Wing/07.07 (Page 4) - 公益財団法人 茨城県中小企業振興公社

お役立ち経営情報
中小企業の事業承継「親族間での事業承継時の税務対策」
―第1回 株式対策と株価評価方法―
税理士 鯨井 基司
はじめに
Ⅱ 株価評価は「時価」で行う
今月から3回にわたり、中小企業の事業承
相続税法では、株価は「時価」で評価する
継時の税務対策について解説させていただき
ことになっていますが、何をもって「時価」
ます。
とするかが不明確であるため、国税当局は、
今回は相続時に重視しなければならない
「財産評価基本通達」を定め、具体的な評価
「株式対策と株価評価方法」の解説、8月号
方法について詳述しています。
は 「 自 社 株 対 策 」、 9 月 号 は 「 夢 あ る 事 業 承
この中から中小企業の多くが該当するであ
継」を中心に解説していきます。
ろう「取引相場のない株式」の場合の評価方
法について解説します。
Ⅰ 株式対策の重要性
Ⅲ 自社株の評価方法を理解する
戦後全てを失った中から企業を興し発展さ
せた企業経営者にとって、事業承継は、経営
財産評価基本通達に定める「取引相場のな
者として最大の事業です。特にオーナー経営
い株式」の評価には、類似業種比準方式、純
者が親族へ株式を移譲する場合は、長期的で
資産価額方式、類似業種比準方式と純資産価
綿密な対策が不可欠です。例えば、事業承継
額方式の併用方式、配当還元方式の4通りが
に係る問題の中で、相続時に株価評価額が高
あります。
額なため、兄弟間で株式が分散し経営トラブ
具体的には、会社の規模・人数・取引金額
ルが発生したケースはよく見られます。
によって評価方式が異なるうえ、同族会社の
すなわち、親族への株式移譲は、株価評価
株式保有割合によっても、評価方法が異なり
方法を理解し株価対策を行いながら計画的に
ます。
行うことが大切です。
今回は同族関係者で50%以上株式を保有
なお、これ以外にも事業承継に係る問題に
している人と、5%以下を保有している人の
は、例えば、非上場株式の場合、流通性や換
株価評価方法を記述します。
金性がないことや、相続時に高い相続税が発
なお、表1は、会社規模(大、中、小)を
生し、手元に現金預金が残らず資金不足に陥
判定するためのものです。自社がどれに該当
り、銀行から借入出来なくなることなどがあ
するか当てはめてみてください。
ります。株式移譲の失敗は、相続倒産にもな
りかねません。経営者は、これらの課題を考
1 50%以上株式保有者の場合
慮し円滑な事業承継に向け準備をする必要が
会社の規模による大・中・小会社を判定し
あります。
評価方法を決めます。
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表1 会社規模の判定
取引金額
総資産価額(帳簿価額)
会社規模
従業員数
卸売業
小売・
サービス業
左記以外
卸売業
小売・
サービス業
左記以外
100人以上
大
会
社
上
位
50人超
100人未満
大
中
会
社
下
位
小
会
社
20億円
以上
10億円以上
80億円
以上
14億円
以上
7億円以上
50億円
以上
12億円
以上
14億円
以上
4億円以上
25億円
以上
6億円
以上
7億円
以上
20億円以上
中
30人超
50人以下
7億円
以上
小
5人超
30人以下
7000万円
以上
4000万円
以上
5000万円
以上
2億円
以上
6000万円
以上
8000万円
以上
5人以下
7000万円
未満
4000万円
未満
5000万円
未満
2億円
未満
6000万円
未満
8000万円
未満
※ 表1の見方
・ 従 業 員 が 1 0 0 人 以 上 の 場 合 は 、「 大 会 社 」 に 該 当 し ま す 。
・従業員が100人未満の場合
①始めに、総資産価額と従業員数を比較し、いずれか下位の区分を選択
②次に、①で選択した区分と取引金額の区分を比較し上位の区分を選択
③②で選択した区分が左側の欄(大・中・小)のどれに属しているかで判定
例 Z 社 ( 卸 売 業 ) の 場 合 ( 結 果 は 表 1 に 記 し ま す 。)
①従業員数 4人 ②総資産価額 8000万円 ③取引金額 2億4000万
始めに①と②を比較し、①を選択 次に①と③を比較し③を選択し、左側の欄に記載
される中会社の「小」が判定結果になります。
① 大 会 社 の 区 分 の 場 合 、「 類 似 業 種 比 準 方 式 」
する「類似業種比準価額計算上の業種目及び
を 用 い て「 類 似 業 種 比 準 価 額 」を 算 出 し ま す 。
業種目別株価等について」の類似業種の平均
「類似業種比準方式」とは、評価会社の事
株価表(表2)を用いて計算します。
業内容と類似する業種目の上場会社の平均株
なお、類似業種の平均株価表の最新のもの
価を基とし計算する方式です。国税庁が発表
は、国税庁のHPに掲載されています。
