活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 89 前川雄一 ウレタン樹脂用ポリオール エラストマー研究部ユニットチーフ [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社輸送機本部 第一輸送機・フォーム産業部 ウレタン樹脂は、成形時に化学 脂の特性から幅広い用途で使用さ メーカーで生産したウレタンプレ 的または物理的な手法で発泡させ れている。 ポリマー*を用いて施工現場にて るフォーム用途と発泡させない非 ❖非フォーム用ウレタン樹脂の 硬化させて使用される。使用方法 フォーム用途がある。フォーム用 主な用途 は1液硬化型(プレポリマーを空 途としてはウレタン樹脂の弾性に ウレタン樹脂は非フォーム用途 気中の水分により硬化させる湿気 応じて家具や寝具、自動車シート としてシーラント、合成皮革、塗 などのクッション材料、冷蔵庫や 膜防水、接着剤、エラストマーな 建築物の断熱材に主に使用されて どさまざまな用途で使用されてい いる。一方、非フォーム用途とし る[表1]。代表例であるシーラン てはシーラント、合成皮革、塗膜 トは、建築資材の目地を充てんし、 防水剤、接着剤、エラストマー、 建築物の気密性保持や防水のため 弾性繊維など多様な用途で使用さ に使用される。シーラントは、各 *ウレタンプレポリマー:あらかじめウ レタン化反応をある程度まで進行させた 未硬化の液状物(末端はイソシアネート)。 末端のイソシアネートを空気中の水分ま たはポリオールと反応させることでウレ タン樹脂となる。プレポリマーのメリッ トは、事前にある程度まで反応を進行さ せておくことによる樹脂品質の安定化で ある。 れている[図1]。いずれの場合も 用途ごとの要求特性を満たすため に、最適な原料の組み合わせが選 ウレタン樹脂 非発泡 非フォーム シーラント 合成皮革 樹脂に使用されるポリオール 塗膜防水材 (PPG)について開発状況を紹介 接 着 剤 エラストマー 熱可塑性 弾性繊維 熱硬化性 発泡 フォーム 自動車シートや家具などのクッション ( 軟質フォーム ) 冷蔵庫や建築用の断熱材 ( 硬質フォーム) 定されている。本稿ではウレタン する。 ❖ウレタン樹脂 ウレタン樹脂とはポリオール成 分の水酸基(−OH)とポリイソシ アネート成分のイソシアネート基 (−NCO) が反応することによって 得られる高分子である[図2]。原 料となるポリオールとポリイソシ アネートは種類が豊富であり、こ れらの組み合わせにより得られる ウレタン樹脂は、多様な物性を発 図1●主なウレタン樹脂の用途 HO − R − OH O = C = N − R' − N = C = O ポリオール成分 ポリイソシアネート成分 現させることが可能である。一般 耐摩耗性や耐薬品性、耐久性、耐 屈曲性などに優れるという特長も 有しており、こうしたウレタン樹 ウレタン樹脂 図2●ウレタン化反応 三洋化成ニュース ❶ 2011 新春 No.464 = − −− O − C − N − R' − N − C − O − R −− ▶ O H H O n − 樹脂などを得ることができるが、 = 的には伸縮性に富んだ弾性のある 表1●非フォーム用ウレタン樹脂の主な用途 エラストマー 熱硬化性 シーラント 塗膜防水 接着剤 主な用途 窓枠など建築物のシ ゴム弾性に富むシー 接着剤 靴底、ホース ーリング材 ムレス層防水材 建築資材の目地充て 床や屋上の防水 目 的 ん (気密性保持、 防水) 使用方法 合成皮革 熱可塑性 タイヤ、ベルト、 パッキン かばん、靴、衣類 食品包装フィルムの 接着、建築資材、自 弾性ゴム製品の製造 弾性ゴム製品の製造 合成皮革製品の製造 動車部品の接着 ウレタンプレポリマ ウレタンプレポリマ 板状ウレタン樹脂を 2液硬化型でスプレ ポリオールとポリイ ーを用いて1液硬化 ーを用いて1液硬化 破砕したペレットを ウレタン樹脂溶液の ーまたは塗り付けに ソシアネート混合液 型または2液硬化型 型または2液型で使 用いて注型または押 脱溶剤 よる現場施工 の注型 で現場施工 用 し出し成形 使用される PPG PPG ポリオール ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ ポリエステルポリオ ール、PPG ール、PTMG、PPG ール、PTMG、PPG ール、PTMG 常温固体である プレポリマー作成時の反応時間短縮、現場施工時の養生時間短 板状ウレタン樹脂作 ウレタン樹脂作成時 PTMGを液状原料に ニーズ 代替することでのハ 縮 成時の反応時間短縮 の反応時間短縮 ンドリング性向上 硬化)と2液硬化型(主剤であるプ オールで、多価アルコールにプロ PPGでは2,000〜4,000が主であ レポリマーと硬化剤であるポリオ ピレンオキシド(PO)を付加する る。