第3学年 保健体育科(女子)学習指導案

第3学年 保健体育科(女子)学習指導案
授業者 松山 祥子
1 単元名
体育理論(国際的なスポーツ大会などが果たす文化的な意義や役割)
2 育成したい「たくましさ」と「しなやかさ」
まず、体育分野における「たくましさ」とは、さまざまな運動を行うことによって身につく、基本的な技
能や、その技能を身につけるために、自分自身が克服しなければならない壁を乗り越えようとする力で、ど
の種目に対しても、前向きに取り組もうとする態度。
「しなやかさ」とは、運動の特性について知り、さらに
はその魅力や楽しさついても気づこうとする意欲や、できない自分からできる自分になるために、どのよう
に運動を実践すればいいのかを学ぶ姿勢、
そして、
友だちと活動するときの柔軟な対応力など、
「立ち止まり、
よりよい方法を考える」選択できる力とし、この二つを育成したいと考えた。
保健分野における「たくましさ」とは、自分自身の心身の状況を知り、そこから見えてくる課題を受け止
める力。また、友だちと比較をすることによって気づかされる自分自身の課題にしっかりと向き合える力で
ある。そして、自分の課題を解決するためには、なにをどのようにすれば改善できるのかという、工夫がで
きるということが、
「しなやかさ」であると考える。つまり「たくましさ」と「しなやかさ」は、互いに関係
し合い、相互が絡み合って育っていくものであるし、そのように、振り返らせたり、生徒自身に自分から気
づける場面を意図的に作っていかなければ身について行かないものであると考える。
学習指導要領が改訂され、体育理論の学習は、教室で行う時間が決められた。これまでは、グラウンドや
体育館で実技の授業の中で行えばよいものだったが、今年度から決まった時間数、教室で行うことを重視し
た意味は、生涯にわたってスポーツを実施していこうとする態度を育成するということだろう。そこから考
えると、
『体育で学んでおくべき体育用語を習得すること・なぜできたのか、できないのかを科学的に理解す
ること・できるからわかるではなく、できなくてもわかること』など、運動やスポーツを知的なレベルでと
らえることを「たくましさ」
。運動やスポーツの仕方、あるいは運動やスポーツの原理や法則、そして、それ
らの社会的な意味や文化的な意義が理解できることを「しなやかさ」とし、一生を健康に生活していこうと
する土台を築かせるのが求められるものであると考える。
3 授業構成
(1)教師と教材
新学習指導要領では、体育的学力をしっかりと身につけさせるために①技能②態度③知識、思考・判断
の3つの枠組みに沿って、学習内容が子供たちの発達の段階に応じて明確に示された。そして、このよう
な学習内容をしっかりと身につけるベースとして「わかること」が重視されたのだ。つまり、これからの
体育は実技と知識の相互の関連が求められるのだと考えた。
今年の夏、ロンドンオリンピックが開催され記憶に新しい。様々な競技がテレビ中継され、真夜中にも
かかわらずライブで楽しんだ生徒も少なくない。しかし、その華やかに見えるオリンピックだが、ここま
でメジャーになるまでには、その裏側にどのような事情があり、その事情によって、どのような人間模様
があったのか、私たちは、そこから何を学ぶべきなのかを伝えたいと考えた。オリンピックの歴史は長い
が、歴史を振り返ると『戦争』に翻弄された過去がある。
『戦争と平和』は人類にとって永遠のテーマであ
るが、それにスポーツが受けた影響を伝えながら、本当の意味での人間として大切なことを学ばせたい。
(2)子どもと教師
学年全体の雰囲気がよく、活動的で何事にも前向きに取り組める。特に、本学級の生徒(C 組女子20
名、D 組女子20名)はあいさつの声が大きく、どの単元においても積極的で、個々に課題を持って取り
組むことができるなど、意欲的に活動する生徒が非常に多い。そして、活動するときと話を聞くときのけ
じめもあり、場をわきまえて発言できる集団である。
これまでの学習の中で、意識を持たせて取り組んできたことは、即興のペアを組ませ活動させるという
ことと、球技の授業を行う際に、生徒たちに班を決めさせるということである。そうすることで、お互い
の違いに気づき、得意な者は、相手の能力に合わせて自分の行動を考えることができるようになってきた
し、苦手な者は良い見本を身近にして、できるようになるコツを学ぼうとする姿勢がみえるようになって
きた。つまり、仲が良いというだけでは、自分たちが成長していける集団にはならないということにも気
づくことができてきた。また、生徒と生徒だけではなく、指導者が求めているもの、意図していることは
何なのだろうかと、推測する力も見えるようになってきた。
そのような学びを積み重ね、この単元では、
「人生で大切なことは何か」
「そのために必要な行動はどの
ようなものか」をオリンピックが持つ教育的価値から考えさせたい。
(3)子どもと教材
これまでの体育理論の学習は、教室で時間をとってすることは少なく、活動場面において、運動の技能
的な解説をする場合に教師側主導で話をしたり、保健分野の授業の時に、少し取り上げて行う程度であっ
た。しかし、今年度より新学習指導要領が完全実施となり、時間数も明確にされた。そのことを受け、本
年度、これまでに行った体育理論の学習は、
「運動やスポーツの多様性」
「運動やスポーツの意義や効果」
を、まずは運動会の集団演技で行った「ソーラン」を振り返らせるなど、実際の活動の中から、ポイント
を絞って学習した。そして、今年の夏、ロンドンオリンピックが開催されたことから、まだ記憶に新しい
国際大会が、タイムリーな教材だと考えた。これまでも、世界レベルの競技会は個々に開催され、テレビ
