農 環 研 報 Bull. Natl. Inst. Agro Environ. Sci. ISSN 0911−9450 CODEN : NKGHEW 農業環境技術研究所報告 第 36 号 目 次 原著論文 遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に 必要なカラシナ( セイヨウアブラナ( )、アブラナ( )、 )の生物情報集 ………………………………………………津田 麻衣・田部 井豊……1 大澤 良・下野 綾子 吉田 康子 ・吉村 泰幸 原著論文 遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの 生物情報集…………………………………吉村 泰幸・加賀 秋人……47 松尾 和人 国立研究開発法人 農業環境技術研究所 (平成28年3月) 農業環境技術研究所報告 第36号 審査会 BULLETIN OF NATIONAL INSTITUTE FOR AGRO-ENVIRONMENTAL SCIENCES No.36 EDITORIAL BOARD 委員長 Chairman 副委員長 Vice Chairman 委 員 Editors 井 手 任 Makoto Ide 與 語 靖 洋 Yasuhiro Yogo 廉 沢 敏 弘 Toshihiro Kadosawa 西 田 智 子 Tomoko Nishida 坂 爪 栄 二 Eiji Sakatsume 鳥 谷 均 Hitoshi Toritani 大 谷 卓 Takashi Otani 藤 井 毅 Takeshi Fujii 研究統括主幹 Principal Research Director 研究コーディネータ Principal Research Coordinator 広報情報室長 Head, Public Relations and Information Office 企画戦略室長 Head, Research Planning Office 財務管理室長 Head, Accounting Office 生態系計測研究領域長 Director, Ecosystem Infomatics Division 有機化学物質研究領域長 Director, Organochemicals Division 生物生態機能研究領域長 Director, Environmental Biofunction Division 掲載論文等については、 農業環境技術研究所ウェブサイト内でも公開いたしますので、 併せてご利用くだ さるようお願いいたします。 [トップページURL] http://www.niaes.affrc.go.jp/ 1 農環研報 36, 1−45(2016) 遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必 要なカラシナ(Brassica juncea) 、アブラナ(B. rapa) 、 セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 The Biology of Brassica juncea, B. rapa and B. napus for biodiversity risk assessment of genetically modified B. napus in Japan 津田麻衣* **・田部井豊*・大澤 良**・下野綾子** *** 吉田康子** ****・吉村泰幸***** (平成28 年3月14日受理) 遺伝子組換え(GM)作物の使用に際しては、カルタヘナ法に基づく生物多様性への影響が評 価され、影響が生じないと認められた場合に第 1 種使用規程承認組換え作物として承認される。 我が国にはセイヨウアブラナと交雑可能な近縁種として、カラシナとアブラナが分布し、この 2 種とセイヨウアブラナは、河原や空き地、路傍等に生育している。そのため、我が国において GM セイヨウアブラナの生物多様性影響評価を行う際には、我が国におけるこれらの種の状況を把握 できるような情報が整理された資料が不可欠である。本報告では、GM セイヨウアブラナの生物 多様性影響評価に際して必要であると考えられるカラシナ、アブラナおよびセイヨウアブラナの 分類や分布など植物学・作物学的情報、生育特性、生態特性、繁殖生物学、作物と近縁種との遺 伝子浸透に関する知見、雑種後代の特性等、生物学的情報をとりまとめた。 * 国立研究開発法人 農業生物資源研究所 ** 国立大学法人 筑波大学生命環境系 *** 学校法人 東邦大学理学部 **** 国立大学法人 神戸大学大学院農学研究科 **** 国立研究開発法人 農業環境技術研究所 生物多様性研究領域 corresponding author 2 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 目 次 Ⅰ 序論…………………………………………………… 3 1.はじめに …………………………………………… 3 2.研究方法 …………………………………………… 6 Ⅱ カラシナ……………………………………………… 6 第 1 章 分類学的位置づけと分布 …………………… 6 3.カラシナとその他のアブラナ属植物との 自然交雑性 …………………………………… 14 1)カラシナ(種子親)とセイヨウアブラナ (花粉親)…………………………………… 15 2)セイヨウアブラナ(種子親)とカラシナ 1.分類 ……………………………………………… 6 (花粉親)…………………………………… 15 2.起源と伝播 ……………………………………… 6 3)クロガラシとカラシナ …………………… 15 3.分布域と生育環境 ……………………………… 7 4.カラシナとその他の属との属間交雑親和性 17 1)世界における分布 …………………………… 7 5.雑種および雑種後代の交雑親和性 ………… 17 2)日本における分布 …………………………… 8 1)F1(雑種第 1 代)の交雑親和性 ………… 17 第 2 章 形態的特性 …………………………………… 8 2)雑種後代の交雑親和性 …………………… 19 第 3 章 生活史特性 …………………………………… 9 3)遺伝子の残存性 …………………………… 20 1.生活史 …………………………………………… 9 ア)セイヨウアブラナの染色体由来領域 2.種子休眠性 ……………………………………… 9 の残存性………………………………… 20 3.開花 …………………………………………… 10 イ)導入遺伝子の残存性…………………… 20 4.交配様式 ……………………………………… 10 第 7 章 引用文献 …………………………………… 21 5.他の生物との相互作用 ……………………… 10 Ⅲ アブラナ、セイヨウアブラナ…………………… 31 1)カラシナに害を及ぼす生物 ……………… 10 第 1 章 分類学的位置づけと分布 ………………… 31 2)カラシナにとって有益な生物 …………… 10 1.分類 …………………………………………… 31 3)カラシナが他の生物に及ぼす影響 ……… 10 2.起源と伝播 …………………………………… 31 第 4 章 栽培種としてのカラシナ 3.分布域と生育環境 …………………………… 32 1.日本における利用の歴史 …………………… 11 1)世界における分布 ………………………… 32 2.日本における栽培種の形態的特性 ………… 11 ア)アブラナ………………………………… 32 3.有用形質および遺伝子組換え技術の利用 … 12 イ)セイヨウアブラナ……………………… 32 1)カラシナが有する有用形質 ……………… 12 2)日本における分布 ………………………… 32 ア)細胞質雄性不稔 ア)アブラナ………………………………… 32 (Cytoplasmic male sterility = CMS)… 12 イ)セイヨウアブラナ……………………… 33 イ)重金属吸収……………………………… 12 第 2 章 形態的特性 …………………………………… 33 ウ)バイオフューミゲーション 1.アブラナ ……………………………………… 33 (生物的くん蒸) ………………………… 12 2.セイヨウアブラナ …………………………… 33 2)遺伝子組換え技術の利用 ………………… 12 第 3 章 生活史特性 …………………………………… 33 第 5 章 遺伝学的情報 ……………………………… 12 1.生活史 ………………………………………… 33 1.ゲノム情報 …………………………………… 12 1)アブラナ …………………………………… 33 2.マーカー情報 ………………………………… 12 2)セイヨウアブラナ ………………………… 33 第 6 章 近縁種との雑種形成と遺伝子浸透 ……… 13 2.発芽と種子休眠性 …………………………… 33 1.種内交雑における他殖率 …………………… 13 1)アブラナ …………………………………… 33 2.カラシナと他のアブラナ属植物との 2)セイヨウアブラナ ………………………… 33 交配および培養による交雑親和性 ………… 13 3.開花 …………………………………………… 34 1)カラシナとアブラナ ……………………… 13 4.交配様式 ……………………………………… 34 2)カラシナとクロガラシ、カラシナおよび 1)受粉と訪花昆虫相 ………………………… 34 キャベツ類 ………………………………… 14 ア)アブラナ………………………………… 34 3)カラシナとセイヨウアブラナ …………… 14 イ)セイヨウアブラナ……………………… 34 4)カラシナとその他のアブラナ属植物 …… 14 2)花粉の散布距離 …………………………… 34 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 5.他の生物との相互作用 ……………………… 35 1)アブラナ、セイヨウアブラナに害を 3 1.種間交雑 ……………………………………… 38 1)交配 ………………………………………… 38 及ぼす生物 ………………………………… 35 ア)アブラナ………………………………… 38 2)アブラナ、セイヨウアブラナが他の イ)セイヨウアブラナ……………………… 38 生物に及ぼす影響 ………………………… 35 6.ストレスに対する耐性および競合性 ……… 36 第 4 章 栽培種としてのアブラナ、 セイヨウアブラナ ………………………… 36 2)自然交雑 …………………………………… 38 ア)アブラナ(種子親)と セイヨウアブラナ(花粉親)………… 39 イ)セイヨウアブラナ(種子親)と 1.日本における栽培地と利用の歴史 ………… 36 アブラナ(花粉親)…………………… 39 1)栽培地 ……………………………………… 36 ウ)セイヨウアブラナとクロガラシ……… 39 2)利用の歴史 ………………………………… 37 2.アブラナとセイヨウアブラナに由来する ア)ナタネ油………………………………… 37 F1 の交雑親和性 ……………………………… 40 イ)カブ・ハクサイ類……………………… 37 第 7 章 引用文献 …………………………………… 41 第 5 章 遺伝学的情報 ……………………………… 38 Ⅳ 謝辞………………………………………………… 44 第 6 章 近縁種との雑種形成 ……………………… 38 Ⅰ 序論 キャベツ類(B. oleracea) 、アブラナ(B. rapa)、アビシ ニアガラシ(B. carinata)、カラシナ(B. juncea) 、セイ 1.はじめに ヨウアブラナ(B. napus)ならびにダイコン(Raphanus セイヨウアブラナ(Brassica napus)は明治以降に我が sativus)を含む 4 属のアブラナ科植物が報告されている 国に導入され、広く栽培されていたが、現在では油糧用 。日本には 130 種 51 属のアブラナ科植物が分布し (表 2) としてその 99%を海外から輸入している。日本がセイヨ (邑田・米倉 , 2012)、セイヨウアブラナの近縁種として、 ウアブラナを最も多く輸入しているカナダでは、その栽 同じアブラナ属のクロガラシ、キャベツ類、アブラナ、 培面積の 97.5%を遺伝子組換え(GM)品種が占めてい カラシナや、ダイコン属のダイコン、セイヨウノダイコ 。 る(James, 2012) ンなどが分布する(竹松・一前 , 1998; 日向 , 1997; 清水 世界で商業利用されている GM セイヨウアブラナとし て、2015 年 3 月現在、全 34 品種(表 1)の登録がある 。 (BCH, 2015; J-BCH 2015; OECD, 2012) ら , 2003; 邑田・米倉 , 2012)。 アブラナは奈良時代に導入された帰化植物であり(山 岸 , 1989)、カラシナも、日本在来の野生種ではない(星 改変されている形質としては、除草剤(ブロモキシニ 川 , 1987)ことから、GM セイヨウアブラナの交雑に関す ル、グルホシネートおよびグリホサート)耐性、菌類耐 る生物多様性影響評価において対象となる野生種ではな 性、雄性不稔性、稔性回復性、抗生物質(カナマイシン) い。しかしながら、これらは広く国内に分布しているた 耐性、フィチン酸塩分解性、脂質・脂肪酸代謝性、抗酸 め、GM セイヨウアブラナとこれらの種とのの交雑を介 化物質合成、シナピン成分改変、オメガ 3 脂肪酸(DHA し、在来のアブラナ属の野生種(イヌガラシ、ナズナ、 など)産生性が報告されている(BCH, 2015; J-BCH, 2015; エゾスズシロなど)への遺伝子浸透による間接的な生物 。 OECD, 2012) 多様性影響が生じる可能性がある。今後、実用化が見込 主たる品種は特定の除草剤に耐性を示す GM セイヨウ まれる GM セイヨウアブラナは環境ストレス耐性や病虫 アブラナである。日本においても 2015 年 3 月現在、商業 害抵抗性等、自然条件下での生存適応度を向上させるよ 利用できる 12 品種系のうち、全ての品種が何らかの除草 うな形質を有するものが登場すると予想されるため、よ 剤に対する耐性を有している。それに加えて雄性不稔性 り慎重な検討が必要である。 。 や稔性回復性を付加された品種も登録されている (表 1) そこで、GM セイヨウアブラナの生物多様性影響評価 世 界 に は 338 属 以 上 3,700 種 以 上 の ア ブ ラ ナ 科 書を作成する申請者や評価書を審査する総合検討委員会 (Brassicaceae = Cruciferae)植物が存在する(Al-Shehbaz 等において、情報の共有化を図り、適正な生物多様性影 。アブラナ属とその近縁 et al., 2006; Warwick et al., 2009) 響評価に資することを目的として、本報告では、II でカ 属の主要栽培植物として、クロガラシ(Brassica nigra)、 ラシナ、III でアブラナとセイヨウアブラナについての生 4 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 表 1 世界および日本(★)で登録されている遺伝子組換えセイヨウアブラナ一覧 (BCH 2015、J-BCH 2015、OECD 2012 等の情報より作表) 識別名 1 ★ ACS-BNØ11-5 2 ACS-BNØØ1-4 LMO 名 NavigatorTM canola InVigorTM canola 3 ACS-BNØØ2-5 InVigorTM canola ★ ACS-BNØØ3-6 InVigorTM canola ACS-BNØØ4-7 InVigorTM canola ★ ACS-BNØØ5-8 InVigorTM canola ★ ACS-BNØØ7-1 InVigorTM canola 8 ★ ACS-BNØØ8-2 9 CGN-89111-8 InVigorTM canola 4 5 6 7 10 CGN-89465-2 11 ★ MON-89249-2 12 ★ MON-ØØØ73-7 13 ACS-BNØ1Ø-4 14 15 16 17 18 19 20 ACS-BNØØ9-3 21 22 23 24 25 26 MON-883Ø2-9 × ACS-BNØØ5-8 × ACS-BNØØ3-6 MON-883Ø2-9 × ACS-BNØØ3-6 27 28 29 DP-Ø73496-4 30 ★ MON-883Ø2-9 31 ACS-BNØØ5-8 × ★ ACS-BNØØ3-6 High oleic acid canola High oleic acid canola Roundup ReadyTM canola Roundup ReadyTM canola FalconTM rapeseed Canola MPS961 Phytaseed TM (phytase-producing) Canola MPS965 Phytaseed TM (phytase-producing) Canola MPS962 Phytaseed TM (phytase-producing) Canola MPS964 Phytaseed TM (phytase-producing) Canola MPS963 Phytaseed TM (phytase-producing) LiberatorTM canola Brassica napus modified for altered fatty acid metabolism 改変された形質 除草剤ブロモキシニル耐性 除草剤グルホシネート耐性 稔性回復性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 稔性回復性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 稔性回復性 除草剤グルホシネート耐性 稔性回復性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 稔性回復性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 オメガ 3 脂肪酸(DHA など)産生性 抗生物質カナマイシン耐性 オメガ 3 脂肪酸(DHA など)産生性 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グリホサート耐性 除草剤グリホサート耐性 除草剤グルホシネート耐性 フィチン酸塩分解性 抗生物質カナマイシン耐性 フィチン酸塩分解性 抗生物質カナマイシン耐性 フィチン酸塩分解性 抗生物質カナマイシン耐性 フィチン酸塩分解性 抗生物質カナマイシン耐性 フィチン酸塩分解性 除草剤グルホシネート耐性 脂質・脂肪酸代謝性 抗生物質カナマイシン耐性 菌類耐性 Brassica napus modified for the 抗酸化物質合成 synthesis of resveratrol 抗生物質カナマイシン耐性 Brassica napus modified for 除草剤グルホシネート耐性 reduced sinapine content シナピン成分改変 (pLH-BnSGT-GUS) Brassica napus modified for 除草剤グルホシネート耐性 reduced sinapine content シナピン成分改変 (pLH7000-SGT/SCT) 除草剤グルホシネート耐性 Brassica napus modified for the 菌類耐性 synthesis of resveratrol and 抗酸化物質合成 reduced sinapine content シナピン成分改変 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グルホシネート耐性 InVigor canola, Roundup 除草剤グリホサート耐性 ReadyTM canola 雄性不稔性 除草剤グルホシネート耐性 Herbicide Tolerant Canola 除草剤グリホサート耐性 稔性回復性 Canola modified for herbicide 除草剤グリホサート耐性 tolerance Canola modified for herbicide 除草剤グリホサート耐性 tolerance 抗生物質カナマイシン耐性 除草剤グリホサート耐性 除草剤グリホサート耐性 除草剤グルホシネート耐性 雄性不稔性 稔性回復性 開発者 Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience Monsanto Monsanto Monsanto Monsanto Bayer CropScience BASF BASF BASF BASF BASF Bayer CropScience BAZ FINAB e. V. FINAB e. V. FINAB e. V. FINAB e. V. Monsanto Monsanto Bayer CropScience Анатолий Николаевич Евтушенков Анатолий Николаевич Евтушенков デュポン株式会社 Monsanto Bayer CropScience 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 32 ★ ACS-BNØØ4-7 × ACS-BNØØ1-4 ★ ACS-BNØØ4-7 × ACS-BNØØ2-5 33 34 除草剤グルホシネート耐性 雄性不稔性 稔性回復性 除草剤グルホシネート耐性 雄性不稔性 稔性回復性 除草剤グルホシネート耐性 除草剤グリホサート耐性 雄性不稔性 稔性回復性 ACS-BNØØ5-8 × ★ ACS-BNØØ3-6 × MON-ØØØ73-7 5 Bayer CropScience Bayer CropScience Bayer CropScience 注)J-BCH の登録から隔離ほ場試験の申請は除いた。 表 2 アブラナ(Cruciferae)科のアブラナ属(Brassica)とその近縁属の主要作物の多様性(生井 , 2010b 改変) 種名 染色体数(2n)と ゲノム記号 植物名 Brassica rapa カブ・ハクサイ類 var. oleifera var. rapa var. glabra var. chinensis var. narinosa var. nipposinica var. parachinensis var. sarson B. nigra アブラナ(在来油菜、赤種、和種) カブ、コマツナ、ノザワナ ハクサイ、マナ、ヒロシマナ タイサイ、ユキナ、チンゲンサイ、パクチョイ タアサイ(搨菜)、キサラギナ、ヒサゴナ ミズナ(水菜)、キョウナ(京菜)、ミブナ サイシン(菜心)、コウサイタイ(紅菜苔) イエローサルソン、ブラウンサルソン クロガラシ ブラックマスタード キャベツ類 キャベツ(甘藍) ブロッコリー(緑花椰菜) カリフラワー(花椰菜) メキャベツ(子持甘藍) ケール(羽衣甘藍) コールラビ(球茎甘藍) カイラン(芥藍) カラシナ類 20 (AA) 起源地と 主要な利用部位 地中海沿岸、中央アジア、中国、近東 葉、花茎、種子(油料) 根(+ 胚軸)、葉 葉 葉 葉 葉 茎、葉、花茎 種子(油料)、葉、茎 近東 葉、種子(油料) 地中海沿岸 B. oleracea var. capitata 葉 var. italica 花蕾 var. botrysis 未発達の瘤状花蕾 18 (CC) var. gemmifera 葉 var. acephala 葉、茎 var. gongylodes 茎 var. alboglabra 茎、葉、花蕾 B. juncea 中央アジア、近東、 〔中国、インド〕 種子用カラシナ 種子(油料)、葉、花茎 var. cernua ハカラシナ(葉芥子菜) 葉、花茎、種子(油料) var. sabellica チリメンカラシ、アザミナ、セリフォン(雪里紅) 葉、花茎 36 (AABB) var. napiformis ネカラシナ(根芥子菜) 葉、根(+ 胚軸) var. integrifolia タカナ(高菜)、カツオナ(鰹菜) 葉 var. multisecta ニンスーカ 葉、茎 var. rugosa ダイシンサイ、多肉性タカナ、山形青菜、結球高菜 葉、茎 var. tumida ザーサイ(䰅菜) 茎、葉 B. napus セイヨウアブラナ類 地中海沿岸 38 (AACC) セイヨウアブラナ(西洋菜種、黒種)、ナバナ 種子(油料)、葉、花茎 var. napobrassica ルタバガ(スウェーデンカブ) 根(+ 胚軸) B. carinata アビシニアガラシ アフリカ 34 (BBCC) 葉、種子(油料) Diplotaxis ディプロタキシス 地中海沿岸 D. muralis 42(DmDm) 一年生ウォールロケット(ワイルドロケット) 葉 D. tenuifolia 22(DtDt) 多年生ワイルドロケット(ロボウガラシ) 葉 キバナスズシロ 地中海沿岸 Eruca sativa 22 (EE) ロケット、ルクラ(ルッコラ) 茎葉、種子(油料) Raphanus sativus ダイコン類 地中海沿岸、中国、 〔日本〕 胚軸(+ 根)、葉 18 (RR) var. sativus 西洋ダイコン 根(+ 胚軸)、葉 var. aphanistroides 中国ダイコン、日本ダイコン 未熟莢 var. mougri サヤダイコン 種子(油料) var. oleifera アブラダイコン シロガラシ 地中海沿岸 Sinapis alba 24 (SalSal) ホワイトマスタード(イエローマスタード) 種子(油料)、葉 注 1)起源地は、必ずしも明確でないものが多く、大まかな表示である。注 2)開花初めの花茎を食するナバナには、セイヨウナタネ類とカ ブ・ハクサイ類に属するものとがある。注 3)サヤダイコンには、未熟莢を食べる品種がタイ北部やインドにあり、インドには油糧用 もある。 16 (BB) 6 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 物学的情報をとりまとめた。 在は、形態の大きな違い、利用部分の発達によって多く (西 , 1986; 北村 , 1947) 。 の変種に分類されている(表 2) 2.研究方法 本報告の主たる記載項目は OECD の「Brassica 属に関 2.起源と伝播 するコンセンサス文書」 (OECD, 2012)および「栽培作 カラシナは、A ゲノムを持つアブラナ(ハクサイ、カ 物の生物学に関するコンセンサス文書のための考慮すべ ブ、ナタネ、ツケナ類、AA、2n=20)と B ゲノムを持つ き事項」 (OECD, 2006)を参考としたが、詳細な項目に クロガラシ(B. nigra、BB、2n=16)の自然交雑に由来 ついては 3 種が有する特性に基づき、個々の記載項目を する AABB ゲノム(2n=36)を持つ複二倍体とする説が 設けた。また、本ドキュメントの作成に使用する文献等 (図 1)。このこ 有力とされる(U, 1935; Nirubaga, 1934) は、コンセンサス文書(OECD, 1997)で使用された文献 とは、カラシナとクロガラシの種間雑種の減数分裂時に を参考にし、査読論文、科学雑誌・刊行物、政府出版物、 8 個の 2 価染色体と 10 個の 1 価染色体ができること、カ 科学的会合の報告書・講演記録、ウェブサイト等を調査 ラシナとアブラナの種間雑種で同様に 10 個の 2 価染色 した。なお、OECD のコンセンサス文書は GM 作物の使 体と 8 個の 1 価染色体ができることから確かめられてい 用申請時に使用される世界共通の情報である。このた る(山岸 , 1989)。近年、祖先種アブラナとクロガラシの め、本稿では、OECD のコンセンサス文書に記載されて ゲノムがカラシナに保存されていることが、RFLP 解析 いる情報はできるだけ簡潔にまとめ、さらに分布状況や で明らかにされた(Axelsson et al., 2000)。また、クロガ 開花時期等の我が国特有の情報を盛り込んだ。 ラシ×アブラナ(A × B と表記した場合、A が種子親、B が花粉親を示すと定められているため、以下この表記法 Ⅱ カラシナ にしたがって記載する)からは、ほとんど雑種種子を得 ることはできないこと(皿嶋 , 1990)と、細胞質 DNA の 第 1 章 分類学的位置づけと分布 解析(Uchimiya and Wildman, 1978; Palmer et al., 1983; 1.分類 Erickson et al., 1983)によって、アブラナ × クロガラシ カラシナは 2009 年に発表された APGIII 分類体系に基 づくと下記のような植物分類学上の位置(大場 , 2009; 邑 の組合せから種が成立したと考えられている(皿嶋 , 1990)。 田・米倉 , 2012)にある。 真正双子葉類(Dicolyledons) アオイ群(Malvids(Eurosids II) ) アブラナ目(Brassicales) アブラナ科(Brassicaceae = Cruciferae) アブラナ属(Brassica) (山岸 , 1989) カラシナ Brassica juncea(L.)Czern. et Coss. カラシナは、葉の形がきわめて多様であることから、 かつては様々な種名が名づけられ、種の分類に混乱を招 、Vaughan and い て い た が(Prakash and Hinata, 1980) Gordon(1973)により、Brassica juncea(L.)Czern. に統 一する提案がなされた。 B. juncea に統一されるまでに用いられていた種名とし て、B. besseriana、B. cernua、B. urbania、B. willdenowii、 B. richerii、B. laevigata、Sinapis juncea、S. rugose、S. cernua、S. chinensis、S. integrifolia、S. campestris、S. timoriana、S. ramose、S. cuneifolia、S. patens があげられる (山岸, 1989; Kitamura, 1950; Prakash and Hinata, 1980)。