図5投与容器使用後の洗浄・消毒

結果2:経管栄養剤投与容器の洗浄・消毒について
第38回日本看護研究学会学術集会 2012.7.7 那覇
経管栄養に関連したノンクリティカル器材の衛生管理についての実態調査
三善 郁代、○篠田 かおる、高橋 知子、土井 まつ子
愛知医科大学 看護学部
背景
経管栄養法は重要な栄養補給方法の1つであり、中心静脈栄養法より
優先的に選択される。経管栄養法では消化管を経由して栄養補給が行
われるため、腸の萎縮が防がれ、生体防御機能が維持でき、厳密な無
菌操作が必要な中心静脈栄養法より安全性が高く、現在、病院・施設を
はじめ在宅においても幅広く普及している。
しかし、投与や調製に用いる器材の不十分な洗浄や消毒が原因で、
残存する微生物が経管栄養剤中で増殖するケースが報告されており1、
2)、患者に下痢5)や敗血症3、4)を引き起こすケースもすでに報告されてい
る4)。
故に、経管栄養剤の器具の衛生管理方法は、安全な栄養法を行う上
で、重要と考えられる。また、中小規模の医療施設では、昨今の厳しい
医療事情の中、多大な労力をかけて感染対策が行われており、経管栄
養法に使用される物品は基本的にはディスポーザブル製品であるが、
経済的な理由により多くの病院で繰り返し使用されている現状がある。
これらの製品の消毒方法として、一般的に0.01%次亜塩素酸ナトリウム
よる浸漬が推奨されている5、6、7)。しかし、このような繰り返し使用の場
合の衛生管理の実態についての現状報告はない。
そこで今回、中小規模の病院を対象に、経管栄養剤投与容器および
投与ライン、留置チューブなど、器具の衛生管理の実態を明らかにする
目的で質問紙による調査を行った結果を報告する。
経管栄養剤容器の洗浄・
消毒では、洗浄と消毒が最
も多く、次いで洗浄のみ、破
棄している、であった 。(図5)
消毒方法は浸漬法が38病
棟であり、そのうち次亜塩素
酸ナトリウム液を用いていた
病棟は97.4%であった 。
洗浄のみを実施している
場合、86.7%が乾燥を行なっ
ていた。
乾燥の方法は、自然乾燥
が半数以上であった。
(図6・7)
図5 投与容器使用後の洗浄・消毒
1.5%
10.6%
洗浄と消毒
洗浄のみ
18.2%
47.0%
その他
破棄している
無回答
22.7%
n=66
図6 投与容器の乾燥の有無
図7 投与容器の乾燥方法
6.7%
7.7%
6.7%
23.1%
行っている
自然乾燥
行っていない
食器乾燥機を使
用
その他
無回答
69.2%
86.7%
n=13
n=15
結果3:消毒薬の使用状況について
消毒を行っている場合、次亜塩素酸ナトリウム液の使用濃度
は0.01%~13%とばらつきがあり、また浸漬時間についても「5
分」から「4~5時間」・「次回使用するまで」とばらつきがあった 。
(図8・9)
図9 次亜塩素ナトリウム液への浸漬時間
図7
図8 使用する次亜塩素酸ナトリウム液の濃度
図6
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
8
7
6
5
4
3
2
0.016%(1件)
0.05%(6件)
0.2%(1件)
1%(1件)
13%(1件)
無回答(2件)
0.01%(6件)
0.0125%(4件)
0.02%(2件)
0.05%(2件)
0.1%(1件)
6%(1件)
無回答(1件)
無回答(1件)
1.1%(1件)
0.02%(1件)
1
研究方法
0
0.02%(1件)
研究目的 : 中小規模の病院における経管栄養剤投与容器お
よび投与ライン、患者側の留置チューブの衛生管理の実態を明
らかにし、感染予防教育の基礎資料とする。
1.研究対象
独立行政法人福祉医療機構WAM NETから、東海3県の
500床以下の病床を有する病院を抽出し、同意が得られた病
院の感染管理リンクナースなど感染管理の担当看護師もしく
は主任看護師を回答者とした。経管栄養法を行っている病棟
が複数の場合、内科系と外科系、または一般病棟と療養病
棟などの2病棟に依頼した。
図1 回答者の所属病院の病床数
9%
100床以下
14%
35%
101~200床
201~300床
12%
30%
n=66
3%
40.9%
22.7%
24.2%
n=66
バッグ型(RTH:ReadyTo-Hang)製剤のシン
グルユースとイリゲータ
などボトル型を併用
バッグ型(RTH:ReadyTo-Hang)製剤をシン
グルユースしている。
バック型(RTH:ReadyTo-Hang)製剤の容器
を再利用している。
図11 患者数別にみた投与ラインの洗浄・消毒
10人以上
洗浄のみ
洗浄のみ
13.7%
洗浄と消毒
その他
n=66
破棄している
10人未満
その他
0%
20%
40%
60%
80%
投与容器の交換頻度は、毎日
が最も多かったが、定期的な交換
期間を定めず、容器に汚染や破
損があった場合に交換すると回答
した病棟もあった。また、容器を患
者個人専用とし入院期間中は交
換しないという病棟もあった。
(図12)
投与ラインの交換頻度は1週間
に1回の交換が最も多く,次いで1
か月に1回の交換であった 。
(図13)
図14 患者側留置チューブの酢水の充填
10.6%
はい
45.5%
20床以下
15%
20~29床
49%
100%
p<0.05
結果5:投与ラインおよび容器の交換頻度について
3%
43.9%
30~39床
図12 経管栄養投与ラインの交換頻度
毎日
0%
1.5%
0%
3%
1回/3~4日
