間接加熱型TSA方式VOC回収装置(IDESORB-Y)の開発

間接加熱型TSA方式VOC回収装置(IDESORB-Y)の開発
おかにし
しげみ
えとう
ゆういち
岡西 茂実・江藤 祐一(出光エンジニアリング㈱事業部商品開発課)
出光エンジニアリング㈱では,これまで高濃度のガソリンやベンゼン,一般溶剤向けのPS
A方式VOC回収装置IDESORB-G,B,Xシリーズを開発・販売してきた。今回,
低濃度大風量向けに間接加熱型TSA方式VOC回収装置(IDESORB-Y)を開発し
た。従来の活性炭TSA式回収装置では,大量の排水が発生しその処理費用が高価という欠
点を有するが,
本装置では特殊シリカゲルを使用し脱着に温風を使用することにより排水が
発生しないため,ランニングコストの低減が可能となった。
1
はじめに
この時の排出ガス中のVOC濃度は1,000vol-ppm
以下の希薄濃度であり,排出ガス量も数千m3/h~
世界的に環境保全への要求が高まる中で、我国
数万m3/hと大風量である。PRTR法による平成14
においても揮発性有機化合物(VOC)の排出防止
年度分の大気へのVOC排出量はその7割がこうし
が重要課題となっている。特にベンゼンは揮発性
て排出されるトルエン,キシレンである。
が高く有害性が指摘されていることから、大気中
への排出抑制が強く求められている。
現在、ベンゼン等は環境省が定める有害大気汚
昨年,千葉県にて光化学オキシダント警報が18
年ぶりに発令された。自動車NOx・PM法の施行に
より大都市部における大気環境は改善したかに見
染物質(234種)の中で、特に優先取組物質(22種)に
えるが,二次粒子の発生などにより,浮遊粒子状
含まれ、更にその中の指定物質(4種)の一つに指定
物質(SPM)と光化学オキシダント(Ox)の環境基準
されており、環境基準値と特定施設に対する排出
達成率は悪化している。このSPMの原因の約1割
規制値が規定されている。
はVOC起因の二次粒子であることが判明し,SPM
またPRTR法の施行に伴い,平成13年度分より
対策の要の一つとしてもVOCの排出抑制が求めら
取り扱い量の報告義務が発生し,その結果が平成
れている。このため環境省ではVOC規制を法制化
15年3月より公表され始めたが,依然多数の事業所
する動きが出ている。
でトルエン他の有機溶剤が排出されている状況で
ある。
VOCは,ガソリン等の燃料や化学製品の製造で
このような状況下、出光エンジニアリング㈱で
は平成10年に高性能ベンゼンベーパー回収装置
(IDESORB-B)の開発を行った。このIDESORB-Bは、
の原料として使われる他に,塗料,印刷インキ,
特殊シリカゲルを用いることにより,ベンゼンタ
接着剤,工業用洗浄剤での希釈溶剤として用いら
ンクのベントガス等からの700g/m3 (20vol%)程度の
れることが多く,塗装・印刷・接着・洗浄後の乾燥工
高濃度ベーパーを直接受け入れ,PSA装置単独で
程で空気等で希釈されて大気に排出されている。
35mg/m3(10vol-ppm)以下まで処理でき,回収率
99.99%以上に達する性能を有している。
100,000
さらに今回,希薄大風量領域向けに間接加熱型
このIDESORB-Yの最大の特長は排水処理が発生
しないということである。すなわち,従来の活性
活性炭TSA法
10,000
処理ガス量
TSA方式VOC回収装置(IDESORB-Y)を開発した。
1,000
炭TSA方式の欠点であった排水処理費が高価とい
IDESORB-Y
(間接加熱型TSA法)
う欠点を解決した装置と言える。また95%以上の (m3/hr) 100
回収率を達成できており,従来品と比べても同等
以上の性能を有している。
IDESORB-G,B,X
(PSA法)
10
IDESORB-G,B,XおよびYの適用領域を図1に
示す。なおIDESORB-Yの現状のラインナップは
1
0.01
処理風量数千m3/hまでであるが,今後順次拡大し
0.1
1
10
100
VOC濃度 (vol%)
ていく予定である。
図1 IDESORB- G,B,X および Y の適用領域
装置概要
2
2.1
2.1.1
従来技術
着塔が切換えられ、真空ポンプで吸引することに
よりベンゼンが吸着剤から脱着されると同時にも
IDESORB-B(PSA法)
図2にIDESORB-Bのプロセスフローを示す。
う一方の吸着塔で吸着が行われる。 脱着にあた
吸着塔は2塔切換え式で、ベンゼンを含むガスは
っては真空にした状態で、吸着時とは逆方向から
一方の吸着塔に導かれ、ベンゼンが除去された後
少量のクリーンガスを導入することによりベンゼ
のクリーンなガスは大気に排出される。 吸着塔
ンの分圧を低下させベンゼンを脱着し易くしてい
内の吸着剤がベンゼンで飽和すると、自動弁で吸
る。
清浄ガス
タンク気相ガス
タンカー
回収槽
吸着塔
ベンゼンタンク
回収ベンゼン
