米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の解析

東岳証券株式会社
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の解析
2011 年 10 月 07 日
米連邦公開市場委員会(FOMC)は 9 月 20 日-21 日に今年の第 6 回の政策決定会
合を開催し、会合日程が 1 日ではなくて 2 日間に延長され、最終的にはツイストオペレー
ション(Operation Twist,OT)を打ち出し、2012 年 6 月末までに 4,000 億ドルの 6-30 年
物国債を買い入れると同時に、同額の残存期間 3 年以内の国債を売却することを発表し
た。また、住宅ローン担保証券(MBS)償還金等の MBS への再投資を決定したほか、
2013 年半ばまでの異例の低金利(0-0.25%)据え置きを再表明した。
金融危機発生から今まで、いくつかの緊急性、的を射ている流動性措置を除く、米連
邦準備制度理事会(FRB)は主にフェデラルファンド(FF)金利の引き下げ、量的緩和策
(QE1、QE2)、及びツイストオペレーションを実施した。2007 年 9 月以降、FRB は 15 ヶ月
程度の時間がかかってフェデラルファンド(FF)金利を 4.75%から 0-0.25%に引き下げた後、
利下げの余地がもうなくなった。その後、FRB は直接に流動性を市場に注入し、即ち通貨
を発行して MBS、米国国債、連邦機関債などを購入した。この措置は米国経済の「強
心剤」と見られ、ハードランディングを回避したものの、QE2 が終わりに近づくにつれて、その
弊害は次第に現れ始め、インフレ水準が急速に台頭した一方、実体経済が依然として低
迷している。これは FRB に警告のシグナルを発し、もし現時点では QE3 を打ち出すならば、
米国はスタグフレーションに直面するリスクがある。従って、FRB は 9 月の金融政策決定会
合で新たな金融政策としてツイストオペレーション(OT)に踏み切った。OT とは、FRB が保
有する米国債の中身をより期間の長い国債に入れ替えることにより長期金利の低下を狙
う政策のことである。しかし、新たな金融政策はただ FRB のバランスシート中の 4,000 億ド
ル資産に対して期限内に調整を行うため、景気刺激への影響が限られる見通しである。
故に、投資家の間に失望感が広がった中、発表の当日、米国株式市場が終盤ごろ下げ
ペースが加速したほか、ハイリスク商品が売られた一方、安全資産としてのドルと米国債が
買われた。リスク回避的な買いが米国債に膨んだほか、OT の実施をきっかけに、米国 10
年物国債の利回りは頻繁に安値を更新した。
*当社の提供したすべての資料は信頼できると判明した情報に基づいて作成されていますが、その正確性、安全性を保証するものでは
ありません。投資などのご利用に際しては、お客様ご自身の判断でお願いいたします。
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図 1:米国 10 年物国債の利回り
単位:%
図 2:GDP(季節調整済み)
単位:%
図 4:NAHB 住宅市場指数
単位:%
図 3:失業率(季節調整済み)
図 5:新築住宅販売件数
単位:%
単位:千戸
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図 6:ISM 製造業景況指数 単位:%
図 7:PCE コア・デフレーター 単位:%
図 2-7 で示されたように、2011 年第 1、2 四半期の米国国内総生産(GDP)の増加ペ
ースが鈍化しており、第 2 四半期は年率換算で前期比 1.3%増にとどまった。8 月の失業
率(季節調整済み)は 9.1%の高水準に位置している。8 月 ISM 製造業景況指数が 50.6
まで反落し、景気を見極めるうえでの分岐点となる 50 を小幅に上回ったため、製造業が踊
り場入りしたことを示した。住宅価格指数と新築住宅販売件数は依然として低迷している。
バーナンキ FRB 議長は 9 月の FOMC 会合後は、「米国経済成長が依然として緩慢であ
ることを示している。最近の指標は全般的な労働市場の状況が引き続き弱いことを示唆し
ており、失業率は高止まりしている。非居住用建造物への投資は依然として弱く、住宅部
門は落ち込んだ状態が続いている。インフレは今年これまでよりも緩やかになったように見え
