2013 年 1 月 17 日ロイヤリング講義 講師:弁護士 吉岡 康博 先生 「消費者被害の実態とその救済」 はじめに みなさんこんにちは。弁護士の吉岡です。今日は消費者トラブルについて話をします。 項目は四つです。一つ目はクーリングオフについての話です。二つ目はクレジットカード に関する話です。三つ目は最近問題になっている劇場型投資詐欺に関する話です。四つ目 は時間があれば過失相殺に関し、日ごろ私が思っていることを話したいと思います。 第 1 クーリングオフに関する話 クーリングオフの具体的な話ですが、どんな法律でどのように規定されているかは勉強 されたことはないのではないかなと思います。特定商取引に関する法律という法律です。 こんな機会でないと見る機会はないと思うので、六法を見てみましょう。 目次を見ましょう。6 つの取引類型について規定しています。元々この法律は,訪問販売 などを規制していて,最初は 2 つの取引類型しかありませんでした。ですが平成に入って 悪質業者による被害が増えたことにより、電話販売やエステなどの特定継続的役務提供に ついても類型が拡大され、規定が増えました。何が言いたいかといいますと、この法律は 世の中に新たな悪質商法が出てくるたびに規制のための規定が増えていっているというこ とです。 今日は訪問販売を例に話をしたいと思います。ちなみに,アポイントセールスやキャッ チセールスは知っていますか?これらの商法は業者の店舗に連れて行って契約をさせるも のですが、特定商取引法上、キャッチセールスも訪問販売に含まれています。 今回はクーリングオフに関して事例を考えてみたいと思います。 まず、みなさんが実家を離れて下宿しているとして、ある日実家に業者が突然やって来 て、みなさんのおばあちゃんが 100 万円の健康食品の購入契約と信販会社との分割払い契 約を結んでしまいました。それが後日発覚して、家族からみなさんに電話が掛かってきた, あんた法学部生だから何とかしてくれ,と言われた場合を考えてみましょう。 あるいは、皆さんがキャッチセールスにつかまって高額の化粧品を買ってしまったとい うケースでもいいと思います。 クーリングオフと言うのは一定の条件を満たせば、無条件で契約を解除できます。8 日間 以内に行使しなければいけないということは知っている人もいるかと思いますが、それで は、いつから 8 日間でしょうか?契約をしてから?実際は,特定商取引法で規定する交付 書面、ここでは契約書類と考えてもらっていいと思いますが、それを受け取ってから 8 日 間ということになります。初日参入されますので、8日の中には契約当日も含まれます。 契約書類については、だいたいこんなものだというイメージを持てるように資料につけて います。訪問販売ではクレジット契約を結ぶことが多いです。そうした場合、資料 3 のよ うな契約書を普通作ることになります。 クーリングオフはどうやってすればいいかと言うと、書面で行うことになります。書面 にどういうことを書けばいいのかと言いますと、資料 1 を見てください。資料 1 は、私が 昔に代理人として行ったときの書面です。「こういう契約をしましたが解除します」という 言葉が入っていればいいです。クーリングオフの書面は内容証明郵便で出して下さい。普 通の郵便では相手が受け取ったかどうか、こちらがどんな書面で出したかを証明できませ んので。ちなみに、内容証明郵便について説明しますと、同じ内容の文書を 3 通作り、1 通 を郵便局が保管し、もう 1 通を控えとして差出人が保管し、もう 1 通を相手に送るもので す。内容証明郵便で送れば、相手が送られてきたことや,手紙の内容を否定しても、差出 人の方で証明することができます。資料 1 には郵便物配達証明書がありますが、これで配 達を証明することになります。手紙の分量にもよりますが、1 通 2000 円かからないくらい なので、いざというときに使えるよう、覚えておいてください。 そして、もう一つ大事なのがクーリングオフの効果発生時期です。民法 97 条は到達主義 を定めていますので、本来であれば、意思表示すなわち手紙が相手に到達しないといけま せん。ですが、特定商取引法ではクーリングオフに関して発信主義がとられているので、 郵便を出したときに効果が生じます。 では、最初の事例に戻ります。