TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ TMI 中国最新法令情報 ―(2016 年 2 月号)― TMI 総合法律事務所 〒106-6123 東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー23 階 TEL: +81-(0)3-6438-5511 E-mail: [email protected] 〒200031 上海市徐匯区淮海中路 1045 号 淮海国際広場 2606 室 TEL: +86-(0)21-5465-2233 〒100020 北京市朝陽区朝外大街乙 12 号 昆泰国際大厦 2412A 室 TEL:+86-(0)10-5925-1200 皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。 お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事 の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下 さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、 併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html) 目次 一.中国最新法令 1. 中央法規 (1) ネット出版サービス管理規定 (2) 信用喪失被執行人に対する懲戒覚書の 44 部門連携調印と 55 項目の懲戒措置の明確化 2.司法解釈 (1) 最高人民法院による「民事執行典型案件」の公布 二.連載 中国企業法実務/第九弾:刑事法 (第 5 回 刑法各論 3) 三.中国法務の現場より 1. 担当者変更のお知らせ及び「爆買い」に際しての留意点 2.「二人っ子政策」導入に伴う上海市の条例改正-結婚休暇・産休の変更 1 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 一.中国最新法令(2016 年 1 月中旬~2016 年 2 月中旬公布分) 1.中央法規 (1) ネット出版サービス管理規定1 国家新聞出版広電総局及び工業情報化部 2016 年 2 月 4 日公布 同年 3 月 10 日施行 ① 背景 ネット出版に関しては、2002 年 6 月 27 日付けで新聞出版総署により「インターネッ ト出版管理暫定規定」 2(以下「暫定規定」という。)が制定、施行されており、暫定規 定では、ネット出版の事前認可制度、及び事前認可を得ずにネット出版を行った場合の 罰則等について定められていた。 その後、一般的な出版物に関しては、2011 年にこれらを適用対象とする「出版管理条 例」が改正され、また、 「出版物市場管理規定」が制定され、出版活動に対する管理制度 が整備されたことに伴い、インターネット出版に対しても同等の規制が求められていた。 また、2002 年に制定された暫定規定は、ネットの急速な発展にその内容が適合しなくな りつつあった。 そこで、ネット出版に対する、厳格な管理・監督を維持するため、2012 年 12 月 18 日、 新聞出版総署は、 「ネット出版サービス管理規定(意見募集案)」 (以下「募集案」という。) を公布し、ネット上の出版行為の監督・管理を主な内容とする社会一般から広く意見を 募集した上で、募集した意見を踏まえ、2016 年 2 月 4 日に、国家新聞出版広電総局3と 工業情報化部が連名で、 「ネット出版サービス管理規定」 (以下「管理規定」という。)を 公布するに至った。 ② 主な内容 本規定の主な内容は以下のとおりである。 ア 主旨 ネット出版服務に従事する場合、ネット出版サービス許可証を取得しなければなら ず、各地の出版管理当局はネット出版サービスを提供する企業に対し、年度検査を行 うものとする4。 イ 具体な内容 (a) 管理・職責範囲の明確化、用語の統一 管理規定は、国務院における複数部門の職責に関し、各部門の職責範囲を明確に 分けている5。 また、管理規定では、暫定規定で用いられていた「インターネット出版」ではな く、 「ネット出版サービス」という用語を用いることとなった。従来暫定規定で用い られていた「インターネット出版」とは、インターネット情報サービス提供者が自 己創作又は他者創作の作品を編集又は加工し、インターネットに登載又はインター ネットにてユーザー端末に送付し、公衆に閲覧、使用又はダウンロードの行為を指 1 2 3 4 5 《网络出版服务管理规定》 《互联网出版管理暂行规定》 2013 年に国務院は、新聞出版総署と広報映画テレビ総局を合併し、国家新聞出版広電総局を設立した。 管理規定第 7 条。中国語では“网络出版服务许可证”という。 管理規定第 4 条 2 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ す 6。 これに対し、管理規定で用いられた「ネット出版サービス」とは、インターネッ トに限らず、すべての情報ネットを使用し、且つインターネットに登載又は端末に 送付する行為にも限らず、社会公衆に対し、ネット出版物を提供する行為を指す 7。 これにより、既存の関連法規、法令8との用語表現が統一され、また、 「サービス」と いう文言が付加されたことで、無形サービスを提供するというネット出版の本質に 沿うものになったと言われている9。 (b) 「ネット出版物」の意義の明確化 従来の暫定規定及びその他の法令では、既に出版された作品をインターネットに 公表することしか想定されていなかったため、 「ネット出版物」という概念がなかっ 10 た 。管理規定では、初めて「ネット出版物」という定義を置き、編集、制作、加工 等の特徴を備えたデータ化作品をそれに含めた 11。 (c) ネット出版サービスに従事するための要件の明確化 書籍、音響・映像、電子、新聞、雑誌出版社といった企業が、インターネット出 版サービスに従事するには、インターネット出版サービスのドメイン、スマートフ ォン端末のアプリケーション等のデジタル出版プラットフォーム等を有すること、 確定的なネット出版サービス範囲を有すること、ネット出版サービスに従事するた めに必要な技術設備等が中国国内に設置されていること、といった条件が定められ ている12。 上記以外の企業がネット出版サービスに従事する場合には、国家新聞出版広電総 局の認可する出版及び関連する専門技術職業資格を有する人員を 8 名以上雇用しな ければならない等、より厳しい条件が課されている13。 (d) ネット出版物に関する禁止事項 ネット出版物に関しては、以下の内容を含めることが禁止されている 14。 すなわち、ネット出版物には、①憲法の確定的な基本原則に反する内容、②国家 統一、国家主権、領土保全に危害を与える内容、③国家秘密を漏えいし、国家安全 に侵害し、又は国家栄誉と利益を損害する内容、④民族風俗、習慣等を侵害する内 容、⑤迷信を宣伝する内容、⑥社会秩序をかく乱し、社会の安定を破壊する内容、 ⑦わいせつ、賭博、暴力等を含む内容、⑧他人を侮辱する内容、⑨社会公徳、民族 文化に危害を与える内容、⑩その他法律等により禁止されている内容を含めてはな らない。 また、未成年者もインターネットを日常的に利用しており、特に未成年者はイン ターネットからの情報に影響を受けやすいことに鑑み、未成年者を保護するため、 ネット出版物には、未成年の社会道徳違反及び犯罪違法行為を誘発する内容、恐怖、 6 暫定規定第 5 条 出版管理条例第 36 条、管理規定第 2 条 8 出版管理条例、出版物市場管理規定など 9 http://www.cac.gov.cn/2016-02/17/c_1118075775.htm 10 暫定規定第 5 条 11 管理規定第 2 条第 3 項 12 管理規定第 8 条 13 管理規定第 9 条 14 管理規定第 24 条 7 3 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 残酷等の未成年者の心身健康を害する内容、未成年者の個人情報を暴露する内容を 含めることも禁止されている15。 (e) 事前内容登録 インターネット出版単位が、国家安全、社会安全等の重大なテーマに係る内容を 出版する場合、インターネット出版サービス企業は、国家新聞出版広電総局の定め る管理規定に従い、事前に内容登録手続を行わなければならず、登録せずに国家安 全、社会安全等の重大なテーマに係る内容の出版をすることはできない 16。 (2) 信用喪失被執行人に対する懲戒覚書の 44 部門連携調印と 55 項目の懲戒措置の明確化 17 ① 背景 最高人民法院が 2013 年 7 月 16 日付けで「信用喪失被執行人名簿情報の公布に関する 若干規定」(以下「公布規定」という。)18を公布したことによって、信用喪失被執行人 名簿制度(以下「名簿制度」という。)が初めて正式に制定された。 この名簿制度は、被執行人が履行能力を有しながら、発効した判決、裁決、仲裁等の 法律文書に決められた義務を履行せず、且つ下記のいずれかの状況に当たる場合、人民 法院は信用喪失被執行人名簿に取り入れることによって、消費制限措置等の信用懲戒 19 を与えるものである 20。 (a) (b) (c) (d) (e) (f) 証拠を偽造し、暴力脅威等方法で執行を妨害、拒否した場合 虚偽訴訟、虚偽仲裁または財産を隠蔽、移転する方法で執行を回避した場合 財産申告制度に違反した場合 高額消費令の制限に違反した場合 被執行人は正当の理由なく和解協議を履行・執行しなかった場合 履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務の履行を拒否した場合 2013 年に名簿制度が制定された後、2015 年 12 月末までに、社会公衆に対し、308.02 万件の信用喪失被執行人名簿情報を公布したとの報道がされている 21。 また、最高人民法院が、2014 年 6 月 18 日、7 月 1 日に中国鉄道総公司、中国民航空ネ ット株式有限公司と提携し、被執行人による列車高級席乗車券、航空券の購入を制限し、 15 管理規定第 25 条 管理規定第 26 条 17 《44 部门联合签署惩戒失信人备忘录明确 55 项惩戒措施》 18 《关于公布失信被执行人名单信息的若干规定》 19 人民法院により、信用喪失被執行人名簿に取り入れられた者の情報は、政府の関連部門、金融監督機関、 金融機関、行政機能を有する事業を扱う単位、行業協会等に対して通報され、政府購買、入札募集、行政許 可、政府補助、融資与信、市場参入、資格認定等の場面において、信用懲戒を与えられるとされている(公 布規定第 6 条第 1 項)。また、「被執行人の高額消費制限に関する若干規定」(原文:《关于限制被执行人 高消费及有关消费的若干规定》)第 1 条第 3 項、第 3 条によると、被執行者信用喪失名簿に組み入れられた 被執行人に対しては、人民法院は消費制限措置を講じなければならないとされている。被執行者が自然人 である場合、利用できる公共交通機関のクラス、星付き以上のホテル、ナイトクラブ、ゴルフ場等における 高額消費、不動産の購入、家屋の新築、増築、高級改装等を行うことが制限される。 の生活及び業務に必要のないその他の消費行為。 20 公布規定第 1 条 21 http://www.legaldaily.com.cn/executive/content/2016-01/22/content_6456815.htm 16 4 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 2015 年 12 月末までに、信用喪失被執行人による列車高級席乗車券の購入を 59.88 万回、 航空券の購入を 357.71 万回制限したとの報道もされている22。 金融方面においては、2014 年 12 月 8 日付けで、最高人民法院、中国人民銀行信用中 心、環境保護部、国家税務総局等の 8 機構が情報採集提携覚書を締結し、相互に情報を 共有することより、信用喪失被執行人による金融機関からの融資又は借入を制限するこ ととしたとされている 23。 更に、最高人民法院は、2014 年 10 月 24 日付けで中国銀行業監督管理委員会と共同で 「人民法院と銀行業金融機構によるネット捜査及び連合懲戒業務に関する意見」 24を公 布した。当該意見に基づき、最高人民法院は、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、 中国建設銀行、中国降雤通銀行等の 21 箇所の銀行業金融機関と、インターネットで信用 喪失被執行人の情報を共有することで、オンラインでの被執行人に対する情報検索、財 産凍結、財産差押、クレジットカードの発行について、制限措置を講じる合意がなされ た。実際に、工商方面においては、2015 年 12 月に全国工商信用喪失情報交換応用シス テムが運行開始されて 3 日間で、約 471 人の信用喪失被執行人による会社の法定代表人、 董事、監事、高級管理職の任命申請を却下したとの報道がされている 25。 そして、上記意見を踏まえ、最高人民法院は 44 国家部門との間で、信用喪失被執行人 に対する信用懲戒を与えられるという提携関係を構築し、2016 年 1 月 22 日に共同で「信 用喪失非執行人に対して共同制裁を実施する業務連携覚書」 26に締結し、8 類の 55 項目 の信用懲戒措置を明確なものとした。 ② 主な内容 本覚書の主な内容は以下のとおりである。 1 金融類機関設立の制限措置 証券、ファンド、先物、保険、融資性担保会社 及び商業銀行等の設立を制限する 2 民商事行為実施の制限措置 供給業者として政府調達活動に参加すること、 銀行間市場での債権発行、商業銀行買取、融 資・与信等を制限する 3 業界参入の制限措置 税関認証企業になること、薬品・食品安全業種 に従事すること、鉱山生産、安全評価業種等に 従事することを制限する 4 重要職務就任の制限措置 金融機関の董事、監事、高級管理職27に就任す ることを制限する 5 優遇政策待遇の享受又は栄養を与えら れることに対する制限措置 優遇政策認定、国有財産権取引参加などを制限 する 6 高額消費及びその他消費行為の制限措 高額の保険料を支払い保険に加入すること、飛 22 同上 http://www.chinacourt.org/article/detail/2014/12/id/1500970.shtml 24 最高人民法院、中国银行业监督管理委员会《关于人民法院与银行业金融机构开展网络执行查控和联合信 用惩戒工作的意见》 25 http://news.ifeng.com/a/20151202/46479441_0.shtml http://www.sccredit.gov.cn/info.do?54492 26 《关于对失信被执行人实施联合惩戒的合作备忘录》 27 高級管理職とは、会社法の第 216 条に基づき、会社の総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事 会秘書及び会社定款に定めるその他の者を指す。 23 5 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 置 行機、列車の寝台車(一等席)、高速鉄道の利 用、ランクが高めのホテルに宿泊すること、ナ イトクラブ、ゴルフ場での消費、不動産購入、 一定範囲での旅行、バカンス、学費が高額な私 立の学校に子女を通わせることなどを制限す る 7 出国制限措置、罪を定めて処罰する措置 罪名に従って、処罰されるため、特に規定され てない 8 信用喪失被執行人情報の照会・公示協力 に関する措置 信用喪失被執行人の身元情報、パスポート、婚 姻状況の登録及び車両・財産情報、税関認証資 格情報の照会、安全生産許可審査許可情報の照 会に協力し、情報公開システムを通じて、社会 に向けて信用喪失非執行人の情報を公開する など 2.