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賀久基直
ウレタン原料研究部
ユニットマネージャー
[紹介製品のお問い合わせ先]
当社宇佐美事業本部第一輸送機・
フォーム産業部
ポリウレタンは、イソシアネー
ト基を有するポリイソシアネート
OCN − R − NCO
+ HO − R'− OH
化合物(NCO 化合物)と水酸基を
−
− OCONH − R − NHCOO − R' −−
(
)
有するポリオール化合物(OH 化
合物)を反応させて得られるポリ
図1●ポリウレタン化反応
マーである[図1]
。OH 化合物の
官能基数や分子量を調整すること、
な OH 化合物である「1級 O H -
ールの官能基数により、得られる
および配合処方や成形方法を変え
PPG」について概説する。
PPGの官能基数を調整することが
ることでさまざまな物性のポリウ
PPG
可能、②付加重合させる PO のモ
レタンの製造が可能なことから、
ウレタン原料として代表的な
ル数を変えることで分子量を調整
表1に示すように自動車、土木建
OH 化合物は、ポリエーテル構造
することが可能で、幅広い物性の
築、生活用品など幅広い分野で利
を持つポリオキシプロピレンポリ
ポリウレタンを製造できることか
用され、われわれの生活に不可欠
オール(PPG)である。PPG は、
ら、PPG はポリウレタン製造にお
なものとなっている。
多官能アルコールにプロピレンオ
いて重要な素材である。
ここでは、高反応性で耐水性に
キシド(PO)を付加重合させるこ
PPGは、通常アルカリ触媒を使
優れたポリウレタンの作成が可能
とで製造される。①多官能アルコ
用し PO を多官能アルコールに付
表1●ポリウレタンの種類と主な用途
自動車
土木建築
シートクッション、
ヘッド
軟質フォーム レスト、
カーペットバッキ
ング、
ダッシュサイレンサー
生活用品
衣料・装身具
医 療
カーペットバッキング、マ
包帯、バンテージ、マスク、
ブラジャー、肩パッド、防
ットレス、枕、スポンジ、
医療用ベッド、医療用マス
寒衣料詰め物
化粧用パフ
ク、義足、止血用材
クラッシュパッド、
コンソ
フ
アームレス
ォ 半硬質フォーム ールボックス、
ー
ト、サンバイザー、ステア
ム
リングホイール
冷凍庫・保冷車・タンクロ 屋根・天井・壁・床・配管・貯
冷蔵庫断熱材、電子ジャー
硬質フォーム ーリー車などの断熱材、鉄 蔵タンクなどの断熱材、サ
・ポット、浴槽の断熱材
道枕木
イジングボードなどの芯材
防水材
サッシ・パネル目地部のシ
ール材・コーキング材、屋根
防水用塗膜材、漏水防止材
ウインドー部品、ボディー
エラストマー 部品、リバウンドラバー、
非
スノーチェーン
フ
ォ
ー 合成皮革
ム
人工芝
接着剤
靴底
人工臓器(心臓、皮膚、腎
臓)、カテーテル、人工透
析器
ジャンパー、ブレザー、コ
ート、バッグ、ベルト、靴
肌着、靴下、ストッキング、
スポーツウエア
合成繊維
塗 料
ギブス
塗り床材、防食塗料
ピアノ、たんす、仏壇
ビデオ、
オーディオ用磁気
テープバインダー
三洋化成ニュース
➊ 2007 夏 No.443
人工臓器(心臓、皮膚、腎
臓)バインダー
支配的にα開裂することがわかっ
た。そこで、①α開裂の選択性を
CH3
−
−
CH3
触媒:アルカリ
R−OH + n CH2−−CH 上げるために置換基をさらにかさ
R−O−CH2−CH−O−H 2級OH
高くし、②触媒活性を高めるため
n
β開裂
O
にルイス酸性を高めることとした。
これらの観点で、トリス(ペンタフ
図2●従来 PPG の合成反応式
ルオロフェニル)ボランを選択し
た。
加重合して製造されるが、図2に
るルイス酸触媒で1級 OH 比率を
示すように大部分の PO がβ開裂
求めた結果、トリフェニルボラン
本触媒を使用することで、支配
して末端が NCO と反応性の低い
を用いた場合に1級 OH 比率が
的にPO をα開裂させてPPG の1
2級 O H になる(1級 O H 比率
60%であったことから、置換基の
級OH 比率を70%に高めることが
2%)
。反応性を高めるため、2級
かさ高さとα開裂の選択性に着目
でき[図3、4]
、触媒活性をアルカ
OH に 4 ∼ 10 モルのエチレンオキ
した。
リ触媒の約3,000 倍に高めること
分子軌道計算(AM1/MOPAC)
シド
(EO)
をさらに付加重合させて
に成功した。さらにこのPPG に少
1級OH 比率を70 ∼ 90 %に高め
により、ポリエーテル成長末端と
量のアルカリ触媒で EO
(OH 基当
利用される場合もある。しかし、
POおよび触媒との錯構造を求めた
たり0∼6モル)
を付加することで、
