中国地域における セルロースナノファイバー関連産業 創出可能性調査 報

中国地域における
セルロースナノファイバー関連産業
創出可能性調査
報
告
書
平成28年3月
公益財団法人
ちゅうごく産業創造センター
巻頭言
巻
頭
言
近年、気候変動問題や化石資源枯渇問題といった社会課題の解決に向けて、再生可能
な資源である木の利用に関心が集まっています。その中でも、注目を集めているのがセ
ルロースナノファイバーです。これは木を構成する繊維をナノレベルまで細かくほぐす
ことで生まれる新しい素材で、「鉄より強く、軽量な植物ファイバー」として自動車部
品、情報電子材料、包装材料への応用が期待され、2030(平成 42)年までに1兆円の
関連市場の創出につながるといわれています。
セルロースナノファイバーに関しては「日本再興戦略 2014・2015」への記載、ナノ
セルロースに関する産学官連携・普及促進のためのコンソーシアムである「ナノセルロ
ースフォーラム」が設置されるなどの社会的関心の高まりがみられ、各地においても地
域推進組織が立上げられるなど急速な展開が図られています。
このようなセルロースナノファイバーに関連した調査については、日本全体としての
普及促進のための方向性等について行われてきましたが、地域展開のあり方について実
施されたものは今までに少なく、中国地域のポテンシャル、各地域の状況等も含めその
実態を明らかにする意味から本調査が実施される運びとなりました。
本調査結果の一つとして、中国地域においては、岡山県における先進的な展開や潜在的
な参入者の存在は確認できるものの、全般的には域内において「点」在している状況で
あり、この「点」を「線」へ、さらに「線」から「面」へ、「面」から「層」へと、セ
ルロースナノファイバー関連産業の集積を広げ深めていくための交流・連携方策の実施、
体制構築の必要性が挙げられました。
今回の委員会においては以上のような課題に対し、セルロースナノファイバーの研究
者、セルロースナノファイバーを製造する川上企業、利用先の有望分野として目される
プラスチック、木製品、石油化学等の様々な分野から参加および多岐に渡る視点からの
意見交換を経て、セルロースナノファイバー関連産業創出のための方向性を取りまとめ
ました。本報告書が、中国地域の企業・行政の皆様にとりまして、セルロースナノファ
イバーに関する理解促進や今後の事業・支援活動の一助となれば幸いです。
最後に、本調査においては、調査機関として、一般財団法人岡山経済研究所のご協力
をいただきました。さらに、全国・中国地域の企業・行政・学識者等に対して実施した
ヒアリング調査は本調査の根幹をなしています。これらの調査にご協力いただいた関係
各位に厚く感謝いたします。
平成 28 年 3 月
「中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出可能性調査」委員会
委員長 遠藤 貴士
委員会名簿
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出可能性調査
委 員 会 名 簿
(委員:所属名の50音順、敬称略)
区 分
氏
名
所 属 ・ 役 職
委員長
遠藤 貴士
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門
セルロース材料グループ 研究グループ長
副委員長
合田 公一
山口大学 大学院理工学研究科 システム設計工学系学域 教授
中村 哲
委 員
(第1回委員会)
堤
孝行
伊藤忠商事株式会社 中四国支社 企画開発部長
(第 2~3 回委員会)
委 員
松前 智之
株式会社ウッドワン 技術開発部 係長
委 員
加島 健二
岡山県 産業労働部 産業振興課 総括参事(新産業推進班長)
委 員
内田 哲也
岡山大学 大学院自然科学研究科 応用化学専攻 准教授
委 員
松本 晴美
中国経済産業局 地域経済部 地域経済課 課長
委 員
川村 芳宏
中国経済連合会 部長
委 員
沼
株式会社トクヤマ 化成品開発グループ 主任
委 員
伊藤 弘和
トクラス株式会社 事業開発推進部 WPC 事業推進グループ
グループ長
委 員
横山 伸也
公立鳥取環境大学 環境学部 環境学科 教授
委 員
中村 諭
株式会社日本製鋼所 広島研究所 押出成形グループ
グループマネージャー
委 員
中井 靖
真庭市 産業観光部 産業政策統括監
委 員
佐藤 敦
丸紅株式会社 中国支社 支社長
委 員
稲場 荘一
三井物産株式会社 機能化学品本部 戦略企画室
シニアマネージャー
委 員
山本 顕弘
モリマシナリー株式会社 セルロース開発室 室長
委 員
津田 昭彦
山口県 商工労働部 新産業振興課 産業クラスター推進班 主査
オブザーバー
矢田 照雄
中国経済産業局 資源エネルギー環境部 環境・リサイクル課
課長補佐
事務局
佐原 一弘
公益財団法人ちゅうごく産業創造センター 専務理事
事務局
楫野 肇
公益財団法人ちゅうごく産業創造センター 常務理事
事務局
石岡 孝治郎
公益財団法人ちゅうごく産業創造センター 調査部部長
シンクタンク
難波 公司
一般財団法人岡山経済研究所 理事
シンクタンク
山本 智之
一般財団法人岡山経済研究所 主任研究員
シンクタンク
井上 治郎
一般財団法人岡山経済研究所 主任研究員
寛
要約版
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出可能性調査〔要約〕
調査の目的と報告書の構成
調 査 目 的
木質バイオマス由来のセルロースナノファイバーは、軽量の素材でありながら鋼
鉄の5倍以上の強度を持つこと、熱による変形が少ないことなどの特徴があること
から、自動車部品、情報電子材料等への応用により、2030(平成 42)年までに1
兆円の関連市場の創出につながるといわれ、高機能な次世代素材として複数の産学
官グループにより研究が進められている。
中国地域は、原材料となる豊富な森林資源を有することに加え、産業技術総合研
究所(東広島市)
、生産設備を有する企業など利活用の中核となる組織が存在して
いる。こうした地域の強みを活かすため、国内におけるセルロースナノファイバー
素材開発および関連製品の実用化の状況・見通しを整理したうえで、地域における
取組企業・参入可能な企業等の実態、川下企業におけるニーズ等の把握を行い、セ
ルロースナノファイバー関連産業の創出可能性や推進拠点整備等のための検討を
行う。
報告書の構成と調査フロー
1.セルロースナノファイバーに関する技術開発・実用化等の動向【文献調査】
○木質バイオマスの利活用に向けた取組み ○セルロースナノファイバーとは
○セルロースナノファイバーの作製方法 ○セルロースナノファイバーの用途開発と実用化への取組み
2.セルロースナノファイバーに関する他地域の取組状況【ヒアリング調査】
○他地域ヒアリング調査の概要
○結果概要
3.アンケート調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状【アンケート調査】
○研究機関アンケート調査
○企業アンケート調査
○川下企業アンケート調査
4.ヒアリング調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状【ヒアリング調査】
○中国地域ヒアリング調査の概要(研究機関、川上企業、川下企業)
○調査概要
5.セルロースナノファイバーに関する有識者の意見【ヒアリング調査】
○有識者ヒアリング調査の概要(研究機関、企業)
○結果概要
6.中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出の可能性
○中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理
○セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性と取組施策
セルロースナノファイバーとは
木材などの植物繊維の主成分であるセルロースをナノサ
イズ(1mm の百万分の1)にまで細かく解きほぐすことに
より得られる産業資源である。 (報告書 P19-24 参照)
- i -
セルロースナノファイバー
1.セルロースナノファイバーに関する技術開発・実用化等の動向
(1)木質バイオマスの利活用に関する中国地域における取組み (報告書 P11 参照)
林工一体型「SMART 工場」モデル
○おかやまグリーンバイオ・プロジェクト
岡山県では、環境に配慮した産業の創出を図る
ために「おかやまグリーンバイオ・プロジェクト」
推進事業を展開している。県内企業等によるセル
ロースナノファイバー等の高機能化・生産性向上、
木質バイオマスを利活用した製品や用途に関わる
研究開発・事業化の支援に取組み、地域経済の活
性化と循環型社会の形成を目指している。
(2)セルロースナノファイバーとは (報告書 P19 参照)
a.セルロースの構造
リグノセルロースの構造
セルロースは、木材の約 50%を占め
る主要成分であり、自然界にもっとも
多量に存在する有機化合物である。
セルロース
(鉄骨の役割)
ヘミセルロース
(鉄筋とコンクリ
ートの介在、結合)
木材はセルロースのほかに、ヘミセ
ルロース、リグニンが主要成分として
リグニン
(コンクリート)
構成されているが、セルロース同士が
絡まり、束になって強い細胞組織をつくっている。パルプは木材や草などから抽出した
植物繊維であるが、その主成分はセルロースであることが知られている。
b.ナノセルロース(セルロースナノファイバー)の種類
セルロースをナノサイズに解繊して作成される
セルロースナノファイバー
ナノセルロースを大別すると、木材などの植物由来
のセルロースナノファイバーとセルロースナノク
リスタル、微生物がつくるバクテリア(ナノ)セル
ロースなどがある。また類縁体としてカニやエビの
殻の細胞壁に存在するキチンナノファイバーなど
がある。
項 目
種 類
幅
長 さ
別の
呼び方
出典:産業技術総合研究所
ナノセルロース(NC)
機能化学研究部門
HP
〔参考〕
セルロースナノファ セルロースナノ
イバー(CNC、CeNF) クリスタル(CNC)
バクテリア(ナノ)
セルロース(BNC)
キチンナノファイ
バー
3~100nm
5μm 以上
「ナノ(ミクロ)フ
ィブリル化セルロー
ス」、「ナノフィブリ
ル」、「セルロース系
ナノ繊維」など
20~100nm
1.5~5.0μm
「バクテリアナノフ
ァイバー」、「バイオ
セルロース」など
10~20nm
1μm 以上
「マリンナノファ
イバー」など
(※キチンナノク
リスタルも存在)
10~50nm
100~500nm
「ナノクリスタルセ
ルロース」、「セルロ
ースナノウイスカ
ー」、「セルロース系
ナノ結晶」など
- ii -
c.セルロースナノファイバーの特徴と用途
セルロースナノファイバーには多くの特徴があり、様々な分野での実用化に向け産学
官で取組みがなされている。
特
徴
超極細の繊維(最小の繊維幅は3nm)
大きな比表面積
高弾性
軽量な素材でありながら鋼鉄の5倍以上の強さ(高強度)
熱による寸法変化が小さい(石英ガラス相当)
植物由来であるために環境が少なく持続可能な資源
豊富な森林資源が原料であるために膨大な資源量をもつ
用途展開
用
途
潜在市場(小)
潜在市場(大)
セメント
自動車車体
自動車内装
包装材のコーティング
紙のコーティング
包装材の充填剤
紙の充填剤
プラスチック包装の代替
プラスチックフィルムの代替
衛生、吸収製品
衣類用繊維
特殊・新興市場
壁板の表面仕上げ
断熱材
航空機の構造材
航空機の内装材
石油・ガス産業用エアロゲル
建設用塗料
特殊用塗料
OEM 用塗料
センサー(医療用、環境用、産業用)
建設用補強繊維
水のろ過・浄化
空気のろ過
粘度調整剤
化粧品
医薬品賦形剤、添加剤
有機発光ダイオード
フレキシブルプリント基板
太陽光発電
リサイクル可能な電池
3D印刷
資料:JOHN COWIE,et.al.,”Market projections of cellulose nanomaterial-enabled products − Part 1: Applications” TAPPI
JOURNAL.VOL.12 NO5.2014
主 な 取 組 機 関 (報告書 P41 参照)
大学・研究機関(
「学」
)
学①
学②
学③
学④
京都大学 矢野教授G(京都市)
東京大学 磯貝教授G(東京都文京区)
九州大学 近藤教授G(福岡市)
産業技術総合研究所 遠藤グループ長(広島県東広島市)
行政機関(
「官」
)
官①
官②
官③
官④
官⑤
官⑥
官⑦
官⑧
静岡県
富山県
三重県
近畿経済産業局
京都市
岡山県
愛媛県・愛媛大学
薩摩川内市(鹿児島県)
産①
官②
産⑥
学④
官⑥
官⑤
産⑧
学①
iti
産⑨
学③
官④
官⑦
官⑧
産⑤
産②
産⑪
産⑦
企業(
「産」
)
産④
官①
官③
産⑩
- iii -
学②
産③
産①
産②
産③
産④
産⑤
産⑥
産⑦
産⑧
産⑨
産⑩
産⑪
星光 PMC㈱(茨城県龍ヶ崎市)
第一工業薬品㈱(新潟県上越市)
王子製紙㈱(東京都北区)
吉田機械興業㈱(愛知県名古屋市)
㈱スギノマシン(富山県魚津市)
中越パルプ工業㈱(富山県高岡市)
大阪ガス㈱(大阪市)
モリマシナリー㈱(岡山県赤磐市)
日本製紙㈱(山口県岩国市)
大王製紙㈱(愛媛県四国中央市)
旭化成せんい㈱(宮崎県延岡市)
2.セルロースナノファイバーに関する他地域の取組状況
セルロースナノファイバーに関する実用化の動向および推進体制等を把握するた
め他地域ヒアリング調査を実施した。
(1)ヒアリング先 (報告書 P56 参照)
地区
ヒアリング先
No.
静岡県 経済産業部
商工業局 商工振興課
三重県産業支援センタ
②
ー・三重県工業研究所
①
中部
地域
③ 富山県新世紀産業機構
関西
地域
四国
地域
九州
地域
④ 京都市産業技術研究所
⑤
愛媛大学
紙産業イノベーションセンター
⑥
高知県
紙産業技術センター
⑦ 薩摩川内市役所
取組概要(地域組織)
域内関連企業・研究機関(製法)
「ふじのくに CNF フォーラム」
事務局
「みえセルロースナノファイ
バー協議会」事務局
「とやまナノテククラスター」
事務局
地元製紙メーカー(-)
第一工業製薬㈱ 四日市工
場(TEMPO 酸化法)
中越パルプ工業㈱(ACC 法)
㈱スギノマシン(ACC 法)
京都大学 矢野教授
(二軸混練法等)
「部素材産業-CNF 研究会」
プロジェクトマネージャー
地域紙産業界のニーズ対応・新
規シーズ開発の研究拠点
(四国CNF構想)
製造装置を新規導入し、取組開
始予定
大王製紙㈱(機械的解繊法)
地元製紙メーカー(ACC 法)
中越パルプ工業㈱
川内工場(-)
「竹バイオマス産業都市協議
会」 事務局
(2)ヒアリング結果概要 (報告書 P57 参照)
項
目
活動の
特 徴
主
な
課
題
用途
開発
人材
技術
内
容
・地域フォーラムの立上げ等、セルロースナノファイバーによる産業振興モデルの確
立に向けた動きがみられる。
・特定の製法との結付きによる緩やかな囲込みが進展している。その一方で、補完的
関係の構築のため地域間連携への期待もみられる。
・地域の公設試験研究機関等を中心とした事業展開を指向するケースが多い。
・素材としてのポテンシャルは高いものの、明確な用途がまだ見付けられていない。
明確な用途が見つからないためスケールアップができないというジレンマもある。
・展開が急ピッチのため、地域の公設試験研究機関等においては人材面での供給が追
い付いていない面がある
・工業材料としての量産化、大量利用に向けての品質安定(均一化、均質化)が求め
られている。
3.アンケート調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
中国地域アンケート調査として大学・公設試験研究機関等向けの「(1)研究機関アン
ケート調査」、セルロースナノファイバーの製造に関連する「(2)川上企業アンケート
調査」
、同じく利用が期待される「
(3)川下企業アンケート調査」の3種類を実施した。
区
分
(1)研究機関アンケート調査
(2)川上企業アンケート調査
(3)川下企業アンケート調査
対
象
大学・公設試
企業
(木材、製紙、一般機械等)
企業
〔(2)以外の製造業〕
- iv -
対象数
回答数
回答率
60
25
41.7%
577
109
18.9%
2,266
334
14.7%
(1)研究機関アンケート調査結果 (報告書 P64 参照)
【今後の研究開発・技術支援の意向】
【研究開発の実績】
〔主な意見・コメント〕
・研究員を確保するために、広域で研究開発に取組むことが必要。
・5年スパンの支援が最低でも必要である。現状は数多くのシーズが眠っていると思われる。
・研究者ネットワークを広げていく中で、安定した品質のセルロースナノファイバーを安価かつ
定常的な供給する体制の構築が求められる。
(2)川上企業アンケート調査結果 (報告書 P72 参照)
【認知度】
【今後の研究開発・実用化の意向の意向】
〔主な意見・コメント〕
・セルロースナノファイバーは低濃度の水分散体であるため使用しづらいケースがある。
・梱包用バリアシートへの利用に興味はあるが、納入先からは品質(性能)よりコスト要請が強
い状況。したがって、価格低下がまず重要。
(3)川下企業アンケート調査結果 (報告書 P88 参照)
【今後の製品開発の意向】
【認知度】
〔主な意見・コメント〕
・用途が無限にありそうで、素材としては非常に興味深い。今後の動向を注目していきたい。
・期待される効果についての数値的な説明がほしい。
・簡易かつ量産性のある汎用樹脂との複合化(可能であれば乾式法)が課題。
・用途に対して適切な材料の提案や提供が十分できていない。
- v -
4.ヒアリング調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
中国地域においてセルロースナノファイバーに関する研究開発・実用化の動向およ
び潜在的なニーズ等を把握するためヒアリング調査を実施した。 (報告書 P116 参照)
【ヒアリング先における有望用途、求める特性、効果等】
セルロースナノファイバーの
有望用途・求める特性
求
高
ヒアリング先
有望用途
軽
接
度
量
性
(
着
強
寸
法
質
安
感
定
・
性
食
感の 耐
変 熱
化 性
耐
久
性
め
チ
ク
ソ
性
る
特
透
明
性
性
形
状
の
自
由
性
)
研
究
製
造
側
(
潜
在
的
)
利
用
側
①公設試 A
塗料、繊維
○
○
②モリマシナリー㈱
プラスチック、
ゴム複合材ほか
○
○
○
③日本製紙㈱
ナノ複合材、機能性シ
ート、機能性添加剤
○
○
○
④食品 B 社
かまぼこ、
ドーナツ、うに
⑤繊維 C 社
衣料品、ロープ、テ
ープ・ベルト、漁網
⑥繊維 D 社
化粧用コットン
⑦木製品 E 社
木製品
⑧紙加工 F 社
段ボール
⑨ゴム製品 G 社
自動車部品
○
○
⑩化学 H 社
樹脂、セメント
○
○
⑪プラスチック I 社
ポリカーボネート
⑫輸送用機械 J 社
大型成形品
⑬金属製品 K 社
その他
セルロースナノファイバーに
ガ
ス
バ
リ
ア
性
撥
水
性
○
○
○
○
○
○
平滑性
保形性、
整腸作用
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
保温性、吸
水・吸汗・
速乾性等
○
透過性、
表面平滑性
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
その他
○
○
○
○
防振効果
速乾性
○
○
遮音性
○
メンテナン
スフリー等
その他
効果1 新たな機能の付与(青色)
普及のための支援策
期待する効果
④食品B社
○認知度向上
⑥繊維D社
「効果1 新たな
機能」+「効果2
既存機能の向上」
植
物
由
来
・
生
分
解
性
・地域全般での認知度を高め
る施策
⑬金属製品K社
○情報提供
⑤繊維C社
・多様な物性データの提供
・気軽に入手できる機会
⑦木製品E社
⑩化学H社
○研究開発サポート
⑪プラスチックI社
⑫輸送用機械J社
・サンプル提供時のサポート
・“レシピ”の作成
⑨ゴム製品
G社
○産学・産産連携
・産学連携の体制の提示、連
携先の紹介
⑧紙加工F社
○情報発信
効果2 既存の機能向上(赤色)
「効果2 既存機能
の向上」+「効果3
コスト削減」
効果3 コスト削減
- vi -
(緑色)
・地域全体での情報発信
5.セルロースナノファイバーに関する有識者の意見
○有識者ヒアリング調査 (報告書 P129 参照)
ヒアリング先
九州大学
大学院農学
研究院 教授
近藤
学
識
者
(
全
国
)
哲男
九州大学
大学院農学
研究院 教授
北岡
卓也
静岡大学
学術院 農学
領域 准教授
小島
陽一
山口大学
大学院理工学
研究科 教授
合田
公一
近畿大学
学
識
者
(
中
国
地
域
)
工学部 化学
生命工学科
教授
白石
浩平
鳥取大学
大学院工学研
究科 准教授
伊福
伸介
鳥取大学
農学部 生物
資源環境学科
准教授
企
業
(
全
国
・
中
国
地
域
)
上中 弘典
トクラス㈱
事業開発推進部
WPC 事業推進 G
グループ長
伊藤
弘和
モリマシナ
リー㈱
セルロース
開発室 室長
山本
顕弘
主
な
意
見
○有望用途は ACC ナノセルロースの両親媒性からの表面処理が不
必要な「①樹脂との複合化」、
「②ドレッシング、化粧品」、
「③
ファイケミカル、インク、コーティング剤」等。
○生産拠点を分散化し、地域特性に合わせたセルロースナノファ
イバーの供給、供給先にあった量産方法等が求められる。
○石油化学材料・生物材料に精通し、両者のギャップを埋める人
材、企業へ啓蒙のできる人材が必要。
○セルロースナノファイバー普及にあたっての課題は市場形成。ナ
ノの生物材料でしかなし得ない独自機能の追求を突破口とし、最
終的に均一素材の大量製造型のマス分野での利用を目指すべき。
○普及へのハードルは高いものの食品・医薬品用途は有望。
○木質材料を製造する際に「セルロースナノファイバー」を、接
着剤の代替材料として使用。中国地域の建材メーカーとも共同
研究を実施。
○セルロースナノファイバーの普及・推進体制については全国組
織と地域組織の役割分担が不明確。
○“鉄の 1/5 の軽さで、鋼鉄に匹敵する強度”という表現には違
和感。複合材料研究者による正確な情報発信が必要。
○有望用途は自動車用部品(2次構造材)とフィルム。
○農学系と工学系の垣根が存在。農工連携の推進、工学系研究者
のナノセルロースフォーラムへの参画等に期待。
○有望アプリケーションは「医療診断・用品分野」、
「自動車用途
等産業品の透明材料」
。
○経験上、
「コスト」が最大の課題。プラスチック用途であれば、
配合後の価格が、石油系のポリプロピレンと価格競争可能な
400~500 円/kg 以下となる必要がある。
○技術開発のための人材育成が急である。市場形成と同期させ、
研究と実用化開発を繋ぐ人材の育成が必要。
○カニの殻から抽出されるキチンをナノファイバー化。課題はセ
ルロースナノファイバーと同様に、安全性の評価。
○キチンナノファイバーは生体に対して有用な素材。セルロース
ナノファイバーの類縁体として認知されることに期待。
○学内連携としてキチンナノファイバーの用途開発に着手。小麦
生地の強化」や「作物病害防除が可能な農業用資材」に取組中。
○中国地域全体での情報発信やニーズ把握、用途開発等が図られ
ることを期待。
○セルロースナノファイバーの複合化においては、バイオマ
スフィラーの枠組みの中で考えることが合理的。
○セルロースナノファイバーの利用促進には、製品(品質)
規格、評価手法を早期に整備することが必要。
○粉体化したセルロースナノファイバーを開発し、2016(平
成 28)年よりサンプル提供開始。有望用途はプラスチック、
ゴムとの複合化。
○川下企業の掘り起こし、マッチングできる仕組みづくりへ
の支援に期待。
- vii -
6.中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出の可能性
「中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理」により中国地域
におけるセルロースナノファイバー関連産業創出に向けた方向性を抽出するとともに、
取組施策を併記することにより結びとする。
(1)中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理〔概要〕
(報告書 P168 参照)
【強み Strength】
<優れた物性、製造・研究拠点の存在>
全国
共通
中国
地域
全国
共通
中国
地域
・セルロースナノファイバーの優れた物性
・他材料では代替不能な用途の存在
・様々な分野での研究開発・実用化の進展
【機会 Opportunity】
<連携・ビジネス創出の可能性>
・先進的な研究機関・研究開発拠点の存在
・セルロースナノファイバー製造メーカー
(2社)の存在
・岡山県を中心としたバイオマス関連の革新
的・継続的な取組み
・森林資源およびその利用技術の蓄積
・セルロースナノファイバー活用の機運・社会
的関心の高まり
・環境材料、カーボンニュートラルな材料とし
ての好イメージ
・隣接地域との連携(広域連携)の可能性
・自動車・化学メーカー等の有望なアプリケー
ション分野の存在
・セルロース関連産業(繊維、木材等)の立地
・用途に応じたセルロースナノファイバー提供
のニーズ
【弱み Weakness】
<認知の偏在、人的・物的資源の不足>
【脅威 Threat】
<国際競争・地域間競争の激化>
・現状ではコスト高。供給体制、量産時価格
が不明
・物性データ等の蓄積不足
・品質管理・簡易評価法が未確立
・一般的に認知度が高いとは言えない、情報
発信が不十分
・地域・業種での認知度・取組みのばらつき
・県を越えた研究機関・川上~川下企業連携
の弱さ
・競合材料が多く存在(フィルム、複合材部門)
・ナノリスクの存在(人体・環境への影響、安
全性の確認)
・生物材料への理解の低さ
・他地域での緩やかな囲込みの動き・地域間競
争の激化
・域外大手製紙メーカーを中心とした事業展開
の進展
・バイオマス資源のマテリアル利用の遅れ
クロス SWOT
(2)セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性と取組施策
(報告書 P172 参照)
【セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性】
〔方向性①〕域内ネット
ワークの構築
【短期・中長期】
〔方向性②〕地域における
積極的なニーズ収集
・情報発信【短期】
〔基盤①〕
認知度の向上・
機運醸成【短期】
〔方向性③〕隣接等の
他地域との交流・連携
【短期・中長期】
〔基盤②〕
普及のための体制
整備【中長期】
〔基盤③〕
実践的な人材育成
【中長期】
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業の創出(・集積)
- viii -
【セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性と取組施策】
(報告書 P174 参照)
時
項
短
目
期
(概ね 1~2
年以内)
方 1-1.他分野の組織と
○
の多様な交流
期
主な役割分担
官
中長期
(概ね 3 年
産
学
(公設
試・支
援機関
含む)
○
○
○
以上)
方 1-2.公設試験研究機
○
関のネットワー
クの構築・活用
【方向性①】
域内ネット
ワークの構
築
方
方 1-3.川下・川上企業の
○
連携
○
○
方 1-4.新たな視点での
○
用途開拓・関連分
野からのアイデ
ア出し
○
○
方 1-5.技術シーズの発
○
掘・集積、情報交
換の場の設定
向
性
○
【方向性②】
地域におけ
る積極的な
ニーズ収集
・情報発信
【方向性③】
隣接等の他
地域との交
流・連携
○
基
盤
【基盤③】
実践的な
人材育成
○
方 2-1.地域基幹産業の
○
ニーズ把握
○
方 2-2.地域全体として
○
の情報発信
○
○
○
方 3-1.各地域組織との
○
情報交換・技術交
流
○
○
○
方 3-2.他地域の事業者
○
との連携
○
○
○
○
○
方 3-3.他地域の研究者
○
等との交流・招聘
【基盤①】
認知度向上
・機運醸成
【基盤②】
普及のため
の体制整備
○
基 1-1.潜在ユーザーへ
○
のアプローチ
○
○
基 2-1.相談窓口の設置
○
と普及に応じた
機能進化
○
基 3-1.階層別 人材育成
○
プログラムの開
発・実施
○
- ix -
目
次
目次
1.調査の目的 ···················································· - 1 -
2.セルロースナノファイバーに関する技術開発・実用化等の動向 ····· - 2 2.1.木質バイオマスの利活用に向けた取組み ·························· - 2 2.1.1.バイオマスの定義・種類 ·································· - 2 2.1.2.木質バイオマスの利活用技術の概要 ························ - 8 2.1.3.中国地域における木質バイオマス資源の状況 ················ - 9 2.1.4.木質バイオマスの利活用に関する中国地域における取組み ··· - 11 2.1.5.木質バイオマス利活用におけるセルロースナノファイバーの位置付け
························································· - 17 2.2.セルロースナノファイバーとは ································· - 19 2.2.1.セルロースの構造 ······································· - 19 2.2.2.ナノセルロースの種類 ··································· - 21 2.2.3.セルロースナノファイバーの特徴 ························· - 23 2.3.セルロースナノファイバーの作製方法 ··························· - 25 2.3.1.セルロースナノファイバーの主な製造方法、主な原材料 ····· - 25 2.3.2.技術的な変遷、技術的課題 ······························· - 32 2.3.3.海外の研究開発動向 ····································· - 36 2.4.セルロースナノファイバーの用途開発と実用化への取組み ········· - 38 2.4.1.セルロースナノファイバーの期待される用途 ··············· - 38 2.4.2.他地域における実用化に向けた取組み ····················· - 41 2.4.3.国による支援・推進体制 ································· - 48 2.4.4.普及へのシナリオ・ロードマップ ························· - 53 -
3.セルロースナノファイバーに関する他地域の取組状況 ············ - 56 3.1.他地域ヒアリング調査の概要 ··································· - 56 3.1.1.ヒアリング先 ··········································· - 56 3.1.2.ヒアリング項目 ········································· - 57 -
3.2.他地域ヒアリング調査の結果概要 ······························· - 58 3.2.1.セルロースナノファイバーに関する取組み ················· - 58 3.2.2.セルロースナノファイバー普及に向けての課題 ············· - 60 3.2.3.ヒアリング先と中国地域との主な相違点・関係性 ··········· - 62 -
4.アンケート調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
································································· - 63 4.1.アンケート調査の概要 ········································· - 63 4.2.研究機関アンケート調査 ······································· - 64 4.2.1.研究機関アンケート調査の概要 ··························· - 65 4.2.2.研究機関アンケート調査結果 ····························· - 66 4.3.川上企業アンケート調査 ······································· - 72 4.3.1.川上企業アンケート調査の概要 ··························· - 73 4.3.2.川上企業アンケート調査結果 ····························· - 74 4.4.川下企業アンケート調査 ······································· - 88 4.4.1.川下企業アンケート調査の概要 ··························· - 90 4.4.2.川下企業アンケート調査結果 ····························· - 91 -
5.ヒアリング調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
································································ - 116 5.1.中国地域ヒアリング調査の概要 ································ - 116 5.1.1.ヒアリング先およびヒアリング項目 ······················ - 116 5.2.中国地域ヒアリング調査の結果概要 ···························· - 119 5.2.1.セルロースナノファイバーに関する認知 ·················· - 119 5.2.2.セルロースナノファイバーに関する取組状況および有望用途 ·······
························································ - 119 5.2.3.セルロースナノファイバー普及のための課題 ·············· - 121 5.2.4.セルロースナノファイバー関連の支援策等 ················ - 127 -
6.セルロースナノファイバーに関する有識者の意見················ - 129 6.1.有識者ヒアリング調査の概要 ·································· - 129 6.2.有識者ヒアリング調査の結果概要 ······························ - 130 <参考>有識者ヒアリング調査におけるヒアリング内容 ·················· - 133 –
7.中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出の可能性 - 167 7.1.中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理 ··· - 169 7.2.セルロースナノファイバー関連事業創出のための取組みの方向性と取組施策
························································ - 173 7.2.1.取組みの方向性 ········································ - 173 7.2.2.取組施策 ·············································· - 174 7.2.3.時間軸の設定 ·········································· - 175 7.3.
〔方向性①〕域内ネットワークの構築 ··························· - 176 7.3.1.他分野の組織との多様な交流【短期】 ···················· - 176 7.3.2.公設試験研究機関のネットワークの構築・活用【短期】 ···· - 177 7.3.3.川上・川下企業の連携【中長期】 ························ - 179 7.3.4.新たな視点での用途開拓・関連分野からのアイデア出し【中長期】- 181 7.3.5.技術シーズの発掘・集積、情報交換の場の設定【中長期】 ·· - 184 7.4.
〔方向性②〕地域における積極的なニーズ収集・情報発信 ········· - 188 7.4.1.地域基幹産業のニーズ把握【短期】 ······················ - 188 7.4.2.地域全体としての情報発信【短期】 ······················ - 191 7.5.
〔方向性③〕隣接等の他地域との交流・連携 ····················· - 195 7.5.1.各地域組織との情報交換・技術交流【短期】 ·············· - 195 7.5.2.他地域の事業者との連携【中長期】 ······················ - 196 7.5.3.他地域の研究者等との交流・招聘【中長期】 ·············· - 198 7.6.
〔基盤①〕セルロースナノファイバーの認知度向上・機運醸成 ····· - 199 7.6.1.潜在ユーザーへのアプローチ【短期】 ···················· - 199 7.7.
〔基盤②〕普及のための体制整備 ······························· - 203 7.7.1.相談窓口の設置と普及に応じた機能進化【中長期】 ········ - 203 -
7.8.
〔基盤③〕実践的な人材育成 ··································· - 205 7.8.1.セルロースナノファイバー関連 階層別の人材育成プログラムの開発・
実施【中長期】 ········································ - 205 -
(資料編1)ヒアリング調査で有望とされた主な用途(イメージ集) · - 209 –
(資料編2)アンケート票 ········································ - 213 -
1.調査の目的
木質バイオマス由来のセルロースナノファイバーは、木質組織を化学的、機械的に
処理してナノサイズまで細かく解きほぐした極細繊維状物質である。軽量の素材であ
りながら鋼鉄の5倍以上の強度をもつこと、熱による変形が少ないことなどの特徴が
あることから、自動車部品、情報電子材料、包装材料への応用が期待され、2030 年
までに1兆円の関連市場の創出につながるといわれている。また、「日本再興戦略」
改訂 2015 においては、セルロースナノファイバーの国際標準化に向けた研究開発を
促進することが盛り込まれるとともに、高機能な次世代素材として複数の産学官グル
ープにより研究が進められている。
中国地域は、原材料となる豊富な森林資源を有することに加え、産業技術総合研究
所機能化学研究部門(広島県東広島市)、真庭バイオマスラボ(岡山県真庭市)、セル
ロースナノファイバーの生産設備を保有する企業など、セルロースナノファイバー利
活用の中核となる機関や拠点が存在する。岡山県では、2010(平成 22)~2018(平
成 30)年度に、木質バイオマスによる地域創生モデル「おかやまグリーンバイオ・
プロジェクト」においてセルロースナノファイバー等の生産及び利活用技術の開発に
よる新産業の創出に取組んでいる。
こうした地域の強みを活かすため、セルロースナノファイバー素材開発および関連
製品の実用化の状況・見通しの整理を行う。さらに、中国地域における取組企業・参
入可能な企業等の実態、川下企業におけるニーズ等の把握を行い、ものづくり企業等
のセルロースナノファイバー関連産業の創出可能性や推進拠点整備等のための検討
を行う。
- 1 -
2.セルロースナノファイバー技術開発・実用化等の動向
2.1.木質バイオマスの利活用に向けた取組み
2.1.1.バイオマスの定義・種類
a.バイオマスの定義
バイオマス(biomass)とは元来、生態学の専門用語である。日本語では「生物体
量」あるいは「生物現存量」と訳される。これがバイオマスの本来の意味であるが、
この生態学的定義では、生きている動植物、収穫された農水産・林産物、死んだ生物
の遺骸など、生物に由来するあらゆる物質がバイオマスの範疇に入る。
2002 年に策定されたバイオマス・ニッポン総合戦略によると、バイオマスとは、
「生
物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、
『再生可能な、生物由来の有機性資源で化
石資源を除いたもの』である。バイオマスは、地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使
って、無機物である水と二酸化炭素(CO2)から、生物が光合成によって生成した有
機物であり、私たちのライフサイクルの中で、生命と太陽エネルギーがある限り持続
的に再生可能な資源である」と定義されている。つまり、資源としてのバイオマスと
いう意味が強くなっている。「バイオマス」の今日的な意味としては、定義に資源と
いう意味合いが含まれることにより、我々が活用する、あるいは活用できるというニ
ュアンスが加わり、比較的限定的なものを意味することになる。
b.バイオマスの種類
バイオマスには多くの種類・形態が存在し、それによって利用方法も大幅に変わっ
てくる。バイオマスを分類する場合、そのものの由来、成分や形態による分類や、バ
イオマスの活用のしやすさ・手段と結びついた分類など、見方によって様々な分類が
可能である。
バイオマス資源は未利用資源系と生産資源系に大別でき、各々に分類される資源の
例を図表2.1に示す。
また、バイオマスは大きく分けると植物系と動物系にも分かれる。植物系とは、糖
類、リグノセルロース、稲わらのようなソフトバイオマスなどであり、動物系とは、
畜産・水産物、家畜し尿、畜産・水産加工廃棄物などである。動物系と植物系の大き
な違いは、その主要な構成成分にある。植物系が糖類を基本にしたセルロースやデン
プンなどの炭水化物であるのに対し、動物系はアミノ酸を基本としたタンパク質が主
体である。脂質はどちらにも含まれている。これらの成分の違いにより、利用法や変
換方法が異なってくる。
- 2 -
図表2.1
分類①
分類②
バイオマス資源の体系
分類③
森林バイオマス
木質系バイオマス
製紙系バイオマス
農業残さ
未利用資源
家畜ふん尿・汚泥
食品系バイオマス
その他
木質系バイオマス
草本系バイオマス
生産資源
その他
分類④
林地残材
間伐材
未利用樹
製材残材
建築廃材
その他木質バイオマス(剪定枝など)
古紙
製紙汚泥
黒液
稲わら
稲作残さ
もみ殻
麦わら
バガス
その他農業残さ
牛ふん尿
豚ふん尿
家畜ふん尿
鶏ふん尿
その他家畜ふん尿
下水汚泥
し尿・浄化槽汚泥
食品加工廃棄物
卸売市場廃棄物
食品販売廃棄物
食品小売業廃棄物
家庭系厨芥
厨芥類
事業系厨芥
廃食用油
埋立地ガス
繊維廃棄物
短周期栽培木材
牧草
水草
海草
糖・でんぷん
パーム油
植物油
菜種油
資料:NEDO(2010 年)
「バイオマスエネルギー導入ガイドブック」
c.バイオマスの利用
バイオマスの利用には、物質としての利用(マテリアル利用)とエネルギー利用と
がある。マテリアル利用は食料(food)、飼料(feed)、繊維(fiber)、工業原料
(feedstock)
、林産物(forest products)、肥料(fertilizer)
、薬品類(fine chemicals)
など多様である。エネルギー利用は燃料(fuel)としてバイオマスからエネルギーを
得て、二酸化炭素を大気に排出するもので、最終の利用形態である。これら様々な利
用形態の英語の頭文字をとって8F利用と呼ぶこともある。
- 3 -
d.バイオマスの化学
(a)バイオマスの主要な成分
デンプン、セルロースなどの糖類、タンパク質、脂質があり主要な構成元素は、多
い順に並べるとC(炭素)、H(水素)、O(酸素)、N(窒素)、P(リン)、S(硫
黄)である。光合成によってもたらされたC(炭素)、根粒菌の窒素固定反応によっ
てもたらされた大気中のN(窒素)、土壌から供給されたP(リン)、S(硫黄)が主
である。これらの元素が生物の代謝機能によって、様々な生物の構成成分に変換され
る。バイオマスは生物体そのものであり、生命の維持に必要な、中間的な生体物質や
エネルギー源(モノマー、単糖、有機酸、アミノ酸など)体の構造材料としての生体
ポリマー(セルロースなどの多糖、膜構造の脂質、機能性高分子のタンパク質)など
の混合物である。
(b)リグノセルロース
バイオマスの活用では、特に植物系のリグノセルロースの活用が重要である。リグ
ノセルロースはリグニンとセルロース、ヘミセルロースによって作られた植物の構造
体である。セルロースが基本骨格を作り、ヘミセルロースがそれらを結びつけ、リグ
ニンが接着し、間隙を埋める。まさに繊維強化プラスチックや鉄筋コンクリートのよ
うな構成になっている。その強靭さと耐久性は建築材に使われている木材を見れば理
解することができる。
リグニンの含有量によってその硬さは変わり、含有量の高いものは強靭で木質系バ
イオマス(ハードバイオマス)と呼ばれ、含有量の少ないものは草本系バイオマス(あ
るいはソフトバイオマス)と呼ばれる。成分比は植物の種類によって異なるが、例え
ば針葉樹ではセルロースが約 45~50%、ヘミセルロースが約 25~35%、リグニンが
約 25~35%である。
- 4 -
図表2.2
リグノセルロースの構造
樹木の構造
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C
%A8%E6%9D%90#/media/File:Taxus_
wood.jpg
樹木細胞壁の構造
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%9D%E8
%91%89%E6%A8%B9#/media/File:%E3%83%92
%E3%83%8E%E3%82%AD%E4%BA%BA%E5%
B7%A5%E6%9E%97%E3%81%AE%E3%81%82
%E3%82%8B%E9%87%8C%E5%B1%B1P73063
40.jpg
産業技術総合研究所 HP
https://unit.aist.go.jp/ischem/ische
m-clm/wood_structure4_4_lb.jpg
樹木細胞壁の微細構造(リグノセルロースの構造)
セルロース
(鉄筋の役目)
ヘミセルロース
(鉄筋とコンクリートとの
介在、結合)
リグニン
(コンクリート)
図表2.3
植
物
各植物原料に含まれるセルロースの含有量
原料部位
含有量(%)
樹木
木材(幹)
40~50
綿
種子毛繊維
カボック
植
原料部位
含有量(%)
苧麻(ラミー)
靭皮繊維
85
88~96
サイザル麻
葉脈繊維
75
靭皮繊維
55~65
バガス
茎
35~40
亜麻
靭皮繊維
75~90
竹
茎
40~50
マニラ麻
葉脈繊維
65
アシ
茎、葉
40~50
黄麻(ジュート)
靭皮繊維
65~75
ワラ
茎
40~50
資料:磯貝明(2003 年)
「セルロースの科学」朝倉出版
- 5 -
物
e.木質バイオマスの定義・種類
木質バイオマスとは、
「木材に由来する再生可能な資源」のことである。具体的に
は、伐採した樹木の枝や、製材工場などから発生する端材やおが粉などのほか、住宅
の解体材や街路樹の剪定枝などがある。薪、木炭などは昔から使われている木質バイ
オマスエネルギーであり、製材端材などを細かく切り砕いたチップや、木屑・おが粉
屑などを粒状に固めたペレットなどがある。
木質バイオマスは、その発生源によって主に「林地残材」
「製材工場等残材」
「建設
発生木材」の3種類に分類することができる。
図表2.4
木質バイオマスの種類
資料:林野庁(2008)
「森林・林業の現状と木質バイオマスの利用」
(a)林地残材
林地残材とは切り捨てられたままの状態で林地に放置される残材のことで、立木を
伐採した後に残る末木・枝条・根元部、樹木の育成段階に合わせて一部の伐採する間
伐時に発生する間伐材、病害虫等による被害木などである。
林地残材はそのままの形状で広い森林内に散在しているため、木質バイオマス資源
として効率よく収集することは極めて困難であり、収集運搬コストが高くなることが
多い。また、含水率が高いため、エネルギーとして利用する場合、燃料効率が悪いと
いう問題点もあって、ごく一部が製紙原料等に利用されている以外はほとんど利用さ
れていないのが現状である。
(b)製材工場等残材
製材工場等残材は、製材・合板・プレカット材等の製品に加工する際に発生するバ
ーク(樹皮)
、端材、おが粉等である。林地残材と比較して収集が容易であるうえに、
工場に搬入されるまでに乾燥工程を終えており、木質バイオマス資源としての質が高
い。主な用途として、バークはペレット、堆肥の原料、畜産用敷料等に、おが粉は畜
産用敷料やきのこ菌床等に利用されている。端材はチップ化されて原材料、木材を乾
- 6 -
燥する際の熱源としての自家利用が進んでいる。
(c)建設発生木材
建設発生木材は建築物の新築・改築または解体工事などの工事過程から発生する廃
材で、型枠、足場材、内装・建具工事の残材、木造建築物の解体材など該当する。2000
年に建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)が施行され、
一定規模以上の建設工事の受注者に対して建設資材廃棄物の再資源化が原則義務づ
けられたことから、建設発生木材の約 90%が利用されている。
木質バイオマスの利用状況(図表2.5)をみると、
「製材工場等残材」
「建設発生
木材」はその大半が利用されている。一方で、「林地残材」はそのほとんどが利用さ
れず間伐等の際に森林に残されている。農林水産省「バイオマス活用推進基本計画」
(2010 年 3 月)によると、新たな用途の開発も含め、一層多段階に活用し、利用方
法の高度化を進めるとともに、木材の安定的かつ効率的な供給体制を確立することに
よって、2020 年にその約 30%以上が利用されることを目指すとしている。
図表2.5
バイオマスの種類
バイオマスの利用状況
現在の年間発生量
現在の利用率
2020 年の目標
家畜排せつ物
約 8,800 万トン
約 90%
約 90%
下水汚泥
約 7,800 万トン
約 77%
約 85%
黒液
約 1,400 万トン
約 100%
約 100%
紙
約 2,700 万トン
約 80%
約 85%
食品廃棄物
約 1,900 万トン
約 27%
約 40%
製材工場等残材
約 340 万トン
約 95%
約 95%
建設発生木材
約 410 万トン
約 90%
約 95%
約 30%
農作物非食用部
約 1,400 万トン
(すき込みを除く)
約 85%
(すき込みを含む)
林地残材
約 800 万トン
ほとんど未利用
資料:農林水産省(2010)
「バイオマス活用推進基本計画」
- 7 -
約 45%
約 90%
約 30%以上
2.1.2.木質バイオマスの利活用技術の概要
木質バイオマスの利活用技術は、燃焼・ガス化・液体燃料等により、熱や発電に利
用する「エネルギー利活用技術」と、直接または加工して肥料・工業原料等の製品(マ
テリアル)として利用する「マテリアル利活用技術」に大別され、その変換方法や用
途等によって多種多様な技術が存在する。以下 図表2.6に主な技術の概要を述べ
る。
図表2.6
技
物理的
変換
エ
ネ
ル
ギ
ー
利
活
用
術
固形燃料化
燃焼(直接燃
焼・混焼)
熱化学的
変換
ガス化
液体燃料化
生物化学
的変換
液体燃料化
直接利用
マ
テ
リ
ア
ル
利
活
用
肥料化
機械的加工
木質バイオマス利活用技術
技術の概要
利用先
裁断・破砕して、チップ状、粒状の燃料(薪、
木屑、チップ等)に加工する「破砕燃料化」と、
薪、木屑、チップ、
破砕した原料をさらに加圧・成形して木質ペレ
ペレット等
ットやオガライト等の固形燃料に加工する「成
形燃料化」がある。
ボイラーで燃焼し、発生した蒸気によりタービ
ンを駆動して発電する技術。
加熱・加圧することにより分解,低分子化し,
一酸化炭素・水素・メタンガス等の可燃性の
ガスを生成する技術。
熱分解ガス化して得られる合成ガスを改質・
変換してメタノール、DME(ジメチルエーテル)
等を製造する技術が代表的。
セルロース等の成分を糖化・発酵してエタノ
ールを製造する技術が代表的。
おが粉等の粉末状に破砕し、そのまま利用す
る技術。
発酵や乾燥などにより肥料化する方法であ
り、バーク(樹皮)を主原料とする「バーク
堆肥」と、その他木屑類を副原料として利用
する「副資材利用」の2つがある。
切断・破砕・圧縮・接着等の加工を施すこと
により,二次的な木製品を製造。
炭化
炭を多孔質である性質を活かした製品として
利用する技術。
工業原料化
木質バイオマスから機能性の高い有効成分を
抽出し、工業原料など付加価値の高い製品の
原料を生産する技術。
発電/熱利用
発電/熱利用
メタノール、
DME、BTL 等
エタノール等
家畜敷料、キノ
コ温床、梱包材、
飼育資材等
土壌・農地改良
材、緑化基材等
集成材、ボード
類等
土地改良材、水
質浄化材、脱臭
剤、調湿材等
プラスチック、
炭素繊維素材
資料:各種資料より作成
工業原料化については、木質バイオマスから機能性の高い有効成分を抽出し、工業
原料など付加価値の高い製品の原料を生産する技術である。代表的なものとしては木
質バイオマスの主成分であるセルロースから生分解性プラスチックを製造する技術
や、リグニンを抽出してプラスチック、炭素繊維素材を製造する技術等がある。その
他にも、木質バイオマスの組織を構成するセルロースナノファイバーを利用し,軽量
で高強度の新素材を製造する技術等があり,いずれも実用化に向けた取組みが行われ
ている。
- 8 -
2.1.3.中国地域における木質バイオマス資源の状況
a.人工林
戦後の森林資源政策は、商品価値の低い天然林を伐採し人工林に変える資源整備の
歴史であった。これにより中国地域には 9,000 万㎢の人工林が出現し、その蓄積は3
億㎥あり、年成長量は約 1,000 万㎥ずつ増加している。図表2.7に示す人工林の林
齢分布のうち林齢が高い部分にスギが多く、ヒノキは蓄積の少ない若齢林に多い。ス
ギの伐採適期は本州で9齢級(林齢が5年毎に1齢級)以上であり、スギは伐採時期
にさしかかっている。一方、ヒノキの伐採適期は 12 齢級以上であり、ヒノキ材が本
格的に市場に出回るには、これから 10 数年程度を要する。ただし、スギ・ヒノキと
もに健全な森林に育成するためには 4~6齢級あたりで間伐をする必要があり、林
野庁は補助金などを用いて積極的に間伐を推進している。このため、伐採適期に到達
していない森林からも、市場には多くの間伐材が供給されている。近年の山林労働者
の賃金上昇と素材価格の低迷から、間伐材用に伐採されても市場に搬出されず、林内
に放置したままの間伐材が少なくないと推定される。
図表2.7
中国地域における人工林の樹種別・齢級別面積
スギ人工林
km2
700
ヒノキ人工林
600
500
400
300
200
100
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18 19+
齢級〔1 齢級=5 年〕
資料:林野庁(2012)
「森林資源の現況」より作成
b.天然林
天然林の資源構造をみると、林齢配置には 11~12 齢級にピークがある(図表2.