これらの用途に共通するニー ールの2種類の製品を混ぜ合わせ ことで製造される。多価アルコー ズは、ウレタン化反応の反応性向 ることでウレタン樹脂を得る)に ルの水酸基数によって、得られる 上があげられる。反応性の向上は 分かれ、いずれも施工現場で目的 PPGの水酸基数を調整することが 工場でのプレポリマーの生産速度 部位に塗布し常温で硬化させる。 できる。また、POの付加モル数 アップや施工現場での硬化時間短 ❖主用途でのニーズ を変えることで分子量の調整が可 縮によって生産性の向上に役 シーラント、塗膜防水、接着剤 能である。これら多種のPPGを用 立つ。通常、ウレタン化反応では 用途では、得られる樹脂の柔軟性 いることで、ウレタン樹脂の引張 加熱により反応を促進させている と耐久性の両立が必要であるため、 強さや伸び、弾性をコントロール が、反応性向上によって加熱温度 3官能(分子内に−OHを3つ持つ することが可能であり、幅広いポ を低減できるので、生産コスト削 化合物)と2官能(分子内に−OH リウレタン製品の製造に貢献して 減にもつながる。しかし、各用途 を2つ持つ化合物)のPPGの組み いる。 で汎用的に使用されているPPGは、 合わせで使用される。PPGはウレ 使用される数平均分子量は3官 その反応性向上策が限定されてい タン樹脂に使用される代表的ポリ 能PPGが3,000〜5,000、2官能 る。 − CH3 R−O−CH−CH2−OH CH 3 − R−OH 2価:プロピレングリコール CH 2−CH O 付加重合 ▶ CH3 − 3価:グリセリン、トリメチロールプロパンなど 1級水酸基 触媒 R−O−CH2−CH−OH 2級水酸基 多価アルコール PO PPG 図3● PPG の合成反応 三洋化成ニュース ❷ 2011 新春 No.464 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス ウレタン樹脂用ポリオール 表2●『プライムポール』適用効果 ( シーラント用途:反応性と耐水性比較 ) 付加形式 1級水酸基比率 処方 1 PO単独 70 100 PO単独 2 末端EO 70 プライムポールFF‐3500 PPG 従来PPG① 処 方 (3官能、数平均分子量5,000) 従来PPG② — 処方2 — 100 処方3 — — — — トリレンジイソシアネート 10 10 プレポリマー化反応時間(h) 5 10 5 90 90 75 イソシアネート 樹脂物性*1 *2 耐水性試験での樹脂引張強さ保持率 (%) 100 10 *1:得られたプレポリマーを硬化させて樹脂を得た。 *2:150℃、95% R.H.での7日後の引張強さ保持率。 PPGの末端水酸基(−OH)には PTMGは常温で固体であり、ハン 社が開発したのが、1級水酸基 1級水酸基と2級水酸基があり ドリング性の面で問題がある。一 比率の高いPPG『プライムポー [図3]、1級水酸基は活性が高く 方、PPGでは樹脂の引張強さが ル』である。 『プライムポール』は、 イソシアネートとのウレタン化 不十分であることからPPGの適 新規な重合触媒を見いだすこと 反応速度は速い。一般に、POを 用は実現していない。樹脂の引 でPOのみの付加でも1級水酸基 付加したPPGの末端水酸基は大 張強さは1級水酸基比率を上げ 比率を従来の2%から70%程度 半が2級水酸基(末端水酸基の1 ることで向上できるが、EO付加 まで高めることで、反応性の高 級水酸基比率は2%程度)であり、 による1級水酸基比率の向上で いPPGを開発することができた。 PPGの反応性は低い。PPGでの は、EO付加量の増加に伴い結晶 また、PO付加単独でも高い1級 ウレタン化の反応性向上には2 化度が向上し、PPGが固化しハ 水酸基比率を実現できるため、 つ の 方 法 が あ る。 ま ず は、 ① ンドリング性が悪くなるという 今までより少量のEO付加で90% PPGの末端に親水性の高いエチ 不具合が発生する。さらに、樹 を超える1級水酸基比率を持ち、 レンオキシド(EO)を付加させ反 脂の耐水性も悪化する。その他 液状を保持する高性能なPPGを 応性の高い1級水酸基の比率を の手段としては、PPGの分子量 製造することが可能となった。 高くする方法と、②反応時に使 が短いものを使用することで樹 ❖『プライムポール』のシーラ 用する触媒量を多くする方法で 脂の引張強さ向上が可能だが、伸 ント用途での効果 あるが、①の方法では、EO付加 び率が著しく低減してしまう。 