2009 年 12 月 20 日(日)13:00~17:00 京都 日本教師教育学会 第二回「教師教育研究の方法と課題」「教師教育の国際比較」合同研究会 教師教育研究の課題~ATEE とオランダからのレポート 武蔵大学 武田信子 1.2005 OECD 教員の重要性:優れた教員の確保・育成・定着 Teachers Matter: Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers (国立教育政策研究所 国際研究・協力部監訳) 教員への焦点/教員政策の意義/教職を魅力的な職業とするために/教員の知識とスキルの開発 /教員の募集、選考、採用/優秀な人材が教員を続けるようにするための政策/教員政策の開発と実施/ プロジェクトの実施方法/教員政策に関する情報提供の枠組み 2.ヨーロッパ教師教育学会(Association for Teacher Education in Europe)の動向 学会誌 European Journal of Teacher Education 2006 政策提言:教師の質 ~教師の質を確認する指標開発に関する提言 指標の開発 1. 国際協力と交換を促進するために、教員の質の概念に関する参照枠を共有することが必要である。 2. 指標形成にあたって、各国家及びヨーロッパはそのプロセスにおいて、教師の関与とオーナーシ ップに焦点を置く必要がある。これは、教育に対する実質的なインパクトを質の指標が持つための必要 条件である。 指標の基準 3. 指標は異なる利害関係者(政府、学校長、教員、教師教育、両親、生徒)の関心と観点を考慮し なければならない。そうして初めて指標は、各者にとっての共通言語となりうる。 4. 教育は省察的思考、継続的専門性開発、自立、責任、創造性、研究と個人的判断を必要とする職 業であるから、指標は、これらの価値と特質を反映しなくてはならない。 5. 指標はその活用において、柔軟性、個人スタイル、多様性のための専門的プロフィールに余地を 残した上で、教育の協働という性質を反映しなくてはならない。 6. 指標は教えるプロセスだけでなく、システマティックな省察と研究を通して、教える教材、学校 改革、知識開発にも焦点づけなくてはならない。 指標の活用 7. 指標はそれ自体が目的ではなく、教師の質を刺激するためのシステムの一部分でなくてはならな い。そして、そのシステムは、指標と一貫性があり、かつ、教師のオーナーシップを刺激するものでな ければならない。 2009 第 34 回年次大会 in Palma de Mallorca, Spain Aug.29th-Sept.2nd,2009 “Knowledge Creativity in Teacher Education Education for Knowledge Creation“ 知識社会を発展させるためには創造性の強化が必要である。教育のトレーニングシステムにおいても、多様な 人生を、個人的、職業的、社会的ないずれの局面についても独自に切り開いていくことができるという観点を持っ て創造性を支援し、コンピテンシーを開発することが求められている。今日の教員養成・研修機関における教育実 践が、創造性を支える学びの在り方を開発するにあたって、効果的な方策はあるのか?技術、知識、考え方、個 人的な性格特徴などに関する知識創造の教育的目的は形成されうるのか? 新しい知識はどのようにして創られるのか?そのための概念的なツールは?われわれは効果的な教育施策によっ て可能になる新しい知識の生産プロセスを説明するための解を探している。 分科会の構成(教師教育のシステム・内容・教育学そして構造) 1.研究の展望 2.初等教育・幼児教育 3.中等教育 4.職業教育・成人教育 5.包摂と特別支援 6.社会正義のための教育 7.文化・言語と市民性 8.教育的リーダーシップとマネジメント 9.教師教育における国際協力…知識構築に向けて 10.科学教育・数学教育 11.教師教育と情報技術 12.教師教育カリキュラム ⑬. 研修と実践開発(注:現場における実習など) ⑭. 教師の専門性開発 ⑮. 教師教育者の専門性開発 “Becoming a Teacher Educator:Theory and Practice for Teacher Educators” Anja Swennen, Marcel van der Klink Ed., Springer, 2009 認定教師教育者のスタンダード(ATE,2007) www.ate1.org 教師教育者のスタンダード(VELON,2007) 16. (大会テーマ)知識の創造 3.オランダの教師教育概要 (1) オランダの教育 教育の自由(1917)市民には「学校創設の自由(それに伴う「学校選択の自由」)」 学校には「学校方針の自由」と「学校組織の自由」 私立も無償 1960 年代後半の教育改革「画一から個別へ」個別教育(個別指導・自立学習・共同学習) ←オルタナティブ教育の影響 (『オランダの教育』リヒテルズ直子著 平凡社 2004) 政治家や文部省からの影響に対して、自立度が高い。 (2) オランダの教師教育 幼・少教員養成/中学教員養成(専門学校)/高校教員養成(大学)。女性が圧倒的に多い。カリキュラ ムの 4 分の 1 が実習。学校との協働体制に強調を置く。志望者不足、実力不足。 (3) 教師や教育実習生の省察をどう促すか? Fred A. Korthagen「Linking Practice and Theory」~実践と理論をつなぐ教師教育の教育学 2010 年 2 月出版 9 月来日予定 →教師教育学の構築の必要性を主張し、ユトレヒト大学で実践 →理論知による省察でいいのか? →実践知に基づく手法を開発・実践 ワークショップを展開 →教師教育者(現場上がり&教育学者)の教育の必要性→実践 (4) オランダの教員の質に関するコンピテンシー研究 コンピテンシーとは? 