8)。これは、薪炭材生産を行ってきた里山広葉樹林が 1960 年代の燃料革命により放
置され、現在に至った森林である。もう一つのピークは最高齢級である 19 齢級およ
びそれ以上の齢級に属する森林である。多くは奥地山岳林に位置してアクセスが悪い
か、国立公園などの法規制があって開発を免れた天然林であると考えられる。現在、
- 9 -
高林齢の天然林の多くは何らかの規制がかかっていて木材生産に供することができ
ないので、実際に利用できるのは 11~12 齢級をピークとする里山林であり、これら
の広葉樹林の多くは、搬出道路に近いところに存在していると考えられる。
図表2.8
中国地域における天然林の樹種別・齢級別面積
km2
2,000
天然林広葉樹
天然林針葉樹
1,500
1,000
500
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18 19+
齢級〔1 齢級=5 年〕
資料:林野庁(2012)
「森林資源の現況」より作成
c.中国地域の木質バイオマス有効利用可能量
中国地域の木質バイオマス利用量のポテンシャルに関しては NEDO から公表されて
いる資料により中国地域の利用可能な木質バイオマスのポテンシャルの推定例を示
した。中国地域におけるバイオマスの利用可能量は、NEDO(国立研究開発法人新エネ
ルギー・産業技術総合開発機構)のデータベース「バイオマス賦存量・有効利用可能
量の推計」(図表2.9)により、市町村別に林地残材賦存量・有効利用可能量等が
与えられている。これを各県別に集計したものが下表である。
図表2.9 中国地域各県の木質バイオマス(未利用資源)の有効利用可能量(単位t/年)
区
林地残材
切捨間伐材
果樹剪定枝
タケ
分
賦存量
有効利用可能量
賦存量
有効利用可能量
賦存量
有効利用可能量
賦存量
鳥取県
10,995
39
81,657
225
5,117
3,909
8,761
8,424
島根県
32,296
562
123,721
2,152
3,564
2,723
18,959
18,773
岡山県
有効利用可能量
資料:NEDO(2010 年)
「バイオマス賦存量・有効利用可能量の推計」
- 10 -
25,412
688
71,152
1,927
6,693
5,113
22,776
21,844
広島県
31,864
2,319
109,847
5,979
11,124
8,499
15,239
15,051
山口県
21,065
336
66,053
1,060
8,011
6,120
42,659
40,430
2.1.4.木質バイオマスの利活用に関する中国地域における取組み
a.バイオマスタウン構想の推進
わが国におけるバイオマス利活用は、2002(平成 14)年に策定された「バイオマ
ス・ニッポン総合戦略」にさかのぼる。ここでは 2010(平成 22)年をめどに、①地
球温暖化防止、②循環型社会の形成、③競争力のある新たな戦略的産業の育成、④農
林漁業、農山漁村の活性化に向けてバイオマス利活用促進、という目標が掲げられた。
バイオマス・ニッポン総合戦略の具体策の一つとして、農林水産省は 2004(平成
22)年に、地域循環型社会の形成を目的にバイオマスタウン構想に取組み、募集終了
の 2011(平成 23)年4月までに全国で 318 地区が同構想を公表した。バイオマスタ
ウンとは、域内において、広く地域の関係者の連携の下、バイオマスの発生から利用
までが効率的なプロセスで結ばれた総合的利活用システムが構築され、安定的かつ適
正なバイオマス利活用が行われているか、あるいは今後行われることが見込まれる地
域である。
中国地域においては、図表2.10 に示す 24 市町村がバイオマスタウン構想を公表
した。
図表2.10 バイオマスタウン構想を公表した中国地域の市町村
県名
地域数
鳥取県
2
島根県
9
岡山県
7
真庭市、新見市、笠岡市、津山市、高梁市、和気町、美咲町
広島県
5
庄原市、北広島町、世羅町、東広島市、神石高原町
山口県
4
宇部市、阿武町、周南市、山口市
合
27
計
バイオマスタウン(市町村)
大山町、米子市
美郷町、安来市、吉賀町、隠岐の島町、飯南町、江津市、益田市、
出雲市、奥出雲町
資料:農林水産省資料より作成
b.バイオマス活用推進基本計画の推進
バイオマス・ニッポン総合戦略に次いで、バイオマスの活用に関する施策を総合的
かつ計画的に推進するために、2009(平成 21)年に「バイオマス活用推進基本法」
が施行された。そして同法に基づき、2010(平成 22)年にバイオマス活用の推進に
関する施策の基本的事項を定める「バイオマス活用推進基本計画」が策定された。
木質バイオマスの利用拡大については、林地残材は年間発生量が約 800 万トン程度
で、そのほとんどが利用されていない現状の中で、今後、新たな用途の開発も含めて
多段階に活用し、利用方法の高度化を進めるとともに、施業の集約化や路網の整備等
により、木材の安定的かつ効率的な供給体制を確立することによって、その 30%(約
- 11 -
240 万トン)以上が利用されることを目指すとしている。
都道府県および市町村は国のバイオマス活用推進基本計画を勘案して、それぞれの
地域のバイオマス活用推進計画の策定に努めることが求められている。2015(平成
27)年1月時点で、都道府県バイオマス活用推進計画は全国で 15 道府県が策定し、
市町村バイオマス活用推進計画は 29 市町で策定している。
中国地域においては、山口県、島根県の2県が都道府県バイオマス活用推進計画を
策定し(図表2.11)、島根県出雲市、岡山県真庭市の2市が市町村バイオマス活用
推進計画を策定している。木質バイオマスはマテリアル利用、エネルギー利用に大別
されるが、下表のように、山口県、島根県の推進計画では「エネルギー利用」の取組
みが多い。
図表2.11
区 分
山口県
〔2013(H25)年
3 月策定〕
山口県、島根県のバイオマス活用推進計画の策定状況
バイオマス利用率目標
主な取組み
検討・推進組織
2011(平成 23)年度
→平成 2020(平成 32)年度
①食品廃棄物活用プロジェクト
・事業系生ごみのリサイクルの普及
・家庭での生ごみリサイクルの普及
・エネルギー利用の促進
②林地残材活用プロジェクト
・森林バイオマス低コスト収集・輸
送システムの構築
・固定価格買取制度を活かした大規
模発電システムの構築
・木質ペレット燃料によるエネルギ
ー地産・地消の推進
③新技術活用プロジェクト
・竹資源の活用
・資源作物等の活用
・山口県バイオ
マス活用推進
委員会
・策定から5
カ年経過した
時点で必要に
応じ計画を見
直す中間評価
を実施。
① 堆肥の品質向上、耕畜連携の推
進、運搬・散布を担う組織の育
成等により、堆肥の利用促進を
図る。
② 建設廃材の活用推進に向け、分
別解体時の品質管理の徹底を図
り、利用率の向上を目指す。
③ 従来の肥料やセメント原料の利
用に加え、メタンガス発電等の
エネルギー利用を推進。
④ 循環型林業の確立による木材生
産の拡大に伴い、木質バイオマ
スのエネルギー利用への需要拡
大に対応できる供給体制整備を
推進。
・中間年度にバ
イオマス利用
目標指標等に
ついて調査を
実施し、具体
的な取組内容
の進捗状況を
把握し、必要
に応じ計画の
見直し。
・全体:95%→97%
・家畜排せつ物:95%→96%
・下水汚泥:100%→100%
・食品廃棄物:28%→40%
・製材残材等:84%→95%
・林地残材:43%→70%
・竹:新たな利用法の開発
0 分野 → 2 分野
(マテリアル、エネルギー利用)
・資源作物:ほぼゼロ
→400 炭素トン(バイオエタノール)
2010(平成 22)年度
→2020(平成 32)年度
島根県
〔2013(H25)年
3 月策定〕
・家畜排せつ物:99%→100%
・食品資源:46%→87%
・木質資源(製材工場残材)
:99%→100%
・木質資源(建設廃材)
:92%→95%
・下水資源:83%→85%
・林産資源:0.5%→45%
資料:農林水産省資料より作成
- 12 -
c.バイオマス産業都市の推進
2012(平成 24)年 9 月に、バイオマス活用推進基本計画の目標達成に向けて、地
域におけるグリーン産業の創出と自立・分散型エネルギー供給体制の強化を実現して
いくための指針として「バイオマス事業化戦略」が策定された。その戦略の具体策と
して、バイオマス産業都市の構築が推進されることになった。
バイオマス産業都市とは、バイオマスタウン構想をさらに発展させ、木質、食品廃
棄物、下水汚泥、家畜排せつ物など地域のバイオマスの原料生産から収集・運搬、製
造・利用までの経済性が確保された一貫システムを構築し、地域のバイオマスを活用
した産業創出と地域循環型のエネルギーの強化により、地域の特色を活かしたバイオ
マス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域である
(図表2.12)。関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業
省、国土交通省、環境省)が共同で地域を選定し、連携して支援を行うものである。
2015(平成 27)年 11 月時点で 34 地域がバイオマス産業都市として認定され、2018
(平成 30)年度までに約 100 地区のバイオマス産業都市の構築を目指している。
中国地域においては、島根県奥出雲町、島根県隠岐の島町、島根県飯南町、岡山県
真庭市、岡山県西粟倉村、岡山県津山市の6市町が選定されている(図表2.13)
。
図表2.12 バイオ産業都市について
資料:農林水産省ホームページ
- 13 -
図表2.13
中国地域のバイオマス産業都市
奥出雲町(島根県)
西粟倉村(岡山県)
①森林計画・作業路整備
②木質の収集作業
③集積・加工場の整備
④商品開拓
⑤森林の監視
①林業システム革新~百年の森林事業の継続的な実施等
②木材流通システム革新~ICT「百年の森林創造情報システム」の機能拡張等
③小規模分散型再生可能エネルギー供給システムの整備~熱供給システムの
導入等
④都市圏との交流人口拡大に向けた体験観光・環境教育事業など地域産業振興
隠岐の島町(島根県)
①木質バイオマスリグノフェノール商
品・研究開発(木質バイオマスメタ
ン発酵事業)
・硫酸処理法によるメタン発酵
②木質バイオマスペレット事業(間伐
材、製材屑)
③木質バイオマスペレット発電
・小規模型と中規模型の併設
④ごみ処理施設のメタン発酵事業(木・
竹・わら類及び厨芥類)
・メタン発酵による堆肥・液肥化、ガ
スはハウス等で熱利用
飯南町(島根県)
①飯南特別栽培米推進プロ
ジェクト
②木質バイオマス利用促進
プロジェクト
③可燃ごみエネルギー利用
推進プロジェクト
真庭市(岡山県)
津山市(岡山県)
①真庭バイオマス発電事業
・未利用木材を主原料とした大規模発電
(10,000kW、2 万 2 千世帯相当)
②木質バイオマスリファイナリー事業
・
「真庭バイオマスラボ」を中心とした木
質バイオマスの高付加価値化技術の研
究開発
③有機廃棄物資源化事業
・生ごみ肥料化、BDF 製造等
④産業観光拡大事業
・バイオマスツアー等の実施
①未利用間伐材の搬出・活用
プロジェクト
②木質バイオマス発電プロジ
ェクト
③木質パウダーの製造・活用
プロジェクト
④木質バイオマスのマテリア
ル利用プロジェクト
図表2.14 バイオマスタウン構想・バイオマス活用推進計画・バイオマス産業都市構想
定義
位置
付け
目標
と
公表
数
a.バイオマスタウン構想
域内において、広く地域の関係
者の連携の下、バイオマスの発
生から利用までが効率的なプロ
セスで結ばれた総合的利活用シ
ステムが構築され、安定的かつ
適正なバイオマス利活用が行わ
れているか、あるいは今後行わ
れることが見込まれる地域
b.バイオマス活用推進計画
バイオマスタウン構想に相当
するものであり、既にバイオ
マスタウン構想を策定した市
町村については、バイオマス
タウン構想の進捗状況及び取
組の効果等を踏まえつつ、必
要に応じて、取組効果の客観
的検証に関する事項を追加す
る
バイオマス・ニッポン総合戦略
バイオマス活用推進基本法
c.バイオマス産業都市構想
バイオマスタウン構想を更に発展
させ、地域のバイオマスの原料生産
から収集・運搬、製造・利用までの
経済性が確保された一貫システム
を構築し、地域のバイオマスを活用
した産業創出と地域循環型のエネ
ルギーの強化により、地域の特色を
活かしたバイオマス産業を軸とし
た環境にやさしく災害に強いま
ち・むらづくりを目指す地域
バイオマス事業化戦略
〔2002(平成 14)年 12 月閣議決定、 〔2009(平成 21)年 6 月制定、
2006(平成 18)年 3 月改定〕
同年 9 月施行〕
〔2012(平成 24)年 9 月バイオマス活
用推進会議決定)
目標:2010(平成 22)年度まで
に 300 構想
公表数:2011(平成 23)年 4 月
で 318 構想(終了)
目標:今後 5 年間に約 100 地区
(各都道府県 2 程度)
公表数:34〔2015(平成 27)年 11
月時点〕
目標:全都道府県
2020(平成 32)年まで
に 600 市町村
公表数:都道府県 15、市町村
29
〔2015(平成 27)年1月時点〕
中国
地域
選定
自治
体
27 市町村
図表 2.10 参照
2県、2市
【県】島根県、山口県
【市町村】出雲市、真庭市
資料:農林水産省資料より作成
- 14 -
6市町村
【島根県】隠岐の島町、奥出雲町、
飯南町
【岡山県】真庭市、津山市、
西粟倉村
d.エネルギー利用の取組み-木質バイオマス発電
木質バイオマスのエネルギー利用をみると、2012(平成 24)年 7 月に開始された
「再生可能エネルギー電力固定価格買取制度」をきっかけに、再生可能エネルギーに
よる発電が注目されるようになった。再生可能エネルギー電力固定価格買取制度によ
り、発電事業の採算性の向上が見込まれるようになったことが背景にある。
2015(平成 27)年度の再生可能エネルギーの買取価格は、木質バイオマス関連で
は「未利用木質」
(林地残材)が 2,000kW以上で 32 円/kWh、2,000kW未満で 40 円
/kWh、
「一般木質バイオマス・農作物残さ」(製材端材、輸入材等を含む)が 24 円
/kWh、
「建設資材廃材」が 13 円/kWh、
「一般廃棄物・その他のバイオマス」
(剪定
枝、木屑等を含む)が 17 円/kWh となっている。特に、これまで利用度が低かった
「未利用木質」の買取価格は他のバイオマスに比べて買取価格が高く設定されている。
再生可能エネルギー電力固定価格買取制度により、木質バイオマス発電の事業採算性
の向上が期待できることから、木質バイオマス発電の事業化が全国で活発化している。
中国地域においても 2012(平成 24)年7月以降、図表2.15 のように木質バイオ
マス発電の事業化の動きがみられる。
図表2.15
事業主体
中国地域の主な木質バイオマス発電事業
場所
規模、稼働時期、燃料種類等
㈱日新
鳥取県境港市
5,700kW。2015(平成 27)年2月営業運転開始。製
材廃材、未利用材。FIT 認定
松江バイオマス発電㈱
島根県松江市
6,250kW。2015(平成 27)年年6月営業運転開始。
間伐材、林地残材、製材残材。FIT 認定
(合)しまね森林発電
島根県江津市
12,700kW。2015(平成 27)年年7月稼働開始。未利
用材、輸入材。FIT 認定
真庭バイオマス発電㈱
岡山県真庭市
10,000kW。2015(平成 27)年年4月より稼働。未利
用材、製材廃材。FIT 認定
広島ガス㈱・中国電力㈱
広島県海田町
112,000kW。2019(平成 31)年年稼働を目指す。石
炭火力混焼。
中国木材㈱
広島県呉市
9,850kW。2016(平成 28)年末稼働予定。製材廃
材、未利用材
㈱ウッドワン
広島県廿日市市
5,800kW。2015(平成 27)年4月より稼働。一般木
材。FIT 認定
電源開発㈱
広島県竹原市
竹原火力発電所2号機(350,000kW)石炭火力混
焼。FIT 認定
エア・ウォーター&エネル
ギーパワー山口㈱
山口県防府市
約 100,000kW。2018(平成 30)年度の営業運転開始
を目指す。石炭火力混焼。
資料:バイオマス産業社会ネットワーク(2014)
「バイオマス白書 2014」
、報道資料を基に作成
- 15 -
e.岡山県の取組み -おかやまグリーンバイオ・プロジェクト-
岡山県では、環境に配慮した産業の創出を図るために「おかやまグリーンバイオ・
プロジェクト」推進事業を展開している。間伐材や製材端材等の木質バイオマスの利
活用による新たなバイオマス産業の創出を目指し、県内企業等によるセルロースナノ
ファイバー等の高機能化・生産性向上、木質バイオマスを利活用した製品や用途に関
わる研究開発および事業化の支援に取組み、地域経済の活性化と循環型社会の形成を
目指している。
2010(平成 22)年度から 2014(平成 26)年度までの5年間は、岡山県を代表機関
とする関係 13 機関で、文部科学省の「気候変動に対応した新たな社会の創出に向け
た社会システムの改革プログラム」に採択された「森と人が共生する SMART 工場モデ
ル実証」に取組んだ。
SMART 工場とは“Small Advanced Regional Industrial Technology”の略で、「小
規模の地域の先端技術工場」である。具体的には太陽光や風力、バイオマス等、地域
の特性に応じたクリーンなエネルギーの利用、林地残材等から革新的新素材「ナノフ
ァイバー」を製造技術の開発、「真庭バイオマス集積基地」への新旧技術の結集によ
る生産システム化、集材など林業者や住民等との一体的な地域システム化を図る実証
等を通じて、効率的な原料収集と素材生産を一体化した環境にやさしいものづくり工
場のモデル構築を図ったものである。
図表2.16
林工一体型「SMART 工場」モデル
資料:岡山県ホームページ
- 16 -
2.1.5.木質バイオマス利活用におけるセルロースナノファイバーの位置付け
a.バイオマス・リファイナリーの構築
木質バイオマスは、バイオマス発電のようにエネルギーとしての利用だけでなく、
マテリアル(素材)やケミカル(化学物質)としての利用について実用化、事業化が
行われてきた。建材や家具は典型的な利活用であり、製紙業界の紙パルプとしての利
用も知られている。その他にも、木質バイオマスは繊維、破片、分子素材など、マテ
リアルやケミカルとして利用されている(図表2.17)
。
図表2.17
木質バイオマスの利用
資料:林野庁(2008 年)
「森林・林業の現状と木質バイオマスの利用」
バイオマス・リファイナリーとは、エネルギーとしての利用だけでなく、マテリア
ルやケミカルとしての利用も可能であるバイオマスの特性を活かし、バイオマスを原
料とする多種多様な燃料や有用物質を総合的かつ効率的に利用する概念である。
バイオマス活用推進基本計画によると、低炭素社会の実現を図るためには、石油を
原料として燃料のみならず多様な化学製品を生産する「オイル・リファイナリー」に
代わり、バイオマス・リファイナリーの構築が有効な手段であるとしている。さらに、
長期的に取組むべき技術開発の方向性としてバイオマスを汎用性のある化学物質に
分解・変換する技術の開発を進めるとともに、バイオマス製品等の用途に応じてこれ
らの物質から高分子等を再合成する技術の開発を体系的に推進するとしている。
- 17 -
b.マテリアル・ケミカルとしての利活用
経済産業省
『平成 25 年度委託調査「製紙産業の将来展望と課題に関する調査」
報告書』によると、木質バイオマスのマテリアル・ケミカルとしての利活用は木粉な
どの木材としての性質を多く残した場合と、化学物質としての分子レベルでの利用を
考えた場合がある。前者は、粉砕、乾燥、成形などの機械的操作により製品を生産す
る方法であり、後者は化学成分の分離(抽出、反応など)の化学的操作により行うも
のである。いずれにしても、木質の特徴を活かした用途や、有機化学製品を中心とし
たバイオマス・リファイナリーとして、木質バイオマスを余すことなく使っていくこ
とが重要であるとしている(図表2.18)
。
マテリアルとして、木粉などの木材としての性質を最大限に利活用した方法につい
ては、木粉からは菌床、敷料が生産され、微粉砕木粉からは木質プラスチックが生産
されている。また、今後は軽量・高強度材料等としてのセルロースナノファイバーの
実用化が期待されている。
図表2.18
化学物質としての利活用と木質の特徴を活かした利活用
資料:経済産業省(2014)
「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」
- 18 -
2.2.セルロースナノファイバーとは
2.2.1.セルロースの構造
a.セルロースの構造
セルロースは、木材の約 50%を占める主要成分であり、自然界にもっとも多量に
存在する有機化合物であるとされている。セルロースは、植物細胞にある細胞壁の支
柱の役割を果たし、植物の基本骨格の維持を担っている。
木材はセルロースのほかに、ヘミセルロース、リグニンが主要成分として構成され
ているが、セルロース同士が絡まり、束になって強い細胞組織をつくっている。パル
プは木材や草などから抽出した植物繊維であるが、その主成分はセルロースであるこ
とが知られている。
セルロースは、多数のβ-グルコースがβ-1,4 グリコシド結合によってできた高分
子化合物で(図表2.19)、分子量は数百万にも達する。分子間はお互いに水素結合
することにより結晶化し、非常に強固な結合となっている。そのため、一般の有機溶
媒に不溶であり、ポリエチレン、ポリプロピレンのような熱可塑性を示さない性質を
もっている。
図表2.19
セルロースの分子構造
β -1,4グルコシド結合
セロビオース
C H 2 OH
6
H
1
O
O
H
OH
2
H
H
5
H
3
H
OH
4
OH
H
H
H
H
O
H
C H 2 OH
OH
O
C H 2 OH
H
OH
OH
H
O
O
H
OH
H
H
OH
H
O
H
H
O
C H 2 OH
b.木材以外のセルロース
セルロースは木材以外の植物の細胞壁にもセルロースミクロフィブリルとして存
在する。その分布は多岐にわたり、維管束植物、コケ植物、そして多くの藻類の細胞
壁に存在する。動物では、唯一、尾索類のホヤの被嚢に存在することが知られている。
また、ある種の酢酸菌が菌体外に排出する生産物がセルロースであり、バクテリアセ
ルロース(ナタデココ)と呼ばれ、食用に供される。しかし、ヒトはセルロースを分
解する酵素を持たないため食べても栄養にならない。
- 19 -
図表2.20
木材以外のセルロース(例)
ホヤ
ナタデココ(白い部分)
資料:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A4
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%82%B3
c.セルロースミクロフィブリル
セルロースの分子は何本かが束になり「セルロースミクロフィブリル」という構造
体を形成している(図表2.21)。木材の細胞壁を電子顕微鏡で観察すると、幅は数
nm の糸状の構造物が観察できる。これがセルロースミクロフィブリルである。長さ
は、幅が観察できる倍率に拡大した際には、その視野から両端末がはみ出てしまうほ
ど長いので測定できず、一般的に不定長といわれている。
図表2.21 木材セルロースの階層構造
資料:ナノセルロースフォーラム HP
https://unit.aist.go.jp/rpd-mc/ncf/m/oyakudachi/illust.html
- 20 -
個々のセルロースミクロフィブリルは何本かが束になってよられ、ラメラや壁層と
いう組織を形成し、細胞壁を構成している。すなわち、セルロースミクロフィブリル
とは細胞壁を構成する骨格物質であり、木材の力学的性質に大きく寄与している。
2.2.2.ナノセルロースの種類
ナノセルロースを大別すると、木材などの植物由来のセルロースナノファイバー
(CNF、CeNF)とセルロースナノクリスタル(CNC)、微生物がつくるバクテリア(ナ
ノ)セルロース(BNC)などがある。また類縁体としてカニやエビの殻の細胞壁に存
在するキチンナノファイバーなどがある(図表2.22)
。
図表2.22
ナノセルロースの分類
ナノセルロース(NC)
種類
セルロースナノフ
ァ イ バ ー ( CNC 、
CeNF)
幅
長
さ
別の
呼び方
〔参考〕
セルロースナノ
バクテリア(ナノ) キ チ ン ナ ノ フ ァ イ
クリスタル(CNC)
セルロース(BNC)
3~100nm
10~50nm
20~100nm
10~20nm
5μm 以上
100~500nm
1.5~5.0μm
1μm 以上
「ナノ(ミクロ)フ
ィブリル化セルロー
ス」、「ナノフィブリ
ル」、「セルロース系
ナノ繊維」など
「ナノクリスタルセ
ルロース」、「セルロ
ースナノウイスカ
ー」、「セルロース系
ナノ結晶」など
「バクテリアナノフ
ァイバー」、「バイオ
セルロース」など
「マリンナノファイ
バー」など
(※キチンナノクリ
スタルも存在)
バー
資料:各種資料より作成
セルロースナノファイバーについては、研究者、企業等により名称、定義が若干異
なっているが、セルロース分子が集合した最も基本となる単位であるセルロースミク
ロフィブリル、それが4本程度の緩やかな束となったセルロースミクロフィブリル束、
そのようなミクロフィブリル束が数十から数百 nm の束となってクモの巣状のネット
ワークを形成しているミクロフィブリル化セルロースなど、様々な形態のナノファイ
バーを含んだ総称である。通常は幅が 3~100nm、長さが 5μm 以上とアスペクト比(長
さと幅との比)が高い形状である。
- 21 -
図表2.23
木材の細胞構造とセルロースナノファイバー
セルロースミクロフィブリル
セルロース分子
細胞壁モデル
産業技術総合研究所 HP
https://unit.aist.go.jp/ischem/ische
m-clm/wood_structure4_4_lb.jpg
セルロース分子鎖
セルロースナノクリスタルは幅が 10~50nm、長さが 100~500nm のナノセルロース
で、長さがセルロースナノファイバーの 10 分の1以下の短い針状結晶である。木材
をナノレベルまで細かく砕くと水素結合が生じて結晶ができる。これを硫酸もしくは
塩酸などで処理する酸分解法ではセルロースの非晶領域が分解されて結晶領域が残
り、針状のセルロースナノ結晶となる。欧州では、セルロースナノクリスタルをセル
ロースナノウィスカー(ウィスカー:ひげ)と呼ばれることが多い(図表2.24 右
側)。
図表2.24
セルロースナノファイバーとセルロースナノクリスタル
セルロースナノファイバー
セルロースナノクリスタル
アスペクト比(イメージ)
10-50nm
3-100nm
100-500nm
5μm 以上
資料:ナノセルロースフォーラム HP より
https://unit.aist.go.jp/rpd-mc/ncf/m/oyakudachi/illust.html
資料:"Scientific Report of the Laboratory of Pulp and Paper Science
and Graphic Arts - UMR 5518 Grenoble - France January
2002-November 2005"
http://cerig.pagora.grenoble-inp.fr//dossier/LGP2-scientific-report/page
20.htm
- 22 -
セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルが木材などを原料としてい
るのに対して、バクテリアナノセルロースは酢酸菌などの微生物がつくるナノセルロ
ースである。1993(平成5)年にブームとなったナタデココはバクテリアナノセルロ
ースである。バクテリアナノセルロースは植物由来のセルロースより純度が高く、生
分解性や保水性に優れている。
2.2.3.セルロースナノファイバーの特徴
セルロースナノファイバーは、セルロースそのものの特徴である再生可能資源、生
分解性、生体適合性、有機溶剤耐性などと、ナノ化によって小さい熱膨張(=温度変
化に伴う寸法変化)、高強度・高弾性、大きな比表面積などの特徴をあわせ持ってい
るといわれる。さらに、バイオマス由来であるセルロースナノファイバーは、木材な
ど植物資源の約 50%を占めることから、ほぼ無尽蔵の持続型資源であるといえる。
こうしたセルロースナノファイバーの主な特徴をまとめると、図表2.25 のとおり
である。
図表2.25 セルロースナノファイバーの主な特徴
特
徴
・超極細の繊維(最小の繊維幅は3nm)
・軽量な素材でありながら鋼鉄の5倍以上の強さ1(高強度)
・高弾性
・大きな比表面積
・熱による寸法変化が小さい(石英ガラス相当)
・植物由来であるために環境が少なく持続可能な資源
・豊富な森林資源が原料であるために膨大な資源量をもつ
図表2.26、図表2.27 は樹脂複合材に用いられる繊維や他のナノ材料とセルロ
ースナノファイバーを比較したものである。ガラス繊維は燃えないためにサーマルリ
サイクルが困難であり、炭素繊維、アラミド繊維は表面平滑性に課題が残る。この点、
セルロースナノファイバーは他の補強繊維に比べてリサイクル性に富んでおり、表面
平滑性が良好であり、補強用繊維としての高いポテンシャルを有している。
1
セルロースナノファイバー単体では鉄の5倍の強度であるが、セルロースナノファイバーを添加した複
合材料が鉄の5倍の強度となるわけではない。
- 23 -
図表2.26 樹脂複合材に用いられる繊維との比較
補強用繊維
セルロースナ
ノファイバー
炭素繊維
(PAN 系)
アラミド繊維
(Kevlar®49)
ガラス繊維
鉄
密度(g/cm3)
1.5
1.82
1.45
2.55
7.87
弾性率(GPa)
140
230
112
74
206
強度(GPa)
3(推定値)
3.5
3
3.4
0.4
熱膨張(ppm/K)
0.1
0
-5
5
12.1
価格(円/kg)
-
3,000
5,000
200-300
100+
リサイクル性
○
△(難燃)
○
×(不燃)
-
表面平滑性
○
×
×
×
-
資料:NEDO(2013 年)
「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発成果報告書」
また、セルロースナノファイバーは非常に徽密な構造を持つため、プラスチック基
材などと複合化することで高いガスバリア性を与えることも可能である(図表2.28)
。
図表2.27
主なナノ材料の「重さ」と「弾性」 図表2.28
弾性率:対数目盛
(GPa)
10,000
各フィルム材料の酸素透過度
低密度ポリエチレン(LDPE)
単層カーボンナノ
チューブ
多層カーボンナノ
1,000
チューブ
鉄
アルミナ
セルロースナノ
ファイバー
100
延伸ポリプロピレン(OPP)
高密度ポリエチレン(HDPE)
ポリ乳酸(PLA)
ニッケル
ポリブチレンサクシネート(PBS)
酸化チタン
銀
シリカ
ポリヒドロブチレート(PHB)
ポリエチレンテレフタレート(PET)
10
エチレン-ビニルアルコール
共重合体(EVOH)
ポリスチレン
セルロースナノファイバーと
複合化したポリ乳酸フィルム
1
0
2
4
6
軽い
8
10
0.01
12
← 0.1 ml/m2・day・atm 以下
0.1
1
10
100
1000
10000
(ml/m2・day・atm at 23℃)
重い
密度(g/cm3)
資料:理科年表などから作成
資料:NEDO「nano tech 2014 第 13 回国際ナノテクノロジー総
合展・技術会議」資料より作成
- 24 -
2.3.セルロースナノファイバーの作製方法
2.3.1.セルロースナノファイバーの主な製造方法、主な原材料
理想的には、植物中に存在するミクロフィブリルを損傷無くそのまま取出すことが
望ましい。しかし、ミクロフィブリルはヘミセルロースやリグニンなど他の細胞壁成
分とともに、複雑な多層構造をもつ細胞壁を形成している。それゆえセルロースナノ
ファイバーを単離するためには、まずセルロースの精製処理(化学処理による非セル
ロース成分の除去)を行い、その後、機械装置等を用いた解繊処理(細胞壁構造を崩
してセルロースナノファイバーを単離すること)を行う必要があるが、ここでは解繊
処理についてまとめる。
解繊処理には大きく分けて、機械的(物理的)処理と化学的処理の2種類がある(図
表2.29)
。以下それぞれについて紹介する。
図表2.29
製
機
械
的
処
理
低濃度
処 理
高濃度
処 理
化学的処理
造
方
セルロースナノファイバーの主な製造方法
法
解
繊
機
構
セルロ^スナノファイバー
の性状
高圧ホモジナイザー法
(ゴーリン式)
衝突力、圧力差、マイクロキャビテーシ
ョンによる解繊
10nm~数μm
マイクロフルイダイザー
法(対向噴流衝突法)
加圧した原料同志を高速衝突させ、衝突
力、圧力差、マイクロキャビテーション
により解繊する
10nm~
数 10nm
グラインダー法
砥石による解繊(マスコライダー)
10nm~
数 10nm
凍結粉砕法
凍結状態でボールミルにて解繊
10nm~
数 10nm
2軸混錬法
溶媒を用いず、植物繊維を直接樹脂中に
混錬することでせん断・分散を同時に進
行する。
10nm~100nm
ボールミル粉砕法
金属ボール等との衝突により解繊
100nm~数μm
TEMPO 酸化法
TEMPO 酸化でカルボキシ基を導入し、分
子鎖反発により高分散液を得る2
3~5nm
酵素加水分解法
物理的解砕後、酵素(セルラーゼ等)を
作用してフィブリル化する
-
イオン液体選択溶解法
イオン液体中にセルロース繊維を浸漬す
ることにより解繊する
-
バクテリアセルロース
(BC)
バクテリア(酢酸菌等)によりセルロー
50~100nm
スナノファイバーを産生する
資料:経済産業省(2014)
「平成 25 年製造基盤技術実態等調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)
」
を基に作成
(菌培養)
2
実際には TEMPO 酸化処理後に何らかの機械的処理を行うケースが多い。
- 25 -
a.機械的処理(解繊)
機械的解繊には様々な装置が用いられるが、最も一般的なものは高圧ホモジナイザ
ーによる解繊である。高圧ホモジナイザーとは、試料懸濁液を細いノズルから高圧下
で押し出し、その際に生ずる高い剪断力によって液中の試料を粉砕する装置である。
図表2.30 高圧ホモジナイザー(例)
〔イメージ〕
処理後
懸濁液
処理後
資料:産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ(左写真)
https://unit.aist.go.jp/ischem/ischem-clm/equipment1.html
高圧ホモジナイザーと同様に、セルロースナノファイバーの製造において広く使わ
れている装置がマイクロフルイダイザーである。この装置も高庄ホモジナイザーと同
様に、試料懸濁液が高圧下で細いチャンバー内を高速で通過することにより生じる剪
断力によって試料の解繊を行う。比較的高い試料濃度の懸濁を処理することが可能で、
繰り返し処理により解繊が進行する。
図表2.31
マイクロフルイダイザー(例)
〔イメージ〕
冷却器
衝突
スタート
チャンバー
懸濁液
増圧ポンプ
資料:パウレック ホームページ(左写真)
http://www.powrex.co.jp/product/model/microfluidizer.html
- 26 -
その他の機械的解繊にグラインダーがある。グラインダーとは、高速で回転する2
枚の砥石の間を試料懸濁液が通過することにより試料を粉砕する装置である。高圧ホ
モジナイザーで処理した木材パルプにグラインダー処理を行い、より均質なセルロー
スナノファイバーを作製する方法もある。
図表2.32
グラインダー(例)
〔イメージ〕
資料:産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ)
https://unit.aist.go.jp/ischem/ischem-clm/equipment1.html
b.化学的処理(解繊)
植物細胞壁からセルロースナノファイバーを単離する際、通常は 10-30 回程度繰り返
して機械的解繊処理が必要とされる。しかし、それに伴ってセルロース結晶性や分子量
が徐々に低下することから、機械的解繊を効果的に行う前処理として化学的処理が行わ
れることがある。
化学的処理のうち代表的な手法である「 TEMPO 酸化」による解繊とは、TEMPO
(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル)による触媒酸化によって
種々のセルロース原料のミクロフィブリル表面に露出するC6位の1級水酸基のみ
を選択的にカルボキシル基に変換することにより行われる。それにより負の電荷を帯
びたミクロフィブリルには静電的な反発力が生まれ、ブレンダーによる簡単な機械的
処理によって均質なセルロースナノファイバーが得られる(図表2.33)。得られた
セルロースナノファイバーは 3-5nm の非常に細い繊維径を持ち、TEMPO 酸化は単独の
ミクロフィブリルを単離することができる方法である。
- 27 -
図表2.33
セルロースの TEMPO 触媒酸化反応
グルクロン酸
ユニット
水系反応 pH 8-10.5
温和な反応条件
COOH (常温、常圧、反応2時間)
C
OH
O
O
NaOH
N-OH
NaBrO
COONa
O
OH
OH
OH
NaCl
TEMPO
酸化セルロースナノファイバー
NaCIO
NaBrO
CHO
O
N-O・
O
OH
OH
NaClO
NaBr
+N=O
CH2OH
O
TEMPO 触媒
O
OH
グルコースユニット
OH
こうしてできたセルロースナノファイバーは完全に1本1本に分離したセルロー
スシングルナノファイバーであり、そのフィルムは光学透明性が高く、極めて低い線
熱膨張率と高強度を有し、高い酸素バリア性等の優れた物性を示している(図表2.
34)
。
図表2.34 TEMPO 酸化セルロースナノファイバーの特徴(その他の方法との比較)
セルロースナノファイバー
機械的処理
TEMPO(化学的処理)
主な日本の
研究グループ
京都大学 矢野教授
九州大学 近藤教授
産総研 遠藤グループ長ほか
製造方法
セルロース/水分散液の
繰返し解繊処理
形
10-100nm 不均一幅、不完全
フィブリル化
状
応用展開
分
野
複合材料用フィラー等
東京大学 磯貝教授
(日本の独自技術)
漂白木材パルプの TEMPO 触媒
酸化と、酸化物の水中での軽
微な機械的解繊処理
3-5nm の均一幅、長さは数
μm、長さ・長さ分布の制御
が課題
ガスバリアフィルム、分離
膜、ヘルスケア用途等
- 28 -
セルロース
ナノクリスタル
-
硫酸によるセルロースの酸
加水分解と水中解繊処理
10-50nm の不均一幅、長さ
100-500nm
複合材料用フィラー等
c.リグノセルロースナノファイバー
これまでの製造方法は精製したパルプを機械的処理、化学的処理によりセルロース
ナノファイバーを製造する方法であるが、(パルプ化していない)木粉等を直接的原
料として水熱処理や機械的処理により製造する方法もある。この場合は製造プロセス
においてセルロースを抽出する精製等は行っていないため、得られたナノファイバー
はリグニンやヘミセルロースを含有している。そのため、他の方法で得られるセルロ
ースナノファイバーと区別して「リグノセルロースナノファイバー」と呼ばれ、その
形状は幅 10-20nm、短めの繊維長である。そのリグノセルロースナノファイバーの製
造方法は水熱処理と湿式粉砕処理を組み合わせた方法であるが、「水熱・メカノケミ
カル処理」と呼ばれている。
産業技術総合研究所 機能化学研究部門では、リグノセルロースナノファイバーを
木質等から製造する研究開発を進めている(図表2.35)
。
図表2.35 各種セルロースナノファイバー製造・利活用技術
資料:遠藤貴士(2014)
「木質からの複合処理によるリグノセルロースナノファイバー製造技術」
- 29 -
<参考>パルプについて
セルロースナノファイバーの原料でもあるパルプは、主に製紙に用いるために分離
した植物繊維である。現在は主に木材を原料としてパルプを製造するが、水素結合を
生じる繊維であれば製紙原料として使用できるため、草・藁・竹などの原料からパル
プを抽出することも出来る。
パルプは製法によって、機械パルプと化学パルプに大別される(図表2.36)
。
図表2.36
機械パルプと化学パルプの構成成分の差異(イメージ)
漂白クラフトパルプ
上質紙
未漂白クラフトパルプ、収率:約 50%
包装用紙
(2)化学パルプ化(クラフトパルプ化:NaOH+NaSH、170℃、3h)
ヘミセル
セルロース
リグニン
ロース
木材
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%
E3%83%83%E3%83%89%E3%83%81%E3%83%83%E3%8
3%97#/media/File:Hackschnitzel.JPG
(1)機械パルプ化(熱+磨砕処理)
未漂白機械パルプ、収率:約 90%
リグニン保存漂白
漂白リグニン
- 30 -
新聞紙
d.セルロースナノファイバーの主な原料
セルロースナノファイバーは、植物細胞壁の基本骨格物質である「セルロースミク
ロフィブリル」が基になっている。そのため、地球上に存在する全ての植物はセルロ
ースナノファイバーの原料になることが可能である。その中でも豊富に存在する植物
資源は樹木・木材である。紙パルプの原料としても容易かつ安価に入手できることか
ら、セルロースナノファイバーの原料として利用されている。また、材としては利用
されない間伐材や枝、葉および根なども、セルロースナノファイバー原料として十分
に資源となる可能性がある。
木材だけでなく、有用な植物資源として農業廃棄物や食品加工副産物が挙げられる。
つまり、農業生産の過程で生じる廃棄物や、農作物から食品を製造する際に生じる副
産物である。地域に応じた数多くの農作物があるため、実際に幅広い植物原料からの
セルロースナノファイバー製造が可能である。具体的に原料例を挙げると、稲ワラ、
バガス(砂糖キビの搾りかす)
、キャッサバ、砂糖ダイコン、ジャガイモの搾りかす、
いわゆる農業廃棄物である。これらを解繊していくと 20~40nm 幅のセルロースナノ
ファイバーとなり、木材由来のセルロースナノファイバーの骨格と大きく変わらない。
図表2.37
セルロースナノファイバーの様々な原料
資料:NEDO(2007)「国際共同研究先導調査事業 バイオナノファイバー原料としてのバイオマス資源調査」
植物以外では、微生物により生産されるバクテリアセルロースや尾索動物のホヤ類
にもセルロースナノファイバーが含まれる。バクテリアセルロースは酢の醸造にも用
いられる酢酸菌の一種が菌体外に生産するセルロースであり、50~100nm の幅を持つ
高結晶性ナノファイバーである。徹密な網目構造を有するバクテリアセルロースは物
理的性質に優れており、スピーカー用コーン等の音響材や医療用材料としても利用さ
- 31 -
れている。ホヤ類は動物界で唯一セルロースを合成する珍しい生物であるが、生産さ
れるセルロースの結晶性は高い。主に酸加水分解により得られる剛直なナノウイスカ
ーとして利用研究が行われている。
2.3.2.技術的な変遷、技術的課題
a.技術的な変遷
ナノセルロースの技術的な変遷をみると、まずセルロースナノクリスタルの関係で
は 1950 年頃に Nicherson らが硫酸によってラミーやコットンを煮沸することにより、
微結晶セルロースを作製した。
さらに、セルロースナノファイバーの関係では、1974(昭和 49)年、Fengel がホ
モジナイザーによって繊維がナノレベルにまで解繊されることを示すとともに、1983
(昭和 55)年に Turbak らがとの高圧ホモジナイザーを用いて木材パルフの解繊を行
った。
日本国内では、㈱ダイセルが 1980 年代に木材漂白化学パルプの水懸濁液を繰り返
し高圧ホモジナイザー処理することにより、高度にフィブリル化し、水膨潤状態のミ
クロフィブリル化セルロース(MFC)の「製造」-「販売」を開始した。ミクロフィ
ブリル化セルロースは食品用ろ過材、添加剤等として利用されている。しかし、製造
には多大な消費電力を要するため、効率的なナノセルロース製造プロセスの検討が開
始された。
また、1990 年代より、精製パルプやコットンの酸加水分解によるセルロースナノ
クリスタル、およびバクテリアによって製造されるナノセルロースであるバクテリア
セルロースの開発が進展した。
このような流れの中、2002(平成 14)年に京都大学の矢野教授は植物系セルロー
スナノファイバーを用いた高強度複合材料に関する論文を発表した。2006(平成 18)
年には東京大学の磯貝教授が TEMPO 酸化によるセルロースナノフィブリル化を確認
するなど、大学・研究開発機関を中心に研究開発が本格的に取組まれている。
このような取組みを含め、効率的なナノセルロース製造用の新規解繊装置の開発や、
解繊処理前の木材セルロース繊維に対する各種前処理が検討され、現在までに多くの
ナノセルロース類が提案されている(図表2.38)
。
- 32 -
図表2.38 セルロースナノファイバーの開発経緯
1980
2000
1990
2010
(年)
叩解、リファイニング(パルプ)
①高圧ホモジナイザーの処理(ミクロフィブリル化)
②酸化水分解処理(ナノクリスタルセルロース)
③バイオセルロース(バクテリアナノセルロース)
④各種解繊処理(ナノフィブリル化)
⑤TEMPO 酸化
70 年後半-80 年前半
米国におけるホモ
ジナイザーによる
解繊の進展
80 年代中頃
ダイセル
MFC の「製造」
-「販売」
2000
90 年代
CNC,BNC の
研究の進展
2002 年
京 都 大学 矢 野教 授
植 物 系セ ルロ ース ナ
ノ フ ァイ バー を用 い
た 高 強度 複合 材料 に
関する論文発表
2005
2006 年
東京大学 磯貝教授
TEMPO 酸化によるセ
ルロースナノフィブ
リル化を確認
2010
2015(年)
エレクトロニクスデパイスにおけるミクロフィデブリル化
セルロース繊維材料の用途研究(2002~09 年:京都大学,三
菱化学,ロームなど)包括的産学融合アライアンス
バイオマスナノファイバーの
製造と高植物度ナノコンポジ
ットの開発 (2005~07 年:京
都大学,阿波製紙,木村化工
機など)経済産業省地域 新生
コンソーシアム研究開発事業
変性バイオナノファイバー(セルロ
ースナノファイバー)の製造および
複合化技術開発 (2007~10 年:京都
大学,日本製紙,王子ホールディン
グス,三菱化学など)NEDO 大学発事
業創出実用化開発事業
セルロースシングルナノフ
ァイパーを用いた環境対応
型高機能包装部材の開発
(2007~09 年:東京大学,花
王,日本 製紙)NEDO 委託事
業ナノテク・先端部材実用化
研究開発プロジェクト
工学との連携による農林
水産物由来の物質を用い
た高機能性素材等の開発
(2014 年~ 信州大学,東京
大学など) 農研機構・革新
的技術創造促進事業「異分
野融合共同研究」
セルロースナノファイバー強化による自動
車用高機能化 グリーン部材の開発(2010~
12 年:京都大学,王子ホールディングス,三
菱化学,DIC など)NEDO グリーン・サステイ
ナブルケミカルプロセス基盤技術開発事業
プリント技術によるバイオナノファイバー
を用いた低環境 負荷・低温エレクトロニク
ス製造 (2011~14 年;大阪大学)最先端・次
世代研究開発支援プログラム :NEXT
資料:各種資料により作成
- 33 -
高機能リグノセルロースナノファイバーの
一貫製造 プロセスと部材化技術開発 (2013
年~ 京都大学,王子ホールディングス,日
本製紙など)NEDO 委託事業非可食性植物由
来化学品製造プロセス技術開発
b.技術的課題
セルロースナノファイバーに関連する技術的な課題について、セルロースナノファ
イバーの作製・アプリケーションの工程である「①成分分離」
「②解繊」
「③機能化・
複合化」
「④用途開発」別に取りまとめたのが図表2.39 である。
例えば、解繊技術においては、複雑な多層構造を有する植物細胞壁からセルロースナ
ノファイバーを単離する際、通常は 10~30 回程度繰り返して機械的解繊処理を必要とす
る。しかし、それに伴って得られるセルロースナノファイバーのセルロース結晶性や分
子量が徐々に低下するといわれている。その結果、セルロースナノファイバーの利点で
図表2.39
工
セルロースナノファイバーの技術的課題(工程別)
程
技
術
的
課
題
・木質チップをバイオマス原料として使用するため、用途に合った有効
①成分分離
成分を効率的に分離する技術開発が必要。
・各成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)を工業原料として
使用するための最適な成分分離技術の確立が必要。
・現状の解繊技術はエネルギー消費量が大きく、更なる解繊コストの低
減が必要。そのための革新的な低エネルギー、高効率で、ナノ繊維が
損傷しない解繊技術の開発が求められる。
②解
繊
・解繊前処理技術として乾式でマイクロ単位に荒粉砕する方法やリサイ
クルされた古紙を原料とする解繊等により、ナノレベルでの粉砕のエ
ネルギーを低減する可能性についての検討が必要。
〔増粘剤〕
③
機能化
・
複合化
水系用途
・水溶液中の粘弾性特性の制御技術の開発が必要。既存の増粘剤の機能
増粘剤、分散
と比較して、セルロースナノファイバーが保有する特異的な粘弾性特
剤、水系コー
性領域の探索が必要。
ティング剤、 〔フィルター〕
フ ィ ル タ ー ・多孔質材料にセルロースナノファイバー水溶液を含浸し乾燥すること
材料など
により、ナノレベルの細孔を形成する技術が開発されており、ナノ細
孔形成の制御や表面性状制御の技術開発が必要。
複合材料用途
機能性フィ
ルム、構造材
料、光学材料
など
・性能発現のためにセルロースナノファイバーの表面修飾を行い、均一
に解繊し、マトリックス(樹脂等)に、いかに欠陥、凝集のない均一
ナノ分散ができるかが重要。
・安価なパルプを強化繊維に適用して、どれだけ手をかけないで低価格
の高性能製品を作り出せるかがポイント。
・セルロースナノファイバーは比表面積が大きく、軽くて強くて熱膨張
が小さいという特徴を持っているが、この性能を最終製品にどう発現
するかが重要。
④用途開発
・安価なパルプから、いかに低価格で高性能な製品を作り出せるかが重
要なポイント。
・実用化に当たっては、セルロースナノファイバーの特徴をいかした、
他の材料では代替できない用途を開発していくことが必要。
資料:経済産業省(2014)
「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」を
基に作成
- 34 -
ある優れた力学性能が損なわれるため、またコストの面からも、機械的解繊はできる限
り簡便に最小限のエネルギーで行うことが望まれる。
さらに、機械的解繊においては、出発原料の状態が解繊の程度に大きく影響を及ぼ
すため、機械的解繊を効果的に行う前処理技術等が求められる。
複合化(複合材料用途)においては、セルロースナノファイバーとポリエチレンや
ポリプロピレン等の樹脂と比較して、その特性が全く異なっている点が問題となって
くる。セルロースナノファイバーは非熱可塑性であるが、ポリプロピレン等は熱可塑
性である。また、セルロースナノファイバーは親水性であるが、ポリプロピレン等は
疎水性である。このように性質が全く異なる物質同士を複合化させるためには、セル
ロースナノファイバーの樹脂内での均一分散、セルロースナノファイバーと樹脂界面
の接着等が重要となってくる。
- 35 -
2.3.3.海外の研究開発動向
経済産業省
『平成 24 年度委託調査「セルロースナノファイバーに関する国内外
の研究開発、用途開発、事業化、特許出願の動向等に関する調査」報告書』によると、
セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルとも 2009(平成 21)年から
特許出願が急増しており、世界中で技術開発が活発化している。セルロースナノファ
イバー関連特許の出願が 2005(平成 17)年から5年間で6倍以上に増加している。
そのうち日本からの出願が過半数を超えていることから、セルロースナノファイバー
は日本が技術開発をリードしている分野であるといえるが、近年は北欧、米国、カナ
ダ等の研究開発が盛んとなっている。一方、セルロースナノクリスタルに関しては中
国、米国への特許出願が多く、日本への出願は非常に少ない状況である。
用途開発では日本が先行しているといわれているが、北欧、米国、カナダにおいて
もセルロースナノファイバー製造、セルロースナノクリスタル製造の実証プラントを
日本よりもいち早く立ち上げ、製造技術を磨いている。また、北欧、北米とも産学官
の連携が有機的に行われており、研究開発および事業化に向けた体制が整備されてい
るとしている(図表2.40)。
図表2.40 海外におけるセルロースナノファイバーの開発状況
資料:経済産業省(2013)
「平成 24 年度委託調査(セルロースナノファイバーに関する国内外の研究開発、
用途開発、事業化、特許出願の動向等に関する調査)報告書」
- 36 -
共通基盤技術として、セルロースナノファイバーの計測・評価技術(幅分布、長さ
分布、純度、機能評価など)や、安全性評価、標準化を検討する必要があるとして、
国際的には欧米を中心に安全性評価、標準化の議論が進んでいる(図表2.41)
。
わが国はセルロースナノファイバーの国際標準化の動きに対応するために、2014
(平成 26)年6月に設立されたナノセルロースフォーラムに標準化分科会を設置し
た。その場で標準化の検討がなされている。
図表2.41
国
ノルウエー
フィンランド
セルロースナノファイバーの安全性評価と標準化対応の状況
機
関
PFI
(研究開発企業)
安 全 性
準 化
多種類のセルロースナノファ
イバーの細胞毒性:CTAB 吸着
―
品以外は毒性なし
未修飾セルロースナノファイ
精力的に取組んでいる。VTT 在
VTT
バーについて細胞毒性・遺伝
籍 で SUNPAP の 元 リ ー ダ ー が
(公的研究機関)
性試験を行い、毒性なしの結
TAPPI の重要なポジションに就
果
いている
FIBIC
―
(研究支援機関)
・UPM-Biofibrils の安全性を
UPM(製紙会社)
確認
・フィンランド労働健康研究
所、StoraEnso と協力
スウェーデン
標
Innventia
(研究開発企業)
メイン州立大学
カナダ・米国の動向をフォロー
UPM、StoraEnso、Metsa が標準
化と安全性について意見交換
するグループを設置
他の機関と連携して評価中
積極的に取組んでいない
外部機関に評価依頼し、無毒
カナダ・北欧が先行しており、
との評価
その動向をフォロー
ISO TC229、ANSI TAG229、TAPPI
米
国
FPL
(公的研究機関)
NIOSH(米国労働安全衛生研究
で議論を開始しているが、紙パ
所)で安全性を確認、近くレ
ルプを規制している ISO TC6 に
ポート提出予定
て、規制した方がよいとの意見
もある
硫酸基を持つセルロースナノ
積極的に取組んでおり、ISO TC6
FPInnovations
クリスタルについてはカナダ
の総会で、ナノセルロースの計
(研究機関)
の安全性評価をクリアしてい
測・評価についてのフレームワ
る
ークを提案
カナダ
環境への影響、遺伝毒性、細
トロント大学
胞毒性について試験したが、
興味なし
安全との評価
資料:経済産業省(2013)
「平成 24 年度委託調査(セルロースナノファイバーに関する国内外の研究開発、
用途開発、事業化、特許出願の動向等に関する調査)報告書」
- 37 -
2.4.セルロースナノファイバーの用途開発と実用化への取組み
2.4.1.セルロースナノファイバーの期待される用途
セルロースナノファイバーの最大の課題は他の新素材と同様に、その素材の特性を
活かした用途の開発であるといわれている。セルロースナノファイバーは比表面積が
大きく、軽くて強くて熱膨張が小さいという機械的特性、高いガスバリア性、透明性
など特徴を持っているが、こうした特性を活かした様々な用途の開発が期待されてい
る。
図表2.42 には想定されるセルロースナノファイバーの用途を記載している。主
に「水系用途」と「複合材料用途」に大別される。
図表2.42
区
分
機能化指標
粘弾性制御
水系用途
細孔制御
セルロースナノファイバーの期待される用途
機能材料
化粧品用、医薬品用、食品用増粘剤、創傷医被覆材、
分散材料
細胞培養基材
分離材料
担持材料
包装材料
透明性
光学材料
耐熱性
寸法安定性
軽量、高強度
途
増粘材料
ガスバリア性
複合材料用途
用
電子材料
構造材料
など
フィルター、セパレーター、特殊紙
バリアフィルム、バリアシート
など
など
透明ディスプレイ、透明カラーフィルター、有機EL
基板、太陽電池基板
など
半導体封止材、フレキシブルプリント基板、絶縁材料
など
自動車内装材、自動車外装材、タイヤ強化材、建材、
家電の筐体、ケーシングなど
資料:経済産業省(2014)「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」
経済産業省
『平成 25 年度委託調査「製紙産業の将来展望と課題に関する調査」
報告書』によると、構造用途でのキーテクノロジーとしては性能発現のためにセルロ
ースナノファイバーの表面処理を行い、均一に解繊し、樹脂中にいかに均一に分散す
るかが重要であり、安価なパルプから、いかに低価格で高性能な製品を作り出せるか
が重要なポイントとなるとしている。また、実用化にあたっては、セルロースナノフ
ァイバーの特徴を活かした、他の材料では代替できない用途を開発していくことが必
要であり、その用途開発のためには川下企業(化学、自動車、電機、住宅等)との連
携によるニーズ志向のコンカレントな開発を行う必要があるとしている。
機能として既存材料にはないセルロースナノファイバーの特徴を活かすことで、市
場形成と利用分野が広がるものと考えられる。
また、米国のパルプと製紙業の協会である TAPPI(The Technological Association
of the Pulp and Paper Industry)はセルロースナノファイバー・セルロースナノク
リスタルの用途とその潜在市場等(5~10 年後)について報告している。
- 38 -
その報告では、セルロースナノファイバー等の用途を市場規模に応じ、3つに区分
(「潜在市場(大)
」
、
「潜在市場(小)」、
「特殊・新興市場」
)したうえで、各用途の市
場規模の推計を行っている(図表2.43)
。
図表2.43
セルロースナノファイバー・セルロースナノクリスタルの用途
潜在市場(大)
潜在市場(小)
特殊・新興市場
セメント
壁板の表面仕上げ
センサー(医療用、環境用、産業用)
自動車車体
断熱材
建設用補強繊維
自動車内装
航空機の構造材
水のろ過・浄化
包装材のコーティング
紙のコーティング
包装材の充填剤
紙の充填剤
プラスチック包装の代替
航空機の内装材
石油・ガス産業用エアロゲル
建設用塗料
特殊用塗料
OEM 用塗料
空気のろ過
粘度調整剤
化粧品
医薬品賦形剤、添加剤
有機発光ダイオード
プラスチックフィルムの代替
フレキシブルプリント基板
衛生、吸収製品
太陽光発電
衣類用繊維
リサイクル可能な電池
3D印刷
資料:JOHN COWIE,et.al.,”Market projections of cellulose nanomaterial-enabled products − Part 1: Applications” TAPPI
JOURNAL.VOL.12 NO5.2014
中位推計では、図表2.44 に示すように、包装、コーティングの年間 528 万トン
が一番大きな市場である。次に大きいのがプラスチック包装の代替、セメント、自動
車車体となっている。ちなみに現在の世界の紙・板紙生産量は約4億トンであること
を考えれば、数%の関連需要がセルロースナノファイバーで発生することを見込んで
いる。
図表2.44 セルロースナノファイバー・セルロースナノクリスタルの用途別市場規模〔潜在市場(大)
〕
(1,000t)
6,000
5,000
5,278
4,153
4,000
4,130
3,573
3,366
3,241
2,543
3,000
2,394
2,394
2,167
2,000
587
1,000
0
資料:JOHN COWIE,et.al.,”Market projections of cellulose nanomaterial-enabled products - Part 2: Volume estimates”TAPPI
JOURNAL.VOL.13 NO6.2014
- 39 -
TAPPI は潜在的な市場規模はさほど大きくないが有望な市場(
「潜在市場(小)」)も
推定しており、石油・ガス産業用のエアロゲル、断熱材などが挙げられている。なお、
炭素繊維が使われている航空機についてはセルロースナノファイバーが代替するこ
とはほとんどないという推計になっている。
またこの調査ではセルロースナノファイバー等の普及の最大の不確実性は、各ター
ゲット市場で経済的なコストを実現できるかという点であり、$4.4~$11/kg(約 530
~1,300 円/kg)の実現が不可欠ではあるが、今後の技術革新がセルロースナノ材料
の生産の経済性に及ぼす影響については不透明との付記がなされている。
また、民間調査会社の富士経済は 2015(平成 27)年 12 月に今後のセルロースナノフ
ァイバーの世界市場の展望として、2014(平成 26)年の 10 トン(サンプル出荷レベル)
から 2017(平成 29)年には 300 トン(金額市場予測
8億円)に拡大するとの予測を発
表した(図表2.45)
。
図表2.45
市場規模
セルロースナノファイバー 世界市場
2014 年
2017 年予測
2014 年比
10 トン
300 トン
30.0 倍
資料:富士経済(2015)「高機能繊維関連技術・市場の現状と将来展望」
今後は包装材料やフレキシブルデバイス向けの基板材料などでも実用化が進むが、
樹脂への添加剤としての本格展開は、技術的な課題やコストの障壁があるため早くて
も 2020(平成 32)年以降になるとしている。
- 40 -
2.4.2.各地域における実用化に向けた取組み
セルロースナノファイバーに関する取組みは年々広がりを見せており、社会的関心
も高まっている。セルロースナノファイバー3に関する新聞・雑誌等への掲載件数〔2000
(平成 12)年~2015(平成 27)年〕を見ても足下で大きく増加している。
図表2.46 セルロースナノファイバーに関する記事の新聞・雑誌への掲載件数
(件)
450
399
400
350
300
250
203
200
150
120
100
50
0
1
0
4
5
2
2000
~
04
05
06
07
08
09
22
15
27
10
11
12
0
13
14
15
(年)
資料:日経テレコン
以下、セルロースナノファイバー関連製品の実用化に向けた具体的な取組みを紹介
する。
a.大学・研究機関の取組み
セルロースナノファイバーの大学等の研究機関における研究開発については、2007
(平成 19)年には5グループ(京都大学 矢野教授グループ、東京大学 磯貝教授グルー
プ、同志社大学 藤井教授グループ、九州大学
近藤教授グループ、大阪大学
宇山教授
グループ)で行われていたが4、近年はその関心の高まりを受け研究グループ数は増加傾
向にある。
以下、図表2.47 に現時点で大学・研究機関における主な研究グループの取組概要
について記載する。
3
ナノセルロース、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、ミクロフィブリル化セルロ
ース、ミクロフィブリルセルロース、セルロースナノ繊維、微小セルロース繊維、セルロース微小結晶等
の 75 キーワードで検索。
4
NEDO(2007)「サステナブルバイオによる軽量自動車部材の開発に関する調査」より
- 41 -
図表2.47 主なセルロースナノファイバーの大学・研究機関での取組概要
研究グループ
京都大学
生存圏研究所
教授
矢野 浩之
東京大学大学院
教授
磯貝 明
九州大学大学院
教授
近藤 哲男
産業技術総合
研究所
研究グループ長
遠藤 貴士
取
組
概
要
・1998(平成 10)年よりセルロースナノファイバーに関連した研究開発を実
施。国内におけるセルロースナノファイバーの先駆的な役割を果たす。数
多くの国の研究開発事業を受託。自動車用材料等、軽量・高強度の特性が
求められる部材をターゲットに、製造技術の開発、樹脂との複合化等に取
組む。
・2014(平成 26)年から、NEDO「高機能リグノセルロースナノファイバーの
一貫製造 プロセスと部材化技術開発」に取組中。
・化学的解繊方法の一種である TEMPO 酸化法を開発し、NEDO プロジェクトに
おいて花王㈱、日本製紙㈱等とともに、セルロースナノファイバーの包装
材料、ガスバリア材料として研究開発等を実施。
・2014(平成 26)年から、農研機構「工学との連携による農林水産物由来の
物質を用いた高機能性素材等の開発」に参画中。2015(平成 27)年には森
林のノーベル賞「マルクス・ヴァーレンベリ賞」を受賞。
・機械的な解繊方法の一種である水中対向衝突法:ACC 法(Aqueous Counter
Collision)を開発。中越パルプ工業が製造するセルロースナノファイバー
等で利用されている。竹材の高度利用のため竹材由来のナノファイバーの
展開についての研究も実施。
・2015(平成 27)年には環境省の「セルロースナノファイバー活用製品の性
能評価事業委託業務」に採択される。
・岡山県を中核機関とする「森と人が共生する SMART 工場モデル実証〔2010
(平成 22)-2014(平成 26)年度〕
」に参画し、ナノファイバーに関する
基盤技術の開発や解析・評価を実施。
・その他、地元大学(岡山大学、山口大学、近畿大学等)研究者、企業(ト