ポリオキシエチレン鎖が親水性で
ところ、置換基がかさ高いほうが
効率的に1級OH 比率を70 ∼ 95 %
あるためポリウレタンの吸水性が
高くなるという問題点がある。
ポリウレタンは、ウレタン基ど
アルコール
ドドメインを形成することで樹脂
δ+
▲
うしが水素結合により凝集しハー
PO
物性(硬度)が発揮されており、
δ−
α開裂:70%
吸水性が高くなると、長期間の使
用で空気中の水分を吸水し水素結
β開裂:30%
合が開裂、硬度が大きく低下する
(C6F5)3B
など耐久性の低下が生じる。その
▲
ため、ウレタン業界では、EO を
δ+
付加していないかまたは付加量が
少ないことで疎水性が高く、また
炭素 酸素 フッ素 水素 ホウ素
δ−
N C O 化合物との反応性が高い
PPG「1級 OH - PPG」が求めら
触媒:トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン
−
R1
リフルオロボランを用いると、1
a
CH3
−
R−OH + n CH−−CH2 O
R1
β開裂
R2
30% R−O−CH−CH−O−CH2−CH−OH 2級OH
b
触媒と違い、酸触媒は PO を活性
化するためメチル基の立体障害を
受けにくいためといわれている。
配位数、置換基のかさ高さの異な
CH3
−
α開裂
−
ることは知られていた。アルカリ
CH3
70% R−O−CH−CH−O−CH−CH2−OH 1級OH
級OH 比率が50 %(NCO 化合物
との反応性はまだ不十分)に高ま
R2
−
代表的なルイス酸触媒であるト
−
1級 OH-PPG
図3● PO がα開裂する様子
−
れていた。
〔 〕内は、R1またはR2のいずれかがCH3、他方がH
図4●1級 OH-PPG の合成反応式
三洋化成ニュース
➋ 2007 夏 No.443
100
100
80
1級OH-PPG:
1級OH比率70%
のPPGにEO付加
した場合
)
従来PPG:
E O 未 付 加 、1級
OH比率2%
約1/2
20
20
0
0
1級OH-PPG:
E O 未 付 加 、1級
OH比率70%
反 60
応
率
% 40
)
(
従来PPG:
1級 O H 比 率2%
のPPGにEO付加
した場合
80
(
1
級 60
O
H
比
率 40
%
従来PPG:
EO付加、
1級OH
比率70%
0 2 0 2 4 6 8
10
出発物質OH当たりのEO付加モル数
4 6 時間(h)
8
10
図6● NCO 末端プレポリマー合成時の反応率推移
図5●末端 EO 付加モル数と1級 OH 率の関係
に高めることができた
[図5]
。以上
OH - PPGは、1級OH 比率の低い
コールを硬化剤の主成分として作
のように、われわれは、従来PPG
アルカリ触媒で作成したPPG より
成したポリウレタンエラストマー
では実現できなかった高反応性と
反応速度は速く、EO を付加重合
の耐水性試験後の物性保持率を図
疎水性を併せ持つ画期的な1級
して1級OH 比率70%にしたPPG
7に示す。1級OH-PPG を使用す
OH-PPG を製造できるようにした。
と同等の高い反応速度を示すこと
ることで耐水性に優れたポリウレ
がわかる。
タンエラストマーが得られること
メチレン-ビス(4-フェニルイソ
シアネート)
(MDI)とEOを付加
重合していない1級OH-PPG、ア
ポリウレタンエラストマーへ
がわかる。
の応用
また、ビルの屋上防水や建築シ
シーリング材、防水塗料、ホー
ーリングでは、1級 OH 比率の低
さらに EO を付加重合して作成し
ス、ベルト、ロールなどに使用さ
いPPGを主成分とする硬化剤を使
た PPG(いずれも1級 OH 比率
れるウレタンエラストマーは、
用した場合、作業性(主剤と硬化
70%、官能基数2、分子量2,000)
、
PPG と MDI などのジイソシアネ
剤が反応し増粘を開始するまでの
および、アルカリ触媒で作成した
ートを反応させて得られるイソシ
時間。長いほうが作業性良)と施
PPG(1級OH 含量2%、官能基
アネート末端のプレポリマー(主
工性(完全硬化するまでの時間。
数2、分子量 2 , 0 0 0 )の3種の
剤)と、硬化剤(ポリオキシエチ
短いほうが施工性良)を両立させ
PPG とを反応させたときの反応時
レン鎖を含まないPPG を主成分と
るため、温度に合わせ触媒量をき
間と反応率の関係を図6に示す。
し触媒などを配合したもの)を反
め細かく調整する必要があったが、
E O を付加重合していない1級
応させて得られる。エチレングリ
反応性が高い1級OH-PPG を使用
ルカリ触媒で PO を付加重合し、
100
50
1級OH-PPG:
E O 未 付 加 、1級