みなさんの実家から相談の電話が来たときが最終日の夜 11 時だったというとき、もう近くの郵便局が閉まっている、というときはどうすればいい でしょうか。このようなときは、コンビニの宅急便を利用すれば大丈夫です。このとき、 内容証明郵便のように証明できないじゃないかと思いますが、最低限、届いたかどうかは 証明できます。どういう内容かどうかは証明できませんが、契約直後に書面を送るという ことはクーリングオフということが推測されますので、それだけで裁判で負けることはな いでしょう。 では,みなさんが気づいたのが契約締結から 2 週間以上過ぎていた場合はどうでしょう か。あきらめざるを得ないのでしょうか。いや、まだ手があります。まずは実家から契約 書を送ってもらって、穴があくまで見てほしいんです。特定商取引法上、契約書類には記 載しなければならない事項が細かく規定されています。しかし、悪質業者はそのような知 識があまりなく、契約を早く済ませないといけないという意識もあって、それを書き落と している場合が多いです。その場合、特定商取引法に定められた契約書面が交付されてい ないのだから、クーリングオフの起算点が進行していないということになります。その結 果、契約日から 8 日間経過してもクーリングオフをすることができることもあるのです。 契約書は資料 4 のようなものです。続いて資料の 2 をご覧ください。これが法定の記載事 項です。例えば、契約の当事者に関する事項。資料 4 を見ると、販売担当者の氏名が書か れていません。他にも契約の履行に関する事項。資料 4 を見ると、商品の引き渡し時期も 書かれていません。他にもあります。こうした契約書は法律の要件を満たしていませんの で、このような契約書を交付してもクーリングオフの起算点にはなりません。以外と悪質 商法のケースはこうした場合も多いです。 業者もクーリングオフに従わないと罰せられますのでおとなしく従うはずです。ですの で、みなさんのおばあちゃんの事例でも、みなさんがおばあちゃんに代わって内容証明郵 便でクーリングオフの書面を出せばいいんです。なお、特定商取引上、原状回復義務は相 手にありますので、健康食品は業者に着払いで返せばおしまいです。これで、めでたしめ でたし、ということで、1 番は終わりです。 第 2 クレジットカードに関する話 ここで問題にしたい事例は、例えばキャッチセールスに引っかかってクレジットカード で決済しちゃいましたという場合ですね。もう一つは海外旅行に行って商品をクレジット カードで買ってきましたが、偽物でした。さぁどうしましょうという話です。 まずはクレジットカードの仕組みについて簡単にお話します。まず簡単なのが三者関係 と言うものです。消費者、業者、クレジット会社との関係です。例えば、テレビを買うと 販売業者と消費者との間に売買契約が成立し、販売業者は消費者にテレビを渡します。消 費者とクレジット会社との間には会員契約があり、販売業者はクレジット会社との間で加 盟店契約というのを結んでいます。テレビの販売後、販売業者がクレジット会社にクレジ ットの控えを送ると、後日、クレジット会社から業者へお金が支払われます。これが立替 払いです。その後、クレジット会社から消費者に対して請求が来て、テレビ代金相当額を 支払うというものです。 立替払いがされて、その後クレジットの請求が消費者に来て、消費者は分割なり一括で 支払う、クレジットカード会社は、手数料を業者から 2~3%とります。これが分かりやす い三者関係というパターンです。 もう少し複雑なものが、海外での決済です。海外で知名度がないクレジットカードなど は、本来は海外では使えません。海外の業者がそのようなクレジット会社と加盟店契約を していないからです。ところが、アメリカの業者はアメリカのクレジット会社と契約して います。そこで、日本のクレジット会社とアメリカのクレジット会社をつなぐようなブラ ンドの会社が入る形もあります。 では、事例の話に入ります。キャッチセールスに引っかかって英会話教材を買ってしま ったということにしましょう。これも訪問販売にあたりますので、クーリングオフが使え ます。内容証明郵便を業者に送って、そのコピーをクレジットカード会社に送ればいいの です。後日請求されることはありません。