クラス㈱、モリマシナリー㈱、大王製紙㈱等)とも共同研究等を実施中。
b.企業の取組み
技術開発のみならず、実用化・市場化に向け、他企業に先駆けてセルロースナノフ
ァイバー関連製品の販売・サンプル提供を行っている企業や、将来の商業ベースでの
生産に向けての実証設備を設置している企業が全国にみられる。セルロースナノファ
イバー製造では製紙メーカー、機械装置メーカー、用途開発では化学メーカー、繊維
メーカー等 11 社の取組事例を紹介する(図表2.48、図表2.49)
。
- 42 -
図表2.48
主なセルロースナノファイバー関連企業
②第一工業薬品㈱
⑤㈱スギノマシン
⑥中越パルプ工業㈱
⑧モリマシナリー㈱
①星光 PMC㈱
⑨日本製紙㈱
③王子製紙㈱
④吉田機械興業㈱
⑦大阪ガス㈱
⑪旭化成せんい㈱
⑩大王製紙㈱
資料:新聞資料等より作成
図表2.49
No
①
②
企
業
主なセルロースナノファイバー関連企業の取組概要(その1)
企
業
概
要
・
取
組
概
要
星光 PMC㈱
(茨城県
龍ヶ崎市)
・製紙用化学薬品、印刷インキ用・記録材料用樹脂等を製造。
・2007(平成 19)年度より京都大学等と「変性バイオナノファイバー(セルロ
ースナノファイバー)の製造および複合化技術開発」のプロジェクトに参画。
以降の NEDO プロジェクトに継続的に参加。
・国の「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」としての支援を受け、2014(平
成 26)年 10 月に竜ヶ崎工場(茨城県龍ヶ崎市)においてセルロースナノフ
ァイバーの実証生産設備(パイロットプラント)の建設工事を完了。
・同年 11 月より化学処理を施したセルロース(変性セルロース)を「変性セ
ルロースパウダー」、
「変性セルロース配合樹脂」の形状で配布。
第一工業薬品㈱
(新潟県上越市)
・凝集剤、合成糊料など工業用薬剤首位の化学メーカー。
・TEMPO 酸化法によるセルロースナノファイバーを用いた増粘剤である「レオ
クリスタ」を 2013(平成 25)年 12 月より発売開始。
・2014(平成 26)年3月には国の先端省エネ部材補助金を活用し、大潟事業
所(新潟県上越市)に、レオクリスタの実証設備を完工。
・2015(平成 27)年秋に稼働予定の新工場(三重県四日市市)では新グレー
ド開発に乗り出すとの報道。
- 43 -
図表2.49 主なセルロースナノファイバー関連企業の取組概要(その2)
No
企
業
企
業
概
要
・
取
組
概
要
王子製紙㈱
(東京都北区)
・製紙国内首位、うち洋紙2位・板紙1位。
・2007(平成 19)年度より京都大学等とのプロジェクトである「変性バイオ
ナノファイバーの製造および複合化技術開発」に参画。以降の NEDO プロジ
ェクトに継続的に参加。
・2009(平成 21)年 10 月より三菱化学とセルロースナノファイバーに関する
共同研究を開始。2013 年 3 月に約 4nm 超極細のセルロースナノファイバ
ーを用いた透明連続シートの製造に世界で初めて成功。東雲研究センター
(東京都江東区)に、セルロースナノファイバーの連続シート化設備を設
置し、サンプル製造と供給を実施。
・2015(平成 27)年8月には日光ケミカルズとの化粧品原料の開発を発表、
同年9月には容易に分散可能なウエットパウダー状セルロースナノファイ
バーのサンプル提供を開始。
・2016(平成 28)年後半には実証生産設備として富岡工場(徳島県阿南市)
に生産能力 40 トン/年を設置予定。
吉田機械興業㈱
④ (愛知県
名古屋市)
・駆動機器、油圧機器、ナノテク機器等を製造するメーカー。
・あいち産業科学技術総合センター共同で高圧の湿式ジェットミル(ナノヴ
ェイタ®)によるセルロースナノファイバーの製造技術を開発。
・セルロースと水の懸濁液を、高圧ポンプによってノズルに送込み、ノズル
通過時に発生する高速せん断力によってセルロースを瞬時に粉砕。
・2013(平成 25)年4月よりセルロースナノファイバーの試作品出荷を開始。
㈱スギノマシン
(富山県魚津市)
・高圧水洗浄・切断装置などの工作機械メーカー。
・自社のウオータージェット技術を活用し、原料タンクにセルロースと水を
入れたものを増圧し、粉砕機に送り、二手に分け向かい合ったノズルから
原料同士をぶつけることにより、ナノ化。
・2011(平成 23)年 10 月から「BiNFi-s」という名前でセルロースナノファイ
バーを販売(国内では最初の販売)
。セルロースだけでなく、カルボメチルセ
ルロース、キチン、キトサンをナノファイバー化したものも販売。
中越パルプ工業㈱
(富山県高岡市)
・業界7位で主に新聞用紙、塗工紙、包装紙、情報用紙に展開の製紙メーカー。
・2009(平成 21)年より九州大学との共同研究を開始。
・2013(平成 25)年 3 月よりセルロースナノファイバーのサンプル販売を開
始。形状(スラリー状、ペースト状、ポリエチレンとの混練樹脂ペレット)
、
原料(竹漂白パルプ・広葉樹漂白パルプ・針葉樹漂白パルプ)
、処理条件(解
繊度合)が選択可能。
・2014(平成 26)年度には高岡工場(富山県高岡市)に実証用生産プラント
を整備。
③
⑤
⑥
⑦
大阪ガス㈱
(大阪市中央区)
・独自開発した石炭由来の化学素材「フルオレン」をセルロースナノファイ
バーの表面に吸着させる方法を開発。セルロースナノファイバーの表面の
み「油」に近い性質にし、プラスチックに混ざりやすくした。
・開発品は「フルオレンセルロース」と名付け、2015(平成 27)年4月から
サンプル品の出荷を開始。
- 44 -
図表2.49
No
⑧
⑨
企
業
企
業
概
要
・
取
組
概
要
モリマシナリー㈱
(岡山県赤磐市)
・冷間ロール成形機、成形ロール等の機械装置の製造メーカー。
・
「岡山グリーンバイオ・プロジェクト」に参画し、セルロースナノファ
イバーの製造に取組む。
「粗粉砕」→「水熱処理」→「微粉砕」の物理
的方法により解繊。
・パルプを原料としたセルロースナノファイバーと真庭ヒノキのチップ
を原料としたリグニンを含んだリグノセルロースナノファイバーをサ
ンプル提供。さらに、独自技術で疎水化したセルロースナノファイバ
ーを乾燥し、粉体を製造。サンプル提供を開始予定。
日本製紙㈱
(山口県岩国市)
・製紙国内2位、うち洋紙1位・板紙3位の製紙メーカー。
・2007(平成 19)年度より京都大学等と「変性バイオナノファイバーの
製造および複合化技術開発」、東京大学等と「セルロースシングルナノ
ファイバーを用いた環境対応型高機能包装部材の開発」等のプロジェ
クトに参画。以降の NEDO プロジェクト等に継続的に参加。
・2013(平成 25)年4月に CNF 事業推進室を新設し、同年 10 月には岩
国工場(山口県岩国市)内に TEMPO 酸化法による生産能力 30t 以上/
年の「実証生産設備」を設置。
・2015(平成 27)年9月にはセルロースナノファイバーを脱臭作用に優れた
特殊シートに加工し、大人用紙おむつに採用。
大王製紙㈱
⑩ (愛媛県
四国中央市)
⑪
主なセルロースナノファイバー関連企業の取組概要(その3)
旭化成せんい㈱
(宮崎県延岡市)
・総合製紙3位級、家庭紙は首位級の製紙メーカー。
・2013(平成 25)年 12 月より三島工場(愛媛県四国中央市)にて「化
学パルプ」、
「機械パルプ」、
「古紙パルプ」を原料にセルロースナノフ
ァイバーを製造。
・自社パルプによる一貫製造と豊富なパルプ原料が特徴。ガスバリア紙
の開発も実施。
・2015(平成 27)年9月に環境省の「CNF 製品製造工程の低炭素化対策
の立案事業委託業務(セルロースナノファイバー複合ゴムの製造)」に
採択。
・ポリウレタン弾性繊維、不織布、ナイロン 66 繊維等を製造する繊維メ
ーカー。
・2013(平成 25)年に業界最小クラスの細繊化を実現したセルロースナ
ノファイバー不織布を開発。
・独自抄紙技術により製造された、平均繊維径が 100nm 以下の高い比表
面積と空孔率を有する多孔質シート材料。
・機能性フィルター、医療用機材、低熱膨張性基板材料、セパレーター
等の用途を想定。
資料:各企業ホームページ、報道資料等より作成
- 45 -
c.自治体の取組み
「a.大学等の取組み」
「b.企業の取組み」で紹介した企業や地域の研究機関を
中心とした産学官連携、企業間連携の取組みやその流れを支援する行政によるプラッ
トフォーム作りの動きがみられる(図表2.50)
。
図表2.50
地
地域としてのセルロースナノファイバー実用化に向けた取組み(その1)
域
取
組
概
要
2015(平成 27)年6月に産学官で構成する推進組織「ふじのくにセルロースナ
ノファイバーフォーラム」を発足。県の主力産業の一つである製紙産業の技術を
生かし、セルロースナノファイバー関連産業を創出に向けた取組みを実施中。
静岡県
あいち産業科学技術総合センターは、吉田機械興業㈱(愛知県名古屋市)と水
愛知県
以外の薬品を使用しない安全な製造方法でセルロースナノファイバーを作製する
新技術を 2013(平成 25)年2月に共同開発。また、同センターはセルロースナノ
ファイバーの加工と表面処理の研究開発にも取組中。
セルロースナノファイバー
CNF 研究会における実用化のイメージ
に対する期待の高まりを受け
て、近畿経済産業局の主導の
下に、産学官連携による「部
素材産業-セルロースナノフ
ァイバー研究会」が 2014(平
近畿地域
成 26)年 12 月に発足した。
近畿経済産業局では、同研
究会を母体として、セルロー
スナノファイバー複合化に
よる実用化の可能性が高い
資料:近畿経済産業局ホームページ
と見込まれる不織布とプラスチック関連企業を中心とする企業連携体の組成を支
援し、セルロースナノファイバーの複合化による新素材開発の推進を図っている。
- 46 -
図表2.50
地
地域としてのセルロースナノファイバー実用化に向けた取組み(その2)
取
域
組 概 要
京都市産業技術研究所の高分子系チームは、プラスチックやゴム等の高分子材
料,複合材料等の技術開発に取組み、特に、セルロースナノファイバー分野では
京都大学
生存圏研究所
矢野研究室との連携による研究開発が多い。2007(平
成 19)-2009(平成 21)年度 NEDO 大学発事業創出プロジェクト「変性バイオナノ
ファイバーの製造および複合化技術開発」
、2010(平成 22)-2012(平成 24)年度
NEDO
GSC プログラム「セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化
グリーン部材の研究開発」
、2013(平成 25)-2014(平成 26)年度「セルロースナ
ノファイバーバイオコンポジットの特性」などにおいて、京都大学のほかに製紙
会社、化学会社などのメーカーとともに共同研究を進めた実績をもつ。
京 都 市
2015(平成 27)年6月には、経済産
京都市産業技術研究所
業省から新分野進出支援事業(地域イ
ノベーション創出促進事業)の採択を
受け、セルロースナノファイバーの実
用化に向けた支援事業を始めた。京都
や滋賀など近畿各地の素材メーカーを
対象に専門スタッフを派遣して技術指
導にあたるほか、材料調達先や販売先
とのマッチングも支援し、新規参入を
促す。
紙産業に関する新たな技術開発、地
域との連携拠点となる「愛媛大学紙産
愛媛大学
紙産業イノベーションセンター
業イノベーションセンター」を 2014(平
成 26)年4月に開設し、セルロースナ
愛 媛 県
ノファイバー分野を含む紙製造技術に
・
関する基礎・応用研究を実施。同セン
愛媛大学
ターは愛媛県産業技術研究所、大王製
紙㈱と連携し、セルロースナノファイ
バーの研究開発に取組中。
同センターと大王製紙はセルロースナノファイバーを用いたガスバリア紙等に
おいてすでに共同研究の成果を得ている。
竹を高機能素材として有効活用する
ため、産学官連携組織「薩摩川内市
薩摩川内市
(鹿児島県)
竹
バイオマス産業都市協議会」を 2015(平
成 27)年7月に設立。
バイオマス燃料などに加え、セルロ
ースナノファイバーや電子材料などへ
の応用を検討する。
資料:各自治体・団体等ホームページ、報道資料等より作成
- 47 -
薩摩川内市役所
2.4.3.国による支援・推進体制
a.国の支援・推進体制
国はこれまでも NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、JST(科学技術振
興機構)などを通じて、セルロースナノファイバー分野の研究開発に取組んでいる大
学等の研究機関および企業に対して支援してきた。2014(平成 26)年度に入ると「ナ
ノセルロースフォーラム」
、
「ナノセルロース推進関係省庁連絡会議」が新設されるな
ど、国による支援・推進体制が強化されている。
(a)日本再興戦略での位置づけ
政府の成長戦略である「日本再興戦略」が 2015(平成 27)年度に改訂されたが〔2015
(平成 27)年6月 30 日閣議決定〕、その中において、セルロースナノファイバーに
関する研究開発の推進が明示されている(図表2.51)。セルロースナノファイバー
の研究開発等によるマテリアル利用の促進に向けた取組みは、わが国の豊富な森林資
源を活用することで地域産業の発展に大きく貢献する可能性を秘めていることから、
セルロースナノファイバー分野が成長戦略に位置づけられている。
図表2.51
「日本再興戦略」改訂 2015 <一部抜粋>
二.戦略市場創造プラン
テーマ4:世界を惹きつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現
テーマ4-① 世界に冠たる高品質な農林水産物・食品を生み出す豊かな農山漁村社会
(3)新たに講ずべき具体的施策
iv)林業・水産業の成長産業化等
① 林業の成長産業化
【中略】
・木質バイオマスについて、本年4月から固定価格買取制度において小規模(2,000kW
未満)で未利用間伐材等を活用した木質バイオマス発電の調達価格区分を新設した
ことを踏まえ、地域密着型の小規模発電や熱利用との組合せ等によるエネルギー利
利用やセルロースナノファイバーの国際標準化に向けた研究開発を進めつつマテ
リアル利用への取組を推進する。
(b)ナノセルロースフォーラム
セルロースナノファイバー推進のための産学官によるコンソーシアム「ナノセルロ
ースフォーラム」が 2014(平成 26)年6月に設立された〔事務局は産業技術総合研
究所 材料・化学領域研究戦略室内(茨城県つくば市)〕。現在は民間企業約 180 社に
加えて、大学・研究機関の研究者、官公庁・自治体などが参画している。
- 48 -
ナノセルロースフォーラムを通じて、セルロースナノファイバーの実用化を担う各
企業、大学、研究機関同士、また製紙メーカーや化学メーカーなどの川上企業とIT・
通信、自動車、建材などの川下企業との間において、関係者相互の情報共有、意見交
換、研究開発連携を進めるうえでオールジャパンの体制を構築し、セルロースナノフ
ァイバーの実用化・普及を促進することを目的としている。
事業内容は、①技術トレンドの調査、共有、情報交換と発信、②共同研究開発の提
案・事業化推進、③ナノセルロースの標準化の推進、④研究開発設備の利用情報の提
供、⑤人材育成、⑥サンプル提供情報などとなっている(図表2.52)
。
図表2.52 ナノセルロースフォーラムについて
区
分
内
容
設立目的
素材、加工、製造装置といったナノセルロースの実用化を担う各研究開発主体、事業
主体の間において、また、製紙企業、化学製品企業などの供給サイドと情報家電、自
動車、化粧品、などの需要サイドとの間において、関係者相互の情報共有、意見交換、
共同研究開発の提案並びに事業化推進等を進めることにより、ナノセルロースの研究
開発を加速させ、その実用化・普及を図り、さらに国際標準化において我が国がイニ
シアティブを取ることを目的とする。
主な事業
「技術トレンドの調査、共有、情報交換と発信」
、
「共同研究開発の提案・事業化推進」、
「ナノセルロースの標準化の推進」、「研究開発設備の利用情報の提供」、「人材育成」、
「サンプル提供情報」
会
矢野
長
会 員 数
浩之
氏(京都大学生存圏研究所 教授)
個人会員 69 名、法人会員 176 社、特別会員 38 機関〔2015(平成 27)年 11 月現在〕
資料:ナノセルロースフォーラムホームページ
(c)ナノセルロース推進関係省庁連絡会議
中央の行政機関においては、
『「日本再興戦略」改訂 2014』にセルロースナノファ
イバーの研究開発等によるマテリアル利用の促進に向けた取組推進が記載されたこ
とを踏まえ、ナノセルロースに関係する農林水産省、経済産業省、環境省、文部科学
省などが連携してナノセルロースに関する政策を推進することにした。これを受けて、
2014(平成 26)年8月には農林水産省、経済産業省、環境省の課長クラスによる「ナ
ノセールス推進関係省庁連絡会議」が新設され、各関係省庁の取組みについての情報
共有、施策の連携が図られている。
- 49 -
<参考>図表2.53
年 月
2015
組
織
(H27)年
日本製紙㈱
2015(平成 27)年度のセルロースナノファイバー
に関連した主な動向(その1)
名
4月
大阪ガス㈱
5月
京都市産業技術
研究所
静岡県
環境省
6月
静岡大学
(トクラス㈱)
事
業
内
容
三重県産業支
援センター
岡山県
薩摩川内市
真庭市バイオマスリフ
ァイナリー事業推進協
議会(岡山県真庭市)
7月
第一工業製薬㈱
(三重県四日市市)
神栄化工㈱
(兵庫県神戸市)
高知県
大倉工業
(香川県三豊市)
8月
動
向
概
要
2015(平成 27)年、今秋発売の大人用紙おむつに採用することを公表。
セルロースナノファイバーを研究開発する競合他社に先駆けて実用化
し、用途開拓に弾みを付ける。
石炭由来の化学素材「フルオレン」をセルロースナノファイバーの表面
に吸着させる方法を開発。表面のみ「油」に近い性質にし、プラスチッ
クに混ざりやすくした。開発品は「フルオレンセルロース」と名付け、
サンプル品の出荷を開始。
経済産業省の公募事業「新分野進出支援事業(地域イノベーション創出
推進事業)」に採択。近畿地方の素材メーカーを中心に専門家が技術指
導するほか、新素材の採用が見込まれ需要先になる可能性がある製品の
メーカーを紹介。
セルロースナノファイバーの研究に産学官で取組む新組織「ふじのくに
CNFフォーラム」を設立。日本製紙㈱など富士に拠点を持つ製紙大手
や静岡大学など 77 の企業・団体が参加。実用化に向けた共同研究や情
報交換を通して、県内製造業をけん引する新産業の創出につなげる。
「平成 27 年度 地域における低炭素なセルロースナノファイバー用途
開発 FS 委託業務」に係る公募の採択結果公表。
セルロースナノファイバー(素材、技術)を利用し、革新的で地球温暖
化対策に貢献できる住宅部材用途を提案するとともに、静岡県内産業を
利用し「原料調達、製品製造、製品使用、廃棄」の一貫した事業性のあ
る地域モデルを構築。
セルロースナノファイバーの「製造プロセス」、高度部材(住宅建材、
高機能製品用途)としての「製品活用」について県内企業と共に検討し、
地域モデルとしての妥当性を検証。
自動車部材への適用を提案し、セルロースナノファイバー製造から部品
製造までの工程を本県内産業で一貫して行う地域モデルを構築。
竹を高機能素材として有効活用するため、産学官連携組織「薩摩川内市
竹バイオマス産業都市協議会」を設立。バイオマス燃料などに加え、セ
ルロースナノファイバーや電子材料などに応用。
CLT(直交集成板)を用いたポンプ小屋の壁面の一部を、水溶性塗料に
セルロースナノファイバーを添加した塗料で塗装し、屋外での実証実験
を実施。
三重県四日市市に新工場を竣工。研究開発機能も合わせ持つマザー工場
として位置づける。
「セルロースナノファイバーとゴム材料との複合化技術を活用した環
境配慮型超軽量・高機能シューズの開発」が H27 年度 戦略的基盤技術
高度化支援事業(サポイン)に採択。
2016(平成 28)年度に県立紙産業技術センターへ「セルロースナノファ
イバー」の製造装置を導入。
森林総研と共同で水分抽出後の竹チップをセルロースナノファイバー
に加工し、フィルム製品に活用する研究を進める。
静岡県
政府の地方創生政策の一環として政府関係機関を打ち出していること
に対し、産業技術総合研究所(東広島市)の富士市への移転を提案。
王子製紙㈱
日光ケミカルズ㈱とセルロースナノファイバーを使った化粧品原料を
開発する。
資料:新聞記事等
- 50 -
<参考>図表2.53
年 月
組
織
2015(平成 27)年度のセルロースナノファイバー
に関連した主な動向(その2)
名
第一工業製薬㈱
動
向
概
要
三菱鉛筆㈱と共同でセルロースナノファイバーをインクに用いたボール
ペンを開発、欧州で発売。ボールペンのインクに混ぜる増粘剤として利
用。
五洲薬品㈱
(富山県富山市)
2015
(H27)年
9月
生物由来の新素材「ナノファイバー」で作ったトリートメントやワック
スなどの整髪料を開発する。2016(平成 28)年度中の商品化を目指す。
「セルロースナノファイバー活用製品の性能評価事業」委託業務に係る
環境省
公募の採択結果を公表。
主にインパネ周辺の内装材について、間伐材から発生する木粉等バイオ
トクラス㈱
マスフィラーを添加したウッドプラスチック(WPC)にセルロースナノ
(静岡県浜松市)
ファイバーを添加材利用。
トヨタ車体㈱
自動車用金属部品の樹脂代替を狙い、高強度かつ低比重なセルロースナ
事
業 (愛知県刈谷市) ノファイバー複合樹脂を用いて自動車部品の試作と性能評価を行う。
内 九州大学
ドアパネルの内側や天井パネルとなる内装材について、九州産の竹を利
容
大 学 院 農 学 研 究 用し「水中カウンターコリジョン(ACC)法」による竹由来セルロース
ナノファイバーから丈夫で軽量な樹脂素材を製造。
院
自動車用バッテリーについて、従来の鉛二次電池の代替となる軽量かつ
第一工業製薬
小型のセルロースナノファイバー活用リチウムイオン二次電池を製造。
「平成 27 年度 セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対
環境省
策の立案事業」委託業務に係る公募の採択結果を公表
プラスチック製品の製造工程について、セルロース原料を樹脂に練り込
パナソニック
みながらナノ化レベルに繊維をほぐすことでセルロースナノファイバ
ー複合樹脂を製造する段階での CO2 排出量を評価。
事 愛媛大学
透明樹脂製品の製造工程において、独自のセルロースナノファイバー脱
業
内 紙産業イノベーショ 水プロセスにより乾燥工程での CO2 排出量の削減。
容 ンセンター
ゴム製品の製造工程について、液体のセルロースナノファイバー素材を
大王製紙㈱
ゴムと混練する際に必要となる乾燥エネルギーを乾燥方法の見直しに
より低減することで CO2 排出量を削減。
環境省
2016 年度予算の概算要求において温暖化ガスの削減に効果のある「セ
ルロースナノファイバー」などの新たな素材開発を後押しする事業に
38 億円を要求。
東京大学 磯貝教授
「森林・木材化学分野のノーベル賞」といわれる「マルクス・ヴァーレ
ンベリ賞」を授与。
王子製紙㈱
容易に分散可能なウエットパウダー状セルロースナノファイバーのサ
ンプル提供を開始。
あいち産業科学技術
総合センター産業技
術センター
アサヒフードアンド
ヘルスケア㈱・
鳥取大学 伊福准教授
セルロースナノファイバーで光透過率が 89%と高い透明フィルムを成
形する技術を開発。植物を原料としながら高強度で撥水性や導電性も付
加も可能。
マリンナノファイバーを添加した保湿液「素肌しずく
ク」を商品化。
資料:新聞記事等
- 51 -
うるおいミル
<参考>図表2.53
年 月
組
織
2015(平成 27)年度のセルロースナノファイバー
に関連した主な動向(その3)
名
日本製紙㈱
動
向
概
要
10 月1日に消臭機能を従来の3倍に高めた大人用紙おむつを発売。
H26 地域イノベーション協創プログラム補助金(新事業展開実現可能性
第一工業製薬㈱
適用の可能性を調査。
2015
(H27)年
調査事業)に関連し、レオクリスタのセラミック部材製造プロセスへの
日本製紙㈱
10 月
特種東海製紙㈱と段ボール原紙とクラフト紙で資本提携。「セルロース
ナノファイバー」など強みを持ちより可能性を追求。
セルロースナノファイバーを使った工業用フィルターの試験提供を
北越紀州製紙㈱
2016(平成 28)年にも始める。フィルターの繊維の隙間にCNFを網目
状に張り巡らせる。ウイルスや菌を効率よく捕まえることができる。病
院や研究施設などの需要を開拓する。
オンキヨー㈱
新素材を使った高音質スピーカーを開発し、2016(平成 28)年春から販
売を始める。高音の再現性を高めた。
リン酸エステル化による化学処理法を用いた製造プロセスを開発し、
王子製紙㈱
11 月
に生産能力 40 トン/年を設置予定。
三重県産業支援セン
ター
関西化学機械製作
㈱・三重大
日経トレンディ
12 月
2016
(H28)年
1月
2016(平成 28)年後半には実証生産設備として富岡工場(徳島県阿南市)
三重県産業支援センターが中心となり、「みえセルロースナノファイバ
ー協議会」を立上げ。
「産」32 団体、
「学」7 名、
「官」8 団体が参加。
同じ植物由来で樹脂に溶けやすいリグノフェノールにセルロースナノ
ファイバーを埋め込み、樹脂への混練を可能に。三重大学の舩岡正光教
授と共同で開発。
2016(平成 28)年ヒット予測ベスト 30 第4位に「セルロース・ナノ・
コスメ」を選定。
薩摩川内市・
中越パルプ工業㈱
薩摩川内市は、竹資源を活用した地方創生を実現するための協力関係を
鳥取大学
伊福准教授
キチンナノファイバー低コスト生産にめどをつけ、2016(平成 28)年3
強化することを狙った協定を中越パルプ工業と締結。
月に大学発ベンチャーを立ち上げ事業化に乗出す。
nano tech 2016 国際ナノテクノロジー総合展で、森林総合研究所が新
森林総合研究所・
人賞(次世代素材のセルロースナノファイバーの製造技術の開発)、産
産業技術総合研究所
業技術総合研究所がプロジェクト賞(セルロースナノファイバー補強軽
量シューズの開発)を受賞。
第一工業製薬㈱、
セルロースナノファイバー配合のボールペン『ユニボール シグノ 307』
三菱鉛筆㈱
を『伊勢志摩サミット』応援アイテムとして協賛することを決定。
愛媛県は県産業技術研究所や学識経験者らによる検討会を設け、2016
2月
(平成 28)年夏を目途に用途に関する基本方針をまとめる。2018(平成
愛媛県
30)年度末までに試作品を作り上げ、実用化に向けた道筋をつける。自
治体で試作品開発に取組むのは愛媛県が初めて。紙、食品、繊維の3分
野を柱に据える。
資料:新聞記事等
- 52 -
2.4.4.普及へのシナリオ・ロードマップ
a.セルロースナノファイバー実用化に向けた将来ビジョン
経済産業省
『平成 25 年度委託調査「製紙産業の将来展望と課題に関する調査」
報告書』によると、製紙産業の将来ビジョンとして、わが国の製紙産業が持つバイオ
マス資源のハンドリング技術を生かし、高度バイオマス産業を創造すると提言され、
その中で、セルロースナノファイバー事業が高度バイオマス産業の重要な柱の一つに
位置づけられている。
また、同調査では「セルロースナノファイバーの実用化に向けたビジョンとロード
マップ」
(図表2.54)についても策定されている。そこでは、実用化への課題とし
図表2.54 セルロースナノファイバーの実用化に向けたビジョンとロードマップ
資料:経済産業省(2014)「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」
- 53 -
ては、「木質材料からの効率的、安価な有効成分分離技術(セルロース系資源の前処
理技術の確立)」、「低エネルギー、高効率なパルプの解繊技術の確立」、「機能化・複
合化技術の確立、生産技術、用途開発」
、
「分離したリグニンとヘミセルロースの高度
活用技術」が挙げられている。
さらに、セルロースナノファイバーの開発目標としては、第1世代と次世代に分け
てロードマップが作製されている。第1世代(現行セルロースナノファイバー)とは、
既存の製造法の延長線上で得られる性能やコストを有するセルロースナノファイバ
ーを示している。一方、次世代セルロースナノファイバーとは現状の第1世代技術で
は到達できない革新的技術で製造された、高性能で安価なセルロースナノファイバー
を示している。
第1世代のセルロースナノファイバーは、用途によっては実用化の早いものもある
と考えられるが、全体としては 2020(平成 32)年頃までに実証実験が終了し、2025
(平成 37)年以降に普及・拡大を目指している。次世代のセルロースナノファイバ
ーは、2020(平成 32)年頃までに革新的な製造・加工技術が行われ、2025(平成 37)
年には実証実験が終了し、2030(平成 42)年頃に普及・拡大を目指している。
共通基盤技術としては、セルロースナノファイバーの計測・評価技術(幅分布、長
さ分布、純度、機能評価など)、安全性評価、標準化について記載されている。特に
標準化については 2020(平成 32)年までに取りまとめを行うこととされている。
b.セルロースナノファイバーの機能化ロードマップ
また、同調査においては、セルロースナノファイバーの実用化に向けた将来ビジョ
ンとロードマップとともに、到達しなければならない最低限の開発目標とするセルロ
ースナノファイバーの「機能化のロードマップ(図表2.55)
」が作製されている。
図表2.55
セルロースナノファイバーの機能化のロードマップ
資料:経済産業省(2014)「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」
- 54 -
透明性、軽量・高強度、寸法安定性、ガスバリア性、細孔の制御や粘弾性の制御が可
能であるなど、セルロースナノファイバーの特徴を生かした新規用途を見出すことが
今後の重要な開発課題としている。
c.セルロースナノファイバーによる新市場創造戦略
また、さらに同調査においては、セルロースナノファイバーによる新市場の創造戦
略について記述がなされている(図表2.56)。そこでは、現在事業化が進んでいる
第1世代のセルロースナノファイバー(機械解繊品及び TEMPO 酸化品など)は、2020
(平成 32)年に向けて用途開発が進み、需要の拡大とともに生産設備のスケールア
ップが実施され、生産量 1,000 トンで価格が 1,000 円/kg を切れるような商品へと成
長していくことを期待されている。
さらに、2030(平成 42)年に向けての新市場創造戦略として、現状の第1世代の
技術では到達できない革新的製造技術が開発され、生産量が数十万トンで、価格が数
百円代となり、自動車部材や情報電子材料、包装材料、建築材料、食品用増粘剤、高
機能性フィルター等の多くの用途に汎用的に採用されることにより1兆円規模の新
しい市場を創造することが目標とされている。
図表2.56
セルロースナノファイバーの機能化のロードマップ
資料:経済産業省(2014)「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)報告書」
- 55 -
3.セルロースナノファイバーに関する他地域の取組状況
3.1.他地域ヒアリング調査の概要
セルロースナノファイバーに関する実用化の動向および推進体制等を把握するた
め他地域ヒアリング調査を実施した。訪問先には主に産学官連携により地域において
セルロースナノファイバー実用化等へ向けて新たな取組みがみられる先を選定した。
訪問時期は 2015(平成 27)年8月~2016(平成 28)年1月。
3.1.1.ヒアリング先
ヒアリング先は以下の中部地区~九州地区の行政・公設試験研究機関・大学
を訪問した。
図表3.1
他地域ヒアリング調査
ヒアリング先(その1)
③富山県新世紀産業機構
④京都市産業技術研究所
⑤愛媛大学
①静岡県
⑦薩摩川内市
⑥高知県立紙
産業技術セ
ンター
②三重県産業支
援センター
- 56 -
7機関
図表3.2
地区
中部
地域
静岡県
経済産業部
商工業局
概
要
「ふじのくに CNF フォーラム」事務局
商工振興課
三重県産業支援センター・
「みえセルロースナノファイバー協議
三重県工業研究所
会」事務局
③
富山県新世紀産業機構
「とやまナノテククラスター」事務局
④
京都市産業技術研究所
⑤
愛媛大学
②
地域
関西
ヒアリング先(その2)
ヒ ア リ ン グ 先
No.
①
他地域ヒアリング調査
「部素材産業-CNF 研究会」プロジェク
トマネージャー
地域紙産業界のニーズ対応・新規シーズ
四国
紙産業イノベーションセンター
る拠点の一つ)
地域
九州
地域
開発の研究拠点(四国CNF構想におけ
⑥
高知県立紙産業技術センター
⑦
薩摩川内市役所
製造装置を導入し、2016(平成 28)年
度取組開始予定
「竹バイオマス産業都市協議会」
事務局
3.1.2.ヒアリング項目
主なヒアリング項目は図表3.3のとおり。
図表3.3
主なヒアリング項目
a.セルロースナノファイバーに関する取組み
地域的な背景・特徴、取組経緯、取組内容(研究開発、用途開発等)、中核とな
る技術、地域での協力体制、今後の事業展開
など
b.セルロースナノファイバーに関する推進組織
組織の目的、中核となる主体、構成メンバー
など
(推進組織がない場合は、組織立ち上げの可能性)
c.セルロースナノファイバー普及のための課題
市場、技術、人材、コスト
など
d.有望と思われるセルロースナノファイバーの用途
現在取組んでいる用途開発、新たな用途の可能性
など
e.セルロースナノファイバーに関しての連携
地域の強み・弱み、地域内・他地域での連携の広がりの可能性
f.支援策・推進体制
期待される支援策・推進体制、産業界への要望
- 57 -
など
など
3.2.他地域ヒアリング調査の結果概要
3.2.1.セルロースナノファイバーに関する取組み
a.地域のフォーラムを立上げ
地域組織(フォーラム等)の立上げや地域連携の構想などの地域におけるセルロー
スナノファイバーによる産業振興モデルの確立向けた動きが各地でみられる(図表3.
4参照)
。
多くの訪問先はここ1~2年度内にセルロースナノファイバーに関する取組みを
開始し、中国地域(岡山県等)よりも地域における展開は遅れているものの、それぞ
れ後発組であることを自認し、明確な目的(県内企業立地への支援)や強いリーダー
シップの下、地域組織を「テコ」に、フォロアーとして短期間(2年程度を目途)で
の他地域へのキャッチアップ・実用化等の成果を求めるケースがみられる。
図表3.4
地域組織と製法の結付き
とやまナノテクコネクト推進協議会
ACC 法
(二軸混練法)
部素材部会-CNF研究会
ふじのくにCNFフォーラム
機械的解繊(愛媛)
ACC 法(高知)
四国圏 CNF 構想
みえセルロースナノファイバー協議会
TEMPO 酸化法
竹バイオマス産業都市協議会
ACC 法
b.特定の製法との結付き
立地企業や技術的アドバイザー等の関係から特定の製法と各地域での取組みが結
付き、その用途展開の場として地域組織(フォーラム、協議会)が立ち上げられるケ
ースがある(図表3.4参照)。
このような状況で各地域での取組みが進展すれば、異なる製法の下、地域資源を活
用したセルロースナノファイバーが製造され、地域産業への供給原料・用途展開が行
- 58 -
われるなど、ブロック化が進展する可能性もある。その一方で特定の製法へ依存する
ことを不安視する声もあり、他の製法を有する他地域との連携を示唆するコメントも
あった。
c.製紙メーカーとの関係性
製紙業の盛んな地域は紙用途をスタートとし、既存の製紙関連技術・設備、販路を
活かした、セルロースナノファイバー関連の製造技術の開発や用途展開が期待されて
いる。
併せて、特に大手製紙メーカーには用途開発に向けての積極的な川下企業へのアプ
ローチ・セルロースナノファーバーの供給、情報提供を期待する声があった。
また、既存の大手製紙会社等セルロースナノファイバー製造メーカーの「実証段階」
から「量産段階」への移行時が、企業立地(移転・増設)のチャンスと考え、働きか
けを行い、地域ブロックにおける拠点化を目指す動きもある。
d.公設試験研究機関等を中心とした事業展開を指向
地域における事業展開の中心的な組織として公設試験研究機関が想定されている
が、地域によっては行政側の展開スピードと技術・人材面で追いついていない面もあ
る。
一方で、公設試験研究機関が大学と比較して地元企業の敷居が低いこともあり、既
存の企業とのコネクションを活用した用途開発時のニーズ・シーズのマッチングも期
待されている。
また、ヒアリングにおいては製品(品質)規格、評価方法の整備を求める声も多く
あったが、このような標準化の進展と合わせ、公設試験研究機関における検査・評価
機器等の導入促進も期待されている。
さらに、地域間連携においても、行政機関主導による連携活動に加え、公設試験研
究機関間の既存のネットワークを活用した技術交流が期待されている。加えて、学会
(セルロース学会等)の支部活動等における研究者交流をベースとした地域間連携も
期待されている。
- 59 -
3.2.2.セルロースナノファイバー普及に向けての課題
a.市場(用途開発)について
セルロースナノファイバー普及の最も喫緊な課題としては、多くのヒアリング先で
「市場(用途開発)」が挙げられた。素材としてのポテンシャルは高いものの、明確
な用途がまだ見付けられていないという印象を受け、明確な用途が見つからないため
スケールアップもできないというジレンマも感じられた。
「市場(用途開発)
」に関しては、既に述べたように、製紙産業の集積地では紙用
途をスタートとし、量産化に向け既存の製紙関連技術・設備、販路を活かした、セル
ロースナノファイバー関連の製造技術開発・用途開発が期待されている。
一方、大手製紙メーカーの存在していない地域では、地域間の差別化の一環として、
一次産業の振興策とリンクさせる動きもみられる。様々な材料からセルロースナノフ
ァイバー製造を指向する動きや、開発されたセルロースナノファイバーの用途として
食品産業等も含めた6次産業化を目指す動きもある。
また、水系用途では「コンクリート」、「接着剤」、「塗料」、「化粧品」、「インク」、
「食料品(ドレッシング等)
」
、
「医薬分野」等が有望視されている。
複合材料用途としては強度等の物性向上だけでなく、「質感」・「色感」の変化につ
いても注目されている。
全般的には、中国地域のアンケート結果とは異なり、ヒアリング先として川下産業
に化学産業、自動車産業等が多く集積していない地域を選定したこともあり、水系用
途先行のコメントが多い。また、医療分野については水系利用である医薬品だけでな
く、医療用デバイスへの利用も検討が行われている。
図表3.5
用
No.
①
ヒアリング先
A
②
ヒアリング先
B
③
用途についての主なコメント
ヒアリング先
C
途
・入口の用途としては現状の紙・パルプ産業の技術をベースとする
・その後の用途展開として「フィルム」
、
「
(樹脂等の)補強材料」
、
「増粘剤等」を想
定
・フィルム等に関しては農業等を含め6次産業化的な展開も期待
・塗料・接着剤などの分野への応用も検討
・地域資源である海藻や柑橘類、未利用資源のもみ殻、竹などの繊維を原料とした
セルロースナノファイバー製造の可能性を検討予定
・高機能な高度部材、例えば高機能不織布や高機能フィルムなどの用途展開を目指
す
・熱可塑性樹脂との複合化ができるようになったので、用途によってはガラス繊維
又はフィラー強化の代替材料としての可能性が見えてきた段階
・セルロースナノファイバーを複合化した際の質感・風合いに注目。また、炭素繊
維に比べて染色できるメリットがあり、樹脂複合化においては材料着色(材着)
が可能で、そうしたメリットを生かした用途も有望
- 60 -
図表3.5
用
No.
④
⑤
用途についての主なコメント(続き)
ヒアリング先
D
ヒアリング先
E
途
・紙への用途が考えられる。既に開発したガスバリア紙だけでなく、紙にセルロー
スナノファイバーを使うことによって、新たな機能をもった紙が生まれる可能性
あり
・紙への用途だけでなく、セルロースナノファイバーを大量に使う用途は様々な分
野にあると想定。医療分野もターゲットの 1 つ
・現存の製紙産業との関連から(薄紙)シート、湿式不織布等が有望視。この分野
での「置き換え」がスタート
・一次産業が盛んであり、様々な原料によるセルロースナノファイバー製造と併せ、
用途開発においても食品加工等の一次産品分野での使用も期待
b.人材について
国際的には日本のセルロースナノファイバー研究水準は高いものの、急速に普及の
機運が高まったため、地域の公設試験研究機関等においては人材面での供給が追い付
いていない側面がある。
その解決に向けて、セルロースナノファイバーに関心を高める施策やセルロースナ
ノファイバーでなければならないマテリアル機能の創発を促進する研究開発を支援する
ことにより、異分野の研究者、若手研究者の参画を促す施策や、国の主導による「川上」
-「川中」-「川下」の一気通貫型で取組む研究会等の立上げが必要とされた。
c.技術について
セルロースナノファイバーの重要な技術開発は表面修飾と解繊技術であるが、ヒア
リングで多く言及されたのは、量産化、大量利用に向けての品質安定(均一化、均質
化)である。品質が安定しなければ、工業製品として使うことができない。その点で、
コストはともかくも、ミクロフィブリルまで解繊するシングルナノファイバーである
TEMPO 酸化の評価は高い。
さらに、工業利用を促進するためには、その土台となる製品(品質)規格、
(簡易)
評価手法を早期に整備することが必要であり、そのためには国が主導し、セルロース
に精通する研究機関、大手製紙会社などの協力を得て、セルロースナノファイバーの規
格化(標準化)を進めることが期待されている。
また、セルロースナノファイバーの製造技術に関して、大学等の研究機関に対して
は、裾野の広がりのため基礎技術の公開、大手製紙メーカーに対しては、複合材料分
野等向けのセルロースナノファイバーの大量生産によるコスト低減等の主導的な役
割が期待されていることが示唆された。
- 61 -
3.2.3.ヒアリング先と中国地域との主な相違点・関係性
a.中国地域の取組みとの相違点
既に述べたように製紙業が盛んな地域は、大手製紙メーカーを中核に、川上分野の
シーズ先行の取組みを指向している。
岡山県においては「木質バイオマスを原料に、高付加価値のセルロースナノファイ
バーを製造し、利益を山に還元する」という循環的な取組みを指向しているものの、
他地域では自県の森林資源をスタートとする取組みは少数派である。県内の山元への
波及効果は限定的である一方、セルロースナノファイバー普及への展開が早期に図ら
れる可能性がある。
b.中国地域との関係性
中国地域と各地域との関係性としては、近畿地域では主に川上側のセルロースナノ
ファイバー供給者の一つとして、四国地域では主に川下側の化学、自動車等の用途展
開先としての補完関係の構築、中部地域では先端研究機関との連携、実証試験プラン
トを持つ大手製紙の移転が期待されている。
- 62 -
4.アンケート調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
4.1.アンケート調査の概要
大学・研究機関向けの「4.1.研究機関アンケート調査」、セルロースナノファ
イバーの製造に関連する「4.2.川上企業アンケート調査」、主にセルロースナノ
ファイバーの利用が期待される「4.3.川下企業アンケート調査」の3種類を実施
する5。
「川上企業」と「川下企業」について
本報告書における「川上企業」、「川下企業」の位置づけは、概ねセルロースナノ
ファイバー「製造側」
、
「(潜在的)利用側」であり、セルロースナノファイバー製造・
活用プロセスにおける「成分分離」、「解繊」、「機能化・複合化」の一部または全部
を担う企業を「川上企業」、
「用途開発」を担う企業を「川下企業」として想定して
いる(図表4.1)。
図表4.1
「川上企業」と「川下企業」の区分
用途開発
機能化
成分
解繊
分離
基礎素材型
・
生活関連型
複合化
加工組立型
「川上企業」
「川下企業」
現実には一つの企業で「成分分離」~「用途開発」を行い、
「川下・川上企業」に
跨るケースや同じ業種内においても「川上企業」、「川下企業」が混在するケースも
ある(例:化学工業分野における「機能化・複合化(化学修飾)」を行う「川上企業」
と化粧品等を製造する「川下企業」の存在)
。
また、「用途開発」を行う「川下企業」の中でも「基礎素材型」~「加工組立型」
と階層的な構造となっている点に関しては留意が必要である。
ただし、以下のアンケート調査においては便宜上、蓋然性の高い業種によりその
分類を行うものとする。
5
セルロースナノファイバーの認知度等の数値に関しては、当該認知者の方が、回答率が高いことが見込
まれるため、母集団の本来の数値よりも高くなっている可能性がある。
- 63 -
4.2.研究機関アンケート調査
【調査結果の要約】
○セルロースナノファイバーの研究開発
・セルロースナノファイバーに関する研究開発の取組みについて、「研究開発の実績
があり、継続して取り組んでいる」が 40.0%、
「取り組んでいない」が 44.0%であ
る。
○研究開発の内容
・研究開発の実績がある機関のうち、その研究開発の内容は「機能化・複合化技術」
が最も多く、次いで多いのが「用途開発技術」である。また、研究機関の7割が共
同研究を実施し、その相手先の業種は化学、ゴム製品、塗料、機械、自動車など多
岐にわたる。
○研究開発・技術支援の意向
・今後の研究開発・技術支援の意向は、
「積極的に取り組みたい」
(36.0%)、
「企業・
行政等からの要請があれば取り組みたい」(16.0%)で半数以上を占め、前向きな
姿勢をみせる研究機関が多い。
○取り組んでみたい分野・内容等
・取り組んでみたい分野・内容等は、セルロースナノファイバーの用途開発技術、機
能化・複合化技術に関わる分野について多く挙げられている。
- 64 -
4.2.1.研究機関アンケート調査の概要
a.調査の目的
本調査は、中国地域に所在する研究機関を対象に、セルロースナノファイバーの研
究開発・技術支援の状況を把握することを目的とする。
b.対象と方法
本調査の対象は、中国地域でセルロースナノファイバーの研究開発が見込まれる大
学・高等専門学校(大学等)、および公設試験研究機関(公設試)である。対象先は
以下のとおり。
対
象
対象数
・理学部・農学部・工学部等が設置されている大学
・学内に産学連携組織(産業技術系)が設置されている大学
大学等
(調査票は大学の各学部、産学連携組織ごとに配布)
48
・工業高等専門学校
・大学等でセルロースナノファイバー分野に取り組んでいる研究者
公設試
・工業系公設試験研究機関
12
・林業系公設試験研究機関
調査は、調査票を上記の対象先に郵送にて配布し、郵送またはインターネット回答
により回収した。
c.実施概要
調査期間
2015(平成 27)年8月1日~8月 31 日
調査対象数
60 件
有効回答数
25 件(有効回答率 41.7%)
d.集計データの見方
(a)回答比率
回答比率は、原則としてその設問の回答者数(無回答を除く)を母数として算出した。
クロス集計に関しては、分類別の回答者数を母数としている。
(b)小数点以下の表記
回答比率は、小数点以下第2位を四捨五入し、百分率(%)で表示している。そのた
め、比率の合計が 100%にならないことがある。
- 65 -
4.2.2.研究機関アンケート調査結果
a.回答企業の属性〔研究機関〕
(a)大学等・公設試
回答のあった大学等と公設試の割合は、「大学等」が 60.0%、「公設試」が 40.0%
である。
図表4.2 大学等・公設試(n=25)
公設試
40.0
大学等
60.0
(単位:%)
b.セルロースナノファイバーの研究開発〔研究機関〕
問1.貴大学または貴所・センターでは、セルロースナノファイバーに関する研究開発
に取り組んでいますか。あてはまるものを1つだけ選んでください。
セルロースナノファイバーに関する研究開発の取組みについて、「研究開発の実績
があり、継続して取り組んでいる」が 40.0%、
「取り組んでいない」が 44.0%である。
また、
「その他」には「研究開発に向けて調査中」
(公設試)という前向きな回答もみ
られる。
- 66 -
図表4.3 研究開発(n=25)
わからない
4.0
その他
12.0
研究開発の実績
があり、継続して
取り組んでいる
40.0
取り組んでいな
い
44.0
研究開発の実績
はあるが、現在
は取り組んでい
ない
0.0
(単位:%)
c.研究開発の内容〔研究機関〕
セルロースナノファイバーの「研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる」
と回答した先に対する研究開発の内容についての質問では、「機能化・複合化技術」
が7機関と最も多い。次いで多いのが「用途開発技術」(5機関)である。こうした
セルロースナノファイバーの加工や用途開発に着目して、研究に取り組んでいる研究
機関が存在する。
図表4.4
研究開発の内容(複数回答,n=10)
0
(機関)
10
5
成分分離技術
2
解繊技術
3
機能化・複合化技術
7
用途開発技術
5
成分利用技術
その他
1
0
- 67 -
d.共同研究の実績〔研究機関〕
(問1で「研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる」と回答した先が対象)
問3.企業と共同(産学連携)で、セルロースナノファイバー関連の研究開発に取り組
んだことはありますか。あてはまるものを1つだけ選んでください。
セルロースナノファイバー関連の共同研究の実績は、「ある」が 70%、「ない」が
30%と、共同研究を実施した機関が多い。
共同研究のパートナーの業種は、
「化学」、
「ゴム製品」、
「塗料」、
「機械」、
「自動車」、
「食品」、
「化粧品」
、
「医薬品」など多岐にわたる。大学と公設試との共同研究の実施
もみられる。
図表4.5
共同研究の実績(複数回答,n=10)
共同研究の実績
がない
30.0
共同研究の実績
がある
70.0
(単位:%)
- 68 -
e.研究開発・技術支援の意向〔研究機関〕
問4.今後、セルロースナノファイバー関連の研究開発・技術支援に取り組むお考えは
ありますか。あてはまるものを1つだけ選んでください。
研究開発・技術支援の意向は「積極的に取り組みたい」(36.0%)、「企業・行政等
からの要請があれば取り組みたい」(16.0%)で半数以上を占め、前向きな姿勢をみ
せる研究機関が多い。また、従来セルロースナノファイバーの研究に取り組んでいな
かった機関が地域でも取り組む意向を示している。
一方で、研究者や設備の不足から「対応できない」とする研究機関もみられ、必要
に応じた支援が期待される状況にある。
図表4.6
研究開発・技術支援の意向(n=25)
わからない
28.0
積極的に取り組
みたい
36.0
対応できない
20.0
企業・行政等から
の要請があれば
取り組みたい
16.0
- 69 -
(単位:%)
f.取り組んでみたい分野・内容等〔研究機関〕
(問4で「積極的に取り組みたい」もしくは「企業・行政等からの要請があれば取り組みたい」
と回答した先が対象)
問5.今後、セルロースナノファイバー関連で取り組んでみたい分野・内容等があれば、
ご記入ください。
取り組んでみたい分野・内容等は、セルロースナノファイバーの用途開発技術、機
能化・複合化技術に関わる分野が多く挙げられている。その中には、具体的に特定分
野が明確になっている研究機関(研究者)もみられる。
【主な自由記入回答】
<大学等>
区
分
回
答
内
容
・高分子複合化分野。高度に設計されたセルロースナノファイバーの添加による
機能化
・
高分子材料の機能化の研究。
・高分子材料との複合化。
複合化
・プラスチック構造材料への添加による物性改善。
・表面の機能化や物性改善のための表面処理剤への応用。
・生理機能を明らかにして、その特徴を活用した製品化に取り組んでみたい。美
用途開発
容、健康分野。
・コーティングのフィラーとして利用。
・知財を活用した食品分野への利用研究。
<公設試>
区
分
解繊および
機能化・複合化
回
答
内
容
・セルロースナノファイバーの工業的な製造技術、セルロースナノファイバーの
フィラー分野への用途展開(樹脂,塗料,ゴム製品等への利用)
。
・用途開発技術
・用途開発。特に県内繊維メーカーの支援の一環として、紡糸技術、成形技術へ
の取り組みを検討。
用途開発
・繊維強化複合材料や各種パネルなどの透明シート材料として利用できる分野で
取り組んでみたい。
・透明材料の繊維補強、建築材料関連
・用途開発
- 70 -
g.意見・コメント〔研究機関〕
問6.セルロースナノファイバー関連の研究開発・技術支援に関しての意見・コメント
があればご記入ください。
研究開発・技術支援については、研究開発にあたっての取組体制の構築、地域にお
ける様々な主体との連携への期待、研究開発・技術動向の情報提供、国からの財政的
支援などを求めるコメントが寄せられている。
【主な自由記入回答】
区
分
回
答
内
容
・研究員を確保するために、広域で研究開発に取り組むことが必要。
・研究者ネットワークを広げていく中で、研究開発に不可欠な安定した品質(サ
イズ、性状、由来等)のセルロースナノファイバーを安価かつ定常的な供給体
研究開発
体制等
制の構築が求められる。
・セルロース繊維の研究を行うにあたって、目標アイテムを定めて開発を進めな
ければならない。
・5年スパンの支援が最低でも必要である。現状は数多くのシーズが眠っている
と思われる。
・研究を取り組むにあたって、試作用ナノファイバーの入手先、微細な組織構造
を観察できる装置等が非常に限られており(製造装置、評価装置を有する研究
他機関
・
企業
・
地域
との連携
機関を探すところから手探りの状況)、先進的な取組みを行っている研究グル
ープに参加していないところは敷居が高い。今後研究開発を幅広く進めていく
ためには、試料の販売や評価装置が利用可能な機関の紹介窓口等の整備が望ま
れる。
・企業との連携を図るため、企業での研究開発の取組状況が知りたい。
・立木や立竹の混焼・専焼発電施設の県内進出が相次いでおり、集出荷システム
の構築に向けた研究を行っている。林業事業体等の紹介は協力可能である。
・セルロースナノファイバーの用途開発を検討している企業を対象にしたセミナ
情報提供
ー・講習(具体的な利用方法、製造方法等)を開催してほしい。
・セルロースナノファイバー関連の技術や市場のトレンド、研究開発の状況や実
用化の情報などがあれば今後の取組みの参考にせていただきたい。
情報発信
実用化支援
・キチンナノファイバーも魅力的な素材なので、セルロースナノファイバーの類
縁体として認知して、注目してほしい。
・産業化を加速させるための国の支援に期待する。
・実用化促進のための支援(例:外部競争的資金獲得・連携体制構築への支援)
。
- 71 -
4.3.川上企業アンケート調査
【調査結果の要約】
○木材の利活用
・回答企業のうち、利活用に「取り組んでいる」(35.8%)は3割超。業種別では、木
材・木製品の6割が何らかの形で木材の利活用に取り組んでいる。具体的な取組み
は、製材、チップへの加工など既存事業から廃材等の燃焼による発電・熱利用まで
幅広い。
○セルロースナノファイバーの認知度
・セルロースナノファイバーを「知っている」
(14.7%)は1割超、
「名前だけは知っ
ている」
(36.7%)を含めると全体の半数に達する。岡山県は他県に比べて認知度
が高い。
○セルロースナノファイバーの研究開発
・セルロースナノファイバーを「知っている」企業のうち、
「研究開発の実績があり、
継続して取り組んでいる」(18.8%、3社)は少数である。そのうち1社はセルロ
ースナノファイバー製造・活用技術の広汎な研究開発に取り組み、その他は「解繊
技術」を中心とする研究開発、
「機能化・複合化技術」を中心とする研究開発に各
1社ずつ取り組んでいる。
○研究開発・実用化の意向
・今後の研究開発・実用化の意向は、「現状では考えていない」(59.6%)は約6割。
一部の企業において前向きな姿勢がみられるものの、大半の企業は状況を見極めて
いる段階である。
・研究開発・実用化に前向きな企業には、自社の既存事業にセルロースナノファイバ
ーを効果的な活用ができるかを検討したいとする企業が多い。
○普及に向けての課題
・普及に向けての課題は「用途開発」
(54.2%)が最も多い。
「認知度向上」
(47.7%)、
「価格低下」
(43.9%)も課題として指摘されている。
○有効または必要な施策
・セルロースナノファイバー関連分野に発展にとって有効または必要とされる施策
は、
「技術開発に関する情報提供・技術支援」
(59.8%)が最も多く、技術動向に関
心が高いことがうかがえる。「市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援」
(52.3%)も多い。
- 72 -
4.3.1.川上企業アンケート調査の概要
a.調査の目的
本調査は、中国地域においてセルロースナノファイバーの製造が見込まれる企業
(川上企業)を対象に、その技術開発・実用化の状況を把握することを目的とする。
b.対象と方法
本調査の対象は中国地域の川上企業である。具体的には、中国地域に本社をおく製
造業のうち帝国データバンクの名簿から「木材・木製品」
(従業員規模5人以上)、
「パ
ルプ・紙・紙加工品」
(同5人以上)、「一般機械器具」(同 50 名以上)に該当する企
業、および岡山バイオマスプラスチック研究会の会員企業、公表データから中国地域
に生産拠点をおく「木材・木製品」
「パルプ・紙・紙加工品」
「一般機械器具」に該当
する企業を抽出、合計で 577 社を対象先に選定した。
調査は、調査票を上述の企業に郵送にて配布し、郵送またはインターネット回答に
より回収した。
c.実施概要
調査期間
2015(平成 27)年8月1日~8月 31 日
調査対象数
577 件
有効回答数
109 件(有効回答率 18.9%)
d.集計データの見方
(a)回答比率
回答比率は、原則としてその設問の回答者数(無回答を除く)を母数として算出した。
クロス集計に関しては、分類別の回答者数を母数としている。
(b)小数点以下の表記
回答比率は、小数点以下第2位を四捨五入し、百分率(%)で表示している。そのた
め、比率の合計が 100%にならないことがある。
- 73 -
4.3.2.川上企業アンケート調査結果
a.回答企業の属性〔川上企業〕
(a)所在地
回答企業の所在地は、
「広島県」(38.0%)が最多で、次いで「岡山県」(28.7%)
が多い。
図表4.7
所在地(n=108)
その他
0.0
鳥取県
8.3
山口県
14.8
島根県
10.2
岡山県
28.7
広島県
38.0
(単位:%)
(b)従業員数
従業員数は、
「50 人未満」
(51.4%)が過半数を占め、次いで「50~99 人」
(20.0%)、
「100~299 人」
(20.0%)が多い。
図表4.8 従業員数(n=105)
500~999人
1.9
300~499人
4.8
1,000人~
1.9
100~299人
20.0
50人未満
51.4
50~99人
20.0
(単位:%)
- 74 -
(c)業種
川上企業として、主に「木材・木製品」「パルプ・紙・紙加工品」「一般機械器具」
の企業を抽出したが、そのうち「木材・木製品」
(45.4%)が最も多い。
「その他」の
回答企業は家具、金属製品、電気機械器具などである。
図表4.9
業種(n=108)
その他
8.3
木材・木製品
45.4
一般機械器具
29.6
パルプ・紙・紙加
工品
16.7
(単位:%)
b.木材の利活用〔川上企業〕
問1.木材の利活用に関して、貴社が取り組んでいる事業・研究開発等があれば教えて
ください。あてはまるものを1つだけ選び、具体的な内容をご記入ください。
木材の利活用に関しては、
「取り組んでいる」が 35.8%である。
業種別にみると、パルプ・紙・紙加工品、一般機械器具で「取り組んでいる」は少
ないものの、木材・木製品で「取り組んでいる」
(61.2%)が多くみられる。
具体的な利活用については、木材・木製品で製材、チップへの加工など、既存事業
としての取組みが多く挙がっている。また、廃材等の燃焼による発電・熱利用もみら
れる。
- 75 -
図表4.10 木材の利活用(n=109)
取り組んでいる
35.8
取り組んでいな
い
64.2
(単位:%)
図表4.11
木材の利活用(業種別,n=109)
0%
20%
木材・木製品(n=49)
パルプ・紙・紙加工品(n=18)
一般機械器具(n=32)
その他(n=9)
40%
60%
61.2
80%
100%
38.8
11.1
88.9
15.6
84.4
22.2
77.8
取り組んでいる
取り組んでいない
木材の利活用に関連した事業・研究開発の自由記入回答のうち、主なものは以下の
とおりである。
区
分
回
答
内
容
・製材機、チッパー機等の製造(広島県、一般機械器具)
・製材(山口県、木材・木製品)
機械的加工
・製材、集成材、ボード、プレカットの製造(広島県、木材・木製品ほか多数)
・台形集成材の製造(岡山県、木材・木製品)
・建築用ボードの製造(鳥取県、木材・木製品)
・合板の製造(島根県、木材・木製品)
- 76 -
区
分
回
答
内
容
・パルプの製造(山口県、パルプ・紙・紙加工品)
・工業原料化(岡山県、木材・木製品)
工業原料化
・木材チップからのセルロースナノファイバー製造(岡山県、一般機械器具)
・セルロースナノファイバーの機能化(岡山県、その他)
・パルプからの原紙を使用した粘着テープの開発(岡山県、パルプ・紙・加工品)
・家畜敷料、キノコ温床のためのオガ粉製造機の製作(広島県、一般機械器具)
直接利用
・家畜敷料の製造(岡山県、一般機械器具)
・梱包材の製造(島根県、木材・木製品)
・バイオマス発電装置の開発(山口県、一般機械器具)
・薪、チップへの加工(島根県、木材・木製品ほか多数)
固形燃料化
・
燃焼
・バイオマス発電用チップの製造(広島県、木材・木製品)
・直接燃焼・混焼による発電・熱利用(岡山県、一般機械器具)
・木質ペレット製造(広島県、木材・木製品)
・木材乾燥機への熱利用(島根県、木材・木製品)
・バーク(樹皮)の直接燃焼による熱利用(岡山県、木材・木製品)
・ボイラー燃料として廃材を他社へ供給(広島県、木材・木製品)
その他
・白炭化による床下調湿用炭、土壌改良に使用(山口県、木材・木製品)
・廃材を伝統工芸品の材料に提供(広島県、木材・木製品)
c.セルロースナノファイバーの認知度〔川上企業〕
問2.木材などから作製される「セルロースナノファイバー」を知っていますか。あて
はまるものを1つだけ選んでください。
中国地域の川上企業におけるセルロースナノファイバーの認知度をみると、「知ら
ない」とする企業(48.6%)が全体の半数近くを占めている。一方で、
「知っている」
とする企業(14.7%)は全体の1割超、
「名前だけを知っている」
(36.7%)を含める
と半数に達する。
属性別にみると、所在地では岡山県が「知っている」(25.8%)と「名前だけは知
っている」
(48.4%)を合わせると7割超を占めている。また、従業員数が多い企業
になるほどセルロースナノファイバーの認知度が高いことがうかがえる。業種別では、
認知度には大きな差がみられない。
さらに、
「所在地別」-「業種別」でクロスをかけると、岡山県の木材・木材製品、
一般機械器具、山口県のパルプ・紙・加工品などで認知度が高い。
- 77 -
図表4.12
認知度(n=109)
知っている
14.7
知らない
48.6
名前だけは知っ
ている
36.7
(単位:%)
図表4.13
認知度(所在地別・従業員数別・業種別)
セルロースナノファイバーの認知度(%)
知っている
名前だけは
知らない
合計
知っている
全体
109
14.7
36.7
48.6
鳥取県
9
0.0
33.3
66.7
所 島根県
11
0.0
54.5
45.5
在 岡山県
31
25.8
48.4
25.8
地 広島県
41
9.8
29.3
61.0
山口県
16
25.0
25.0
50.0
50人未満
54
9.3
33.3
57.4
50~99人
21
9.5
38.1
52.4
従
業 100~299人
21
9.5
52.4
38.1
員 300~499人
5
60.0
20.0
20.0
数
500~999人
2
0.0
100.0
0.0
1,000人~
2
100.0
0.0
0.0
木材・木製品
49
14.3
36.7
49.0
業 パルプ・紙・紙加工品
18
11.1
27.8
61.1
種 一般機械器具
32
18.8
43.8
37.5
その他
9
11.1
33.3
55.6
注:「知っている」が20%以上を黄色で表示。
- 78 -
d.セルロースナノファイバーの研究開発〔川上企業〕
(問2で「知っている」と回答した先が対象)
問3.貴社では、セルロースナノファイバーに関する研究開発に取り組んでいますか。
あてはまるものを1つだけ選んでください。
セルロースナノファイバーを「知っている」企業 16 社のうち、
「研究開発の実績が
あり、継続して取り組んでいる」
(18.8%,3社)とする企業は少数で、研究開発に「取
り組んでいない」
(81.3%,13 社)とする企業が多い。
図表4.14
セルロースナノファイバーの研究開発(n=16)
わからない
0.0
その他
0.0
研究開発の実績
があり、継続して
取り組んでいる
18.8
研究開発の実績
はあるが、現在取
り組んでいない
0.0
取り組んでいない
81.3
(単位:%)
e.研究開発の内容〔川上企業〕
セルロースナノファイバーの「研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる」
と回答した先に対する研究開発についての質問では、回答企業のうち1社はセルロー
スナノファイバー製造の広汎な分野での研究開発に取り組んでいる。その他は、1社
が「解繊技術」を中心とする研究開発、1社が「機能化・複合化技術」を中心とする
研究開発に取り組んでいる。
- 79 -
図表4.15 プロセス(複数回答,n=3)
0
成分分離技術
1
解繊技術
2
機能化・複合化技術
2
用途開発技術
1
成分利用技術
1
その他
10 (社)
5
0
研究開発の取組内容、成果、課題などの自由記入回答は以下のとおり。
No.