現 図 1 アブラナ属 Uトライアングルにおけるカラシナ(II) およびアブラナ・セイヨウアブラナ(III)の位置 づけ、染色体数およびゲノム構成(U, 1935) 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 7 カラシナの起源地に関しては、アジア(Bailey 1922; 書物である「新選字鏡」(892 年)には「太加奈」、 「本草 Sinskaja, 1928)とする説、アフリカ(Burkill, 1930)と 和名」 (918 年)には「加良之」などの文字が認められ、 する説、第一次中心地が中央アジア(アフガニスタンと また「延喜式」(927 年)にも芥子、菘などの名が見られ その周辺) で、油糧用カラシナの第二次中心地はインド、 る。これらのことからも、カラシナは日本に伝来してか 野菜用カラシナの第二次中心地は中国東部および日本 ら既に 1,000 年以上の歴史をもつ古い作物である。 (Vavilov, 1949)であるとする説がある。また、現在も中 近東地域にはカラシナの野生種が生育し(山岸 , 1989)、 3.分布域と生育環境 ここを起源地とする説(Mizushima and Tsunoda, 1967; 1)世界における分布 角田 , 1991; 山岸 , 1989; 皿嶋 , 1990)が有力である。中近 温帯を中心に、熱帯の一部まで広がっており(竹松・ 東地域で発生したカラシナは、アフガニスタンを経て、 一前 , 1998; 清水 , 2003)、アジア、ヨーロッパ、北アフリ 一方は東北アジアから中国地方へ、もう一方がパキスタ カ、オーストラリア、南北アメリカでみられる(竹松・ ン、 イ ン ド に 伝 播 し た と 考 え ら れ て い る( 図 2) 一 前 , 1998)。Zohary(1973)、Hedge(1976)、Oztürk (Mizushima and Tsunoda, 1967; 角田 , 1991; 皿嶋 , 1990; et al.,(1983)による世界の分布情報を Warwick et al., 。日本へは、中国から直接か、あ 山岸 , 1989; 星川 , 1987) 。野生種、栽培種、雑草 (2009)が整理している(図 3) るいは朝鮮半島を経由して伝搬したのが主なルートと推 化した逸出種等は、海岸低地、砂浜、高原地、1,150 m か 定されている。また、西欧系品種の特性をそなえた品種 それ以上の山地に存在し、砂の多い道路沿いや荒れ地、 が、東北日本で古くから栽培されており、シベリア方面 畑には雑草化したものが多くみられる(Warwick et al., から直接北日本に渡来したものもあったと考えられてい 2009)。 る(青葉 , 1972)。星川(1987)によれば、9–10 世紀の 図 2 アブラナ属作物の三基本ゲノム種の自生地の分布と伝播ならびに、三複二倍体種の推 定成立地帯(水島・角田 , 1969) 8 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 図 3 カラシナの分布が報告されている国 2)日本における分布 第 2 章 形態的特性 日本におけるカラシナの分布を具体的に記載した文献 表 3 にセイヨウアブラナ、アブラナ、カラシナの形態 は非常に乏しい。そこで、引用可能な論文に加えて、環 的特徴を示した。カラシナの子葉は、深い切れ込みがあ 境省や農林水産省の資料、さらに国立科学博物館などの り、腎臓型をしている。茎は直立し、分岐があり、高さ 情報(近田ら , 2006: 国土交通省 , 2012; 北海道ブルーリス 50–100 cm、無毛で白緑色である。葉は根生葉と茎につ ト , 2010; 阿部ら , 2004; 国立科学博物館 , 2012; 環境省 , く葉からなる。根生葉はへら形で長さ 20 cm、羽状に分 2010; 農林水産省 , 2011; 金井ら , 2008; Tsuda et al. 2014) 裂し鋸歯がある。茎につく葉は中部から下部のものが長 などから各都道府県の分布を整理したところ、全都道府 楕円形で粗い鋸歯があり、上部のものが全縁である。花 県に分布することが確認された。 弁は長楕円形で長さ 8–10 mm、がく片は開花時には斜め 生育環境としては、畑地、樹園地、牧草地、路傍、荒 上に向けて立つ。莢は線形で長さ 3–6 cm、先端に長さ 地などに生育する。日当たりのよい温暖地を好み、肥沃 5–10 mmのくちばし部分がつくが種子は入っていない。 地ほど生育がよく、特に壌土(粒径 2mm 以下の土壌の中 種子は球形で直径 1.5–2 mm、褐色を帯びる(竹松・一前 , に粘土が 25 ∼ 37.5%含まれる土壌)が適しており(竹 1998; 清水 , 2003; 長田 , 1980)。カラシナでは、葉と葉の 、アブラナ科の中では最も高温に耐性が 松・一前 , 1998) 基部が、図 4 に示すように茎を抱かない(北村 , 1947; 。環境適応の幅が広く、生 ある(Khatikarn et al., 1991) Kitamura, 1950; 日向 , 1997)。根は直根となる。 。本州の一部に帰化した 育力も旺盛である(日向 , 1997) カラシナの大群落があり(竹松・一前 , 1998; Levy, 1995; 、乾燥している河川敷、土手に自生集団を 清水ら , 2003) 。 形成する(Nishizawa et al., 2010) 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 9 表 3 セイヨウアブラナ、アブラナ、カラシナの形態的特徴の比較 部位 葉 茎 花 花弁 根 莢 種子 セイヨウアブラナ 根生葉と茎につく葉からなる。根生葉は頭 大羽状分裂し、あらい鋸歯を持ち、有柄。 茎につく葉は、上部につく葉は長楕円形 から披針形で全縁、小型で茎を抱く、葉色 は、暗めの青みがかった緑で、白いロウで 覆われている。 直立し、分枝があり、50-100 ㎝、茎は全 体に粉白緑色を示す 黄色の十字状花で茎頂にを総状花序を形 成する。 長さ 10 ∼ 20 ㎜ 直根 線形で長さ 5 ∼ 10cm、先に長さ 5 ∼ 20mm のくちばしがつく 球形で長さ 1.5 ∼ 2.5 ㎜、黒色を示す アブラナ 根生葉と茎につく葉からなる。根生葉は頭 大羽状に深裂し、鋸歯があり、裏面に毛が あり長柄を持つ。茎につく葉は、互生、上 位の葉は、無柄で、全縁に近く長方形披針 形である。下位の葉はわずかに鋸歯があ り、羽状分裂で葉柄がある。 カラシナ 根生葉と茎につく葉からなる。根生葉は、 へら形で長さ 20 ㎝、羽状に分裂し鋸歯が ある。茎につく葉は、中∼下部のものが長 楕円形であらい鋸歯があり、上部のもの が全縁である。 直立し、分枝があり、30-100 ㎝、有毛 直立し、分枝があり、50-100 ㎝、無毛 黄色の十字状花で茎頂にを総状花序を形 成する。 倒卵形で長さ 6 ∼ 10 ㎜ 直根で太く長い 線形で長さ 4 ∼ 8cm、先にのくちばしがつ く 球形で長さ 2 ㎜、赤褐色∼黒色 黄色の十字状花で茎頂にを総状花序を形 成する。 長楕円形で長さ 8 ∼ 10mm 直根 線形で長さ 3 ∼ 6cm、先に長さ 5 ∼ 10mm のくちばしがつく。 球形で長さ 1.5 ∼ 2 ㎜、褐色を帯びる 葉が茎を抱かない 葉が茎を抱く 葉が茎を抱く 図 4 カラシナ(写真左) 、アブラナ(写真中央)およびセイヨウアブラナ(写真右)の葉の基部と茎の形態 第 3 章 生活史特性 1.生活史 2.種子休眠性 野生のカラシナの種子の休眠性について記載された文 秋に発芽後、越冬して、春に開花し、翌年に枯れる冬 献は見当たらず、ここでは、栽培種の種子休眠性につい 型の一年生草本(越年草、二年草とも記載される)であ て記載した。種子は褐色または黄色で休眠性を持つ(青 。 る。種子繁殖し、周年発生する(清水 , 2003) 葉 , 1986)。収穫後の乾燥貯蔵(Tokumasu, 1975; 徳増ら , 1981)や莢ごと保存する(Tokumasu, 1971; 徳増ら , 1981) ことで、種子の休眠覚醒が遅延するとの報告がある。ア リルイソチオシアネートやβ - フェネチルイソチオシア ネートを主成分とするカラシ油成分が種子の発芽抑制物 質とされている(Evenari, 1949)。 10 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 3.開花 5.他の生物との相互作用 低温感応性および日長感応性には大きな変異があるが 1)カラシナに害を及ぼす生物 、花芽分化や抽苔に低温を必要と (Khatikarn et al. 1991) 病 原 体 と し て は、Albugo candida( 白 さ び 病 )、 せず、長日条件によって抽苔が促進され(Khatikarn et Alternaria spp.(黒斑病)、Fusarium spp.、Pythium spp.、 、春に開花する al., 1991)、花芽を分化し(青葉 , 1986) Rhizoctonia solani( 立 枯 病、 根 腐 れ 病 ) 、Leptosphaeria 。日本における開花期は、 (清水, 2003; 竹松・一前, 1998) maculas. L. biglobosa(根朽ち病)、Peronospora parasitica 松尾・伊藤(2001)によるさく葉標本および現地調査に (うどん粉病) 、Plasmodiophora barassicae(ねこぶ病)、 よって、北海道地方で 8 月上旬、東北地方で 7 月下旬、 Pseudocercosporella capsellae(白斑病)が報告されている 北陸地方では 4 月下旬から 5 月下旬、関東地方は 4 月上 。 食 害 昆 虫 と し て、Agrotis orthogonia、 (CFIA, 2007) 旬から 6 月上旬、東海地方は 4 月中旬から 5 月上旬、近畿 Dicestra trifolii、Euxoa ochrogaster( ネ キ リ ム シ )、 地方は 3 月下旬から 5 月末、中国地方は 4 月中旬から 6 月 Autographa californica(シャクトリムシ)、Ceutorhynchus 上旬、四国地方は 3 月中旬から 5 月中旬であることが報 obstrictus( ゾ ウ ム シ )、Delia spp.( ネ ク イ ム シ ) 、 。また、セイヨウアブラナ、アブラ 告されている(図 5) Entomoscelis americana(コウチュウ目の一種)、Laxostege ナ、カラシナの 3 種における開花期の重複は、関東地方 sticticalis(ウェブワーム) 、Lygus spp.(ミドリメクラガ で 4 月上旬から 5 月中旬、近畿地方では 3 月下旬から 4 月 メ)、Mamestra configurata(ヨトウガ)、Plutella xylostella 。 末であると推定されている(松尾・伊藤 , 2001) (コナガ)、Phyllotreta spp.(ノミハムシ)、また、鳥や動 物による食害が報告されている(CFIA, 2007)。 4.交配様式 2)カラシナにとって有益な生物 ポリネーターが訪花しなくとも自家受粉する花器構造 カラシナは、ミツバチを主要なポリネーターとして、 。以前は、ポリネー を持っている(Howard et al., 1916) その他にハエ目やハチ目蜂類を訪花昆虫としている タ ー は 種 子 生 産 に 全 く 貢 献 し て い な い(Free and (Sihag, 1986)。カラシナの訪花昆虫は、農業環境インベ Spencer-Booth, 1963)と考えられていたが、結実の際に ントリーセンター(2008)による「ナタネ等アブラナ科 はポリネーターが重要な役割を果たす場合もあり (大沢・ 植物の訪花昆虫検索表」において参照可能である。また、 、カラシナ類の維持、増殖のための網室採種 生井 , 1987) 根圏に根菌や土壌細菌が共生し、有益生物としては、土 。 に利用されている(生井 , 1983) 壌の耕うん、改良の役割を行うミミズが生息する(CFIA, カラシナの花粉サイズは、直径がおよそ 25–35 μm(幾 。蜜の平均糖度は 52%(22– 瀬 , 1956; Mason et al., 2011) 65%)である(Free, 1993)。 2007、豊田 , 2009)。 3)カラシナが他の生物に及ぼす影響 アブラナ科野菜が特徴的に持つアレロパシー物質とし て、カラシ油配糖体(グルコシノレート)が知られてい る(Brown and Morra, 1997)。揮発性物質イソチオシア ネートは、アブラナ科野菜の細胞組織が破壊される時 に、酵素ミロシナーゼによる加水分解反応によってグル コシノレートから生成され、アブラナ科野菜の食味に関 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 係する重要な化学成分であり、抗菌活性、抗寄生虫活性 四 国 等の強い生理活性作用があることが知られている 中 国 。イ (Bending and Lincoln, 1999; 小嶋 , 1988; 水谷 , 1982) 近 畿 ソチオシアネート類の中でも特にアリルイソチオシア 東 海 ネートは、からしなどの辛みの主成分である(小嶋 , 関 東 1988)。カラシナの生葉を圃場にすき込むことで、カラ 北 陸 東 北 北海道 シナから発生するアリルイソチオシアネートを利用した 雑草種子の発芽抑制効果の可能性が示されている(草川 ら , 2000)。 図 5 現地調査ならびにさく葉標本調査に基づくアブラ ナ属 3 種の開花期の推定(松尾・伊藤 , 2001) 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 第 4 章 栽培種としてのカラシナ 1.日本における利用の歴史 「本草和名」(延喜 熊沢(1965)によると、日本では、 18 年・918 年)に‘和名加良之 とあるのがカラシナ類 であり、 「新選字鏡」 (寛平 4 年・892 年)に‘太加奈 と 11 の幅が広く多肉質の三池タカナ、キョウナに似た雪裡紅 (J-L)などがあり、葉面に毛茸を持たないものから、東 北のカラシナや根ガラシ(G-I)のように毛茸を密生する ものまである(青葉 , 1972)。 花弁は、アブラナより細長く、花弁足は長く、開花時 あるのがタカナ類であり、 「延喜式」 (延喜 6 年・928 年) に花弁間はやや離れる。多くの品種は鮮黄色であるが、 にも‘芥子(カラシ)、 ‘菘(タカ) が記載され、ともに 淡黄色の品種から濃黄色の品種まである。花軸がよく伸 古代中国から渡来したものであろうとされている(吉武 , 長し、着花はまばらであり、花は横向きに咲く。6 本の 1977)。さらに、奈良時代には芥子粉が利用された記録 雄ずいはがくの基部の内側から生じ、このうちの 4 本は があり、今も芥子粉をとるカラシの他、葉菜として関西 長く、いわゆる 4 強雄ずいになる。長い 4 本は雌ずいに 以西、特に福岡県を中心とする九州地方ではタカナが、 接し、葯は雄ずいの側を向き、短い 2 本は外方に湾曲し また関東以北でカラシナが発達してきた。これらは、明 雌ずいから離れている。葯は内側が縦に裂け、多数の花 治以降の中国などから導入された品種との交雑によって 粉を出す(青葉 , 1972)。 。明治には、‘四川 改良が加えられている(山岸 , 1989) 青菜 が、昭和には、 ‘瘤子芥 や‘二宮 のような多肉種 。現在は、カラシナ類の も導入されている(吉武 , 1977) 黄ガラシナ、葉ガラシナ、ヤマシオナ、根ガラシ類の根 ガラシ、雪裡紅類の銀糸芥とチヂミハガラシ、タカナ類 の大葉タカナと長崎タカナ、南方カラシ類のカツオナ、 山形セイサイ、三池タカナなどが食用ツケナとして栽培 。他に、薬用としての利用も がされている(青葉 , 1972) 。関東以北においてはカラシナ ある(竹松・一前 , 1998) を芥子粉用ならびに野菜用として栽培し、関西以西で は、タカナ類を漬物用に栽培している。特に、暖地では 水田裏作に適するため、長期の漬物のほか、浅漬けやカ 。 ツオナのように煮食にも供される(吉武 , 1977) 2.日本における栽培種の形態的特性 これまで自生するカラシナの多様性を示した研究はな い。しかし、自生地も広く、多様な地形や気候に適応し ていることから、栽培特性等においても多様性の高さが 推定される。 西日本には全縁葉で無毛の品種が多く、東日本には欠 刻葉で有毛の品種が多く、特に東北北部以北に毛の多い 品種が認められる。また、日本のカラシナの品種の多く は褐色種子であるが、芥子粉用の品種と東北のハガラシ (A-F)には黄色種子のものがある。また、岩手県には、 A 型種皮(加湿時に種皮が水泡状になる)の品種がある。 熊沢・阿部(1955)により示されたカラシナ類の各品種 。タカナの葉は、広 群における葉の形態図を示す(図 6) くてうすく、色は鮮緑色から濃緑色であり、毛茸のない ものが多い(N-S) 。中肋の広いものが多く、特にカツオ ナの仲間(P)は、幅広く多肉である。また、茎葉も基 部が狭く、茎を抱かない。葉の大きい大葉タカナ、中肋 図 6 カラシナの各品種群における根出葉の形態(熊沢・ 阿部 , 1955) A–F:葉ガラシ類(B:葉ガラシナ、E:ヤマシオ ナ)、G–I:根ガラシ類、J–L:雪裡紅類、M:アザ ミナ、N–S:タカナ類(O:川越ナ、P:カツオナ、 Q:長崎タカナ、R:青葉タカナ、S:広島紫タカ ナ)、T–V:多肉性タカナ(U:三池タカナ、V:柳 河タカナ)、W:大心菜 12 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 3.有用形質および遺伝子組換え技術の利用 al., 2008)を用いた様々な形質転換体が作出され、形質転 1)カラシナが有する有用形質 換効率の向上(Mohammed et al., 2011)による技術の応 ア)細胞質雄性不稔 (Cytoplasmic male sterility = CMS) 用や実用化が進められている。付与される特性として、 CMSは、核供与親と細胞質提供親のゲノム間の不和合 油組成の改良を目的とした形質転換(Das et al., 2006; 性によって花粉が作られない性質であり、雑種作出の効 Kanrar et al., 2006)や、莢の裂開抵抗性(Østergaard et 。アブラナ科の中でも 率化に有用である(Havey, 2004) 、 塩 耐 性(Prasad et al., 2000; Rajagopal et al., al., 2006) Brassica 種(Budar et al., 2004)では、多くの CMS 品種 2007)、除草剤 2,4-D 耐性(Bisht et al., 2004)、アブラムシ が報告されている。なかでもカラシナについては、B. 、コナガ抵 抵抗性(Kanrar et al., 2002; Dutta et al., 2005) oxyrrhina(Prakash and Chopra, 1990)、B. tournefortii 、病原菌耐性(Mondal et al., 2007) 、 抗性(Cao et al., 2008) (Rawat and Anand, 1979; Pradhan et al., 1991; Arumugam 重金属耐性(Bañuelos et al., 2005; 2007; Gastic and Korban, et al., 1996 )、Diplotaxis siifolia(Rao et al., 1994 )、 2007; Pilon-Smits, 2005; Zhu et al., 1999)等の性質を持っ 、D. erucoides(Bhat et D. catholica(Pathania et al., 2003) たカラシナについての報告があり、圃場試験も行われて 、D. berthautii(Bhat et al., 2008) 、Trachystoma al., 2006) いる(Warwick et al. 2009)。 ballii(Kirti et al., 1995a)、Raphanus sativus(Kirti et al., 1995b)、Moricandia arvensis(Prakash et al., 1998)およ 第 5 章 遺伝学的情報 び Erucastrum canariense(Prakash et al., 2001 )、 1.ゲノム情報 E. lyratus(Banga et al., 2003a)などの細胞質をもつ異質 細胞質雄性不稔カラシナの品種が多数ある。 アブラナ属植物は、シロイヌナズナ属からおおよそ 2 千万年前に分化したとされる(Yang et al., 1999; Koch et イ)重金属吸収 al., 2001)が、ゲノムサイズが 160 Mbp のシロイヌナズ 近年、環境負荷の少ない環境修復技術によって、重金 ナ に 対 し て ア ブ ラ ナ 属 は 二 倍 体 種 で 470–700 Mbp 属や残留農薬、ダイオキシン、内分泌攪乱物質といった (Johnston et al., 2005; Schmidt et al., 2001)、複二倍体種 有害物質による大気、河川、土壌の汚染を浄化すること で最大 1,285 Mbp(Johnston et al., 2005)と言われる。カ (バイオレメディエーション)に注目が集まっている ラ シ ナ は、1,105 Mbp で あ る と 報 告 さ れ て い る 。カラシナ (Ensley, 2000; Salt et al., 1995a; 森川ら , 2001) (Arumuganthan and Earle, 1991)。ゲノムの進化における の茎や葉は、高い重金属含有率を示し、しかもバイオマ 倍数性の構成については、第 1 章 2.起源と伝播にあるよ スが大きいことから重金属汚染土壌の浄化に適した植物 うにカラシナは A ゲノムと B ゲノムをあわせ持つ複二倍 として脚光を浴びている(早川・栗原 , 2002; Ebbs et al., 体であるが、アブラナの A ゲノムは、2011 年に全塩基配 1997; Salt et al., 1995a)。カラシナは、重金属の中でも特 。クロガラシの B ゲ 列が解読された(Wang et al., 2011) にカドミウム吸収に関する報告が多い(Ebbs et al., 1997; ノムは、アブラナの A ゲノムやキャベツ類の C ゲノムと Hasegawa, 2002; Kayser et al., 2000; Kumar et al., 1995; 比 較 さ れ て い る(Navabi et al., 2013; Lagercrantz and Romkens et al., 2002; Salt et al., 1995b; Zhu et al., 1999; 我 Lydiate, 1996)が、全ての解明には至っていない。 。 妻ら , 2002) ウ)バイオフューミゲーション(生物的くん蒸) 2.マーカー情報 近年、アブラナ科植物等をすき込み灌水、被覆するこ カラシナの初期の連鎖地図として、RFLP(Restriction とで土壌を還元化し、土壌病害虫を抑制する技術(バイ Fragment Length Polymorphism)と AFLP (Amplified オフューミゲーション)が注目されている。カラシナの Fragment Length Polymorphism)マーカーを用いたもの 辛味成分であるアリルイソチオシアネートがホウレンソ (Axelsson et al., 2000; Christianson et al., 2006, Pradhan et ウの萎凋病菌(Fusarium oxysporum)の生育を抑制し、 al., 2003)が作られている。その後、マーカー密度がより 殺菌作用を示すことが報告されている(目時 2010)。 高 い、 計 1,148 の AFLP、RFLP、SSR(Simple Sequence 2) 遺伝子組換え技術の利用 Repeat)と遺伝子マーカーを使った地図(Ramchiary et al., アブラナ属におけるこれまでの遺伝子組換え技術の利 2007)や、999 の SNP(Single Nucleotide Polymorphism) 用は、グリホサートおよびグリホシネートなど除草剤耐 マーカーと 709 の IP(Intron Polymorphism)マーカーに 性のセイヨウアブラナを中心に展開されてきた(表 1)。 よる連鎖地図(Panjabi et al., 2008)が公表されている。 近年はカラシナにおいても、胚軸や葉の切片(Dutta et 近年では、次世代シーケンサーによるゲノム全体にわた 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 13 る解析によって、カラシナの 2 品種について A ゲノム上 17.8% であった。Abraham(1994)によるインドの品種 の 85,473 の SNP マーカーと B ゲノム上の 50,236 の SNP を用いた実験では、他殖率の平均値は 7.5%と報告され マーカーを検出し、連鎖地図の高密度化に成功している (1999) 、 ている。西ら(1964)、GhoshDastidar and Varma 。その他には、アブラナ科のモデル (Paritosh et al., 2014) Rao and Shivanna(1997)、Tsuda et al.(2011)によるカ 植物シロイヌナズナで明らかとなったマーカーを比較し ラシナの交配では、交配花あたりの種子数は、7.90– 。現段階 て利用する手法がとられてきた(Parkin, 2011) 14.46 粒であり、平均値は 11.69 粒であった。中国の野生 ではまだカラシナの全塩基配列は解読されていないた カラシナを用いた交配実験では、交配花あたりの種子数 め、 全 塩 基 配 列 が 解 読 さ れ て い る シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ は、13.05–15.83 粒、平均値は 14.91 粒であった(Song and (Arabidopsis genome initiative, 2000)や、セイヨウアブ 。また、中国の野生カラシナと栽培種間の Qiang, 2003) 、クロガラシ ラナの A、C ゲノム(Piquemal et al., 2005) 種内交雑においては、交配花あたりの種子数の範囲は の B ゲノムと比較し、計 533 のマーカーが示されている 14.34–15.50 粒、 平 均 値 は 14.92 粒 で あ っ た(Song and 。 (Pradhan et al., 2003) Qiang, 2003)。また、種内交雑における雑種強勢として、 主枝数の増加、1000 粒重や収量の増加などが報告され 第 6 章 近縁種との雑種形成と遺伝子浸透 て い る(Gupta, 1976; Pradhan et al., 1993; Mahto and 1.種内交雑における他殖率 Haider, 2004)。 カラシナは自家和合性とされている(大沢・生井 , 1987)。一般に複二倍体種は、自家和合性が高く不完全 2.カラシナと他のアブラナ属植物との交配および培養 な自殖性作物(植物集団内で変異を維持、拡大する他殖 による交雑親和性 の機構と集団内の遺伝的斉一性を維持する自殖の機構の アブラナ、クロガラシ、キャベツ類、セイヨウアブラ 、その他 両方を備える)とされており(Kakizaki, 1925) ナ、B. carinata、B. oxyrrhina、B. cossoneana、B. 殖率には、大きな品種間差異があると報告されている maurorum、B. tornefortii(ハリゲナタネ)、B. fruticulosa、 。 (八城ら , 2001; Yashiro et al., 1999) B. gravinae とカラシナ間の正逆の交雑親和性を表 4−表 5 つのカラシナの栽培品種を異なる畝に栽培した場合 6 に示した。 は、各品種 24%程度の他殖率が確認されている(Howard 1)カラシナとアブラナ 。