内と外 日本人の対人関係の考え方の特徴を示す言葉として、「うち」と「そ

内 と外
日本人の対人関係の考え方の特徴を示す言葉として、「うち」と「そと」
があります。これは、日常でいろいろな意味で使われていて、しかも、他人を
いかに扱うかという人を遇する仕方を決定する基準となっています。
日本人の行動原理の特徴と言われる本音と建前、義理と人情、甘えと遠
慮などは、どれもこの「うち」と「そと」を区別する考え方に関連しています
(図4参照)。
さて、自分の周囲に境界をつくって内と外とを峻別するのは、なにも日
本人だけの態度ではないでしょう。多くの言語
言語の近隣の氏族を指す名称が、差
言語
別的意味をもった言葉を語源としています。この事実は、多くの民族が、他民
族を外側の異質な者と見ていた事実を示しているのではないでしょうか。
例えば、スラブ圏の言葉でドイツ人を指す言葉は「言葉を知らない人」
という意味の語を語源としています。つまり、太古のスラブ人は隣人のドイツ
人を、言語を知らない人、言葉にならない言葉を発する人と呼んでいたことが
わかります。また、中国では、四方の周囲の人々を野蛮人・未開人と考えて、
「東夷西戎北狄南蛮」(とういせいじゅうほくてきなんばん)と呼んでいまし
た。この夷戎狄蛮の四字の漢字は夷狄・蛮夷・戎狄などと使われましたが、ど
れも未開人の意味です。中国古代の正史のなかで日本を記述した部分が「東夷
伝」(とういでん)という題がつけられている例もあります。東にある日本が
「夷」と呼ばれているわけです。
日本では、古代の東北に住んでいた人々を「えみし→えびす」(蝦夷・
えぞ)と呼んでいましたが、漢字を当てるときは「夷」が使われました。『日
葡辞書』(にっぽじしょ・vocaburario da Lingoa de Iapam、長崎のイエズス会士
が作った日本語―ポルトガル語辞典、1603 年刊行)は「エビスノクニ・Yebisu」
の語を「シナ人がまわりの多くの国々を呼ぶがごとき、野蛮の国」と解説して
います。とくに、京都から東の地方が蝦夷と呼ばれ、
「あずま(東)えびす(夷)」
というと、関東地方の人々のことで、田舎者という意味がありました。四国地
方の田舎者は「にしのえびす」と言われましたが、漢字では「西の戎」と書き
ました。東と夷、西と戎の字を結びつける使い方には中国の考え方の影響があ
りましたが、日本では、東夷・西戎・北狄・南蛮そしてやはり異民族の呼び名
である「匈奴」も訓読みはすべて「えびす」でした。
Matsui, Yoshikazu
松井義和.(1991) 日本人の考え方・日本論への案内, pp. 54-55