回
答
内
容
セルロースナノファイバーを製造し、他社の技術的課題を解決するための素材として、
①
サンプルを幅広く提供している。課題は、軽量化、強度向上、寸法安定性、バリア性増
粘・分散・保水性など各種機能の向上。
独自の解繊装置を開発し、セルロースナノファイバーの製造を行っている。安定的で安
②
価なセルロースナノファイバーの製造が可能になったが、課題は市場ニーズに見合った
価格になっていないこと、セルロースナノファイバーを含水状態で提供しているために
プラスチック、ゴム等の工業製品に混ぜることが難しいことである。
③
機能を有する官能基の付加に取り組んでおり、商品化を検討している。
- 80 -
f.研究開発・実用化の意向〔川上企業〕
問5.今後、貴社でセルロースナノファイバー関連の研究開発・実用化に取り組むお考
えはありますか。あてはまるものを1つだけ選んでください。
研究開発・実用化の意向は、
「現状では考えていない」
(59.6%)が全体の約6割を
占めている。次いで、「きっかけがあれば取り組みたい(検討したい)」(20.2%)が
多い。一部の企業においては前向きな姿勢がみられるものの、大半の企業は状況を見
極めている段階である。
地域別では、広島県で「きっかけがあれば取り組みたい(検討したい)」(34.1%)
がやや多い。
図表4.16
研究開発・実用化の意向(n=109)
積極的に取り組
みたい
2.8
わからない
17.4
きっかけがあれ
ば取り組みたい
(検討したい)
20.2
現状では考えて
いない
59.6
(単位:%)
図表4.17
研究開発・実用化の意向(所在地別・業種別)
研究開発・実用化の意向 (%)
積極的に
きっかけがあれ
現状では
わからない
合計
取り組みたい ば取り組みたい 考えていない
全体
109
2.8
20.2
59.6
17.4
鳥取県
9
0.0
11.1
66.7
22.2
所 島根県
11
0.0
9.1
72.7
18.2
在 岡山県
31
6.5
16.1
74.2
3.2
地 広島県
41
0.0
34.1
43.9
22.0
山口県
16
6.3
6.3
62.5
25.0
木材・木製品
49
0.0
26.5
57.1
16.3
業 パルプ・紙・紙加工品
18
5.6
22.2
44.4
27.8
種 一般機械器具
32
3.1
9.4
78.1
9.4
その他
9
11.1
22.2
44.4
22.2
注:「積極的に取り組みたい」「きっかけがあれば取り組みたい」が合算で20%以上の箇所を黄色で表示。
- 81 -
g.取り組んでみたい分野・内容等〔川上企業〕
(問5で「積極的に取り組みたい」もしくは「きっかけがあれば取り組みたい(検討したい)
」
と回答した先が対象)
問6.今後、セルロースナノファイバー関連で取り組んでみたい分野・内容等があれば、
ご記入ください。
セルロースナノファイバーへの理解が一部の企業にしか浸透していない中で、原料
供給やシート、フィルム分野等の自社既存事業においてセルロースナノファイバーを
いかに効果的に活用ができるかを検討したいとする企業が多い。
【主な自由記入回答】
<木材・木製品>
所在地
回
答
内
容
鳥取県
・セルロースナノファイバーを使用して製品開発及び新分野への進出。
島根県
・端材や建築物以外の利用方法が少ない材に対しての活用検討。
岡山県
・樹脂との混合による新規材料開発。
・不燃化に加工し、住宅等の断熱材に使用。
・シート、フィルムの複合化による木質材料の強度向上。接着剤あるいは塗料へのナ
ノファイバー混合による機能性アップが想定される。
広島県
・廃材の利用
・木材に代用できるものなら、様々な加工品をつくってみたい。
・木材チップを取り扱っているので、原料供給の面からお役に立ちたい。
<パルプ・紙・紙加工品>
所在地
岡山県
回
答
内
容
・原紙への配合、粘着剤、含浸剤、コーティング剤への配合などで、どのような機能
を付与できるのか興味がある。
・包装材料、治具
広島県
・梱包材として利用してみたい。
・輸出向け梱包用のバリアシートの開発。
<一般機械器具>
所在地
岡山県
広島県
回
答
内
容
・プラスチック、ゴム、フィルター、塗料、接着剤、特殊紙等への用途開発。
・送風機の羽根車材料に採用し、軽量化が図れないか。ただし、耐薬品性、耐熱性が
求められる。
<その他>
所在地
回
答
内
容
岡山県
・アメニティ分野への応用。特種フィラーとしての活用。
広島県
・金属プレス加工機による成形。
- 82 -
h.普及に向けての課題〔川上企業〕
問7.セルロースナノファイバーが普及するためにクリアすべき課題は何だとお考えで
すか。あてはまるものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーが普及するための課題では、
「用途開発」
(54.2%)が最
も多い。次いで、「認知度向上」(47.7%)、「価格低下」(43.9%)が課題として指摘
する企業が多い。
所在地別にみると、
「用途開発」が鳥取県、岡山県で、
「認知度向上」が島根県で多
い。業種別では、
「用途開発」が木材・木製品などで多く挙げられている。
図表4.18
普及に向けての課題(複数回答,n=107)
0
20
60 (%)
40
認知度向上(n=51)
47.7
価格低下(n=47)
43.9
性能向上(n=20)
18.7
複合化などの技術の進展
(n=36)
33.6
用途開発(n=58)
54.2
わからない(n=21)
その他(n=2)
19.6
1.9
- 83 -
図表4.19
所
在
地
業
種
合計
全体
107
鳥取県
8
島根県
11
岡山県
31
広島県
41
山口県
15
木材・木製品
48
パルプ・紙
・紙加工品
18
一般機械器具 32
その他
8
普及に向けての課題(所在地別・業種別)
普及に向けての課題 (複数回答,%)
認知度向上 価格低下 性能向上 複合化な 用途開発 わからない その他
どの技術
の進展
47.7
43.9
18.7
33.6
54.2
19.6
1.9
37.5
25.0
25.0
37.5
75.0
0.0
0.0
63.6
27.3
18.2
27.3
27.3
36.4
0.0
48.4
58.1
16.1
41.9
74.2
6.5
6.5
43.9
51.2
24.4
31.7
43.9
29.3
0.0
53.3
20.0
6.7
26.7
53.3
13.3
0.0
54.2
35.4
22.9
33.3
62.5
16.7
0.0
38.9
50.0
25.0
55.6
50.0
50.0
16.7
15.6
12.5
22.2
37.5
50.0
44.4
46.9
62.5
16.7
21.9
25.0
0.0
6.3
0.0
注:60%以上の箇所を黄色で表示。
i.有効または必要な施策〔川上企業〕
問8.セルロースナノファイバーは国の「日本再興戦略」2015 に明記されるなど、その
関連分野の発展が期待されています。今後、有効または必要な施策は何だと思われ
ますか。あてはまるものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーの関連分野の発展にとって有効または必要とされる施
策は、
「技術開発に関する情報提供・技術支援」
(59.8%)が最も多く、技術動向に関
心が高いことがうかがえる。以下、「市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援」
(52.3%)
、
「産学官連携による技術開発・実用化プロジェクト立ち上げ」(43.9%)
などの順である。
所在地別にみると、
「技術開発に関する情報提供・技術支援」は岡山県、島根県、
広島県で、
「市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援」は広島県、
「川下企業との
マッチング」は岡山県の企業で多く挙げられている。
業種別では、
「技術開発に関する情報提供・技術支援」は木材・木製品、パルプ・
紙・紙加工品で多く挙げられている。
- 84 -
図表4.20 有効または必要な施策(複数回答,n=107)
(%)
0
20
40
60
技術開発に関する情報提供・技術支援(n=64)
59.8
市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援(n=56)
52.3
産学官連携による技術開発・実用化プロジェクト立ち上げ
(n=47)
43.9
川下企業とのマッチング(n=38)
35.5
意見交換の場づくり(講演会・セミナー等)(n=19)
17.8
わからない・特にない(n=20)
18.7
その他(n=0)
図表4.21
所
在
地
従
業
員
数
業
種
80
0.0
有効または必要な施策(所在地別・従業員数別・業種別)
合計
全体
107
鳥取県
9
島根県
11
岡山県
31
広島県
39
山口県
16
50人未満
53
50~99人
20
100~299人
21
300~499人
5
500~999人
2
1,000人~
2
木材・木製品
48
パルプ・紙
・紙加工品
17
一般機械器具 32
その他
9
技術開発
に関する
情報提
供・技術
支援
59.8
44.4
63.6
64.5
61.5
56.3
66.0
55.0
57.1
40.0
50.0
50.0
66.7
64.7
53.1
44.4
有効または必要な施策 (複数回答,%)
市場ニーズ 産学官連携 川下企業 意見交換 わからな その他
に関する による技術 とのマッ の場づくり い・特に
情報提供・ 開発・実用 チング
(講演会・ ない
販路開拓 化プロジェクト
セミナー
支援
立ち上げ
等)
52.3
43.9
35.5
17.8
18.7
0.0
55.6
44.4
22.2
11.1
22.2
0.0
45.5
54.5
27.3
0.0
36.4
0.0
54.8
48.4
61.3
29.0
6.5
0.0
61.5
48.7
28.2
17.9
20.5
0.0
31.3
18.8
18.8
12.5
18.8
0.0
58.5
49.1
32.1
24.5
18.9
0.0
55.0
55.0
45.0
5.0
15.0
0.0
47.6
33.3
38.1
14.3
23.8
0.0
40.0
40.0
40.0
20.0
0.0
0.0
0.0
0.0
50.0
50.0
0.0
0.0
50.0
50.0
50.0
0.0
0.0
0.0
56.3
52.1
25.0
18.8
16.7
0.0
58.8
43.8
55.6
注:60%以上の箇所を黄色で表示。
- 85 -
41.2
34.4
44.4
41.2
46.9
44.4
23.5
12.5
22.2
23.5
15.6
22.2
0.0
0.0
0.0
j.意見・コメント〔川上企業〕
問9.セルロースナノファイバー関連の研究開発・実用化に関しての意見・コメントが
あればご記入ください。
セルロースナノファイバー関連の研究開発・実用化に関しての意見としては、自社
の事業と関連した情報提供ニーズ、普及への課題、(中山間)地域振興策としての有
効性など、様々な意見が挙げられている。
支援策としては、セルロースナノファイバーに関する研究開発・実用化への公的支
援などが寄せられている。
【主な自由記入回答】
<情報提供>
業
種
所在地
鳥取県
木材・
木製品
回
答
内
容
・将来有望な素材であるのはわかるが、例えば杉 1 本からどのぐらいとれると
か、具体的なコスト的なものもわかれば、実現に向けて進むのでは。
・情報を入手したい。
広島県
・実際の現物を知らないのでわかりません。どんなものに適用するかを知り
たい。
<普及への課題>
業
種
パルプ
所在地
広島県
・紙・紙
加工品
山口県
回
答
内
容
・梱包用バリアシートへの利用に興味はあるが、納入先からは品質(性能)
よりコスト要請が強い状況。したがって、価格低下がまず重要。
・セルロースナノファイバーは低濃度の水分散体であることが使用しづらい
ケースがある。
・エンドユーザーが必要性やメリットを認知し、開発に本腰にならないと普
一般
島根県
及しないと思う。ここが魅力を感じるものにすることが大切。新素材はす
べてそうだと思いますが、耐久性とコストが伴うことが、普及に一番大切
なことだと思います。
機械
器具
・セルロースナノファイバーの開発はシーズ側からの発信のため、用途がな
岡山県
かなか出てこない。ニーズ側との共同研究により、ニーズが求めるものと
マッチするかを見極めていかなければならない。
<(中山間)地域振興>
業
種
所在地
回
答
内
容
・バイオマス発電、CLT 等森林資源を活かした取組みが始まっているが、持続
木材・
木製品
岡山県
可能性の問題を強くはらんでいる。セルロースナノファイバー関連を推し進
めることで、それらの事業においても活性化がはかられると思う。特に、中
山間地域の産業をつくっていくかが大きな問題である。
一般機械
器具
島根県
・竹を使用できれば興味があります。竹の成長スピードから害となっています。
竹を使った地域おこしができれば中山間地は助かると思います。
- 86 -
<支援策等>
業
種
木材・
木製品
その他
所在地
岡山県
広島県
岡山県
回
答
内
容
・研究開発を後押しする助成金、補助金を増やしていただきたい。
・木材と組み合わせることによる性能向上に関する研究をお願いしたい。強
度向上や寸法安定化の付与など。
・共同開発推進の為のユーザー紹介と支援。軌道に乗るまでの運転資金の公
的支援。
- 87 -
4.4.川下企業アンケート調査
【調査結果の要約】
○セルロースナノファイバーの認知度
・セルロースナノファイバーを「知っている」
(15.2%)は1割超。
「名前だけは知っ
ている」
(32.1%)を含めると半数近くの企業が知っている。業種別では「知って
いる」企業はゴム製品、化学工業などで多い。
○セルロースナノファイバーの関心度
・セルロースナノファイバーを魅力ある素材だと「思う」(44.9%)、「大いに思う」
(11.1%)を合わせると、魅力ある素材だと思う企業が半数を超えている。業種別
ではプラスチック製品、ゴム製品、化学工業などに関心ある企業が多い。
○セルロースナノファイバーの特徴・効果
・魅力的だと思われる特徴・効果は「プラスチックが数倍に強化」(54.8%)、「材料
の軽量化、材料の削減が可能」
(52.7%)を回答企業の半数が挙げている。業種別
では、プラチック製品で「プラスチックが数倍に強化」
(91.3%)、食料品・飲料・
飼料で「質感・食感等の変化」(86.1%)に期待している。
○製品開発の取組状況
・セルロースナノファイバーを使用する製品開発を具体的に進めている企業は少な
い。ただし、
「(取組・検討はしていないが)関心はある」(43.4%)とする企業が
多く、製品開発への関心は高い。
○期待される効果
・セルロースナノファイバーに関心がある企業にとって、「自社製品の性能向上」
(62.9%)に期待している回答が最も多い。業種別では「自社製品の性能向上」は
プラスチック製品、輸送用機械器具、ゴム製品などで多い。
○関心がない理由
・セルロースナノファイバーに関心がない理由は、「自社製品との関連がない」
(63.6%)が最も多い。
「セルロースナノファイバーを知らない」
(39.4%)も多い。
○普及に向けての課題
・セルロースナノファイバーが普及するための課題では、
「価格低下」
(47.4%)、
「用
途開発」
(46.2%)を半数近くの企業が回答している。業種別では「価格低下」は
プラスチック製品、ゴム製品等で、「複合化などの技術の進展」はゴム製品等で課
題として多く挙げている。
- 88 -
○有効または必要な施策
・セルロースナノファイバー関連分野に発展にとって有効または必要とされる施策
は、
「技術開発に関する情報提供・技術支援」
(50.8%)が最も多い。次いで「市場
ニーズに関する情報提供・販路開拓支援」
(52.3%)も多い。
- 89 -
4.4.1.川下企業アンケート調査の概要
a.調査の目的
本調査は、中国地域においてセルロースナノファイバーを原材料等として活用する
ことが見込まれる企業(川下企業)を対象に、そのニーズを把握することを目的とす
る。
b.対象と方法
本調査の対象は中国地域の川下企業である。具体的には、中国地域に本社をおく製
造業のうち帝国データバンクの名簿から3業種(
「木材・木製品」
「パルプ・紙・紙加
工品」
「一般機械器具」
)以外の企業(従業員規模 20 人以上)、および岡山バイオマス
プラスチック研究会の会員企業、公表データから中国地域に生産拠点をおく企業(「木
材・木製品」
「パルプ・紙・紙加工品」
「一般機械器具」の3業種を除外)を抽出、合
計で 2,266 社を対象先に選定した。
調査は、調査票を上述の企業に郵送にて配布し、郵送またはインターネット回答に
より回収した。
c.実施概要
調査期間
調査対象数
有効回収数
2015(平成 27)年8月1日~8月 31 日
2,266 件
334 件(有効回答率 14.7%)
d.集計データの見方
(a)回答比率
回答比率は、原則としてその設問の回答者数(無回答を除く)を母数として算出した。
クロス集計に関しては、分類別の回答者数を母数としている。
(b)小数点以下の表記
回答比率は、小数点以下第2位を四捨五入し、百分率(%)で表示している。そのた
め、比率の合計が 100%にならないことがある。
- 90 -
4.4.2.川下企業アンケート調査結果
a.回答企業の属性〔川下企業〕
(a)所在地
回答企業の所在地は、
「広島県」(38.9%)、「岡山県」(37.7%)が多い。
図表4.22
所在地(n=329)
その他
1.5
鳥取県 4.0
島根県
5.5
山口県
12.5
岡山県
37.7
広島県
38.9
(単位:%)
(b)従業員数
従業員数は、
「50 人未満」
(38.7%)が最も多く、次いで「50~99 人」
(22.9%)が
多い。
図表4.23
従業員数(n=328)
1,000人~
4.9
500~999人
6.1
300~499人
7.9
50人未満
38.7
100~299人
19.5
50~99人
22.9
(単位:%)
- 91 -
(c)業種
図表4.24
業 種
回答企業 (社) 回答割合 (%)
食料品・飲料・飼料
繊維工業
化学工業
プラスチック製品
ゴム製品
窯業・土石製品
鉄鋼・非鉄金属
63
27
30
30
12
21
17
18.9
8.1
9.0
9.0
3.6
6.3
5.1
業種
業 種
金属製品
電気機械器具
輸送用機械器具
その他の製造業
その他
不明
合 計
回答企業 (社)
回答割合 (%)
42
31
26
30
2
3
334
12.6
9.3
7.8
9.0
0.6
0.9
100.0
注:アンケート調査票の業種の一部を集計の都合上、統合している。具体的には、
「食料品」と「飲料・た
ばこ・飼料」は「食料品・飲料・飼料」に統合、
「鉄鋼」と「非鉄金属」は「鉄鋼・非鉄金属」に統合、
「電
子部品・デバイス・電子回路」
「電気機械器具」
「情報通信機械器具」は「電気機械器具」に統合、
「家具装
備品」「印刷・同関連業」「石油製品・石炭製品」「なめし革・同製品・毛皮」「その他の製造業」は「その
他の製造業」に統合している。
b.セルロースナノファイバーの認知度〔川下企業〕
問1.木材などから作製される「セルロースナノファイバー」を知っていますか。あて
はまるものを1つだけ選んでください。
中国地域の川下企業におけるセルロースナノファイバーの認知度をみると、全体で
は「知らない」
(52.7%)が最も多い。一方、
「知っている」
(15.2%)は少数で、
「名
前だけは知っている」
(32.1%)を含めて考えるならば半数近くの企業が知っている。
属性別にみると、所在地別では「知っている」企業は岡山県(24.4%)、鳥取県(23.1%)
が相対的に多い。従業員数別では従業員数が多い企業になるほど、「知っている」企
業が多い。
また、業種別では「知っている」企業はゴム製品(66.7%)、化学工業(33.3%)
などで多いことがうかがえる。
さらに、
「所在地別」-「業種別」でクロスをかけると、鳥取県の食料品・飲料・飼料、
岡山県の化学工業、プラスチック製品、ゴム製品、広島県のゴム製品、山口県の化学工
業で認知度が高い。
- 92 -
図表4.25
認知度(n=330)
知っている
15.2
知らない
52.7
名前だけは知っ
ている
32.1
(単位:%)
図表4.26
認知度(所在地別・従業員数別)
セルロースナノファイバーの認知度 (%)
知っている
名前だけは
知らない
合計
知っている
全体
330
15.2
32.1
52.7
鳥取県
13
23.1
38.5
38.5
島根県
18
0.0
33.3
66.7
所
岡山県
123
24.4
27.6
48.0
在
127
7.9
33.9
58.3
地 広島県
山口県
39
10.3
41.0
48.7
その他
5
60.0
20.0
20.0
50人未満
126
5.6
27.8
66.7
74
14.9
28.4
56.8
従 50~99人
業 100~299人
63
11.1
41.3
47.6
員 300~499人
25
32.0
52.0
16.0
数
500~999人
20
30.0
25.0
45.0
1,000人~
16
62.5
25.0
12.5
注:「知っている」が20%以上を黄色で表示。
- 93 -
<参考:川上企業+川下企業> 図表4.27 認知度(所在地別・従業員数別)
全体
所
在
地
従
業
員
数
合計
439
セルロースナノファイバーの認知度 (%)
知っている
名前だけは
知らない
知っている
15.0
33.3
51.7
鳥取県
22
13.6
36.4
50.0
島根県
29
0.0
41.4
58.6
岡山県
154
24.7
31.8
43.5
広島県
168
8.3
32.7
58.9
山口県
55
14.5
36.4
49.1
その他
5
60.0
20.0
20.0
50人未満
180
6.7
29.4
63.9
50~99人
95
13.7
30.5
55.8
100~299人
84
10.7
44.0
45.2
300~499人
30
36.7
46.7
16.7
500~999人
22
27.3
31.8
40.9
66.7
22.2
11.1
1,000人~
18
注:「知っている」が20%以上を黄色で表示。
図表4.28
認知度(業種別)
セルロースナノファイバーの認知度 (%)
知っている
名前だけは
知らない
合計
知っている
全体
330
15.2
32.1
52.7
食料品・飲料・飼料
62
8.1
22.6
69.4
繊維工業
27
18.5
37.0
44.4
化学工業
30
33.3
53.3
13.3
プラスチック製品
30
26.7
30.0
43.3
ゴム製品
12
66.7
25.0
8.3
業 窯業・土石製品
21
0.0
42.9
57.1
種 鉄鋼・非鉄金属
16
0.0
18.8
81.3
金属製品
40
0.0
25.0
75.0
電気機械器具
31
9.7
45.2
45.2
輸送用機械器具
26
7.7
46.2
46.2
その他の製造業
30
26.7
16.7
56.7
製造業以外
2
50.0
0.0
50.0
注:「知っている」が20%以上を黄色で表示(製造業以外を除く)。
- 94 -
c.セルロースナノファイバーの関心度〔川下企業〕
問2.説明文を読んで、貴社にとってセルロースナノファイバーは魅力ある素材だと思
いますか。あてはまるものを1つだけ選んでください。
魅力ある素材だと「思う」(44.9%)企業が最も多い。「大いに思う」(11.1%)を
合わせると、魅力ある素材だと思う企業が半数を超える。
業種別ではプラスチック製品、ゴム製品、化学工業などで、セルロースナノファイ
バーを魅力ある素材と思っている企業が多い。
図表4.29
関心度(n=332)
大いに思う
11.1
わからない
28.9
思う 44.9
思わない
15.1
(単位:%)
図表4.30
関心度(業種別)
セルロースナノファイバーの魅力度 (%)
大いに思う
思う
思わない
合計
全体
332
11.1
44.9
15.1
食料品・飲料・飼料
63
4.8
52.4
9.5
繊維工業
27
11.1
37.0
22.2
化学工業
30
20.0
46.7
13.3
プラスチック製品
30
20.0
56.7
6.7
ゴム製品
12
16.7
58.3
8.3
業 窯業・土石製品
21
0.0
28.6
9.5
種 鉄鋼・非鉄金属
17
5.9
29.4
35.3
金属製品
41
2.4
41.5
22.0
電気機械器具
31
9.7
45.2
16.1
輸送用機械器具
25
16.0
48.0
8.0
その他の製造業
30
20.0
43.3
16.7
製造業以外
2
100.0
0.0
0.0
注:「大いに思う」「思う」が合算で60%以上の箇所を黄色で表示(製造業以外を除く)。
- 95 -
わからない
28.9
33.3
29.6
20.0
16.7
16.7
61.9
29.4
34.1
29.0
28.0
20.0
0.0
d.セルロースナノファイバーの特徴・効果〔川下企業〕
(問2で「大いに思う」あるいは「思う」と回答した先が対象)
問3.セルロースナノファイバーが魅力的だと思う特徴・効果は何でしょうか。あては
まるものをすべて選んでください。
魅力的だと思われる特徴・効果は「プラスチックが数倍に強化」(54.8%)、「材料
の軽量化、材料の削減が可能」
(52.7%)を回答企業の半数が挙げている。
「環境にや
さしいバイオマス素材」
(36.6%)も多い。このような項目に川下企業は注目してい
る。
業種別にみると、プラチック製品で「プラスチックが数倍に強化」
(91.3%)、輸送
用機械器具で「材料の軽量化、材料の削減が可能」
(87.5%)
、食料品・飲料・飼料で
「質感・食感等の変化」
(86.1%)に期待していることがうかがえる。
図表4.31
特徴・効果(複数回答,n=186)
0
20
超極細の繊維状物質(n=27)
40
14.5
54.8
プラスチックが数倍に強化(n=102)
材料の軽量化、材料の削減が可能(n=98
材料の軽量化、材料の削減が可能(n=98)
)
52.7
熱による寸法変化が小さい(n=70)
37.6
ガスバリア性が高い
(鮮度保持が可能)(n=29)
15.6
塗装レス(新たな色合いが可能)(n=24)
12.9
接着力の強化(n=42)
22.6
質感・食感等の変化(n=44)
23.7
透明な材質・透明な紙(n=26)
14.0
環境にやさしいバイオマス素材(n=68)
36.6
消臭・抗菌等の様々な効果が
発現可能(n=29)
その他(n=8)
60 (%)
15.6
4.3
- 96 -
図表4.32
合計
全体
186
食料品・飲料・飼料
36
繊維工業
13
化学工業
20
プラスチック製品
23
ゴム製品
9
業 窯業・土石製品
6
種 鉄鋼・非鉄金属
6
金属製品
18
電気機械器具
17
輸送用機械器具
16
その他の製造業
19
製造業以外
2
特徴・効果(業種別)
特徴・効果 (複数回答,%)
超極細の プラスチッ 材料の軽 熱による寸 ガスバリア
繊維状物 クが数倍に 量化、材 法変化が 性が高い
質
強化
料の削減 小さい
(鮮度保持
が可能
が可能)
14.5
54.8
52.7
37.6
2.8
19.4
22.2
13.9
69.2
46.2
69.2
30.8
20.0
60.0
35.0
20.0
0.0
91.3
65.2
60.9
33.3
55.6
77.8
44.4
0.0
66.7
66.7
66.7
0.0
66.7
83.3
33.3
0.0
55.6
66.7
44.4
17.6
52.9
52.9
47.1
25.0
75.0
87.5
50.0
15.8
57.9
36.8
47.4
0.0
50.0
50.0
0.0
接着力の 質感・食感 透明な材 環境にや
強化
等の変化 質・透明な さしいバイ
紙
オマス素
材
塗装レス
(新たな色
合いが可
能)
15.6
12.9
19.4
5.6
0.0
7.7
20.0
0.0
26.1
26.1
0.0
0.0
16.7
33.3
16.7
0.0
16.7
22.2
29.4
11.8
6.3
6.3
0.0
26.3
50.0
0.0
消臭・抗菌 その他
等の様々
な効果が
発現可能
合計
全体
186
22.6
23.7
14.0
36.6
15.6
4.3
食料品・飲料・飼料
36
11.1
86.1
16.7
13.9
13.9
5.6
繊維工業
13
15.4
15.4
15.4
69.2
69.2
0.0
化学工業
20
30.0
15.0
20.0
40.0
15.0
10.0
プラスチック製品
23
26.1
8.7
4.3
47.8
4.3
8.7
ゴム製品
9
11.1
22.2
11.1
55.6
0.0
11.1
業 窯業・土石製品
6
16.7
0.0
16.7
16.7
16.7
0.0
種 鉄鋼・非鉄金属
6
0.0
16.7
0.0
50.0
0.0
0.0
金属製品
18
27.8
5.6
0.0
22.2
11.1
0.0
電気機械器具
17
29.4
5.9
23.5
23.5
5.9
0.0
輸送用機械器具
16
31.3
0.0
12.5
25.0
6.3
0.0
その他の製造業
19
31.6
5.3
21.1
63.2
21.1
5.3
製造業以外
2
50.0
0.0
0.0
50.0
50.0
0.0
注:回答が多い順に第1位の箇所を黄色で表示(製造業以外を除く)、第2位の箇所を青色で表示(製造
業以外、第1位が複数の場合を除く)
- 97 -
e.材料の技術的課題・問題点等〔川下企業〕
問4.セルロースナノファイバー関連にかかわらず、貴社で使用されている材料の技術
的課題・問題点等があればご記入ください。
使用されている材料の技術的課題・問題点等の概要は以下のとおり。
「軽量化」
、
「強度」
、
「耐熱性」等の項目が上位となっており、これら複数項目の同
時達成を課題として挙げる企業も少なくない。
図表4.33
材料の技術的課題(複数回答,n=154)
社 n=154
60
50
48
46
40
35
27
30
19
20
16
14
12
10
10
8
8
7
7
6
6
6
5
4
4
3
薄
肉
化
耐
候
性
原
料
安
定
調
達
消
臭
・
抗
菌
性
伸
縮
性
ガ
ス
バ
リ
ア
性
耐
湿
性
・
吸
湿
防
止
0
軽
量
化
強
度
(
耐
衝
撃
性
)
耐
熱
性
コ
ス
ト
耐
久
性
環
境
負
荷
低
減
寸
法
安
定
性
色
合
・
質
感
安
全
性
接
着
・
密
着
力
耐
食
・
耐
錆
性
加
工
性
・
成
形
性
<参考> セルロースナノファイバーの主な特性
主
な
特
徴
超極細
透過性
軽量
生分解性
高強度
生体適合性
高弾性
撥水性
寸法安定性
ガスバリア性
透明性
大きな比表面積
・・・・・・・・・・
- 98 -
そ
の
他
主な技術的課題・問題点等として挙げられた具体的な内容は以下のとおり。また、
セルロースナノファイバーの利用により、課題解決が期待される項目も少なくない。
<食料品・飲料・飼料>
所在地
回
答
内
容
・食品製造装置の安全カバーの強化、軽量化。
・デザート食品(ゼリー、プリン等)の離水防止。
岡山県
・レトルト食品のカップ、フィルムのバリア性・耐熱性・透明性の向上。
・既存品と食感の異なるものをつくることができればよい。
・ガスバリア性のある食品容器への応用や包材の軽量化。
・加工でんぷんを使った増粘が主であるが、酵素による粘度低下が課題。
・発酵セルロース系、増粘多糖類の分散性に課題。
・海外で生産して日本に輸入する軟包材入りの食品について、フィルムを硬くすると
逆に破れたりするので、コンテナ内部での液もれに困っています。
・食品トレーの強度アップと軽量化ができれば利用価値は大きい。
広島県
・ビン容器の軽量化。
・食品原料としての安全性の確保、酒税法上の原材料の制約
・食品の保存性、食感などの物性の維持など。
・保温コンテナ、パレット等の食品工場使用什器の軽量化。
・麺や米の食感、温度変化への耐性向上
・透明包材(パウチ)のガスバリア性が低い。ペースト商品の粘度が不安定。
山口県
・保水性の向上、身崩れ
・すり身製品の製造過程による均一な保形性
<繊維工業>
所在地
岡山県
広島県
山口県
回
答
内
容
・ポリプロピレン繊維の強度、耐熱性等の改良。
・撥水性、その他高機能化、セルロース素材への機能剤の固定化。
・環境負荷PR、材料の薄状化。
・最近は綿素材(主に輸入素材)の多様化が進み、均一加工が難しくなっている。
・樹脂材料の寸法安定性、剛性と靭性のバランス。
<化学工業>
所在地
回
答
島根県
・ポリウレタンフィルムの強度アップ。
岡山県
・合成繊維の耐熱性(高温物性)の向上。
広島県
山口県
・接着力の長寿命化、耐久性の向上。
・良質木質素材の安価で安定的な入手。
・アルカリ顆粒の吸湿防止。
- 99 -
内
容
<プラスチック製品>
所在地
島根県
回
答
内
容
・プラスチック製品成形後の収縮等による変形(ソリ、ねじれ)
。
・高強度、高弾性率(剛性)と靱性を兼ね備えた材料の開発。
・廃材を使用しているため、材料調達の安定。
・自動車用樹脂部品としては軽量化、寸法安定性、剛性と耐衝撃性のバランスが
常に課題である。
岡山県
・自動車部品を製造しているため、軽量化が喫緊の課題。
・GF(ガラス繊維)、CF(炭素繊維)等による補強を行いたいが、加工性を阻害
するため、加工性と樹脂補強を両立できるフィラーを探している。
・耐熱、ガスバリア性、強度の向上、コストダウン。
・プラスチック素材との複合化が理論通りにうまくいかない。
広島県
山口県
・薄肉化による強度の低下。
・軽量化(現状の性能を維持し、より軽量な軟質ウレタンフォームの開発など)。
・アルカリ顆粒の吸湿防止。
<ゴム製品>
回
所在地
答
内
容
岡山県
・安全靴のプロテクター素材として、耐衝撃性、薄肉化、消臭、抗菌。
広島県
・ゴム材料の耐熱性、接着性、耐久性。
<窯業・土石製品>
所在地
広島県
回
答
内
容
・着色ガラス(金属酸化物含有の色ガラス)の熱処理による成形と発色のバラン
スが取りにくい。形を優先すると発色が安定しない。
<鉄鋼・非鉄金属>
所在地
広島県
回
答
内
容
内
容
・価格が高価、鋳造欠陥率が高い。
<電気機械器具>
所在地
回
答
・フィルム材料の薄型、軽量化と強度の両立
・樹脂部品とOリングによる気密耐久アップ
・PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの表面硬度が低い。ハードコー
広島県
トすると硬度は上がるが、価格も上がり、品質の問題も出る。
・PET フィルムのガスバリア性が低い。
・PET フィルムの熱収縮が大きい。方向性がある。
・樹脂の成形寸法安定性、強度、耐熱・難燃性。
山口県
・プリント基板の薄肉化に伴うたわみ。
- 100 -
<輸送用機械器具>
所在地
回
答
内
容
・軽量化と高強度化の両立。
・接着等による高強度化や異種材接合。
・PP(ポリプロピレン)の傷付き性が悪いので困っている。TPO 耐熱試験での形
岡山県
状変化(長さ、ソリ etc)が大きくスペックアウトする。
・自動車用樹脂部品としては軽量化、寸法安定性、剛性と耐衝撃性のバランスが
常に課題である。
・塗装後のタッチアップの容易化(色合せ、違和感の除去)
・CFRP(炭素繊維強化プラスチック)で軽量化したいが、価格が高く、扱いにく
広島県
い。
・温度よる特性変化が大きい樹脂は強度部材として使いにくい。
・金属と樹脂の接合強度、シール性能
山口県
・新しい成形工法の採用による樹脂複合材料による成形品の開発。
<その他の製造業>
所在地
鳥取県
回
答
内
容
・高耐久性(耐侯、耐湿熱)、光学特性(透明性、低ヘーズ)、積層性。
・原料として解体故材を使用している。バイオマス発電の稼動により、原料とな
岡山県
る解体故材が燃料用として使用されることから、価格上昇、確保する量もタイ
トになってきている。
・色調
・木材〔ベニア、南洋材(芯材)〕等と紙質材(例えばダンボール)の複合化
広島県
・環境負荷の点から化学的塗料を使わないことや端材の再利用など、市場が変化
してきている。
・鉄の部材を軽くしたい。
山口県
・合成樹脂製モノフィラメントの強度向上
- 101 -
f.製品開発の取組状況〔川下企業〕
問5.貴社のセルロースナノファイバーを使用する製品開発の取組状況を教えてくださ
い。あてはまるものを1つだけ選んでください。
製品開発の取組状況をみると、
「製品を市場投入している・製品開発に取り組んで
いる」が 1.5%(5社)
、
「製品開発を検討中」が 5.1%(17 社)と、製品開発を具体
的に進めている企業は少ない。ただし、「(取組・検討はしていないが)関心はある」
(43.4%)とする企業が多く、製品開発への関心は高い。
「その他」の自由回答には、
「セルロースナノファイバー自体を知らなかった」
「ど
う使っていいのかわからない」
「本業との関連がない」
「今までのところセルロースナ
ノファイバーの特徴を生かした製品が存在しない」などが挙げられている。
所在地別にみると、
「岡山県」で製品開発に着手、検討している企業が若干ながら
多い。業種別では、「ゴム製品」で製品開発に前向きになっている企業が多いことが
うかがえる。
図表4.34
製品を市場投入
している・製品開
発に取り組んで
いる
1.5
製品開発の取組状況(n=332)
製品開発を検討
中
5.1
その他
12.0
(取組・検討はし
ていないが)関心
ある
43.4
関心がない
38.0
(単位:%)
- 102 -
図表4.35
製品開発の取組状況(所在地別・業種別)
製品開発の取組状況 (%)
製品を市場 製品開発を (取組・検討 関心がない その他
投入・製品開 検討中
はしていない
合計 発に取組中
が)関心ある
全体
332
1.5
5.1
43.4
38.0
12.0
鳥取県
13
0.0
0.0
76.9
15.4
7.7
島根県
18
0.0
0.0
38.9
44.4
16.7
所
岡山県
123
2.4
6.5
39.0
37.4
14.6
在
127
0.8
5.5
48.8
36.2
8.7
地 広島県
山口県
41
0.0
2.4
36.6
46.3
14.6
その他
5
20.0
20.0
40.0
20.0
0.0
製品を市場 製品開発を (取組・検討 関心がない その他
投入・製品開 検討中
はしていない
合計 発に取組中
が)関心ある
全体
332
1.5
5.1
43.4
38.0
12.0
食料品・飲料・飼料
63
0.0
1.6
49.2
38.1
11.1
繊維工業
27
3.7
11.1
40.7
33.3
11.1
化学工業
30
3.3
6.7
53.3
30.0
6.7
プラスチック製品
30
0.0
13.3
66.7
16.7
3.3
ゴム製品
12
8.3
25.0
50.0
8.3
8.3
業 窯業・土石製品
21
0.0
0.0
19.0
52.4
28.6
種 鉄鋼・非鉄金属
17
0.0
0.0
17.6
70.6
11.8
金属製品
41
0.0
4.9
24.4
53.7
17.1
電気機械器具
31
0.0
3.2
51.6
38.7
6.5
輸送用機械器具
25
0.0
4.0
44.0
32.0
20.0
その他の製造業
30
3.3
0.0
53.3
36.7
6.7
製造業以外
2
50.0
0.0
0.0
0.0
50.0
注:「製品開発を検討中」「(取組・検討はしていないが)関心はある」が合算で60%以上の箇所を黄色で
表示(所在地別・その他を除く)。
- 103 -
g.使用する製品〔川下企業〕
(問5で「製品を市場投入している・製品開発に取り組んでいる」と回答した先が対象)
問6.セルロースナノファイバーを使用する製品について教えてください。あてはまる
ものをすべて選んでください。
問5で「製品を市場投入している・製品開発に取り組んでいる」と回答した5社のセ
ルロースナノファイバーの使用する製品は、「自動車部材」が2社、「紙系製品」「建材」
「医療・衛生用品」
「食品」が各1社である。
図表4.36
使用する製品(複数回答,n=5)
(社)
0
5
自動車部材(タイヤ強化材、外装・内装部材など)
2
紙系製品(紙・板紙・特殊紙など)
1
建材
1
包装部材(バリアフィルム、バリアシートなど)
10
0
医療・衛生用品
1
食品
1
その他
2
h.使用目的・製品の機能〔川下企業〕
問7.セルロースナノファイバーを使用する目的、製品の機能などについて、お差し支
えない範囲でご記入ください。
使用目的・製品の機能などの自由記入回答は以下のとおり。
業
種
繊維工業
ゴム製品
化学工業
その他
回
答
内
容
・耐久性
・セルロースナノファイバーの添加による軽量化、バイオマス資源の活用が目的。
工業用資材としての将来のコストポテンシャルを有する。
・中国地域外の事業所で他社と共同研究、製造を行っている。
・自社の技術シーズがセルロースナノファイバーの製造コストを低減する可能性が
ある。
- 104 -
i.期待される効果〔川下企業〕
(問5で「製品開発を検討中」
「(取組・検討はしていないが)関心はある」と回答した先が対象)
問8.セルロースナノファイバーを自社製品に使用することにより、期待する効果は何
だと思われますか。あてはまるものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーに関心がある企業にとって、「自社製品の性能向上」
(62.9%)に期待している回答が最も多い。続いて、
「他社製品との差別化」
(44.0%)
、
「自社製品の付加価値の向上」
(35.8%)、
「新分野への進出」
(30.8%)などの順とな
っている。
「その他」の記述には、
「健康食品としての機能性強化」
「保型性が向上するのでは」
「ココナッツシェルパウダーの代替」「産業用振動または変異センサの耐環境性能の
向上」など、様々な具体的に期待する効果が挙げられている。
業種別にみると、
「自社製品の性能向上」に期待している業種はプラスチック製品、
輸送用機械器具、ゴム製品などで、「他社製品との差別化」に期待している業種はプ
ラスチック製品などである。
図表4.37
期待される効果(複数回答,n=159)
0
20
40
自社製品の性能向上(n=100)
62.9
自社製品の付加価値の向上
(n=57)
35.8
他社製品との差別化(n=70)
44.0
新分野への進出(n=49)
その他(n=15)
80 (%)
60
30.8
9.4
- 105 -
図表4.38
期待される効果(業種別)
期待する効果(複数回答,%)
自社製品の 自社製品の 他社製品と 新分野への その他
性能向上 付加価値の の差別化 進出
合計
向上
全体
159
62.9
35.8
44.0
30.8
9.4
食料品・飲料・飼料
32
28.1
25.0
68.8
31.3
15.6
繊維工業
14
50.0
35.7
14.3
57.1
14.3
化学工業
18
61.1
38.9
22.2
38.9
5.6
プラスチック製品
24
91.7
45.8
70.8
16.7
4.2
ゴム製品
9
88.9
55.6
66.7
0.0
0.0
業 窯業・土石製品
4
75.0
0.0
25.0
0.0
25.0
種 鉄鋼・非鉄金属
3
66.7
33.3
66.7
66.7
0.0
金属製品
10
60.0
40.0
40.0
50.0
10.0
電気機械器具
17
64.7
11.8
17.6
35.3
5.9
輸送用機械器具
12
91.7
33.3
25.0
16.7
16.7
その他の製造業
16
62.5
62.5
37.5
31.3
6.3
製造業以外
0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
注:業種別で60%以上を黄色で表示。
j.関心がない理由〔川下企業〕
(問5で「関心がない」
、
「その他」と回答した先が対象)
問9.セルロースナノファイバーに関心がない等の理由をお聞かせください。あてはま
るものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーに関心がない理由は、「自社製品との関連がない」
(63.6%)との回答が最も多い。次いで、「セルロースナノファイバーを知らない」
(39.4%)が多い。
「その他」の記述には、
「食品添加物に該当するか否か不明」
「安全性の確保が不明」
「植物なのでイオン性不純物が多く、電子部品関連には使用できないのでは」「JIS、
ISO の規格にあてはまらないため」
「受託加工業の為、ユーザーからの指定があれば
検討する」などが挙げられている。
業種別にみても、プラスチック製品以外の製造業では「自社製品との関連がない」
との回答が多い。
- 106 -
図表4.39
関心がない等の理由(複数回答,n=165)
0
20
40
セルロースナノファイバーを知らない
(n=65)
39.4
自社製品との関連がない(n=105)
63.6
自社製品の使用環境では必要がない
(n=44)
26.7
取引先からの要請がない(n=32)
19.4
セルロースナノファイバーを使用する効果
が不明である(n=35)
入手方法がわかならい(n=13)
その他(n=15)
図表4.40
80 (%)
60
21.2
7.9
9.1
関心がない等の理由(業種別)
関心がない等の理由 (複数回答,%)
セルロースナ 自社製品 自社製品 取引先か セルロースナノ 入手方法 その他
ノファイバー との関連 の使用環 らの要請 ファイバーを がわかな
を知らな がない
境では必 がない
使用する らい
い
要がない
効果が不
合計
明である
全体
165
39.4
63.6
26.7
19.4
21.2
7.9
9.1
食料品・飲料・飼料
30
50.0
66.7
20.0
6.7
36.7
10.0
10.0
繊維工業
12
50.0
58.3
25.0
0.0
25.0
0.0
8.3
化学工業
11
18.2
63.6
36.4
27.3
9.1
0.0
27.3
プラスチック製品
6
50.0
0.0
16.7
33.3
50.0
33.3
16.7
ゴム製品
2
0.0
100.0
0.0
50.0
50.0
0.0
0.0
業 窯業・土石製品
17
23.5
76.5
23.5
5.9
29.4
5.9
0.0
種 鉄鋼・非鉄金属
14
42.9
78.6
35.7
0.0
0.0
0.0
7.1
金属製品
29
41.4
58.6
31.0
34.5
17.2
17.2
6.9
電気機械器具
14
28.6
64.3
21.4
14.3
7.1
0.0
21.4
輸送用機械器具
13
38.5
61.5
38.5
53.8
15.4
0.0
0.0
その他の製造業
13
46.2
69.2
30.8
30.8
23.1
15.4
7.7
製造業以外
1
100.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
注:回答が多い順に第1位の箇所を黄色で表示(製造業以外を除く)、第2位の箇所を青色で表示(製造業
以外、第1位が複数の場合を除く)
- 107 -
k.普及に向けての課題〔川下企業〕
問 10.セルロースナノファイバーが普及するためにクリアすべき課題は何だとお考えで
すか。あてはまるものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーが普及するための課題では、
「価格低下」
(47.4%)、
「用
途開発」
(46.2%)を半数近くの企業が回答している。
業種別にみると、
「価格低下」はプラスチック製品、ゴム製品等で、
「複合化などの
技術の進展」はゴム製品等で課題として多く挙げている。
製品開発の取組状況別にみると、
「価格低下」は「製品開発を検討中」
「製品を市場
投入している・製品開発に取り組んでいる」等で、
「複合化などの技術の進展」は「製
品開発を検討中」等で多く挙げている。
図表4.41
普及に向けての課題(複数回答,n=329)
0
20
認知度向上(n=128)
38.9
価格低下(n=156)
47.4
性能向上(n=51)
15.5
複合化などの技術の進展
(n=103)
31.3
用途開発(n=152)
46.2
わからない(n=58)
その他(n=20)
60 (%)
40
17.6
6.1
- 108 -
図表4.42
普及に向けての課題(業種別)
認知度
向上
合計
全体
329
38.9
食料品・飲料・飼料
63
41.3
繊維工業
27
22.2
化学工業
29
31.0
プラスチック製品
30
20.0
ゴム製品
12
16.7
業 窯業・土石製品
21
38.1
種 鉄鋼・非鉄金属
17
41.2
金属製品
39
53.8
電気機械器具
30
40.0
輸送用機械器具
26
46.2
その他の製造業
30
53.3
製造業以外
2
50.0
注:業種別で60%以上を黄色で表示。
図表4.43
普及に向けての課題 (複数回答,%)
価格
性能 複合化な 用途
わから その他
低下
向上 どの技術 開発
ない
の進展
47.4
15.5
31.3
46.2
17.6
6.1
44.4
11.1
11.1
50.8
22.2
9.5
44.4
7.4
37.0
44.4
25.9
3.7
51.7
13.8
34.5
51.7
6.9
10.3
66.7
23.3
53.3
33.3
10.0
6.7
66.7
25.0
75.0
50.0
0.0
8.3
38.1
14.3
19.0
52.4
19.0
0.0
41.2
11.8
47.1
35.3
17.6
11.8
41.0
7.7
25.6
51.3
23.1
2.6
53.3
16.7
36.7
50.0
16.7
3.3
38.5
19.2
19.2
34.6
26.9
3.8
46.7
30.0
40.0
43.3
10.0
6.7
50.0
0.0
50.0
100.0
0.0
0.0
普及に向けての課題(製品開発の取組状況別)
認知度
向上
合計
329
普及に向けての課題 (複数回答,%)
価格
性能 複合化な 用途
わから その他
低下
向上 どの技術 開発
ない
の進展
47.4
15.5
31.3
46.2
17.6
6.1
全体
38.9
製品を市場投入している
・製品開発に取り組んで
製 いる
4
50.0 100.0
取
品
組
製品開発を検討中
17
5.9 100.0
開
状
(取組・検討はしていな
発
況
いが)関心ある
142
34.5
59.9
の
関心がない
125
40.8
32.0
その他
40
60.0
25.0
注:製品開発の取組状況別で60%以上を黄色で表示。
- 109 -
25.0
41.2
50.0
70.6
75.0
29.4
0.0
5.9
0.0
0.0
19.7
10.4
5.0
38.7
20.0
22.5
51.4
37.6
60.0
9.2
29.6
17.5
7.0
6.4
5.0
l.有効または必要な施策〔川下企業〕
問 11.セルロースナノファイバーは国の「日本再興戦略」2015 に明記されるなど、その
関連分野の発展が期待されています。今後、有効または必要な施策は何だと思われ
ますか。あてはまるものをすべて選んでください。
セルロースナノファイバーの関連分野の発展にとって有効または必要とされる施
策は、「技術開発に関する情報提供・技術支援」(50.8%)が最も多い。以下、「市場
ニーズに関する情報提供・販路開拓支援」(41.8%)、「セルロースナノファイバー製
造企業とのマッチング」(32.9%)、「産学官連携による技術開発・実用化プロジェク
トの立ち上げ」
(24.0%)などの順である。
業種別では、「技術開発に関する情報提供・技術支援」はプラスチック製品等で、
「市場ニーズの情報提供・販路開拓支援」はゴム製品、化学工業等で多く挙げられて
いる。
図表4.44 有効または必要な施策(複数回答,n=325)
(%)
0
20
40
60
技術開発に関する情報提供・技術支援
(n=165)
50.8
市場ニーズの情報提供・販路開拓支援
(n=136)
41.8
産学官連携による技術開発・実用化プロジェクト
の立ち上げ(n=78)
24.0
セルロースナノファイバー製造企業とのマッチング
(n=107)
32.9
意見交換の場づくり(講演会・セミナー等)
(n=77)
23.7
わからない・特にない
(n=63)
その他
(n=5)
19.4
1.5
- 110 -
図表4.45
有効または必要な施策(業種別)
有効または必要な施策 (複数回答,%)
技術開発 市場ニー 産学官連携 セルロースナ 意見交換 わからな その他
の情報提 ズに関す による技術 ノファイバー の場づくり い・特に
供・技術 る情報提 開発・実用 製造企業 (講演会・ ない
支援
供・販路 化プロジェクト とのマッ セミナー
合計
開拓支援 の立ち上げ チング
等)
全体
325
50.8
41.8
24.0
32.9
23.7
19.4
1.5
食料品・飲料・飼料
62
43.5
54.8
14.5
24.2
24.2
19.4
3.2
繊維工業
26
42.3
26.9
26.9
50.0
19.2
23.1
0.0
化学工業
30
53.3
60.0
33.3
26.7
33.3
3.3
3.3
プラスチック製品
30
70.0
26.7
26.7
43.3
30.0
13.3
0.0
ゴム製品
12
58.3
66.7
41.7
33.3
33.3
8.3
0.0
21
52.4
23.8
23.8
23.8
14.3
23.8
0.0
15
53.3
46.7
13.3
33.3
40.0
20.0
6.7
金属製品
38
52.6
36.8
13.2
18.4
18.4
23.7
2.6
電気機械器具
31
41.9
48.4
32.3
38.7
9.7
25.8
0.0
輸送用機械器具
26
50.0
26.9
19.2
46.2
30.8
23.1
0.0
その他の製造業
29
55.2
37.9
37.9
41.4
20.7
17.2
0.0
2
100.0
100.0
50.0
50.0
50.0
0.0
0.0
業 窯業・土石製品
種 鉄鋼・非鉄金属
製造業以外
注:業種別で50%以上を黄色で表示(製造業以外を除く)。
- 111 -
m.意見・コメント〔川下企業〕
問 12.セルロースナノファイバーの用途に関して意見・コメントがあればご記入くださ
い。
セルロースナノファイバーの用途に関しての意見・コメントを大別すると、「用途
の可能性」
「用途開発にあたっての課題」
「情報提供ニーズ」
「その他」に集約できる。
(a)用途の可能性
セルロースナノファイバーの用途の可能性については、自社の事業に照らし合わせ
具体的に使用する用途・メリットに言及するコメントが多くみられる。セルロースナ
ノファイバーのポテンシャルに対する期待や、食料品分野に関しては食品自体への添
加に加え、容器・フィルム用途の2つの視点から言及がなされている。
【主な自由記入回答】
業
種
所在地
岡山県
回
答
内
容
・用途が無限にありそうで、素材としては非常に興味深い。今後の動向を
注目していきたい。
・食品原材料としての安全が確保できれば、リキュールの原材料としての
食料品・
広島県
飲料・飼料
使用が考えられる。
・これまでにない新しい加工食品がつくれるようになる。食品業界で課題
になっている保存料、日持ち向上剤などに対する課題を解決できる。
・清酒の容態変化や甘酒等の触感に変化をつけられると面白いと感じまし
山口県
た。また、耐圧、耐熱、衝撃に強い容器ができれば、瓶に変わる可能性
もあると思います。
繊維工業
岡山県
・衣服内保型材や、軽量・高耐久性をあわせもった裏地・芯地等の開発用
途に可能性がある。
・プラスチックなどの強化繊維として使用できれば面白い。特に機能性材
化学工業
岡山県
料(磁性材料など)をフィラーとして高充填させると、プラスチックと
しての強度が低下するので、それを補うことができればコスト次第で興
味深い材料であると考える。
プラスチ
ック製品
・プラスチック成形品中に添加し、強度向上(理論値)するための技術が
岡山県
と感じる。
岡山県
ゴム製品
確立されていないため、この分野に関しての用途開発は時期尚早である
・安全靴のプロテクター素材が考えられる(足指先保護、甲保護)。
・ゴム内部に接着固定させる代用品として、材料特性やゴムとの接着安定
広島県
性を調査したい。現在対応できる材料として金属が多く使用されている
が、なかなか代用品として適切なものがなく、あっても高価である。
金属製品
電気機械
器具
鳥取県
広島県
・高圧ガス容器は近年、FRT 容器化に注目が集まっており、この素材にセ
ルロースナノファイバーが採用できないかと考えている。
・ガラス、PET フィルム、PC フィルム、アクリルフイルムの置き換えが可
能であるかを検討したい。
- 112 -
(b)用途開発にあたっての課題
自社での用途開発に関心が高い企業、特にゴム製品、プラスチック製品、化学工業
などの業種で用途開拓の課題が挙げられている。具体的には複合化時の表面処理技術、
成形時の耐熱性、乾燥状態での原料供給、量産化に向けての技術・用途開発等が挙げ
られている。
【主な自由記入回答】
業
種
所在地
繊維工業
広島県
回
答
内
容
・成形材料としては熱安定性が大きな課題となる。技術的な解決可能か検
討が必要。
・セルロースナノファイバー水溶液(水分散液)としての供給形態から、
化学工業
岡山県
水素結合による凝集・接着しない乾燥状態での供給が可能になれば適用
範囲が広がると考える。
山口県
・大量に利用する用途の開拓が必要
・従来型の成形機で成形加工がしやすい状態にならないと、使用が制限さ
プラスチ
岡山県
ック製品
れる。一日も早いドライのマスターバッチ化を期待する。
・簡易かつ量産性のある汎用樹脂との複合化(可能であれば乾式法)が課
題だと思います。
広島県
・プラスチック成形時の耐熱性の向上が課題
・用途開発にはセルロースナノファイバーの含水率の低下が課題である。
・セルロースナノファイバーの安価なコストによる表面処理技術、セルロ
ースナノファイバー特有の機能・用途の開拓が課題。
ゴム製品
岡山県
・ゴム材料に対してセルロースナノファイバーを使用する場合、ゴムがあ
まり大きな変形をしない用途が望ましい。
・セルロースナノファイバーをゴム中に均一に分散させる方法、繊維の配
向状態の制御、複合化(接着性)など越えなければならない課題が多い
と思われる。
電気機械
器具
広島県
・複合化のためのセルロースナノファイバーの表面修飾技術と、供給形態
が課題である。
- 113 -
(c)情報提供のニーズ
セルロースナノファイバーに関しては、名前のみ知っている企業や今回のアンケー
トでその存在を初めて聞いた企業も少なくないこともあり、用途について判断ができ
ないとの意見や今後の検討のため各分野での応用事例や具体的な特徴・物性データ等
の情報提供、積極的なサンプル提供を期待する意見が多く見られる。
また、情報提供時には既存材料と比較のうえ、そのメリット(デメリットが存在す
る場合にはデメリットを)を明確化にすることが求められている。
【主な自由記入回答】
業
種
所在地
島根県
回
答
内
容
・初めて聞く言葉で当惑しました。
・アンケート調査を見て、セルロースナノファイバーの存在を知ったので、
どのような効果をもたらすことができるのかが全くわかりません。食品
食料品・
飲料・飼料
広島県
用途への安全性、国内外での使用実績、応用事例などをまずは知りたい。
・食品分野での活用・応用例をもっと詳しく知りたい。
・高度な加工により原料木材の素性がまったく最終品に影響がないとすれ
ば、それを事前に世の中に公表してもらいたい。
・セルロースナノファイバーについて知識が乏しく、技術情報、価格、入
繊維工業
岡山県
化学工業
広島県
・サンプルが入手しにくいのでは。用途開発にはサンプル入手次第。
鳥取県
・活用事例の公開
手方法等が分からない。
・情報を持っていないので分らない。セルロースナノファイバーに現実味
プラスチ
ック製品
があるのか、価格面、取扱いの会社がまったく不明。
広島県
・用途に対して適切な材料の提案や提供が十分できていないのではないか
と思うので、製造する企業と利用する企業とのマッチングの機会を増や
してほしい。
・自社製品に関連して、問題の解決、市場ニーズがあれば企業も動けるが、
窯業・土石
製品
そのためには企業の開発部門の成果があってこそ。
広島県
・セルロースナノファイバーの認知度を高めることと、積極的に企業を訪
問して問題解決の手助け(提案)をしていかないと、中小企業にとって
は、選択すらままならない。
鉄鋼・非鉄
金属
金属製品
電気機械
器具
鳥取県
島根県
岡山県
・セルロースナノファイバーの特徴・物性を知らないので、コメントが出
来ない。
・金属加工したものとの強度が同等であるのか。同等であるならば興味が
ある。最終的にはコストも大事。
・期待される効果についての数値的な説明がほしい。
・セルロースナノファイバーを使ったことで、従来の性能等がアップし儲
島根県
かったという「劇的ビフォアーアフター事例集」で PR すれば、用途開発の
アイデアも出てくると思います。
- 114 -
業
種
所在地
回
答
内
容
・強度(特に高温時)
、コスト、リサイクル性など、グラスファイバー添加
との有意差を知りたい。
輸送用
機械器具
広島県
・セルロースナノファイバーのメリットは見かけるが、デメリットの情報
が少ない。
・家具や建具に具体的にどのように使えるのかが知りたい。
その他の
製造業
山口県
・二次製品の状態で用途を明確にしてほしい。強度、耐熱、防火、耐久、
耐候性等のデータがほしい。
(d)その他
セルロースナノファイバーの普及に向けての方策に関するコメントやセルロース
ルースナノファイバーに関連した疑問についての記述がみられる。
【主な自由記入回答】
<普及に向けて>
業
種
食料品・
飲料・飼料
所在地
山口県
回
答
内
容
・用途開発・応用開発については、加工メーカーでの検討が近道だと思いま
す。
・セルロースナノファイバーとの関わりはないが、同様に新しい素材を開
発している立場からみると、需要が立ち上がるには相当な時間がかかる
化学工業
岡山県
のではないかと考える。
・社会で利用されるような商品開発の前提として素材が安定して供給され
るという信頼が必要で、それが得られてはじめて利用の検討が進む。供
給者にはその需要の立ち上がりを待つガマンが必要である。
ゴム製品
広島県
岡山県
金属製品
・お客様に一番近いメーカーのニーズ(例えば色調)を入手、調査を行い
たい。
・セルロースナノファイバーが製品として市場に出てこなければ、具体的
に活用方法が解らない。
・提案者が十分に基礎研究して、セルロースナノファイバーの長所・短所
広島県
を最低限把握したうえで、解決後の見えるものをイメージ化することが
大事である。
<セルロースナノファイバーに関する疑問>
業
種
所在地
化学工業
山口県
電気機械
器具
輸送用
機械器具
その他の
製造業
鳥取県
山口県
岡山県
広島県
回
答
内
容
・木の種類、産地などにより、組成(成分)
、性質、性能などが変わること
はないのか。
・耐湿性は大丈夫ですか。絶縁物に混合できるか。
・合成樹脂に混ぜこんで、薄くてリジッドなプリント基板がつくれるだろ
うか。
・セルロースナノファイバーが入った PP(ポリプロピレン)
、TPO(オレフ
ィン系エラストマー)
、PVC(ポリ塩化ビニル)はあるか。
・セルロースナノファイバーを紡いで、
(毛のような)長い繊維にできるか
- 115 -
5.ヒアリング調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
5.1.中国地域ヒアリング調査の概要
中国地域においてセルロースナノファイバーに関する研究開発・実用化の動向およ
び利用者側の潜在的なニーズ等を把握するためヒアリング調査を実施した。
訪問先の選定にあたっては、アンケート調査回答を基に、セルロースナノファイバ
ーに関する研究開発・実用化の取組みがみられる研究機関(「公設試験研究機関」)、
企業〔「川上企業(製造側)」)および新たな用途先として期待される企業(「川下企業
(潜在的利用側)
」
)について、地域性、新規性等を加味し、計 13 先を選定した。
訪問時期は 2015(平成 27)年 11 月~2016(平成 28)年1月。
5.1.1.ヒアリング先およびヒアリング項目
a.公設試験研究機関
(a)ヒアリング先〔計1先:No.①〕
ヒアリング先
No.