また、Rakow and Woods(1987)により示 et al., 1916) カラシナとアブラナとの交配および子房培養による雑 さ れ た カ ナ ダ の 品 種 の 他 殖 率 は 20–30%、 平 均 値 は 種形成は、アブラナが花粉親あるいは種子親であっても 表 4 カラシナとアブラナの種間交雑親和性 培養による交雑親和性 の評価 交配による交雑親和性の評価 種名 種子生産性 雑種生産性 雑種 (種子数 / 交配花)(雑種数 / 交配花) 雑種 形成 形成 範囲 平均 範囲 平均 子房培養 範囲 引用文献 平均 %*1 花粉親 ○ 0.00 ∼ 2.96 0.39 0.00 ∼ 5.66 0.85 ○ 0.00 ∼ 45.5 16.24 種子親 ○ 0.00 ∼ 10.40 0.07 0.00 ∼ 0.50 0.00 ○ 12.00 ∼ 38.50 25.25 B. rapa (アブラナ) * 1…雑種形成数/培養に用いた子房・胚珠・胚数 ×100 Sharma and Singh 1992, Salisbury 1989, Rhee et al. 1997, Gupta 1997, Choudhary and Joshi 2001, Roy 1980, Anand et al. 1985, Choudhary et al. 2002, Katiyar and Chamola 1998, Rao and Shivanna 1997 , GhoshDastidar and Varma 1999 , Kakizaki 1925 , Song and Qiang 2003 , Choudhar y and Joshi 1999 , Mohapatra and Bajaj 1988, Takeshita et al. 1980 Takeshita et al. 1980, Rhee et al. 1997, 西 ら 1964, Roy 1980, Katiyar and Chamola 1995, Mohammad and Sikka 1940 , Yamagishi and Takayanagi 1982, Choudhary and Joshi 1999, Prasad et al. 1997, GhoshDastidar and Varma 1999, Kakizaki 1925, Rhee et al. 1997 14 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 表 5 カラシナとクロガラシおよびキャベツ類間の種間交雑親和性 培養による交雑親和性 交配による交雑親和性の評価 種名 種子生産性 の評価 雑種生産性 雑種 雑種 (種子数 / 交配花) (雑種数 / 交配花) 形成 形成 範囲 平均 範囲 平均 花粉親 B. nigra ○ 0.00 ∼ 10.20 2.11 0.03 ∼ 0.10 0.06 − 引用文献 胚救済 報告無し (クロガラシ) B. oleracea (キャベツ類) 種子親 ○ 0.00 ∼ 0.01 0.00 0.01 0.01 花粉親 × 0.00 ∼ 0.08 0.02 0.00 0.00 種子親 × 0.00 ∼ 0.12 0.03 0.00 0.00 − 報告無し Mohammad and Sikka 1940, Rao and Shivanna 1997, Bing et al. 1996 , Bing et al. 1991 , Prasad et al. 1997 , GhoshDastidar and Varma 1999, Morinaga 1934 Mohammad and Sikka 1940, Bing et al. 1996, Bing et al. 1991, GhoshDastidar and Varma 1999 ○ Busso et al. 1987, Rao and Shivanna 1997, Kakizaki 1925, ○ (形成率無記載) GhoshDastidar and Varma 1999, Gupta 1997 Yamagishi and Takayanagi 1982, 西 ら 1964, Kakizaki − 報告無し 1925, GhoshDastidar and Varma 1999, Plieske et al. 1998 表 6 カラシナとセイヨウアブラナ間の種間交雑親和性 交配による交雑親和性の評価 培養による交雑親和性の評価 種子生産性 雑種生産性 (種子数 / (雑種数 / 子房培養 胚珠培養 胚培養 雑種 雑種 交配花) 交配花) 形成 形成 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 %* 1 種名 引用文献 Bajaj et al. 1986, Sharma and Singh 1992, Zhang et al. 2003, Frello et al. 1995, Zhao et al. 2003, Heenan et al. 2007, Tsuda et al. 2011, Mathias 1985, Bing et al. 1991, Bing et al. 1996, GhoshDastidar and Varma 1999, Mohammad and Sikka 0.21 ∼ 0.00 ∼ 0.41 ∼ 30.40 ∼ 4.24 ∼ 1940, Sabharwal and Dolezel 1993, Rao and Shivanna 1997, 4.96 4.05 ○ 43.37 42.40 24.94 Choudhary and Josh 1999, Song et al. 2009, Song et al. 2010, 16.50 13.5 67.60 49.50 73.00 Lei et al. 2011, Di et al. 2009, Choudhary and Joshi 2001, B. napus Sandhu and Gupta 2000, Schelfhout et al. 2006, Prakash and (セイヨウ Chopra 1990, Liu et al. 2010, Roy 1984, Mason et al. 2011, アブラナ) Roy 1980, Gupta 1997 Sacristan and Gerdeman 1986, Bajaj et al. 1986, Zhang et al. 2003, Frello et al. 1995, Zhao et al. 2003, Heenan et al. 2007, Choudhary and Joshi 1999, Yamagishi and Takayanagi 1982, 0.01 ∼ 0.00 ∼ 5.40 ∼ 37.50 ∼ 0.77 ∼ 種子親 ○ 1.99 0.07 ○ 10.15 39.75 22.62 GhoshDastidar and Varma 1999, Mohammad and Sikka 26.20 0.32 14.90 42.00 60.90 1940, Sabharwal and Dolezel 1993, Schelfhout et al. 2006, Kirti et al. 1995a, Roy 1980, Gupta 1997, Mason et al. 2011 * 1…雑種形成数/培養に用いた子房・胚珠・胚数 ×100 花粉親 ○ 可能であった(表 4) 。 2)カラシナとクロガラシ、カラシナおよびキャベツ類 カラシナとアビシニアガラシとの間ではどちらが花粉 親であっても交配による雑種形成が確認されている。ま カラシナとクロガラシとの交配による雑種形成は、ク た、 子 房 培 養 に よ る 雑 種 形 成 も 確 認 さ れ て い る。B. ロガラシが花粉親あるいは種子親のいずれであっても可 oxyrrhina、B. cossoneana、B. maurorum、B. gravinae と 能であったが、培養による評価は行われていない。カラ の間では、これらの種が花粉親である場合にのみ雑種形 シナとキャベツ類との交配による雑種形成は、どちらが 成が確認されている。ハリゲナタネとの雑種形成は、培 花粉親であっても確認されておらず、キャベツ類が花粉 養による雑種形成のみが確認され、B. fruticulosa との雑 親である場合にのみ胚救済による雑種形成が確認されて 。 種形成は、現在のところ確認されていない(表 7) 。 いる(表 5) 3)カラシナとセイヨウアブラナ 3.カラシナとその他のアブラナ属植物との自然交雑性 カラシナとセイヨウアブラナと交配および培養による セイヨウアブラナとカラシナの自然交雑性は、セイヨ 雑種形成は、セイヨウアブラナが花粉親あるいは種子親 ウアブラナからカラシナへの遺伝子浸透の評価に欠かせ 。 であっても可能であった(表 6) ない知見であるとともに、セイヨウアブラナからカラシ 4)カラシナとその他のアブラナ属植物 ナを介した近縁種への遺伝子浸透の評価にも有用であ 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 15 表 7 カラシナとその他のアブラナ種植物との種間交雑親和性 種名 (和名、帰化 / 外国) 雑種 形成 交配による交雑親和性の評価 種子生産性 雑種生産性 (種子数 / 交配花) (雑種数/交配花)雑種 範囲 平均 範囲 平均 花粉親 ○ 0.22 ∼ 0.75 0.48 0.02 ∼ 0.2 0.48 種子親 ○ 0.04 0.04 − B. oxyrrhina ( 外国種) 花粉親 ○ − − 種子親 × − B. cossoneana ( 外国種) 花粉親 ○ 種子親 − B. maurorum ( 外国種) 花粉親 ○ B. carinata 培養による交雑親和性の評価 子房培養 胚珠培養 胚救済 %* 1 Sharma and Singh 1992 , Gupta 1997 , Rahman 1976, Singh et al. 1997, Barcikowska et al. 1994, Sheikh et al. 2009, Yadava 1991, Mason et al. 2011, Sandhu and Gupta 2000 , Katiyar and Chamola 1995, Anand et al. 1985, Harberd and McArthor 1980, Getinet et al. 1997, Rao and Shivanna 1997, GhoshDastidar and Varma 1999 GhoshDastidar and Varma 1999 , Getinet et al. 1997, Mason et al. 2011 Bijral and Sharma 1999, Salisbur y 1989, Katiyar and Chamola 2007 Salisbury 1989 ○ 0.03 0.03 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − Harberd and McArthor 1980 − − − − − − − − − 報告無し − − − − − − − − − Bijral et al. 1995, Rahman 1976 ○ 3.40 3.40 − − − − Chrungu et al. 1999 ○ ○ Lokanadha and Sarla 1994 , GhoshDastidar and ○ ○ (形成率無記載)(形成率無記載)(形成率無記載)Varma 1999, Goyal et al. 1997 ○ ○ Lokanadha and Sarla 1994 , GhoshDastidar and ○ − − Varma 1999 (形成率無記載)(形成率無記載) − − − − − − − Salisbury 1989 − − − − − − − Salisbury 1989 ○ 23.80 23.80 − − − − Nanda Kumar et al. 1989 × 0.00 0.00 − − − − Nanda Kumar et al. 1989 (アビシニアガラ シ、外国種) − ○ (数値無記載) − − ○ (数値無記載) − − 引用文献 形成 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 種子親 − − − B. tounefortii 花粉親 (ハリゲナタネ、 種子親 帰化種) × 0.00 − − − × 0.00 − − − B. fruticulosa 花粉親 × − − − 種子親 × − − − (外国種) B. gravinae 花粉親 ○ 0.13 0.13 − 種子親 × 0.00 0.00 − ( 外国種) * 1…雑種形成数/培養に用いた子房・胚珠・胚数 ×100 − − − − 和名がある植物種には()に和名を、日本に分布する種には、在来種、帰化種の別を、日本に分布していない種は外国種と記載した 表 8 カラシナとセイヨウアブラナおよびクロガラシとの自然交雑性 交雑率 (% ) 種名 B. napus (セイヨウアブラナ) B. nigra (クロガラシ) 混植 花粉親 0.13 ∼ 5.91 種子親 花粉親 種子親 1.10 ∼ 1.30 − 0 隔離 0.00 ∼ 0.05 (1 ∼ 27.5m) − − − 引用文献 Tsuda et al. 2012a, Heenan et al. 2007, Jørgensen et al. 1998, Huiming et al. 2007, Liu et al. 2010, Bing et al. 1991, 1996 Heenan et al. 2007, Jørgensen et al. 1998, Bing et al. 1991, 1996 報告無し Bing et al. 1991, 1996 る。カラシナとセイヨウアブラナとの自然交雑に関する カラシナを混植した場合には 1.62%、花粉源から 1 m離れ 報告は多いが、カラシナと他のアブラナ属植物との自然 た地点の交雑率は 0.05%と大きく減少し、5 mおよび 10 m 交雑に関する知見はクロガラシとの自然交雑に関する報 地点で 0.04%、雑種が確認された最も遠い地点は 17.5 m 。 告のみであった(表 8) で、その交雑率は 0.03%であった(表 7)。 1)カラシナ(種子親)とセイヨウアブラナ(花粉親) 2)セイヨウアブラナ(種子親)とカラシナ(花粉親) セイヨウアブラナとカラシナを同一区画内に混植した 混植条件下での交雑率は、1.1–1.3%と報告されている 条件下での自然交雑による交雑率は、0.13–5.91%の範囲 (表 7)(Bing et al., 1991; 1996; Jørgensen et al., 1998; で あ っ た(Bing et al., 1991; 1996; Huiming et al., 2007; Heenan et al., 2007; Rieger et al. 1999)。 Jørgensen et al., 1998; Tsuda et al., 2012a; Heenan et al., 3)クロガラシとカラシナ 2007; Liu et al., 2010)。また、花粉源のセイヨウアブラナ クロガラシ(種子親)とカラシナ(花粉親)を混植し から種子親までの距離と交雑率の関係については、 た条件において、放任受粉による交雑は報告されていな Tsuda et al.(2012a)が報告しており、セイヨウアブラナと い(Bing et al., 1991; 1996)。 16 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 表 9 カラシナとその他の属の植物との属間交雑親和性 種名 (和名、在来 / 帰化 / 栽培 / 外国) 交配による交雑親和性の評価 雑種 種子生産性 生産性 (種子数 / (雑種数 / 雑種 雑種 交配花) 交配花) 形成 形成 範囲 平均 範囲 平均 Diplotaxis virgata ( 外国種) D. siifolia ( 外国種) D. siettiana ( 外国種) D. erucoides ( 外国種) D. catholica ( 外国種) D. berthautii ( 外国種) D. muralis (外国種) D. tenuifolia (ロボウガラシ、帰化種) Raphanus sativus (ダイコン、栽培種) Erucastrum virgatum (外国種) E. gallicum (オハツキガラシ、帰化種) E. abyssinicum (外国種) Sinapis arvensis (ノハラガラシ、帰化種) S. alba (シロガラシ、帰化種) 子房培養 胚珠培養 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 %* 1 花粉親 − − − − − ○ 4.10 4.10 − − 種子親 − − − − − ○ − − − − 花粉親 × 1.30 − 0.00 × 0.00 0.00 − 種子親 × 0.00 − − − ○ 4.60 4.60 花粉親 − − − − − − − 種子親 − − − − − ○ − − − × − − − − − − 花粉親 ○ 種子親 ○ 花粉親 − 種子親 ○ 花粉親 − 種子親 ○ 花粉親 × 種子親 − 花粉親 × 種子親 ○ 花粉親 ○ 種子親 ○ 花粉親 ○ R. raphanistrum (セイヨウノダイコン、帰化種) 種子親 × Eruca vesicaria ( キバナスズシロ、帰化種) 培養による交雑親和性の評価 花粉親 × ○ − (数値無記載) ○ − (数値無記載) − − − ○ − (数値無記載) − − − ○ − (数値無記載) − − − − − − − − − ○ − (数値無記載) 0.00 ∼ 0.09 − 0.31 0.00 ∼ 0.00 ∼ 0.14 0.51 0.06 − ○ (形成率無記載) − ○ (形成率無記載) − − 胚救済 − − 引用文献 Inomata 1994, Inomata 2003 ○ Harberd and McArthor (形成率無記載) 1980 − − Batra et al. 1990 Batra et al. 1990, Ahuja − − et al. 2003 − − 報告無し − − − − Sarmah and Sarla 1995 − − − − Inomata 1998 − − − − − − − Vyas et al. 1995, Bhat et al. 2006 − 報告無し − − − − − − Banga et al. 2003b − − − − − − − 報告無し − − − − − − − − Bhat et al. 2008 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − Salisbury 1989 − 報告無し − Salisbury 1989 − − − − − − − − Salisbury 1989 − − − − − − − − 0.03 − − − − − − − 西ら 1964 − − × − Kakizaki 1925, Rhee et al. 1997 Kamala 1983, Salisbury − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − 0.00 ○ − − − − − Salisbury 1989 Goswami and Devi 2002, Prasad et al. 1997, − GhoshDastidar and Varma 1999 GhoshDastidar and − Varma 1999 − Inomata 2001 − 報告無し − Batra et al. 1989 − Batra et al. 1989 − 報告無し Rao et al. 1996, Sarmah − and Sarla 1995 Salisbury 1989, Bing et al. 1996, Bing et al. 1991, − Harberd and McArthor 1980, Mizushima 1952 Salisbury 1989, Bing et − al. 1996, Bing et al. 1991 0.09 ∼ 4.64 9.20 0.00 種子親 × − − − − × 花粉親 種子親 花粉親 種子親 花粉親 − − − × − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − ○ − × − − 種子親 × − − − − ○ 花粉親 ○ 0.07 0.03 − − 種子親 ○ 0.02 0.00 − − 花粉親 ○ 0.02 − 種子親 − − − − − − − 2.20 2.20 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − Sharma and Singh 1992 − − − − − − − − − − 3.70 − − − ○ (形成率無記載) 0.70 ∼ 2.34 4.00 0.00 ∼ ○ 0.95 1.90 ○ ○ (形成率無記載) 1989 Mohapatra and Bajaj 1987 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 S. pubescens ( 外国種) Moricandia arvensis (イタリアソウ、帰化種) Orychophragmus violaceus (ショカッサイ、帰化種) Crambe abyssinica ( 外国種) Enarthrocarpus lyratus ( 外国種) Sisymbium irio ( 外国種) Sinapidendrin fruticulosa (外国種) Inomata 1991, Harberd and McArthor 1980 − Inomata 1991 − Takahata et al. 1993 − Takahata et al. 1993 花粉親 ○ 0.15 0.05 − − − − − 種子親 × 花粉親 × 種子親 × − − 0.02 0.00 0.00 − − × × − × × − − − − − − − − − 花粉親 − − − − − ○ − − − 種子親 − − − − − × − − − 0.00 ∼ 2.10 0.70 − − Wang and Luo 1998 − − − − 報告無し 0.33 − − Gundimeda et al. 1992 0.00 花粉親 − − − − − ○ − − 種子親 − − − − − − − − 花粉親 − − − − − ○ − − − × × × × × × × × − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − × − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − 花粉親 × 0 − − − − − 種子親 × 0 − − − − 花粉親 × 種子親 × 花粉親 − − − − − − − − − − − − − 種子親 ○ ○(数値無) − − 種子親 Camelina sativa 花粉親 (ナガミノアマナズナ、帰化種)種子親 Hirschfeldia incana 花粉親 種子親 (アレチガラシ、帰化種) Capsella bursa−pastoris 花粉親 種子親 (ナズナ、在来種) Myagrum perfoliatum 花粉親 種子親 (ハエトリナズナ、帰化種) Sysembrium indicum ( 外国種) 17 0.00 ∼ 0.65 0.00 − − − − − 0.00 ∼ − 1.70 Li et al. 1998 3.30 − 0.00 0.00 Li et al. 1998 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − Gundimeda et al. 1992 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 Salisbury 1989 GhoshDastidar and Varma 1999 GhoshDastidar and Varma 1999 Salisbury 1989 Salisbury 1989 報告無し Harberd and McArthor 1980 Conringia orientalis 花粉親 × − − − − − − − − − − − Salisbury 1989 種子親 × − − − − − − − − − − − Salisbury 1989 (ナタネハタザオ、帰化種) * 1…雑種形成数/培養に用いた子房・胚珠・胚数 ×100 和名がある植物種には()に和名を、日本に分布する種には、在来種、帰化種、栽培種の別を、日本に分布していない種は外国種と記載した ノハラガラシ(種子親)とカラシナ(花粉親)を混植とした条件での自然交雑は発生していない(Bing et al. 1991, 1996) 4.カラシナとその他の属との属間交雑親和性 カラシナは、日本に最も広く分布するアブラナ科の雑 5.雑種および雑種後代の交雑親和性 1)F1(雑種第 1 代)の交雑親和性 草であることから、GM セイヨウアブラナとカラシナの カラシナとセイヨウアブラナの種間交雑から得られる 雑種が形成された場合に、その雑種や雑種後代とその他 F1 のうち、これまではカラシナを種子親とした F1 におけ のアブラナ科の他の属との交雑を介して導入遺伝子が拡 る適応度の研究が中心に行われてきており、セイヨウア 散していくことが想定される。日本には、アブラナ科の ブラナを種子親とした F1 の適応度に関する知見は乏し 、そのうち、 植物が 130 種分布するが(邑田・米倉 , 2012) い(表 10)。 カラシナと同じアブラナ属の在来種は分布しない。イヌ カラシナ×セイヨウアブラナの F1 は、染色体数 36 本の ガラシ、ナズナ、エゾスズシロなどその他の属の在来種 カラシナと 38 本のセイヨウアブラナの中間の染色体数で 58 種との交雑が懸念されるが、これまで日本に分布する ある 37 本が報告されており(Choudhary and Joshi, 1999; 在来種との交雑の報告はなく、日本に生育する他の属 、ゲノム構成は AABC(Sabharwal and Tsuda et al., 2012b) (帰化種)との交雑親和性も、無いか極めて低いことが示 Doležel, 1993; Tsuda et al., 2012b)が多い傾向にある。し 。 されている(表 9) かし、Sabharwal and Doležel(1993)によると AAB のゲ ノム構成のF1 も報告されるなど、異なるタイプのF1 が形 成される可能性も示唆されている。また、花粉稔性は、 0–78%と幅広い稔性が報告されているが、10–30%程度 の 報 告 が 多 い(Sandhu and Gupta, 2000; Frello et al., 1995; Heenan et al., 2007)。 18 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) セイヨウアブラナ×カラシナの F1 は、Sabharwal and と交雑し、BC1(戻し交配第 1 代)を得ることができ、F1 Doležel(1993) に よ っ て ゲ ノ ム 構 成 が AABC お よ び 同士でも交雑可能で F2 が得られている(表 11) 。セイヨ AABBC の植物が形成され、Heenan et al.(2007)によ ウアブラナ×カラシナ由来の F1 も、同様に種子親および り、95.4%の花粉稔性が報告されている。 花粉親としてカラシナおよびセイヨウアブラナと交雑 また、カラシナ×セイヨウアブラナ由来の F1 は、種子 親および花粉親としてカラシナおよびセイヨウアブラナ し、BC1 を得ることができ、F1 の自殖により F2 が得られ ている(表 12)。 表 10 カラシナとセイヨウアブラナ間の F1 の各特性 F1 の由来 B. juncea × B. napus 発芽率 (%) 98.5 98.8 染色体数 (2n) ゲノム構成 37 37 花粉稔性 (%) 32.4 35.6 Song and Qiang 2003 Choudhary and Joshi 1999 Tsuda et al. 2012b AABC AABC AAB Sabharwal and Dolezel 1993 14.34 ∼ 13.09 0 ∼ 31 12.4-78 34 B. napus × B. juncea 引用文献 AABC AABBC Sandhu and Gupta 2000 Frello et al. 1995 Heenan et al. 2007 Liu et al. 2010 Sabharwal and Dolezel 1993 95.4 Heenan et al. 2007 表 11 カラシナ×セイヨウアブラナ由来の F1 の種子稔性 種子親 花粉親 B. juncea F1 F1 B. juncea B.napus F1 F1 と B. juncea F1 と B. napus F1 B.napus F1 F1 種子数 / 交配花 1.9 1.7 0.65-1.1 BC1 得られる BC1 得られる 0.73 0.71 0.06 1.2 BC1 得られる BC1 得られる BC1 得られる 1 0.12 0 1.6 BC1 得られる F2 得られる F2 得られる F2 得られる F2 得られる 引用文献 Song et al. 2010 Song et al. 2010 Frello et al. 1995 Lei et al. 2011 Schelfhout et al. 2006 Song et al. 2010 Song et al. 2010 Liu et al. 2010 Heenan et al. 2007 Schelfhout et al. 2006 Schelfhout et al. 2006 Prakash and Chopra 1990 Mathias 1985 Liu et al. 2010 Heenan et al. 2007 Heenan et al. 2007 Schelfhout et al. 2006 Liu et al. 2010 Schelfhout et al. 2006 Roy 1984 Choudhary and Joshi 2001 表 12 セイヨウアブラナ×カラシナ由来の F1 の種子稔性 F1 と B. juncea F1 と B. napus F1 の自殖 種子親 花粉親 B. juncea F1 F1 B. juncea B.napus F1 F1 F1 B.napus F1 獲得が確認 されている植物 BC1 BC1 BC1 BC1 BC1 F2 F2 引用文献 Schelfhout et al. 2006 Schelfhout et al. 2006 Kirti et al. 1995a Schelfhout et al. 2006 Schelfhout et al. 2006 Roy 1984 Schelfhout et al. 2006 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 2)雑種後代の交雑親和性 19 は、F2 までの自殖後代の作出が確認されている(表 14) 。 F1 とカラシナ間で作出された BC1 とその後代における 戻し交雑後代のBC2 世代および自殖後代のF3 世代まで 稔性は、世代が進むとともに稔性が回復し、戻し交雑の の雌性稔性を図 7 に示した。カラシナ×セイヨウアブラ 反復親の稔性に近づく傾向にあることが報告されている ナ由来の F1 を用い、その雑種とセイヨウアブラナまた 。