司法解釈 (1) 民事執行典型案件 28 最高人民法院 2016 年 1 月 24 日公布 ① 背景 中国民事執行法上、執行難、すなわち、訴訟や仲裁で勝訴しても判決又は仲裁判断が 功を奏せず、回収が困難となるという問題が長きにわたり問題となってきたが、そのよ うな中、最高人民法院は、2016 年 1 月 24 日付けで、民事執行に関する 12 件の典型案件 を公布した。 これらの民事執行に関する典型案件は、市民の生活に緊密な関係を持つ、12 の事例に おいて、人民法院がいかにして執行難の解消を図ったかを概説したものとなっている。 (a) 被執行人広州振君服飾有限公司に対する未払労働債権の請求に関する事案 (b) 広州羅邑貿易有限公司に対する賃金支払請求に関する事案 (c) 許氏と楊氏の養育費に関する事案 (d) 三鹿乳業有限公司の従業員に対する未払賃金の執行に関する事案 (e) 19244 名のサトウキビ農家による売掛金の紛争に関する事案 (f) 安徽省現在色彩印刷有限公司が仲裁判断の執行を拒絶した事案 (g) 渠氏と劉氏との間の自動車交通事故における損害賠償請求に関する案 (h) 交通事故への救済に関する事案 (i) 郭氏による判決及び裁定の執行拒絶に関する事案 (j) 羅氏による判決及び裁定の執行拒絶に関する事案 (k) 公務の妨害に関する事案 (l) 被執行人楊氏による賠償義務の履行に関する事案 これらの案件では、例えば、執行官の管轄省外の人民法院との連携による執行、執行 官のネット調査システムを利用した執行、執行人民法院と公安機関・公安局との連携に 28 《最高人民法院公布 12 起涉民生执行典型案例》 6 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ よる執行、公務妨害罪、判決・裁定執行拒絶罪等の刑事罰の追及による執行といった方 法により、執行難の問題を解消しようとする人民法院の工夫を読み取ることができる。 ② 一部事例の紹介 ア 市、省を超えて、直営店舗の財産に執行した事例 (a) 事例の概要 2013 年 3 月、4 月に、広州振君服飾有限会社(アにおいて、以下「被執行人」と いう。)は経営不振により、153 名の従業員に対する賃金の支払を遅延し、又は支払 わなかった。これに対して、従業員が広州市海珠区労働人事紛争仲裁委員会に仲裁 を申し立て、合計 210 万元の労働賃金を支払うよう命ずる労働仲裁判断が下された が、被執行人がこれを履行しなかったため、従業員が広州市海珠区人民法院に対し、 強制執行の申立を行った。 しかし、広州市海珠区人民法院が調査によって、被執行人の預金口座に 7 万元し かなく、当該預金以外には一切財産がない上、既に経営活動を停止していたことが 発覚したため、執行官が更に積極的に調査を行ったところ、被執行人は全国で 100 ヶ所余りの直営店舗を有していることが明らかとなり、営業収入、敷金に対して強 制執行できることが判明した。そこで広州法院の執行官は、広州におけるその他の 法院、深センの法院、重慶の法院等の 26 か所の法院に協力を求め、現地の法院より、 被執行人の直営店舗が所在するショッピングモールに対し執行裁定書及び執行協力 通知書を送付した上で、ショッピングモールに対する売掛金及び敷金 82 万元余りを 強制執行にて回収した。 (b) 事例の意義 省、市の範囲を超えて、法院間の協力関係を形成し、強制執行の実効性を確保し た上、執行官の積極的な法解釈により、第三者の支持を得、被執行人の第三者に対 する期限の到来した債権に対しても強制執行をすることができたという点。 イ ネット調査に基づき、口座引き落とし資金の凍結がされた事例 (a) 事例の概要 2015 年 3 月 25 日に、北京市西城区労働人事紛争仲裁委員会は、広州羅邑貿易有 限公司(イにおいて、以下「被執行人」という。)に対し、杜氏に賃金、基本生活費 及び労働契約解除に伴う経済的補償として合計約 9 万元の支払を命じる内容の仲裁 判断を下したが、被執行人がこれを履行しなかったため、杜氏が北京市西城区人民 法院に対し、強制執行の申立を行った。 人民法院から被執行人に対し、執行通知書を送付したものの、被執行人が既に閉 鎖したという理由で通知書が返送され、また、執行官が最高人民法院のインターネ ット調査システム29にて被執行人の財産状況を確認したところ、現金及び他の財産 が一切存在しないこと、被執行人の工場も生産停止となっていること、工場内の貨 29 最高人民法院が、中央国家機関、中国人民銀行、商業銀行のネットワークと接続の上、執行案件データ ベースを構築することで、執行官がこのデータベースにアクセスすることで、被執行人の身分及び財産情報 (特に銀行口座状況)を全国において調査し、また、預金を凍結することができるシステムのことをいう。 http://www.legaldaily.com.cn/xwzx/content/2014-12/24/content_5899930.htm、 http://shfy.chinacourt.org/article/detail/2015/07/id/1675132.shtml 7 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 物その他の財産も既に存在しないことが確認された。 しかし、執行官が杜氏から情報を得るうちに、かつて被執行人が北京で天猫ネッ トショップを運営したことがあるという情報を得たことから、インターネット調査 システムを利用して調査を行ったところ、会社登記された天猫ネットショップが存 在することが判明し、また、支付宝中国ネット技術有限公司に連絡をしたところ、 被執行人の支付宝口座30及びその預金残高があること、そして、天猫に対する支払 残高が 3.1 万元あることが確認された。そこで、執行官は、直ちに当該預金口座を 差し押さえ、2015 年 12 月 29 日までに合計 6.6 万元の回収に成功した。 (b) 事例の意義 被執行人名義の支付宝口座内の預金は、法律の定めにより強制執行することがで きる財産の範囲に含まれる。本件は、執行官が、伝統的な財産調査方法だけでなく、 インターネット上の情報を基に、発想の筋道を展開し、事案の状況に応じて被執行 人がネットショップを運営しているか否か調査し、被執行人の新しい類型の財産を 探しあてたものである。そして、支付宝口座を発見した後、速やかに有効な措置を 講じ、強制執行を遂行したものである。 (孫蕊・中国弁護士) 30 支付宝口座とは、日本において比較的著名な Paypal(ペイパル)と非常に似たシステムであり、商品を 購入する際に、自身の支付宝口座を使用し、支付宝口座に商品代金を預け、店舗は、支付宝口座に商品代金 が支払われた事を確認した後に商品が出荷される。購入者において商品が届いた事を確認された後、商品受 取りを支付宝口座に伝えると、支付宝口座に預けていた商品代金が店舗に支払われる仕組みとなっている。 8 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 二.連載 中国企業法実務 第九弾:刑事法(第 5 回/全 8 回) 第1回 2015 年 10 月号 中国刑法の特徴 第2回 2015 年 11 月号 刑法総則 第3回 2015 年 12 月号 刑法各論 1 第4回 2016 年 1 月号 刑法各論 2 第5回 2016 年 2 月号 刑法各論 3 第6回 2016 年 3 月号 刑法各論 4 第7回 2016 年 4 月号 刑事訴訟法 第8回 2016 年 5 月号 治安管理処罰法 第5回 刑法各論 3 1.