研 究 内 容
セルロースの解繊、セルロースナノファイバーの疎水化
公設試験研究機関A
①
(b)主なヒアリング項目
ア.セルロースナノファイバーに関する取組み
地域的な背景・特徴、取組みのきっかけ、取組内容(研究開発、用途開発等)
、中核とな
る技術、地域での協力体制、企業との連携、今後の取組み等
イ.セルロースナノファイバー普及のための課題
市場、技術、人材、コスト等
ウ.有望と思われるセルロースナノファイバーの用途
現在取組んでいる用途開発、新たな用途の可能性
エ.セルロースナノファイバーに関しての連携
地域の強み、所属組織の強み、地域内での連携の広がりの可能性、他地域との連携の可
能性
オ.支援策等への要望
期待される支援策・推進体制、産業界への要望
b.川上企業(製造側)
(a)ヒアリング先〔計2先:No.②~③〕
No.
ヒアリング先
所
在 地
②
モリマシナリー㈱
岡山県美作市
③
日本製紙㈱
山口県岩国市
業 種
一般機械器具
パルプ・紙・紙
加工品
- 116 -
主要取扱製品
成形機、成形ロール、ATC
紙・パルプ
(b)主なヒアリング項目
ア.セルロースナノファイバーに関する取組み
取組みのきっかけ、取組内容(研究開発、用途開発等)、中核となる技術、今後の事業
展開
イ.セルロースナノファイバー普及のための課題
市場、技術、人材、コスト等
ウ.有望と思われるセルロースナノファイバーの用途
現在取組んでいる用途開発、新たな用途の可能性
エ.セルロースナノファイバーに関しての連携
自社の強み・弱み(セルロースナノファイバーに関して)、域内企業との連携の可能性
オ.支援策等への要望
期待される支援策・推進体制
c.川下企業(潜在的利用側)
(a)ヒアリング先〔計 10 先:No.④~⑬〕
No.
ヒアリング先
所在地
業
種
主要取扱製品
④
B社
山口県
食料品
魚肉ねり製品、菓子類
⑤
C社
岡山県
繊維工業
ジーンズ関連製品の染色・洗い加工
⑥
D社
広島県
繊維工業
不織布素材製造、医療用脱脂綿
⑦
E社
-
⑧
F社
広島県
パルプ・紙・紙加工品
⑨
G社
広島県
ゴム製品
⑩
H社
山口県
化学工業
⑪
I社
広島県
プラスチック製品
樹脂製窓、ルーフ材
⑫
J社
山口県
輸送用機械器具
FRP 船舶、大型成形品
⑬
K社
岡山県
金属製品
木材・木製品
-
段ボール・ポリエチレン製品
自動車用ゴム部品、
プラスチック部品
水酸化ナトリウム、塩酸、シリカ、
セメント
プレス金型およびその部品、
工業用スプレーノズル
- 117 -
(b)主なヒアリング項目
ア.事業概要
自社の事業・取扱製品、コア技術
イ.セルロースナノファイバーへの期待
自社の事業、製品に関しての課題、セルロースナノファイバーの認知、自社の事業・製品
にセルロースナノファイバーが関わる可能性
ウ.セルロースナノファイバー普及のための課題
市場、技術、人材、コスト等
エ.支援策等への要望
期待される支援策・推進体制
(c)その他
ヒアリングに際しては、モリマシナリー製造のセルロースナノファイバーおよびリ
グノセルロースナノファイバーのサンプルを提示した(図表5.1)。
図表5.1 モリマシナリー㈱製造の「セルロースナノファイバー(左)
」および「リ
グノセルロースナノファイバー(右)」
水分 約 95%、繊維幅 30~200nm
水分 約 90%、繊維幅 50~300nm
比表面積 150m2/g
比表面積 90m2/g
資料:モリマシナリー㈱パンフレット
- 118 -
5.2.中国地域ヒアリング調査の結果概要
5.2.1.セルロースナノファイバーに関する認知
【川下企業(潜在的利用側)】
ヒアリング先のセルロースナノファイバーの認知に関しては、かつて同等の製品
を使用していた企業(④食品B社)、ある程度セルロースナノファイバーに関して
知識等がある企業や商社よりアプローチのあった企業(⑨ゴム製品G社)、自社で
積極的に情報収集を行っている企業(⑪プラスチックI社、⑬金属製品K社)など
認知の高い企業があった。
その一方で、セルロースナノファイバーに関して名前を知っているのみの企業も
少なからずあったが、繊維・木材業界等において原材料としてセルロースの取扱経
験のある企業(⑤繊維C社、⑥繊維D社)においては、セルロースナノファイバー
の形状等についてイメージしやすく、その用途等についても比較的スムーズにアイ
デアが出た。
5.2.2.セルロースナノファイバーに関する取組状況および有望用途
【川上企業(製造側) (図表5.2)
】
川上企業ではモリマシナリー㈱はグラインダー法(機械的処理)、日本製紙㈱は
TEMPO 酸化法(化学的処理)によりセルロースナノファイバーを製造し、サンプル
提供を行っている。
各製造方法によるセルロースナノファイバーの特性もあり、早期実用化に向け有
望視する用途は異なるものの(②モリマシナリー㈱…樹脂・ゴムとの複合化等、③
日本製紙㈱…機能性添加剤等)
、当該分野に限らず様々な分野への提供を行ってい
る。
現在、水分散液の状態で提供を行っているものの、輸送コスト削減、耐腐食性等
の観点から等のため固形化に向けた研究開発を行っており、既にサンプル提供を開
始している企業もある(②モリマシナリー㈱)。
また、今後の需要の拡大を見込み生産方式の最適化の実施や生産規模の拡大の予
定がある。
- 119 -
図表5.2
No.
②
③
セルロースナノファイバーに関する取組状況と有望用途(川上企業)
ヒアリング先
セルロースナノファイバーに
関連した取組状況
有望と思われる用途
モリマシナリー㈱
・サンプル提供中
(粉体化サンプルも提供中)
・コスト低減対応
工業利用をターゲット
複合材料用途:プラスチック、ゴム複合
材、油性塗料
水系用途:水性塗料、接着材、消臭剤
・サンプル提供中
・コスト低減、固形化対応
・量産設備立上げ予定
(2016 年度)
日本製紙㈱
【川下企業(潜在的利用側)
ナノ
複合材
PP、ゴム製品
機能性
シート
エレクトロニクス・フレキシ
ブルディスプレー、ガスバリ
ア包装、抗菌・脱臭シート
機能性
添加剤
食品、化粧品、塗料、インク
(図表5.3)
】
現時点で川下企業において現時点で具体的に実用化に取組んでいる企業はなか
ったものの、今後、研究開発に取組む意向を示す企業(⑪プラスチックI社)や使
用の可能性を示唆する企業も複数あった(④食品B社、⑥繊維D社)。喫緊の課題
というよりも、長期的な視点から新たな材料の探索や新商品開発・既存商品の高付
加価値化を図る意向が強い。
川下企業において有望と思われる用途は、ヒアリング先の業種によりそれぞれ異
なり多種多様である。
図表5.3
No.
セルロースナノファイバーに関する有望用途と取組み(川下企業)
ヒアリング先
セルロースナノファイバーに
関連した取組状況
有望と思われる用途
④
食品B社
かつて使用
かまぼこ、ドーナツ、うに
⑤
繊維C社
特になし
衣料品、ロープ、テープ・ベルト、
漁網など産業用資材
⑥
繊維D社
特になし
化粧用コットン、不織布
⑦
木製品E社
情報収集
木製品
⑧
紙加工F社
情報収集
段ボール
⑨
ゴム製品G社
商社より売込み、情報収集
自動車部品
⑩
化学H社
情報収集
樹脂(PE、PP、塩化ビニル等)
、
セメント
⑪
プラスチックI社
情報収集、今後研究開発テーマ
として取上予定
ポリカーボネート
⑫
輸送用機械J社
情報収集
大型成形品
⑬
金属製品K社
かつて研究開発、現在情報収集
その他
- 120 -
5.2.3.セルロースナノファイバー普及のための課題
セルロースナノファイバー普及のための課題として「a.価格」
、
「b.技術」につ
いて取りまとめる。
a.価格
【公設試験研究機関および川下企業(製造側) (図表5.4)
】
セルロースナノファイバーの価格(コスト)について川下企業にとっては、一般
的に情報が流通しておらず、漠然と「高い」という印象を持っている企業も少なく
ない(④食品B社、⑤繊維C社、⑥繊維D社)。
用途との関係では、樹脂との複合化では、機能向上の度合いにもよるが、基本的
に大量使用であるため、複合化後の価格が現行材料(ガラス繊維、カーボンブラッ
ク等)と同等な価格もしくはそれ以下となることが求められている(⑨ゴム製品G
社、⑩化学H社)
。
一方で、本来は少量の利用により大きな効果を発揮することが期待されるが、関
連データが蓄積されていないためコスト/ベネフィットが比較できず、単に現行材
料しか比較するしかないという面もあり、適切な用途展開を図ればコストはさほど
問題とならないという意見もある。
また、自動車業界等は機能向上が販売(納入)価格に反映されづらい面があり、
利用者側のコストダウン効果(使用原料の削減等)につながることが期待されてい
る(⑧紙加工F社、⑨ゴム製品G社)。
機能向上が評価される価格感応度の低い用途としては、「食品」、「医薬品」、「医
療診断・材料用途」などが挙げられた。「食品」分野では市販のセルロースナノフ
ァイバー(セリッシュ)より安価(かつ高機能)であることの期待や、一般的な工
業材料よりも食品材料分野の方がコストダウン圧力は少ないとのコメントもあっ
た(④食品B社)
。
また、天然由来、環境材料ということだけで普及を目指すことは難しいが、「製
造」~「廃棄」までのプロセス全体を視野に入れた、トータルコストを勘案した総
合的な評価〔LCA(Life Cycle Assessment 等〕の中で普及を進めるべきとの意見
もあった(⑥繊維D社、⑫輸送用機械J社)。
- 121 -
図表5.4 セルロースナノファイバーの価格に関するコメント(公設試、川下企業)
ヒアリング先
区分
No.
公
設
試
①
公設試A
④
繊維C社
⑤
繊維D社
コ
メ ン ト
・少量使用で物性が大幅向上するような用途があれば、コストは大きな
障害にはならない。
・セルロースナノファイバー自体の価格が高いという印象。
・製造プロセスの見直しに伴うイニシャルコスト、マーケティングコス
ト、安全性の確保に必要とされるコスト等のトータルコストを含めて
の検討が必要。
⑦
セ
ル
ロ
ー
ス
ナ
ノ
フ
ァ
イ
バ
ー
関
連
川
下
企
業
木製品E社
・現在のセルロースナノファイバーの価格が高い。木製品のような汎用
品の分野では使いにくい。
・現行の糊原料では 80~100 円/kg 程度。削減効果にもよるが、純粋に
代替となれば同等水準もしくはそれ以下の価格が求められる。
⑧
紙加工F社
・自動車業界はコストにシビアな世界であり、段ボールの物性向上が直
接、納品価格に反映しづらいとも考える。
・ポリエチレン袋用途を検討していないのは、疎水性の樹脂との複合化
のための乾燥コストを勘案すると競争力がないという懸念。
・同様の補強繊維である、アラミド繊維より安価な方が好ましい。また、
現行のカーボンブラックは 200 円/kg 以下。この価格を下回ればかな
⑨
ゴム製品G社
りの普及は進む。
・樹脂との複合化ではガラス繊維等を 20~30%入れている場合もあり、
その代替にはコストが重視される。
⑩
化学H社
⑪
プラスチック
I社
・樹脂、セメントは製品の価格が安く、大量に使用される分野であるた
め、製造コストの低減が求められる。
・少量のセルロースナノファイバーでも機能が付与できるような用途が
あれば、高くても使用可能。
・大量に使う用途でどこまでコストが下がるのかを見極めなければ、材
料として使いにくい。
⑫
⑬
輸送用機械
J社
金属製品K社
・セルロースナノファイバー自体の価格も考慮されなければならないが、
例えば樹脂に混ぜる作業が負担になることがあれば、そうした作業負
担や配合率を含めたトータルコストも検討する必要がある。
・コストの高いセルロースナノファイバーを用い、どれだけ効果が発揮
できるかという問題がある。
- 122 -
【川上企業(製造側) (図表5.5)
】
今後のセルロースナノファイバーの普及に向け、生産規模の拡大(③日本製紙㈱)
、
セルロースナノファイバー専用解繊装置の開発(②モリマシナリー㈱)等によりコ
スト低減への取組みが進展中であり(②モリマシナリー㈱、③日本製紙㈱)
、1,000
円/kg 程度の実現を当面のターゲットとしている。ただし、コスト低減の実現は技
術的な面だけでなく、今後の供給量との兼ね合いもあり、不確定な側面もある。
一方で、川上企業ではセルロースナノファイバーの固形化の取組みも進展してい
るが、乾燥コストが価格競争力低下をもたらし、用途展開が限定的となる可能性を
指摘する意見もある(⑧紙加工F社)。
図表5.5
区分
川
上
企
業
セルロースナノファイバーの価格に関するコメント(川上企業)
No.
ヒアリング先
②
モリマシナリー㈱
・価格が 3,000 円/㎏を下回ることが普及のための条件。
・今後の生産量次第ではあるが、1,000 円/㎏までの低減を目標。
日本製紙㈱
・カーボンナノファイバーの 2,000~3,000 円/kg が最低限ライン。
・汎用化にあたっては 1,000 円/kg 以下、さらに数百円/kg 実用化
が必要。
・その実現を見据え、量産化を視野に入れている。
③
コ メ ン
ト
b.技術
普及のための課題で技術に関する意見は概ね「(a)均一性・均質性」、
「(b)安全性」
、
「
(c)用途別の対応」に分類される。
(a)均一性・均質性
技術面ではセルロースナノファイバーの均一性・均質性に関するコメントが最も
多い(多数)
。具体的には直径、繊維長(⑧紙加工F社、⑨ゴム製品G社)、修飾官
能基の導入量等の均一性が求められた。
その一方で、ある程度のばらつきにより他の繊維との相乗効果を期待する少数意
見もあった(⑥繊維D社)
。
さらに、品質面では常温での保存安定性(④食品B社)が挙げられた。食品分野
においては、食品自体を製造する場合と同等の品質管理が必要とされ、形状の均一
性に加え、
「無味」
、
「無臭」であることも求められた(④食品B社)。
さらに自動車・木材等の大量使用が見込まれる分野においては、均一性に加え、供
給安定性(⑦木製品E社、⑧紙加工F社、⑨ゴム製品G社)も必要とされた。
また、全般的に利用者側でセルロースナノファイバーの品質を簡便・低コストで
検定する手法の確立も期待されている。
- 123 -
(b)安全性
ナノセルロースフォーラムの分科会等でも取組みが行われているが、安全性の評
価、ナノ(材料)リスク6への対応について求める声が多くあった(③日本製紙㈱、
④食品B社)
。
特に機能性添加剤(食品、化粧品、塗料、インク等)の用途においては技術的な
ハードルは相対的に低いものの、安全性評価手法が確立していないことが実用化の
課題となっているとの意見もあった。
(c)用途別の対応
用途に応じ最適化されたセルロースナノファイバーの提供(⑧紙加工F社、⑨ゴ
ム製品G社)を求める声や川下企業のニーズに対応したセルロースナノファイバー
を供給するための当該企業との共同研究(③日本製紙㈱)の有益性について言及が
あった。
また、セルロースナノファイバー複合材では、単に「強い」
、
「軽い」、
「天然由来」
だけではなく、各材料の強みである項目(例:「ゴム」-「防振特性」、「塩化ビニ
ール」-「耐久性」
、
「ポリカーボネート」-「透明性」等)に関連したデータ提供
を期待する声が多い。具体的には「図表5.6 セルロースナノファイバーに求め
る特性」のとおりその項目は多岐にわたる。
また、セルロースナノファイバーに期待する効果を「効果1.新たな機能の付与」、
「効果2.既存の機能向上」
、
「効果3.コスト削減」の3つの視点で川下企業をプ
ロットしたものが、図表5.7である。こういった効果が複数発揮できるような用
途があれば普及につながるとも考えられる。
6
ナノメートルのサイズの物質の利用にともなって生じる健康・環境に対する危険性。ナノテクノロジーの
進歩により、がん治療から化粧品にまでナノ材料が用いられるようになっているが、大きさが数~数十ナ
ノメートルという非常に小さな物質では、しばしばバルク体では考えられないような特異な性質を示す。
ナノ材料の化学的な安定性や人体および環境に与える影響など、十分研究されていない部分が多く、従来
の環境毒性学を用いたリスク評価方法が通用しない部分も多い。石綿による健康被害のような事態を繰り
返さないためにも、早急なナノリスク評価方法の確立が求められている。
- 124 -
図表5.6
取組状況:
業種
No.
訪
問 先
分類
ヒアリング先におけるセルロースナノファイバーに求める特性等
求 め る 特 性
☆☆☆☆☆ 使用・研究開発中
☆☆☆☆ 使用・研究開発を検討中
☆☆☆ 情報収集中
☆☆
興味はあるが、特にな
にもしていない
☆
用
高
途
軽
強
接
着
度
量
性
名前は知っている
質
感
・
食
感
の
変
化
寸
法
安
定
性
(
耐
熱
性
)
形
状
の
自
由
性
耐
久
性
チ
ク
ソ
性
透
明
性
保
形
性
・
増
量
効
果
植
物
由
来
・
生
分
解
性
ガ
ス
バ
リ
ア
性
そ
撥
水
性
の
他
a.公設試験研究機関
①
公設試A
-
☆☆☆☆☆
塗料、繊維
○
○
○
b.川上企業(製造側)
②
モリマシナリー㈱
-
☆☆☆☆☆
複合材料用途:プラスチック、ゴム複
合材、油性塗料
水系用途:水性塗料、接着材、消臭剤
○
○
○
③
日本製紙㈱
-
☆☆☆☆☆
ナノ複合材、機能性シート、
機能性添加剤
○
○
○
○
○
○
○
○
○
平滑性
c.川下企業(潜在的利用側)
④
食品B社
⑤
繊維C社
⑥
繊維D社
⑦
木製品E社
⑧
紙加工F社
⑨
ゴム製品G社
⑩
化学H社
⑪
プラスチックI社
⑫
輸送用機械J社
⑬
金属製品K社
生活
関連型
生活
関連型
生活
関連型
基礎
素材型
基礎
素材型
基礎
素材型
基礎
素材型
基礎
素材型
加工
組立型
加工
組立型
☆☆☆☆☆→☆☆
かまぼこ、ドーナツ、うに
☆
衣料品、ロープ、テープ・ベ
ルト、漁網など産業用資材
☆☆
化粧用コットン、不織布
☆☆☆
木製品
☆☆☆
段ボール
☆☆☆
自動車部品
☆☆☆
☆☆☆☆
ポリカーボネート
☆☆
大型成形品
☆☆☆☆☆→☆☆☆
その他
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
保温性、 吸水・吸
汗・速乾性、吸湿性、
抗菌性、防汚性
透過性、表面平
滑性
○
○
○
○
○
整腸作用
○
○
樹脂(PE、PP、塩化ビニル等)、
セメント
○
○
○
防振効果
○
速乾性
○
○
○
○
○
遮音性
メンテナンスフリ
ー性、耐食性、耐候
性
その他
- 125 -
図表5.7
川下企業(潜在的利用側)
セルロースナノファイバーに期待する効果(イメージ)
効果1 新たな機能の付与(青色)
④食品B社
⑥繊維D社
「効果1 新たな
機能」+「効果2
既存機能の向上」
⑬金属製品K社
⑤繊維C社
⑦木製品E社
⑩化学H社
⑪プラスチックI社
⑫輸送用機械J社
⑨ゴム製品
G社
⑧紙加工F社
効果2 既存の機能向上(赤色)
「効果2 既存機能
の向上」+「効果3
コスト削減」
- 126 -
効果3 コスト削減(緑色)
5.2.4.セルロースナノファイバー関連の支援策等
セルロースナノファイバーの普及、研究開発・実用化に向けた課題解決のための支援
策として「a.認知度向上」
、
「b.情報提供」
、
「c.研究開発サポート」、
「d.産学・
産産連携」の4項目について取りまとめる。
a.認知度向上
中国地域の中でもバイオマスのマテリアル利用が行われている地域は限定的で
あり、セルロースナノファイバーに関して地域全般での認知度を高める施策が必要
とされた(①公設試験研究機関A)
。
また、食品業界の中小企業にとって食品添加物としてのセルロースの認知は低い
ものの、セルロースナノファイバーが、食品加工企業が継続的に抱える課題を解決
する新たな添加剤となる可能性について言及があった(⑨食品B社)。
b.情報提供
業種毎の用途、期待される効果やそれに関連した技術情報の提供(⑤繊維C社、
⑧紙加工F社)
、
「強度」等以外の多様な物性データの提供(⑨ゴム製品G社、⑩化
学H社)を求められた。
また、情報提供箇所に関しては、全国組織(ナノセルロースフォーラム)は地域
中小企業にとっては敷居が高いため(⑪プラスチックI社)、地域においてセルロ
ースナノファイバーの種類、物性、コストに関する情報など、気軽に入手できる機
会が希望された(⑪プラスチックI社、⑬金属製品K社)。
c.研究開発サポート
川上企業および川下企業の双方より単なるサンプル提供だけでは研究開発に支
障が生じるケースが少なくなく、何らかのサポートを必要とする(②モリマシナリ
ー㈱、③日本製紙㈱、⑤繊維C社)一方で、川上企業のサポートにもマンパワー的
な限界があるとのコメントがあった(②モリマシナリー㈱、③日本製紙㈱)
。
効率的・効果的なサポート方法としては標準的な添加方法・添加量を記載した“レ
シピ”の作成(③日本製紙㈱)や地域におけるサポート体制の構築(サポート窓口
の設置等)を求める声が多くあった。
サポート先としては身近な地元公設試験研究機関(⑤繊維C社、⑫輸送用機械I
社)や新たに立ち上げられる推進組織(⑦木製品E社)などが挙げられた。
- 127 -
d.産学・産産連携
川下企業からは、実用化の加速に向け大学・公設試験研究機関等も含めた産学連
携の体制の提示、連携先の紹介(⑩化学H社)、川上企業とのマッチング(⑪プラ
スチックI社)、地域における分野別の研究開発プロジェクトの立上げ(⑦木製品
E社)を期待する意見などがあった。
また、川上企業からは川下企業のニーズの吸上げ(②モリマシナリー㈱、③日本
製紙㈱)
、研究機関からは川下企業の業種等の偏在性を念頭に中国地域全般での「シ
ーズ」
・
「ニーズ」のマッチング、川下の県外メーカーとの連携(②モリマシナリー
㈱)のサポートを希望するコメントがあった。
- 128 -
6.セルロースナノファイバーに関する有識者の意見
6.1.有識者ヒアリング調査の概要
セルロースナノファイバーに関する研究開発・実用化に取組む大学研究者・企業関
係者に対し、セルロースナノファイバーに関連した研究開発・実用化の状況、産業界・
研究機関の採るべき方向性等を把握するためヒアリング調査を実施した。
実施期間は 2015(平成 27)年7月~2016(平成 28)年2月、ヒアリング先は計9
名(大学研究者 7名、企業関係者 2名)である(図表6.1)
。
図表6.1
有識者ヒアリング調査
ヒ ア リ ン グ 先
区分
ヒアリング先
主な研究・事業概要
大学研究者
①
全
②
国
③
九州大学
教授 近藤
九州大学
哲男
⑤
⑥
⑦
ナノセルロース製造技術の開発
セルロースナノファイバーの触媒
卓也
等への応用
静岡大学 学術院 農学領域
木質材料へセルロースナノファイ
准教授
バーへの利用
小島 陽一
大学院理工学研究科
システム設計工学系学域
(本調査委員会
中
国
地
域
ACC 法(水中対向衝突法)による
大学院農学研究院
教授 北岡
山口大学
④
大学院農学研究院
教授
合田
公一
副委員長)
天然繊維複合材料の強度・
信頼性評価
近畿大学 工学部 化学生命工学科
樹脂・ゴム材料の物性改善のため
教授 白石 浩平
の配合技術・性能評価
鳥取大学
キチンナノファイバー製造技術
准教授
鳥取大学
准教授
大学院工学研究科
伊福 伸介
農学部
の開発
生物資源環境学科
上中 弘典
キチンナノファイバーの用途開発
企業関係者
全
国
トクラス事業開発推進部
⑧
WPC 事業推進グループ
(本調査委員会
中
国
地
域
モリマシナリー㈱
⑨
グループ長
伊藤 弘和
委員)
セルロース開発室
室長 山本 顕弘
(本調査委員会
ウッドプラスチックへのセルロー
スナノファイバーの利用
セルロースナノファイバーの
製造・販売
委員)
- 129 -
6.2.有識者ヒアリング調査の結果概要
【大学研究者(全国)
】
①九州大学 大学院農学研究院 教授 近藤 哲男
主 な 意 見
・中越パルプ工業と ACC 法によるセルロースナノファイバー作製に取組み、生産効率の
向上、量産化等によりかなりの成果があがり、CNT(カーボンナノチューブ)以上のコ
スト競争力を有する。
・有望な用途は ACC ナノセルロースの両親媒性からの表面処理が不必要な「1.樹脂との
複合化」
、
「2.ドレッシング、化粧品」
、
「3.ファイケミカル、インク、コーティング
剤」等。
・輸送コストの関係上、セルロースナノファイバー製造拠点の近隣での最終商品化が必
要。
(最終商品の生産地に合わせ)生産拠点を分散化し、近隣地域の特性に合わせたセ
ルロースナノファイバーの供給、供給先に応じた量産方法等が求められる。
・石油化学材料・生物材料に精通し、両者のギャップを埋める人材、企業へ啓蒙のでき
る人材が必要。
②九州大学 大学院農学研究院 教授 北岡 卓也
主 な 意 見
・TEMPO 酸化ナノセルロースのナノセルロース膜にナノ孔をあけたガス分離材料の開発、
ナノセルロース結晶表面での触媒反応の研究等を実施。
・セルロースナノファイバー普及にあたっての課題は市場形成。ナノの生物材料でしか
なし得ない独自機能の追求を突破口とし、最終的に均一素材の大量製造型のマス分野
での利用を目指すべき。普及へのハードルは高いものの食品・医薬品の用途研究は有
望と期待。
・九州地域はセルロースナノファイバーの盛り上がりは今一歩なものの、学会活動は盛
んであり、四国を含めた連携の土台があるのは強み。
③静岡大学 学術院 農学領域 准教授 小島 陽一
主 な 意 見
・木質材料を製造する際に「セルロースナノファイバー」と「木材」と混合し、接着
剤の代替材料としての使用を研究。中国地域の建材メーカーとも共同研究を実施。
・2015(平成 27)年5月より環境省の「低炭素なセルロースナノファイバー用途開
発 FS 事業」にも関与。
・静岡大学は木質材料についての研究の歴史があるものの、紙・パルプ関連の研究
室がないなどの弱みも。また、人材の県外流出も課題。
・セルロースナノファイバーの普及・推進体制については全国組織(NC フォーラム)
と地域組織(ふじのくに CNF フォーラム)の役割分担が不明確。
- 130 -
【大学研究者(中国地域)
】
④山口大学
大学院理工学研究科 システム設計工学系学域
教授
合田 公一
主 な 意 見
・天然繊維複合材料(グリーンコンポジット)の強度・信頼性評価に関する研究に取組中。
・セルロースナノファイバーの”鉄の 1/5 の軽さで、鋼鉄に匹敵する強度”という表現に
は違和感。複合材料研究者による強度等に関する正確な情報発信が必要。
・セルロースナノファイバーで重要なのはナノ化によって力学的にどのような変化がもた
らされるかということである。
・有望用途は自動車用部品(2次構造材)とフィルム。
・国内における研究開発では農学系と工学系の垣根が存在。垣根を取払った農工連携の
推進、工学系研究者のナノセルロースフォーラムへの参画等にも期待。
⑤近畿大学
工学部 化学生命工学科 教授 白石 浩平
主 な 意 見
・バイオプラスチックの研究開発を継続する中で、セルロースナノファイバーに関連し
て「天然ゴムの物性改善」
、
「オール植物由来の採血器具の開発」、
「血液診断剤の性能
向上」等に取組・検討中。
・有望用途は「医療診断・用品分野」、「自動車用途等産業品の透明材料」。医療診断分
野は医薬品分野等と比較し、早期の実用化が可能と目論む。
・経験上、コストが最大の課題。プラスチック、ゴム強化・改質用途であれば、配合後
価格が、ポリプロピレンと価格競争可能な 400~500 円/kg 以下となることが必要。
・技術開発のための人材育成が急である。市場形成と同期させ、研究と実用化開発を繋
ぐ人材育成が必要である。2~3年の期間での産業界から,技術開発人材の大学への
派遣等の施策の実施を期待。
⑥鳥取大学
大学院工学研究科 准教授 伊福 伸介
主 な 意 見
・鳥取県の地域資源であるカニの殻から抽出されるキチンを、セルロースナノファイバ
ーの知見を基にナノファイバー化に成功。
・キチンナノファイバーの有用な生理機能を活かすため、有望用途は化粧品、健康食品。
・企業との共同研究の成果として、保湿効果を高めるためにキチンナノファイバーを配
合した化粧品が 2015(平成 27)年9月に発売。
・セルロースナノファイバーと同様に、キチンナノファイバーも安全性の評価が急務。
・キチンナノファイバーは生体に対して有用な素材であることから、セルロースナノフ
ァイバーの類縁体として認知・注目されることに期待。
- 131 -
⑦鳥取大学
農学部 生物資源環境学科 准教授 上中 弘典
主 な 意 見
・大学院工学研究科の伊福准教授が新たにキチン・キトサンナノファイバーを作製し、
その用途展開として、学内にて声掛けがあり取組みを開始。
・キチン・キトサンナノファイバーはセル同じ多糖類であるセルロースナノファイバー
が持つ繊維としての特性(超極細、軽量、高強度)に加え、ダイエット効果、整腸作
用(腸内環境改善)
、保湿効果、アンチエイジング効果等の機能付加があるのが強み。
セルロースナノファイバーとの用途に応じた使分け、混合も可能。
・用途開発として「小麦生地の強化」や「作物病害防除が可能な農業用資材」に取組中。
・セルロースナノファイバーの一類体としてキチンナノファイバーを認知し、中国地域
全体での情報発信やニーズ把握、用途開発等が図られることを期待。
【企業関係者(全国)】
⑧トクラス 事業開発推進部
WPC 事業推進グループ
グループ長 伊藤 弘和
主 な 意 見
・セルロースナノファイバーの複合化を考える場合、それだけにとらわれないでバイオ
マスフィラーの枠組みの中で考えたほうが合理的である。
・セルロースナノファイバーの利用促進には、製品(品質)規格、評価手法の早期整備
が必要。
・用途展開はセルロースナノファイバーとプラスチックとの複合化が注目されている
が、コンクリートへの添加剤、接着剤など他の用途に幅広く目を向けることが重要。
・セルロースナノファイバーの事業は、川上から川下を一地域で完結することが難しい。
各地域が強みを発揮して役割分担を図りながら、連携して取組むことが好ましい。
【企業関係者(中国地域)】
⑨モリマシナリー㈱ セルロース開発室 室長 山本 顕弘
主 な 意 見
・自社開発のセルロースナノファイバー製造装置により、木材チップを原料とする「リ
グノセルロースナノファイバー」、パルプを原料とする「セルロースナノファイバー」
の2種類のサンプルを提供中。
・粉体化したセルロースナノファイバーも開発した。2016(平成 28)年からサンプル
提供を開始予定。有望な用途はプラスチック、ゴムとの複合化。
・川下企業の掘り起こし、マッチングできる仕組みづくりへの支援に期待。
- 132 -
<参考>有識者ヒアリング調査におけるヒアリング内容
①九州大学 大学院農学研究院 教授 近藤 哲男
訪 問 先
項
福岡市東区箱崎 6 丁目 10 番 1 号
目
内
容
○研究経緯
13-14 年前にセルロース繊維を、有機溶剤等ではなく、水流で削ることに
より難溶性のセルロースを水溶性にする研究を開始し、2005(平成 17)年に
は多糖類のナノ微細化法としての水中カウンターコリジョン法〔水中対向衝
突法 :Aqueous Counter Collision(以下 ACC 法)
〕として発表した。水分散
性のセルロースナノファイバーの作製に関しては世界で最初であろう。
○取組内容(研究開発、用途開発等)
それ以降、セルロースに限らず、生物材料のナノ化手法としての「①ACC
法」に関する研究開発、普及に努めてきた。その他にも微生物・細胞にナ
ノコンポジットを作製させる「②バイオ 3D プリンティング」
、地球の創生
期の環境における生物の進化を相関する「③環境ストレスに対する応答」
等の研究も合わせて行ってきたため、ACC 法の研究に専念する状況にもな
かった。この間に、京都大学
a.セルロー
スナノファ
イバーに関
する研究
矢野教授、東京大学 磯貝教授等がセルロ
ースナノファイバーに関する研究を進展させてきたが、自分のスタンスを
変えることはなかった。
しかし、2009(平成 21)年より中越パルプ工業㈱から人材派遣等の熱心
な申出もあり、共同研究を開始し、ACC ナノセルロース製造の研究により
一層注力することとなった。中越パルプ工業㈱は他の製紙会社より規模が
小さく、セルロースナノファイバーの研究開発も後発ではあったが、研究
成果として、2013(平成 25)年 3 月よりセルロースナノファイバーのサン
プル販売、2015(平成 27)年には新たな ACC 法によるセルロースナノファ
イバー作製に関する特許を申請することが出来た。また、2017 年度より中
越パルプ工業㈱は量産体制に入る予定である。
セルロースナノファイバー研究に関しては企業(中越パルプ工業㈱)に
背中を押してもらった格好である。
○中核となる技術
中核となる技術は ACC 法である。
ACC 法とは二分した天然繊維試料同士を水中で高速に対向衝突させるこ
とによって、分子構造を破壊せず試料中に存在する相互作用のみを開裂さ
- 133 -
せ、容易かつ迅速に表面からのナノ微細化を可能とする手法である。
この手法は、水のみを用いることを利点としており、セルロース繊維の
みならず、生物素材に広く用いることができる。また、食品廃棄物からの
ナノファイバーやナノ粒子化も可能である。
図表6.2 ACC 法について
(続 き)
a.セルロー
スナノファ
資料:九州大学 Seeds 集 http://seeds.kyushu-u.ac.jp/ja/seed/d11.html
イバーに関
する研究
ACC 法の特徴・長所は以下のとおりである。
ACC 法の特徴・長所
①迅速なセルロースナノファイバーの調製
②どんな材料にも適用可能
*セルロースに限らずコラーゲン、キチン、食品廃棄物等もナノ化が可能。
さらに、お茶殻にはカテキンが 30%程度残っているが、従来、廃棄され
ていたものが水中で抽出が可能
③分子間に働く力を極めてマイルドな状態で開裂させることにより繊維表
面にダメージを与えない
④内在する天然素材固有の性質(疎水面)を表面露出させる
⑤他の手法と合体(併用)が容易
⑥有機、無機を問わず2つ以上の試料の同時ナノ化が可能
⑦水の会合の崩壊と再配列を誘発させて、疎水性水和によりカーボン材料
の分散性の向上を促す。
○地域的な背景・特徴
地域的な背景とは言えないが、成長の早い非木材(草本)の一つとして、
九州・山口地区に多く賦存する「竹」を ACC 法により、木材(木本)より
も弱いエネルギーをかけナノ化を行った。従来の木材とは性質が大きく異
b.地域とし なったセルロースナノファイバーが作製された。
ての取組み
化学的処理(TEMPO 酸化法)ではこのような大きな差異は生じないであ
ろう。
○九州地域での協力体制
行政(経済産業局・県等)主導による九州地域全般でのセルロースナノ
- 134 -
ファイバー実用化の体制ができているわけではない。ただし、ACC ナノセ
ルロースに関しては、全国展開している中越パルプ工業が主体となるため、
九州地域の川下企業を中心とした展開というよりも、韓国等のアジア市場
を含めた海外展開も視野に入れるべきと考えている。また、九州地域の川
下企業等の状況を考えて地域性ということにはなりづらい。
安全性等の ISO の面では NC フォーラム等のオールジャパンで取組むべき
(続 き)
b.地域とし
ての取組み
ところであるが、基本的には市場開拓は企業の役割である。
2015(平成 27)年7月に薩摩川内市では「竹バイオマス産業都市協議会」
が設立され、そのアドバイザーに就任をした。セルロースナノファイバー
だけではなく竹バイオマス全般の組織ではあるが、地域における取組みに
対する熱意が感じ取れた。このようなバイオマスに関連した取組みが九州
地域にも数件ある。
○今後の研究活動
このたび足かけ4年かけ、ACC 法に適した専用機を開発した。引き続き
セルロースナノファイバー作製を含め ACC 法の幅広い普及に努めたい。
○市場
地域の特性に応じた新規用途開発は不可欠である。最初は地域の特性に
応じたニッチなマーケットを目指すしかない。モデルケースを作り、セル
ロースナノファイバーについて広く認知してもらう必要がある。
○コスト
コストダウンは不可欠な要素ではあるが、製造コスト面に関しては中越
パルプ工業との共同研究の中で、生産効率の向上、量産化等により、現時
c.セルロー
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
点でも CNT(カーボンナノチューブ)以上のコスト競争力がある。大きな
懸念材料ではない。ただし、輸送に関しては、日本はコスト高である。水
分散液で供給されるという点で、セルロースナノファイバー製造拠点の近
隣で最終商品化される必要がある。そのため、最終的には(最終商品の生
産地に合わせ)生産拠点を分散化し、近隣地域の特性に合わせたセルロー
スナノファイバーの供給、供給先に応じた量産方法が求められる。例えば、
四国なら「紙」用途である。
そういう意味では必要とされるセルロースナノファイバーの特性に応じ
たチューニングが可能な、
「成長する手法」である ACC 法のメリットが発揮
される場面でもある。
一方で、
(チューニング向きではない)グラインダー法による場合には、
大量生産による価格優位性が一層求められる可能性がある。
- 135 -
○人材
企業の意識は大きなハードルである。
(セルロースナノファイバーのユー
(続 き)
c.セルロー
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
ザーである企業の)石油化学的な「材料を溶かして、成形する」という思
考があり、セルロースナノファイバーを含め生物材料の特徴を活用すると
いう発想になりづらい。このままではセルロースナノファイバーは石油化
学製品・CNT 等の単なる代替品ということになり、既存材料とのコスト比
較だけになってしまう。セルロースナノファイバーのそれ以降の展開が進
まない。
そのため地域では石油化学材料・生物材料に精通し、両者の考え方のギ
ャップを埋めることが出来る人材、企業への啓蒙のできる人材が求められ
る。そういう面でも NC フォーラムには期待している。
ACC ナノセルロースの特性、両親媒性から表面処理が不必要な「①樹脂
との複合化」
、「②ドレッシング、化粧品」、「③ファイケミカル、インク、
コーティング剤」等が考えられる。
d.有望と思
食品用途は比較的製法が完成しており、食品関係者はセルロースナノフ
われるセル
ァイバーとの距離感があるのではないか。前述のように業界との関係を構
ロースナノ
築・啓蒙できる人材が求められる。
ファイバー
の用途
(国のロードマップのように)2030(平成 42)年に1兆円を創るという
なら、地域的な取組みを越えて、自動車用途しかない。日本産業で国際競
争力を有するのは自動車産業しかないため、市場規模を拡大するためには
必然的にそのようになる。オールジャパンで取組む意義がある用途とすれ
ば自動車用途である。
○九州地域の強み・弱み
中央から離れているということで、メリット・デメリット両方を享受し
ている。関東・関西地域と異なり中央との格差・温度差はあるが、地方創
生等での枠組みでの支援をうけることができる。
e.セルロー ○九州地域内での連携の広がりの可能性
スナノファ
九州地域に固執する必要もないが、バイオマスの取組みにみられるよう
イバーに関
な、地域での連携の広がりはあり得ると考える。
する連携
○中国地域について
具体的な連携というわけではないが、瀬戸内海沿岸にあるコンビナート
化学メーカーにセルロースナノファイバーが利用されれば、全国的にも注
目され、セルロースナノファイバー普及の潮目も変わってくるのではない
か。そのためには企業への啓蒙は不可欠である。ただし、外的要因変化が
なければセルロースナノファイバー採用は難しい面もある。
- 136 -
産業界等も含めセルロースナノファイバーの早急な発展に期待し過ぎて
f.行政・産
業界等への
要望
いる面もある。炭素繊維も市場の形成まで 50 年かかっている。
近年、セルロースナノファイバーに関連した補助金が充実してきている
が、補助金を受ける企業はセルロースナノファイバーの発展に関わる責任
を負うことを自覚してもらいたい。
- 137 -
②九州大学 大学院農学研究院 教授 北岡 卓也
訪 問 先
項
福岡市東区箱崎 6 丁目 10 番 1 号
目
内
容
○研究経緯
北岡教授は東京大学大学院で磯貝明教授の研究室に在籍し、紙の研究に
取組み、特に紙材料に用いる繊維の表面修飾法としての TEMPO 触媒酸化を
研究していた。1998(平成 10)年に九州大学に移ってからも、紙やセルロ
ースに関わる研究を続けている。その中の研究分野の一つとして、ナノセ
ルロースを利用して触媒、有機無機複合材料などの材料開発に取組んでい
る。
○取組内容(研究開発、用途開発等)
北岡教授の研究室でのナノセルロース材料の研究テーマは、大きく分け
て3つである。
1つめは、ナノセルロース膜にナノ孔をあけたガス分離材料の開発であ
る。多孔質材料の金属-有機構造体(MOF)というナノメートルオーダーの
細孔のある物質を、TEMPO 酸化ナノセルロース(TOCN)の表面に合成する
a.セルロー ことによって、分子の大きさを見分ける特性を生かしてガス分離の材料を
開発している。
スナノファ
図表6.3 MOF-TOCN 複合膜によるガス分離
イバーに関
する取組み
資料:北岡教授 説明資料
2つめは、ナノセルロース結晶表面での触媒反応である。TEMPO 酸化ナ
ノセルロースの表面に金属ナノ粒子を合成することによって、TEMPO 酸化
ナノセルロースの結晶表面に剥き出しの高活性な金属ナノ触媒を高密度に
担持することが可能となり、触媒性能の著しい向上が期待されている。
- 138 -
図表6.4 金属ナノ触媒のオンペーパー合成
資料:北岡教授 説明資料
(続 き)
a.セルロー
3つめは、ナノセルロースとアミノ酸による不斉合成である。TEMPO 酸化ナ
スナノファ
ノセルロース界面構造を活かして、アミノ酸のプロリンに TEMPO 酸化ナノセ
イバーに関
ルロースを複合化させると、触媒反応性が著しく向上するだけでなく、生成
する取組み
物の立体構造も制御できる、すなわち不斉合成が可能になる現象を発見した。
以上3つとも、ナノセルロースの界面に着目した研究に取組んでいる。
○中核となる技術
ナノセルロース材料の研究では、均一幅の完全ナノ分散でガスバリア性の
高い TEMPO 酸化ナノセルロースを使っている。前述の3つの研究成果は、い
ずれも TEMPO 酸化ナノセルロースを使って初めて発現する新機能である。
○地域的な背景
九州地域をバックグラウンドとする研究は行っていない。もっとも、九
州大学は水素・燃料電池分野の研究が盛んなことから、水素をつくる紙の
開発を 10 年以上研究している。水素をつくる紙とは、効率的な触媒反応を
起こさせる触媒材料である。その研究成果をベースにして、ナノセルロー
スの研究にも取組んでいる。
○技術・人材
技術開発、研究者については、わが国は北欧、カナダに比べてリードし
ている。国内の紙・パルプ需要の縮小傾向が続く危機感から、製紙会社は
b.セルロー セルロースナノファイバーを自社の保有技術が利用できる新産業創出のシ
スナノファ ーズと捉えて、実用化・事業化に向けての取組みを積極的に行っている。
イバー普及
に向けての
課題
○コスト
国はセルロースナノファイバーの価格を 2020(平成 32)年に 1,000 円/
㎏に低減するとしているが、タイムスケジュールどおりに進むことは難し
いかもしれない。また、2030(平成 42)年には 500 円/㎏まで低減すると
している。それも現在ゼロに近い市場を、2030(平成 42)年には1兆円市
- 139 -
場を創出することが条件付きである。険しい道筋である。
○市場
(続 き)
b.セルロー
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
普及にあたっての最大の課題は市場である。新材料が市場を開拓するに
は、もともと数十年がかかるといわれている。セルロースナノファイバー
は天然材料で、わが国の豊富な森林資源の有効活用という点で、カーボン
ナノファイバー、カーボンナノチューブなどの新材料に比べて優位性をも
っているが、それでも既存の材料に置き換えていくことは容易なことでは
ない。
将来的には、均一素材の大量製造型のマス分野での利用をめざさなけれ
ばならないが、普及へのハードルが高い。最初はセルロースナノファイバ
ーを使わなければならない分野の実用化・事業化をめざし、市場を形成す
ることが必要である。まず、そこを突破口としなければならない。
セルロースナノファイバーの研究は、バラツキのある天然原料から均一
素材を大量製造するためのプロセス開発や、既存素材などを上回る物性発
現による代替可能性をめざして進められてきたが、今後はセルロースナノ
ファイバーらしさに着目して、それでしかなし得ない独自機能の追求が求
められている。
省エネルギーのガス分離技術に期待が高まる中、ナノセルロース膜に孔
c.有望と思 をあけるガス分離技術は気体分子の大きさと差圧で分離する省エネ技術で
われるセル
ある。これは TEMPO 酸化ナノセルロースを利用しないとできない技術であ
ロースナノ
る。市場規模は小さいかもしれないが、関心を示している企業もある。一
ファイバー
方、触媒利用は企業のニーズを捉えないと何に使えるかが見えにくいので、
の用途
用途をすぐに広げることが難しい。
食品・医薬品の用途研究は有望かもしれない。セルロースナノファイバ
ーはヒトの身体では消化されないので、食物繊維のような機能に着目する
と、例えば整腸剤のようなものとして使える可能性もある。また、多糖類
は免疫力を高める効果があるといわれているが、セルロースナノファイバ
ーも多糖類であることから、免疫賦活剤(動物や人の体が細菌やウイルス
に接触したときに排除する機能(自然免疫)を活性化して抵抗力を増強す
る物質)の機能が期待できる。
○九州地域の強み・弱み
d.セルロー
スナノファ
イバーに関
する連携
九州大学にはセルロースを研究している先生は比較的多い。九州・四国
の研究者が所属するセルロース学会西部支部の活動が活発で、九州大学、
鹿児島大学、宮崎大学、愛媛大学などと連携できる体制が整っているのは
強みである。
中越パルプ工業㈱
川内工場(鹿児島県薩摩川内市)の竹バイオマスか
らのナノファイバー製造の取組みなど、一部での取組みはみられる。しか
- 140 -
し、九州全体でみるとバイオマスボイラー発電を建設する動きが多くみら
れ、木を燃やしてエネルギーを取出す考え方が根強い。マテリアル利用と
して木をナノ材料に使う動きは鈍い。
(続 き)
d.セルロー
スナノファ
イバーに関
○九州地域内での連携の広がりの可能性
九州地域では、セルロースナノファイバーを産学官連携で推進する機運
が盛り上がっていない。地域全体で推進するリーダーが見当たらないので、
現状では地域内で連携が広がることは期待できない。
する連携
○他地域との連携の可能性
中国・四国地域は九州地域に比べ、木質バイオマス、セルロースナノフ
ァイバーに積極的な取組みがみられる。九州地域にこだわらず、広く西日
本にエリアを広げて連携していけば、九州地域にとっても好影響が現れる
かもしれない。
セルロースナノファイバーの供給に大きな役割を果たしているのは製紙
会社である。製紙会社は自社内だけで用途展開に取組むのではなく、オー
プンにして他の産業に新規素材を使ってもらうことが重要である。用途開
e.行政・産
業界等への
要望
発の成功例を積み重ねることで、結果的にセルロースナノファイバーの市
場形成に厚みが出てくる。
セルロースナノファイバーのコストを引き下げることを目標に公的資金
を投入して、目標が達成できたとしても既存素材を自動的に代替すること
は難しい。セルロースナノファイバーでなければならないマテリアル機能
の創発を促進する研究支援があれば、異分野の研究者も多く集まってくる。
- 141 -
③静岡大学 学術院 農学領域 准教授 小島 陽一
訪 問 先
項
静岡市駿河区大谷 836
目
内
容
○研究経緯、研究内容(研究開発、用途開発等)
研究テーマは木質材料全般であり、木質ボード、WPC 製造方法、住宅適
用時の耐久等に関する研究をおこなってきた。そのうちセルロースナノフ
ァイバーを利用した木質材料の研究に関してはここ3~4年行ってきた。
セルロースナノファイバーに関しては、木質材料を製造する際に「セル
ロースナノファイバー」と「木材」と混合し、接着剤の代替材料としての
使用を研究している。木質材料メーカーにとっては考え得ることではあっ
たが、従来、誰も手をつけてこなかった。
セルロースナノファイバーを代替材料として使用することにより人体に
有害な可能性もある接着剤の使用量を減らし、コスト削減を図るとともに、
リサイクルを可能とすることを目指したものである。
a.セルロー
また、セルロースナノファイバーと木粉を混合して木質ボード作成した
スナノファ
ところ、木粉のみで作成したものと比較し、強度、耐水性ともに向上がみ
イバーに関
られた。
する取組み
○中核となる技術
使用するセルロースナノファイバーは完全に解繊したセルロースナノフ
ァイバーではなく、マイクロサイズのセルロース繊維をベースにナノサイ
ズのセルロース繊維を毛羽立たせたものである。ボールミルを使用しセル
ロースナノファイバーを作成するが、毛羽立ちが多く、木材に絡みつき、
接着力が強くなるセルロースナノファイバーが作成できるよう、回転数、
処理時間を設定している。
図表6.5 接着効果の高いセルロースナノファイバーイメージ図
毛羽立った CNF
(木材に絡みつきやすい)
元になるマイクロサイズの
セルロースファイバー
毛羽立った CNF
(木材に絡みつきやすい)
- 142 -
ボールミルとディスクミルを試してみたが、現在はボールミルを使用し
ている。
この研究に関しては木質材料メーカーである大建工業㈱と共同研究を模
索している段階である。大建工業には本研究室の卒業生が在籍する縁で、
(続 き)
a.セルロー
スナノファ
イバーに関
する取組み
岡山市の同社研究開発部門とデータの提供等を開始している。
○地域における協力体制
2015(平成 27)年5月より環境省の「低炭素なセルロースナノファイバ
ー用途開発 FS 事業」に関連して、同じ研究室の鈴木教授が代表事業者とな
っているため、同事業にも関与している。共同事業者であるトクラスとは
住宅資材へのセルロースナノファイバー利用の研究を共同で行うととも
に、WPC 等をテーマとする修論生・卒論生を毎年複数名受け入れてもらっ
ている。
○今後の研究活動
セルロースナノファイバーに関しては引き続き接着剤の代替材料として
の研究を続け、実用化を行いたいと考えている。
○コスト
コスト等については間伐材・廃材等を原料にボールミルを使用すること
b.セルロー により比較的簡単に、低コストでセルロースナノファイバーが作製可能と
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
なっている。
○市場
他の業界と比べ木質材料業界のセルロースナノファイバーへのスピード
感の遅さが気になる。
また、セルロースナノファイバーを作ることへの関心は高いが、何に使
うかという点がさほど考えられていないように思える。
c.有望と思わ
現時点では接着剤の代替材料としての用途であるが、研究の中で有望な
れるセルロー
用途等が見つかればいい。企業側より積極的にニーズを上げてもらいた
スナノファイ
い。
バーの用途
○静岡大学の強み
d.セルロー
スナノファ
イバーに関
する連携
木質材料については研究の歴史がある。 最近ではセルロースナノファイ
バーへの関心が高まりつつあり、研究室にもセルロースナノファイバーの
研究をしたいという理由で、入ってくる学生もいる。
セルロースナノファイバーに関しては静岡県より講演会の開催依頼があ
り、京都大学の矢野先生を講師として招聘したが、それが契機になり静岡
県幹部がセルロースナノファイバーに注力することを約束し、
「ふじのくに
CNF フォーラム」の設立に繋がった。
- 143 -
また、県内企業に大学シーズ冊子を配布していることもあり、セルロー
スナノファイバーについても県内企業から問い合わせがある。
○静岡大学の弱み
(続 き)
d.セルロー
スナノファ
静岡大学に紙・パルプ関連の研究室が置かれていないことは、セルロー
スナノファイバーに関する研究体制という面で残念である。また、折角の
卒業生が県外に流出してしまうのも課題となっている。
イバーに関
する連携
○他地域との連携の可能性
静岡県内でも産学共同研究は行っているが、大建工業のように県外企業
との取組みの方が多い。また、同じ研究室の鈴木滋彦教授が受託した農林
水産省のプロジェクト(機能化させた木粉を WPC に使用)の関係から、年
に2~3回程度 真庭バイオマスラボも訪問している。
e.行政・産
業界等への
要望
全国的には「ナノセルロースフォーラム」
、静岡県には「ふじの国 CNF フ
ォーラム」があるが、その役割分担等が不明確であり、どのようにアプロ
ーチしていいのか、今一歩分からない。各フォーラム等の役割分担を明確
にすることが好ましい。
- 144 -
④山口大学 大学院理工学研究科 システム設計工学系学域
教授 合田 公一
訪 問 先
用
途
セルロースナノファ
イバーに求める特性
項
山口県宇部市常盤台2丁目 16-1
自動車用部品(2次構造材)、フィルム
軽量、高強度、植物由来・生分解性
目
内
容
○研究内容
天然繊維強化生分解性樹脂基複合材料(グリーンコンポジット、以下「天
然繊維複合材料」
)の強度・信頼性評価に関する研究を主に行っている。
これまではガラス繊維やカーボン繊維などを強化材とする軽量高強度
複合材料の信頼性に関する研究を行ってきたが、環境負荷が小さく、持
続可能な社会を実現するにふさわしい材料に関心を持つようになり、
2000 年頃から天然繊維複合材料の研究を開始した。
研究範囲は材料の強度評価に限らず、樹脂との複合化方法およびその
ための装置開発等にも関心を持っていて、複合材料製造装置の特許の取
得も行っている。複合材料評価の研究分野では、このように材料の製造
方法も併せて研究を進めることは珍しいことではない。これまでにも興
a.セルロー
スナノファ
味深い材料(スマート複合材料)を開発した実績があり、企業に提案す
ることも数件あった。
天然繊維の強度・信頼性評価に関する研究については、世界的には、1960
イバーに関
~70 年代にテキスタイル用途で盛んであったが、1990 年代以降はマテリ
する取組み
アル用途において進展している。メルセデスベンツ Eクラスに「ポリプ
ロピレン+サイザル麻、亜麻」の複合材料が使用された時期でもある。
○セルロースナノファイバー関連の研究内容
天然繊維複合材料の強度・信頼性
図表6.6
に関する研究全般を行っているが、
フィブリル化した
ラミー繊維
セルロースナノファイバーの視点
から言及すると、天然繊維表面を毛
羽立たせた「フィブリル化天然繊
維」を挙げることができる。フィブ
リルがセルロースナノファイバー
そのものだからである。フィブリル
化天然繊維は樹脂との複合化の際、
樹脂自体の結晶化を促進し、強度・
- 145 -
資料:山口大学
合田研究室ホームページ
剛性の向上をもたらす。凝集の発生という課題のクリアが必要ではある
が、繊維の使用量が少なくてすむのがメリットである。
○セルロースナノファイバー複合材料の留意点
セルロースナノファイバーの”鉄の 1/5 の軽さで、鋼鉄に匹敵する強
度”という表現には違和感を覚える。何故ならセルロースナノファイバ
ー1本と鉄の「塊」を比較している表現だからである。金属はウィスカ
ーと呼ばれる単結晶を繊維状にした形態が最も強く、同等のオーダーで
ある鉄ウィスカーとの比較であれば、セルロースナノファイバーの5倍
程度の強度になると思われる。セルロースナノファイバーも同様に束ね
て複合化すれば、その塊(複合材料)の強度は低下する。
このような寸法と強度の関連性は従来から複合材料工学で培われてき