これまでカラシナ×セイヨウアブラナ由来の F1 か (表 13) は、F1 とカラシナとの正逆交雑(セイヨウアブラナ × らは、F7 まで、セイヨウアブラナ×カラシナ由来の F1 から F1、F1 ×セイヨウアブラナ、カラシナ× F1、F1× カラシ 表 13 カラシナ×セイヨウアブラナ由来の F1 を用いて作出された戻し交雑後代 BC1 および その後代の交配花あたりの種子数 種子数 / 交配花 10.56 BC1 9.49 B. juncea (B. juncea × F1 由来) 5.6 BC2 得られる BC1 3.83 B. juncea (F1 × B. juncea 由来) 3.82 15.95 BC2 B. juncea 15.3 (B. juncea × BC〔B. juncea × F1〕由来) 1 5.8 BC2 15.01 B. juncea (BC〔F × B. juncea 由来) 3.93 1 1 × B. juncea〕 15.54 BC2 B. juncea (B. juncea × BC〔B. juncea × BC1〕由来) 16.01 2 BC2 15.18 B. juncea (BC〔F × B. juncea 由来) 9.67 1 1 × B. juncea〕 種子親 戻し交雑後代 BC1 BC2 BC3 花粉親 表 14 作出が報告されているカラシナとセイヨウアブラナとの F1 の自殖後代 材料 B. juncea × B. napus 由来の F1 B. napus × B. juncea 由来の F1 作出された自殖後代の世代 F2 まで F3 まで F4 まで F7 まで F2 まで F2 まで 引用文献 Liu et al. 2010 Roy 1980 Choudhary and Joshi 2001 Roy 1984 Liu et al. 2010 Roy 1980 図 7 戻し交雑後代および自殖後代の雌性稔性 引用文献 Song et al. 2010 Tsuda et al. 2012a Lei et al. 2011 Song et al. 2010 Song et al. 2010 Tsuda et al. 2012b Song et al. 2010 Song et al. 2010 Song et al. 2010 20 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) ナ)を行って得られた 3 種類の BC1 植物と、F1 の自殖に al.(1995) は、 セ イ ヨ ウ ア ブ ラ ナ に 特 異 的 な RAPD より得たF2 およびF3 を用いているが、これらの戻し交雑 (Randomly Amplified Polymorphic DNA)マーカーを BC1 後代および自殖後代では、F1 世代で極めて稔性が低下し で検出しているが、セイヨウアブラナの A ゲノム由来で たものの、BC2 や F3 世代で回復傾向にあった(津田 ・ 田 あるか C ゲノム由来の領域であるかは特定できていな 。 部井 , 2013) い。現在のところ、セイヨウアブラナの A ゲノムの残存 3)遺伝子の残存性 性に関する研究はない。セイヨウアブラナの A ゲノムは ア)セイヨウアブラナの染色体由来領域の残存性 カラシナの A ゲノムと起源が同じであり、また B ゲノム セイヨウアブラナの C ゲノム染色体特異的 SSR マー とも同祖性が高い(Truco et al., 1996)とされることか カー(Piquemal et al., 2005)を用い、カラシナを反復親 ら、カラシナとの雑種後代において C ゲノムよりも残存 とした戻し交雑後代(F1(カラシナ×セイヨウアブラ しやすいと想定されるため、セイヨウアブラナの A ゲノ ナ) 、BC1(F1 ×カラシナ)および BC2(BC1× カラシナ) ムの残存性に関する知見の集積が必要である。 にカラシナを交配して作出した BC1、BC2、BC3 植物)に イ)導入遺伝子の残存性 おいて、その残存性を解析した結果、BC1 植物では約 Song et al.(2010)は、カラシナを種子親として、除 86%のマーカーが脱落することが示された。また、BC3 草剤グリホサートおよびグルホシネート耐性の GM セイ 世代では、さらに 81 マーカーの脱落が確認されたもの ヨウアブラナと交雑させて作出した F1 とカラシナを反 の、83 マーカー中、2 マーカーが検出されたことから、 復親とした戻し交雑後代の BC3 世代において、それぞ 一部の染色体領域は雑種後代において残存する可能性も れ、導入遺伝子 bar および CP4-EPSPS を検出したと報告 (Tsuda et al., 2012b) 。Frello et 示唆されている(図 8) している。 図 8 Tsuda et al.(2012b)による戻し交雑後代において残存したセイヨウアブラナの C ゲノム染色体領域(連鎖地図は Piquemal et al., 2005 を参照した) 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 第 7 章 引用文献 21 14) Banga, S.S., J.S. 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Song and E.J.J. 多様な変種(variety)があり、アブラナ(B. rapa L. var. oleifera)、カブ(B. rapa L. var. rapa)、ハクサイ(B. rapa Momoh( 2003 ): Plant regeneration from the L. var. glabra)およびタイサイ(B. rapa L. var. chinensis) hybridization of Brassica juncea and B. napus through などがある。セイヨウアブラナはセイヨウアブラナ(B. embr yo culture. Journal of Agronomy and Crop napus L.)とルタバガ(B. napus var. napobrassica)の 2 変 Science, 189, 347-350 種が知られている(表 2)。 225) Zhao, H.-C., D.-Z. Du, Q.-Y. Li, M.-N. Zhang and Q.-L. Yu( 2003 ): Interspecific distant hybridization between Brassica juncea with multiluculus and Brassica napus. Xibei Zhiwu Xuebao, 23, 1587-1591 2.起源と伝播 図 2 はアブラナ属作物の 3 つの基本種(アブラナ、クロ ガラシ、キャベツ類)の自生地と、それらの間に自然の 226) Zhu, Y.L., A.H. Elizabeth, T.A.S. Pilon-Smits, S.U. 種間交雑で成立した 3 つの二基四倍体種(セイヨウアブ Weber, L. Jouanin and N. Terry(1999): Cadmium ラナ、カラシナ、アビシニアガラシ)の成立地を示して tolerance and accumulation in Indian mustard is いる。 enhanced by overexpressing γ-glutamylcysteine synthetase. Plant Physiology, 121, 1169-1177 アブラナ属の祖先は、x=4 を基本染色体数とする植物 であったが、6,500 万年前にゲノムの二倍加が起こって 227) Zohary, M.(1973): Geobotanical foundations of the いる (Lysak et al., 2006)。その後、約 2,000 万年前にはシ Middle East. Vol. 1., p.77-103 Gustav Fischer Verlag, ロイヌナズナとアブラナ属の 3 つの基本種の祖先が分岐 Stuttgart し、1,600 万 年 前 に は 三 倍 加 が 起 こ っ た (Lysak et al., 2006)。アブラナ属の 3 つの基本種のうち、クロガラシ系 Ⅲ アブラナ、セイヨウアブラナ 列とキャベツ類/カブ・ハクサイ類系列は約 800-1,400 万 年前に分岐した (Lysak et al., 2006)。その後、クロガラ 第 1 章 分類学的位置づけと分布 シ系列の花粉が後者の系列のカブ・ハクサイ類系列の雌 1.分類 蕊に自然受粉して生じた種間雑種が基になりダイコン類 アブラナおよびセイヨウアブラナは 2009 年に発表さ が分岐した (Yang et al., 2002)。カブ・ハクサイ類とキャ れた APGIII 分類体系に基づくと下記のような植物分類 ベツ類の分岐は約 400 万年前に起こった (Lysak et al., 学上の位置(大場 , 2009; 邑田・米倉 , 2012)にある。 2006)。このように、複数の染色体が融合して数を減ら し、かつ染色体が構造変化しながら 2n=16、18、20 で安 真正双子葉類(Dicolyledons) 定し、染色体構造が複雑な二倍体のアブラナ(AA) 、ク アオイ群(Malvids(Eurosids II) ) ロガラシ(BB)、キャベツ類(CC)が成立した (Yang et アブラナ目(Brassicales) al., 2002)。その後、それらの間で自然に種間交雑が発生 アブラナ科(Brassicaceae = Cruciferae) し、3 つの二基四倍体種(セイヨウアブラナ、カラシナ、ア アブラナ属(Brassica) (山岸 , 1989) 。 ビシニアガラシ)が成立した(図 1) アブラナ Brassica rapa L. var. oleifera DC. セイヨウアブラナ Brassica napus L. アブラナの野生種はヨーロッパ、ロシア、中央アジ ア、中近東に分布し、ヨーロッパおよびアフガニスタン に起源中心があるとされている。アジアと中近東のタイ ア ブ ラ ナ は ア ブラナ科に属し、アブラナ科を 示 す プはアフガニスタンに起源し、東方への移入とともに栽 Cruciferae は、対角線上にある 4 枚の花弁を持つ花の形 培 化 が 始 ま っ た と 考 え ら れ る。Prakash and Hinata が十字架(Crucifer)に似ていることに由来している。 (1980) は油用 アブラナはヨーロッパとアジアの異なる リンネは、「B. rapa」は茎部の肥大がみられる形態を 系統が個別に改良されたことを示唆している。最近の葉 持つ種であり、 「B. campestris」は、茎部肥大などがみら 緑体とミトコンドリア DNA の解析によると (Song and れない雑草的な形態の種として、2 つの異なる種を記載 Osborn, 1992)、B. montana(n=9)がアブラナとキャベ した。1833 年にこれらは同種として分類群をカブ・ハク ツ類の細胞質のもととなったプロトタイプに近いことが 32 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 図 9 アブラナの世界の分布(Holm et al., 1997) 示されている。 セイヨウアブラナは約 1 万年前にアブラナとキャベツ B. rapa L. ssp. sylvestris(L.)Janchen:wild turnip と称 される世界中に分布する一年生雑草である。 類との種間交雑で生じた。これは両種がヨーロッパの大 B. rapa L. ssp. oleifera(DC.)Metzg.:イギリス・オー 西洋沿岸あるいは地中海沿岸にそって自生していたこと ス ト ラ リ ア で は bird rape、 ア メ リ カ で は birdsrape によると考えられており、16 世紀にヨーロッパ全域に拡 mustard と称され、搾油用の B. rapa が雑草化したもので 大し、17-18 世紀にアメリカ大陸、19 世紀にアジアに拡 世界的にみられる雑草である。 散したとされている (OECD, 2012)。 B. rapa L. ssp. rapa(DC.)Metzg.:セイヨウカブとい い、飼料用の栽培種であるが、ヨーロッパ・オーストラ 3.分布域と生育環境 1)世界における分布 ア)アブラナ ヨーロッパ原産であり、温帯に分布する。地域的には リア・アメリカで雑草化している。 これら 3 亜種は、いずれもアブラナとの判別は難し い。 イ)セイヨウアブラナ ヨーロッパ、北アフリカ、アジア、オセアニア、北アメ ヨーロッパ原産であり、温帯に分布する。地域的には 。ムギ類に混入して各地に広まっ リカに見られる(図 9) ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オセアニア、南北アメ 。アブラナの分布は湾岸、低地、 た(竹松・一前 , 1998a) リカに見られる。油料作物として世界各地に広まり、路 高原、丘陵地、2,300 m におよぶ山地にまで広がってい 傍、耕地、埠頭、街中、荒地、川堤で野生化しており、 。ヨーロッパでは、路 る(Warwick and Francis, 1994) 。 ごく普通に見られる(竹松・一前 , 1998b; OECD, 2012) 側、耕地、埠頭、街中、荒地、川堤で野生化し、ごく普 他のアブラナ属植物と同じように , 路傍や工場跡地など 通に見られる。最近では、カナダやアメリカでも雑草化 定期的に人為的管理が行われる攪乱地に自生化しやすい 、カナダでは撹乱地、空き しており(Muenscher, 1980) 。 ことが知られている(竹松・一前 , 1998b; OECD, 2012) 地、庭、道側、荒地で見られる(Warwick and Francis, 2)日本における分布 1994)。気象環境や土壌環境に対する適応性が大きい(竹 ア)アブラナ 。 松・一前 , 1998a) 一般には、栽培アブラナが各地で野生化し、道端、草 雑草として問題となっているアブラナの亜種は以下の 。 通りである(竹松・一前 , 1998a) 地、土手に生育しているとされているが、 「河川水辺の国 勢調査」(国土交通省 , 2012)では新潟、長野、宮崎、熊 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 本の 4 県、近田ら(2006)においても福島、栃木、千葉、 春に開花する(竹松・一前 , 1998a)。 大分に分布するとされているだけである。各県の植物誌 2)セイヨウアブラナ によれば、岩手、群馬、千葉、東京、神奈川、新潟、長 野、静岡、岡山、愛媛、大分での自生が確認されている。 33 一年または二年草。種子繁殖し、日本では、周年発生 するが、春に開花する(竹松・一前 , 1998b)。 いずれにしても自生アブラナの国内での分布は限られた 地域である。 イ)セイヨウアブラナ 2.発芽と種子休眠性 1)アブラナ 河川敷や路傍に自生するセイヨウアブラナは栽培種か 発芽適温は 18℃、10/20℃あるいは 20/30℃の変温も 。近田ら らの逸出種と考えられている(清水ら , 2008) 有効である。発芽率は、明条件より暗条件の方が高く、 (国土交通省 , (2006)ならびに「河川水辺の国勢調査」 10℃以下でも発芽可能であるが 10℃以下のの土壌温度 2012)、さらに各県の植物誌調査によれば、奈良、長崎、 では徐々に発芽率が減少する。発芽率が 50%にいたる日 沖縄を除く全都道府県で自生が確認されている。 数は、7℃で 4 日程度であり、3℃で 13 日となる。2℃で は 20 日過ぎても発芽が 50%に満たない。低温は発芽に 第 2 章 形態的特性 必要なタンパク質の生成を損ね、初期の実生の成長を妨 1.アブラナ げる。また、発芽は品種のもつ遺伝的効果や成熟時の種 若い葉は無毛あるいはわずかに剛毛があり、部分的に 。茎はよく分岐する。ただし分岐の程度 茎を抱く(図 4) 子の生育条件や種子の保存の仕方や扱い方にも影響され る(CCC, 2007)。 はバイオタイブや品種、環境条件によって異なる。最も 収 穫 後 間 も な い 種 子 は 休 眠 状 態 に あ り(Averkin, 高い葉の葉腋で分枝し、各枝の先端に花序がつく。下位 1978)、成熟種子の土中での寿命は長い(竹松・一前 , の葉はわずかに鋸歯があるか、羽状分裂で葉柄がある。 1998a)。 上位の葉は無柄で、全縁に近く長方形皮針形である。細 2)セイヨウアブラナ 長い総状花序を持ち、花は淡黄色で頂点に密集する。総 最適な発芽条件は、20℃、十分な水分と光が挙げられ 状花序の開花は基部から始まり、上に向かって進む る(Pekrun et al., 1998)。種子は実生時と収穫後に、様々 (表 3) 。 (Downey et al., 1980) な温度条件下で発芽するが、アブラナと同様に 10℃以下 の土壌温度では徐々に発芽率が低下する。発芽率が 50% 2.セイヨウアブラナ 主に 10–15 の無毛葉と(Colton and Sykes, 1992)、下葉 にいたる日数は、8℃で 3 日程度であり、2℃で 12 日と長 くなる(CCC, 2007)。 には頭大羽状複葉をもち、わずかに硬くごわごわし、有 一般にセイヨウアブラナは圃場規模で栽培・収穫され 柄。真ん中から上葉は長楕円皮針形であり、厚く、抱茎 ている全ての作物と同様に、いくつかの種子は収穫時に 。葉の色は、暗めの青みが しており無柄(Bailey, 1976) エスケープし、土の中に残ったまま次のシーズンを迎え 。1 つの かった緑で、白い粉で覆われている(図 4, 表 14) る。 葉がそれぞれの節で茎に付いており、個体あたりおよそ 成熟時の種子は実質的に休眠の兆候はみられない 5–10 cm の間隔で 15–20 の節間がある。1990 年代初頭、 (Lutman, 1993; Pekrun et al., 1998)。しかし、非休眠種子 ナタネ品種の草丈は、品種や環境条件により 120–150 も環境条件が発芽に好ましくない時には二次休眠に入 。Plant cm と 異 な っ て い た(Colton and Sykes, 1992) る。二次休眠の誘導は、大きな温度変化や低水分、長期 Breeders Rights Database(Australian Government-IP 間の暗闇にさらされること、不十分な酸素供給などの条 Australia, 2007)による最近の調査では、近年の品種は背 件で生じる。20℃より高い温度でも、いくつかの遺伝子 丈が低く、70–110 cm であるが、一方で 150–170 cm の品 型では二次休眠が誘導される(Linder, 1998; Gulden et al., 種もある。 2000)。一度休眠した種子は、一定の温度(12℃ あるい は 20℃)で維持されると休眠し続ける(Pekrun et al., 第 3 章 生活史特性 1997a)。二次休眠は低温(2–4℃) (Gulden et al., 2000) 、 1.生活史 または高温・低温での変温条件によって打破される 1)アブラナ 一年または二年草。種子繁殖し、秋から春に発生し、 (Pekrun et al., 1998)。 長期間の暗闇と水ストレスにさらされる間に、種子は 34 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 感光性を発達させ(Pekrun et al., 1997b) 、得られた感光 4.交配様式 性によっては短期間の光に反応して種子は発芽する 1) 受粉と訪花昆虫相 (Schlink, 1995)。種子の二次休眠の発達と生存は、ヨー ロッパの品種(Schlink, 1995; Pekrun et al., 1997c)とカ ナダの品種(Gulden et al., 2000)の間で異なる。 土壌中における種子の生存は、耕作土壌に比べて未撹 。イギリス 乱土壌ではかなり長い(Chadoeuf et al., 1998) ア)アブラナ アブラナはインドで栽培される品種イエローサルソン (B. rapa var. yellow sarson)を除き、自家不和合性遺伝子 を持つ他殖性である。従って自家受粉ではほとんど種子 は稔らない。 の 3 地域、12 の異なる自生地において、除草剤抵抗性を ミツバチ(Apis mellifera)とマルハナバチ類(Bombus もつGMセイヨウアブラナの種子を 2 年間、2 cmと 15 cm sp.)が花粉の長距離散布を担う主要なポリネーターと考 の深さで埋土したところ、全て死滅し、非 GM セイヨウ えられている。ハチを介した花粉の移動は、環境条件や アブラナの種子は 0.5%生存した(Crawley et al. 1993)。 昆虫の活性に加えて、花粉利用性(供与集団のサイズや フランスの 2 地域で 3 年間、30 cmの深さに埋土したセイ 密度) 、花粉源から授与集団の位置や方向に依存する ヨウアブラナ種子の生存率は 0.03–0.08%であったが、 (Levin and Kerster, 1969; ; Stringam and Downey, 1978; 41 か 月 後 の 種 子 は 発 芽 し な か っ た(Chadoeuf et al. Ellstrand et al., 1989; Klinger et al., 1992)。一般的に寒い 1998)。Masden(1962)は、セイヨウアブラナの変種 B. 日や風の強い日は昆虫の活性が下がるため、気象条件は napus var. napobrassica(ルタバガ、スウェード・スウェー 受粉に影響する。 デンカブ)種子の休眠性を調査し、16 年間、20 cm の深 イ)セイヨウアブラナ さに埋土した種子の発芽率は、休眠打破した条件下で 自 殖 も 他 殖 も 可 能 な 虫 媒 花 で あ り(Treu and 1%であり、17 年以上では種子は発芽しなかったことを Emberlin, 2000)、それぞれの花は多量の花粉をつくり、 報告した。 通常は自家受粉である。しかし、圃場条件では、隣接個 上記の海外の研究では、埋土された種子は、未撹乱土 体間の物理的接触やポリネーターによって他殖も約 壌で 16 年まで生き残る可能性を示しているが、品種の 30%程度行われている。 違いやそれぞれの地域の環境条件によって変異が大きい 2) 花粉の散布距離 ことも示された。一方、日本における土壌中の種子の生 アブラナ の花粉散布距離についての情報は少ないが、 存についてはほとんど知見がなく、さらなる研究が必要 セイヨウアブラナについては多くの情報があり、その値 である。 を 表 15 に 示 し た(Andersson and Carmen de Vicente, 2010)。 3.開花 一般的に風で運ばれる花粉は長距離授粉にはあまり役 野生のアブラナの開花期は、さく葉標本および現地調 割を果たさず、花粉移動のほとんどは 10 m以下であり、 査によって、関東地方は 4 月上旬から 5 月上旬、近畿地 花粉源から離れるほど花粉量は減少する(Stringam and 。ま 方は 3 月下旬から 4 月下旬と報告されている(図 5) Downey, 1978; Scheffler et al., 1993; Timmons et al., 1995; た、野生のセイヨウアブラナの開花期は、北海道で 6 月 。しかし、花粉の拡散範囲は数 Thompson et al., 1999) 下旬、北陸地方では 5 月上旬、関東地方は 4 月上旬から 5 メートルから 360 m と変動しやすく、最大 1.5 km 以上飛 月上旬、近畿地方は 3 月下旬から 5 月上旬、中国地方は 3 散したとの報告もあり(Timmons et al., 1995)、潜在的に 月中旬から 5 月下旬、四国地方は 2 月末から 5 月下旬で 少なくとも数キロメートル風下へ移動可能である(Treu 。また、セイヨウアブ あることが報告されている(図 5) 。カナダではアブラナの採種園で and Emberlin, 2000) ラナ、アブラナ、カラシナの 3 種における開花期の重複 は、他品種花粉の混交を最小限にするために、他のアブ は、関東地方で 4 月上旬から 5 月中旬、近畿地方では 3 月 ラナの花粉源から 400 m 以上離すことが求められている 下旬から 4 月末であると推定されている(松尾・伊藤 , 2001)。 (CSGA, 1994)。 昆虫の採餌行動は複雑であり、空間的な個体の配置や 環境条件、個体密度、花粉の生存能力などの様々な要因 に依存する(Rieger et al., 2002)。豊富に花がある耕作地 などでは、採餌者のミツバチは同じ個体や近接する個体 から蜜や花粉を集める傾向にある。巣箱は一般的に、受 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 35 表 15 セイヨウアブラナにおける花粉の飛散距離および交雑率(Andersson and Carmen de Vicente, 2010 を改変) 種子親と花粉親の距離(m) 0(混植した群落) 0.4, 0.8, 1.2 5, 7.25, 9, 11.25, 13 交雑率(最大値)(% ) 3-12 9.5, 5.6, 3.9 試験が行われた国 UK Canada 5, 2.6, 1.2, 1.4, 0.9 ( 無栽培帯で隔離) 5, 7.25, 9, 11.25, 13 5, 3.5, 1.0, 3.9, 2.5 ( ナタネ(花粉トラップ)で隔離) 0, 7.5 6.3, 0.5 0, 5, 10, 30 4, 2.5, 1.8, 0.6 1.5, 4, 11.5, 21.5, 31.5 1.56, 0.68, 0.25, 0.2, 0.03 1, 16, 32 0.1, 0.001, 0.001 25, 50 0.7, 0.4 4, 8, 20, 34, 56 2.0, 0.33, 0.16, 0.16, 0.11 6, 30, 42, 50 0.05, 0.05, 0.33, 0.16 10, 20, 150 0.44, 0.05, 0.22 1, 3, 6, 12, 47, 70 1.5, 0.4, 0.11, 0.02, 0.0003, 0 1.5, 11.5, 26.5, 51.5, 91.5 1.0, 0.5, 0.15, 0.1, 0.05 50, 100 0.022, 0.011 20, 50, 100 1.5, 0.4, 0.4 5, 25, 40, 50, 100, 200 1.2, 0.25, 0.65, 0.1, 0.5, 0.2 47, 137, 366 2.1, 1.1, 0.6 50, 100, 175, 200, 225 0.24, 0.21, 0.09, 0.09, 0.09 50, 100, 180, 400 0.02, 0.01, 0, 0 200, 400 0.016, 0.004 0, 50, 100, 200, 400, 800 1.4, 0.2, 0.15, 0.2, 0.14, 0.07 0, 10, 50, 225, 550, 800 0.12, 0.04, 0.02, 0.02, 0.001, 0.03(*) 450, 800 1.0, 0.1 500, 1000, 2000, 3000, 5000 0.16, 0.11, 0.2, 0.15, 0.0 > 500 16.5-92.4 0, 3, 6, 9, 12, 15, 20, 30 56, 60, 6, 1, 0.3, 0.2, 0.1, 0(**) > 32 0.02-0.05(**) 6, 20, 42, 54, 150 21, 0.16, 0.33, 0.11, 0.22(**) 0, 100, 360 6.3, 0.5, 3.7(**) 100, 200, 400 0.13, 0.03, 0.06(**) 0, 10, 50, 225, 550, 800 0.58, 0.31, 0.00, 0.21, 0.1, 0.02(* , **) 1500, 2500 1.2, 0.8(**) 500, 1000, 2000, 3000, 4000 15-70, 25-58, 8-35, 5, 5(**) * 推定値 ** 雄性不稔系統または花弁および雄蕊が取り除かれた個体によって試験された USA USA USA France Canada Hungary UK UK UK UK UK UK UK Canada UK Canada Canada Canada UK Canada UK France Australia France France Scotland UK Scotland UK UK Scotland UK 粉を促進し、結実率を高めるために導入する。 この場合、 て、病原体となる糸状菌の Albugo candida(白さび病) 、 大部分の採餌は巣箱周辺の数十平方メートル内にあっ Alternaria spp.(黒斑病)、Botrytis cinerea(灰色かび病) て、かつ隣接している複数の個体で行われる(Nieuwhof, や細菌の Xanthomonas spp.(黒腐病)、ウイルスの Turnip 1963)。ミツバチの飛来の 80%が 1 m 以内であり、花粉 mosaic virus(カブモザイクウイルス)、捕食者として、 の 大 半 は 5 m 以 内 で 運 ば れ て い る(Cresswell, 1999; Flea beetle(トビムシ) 、ヒヨドリなどの鳥類、徘徊動 。しかし、ミツバチは Ramsay et al., 1999; Pierre, 2001) 物、土壌昆虫、共生者として根菌、土壌微生物、ミミズ、 1–2 km(Eckert, 1933)、最大 4 km 飛行したケースも示 ポリネーターおよび捕食者として、ハナアブ、ミツバチ 。 されている (Ramsay et al., 1999; Thompson et al., 1999) などの昆虫が知られている(OECD, 1997; 生井 , 1985、 表 16)。 5.