サイクルロードレースイベントが地域にもたらす影響 ―石鎚山ヒルクライムを事例に― 澤田 幸紀(競技スポーツ学科 スポーツビジネスコース) 指導教員 片上 千恵 キーワード:サイクルロードレース,地域活性化,レガシー 1.緒言 日本におけるサイクルスポーツ市場は近年 拡大し,自転車産業振興協会の国内販売動向調 査によるとスポーツ自転車の 1 店舗当たりの 販売台数は年々増え続けている.それに伴い, サイクルイベントも年々増加している(湊, 2012).スポーツイベントは開催地域に経済的 効果,社会的効果をもたらすが(SSF 笹川スポ ーツ財団,2006),近年増加しているサイクル イベントを事例にした研究は少ない.そこで本 研究は愛媛県久万高原町で毎年夏に開催され る「石鎚山ヒルクライム」が開催地域に継続的 な効果をもたらしているか調査し,開催地住民 のイベント評価を地域活性化の視点から明ら かにすることを目的とする. 2.研究方法 【調査①アンケート】スポーツイベントが地 域社会にもたらす効果として指摘されている 4 要因と環境意識を問う要因の計 5 要因を 10 項目で調査を実施し,愛媛県久万高原町の商 店街で商売している住民にアンケート用紙を 100 票配布し,73 票回収した. 【調査②インタビュー】久万高原町で宿泊施設 を経営している住民と石鎚山ヒルクライム実 行委員長のイベント評価を聞くために半構造 化インタビューを実施した. 【調査③インタビュー】 「石鎚山ヒルクライム」 に協賛している町の住民と協賛していない住 民のイベント評価を聞くために,調査①の結果 を踏まえ,半構造化インタビューを実施した. 3.結果と考察 調査①では,5 要因を 7 段階尺度で測定し, 要因ごとに平均値を出した(表 1) . 表1:各要因の平均値 要因 住民意識の高揚 地域活性化 イメージづくり スポーツ振興 環境配慮行動 平均値 3.65 3.84 4.94 4.23 3.68 標準偏差 1.55 1.70 1.88 1.65 1.56 表 1 に示されるようにどの要因でも比較的 低い評価だった.調査②,③からこの原因とし て,調査を実施した地域と「石鎚山ヒルクライ ム」の開催地が遠く離れているため,調査を実 施した地域がイベントの影響を受けにくい状 況にあるという問題,運営側と住民のコミュニ ケーション不足による双方の食い違い,不明瞭 なイベント開催目的が運営スタッフや住民に 迷いを生じさせていることが挙げられた.その 一方,イベントのスポンサーとして参画してい る建設業・製造業はイベントと関わりがあるた めすべての要因での評価は高かった. 調査②,③からイベントがもたらしている影 響については,歴史が浅いことが原因でまだ目 に見える形で現れていない.しかし,イベント による住民の仲間意識向上や一時的な経済効 果,町の宣伝効果,スポーツ自転車実施者の増 加といったポジティブな影響を徐々にもたら していることがわかった. 4.結論 少なくとも「石鎚山ヒルクライム」は町にポ ジティブな影響を与えているが,全体的に見て みるとまだ十分には町全体に浸透していると は言い難い.これはイベントによるポジティブ な影響(仲間意識の向上,一時的な経済効果, 町の宣伝効果,スポーツ自転車実施者の増加) , すなわちイベントが残したレガシーを十分に 活用できていないことが考えられる.イベント が「ただのパフォーマンスだけ」(調査②)で 終わらないよう,今後主催者側が町全体の住民 を巻き込んだ運営をし,長期的に持続するイベ ント効果を引き出す必要があるのではないだ ろうか. 主な引用・参考文献 北村ら(1997)スポーツイベントによる地域 活性化への効果-開催地住民の評価に着目して -.鹿屋体育大学学術研究.17:47-55.49-50.
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