『プライムポール』を使用した はウレタン樹脂の親水性を上げ ❖1級水酸基ポリオール『プラ 場合の効果について、PO付加単 るため耐水性が低下してしまう、 イムポール』 独の従来PPG①、末端EO付加し ②の方法では、触媒量の増加に 前記の問題を解決するべく当 た従来PPG②との比較結果を表 よって耐久性の悪化や製品コス トがアップする、という問題が ある。このため、用途ごとの要 求物性を満足させ、かつ採算性 プライムポール FF-3500(1級水酸基比率=70%) 100 を保持するために、EOを使わず 80 に1級水酸基比率の高いPPGが 合成皮革用途では、熱可塑性 の樹脂であることと柔軟性を保 反応率 %( ) 望まれている。 従来 PPG① (1 級水酸基比率=2%) 60 従来 PPG② (1 級水酸基比率=70%) 40 持するために2官能のポリオー ルが使用される。そのなかでも 反応時間が半減 20 ウレタン樹脂の引張強さや耐久 性の観点からポリオキシテトラ メチレングリコール(PTMG)が主 0 0 2 4 6 8 10 反応時間 (h) に 使 用 さ れ て い る。 し か し、 図4●プレポリマー合成反応時間と反応率 三洋化成ニュース ❸ 2011 新春 No.464 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス ウレタン樹脂用ポリオール なる。 『プライムポール』を合成皮 プライムポール FF‐3500(1級水酸基比率=70%) 100 革用途に使用した場合の効果につ いて、PO付加単独の従来PPG①' 従来 PPG① (1 級水酸基比率=2%) との比較結果を表3に示す。 『プ 引張強さ保持率 % ( ) ライムポール』を適用したものは 90 伸び率を変えずに得られる樹脂の 引張強さが向上し、ハンドリング 耐水性向上 性も良好である。 80 ❖『プライムポール』のライン 従来 PPG② (1 級水酸基比率=70%) 70 アップ 現在『プライムポール』は、シー ラント用途向けに『プライムポー 0 2 4 6 8 時間 ( 日 ) ルFF-3500』 、合成皮革用途向け 条件:150℃、95% R.H. 図5●高湿度下での引張強さ保持率比較 に『プライムポールFL-2101』を 上市している[表4]。 2に示す。 『プライムポール』を適 ポール』は高反応性と得られる樹 用したものはウレタン化反応にお 脂の耐水性を両立したPPGであり 以上のように従来PPGでは達成 いて、1級水酸基比率の低い従来 シーラント用途に適している。 できない性能を発揮する『プライ PPG①よりも反応性が高く、EO ❖『プライムポール』の合成皮 ムポール』を、各用途ごとに最適 付加により1級水酸基比率を高め 革用途での効果 な組成でラインアップを充実させ た従来PPG②と同程度の反応性で 従来PPG①'(PO単独)で同程 て種々の用途に展開していく。 ある[図4]。また耐水性試験後の 度の1級水酸基比率を達成しよう 引張強さ保持率は、EO付加した とすると、EO付加量を多くせざ 従来PPG②よりも優れ、PO付加 るをえないため、結晶化度が高く 単独の従来PPG①と同程度である なり得られたPPGが固化してしま [図5]。以上のことから『プライム いハンドリング性が著しく困難に 表3●『プライムポール』適用効果 ( 合成皮革用途:樹脂強度比較 ) 付加形式 1級水酸基比率 処方4 プライムポールFL‐2101 末端EO 92 100 従来PPG①' PO単独 2 PPG ( 2官能、数平均分子量1,400) 処方5 — — 100 処 方 鎖延長剤 エチレングリコール 9 9 イソシアネート ジフェニルメタンジイソシアネート 54 54 溶剤 ジメチルフォルムアミド 380 380 樹脂物性*1 引張強さ(kPa) 伸び (%) 4.5 3.0 720 690 *1:得られたウレタン溶液を減圧オーブンで脱溶剤して樹脂を得た。 表4●『プライムポール』の性状例 プライムポール FF‐3500 プライムポール FL‐2101 無色〜淡黄色 無色〜淡黄色 約70 約92 水酸基価 34 78 官能基数 3 2 数平均分子量 5,000 1,400 粘度(mPa・s、25℃ ) 1,100 270 0.01 0.01 7.0 6.7 外観 1級水酸基比率(mol % ) 酸価 pH 三洋化成ニュース ❹ 2011 新春 No.464
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