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表2 類似業種の平均株価表
業種目
A(株価)
番
号
B
配当
金額
C
利益
金額
56
4.4
32
292
59
5.6
37
315
大分類
中分類
小分類
D
簿価純資 平成17年
産価額
平均
17年
11月
18年
1月
18年
2月
18年
3月
18年
4月
416
481
530
573
564
559
478
538
663
729
724
711
(製造業)
一般機械器具製造業
金属加工機械製造業
・ 貴社の2年間の平均利益金額と直前
例 貴社が以下の内容だと仮定し類似業
1年間の利益の額いずれか小さい額
種比準価額を計算します。
206円
Y社 一般機械器具製造業(大会社)
・ 1株当たりの純資産額
・類似業種の株価
2,743円
559円
・貴社の2年間平均の1株当たりの配
当金額 9.4円
類似業種比準方式
9.4 + 206 ×3+ 2743
559× 4.4
32
292 ×0.7(大会社)=約2,413円(類似業種比準価額)
5
貴社の2年間平均の
貴社の2年間の平均利益金額
1株あたりの
1株あたりの配当金額
直前1年間の利益の額
純資産価額
+
いずれか小さい額 ×3+
類似業種の
類似業種の
類似業種の
1株あたりの配当金額
1株あたりの年利益金額
1株あたりの
純資産価額
5
類似業種の株価×
0.7大会社
× 0.6中会社
0.5小会社
※1株(50円)で計算しています。
上の計算式の結果、1株50円あたりの評
た純資産価額を発行済株式数で除して1株当
価額が約2,400円になり、株価が発行価額
たりの評価額を計算する方式です。この併用
の48倍に上昇していることになります。
方式では、それぞれ評価した価額に一定の割
合を加味して評価額を求めます。
②中会社の場合は、類似業種比準価額と純資
類似業種 1株あたりの
比準価額 × L+純資産価額 × (1−L)= 評価額
(相続税評価額による)
産価額の両方を採用する方法です。
「純資産価額方式」とは、課税時期の各資
Lの割合…中会社(大0.9・中0.75・小0.6)
産及び負債を時価によって評価し、算出され
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③小会社の場合は、純資産価額方式となり、
負債合計
課税時期における各資産及び負債を時価(相
続税評価額)によって評価します。
資
産
合
計
このため、相続税評価額で計算した資産の
合計と帳簿価額で計算した資産の合計額には
差異が生じます。純資産価額方式では、各資
産及び負債の評価額と帳簿価額との差額につ
(相続税評価)
純資産
42%
いて、その42%相当額を純資産価額から控
除することになっています。
資産の合計額
(相続税評価により −負債合計額−
計算し繰延資産は
除きます)
評価差額にかかる法人税相当額
相続税評価額
帳簿価額による
による資産の −負債の合計額 −
−負債の合計額
資産の合計額
合計額 ×42%
発行株式数
配当などの臨時の配当は含みません。
2 5%未満の株式保有者の場合
配当還元方式により株価を計算します。「配当
Ⅳ 株主評価を毎期算出する
還元方式」とは、配当実績を10%の還元率で割
り戻すことによって評価額を算定する方式です。
自社株の相続評価価額が相続財産の大部分
財産基本通達による配当還元方式は次のよ
を占めていることから、前述した未上場企業
うな特徴があります。
の自社株の評価方法を十分に理解し、配当政
①年配当金額は直前2年間の累積数値の平均
策・貸借対照表の資産構成を計って経営して
によっている。
いかねばなりません。
②分母の利子率は10%に固定されている。
更に、相続時に自社株式を誰にどのように相
具体的には配当還元価額は次の計算式で計算
続させるのか、株式の議決権は経営する後継者
します。
に限るのか、社内従業員の中から後継者を選ぶ
なお、少数株主(会社の経営に直接タッチ
場合に、社員持株会をどの程度の割合で配分す
しない所有株主で、一般的には5%未満の株
るのかなどの方針も定めておかなければなりま
式保有者(同族関係者は除く)のこと)が持
せん。後継者が定まらず解散を考えている企業
っている株式でも、議決権制限株式でない限
は別として、株式評価についての基本的な株価
り、経営権の確保に制約が出できます。定款
評価基準を理解し事業承継計画を策定して毎期
でしっかり対策を講じておく必要があります。
継続して株式移譲を考えていくことが大切です。
その株式の
その株式の1株
年配当額 × あたりの資本の額 = 配当還元価額
10%
50円
筆者プロフィール
鯨 井 基 司 氏
・ 税理士、社会保険労務士
・(財)
茨城県中小企業振興公社
マネジメントエキスパート
ただし、配当額は「継続的なもの」のみで
計算をしますので、周年記念配当などの特別
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