他の生物との相互作用 1)アブラナ、セイヨウアブラナに害を及ぼす生物 セイヨウアブラナとの相互作用を示す他の生物とし 2)アブラナ、セイヨウアブラナが他の生物に及ぼす影響 カラシナと同様に、アレロパシー物質として、からし 油配糖体(グルコシノレート)が知られている(Brown 36 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 表 16 他の生物とセイヨウアブラナとの相互作用 他生物 Albugo candida(White rust 白さび病) Alternaria spp.(Black rust 黒斑病) Botrytis cinerea(Gray mold 灰色かび病) Erysiphe spp.(Powdery mildew うどんこ病) Leptosphaeria maculans(Black leg 幹腐病、根朽病) Peronospora parasitica(Downy mildew べと病) Plasmodiophora brassicae(Club root 根こぶ病) Pseudocercosporella capsellae(白斑病) Pseudocmonas sp.(黒斑細菌病) Pyrenopeziza brassicae(Light leaf spot) Pythium debaryanum(Damping off 苗立枯病) Rhizoctonia solani(Basal stem rot, Damping off 根腐病、苗立枯病) Sclerotinia sclerotiorum(Sclerotinia stem rot エンダイブ菌核病) Xanthomonas spp.(Bacterial rot 黒腐病) Mychorrhizal fungi(菌根菌) Verticillium dahliae(半身萎凋病) Aster yellows mycoplasma(マイコプラズマ症) Cauliflower Mosaic Virus(CaMV) Beet Western Yellow Virus(BWYV) Turnip mosaic virus(カブモザイクウイルス) Flea beetle(トビハムシ) ハエ目、ハチ目の昆虫 根菌 鳥類 徘徊動物 ( 鹿、うさぎ等 ) 土壌微生物 ミミズ 土壌昆虫 相互作用 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 共生者 病原体 病原体 病原体 病原体 病原体 捕食者 共生者、捕食者 共生者 捕食者 捕食者 共生者 共生者 捕食者 and Morra, 1997) 。また、抗菌活性、抗寄生虫活性等の 雑草と考えられている (Canadian food Inspection Agency, 強い活性作用がある物質として、揮発性物質イソチオシ 1994)。セイヨウアブラナは、カナダのアルバータ州に アネートが知られている(Bending and Lincoln, 1999; 小 おいて圃場で最もよく見かける 20 の雑草のうちの 1 つ 。 嶋 , 1988; 水谷 , 1982) であり、残留雑草(residual weed)としてコムギ圃場全 体の 11.8%とオオムギ圃場全体の 10.5%で発生してお 6.ストレスに対する耐性および競合性 り、同じくマニトバ州の農業が盛んな地域では、4 番目 セイヨウアブラナは主根が土壌中に深く入り、また葉 の雑草として認識されている。アメリカの農業地域でも が厚く葉面積を制限しているため、葉が薄く、葉面積を 雑草として生じている。しかし、オーストラリアやカナ 広げるアブラナよりも耐乾性が高い傾向がある。ただし ダ、イギリスなどでは、セイヨウアブラナは有益な雑草 アブラナは早生のため生育後期の干ばつを回避すること でも、未撹乱の土地に侵入する植物でもないと考えられ もある。耐湿性については、アブラナのほうがセイヨウ ている(OGTR, 2011)。 アブラナよりも強い傾向にある。耐寒性は、アブラナの ほうがセイヨウアブラナよりも強い。 セイヨウアブラナは、競合性が弱く、生物多様性に影 響 を 及 ぼ す 種 と は 考 え ら れ て い な い(OECD, 2012; 第 4 章 栽培種としてのアブラナ、セイヨウアブラナ 1.日本における栽培地と利用の歴史 1) 栽培地 。なお、我が国におけるセイヨウアブラナ Dignam, 2001) 野菜としてのアブラナ、カブ、ハクサイ、小松菜、チ 集団の雑草性の強さおよび競合性についての知見は無 ンゲンサイは、福井県と高知県を除く 45 都道府県で栽 い。 培されている(総務省 , 2015)。 セイヨウアブラナはオーストラリアの農業生態系では 一方、油糧用ナタネとしてのアブラナは江戸時代に全 、カナダではマイナー 主要な雑草として(OGTR, 2011) 国で栽培されており、明治 10 年(1877 年)の統計には 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 37 表 17 2015 年におけるナタネの国内栽培面積、生産量の上位 10 都道府県 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 上位 10 位累計 国内計 栽培面積 都道府県 北海道 青森県 福島県 秋田県 熊本県 福岡県 愛知県 三重県 鹿児島県 滋賀県 総作付面積 収穫量 (ha) 603 249 117 72 65 43 40 40 32 30 1,291 1,620 都道府県 北海道 青森県 福岡県 福島県 秋田県 熊本県 滋賀県 長野県 愛知県 岩手県 総収穫量 (t) 1,860 767 53 43 40 39 31 25 23 22 2,903 3,100 鹿児島から青森に至る全国での栽培が記録されている 明治になって鎖国が解かれると、多くの植物が諸外国 (杉山 , 2001)。明治時代にはアブラナは北海道を除く全 から輸入され、油の含量が高く、収量も多いセイヨウア 国で栽培され、特に東海近畿と九州中北部に多く、北陸 ブラナが栽培されるようになった。 と東北南部(福島、山形)にも多く栽培されていた(杉 明治初期に導入されたセイヨウアブラナは晩生大型の 山 , 2001)。セイヨウアブラナの栽培は明治時代から始 形質であったが、その後アブラナとの自然交雑により早 まった。セイヨウアブラナはアブラナに比べ、一般に熟 生化して、明治 20 年(1887 年)ごろには朝鮮種と呼ば 期が遅く、長稈であったが、菌核病に強く、含油率と収 れるようになり、以後水田裏作に利用されるようになっ 量性が高かったこともあり栽培が急速に拡大した(志賀 , 。昭和 30 年(1955 年)ごろには日本全 た(志賀 , 2001) 2001)。主に暖地の九州と寒地の北海道に導入され、そ 国で 25 万 ha も栽培されていたが、農産物自由化と畑作 の後は各地に拡大していった。2015 年における国内での 生産衰退の傾向によって減少し続け、昭和 35 年(1960 生産は、総面積 1,620 ha、総収穫量 3,100 t と調査が実施 年)ごろから急速に栽培されなくなった(杉山 , 2001) 。 。なかでも北 された 2010 年以降で最大であった(表 17) イ)カブ・ハクサイ類 海道が作付面積 603 ha、収穫量 1,860 t と最大の生産地に 日本の農民たちは、カブ・ハクサイ類で多様な品種を 。 なっている(農林水産省統計データ , 2015) 育成してきた。生井(2010b)により多様な品種分化を 2)利用の歴史 とげたカブ・ハクサイ類における分類について以下のよ ア)ナタネ油 うに整理されている。アブラナ(油菜)類は、日本では、 江戸時代より少し前の頃、摂津遠里小野(おりおの) 西暦 700 年代の日本では野菜として利用され、江戸時代 の若野某が、初めてアブラナの実を搾って種油をつくる から昭和初期までは油糧用として全国的に栽培された 方法を考案し、できた油を住吉明神に献納、これを契機 が、現在は漬け菜など野菜用で使用される。カブ類は、 としてその品質の優良な点が広く世の認めるところに 日本へは 8 世紀までに中国経由で東洋系が伝わり、シベ 。江戸時代には油料(行灯)用など なった(深津 , 1978) リア経由で欧州系が伝わった。明治期には欧米から欧州 として盛んに栽培され、以後、食油用として昭和初期ま 系が再三導入された。植物分類上はカブであるが茎葉用 で全国的に栽培された。 の品種群に、小松菜、茎立菜、野沢菜がある。ハクサイ 江戸時代に栽培されたのはアブラナであり、これらは 類は、タイサイ類の小白菜(パクチョイ)などの原種が、 弥生時代あるいはそれ以前に日本に渡来したとされてい 紀元前に地中海地方や中央アジアから中国に伝わり、華 。明治時代には、アブラナは暖地では水 る(日向 , 1998) 北で成立したとされる。結球白菜(中国語で大白菜)の 田の裏作として、東北では畑直播によるダイズや小豆な ほか、花心白菜(かしんはくさい)、半結球白菜(半結球 どの二毛作が主体であった。福島県ではアブラナとダイ 山東菜)、不結球白菜(山東菜)、真菜(まな)、広島菜、 ズの間作による二毛作栽培体系を「播きカラシ法」と称 大阪白菜(しろな)などの散葉白菜がある。タイサイ類 。 して大正時代まで続いた(杉山 , 2001) にはタイサイ、雪白体菜、四月白菜(しろな)、雪菜など 38 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) があり、パクチョイが各地で順化したものとされる。再 第 6 章 近縁種との雑種形成 導入された青軸パクチョイがチンゲンサイ(青梗菜)で 1.種間交雑 ある。タアサイ類は、日本に昭和初期に入り、キサラギ 1) 交配 ナ(如月菜) 、ヒサゴナ(瓢菜) 、ビタミン菜などとして ア)アブラナ 各地で順化した。ミズナ類は、京の都を中心に成立した アブラナと近縁種との雑種は、除雄した雌親の花粉を 菜類であり、ミズナ、キョウナ(京菜) 、ミブナ(壬生 交配することによって得られる。 菜)など、株元からの分枝性が極めて強いのが特徴であ これまでアブラナと 32 種の近縁種との交配が試みら り、わが国独特のグループである。サイシン類は、日本 れ、14 種との雑種の成功例が報告されている(FitzJohn に 1970–1980 年代に導入され、極早生で抽苔が早く、多 et al., 2007)。このうち 8 種は同じアブラナ属であり、特 分枝性で、花茎を食する。緑色系がサイシンであり、紫 にセイヨウアブラナとの交配については、アブラナが花 紅色系がコウサイタイ(紫菜苔)である。 粉親であれば成功率が高く(表 19)、1 交配あたり約 2.3 個の雑種が得られている。しかし、その逆の場合は 0.44 と低くなる。カラシナとの交配については多くの成功例 第 5 章 遺伝学的情報 アブラナは A ゲノム(ハクサイ、カブ、ナタネ、ツケ があり、I. カラシナ(表 4)等を参照されたい。アブラナ ナ類、AA、2n=20)であり、セイヨウアブラナは A ゲノ 科の在来種との交配についての知見は少なく、ナズナと ムと C ゲノム(キャベツ類、CC、2n=18)の間の AACC の試験例のみで種間交雑の成功例は報告されていない。 ゲノム(2n=38)を持つ複二倍体種である(U, 1935、図 イ)セイヨウアブラナ 1)。アブラナ(Chiifu-401-42)の A ゲノムは全塩基配列 これまでセイヨウアブラナと 32 種の近縁種との交配 。このゲノム の解読が終了している(Wang et al., 2011a) が試みられ、18 種との雑種の成功例が報告されている 情報をもとにアブラナ属データベース BRAD(http:// (FitzJohn et al., 2007)。このうち 9 種は同じアブラナ属で brassicadb.org/brad/index.php)が作成され(Cheng et 。同じアブラナ属の中では、カラシナおよ ある(表 20) 、アノテーション、ノンコーディング RNA、転 al., 2011) びアブラナとの交配については多くの成功例があり、I. 写因子、シロイヌナズナとのオーソログ(表 18, Cheng et カラシナ(表 6)および上記ア)アブラナの項を参照さ al., 2012)、遺伝マーカーおよび連鎖地図(Wang et al. れたい。また、同属内であるが、キャベツ類との交配は 2011b)の情報が掲載されている。Snowdon et al.(2007) 正逆いずれも成功例より失敗例の方が多い。また、アブ はセイヨウアブラナ のコンセンサスマップを作成し、 ラナと同じく、アブラナ科の在来種との交配についての AC ゲノムのうち N1 から N10 をアブラナの A1 から A10 知見は少なく、ナズナとの試験例のみで種間交雑の成功 に、N11 から N19 をキャベツ類の C1 から C9 に割り当て 例は報告されていない。 た。セイヨウアブラナのゲノムサイズは 1,127 Mb であ 2)自然交雑 り、 連 鎖 地 図 長 は 1,441–1,765 cM で あ る(OECD, アブラナ、セイヨウアブラナ、カラシナ、クロガラシ、 2012)。Wang et al.(2011c)はシロイヌナズナとアブラ ノハラガラシの 5 種が圃場においてと混植され、自然交 ナとの比較ゲノム研究を進め、セイヨウアブラナのゲノ 雑の有無が確認された。この中で、アブラナとセイヨウ ムとの関係を明確にしている。 アブラナ、セイヨウアブラナとカラシナ、セイヨウアブ ラナとクロガラシの組合せのみ、自然交雑が観察された 表 18 アブラナとシロイヌナズナのゲノムの相同性(Cheng et al., 2012) アブラナ シロイヌナズナ 遺伝子数 41,174 27,379 タンデムジーンによる遺伝子重複を除いた後の遺伝子数 38,161 24,939 シロイヌナズナ あるいは アブラナ とのシンテニー領域 1) オーソログ 2) 30,615 18,410 シロイヌナズナ あるいは アブラナとの非シンテニー領域 1) オーソログ 2) 1,391 2,561 ノンオーソログ 6,155 3,968 1) シンテニー領域:生物種間で遺伝子が同じ向きと順番で並んでいること、またはそのようなゲノム(染色体)の相同領域。共通祖先のゲノ ム(染色体)が進化の過程で再編成を経て保存されている領域。 2) オーソログ:共通祖先遺伝子から種分化によって受け継がれた遺伝子。生物種間で遺伝子の比較を行うにあたり、機能と構造が通常、最も 対応すると考えられる。 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 (Bing et al. 1991) 。 39 親の密度等が交雑率に影響を与えていると考えられる。 セイヨウアブラナとカラシナとの自然交雑について イ)セイヨウアブラナ(種子親)とアブラナ(花粉親) は、I. カラシナ(表 8)等を参照されたい。以下にこれま ほ場において両種を混植し、セイヨウアブラナの種子 で交雑が観察されているアブラナとセイヨウアブラナ、 か ら 発 生 し た 790 個 体 を 解 析 し た と こ ろ、21 個 体 セイヨウアブラナとクロガラシのケースについて記載す (2.66%)の交雑個体が観察され、同条件で行われたセイ ヨウアブラナを花粉親とした場合(0.99%)より高い割 る。 ア)アブラナ(種子親)とセイヨウアブラナ(花粉親) 合であり(Bing et al. 1991)、交配と同じ傾向を示してい 両種を混植したアブラナ個体およびあるいはセイヨウ る。 アブラナと同所的に分布しているアブラナ集団を解析し ウ)セイヨウアブラナとクロガラシ たところ、0.2 ∼ 1.93%の交雑個体が観察された(Bing et 両種の自然交雑は、セイヨウアブラナが種子親の場合 al. 1999 ; Wilkinson et al. 2000 , 2003 ; Hansen et al. に、710 個体中 5 個体が観察されたが、花粉親の場合に 2001)。セイヨウアブラナ圃場に隣接する 10 のアブラナ は、観察個体 1188 個体から雑種個体は検出されなかっ 個体群の解析では、平均で 5.8%、0−17.5%の交雑個体 た(Bing et al. 1991)。 、花粉源の大きさや種子 が観察され(Simard et al. 2006) 表 19 アブラナと近縁種との種間雑種の成功数および失敗数(FitzJohn et al., 2007 を改変) 種名 成功数 Brassica carinata B. fruticulosa B. juncea B. napus B. nigra B. oleracea B. spinescens B. tournefortii Camelina sativa Capsella bursa-pastoris Conringia orientalis Crambe abyssinica Diplotaxis erucoides D. muralis D. siettiana D. siifolia D. tenuifolia D. tenuisiliqua Enarthrocarpus lyratus Eruca vesicaria Erucastrum abyssinicum E. canariense E. cardaminoides E. gallicum Hirschfeldia incana Moricandia arvensis Myagrum perfoliatum Orychophragmus violaceus Raphanus raphanistrum R. sativus Sinapis alba S. arvensis * 4 2 21 84 1 5 5 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0 Brassica rapa (アブラナ) Male Female : 失敗数 成功数 : 失敗数 : 1 4 : 1 : 3 0 : 1 : 9 7 : 8 : 0 55 : 8 : 10 15 : 10 : 40 51 : 56 1 : 0 : 3 4 : 2 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 0 : 2 : 1 : 0 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 : 0 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 1 : 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 : 1 1 : 0 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 0 : 1 : 1 1 : 1 : 2 0 : 2 : 7 7 : 4 : 1 0 : 1 : 2 2 : 2 * 和名(在来 / 帰化 / 栽培 / 外国) アビシニアガラシ(外国種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) カラシナ(帰化種) セイヨウアブラナ(帰化種) クロガラシ(帰化種) キャベツ類(栽培種) 和名なし ( 外国種 ) ハリゲナタネ(帰化種) ナガミノアマナズナ(帰化種) ナズナ(在来種) ナタネハタザオ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) ロボウガラシ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) キバナスズシロ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) オハツキガラシ(帰化種) アレチガラシ(帰化種) イタリアソウ(栽培種) ハエトリナズナ(帰化種) ショカツサイ(帰化種) セイヨウノダイコン(帰化種) ダイコン(栽培種) シロガラシ(帰化種) ノハラガラシ(帰化種) 日本に分布する種には、在来種、帰化種、栽培種の別を、日本に分布していない種は外国種と記載した 40 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 表 20 セイヨウアブラナと近縁種との種間雑種の成功数および失敗数(FitzJohn et al., 2007 を改変) 種名 Brassica carinata B. fruticulosa B. gravinae B. juncea B. rapa B. nigra B. oleracea B. maurorum B. tournefortii Camelina sativa Capsella bursa-pastoris Conringia orientalis Crambe abyssinica Diplotaxis erucoides D. muralis D. siettiana D. siifolia D. tenuifolia D. tenuisiliqua Enarthrocarpus lyratus Eruca vesicaria Erucastrum abyssinicum E. cardaminoides E. gallicum Hirschfeldia incana Moricandia arvensis Myagrum perfoliatum Orychophragmus violaceus Raphanus raphanistrum R. sativus Sinapis alba S. arvensis Brassica napus(セイヨウアブラナ) Male Female 成功数 : 失敗数 成功数 : 失敗数 4 : 1 7 : 0 0 : 1 1 : 1 0 : 1 0 : 1 25 : 1 13 : 4 55 : 8 84 : 0 2 : 2 4 : 2 3 : 11 9 : 17 1 : 0 1 : 0 0 : 1 1 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 2 1 : 1 3 : 0 1 : 1 0 : 1 0 : 3 0 : 1 0 : 3 0 : 1 0 : 3 1 : 1 0 : 1 0 : 1 2 : 0 0 : 1 0 : 1 0 : 1 1 : 0 1 : 2 1 : 2 0 : 2 0 : 2 0 : 1 0 : 1 0 : 1 0 : 4 3 : 2 1 : 5 1 : 2 0 : 6 1 : 2 1 : 10 5 : 8 * 和名(在来 / 帰化 / 栽培 / 外国) アビシニアガラシ(外国種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) カラシナ(帰化種) セイヨウアブラナ(帰化種) クロガラシ(帰化種) キャベツ類(栽培種) 和名なし ( 外国種 ) ハリゲナタネ(帰化種) ナガミノアマナズナ(帰化種) ナズナ(在来種) ナタネハタザオ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) ロボウガラシ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) キバナスズシロ(帰化種) 和名なし ( 外国種 ) 和名なし ( 外国種 ) オハツキガラシ(帰化種) アレチガラシ(帰化種) イタリアソウ(栽培種) ハエトリナズナ(帰化種) ショカツサイ(帰化種) セイヨウノダイコン(帰化種) ダイコン(栽培種) シロガラシ(帰化種) ノハラガラシ(帰化種) *日本に分布する種には、在来種、帰化種、栽培種の別を、日本に分布していない種は外国種と記載した 2.アブラナとセイヨウアブラナに由来する F1 の交雑親 和性 AAC)は花粉稔性 30–60%、結実率が 10%程度と稔性が 低いが、両親よりも多数開花し、状況によっては 500 粒 種間交配による F1 は、部分稔性あるいは不稔となる。 。この雑種は種子親 以上の種子をつける(生井 , 2010a) 多くの雑種は内胚乳の発達が妨げられ発生できない。多 としてセイヨウアブラナとの戻し交雑は容易であり、ア くの例外があるが、母親と父親由来の染色体が 2:1 比 ブラナとも低い割合ではあるが戻し交雑が可能である 率、あるいはそれ以上の場合、交配の成功率が向上する 。 雑 種 の ゲ ノ ム 構 成 は、 二 基 三 倍 体 ( 生 井 , 2010a) 。例えば四倍体の雌親と (Nishiyama and Inomata, 1966) (2n=3x=29, AAC)が基本であり、染色体対合を見ると 二倍体の花粉親の交配で種子を得られることが多い。一 10 個のⅡ価と 9 個のⅠ価から構成される場合が多い(生 方、逆の交配からは種子を得にくくなる。セイヨウアブ 。配偶子の染色体数は、n=10–29 と多様であ 井 , 2010a) ラナ×アブラナの組合せでは上記の例にあてはまり、種 るが、稔性を有する多くの配偶子の染色体数は、n=10 と 間交雑によって部分稔性のある雑種個体が得られ、自殖 。こ n=19、またはそれに近いものとなる(生井 , 2010a) 種子をつける。 の二基三倍体では稔性を有する配偶体の形成頻度が低い 形質が子孫に伝えられるためには、雑種と親との反復 ために結実率は低いが、株間受粉や両親との戻し交雑に 戻し交雑が起こり、その子孫が繁殖能力を有しているこ より、アブラナ復帰型(2n=2x=20)やセイヨウアブラ とが必要である。 ナ型(2n=4x=38)、二基三倍体やそれに近い染色体数の アブラナとセイヨウアブラナに由来するF1(2n=3x=29, 個体が生じることになる(生井 , 2010a)。 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 第 7 章 引用文献 41 natural habitats. 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Wu( 2011 b): A 2)日本における分布>における秋田県、沖縄県の分布情 sequence-based genetic linkage map as a reference 報に関する資料は、秋田県立大学生物資源学部の森田弘 for Brassica rapa pseudochromosome assembly. BMC 彦教授から資料の提供をいただきました。< II カラシナ Genomics, 12, 239 第 3 章生活史特性 5.他の生物との相互作用 3)カラシナ 302) Wang, J., D.J. L ydiate, I.A.P. Parkin, C. Falentin, R. が他の生物に及ぼす影響>において示したアレロパシー Delourme, P.W.C. Carion and G.J. King(2011 c): 物質に関する情報は、国立研究開発法人農業環境技術研 Integration of linkage maps for the amphidiploid 究所の平館俊太郎博士に文献および情報を提供していた Brassica napus and comparative mapping with だきました。これらの情報および材料を御提供いただき Arabidopsis and Brassica rapa. BMC Genomics, 12, 101 ました各位に心より感謝いたします。 303) War wick, S.I. and A. Francis(1994): Guide to the Wild Germplasm of Brassica and Allied Crops, Part Ⅴ : Life Histor y and Geographical Data for Wild Species in the Tribe Brassicaceae(Cruciferae). In: Technical Bulletin 1994 , Centre for Land and Biological Resources Research. Agriculture and AgriFood Canada 304) Wilkinson, M.J., I.J. Davenport, Y.M. Charters, A.E. 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Molecular Phylogenetics and Evolution, 23, 268-275 津田麻衣ら:遺伝子組換えセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要なカラシナ(Brassica juncea)、アブラナ(B. rapa)、セイヨウアブラナ(B. napus)の生物情報集 45 The Biology of Brassica juncea, B. rapa and B. napus for biodiversity risk assessment of genetically modified B. napus in Japan Mai Tsuda, Yutaka Tabei, Ryo Ohsawa, Ayako Shimono, Yasuko Yoshida and Yasuyuki Yoshimura Summar y Impacts of genetically modified(GM)crops on biodiversity are examined by the Cartagena Protocol Domestic law in Japan. When a GM crop is shown to have no adverse effects on biodiversity, its cultivation and commodity usage are approved. Brassica napus can cross their relatives, B. juncea and B. rapa that grow in the reversides, roadsides and vacant lots. However, there are no summaries available for the biology of the wild brassica species in Japan unlike other crops that have been characterized in documents published by OECD. In this report, we excerpted and compiled essential botanical information about B. juncea, B. rapa and B. napus from the scientific literature. This compilation includes information about the classification, distribution, life history, growth characteristics, reproductive biology, hybrid offspring characteristics and introgression. 