専門家として日常においても困難な場面においても適切な判断と対応ができる資質 SBL(Stichting Beroepskwaliteit Leraren en ander onderwijspersoneel) →日本教師教育学会第 17 回大会および第 19 回大会武田他口頭発表参照 オランダにおいて、文部省の委託を受け、10 年近くにわたって現場教員の『教育や教師につい ての考え方』を問うワークショップを展開し、その中から項目を抽出して分析し、7つのカテゴ リーにまとめた。それを国民に問うて精査して、2005 年にモデルを作り、各学校(群)がこのモ デルに基づいた自分の学校用のリストを作成して、研修を実施するように勧めている。各教員養 成機関でもそれぞれリストを作成して、それに基づいた教育を行っている。 コンピテンシー項目の抽出にあたっては、 研究者とともに、評価の対象である現場の専門家が参加し、 決定にあたっては現場の専門家による検討を加える。 また、評価は、対象の専門家自身が行うか、あるいは対象の専門家の参加を経てなされ、専門 家の専門性の向上のためにのみ用いられるものと考える。 SBL によるオランダの教員の質に関する7つの指標 1.対人関係 2.教育学 3.教育方法 ←「授業研究」日本はここが中心 4.組織(組織化、マネジメント) 5.同僚(学校コミュニティの構成員として) 6.環境(地域コミュニティの構成員として) 7.自分 省察の力 国家的コンピテンシー・モデル(ボランティア教員の参画・パブリックコメント) →学校(群)のコンピテンシー・リスト(←教育支援センターによるプログラム) →自己評価+同僚評価+生徒評価(←SBL のウェブ上のプログラム活用) (同僚に管理職は含まれるが、それのみではない。両者の合意が必要) →研修計画 →財政的・時間的支援(保証) →選択的研修への取り組み(官製研修ではない多様な研修の可能性) →質の向上の検証 (Frank Jansma(モデルの開発責任者)来日予定 2010.2.21.講演及びワークショップ(武蔵大学)) 4.(補足)カナダの教員養成について Micheal Fullan の教育改革 OISE/UT(トロント大学オンタリオ教育研究所)およびトロントプログラ ム(教員養成改革)は、ヨーロッパの教育及び教師教育にもかなりの影響を与えた。 武蔵大学教職課程研究年報第 14 号 日加比較による教員養成カリキュラムの再検討 2000 5.(補足)キューバの教員養成について(2010.3.視察予定) 経済危機からロシア型の教育=ヴィゴツキーの発想を早くから取り入れた→めざましい成果にユニ セフが注目。教育のあり方として無視できない可能性を持つ。 吉田太郎「世界がキューバの高学力に注目するわけ」築地書館 6.(補足)スウェーデン(ルンド)の教育について(2009.9.視察) 政治家・教員・組合が合同で子どもたちの教育について協議している。 政権が代わってもわが町の「子どもたちの教育」に関する方針は変わらない。 教員個人の評価ではなく、学校コミュニティの評価がなされる。 →「教育」と「政治や社会からの批判」の関係をどう扱うか? どの国のどの年代の教育が、その後、成功した、といえるのか? (指標は、国力か平和か幸福感か経済発展か社会体制か?) 7.ISSUES by the Reporter *教師教育研究の目標は? *子どもたちの生活や育ちの現状を見たとき、果たして現代の日本の子どもたちを取り囲む環境(学校 環境、生活環境、学習環境…)はこれでいいのか? 子どもたちの一日の中で、学校の果たす役割、教師という大人の果たす役割は何か? *教員の生活や労働の現状を見た時、はたして日本の教員を取り囲む環境はこれでいいのか?教員が魅 力ある職業でなくなり、志望者が減少する時期は遠くないのではないか?その予防が必要ではない か?それを見据えた教師教育を考える必要があるのではないか?・・・価値観の転換期? *教育は誰のためのものか?何をめざすのか? 日本という国?はどのような教育によってどのような市民を育てようとしているのか? あるいは、教師教育者はどのような教育をめざしているのか? (学力を高くするのは何のためか?誰の学力を高くするのか?落ちこぼしを出していていいのか?) *世界の求める市民と、日本の求める国民(国家による教育)は同じか? OECD(経済の側面)の求めるキーコンピテンシーは、普遍か? *アジア型の教育、欧米型の教育、ロシア型の教育等々に差異があるが、その中で日本の教育・それを 実現する教員養成・研修はどのような選択をするのか?選択することが必要か? 多様性の道はないか?その中で最低ラインとして何を保証する必要があるのか? *完璧な教育システムのある国などない。どこの国がいい悪いという議論は止め、日本はどのように次 の一歩を出すかを考えたい。つまり、教師教育研究は2国間比較(比較教師教育学?)や礼賛・啓発 のレベルではなく、グローバルに情報を集めて、日本の文化や環境や歴史や子どもたちの状況にマッ チした日本の教育のめざすところを見据えた独自の研究の開発に努める必要があるのではないか? *教師教育を考えるとき、誰の意見が求められるか?その方法は? *教師教育(教員養成&教員研修)の連続性(生涯発達の中でとらえる教師の専門性)は考えられてきた か? *「大学で教師は育てられない」のか?!「現場なら育つ」のか?!教育は実践か理論かそれとも双方 か?そのバランスは? *調理の出来ない調理人は料理学校の先生にはなれない。調理ができるからといって料理学校の先生に はなれない。大学教員は調理できるか?実践家(しかし管理職)に理論(と実践)が伴うか? *教師教育学の学としての成立を模索するために必要な手順は何か? *教師教育が学として低く見られてきた理由とそこからの脱出の道は? →(坂田哲人先生を中心に)ATEE の RDC(Research and Development Centre)の国際研究 Professional Development of Teacher Educators「よい教師教育者の本質は何か?」 “The Teacher Educators’ Expertise Interview”に日本から参加予定。
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