た知見であり、複合材料研究者がこの分野において指摘していかなけれ
ばいけない点である。セルロースナノファイバーを“夢の材料”として
過度な期待や誤解を抱せるのは、一時的な盛上がりはあっても、長期的
b.有望と思
な普及のためには好ましくないと考える。
われるセル
また、セルロースナノファイバーで重要なことは、ナノ化によってどの
ロースナノ
ような特性がもたらされるかという見方である。複合材料研究者は一般的
ファイバー
に(ミクロフィブリルが分離して短冊状に細くなり)アスペクト比が大き
の用途
くなることで高強度化が実現される場合、ナノ効果とは考えていない。元
の形状の相似形でナノの大きさになった場合に発現される効果がナノ効
果と考えている。
○有望と思われる分野
・自動車用部品
有望用途については具体的には自動車用の2次構造材である。自動車
のフレーム等を1次構造材とすれば内装材(フロントパネル、ドアトリ
ム等)が2次構造材にあたる。
(1次構造材ほどではないにしても)ある
程度の強度・剛性が求められる分野である。
・フィルム
力学的には、ナノ効果として有限幅を有する材料では、表面近傍(最
外層)にミクロサイズよりナノサイズの繊維がより充てんされることか
ら高い補強効果が得られる。そのためナノ繊維は表面が内部より物性を
強く支配する薄い材料への使用による効果が高いこととなり、フィルム
等の用途が考えられる。ただし、表面に繊維-樹脂界面が多くなり酸化
等の劣化を受けやすくなるという課題をクリアする必要がある。
- 146 -
○農工連携の推進
セルロースナノファイバーに関して、その製造等については農学系が主
流に感じる。複合材料全般に関する研究や繊維関連の用途開発等について
は工学系が主流であるが、セルロースナノファイバーを用いた複合材料研
究は多いとは言えない。天然繊維複合材料はガラス繊維複合材料の代替材
として期待されており、工学系研究者が取り組んできた経緯がここにあ
る。しかし、これは草本系天然繊維を対象としているため、農学系が主流
とする木質系セルロースナノファイバーまで研究対象にする場合は少な
く、両者に垣根がある。
工学系の学会(特に機械系)
、たとえば、日本機械学会の材料分野(材
料力学・機械材料)
、日本材料学会、日本複合材料学会等においては、セ
ルロースナノファイバーの認知度はさほど高いとは言えない。CNF とい
c.セルロー
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
う表記も工学系では(セルロースナノファイバーではなく)カーボンナ
ノファイバーの略称と思う研究者が多いであろう。
また、行政においても農林水産省と経済産業省の補助金活用等におい
ても同様の区分(農学系・工学系)がなされ、垣根が存在している。
一方で、ヨーロッパではテキスタイル分野(工学系)をバイオマス分
野(農学系)とうまく融合させている。例えば原料となる植物のマテリ
アル利用を念頭に、最適な特性を得るための生育条件や作付け間隔条件
の研究がなされるなど農工連携の取組みが進展している。また、行政も
天然繊維複合材料の利活用を後押ししており、研究開発やその用途展開
において支援がなされている。用途も自動車材用、スポーツ用品、ヘル
メットなどに及び幅広い。
かつては「天然繊維+ポリ乳酸」という組合せ(オール生分解性材料)
や「天然繊維+ポリプロピレン」が主流であったが、現時点ではバイオ
ポリマーとの複合化も台頭している。
国内においてもヨーロッパのように垣根を取り払った連携が進展する
ことを期待している。
○繊維関連企業のニーズの実用化
本調査委員会の繊維関連企業へのヒアリング調査でも、セルロースナ
ノファイバーに求める特性として「撥水性」を求める意見があったが、
このような繊維関係者の独自の意見を拾上げ、それを実用化に結びつけ
る取組みも重要と考えられる。
- 147 -
○中国地域における連携
中国地域では3~4年前に「5大学連携事業」におけるバイオマス関
連の分科会で産業技術総合研究所
d.セルロー
リマシナリー
遠藤先生、鳥取大学
伊福先生、モ
山本室長と1年間限定で活動を行ったが、意見交換が主
スナノファ
となってしまった。そうした点を踏まえれば、取組みはターゲットを明
イバーに関
確にし、人的交流を継続的に実施していくことが重要であると考える。
する連携
また、現在、セルロースナノファイバーの解繊装置を開発しているメ
ーカーは、フィブリル化天然繊維の製造装置の開発やセルロースナノフ
ァイバーの紡糸装置の開発なども対象にして、当該分野の発展ために幅
広い技術開発を指向していただきたい。
ナノセルロースフォーラムの地域展開や地域の産業支援機関の活動によ
e.行政・産
業界等への
要望
り、地域の研究者、企業関係者等の交流の輪が広がることを期待している。
また、既に述べたような農工連携の推進のためにもナノセルロースフ
ォーラムへの複合材料、繊維関連等の工学系研究者の参画および農学系
研究者との交流促進も求められる。
- 148 -
⑤近畿大学 工学部 化学生命工学科
訪 問 先
用
途
セルロースナノ
ファイバーに求
める特性
項
教授
白石 浩平
広島県東広島市高屋うめの辺 1 番
採血器具、血液診断剤、
自動車用途等産業部品の透明材料
軽量、高強度、形状の自由性、寸法安定性、
透明性、ガスバリア性、植物由来・生分解性、
(診断剤としての)反応性
目
内
容
○取組内容
バイオプラスチックに関連し、2005(平成 17)年にポリ乳酸の生分解性
樹脂を自動車部品に活用するという国の補助事業(地域新生コンソーシア
ム研究開発事業:
「自動車用内装部品のバイオプラスチックの研究開発」)
に参画し、委託期間・補完研究期間を終了後も、各分野での実用化に向け
取組みを継続している。
当初は自動車をターゲットにしていたが、コスト的に合わないこともあ
り、その利用は限定的なものにとどまってきた。その後、実用化に向け建
材、汎用樹脂分野への用途拡大を図り、各材料とセルロースナノファイバ
ーとの混合もその一環である。具体的な取組みは以下のとおりである。
a.天然ゴムの物性改善
3~4年前、地元ゴム会社とバイオプラスチックに関する取組みを行う
a.セルロー
スナノファ
イバーに関
する取組み
中、環境負荷の大きいゴム改質剤であるカーボンブラックの代替材として、
セルロースナノファイバーを使用した。セルロースナノファイバー自体は
産業技術総合研究所の遠藤博士から提供を受けた。
本研究はポリ乳酸/天然ゴムとセルロースナノファイバーの混合(同技
術は白石教授グループの特許)の延長上にある。セルロースナノファイバ
ーは通常水分散液として供給されるため、疎水性樹脂との複合時における
樹脂への分散方法と均一分散化の課題がある。天然ゴムラテックスは分散
媒水同士との混合が可能であるため、特殊な混合機の使用によって、比較
的スムーズに研究も進展し、ゴムの引張強度、弾力性の向上等の成果を得
た。ただし、現時点では共同研究企業の都合により一時中断となっている。
b.オール植物由来の採血器具の開発
バイオプラスチックの研究を進める中、神戸市の医療機器メーカーであ
る㈱ライトニックスからアプローチがあり、80~90% 天然由来材料(100%
生分解性材料)による採血器具「ランセット(図表6.7)
」を開発した。
現時点では、針はポリ乳酸であるが、外側の材料はポリプロピレンを使用
しているが、外側の材料もポリ乳酸にすれば、ぼぼ 100% 天然由来材料(ほ
ぼ 100% 生分解性材料)の製品となる。ランセットは複雑な内部構造をも
- 149 -
つため、成形時の樹脂流動性と、
図表6.7
採血器具「ランセット」
製造工程効率化のための成形性
(結晶性)を与える樹脂配合系を
ぼぼ完成させた。途上国を中心に
強く求められているコンパクト、
廃棄時の生分解性を同時に達成し
ている。今後はワクチン接種用と
しても実用化直前といった段階で
じょう し
あり、2016(平成 28)年 上 市の
出典:
㈱ライトニクス社ホームページ
可能性もある。
上市が成功すれば、次のステップとして、現配合の植物度と物性向上を
目的に、上記aの技術を転用して、ポリ乳酸とセルロースナノファイバー
の混合に取組みたいと考えている。
c.血液診断剤の性能向上
2015(平成 27)年8月には岡山県の真庭バイオマスラボを訪問し、各分
(続 き)
野の研究者と交流する機会を得た。
a.セルロー
従来より、血液評価剤の研究開発も行っているが、その際、ある特定の
スナノファ
官能基をもつセルロースナノファイバーに評価剤としての機能を見出して
イバーに関
いた。しかし、官能基導入量やセルロースナノファイバーの形状といった
する取組み
評価剤としての機能に係る品質や、工業的な供給の安定性についての課題
があった。同交流会で、品質及び供給安定性をクリアしている真庭市の企
業を知った。今後、企業より提供を受けたセルロースナノファイバーを候
補の1つとして試験し、実用化への取組みを進展したいと考えている。
以上のようにバイオプラスチックのアプリケーションの実用化を目指す
中で、近隣の産業技術総合研究所中国センター等からセルロースナノファ
イバーの提供を受け技術開発を行ってきた。公表できる以上の3つ取組み
以外にも広島県内の産業用最終製品を製造する樹脂あるいはゴムメーカー
2社にもセルロースナノファイバーに関する技術供与を行うなど、セルロ
ースナノファイバー利用技術の横展開を図っている。
○取組進展の背景
取組進展の背景としては、バイオプラスチックに関連した国の補助事業
からの研究開発の流れ、産業技術総合研究所中国センターからのセルロー
スナノファイバーの提供以外にも以下のことが挙げられる。
a.卒業生の就職先に「ろ紙メーカー」、「紙力剤メーカー」等の企業が
ある。これらの企業とは十数年来、技術課題の指導の一環としてセ
ルロースの表面改質等に関する技術情報交換・サポートを行ってお
り、通常の樹脂関連研究者にはないセルロースに関する知見を高め
- 150 -
ることが出来た。
b.ナノ素材の医療用途への展開を共同開発する中で、有機・無機の様々
なナノ素材を横並びで評価することにより知見が高められた。
(続 き)
○セルロースナノファイバーの魅力
a.セルロー
セルロースナノファイバーの効果としては強度、耐熱性等の物性向上も
スナノファ
さることながら、アスペクト比が大きいため長軸方向が揃い、流れ(流動
イバーに関
性)の制御に効果を発揮すると思っている。
する取組み
また、セルロースナノファイバーが強い凝集力を持ちながら水中に存在
している状態を、樹脂内でも再現することが高機能な材料として使う「鍵」
になると考えている。
均一な分散とは逆に、樹脂中での分散性が高くても効果が十分発揮され
ないケースや特定のナノからマイクロスケールでのセルロースナノファイ
バー凝集物によって、特異な性質を与えるケースもあると思っている。
○コスト
経験上、コストが最大の課題と考える。プラスチック、ゴム強化・改質
用途であれば、配合後の価格が,石油系のポリプロピレンに近づく 400~
500 円/kg 以下となる必要がある。
また、過去のプロジェクト(近畿大学
次世代基盤技術研究所「地域連
携による次世代自動車技術に関する研究」)において、評価委員より研究体
構成やゴール設定とプロジェクトスケジュール等は高い評価を受けたもの
の、「
(ポリ乳酸が)天然由来、環境対応だけでなく、最終製品の機能・性
b.セルロー
スナノファ
イバー普及
に向けての
課題
質がこの材料でないと発揮できないというものでなければ普及しない」と
も言われた。
現在研究中の医療診断・材料用途においても、セルロースナノファイバ
ーでなければ実現できない効果があれば、価格も上積みでき、1,000 円/
kg でも可能であると考えている。
○市場
以上のようなコスト面での課題等が解決され,機能的な特長をもつ素材
とすることができれば,市場開拓は可能である。
○技術
セルロースナノファイバーの品質安定性も重要である。また、ユーザー
側にもセルロースナノファイバーの品質を簡便かつ低コストで常時検定す
る手法が必要である。供給元を信頼するしかないでは、製品開発ひいては
実用化への課題となる。供給元もセルロースナノファイバーの形状、サイ
ズ、修飾官能基の導入量、とくに常温での保存安定性の確保への技術等が
不可欠である。
- 151 -
○医療診断・材料分野
医療診断・材料は、国内におけるニーズも大きいが、海外ではとくに廃
棄後の取扱いが雑であり、生分解性材料の提供が市場獲得に繋がれば利用
拡大に有望である。セルロースナノファイバーの優位性(球形ではないア
スペクト比の大きい構造等)を確認しながら、研究を進展したいと考えて
c.有望と思
われるセル
ロースナノ
ファイバー
の用途
いる。
また、
「体に入れる」ものは開発・認証等に何十年も時間がかかるため、
早期の実用化が非常に難しい。
「体に入れない」診断分野や体外接触の医療
分野をターゲットにしている。本分野参入へのハードルは高いが、参入後
は継続的な利益が期待できる分野でもある。
○自動車用途等産業部品の透明材料
自動車材料等産業部品の軽量化、プラスチック化の流れの中で、オール
セルロースはないが、透明材料としてのセルロースナノファイバーの用途
は多くある。ガラスの欠点をセルロースナノファイバーで解消して特長づ
けることができれば、自動車分野では内装品等、安全・安定性ハードルの
低い部品から徐々に普及は進むと思う。
○中国地域の強み・弱み
d.セルロー
セルロースナノファイバーの技術・分析に関する拠点の1つである産業
スナノファ
技術総合研究所
中国センターがある。また、同センター等が企業と一緒
イバーに関
になって主催する真庭バイオマスラボがあり、実用化や技術者育成も含め
する連携
ての研究・開発が組織的に進められている。
このような場を核とした、共同研究や情報交換先企業との連携と商品化
の可能性がある。
企業の若い現場技術者を育てていくことが重要である。研究畑の人材の
みならず、例えば射出成形分野や工場において量産化を担うような現場の
技術者で、シーズ研究から実用化研究の橋渡しができる人材の育成が急務
e.行政・産
業界等への
要望
である。
「市場形成が先か」、「人材育成が先か」は難しい問題ではあるが、
市場形成と同期させながら、育成するしかないと思う。
例えば、産業界と大学・公的研究機関の間での2~3年の人材交流(相
互出向)したうえで、各研究プロジェクトへの参画や技術開発のための人
材育成などの仕組み作りが期待される。
セルロースナノファイバー分野での中国地域では既に先進的に取組まれ
ている事例もあり、このような取組みが今後のセルロースナノファイバー
の利用へと繋がると考えている。
- 152 -
⑥鳥取大学大学院
訪 問 先
用
途
キチンナノファイ
バーに求める特性
項
工学研究科
准教授
伊福 伸介
鳥取市湖山町南4丁目 101 番地
食品、化粧品、医薬品、農業資材、フィル
ム
質感・食感の変化、透明性、寸法安定性、
ダイエット、創傷治癒、保湿性
目
内
容
○地域的な背景・取組みのきっかけ
伊福准教授は京都大学の大学院生および研究員として、矢野教授の研究
室でセルロースナノファイバーの研究を続け、その知見を得ていた。2008
(平成 20)年に鳥取大学に赴任する際に、大量廃棄されるカニ殻を原料と
するキチンに着目した研究ができないかと考えた。キチンの化学構造はセ
ルロースと似た構造をしているので、キチンから繊維を取出せないかとい
う発想で研究した結果、キチンナノファイバーの作製に成功した。
一方、鳥取県はカニの
水揚げが国内トップクラ
図表6.8 キチンナノファイバー
・
スで、地元の食品加工会
社はカニの加工後に廃棄
されるカニ殻が大量に発
生している。これを有効
利用するため、カニ殻の
a.キチンナ
新たな再利用方法が期待
ノファイバ
されていた。また、鳥取
ーに関する
大学では 45 年間にわた
取組み
りキチン・キトサンの研
究を推進してきたことか 資料:鳥取大学ホームページ
ら、大学内でキチンナノ
ファイバーの研究に取組みやすい土壌があったことも背景にある。
○キチンナノファイバーとは
キチンナノファイバーはカニ殻などの甲殻類の外皮から製造された幅 10
~20nmの極細繊維状の物質である。ナノファイバー化することで、従来
のキチン粉末では出来なかった、水中での均一な分散性が実現され、他の
材料との配合・成形が容易になった。キチンナノファイバーはセルロース
ナノファイバーと同様に高強度、高弾性、低熱膨張、透明性などという特
徴をもっているほか、セルロースナノファイバーにはない保湿効果、ダイ
エット効果、創傷治癒効果など生体に対しても有用な機能・効用があるこ
とが明らかになりつつある。しかし原料調達面でみると、キチンナノファ
- 153 -
イバーはセルロースナノファイバーの原料に比べると比較的確保しにくい
面がある。
○中核となる技術
キチンナノファイバーの製法はセルロースナノファイバーと類似してい
る。乾燥したカニ殻からタンパク質、カルシウムなどを取除いて採取した
キチンに酸を添加し、グラインダーやホモジナイザーで解繊するとキチン
が裂きイカを裂くように繊維化される。こうしたキチンナノファイバーの
製法を伊福氏が 2013(平成 25)年に権利化した。
○取組内容
現在は鳥取大学内の農学部、医学部などと連携してキチンナノファイバ
ーの生理機能を見出し、その応用展開を図っている。2013(平成 25)年に
(続 き)
a.キチンナ
は文部科学省の「大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)
」
〔2013(平
成 25)~2015(平成 27)年〕の採択を受けて、キチンナノファイバーの事
業化を進めている。
ノファイバ
具体的な応用展開の例として、キチンナノファイバーの保湿効果に活か
ーに関する
す応用展開がアサヒフードアンドヘルスケア㈱との共同研究によって進め
取組み
られた。その結果、化粧品の新素材としてキチンナノファイバーを配合し
た化粧品が、2015(平成 27)年9月に同社より発売された。これはキチン
ナノファイバーの初めての製品化である。
上記以外でも実用化に向けて、現在も繊維、高分子、農業、食品、化粧
品などの企業7社との共同研究を進めており、キチンナノファイバーの生
体に対する有用な機能・効用に着目した製品開発に取組まれている。
○大学内での協力体制
キチンナノファイバーを大学内で広く PR して、興味をもった先生にその
サンプルを提供している。そうした先生の専門分野との融合が進むことで、
単独では出来なかった用途開発の進展が期待されている。
鳥取大学の産学連携組織「産学・地域連携推進機構」はキチンナノファ
イバー関連で学内・学外との連携をとりやすいようにサポートしている。
○安全性の評価
普及に向けて安全性の評価は重要であるが、現状ではセルロースナノフ
b.キチンナ
ノファイバ
ァイバー、キチンナノファイバーの安全性が明確に評価されていない。セ
ルロース、キチン自体は安全なものであるから、ナノファイバー化したも
のも安全であろうといわれているが、実際は安全性の評価があまりなされ
ー普及に向
ていない。キチンナノファイバーについては今後、安全性の評価、試験に
けての課題
取組むことを検討している。
- 154 -
(続 き)
○コスト
b.キチンナ
製造コストは、キチンナノファイバーがセルロースナノファイバーに比
ノファイバ
べて高い。解繊の工程にコストの大半がかかっている。コストの低減化を
ー普及に向
けての課題 進める必要がある。
キチンナノファイバーの用途には、食品、化粧品への添加剤、医薬品、
・
農業資材、フィルムなどの補強繊維などが想定されている。
c.有望と思
キチン・キトサンの生理機能という高付加価値に着目して、価格が少し
われるキチ
高めでも購入してもらえるような製品・分野で、キチンナノファイバーの
ンナノファ
事業化をめざさなければならない。そうした製品・分野を突破口として市
イバーの用
場を次第に広げていくことが重要である。キチンナノファイバーがターゲ
途
ットとする分野は化粧品、健康食品である。医薬品、医療用材料もターゲ
ットとなりうるが、開発に多大な時間と資金がかかることから実用化・製
品化にはハードルが高い。
○鳥取大学・鳥取県の強み
鳥取大学は学部・学科間の連携がとりやすい環境にある。キチンナノフ
d.キチンナ ァイバーでは、工学部、農学部、医学部が連携している。学際的な領域で
ノファイバ
ーに関する
連携
お互いの顔が見える形で連携できるのが強みである。
鳥取県の強みは、キチン・キトサンの原料となるカニ殻が豊富にあるこ
とから、これを調達しやすい点である。境港市にキチン・キトサンのメー
カー最大手の甲陽ケミカルの工場が立地している。一方、弱みとしてはも
ともと企業が少ないので、用途開発で共同研究のパートナーになりうる企
業が限られる。必然的に県外企業との共同研究が多い。
e.行政・産
業界等への
要望
キチンナノファイバーは魅力的な素材であるので、セルロースナノファ
イバーの類縁体として認知され、注目されることを望む。これまでも新技
術説明会や、化粧品・健康食品に関連する機能性素材の展示会などへの出
展を進めてきたが、そうした情報発信の機会提供や支援に期待する。
- 155 -
⑦鳥取大学 農学部 生物資源環境学科 准教授 上中 弘典
訪 問 先
鳥取市湖山町南4丁目 101 番地
用
小麦粉、農業用資材
途
キチンナノファイ
バーに求める特性
項
質感・食感の変化、増量、保形性、抗菌
目
内
容
○地域的な背景・取組みのきっかけ
鳥取県境港では年間 8,000 トンの水揚げがあり、大量のカニ殻が発生す
るものの、グルコミン以外には多く有効利用されずに廃棄されてきた。こ
のような状況もあり、地域資源の有効利用として、大学院工学研究科の伊
福准教授が新たにキチン・キトサンナノファイバー(=マリンナノファイ
バー)の作製に取組むとともに(文部科学省「大学発新産業創出拠点プロ
ジェクト(START)
」事業:期間 2013(平成 25)~2015(平成 27)年)、そ
の用途展開として、学内にて声掛けがあり研究開発を開始した。
・
○中核となる技術
キチン・キトサンナノファイバーはセルロースと同じ多糖類であるセル
a.キチンナ
ノファイバ
ー・セルロ
ースナノフ
ァイバーに
関する取組
み
ロースナノファイバーが持つ繊維としての特性(超極細、軽量、高強度)
に加え、ダイエット効果、整腸作用(腸内環境改善)、保湿効果、アンチエ
イジング効果等がある。
○取組内容①(小麦生地の強化)
小麦生地にキチンナノファイバーを練り込むことにより、通常ではパン
には使用できない薄力粉でも膨らむパンを作ることができた。また、従来
の強力粉でも、使用量が削減できるようになった。加えて、日本人が好む
“もちもち”とした食感も付与できるようになった。
これらの効果はセルロースナノファイバーでも期待されるが(少しセル
ロースナノファイバーの方がパンの膨らみが小さい印象)、キチンナノファ
イバーではダイエット効果、整腸作用等の機能を付加することができる。
セルロースナノファイバーについては、本来の研究対象でなく、知財戦
略上の観点から、取組みを行い、キチンナノファイバーと共に特許申請を
行っている。
図表6.9 小麦生地の強化
資料:鳥取大学ホームページ
- 156 -
○取組内容②(作物病害防除が可能な農業用資材)
農林水産省の「農食研究推進事業:期間 2015(平成 27)~2017(平成
29)年」として、作物病害防除が可能な農業用資材(ロックウール、紙ポ
ット、不織布等)の研究開発を、樹脂会社と共同で取組んでいる。
これらの病害防除は上中准教授の本来の研究内容である「植物における
菌類との相互作用や重要形質の制御機構を“分子レベル”での解明」に基
づいたものであり、
(キチン粉末より)ナノファイバー化したものを塗布す
ることにより、イネいもち病、トマト萎凋病等に対する病害抵抗性が活発
化されることが確認されている。
なお、抗菌性等に関連してはキチンナノファイバーの表面キトサン化や
(続 き)
銀ナノ粒子等の技術も有している。
図表6.10 作物病害防除が可能な農業用資材
a.キチンナ
ノファイバ
ー・セルロ
ースナノフ
ァイバーに
関する取組
み
資料:鳥取大学ホームページ
○地域での協力体制
鳥取大学においては、キチン・キトサンナノファイバーの作製は大学院
工学研究科(伊福准教授)
、医薬品に関しては獣医学科、食品、農業用資材
に関しては生物資源環境学科(上中准教授)といった展開がなされている。
また、必要に応じ、地元企業とも連携が図られている。
○市場(用途)
・コスト
一番の課題は用途であり、これに関してはセルロースナノファイバーと
同様であると考える。キチン・キトサンナノファイバーに関しても出口を
b.キチンナ
模索中といったところである。
ノファイバ
コストに関しては、用途が未確定な状況で大幅なコストダウンは難しい
ー普及に向
状況にある。ただし、機能化という点では、セルロースナノファイバーよ
けての課題
りも付加価値があると考える。
上述の「小麦生地の強化」に関しては、必要な機能に応じ、コストの相
対的に安いセルロースナノファイバーと機能性(ダイエット効果、整腸作
用等)の高いキチンナノファーバーを混合して使用することもありうると
考える。
- 157 -
○技術
(続 き)
キチン・キトサンナノファイバーの品質に関しては径等の均一化が好ま
b.キチンナ
しいが、セルロースナノファイバーほどシビアではないと考えている。た
ノファイバ
だし、キチン・キトサンナノファイバーの最も効果的な機能が発揮できる
ー普及に向
径での解繊が求められる。細ければいいという訳ではない。
けての課題
また、小麦粉食品の試作後の品質・機能性の評価についても、現在、取
組中である。
c.有望と思
われるキチ
ンナノファ
イバーの用
途
食品に関しては(小麦粉の)パン、同じ小麦粉を使う麺がターゲットに
なる。また、グルテンフリーの米粉によるパンの作製にも取組んだ。ただ
し、脱タンパク等を行っているとはいえ、カニアレルギー関連の検証が今
後必要である。
また、上述の農業用資材に関してもここ2年程度で実用化できないかと
考えている。
○鳥取大学・鳥取県の強み
d.キチンナ
ノファイバ
ーに関する
連携
キチン・キトサンについて 45 年という長期間の取組実績があるととも
に、原材料となるカニ殻が豊富にあるのが強みである。
○他地域との連携の可能性
カニに関しては福井県でのキチングルコースの研究や富山県のスギノマ
シンによるキチンナノファイバーの提供があるが、地域を越えての連携と
いった状況にはない。
セルロースナノファイバーの類縁体としてキチンナノファイバーを認知
e.行政・産
業界等への
要望
してもらい、中国地域全体での情報発信やニーズ把握、用途開発等が図ら
れることを期待する。
鳥取県内には用途に応じた共同研究を行える企業数が十分とは言えず、
中国地域全般で連携が進展すればありがたい。
- 158 -
⑧トクラス㈱ 事業開発推進部
WPC 事業推進グループ グループ長 伊藤 弘和
訪 問 先
静岡県浜松市西区西山町 1370 番地
トクラス㈱
項
目
内
本社(静岡県浜松市)
容
○取組みのきっかけ・背景
同社はウッドプラスチック(WPC:Wood Plastic Composite)事業を、長
年にわたり展開している。WPC は木粉とプラスチックを混練した複合材料
で、木質感が要求されると同時に耐久性も必要とされている部位、特にエ
クステリア用途を中心に使われている。
10 年以上前に、産業技術総合研究所との取組みを通じてセルロースナノ
ファイバーの存在を知った。WPC の次なる技術展開が見込めるとして、継
続して研究開発に取り組んできた。
図表6.11 ウッドプラスチックの用途
a.セルロー
スナノファ
イバーに関
する取組み
○中核技術
WPC 事業で培ってきた技術、親水性の木粉と疎水性のプラスチックを混
練するコンパウンドの技術が同社のコア技術で、プラスチックにセルロー
スナノファイバーを混練する独自技術をもっている。単に混ぜるだけでは
なく、どのような性能をいかに出していくかの技術を追求している。
○取組内容
同社の WPC 事業はセルロースナノファイバーを含めたバイオマスフィラ
ーを取扱っている。バイオマスフィラーのアイテムの一つがセルロースナ
ノファイバーであるという位置づけである。
ラボレベルでセルロースナノファイバーの作製も可能であるが、基本的
にはプラスチックに混ぜるコンパウンド事業の一部として、セルロースナ
ノファイバー・コンポジットを試験展開している。
○地域での協力体制
WPC 事業で、静岡大学と共同研究・プロジェクトに取組む場合もあるが、
- 159 -
他地域の大学・研究機関との取組む場合も多い。“知”との連携は地域内
外にかかわらず、目的に応じて最適な連携体制をとっている。
○技術
セルロースナノファイバーを材料として利用する立場からすれば、技術
上の最大の課題はその品質安定である。品質が安定しなければ、工業製品
として使うことができない。工業利用を促進するためには、その土台とな
る製品(品質)規格、評価手法を早期に整備することが必要である。
○人材
b.セルロー
セルロースナノファイバーの複合材料化の研究において、ガラス繊維、
スナノファ
炭素繊維などを扱っている研究者の参画が少ない。既存の複合材料と比較
イバー普及
することができなければ、セルロースナノファイバーでなければならない
に向けての
(用途に関する)アイデアが出てこない。
課題
○コスト(価格)
価格と性能は対の関係である。価格ありきではなく、性能があって、そ
れに見合う価格のものを選ぶ。セルロースナノファイバーも価格で合致し
ているものであれば使う側の選択肢に入ってくる。
○その他
セルロースナノファイバーに参入をめざす企業に対してサポートする機
関がない。そうした企業はどこに相談すればよいのかがわからない。
セロースナノファイバーのポテンシャルを、
①セルロースナノファイバーにしか出せない性能
②セルロースナノファイバーを利用しなければならない用途
③セルロースナノファイバーと組み合わせることで相乗効果を出す
利用方法
c.有望と思
われるセル
ロースナノ
ファイバー
の用途
の視点でみている。
プラスチックとの複合は、相溶性のないもの同士の複合化であるため、
克服しなければならないハードルは多い。それより、水系で使用できる(セ
ルロースナノファイバーをそのまま利用できる)コンクリートへの添加剤
などは面白いテーマだと考える。コンクリートには増粘させるために CMC
(カルボキシメチルセルロース)が添加されているが、セルロースナノファイバーにも
同じ増粘効果があると同時に、CMC にはない補強効果がある。
その他に、セルロースナノファイバーのチクソ性を生かして、塗料、接
着剤への用途展開は現実的である。
セルロースナノファイバーをプラスチックとの複合材料利用に注目が集
まっているが、他の用途展開に幅広く目を向けるべきである。
- 160 -
○静岡県の強み
静岡県内には製紙会社が集積し、バイオマス資源も豊富にある。また、
川下企業となるプラスチックメーカーも多い。静岡県の現知事はバイオマ
スに理解があり、その取組みに対して積極的な姿勢がみられる。
○静岡県内での連携の広がりの可能性
ふじのくに CNF フォーラムが立ち上がっているが、セルロースナノファ
イバーに関連する県内企業、大学・研究機関などの連携がとれているとは
言いがたい。大学・研究機関に関しては、静岡大学で木質材料全般を研究
d.セルロー
スナノファ
イバーに関
する連携
している鈴木教授、小島准教授がセルロースナノファイバー関連に取組ん
でいるが、それ以外の研究者、企業をあまり知らない。
地域での連携を考える前に、セルロースナノファイバー関連に関連する
研究者、企業を掘り起こして整理することが必要で、その後に地域の“知”
をいかに結集するかを考えなければならない。
○他地域との連携の可能性
本来であれば、各地域が強みを発揮して役割分担を図りながら、連携し
て取組むことが好ましい。セルロースナノファイバーの普及期にあたって
は広い連携が必要とされている。
また、セルロースナノファイバーの事業は「川上」から「川下」を一地
域で完結することが難しい。出口戦略を考えると、事業当初から他地域の
企業への販路開拓を検討しなければならない。
・セルロースナノファイバーという領域だけを追求すると、やがて限界が
みえてくる。セルロースナノファイバーの可能性を追求するためには、
バイオマスフィラーという大きな枠組みの中で、展開していくことが大
事である。
・セルロースナノファイバーの製品規格、品質管理の早期整備が求められ
る。そのためには国が主導して、セルロースに精通する研究機関、大手
e.行政・産
業界等への
要望
製紙会社などの協力が不可欠である。
・セルロースナノファイバーが人体への影響、人の健康にまったく問題が
ないものであることを早急に打ち出さなければならない。これは民間で
はなく、国主導で進めてほしい。何らかのきっかけで評判を落とした瞬
間にダメージが大きくなる。万が一、セルロースナノファイバーが健康
への悪影響が確認されたならば、用途展開を見直さなければならない。
・用途開発を図るためには、様々な分野の研究者、企業に参画を促してい
くことが重要である。様々な分野からの用途提案がなければ、実用化へ
のアイデアが広がらない。
- 161 -
・若い研究者に対して、セルロースナノファイバー関連に関心を高めても
らい、研究を促すような施策が必要である。新しい発想が生まれるかも
しれない。“知”の広がりが必要である。
(続 き)
e.行政・産
業界等への
要望
・セルロースナノファイバーの技術サポートを提供できる相談窓口があれ
ば、新規参入を検討している企業の事業化促進につながる。
・セルロースナノファイバーを普及するためには、エンドユーザーにイン
センティブが働く施策が効果的である。公共建築物等木材利用促進法に
基づいて国産材利用が推進されているが、例えば国産材を使ったセルロ
ースナノファイバー(を入れる WPC を含めて)にも同様のインセンティ
ブがあれば、エンドユーザーの意識が向上する。
f.その他
静岡県が進めている「ふじのくに CNF フォーラム」には、あまり関わっ
ていないが、民間がメリットを享受できる取組みに期待している。
- 162 -
⑨モリマシナリー㈱ セルロース開発室 室長 山本 顕弘
訪 問 先
岡山県美作市奥 1086
用
複合材料:プラスチック、ゴム複
合材、油性塗料
水系:水性塗料、接着材、消臭剤
途
セルロースナノ
ファイバーに求
める特性
項
軽量、高強度、接着性、
チクソ性等
モリマシナリー㈱
目
内
本社(岡山県赤磐市)
容
同社は機械設計技術、電気・電子技術、熱処理技術、精密加工技術の4つ
のコア技術を基盤にした機械装置メーカーとして、金属ロール成形機、フォ
a.事業概要
ーミングロール、ATC(自動工具交換装置)製薬用打錠機、バイオマス処理
装置、舶用エンジン部品など、多種多様の精密機器を提供している。
2011 年にはセルロース開発室が社内に設置され、木質バイオマスに関わる
事業展開に本格的に乗り出している。
○取組みのきっかけ
もともとは、2004(平成 16)年にドイツのレーマン社との技術提携により、
木質粉砕装置の開発に着手したことに端を発する。その装置は細かく粉砕す
ることで、発酵や堆肥化を促進させる装置として開発されたものであった。
しかし、日本国内ではそうしたニーズが限られていた。
他用途での装置利用を模索していた折、
「おかやまグリーンバイオ・プロ
ジェクト」を推進している岡山県から、木材を粉砕していくとセルロースナ
ノファイバーができることを知った。木質粉砕装置を基に木質バイオマスを
繊維状に解繊する装置の研究開発が、セルロースナノファイバーをつくるき
b.セルロー
スナノファ
イバーに関
する取組み
っかけとなった。
○取組内容
セルロースナノファイバーの製造装置の開発にあたっては、岡山県の産
学官連携組織「セルロース系バイオマス超微粉砕技術研究会」
〔2008(平成
20)~2010(平成 22)年度)、「森と人が共生する SMART 工場モデル実証」
〔2010(平成 22)~2014(平成 26)年度〕等に参画することで、産業技術
総合研究所、岡山県工業技術センター等の技術支援を得ることができた。
セルロースナノファイバーを機械的に解繊する装置としては通常、ディ
スクグラインダー、ホモジナイザーなどが使われているが、それらは他用
途利用の装置を転用したもので処理量が少ないのがネックである。しかし、
同社の製造装置はセルロースナノファイバー専用の一貫連続処理装置で、
木材チップ、パルプなどを効率的かつ大量に解繊できる特徴がある。
同社はセルロースナノファイバーを3年前からサンプル提供している。こ
れまでの提供先は 70 社程度で、プラスチック、ゴム関係のメーカーが多く、
- 163 -
一部にフィルター、紙などの業種もある。
サンプル提供しているセルロースナノファイバーは2種類である。木材
チップを原料とすることでリグニンを含んだ「リグノセルロースナノファ
バー」と、パルプを原料とすることでリグニンを含有していない「セルロ
ースナノファイバー」である。
前者のリグノセルロースナノファイバーは、木材チップ→水熱処理→繊
維状に解繊(粉砕)→セルロースナノファイバー(微粉砕)と段階的に処
理されたものである。水分約 90%を含んだ状態で、繊維長が短く、繊維幅
が若干大きくなっていることから、アスペクト比が小さい傾向にある。
後者のセルロースナノファイバーは前処理や粉砕の工程が必要とされて
いない。水分約 95%を含んだ状態で、繊維長が長く、繊維幅が小さくなっ
ており、アスペクト比が大きい傾向にある。
セルロースナノファイバーは水分を除くと凝集をしてしまうことから、
2種類とも水分を含んだ状態でサンプル提供している。
(続 き)
(参考)図表6.12
同社のセルロースナノファイバー
b.セルロー
スナノファ
イバーに関
する取組み
リグノセルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー
○中核となる技術
セルロースナノファイバーをつくるメーカーは製紙会社、化学メーカー
などが多い。そうしたメーカーとは異なり、同社は機械装置メーカーとし
て製造装置の調整、機能追加などを自前で迅速に対応でき、改良を積み重
ねることが容易である。自社開発の製造装置がセルロースナノファイバー
の中核技術であるともいえるので、製造装置自体は販売していない。
○今後の展開
これまでは含水状態のセルロースナノファイバーで提供してきたが、乾燥
すると凝集しやすいことから、疎水性のプラスチック、ゴムに混ぜると分散
が難しかった。その点を克服するために、同社は粉体化したセルロースナノ
ファイバーを開発した。2015(平成 27)年 10 月に出品した高機能プラスチ
ック展では“粉体”が来場者から好評を得ていて、2016(平成 28)年からは
粉体のセルロースナノファイバーのサンプル提供を予定している。
将来的には、同社は大量受注も引き受けながらも、セルロースナノファ
イバーの長さ、太さをコントロールすることによってラインアップを広げ
- 164 -
ることで、顧客ごとの要求に応じたニッチで高付加価値品を提供したいと
考えている。
有望な用途はプラスチック、ゴムとの複合化である。粉体化したセルロ
ースナノファイバーを使うと、プラスチックと混ぜて簡単にペレット化が
できるようになるので、用途展開の幅が広がる。現在、日用品メーカーと
c.有望と思 共同でプラスチック製品の成形テストを行っている。
また、疎水化したセルロースナノファイバーであれば、油性塗料への添
われるセル
ロースナノ
ファイバー
の用途
加材として使用できる可能性がある。
水系の用途としては、水性塗料、接着材、あるいは消臭剤の機能が高ま
る使い方が研究されている。
一方、現状のところセルロースナノファイバーは人体への安全性が確認
されていないので、食品・医薬品・化粧品のように身体の中に入るモノ、
人の肌に触れるモノの用途に使う場合は注意が必要かも知れない。同社のセ
ルロースナノファイバーは工業利用をターゲットにしている。
同社製のセルロースナノファイバーの普及を踏まえると、下記のような
課題が想定される。
○コスト
セルロースナノファイバーの一般的な価格は現在、水分を除いた重量換
算で最低3万円/㎏といわれている。展示会等で関係者に聞くと 3,000 円/
㎏が使用の目安となっており、価格が 3,000 円/㎏を下回ることが普及のた
d.セルロー めの条件とみている。今後の生産量次第で価格が左右されるかもしれない
スナノファ が、同社は 1,000 円/㎏までの低減を目標としている。
イバー普及
のための課
題
○技術
粉体のセルロースナノファイバーの場合、凝集しないで乾燥させる技術
が発展途上の段階である。これを大量に安くつくるためには、乾燥技術の
向上が求められる。
○市場(販路)
同社は長年にわたり機械装置メーカーとしての基盤があり、機械装置を
使っている顧客は熟知している。しかし、セルロースナノファイバーのタ
ーゲット先は従来の顧客とは異なるので、販売先の開拓が課題となる。現
在は展示会への出展、サンプル提供を中心に販路開拓を行っている。
○セルロースナノファイバーに関しての強み・弱み
e.セルロー
スナノファ
イバーに関
する連携
同社はこれまでに培ってきた技術力で、木質材料を機械的に効率よく解
繊してセルロースナノファイバーの製造装置をつくることが強みである。
一方、機械装置メーカーであることから物理的な粉砕は得意であるが、化
学系を専門とする人材が少ないところがネックである。
- 165 -
○中国地域内との連携の可能性
中国地域内の企業で、セルロースナノファイバーを使ってみたい川下企
(続 き)
e.セルロー
スナノファ
イバーに関
する連携
業があれば、用途開発で連携したい。特に、広島県の自動車関連のプラス
チック、ゴムのメーカーとの連携に期待している。
○中国地域外との連携の可能性
現在、セルロースナノファイバーの原料となるパルプの調達先は1社の
みである。四国地域との連携により当地のパルプメーカーからパルプ調達
が確保できれば、原料調達の安定化が図れる。
主なターゲットはプラスチック、ゴムとの混練した複合材料を想定にし
ているが、機械装置メーカーの同社にとって樹脂との混練技術、フィラー
についての知見が乏しい。そうした技術力を補完するためには、他地域の
企業との連携の可能性もある。
セルロースナノファイバーを新しい材料として、自社製品に積極的に取
f.行政・産
業界等への
要望
入れたい企業を掘り起こして、マッチングできる仕組みづくりへの支援に
期待する。
原料調達の安定化を図るためにも、紙産業の集積地である四国地域との
連携促進を要望する。
- 166 -
7.中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出の可能性
本章では「中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 分析」によ
り中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出に向けた方向性を抽出
するとともに、取組施策を併記することにより結びとする(図表7.1)
。
図表7.1
これまでの調査
調査フローと最終提言への流れ
1.調査の目的
2.セルロースナノファイバーに関する技術開発・実用化等の動向【文献調査】
2.1.木質バイオマスの利活用に向けた取組み
2.2.セルロースナノファイバーとは
2.3.セルロースナノファイバーの作製方法
2.4.セルロースナノファイバーの用途開発と実用化への取組み
3.セルロースナノファイバーに関する他地域の取組状況【ヒアリング調査】
3.1.他地域ヒアリング調査の概要
3.2.他地域ヒアリング調査の結果概要
4.アンケート調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
【アンケート調査】
4.1.アンケート調査の概要
4.2.研究機関アンケート調査(概要・結果)
4.3.川上企業アンケート調査(概要・結果)
4.4.川下企業アンケート調査(概要・結果)
+
5.ヒアリング調査によるセルロースナノファイバーに関する中国地域の現状
【ヒアリング調査】
5.1.中国地域ヒアリング調査の概要
5.2.中国地域ヒアリング調査の結果概要(研究機関、川上企業、川下企業)
6.セルロースナノファイバーに関する
有識者の意見【ヒアリング調査】
6.1.有識者ヒアリング調査の概要
6.2.有識者ヒアリング調査の結果概要
7.中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出の可能性
7.1.中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理
7.2.セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性と取組施策
- 167 -
【参考】SWOT 分析と産業創出のための方向性の抽出について
SWOT 分析を用いて産業創出の方向性を抽出する手順は、概ね以下の通りである。
① SWOT 分析 →
② クロス SWOT
→ ③ 産業創出の方向性の抽出
① SWOT 分析
SWOT 分析とは、マーケティング戦略、企
業戦略、地域戦略等を立案する際に使われる
分析の枠組みで、内外の環境を、組織(地域)
内部のプラス要因=強み(Strength)とマイ
ナス要因=弱み(Weakness)、組織(地域)
外部のプラス要因=機会(Opportunity)と
マイナス要因=脅威(Threat)の 4 つの軸か
ら評価する分析方法である。
② クロス SWOT
内部要因
プ
ラ
ス
要
因
マ
イ
ナ
ス
要
因
外部要因
強み
機会
(Strength) (Opportunity)
弱み
(Weakness)
脅威
(Threat)
強み
SWOT 分析によって抽出された「強み」、
「弱
み」、
「機会」
、
「脅威」をマトリックス表にし、
それぞれの組合せから対策の方向性を導出
する分析方法である。
弱み
強みを活かして
機
機会で弱みを克
機会をものにす
会
服する
る
弱みと脅威で最
脅 強みを活かして
悪の状態を作ら
威 脅威を潰す
ないようにする
③ 関連産業創出の方向性の抽出
最終的に(2)クロス SWOT で導出された地域の課題等から、とくに重要なものを
絞込み、セルロースナノファイバー関連産業創出の方向性を抽出する。
- 168 -
7.1.中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT 整理
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出に向けた方向性を抽出
するため、今までの文献・アンケート・ヒアリング調査から中国地域のセルロースナ
ノファイバーに関連した状況について SWOT 分析を行う。
セルロースナノファイバー自体(全国共通)の項目および中国地域における特徴的
な項目について SWOT 分析の手法を用い、
「強み(Strength)
」
、
「弱み(Weakness)」
、
おのび周辺環境の現状(
「機会(Opportunity)」
、
「脅威(Threat)」)を取りまとめる
と図表7.2のとおりとなる。
なお、概要は以下「a.強み」~「d.脅威」のとおりである。
a.強み(Strength)
【優れた物性、製造・研究拠点の存在】
セルロースナノファイバー自体(全国共通)の「強み」としては、数多くの優れた
物性(軽量・高強度等)を有し、従来不可能であった性能・用途(形状の自由性と補
強効果の両立、極薄のガスバリア性の高いフィルムの製造等)が可能となること等に
より用途展開の広がりが期待されている。
中国地域においては先進的な研究機関(産業技術総合研究所)、地域における研究
開発拠点(真庭バイオマスラボ)の存在、製法の異なる複数の製造メーカー2社(日
本製紙㈱、モリマシナリー㈱)の存在、岡山県を中心としたバイオマス関連の革新的・
継続的な取組み、材料となる森林資源およびその利用技術の蓄積等が挙げられる。
b.弱み(Weakness)
【認知の偏在、人的・物的資源の不足】
全国共通の「弱み」としては、コスト高、供給体制、量産時期・価格動向が不明確、
品質管理・簡易評価法が未確立等の問題点が挙げられているが、大学・研究機関、企
業等の取組みによりにより急ピッチに解消されつつある。また、用途展開の広がりが
期待される一方での物性データの蓄積不足も「弱み」といえる。
中国地域においてはセルロースナノファイバー自体の認知が高いとはいえないこ
とに加え、域内での認知度・取組みにおいてもばらつきがみられる。また、他地域と
比較して国等のプロジェクトの採択数の少なさ、公設試験研究機関等における資源
(人材・装置等)不足、川下企業の研究開発に対するサポート体制の未整備などが挙
げられた。
- 169 -
c.機会(Opportunity)
【川下企業等との様々な連携の可能性】
全国共通の「機会」としては、セルロースナノファイバー活用の機運・社会的関心
の高まり、環境材料としての好イメージなどが挙げられる。
中国地域においても、ヒアリング調査において具体的な関心を示す企業が確認でき
るとともに、地域全般においてセルロースナノファイバーと親和性の高いセルロース
関連産業(繊維、木材等)の立地および有望なアプリケーション分野とされる自動車・
化学メーカー等の集積や、隣接地域との連携(広域連携)の可能性、地域振興・六次
産業化モデルにおけるセルロースナノファイバーを中核とした取組みへの期待の高
まり等が挙げられる。
d.脅威(Threat)
【他地域・他材料との競争】
全国共通の「脅威」としては、競合材料の存在、ナノリスクの存在、国際的な開発
競争、生物材料に対する川下企業の理解の低さなどが挙げられた。
中国地域においては「機会」の裏返しでもあるが、他地域ヒアリングでみられたよ
うな他地域における「川上」~「川下」分野に及ぶ緩やかな囲い込みの動き、地域間
競争の激化や域内でのバイオマス資源の活用方法としてマテリアル利用が遅れてい
ることなどが「脅威」として挙げられる。
- 170 -
図表7.2
中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT
セルロースナノファイバー実用化のためのプラス要因(貢献)
【強み Strength】~優れた物性、製造・研究拠点の存在~
全国
共通
中国
地域
内
○セルロースナノファイバーの優れた物性
○他材料では代替不能な用途の存在
○様々な分野での研究開発・実用化の進展
【機会 Opportunity】~川下企業等との様々な連携の可能性~
全国
共通
○先進的な研究機関・研究開発拠点の存在(産業技術総合研究所・真庭
バイオマスラボ)
○セルロースナノファイバー製造メーカー2社の存在
〔製法の異なる2メーカー(日本製紙㈱・モリマシナリー㈱)の存在〕
○公設試験研究機関等における取組みの拡大
中国
○岡山県を中心としたバイオマス関連の革新的・継続的な取組み
地域
○地域資源を活用したその他のナノファイバーの研究開発
(キチンナノファイバー)
○森林資源(スギ、ヒノキ、タケ等)およびその利用技術の蓄積
部
【弱み Weakness】~認知の偏在、人的・物的資源の不足~
要
全国
共通
●現状ではコスト高。供給体制、量産時価格が不明
●物性データ等の蓄積不足
●品質管理・簡易評価法が未確立
●水分散液による供給
中国
地域
●一般的に認知度が高いとは言えない、情報発信が不十分
●地域・業種での認知度・取組みのばらつき
●国等のプロジェクトへの採択数の少なさ
●地域全体としての情報発信不足
●県を越えた研究機関・川上~川下企業間連携の弱さ
●他の複合材料分野からの研究参入の少なさ
●川下企業の研究開発に関するサポート体制の未整備
●公設試験研究機関における資源(人材・装置等)不足
●関連分野の研究機関(製紙、木質材料等)が他地域より少ない
因
◇セルロースナノファイバー活用の機運・社会的関心の高まり
◇環境材料、カーボンニュートラルな材料としての好イメージ
◇将来的なバイオリファイナリーの確立の期待
◇ナノセルロースフォーラムの設立
◇隣接地域との連携(広域連携)の可能性
(学会・公設試験研究機関等とのネットワークの活用)
◇自動車・化学メーカー等の有望なアプリケーション分野の存在
◇セルロース関連産業(繊維、木材等)の立地
◇用途に応じたセルロースナノファイバー提供のニーズ
◇地域企業による新たなアプリケーションの可能性
◇バイオマス資源のエネルギー利用(バイオマス発電等)の進展・
集荷体制の整備への期待
◇現場展開人材へのニーズ
◇地域振興、六次産業化における期待の高まり
【脅威
全国
共通
中国
地域
Threat】~他地域・他材料との競争~
◆競合材料が多く存在(フィルム、複合材部門)
◆ナノリスクの存在(人体・環境への影響、安全性の確認)
◆生物材料への理解の低さ
◆国際的な開発競争
◆他地域での緩やかな囲い込みの動き・地域間競争の激化
(中国地域の製造拠点・研究機関の他地域への誘致等)
◆域外大手製紙メーカーを中心とした事業展開の進展
◆バイオマス資源のマテリアル利用の遅れ
セルロースナノファイバー実用化のためのマイナス要因(障害)
- 171 -
外
部
要
因
図表7.3
中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する SWOT と取組みの方向性
【中国地域のクロス SWOT】
【取組みの方向性】
○先進的な研究機関・研究拠点の存在
○公設試験研究機関等における取組みの拡大
●県を越えた研究機関・川上~川下企業間連携の弱さ
◇大手自動車・化学メーカー等の有望なアプリケーション分野の存在
◇セルロース関連産業(繊維、木材)の立地
○様々な分野での研究開発・実用化の進展
○地域資源を活用したナノファイバーの存在
●地域全体としての情報発信が不十分
◇用途に応じたセルロースナノファイバー提供のニーズ
〔方向性①〕
域内のネットワークの構築
【短期・中長期】
〔方向性②〕
地域における積極的なニーズ
収集・情報発信【短期】
○セルロースナノファイバー製造メーカーの存在
●関連分野の研究機関(製紙、木質材料等)が他地域より少ない
◇隣接地域との連携(広域連携)の可能性
◆他地域での囲い込みの動き・地域間競争の激化
〔方向性③〕
隣接等の他地域との交流・連携
【短期・中長期】
●一般的に認知度が高いとは言えない、情報発信が不十分
●地域・業種での認知度・取組みのばらつき
◇地域企業による新たなアプリケーションの可能性
〔基 盤 ①〕
認知度の向上・機運醸成【短期】
●域内での認知度・取組みのばらつき
●川下企業の研究開発に関するサポート体制の未整備
◇セルロースナノファイバー活用の機運・社会的関心の高まり
〔基 盤 ②〕
普及のための体制整備【中長期】
●公設試における資源(人材)不足
●他の複合材料分野からの研究参入の少なさ
◇現場展開人材への期待の高まり
◆生物材料への理解の低さ
〔基 盤 ③〕
実践的な人材育成【中長期】
- 172 -
7.2.セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性と取組施策
7.2.1.取組みの方向性
セルロースナノファイバーに関する SWOT をもとに関連産業創出のための取組みの
「方向性」として以下の3項目を抽出した。
〔方向性①〕中国地域内のネットワークの構築【短期・中長期】
〔方向性②〕中国地域における積極的なニーズ収集・情報発信【短期】
〔方向性③〕隣接等の他地域との交流・連携【短期・中長期】
また、以上のこれらの関連産業創出向けた取組みの「方向性」を持続的に実施する
にあたって必要な「基盤」となる3項目を抽出した(図表7.4)
。
〔基盤①〕認知度の向上・機運醸成【短期】