47 農環研報 36, 47−69(2016) 遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要な ツルマメの生物情報集 The Biology of Glycine soja Sieb. & Zucc. for biodiversity risk assessment of genetically modified soybean in Japan 吉村泰幸*・加賀秋人**・松尾和人* (平成28 年3月14日受理) 遺伝子組換え(GM)作物の使用に際しては、カルタヘナ法に基づく生物多様性への影響が評 価され、影響が生じないと認められた場合に承認される。我が国にはダイズと交雑可能な近縁種 であるツルマメが河原や空き地、路傍等に分布しているため、GM ダイズの生物多様性影響評価 を行う際には、我が国におけるこれらの植物種の生物学的情報が不可欠である。本報告では GM ダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの分類や分布、生活史特性、ツルマメとダイズの 遺伝的特性、形態的特性の比較、ツルマメとダイズの雑種形成および雑種後代の特性、遺伝子浸 透等の生物学的情報をとりまとめた。 目 次 序論……………………………………………………… 48 5.種子生産と散布様式 …………………………… 53 1.はじめに ………………………………………… 48 6.昆虫による食害 ………………………………… 54 2.研究方法 ………………………………………… 48 Ⅲ ツルマメとダイズの特性比較…………………… 54 Ⅰ 分類学的位置づけと分布………………………… 49 1.遺伝的特性の比較 ……………………………… 54 1.Glycine 属植物の分類 …………………………… 49 1) 核型にみられる差異 ……………………… 54 2.ツルマメの分布 ………………………………… 50 2) 塩基配列にみられる差異 ………………… 54 3.ツルマメの生育環境と共存植物 ……………… 50 3) 遺伝的類縁関係 …………………………… 54 Ⅱ ツルマメの生活史特性…………………………… 51 2.形態的特性の比較 ……………………………… 56 1.生活史と生育型 ………………………………… 51 1) 種子の形態にみられる差異 ……………… 56 2.発芽条件 ………………………………………… 52 2) 葉型にみられる差異 ……………………… 57 3.栄養成長及び開花・結実 ……………………… 52 3.成熟群の比較 …………………………………… 57 4.交雑様式 ………………………………………… 53 Ⅳ ツルマメとダイズの雑種形成と遺伝子浸透…… 59 * 国立研究開発法人 農業環境技術研究所 生物多様性研究領域 corresponding author ** 国立研究開発法人 農業生物資源研究所 48 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 1.自然雑種形成と雑種個体の特性 ……………… 59 2.人工交雑による雑種個体の特性解明 ………… 59 3) 適応度に関する量的形質遺伝子座(QTL) 61 3.ダイズからツルマメへの遺伝子浸透の可能性 62 1) 雑種第一代の特性 ………………………… 59 Ⅴ 引用文献…………………………………………… 62 2) 雑種後代の特性 …………………………… 61 謝辞……………………………………………………… 68 序論 認されている。そして、直近では、害虫抵抗性遺伝子を 導入したいわゆるBtダイズの第一種使用等が承認されて 1.はじめに いる。 現在、世界において遺伝子組換え(GM)作物が栽培 我が国には、ダイズと交雑可能な野生種であるツルマ されている面積は年々増加し、2014 年における世界の メが広く分布している。このため、GM ダイズの生物多 GM 作物の作付面積は、28 か国、1 億 8,150 万 ha に及ん 様性影響評価に際しては、ダイズに導入された遺伝子が 。また、これまで実用化されてき でいる(James, 2014) ツルマメに移行した場合の影響の可能性等も含めたうえ た GM 作物は、除草剤への耐性や害虫への抵抗性を付与 で評価されている。従来の除草剤耐性や成分組成を改変 されたものが主であったが、最近では、高収量、乾燥耐 した GM ダイズについては、GM ダイズとの交雑により 性など、適応度、すなわち種として存続、繁栄する能力、 導入遺伝子がツルマメに移行しても、雑種個体が増加す を向上させるような形質を持つ GM 作物の開発が進んで る可能性は極めて低いと評価されている(Kubo et al., いる。 2013)。一方で、環境への適応度を向上させる可能性が 我が国で GM 作物を使用等(加工、保管、運搬、栽培 ある Bt 遺伝子については、一部は本報告にも掲載されて など)する際は、バイオセーフティに関するカルタヘナ いる情報を活かしつつも、ツルマメの生態等に係る情報 議定書の国内実施法である「遺伝子組換え生物等の使用 が不足していることから、生じ得るリスクを最大限に見 等の規則による生物の多様性の確保に関する法律」 (以 込んだ生物多様性影響評価がなされたところである(農 下、 「カルタヘナ法」 )に基づき、GM 作物の栽培によっ 林水産省 , 2014)。 て我が国の生物多様性に影響が生じないかどうかを事前 このように、今後、適応度を向上させるような形質を 。その一環 に評価することとされている(環境省 , 2014) 持つ GM ダイズについて、より確度の高い生物多様性影 として、例えば、GM 作物が栽培される環境に交雑可能 響評価を行うため、ツルマメ自体の生物学的動向に加 な野生種が生育している場合には、交雑を介して野生種 え、ダイズに導入された遺伝子が交雑を介してツルマメ に遺伝子が移行し、野生種そのものの個体群や多様性の に移行した場合に生じる雑種個体の生物学的動向に係る 維持に影響がないかといった観点でも評価することとさ 情報も不可欠である。 れている。こうしたことから、GM 作物について確度の 高い生物多様性影響評価を行うためには、当該 GM 作物 の宿主と交雑可能な野生種や近縁種の生物学的情報を充 実させる必要がある。 2.研究方法 ツルマメの生物情報集の主な記載項目は OECD の「ダ イズの生物学に関するコンセンサス文書」 (OECD, 2000) ダイズは、世界の主要作物の一つであり、GM ダイズ および「栽培作物の生物学に関するコンセンサス文書の の作付面積も年々増加している。2014 年におけるGMダ ための考慮すべき事項」 (OECD, 2006)を参考としたが、 イズの作付面積は前年に比べ 7.3%(620 万 ha)増えて 詳細な項目についてはツルマメの特性に基づき、個々の 9,070 万 ha、これは世界のダイズ栽培面積の約 82%を占 記載項目を設けた。また、本報告の作成に使用する文献 。我が国で消費されるダイズの めている(James, 2014) 等は、コンセンサス文書(OECD, 2000)での使用文献を 約 95%は北米、ブラジル、カナダなどより輸入され、こ 参考にし、①査読論文、②科学雑誌・刊行物、③政府出 れらの国々で作付される GM ダイズも我が国に多く輸入 版物、④科学的会合の報告書・講演記録、⑤ウェブサイ されている。 トの順番で資料を調査し、引用した。また、我が国にお 表 1 は、我が国で栽培、食用、飼料用としての使用が けるツルマメの分布情報は、さく葉標本のラベル情報 承認された GM ダイズの一覧である(環境省 , 2014)。主 (国立科学博物館、東京大学) 、公開されているデータ たる品種は特定の除草剤に耐性を示す除草剤耐性の GM ベース情報(農業生物資源ジーンバンク , 2015; ナショナ ダイズであり、2010 年頃より成分を改変した品種が承 ルバイオリソースプロジェクト , 2015)より、ツルマメ 49 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 表 1 日本国内において第一種使用(栽培、食用、飼料用)が承認されている遺伝子組換えダイズ一覧 除草剤耐性 除草剤耐性 除草剤耐性 除草剤耐性 第一種使用の 主な内容 承認年 栽培 食用 飼料用 日本モンサント(株) ○ ○ ○ 2005 バイエルクロップサイエンス(株) ○ ○ 2006 バイエルクロップサイエンス(株) ○ ○ 2006 日本モンサント(株) ○ ○ ○ 2008 除草剤耐性 デュポン(株) ○ ○ ○ 2009 除草剤耐性 高オレイン酸形質 BASF ジャパン(株) デュポン(株) ○ ○ ○ ○ ○ 2013 2007 高オレイン酸形質、 デュポン(株) 除草剤耐性 ○ ○ ○ 2010 高オレイン酸形質、 デュポン(株) 除草剤耐性 ○ ○ ○ 2012 ○ ○ ○ 2013 名称 除草剤グリホサート耐性ダイズ(40-3-2) 除草剤グルホシネート耐性ダイズ(A2704-12) 除草剤グルホシネート耐性ダイズ(A5547-127) 除草剤グリホサート耐性ダイズ(MON89788) 除草剤グリホサート及び アセト乳酸合成酵素阻害剤耐性ダイズ(DP-356043-5) イミダゾリノン系除草剤耐性ダイズ (BPS-CV127-9) 高オレイン酸ダイズ (260-05) 高オレイン酸含有及び 除草剤アセト乳酸合成酵素阻害剤耐性ダイズ (DP-305423-1) 高オレイン酸含有並びに 除草剤アセト乳酸合成酵素阻害剤及び グリホサート耐性ダイズ (305423 × 40-3-2) * 低飽和脂肪酸・高オレイン酸及び 除草剤グリホサート耐性ダイズ (MON87705) 申請 / 開発者 性質 低飽和脂肪酸、 高オレイン酸形質、 日本モンサント(株) 除草剤耐性 害虫抵抗性 日本モンサント(株) チョウ目害虫抵抗性ダイズ (MON87701) ○ ○ 2013 チョウ目害虫抵抗性ダイズ及び 害虫抵抗性 2013 日本モンサント(株) ○ ○ 除草剤グリホサート耐性ダイズ 除草剤耐性 * (MON87701 × MON89788) * スタック(掛け合わせ)品種 バイテク情報普及会ホームページ http://www.cbijapan.com/other/crops_daizu.php および農林水産技術会議ホームページ http://www. maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/c_list/pdf/list02_20130327.pdf に掲載されている資料に基づき作成。 の特性情報は米国 USDA の植物遺伝資源データベースよ 諸島、台湾、琉球諸島(伊江島、沖永良部島)まで分布 り収集した。また、生育地点の緯度・経度に基づき農業 している。また、宮古群島と石垣島の一部に特産する G. 環境技術研究所(2015)の農村景観・調査情報(RuLIS) koidzumii Ohwi は G. tabacina に類似するが、両種の分類 システムを使用してツルマメ生育地の環境を解析した。 に つ い て は、 研 究 者 間 で 意 見 の 相 違 が あ る( 立 石 , 1995)。一方、Soja 亜属には、2 種が報告されているが、 Ⅰ 分類学的位置づけと分布 いずれも一年生である。そのうち G.max(ダイズ)は作 物として世界的に広く栽培されている。G. soja(ツルマ 1.Glycine 属植物の分類 植物分類学上で、ツルマメは下記に位置する。 メ)は、ダイズの祖先種と考えられ、中国、ロシア、台 湾、韓国、日本に広く分布する(表 2)。 (Skvortz) 、 Soja亜属には、前述の 2 種の他に、G. gracilis 真正双子葉類(Eudicots) マメ目(Fabales) G. ussuriensis(Regel and Maack)、G. for mosana (Hosokawa)、G. wightii(Arnott)Verdcourt などが知ら マメ科(Leguminosae) れている。極東ロシアを流れるウスリー(Ussuri)川に ダイズ属(Glycine) 分布することから命名された G. ussuriensis および台湾に ツルマメ(Glycine soja Sieb. & Zucc.) 分布する G. formosana については、それぞれ Verdcourt (1970)および Hermann(1962)によって G. soja に分類 ツルマメが分類されているGlycine属は、大きくGlycine されている。 亜属とSoja亜属に分けられる。Glycine亜属には、22 種が G. gracilis は、ダイズの雑草型と考えられており、中国 報告されており、いずれも多年生であり、主にオースト 東北部の限られた地域での分布の報告がある。しかし、 。その中で G. ラリアに多く見られる(Hymowitz, 2004) 一部の育種家や分類学者は、G. soja(広義)のみを認め、 tabacina(Labill.)Benth は、オーストラリアから太平洋 雑草型(G. gracilis)はそれに含まれるとして、独立した 50 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 種として認めない見解もある(Hymowitz, 2004; Lu, 2005; 2.ツルマメの分布 Zhuang, 1999)。そのため、gracilis という種小名を今後 ツルマメの主たる分布は中国であるが、北緯 24 度か も使用することは困難になっている(Hymowitz, 2004)。 ら 53 度、東経 97 度から 153 度内の極東地域に隣接する 一方、G. wightii(Arnott)Verdcourt は Lackey(1977)に ロシア(アムール地方、ハバロフスク、プリモライ) 、韓 より別種 Neonotonia wightii(Arnott)Lackey に分類され 国 お よ び 日 本 に 分 布 す る(Iwatsuki et al., 2001; Lu, ている。 2005)。 ツルマメ(Glycine soja Sieb. & Zucc.)は植物分類学、 我が国では、北海道から九州南部まで分布するが、北 細 胞 遺 伝 学、 考 古 学 等 の 様 々 な 観 点 か ら、 ダ イ ズ 限の北海道においては、分布が限られており、主に渡島 〔Glycine max(L.)Merr.〕の祖先野生種であると考えられ 半島および日高地方の太平洋側など南西部に限定されて 。ツルマメからダイズへの栽培 ている(Hymowitz, 1970) いる(三分一 , 1974; 島本 , 1994)。南限については、昭和 化は、紀元前 1100 年頃に中国東北部で起こり、ダイズは 53 年(1978 年)に沖縄本島の佐敷村で収集されたツルマ その後周辺国に伝播したと推定されている(Hymowitz, メの標本が琉球大学理学部付属標本庫に保存されている 1990)。日本への伝播は紀元前 200 年以降で、中国もしく 、 が、現地の再調査では見つかっておらず(島本 , 2008) は韓国より伝播したものと考えられていた(Hymowitz 現在の分布の南限は鹿児島県になっている。また、RuLIS 。しかし、近年各国の遺跡より得ら and Kaizuma, 1981) システムを用いた解析では、ツルマメは標高 0 m 付近の れた炭化種子の形態や炭素年代測定の比較では、紀元前 低地から標高 700 m 近くまで分布し(表 3)、その場所の 9000−5000 年あたりから中国、日本、韓国の複数の場所 年平均気温は 6.8℃以上 17.2℃未満であり、暖かさの指 でツルマメからダイズへの栽培化が進んでいた可能性が 数は 57 以上 143 未満(冷温帯から暖温帯)であった。 。日本における栽培化 指摘されている(Lee et al., 2011) 3.ツルマメの生育環境と共存植物 については、近年得られた出土炭化種子の形態、土器の 圧痕、炭素年代測定等から、縄文時代中期以降から栽培 ツルマメは、一般に日当たりのよい野原、路傍、荒れ 化がはじまったと考えられている(中山 , 2009; 会田ら , 地、河原などに生育するほか、果樹園や畑地に拡がる (奥 2012)。 田 , 1997)。また、水田の畔や道路法面などにも個体群を 表 2 日本国内で分布が確認されている Glycine 属植物 学名 和名 G. tabacina (Labill.)Benth. ボウコウツルマメ 染色体数 (2n) 生活史 分布 40, 80 多年草 日本(沖永良部島、伊江島)、台湾、 太平洋諸島、オーストラリア G. koidzumii Ohwi ミヤコジマツルマメ 40 多年草 日本(宮古群島、石垣島) G. soja Sieb. & Zucc. ツルマメ 40 一年草 中国、ロシア東部、台湾、韓国、日本 G. max (L.) Merr. ダイズ 40 一年草 栽培作物 表 3 RuLIS システムを用いた、ツルマメ採集地点における環境要因 環境要因 平均 標高 (m) 89 年平均気温 (℃ ) 13.7 年間降水量 (mm) 1,909 暖かさの指数 (WI) 107.4 寒さの指数 (CI) −7.8 農業環境技術研究所 農村景観・調査情報(RuLIS)システム http://rulis.dc.affrc.go.jp/rulisweb/ により作成。 日本各地のツルマメ自生地 192 地点を解析。 範囲 0−699 6.8−17.2 782−4,002 57.4−143.0 −37.5−0.0 出典 立石 (1995) Hymowitz (2004) Lu (2005) 立石 (1995) Vaughan et al. (2011) Hymowitz (2004) Lu (2005) Hymowitz (2004) Lu (2005) 51 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 観ることができる。河原の氾濫原や土手、路傍、畑の周 Ⅱ ツルマメの生活史特性 辺や荒廃地など適度の攪乱にさらされる場所をおもな生 育地とし、ヨモギ、セイタカアワダチソウ、ヨシ、スス 1.生活史と生育型 キなど丈の高い植物やフェンスに絡み付いて草丈 3 m 以 ツルマメは、一年生の草本で、種子繁殖する(大橋 , 上に生育する個体もあり、地面を匍匐しながら生育する 1982)。ツル性の無限伸育型であり、茎の太さ、分枝数 個体もある(大橋 , 1982; 島本 , 1994; 阿部・島本 , 2001; に系統間の変異が見られる(福井・海妻 , 1971)。関塚・ 。関東地方の湿潤地にお Saitoh et al., 2004; 黒田ら, 2005) 吉山(1960)は、ツルマメの草型を茎の太さと巻き付き ける調査(Masuda and Washitani, 1990)においても、カ 性によって 4 型に分類しているが、単に分枝が多いタイ ナムグラ、ヤエムグラなどのツル性植物とともに、路 プ(Branching)と巻きつきタイプ(Twining)に分ける 傍、野原、河川敷、荒れ地、畑地などに生育している(表 場合もある(Ohara and Shimamoto, 1994)。 4)。しかし、北海道においては河川敷に限定されている 。 (島本 , 1994) A ● ムラサキ科 A ● マメ科 A ● ● マメ科 A ● ● ケシ科 セリ科 P ● ● A ● キク科 A ● ● タデ科 ガガイモ科 タデ科 A ● P ● ● P ● ● ヒユ科 P ● ヤマノイモ科 キク科 P ● P ● ユリ科 P ● キンポウゲ科 P ● ブドウ科 P ● ● ユリ科 P ● ● ウリ科 A ● タデ科 A ● イネ科 イネ科 アカネ科 キク科 P P P A ● ● 人家周辺 アカネ科 畔 A ● A ● ● 土手 クワ科 キク科 ● ● ● 空き地 P ● 湿地 低 ( 地︶ キク科 堤防 林縁 果樹園 畑地 荒れ地 Artemisia indica Willd. var. maximowiczii (Nakai) H.Hara カナムグラ Humulus scandens (Lour.) Merr. アキノノゲシ Lactuca indica L. Galium spurium L. var. echinospermon ヤエムグラ (Wallr.) Desp. ハナイバナ Bothriospermum zeylanicum (J.Jacq.) Druce Vigna angularis (Willd.) Ohwi et H.Ohashi ヤブツルアズキ var. nipponensis (Ohwi) Ohwi et H.Ohashi Amphicarpaea bracteata (L.) Fernald subsp. ヤブマメ edgeworthii (Benth.) H.Ohashi var. japonica (Oliv.) H.Ohashi ジロボウエンゴサク Corydalis decumbens (Thunb.) Pers. ヤブジラミ Torilis japonica (Houtt.) DC. Lapsanastrum apogonoides (Maxim.) J.H.Pak コオニタビラコ et K.Bremer イヌタデ Persicaria longiseta (Bruijn) Kitag. ガガイモ Metaplexis japonica (Thunb.) Makino スイバ Rumex acetosa L. Achyranthes bidentata Blume var. fauriei ヒナタイノコヅチ (H.Lév. et Vaniot) ヤマノイモ Dioscorea japonica Thunb. カントウタンポポ Taraxacum platycarpum Dahlst. Barnardia japonica (Thunb.) Schult. et ツルボ Schult.f. ノカラマツ Thalictrum simplex L. var. brevipes H.Hara Ampelopsis brevipedunculata var. ノブドウ brevipedunculata Polygonatum odoratum (Mill.) Druce var. アマドコロ pluriflorum (Miq.) Ohwi スズメウリ Zehneria japonica (Thunb.) H.Y.Liu Persicaria sagittata (L.) H.Gross var. sibirica ウナギツカミ (Meisn.) Miyabe オギ Miscanthus sacchariflorus (Maxim.) Benth. ヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud. ヘクソカズラ Paederia foetida L. タカアザミ Cirsium pendulum Fisch. ex DC. * A:一年生、 P:多年生 ヨモギ 科 名 河川敷・河原 学 名 野原・草地 * 和 名 路傍 生活史 表 4 ツルマメ生育地およびその周辺に生育する植物種と生育環境(Masuda and Washitani, 1990; 奥田 , 1997 より作成) ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 52 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) 2.発芽条件 は各処理よりも発芽率が 60−67%に高まることから、 ツルマメの種子は種皮に傷をつけると発芽するため、 発芽には低温要求性があることが知られている。また、 発芽は硬実によって制御される(Ohara and Shimamoto, 1 か月の 25℃乾燥保存での発芽率は 41−50%、屋外で 1 か 1994)。硬実は吸水を妨げるため休眠が深い(阿部・島 月埋土した種子の発芽率は 15−100%である(Washitani 。中国で行われたポット試験(直径 50 cm 深さ 本 , 2001) and Masuda, 1990)。 60 cm のポットで 5 個体栽培)では、硬実の程度はかん 水の条件で大きく変動し、開花最盛期(8 月中旬)まで 3.栄養成長及び開花・結実 は週 2 回の水やりを行い、その後収穫期(9 月下旬)まで 発芽した個体は、生育の初期には暑さや乾燥、その後 水を与えなかった場合の硬実の程度は、従来の頻度で収 は除草行為や河川の増水により多数死亡し、個体群ごと 穫期まで水を与え続けた場合よりも高まった(Zhou et の 生 存 率 は 0−47% と 報 告 さ れ て い る( 中 山・ 山 口 , al., 2010)と報告されている。湿度 35−45%、温度 18− 2000)。 25℃で 10 年間保存した場合、硬実の割合は保存前の 岡山で岩手および秋田の系統を 6 月 18 日に播種した 96%から 9%へと減少し、発芽率は 100%から 28%へと 場合の栄養成長期間は、それぞれ 107 日、122 日(Saitoh 減少する。また、5 年間酸素存在下で保存した場合の硬 et al., 2004)であったと報告されている。関塚・吉山 実の割合は 96%から 45%へと減少し、種皮抗酸化成分 (1960)は、秋田、仙台、三重および鹿児島から取り寄 の一つであるエピカテキンの酸化と硬実率の低下との関 せた系統を 4 月から 8 月にかけて、一ヶ月おきに播種し 連性が示唆されている。 た場合の開花まで日数を計測し、4 月播種では 95−141 種子の越冬能力は高く、0.5 cm の深さに埋土した場合 日、5 月播種では 93−96 日、6 月播種では 66−75 日、7 、5 cm の深さで埋土した場 は 90%(中山・山口 , 2001) 月播種では 47−61 日、8 月播種では 48−53 日、と播種期 合は 98−100%(北本ら , 2007)の種子が越冬したという が遅くなればなるほど栄養成長期間や草丈の系統間差は 報告がある。野外での生育地での発芽の記録は、和歌山 小さくなり、栄養成長期間は短く、草丈も低くなる傾向 県で 4 月中旬、丹波地方で 5 月上旬、その後も 8 月中旬ま を報告している。 。埼玉県田島ヶ原 で観察されている(中山・山口 , 2000) ツルマメは 8 月中旬から 9 月下旬にかけて開花し、葉 では 4 月上旬から 6 月下旬にかけて発芽が観察され、 腋から伸長した枝に 5−6 個の花を側生し総状花序を形 2 1986 年の発芽数は 1 m あたり 5 個体、1987 年は 3 個体、 成 す る。 各 花 の 寿 命 は 約 1 日 で あ る(Ohara and 発 芽 時 期 の 中 央 値 は4月 中 旬 か ら5月 上 旬 で あ る Shimamoto, 2002)。生殖成長期間は 32 日(岩手の系統を 。実験圃場(大阪市)にお (Masuda and Washitani, 1990) 岡山で栽培) 、40 日(秋田の系統を岡山で栽培)と報告 いては、4 月から 11 月にかけては断続的に発芽し、1 年 されている(Saitoh et al., 2004)。豆果は狭楕円形、褐色 間の累積発芽率は 4.5%(中山・山口 , 2001)であった。 毛を密生し、2−3 粒の種子が入る。種子は扁平な楕円 北海道の自然生育地における発芽率は、河岸で 0.7%、内 体、黒色に着色する(大橋 , 1982)。また、開花期に乾燥 、実験室で 陸側で 27.4%(Ohara and Shimamoto, 1994) や低温など不順な気候にさらされると開花することなく の発芽率は、巻きつきタイプで 0−45%(平均 17.5%)、 蕾のまま受粉し(閉花受粉)、開花期の後半はほとんどの 分枝が多いタイプで 5%と報告されている(Ohara and 花は閉花受精する(阿部・島本 , 2001)。北海道での実験 。 Shimamoto, 1994) では、開放花は全体の 0.9−2.4%であり、97%以上は閉 自生地で採集された雑草種子について、冷乾保存や冷 鎖花となるが、結莢率は開放花の方が高く、50%を超え 湿保存処理と段階温度処理などを組み合わせた多様な温 。埼玉 るが、閉鎖花では 30%程度である(宮下ら , 1999) 度処理に対する発芽反応が調べられている。採集直後の 県田島ヶ原では 8 月下旬から 9 月下旬にかけて開花し、 ツルマメ種子は 4℃からの温度上昇(IT)処理の間に 12℃ 登熟後の種子散布は 9 月下旬から 12 月上旬にかけて観 から 16℃で 8%、36℃からの温度下降(DT)処理では開 察されている(Masuda and Washitani, 1990)。岩手大学 始温度の 36℃で 11−13%の種子が発芽する。一方、1 か 農学部の圃場において、日本のツルマメ 28 系統と海外 月 冷 湿 保 存 し た 種 子 は IT 処 理 の 間 に 8℃ か ら 28℃ で 72 系統を 1973 年 6 月 8 日および 1974 年 5 月 25 日に播種 18%、DT 処理の間に 36℃から 32℃で 17%の種子が発芽 し、比較が行われた。開花時期については、秋田から宮 し、低温処理によって発芽可能温度が低温側に拡大す 崎の日本の系統のなかで最も早かったのは秋田系統で 8 る。