背景 本連載の第 5 回となる今月号では、知的財産に関する罪について取り上げる。 知的財産は企業にとって貴重な無形財産であり、有効に保護、活用することで企業の市 場シェア獲得・拡大を大いに推進しうるものである。その反面、新技術、新製品の特許係 争、ブランド等の商標権の問題、又は模倣品への摘発等、知的財産権を巡る企業間の紛争 が世界的に頻発している。その中で、 「山寨(模倣品)大国」と呼ばれるほど知的財産侵害 問題が深刻である中国において、知的財産権侵害によって頭を悩まされた企業が多い。こ のような背景を受け、中国政府も知的財産権を保護するための法整備を積極的に推進して きた。 刑法では 7 種類の知的財産に関する罪を規定した上、それらの犯罪から生じる問題の法 律適用を解説する司法解釈も発表されている。 以下、主に各犯罪の認定基準、立件基準から知的財産に関する罪について簡単に紹介す る。 2.知的財産に関する罪の紹介 (1) 登録商標冒用罪31 登録商標は自らの商品・役務と他人の商品・役務と区別し、自己の商品・役務の質量、 信用度を表明するものであり、特に消費者の中で信用度の高いブランドの商標に、重大 な経済的価値が置かれている。登録商標の商標専用権は法律で保護される。 登録商標の権利者の許諾を経ずに、同一種類の商品にその登録商標と同一の商標を使 用し、情状が重い場合には、登録商標冒用罪が成立し、3 年以下の有期懲役又は拘役に 処せられ、罰金32を併科し、又は罰金のみ科されるとされている。情状が特に重い場合 31 刑法第 213 条 知的財産に関する罪の罰金額は、人民法院が犯罪の違法所得、違法経営金額、権利者への損害、社会的 な危害等の情状から総合的に判断し、一般的には違法所得の 1 倍以上 5 倍以下又は違法経営金額の 50%以上 100%以下の範囲内で定められる。(《最高人民法院、最高人民检察院关于办理侵犯知识产权刑事案件具体 32 9 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ には、3 年以上 7 年以下の有期懲役及び罰金に処し、罰金を併科するとされている。 以下のいずれか一つの事由が認められる場合には、 「同一の商標」と認定されるものと 33 されている 。 (a) 登録商標の字体、アルファベットの表記(大文字・小文字)又は文字の書字方向 (横書き、縦書き)を変更し、登録商標との違いが細微である場合 (b) 登録商標の文字、アルファベット、数字等の間の距離を変更し、登録商標の顕著 な特徴に影響しない場合 (c) 登録商標の色を変更する場合 (d) その他登録商標と視覚的な相違がほとんどなく、公衆に誤解を招きやすい商標で ある場合 また、登録商標又は登録商標を冒用した商標を、商品、商品の包装又は容器、製品説 明書、商品取引書類に使用し、広告宣伝、展覧又はその他商業活動に利用したりする等 の行為はすべて「使用」行為と認定される 34。 なお、 「情状が重い」は、下記のいずれかに該当する場合 35をいい、立件基準でもある 36 。 (a) 違法経営金額が 5 万元以上又は違法所得金額が 3 万元以上の場合 (b) 二種類以上の登録商標を冒用し、違法経営金額が 3 万元以上又は違法所得金額が 2 万元以上の場合 (c) その他情状が重い場合 「特に情状が重い」は下記のいずれかに該当する場合をいう 37。 (a) 違法経営金額が 25 万元以上又は違法所得金額が 15 万元以上の場合 (b) 二種類以上の登録商標を冒用し、違法経営金額が 15 万元以上の場合又は違法所得 金額が 10 万元以上場合 (c) その他特に情状が重い場合 なお、上記にいう「違法経営金額」とは、知的財産に関する罪の実施によって製造、 保存、運送、販売した知的財産権侵害商品の価値のことである。犯行の実態によって違 法経営金額の計算方法が異なる38 39(以下も同様)。 应用法律若干问题的解释(二)》[2007]6 号 第 4 条(以下、「知財刑事案件法律適用司法解釈二」という) 33 《关于办理侵犯知识产权刑事案件适用法律若干问题的意见》法发[2011]3 号 第 6 条(以下「知財刑事案 件法律適用意見」という。) 34 《最高人民法院、最高人民检察院关于办理侵犯知识产权刑事案件具体应用法律若干问题的解释》法释 [2004]19 号 第 8 条第 2 項(以下「知財刑事案件法律適用司法解釈」という。) 35 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 1 条第 1 項 36 《最高人民检察院、公安部关于公安机关管辖的刑事案件立案追诉标准的规定(二)》公通字[2010]23 号 第 69 条(以下「立件追訴基準二」という。) 37 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 1 条第 2 項 38 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 12 条 39 なお、「違法所得金額」については、刑法及び関連司法解釈に明確な定義が置かれていないが、知的財 産に関する犯罪においては、「権利侵害によって獲得した利益(投入したコストを引く)の金額」(侵权获 利额)と解釈すべきとの見解が多数である。 10 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 犯行の実態 権利侵害商品が販売さ れた場合 製造・保存・運送中、及 び未販売の場合 違法経営金額の計算方法 ・ 実際の販売価格で計算 ・ 商品に表示した価格又はすでに判明した権利侵害 商品の平均実際販売価格で計算 ・ 上記価格が判明できない場合、権利侵害商品の市 場中間価格で計算 (2) 登録商標冒用商品販売罪40 登録商標を冒用した商品であることを「明らかに知りながら」これを販売し、販売金 額が「比較的大きい場合」には、3 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科し又 は罰金のみを科すとされている。販売金額が「巨大である場合」には、3 年以上 7 年以 下の有期懲役に処し、罰金を併科するとされている。 「明らかに知りながら」という定めが曖昧な表現であるため、認定基準の明確化を図 るため、以下のとおり規定が定められている 41。 下記のいずれかに該当する場合、「明らかに知る」と認定される。 (a) 販売商品の登録商標が改竄、交換又は覆われたことを知っている場合 (b) 登録商標冒用商品を販売することで行政処罰又は民事責任を問われたことがあり、 さらに同一登録商標冒用商品を販売した場合 (c) 商標登録権利者の許諾書を偽造、改竄したとき、又は、許諾書が偽造、改竄され たものであることを知っている場合 (d) その他登録商標冒用商品であることを知り又は知るべきである場合 販売金額が「比較的大きい場合」、「巨大である場合」の基準については、それぞれ 5 万元以上、25 万元以上とすることが司法解釈 42で規定されている。 また、登録商標冒用商品販売罪につき、以下のとおり立件基準が定められており 43、 実際に販売しなくても登録商標冒用商品の価値が 15 万元以上に達した場合には訴追さ れる可能性がある点には注意する必要がある。 (a) 販売金額 5 万元以上の場合 (b) まだ販売されていないが、商品価値は 15 万元以上の場合 (c) 販売金額が 5 万元未満であるが、販売した金額と未販売の商品価値と加算して 15 万元以上の場合 なお、上記(b)、(c)の場合は、登録商標冒用商品販売罪の未遂 44と認定される45。 