業者に対して代金支払義務がないという抗弁を クレジット会社にもするわけですね。 一方、海外旅行でクレジットカードを使った場合どうなるんでしょうか。まず、アメリ カの業者には特定商取引法の適用がありません。この場合は先ほどのようにクーリングオ フ通知を送るという方法は使えません。まずは日本で会員契約をしているクレジット会社 と交渉することになります。日本のクレジット会社は、つなぎのブランドの会社を通じ、 海外のクレジット会社に連絡し、そのクレジット会社は業者に調査をすることになります。 クレジット会社は、業者が変なことをしないかを監視する義務があって、それは海外でも 同じなのです。そして、例えば業者が偽物を販売していることが明らかなケースなどでは、 クレジット業界のルールで、精算をして消費者にお金をバックしましょう、ということに なっています。このことは「チャージバック」と言われています。ですから海外の場合は クーリングオフはできませんが、みなさんが会員契約をしているクレジット会社と交渉す ればなんとかなります。2 か月くらいかかりますが、その間は引き落としも止めてくれるの で、これで解決できることになります。 以上がクレジットカードに関する話です。 第 3 劇場型投資詐欺に関する話 みなさんは未公開株詐欺と言う言葉を知っていますか?実体のない会社の株を売り付け るんです。無価値である株を「上場すれば 10 倍に値上がりする」と言って売り付けるんで すが、その株はいつまでたっても値上がりしませんし、いつの間にかその会社の実態もな くなってしまいます。このようなケースに一度引っかかると、詐欺業者間で使われる名簿 に名前が載り、繰り返し勧誘を受けることになることもあります。 劇場型詐欺というのは、例えば、詐欺師が高齢者のところに電話をし、 「ゆうちょ銀行で す」などと騙って「今A社の株を探しています。売ってくれませんか?」と言うんです。 次にA社のパンフレットが送られてきます。今度は野村證券を騙って「野村証券です。A 社の株を持っていませんか?」とか、みずほ証券を騙って「みずほ証券です。A社の株を 売っていただけませんでしょうか?」と立て続けに言ってきます。最初は不信感を持って いても、有名な金融機関から何度も同じことを言われるので、あたかもA社がいい会社の ように感じてきてしまうのです。しまいには高齢者の方からA社に電話をして、株を買い たいと言って、100 万円を振り込んでしまうんです。 実際、この高齢者に電話をしているのは同じグループ内の人間で、同じマンションの一 室から電話をしていることもあります。高齢者からすれば本当の業者や銀行だと思ってし まうんですね。特にだまされてしまうのは、独り暮らしの高齢者です。普段話し相手がい ないと、ついついそんな電話でも話を聞いてしまい,信じてしまうのです。一度お金を振 込んでしまうと、いわゆるカモリストに載ることになり、他の詐欺師から電話がきて、と いう悪循環に陥ってしまうんですね。 次に詐欺集団が使う固定電話以外の他のツールですね。一つは携帯です。彼らは携帯の レンタルサービスを使います。他にも、携帯から発信するが、途中業者を挟むと、 「06」と か「03」にするというような転送サービスを利用していることもあります。そして、この ようなサービスを利用する際の契約時には身分証明書が必要なのですが、大概が「偽造免 許証」だったりします。レンタル業者も転送サービス業者も、自社のサービスを使ってく れさえすればいいので、利用者の素性をあまり確認しません。ですので、偽造免許証でも 簡単に利用できてしまいます。 次にバーチャルオフィスを使っている場合です。オフィスがないのに、あるように見せ るサービスです。バーチャルオフィスは、その住所が東京の一等地にあって、そこにオフ ィスがあるように仮装してくれたり、電話をとってくれたり、郵便も受け取ってくれます。 詐欺集団はこれを悪用するんですね。未公開株詐欺で言えば、例えばA社が存在している ように見せないといけないので、バーチャルオフィスを本社として登記します。ここでも 偽造の証明書が使われていることも多いです。 あと問題になっているのが法人登記の問題です。例えば、商業登記簿には各取締役の名 前が載っているんですが、平取締役には住所の記載がありません。平取締役の登記には印 鑑証明書を法務局に出さなくていいので。