る。長期的なインフレ期待は引き続き安定している。」と指摘した。さらに、経済見通しには
大きな下方リスクが存在することを示した。この発言を受け、米国の景気が「二番底」に陥
るとの懸念が広がっている。
景気刺激策が次から次へと打ち出されたものの、米国経済の二番底リスクが依然払拭
できなかった。FRB には何の手段が残っているか。まず、FRB の当面のバランスシートを見
てみましょう。
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表 1:米連邦準備制度理事会(FRB)の貸借対照表
項目
現値
総資産
2,858
保有している証券
米国国債
連邦機関債
住宅ローン担保証券(MBS)
2,647
1,652
110
885
その他の資産
2011 年 8 月 31 日まで
211
項目
総負債
連邦機関準備金
流通通貨
その他の負債
権益
単位:十億ドル
現値
2,806
996
1,682
128
52
表 1 を見て分かるが、FRB の資産は主に、米国国債(1.652 兆ドル)、連邦機関債
(0.110 兆ドル)と MBS(0.885 兆ドル)から構成される一方、連邦機関準備金(0.996 兆
ドル)と流通通貨(1.682 兆ドル)などが負債として計上される。バランスシートの規模は総
額 2.858 万兆ドルとなる。FRB の金融政策変更とは、こられの項目を調整することであ
る。
まず、FRB は期落ちとなる資産及びポートフォリオ収益を再投資し、または直接的に
量的緩和第 3 弾(QE3)を実施し、バランスシートの規模を拡大するという手段がある。
理論的には、インフレ率を目標の範囲内に抑制できる限り、その規模を無制限に拡大す
ることができる。8 月 31 日までに FRB が持っている米国国債、連邦機関債、住宅ローン
担保証券の総額は 2.647 兆ドルに達した。5%を基準金利とすれば、利子所得は約
1,300 億ドルとなる。この所得を債券買い入れに再投資し、量的緩和策を行う資金が毎
月約 110 億ドル調達できる。インフレ率がじりじりと反落する場合、例えて PCE コア・デフ
レーターが 1.0%付近まで下落すれば、QE3 を打ち出す条件が整備された。その時、小
規模の QE3 を実施した方が適切である。例えば、3,000 億ドルの経済支援策を出し、イ
ンフレ率が著しく上昇することを避ける前提で景気を刺激する。
その次は超過準備率を引き下げ、または取り消すとのことである。負債の項目を調整
し、超過準備金の一部を通貨項目に移す。目下、FRB は超過準備預金に 0.25%の金
利を付与している。その付与を取り消し、超過準備預金を低減させ、金融機関の貸出
を促進するとの選択肢がある。ただし、この措置の効果が限定的になると思われる。米国
の銀行システムには乏しいものは現金ではなく、貨幣流通の効率を上げるメカニズムと言
える。当面、各行にとってはハイリスク資産の割合を低下させ、リスク回避資産を増加す
ることが最優先の課題である。金融危機以来、米商業銀行では、資産総額に占める現
金の比率は既に歴史的平均値 3.2%から 10%近辺まで上昇した。米国の消費者信用
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残高、商工業融資、住宅ローンなどの伸びが歴史的低水準となっているため、貨幣乗
数が大幅に低下した。FRB が通貨を大量に発行したにも関わらず、基礎貨幣の増加は
マネーサプライ M2 の増加につながらず、実体経済に流入して所得と利益を増加させるこ
とができなかった。それに、この措置を出すと、米銀行業界は損失を被られ、追い打ちをか
けられる可能性がある。
どちらを実施しても、「金融緩和」は政策のスタンスである。その本質には、市場にもっと
多くの米ドルを注入し、ドル安を更に進め、自国の経済圧力を世界諸国に転移する狙
いがあると考えられる。ドルを切り下げることが FRB の金融政策の本音だとも言える。した
がって、ドルは長時間にわたり売られると思われる。ただし、当面世界景気の回復が鈍化
しており、二番底の兆候が出たことに加え、欧州債務危機がますます深刻化していること
から、リスク回避の買いが入り、ドル及び米国債は押し上げられる。欧州債務危機の解
消と世界経済の底打ちに伴い、ドルは再び売りに見舞われるだろう。
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