40 刑法第 214 条 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 9 条第 2 項 42 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 2 条 43 立件訴追基準(二)第 70 条 44 未遂の場合、既遂の法定刑を参照にし、情状によって法定刑の範囲内で刑を軽くし又は軽減することが できる。 45 知財刑事案件法律適用意見 第 8 条第 1 項 41 11 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 未販売の登録商標冒用商品価値が 15 万元以上 25 万元未満、25 万元以上の場合、それ ぞれ「比較的大きい」、「巨大」の法定刑に基づき処罰される46。 販売金額と未販売商品価値はそれぞれ違う法定刑の基準に達した場合、法定刑の重い 方に処し(下記例 1 参照)、それぞれ同一法定刑の基準に達した場合、同法定刑の範囲内 に重い法定刑に処する(下記例 2 参照)47。 登録商標冒用商品価値 金額基準 法定刑 販売金額 8 万元 比較的大きい 3 年以下の有期懲役 又は拘役、罰金を併 科又は単科 未販売商品価値 28 万元 巨大 3 年以上 7 年以下の有 期懲役、罰金 例1 販売金額 26 万元 例2 未販売商品価値 28 万元 巨大 3 年以上 7 年以下の有 期懲役、罰金 巨大 3 年以上 7 年以下の有 期懲役、罰金 認定結果 販売金額が巨 大、3 年以上 7 年以下の有期 懲役、罰金 3 年~7 年の中 で重い法定刑 に処する (3) 登録商標標識の不法製造、不法製造登録商標標識販売罪 48 他人の登録商標標識を偽造し、又は無断で製造し、又はこれら偽造、無断製造された 登録商標標識を販売し、情状が重い場合、3 年以下の有期懲役、拘役又は管制に処し、 罰金を単独で科し、又は併科するとされている。情状が特に重い場合、3 年以上 7 年以 下の有期懲役及び罰金を併科するとされている。 「偽造」とは、登録商標権利者から許諾を取得せず、他人の登録商標標識の様式、文 字、図形及びその他特徴を冒用して偽の商標標識を製造する行為であることに対し、 「無 断製造」とは、例えば、登録商標権利者から商標標識印刷の依頼を合法的に受託した印 刷業者が契約に違反し、規定の枚数以上の登録商標標識を無断で印刷する行為を指し、 製造された標識は真正のものである49。 また、本罪の立件基準は以下の通り規定されている50。 (a) 登録商標標識を偽造し、無断製造し、若しくは偽造、無断製造された登録商標標 識を販売した件数が 2 万件以上の場合、又は違法経営金額が 5 万元以上の場合、 又は違法所得金額が 3 万元以上の場合 (b) 2 種類以上の登録商標標識を偽造し、無断製造し、若しくは偽造、無断製造され た 2 種類以上の登録商標標識を販売した件数が 1 万件以上の場合、又は違法経営 金額が 3 万元以上の場合、又は違法所得金額が 2 万元以上の場合 (c) その他情状が重いとき 46 知財刑事案件法律適用意見 第 8 条第 2 項 知財刑事案件法律適用意見 第 8 条第 3 項 48 刑法第 215 条 49 《中华人民共和国刑法解读(第四版)》全国人大常委会法制工作委员会刑法室/编著 中国法制出版社 頁 50 立件訴追基準(二)第 71 条 47 12 481 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ なお、「情状が特に重い」の判断基準は下記通りである 51。 (a) 登録商標標識を偽造し、無断製造し、若しくは偽造、無断製造された登録商標標 識を販売した数量が 10 万件以上の場合、又は違法経営金額が 25 万元以上の場合、 又は違法所得金額が 15 万元以上の場合 (b) 2 種類以上の登録商標標識を偽造し、無断製造し、若しくは偽造、無断製造した 2 種類以上の登録商標標識を販売した数量が 5 万件以上の場合、又は違法経営金額 が 15 万元以上の場合、又は違法所得金額が 10 万元以上の場合 (c) その他情状が特に重い場合 (4) 特許冒用罪52 他人の特許を冒用し、情状が重い場合、3 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を 併科又は単科するとされている。 以下の行為のいずれかを実施した場合、 「他人の特許を冒用」する行為と認定される 53。 (a) 許諾を経ずに、自ら製造又は販売した製品、製品の包装上に他人の特許番号を表 示する行為 (b) 許諾を経ずに、広告又はその他宣伝資料の中に他人の特許番号を使用し、かかる 技術をその他の者の特許技術と誤解させる行為 (c) 許諾を経ずに、契約で他人の特許番号を使用し、契約に関連する技術をその他の 者の特許技術と誤解させる行為 (d) 他人の特許証書、特許書類又は特許申請書類を偽造又は変造する行為 また、本罪の立件基準は以下のとおり規定されている 54。 (a) 違法経営金額が 20 万元以上の場合又は違法所得金額が 10 万元以上の場合 (b) 特許権利者に 50 万元以上の直接経済損害を与えた場合 (c) 他人の特許を 2 以上冒用し、違法経営金額が 10 万元以上の場合又は違法所得金額 が 5 万元以上の場合 (d) その他情状が重い場合 (5) 著作権侵害罪55 営利を目的とし、下記の著作権侵害事由のいずれかに該当し、違法所得金額が比較的 大きく、又はその他重い情状がある場合、3 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を 併科又は単科するとされている。違法所得金額が巨大であり、又はその他の特に重い情 状がある場合には、3 年以上 7 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科するとさ れている。 (a) 著作権者の許諾を経ずに、その文字作品、音楽、映画、テレビ、録画作品、ソフ トウェア及びその他の作品を複製発行したとき 51 52 53 54 55 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 3 条第 2 項 刑法第 216 条 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 10 条 立件訴追基準(二)第 72 条 刑法第 217 条 13 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ (b) 他人が専有出版権を有する図書を出版したとき (c) 録音録画作成者の許諾を経ずに、当該製作者が製作した録音録画を複製発行した とき (d) 他人の署名を冒用した美術作品を製作し、販売したとき 本罪が成立するには、営利目的が必要とされており、下記のいずれかに該当する場合 には、「営利を目的」としているものと認定される 56。 (a) 他人の作品の中に有料広告を掲載し、又は第三者の作品と抱き合わせで販売する 等の方法で直接又は間接に費用を受け取る場合 (b) インターネットを通じて他人の作品を伝達し、又は他人がアップロードした権利 侵害作品を利用し、ウェブサイド若しくはウェブページに有料広告掲載サービス を提供し、直接又は間接に費用を受け取る場合 (c) 会員制の方法でインターネットを通じて他人の作品を伝達し、会員登録料又はそ の他費用を受け取る場合 (d) その他他人の作品を利用し利益を得るその他の状況 本罪の認定基準をより明確にするため、 「違法所得金額が比較的大きい」、 「その他重い 情状」、「違法所得金額が巨大」、「その他特に重い情状」については、以下のとおりそれ ぞれ司法解釈が定められている57。 