フランス最新法令情報 - TMI総合法律事務所

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フランス最新法令情報
(発行日:2013 年 5 月)
・雇用の安定化に関する法案の可決
TMI 総合法律事務所
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フレンチデスク
雇用の安定化に関する法案の可決
5 月 14 日、雇用の安定化に関する法案(projet de loi relatif à la sécurisation de
l’emploi)がフランス国会により可決された。本法案は、今年 1 月 11 日に締結され
た全国労使間協定の内容をもとに法案化したもので、フランスの労働市場における
様々な課題(不安定雇用用対策、経済の変動への対応、雇用の救済のための集団的
解決、集団的解雇の手続きの整備)に応えるものとして労働法典の規定を広く改正
する内容となっている。本法案は、雇用の維持、雇用創出、非正規雇用の削減など
の従業員の権利の保護強化を実現すると同時に、企業に対しては特に集団的解雇の
手続きを整備することにより経済的な不確実性にもフレキシブルに対応できるよう
にし、結果として企業と労働者の双方により高い法的安定性をもたらたすことを目
指したものである。また、これらの目的の実現のために、従業員代表機関を通じた
労使の協議を強化する制度も盛り込まれている。なお、本法律は、憲法院の違憲審
査に付託されており、合憲と判断されれば公布されることになる。
本法律による労働法の主な改正点は以下のとおりである。
【雇用に関する従業員の個別の権利及び従業員代表機関の情報入手の権限の強化】
・ 補足的健康保険の加入の原則的な義務付け。2016 年 1 月 1 日までに、補足的健
康保険の加入が全企業に原則として義務付けられる。その場合に、保険料の少な
くとも半額が企業負担となる。
・ 各労働者に個別の研修記録が設置され、失業中や転職の場合も維持される。
・ 現職への再雇用の保証を伴う転職。従業員数 300 名以上の企業において勤続年数
が2年以上であることを条件として、従業員が希望する場合に、現在の雇用主と
の合意に基づき、現在の職への再雇用の保証付き(労働契約の中断)で他の企業
への転職が可能となる。従業員の要望に対し、雇用主が二度反対した場合、従業
員は研修休暇(congé individuel de formation)を取得する正当な権利を得る。
・ 従業員代表機関の情報提供を強化する措置の導入。企業委員会は、毎年企業の戦
略的方針及びその影響について諮問を受ける。企業委員会は、当該戦略的方針に
ついて意見を述べ、代替案を提示することができる。企業委員会の意見は経営機
関に提出され、当該機関は理由付きの回答を行わなければならない。また、この
ため企業の戦略的方針に関し企業委員会、及び従業員代表機関が常に閲覧できる
データベースを設置する。データベースには、非正規雇用やパートタイム雇用の
動向、職業訓練、労働条件などの労務関連や一定の財務状況、従業員と経営陣の
報酬に関する事項、助成金や税額控除などのキャッシュフローに関する情報など
が含まれる。開示を受ける従業員代表機関のメンバーは、機密情報につき守秘義
務を負う。
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・ フランスに本店を有する大企業(フランス国内のグループ企業の従業員数が合計
5 千人を超える場合及びフランス国内外のグループ企業の従業員数が合計 1 万人
を超える場合)、定款に、取締役会において、従業員又は従業員代表者が選出し
た従業員代表取締役を、取締役の人数が 12 人以下の場合最低1名、又はそれを
超える場合は最低2名を選任するとの規定を置かなければならない。従業員代表
取締役の選任に関する定款の変更に当たっては企業委員会の事前の諮問を必要
とする。なお、選任される取締役が 1 名の場合、性別の異なる取締役候補者と代
理候補者を選ばなければならない。
【不安定な雇用への対策】
・ 再失業の場合でも過去の未消化分の失業保険の権利が維持される。
・ 失業保険に関する集団協定により、労働契約の性質、期間、目的、従業員の年齢、
企業の規模などの基準にしたがい、失業保険の企業負担率が増減される。
・ パートタイム雇用の従業員は、原則として週の労働時間を最低 24 時間とし、超
過の就労時間については報酬が 10%増額される。
【企業の経済的な変動への対策、経済的事由による解雇の手続きの整備】
・ 企業内異動(mobilité interne)に関する集団協定の締結が可能となる。雇用主は、
解雇を伴わない措置として、集団協定に基づき一定の地理的範囲における異動を
従業員に義務付けることができる。ただし、異動の命令に当たっては、従業員の
私生活・家庭生活を尊重しなければならず、報酬及び職階のレベルを下げてはな
らない。拒否した従業員は、経済的事由に基づく解雇の対象となり得る。
・ 雇用維持に関する集団協定(accords de maintien de l’emploi)についての新たな
制度の導入。企業が深刻な経営不振に陥っている場合、雇用主は、集団協定に基
づき、最長で2年間につき、従業員の賃金及び労働時間を調整することができる。
当該期間中は、経済的事由により従業員を解雇できない。ただし、賃金が最低賃
金の 1.2 倍に満たない場合には減額できない。拒否した従業員は、経済的事由に
基づく解雇の対象となり得る。雇用主が雇用維持義務に違反した場合には、従業
員により、集団協定に定められている違約金の請求が可能となる。
・ 従業員 50 人以上の企業を対象に、経済的事由に基づく解雇の場合に、①雇用保
護プラン(plan de sauvegarde de l’emploi)の内容及び形式について集団協定に
定め且つ当該集団協定につき行政当局の承認を得るか、又は②雇用主が作成した
雇用保護プランについて企業委員会の諮問に付し且つ当該プランについて行政
当局による承認が必要となる。
【その他の改正】
・ 労働法典に別段の定めがある場合を除き、労働契約の履行及び解消に関する訴え
の期間が原則として 2 年に短縮される(従前は原則 5 年)。賃金に関する請求に
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ついては3年に短縮される。
・ 労働裁判所において、雇用主は、解雇の手続き及び解雇理由(不当解雇)にかか
る紛争解決の手段として、勤続年数に応じた計算表にしたがった補償金の支払を
提案できる(従業員はこれを拒否できる)。解雇補償金や差別、ハラスメント等
の紛争には適用されない。
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の法的アドバイスを提供するものではありませんので、TMI 総合法律事務所として
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す。
TMI 総合法律事務所フレンチデスク
ル ドゥサール・デヴィ
(Davy LE DOUSSAL)
パリ弁護士会所属弁護士
東京弁護士会登録外国法事務弁護士
[email protected]
電話: 03-6438-5428
Fax: 03-6438-5522
千田 多美
パリ弁護士会所属弁護士
[email protected]
電話: 03-6438-5411
Fax: 03-6438-5522
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