ですので、住所が分からない以上、私達が依頼 を受けても責任追及できません。かろうじて代表取締役の氏名と住所がありますが、これ もダミーであることが多いです。まったく詐欺業者と関係ない個人がわずかな値段で印鑑 証明書や住民票を買うのです。そして、それらの書類を用いて会社設立の登記をしてしま うのです。印鑑証明書等を渡した人からすれば、いつの間にか代表取締役にさせられてし まっているのです。取締役の登記をするためには、株主総会の議事録と承諾書さえあれば よく、これらは公的な証明書でもないので、極端な話ですが実在していない人でも取締役 として登記できてしまうのです。実際には、漫才師か宝塚の俳優かと思わせるような名前 が記載されていることもあり、本当にその人物が存在するのか疑ってしまいます。このよ うに取締役の印鑑証明書を提出させないなど、所在を確認しないことは、登記制度の不備 だと思っています。私達は、現在、この問題を法務省に訴えていますので、今後大きな問 題になってくるかもしれません。 詐欺集団に辿りつけるかどうか、ということですが、まず携帯会社に弁護士会からの照 会により問い合わせをします。これを地道にやって調査していくわけです。ですが、どこ かで偽造免許証などが出てきて、手詰まることもあります。結局加害者に辿りつけずに終 わるということもあります。 一方、振込め詐欺救済法に基づく解決というのもあります。高齢者が未公開株詐欺の代 金を振込んだ場合、この法律では犯罪の疑いがあるということを銀行に申告すれば、その 口座を一旦凍結できます。後は時間をかけて裁判をすればお金を取戻すことができます。 凍結を解除するには、業者の側で犯罪ではないことを証明しないといけないのですが、こ の証明は業者にとって大変です。ただ、業者も心得ていて未公開株の代金を振込んだら電 話して下さいというようなことを言って、電話があれば出し子がすぐに引き出しますので 口座凍結をしても空振り、ということもあります。また、実際に凍結された口座にお金が あっても、別の被害者が振込んだのかもしれないというもどかしさもありますが、私達は 何とかしてお金を取り返しています。 第 4 過失相殺に関する話 最後に過失相殺について少し説明します。先物取引やハイリスクな商品の取引を何のリ スク説明もなしに大量に勧誘され、数か月の間に数千万単位でお金を失う、という相談が あります。私達としては、何とか裁判にもっていきますが、最終的に取引をした人にも過 失があるということになって、例えば過失相殺 5 割とか言われることがあるんです。裁判 所という中立の立場から見ると、取引をした人もリスクについてうっかりしていて、過失 あるよねとなるのかも知れません。ですが、業者がこのような違法な勧誘を故意でやって いることも少なくなく、取引をした人が多少うっかりしていたとしても、業者が故意の場 合にまで過失相殺を認めていいのかと最近思っています。過失相殺というのはもともと交 通事故のようにお互いにうっかりがあった場合に,損害を公平に分担しましょうというも のであるべきです。取引をした人もリスクについてうっかりしていたけど、それを分かっ て故意で勧誘をしている業者に関しては過失相殺しないという風にすべきだと思います。 実際にも最近は故意違法勧誘に対しては過失相殺を認めないと言ってくれる裁判例も出る ようになってきています。 以上が今日の話になります おわりに 最後にみなさんにお話ししたいことがあります。 私が 2 年 3 年のときを振返ってみると、 何も目的を持つわけでなく非常にいいかげんな学生生活を送っていたなと思います。私の 場合、ようやく 4 年になって司法試験に向けて勉強を頑張ったのですが、今考えても非常 にその 2 年間はもったいなかったなと思っています。2 年、3 年であるみなさんは、そのよ うにいい加減な学生生活を送ることなどなく、部活でも、バイトでも何でも目的をもって なにかをしてほしいと思います。たとえば就職の関係でもとれる資格を今のうちにとって ほしいなと思います。私は修習中に簿記をとってよかったなと思っています。大学生活も まだ長いと思いますので、輝かしい大学生活を送ってほしいなと思います。 以 上
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