平成の『徒然草』 - (2010年4月)より

平成の『徒然草』
∼好きなときに、好きなことを、好きなだけ∼
“薔薇の花考”
平成 20 年6月
平成の『兼好法師』
寺田
政信
【薔薇の植生】
▽植物分類
バラ科バラ属
▽原産地
(ショウビ)、長春花(チョウシュンカ)
北半球の亜熱帯∼熱帯
▽英語名
Rose
▽別名
▽出回り時期
薔薇
周年
多彩な花色と多様な花の姿を楽しめます。「花の女王」として四季を通じて愛されま
す。
《特徴と種類》バラは紀元前の昔から園芸化が進められ、膨大な数の種類があります。
現在はその性状から、原種バラ、シュラブ・ローズ(半蔓性)、ブッシュ・ローズ(株
立ち性)、クライミング・ローズ(蔓性)の4つに大きく分類されます。
《薔薇の歴史》古代ヨーロッパやアラビアでは香料は神への捧げもの、悪霊をはらい病
気を治す薬で、花の女王である薔薇の香りは珍重されました。ギリシャ・ローマ時代に
は香りがとくに強い西アジアの薔薇がすでに栽培されていて、ローマ皇帝ネロや女王
クレオパトラなどは、桁はずれの量の薔薇の花や薔薇水、薔薇油などを浪費したと言わ
れています。
古くは美や愛、快楽の象徴でエロスなどに捧げられましたが、キリスト教時代には赤
いバラがキリストの血を、白いバラが聖母マリアの純潔を表すとして、修道院の庭にバ
ラがよく植えられたようです。
【薔薇の花の物語】
『ギリシャ神話―1』
ある朝、花の女神クロリスが森を歩いていました。するとニンフの亡骸が目に入りま
した。それがあまりにも美しかったので、女神はこの世で最も美しい花に変えてやろう
と考え、オリュンポスの神々に協力を求めました。神々はあらゆるよいものをこの花に
授けることにしました。美の女神は美しさを、優雅の三姉妹は光輝と歓喜と魅力を、西
風は雲を吹き払ってアポロンの陽光をそそぎ、酒神は甘い蜜と高貴な香りを与えました。
満足したクロリスは花にすべての色を与え露の王冠をいだかせました。こうして誇り高
いバラの花が誕生しましたが、死をイメージする青だけは除いてやりました。
『ギリシャ神話―2』
エロスが美しいバラにキスをすると、中にいたハチがねたんでその唇を刺しました。
バラは驚いて真っ赤になりました。激怒した母のアプロデイテはたくさんのハチをとら
え、息子エロスの弓の糸に数珠つなぎにしましたが、まだ腹の虫がおさまりません。ハ
チを隠していたバラも悪いちいって、ハチの針をつぎつぎと抜き取ってはバラの茎に植
え込んでいきました。バラが美しい姿にも似合わず刺だらけなのは、こんなわけがあっ
たのでした。
『イギリス
バラ戦争』
1455 年、イギリス王家は王位継承権をめぐって分裂し、内戦が始まりました。これ
はバラ戦争と呼ばれました。なぜなら、白バラを紋章とするヨーク家と、紅バラを紋
−1−
章とするランカスター家が対立し、貴族たちも白側と紅側に分かれて戦ったためです。
30 年後の 1485 年、リチャード二世の戦死によってヨーク側が敗北し、内戦はよう
やく終結しました。ランカスター家のヘンリー七世がヨーク家からお后を迎えて王位に
つき、紋章を紅白のチューダーローズにすると、それまで、紅と白の花を咲き分けてい
たある修道院のバラの木に紅白の絞りの花が咲くようになりました。
『野バラ』
野バラは野生のバラの総称で、北半球の亜熱帯―亜寒帯には 200 種類ほどの野生の
バラがあるといわれています。花壇で見る栽培バラはそのうちの7種類ほどをさまざま
に交配させたものです。
ヨーロッパの野生バラで最も一般的なのは、ロサ・カリナです。道端や牧場でよく茂
みをつくるためドックローズの英名があり、直径4cm ほどのピンクの一重の花をつけ
ますが、枝にはバラの仲間らしく鋭い刺がある。
日本にも 12 種ほどの野生のバラがあります。枝には刺が多いが、ノイバラやテリハ
イバラなど多くが白い花をつけ、花が赤いのは北国の浜辺で咲くハマナスと高山で咲く
タカネバラくらいです。
【バラを詠んだ万葉集】
野茨(ノイバラ)が万葉集に詠いこまれています。茨(ウバラとウマラの音がある)
“道の辺の茨(ウマラ)の末に延(ホ)ほ豆の、絡まる君を、はかれか行かむ”
丈部鳥(万葉集 20 巻 4352)
(意味)道ばたに咲いている野茨の枝のさきまで絡んでいる豆ではないけれど、こう
して二人親しくからみあっているのにどうしても別れてゆかねればならないのでしょ
うか。
防人として遠い西国まで旅をしなければならないときの別れの歌であろう。
【ウエルナー作曲“野ばら”】
近藤朔風訳の歌は楽しい。
「わらべは見たり野なかのばら。清らに咲けるその色愛でつ、飽かずながむ紅におう野
なかのばら。」
【バラを詠んだ俳句】
バラを詠んだ俳句を紹介します。
“薔薇の芽の命をかけしくれないに”
山口青邨
これから成長しようとする真紅の芽に、命のありさまをみた作者の心情を吐露
したものです。
“薔薇日増しに五角六角詩の業”
中村草田男
三角形の蕾から四角形に開花し、五角六角と壁を増し、陰影を深めて最盛期を
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迎える咲きざまに自己の詩業との思いを重ねてものです。
私の句
“薔薇深紅ベリーダンサー厚化粧”
寺田政信
写真:写真は、日立造船時代の仕事仲間の田邊氏の提供によります。一部私の撮影も
あります。
中の島のバラ園
花の文化園のバラ各種
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