4 か月の冷乾保存と 1 か月の冷湿保存の組み合わせで 月 3 日、最も遅かったのは宮崎の系統で 9 月 24 日、その 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 53 差は 54 日だった。成熟時期については、最も早かったの し、 河 岸 の 裸 地 で は 8−30 粒 で あ っ た(Ohara and は秋田系統の 10 月 19 日、最も遅かったのは宮崎系統の Shimamoto, 1994)。 12 月 5 日で、その差は 47 日だった。無霜期間の長短が生 圃場で栽培した場合には、600 個以上の種子を生産す 育期間の制限要因になり、緯度勾配に沿った地理的変異 る 個 体 も あ り(Saitoh et al., 2004; Kuroda et al., 2006; パ タ ー ン が 形 成 さ れ た と 考 察 さ れ て い る( 福 井 ら , Yoshimura et al., 2011)、最大 7,574 個であった(Kuroda 1978)。 et al., 2013)。関塚・吉山(1960)は、秋田、仙台、三重 および鹿児島から取り寄せたツルマメを 4 月から 8 月に 4.交雑様式 かけて、一月おきに播種した場合の種子生産数を計測 ダイズは自家受粉植物であり、花が完全に開く前に雄 し、4 月 播 種 で は 142−878.8 個、5 月 播 種 で は 197− ずいが伸長し、裂開した葯が柱頭に接触して受粉は開花 732.9 個、6 月播種では 49−768.5 個、7 月播種では 132− 前 に 完 了 す る こ と が 知 ら れ て お り(Williams, 1950; 171 個、8 月播種では 0−5 個であったと報告している。 、ツルマメもこれと同様と考 Carlson and Lersten, 1987) また、光環境への適応の例として 0%、45%、75%の えられている。ツルマメは 1 花あたり平均 3 個の胚珠お 3 段階の遮光処理を行うと、遮光が強くなるほどツルマ よび約 2,000 個の花粉粒を持つ(Ohara and Shimamoto, メは茎が伸長し、個体重や種子数は減少、100 粒重は増 2002)。ツルマメの花粉の寿命についての報告はないが、 大する(大原ら , 1992)。一方、ダイズでは有限伸育型、 ダイズと同様、通常開花後 2−4 時間(Andersson and de 半無限伸育型および無限伸育型ともにツルマメと同様の Vicente, 2010)と考えられる。さらに、ツルマメは他家 傾向を示すが、遮光程度に対する反応性は異なる。 特に、 受粉能力も保有しており、Fujita et al.(1997)は、複数 75%の遮光では 100 粒重が減少する点がツルマメと異な の遺伝子座分析からの推定により、他殖率は 9.3−19%、 る。 平均他殖率は 13%、Kiang et al.(1992)は、2.3%と報告 莢は脱粒しやすく、莢が縦方向に開裂し、種子が散布 している。また、ダイズとツルマメは、相互交雑が可能 され(Ohara and Shimamoto, 2002)、晴れた秋の日には で(Karasawa, 1936; Kwon et al., 1972; Oka, 1983)、野外 莢のはじける音が聞かれる(阿部・島本 , 2001)。飛散す におけるダイズとツルマメとの交雑は、両者を近くで栽 る種子数は、親植物から離れるほど減少し、最大飛散距 培した場合に発生し、その交雑率は 0.73%(Nakayama 、6.5 離は、2.8−3 m(Li et al., 1997)、4.5 m(Oka, 1983) 、0.015%(Wang and Liu, 2006)、 and Yamaguchi, 2002) −7 m(Yoshimura et al., 2011)に達することが報告され 0.008%(Mizuguti et al., 2009)、0.14%(Mizuguti et al., て お り、 飛 散 種 子 の 99% は 5 m 以 内 に 落 下 す る 2010)と報告されている。温室内で両種を栽培し、ミツ 。自生地においては 1 m2 あたり (Yoshimura et al., 2011) バチの箱を置いた場合には、0.477%という報告がある に ト ラ ッ プ さ れ る 種 子 数 は 58.7 粒 と い う 報 告 が あ る 。 (Mizuguti et al., 2008) ツルマメの花粉は昆虫によって送粉され、表 5 のよう な種の訪花が観察されている。 5.種子生産と散布様式 表 5 ツルマメの訪花昆虫 分類 ハチ目 昆虫 ニホンミツバチ 北海道のツルマメ自生地における個体当たりの種子生 コハナバチ sp. 、莢数は 7−104 莢 産数は 16−235 個(74.82 ± 50.33 個) ハキリバチ sp. (32.06 ± 20.31 莢)、1 莢内種子数は 0−4 個(2.29±0.27 クマバチ 個) (大原・島本 , 1988; 1989)である。分枝が多いタイ プと少ないタイプに分け、多いタイプでは平均で 104 個、少ないタイプで 56.5 個という報告もある(Ohara and 。近畿地方の自生地における 1 個体あ Shimamoto, 1994) ハエ目 たりの種子生産数は、個体群ごとの平均では 8.3−176 チョウ目 個、最大で 674 個(中山・山口 , 2000) 、219 個(加賀ら , シジミチョウ sp. 2005)と報告されている。また、50 cm 方形区内に散布 された種子数は河原の植物群落内では 31−50 粒に対 ツチバチ類 カリバチ類 スズバチ ハナアブ類 ハエ類 セセリチョウ sp. アザミウマ目 ツメクサガ アザミウマ類 出典 Fujita et al., 1997 黒田ら , 2005 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 黒田ら , 2005 中山・山口 , 2002 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 中山・山口 , 2002 中山・山口 , 2002 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 Fujita et al., 1997 中山・山口 , 2002 54 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) (Masuda and Washitani, 1990) 。また、国内では 200 m お 中国のツルマメ 26 系統のうち 21 系統、ロシアのツル 、 中 国 で は 1.5 km よ び 12.4 km(Kuroda et al., 2006) マメ 30 系統のうち 25 系統は相互転座を有し、相互転座 (Wang and Li, 2012a)という種子の長距離移動も示唆さ のないツルマメとダイズとの F1 における花粉稔性は れており、それらの原因は水や動物、人間によるものと 90.9−91.3%なのに対し、中国の転座系統とダイズとの 考えられている。 雑種では 44.9−52.2%、ロシアの転座系統とダイズとの 雑種では 46.9−53.2%、その転座は 46 系統のツルマメ間 6.昆虫による食害 で共通している可能性が示唆されている(Palmer et al., 多種類の昆虫が摂食する。茨城県と佐賀県での調査で 1987)。その中の 2 系統 PI464890B、PI101404B は第 11 は、バッタ目とコウチュウ目による摂食が最も多く、次 染色体と 13 染色体との間で相互転座を生じていること いでチョウ目(摂食率は 2%以下)で、他にはカメムシ が蛍光 in situ ハイブリダイゼーションによって、最近、 目やカタツムリなどが観察された(Horak et al., 2012)。 証明された(Findley et al., 2010)。 黒田ら(2005)もコウチュウ目のドウガネブイブイの摂 食を記録している。安田ら(2012)は、東北、関東、中 2)塩基配列にみられる差異 国、九州地方での調査を行い、チョウ目害虫合計 12 科 ダイズの核ゲノムの塩基配列については、米国のダイ 47 種を報告した。全国的に広く発生が確認されたものは ズ品種 Williams 82 の塩基配列が一般的なリファレンス ダイズサヤムシガ、ウコンノメイガ、ヨモギエダシャ 配列(Schmutz et al., 2010)として扱われている。その ク、チャバネキボシアツバの 4 種であり、4 地域すべてで 配列は 20 本の染色体に相当する 20 本のアッセンブリか 。 確認された(表 6) ら構成され、ダイズの総塩基配列長 1.1 Gb のうち 975 Mb の情報が公開されている。一方、葉緑体の塩基配列 Ⅲ ツルマメとダイズの特性比較 長は 152 kb(Saski et al., 2005)、ミトコンドリアの塩基 配列長は 403 kb(Chang et al., 2013)である。 1.遺伝的特性の比較 1)核型にみられる差異 次世代型シーケンサーによって韓国のツルマメ(Kim et al., 2010)および中国の複数のツルマメ(Lam et al., ツルマメはダイズと同じ染色体数(2n=40)を持ち 2010)の塩基配列が解読され、韓国のツルマメについて 、重複したゲノムを持つ古倍数性の (Carter et al., 2004) は米国のWilliams 82 の塩基配列と比較され、中国のツル 、また、人工交雑による F1 植物であり(Kim et al., 2010) マメについては同時に解析された複数の中国産ダイズ品 (雑種第 1 代)は高い種子稔性を持つことが知られている 種の塩基配列と比較されている。中国のツルマメ 17 系統 。しかし、ツルマメとダイズとの F1 (Carter et al., 2004) の塩基多様度θπは 2.97 × 10−3 と中国のダイズ 14 品種の の花粉稔性を詳しく調べた研究(Palmer et al., 1987)か θπ1.89 × 10−3 よりも大きく、ツルマメにおける遺伝子の らは稔性の低い組み合わせから染色体構造の違うツルマ コーディング領域(CDS)の多様度も 1.06×10−3 とダイ メが見つかっている。それらは<第 1 章 分類学的位置 ズの 0.72 × 10−3 よりも高い(Lam et al., 2010)。また、米 づけと分布、1.Glycine 属植物の分類>で記述したよう 国のダイズ品種に比べると韓国のツルマメはゲノム全体 に、 現 在 は G. soja に 分 類 さ れ て い る が、 以 前 は G. で約 0.31%の塩基が異なり、46,430 のうち 16,519 の遺伝 ussuriensis や G. formosana などの種名であったものも含 子に非同義置換の変異を持つことがわかっている(Kim まれる。 et al., 2010)。また、このツルマメは約 32.4 Mb の領域が 例えば、中国浙江省で収集されたツルマメ(PI163453) 欠失していることやツルマメ独自のアッセンブルによっ の染色体はダイズのものよりも 6−7%短く(Ahmad et て、ダイズには存在しない約 8.3 Mb のツルマメ特有のゲ 、ダイズとの F1 における花粉稔性は温度によっ al., 1984) ノムが見出されている。しかし、日本のツルマメの塩基 て 75.1−83.7%のばらつきを示すが、これは相同染色体 配列は報告されておらず、今後、全塩基配列の解読が期 上の偏動原体逆位が原因と考えられている (Ahmad et al., 待される。 1977)。一方、ロシアで収集されたツルマメ(PI81762)で は相互転座を生じており、ダイズとの F1 における花粉稔 性は 49.2−53.3%と報告されている(Singh and Hymowitz, 1988)。 3)遺伝的類縁関係 これまで多数の研究者により種々の分子マーカーを用 いてツルマメとダイズの集団遺伝構造の比較が行われて 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 表 6 東北、関東、中国、九州地方で調査したツルマメのチョウ目食害昆虫(安田ら , 2012 より作成) 科名 Lyonetiidae ハモグリガ科 和名 ダイズギンモンハモグリガ 学名 Microthauma glycinella Kuroko コフサキバガ Dichomeris acuminata (Staudinger) ネズミエグリキバガ Acria ceramitis Meyrick スジトビハマキ ウスアトキハマキ チャハマキ チャノコカクモンハマキ オクハマキ クロバヒメハマキ ダイズサヤムシガ ヒロバヒメサヤムシガ マメシンクイガ Pandemis dumetana (Treitschke) Archips semistructa (Meyrick) Homona magnanima Diakonoff Adoxophyes honmai Yasuda Dentisociaria armata okui Yasuda Olethreutes doubledayanus (Barret) Matsumuraeses falcana (Walsingham) Matsumuraeses vicina Kuznetzov Leguminivora glycinivorella (Matsumura) ヒメクロミスジノメイガ マエウスキノメイガ ウスイロキンノメイガ ウコンノメイガ アズキノメイガ クロモンキノメイガ Omiodes miserus (Butler) Omiodes indicatus (Fabricius) Pleuroptya punctimarginalis (Hampson) Pleuroptya ruralis (Scopoli) Ostrinia scapulalis Mutuura & Munroe Udea testacea (Butler) モンキチョウ キタキチョウ Colia serate poliographa Motschulsky Eurema mandarina (De L'Orza) ツバメシジミ Everes argiades (Pallas) コミスジ Neptis sappho intermedia W.B.Pryer ヨモギエダシャク ウスジロエダシャク コウスアオシャク アカアシアオシャク ナミスジチビヒメシャク Ascotis selenaria cretacea (Butler) Ectropis obliqua (Prout) Chlorissa obliterata (Walker) Culpinia diffusa (Walker) Scopula personata (Prout) マメドクガ ヒメシロモンドクガ Cifuna locuples confusa (Bremer) Orgyia thyellina Butler シロヒトリ Chionarctia nivea (Ménétriès) アオアツバ ミツボシアツバ キボシアツバ チャバネキボシアツバ ウスキミスジアツバ オオシラナミアツバ オオウンモンクチバ エゾギクキンウワバ イチジクキンウワバ スジモンコヤガ ナシケンモン オオタバコガ ツメクサガ ハスモンヨトウ ヒメサビスジヨトウ シロシタヨトウ カブラヤガ Hypena subcyanea Butler Hypena tristalis Lederer Paragabara flavomacula (Oberthür) Paragabara ochreipennis Sugi Herminia arenosa Butler Hipoepa fractalis (Guenée) Mocis undata (Fabricius) Ctenoplusia albostriata (Bremer & Grey) Chrysodeixis eriosoma (Doubleday) Microxyla confusa (Wileman) Viminia rumicis (Linnaeus) Helicoverpa armigera armigera (Hübner) Heliothis maritima adaucta Butler Spodoptera litura (Fabricius) Athetis stellata (Moore) Sarcopolia illoba (Butler) Agrotis segetum ([Denis & Schiffermüller]) Gelechiidae キバガ科 Peleopodidae エグリキバガ科 Tortricidae ハマキガ科 Crambidae ツトガ科 Pieridae シロチョウ科 Lycaenidae シジミチョウ科 Nymphalidae タテハチョウ科 Geometridae シャクガ科 Lymantriidae ドクガ科 Arctiidae ヒトリガ科 Noctuidae ヤガ科 55 56 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) きた。葉緑体やミトコンドリアのオルガネラゲノムにつ グループが見出されている(Guo et al., 2010)。さらに、 いては、Shimamoto(2001)あるいは島本(2008)の総 中国各地の 40 個体群(712 サンプル)の遺伝構造解析 説に詳しく記載されている。ツルマメやダイズの葉緑体 (Guo et al., 2012)では、中国の集団内多様度(0.345)は では 3 種類、ミトコンドリアでは 6 種類の塩基配列の変 日本の集団内多様度(0.228)よりやや高く、逆に集団間 異が見られ、その他にツルマメのミトコンドリアに特異 多様度(0.561)は日本の集団間の多様度(0.76)よりも 的な 20 種類の塩基配列の変異が見出されている。 低いことなどより、中国中北部のツルマメのグループは ミトコンドリア変異に基づくと、ツルマメは大きく 4 つの群に分類される。すなわち、①ツルマメに特異的な 中国東北部や南部、日本、韓国のツルマメとは大きく異 なる遺伝組成を持つと報告されている。 群、②日本のダイズやツルマメに特異的な群、③中国の ダイズやツルマメに特異的な群、④ダイズに特異的な群 2.形態的特性の比較 である。2,000 のツルマメ標本および 1,000 のダイズ標本 1)種子の形態にみられる差異 の解析では、葉緑体とミトコンドリアの変異を組み合わ 農林水産ジーンバンクに保存されている国内で収集さ せることで、ツルマメとダイズで共通してみられる 8 種 れたツルマメ種子の 100 粒重の平均値および変異幅は、 類の細胞質遺伝子型の他に、ツルマメに特異的な 30 種 2.20 g および 0.85−7.34 g、ダイズは、27.8 g および 3.5 類以上の細胞質遺伝子型が知られている。ツルマメとダ −73.9 g を示し、両者の平均値は大きく異なるが、3.50 g イズで共通の細胞質遺伝子型のうち、日本と中国のダイ 。 から 7.34 g の間で変異が重なっている(加賀ら , 2005) ズはCpⅠ+mtⅣb型を持つダイズが最も多く、ツルマメで ツルマメに近い粒重を示したダイズの来歴は、主に沖縄 は CpⅢ+mtⅣa 型を持つものが最も多い。 県の栽培種や飼料用系統であり、飼料用系統のなかには 核ゲノムについては解析系統数が多い研究例を下記に ツルマメとの雑種後代から育成された系統が含まれてお 示した。20 種類の SSR マーカーによる 1,358 系統の解析 り(関塚・吉山 , 1960)、それらはツルマメの遺伝子を持 では、日本のダイズは世界中のどのツルマメとも遺伝的 。以上のよう つことがわかっている(Kaga et al., 2012) に分化しており、韓国、中国、ロシアのツルマメよりも に、ダイズとツルマメの形態的分化が不明瞭な系統も存 日本のツルマメに最も近縁であると報告されている 在する。 。さらに、ダイズの遺伝変異を検出 (Kuroda et al., 2009) ダイズとツルマメとの中間的な形態的特性を持つ中間 するのに適した 191 種類の SNP マーカーによって、世界 、中国(Wang et al., 2008) 型はロシア(Skvortzow, 1927) のツルマメに加えて世界のダイズを含めた 1,603 系統が だけでなく、日本でも岡山、鳥取、栃木、茨城の各県か 。 解析されている(Kaga et al., 2012) 、秋田、山 ら収集されたツルマメ(関塚・吉山 , 1960) 、日本のツ 図 1 に示すように(Kaga et al., 2012 を改変) 形、新潟、福島、千葉、愛知、福井、滋賀、広島、島根 ルマメをはじめ、各国のツルマメはダイズとは大きく異 および福岡で収集されたジーンバンクの保存系統(加賀 なる群を形成し、日本のツルマメがダイズに最も近縁で ら , 2005)にも存在する。しかしながら、阿部・島本 あり、韓国、中国、ロシアの順に遠縁になる傾向が認め 「10 年以上にわたり日本各地より採集、分析 (2001)が、 られている。ダイズのなかでは、南アジアや中国に分布 してきた 800 近い集団の中に、明瞭な中間型は見つかっ する雑草型のダイズや飼料用のダイズがツルマメに最も ていない」と述べているように、中間体は存在するとし 近縁であり、日本のダイズに比べると米国のダイズはツ ても非常にまれであると考えられる。 ルマメにやや近縁な傾向が認められる。ただし、この解 日本とは異なり、中国とくに東北部では比較的多くの 析に使用された海外のツルマメは、1800 年代以降各国 中間体が発見されている。中国全土から収集されたツル で収集され、USDA に保存されていたツルマメのため、 マメ 6,172 系統のうち 8.5%が 100 粒重 5 g 以上の大粒で 特に中国での収集範囲や系統数が限られている。 。 あり、また 2%が緑色の種子である(Dong et al., 2001) 最近、中国を広く包括したツルマメ 231 系統とダイズ このなかから選定された 100 粒重 3−10 gの 1,185 系統に 79 品種との遺伝構造が 56 種類の SSR マーカーを用いて は、栽培ダイズに特徴的な形質(種皮色、花色、毛茸(も 比較されており、中国東北部と極東ロシアのツルマメの うじ)色、ろう粉など)が数多く見つかり、それらは南 グループ、中国南部・日本・韓国のツルマメのグループ、 部よりも北部、西部よりも東部に数多く分布していた 中国中北部のツルマメのグループ、中国東北部・日本・ (Wang et al., 2008)。栽培化と関わりの深い黄河中流域の 韓国のダイズのグループ、中国南部と中北部のダイズの 陝西省の自生地からサンプリングされたツルマメ 91 個 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 57 図 1 世界のツルマメと世界のダイズとの類似性(Kaga et al., 2012 より改変) 体の SSR 解析では、100 粒重 3−9 g の中間型は遺伝子浸 。葉形 茸(もうじ)は直立型で長い(福井・須永 , 1978) 透により形成された可能性が指摘されている(Wang et は USDA に保存されているツルマメ 661 系統間(Chen al., 2012b)。このような日本との地域差、中間型が生存 and Nelson, 2004)でも比較されている。同じ条件での栽 可能な環境や個体群の特徴は、遺伝子浸透や遺伝子定着 培比較ではダイズ 94 系統とツルマメ 90 系統の特性値 の可能性を知る上で重要である。 2)葉型にみられる差異 (表 7)が報告されている(Jong and Kim, 2009)。 3.成熟群の比較 開花や熟期と同様に、葉型でも緯度勾配に沿った地理 ダイズにおける開花までの栄養生長期間は、日長およ 的変異パターンが認められており、低緯度では丸葉型、 び温度に影響を受け、栽培地の日長と生育温度との組み 高緯度では長葉型が優占的である。海外のツルマメと異 合わせにより決定される(福井 , 1963)。米国では、ダイ なる点として、日本のツルマメは茎のアントシアニン着 ズの栽培地域が南北に大きく広がっていることから、ダ 色が濃厚で、茎はやや太く、葉型は中間型で大きく、毛 イ ズ 品 種 は 栽 培 適 地 に 対 応 し た 13 種 類 の 成 熟 群 58 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) (Maturity Groups; MG)に分類されてきた(Hartwig and Edwards, 1987)。北米以北に適した MG 000 から赤道付 近に適した MG Ⅹまで設けられているが、最近の研究で は、MG ⅣからⅥに分類されていた品種群の最適帯は従 来 よ り も 南 方 で あ る と 示 唆 さ れ て い る(Zhang et al., 2007)。日本では、開花までの日数を 5 段階(ⅠからⅤ)、 開花から登熟までの日数を 3 段階(a から c)に分類し、 その組み合わせによりダイズ品種の生態型が分類されて 。 いる(福井 , 1963) 1950−1995 年に品種登録された 97 品種を米国の成熟 表 8 日本の主要 97 ダイズ品種の成熟群による分類 US MG MG MG MG MG MG MG MG JP 00 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅰa 2 2 2 Ⅰb 4 14 2 Ⅱa 1 3 2 2 1 1 Ⅱb 2 3 12 2 1 Ⅱc 2 8 4 1 Ⅲb 1 Ⅲc 1 2 7 3 Ⅳc Ⅴc 総計 3 11 23 24 9 5 7 3 JP:日本における分類、US:米国における分類 MG MG MG 総計 Ⅶ Ⅷ Ⅸ 2 2 4 3 2 5 3 3 6 20 10 20 15 1 13 5 7 97 群に分類した結果(Zhou et al., 2002)を参考に、米国で 育成されたダイズの開花・登熟期と比較する場合の目安 として表 8 を作成した。ⅠaからⅠbには主に北海道の品 種と九州の一部の極早生品種、Ⅱ a からⅡ c には東北、北 陸、関東、中部、東海の早生品種、Ⅲ c には東北、北陸、 関東、中部の晩生品種、Ⅳ c には近畿、山 陰、山陽、 四国、九州の晩生品種、Ⅴ c には近畿、山陽、四国、九 州の極晩生品種などが分類されている(福井・荒井 , 1951)。 ツルマメの生態型はダイズと同じ基準で分類されてい ないが、福井・海妻(1971)によると、東北、北陸、山 陰には開花・成熟期が早い系統、関東、東海、近畿は中 程度、四国、九州には開花・成熟期が遅い系統が分布す る。 一 方、 米 国 USDA の 植 物 遺 伝 資 源 デ ー タ ベ ー ス (USDA, 2015)の検索では、ダイズの Maturity Group の 評価に日本のツルマメ 284 系統が含まれており、これら を収集地点の情報とともに表 9 に分類した。日本のツル マメは開花・登熟が最も早いと考えられる北海道の系統 が MG Ⅲ、最も遅い鹿児島の系統が MG Ⅸであった。表 8 は米国で育成されたダイズの開花・登熟期と比較する 場合の目安になるが、アメリカで行われた開花・成熟期 の調査に基づいており、日本の自生地における開花・登 熟期と一致しないため、注意が必要である。 表 7 同一栽培条件下におけるダイズとツルマメの葉型 の差異(Jong and Kim, 2009 より作成) ダイズ ツルマメ 中央小葉長 12.3 ± 1.25cm 6.6 ± 1.35cm 幅 6.8 ± 1.241cm 2.9 ± 0.92cm 面積 55.6 ± 15.75cm2 14.3 ± 7.83cm2 葉形指数(LSI) 1.9 ± 0.38 2.4 ± 0.53 葉の厚さ 0.25 ± 0.054mm 0.14 ± 0.032mm 葉面積比(LAR) 40.1 ± 8.22 53.7 ± 12.02 角度 37.6 ± 5.89° 54.6 ± 10.77° 葉柄長 23.9 ± 5.89cm 5.9 ± 2.33cm ダイズ 94 系統とツルマメ 90 系統の平均値を示した。 表 9 日本各地のツルマメの Maturity group 収集場所 USDAによるMaturity groupの分類 収集地点の 系統数 北緯(度) Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ Ⅷ Ⅸ 北海道 1 6 1 青森県 1 2 7 岩手県 2 11 秋田県 3 30 1 山形県 1 福島県 1 2 茨城県 6 3 栃木県 5 2 群馬県 1 埼玉県 1 2 千葉県 4 東京都 3 神奈川県 1 1 1 新潟県 1 3 富山県 1 石川県 1 福井県 1 山梨県 2 長野県 3 10 1 岐阜県 1 静岡県 1 1 愛知県 2 17 16 京都府 1 兵庫県 1 32 15 奈良県 4 鳥取県 1 島根県 2 岡山県 4 広島県 1 山口県 1 1 徳島県 1 香川県 1 愛媛県 3 高知県 1 1 福岡県 1 2 佐賀県 1 長崎県 2 熊本県 23 14 宮崎県 1 鹿児島県 3 3 1 総 計 2 13 62 128 75 1 米国 USDA の植物遺伝資源データベース (http://www.ars-grin.gov/)より作成。 1 1 1 3 8 10 13 34 1 3 9 7 1 3 4 3 4 4 1 1 1 2 14 1 3 35 1 48 4 1 2 4 1 2 1 1 3 2 3 1 2 37 1 8 284 43 40 39 39 38 37 36 36 36 35 35 35 35 37 36 36 36 35 36 35 34 35 35 34 34 35 35 34 34 34 34 34 33 33 33 33 32 32 31 31 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 Ⅳ ツルマメとダイズの雑種形成と遺伝子浸透 59 数値から個体当たりの種子数を算出すると、ダイズ 63 粒、ツルマメ 90 粒、F1148 粒になり、種子数は Kuroda ら 1.