犯罪態様 違法所得金額が比較的 大きい 司法解釈 ・ 違法所得金額が 3 万元以上 その他重い情状 ・ 違法経営金額が 5 万元以上 ・ 著作権者の許諾を経ずに、その文字作品、音楽、 映画、テレビ、録画作品、コンピュータソフトウ ェア及びその他の作品を複製発行し、複製品の数 量が合計 500 枚(個)58以上の場合 ・ その他情状が重い場合 違法所得金額が巨大 ・ 違法所得金額が 15 万元以上 その他特に重い情状 ・ 違法経営金額 25 万元以上 ・ 著作権者の許諾を経ずに、その文字作品、音楽、 映画、テレビ、録画作品、コンピュータソフトウ ェア及びその他の作品を複製発行し、複製品の数 量が合計 2500 枚(個)59以上の場合 ・ その他特に情状が重い場合 56 知財刑事案件法律適用意見 第 10 条 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 5 条 58 知財刑事案件法律適用司法解釈二 第 1 条。本条により、「知財刑事案件法律適用司法解釈」第 5 条の 1000 枚(個)が 500 枚(個)に修正されている。 59 同上。本条により、「知財刑事案件法律適用司法解釈」第 5 条の 5000 枚(個)が 2500 枚(個)に修正 されている。 57 14 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 特に近年、インターネットを通じて他人の著作権を侵害する案件が頻発していること から、2011 年に「情報ネットワークを通じた著作権侵害作品を伝達する」行為の犯罪認 定について、以下のとおり明確に規定した 60。 上記行為が下記のいずれかに該当する場合、 「著作権侵害罪」に定めた「その他重い情 状」に属する。 (a) 当該行為による違法経営金額が 5 万元以上の場合 (b) 伝達した他人の作品が合計 500 件(部)以上の場合 (c) 伝達した他人の作品の実際クリック数が 5 万回以上の場合 (d) 会員制方法で他人の作品を伝達し、登録会員が 1000 人以上に達している場合 (e) 上記(a)ないし(d)の金額・数量基準に達していないが、そのうちの 2 項目以上に つき基準の半数以上に達している場合 (f) その他重い情状がある場合 また、上記(a)ないし(e)のいずれかに該当する行為を実施し、金額・数量がこれらに 定める基準の 5 倍以上に達した場合、「その他特に重い情状」と認定される。 (6) 権利侵害複製品販売罪 61 営利を目的とし、著作権侵害複製品であることを明らかに知りながらこれを販売し、 違法所得金額が巨大である場合、3 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科、又 は単科するとされている。 本罪の処罰対象となるのは、著作権侵害罪で規定された著作権侵害複製品、すなわち、 ①著作権者の許諾を経ずに、複製発行したその文字作品、音楽、映画、テレビ、録画作 品、コンピュータソフトウェア及びその他の作品、②出版した他人が専有出版権を有す る図書、③録音録画作成者の許諾を経ずに、複製発行した当該製作者が製作した録音録 画、④製作、販売した他人の署名を冒用した美術作品を販売する行為である。 なお、本罪は、違法所得金額が巨大である場合にのみ犯罪が成立し、 「巨大」の基準は 62 違法所得金額が 10 万元以上の場合である 。 (7) 営業秘密侵害罪63 刑法上、営業秘密とは、公衆に知られておらず、権利者のため経済的利益をもたらす ことができ、実用性を有し、かつ、権利者が秘密保持措置を講じた技術情報及び経営情 報をいうと定義されている64。 営業秘密は企業にとって重要な無形財産であり、営業秘密の漏洩によって営業秘密権 利者(営業秘密の所有者及び営業秘密の所有者の許諾を得た営業秘密使用者)に重大な 損害がもたらされる恐れがある。 下記営業秘密侵害行為のいずれかを行い、営業秘密権利者に重大な損害をもたらした 60 61 62 63 64 知財刑事案件法律適用意見 第 13 条 刑法第 218 条 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 6 条 刑法第 219 条 刑法第 219 条第 3 項 15 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 場合、3 年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科し、又は単独で科す。特に重大 な結果をもたらした場合には、3 年以上 7 年以下の有期懲役に処し、罰金を併科すると されている。 (a) 窃取、利益誘導、脅迫又はその他の不正な手段により権利者の営業秘密を取得す る行為 (b) (a)の手段により取得した権利者の営業秘密を開示し、使用し、又は他人が使用す るのを許可する行為 (c) 約定に違反し、又は営業秘密の保持に関する権利者の要求に違反して、自己が把 握する営業秘密を開示し、使用し、又は他人が使用するのを許可する行為 上記(a)ないし(c)に掲げる行為を明らかに知り、又は知るべきでありながら他人の営 業秘密を取得し、使用し、又は開示した場合、営業秘密の侵害として処理するとされて いる。 また、本罪の立件基準は以下の通り規定されている 65。 (a) 営業秘密権利者に 50 万元以上の損害を与えた場合 (b) 営業秘密侵害による違法所得金額が 50 万元以上の場合 (c) 営業秘密権利者の破産を引き起こした場合 (d) その他営業秘密権利者に重大な損害を与えた場合 なお、「営業秘密権利者に 250 万元以上の損害を与えた場合」は「特に重大な結果」 と認定され、3 年以上 7 年以下の有期懲役及び罰金を併科するとされている 66。 (8) 単位による知的財産に関する罪 67 単位が上記(1)ないし(7)の知的財産に関する罪を犯した場合、単位に対しては罰金を 科し、その直接に責任を負う主管者及びその他の直接責任者に対しては各犯罪の規定に 基づき処罰するものとされている。 (9) 知的財産に関する罪の罪名競合 知的財産に関する罪に該当する行為と同時に、偽造・粗悪商品生産、販売罪 68が成立 する場合、かかる知的財産に関する罪と偽造・粗悪商品生産、販売罪のうち、法定刑の 重い罪名が認定され、また、その罪の法定刑により処罰される 69。 (10) 知的財産に関する罪の共犯 65 立件訴追基準(二)第 73 条 知財刑事案件法律適用司法解釈 第 7 条第 2 項 67 刑法第 220 条 68 刑法第 140 条から第 148 条に規定した犯罪を指す。すなわち、偽造・粗悪製品生産、販売罪(第 140 条)、 偽薬品生産、販売罪(第 141 条)、不良薬品生産、販売罪(第 142 条)、安全標準に合致しない食品の生産、 販売罪(第 143 条)、有毒、有害食品の生産、販売罪(第 144 条)、標準に合致しない医療用機材の生産、 販売罪(第 145 条)、安全標準に合致しない製品の生産、販売罪(第 146 条)、偽・不良農薬、動物薬、化 学肥料、種子の生産、販売罪(第 147 条)、衛生標準に合致しない化粧品の生産、販売罪(第 148 条)を指 す。 69 知財刑事案件法律適用意見 第 16 条 66 16 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ 他人が知的財産に関する罪に該当する行為を実施していることを明らかに知りながら、 その者に権利侵害製品を生産、製造するために必要な主要原材料、補助材料、半製品、 包装材料、機械設備、標識、生産技術、配合表等を提供し、又はインターネットの接続、 サーバーの管理代行、オンライン保存スペース提供、通信ルート提供、費用徴収代行、 費用清算等のサービスを提供した者については、知的財産に関する罪の共犯と認定され る70。 3.