お役立ち経営情報 中小企業の事業承継「親族間での事業承継時の税務対策」 ―第1回 株式対策と株価評価方法― 税理士 鯨井 基司 はじめに Ⅱ 株価評価は「時価」で行う 今月から3回にわたり、中小企業の事業承 相続税法では、株価は「時価」で評価する 継時の税務対策について解説させていただき ことになっていますが、何をもって「時価」 ます。 とするかが不明確であるため、国税当局は、 今回は相続時に重視しなければならない 「財産評価基本通達」を定め、具体的な評価 「株式対策と株価評価方法」の解説、8月号 方法について詳述しています。 は 「 自 社 株 対 策 」、 9 月 号 は 「 夢 あ る 事 業 承 この中から中小企業の多くが該当するであ 継」を中心に解説していきます。 ろう「取引相場のない株式」の場合の評価方 法について解説します。 Ⅰ 株式対策の重要性 Ⅲ 自社株の評価方法を理解する 戦後全てを失った中から企業を興し発展さ せた企業経営者にとって、事業承継は、経営 財産評価基本通達に定める「取引相場のな 者として最大の事業です。特にオーナー経営 い株式」の評価には、類似業種比準方式、純 者が親族へ株式を移譲する場合は、長期的で 資産価額方式、類似業種比準方式と純資産価 綿密な対策が不可欠です。例えば、事業承継 額方式の併用方式、配当還元方式の4通りが に係る問題の中で、相続時に株価評価額が高 あります。 額なため、兄弟間で株式が分散し経営トラブ 具体的には、会社の規模・人数・取引金額 ルが発生したケースはよく見られます。 によって評価方式が異なるうえ、同族会社の すなわち、親族への株式移譲は、株価評価 株式保有割合によっても、評価方法が異なり 方法を理解し株価対策を行いながら計画的に ます。 行うことが大切です。 今回は同族関係者で50%以上株式を保有 なお、これ以外にも事業承継に係る問題に している人と、5%以下を保有している人の は、例えば、非上場株式の場合、流通性や換 株価評価方法を記述します。 金性がないことや、相続時に高い相続税が発 なお、表1は、会社規模(大、中、小)を 生し、手元に現金預金が残らず資金不足に陥 判定するためのものです。自社がどれに該当 り、銀行から借入出来なくなることなどがあ するか当てはめてみてください。 ります。株式移譲の失敗は、相続倒産にもな りかねません。経営者は、これらの課題を考 1 50%以上株式保有者の場合 慮し円滑な事業承継に向け準備をする必要が 会社の規模による大・中・小会社を判定し あります。 評価方法を決めます。 WING 21 いばらき 2007.7 4 お役立ち経営情報 表1 会社規模の判定 取引金額 総資産価額(帳簿価額) 会社規模 従業員数 卸売業 小売・ サービス業 左記以外 卸売業 小売・ サービス業 左記以外 100人以上 大 会 社 上 位 50人超 100人未満 大 中 会 社 下 位 小 会 社 20億円 以上 10億円以上 80億円 以上 14億円 以上 7億円以上 50億円 以上 12億円 以上 14億円 以上 4億円以上 25億円 以上 6億円 以上 7億円 以上 20億円以上 中 30人超 50人以下 7億円 以上 小 5人超 30人以下 7000万円 以上 4000万円 以上 5000万円 以上 2億円 以上 6000万円 以上 8000万円 以上 5人以下 7000万円 未満 4000万円 未満 5000万円 未満 2億円 未満 6000万円 未満 8000万円 未満 ※ 表1の見方 ・ 従 業 員 が 1 0 0 人 以 上 の 場 合 は 、「 大 会 社 」 に 該 当 し ま す 。 ・従業員が100人未満の場合 ①始めに、総資産価額と従業員数を比較し、いずれか下位の区分を選択 ②次に、①で選択した区分と取引金額の区分を比較し上位の区分を選択 ③②で選択した区分が左側の欄(大・中・小)のどれに属しているかで判定 例 Z 社 ( 卸 売 業 ) の 場 合 ( 結 果 は 表 1 に 記 し ま す 。) ①従業員数 4人 ②総資産価額 8000万円 ③取引金額 2億4000万 始めに①と②を比較し、①を選択 次に①と③を比較し③を選択し、左側の欄に記載 される中会社の「小」が判定結果になります。 ① 大 会 社 の 区 分 の 場 合 、「 類 似 業 種 比 準 方 式 」 する「類似業種比準価額計算上の業種目及び を 用 い て「 類 似 業 種 比 準 価 額 」を 算 出 し ま す 。 業種目別株価等について」の類似業種の平均 「類似業種比準方式」とは、評価会社の事 株価表(表2)を用いて計算します。 業内容と類似する業種目の上場会社の平均株 なお、類似業種の平均株価表の最新のもの 価を基とし計算する方式です。国税庁が発表 は、国税庁のHPに掲載されています。 