真空ポンプ
図2 IDESORB-B プロセスフロー
脱着したベンゼンは回収塔で凝縮させ液体とし
はなく、1基の回収塔で兼用しプロセスの簡略化を
て回収される。 未凝縮のガスは原ガスとともに
図っている。 冷却方法としては、圧力損失を低く
吸着塔入口に供給される。
抑えるため、凝縮液を冷却循環させ、ガスと直接
並流接触させることで冷却している。
IDESORB-Bの回収対象はタンク等の物流設備
やプラントからの排ガス中に含まれるベンゼンで
ある。 しかし石炭乾留ガス由来の粗ベンゼンに
2.1.2
はトルエン、キシレンの他にナフタレン等の昇華
図3に活性炭TSA法のプロセスフローを示す。
性物質やシクロペンタジエン等の重合性成分が存
VOCは吸着塔内の活性炭により,吸着除去され
在し、吸着剤にこれらが吸着すると、蓄積あるいは
るが,活性炭からVOCを脱着するにあたり,スチ
重合により難脱着成分として作用し吸着剤の性能
ームを導入して活性炭を加熱する方法を取ってい
劣化を引起こす。 そこでこれらの難脱着成分を
る。このため冷却によってVOCを液化する際に,
有効に除去する手段として、吸着塔にガスを導入
スチームも凝縮し,多量の排水を発生させてしま
する前に予備冷却(20℃以下)を行い吸収除去す
う。この排水中にVOCが溶け込むため,排水処理
る方法をとっている。 しかしガス温度が低くな
が必要となる。
りすぎると、吸着には有利だが、脱着し難くなる為、
活性炭TSA法
VOCがトルエン等の非水溶性溶剤の場合は回
吸着剤上にVOCが蓄積し、その結果、全体の回収率
収液が2液相となり溶剤相を分離することが可能
が低下することとなる。
であるが,アルコール等の水溶性溶剤の場合は水
そこで難脱着成分が取り除かれたガスを再加熱
し、吸脱着に適した温度まで上げている。
と混合してしまうため,排水処理設備への負荷も
過大なものとなり,ランニングコストの上昇や設
また脱着したVOCも難脱着成分の除去と同様
備の能力不足を招いてしまう。
に、冷却凝縮により液体として回収しているが、予
備冷却と脱着VOCの冷却を別々の機器で行うので
清浄ガス
冷却ガス
ブロア
スチーム
吸着塔
凝縮器
回収溶剤
原ガス
フィードガス
ブロア
図3 活性炭 TSA 法のプロセスフロー
回収液ポンプ
2.2
下のVOCについて回収率95%以上を確認しており,
IDESORB-Y(間接加熱型TSA法)
図4に今回開発したIDESORB-Y(間接加熱型
今後も対象物質を拡大していく予定である。
・芳香族系(トルエン,キシレン)
TSA法)のプロセスフローを示す。
・アルコール系(メタノール,エタノール,IPA)
VOCは吸着塔内の特殊シリカゲルにより,吸着
除去される。シリカゲルからVOCを脱着するにあ
・ケトン系(MEK)
たり,ガスを循環させ,循環ガスを加熱すること
・エステル系(酢酸エチル,酢酸イソプロピル)
によりシリカゲルを間接的に加熱する方法(間接
加熱型TSA法)を取っている。 循環ガスの一部を
3
おわりに
凝縮器に導入しVOCを液化凝縮させる。回収液中
に加熱源で用いたスチームが混入しないため,排
IDESORB-Yの特長を以下に簡潔にまとめる。
水が発生せず,回収液はVOCのみである。
①脱着時にスチームを直接使用しないため,排
加熱温度は140℃程度であり,比較的汎用的なス
チームを利用可能である。
水が発生しない。ただし,原ガス由来を除く。
②用役は電力,スチーム,窒素だけで済み,排
なおガス循環は脱着VOCによる爆発雰囲気の
水処理が発生しないため,低ランニングコス
生成を防止するため,系内を窒素でパージした後
トである。
に行う。また脱着完了後,次回吸着操作に備えシ
③回収率が 95%以上と高い。
リカゲルを冷却するが,冷却前に系内のVOCをパ
④有機溶剤ベーパーを液体として回収できる
ージする工程を持っている。すなわち脱着工程は
ため、貴重な資源の再利用が可能である。
①酸素除去→②加熱脱着→③VOC除去→④冷却の
⑤不燃性シリカゲルを採用しているため、吸着
ステップから成り立っており,約2時間で終了し,
塔内での爆発や燃焼の可能性が低く、安全性
吸着工程に切り換えられる。
が高い。
本プロセスはパイロットプラントにて,現在以
⑥スキッドマウント方式でコンパクトであり,
清浄ガス
リサイクルガス
加熱器
吸着塔
リサイクルガス
ブロア
パージガス
凝縮器
回収溶剤
原ガス
フィードガス
ブロア
回収液ポンプ
図4 IDESORB-Y(間接加熱型 TSA 法)のプロセスフロー
設置工事が容易である。
IDESORB-Yの完成により,IDESORB-G,B,Xと合
わせ,高濃度から低濃度まで幅広いVOC発生源に
対応可能となった。現状の適用可能風量は数千
m3/hであるが,今後順次拡大していく予定である。
これらのIDESORBシリーズにより,VOC回収に
よる大気環境の保全に今後とも貢献して行く所存
である。