知的財産に関する罪の現状 中国人民共和国最高人民法院が発表した 2010 年から 2014 年の「中国法院知的財産権司 法保護状況」71によると、ここ数年の各年度全国地方人民法院が新規に受理した知的財産 権に関わる第一審事件の数は以下の通りである。 分類 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 民事案件 42931 59612 87419 88583 95522 行政案件 2590 2433 2928 2886 9918 刑事案件 3992 5707 13104 9331 11088 (単位:件) 上記データが示す通り、2014 年の民事案件、行政案件、刑事案件ともに前年と比べ増加 傾向にあり、そのうちの刑事案件は 2013 年と比べ 1757 件増加し、18.83%上昇した。 また、2014 年の知的財産に関する刑事案件の内訳は以下のとおりとなっている。 刑事案件の分類 知的財産権案件 件数 登録商標冒用罪等の登録商標 を侵害する犯罪案件 4447 著作権侵害罪案件 735 5242 知的財産権侵害に関わる偽造・粗悪商品生産、販売罪案件 3966 知的財産権侵害に関わる不法経営罪案件 1697 その他知的財産権侵害に関わる案件 183 (単位:件) 上記のような推移からすると、中国において知的財産権侵害行為が多く存在することに 対する国家としての知的財産権保護重視の傾向、また、民衆の知的財産権への意識が高ま り、法的手段を通じて権利保護を図ろうとする傾向が窺えるといえる。 [応用編] 企業において、自己が保有する知的財産を保護するために、行政摘発、民事訴訟、刑事 訴訟の三つの法的手段を利用することができる。行政摘発は、短期間で処罰が得られると 70 知財刑事案件法律適用意見 第 15 条 http://www.court.gov.cn/zscq/bhcg/ 現時点では、2015 年度の「中国法院知的財産権司法保護状況」はまだ 発表されていないが、例年の発表時期からすると、2016 年の 4 月、5 月頃には発表されるものと思われる。 71 17 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ いうメリットがある一方、処罰が比較的軽いため、再犯抑制力が弱いというデメリットが ある。民事訴訟は、行政摘発より処理期間が長期化するというデメリットがある一方、損 害賠償を主張、請求することができ、和解による柔軟な解決も可能であるというメリット があることから、実務上は多く利用されている法的手段といえる。 更に、知的財産権侵害が、本文で述べた 7 種類の犯罪の刑事摘発基準を満たした場合、 刑事責任を追及することができることになる。実務上、知的財産権に関する刑事案件は、 そのほとんどが人民検察院によって公訴提起されているものであるが、関連司法解釈によ ると、権利者が、知的財産権を侵害された証拠を保有する場合、権利者が直接人民法院に 対して起訴することができるとされている(社会秩序及び国家利益を厳重に危害する知的 財産権刑事案件を除く) 72。 しかし、実際には、企業にとって知的財産に関する罪の証拠収集が極めて困難であるこ とがネックになっている。例えば、登録商標冒用商品販売罪の場合、違法経営金額が 5 万 元以上となっていること(立件基準の一つ)を証明するために必要となる、関連する発票、 帳簿等の証拠を入手することはほぼ不可能である。また、ソフトウェアの著作権侵害の罪 に関しては、技術性、隠蔽性が高く、権利侵害の判断が困難である。このような証拠収集 の困難を原因とする権利者による起訴が機能不全となっている現状を踏まえ、 「客観的な原 因により自ら取得できない証拠に対し、自訴を提起する際に関連証拠の手係りを提供し、 人民法院による証拠収集を申請すれば、人民法院が法に基づき証拠収集しなければならな い」との指導意見が発表された 73。このような司法解釈、指導意見からすると、権利者に よる知的財産に関する罪の刑事自訴を積極的に推進しようとする司法機関の意向が反映さ れていると考えられる。 知的財産に関する罪の刑事自訴制度は、法律によって知的財産権利者に与えられた権利 であり、今後の法整備の動向を見ながらこれをうまく活用できるようになれば、より効果 的な知的財産保護手段になるのではないかと考える。 (蒋丹丹・中国法顧問) 三.中国法務の現場より 1.担当者変更のお知らせ及び「爆買い」に際しての留意点 (1) 担当者変更のお知らせ 先月号で野中弁護士が述べたとおり、同弁護士は今月をもって東京オフィスに帰任し たことから、今月号より「中国法務の現場より」の北京オフィス分については、私が担 当することとなった。私は 2014 年 8 月に語学留学で北京に来て、語学留学終了後にその まま北京オフィスに駐在しており、北京での生活は約 1 年半が経過したところである。 本ニュースレターは、①最新法令を紹介する「中国最新法令」、②数回にわたって特集 記事を連載する「連載 中国企業法実務」、及び③中国法務の現場から旬なテーマを紹介 する「中国法務の現場より」の 3 部構成となっている。私は、先月まで山根弁護士とと 72 73 知財刑事案件法律適用司法解釈二 第 5 条 知財刑事案件法律適用意見 第 4 条 18 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ もに全体の編集主幹を務めていたが、上記の次第で、今月からは③「中国法務の現場よ り」に専念することとなった。全体の編集主幹の業務は、私から東京オフィス勤務の包 城偉豊弁護士に引き継いでいる。 事務所全体として、読者により興味を持ってもらうことができるニュースレターを配 信していく所存であり、今後も是非愛読して頂きたい。 (2) 「爆買い」に際しての留意点 先月号で野中弁護士も言及していたが、昨年 2 月号に掲載した「海外駐在者が一時帰 国した際の免税措置」 74は中国に駐在する日本人からの反響が大きい記事であった。 私も今月、旧正月で日本に一時帰国し、免税措置を受けて日用品等を購入して中国に 戻ってきた。免税措置を受けるための要件等については昨年 2 月号を見て頂くこととし て、今回は「爆買い」 75に際しての留意点をお伝えする。 ア 店舗ごとの手続の違い、特性に対する理解 まず、第一に、店舗ごとの特性を理解する必要がある。 ドラッグストアや路面店では会計の時点で消費税抜きの金額を支払うことが多いの に対し、デパートでは個々の売買の際には消費税込みの金額を支払った上で、免税カ ウンターにレシートを提出して、事後的に消費税分の還付を受けることになる 76。 また、家電量販店では、免税措置を 受けるとポイントカードのポイントが 付与されないことがある。つまり、消 費税込みの金額を支払えば 10%のポイ ントが付与されるのに対し、免税措置 を受ければ消費税 8%が控除された金 額で購入することができるかわりにポ イントが付与されないという仕組みで ある。日本人駐在員がいずれを得と考 えるかは、ポイントを失効させずに利 用することができるか否かによって異なると思われる。 さらに、一部の店舗では、免税カウンターが「パンク」している可能性がある点に も留意する必要がある。私が昨年の国慶節期間中に、大阪市内に所在する(免税措置 を受けられる)中国人に大人気の 5,6 階建ての店舗77で買い物をしたところ、免税を 受けられるレジが 2 台しか設置されていなかった。国慶節ということもあり、レジは 中国人客で長蛇の列である。①中国語を理解する店員が 1 名しか出勤していなかった こと、②中国人客も日本人店員も英語でのコミュニケーションが十分に取れないこと、 ③自分の番になった段階で「この商品をあと段ボール 2 箱買いたい」と言う中国人客 がいて、倉庫から当該商品がレジに届くまでレジが空かないこと等、様々な障害があ り、結局、約 2,000 円の免税措置を受けるために 1 時間以上レジに並ぶこととなった。 