9.1%
1回/1週間
30.3%
1回/2週間
9.1%
1回/1か月
9.1%
1回/2か月
1.5%
いいえ
その他
1回/5~6か月
入院期間中、交換はしない
汚染・破損があった場合に交換する
36.4%
n=66
不明
図13 経管栄養投与容器の交換頻度
毎日
10.6%
1回/3~4日
27.3%
1回/1週間
12.1%
1回/2週間
1回/1か月
9.1%
1回/2か月
3.0%
1.5%
1.5%
入院期間中、交換はしない
18.2%
9.1%
7.6%
1回/5~6か月
汚染・破損があった場合に交換する
n=66
不明
結果6:患者側留置チューブについて
患者側の留置チューブは、経管栄養
終了後、酢水で満たしているが45.5%で
あった。(図14)
n=66
40~49床
30%
50床以上
n=66
図3 病棟での経管栄養使用患者数
1%
9%
4人以下
32%
11%
5~9人
10~19人
20~29人
18%
無回答
n=66
図4 経管栄養製剤の投与方法
7.6%
洗浄と消毒
12.1%
図2 回答者の所属病棟の病床数
29%
4.6%
図10 経管栄養投与ラインの
洗浄・消毒
301~400床
401~500床
n=37
n=37
* オレンジ枠吹き出し内は、次亜塩素酸ナトリウム液の使用濃度と回答件数
24.2%
30人以上
イリゲータなどボトル
型の投与容器を使用し
ている。
0.01%(1件)
ラインの洗浄・消毒は、洗浄と消毒が最も多く、次いで洗浄の
み、破棄している、であった。消毒方法は浸漬法が40病棟あり、
そのうち次亜塩素酸ナトリウム液を用いていた病棟は97.4%で
あった。(図10) 1病棟あたりの患者数で比較すると、10名以上
の患者がいる群に「洗浄のみ」が多く(p<0.05)、10名未満の群
に「破棄している」が含まれた。(図11)
破棄している
3.研究方法 :静脈経管栄養ガイドライン、医療機関における院
内感染対策マニュアル作成のための手引(ver.5.0)を参照し、
自記式質問紙を作成した。 同意が得られた病院の看護部長
に、本研究の依頼書と質問紙の該当回答者への配布を依頼
した。質問紙は、病院および個人が特定できないよう無記名
による回答とし、回答者本人から投函してもらい、返信を持っ
て本研究に同意、承諾したこととした。なお、本研究は、愛知
医科大学看護学部倫理委員会の承認を得て実施した。得ら
2
れたデータは、SPSSでχ 検定をおこなった。
抽出された対象390病院中、52病院
から同意が得られ(回収率13.3%)、
回答数は計66病棟(有効回答率
100%)であった。
回答者の所属病院の病床数は、
100床以下の病院が最も多く、所属病
棟の病床数は50床以上の病棟が最
も多かった。(図1・2)
回答者の所属病棟での経管栄養使
用患者数は、4人以下の病棟が最も
多かった。(図3)
無回答(1件)
結果4:経管栄養投与ラインの洗浄・消毒について
50.0%
2.研究期間 : 2011年8月から9月
結果1:対象病院の基本属性と
経管栄養剤の使用状況
n=37
0.1%(1件)
2%(1件)
使用している経管栄養剤の
投与方法は、イリゲータなどボ
トル型容器の使用が最も多く、
次いでボトル型とバッグ型
(RTH:Ready-To-Hang)製剤の
併用、RTH製剤の単回使用、
RTH容器の再利用であった。
(図4)
考察
経管栄養の容器、投与ラインは、繰り返し使用されている現状が
明らかになった。消毒薬は次亜塩素酸ナトリウムの使用が主流で
あったが、使用濃度、浸漬時間はさまざまであった。病院では複
数の患者の物品を一緒に洗浄・消毒せざるを得ないこと、容器や
ラインの形状から確実な除菌や乾燥が困難なことで、交差感染の
危険が増加すると考える。また、経管栄養患者が多いと単回使用
が少ない傾向にあり、現状の方法の安全性を確認していくことや、
適正かつ効果的な洗浄・消毒を行うことが必要であると考える。
本研究は、平成23年度財団法人愛恵会教育研究奨励金および科
研費(20390578)の補助により行った。
【文献】
1)M.F.C Navajas, DJ Chacon et al.: Bacterial contamimation of enteral feeds as a possible risk of nosocomial fection, J. Hosp. lnfect. , 21, 111-120(1992).
2)佐和章弘,山嵜紘道ほか:経腸栄養剤の微生物汚染とその対策,日本感染環境誌,12,99-102(1997).
3)J.Thurn, K.Crossley et al.: Enteral hyperalimentation as a source of noscocomial infection, J. Hosp. lnfect.15,203-217(1990).
4)福永剛隆,大隅利忠ほか:経腸栄養剤細菌汚染と下痢,静脈経腸栄養,14,106-109(1990).
5)神谷晃,尾家重治:“改訂版消毒剤の選び方と使用上の留意点”,薬業時報社,東京,1998,121-122.
6)日本静脈経腸栄養学会:コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン,南江堂,東京,2001,31.
7)朝倉佳代子,野村美恵子ほか:経腸栄養ボトルおよび経腸栄養剤の細菌汚染に関しての検討―効果的な器具の洗浄方法について―,輸液栄養.19,157-159(1997)