〔基盤②〕普及のための体制整備【中長期】
〔基盤③〕実践的な人材育成【中長期】
図表7.4
セルロースナノファイバー関連産業創出のための取組みの方向性
〔方向性①〕域内ネッ
トワークの構築
【短期・中長期】
〔方向性③〕隣接等の
他地域との交流・連携
【短期・中長期】
〔方向性②〕地域における
積極的なニーズ収集・情報
発信【短期】
〔基盤①〕
認知度の向上・
機運醸成【短期】
〔基盤②〕
普及のための体制
整備【中長期】
〔基盤③〕
実践的な人材育成
【中長期】
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業の創出(・集積)
- 173 -
7.2.2.取組施策
さらに、それぞれの方向性等に取組施策を結びつけると、図表7.5のようになる。
なお「7.3.〔方向性①〕地内ネットワークの構築」以降において個別の取組施策
について説明する。
図表7.5 取組みの方向性と取組施策
項
目
短
時
期
期
中長期
(概ね 1~2 年
以内)
7.3.1.他分野の組織との
多様な交流
(概ね 3 年
以上)
主な役割分担
官
産
学
(公設
試・支援
機関を含
む)
○
○
○
7.3.2.公設試験研究機関
のネットワークの
構築・活用
7.3.〔方向性①〕 7.3.3.川下・川上企業の
域内ネットワー
連携
クの構築
方
7.3.4.新たな視点での用
途開拓・関連分野か
らのアイデア出し
7.3.5. 技 術 シ ー ズ の 発
掘・集積、情報交
換の場の設定
向
○
○
○
○
○
○
○
○
7.4.〔方向性②〕 7.4.1.地域基幹産業のニ
ーズ把握
地域における積
極的なニーズ収 7.4.2.地域全体としての
性
集・情報発信
情報発信
○
○
○
○
7.5.1.各地域組織との情
報交換・技術交流
○
○
○
7.5.〔方向性③〕
隣接等の他地域 7.5.2.他地域の事業者と
の連携
との交流・連携
○
○
○
○
○
7.5.3.他地域の研究者等
との交流・招聘
7.6.〔基盤①〕
認知度の向上・
機運醸成
基
7.7.〔基盤②〕
普及のための体
制整備
盤
7.8.〔基盤③〕
実践的な人材育
成
7.6.1.潜在ユーザーへの
アプローチ
○
○
7.7.1.相談窓口の設置と
普及に応じた機能
進化
○
7.8.1.階層別人材育成プ
ログラムの開発・
実施
○
- 174 -
7.2.3.時間軸の設定
図表7.5における時間軸については既存の制度・仕組みや情報等を活用できるも
のは短期(概ね1~2年以内)
、検討・準備期間や体制づくり等が必要なものは中長
期(概ね3年以上)で実施することを想定する。
ただし、現時点においても国が想定しているセルロースナノファイバー価格〔「2020
(平成 32)年 1,000 円/kg(第一世代量産効果)
」〕に関連して、川上企業側におい
て早期の実現に向けた取組みがみられるなど、市場拡大、技術革新の進捗が想定より
も早く進展する可能性がある。
このため中国地域における実際の施策展開にあたっては、以上のような動きを踏ま
え、施策間の整合性を取りつつ、中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産
業の創出に向けた取組みを加速化する必要が生じる場合もある。
- 175 -
7.3.〔方向性①〕域内ネットワークの構築
中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する取組みは、岡山県におけ
る先進的な展開や潜在的な参入者の存在は確認できるものの、全般的には域内に
おいて「点」在している状況である。この「点」を「線」へ、さらに「線」から
「面」へ、「面」から「層」へと、セルロースナノファイバー関連産業の集積を
広げ深めていくための交流・連携方策の実施、体制構築が求められる。
7.3.1.他分野の組織との多様な交流【短期】
中国地域におけるセルロースナノファイバーに関する研究開発の裾野拡大のため
には自動車、航空機、医療といった有望なアプリケーション先の業界団体、共同受注
組織との継続的なコミュニケーションに加え、複数の業種にまたがる横断的・融合的
な組織(研究会等)との交流により、セルロースナノファイバーの認知を高めること
が有効ではないかと考えられる。
例えば、同じ複合材料の観点からは炭素繊維複合材料利用研究会(広島県)も候補
の一つであるし、ヒアリング調査等においてセルロースナノファイバーの利点の一つ
として挙げられた質感・食感等の変化に関連しては、感性・人間工学研究会(産業技
術総合研究所)
、中国地域質感色感研究会(ちゅうごく産業創造センター)等の組織
との交流も考えられる。特に質感(感性)等に関連しては中国地域においても多くの
取組みがなされており(図表7.6)、短期的には「ものづくり分野」においてこれ
らの組織との交流により他地域ではみられない用途展開につなげるとともに、招待的
には「人材育成」や「ブランド戦略」面での連携も期待される。
図表7.6
中国地域における感性関連の活動〔2015(平成 27)年度〕
カワいいモノ
研究会
デザイン
サービス業
製造業
(ものづくり)
人材育成
普及啓発
ひろしま
自動車
産学官連携
推進会議
革新的イノベーション
創出プログラム
(COI STREAM)
精神的価値が成長する
感性イノベーション拠点
ヒロシマ・
デパートメント
産創センター主催
中国地域
質感色感研究会
ひろしま感性
イノベーション
推進協議会
メディカルエル
ゴノミシャン育
成研修
感性・人間
工学研究会
広島ものづくり
技術交流会
デザイン・木
材利用分科会
産総研主催
ブランド認定
製商品化
アカデミック
資料:中国地域質感色感研究会
報告資料
- 176 -
7.3.2.公設試験研究機関のネットワークの構築・活用【短期】
公設試験研究機関は地域産業を技術面から支える一番身近な研究機関であり、特に
中小企業にとっては大学等と比較して敷居が低く身近な技術相談先として重要な役
割を果たしている。
中国地域ヒアリング調査おいても、企業におけるセルロースナノファイバーの利活
用に関連して各県・市の公設試験研究機関へ多くの期待が寄せられた(図表7.7)。
その内容は、各企業の取組みが現時点では初期段階であることもあり、「技術相談」、
「機器利用」等の役割が主であるが、今後の製品開発の進展により、公設試験研究機
関へのニーズが多様化・高度化し、「共同研究」の役割が高まってくるものと考えら
れる。
その一方で、公設試験研究機関へのアンケート結果によると、組織全体が研究開発
人員・資金とも減少傾向にある中で、セルロースナノファイバー関連の新たな研究開
発に対応するには人材・設備も不十分であるとの回答がみられるなど厳しい状況にあ
ることがうかがえる(図表7.7)
。ただし、域内でセルロースナノファイバー関連の
取組みが公表されている3つの公設試験研究機関以外にも、新たに3機関が今後の取
組意向を示すなど、地域的における研究開発の広がりに向け、明るい兆しもみられる。
図表7.7
区分
企
業
側
区分
公
設
試
験
研
究
機
関
側
セルロースナノファイバーの研究開発体制に関する意見等
意 見 ・ 要 望
~公設試験研究機関に対する期待は高い~
・従来より関係のある身近な研究機関として支援のニーズ(多数)
・樹脂との複合化だけでなく様々な用途での支援を期待
意 見 ・ 要 望
~人材・設備とも不十分であるが、新たな取組みの動きも~
・現在用途開発を行っているが、研究開発の人員が少なくこれ以上手を広げることは困難。
・今後用途開発に力を入れたい。
・研究に取組むにあたって、試作用ナノファイバーの入手先、微細な組織構造を観察で
きる装置等が非常に限られており(製造装置、評価装置を有する研究機関を探すとこ
ろから手探りの状況)
、先進的な取組みを行っている研究グループに参加していないと
ころは敷居が高い。
・今後研究開発を幅広く進めていくためには、試料の販売や評価装置が利用可能な機関
の紹介窓口等の整備が望まれる。
このような機運の高まりをとらえ、限られた資源の中で企業等のニーズに対応する
ため、工業系の公設試験研究機関を中心とした既存の共同研究開発と関連性の高い分
野での取組みの進展、特定用途への特化(例:兵庫県工業技術センター~ゴム)、工
業系と食品系・林業系等の公設試験研究機関が連携した新たな用途開発や効率的な原
料調達(林業系)等につながる取組みの展開が期待される(図表7.8)
。また、早
- 177 -
図表7.8
工業系(実績あり、公表済)
農業系
林業系
水産系
中国地域における主な公設試験研究機関
工業系(実績なし
または
未公表)
食品系
期の実用化、独自性の発揮にもつながる地元大学との補完的な連携も期待される。
さらに、セルロースナノファイバーの研究開発が全国的に急速に進展する中で、公
設試験研究機関が従来どおり個別自治体毎に独自に活動することは難しいともいえ、
公設試験研究機関の活動の効率化を図るためには、自治体を越えた連携を強化するこ
とも必要である(図表7.9)。
このような場合、個別の用途開発については各自治体の地元企業との連携強化とい
う観点から、公設試験研究機関間の共同研究のテーマ設定は難しい状況も発生しうる
図表7.9
島根県内
公設試験研究機関のネットワークの構築・活用(イメージ)
公設試の連携
鳥取県内
公設試の連携
技術
支援
山口県内 公設試の連携
設備・人材の
相互利用
広島県内
岡山県内
公設試の連携
産
業
技
術
総
合
研
究
所
公設試の連携
地域ニーズへの対応
先進的な研究
- 178 -
が、基盤技術や公益性の高い分野(安全性等)に関する研究開発、大学・研究機関等
からの先端的な技術移転、各自治体の核となる人材育成、機器の相互利用といったテ
ーマは相対的に連携の可能性が高いと考えられる。さらに、自治体間での連携を効果
的にするために、公設試験研究機関間で人材交流等を図ることも考えられる。
また、全国的にもセルロースナノファイバー関連の先進的研究機関の一つである産
業技術総合研究所が域内に立地しているのは中国地域の大きな強みであり、産業技術
総合研究所による先進的な研究と各県の公設試験研究機関への支援を継続すること
により、地域全体の研究開発力の底上げにつながることも期待される。産業技術総合
研究所は、従来より、産業技術連携推進会議等において地域の公設試験研究機関と連
携を行ってきたが、足下ではその拡充を図る意向も示されており、セルロースナノフ
ァイバーの分野においても同様の連携の深化が期待される。
以上のような取組みを踏まえ、地域における機能分担・相乗効果の発揮可能な関係
性の構築につながることが期待される。
7.3.3.川上・川下企業の連携【中長期】
a.分科会(テーマ別プロジェクト)の立上げ
地域においてセルロースナノファイバー関連産業を創出するためにはセルロース
ナノファイバー製造側の川上企業とユーザー側の川下企業が双方の「シーズ」
・
「ニー
ズ」の詳細を把握し、擦り合わせをしながら研究開発を行うことが有益である。
ただし、川下企業では技術・製品開発に関する解決課題・ニーズに関する情報を企
業秘密として保護しているため、川上企業7との連携を容易に行えない場合や、連携を
希望する川下企業でもどのような連携体制を構築していいかわからない場合もある。
このような問題を解決する意味でも、セルロースナノファイバーに関心のある企業
が、情報の機密性を確保したうえで、意見交換・技術交流等を行い、企業の事業化の
ための課題抽出、開発テーマ・開発ターゲットを擦り合わせ、設定していく分野別の
分科会(テーマ別プロジェクト、事業化検討会等)を設置することが有益ではないか
と考えられる(図表7.10)。
この分科会は産業支援機関等の外部サポート(外部講師の招聘費用・小規模な実験
費用等の資金面での援助、情報提供等)を受けつつ、競争的資金の獲得等にもつなが
る本格的な研究プロジェクトへとスパイラルアップしていく、インキュベーション的
な位置づけの受皿となることが期待される。
例えば、自動車分野において自動車組立メーカー、車体メーカー、プラスチック、
ゴム、板ガラス等の部品メーカーおよびセルロースナノファイバー川上企業が一同に
会する分科会の設置が考えられる。
7
本報告書における川上・川上企業の定義については 63 ページに記載
- 179 -
図表7.10
テーマ別プロジェクトのイメージ
川
成分
分離
上
用途に応じた最適なセルロースナノファイバーの提供
解繊
支援
研
究
開
発
支
援
川
マ
ッ
チ
ン
グ
支
援
中
コストダウンと機能向上の両立
連携
連携
連携
新たな用途の開拓
自動車
木材製品
繊
川
基
盤
作
り
機能化・
複合化
維
用途
開発
・・・・・
下
業種毎の必要な情報の提供
地域における人材育成プログラムの開発・実施
このような場における川上・川下企業の連携の結果、川上企業による「用途に応じ
た最適なセルロースナノファイバーの提供」、「コストダウンと機能向上の両立」、川
下企業による各分野での幅広い「新たな用途の開拓」等が実現され、セルロースナノ
ファイバー関連産業の創出・集積につながることが期待される。
b.「川中」
(支援)機関の活用
また、分科会のような受皿作りに加え、日常的な個別企業間のマッチング活動もネ
ットワーク構築のうえでは重要である。そこで川上・川下企業の間を取持つ「川中」
に位置し、川上・川下企業の間で「媒介」の役割を担う公設試験研究機関、産業支援
機関・団体・企業等の役割が重要となってくる。
川中機関の中でも役割分担が期待され、例えば、技術相談・指導や研究開発等の技
術支援は公設試験研究機関、情報発信・交流促進等に関する方策は産業支援機関、場
合によっては大学(産学連携センター)等を「川中」として利用したり、情報力に優
れた商社、地元金融機関等との提携も考えられる。将来的にはこうした「川中」の利
用がさらに積極的に進められるべきである。
さらに、最適な川上企業と川下企業等とのネットワークづくりを促進するためには、
広域連携の促進も必要と考えられる。特に中国地域においては山陰・山陽側において
産業構造が異なるため川下企業が集積する域内の産業集積地域等との広域的な連
携・交流による事業促進を検討・支援することも必要となってくる。
- 180 -
7.3.4.新たな視点での用途開拓・関連分野からのアイデア出し【中長期】
セルロースナノファイバーの用途としては、他地域・中国地域ヒアリング調査にお
いては複合材料用途として自動車用内装・外装材等が有望視されていたものの(図表
7.11)
、それ以外にも中国地域としての独自性の発揮や効率的な用途開発に向けた
新たな視点での取組みに関連して有益な示唆があった。
(参考)図表7.11 他地域・中国地域ヒアリング調査における主な有望なアプリケーション
区
分
水系用途
機能材料
増粘材料
分散材料
分離材料
担持材料
透明材料
包装材料
複合材料
用途
電子材料
他地域ヒアリング
○食品
○医薬品
・整腸剤、免疫賦活剤
○インク、コーティング剤
○塗料
○接着剤
○ドレッシング
○化粧品
○セメント
○フィルター
○衛生、吸収製品
○バリアシート
○高機能フィルム
○不織布
○エレクトロデバイス
○自動車(内装、外装、タイヤ)
構造用途
中国地域ヒアリング
○食品
・かまぼこ、ドーナツ、うに、小麦
粉
○塗料
○セメント
○農業用資材
○医療用試験薬・センサー
○木材製品
○衣料品
○産業用資材
・ロープ、テープ、ベルト、漁網
○窓(自動車向け)
○化粧用コットン
○不織布
-
○自動車(内装、外装、タイヤ)
○鉄道
○船舶(漁船、救命艇)
○風力発電機の羽根
○木質ボード ○スポーツ用品
a.6次産業化、地場産業等での活用による地域独自性の発揮
セルロースナノファイバーの利用にあたっては、豊富な森林資源(スギ、ヒノキ、
タケ)を活用した地域振興モデルや地域の農林水産物の付加価値を高めるための6次
産業化モデルの確立を目指し、その中核としてセルロースナノファイバーを据えるこ
とにより他地域との差別化を図る動きが他地域ヒアリング調査において確認された。
ここでは単に林産物・農産物への添加剤としてだけではなく、セルロースナノファ
イバーを原料としたフィルム・容器の利用による鮮度維持、作業負担軽減等の効果実
現も含めた高度な6次産業化について言及があった。
また、中国地域における調査(アンケート・ヒアリング調査)においても域内にセ
ルロースナノファイバー関連産業を創出することにより、人口減少が進展する中山間
地域における産業・雇用創出への寄与とともに、森林資源を循環利用し、森林の持つ
多面的機能の維持・向上を期待する意見が多くあった。
この場合、産業振興の面ではターゲットを明確にした商品開発や身の丈に合った事
業運営が求められるだけではなく、公益目的である国土管理の面からも地域住民、N
PO、企業等の多様な主体の参画を促すことが求められる。
- 181 -
また、同じく「地域独自性の発揮」、
「身近な親しみを感じるもの」という観点から
各県の地場産業(伝統的工芸品等)における活用により、地域への浸透を図るといっ
た意見もあった(図表7.12)。伝統的工芸品は、地域のものづくり産業のDNA的
な存在である一方で、他分野と比較し相対的にイノベーションが少なく、かつ作業者
も高齢化が進展している分野でもある。セルロースナノファイバーという新材料の活
用による作業効率化、質感等における新機能付与、例えば、漆器では強度向上による
塗り回数の削減よる作業者の負担軽減、焼物では新たな手触り感・色感、バイタル機
能等の付与などにつながることが期待される(勿論、伝統工芸品として質感・色感が
変化してはいけないケースがあることにも留意が必要)。
図表7.12 伝統的工芸品(例)〔萩焼と大内塗〕
資料:中国経済産業局ホームページ(中国地域の伝統的工芸品紹介)
http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/densan/index.htm
b.「バイオマスフィラー」
、
「マルチマテリアル(フィラー)」の視点
有識者ヒアリング調査においてセルロースナノファイバーの活用に関連して「バイ
オマスフィラー」
、
「マルチマテリアル(フィラー)」の視点からコメントがあった。
「バイオマスフィラー」の視点としては、バイオマス素材(セルロース)は処理方法
により様々な形状(大
『「木粉」→「セルロースパウダー」→「天然繊維」→「セ
ルロースナノファイバー」』
小)を付与できる特長を有するため、セルロースナノ
ファイバーを一つの素材から製造されるバイオマスフィラーの一形態として捉え、
(セルロースナノファイバーに固執することなく)用途に応じた形状により他フィラ
ーとの代替を図りつつ利用するというものである。
また「マルチマテリアル(フィラー)」的な視点としては、ガラス繊維、炭素繊維
等のフィラーの代替材料としてではなく、これらの複合材料にセルロースナノファイ
バーを添加することにより、各素材の強みの相乗的な発揮(流動性の向上、疲労耐久
- 182 -
図表7.13 バイオマスフィラー、マルチマテリアルの視点(イメージ)8
バイオマスフィラー
炭酸カルシウム
セルロースナノファイバ
フ
ィ
ラ
ー
CB
ガラス繊維
ーー
天然繊
アラミド繊維
維
セルロースパウダ
木
その他のフィラー
炭素繊維
ー
(繊維)強化プ
ラスチック
粉
CNT
+
マ
ト
リ
ッ
ク
ス
バイオプラ
+
+
PP
用 途
+
+
自動車内装・外装
部品
家電機器部
品
建築・土木資材
PE
PC
マトリックス
PV
C
・・・・・・・
性の改善等)を図るというものである(図表7.13、図表7.14)。中国地域ヒアリ
ング調査におけるセルロースナノファイバー(3,000 円/kg)のキチンナノファイバ
ー(20,000 円/kg)への添加によるコスト低下のアイデアも、ナノフィラー同士の相
対的な強みを活かすという視点によるものといえる。
図表7.14 各種フィラーの強み(イメージ)
価
格
強度
耐久性
耐熱性
柔軟性
カラーリング
カーボンブラック
2,500 円/kg ◎
△
△
△
○
×
セルロースナノファイバー
3,000 円/kg ○
○
○
◎
◎
○
カーボンナノチューブ
9,000 円/kg △
◎
○
◎
△
×
資料:各種資料等から作成
c.セルロース関連業種からのアイデア出し
中国地域ヒアリング調査(川下企業)においては、セルロースナノファイバーの認
知に関わらず、従来よりセルロースを原材料として取扱っている業種においてはその
用途に関してスムーズにアイデアが出るとともに(図表7.15)
、その他の業種と比
較し、その利用への高い関心・意欲が見受けられた。
8
図表7.13 中 〔その他のフィラー〕CB:カーボンブラック、CNT:カーボンナノチューブ
〔マトリックス〕PP:ポリプロピレン、PE:ポリエチレン、PC:ポリカーボネート、PVC:ポリ塩化ビニル
- 183 -
図表7.15 ヒアリングにおけるセルロース関連業種からのアイデア(一部)
区 分
セルロースナノファイバーのアイデアの例(一部)
・疎水性の材料は温かくないが、水系のセルロースナノファイバーを繊維に付着させる加工技術
が確立できれば、温かみを感じる繊維材料ができる可能性。
・セルロースナノファイバーに何らかの抗菌材料を担持できれば、抗菌性が向上。ただし、洗濯
繊維
A社
などで付着したセルロースナノファイバーがとれて、機能の低下を防ぐことが必要。
・セルロースナノファイバーの強度をアピールするのであれば、繊維製品でも強度が要求される
ロープ、テープ・ベルト、漁網など産業用資材の材料としての用途が考えられる。
・セルロースナノファイバーによる撥水性(水をはじく性質)の効果が確認できれば、衣料品だ
木材
製品
B社
けでなく、くつ、カバンなどの生活用品にも用途が広がる。
・木製品は吸放湿によって伸縮したり、反りが発生することもある。水分(湿気)透過性の低いセ
ルロースナノファイバーフィルムのようなものができれば、そのフィルムを貼ることによっ
て、寸法変化を抑える効果の可能性。
・木質ボードの場合、セルロースナノファイバーを混合して成形すると、材料物性に変化する可
能性。
・木材のうち材料として使われない部分(切削屑や残材、廃材など)からセルロースナノファイ
バーをつくることも選択肢の一つ。
このようにセルロースが利用され、親和性の高い業種としては、主に、
・食品分野(水産加工品、飲料、サラダドレッシング、タレ・ソース・・・・)
・医薬品分野(ガーゼ、人工透析用フィルター、錠剤のフィルムコート・・・・)
・化粧品分野(ローション、乳液、クリーム、ジェル・・・・)
・衣料・紙分野(衣料用繊維、レーヨン繊維、紙・・・・)
ゆうやく
・窯業分野(耐火煉瓦、釉薬・・・・)
などが該当すると考えられる。
このような分野に対し、産業支援機関等における日頃のマッチング活動におけるこ
れらの業種に対する重点的なアプローチや活用アイデアコンテスト等の実施により
アイデア出しを促進するとともに、提案されたアイデアの事業化に向けて一つずつそ
の可否について検証・サポートを行うことが、セルロースナノファイバー関連産業の
創出・集積につながるものと考えられる。
また、実用化にあたっては、セルロース関連分野の中でも、セルロースナノファイ
バーを導入による既存の生産ラインへの影響が小さい分野を整理し、当該分野へ優先
的な浸透を図るなどの工夫も求められる。
7.3.5.技術シーズの発掘・集積、情報交換の場の設定【中長期】
近年、全国的にセルロースナノファイバーに関連した研究開発が大きな盛り上がり
をみせるとともに、大学・研究機関における研究開発内容も当初の「解繊技術」から
「機能化・複合化」
、
「用途開発」へとシフトする傾向がみられる(図表7.16)。
中国地域における取組状況を図表7.16 で確認すると、足下2年では該当する案件
がなく(3年前に 1 件あり)、あくまでも一つの目安ではあるが、他地域と比較して
- 184 -
図表7.16
文部科学省 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)
助成事業:平成 26(2014)~平成 27(2015)年度対象分
課
題
名
年 度
研
究
代
表
分配額
(万円)
分
野
北海道(1件)
塗布型擬似酵素によるポリオレフィンの機能性オリゴ
マー化技術の開発
2013~15
中谷 久之/北見工業大学
507
機能化・複合化
熱応答性ナノセルロースの調製と医薬分野への応用
2014~15
磯貝 明/東京大学
230
機能化・複合化、
用途開発
高光応答性ナノセルロース材料
2013~14
磯貝 明/東京大学
240
用途開発
2010~14
加藤 隆史/東京大学
13,182
2015
齋藤 継之/東京大学
377
物性把握
関東(10 件)
融合マテリアル形成および機能発現のための制御分子
の設計と合成
セルロースナノファイバー1本の強度解析
位置選択的な表面改質法によるナノセルロースの構造
および機能制御
セルロースナノファイバーの熱伝導特性の解明
酵素処理と機械的処理による高アスペクト比のタケミ
クロフィブリルの単離とその応用
ナノセルロース表面をマトリックス成長場とする新規
ナノ複合材料デザイン
材料科学からアプローチするバイオクレプティックス
ナノファイバーセルロースを基質としたセルラーゼ活
性の超高感度可視化計測
機能化・複合化
2014
清水 美智子/東京大学
100
機能化・複合化
2014~15
上谷 幸治郎/立教大学
260
2013~15
林 徳子/森林総合研究所
520
物性把握
解繊技術、機能
化・複合化
2014~15
藤澤 秀次 /森林総合研究所
338
機能化・複合化
2013~14
出口 茂/海洋研究開発機構
津留 美紀子/海洋研究開発
機構
728
機能化・複合化
442
機能化・複合化
2013~15
小長谷 重次/名古屋大学
492
機能化・複合化
2013~15
小島 陽一/静岡大学
507
機能化・複合化
2015~16
矢野 浩之/京都大学
390
機能化・複合化
2015~18
村田 澄彦/京都大学
1,976
2012~14
2013~15
金森 主祥/京都大学
早瀬 元/京都大学
559
276
2013~15
吉岡 まり子/京都大学
468
2013~14
中部(2件)
グラフェンと導電性高分子との複合化によるフレキシ
ブル透明導電膜材料の開発
カルシウムシリケート処理を施したセルロースナノフ
ァイバー複合材料の開発と性能評価
近畿(9件)
セルロースナノファイバーを用いた革新的ポリエチレ
ン結晶構造制御
セルロースナノファイバーを用いた環境調和型石油・天
然ガス増進回収技術の開発
新規有機高分子系エアロゲルの開発
有機-無機ハイブリッド多孔体の合成と物性制御
ナノセルロース分散高性能バイオポリオールの創製と
機能性ポリウレタン発泡体への応用
セルロースナノファイバーを用いたフレキシブル蓄電
紙の創出
ポスト・カーボンナノチューブ素材を駆使した環境調和
型ナノ複合材料の創製と機能展開
ナノ食品-木質パルプから構造制御されて得た機能性
食品材料-
バイオマス比率の高い機能性ゴム系グリーンコンポジ
ットの創製及び機能性評価
2015
用途開発
機能化・複合化
機能化・複合化
機能化・複合化、
用途開発
古賀 大尚/大阪大学
1,261
用途開発
2012~15
西野 孝/神戸大学
4,693
機能化・複合化
2011~14
山根 千弘/神戸女子大学
533
用途開発
2012~14
長谷 朝博/兵庫県立工業技
術センター
546
機能化・複合化
2015~18
高木 均/徳島大学
416
機能化・複合化
ナカガイト アントニオ・ノリオ/徳島大学
400
解繊技術
2015~17
保田 和則/愛媛大学
484
機能化・複合化
2013~15
中村 嘉利/徳島大学
1,950
2012~14
高木 均/徳島大学
403
共有結合の解離・形成制御に基づく機能性架橋ポリマー
の創製
2012~14
今任 景一 /九州大学
270
セルロースナノ材料の界面設計と三次元構造化
2013~15
横田 慎吾/九州大学
2,548
セルロースナノファイバーを用いた高強度義歯床用レ
ジンの開発
2015~17
川口 智弘/福岡歯科大学
四国(5件)
動的直接観察による繊維組織制御法の確立とナノセル
ロース繊維強化複合材料の高強度化
低コスト牧草由来のセルロースナノファイバー抽出技
術の開発
セルロースナノファイバーを用いた複合材料成形のた
めの流動誘起構造の計測と解析
リグノセルロース系バイオマスからの高付加価値・環境
低負荷製品の生産プロセスの開発
製紙スラッジ由来セルロースナノ繊維の低コスト抽出
法の開発とバイオ複合材料への応用
2015
教授
解繊技術、機能
化・複合化
解繊技術、機能
化・複合化
九州(3件)
資料:国立研究開発法人 科学技術振興機構
資料等より作成
- 185 -
400
機能化・複合化
物性把握、機能
化・複合化
用途開発
「学」の分野での裾野の広がりが不十分である可能性もある。
さらに、中国地域の大学・大学研究者を対象としたアンケート調査においても、セ
ルロースナノファイバー関連分野での研究実績がないものの、今後の新たな取組み意
向を示す大学・大学研究者は確認できなかった。その一方で、大学内ではセルロース
ナノファイバーに関連し、現時点で顕在化していないシーズは多く存在し、その発
掘・実現化に向けては長期的なスパンで支援が必要とのコメントもあった。
このような状況を踏まえると、セルロースナノファイバー研究開発の進展に向け
「機能化・複合化」
、
「用途開発」等の分野において、大学・高等専門学校等における
技術シーズの情報収集・発掘に努め、人材データベース等として蓄積することにより、
連携の素地作りを行うといった長期的・継続的な取組みが求められる。
特に、今までに類似の研究実績のない大学(公立・私立大学)や学部においてもセ
ルロースナノファイバーに興味のある若手研究者の発掘が期待される。
さらに、このような人材を含めた産学官の様々な人材が対流する場作りが推進され、
連携の下、新技術が生み出され、その技術を積極的に活用することで関連産業創出・
集積につながることが期待される。
また、他地域・中国ヒアリング調査ではセルロースナノファイバーの利用のために
は既存の複合材料等との比較においてメリット・デメリットを明確にしたうえでの情
(参考)図表7.17 中国地域における主な複合材料関連の研究(例)
○大学
大
学
所
属
役 職
岡山大学
岡山大学
大学院自然科学研究科
大学院自然科学研究科
教授
岡山大学
氏
名
教授
岡安
藤井
光博
達生
大学院自然科学研究科
准教授
内田
哲也
生命科学部生命科学科
教授
岡田
賢治
情報工学部
大学院工学研究院
材料・生産加工部門
大学院工学研究院
材料・生産加工部門
近畿大学 工学部
化学生命工学科
工学部
知能機械工学科
助教
小武内清貴
教授
佐々木
教授
松木
一弘
教授
白石
浩平
教授
中村
省
山口大学
大学院理工学研究科
教授
合田
公一
山口大学
大学院理工学研究科
准教授
野田
淳二
倉敷芸術科学
大学
岡山県立大学
広島大学
広島大学
近畿大学
広島工業大学
元
山口大学
大学院理工学研究科
吉武 勇
准教授
資料:各大学研究者データベースより作成 灰色は既に取組中
- 186 -
備
考
材料工学、鋳造工学、材料強度学
金属ナノ粒子分散炭素系複合材料
単層カーボンナノチューブ、剛直高
分子の構造解析、高分子構造
バイオマスプラスチック材料の開発
繊維強化複合材料に関する研究
炭素繊維複合材料利用研究会 会長
(材料工学材料加工・組織制御工学)
カーボンナノファイバー強化金属基複
合材料の新しい製造プロセスの開発
高分子化学、機能性高分子、生体材
料学
プラスチック複合材料の熱応力およ
び構造解析
機械材料・材料力学、複合材料・表
界面工学
繊維強化複合材料の破壊シミュレーション、
グリーンコンポジットの開発
コンクリート、合成構造、FRP
○公設試験研究機関
組
織
名
鳥取県産業技術センター
岡山県工業技術センター
研
究
テ
ー
マ
県産バイオマス資源を添加したプラスチック複合材料の力学特性
及び分解性評価
セルロースナノファイバーのゴム材料への分散複合化技術の開発
セルロース/ポリプロピレン複合材料の開発
射出成形用途のウッドプラスチック材料の開発
広島県西部工業技術センター
山口県産業技術センター
資料:各公設試験研究機関
炭素繊維複合材料を用いた自動車部品製造のための実用化技術の
開発
リグノセルロースナファイバーのポリエチレン補強材利用
凝集性を抑えたセルロースナノファイバーの乾燥技術の開発
年報より作成
灰色は既に取組中
報提供を求める声が多い。普及の近道である「セルロースナノファイバーが優位性を
持つ用途」
、
「セルロースナノファイバーを利用しなければならない用途」
、
「克服すべ
き課題」等を明確にするためにも、ガラス繊維、炭素繊維等の複合材料を対象として
いる研究者(図表7.17)の参画への働きかけが期待される。
- 187 -
7.4.〔方向性②〕地域における積極的なニーズ収集・情報発信
中国地域におけるセルロースナノファイバー関連産業創出のためには、域内に
おいては企業ニーズを把握し、課題解決型の対応を図るとともに、域外に対して
は、積極的にシーズ情報の情報発信を行い、「繋がっていく」姿勢も求められる。
7.4.1.地域基幹産業のニーズ把握【短期】
a.リーディング産業等の課題調査
他地域ヒアリング調査では、静岡県、愛媛県、高知県等において地域の主要産業で
ある製紙業の集積を中心とした資源の重点投入やネットワーク構築により、早期のセ
ルロースナノファイバー関連産業の創出、県内産業全般の牽引役として産業振興を図
る方向性が確認された。
相対的に製紙業のウエイトの低い中国地域においては(参考:製造品出荷額のうち
製紙業の占める割合~中国地域
1.7%、静岡県
4.7%、愛媛県
13.0%、高知県
10.2%)、この図式はあてはまりにくく、創出・集積が期待されるセルロースナノフ
ァイバー関連産業は「域内リーディング産業の国際競争力の強化」
、
「地域課題の解決」、
「新規市場を開拓するイノベータの出現促進」のためサポーティングインダストリー
としての役割を果たすことが重要ではないかと考えられる。
以上のようなことを勘案すれば、中国地域におけるセルロースナノファイバーの取
組みの主なターゲットとして、規模の面において優位性のある「①リーディング産業
企業(自動車・船舶、化学、セメント等:図表7.18)
」
、①よりも相対的に市場規模
図表7.18
中国地域 製造品出荷額〔2013(平成 25)年度
木材・木
窯業・土
繊維,
製品, 39
石, 56
48
パルプ・紙,
39
金属・非鉄
金属, 121
その他, 79
輸送用機械
器具, 419
食料品・
飲料, 179
化学工業,
412
一般機械器
具, 210
電気機械器
具, 210
石油・石炭
製品, 341
鉄鋼業, 314
資料:経済産業省(2015)「工業統計表」
、従業員4人以上の事業所
- 188 -
単位:億円〕
は相対的に小さいものの、高付加価値かつ低価格感応度の市場を確立している「②オ
ンリーワン・ナンバーワン企業」が考えられ、これらに関連した企業の困り事(ニー
ズ)の把握に努め、課題解決型の提案を図ることが重要ではないかと思われる。
また、潜在的なニーズのため、誰も「産業」として考えつかなかった分野、または
既存の手法では収益性が悪く市場としての魅力のない分野であったが「③セルロース
ナノファイバーの優れた特性により新たに実現ができる分野」の継続的な探究も必要
である。
①の場合は、中国地域経済全般に対する影響力が大きい「ボリュームゾーン」であ
り、②の場合は、セルロースナノファイバー利用による機能向上に加え、“世界初”、
“日本初”の製品化という相乗効果により更なる「(超)高付加価値化分野」へと発
展が期待される分野である。地域における関連産業の創出に向けて、当面はこれら①、
②を対象とした「2正面作戦」となるものと思われる。
また、③の場合は、市場規模に関わらず持続的な地域イノベーションへの機運醸
成・創出という意義も大きいと考えられる。
b.コンビナート企業(化学企業)へのアプローチ
中国地域においては岡山県・広島県・山口県の瀬戸内海沿岸に化学コンビナートが
立地し、化学産業は地域の基幹産業として大きなウエイトを占めている(図表7.18)
。
そうした中、セルロースナノファイバーに関連しては全国大で自動車用途をターゲッ
トとし、ポリプロピレン、ポリエチレン等をマトリックスとした複合材料の研究開発
が進展し、耳目を集めているが、域内ではポリプロピレン、ポリエチレンよりも生産
ウエイトの高い品目である塩化ビニル、ポリスチレン等(図表7.20)の誘導品も存在
(10,000 分の 1)
図表7.19 中国地域における化学品の生産ウエイト
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
二合塩スア塩ポか酢パ高ポメエポ触ジポポプ酸複塩キブポ純ア酸メポ合合合酸ア酸エカブ純シイりホ窒石塩ポカエフ活メ硫クウ液塩フ水
塩成化チク素リ性酸ラ純リタチリ媒フリリロ化合化シタリベニ化チリ成成成化ン素ポプタトクソんル素油酸リーピル性チ酸レレ体化ェ
素
プビピ第肥ビレジアンリチルアオブアプモ キロンルロプ酸マ 樹 プボクオ炭ル オタ塩メノ
化ゴビレリガエソビキ度スクレエ ェ
ゼンタイセクタセロニ シラ・エヘロ リ 脂 ロンロロ エ ソン素チー
ロスチーニシテチリンチ ニ
エムニン
ルロニレ二料ニンエミ
ブ
ピブルカ チ ーフ レル
チ ルモニ レダルレレレル レ メピルン鉄 ル ンドン ンソタタノトピア 樹クチンキピ ン
ト ン モンフン酸 ン
ブー ーンレ
樹
トォ ン樹
レラヒー ル
レ モノ
脂タレ サル
系
タレア
脂
リ
チルノ
ノ タ エ テ ンンル
ンッドボ ケ 油ー
ン ノマ
ン
脂
ムン ンア
樹
ル ール
マール
マ ル ス レ ジ コ
ル
ム
グクリン ト
脂
ル
ン
ー
ケ
ー
ー 酸 テ フ
コ
ン
リ
成
イ
ー
ト
ル タ ソ ル
コ
形
ル
ン
ー
モ レ シ
材
ノ ー ア
ル
料
マ ト
…
ー
資料:中国経済産業局「鉱工業生産の動向」より作成
- 189 -
している。
地域の化学産業との関連性・影響を考えると、ポリプロピレン、ポリエチレンだけ
でなく、これらの複合材料に関する研究開発、例えば、塩化ビニルの耐久性の向上や
ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の日用品での用途展開に関する研究開
発の進展が期待される。
また、化学工業関連ではプラスチックユーザー企業へのヒアリング調査において、
複合材料のフィラーの選択にあたってはコンパウンドメーカー9が影響力・決定権を持
つケースがあり、実用化の鍵となる可能性も示唆された。
有識者ヒアリング調査においても、セルロースナノファイバーの普及に向けて石油
化学関係者による「生物材料の理解の重要性」、
「将来のバイオリファイナリー確立に
向けての認知向上の必要性」、また、
「コンビナートでセルロースナノファイバーが採
用されることの全国的なインパクト」等について言及されていることもあり、コンパ
ウンドメーカー等も含め中国地域内にあるコンビナート内の化学関連企業への積極
的な情報提供が期待される(図表7.20 に主な研究機関を記載)
。
図表7.20 中国地域の主な化学関連企業の研究機関
企業
研究所名
旭化成ケ
ミカルズ
ケミカルズモノマー・
触媒研究所
ケミカルズ化学プロセ
ス研究所
クラレ
日本合成
化学工業
所在地
主な研究対象
岡山県倉敷市
新規および基礎研究開発
岡山県倉敷市
新規および基礎研究開発
くらしき研究センター
岡山県倉敷市
化学、高分子の研究など
機能フィルムセンター
岡山県倉敷市
EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)の樹脂加工
技術開発
三菱レイ
ヨン
大竹研究所
広島県大竹市
生産技術研究所
広島県大竹市
新素材、新規機能材料や機能商品、製造プロセスの開発、次
世代基盤技術・基礎化学研究、バイオテクノロジーの研究
新しい製造プロセスの開発、生産技術の高度化
帝人
岩国研究センター
山口県岩国市
高分子化学と複合材料の研究
徳山総合研究所
山口県周南市
現事業関連の研究開発
RC研究所
有機化学研究所
プロセス技術研究所
医薬研究所
無機機能材料研究所
山口県周南市
材料の分析・解析、製品の安全性、品質調査
有機合成、医・農薬、プラスチック加工技術、触媒などの
研究開発
トクヤマ
宇部興産
山口県宇部市
山口県宇部市
南陽研究所
山口県周南市
技術センター
山口県周南市
東ソー
エネルギー・環境・工学分野に関わる無機材料の研究開発
有機化成品事業、機能材料事業、ゴム・ペースト塩ビ事業、
ビニル・イソシアネート基盤技術など既存事業の強化、な
らびに情報・電子関連材料、環境・エネルギー関連製品、
特殊ポリマー製品などの研究開発
既存プロセス改良、合理化、新プロセスの工業化、プラン
ト建設のためのエンジニアリング業務と環境保安技術の
支援
資料:重化学工業通信社(2015)
「日本の石油化学工業」
9原料樹脂(ナチュラル樹脂)に顔料や添加剤、他の樹脂などを混ぜ合わせ、新しい外観、物性、機能を持
つ樹脂に加工するメーカー。樹脂メーカー・専業コンパウンドメーカーがある。
- 190 -
7.4.2.地域全体としての情報発信【短期】
a.域内企業・研究機関等が有する技術シーズの発信
184 ページの「〔方向性①〕域内ネットワークの構築~7.3.5.技術シーズの発
掘・集積、情報交換の場の設定」で示した、発掘・集積された「技術シーズ」は域内
産業の課題解決のサポートとして活用するだけではなく、地域の「技術シーズ」を集
約し、地域全体として国内外に積極的に情報発信することにより、域外から「ヒト」、
「モノ」
、
「カネ」、
「情報」を地域に呼び込むといった取組みも必要ではないかと考え
られる。
例えば、富山県ではセルロースナノファイバー関連技術を含めた、県内企業(中越
パルプ工業、スギノマシン)
・大学(富山大学、富山県立大学)
・高専(富山高等専門
学校)・公設試験研究機関(富山県工業技術センター)が保有する技術シーズ集『ガ
イドブック「富山のナノ・マイクロ技術」』
(図表7.21)を発刊している。積極的な
シーズ発掘の継続、コーディネーターの整備と併せ、本技術シーズ集が情報発信やビ
ジネスマッチングに活用され、県外・他地域からも技術シーズ等について関心が示さ
れることが期待される。
中国地域においてもこのような情報発信ツールとしての「技術シーズ集」の作成や
同様のツールとしてポータルサイトの開設等も考えられる。
図表7.21 『富山のナノ・マイクロ技術(一部抜粋)』
資料:公益財団法人
富山県新世紀産業機構(2016)
「富山のナノ・マイクロ技術」
- 191 -
b.中国地域全体としての展示会への出展、補助
一般的に技術シーズ主導で製品が誕生した場合、当初は販路開拓・用途展開の困難
が伴うものであり、セルロースナノファイバーもこのケースに該当すると思われる。
販売(用途展開)先を確保する第一歩として、あるいは潜在ユーザーの意見を掴む機
会として、展示会、商談会への出展は有効な手法であると考えられる(図表7.23)
。
展示会、商談会への参加は短期間で製品 PR や商談、顧客の反応を見たり、コメン
トをもらうことができ、他の情報発信と比較して相対的に労力や資金面の負担が小さ
く、中小企業の事業展開の最初のステップにおいて「費用」対「効果」的に適してい
るともいえる。さらに、展示会に参加すれば、国内や世界の市場動向をまとめて把握
できるというメリットもある。
図表7.22
展示会への出展(イメージ)
〔シーズ側〕
シーズ企業
の発掘
コーディネータ
ーによる訪問
シーズ集
ポータル開設
発掘企業に
関する情報発信
〔ニーズ側〕
ビジネス
マッチング
企業(業界)
ニーズの把握
大規模商談会
コーディネータ
ーによる訪問
技術交流会
展示会出展
個別マッチング
a.域内企業・研究機
関等が有する技術
シーズの発信
b.中国地域全体と
しての展示会へ
の出展、補助
現在でも「真庭市バイオマスリファイナリー事業推進協議会」が「国際ナノテクノ
ロジー総合展・技術会議」等において、地域企業の研究開発や行政の取組内容につい
て出展している。同様に多数の入場者が見込まれる首都圏、関西圏等での大規模な展
示会、商談会への共同出展の対象を中国地域の企業全般に広げることや中国地域の個
別企業・研究機関が出展する際の資金的な補助、効果的な出展のアドバイス等があれ
ば、市場の立上がり期に有効な支援となるものと考えられる。
<トピックス> nano tech 2016 プロジェクト賞(ライフナノテクノロジー部門)
nano tech 2016 において産業技術総合
研究所が出展した「セルロースナノファイ
図表7.23 試作したセルロースナノ
ファイバー補強軽量シューズ
バー補強軽量シューズ」が、nano tech 大
賞のプロジェクト賞(ライフナノテクノロ
ジー部門)を受賞した。このシューズは、
産総研と兵庫県立工業技術センター、神栄
化工の3機関が共同で実施している、中小
企業庁の戦略的基盤技術高度化支援事業
- 192 -
資料:産業技術総合研究所ホーページ
(サポイン事業)で得られた研究成果である。アシックスはアドバイザーとして
本事業に参加している。
また、同じく nano tech 2016 にはセルロースナノファイバーの自動車用ゴム製
品への利用を研究している丸五ゴム工業(岡山県倉敷市)が、作業靴などを製作
するグループ会社「丸五」が試作した、靴底にセルロースナノファイバーを混ぜ
て耐摩耗性を向上させた作業靴を展示した。作業靴の底などに使うとゴムの表面
が劣化して剥落するのを防ぐ効果がある。作業用手袋の指先にも適用検討してい
るとの報道もある。
c.高付加価値化につながる情報発信
セルロースナノファイバー関連市場の推移をプロダクトライフサイクル10の視点で
みると、現在、市場は製品が投入されたばかりの時期である「導入期」から市場が急
速に拡大し始める「成長期」に差し掛かかりつつあるといえる(図表7.24)。
この時期の主たる市場戦略としては、価格面では「コストプラス方式」→「市場浸
透価格」へのシフトを図る必要がある。さらに、製品自体の存在およびその機能を認
知させるなどセルロースナノファイバーのブランドを確立することによりマス市場
図表7.24 プロダクトライフサイクルにみるセルロースナノファイバー市場
市
場
規
模
売上高
利 益
顧 客
競 合
企 業
◁導入期▷
◁成熟期▷
◁成長期▷
導 入 期
低水準
ほとんどなし
革新者
成 長 期
急成長
ピークに到達
早期採用者
ほとんどなし
増加
成 熟 期
低成長
低下
多数採用者
競争相手減少と
勢力安定
◁衰退期▷
時間
衰 退 期
低下
「低い」か「ゼロ」
停滞者
減少
プロダクトライフサイクル(Product Life Cycle)とは製品が市場に投入されてから、次第に売れなくな
り姿を消すまでのプロセスのことをいう。いわばその市場における製品に関する需要の寿命を示したもの
で、製品を生物の一生にたとえて考えることから、ライフサイクルという表現が使われている。製品ライ
フサイクルとも言い、
「導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」の4つの段階に分けることができ
る。
10
- 193 -
を創造するとともに、今後の市場拡大に伴う競合他社との競争激化へ備えておく必要
がある。
また、この局面では市場開拓者の先発優位性はあるものの、必然的なものではない
ことについても留意する必要がある。
そのため、企業はスタートとして、現実の動きにもみられるようにセルロースナノ
ファイバーの製造価格低減に努める必要がある。また、共通的な課題として顧客への
浸透、ブランドの確立に向け市場全体としてセルロースナノファイバーの呼称の統一
化等も検討する必要もあると考えられる。「セルロースナノファイバー」、「ナノセル
ロース」
、
「ミクロフィブリルド・セルロース」等はほぼ同じ意味であるが、略称であ
る「CNF」
、「CeNF」等も含め、定義が定まっていないために研究者・企業によって呼
称は一様ではない。中国地域ヒアリング調査において“分かりにくい”と指摘があっ
た点でもある。プロモーションの面からみても、共通的な呼称(愛称)によるブラン
ディングが効果的であると考えられる。
さらに、中国地域という観点からは、
情報発信にあたっては他地域と差別
(参考)図表7.25 瀬戸内ブランド
化・高付加価値化につながるプロモーシ
ョンも必要ではないかと考えられる。そ
のため、製品自体の用途・機能による高
付加価値化だけでなく、地域イメージの
ブランド化をセットで展開することも
有効であると考えられる。
現在、「食」、「文化」などの分野にお
いて瀬戸内エリア特有の資産をもとに、
創意工夫によって開発された商品・サー
ビスに対する「瀬戸内ブランド」が制定
されている(図表7.25)。
資料:瀬戸内ブランド推進連合資料
http://www.setouchiweb.jp/
例えば、中国地域において製造されたセルロースナノファイバーとバイオプラスチ
ック等を複合化した場合、瀬戸内地域の「産業」と中山間地域の「自然」の調和であ
り、当該材料を利用した製品に関して工業版の環境調和型「瀬戸内ブランド」、
「しま
なみ・やまなみブランド(仮称)
」としてプロモーションしていくことや環境技術の
ショールームとしての先進性を国内・世界に情報発信していくことも有効ではないか
と考えられる。
- 194 -
7.5.〔方向性③〕隣接等の他地域との交流・連携
セルロースナノファイバー関連市場が立ち上がり、「成長期」を迎えつつある
が、需要・供給量、技術革新等の不確定要素も多く、全国的にはリスク分散等の
観点からも緩やかな囲い込みと他地域との連携の動きが模索されている。中国地
域も積極的な地域間連携に向けた取組みが求められる。
7.5.1.各地域組織との情報交換・技術交流【短期】
他地域ヒアリング調査により、各地域において地域組織が立ち上がり、
「地域組織」
-「製法(川上企業)
」-「用途展開(川下企業)」が一体となった緩やかな囲い込み
が進展する一方で(図表7.27)
、域内においてサプリチェーン全体が構築できない
地域においては「川上」-「川下」企業等の補完関係構築のための他地域との地域間
連携に対するニーズも確認できた。
また、多くの先進的な研究開発が、他地域の国のプロジェクトや大手製紙メーカー
によって推進されていることもあり、中国地域のセルロースナノファイバー関係者は
これらの研究開発動向から不可避的に影響を受けることとなる。そこで、全国組織で
あるナノセルロースフォーラム(地域分科会等)に加え、各地域組織等と積極的に情
報交換・技術交流を図りながら、他地域の研究開発動向を注視し、入手した情報を地
図表7.26
地域組織と製法の結付き
ナノセルロースフォーラム
(地域分科会等)
とやまナノテクコネクト推進協議会
ACC 法
(二軸混練法)
部素材部会-CNF研究会
ふじのくにCNFフォーラム
ACC 法
機械的解繊法(愛媛)
ACC 法(高知)
四国圏 CNF 構想
みえセルロースナノファイバー協議会
TEMPO 酸化法
竹バイオマス産業都市協議会
- 195 -
域内へ広げるという機能も求められる。
さらに、地域を越えた森林資源の活用のための連携という観点では、例えば中四国
圏域においては地域の森林資源による、CLT(直交集成材11)などの最新技術を活かした
地域材の利用拡大に向けた連携の動きが開始されている(図表7.27)
。こういった活
動に併せ、森林資源の活用の一用途としてセルロースナノファイバーに関する取組み
として(例:
「セルロースナノファイバーで地方創生を実現する首長連合」)、複数の
自治体間共同で展開することも考えられる。
図表7.27
CLT で地方創生を実現する首長連合
構成団体 :北海道知事、秋田県知事、福島県知事、新潟県知事、兵庫県知事、鳥取県知事、岡山県
知事、愛媛県知事、高知県知事、長崎県知事、大分県知事、北海道北見市長、福島県会
津若松市長、福島県湯川村長、群馬県上野村長、群馬県神流町長、群馬県下仁田町長、
岡山県真庭市長、岡山県吉備中央町長、高知県大豊町長
設立年月日:2015(平成 27)年8月 14 日
目 的 :成熟化する我が国の森林資源を生かすため、新たな木材需要の喚起が期待される CLT の早
期普及に向け、各地域が連携して取り組むことにより、都市等における建築物の木造化の
推進と併せて、CLT に関する関連産業の育成を進め、地域づくりやその振興につなげ、地方
創生を実現することを目的とする。
活動内容 :国及び関係機関への政策提言に関することや CLT の普及推進及び地域づくりに向けた情
報交換に関すること 等
7.5.2.他地域の事業者との連携【中長期】
セルロースナノファイバー関連市場は既に述べたとおり技術シーズ先行のため今
後の市場動向には不透明な点はあるものの、経済産業省の調査報告書等によれば市場
が急成長する想定〔2030(平成 42)年の国内市場規模=1兆円(ちなみに 2014(平
成 26)年の世界市場規模=1億円以下(試算12)
)
〕がなされている。このような場合、
1社だけで市場に対応できる人材・設備を整えることは新規投資負担等の面からなか
なか難しく、新たな取引獲得の機会を逃している可能性もある。
そのため、各企業においては自社のコア技術等の強みを磨きあげ、優位性およびあ
る程度の市場シェアを確保することが求められる。その一方で、自社の強みでないプ
ロセス・用途については他社と連携することでリスク分散を行い、不足する経営資源
を補完しながら事業展開することにより、新たな取引の開拓や相乗効果の発揮に結び
つけることが期待される。
ヒアリング調査(他地域・中国地域)においても、地域を越えたサプライチェーン
の構築(企業間連携)としての「川上」-「川下」企業の連携のみならず、製造方法
11
Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略で、板の層を各層で互いに直交
するように積層接着した厚型パネル
12
民間調査会社である㈱富士経済の調査による 2014(平成 26)年の世界生産量 10 トンに経済産業省の調
査報告書で最も高い現状単価である 10,000 円/kg を適用したもの。実際はこれよりも低い単価である可能
性が高い。
- 196 -
の相違している企業間等も含め「川上」-「川上」企業連携における様々な形態が提
示された。
具体的には図表7.28(企業間連携全般)
、図表7.29(「川上」-「川上」企業間
の連携)に示すとおりである。個社ベースでの具体的な連携の実現には困難が伴うも
のと思われるが、市場の成長・成熟、用途開発の進展に伴い様々な形態の連携が実現
する可能性があると考えらえる。
図表7.28
項
企業
国
地
域
他
目
川上
中
他地域ヒアリングで提示された企業間連携の形態(例)
川下
企業
地
域
川上企業
川下企業
ヒアリング調査
での言及
○
四国・九州地域ヒアリング
○
中部地域、近畿地域ヒアリング
期待
効果
設備投資の抑制、
異製法製品とのシナジー効果等
〔詳細は図表7.30〕
用途開発の促進、
サプライチェーン全体の競争
力の向上
ヒアリング調査
での言及
○
四国地域ヒアリング
期待
効果
用途開発の促進、
サプライチェーン全体の競争力
の向上
―――
図表7.29 ヒアリング調査で提示された「川上」-「川上」企業間の連携形態(例)
〔製法〕ACC 法…〔用途〕食品・化粧品の原材料
他地域A社
連携①
域内B社
〔製法〕グラインダー法…〔用途〕工業材料
他地域C社
連携②
連携
区
分
内
容
・自社生産のラインナップの絞込みと複数用途への対応
(共同受注、OEM 生産)
異なる製法・原
〔効果:異なる製品を同時に扱うことによる売上増大〕
料の事業者間