74 http://www.tmi.gr.jp/wp-content/uploads/2015/03/TMI-China-News-Feb-2015.pdf 厳密には中国人旅行客が日本で商品を購入する意味で用いられるが、本稿では日本人駐在員が一時帰国 の際に商品を購入することも含めることとする。 76 この際、手数料を引かれることもあり、必ずしも消費税 8%分全額が返金されるわけではない。 77 念のため、写真とこの店舗とは何ら関係がないことを申し添える。 75 19 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ もし、 「免税措置を受けようと思ったが免税レジが長蛇の列」という事態に直面した場 合、レジに並ぶことによる損失(その後の予定への影響等)と、免税措置によって受 ける経済的利益とを勘案していずれかを選択すべきであり、場合によっては消費税を 払って気持ち良くその後の行動にうつることも検討に値するのではないだろうか。 イ 空港での税関手続 次に、空港での税関手続についても留意する必要がある。 免税措置を受けて商品を購入した場合、パスポートに「購入記録票」が貼付される。 出国時の通常の流れとしては、①チェックイン/スーツケース等の預け入れ→②手荷 物検査→③税関での購入記録票と商品との照合手続→④出国審査→⑤フライト、とい う順序になる。 も っ と も 、免 税 措置 を受 け て 購 入し た 商品 が化 粧 水 そ の他 の 液体 であ る 場 合 、 「100ml 以下の容器に入れ、容量が 1 リットル以下のジッパー付き透明プラスチック 製袋に入れる」等の要件を充たさない限り、手荷物としての持込は禁止される 78。そ のため、購入した液体の商品が 100ml を超えるサイズである場合、上記のような通常 の手順では、②の段階で没収されてしまうのではないかという問題が生じる。 この場合、税関での照合手続をチェックインよりも前に行うことによって、問題を 回避することができる。具体的には、空港職員に声をかけて、免税で購入した商品に ついてチェックイン前に税関の手続を行いたい旨を伝えれば、チェックインカウンタ ーからそう遠くない位置で事前に税関での手続を済ませることができる。当該手続が 終わった後、液体の商品をスーツケースに入れて預入れ荷物とすれば、問題なく商品 を中国に持ち帰ることができる。したがって、免税措置を受けて液体の商品を購入し た場合、①税関での購入記録票と商品との照合手続→②チェックイン/スーツケース 等の預け入れ→③手荷物検査→④出国審査→⑤フライト、という順序で手続をすれば よい。 (中城由貴・弁護士) 2.「二人っ子政策」導入に伴う上海市の条例改正 79-結婚休暇・産休の変更 中国では、昨年 12 月 27 日公布、今年 1 月 1 日施行にて、 「人口と計画出産法」が改正さ れ、全国で長年実施されてきた「一人っ子政策」に変更がなされ、一組の夫婦が二人の子 供を出産することを推奨することとなった(同法第 18 条第 1 項)。 従来、 「一人っ子政策」の推進のため、晩婚 80晩育 81の場合に、結婚休暇や産休等の優遇が 認められていた(同法改正前第 25 条)。ところが、 「二人っ子政策」への変更に伴い、晩婚 晩育への優遇が削除され、同法第 25 条は、「法律、法規の規定に適合して子供を出産する 夫婦については、出産休暇やその他の福利待遇を得ることができる」と改められた。 全国各地の実情に合わせて政策を実施するため、計画出産の実施の具体的方法について は、省、自治区、直轄市が定めることとされていた(同法改正前第 18 条第 1 項)。これに より、上海市でも「上海市人口と計画出産条例」が制定され、例外的に 2 人目を出産でき 78 79 80 81 http://www.narita-airport.jp/jp/security/liquid/ http://shzw.eastday.com/eastday/shzw/G/20160225/u1ai9232297p2.html 男が満 25 歳、女が満 23 歳以上で結婚することをいう。 既婚の女子が第一子を出産する際に満 24 歳以上であることをいう。 20 Copyright © 2016TMI Associates All rights reserved TMI Associates International Legal Services http://www.tmi.gr.jp/ る場合の条件やその手続、晩婚の場合の結婚休暇や晩育の場合の産休について規定がなさ れていた。 従来、上海市では、結婚休暇につき、晩婚(男が満 25 歳、女が満 23 歳以上での初婚に 限る)の場合には 7 日間のプラスが認められていた(基本となる 3 日と合わせ、合計 10 日 間)。それが、今回の条例改正により、結婚時の年齢を問わず、また、初婚か再婚かを問わ ず、国の規定プラス 7 日間の結婚休暇として、一律 10 日間となった(同条例第 31 条第 1 項)。 また、産休につき、従来は、晩育(1 人目の子供を満 24 歳以上で出産する場合)にのみ、 30 日間の晩育休暇が追加され、国の原則(98 日)と合計で 128 日間の産休が認められてい た。これに対し、今回の条例改正により、晩育であるか否かを問わず、国の規定する産休 プラス 30 日が認められ、一律合計 128 日間の産休となった(同条例第 31 条第 2 項)82。さ らに、これまで晩育の場合、夫に認められていた出産付添い休暇 3 日間が、今回の条例改 正により、晩育か否かを問わず、一律 10 日間認められることになった(同項)。 上海市の条例の改正は、2 月 23 日公布、3 月 1 日施行であるが、政府の記者会見によれ ば、経過措置として、1 月 1 日から 2 月 29 日までの間に結婚登記や出産がなされた場合に は、改正後の条例を準用して、各休暇の追加取得ができるという説明がなされている 83。 ところで、 「一人っ子政策」が廃止されて、計画出産の規制がすべてなくなったのかとい うとそうではない。二人までは許されるが、三人以上になると、依然として制限がなされ ており、違反については、従来の「一人っ子政策」の時と同様、社会扶養費(いわゆる罰 金)84の徴収対象となる。それゆえ「二人っ子政策」と俗称されるものである。 「一人っ子政策」は晩婚晩育への優遇という「アメ」と、違反した場合の社会扶養費と いう「ムチ」の併用にて実施されていたが、今回「二人っ子政策」となり、 「アメ」は目立 たなくなったものの、「ムチ」の方はまだ残っているといえるので、注意が必要である。 (弁護士・山根基宏) TMI 中国最新法令情報―2016 年 2 月号― 発 行:TMI 総合法律事務所 監 修:何連明・外国法事務弁護士 編集主幹:山根基宏、包城偉豊・弁護士 発 行 日:2016 年 2 月 29 日 82 ただし、「法律法規の規定に従い出産した夫婦は」という条件が付いているため、改正後の条例に違反 して 3 人目を出産するような場合には、プラスの部分の産休は享受できないと考えられる。 83 http://www.shanghai.gov.cn/nw2/nw2314/nw2319/nw12344/u26aw46607.html 84 これも、各地方政府により、具体的な基準が定められている。「上海市社会扶養費徴収管理若干規定」 (沪府发〔2002〕30 号)によれば、計画出産違反の 2 人目の出産には世帯年収の 3 倍、3 人目以上の場合に は世帯年収の 6 倍という基準になっている(現在のところまだ改正されたとの情報はない)。 21 Copyright © 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