お役立ち経営情報県内中小企業の経営革新事例 −第３回− ─ ベッツィ・サンダースのいる会社 ─ 中小企業診断士／ I Tコーディネータ宮田貞夫本コーナーでは、４月から６月まで３回シ数々の提案をし、部下を育て、７年後には副リーズで、経営革新に取り組む身近な県内中社長に就任した。結局19年間ノードストロ小企業を取り上げ、そこで行われている経営ームで働くことになった。副社長（南カリフ革新が、なぜ成功したり、注目を集めたりしォルニア担当）に就任してからは12年間でているのかを考えている。６月は社員の積極同地区に19店舗を開店し、同部門を年間売的な提案を生かし、会社の経営革新に成功し上10億ドル（１ドル105円換算で1,050億た企業を紹介したい。円）に育て上げた。１．パートタイマーの出世物語２．茨城版ベッツィ・サンダースのいる会社ベッツィ・サンダースは、ノードストロー顧客の高い満足度で世界的に有名なアメリカの高級デパート「ノードストローム」に、ムにとって、会社を変えた立役者である。彼パートタイマーとして入社して、副社長まで女の様々な提案に対し、会社はチャレンジの昇り詰めた、ベッツィ・サンダースという女機会を与え続け、彼女は会社に大きな貢献を性がいた。彼女はその後経営コンサルタントした。会社の規模こそ違うものの、茨城版ベになり、「顧客満足を高めるためのリーダーッツィ・サンダースのいる会社がある。鹿島シップ」などの分野で世界的に有名な人とな郡神栖町に本社を置くＡ社である。そして、った。Ａ社の社長室長であるK女史が茨城版ベッツ 1971年、彼女は夫を学校に行かせるためィ・サンダースである。約５年前、Ｋ女史はに、２年間の予定で、時給２ドル45セントパート並みの時給で働く経理担当の事務員で（１ドル105円換算で時給257円）でノードあったが、彼女の発案により、Ａ社はそれまストロームのパートタイマーとなった。しかでの「運送業・倉庫業」から、「倉庫を持つし、彼女は次第に仕事の面白さに引き込まれ物流加工会社」に変貌した。る。お客様を喜ばせる楽しみを知り、会社にＡ社の事業変遷のイメージ運送業倉庫のある運送業倉庫を持つ物流加工業 WING 21 いばらき 2005.6 3 お役立ち経営情報３．Ａ社の概要るＢ社のギフト商品の輸送を行っていた。し資本金かし、Ｂ社とは直接の取引関係にはなく、大 60百万円手運送会社からの下請けであった。当時は、会社設立平成２年２月価格競争が激しくなり運送業の将来見通しが従業員数社員35人、パート150人厳しくなっていたが、そのころＫ女史がＭ社年商約7億円事業内容運送業 25％倉庫業 30％物流加工業 30％施設賃貸 15％長にＢ社製品のギフト箱への詰め替え業務（セット加工）を行うことを提案した。それまでＡ社は、Ｂ社製品を工場から自社倉庫に預かり、その製品を必要に応じてセット加工のために遠方の加工業者まで輸送し、箱詰めが完了した後に、再度加工業者に製品Ａ社は平成２年に運送会社として神栖町にを引き取りにいっていた。これはトラック輸創立された。その後、倉庫業、物流加工業と送回数で考えると更に手数がかかっているこ業容を拡大してきた。現在の主力業務は物流とが分かる。加工業者に製品を届けたトラッ加工業である。社長のＭ氏によると、将来的クは空荷でＡ社まで戻ってきて、再度空荷でには運送業を５％程度まで低下させ、物流加加工業者まで出向き、セット後の製品を積ん工業を中心にし、倉庫業はそれをサポートすでＡ社に戻ってくる。加工業者との間にトラる形でのみ事業規模を拡大していくという。ックが２往復することになる。自社でこのセット加工を行うことにより、製品輸送の回数を大幅に減らすことができ、Ｂ社に大きなコ４．Ｋ女史の提案で物流加工業へ参入ストカットを提案できるのである。平成12年ごろ、Ａ社は大手化学会社であＡ社の提案内容他社でセット加工をする場合Ｂ社工場Ａ社倉庫セット加工業者Ａ社でセット加工する場合Ｂ社工場Ａ社倉庫＆セット加工Ａ社の申し出をＢ社は受け入れてくれた。はトラック輸送を表すト加工業者の工場を10分間だけ見学できるしかし、Ａ社はセット加工のノウハウは持っことになった。10分間の見学を終えて、Ｍていない。そこで、Ｂ社の仲介でＢ社のセッ社長は自社でできるかどうか見当がつかなか WING 21 いばらき 2005.6 4 お役立ち経営情報った。運送業、倉庫業のビジネスの単位は数百トン単位だが、ギフト商品は数キロ単位である。頭の中でうまく整理がつかなかった。しかし、日ごろ生活の場面でギフト商品を見慣れているＫ女史は「自分の会社でもできる」と思った。