自然雑種形成と雑種個体の特性 ダイズが広く栽培されていた秋田県、茨城県、愛知 (2013)の栽培実験結果より極めて少ない。さらに、ダ イズにツルマメが交雑した F1 の草丈(161 cm)と乾物重 県、兵庫県、広島県および佐賀県の 217 調査地点のう (36 g)はツルマメにダイズが交雑した F1 の草丈(81 cm) ち、その近隣で自生する 7 か所のツルマメ個体群のなか と乾物重(18 g)の 2 倍ほど大きくなり、細胞質との交 にツルマメとダイズとの雑種の自生が確認されている 互作用による雑種強勢が示唆されている。 (加賀ら , 2005; 黒田ら , 2005; 2006; 2007; 友岡ら , 2008; 。7 地点のうち 2 地点は秋田県の角館 Kuroda et al., 2010) 2.人工交雑による雑種個体の特性解明 市および山形県の酒田市、そして残りの 5 地点は佐賀市 1)雑種第一代の特性 近郊であった。雑種が発見された場所の近くには、水田 ツルマメにダイズが自然交雑し、雑種が形成されるま 輪換畑での大規模なダイズ栽培があったと記載されてい での過程を考えると、まず雑種種子はツルマメの莢の中 る。なお山形県酒田市で見つかった雑種の解析結果は発 に形成される。そのため、種皮はツルマメ型、その中の 表されていない。F1 の種子や莢はツルマメに比べて大き 子葉はツルマメとダイズとの F1 の遺伝子型といったや く(100 粒重は 5.0−9.8 g、一莢に 3 粒入った莢の長さは や複雑な遺伝構成になる。種子はツルマメのもつ硬皮休 4 cm 程度)、種皮は黄色(緑含む)であり、葉の大きさ、 眠性によって越冬し、その後発芽して F1 個体がツルマメ 蔓の太さ、蔓の巻き方の強さなどはツルマメとダイズと 個体群に生育することになる。 の中間的な特徴を持ち、各地点で発見された雑種の生育 ツルマメ個体群における雑種後代の生存数は F1 が生 範囲はツルマメ個体群のなかであった。黄色い種皮をも 産する種子の数や散布された種子の生存率などによって つ F1 は各地点で 1−2 個体のみが生育し、黒い種皮の F2 決まる。後にマーカー解析によって F1(Kuroda et al., 以降の世代の雑種は 9 個体(2004 年に 7 個体、2005 年に 2010)と同定された秋田県角館町の雑種個体の特徴は、 2 個体)生育していたものの、その分布は 5 m 以内と報告 周辺のツルマメよりもツル化の程度は弱く、草姿は半直 されている。 立型、莢は裂莢しておらず、種皮色はツルマメとは異な 雑種より散布された種子が自生地で生存し、次世代が る(加賀ら , 2005)。近傍のツルマメの莢数と換算 100 粒 形成されるかについての追跡調査 (加賀ら , 2005; 黒田ら , 重はそれぞれ 73 莢および 2.4 g に対し、雑種個体はそれ 2005; 2006; 2007; 友岡ら , 2008)では、佐賀の一地点の ぞれ 35 莢および 9.2 g、交雑した栽培ダイズの換算 100 み F2 以降の世代まで自生していたが、それ以外では雑種 粒重は 32.6 g と報告されている。F1 は 100 粒程度の種子 はF1 世代で淘汰されたと報告されている。F1 及び雑種後 を散布していたと推定されたにもかかわらず、その後の 代からの遺伝子浸透については、これらの雑種が発見さ 経時的モニタリングではこの雑種に由来する後代は見つ れた個体群を含め、秋田県、茨城県、佐賀県の 14 個体群 かっていない(Kuroda et al., 2010)。 でサンプリングされた 1,344 の種子を対象に SSR マー 表 10 に示すように、人工的に作出した F1 とツルマメ カーで解析されたが、これらの種子のなかにはダイズ由 の適応度関連形質を量的に比較した研究は外国産ツルマ 来の遺伝子が個体群へ浸透した形跡は確認されていない メとダイズとの組み合わせに限られていた。上記で述べ 。 (Kuroda et al., 2008) たように、古くから中国やロシアのツルマメとダイズと 中国でも同様に、ダイズ畑の近隣で自生するツルマメ の間の生殖的隔離障壁の仕組みが着目されていたこと 個体群や栽培ダイズのなかから雑種が見つかっている。 や、中国でのダイズ栽培化や中間型のダイズの適応進化 中国黒龍江省に近い内モンゴル自治区の 3 か所で収集さ に関する研究が盛んであったことで、大陸起源のツルマ れたツルマメ種子 3,528 粒、ツルマメ個体群近傍で栽培 メとダイズの雑種に関する知見が多く集積されている。 されていたダイズ種子 7,620 粒を試験圃場で栽培したと 日本のツルマメとダイズの組み合わせについては、広 ころ、それぞれ 31 および 15 個体の F1 が見出された(Wang 島産ツルマメと西日本の主要ダイズ品種「フクユタカ」 、 and Li, 2011)。管理栽培下で育成された個体の試験結果 青森産ツルマメと北日本の主要ダイズ品種「リュウホウ」 では、平均 100 粒重はダイズ 16.1 g、ツルマメ 1.0 g に対 との F1 雑種を、地理的および気候条件の大きく異なる国 し、F1 雑種は約 4.7 g、平均種子生産量はダイズ 10.2 g、 内 3 か所の試験地で管理栽培し、両親のダイズおよびツ ツルマメ 0.9 g に対し、F1 は約 7.0 g であった。これらの ルマメの種子生産数、莢数、種子の越冬率が比較されて 60 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) いる(Kuroda et al., 2013) 。概ね、F1 の種子生産数はツ 米国のダイズと日本のツルマメとの F1 の花粉稔性に ルマメよりも少なく、F1 に実った種子の越冬率(晩秋に ついては、論文として報告されていないが、表 11 のよう 埋土して翌年の春に掘り起こした場合)はツルマメより な知見がある(Palmer, 1985 を改変)。相互転座の場合は も低い。日本のツルマメと米国品種とのF1 の適応度に関 50%、逆位の場合は 10−40%の花粉が不稔になること する知見は存在しないため、今後情報集積が必要と思わ 指標として、染色体の構造変異が予測されている。不稔 れる。 花粉が 50%になる組み合わせは中国やロシアのツルマ 表 10 ツルマメとダイズとの F1 およびその後代に関する特性情報 著者 年 評価世代 交雑(♀×♂) ツルマメ ダイズ 評価方法 評価形質 遺伝 種子、葉、花などの形、色、 量&質的 大きさ、開花期、つる性 硬実率、開花期、草丈、節数、 量 & 質的 100 粒重、粒型および種子、花、 1 因子 莢などの色 開花期、登熟期、草丈、節数、 量 & 質的 100 粒重および種子、花、 1 因子 莢などの色 Karasawa 1936 F1, F2 ダイズ×ツルマメ ロシア 1 系統 不明 1 系統 Ting 1946 F1, F2, F2:3 ツルマメ×ダイズ 中国 1 系統 不明 1 品種 Tang & Tai 1962 F1, F2, F2:3 ダイズ×ツルマメ 台湾 1 系統 台湾 1 品種 海妻ら 1980a F1, F2 ダイズ×ツルマメ ロシア 3 系統、東北 4 品種、 質的 盛岡 1 系統 米国 1 品種 海妻ら 1980b F2, B1F2 ダイズ×ツルマメ 不明 1 系統 東北 1 品種 量的 Oka 1983 F3−F5 ダイズ×ツルマメ 中国 1 系統 台湾 1 品種 量的 Palmer & Heer 1984 F1, F2 中国 1 系統 米国 1 品種 量的 Ertl & Fehr 1985 BC1− BC5 ロシア 2 系統 米国 2 品種 量的 種子生産量、熟期、倒伏性、草丈 Carpenter & Fehr 1986 BC0− BC5 ツルマメ×ダイズ ツルマメ×ダイズ、 ダイズ×ツルマメに ダイズを戻し交雑 ツルマメ×ダイズ、 ダイズ×ツルマメに ダイズを戻し交雑 タンパク質含量、開花期、 草丈、茎径、100 粒重 雑種の定着率、種子生産数、 発芽率、越冬率、開花まで日数、 種子稔性、裂莢性、つる性、 粒重、乾物重、草丈 種子稔性、種子生産数 ロシア 2 系統 米国 2 品種 量的 つる性、倒伏性、草丈、熟期、 落葉、粒重 Keim et al. 1990b ダイズ×ツルマメ 中国 1 系統 米国 1 品種 量的 葉のサイズ、主茎長、茎径、 開花期、熟期 QTL Keim et al. 1990a ダイズ×ツルマメ 中国 1 系統 米国 1 品種 量的 硬実率 QTL LeRoy et al. 1991 ダイズ×ツルマメを ダイズに戻し交雑 中国、韓国、 ロシア各 1 系 米国 3 品種 統 量的 種子生産量、草丈、熟期、 倒伏性、粒重 Maughan et al. 1996 ダイズ×ツルマメ 韓国 1 系統 米国 1 品種 量的 100 粒重 QTL Concibido et al. 2003 ダイズ×ツルマメに ダイズを戻し交雑 中国 1 系統 米国 1 品種 量的 種子生産量、草丈 QTL Sakamoto et al. 2004 ダイズ×ツルマメ 北海道 1 系統 北海道 1 品種 量的 硬実率 QTL Wang et al. 2004 B2F4 ダイズ×ツルマメを ダイズに戻し交雑 中国 1 系統 種子生産量、草丈、熟期、倒伏性 QTL Liu et al. 2007 F8 ダイズ×ツルマメ 北海道 1 系統 北海道 1 品種 量的 Li et al. 2008 B2F4 Wang & Li 2011 F1 F2, F2:3 F2, F2:3 F2, B1F2, B2F2, B3F2 F2, F2:3 B2F1, B2F4 F2, F2:3 ツルマメ×ダイズを ダイズに戻し交雑 ツルマメ×ダイズ、 ダイズ×ツルマメ 台湾 1 系統 米国 1 品種 米国 1 品種 量的 量的 中国自生集団 自生集団近傍 量的 の 3 栽培品種 3 か所 種子、花、莢などの色 1 因子 開花期、草丈、節数、100 粒重、 QTL 裂莢率、硬実率など 種子生産量、100 粒重、熟期、 QTL 登熟期間、倒伏性、草丈 種子生産量、茎径、乾物重、 草丈、100 粒重、種子形質 F1, F2, 種子生産量、100 粒重、莢数、 青森 1 系統、 東北 1 品種、 BC1F1, 量的 2013 ツルマメ×ダイズ Kuroda et al. 草丈、乾物重、越冬率、硬実率、 QTL BC2F1, 広島 1 系統 西日本 1 品種 開花期 BC1F2 BC1F1 はツルマメと F1 との雑種、BC1F2 は BC1F1 の自殖後代、BC2F1 はツルマメと BC1F1 との雑種を示す。 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 61 表 11 米国のダイズと各国のツルマメとの F1 に見られた花粉稔性の変異 (不稔花粉の割合で分類した場合の組み合わせ数) ダイズと交雑した ツルマメの由来 5%未満* ソビエト連邦 4 中国 3 韓国 42 日本 32 不明 0 * は Palmer et al.(1987)を参考にした 不稔花粉の割合 20−40% 10−15% 0 0 7 1 0 0 0 9 3 0 50% 22 16 1 1 1 組み合わせ数 26 19 59 37 1 メと米国のダイズとの雑種で主に観察され、上述のよう 同程度の種子生産数と種子越冬率をあわせもった雑種後 に中国やロシアのツルマメは相互転座した染色体を持つ 代の数は極めて少ない傾向が認められている。 可能性、逆に日本や韓国南部のツルマメではやや稔性が 雑種後代の定着率に関しては、台湾のダイズに中国の 低下した組み合わせが存在することから、それらでは逆 ツルマメを人工的に交雑した F3 系統の種子を親系統と 位の染色体を持つ可能性が指摘されている。また、その ともに放棄圃場に播種し、3 年間にわたり雑種後代の定 他の日本のツルマメと米国のダイズとの雑種の花粉稔性 着 性 や 定 着 し た 後 代 の 特 徴 が 記 録 さ れ て い る(Oka, (表 11、37 系統のうち 32 系統)や韓国南部のツルマメと 1983)。雑種後代の定着率は親系統のツルマメよりも概 米国のダイズとの雑種の花粉稔性(59 系統のうち 42 系 して低いが、なかには親系統のツルマメに匹敵する定着 統)は概ね高く、類似した染色体構造を持つ可能性が高 率を示す系統も認められている。定着した雑種後代の特 い。同様に、盛岡で収集されたツルマメとダイズとの F1 徴として、種子の休眠性が高く、生育が旺盛で資源分配 雑種の花粉稔性は 98.6−99.0%を示し、ロシアの数系統 効率が高く、多数の種子をつけたことが挙げられてい とダイズとの F1 の花粉稔性(55.3−91.1%)よりもはる る。 。今後米 かに高いことが知られている(海妻ら , 1980a) 国のダイズと日本のツルマメの F1 の花粉稔性や種子稔 性について情報収集が必要である。 3)適応度に関する量的形質遺伝子座(QTL) 分子マーカーによって作成された連鎖地図を用いて日 本のツルマメを片親とした雑種後代の栽培化関連形質の 2)雑種後代の特性 ツルマメやダイズは自家受粉によって種子繁殖する自 殖性植物であるため、F1 の後代に相当する F2 個体群にお QTLが解析された例は北海道のツルマメとダイズ品種の 組み合わせのみであった(Sakamoto et al., 2004; Liu et al., 2007)。 ける適応度関連形質の特性情報が最も重要である。場合 最近、種子生産数や種子の越冬率等の適応度に関連し によっては他殖も生じるため、F1 がツルマメに交雑した 。 た形質に関するQTLが解析された(Kuroda et al., 2013) 場合の雑種後代の特性情報も必要である。表 10 に示すよ F2 世代の種子生産数に関しては、試験地の環境の大きな うに、日本のツルマメとダイズの F2 に関する情報は、北 違いや遺伝的に大きく異なる集団にもかかわらず、連鎖 海道産ツルマメとダイズとの雑種の種子の吸水性 群 L の QTL は北日本および西日本の集団に共通してみら (Sakamoto et al., 2004)に関する研究のみであったが、 れ、この QTL ではダイズの遺伝子が種子生産数を極端に 最近本州産のツルマメとダイズとの雑種に関する情報が 低下させる効果、その近傍には主茎長や茎乾物重に大き 。一方、戻し交雑後 報告されている(Kuroda et al., 2013) く作用する QTL が検出されており、この領域がダイズ遺 代の文献の多くはツルマメ形質をダイズ品種へ導入する 伝子型に置き換わると植物体が小型化し、種子生産数が 育種目的であるため、戻し交雑によりツルマメの遺伝背 減少すると考えられている。 (Kuroda 景が高まった場合の情報に関しては 1 例(表 10) 屋外における種子の越冬性に関しては、両集団に共通 et al., 2013)に限られる。戻し交雑後代では、種子生産 する 3 つの QTL(連鎖群 A2, C2, D1b)が検出されてお 数や種子の越冬率をはじめとするあらゆる形質がツルマ り、ダイズの遺伝子が越冬率を低下させる効果をもち、 メの特性に近づき、ダイズの遺伝子を保有するものの、 その近傍には多湿条件における吸水種子数(SCP)の QTL ツルマメと区別できない形態に変化する。一方、F2 のほ も検出されている。これらの領域がダイズ遺伝子型に置 とんどは両親の中間的な特性を示すが、親のツルマメと き換わると、冬季の屋外でも種子が吸水し、微生物によ 62 農業環境技術研究所報告 第 36 号(2016) る腐敗などが原因で種子の越冬率が低下すると考えられ 100 回繰り返し、各世代における試行のうち導入遺伝子 ている。屋外の評価ではないが、北海道のツルマメとダ が個体群から消失していた試行数の割合を Extinction イズ品種の組み合わせについても、2 種類の吸水種子数 rate としている。 の QTL が 連 鎖 群 C2 お よ び D1b に 検 出 さ れ て い る 。 (Sakamoto et al., 2004; Liu et al., 2007) 図 2 に示すように、遺伝的浮動による導入遺伝子の消 失よりも、ダイズに由来する種子生産数や種子越冬性 戻し交雑後代では、F2 で認められたような適応度を著 QTL の効果に働く自然選択によって、雑種初期世代から しく低下させる QTL の効果がツルマメの遺伝的背景に 導入遺伝子はツルマメの個体群内から急激に消失してい よって打ち消され、適応度の低下した雑種後代の出現率 くこと、他殖が生じる場合はその速度が低下すること、 。 が低くなる傾向が認められている (Kuroda et al., 2013) 種子越冬性QTLの効果は導入遺伝子の消失に大きく寄与 していること、導入遺伝子の挿入場所が種子生産数や種 3.ダイズからツルマメへの遺伝子浸透の可能性 F2 集団から得られた連鎖地図情報と適応度に関連す 子越冬性QTLに近ければ近いほど早く消滅することなど が予測されている。 る QTL 情報を利用して、ツルマメ個体群におけるダイズ 遺伝子や中立な導入遺伝子の残存性を予測する遺伝子浸 Ⅴ 引用文献 透モデルが構築されている(Kitamoto et al., 2012)。この モデルは GM ダイズとの自然交雑によってツルマメ 990 1) 阿部 純・島本義也(2001):第 6 章 ダイズの進化 個体のなかにF1 が 10 個体生じることからはじまる。その ツルマメの果たしてきた役割 . In:山口裕文・島本義 後の世代では、自殖および他殖の 2 種類の繁殖様式に 也(編著)栽培植物の自然史― 野生植物と人類の共 よって次世代の種子が形成されるモデルを作成し、他殖 進化 . 率はツルマメ個体群で報告されている自然交雑率の最大 2) Ahmad, Q.N., E.J. Britten and D.E. Byth( 1977 ): 値である約 10%を用いている。個体群内の各個体の種子 Inversion bridges and meiotic behavior in species 生産数と種子越冬率の表現型は、ダイズ染色体上の 2 か hybrids of soybeans. Journal of Heredity, 68, 360-364 所の種子生産数および 3 か所の種子越冬性に関する QTL 3) Ahmad, Q.N., E.J. Britten and D.E. Byth(1984): The 座の遺伝子型、その遺伝子型の QTL の効果および環境分 karyotype of Glycine soja and its relationship to that of 散より計算し、仮想の種子集団を作成する。これより任 the soybean, Glycine max. Cytologia(Tokyo),49, 645- 意に選んだ 1,000 粒の種子集団を次世代として残る個体 658 群とする。選ばれた種子は各々遺伝子型データを持つた 4) 会田 進・中沢道彦・那須浩郎・佐々木由香・山田 め、これを用いて次世代の種子生産数と種子越冬率の表 :長野県岡谷市目切遺跡出 武文・輿石 甫(2012) 現型が推定できる。この過程を 10 世代まで進める試行を 土の炭化種実とレプリカ法による土器種実圧痕の研 図 2 ツルマメ個体群に浸透した導入遺伝子の挙動予測(Kitamoto et al., 2012 のデータより作成)SNおよびWSはそれぞ れ種子生産数および種子越冬率の QTL、+は QTL の遺伝効果あり、−は効果無し、95% CI の帯は遺伝的浮動によ る挙動範囲を示す。左の図は他殖なし、右の図は他殖率 10%の条件下での挙動を示す。 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 究 . 資源環境と人類 , 2, 49-64 5) Andersson, M.S. and M.C. de Vicente( 2010 ): 63 wild soybean(Glycine soja). Journal of Heredity, 88, 124-128 Soybean. In: Gene flow between crops and their wild 16) 福井重郎・荒井正雄(1951):日本に於ける大豆品 relatives. The Johns Hopkins University Press, 種の生態学的研究:1. 開花日数と結実日数による品 Baltimore 種の分類とその地理的分布に就いて . 育種學雜誌 , 1, 6) Carlson, J.B. and N.R. Lersten(1987): Reproductive Morphology. In: J.R. W ilcox(ed.)Soybeans: Improvement, Production, and Uses, 2nd edn., p.95-134 American society of agronomy monograph, Madison, WI, USA 7) Carpenter, J.A. and W.R. 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Matsuo(2011): <第 1 章 分類学的位置づけと分布 2.ツルマメの分 Analysis of seed dispersal patterns in wild soybean 布>での RuLIS システムを使用した生育環境の解析に (Glycine soja)as a r efer ence for vegetation は、農業環境技術研究所生物多様性研究領域の楠本良延 management around GM soybean fields. Weed Biology 博士ならびに三上光一博士にご協力ならびにご指導を頂 and Management, 11, 210- 216 きました。また、本稿に対し農業環境技術研究所生物多 119) Zhang, L.X., S. Kyei-Boahen, J. Zhang, M.H. Zhang, 様性研究領域の芝池博幸博士に有用なご助言をいただき T.B. Freeland, C.E.Jr. Watson and X.M. Liu(2007): ました。記してお礼申し上げます。本報告は「新農業展 Modifications of optimum adaptation zones for 開ゲノムプロジェクト、次世代遺伝子組換え生物の生物 soybean maturity groups in the USA. Crop 多様性影響評価手法の確立及び遺伝子組換え作物の区分 Management, 6, doi:10.1094/CM-2007-0927-01-RS 管理技術等の開発」の助成を受けて作成されました。 120) Zhou, X.L., T.E.Jr. Carter, Z.L. Cui, S. Miyazaki and J.W. Bur ton( 2002 ): Genetic diversity patter ns in 吉村泰幸ら:遺伝子組換えダイズの生物多様性影響評価に必要なツルマメの生物情報集 69 The Biology of Glycine soja Sieb. & Zucc. for biodiversity risk assessment of genetically modified crops in Japan Yasuyuki Yoshimura, Akito Kaga and Kazuhito Matsuo Summar y Impacts of genetically modified(GM)crops on biodiversity are examined by the Cartagena Protocol Domestic Law in Japan. When a GM crop is shown to have no adverse effects on biodiversity, its cultivation and commodity usage are approved. Wild soybean, a relative of cultivated soybean, is widely distributed near paddy fields and rivers in Japan. Therefore, the ability of the wild and cultivated soybeans to cross and form fertile offspring must be assessed carefully; however, there are no summaries available for the biology of wild soybeans in Japan unlike other crops that have been characterized in documents published by OECD. In this report, we excerpted and compiled essential botanical information about wild soybeans from the scientific literature. This compilation includes information about the classification, distribution, life history, growth characteristics, reproductive biology, hybrid offspring characteristics and introgression. 国立研究開発法人農業環境技術研究所報告投稿要領 20農環研040120号 平成20年4月1日 (目的) 第1条 この要領は、国立研究開発法人農業環境技術研究所(以下「研究所」という。)が発行する 農業環境技術研究所報告(以下「報告」という。)に投稿する論文に関し、その取扱いを定める。 (掲載論文等の定義) 第2条 報告に掲載することができる論文は、別に定める独立行政法人農業環境技術研究所図書・刊 行部会運営要領第4条に定める審査会で掲載が承認された以下のものとする。 一 原著論文 未発表の原著論文 二 学位論文 学位論文を主体とした論文。学位論文である旨を付記する。 三 資料 農業環境に係わる解説・総説、調査、海外の有益情報の翻訳等 (著者) 第3条 論文の筆頭著者(以下「著者」という。)は、研究所職員(元研究所職員を含む。)に限 る。ただし、共著者は、研究所外の者を含めることができる。 (言語) 第4条 論文は、原則として日本語又は英語とする。 (著作権) 第5条 論文の著作権については、国立研究開発法人農業環境技術研究所知的財産権基本方針によ り、研究所に帰属するものとする。 (電子化) 第6条 掲載論文は、電子媒体に変換の上、外部に提供を行うものとする。 (提出) 第7条 論文を提出する場合は、原稿(紙媒体に出力したもの)に表題、著者等名、所属及び柱を記 載した表紙に投稿票(別紙様式)を付し、著者の所属する又は所属した研究領域又はセンターの長等の 校閲を受けたうえ、審査会事務局(以下「事務局」という。)に提出するものとする。 なお、提出に当たっての出力は以下に準ずるものとする。 和文 25字×22行 又は 25字×44行×2段 英文 41行(フォント10p 一段組) (論文の執筆) 第8条 論文の執筆に当たっては、原則として一般的に使用されるワードプロセッサを用いることと し、電子ファイルの事務局への提出は、査読が終了し、審査会において正式受理されてからとす る。 なお、執筆に当たっては別に定める国立研究開発法人農業環境技術研究所報告執筆要領による。 (論文の査読) 第9条 事務局は、審査会において選定した査読者に、論文等の査読を依頼する。 2 査読を依頼する場合は、国立研究開法人農業環境技術研究所謝金支出基準(13農環研第81号)に 基づき謝金を支払うことができる。 (論文受理年月日) 第10条 論文の受理年月日は、査読が終了し審査会が掲載を承認した日とする。 (校正) 第11条 校正は、原則として三校まで行うこととし、著者校正は初校ないし二校までとする。 (別刷の印刷) 第12条 著者が別刷を希望するときは、あらかじめ事務局に連絡することとする。なお、印刷に必要 な経費は、研究領域等で負担する。 附 則 この要領は、平成27年4月1日から施行する。 本誌から転載・複写する場合は、当所の許可を得てください。 農業環境技術研究所報告第36号 平成28年3月31日発行 発行 国立研究開発法人 農業環境技術研究所 発行者 理事長 宮下 淸貴 〒305-8604 茨城県つくば市観音台3-1-3 電話 029-838-8192(広報情報室) 印刷 株式会社いなもと印刷 〒300-0007 茨城県土浦市板谷 6丁目28-8 BULLETIN OF NATIONAL INSTITUTE FOR AGRO-ENVIRONMENTAL SCIENCES (Nogyo Kankyo Gijutsu Kenkyusho Hokoku) No. 36 March, 2016 CONTENTS RESEARCH PAPER Mai Tsuda, Yutaka Tabei, Ryo Ohsawa, Ayako Shimono, Yasuko Yoshida andYasuyuki Yoshimura The Biology of and for biodiversity risk assessment of genetically modified in Japan …………………………………………… 1 RESEARCH PAPER Yasuyuki Yoshimura, Akito Kaga and Kazuto Matsuo The Biology of Sieb. & Zucc. for biodiversity risk assessment of genetically modified soybean in Japan … 47 National Institute for Agro-Environmental Sciences Kannondai, Tsukuba, Ibaraki 305-8604 JAPAN
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