WING 21 いばらき 2007.7 5 お役立ち経営情報 表2 類似業種の平均株価表 業種目 A(株価) 番 号 B 配当 金額 C 利益 金額 56 4.4 32 292 59 5.6 37 315 大分類 中分類 小分類 D 簿価純資 平成17年 産価額 平均 17年 11月 18年 1月 18年 2月 18年 3月 18年 4月 416 481 530 573 564 559 478 538 663 729 724 711 (製造業) 一般機械器具製造業 金属加工機械製造業 ・ 貴社の2年間の平均利益金額と直前 例 貴社が以下の内容だと仮定し類似業 1年間の利益の額いずれか小さい額 種比準価額を計算します。 206円 Y社 一般機械器具製造業(大会社) ・ 1株当たりの純資産額 ・類似業種の株価 2,743円 559円 ・貴社の2年間平均の1株当たりの配 当金額 9.4円 類似業種比準方式 9.4 + 206 ×3+ 2743 559× 4.4 32 292 ×0.7(大会社)=約2,413円(類似業種比準価額) 5 貴社の2年間平均の 貴社の2年間の平均利益金額 1株あたりの 1株あたりの配当金額 直前1年間の利益の額 純資産価額 + いずれか小さい額 ×3+ 類似業種の 類似業種の 類似業種の 1株あたりの配当金額 1株あたりの年利益金額 1株あたりの 純資産価額 5 類似業種の株価× 0.7大会社 × 0.6中会社 0.5小会社 ※1株(50円)で計算しています。 上の計算式の結果、1株50円あたりの評 た純資産価額を発行済株式数で除して1株当 価額が約2,400円になり、株価が発行価額 たりの評価額を計算する方式です。この併用 の48倍に上昇していることになります。 方式では、それぞれ評価した価額に一定の割 合を加味して評価額を求めます。 ②中会社の場合は、類似業種比準価額と純資 類似業種 1株あたりの 比準価額 × L+純資産価額 × (1−L)= 評価額 (相続税評価額による) 産価額の両方を採用する方法です。 「純資産価額方式」とは、課税時期の各資 Lの割合…中会社(大0.9・中0.75・小0.6) 産及び負債を時価によって評価し、算出され WING 21 いばらき 2007.7 6 お役立ち経営情報 ③小会社の場合は、純資産価額方式となり、 負債合計 課税時期における各資産及び負債を時価(相 続税評価額)によって評価します。 資 産 合 計 このため、相続税評価額で計算した資産の 合計と帳簿価額で計算した資産の合計額には 差異が生じます。純資産価額方式では、各資 産及び負債の評価額と帳簿価額との差額につ (相続税評価) 純資産 42% いて、その42%相当額を純資産価額から控 除することになっています。 資産の合計額 (相続税評価により −負債合計額− 計算し繰延資産は 除きます) 評価差額にかかる法人税相当額 相続税評価額 帳簿価額による による資産の −負債の合計額 − −負債の合計額 資産の合計額 合計額 ×42% 発行株式数 配当などの臨時の配当は含みません。 2 5%未満の株式保有者の場合 配当還元方式により株価を計算します。「配当 Ⅳ 株主評価を毎期算出する 還元方式」とは、配当実績を10%の還元率で割 り戻すことによって評価額を算定する方式です。 自社株の相続評価価額が相続財産の大部分 財産基本通達による配当還元方式は次のよ を占めていることから、前述した未上場企業 うな特徴があります。 の自社株の評価方法を十分に理解し、配当政 ①年配当金額は直前2年間の累積数値の平均 策・貸借対照表の資産構成を計って経営して によっている。 いかねばなりません。 ②分母の利子率は10%に固定されている。 更に、相続時に自社株式を誰にどのように相 具体的には配当還元価額は次の計算式で計算 続させるのか、株式の議決権は経営する後継者 します。 に限るのか、社内従業員の中から後継者を選ぶ なお、少数株主(会社の経営に直接タッチ 場合に、社員持株会をどの程度の割合で配分す しない所有株主で、一般的には5%未満の株 るのかなどの方針も定めておかなければなりま 式保有者(同族関係者は除く)のこと)が持 せん。後継者が定まらず解散を考えている企業 っている株式でも、議決権制限株式でない限 は別として、株式評価についての基本的な株価 り、経営権の確保に制約が出できます。定款 評価基準を理解し事業承継計画を策定して毎期 でしっかり対策を講じておく必要があります。 継続して株式移譲を考えていくことが大切です。 その株式の その株式の1株 年配当額 × あたりの資本の額 = 配当還元価額 10% 50円 筆者プロフィール 鯨 井 基 司 氏 ・ 税理士、社会保険労務士 ・(財) 茨城県中小企業振興公社 マネジメントエキスパート ただし、配当額は「継続的なもの」のみで 計算をしますので、周年記念配当などの特別 WING 21 いばらき 2007.7 7
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