OH比率70%
1級OH-PPG:
スズ触媒非使用
40
従来PPG:
スズ触媒使用 Y 30
I
黄
色
度 20
(
)
従来PPG:
EO付加、
1級OH
比率70%
2 3 4 5 6 7
時間(日)
)
従来PPG:
E O 未 付 加 、1級
OH比率2%
( )
(
耐
水
性
の
指
標 90
物
性
引
張 80
強
さ
保
持
率
70
%
0 1 10
0
0 2 4 6 8 10
時間(日)
温度50℃、
湿度95RH%で貯蔵
80℃で貯蔵
図7●ポリウレタンエラストマー高湿度下での物性保持率
三洋化成ニュース
図8●ポリウレタン軟質スラブフォームの耐熱変色
➌ 2007 夏 No.443
した硬化剤では触媒量の調整が容
易になった。
ポリウレタン軟質スラブフォ
ームへの応用
イソシアネート化合物が水と反
応して発生した二酸化炭素をポリ
ウレタン中に微分散させることで
ウレタンフォームが作られる。家
具、寝具、衣料などのクッション
1級 OH-PPG、スズ触媒非使用
従来 PPG、スズ触媒使用
材に使用されるポリウレタン軟質
スラブフォームは、触媒として3
級アミンとオクチル酸第1スズを
使用して、1級 OH 比率の低い
PPG、水、トリレンジイソシアネ
条件:電子レンジによるスコーチテスト
図9●ポリウレタン軟質スラブフォームの耐スコーチ性
しなければならず、湿熱圧縮残留
チ性を図9に示す。
ひずみ率が大きくなり、耐久性が
ポリウレタン軟質モールドフ
劣るため実用的でなかった。
ォームへの応用
ート(TDI)などを混合して大き
ポリウレタン軟質モールドフォ
1級OH-PPG を使用したポリウ
なブロック状に発泡硬化させるこ
ームは、1級OH 比率が70∼ 85 %
レタンフォームは耐久性に優れる
とで製造されている。
のPPG、水、TDI および/または
ので、自動車シートクッションと
スズ触媒は、①反応率がアップ
MDI などを型(モールド)内で発
して、
従来PPG では、
密度39kg/m3
しフォーム物性が向上する、②発
泡硬化させ製造される。インサー
までしか低密度化できないのに対
泡速度をコントロールできる、と
ト材や表皮材と一体成形ができる
して、1級 OH - PPG では密度 30
いった利点がある一方、①スズ触
ことからシートクッションなどの
㎏/m3 まで低密度化が可能である
媒自体の安全性、②フォームが経
自動車内装材に広く使用されてお
時的に黄変する、③発泡時蓄熱し
り、短時間で発泡硬化し型から取
反応が暴走しフォーム内部が焼け
り出せる高い生産性が求められて
以上のように、従来PPG では達
焦げる、などの問題がある。しか
いる。また、自動車の燃費向上の
成することのできない性能を発揮
し、①スズ触媒を使用せずに発泡
ため軽量化することが求められて
する1級OH-PPG を製造すること
可能な高反応性の1級OH-PPG が
おり、発泡倍率を高め低密度化し
ができた。当社はこの1級 OH -
なかったこと、② EO を付加して
樹脂量を減らす方向にある。
PPG を利用したウレタン原料を
[表2]
。
1級 OH 比率を高め高反応性にし
1級OH-PPG は、EO をOH 基
『プライムポール』シリーズとして
たPPGでは、反応性は満足できる
当たり4∼6モル付加することで、
上市し、今後さらにポリウレタン
が水と TDI の乳化を促進し発泡速
1級OH 比率を85 ∼ 95 %と高く
業界に貢献していきたい。
度が速くなりすぎる、また、耐水
することができる。その結果、ポ
性の指標である耐熱圧縮残留ひず
リイソシアネートとの反応率が高
み率が大きくなる、ことなどから
くなり、ポリウレタン樹脂の物性
スズ触媒は使用され続けてきた。
を大きく向上させることが可能で
疎水性であり、高反応性である
ある。従来のPPG では、同様の1
1級OH - PPG を使用することで、
級 OH 比率にまで高めるには EO
スズ触媒を使用することなく硬化
をOH 基当たり7∼14モルも付加
参考文献
1)ウレタン工業協会のホームページ
http://www.urethane-jp.org/
関連特許:特許 3614806 号、3774202
号、3943493 号
性、発泡速度に問題なくポリウレ
タン軟質スラブフォームを製造す
ることが可能になった。1級OH -
表2●ポリウレタン軟質モールドフォームへの応用例
1級 OH-PPG 系
1級 OH 比率(%)
従来 PPG 系
92
78
PPG を使い作成したスラブフォー
コア密度(㎏ /m3)
30
35
35
39
ムの耐黄変性を図8に、耐スコー
湿熱圧縮残留ひずみ率(%)
14
9
19
14
三洋化成ニュース
➍ 2007 夏 No.443