中継でも目にすることは多いが、こんなにも多くの競技が一堂に会して開催される大会はオリンピックだ
けである。なおかつ、オリンピックの歴史は多くのテーマを人類に投げかけ、開催されるたびに私たちに
さまざまなメッセージで問いかける。また、附中では、バルセロナオリンピックに出場した山下選手の知
名度は高く、オリンピックを身近に感じられている現実もある。そのため、オリンピックをテーマに「人
生で大切なことは何か」
「そのために必要な行動はどのようなものなのか」を子どもたちに考えさせること
には意味があると思う。
4 単元の目標
・現代社会におけるスポーツは、生きがいのある豊かな人生を送るために必要な健やかな心身、豊かな交
流や伸びやかな自己開発の機会を提供する重要な文化的意義を持っていることを理解できるようにす
る。
・国内外には、スポーツの文化的意義を具体的に示した憲章やスポーツの振興に関する計画などがあるこ
とにも触れるようにする。
・オリンピック競技大会や国際的なスポーツ大会などは、世界の人々にスポーツの持つ教育的な意義や倫
理的な価値を伝えたり、人々の相互理解を深めたりすることで、国際親善や世界平和に大きな役割を果
たしていることを理解できるようにする。
・メディアの発達によって、スポーツの魅力が世界中に広がり、オリンピック競技大会や国際的なスポー
ツ大会の国際親善や世界平和などに果たす役割が一層大きくなっていることについても触れるようにす
る。
・スポーツには民族や国、人種や性、障害の有無、年齢や地域、風土といった違いを超えて人々を結びつ
ける文化的働きがあることを理解できるようにする。
・
「スポーツ」ということば自体が、国、地域や言語の違いを超えて世界中に広まっていること、年齢や性、
障害などの違いを超えて交流するスポーツ大会が行われるようになっていることにも触れるようにする。
5 学習計画(全5時間)
第1次 1.2年の学習の振り返り(1時間)
第2次 現代生活におけるスポーツの文化的意義(1時間)
第3次 国際的なスポーツ大会などが果たす文化的な意義や役割(1/2時間)本時
第4次 人々を結びつけるスポーツの文化的働き(1時間)
6 本時の学習について
(1)本時目標
・オリンピック競技大会を学習することで、この大会が単に国際親善のみにとどまらず、人間の尊厳や
世界平和などに果たす役割を知るとともに、この大会を角度を変えて見ることの意味を考えさせる。
(2)期待される生徒の様相
A・・・国際的なスポーツ大会などが果たす文化的な意義や役割について理解し、意見を交換したり
するなど、積極的に取り組もうとしている。
B・・・国際的なスポーツ大会などが果たす文化的な意義や役割について理解し、情報を集め、まと
めることができる。
C・・・国際的なスポーツ大会などが果たす文化的な意義や役割について理解することができる。
(3)準備
ワークシート・教科書
(4)本時の展開
(教師の意図○
全体への支援◇
個への支援◆)
学習活動
教師の支援・意図
1 前時を振り返る。
・スポーツをする目的を3つのキーワードに分け ○スポーツの意義について思い出させる。
(ワークシー
て考えたことを思い出す。
ト)
【3つのキーワード】
「人間関係」
・・・楽しむ、仲良くなる、協調性、思いやり、信頼、交友関係を広げるなど。
「心身の健康」
・・・健康維持、鍛える、ストレス発散、楽しむ、運動能力の向上、代謝を上げる、ダイエ
ットなど。
「自分を伸ばす」
・・・忍耐力、精神力、感性を豊かにする、自己能力の開発、思考力、問題解決能力、勝
つ喜びなど。
2 知っている国際大会を書く。
◇テレビ中継から思い出させる。
オリンピック、パラリンピック、世界陸上、サッカーワールドカップ、WBC、フィギュアスケート、テニ
スグランドスラム、など
3 スポーツや国際大会の良さ、魅力を考える。
・付箋に書かせてワークシートに貼らせる。
◇3つのキーワードも参考に考えさせる。
○◆教育的な意義(努力、達成感)
、倫理的な価値(道
徳的、精神的)
、人々の相互理解(友情、団結)など
の言葉が出るように机間巡視をする。
4 スポーツの良さを3つに分類して、タイトルをつ
ける。
(グループワーク)
〈教育的な意義〉
・努力すること
・協力すること
・信頼関係を築くこと
・鍛えられること
など
〈倫理的な価値〉
・フェアプレーの精神
・一生懸命すること
・ルールを尊重すること
・ノーサイドの精神
など
〈人間の相互理解〉
・団結すること
・国を超えて友好すること
・仲間と交流すること
など
○スポーツのルールは宗教や人種の違いにかかわら
ず、共通であることの意味を理解させる。
5 オリンピック憲章、スポーツ基本法から学ぶ。
○公平かつ平等であることの尊さについて触れる。
○スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが保
証されたことを考えさせる。
国際的なスポーツは、人々に夢と感動を与える。その情報は、どんどんマスコミを通じて私たちに素早く
届く。しかし、その華やかさにばかり目を奪われず、生活習慣や人種の差を互いに尊重し、人間としての
権利を守るためにも、このような大会があることを理解する。
6 メディアはどのような立場で何を伝えるべきなの ※2007年サッカー女子ワールドカップのなでしこ
かにも触れる。
の姿から、本来のスポーツの精神を考えさせる。
・スポーツや国際大会の果たす役割とは何だろうか。 ○さまざまな情報がマスコミやインターネットから得
られる今、どのような受け取り方をするかや、国際
大会を違った方向から見ることで、スポーツへの関
わり方が広がることを考えさせる。
(5)参考文献
楽しい体育理論の授業をつくろう(大修館書店)