Ｂ社と直接取引ができるメリットも考慮し、M社長はK女史にこの事業を任せて、スタートすることを決意した。事業のスタートに当たっては、さすがのK女史も直ぐに利益を出す自信はなく、「初めの１年は赤字となＡ社のセット加工ラインる」ことの許しをＭ社長に願い出た。しかし、Ｋ女史は初年度から黒字を出すこ 6．ベッツィ・サンダースのいる会社を作っとに成功した。Ｂ社にとっては、トラック輸たM社長の手腕送のコスト削減を実現でき、両者が得する以上がＡ社のベッツィ・サンダースである「 W i n W i n の関係」が出来上がったのである。Ｋ女史の業績である。今年の春、彼女は社長室長に昇格し、セット加工の一線から離れ５．物流加工参入後の事業の拡大た。県中を探しても、このような大活躍をさＢ社のギフトセットは、当時爆発的にヒッれる事務員やアルバイトはそうたくさん見つトした健康食用油を中心とするものであっけることはできない。これは彼女の才能だけた。当初Ｂ社は、日本全国に出荷する贈答用の問題であろうか。私は、経営コンサルタンギフト商品の15％のセット加工をＡ社に委トとして、彼女に活躍の場を与え続けたＭ社託した。これだけでもＡ社にとっては作業が長の経営姿勢を高く評価したい。彼の経営姿間に合わない量であった。しかし、コストカ勢は以下の点に表れている。ットに成功したＡ社への期待は大きく、Ｂ社からの委託量は年々増え続け、現在では当初（ア）徹底した権限委譲の７倍の量を取り扱うにいたっている。当初Ｍ社長は倉庫などの現場には月２回１箇所であった加工工場は、今では近隣地区程度しか足を運ばない。現場を見るとに３箇所にふえた。色々物を言いたくなってしまうからで今後Ａ社は、Ｂ社以外からも物流加工の注ある。また、Ｍ社長が現場に行く場合文をとり、１社だけに頼る収益構造の分散化は、個々の作業よりも、パートの人たを図る予定である。すでに、輸入チョコレーちとの会話や倉庫内の整理整頓などかト、サーモン、ハムなどのギフト用セット加ら雰囲気を把握することに気をつけて工を手がけている。この収益分散化のためのいるという。計画が茨城県知事より経営革新計画として承第３者が見ると、部下任せで何もで認されている。きない経営者も一見同様に見えるが、 WING 21 いばらき 2005.6 5 お役立ち経営情報Ｍ社長の行動が権限委譲の心の表れで今回、Ａ社を分析することにより感じたこあることは、社長との会話で直ぐに分とは、ベッツィ・サンダースの卵はどこの会かる。社にもいるのではないかということである。そして、その卵を孵化させる孵卵器（会社の私は、会社の経営について色々な経営者と話をする機会があるが、そのよ文化、経営者のリーダーシップ、制度など）うな場合、経営者はかなりの確率で部が有るか無いかの違いで、Ａ社のような成長下の能力の低さについて言及する。Ｍ性の高い企業と、環境変化の波に押しつぶさ社長は、私と経営について話をしていれる企業とに別れていく。「わが社のようなる間、部下の悪口は一切出てこないば中小企業には人材がいない」と嘆く中小企業かりか、部下の能力の高さについて熱の経営者がたくさんいるが、一部上場の大会心に話をする。部下を信じて任せてい社の社長も「人材がいない」と言っている。ることが分かる。これが権限委譲の正「人材がいない」のは会社の規模の問題ではしいやり方ではないかと思う。部下をなく、経営姿勢の問題ではないかと考えさせ信じられない経営者は、どんなにノウられる事例である。ハウを勉強しても権限委譲はできない。（イ）創造性のある集団作りＡ社では、スタッフが良い提案をしてくれた場合などに、Ｂ社の商品をそのスタッフに与えている。これをスタッフが家庭に持ち帰ることにより、家族はそのスタッフを誇りに思い、Ｂ社の商品に愛着を持ち、ひいてはＡ社の物流加工について興味を持ってもらえることになる。最終的に、家族ぐるみＡ社のＭ社長とＫ社長室長の業務提案に発展するという。これはＡ社の取り組みの１例に過ぎないが、様々な取り組みを通じて、Ａプロフィール社は創造性のあるスタッフ集団をつく宮田貞夫氏ることに成功している。最近実施し・合資会社ハンプティ代表た、作業ラインの機械化でも、メーカ・中小企業診断士、I Tコーディネーターからの提案ではなく、スタッフのア・茨城県中小企業振興公社マネジメント・イデアを中心に行われ、社外の人々かエキスパートら驚かれた。・中央大学商学部講師（兼任）ご意見、ご感想、ご質問等をお寄せ下さい。 WING 21 いばらき 2005.6 6 [email protected]