿失禁といった症状が進行す
る。
高血圧・糖尿病などが
INPHになる危険因子
特発性正常圧水頭症が
注目されてきたのは
• 高齢者の増加
• 歩行障害、認知症、尿失禁といった
状の改善によって介護度が軽減可能
症
• シャント有効例の選択が高い確率で可能とな
り装置も改良された。
• 特発性正常圧水頭症診療ガイドラインの発
行(平成16年5月)
特発性正常圧水頭症:iNPH
三徴候の頻度は?
歩行障害(94~100%)、認知症(69~98%)、尿失禁(54~83%)
歩行障害(94~100%)、認知症(69~98%)、尿失禁(54~83%)
特発性正常圧水頭症:iNPH
歩行障害の症状
•小刻み歩行 (小股でよちよち歩く)
•外股歩行 (足が開き気味で歩く)
•すり足歩行 (足が上がらない状態)
•不安定な歩行(特に転回時)
•第一歩が出ない (歩きだせない)
•突進現象 (うまく止まれない)
•号令や目印で歩行改善が乏しい。
特発性正常圧水頭症:iNPH
認知症/尿失禁の症状
認知症
•記銘力低下
•知的作業速度低下
•反応性・自発性の低下
尿失禁
•切迫性尿失禁
iNPHガイドライン:診断フローチャート
iNPH
60歳以上、症状(歩行障害、
認知障害、尿失禁の一つ以上)
他の神経・非神経疾患で説明不可
脳室拡大:Evans index>0.3
先行疾患不明
[高位円蓋部脳溝狭小化]
神経内科、脳神経外科に紹介
possible
腰椎穿刺:圧20cm水中以下、細胞蛋白増加なし
実際には髄液が水様透明でCSFタップテストを可能とする
CSF タップテスト :30ml/回
経過観察
*
probable
症状改善
シャント術実施
症状非改善
(適応あれば)
*CSFタップテストまたはオプションが
陽性ならprobable INPHとする。
再度CSF tap test
改善あればシャント術実施
オプション:
CSFドレナージテスト
髄液流出抵抗測定
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ICPモニタリング 等
iNPH診療ガイドライン
CSF タップテスト
•
•
•
•
•
穿刺・髄液排除は1回
髄液排除量は30ml、または終圧0mmH2O
穿刺針は太いものを使用(19ゲージを推奨)
歩行障害の変化が簡便かつ最も確実な指標
症状改善は数日以内にみられる
– 歩行障害の改善は早い時期より
– 認知機能障害の改善は少し遅れる
→評価はタップ前とタップ翌日および1週間後の3回
おこなうのが望ましい
→症状非改善例は再タップテストの選択もあり得る
特発性正常圧水頭症:iNPH
髄液排除試験≪タップテスト≫
症状
+
脳室拡大+
CSF
タップテスト
歩行障害などの
症状の改善が得
られたら髄液シャ
ントが有効とわか
ります。
・30mlほどの髄液を排出
脳室・くも膜下腔の術前・後の変化
術前
シャント術後
手術後シルビウス裂、脳室ともに縮小
術後
シャント前後での変化
シャント術前
シャント術後
脳室の容積の低下とともにシルビウス裂の容積も低下した。
iNPH術後の短期, 長期予後は
わかっているか?
早期改善率:歩行障害80〜90%, 痴呆30〜80%,
尿失禁20〜80%
術後3ヶ月〜5年の追跡では、シャント効果は短期(3ヶ
月〜2年)で31〜100%、長期(3年〜5年)で67〜91%
とする報告(1,2,3)があり、高齢者であっても長期間効果
の持続する例も多い。
(1) Krauss JK ら, 1996
(3) Mori Kら, 2001
(2) Raftopoulos C ら, 1994
バクロフェン髄腔内投与療法
(ITB療法)
脳から脊髄のどこか(あるいは両方)を壊してし
まう病気で生じる痙縮(けいしゅく)に対する新しい
治療法です。痙縮とは筋肉に力がはいりすぎて棒
のようになり、動きにくかったり、勝手に動いてしま
う状態で、医学的には反射が過度に亢進してし
まった状態とされます。 わずかな刺激で筋肉に異
常な力がはいり、動きにくいだけでなく、突っ張っ
た筋肉に強い痛みやシビレ感がみられることもあ
ります。日常生活動作が障害され、生活の質
(QOL)の低下を生じます。
ITB療法は、バクロ
フェンという薬を体内に
埋め込んだ持続注入ポ
ンプから脊髄の周囲へ
持続的に直接投与する
ことにより、痙縮をやわ
らげる方法。
内服薬では、薬の作
用部位である脊髄へ移
行しづらく効果が不充
分なために直接脊髄周
囲へ投与するITB療法
が開発された。
バクロフェンの作用
筋肉を動かす際には、動かすだけでなく、余計な動きを
させないように指令する物質(GABA《ギャバ》という抑制
性の神経伝達物質)が脊髄で働き、スムーズな動きがで
きる。痙縮(けいしゅく)
では、そのバランスが
崩れ、筋肉が過度に
緊張したり、余計な筋
肉が緊張したりする。
バクロフェンは
GABAと同様に働き、
バランスを取り戻すこ
とで痙縮をやわらげる。
ITB療法の効果
1.固くなった下肢の筋肉・間接をやわらかく、動
かしやすくする。
2.筋肉のけいれん(攣縮:スパズム)をおさえる。
3.胸やおなかの締め付け感をおさえ、呼吸を楽
にする。
4.痙縮による痛みをやわらげる。
5.筋肉の突っ張り感や痛みで生じていた睡眠障
害を改善。
6.日常生活動作の改善。
≪まとめ≫
•脳深部刺激療法(DBS):パーキンソン病の
歩行障害を改善する
•髄液シャント術:歩行障害、認知症、尿失
禁といった特発性正常圧水頭症(iNPH)
の症状を改善する。
•バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法):
痙縮による歩行障害を改善する。