連携の視点(例)
① での連携
製法 「ACC 法」と
「グラインダー法」
(他地域A社-
と 「リグノセルロースナノファイバー」
原料 「通常のセルロースナノファイバー」
域内B社)
用途 「体に入れるもの」
「体に入れないもの」
・大量供給品とオーダーメイド供給〔+研究サポート〕の棲分け
同じ製法・原料
・原材料(パルプ)の共同調達、融通
の事業者間で
〔効果:原料コストの低減・安定調達〕
② の連携
・新製品の共同開発
(域内B社-
〔効果:研究開発費用の削減原料コストの低減・安定調達〕
他地域C社)
・川下企業の調達先の多様化への対応
- 197 -
7.5.3.他地域の研究者等との交流・招聘【中長期】
184 ページの「〔方向性①〕域内のネットワークの構築~7.3.5.技術シーズの
発掘・集積、情報交換の場の設定」のとおり域内において広域的に技術シーズの発掘
に努めるべきではあるが、中国地域ヒアリング調査においては大学等の学科構成等の
関係もあり特定分野(例:木質材料、紙・パルプ等)では研究者の発掘・蓄積が困難
とのコメントもあった。
このように域内での対応が困難な場合、他地域ヒアリング調査先の三重県のように
共同研究の実績のある研究者や域内の研究者とネットワークのある域外の研究者を
中国地域に招聘し、他地域のサテライト研究室等を設けるなど(図表7.30)、具体
的なプロジェクトの有無に関わらず、関係性を継続し、今後のイノベーションに向け
ての拠点化を図ることも考えられる。
図表7.30 三重県高度部材イノベーションセンターに入居する大学サテライト研究室
また、人材の招聘という観点では、他地域ヒアリング調査先でもある愛媛大学
紙
産業イノベーションセンターにおいては、経済産業省 製造産業局 紙業服飾品課の課
長を客員教授に招聘するなどの取組みもみられる。
中長期的には若手研究者の育成も重要な課題ではあるが、各エリア(県等)におい
てリーダーシップを発揮できる人材、中核人材をサポートできる人材の招聘により、
次世代の研究者・技術者の育成が加速され、長期的には、優秀な人材確保が容易とな
ることで企業の生産・研究開発拠点の誘致に繋がるといった好循環の導出も期待され
る。
- 198 -
7.6.〔基盤①〕セルロースナノファイバーの認知度向上・機運醸成
セルロースナノファイバー関連産業の創出にあたっては地域のユーザーに対
してその存在・メリットを認知してもらうための効果的なアプローチが求められ
る。本調査で実施したアンケートにもセルロースナノファイバーのメリットを記
載したリーフレットを同封したところ(約 3,000 先:内容については「参考資料」
参照)、従来 セルロースナノファイバーを知らなかったものの、リーフレットを
見て興味を示す企業は多く、セルロースナノファイバーはユーザーにとってかな
りインパクトのある材料ではないかと思われる。
7.6.1.潜在ユーザーへのアプローチ【短期】
a.講演会・セミナーの開催
アンケート調査の結果、中国地域におけるセルロースナノファイバーに関連の認知
度および研究開発に関する取組意向に関しては、各県における取組状況・経緯等から
ばらつきがあるのが実態である(図表7.31)
。そこで、
「方向性①」に示した中国地
域内においてネットワークを構築し、有効に機能させる前提として、このようなばら
つきをある程度縮小する必要がある。
また、中国地域ヒアリング調査においては、認知度が中位の県の公設試験研究機関
から、企業との研究開発を円滑に進めるためにも「企業の認知は低く、認知度向上の
図表7.31
中国地域 県別 セルロースナノファイバー認知度と取組意向
(%)
25
鳥取
20
15
13.6
10
島根
5
(%)
25
0.0
0
認知度
取組意向
20
15
10
5
0.0
0.0
認知度
取組意向
0
岡山
(%)
25
24.7
20
15
広島
(%)
25
山口
(%)
25
20
15
5
15
10
0
8.3
6.3
5
14.5
0
認知度
10
取組意向
2.4
5
0
認知度
8.9
10
20
取組意向
- 199 -
認知度
取組意向
図表7.32
業種別 セルロースナノファイバー認知度と取組意向
取組意向(%)
40
取組(Action)
ゴム
30
記憶(Memory)
y = 0.4607x + 0.6454
R² = 0.891
認知→取組
20
認知度向上
7.3.3
分科会
欲望(Desire)
繊維
プラスチック
化学
10
金属
興味(Interest)
7.3.3
分科会
輸送用機械
電気機械
0
窯業、鉄鋼
認知(Attention)
食品
0
20
40
60
7.6.1
講演会
80
認知度(%)
7.6.1
講演会
取組みを率先して行うべき」との指摘もなされた。認知度の高くない地域では講演
会・セミナーを開催することにより、企業において経営層、研究開発部門を手始めに
セルロースナノファイバーの浸透を図られることが求められる。
また、業種別に「認知度(=セルロースナノファイバーを「知っている」
)
」と製品
開発への川下企業の研究開発への「取組意欲(=「取組中」+「検討中」
)
」をプロッ
トすると、
「正」の関係があるとともに、大きく3つのグループ(図表7.32 赤丸部
分)に分かれることがうかがえる。よって、認知度の低い業種では講演会・セミナー
の開催と併せ、業種別に必要な情報の個別提供やサポートを行うことにより、自社に
おける製品開発の取組意欲の更なる向上につながることが期待される。
一方、認知度が既に高い地域、業種においては講演会・セミナーの効果は薄いと考
えられるため、179 ページで示した少人数で構成される「分科会」等のウエイトを高め
ることが早期の実用化につながるものと考えらえる。
b.事例集・データ集の作成
アンケート調査において、企業の材料に関する技術的課題が多岐に亘ることが確認
されるとともに(図表7.33)
、中国地域ヒアリング調査において、川下企業の認知
度向上に関連して、セルロースナノファイバー関連情報を分かりやすく、気軽に、身
近で入手できる機会が求められた。
- 200 -
図表7.33 アンケート調査における材料の技術的課題〔再掲〕
社 n=154
60
50
48
46
40
35
27
30
19
20
16
14
12
10
8
10
8
7
7
6
6
6
5
4
4
3
薄
肉
化
耐
候
性
原
料
安
定
調
達
消
臭
・
抗
菌
性
伸
縮
性
ガ
ス
バ
リ
ア
性
耐
湿
性
・
吸
湿
防
止
0
軽
量
化
強
度
(
耐
衝
撃
性
)
耐
熱
性
コ
ス
ト
耐
久
性
環
境
負
荷
低
減
寸
法
安
定
性
安
全
性
色
合
・
質
感
接
着
・
密
着
力
耐
食
・
耐
錆
性
加
工
性
・
成
形
性
そ
の
他
さらに、中国地域ヒアリング調査においては、業種毎の用途、期待される効果やそ
れに関連した物性データ・技術情報の提供、特に現時点でも企業や研究機関のホーム
ページで目に触れることが可能な、セルロースナノファイバー単体としての物性や複
合材料としての「引張強度」、
「曲げ弾性率」、
「曲げ強度」等に加え、それ以外の多様
な物性データ(例:
「全光線透過率」、「振動伝達率」、「耐候性」、
「耐油性」、「耐海水
性」、
「耐光性」
・・・)も記載された「事例集・データ集(図表7.34)
」のようなも
のがあれば理解が捗るとの意見(複数の川下企業)や、さらに一歩進めて、サンプル
図表7.34
〔表
セルロースナノファイバー活用事例集・データ集のイメージ
紙〕
〔物性データ〕
〔活用事例〕
セルロースナノファイバーの物性・特徴(単体)
セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーの物性・特徴(フィルム)
No.45
項
目
物性値
50g/m2 ・ 24hr
水蒸気透過度
at 40℃、90%RH
10L/m2 ・ 24hr
酸素透過度
at 20℃、90%RH
引張強度
223Mpa
熱膨張係数
7.2ppm/K
- 201 -
特 徴
TEMPO 酸化 CNF
使用
TEMPO 酸化 CNF
使用
汎用熱可塑性プ
ラスチックの 10 倍以
上
プラスチックの熱膨
張の 1/10 程度
美しく、冷たさを感じさせない、湯が冷めにくい
製品名:浴槽
要求性能:対熱水性、意匠性、低熱伝導率、
設計の自由度
競合材料:ステンレススチール、天然木、陶器タイル
特徴:自由に着色でき、形状の制限も少ない。
熱伝導率も低く浴槽に触れても冷たさ
を感じない。
提供時に活用できるよう標準的な「添加方法・添加量」、「添加による効果」等の“レ
シピ”集の作成を求める要望(川上企業)もあった。
また、当該データ集においては既存の他の複合材料および従来品ともいえる「ミク
ロフィブリル化セルロース」等と比較のうえ、そのメリット・デメリットを明確する
ことも求められる。
このような冊子が作成され、流通することにより、単に川下企業の情報提供・理解
促進にとどまらず、今後、産業支援機関等がコーディネート活動を展開するうえで有
用なツールともなると思われる。
また、ヒアリング調査において話題に上がった項目、ヒアリング先から照会・興味
を持った項目は重複しているものが多く(図表7.35)、これらの項目についてデー
タベース化するとともに、必要に応じ情報収集のうえデータを更新・拡充し、最新情
報の提供を心掛けることも、提供内容の充実化につながると考えられる。
そのためにも、公設試験研究機関等による多様な利用状況における性能検証、サン
プルワークによる実用環境に近い状態での性能試験等によるデータ蓄積およびその
ための支援が期待される。
図表7.35
セルロースナノファイバー関連情報の体系的データベース
中国地域ヒアリング調査時に照会のあった主なデータ項目
〔セルロースナノファイバー自体〕
・セルロースナノファイバーの原料
・セルロースナノファイバーのつくり方
・セルロースナノファイバーの種類
・セルロースナノファイバーメーカー
・セルロースナノファイバーの特性
・セルロースナノファイバーのカスタマイズ
・セルロースナノファイバーの大きさ、解繊状態
・製法によるセルロースナノファイバー繊維の損傷
・原料種別セルロースナノファイバーの特性
・セルロースナノファイバーの熱特性
・セルロースナノファイバーの表面改質
〔セルロースナノファイバー複合材〕
・セルロースナノファイバー複合材の種類(マトリックス)
・セルロースナノファイバー複合材のつくり方
・セルロースナノファイバー複合材のメーカー
・セルロースナノファイバー複合材の物性
・・・・・・・・・・・・・・
- 202 -
7.7.〔基盤②〕普及のための体制整備
セルロースナノファイバー関連産業創出に向け「川上企業」と「川下企業」の
自発的な連携による製品開発の進展が期待されるものの、現実的には多くの「川
下企業」は受身である。企業の取組みへの敷居を下げるため、また、取組みを継
続させるため、相談窓口の設置・明確化等を含めた外部サポート体制が整備され
ることが好ましい。
7.7.1.相談窓口の設置と普及に応じた機能進化【中長期】
川上企業に対するヒアリング調査において、用途開発を進めるにあたって川下企業
に求める要件としては『
「川上企業」との継続的な“キャッチボール”』が挙げられた。
これは、過去、
「川上企業」より「川下企業」にサンプル提供したものの立ち消えと
なったケースが少なからずあることや、また、そのようなケースに対し「川上企業」
からのサポートには限界があることが背景となっている。
一方、川下企業に対するヒアリング調査においては、セルロースナノファイバーが
魅力的な材料と認識してはいるものの、多くの企業は受け身であることが感じられた
(概ね「基礎素材産業」→「生活関連産業」→「加工組立産業」の順で積極的)。さ
らに、積極的な取組意欲を示す川下企業においても、サンプル提供先・相談先が不明
であることやサポート体制が未整備であるため「スタートとして何をしていいか分か
らない」
、
「製品開発に支障を来す」との意見があった。
このような状況に対し、産学金官が連携し、川下企業が身近に相談できる窓口を設
図表7.36 サポート体制のイメージ(例)
7.3.5. 技術シーズの発掘・集積、情報交換
7.3.2. 公設試のネットワークの構築・活用
の場の設定
7.3.3.「川中」
(支援)機関の活用
研究者の集積・ネットワーク化
】支援
各県の公設試、支援機関・金融機関
(知の連携)
連携
連携
窓口機能
コーディネート機能
研究開発支援…研究者の発掘、シーズニーズのマッチング
相 談 窓 口
+
事業化支援…企業の事業化の支援、販路開拓、金融サポート
人材育成…人材開発プログラムの開発・実施
相談
サポート
企
業
- 203 -
置し、相談先を明確化するとともに技術的なサポートを効率的にワンストップで提供
できる体制を整備することにより企業の取組意欲を研究開発の実行へと結びつける
ことが期待される(図表7.37)
。
また、設置された相談窓口は、川下企業からの自発的なニーズ発信への対応機能に
加え、セルロースナノファイバーの普及に応じ機能進化を図ることが好ましい。例え
ば、
「研究全体のマネジメントを行う人材」、「研究テーマ間の連携を進める人材」、「メー
カーとのつながりを深めて実用化を促す人材」、
「金融機関の出口機能、金融サポートを促
す人材」など経験豊富なコーディネーターの配置し、域内他機関(大学等)のコーディ
ネーター、金融機関等との連携しつつ、更に企業巡回による技術相談・指導や潜在的
な企業ニーズの発掘などへと進化させていくことが期待される(図表7.36、図表7.
37)
。
ちなみに、隣接の四国地域では、
「四国CNF構想」として、手始めの STEP1にお
いて大学・製紙会社・公設試験研究機関が連携し、技術支援体制を構築することが、
提案されている。
さらに、用途開発が進展すれば、国等の行政機関への申請手続きが必要な場合もあり
(例:船舶材料に関する国土交通省への申請)、このような申請手続きを円滑に進めるた
めの支援やサービスを提供することも相談窓口の重要な役割となると考えられる。
図表7.37
相談窓口の設置と進化
① 相談窓口機能の整備(ワンストップサービス)
↓
② 研究開発支援、事業化支援、人材育成機能の付与、
各地域のコーディネーター(大学、公設試験研究機関、産業支援機関)との連携
↓
③ 企業巡回による技術相談・指導、潜在的な企業ニーズの発掘
また、組織設置にあたっては既存の組織をうまく活用し、ネットワークを構築すること
も重要である。ヒアリング調査において、中国地域においては岡山県真庭市の「真庭バイ
オマスラボ」が疑似的に中国地域内外の関連研究者の集積、情報交換の場となっている側
面もあることが確認された。当該組織との連携または拠点化を図りつつ相談窓口機能や研
究開発、事業化、人材育成面でのコーディネート機能を付与するのも一つの案であると
考えられる。そのような場合、窓口・コーディネート機能の発揮に向けて自治体単独事業
や国庫補助による支援が期待される。
- 204 -
7.8.〔基盤③〕実践的な人材育成
セルロースナノファイバーが地域に根付くためには、技術的課題の解決・新技
術創出のための研究活動の推進、そのための産学金官連携による支援等に加え、
長期的な視点から人材育成の取組みを行うことにより、地域において内発的にセ
ルロースナノファイバー関連産業が発展するサイクルを確立していくことが求め
られる。
7.8.1.階層別の人材育成プログラムの開発・実施【中長期】
セルロースナノファイバー関連市場への参入に伴い企業では各階層において自ら
の役割を遂行するために知識・能力を習得する必要が生じてくる。
例えば「経営層」においては新たな市場戦略の策定、
「研究開発部門」
・
「製造現場」
においては新たな用途における製品開発能力、生産技術の改善などのものづくりの応
用力を求められる機会が増え、日常の研究業務、生産業務等を超えた分野の知識の吸
収が必要となる場面も生じる可能性がある。
このような状況に対応するため、公設試験研究機関・産業支援機関等において各階
層に応じた人材育成プログラムを開発する担当者を配置し、プログラムを実施に移す
ことにより経営者・研究者・技術者等のレベルを高度化するとともに、新たな用途展
開、そのための共同研究の組成、参画企業の裾野拡大等につなげることが期待される。
また、異業種・異分野の参加者間の交流により、考え方の違い(「石油化学材料」と
「生物材料」
)に触れたりすることも重要ではないかと考えられる。
図表7.38
セルロースナノファイバー関連産業の創出・発展に向け
階層別の求める人物像(例)
①アグレッシブな起業精神を有する市場開拓型人材
②新たな用途を創造・創発する研究開発型人材
③現場における展開を支える技術開発・技術改善型人材
セルロースナノファイバー関連産業の発展
- 205 -
図表7.39
No.
①
階層別 人材育成プログラム
目標とする
人物像
対
象
例
ア グ レ ッ シ ブ な 起 ・セルロースナノファイバーを活用した
業精神を有する市
新たな市場の開拓に挑む
場開拓型人材
人材(経営者)
②
新たな用途を創
造・創発する研究開
発型人材
・若手研究員(複合材料研
究者)
・石油化学、自動車メーカ
ー研究者
・その他メーカー研究者
③
現場における展開
を支える技術開
発・技術改善型人材
・各用途先における製造、
生産技術、品質管理担当
者
カリキュラム(例)
カ リ キ ュ ラ ム 例
・MOT 教育
・複合材料分野(例:炭素繊維)の
事業戦略事例
・ビジネスコンテスト
・石油化学、自動車メーカー等研究
者向けの生物材料に関するプログ
ラム
・循環型社会における材料の在り方
・異分野融合による先端材料の創製
(紙・パルプ、接着剤、粘着剤、
・異業種との交流会
有機系機能性材料・・・)
・製造現場(成形加工、切削・接合
技術等)の技術者向け生産技術プ
ログラム
・コンビナート向け人材講座(「山陽
人材育成講座」等)との連携
こういった教育プログラムにおける階層別の「目標とする人物像」、「対象」「カリ
キュラム」の例について図表7.40 に示す。
また、大企業に比べ資本・設備に乏しい中小企業では、セルロースナノファイバー
関連市場の環境変化に適応し、事業の維持・発展を図っていくうえで、経営者も含め
(参考)図表7.40 人材育成の支援例
イノベーション人材等育成事業補助金
〔企業向〕
広島県未来チャレンジ資金
〔個人向〕
(参考)広島県の「イノベーション人材等育成事業補助金」では大学・大学院の入学料、受講料、
旅費に加え、代替社員の人件費の 2/3 の補助を実施。
資料:広島県資料
- 206 -
た就業者個々人のスキル・ノウハウのあり様が大きな比重を占める一方で、人材育成
に割くことのできる費用・時間は限定的である。
さらに、中小企業においては主にターゲットとなるニッチ市場における優位性を確
保するため、知的財産権により技術・ノウハウを保護する必要がある。しかし、実態
としては研究開発要員すら不足し、知的財産権に関する人材の育成・確保まで手が回
っていないことが多い。
このような場合、中小企業のニーズに即した既存の補助制度(図表7.40)を周知
し、活用を促すことにより地域全般でセルロースナノファイバー関連人材の育成を図
ることも重要であると考えられる。
- 207 -
参考文献
・磯貝明(2001)
「セルロースの材料科学」、東京大学出版社
・磯貝明(2003)
「セルロースの科学」、朝倉出版
・遠藤貴士(2014)
「木質からの複合処理によるリグノセルロースナノファイバー製
造技術」
・経済産業省(2013)「平成 24 年度委託調査(セルロースナノファイバーに関する国内外
の研究開発、用途開発、事業化、特許出願の動向等に関する調査)報
告書」
・経済産業省(2014)「平成 25 年度委託調査(製紙産業の将来展望と課題に関する調査)
報告書」
・経済産業省(2015)「工業統計表」
・“Scientific Report of the Laboratory of Pulp and Paper Science and Graphic Arts - UMR
5518
Grenoble - France
January 2002-November 2005”
・産業技術総合研究所 機能化学研究部門
セルロース材料グループ ホームページ
https://unit.aist.go.jp/ischem/ischem-clm/equipment1.html
・重化学工業通信社(2015)
「日本の石油化学工業」
・JOHN COWIE,et.al.,“Market projections of cellulose nanomaterial-enabled products −
Part 1: Applications” TAPPI JOURNAL.VOL.12 NO5.2014
・富山県新世紀産業機構(2016)
「富山のナノ・マイクロ技術」
・内閣府(2014)
「日本再興戦略」改訂 2014
・内閣府(2015)
「日本再興戦略」改訂 2015
・ナノセルロースフォーラム HP
https://unit.aist.go.jp/rpd-mc/ncf/m/oyakudachi/illust.html
・NEDO(2007)
「国際共同研究先導調査事業 バイオナノファイバー原料としてのバイ
オマス資源調査」
・NEDO(2010)
「バイオマスエネルギー導入ガイドブック」
・NEDO(2010)
「バイオマス賦存量・有効利用可能量の推計」
・NEDO(2013)「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発成果報告書」
・NEDO(2014)「nano tech 2014 第 13 回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」
資料
・農林水産省(2010)「バイオマス活用推進基本計画」
・バイオマス産業社会ネットワーク(2015)「バイオマス白書 2014」
・林野庁(2008)「森林・林業の現状と木質バイオマスの利用」
・林野庁(2012)
「森林資源の現況」
- 208 -
資
料 編
〔資料編 1〕
ヒアリング調査で有望とされた主な用途(イメージ集)
- 209 -
〔資料編 2〕
アンケート票
- 213 -
(資料編1)ヒアリング調査で有望とされた主な用途(イメージ集)
※写真はイメージです。実際にセルロースナノファイバーが使用されているわけではありません。
〔①食 品〕
かまぼこ
ドーナツ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%B2%
E9%89%BE#/media/File:Kamaboko.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%
E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%84#/media/File:S
ufganiot.jpg
パン
麺(うどん)
菓子
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%
E3%81%A9%E3%82%93#/media/File:Udon_by_ud
ono.jpg
hhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B
%E3%82%8A%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%86#/me
dia/File:Karintos2.jpg
医療用器具
E3%83%B3#/media/File:Japanese_Rice_Bread
.JPG
〕
壜うに
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E
3%83%8B#/media/File:Echinometra_mathaei_M
HNT_Philippines.jpgmons/2/2d/Echinometra_
mathaei_MHNT_Philippines.jpg
〔②乗り物〕
自動車(内装・外装)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%
E5%8B%95%E8%BB%8A#/media/File:Nissan_Sky
line_350GT_Hybrid_Type_P.jpg
自動車(タイヤ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%
E3%82%A4%E3%83%A4#/media/File:Car_tires.
jpg
建設機械(キャビン)
電車(窓)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%BA%
E8%A8%AD%E6%A9%9F%E6%A2%B0#/media/File:H
ydraulic_excavator.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%
E5%B9%B9%E7%B7%9A#/media/File:Shinkansen
-0_300_700.JPG
〔建設関連〕
- 209 -
自動車(窓)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AA%93%
E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9
船(FRP船)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/c
ommons/d/d1/Kushiro_Port_Hokkaido_Japan0
1s5.jpg
〔③建設関連〕
セメント
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%
E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88#/media/File:F
irestop_mortar_mixing.jpg
塗
料
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%97%
E6%96%99#/media/File:Rozlit%C3%A1_oran%C
5%BEov%C3%A1_barva.jpg
(化粧用)接着剤
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A5%
E7%9D%80%E5%89%A4#/media/File:%E3%83%97%
E3%83%A9%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E5%9
0%8C%E6%A2%B1%E7%94%A8%E3%81%AE%E6%8E%A5
〔④木製品〕
建
材
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%BA%
E7%AF%89%E6%9D%90%E6%96%99
テーブル・家具
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%
E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88#/media/File:F
irestop_mortar_mixing.jpg
〔⑤産業用資材〕
ロープ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD
%E3%83%BC%E3%83%97#/media/File:Rope-032
35.JPG
テープ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%98
%E7%9D%80%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%97#/m
edia/File:Sticky_tape.jpg
漁
網
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%81
%E7%B6%B2
〔⑥衣料・身回品〕
衣料品〔肌着〕
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6
%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%AD#/media/File
:Ex_UNIQLO_hukuromachi.JPG
かばん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6
%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%AD#/media/File
:Ex_UNIQLO_hukuromachi.JPG
- 210 -
ベルト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6
%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%AD#/media/File
:Ex_UNIQLO_hukuromachi.JPG
〔⑦化粧品関連〕
化粧品
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%96
%E7%B2%A7%E5%93%81#/media/File:Cosmetic
s.JPG
整髪剤
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6
%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%AD#/media/File
:Ex_UNIQLO_hukuromachi.JPG
脱脂綿
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8
%E7%B6%BF#/media/File:Cotton_field.jpg
〔⑧医療・介護関連〕
医療用器具
http://lightnix.net/
整腸剤
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%83
%E8%85%B8%E8%96%AC#/media/File:Flattene
dRoundPills.jpg
〔⑨スポーツ関連〕
ボール
(運動)靴
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F
%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%9C%E3%83%BC%E3
%83%AB#/media/File:Handball_the_ball.jp
g
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8B%
E5%8B%95%E9%9D%B4#/media/File:Reebok_TAI
KAN_200901.jpeg
〔⑩伝統工芸品〕
陶磁器
http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/de
nsan/index.htm
漆器
http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/de
nsan/index.htm
- 211 -
手
袋
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%
E8%A2%8B#/media/File:Glove.png
〔⑩その他〕
風力発電機(風車)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8
%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB#/media/File
:Nishi-hen-na02.jpg
- 212 -
(資料編2)アンケート票
研究機関
同封のセルロースナノファイバーに関するリーフレットもご参照ください
(資料編2)アンケート票
ご
セルロースナノファイバーの技術開発・実用化に関するアンケート調査
平成27年8月
公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター
問1.貴大学または貴所・センターでは、セルロースナノファイバーに関する研究開発に
取り組んでいますか。あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる
2.研究開発の実績はあるが、現在は取り組んでいない
3.取り組んでいない
4.わからない
5.その他(
問4(P3)へ
)
(問2~問3は、問1で「1.研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる」「2.研究開
発の実績はあるが、現在は取り組んでいない」と回答した方にうかがいます)
問2.セルロースナノファイバー関連の研究開発の内容について、お差し支えない範囲で
ご記入ください。
セルロースナノファイバー製造・活用のプロセスは下図のように、
「①成分分離技術」
、
「②解繊技術」、
「③機能化・複合化技術」、「④用途開発技術」、「⑤成分分離技術」などが
あります。
該当する技術ごとにその内容を、次頁の表にご記入ください。
図
セルロースナノファイバー製造・活用
①成分分離技術
機械的操作
(粉砕、乾燥、
成形など)
木
化学成分の分離
(粉砕、乾燥、
成形など)
材
- 213 -
プロセス
⑤成分利用技術
セルロース
糖化
分解
燃料
機能化学品
リグニン
分解
成形品・接着剤
②解繊技術
③機能化・
複合化技術
④用途開発
技術
セルロース
ナノファイバー
加工
自動車車体・内装
包装材
有機 EL ディスプレイ
食品・医薬品等
ヘミセルロース
(下表「左欄」の該当する①~⑥のプロセスに〇印をつけ、
「右欄」に研究者氏名・取組内
容・実施時期・成果・課題などをご記入ください。記入欄が不足する場合は、別紙への
ご記入や、参考資料を同封していただいても結構です)
成果・課題など
プロセス
研究者氏名・取組内容・実施時期
※研究開発の実績はあるが、現在は取り組
んでいない方はその理由もご記入くだ
さい
①成分分離技術
②解繊技術
③機能化・複合化
技術
④用途開発技術
⑤成分利用技術
⑥その他(①~⑤の
区分が不明を含む)
問3.企業と共同(産学連携)で、セルロースナノファイバー関連の研究開発に取り組ん
だことはありますか。あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつけください。
なお、
「共同研究の実績がある」を選択した場合は、お差し支えなければ共同研究の
パートナーの業種をご記入ください
〔選択肢〕
1.共同研究の実績がある
(パートナーの企業の業種:
2.共同研究の実績がない
- 214 -
)
問4.今後、セルロースナノファイバー関連の研究開発、技術支援に取り組むお考えはあ
りますか。あてはまるものを1つ選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.積極的に取り組みたい
2.企業・行政等からの要請があれば取り組みたい
3.対応できない
4.わからない
問6へ
(問5は、問4で「1.積極的に取り組みたい」「2.企業・行政等からの要請があれば取り組
みたい」と回答した方にうかがいます)
問5.今後、セルロースナノファイバー関連で取り組んでみたい分野・内容等があれば、
ご記入ください。
問6.セルロースナノファイバー関連の研究開発・技術支援に関しての意見・コメントが
あればご記入ください。
(〔例〕セルロースナノファイバーの実用化を進めるうえで有望な分野、実用化のための支
援・連携体制の構築、支援策等に関するアイデアなど)
問7.回答をいただいたアンケート内容について、貴大学、貴所・センターを訪問しその
詳細をおうかがいすることは可能ですか(1つだけ)
。
〔選択肢〕
1.ヒアリングを受けることは可能
2.ヒアリングを受けることはできない
- 215 -
最後に、ご記入者様についておうかがいします。
(個別のご回答内容や、組織名・ご回答者名等の情報は公表いたしません)
(大学・高専の場合は)
学校名、学部・学科名等
(公設試験研究機関の場
合は)研究機関名
ご住所
ご
お名前
回
ご所属・ご役職
答
電話番号
者
メールアドレス
~以上でアンケートは終了です。ご協力ありがとうございました~
平成27年8月20日(木)までに、このアンケート用紙を同封の返信用封筒にて郵送、
またはインターネットによる回答、いずれかによりご回答いただきますようお願い申し上
げます。
なお、ご回答いただいた方に、後日、「①アンケート調査結果(概要)」
、「②セルロース
ナノファイバーの動向に関するレポート」を送付いたします。
- 216 -
川上企業
同封のセルロースナノファイバーに関するリーフレットもご参照ください
ご
セルロースナノファイバーに関するアンケート調査
平成27年8月
公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター
問1.木材の利活用に関して、貴社が取り組んでいる事業・研究開発等があれば教えてく
ださい。あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつけいただき、具体的な内容をご
記入ください。
〔選択肢〕
1.木材の利活用に関連した事業・研究開発に取り組みがある
具体的な内容(下例を参照してご記入ください)
2.取り組んでいない
<参考>木材の利活用(例)
利活用技術
(例)
機械的加工
製材、集成材、ボード類等の製造
工業原料化
パルプ、プラスチック(木材プラスチック)等の製造
直接利用
家畜敷料、キノコ温床、梱包材、飼育資材等の製造
固形燃料化・燃焼
薪、チップ、ペレット等への加工・直接燃焼・混焼による発電、熱利用
その他
炭化(水質浄化材等)
、肥料化(土壌・農地改良材等)
、ガス化・液体燃料化
(一酸化炭素等のガス生成、メタノール等の製造) ほか
問2.木材などから作製される「セルロースナノファイバー」を知っていますか。あては
まるものを1つだけ選んで〇印をおつけください。
〔選択肢〕
1.知っている
2.名前だけは知っている
問3(P2)へ
問5(P4)へ
- 217 -
3.知らない
問3.貴社では、セルロースナノファイバーに関する研究開発に取り組んでいますか。
あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる
2.研究開発の実績はあるが、現在は取り組んでいない
3.取り組んでいない
問5(P4)へ
4.わからない
5.その他(
)
(問4は、問3で「1.研究開発の実績があり、継続して取り組んでいる」
「2.研究開発の実
績はあるが、現在は取り組んでいない」のいずれかに回答した方にうかがいます)
問4.研究開発の内容について、お差し支えない範囲でご記入ください。
セルロースナノファイバー製造・活用のプロセスは下図のように、
「①成分分離技術」
、
「②解繊技術」、
「③機能化・複合化技術」、「④用途開発技術」、「⑤成分分離技術」などが
あります。
該当する技術ごとにその内容を、次頁の表にご記入ください。
セルロースナノファイバー製造・活用
①成分分離技術
機械的操作
(粉砕、乾燥、
成形など)
木
化学成分の分離
(粉砕、乾燥、
成形など)
材
- 218 -
プロセス
⑤成分利用技術
セルロース
糖化
分解
燃料
機能化学品
リグニン
分解
成形品・接着剤
②解繊技術
③機能化・
複合化技術
④用途開発
技術
セルロース
ナノファイバー
加工
自動車車体・内装
包装材
有機 EL ディスプレイ
食品・医薬品等
ヘミセルロース
(下表「左欄」の該当する①~⑥のプロセスに〇印をつけ、右欄に取組内容・実施時期・
成果・課題などをご記入ください。記入欄が不足する場合は、別紙へのご記入や、参考
資料を同封していただいても結構です)
成果・課題など
プロセス
取組内容・実施時期
①成分分離技術
②解繊技術
③機能化・複合化
技術
④用途開発技術
⑤成分利用技術
⑥その他(①~⑤の
区分が不明を含む)
- 219 -
※研究開発の実績はあるが、現在は取り組
んでいない方はその理由もご記入くだ
さい
問5.全ての方にうかがいます。今後、貴社でセルロースナノファイバー関連の研究開発・
実用化に取り組むお考えはありますか。あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつ
けください。
〔選択肢〕
1.積極的に取り組みたい
2.きっかけがあれば取り組みたい(検討したい)
3.現状では考えていない
問7へ
4.わからない
(問6は、問5で「1.積極的に取り組みたい」もしくは「2.きっかけがあれば取り組みたい
(検討したい)
」に回答した方にうかがいます)
問6.今後、セルロースナノファイバー関連で取り組んでみたい分野・内容等があれば、
ご記入ください。
問7.全ての方にうかがいます。セルロースナノファイバーが普及するためにクリアすべ
き課題は何だとお考えですか。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.認知度向上
2.価格低下
3.性能向上
4.複合化などの技術の進展
5.用途開発
6.わからない
7.その他(
)
- 220 -
問8.セルロースナノファイバーは国の「日本再興戦略」2015 に明記されるなど、その関
連分野の発展が期待されています。今後、有効または必要な施策は何だと思われます
か。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.技術開発に関する情報提供・技術支援
2.市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援
3.産学官連携による技術開発・実用化プロジェクト立ち上げ
4.川下企業とのマッチング
5.意見交換の場づくり(講演会・セミナー等)
6.わからない・特にない
7.その他(
)
問9.セルロースナノファイバー関連の研究開発・実用化に関しての意見・コメントがあ
ればご記入ください。
(〔例〕セルロースナノファイバーの実用化を進めるうえで有望な分野、実用化のための支援・
連携体制の構築、支援策等に関するアイデアなど)
問 10.回答をいただいたアンケート内容について、貴社を訪問しその詳細をおうかがいす
ることは可能ですか(1つだけ)
。
〔選択肢〕
1.ヒアリングを受けることは可能
2.ヒアリングを受けることはできない
- 221 -
最後に、貴社についてご記入、または○をつけてください。
(個別企業のご回答内容や、貴社名・ご回答者名等の情報は公表いたしません)
貴社名
〒
ご住所
従業員数(○は 1 つ)
1.50 人未満
2.50~99 人
3.100~299 人
(パート・アルバイトを含む)
4.300~499 人
5.500~999 人
6.1,000 人~
業種
主要取扱製品
ご
お名前
回
ご所属・ご役職
答
電話番号
者
メールアドレス
~以上でアンケートは終了です。ご協力ありがとうございました~
平成27年8月20日(木)までに、このアンケート用紙を同封の返信用封筒にて郵送、
またはインターネットによる回答、いずれかによりご回答いただきますようお願い申し上
げます。
なお、ご回答いただいた方に、後日、「①アンケート調査結果(概要)」
、「②セルロース
ナノファイバーの動向に関するレポート」を送付いたします。
- 222 -
川下企業
同封のセルロースナノファイバーに関するリーフレットもご参照ください
ご
セルロースナノファイバーに関するアンケート調査
平成27年8月
公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター
問1.木材などから作製される「セルロースナノファイバー」を知っていますか。あては
まるものを1つだけ選んで〇印をおつけください。
〔選択肢〕
1.知っている
2.名前だけは知っている
3.知らない
セルロースナノファイバーを使用することにより期待される主な効果・用途の例
〔製造業全般〕
・プラスチックの中にセルロースナノファイバーを添加することにより、プラスチック
の強さが大きくに向上する
・材料の軽量化、材料の削減が可能となる
・セルロースナノファイバーへの染色により衣類等の染色の色がプラスチックにも表現
可能
・プラスチック等に塗装工程を経ず着色できる可能性
・接着力を強くすることができる
〔食品・化粧品分野〕
・食品の質感、食感を変える。伸びないラーメン、溶けないソフトクリームが可能
・化粧品でのべた付きのないさっぱりとした使用感
〔電気機械分野〕
・有機 EL 照明や太陽電池等の電子デバイスの透明基板としての使用
〔医療分野〕
・人工血液、人工腱、人工軟骨などの医療用用途でも研究が進展
※あらゆるケースで効果が発揮されるわけではありません
次頁以降の質問にもご回答ください
- 223 -
問2.前頁の説明文を読んで、貴社にとってセルロースナノファイバーは魅力ある素材だ
と思いますか。あてはまるものを1つだけ選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.大いに思う
2.思う
3.思わない
4.わからない
問4へ
(問3は、問2で「1.大いに思う」
「2.思う」と回答した企業の方にうかがいます)
問3.貴社にとって、セルロースナノファイバーが魅力的だと思う特徴・効果は何でしょ
うか。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.超極細の繊維状物質(繊維幅 3~4 ナノメートル)
2.プラスチックが数倍に強化
3.材料の軽量化、材料の削減が可能
4.熱による寸法変化が小さい
5.ガスバリア性が高い(鮮度保持が可能)
6.塗装レス(新たな色合いが可能) 7.接着力の強化
8.質感・食感等の変化
9.透明な材質・透明な紙
10.環境にやさしいバイオマス素材
11. 消臭・抗菌等の様々な効果が発現可能
12.その他(
)
問4.全ての方にうかがいます。上記のようなセルロースナノファイバー関連にかかわら
ず、貴社で使用されている材料の技術的課題・問題点等があればご記入ください。
(〔例〕軽量化、耐熱・耐衝撃性、複合化、質感、環境負荷など)
- 224 -
問5.全ての方にうかがいます。貴社のセルロースナノファイバーを使用する製品開発の
取組状況を教えてください。あてはまるものを1つだけ選んで〇印をおつけください。
〔選択肢〕
1.製品を市場投入している・製品開発に取り組んでいる
2.製品開発を検討中
問6へ
問8(P4)へ
3.
(取組・検討はしていないが)関心はある
4.関心がない
5.その他(
)
問9(P4)へ
(問6は、問5で「1.製品を市場投入している・製品開発に取り組んでいる」と回答し
た方にうかがいます)
問6.セルロースナノファイバーを使用する製品について教えてください。あてはまるも
のをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.自動車部材(タイヤ強化材、自動車外装部材、自動車内装部材など)
2.紙系製品(紙・板紙・特殊紙など)
3.建材
4.包装部材(バリアフィルム、バリアシートなど)
5.医療・衛生用品
6.食品
7.その他(
)
問7.セルロースナノファイバーを使用する目的、製品の機能などについて、お差し支え
ない範囲でご記入ください。
問 10(P4)へ
- 225 -
(問8は、問5で「2.製品開発を検討中」
「3.
(取組・検討はしていないが)関心はある」
と回答した方にうかがいます)
問8.セルロースナノファイバーを自社製品に使用することにより、期待する効果は何だ
と思われますか。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.自社製品の性能向上(軽量・高強度・高弾性など)
2.自社製品の付加価値の向上(環境配慮型製品など)
3.他社製品との差別化
4.新分野への進出
5.その他(
)
問 10 へ
(問9は、問5で「4.関心がない」
、
「5.その他」と回答した方にうかがいます)
問9.セルロースナノファイバーに関心がない等の理由をお聞かせください。あてはまる
ものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.セルロースナノファイバーを知らない
2.自社製品との関連がない
3.自社製品の使用環境では必要がない
4.取引先からの要請がない
5.セルロースナノファイバーを使用する効果が不明である
6.入手方法がわからない
7.その他(
)
問 10 へ
問 10.全ての方にうかがいます。セルロースナノファイバーが普及するためにクリアすべ
き課題は何だとお考えですか。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.認知度向上
2.価格低下
3.性能向上
4.複合化などの技術の進展
5.用途開発
6.わからない
7.その他(
)
- 226 -
問 11.セルロースナノファイバーは国の「日本再興戦略」2015 に明記されるなど、その関
連分野の発展が期待されています。今後、有効または必要な施策は何だと思われます
か。あてはまるものをすべて選んで○印をおつけください。
〔選択肢〕
1.技術開発に関する情報提供・技術支援
2.市場ニーズに関する情報提供・販路開拓支援
3.産学官連携による技術開発・実用化プロジェクトの立ち上げ
4.セルロースナノファイバー製造企業とのマッチング
5.意見交換の場づくり(講演会・セミナー等)
6.わからない・特にない
7.その他(
)
問 12.セルロースナノファイバーの用途に関して意見・コメントがあればご記入ください。
(〔例〕セルロースナノファイバーを使用するための問題点、用途開発に関してのアイデアなど)
問 13.回答をいただいたアンケート内容について、貴社を訪問しその詳細をおうかがいす
ることは可能ですか(1つだけ)
。
〔選択肢〕
1.ヒアリングを受けることは可能
2.ヒアリングを受けることはできない
- 227 -
最後に、貴社についてご記入、または〇をつけてください。
(※個別企業のご回答内容や、貴社名・ご回答者名等の情報は公表いたしません)
貴社名
〒
ご住所
従業員数(○は 1 つ)
1.50 人未満
2.50~99 人
3.100~299 人
(パート・アルバイトを含む)
4.300~499 人
5.500~999 人
7.1,000 人~
業種(○は1つ)
1.食料品
2.飲料・たばこ・飼料
3.繊維工業
4.家具装備品
5.印刷・同関連業
6.化学工業
7.石油製品・石炭製品
8.プラスチック製品
9.ゴム製品
10.なめし革・同製品・毛皮
11.窯業・土石製品
12.鉄鋼
13.非鉄金属
14.金属製品
15.電子部品・デバイス・電子回路
16.電気機械器具
17.情報通信機械器具
18.輸送用機械器具 19.その他の製造業(
)
主要取扱製品
ご
お名前
回
ご所属・ご役職
答
電話番号
者
メールアドレス
~以上でアンケートは終了です。ご協力ありがとうございました~
平成27年8月20日(木)までに、このアンケート用紙を同封の返信用封筒にて郵送、
またはインターネットによる回答、いずれかによりご回答いただきますようお願い申し上
げます。
なお、ご回答いただいた方に、後日、「①アンケート調査結果(概要)」
、「②セルロース
ナノファイバーの動向に関するレポート」を送付いたします。
- 228 -
同封リーフレット
セルロースナノファイバーとは
1.セルロースナノファイバーとは
ナノサイズまで解きほぐされたセルロース
=セルロースナノファイバー
・木材などの植物繊維の主成分であるセル
ロースをナノサイズ(1mm の百万分の
1)にまで細かく解きほぐすことにより得
られる産業資源である。
・従来の材料と比較して、軽量・頑丈・寸
法が安定といった特徴を兼ね備えること
から、新たな機能を持つ素材として期待さ
れ、その製造方法の研究及び用途開発が国
内外で盛んに行われている。
出典:産業技術総合研究所 機能化学研究部門 ホームページ
2.セルロースナノファイバーの特徴と用途
【主 な 特 徴】
・軽くて強い(鋼鉄の 1/5 の軽さで5倍以上の強さ) ・ガスバリア性が高い
・熱による変形が小さい(ガラスの 1/50 程度)
・植物由来(持続型資源、環境負荷小)
優れた材料として利用できる
0002 【用
自動車車体・内装
途】様々な産業分野における用途展開が期待されている(例)
包装材(食材鮮度保持)
有機 EL ディスプレイ
食品・医薬品
3.セルロースナノファイバーの作製・利用の例
立木
樹脂などに混ぜ込む
間伐材
木材チップ
セルロースナノファイバー
自動車車体・内装
- 229 -
裏面に続く
4.セルロースナノファイバーを使用することにより期待される主な効果
・プラスチックの中にセルロースナノファイバーを添加することにより、プラスチック
の強さが大きく向上
・材料の軽量化、材料の削減が可能
・衣類等の染色の色がプラスチックにも表現可能
・プラスチック等に塗装工程を経ず着色できる可能性
・接着力を強くすることができる
・食品等の質感、食感を変える。伸びないラーメン。溶けないソフトクリームが可能
・化粧品でのべた付きのないさっぱりとした使用感
など
(※あらゆるケースで効果が発揮されるわけではありません)
5.中国地域におけるセルロースナノファイバー実用化に向けた主な取組み
岡山県では、県土の約7割を占める森林の持つ多面的な機能の維持・向上と、森林資
源の活用による地域活性化を目的に、木質バイオマスのマテリアル利用による新産業
創出を目指す「おかやまグリーンバイオ・プロジェクト」を推進しており、その中核
事業として、高付加価値材料であるセルロースナノファイバーの開発を主とする「森
と人が共生する SMART 工場モデル実証」(H22~H26)に取り組んだ。
モリマシナリー㈱(岡山県赤磐市)
真庭ヒノキのチ
岡山県真庭のヒノキ
ップを原料とし
たセルロースナ
森林へ利益還元
ノファイバーを
製造・サンプル
提供中
セルロースナノファイバー
工業利用
岡山県工業技術センター
産業技術総合研究所
トクラス㈱
(岡山県岡山市)
(広島県東広島市)
(本社:静岡県浜松市)
開発されたセルロース
セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバ
ナノファイバーの特性評
の製造方法及び複合材料化に
ーを利用した複合材料開
価を実施
関する基盤技術開発を実施
発を実施
岡山県工業技術センター
産業技術総合研究所
- 230 -
中国地域におけるセルロースナノファイバー
関連産業創出可能性調査
報 告 書
平成 28 年 3 月 31 日
編集・発行
1版1刷
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〒730-0041 広島市中区小町 4 番 33 号 中電ビル 2 号館
TEL(082)241-9927(代)
FAX(082)240-2189
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古紙配合率 70%以上の再生紙を使用しています。
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