本人中心支援とケアマネジメント ~相談支援の原点を確認する~

【講義2】
本人中心支援とケアマネジメント
~相談支援の原点を確認する~
大正大学 人間学部社会福祉学科
教授 沖倉 智美
本時の目的
相談支援及びその担い手としての相談支援専門員の質向上に向け、相談支援従事者初任者研修の告示及び
標準カリキュラムにおける講義科目を中心として、研修のポイントを再確認することを目的とする
0.そもそも相談支援とは
相談支援とは、
「先見性(今後を見通す力)
」に基づく「移行期におけるつながる支援(縦のマネジメント)
」と
「俯瞰性
(全体を見渡す力)
」
に基づく
「関係者の協働による支援ネットワークの構築
(横のマネジメント)
」
とを実践すること
いずれの場面においても、その中心には「本人」と「相談支援専門員」とが位置していること
相談支援専門員とは、
「(基本相談を基盤として、
)サービス等利用計画作成を行う個別支援」だけではなく、
「協議会活動を核とした地域づくり(ネットワーク構築による地域力の向上、社会資源の開発)」をも視野
に入れ、この両者に連続性と整合性をもって取り組むことができる人材
ソーシャルワークのグローバル定義(日本語訳版)
2015 年 2 月 13 日
ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、
実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、
ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の
知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさま
ざまな構造に働きかける。
この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。
1.ソーシャルワークの多様性と統一性
グローバル・リージョナル・ナショナル
2.「先進国」の外からの声の反映
3.集団的責任の原理 「人権」の日常レベルでの実現、個人の権利と集団的責任の共存
4.マクロレベル(政治)の重視 マクロの社会変革・社会開発(⇔ミクロの問題解決)の強調
5.当事者の力 当事者の力を重視し、主役はあくまで当事者。人々のためというより、ともに働く
6.「ソーシャルワーク専門職」の定義?
7.ソーシャルワークは学問でもある 「専門職であり学問である」
8.知識ベースの幅広さと当事者関与 双方向性のある対話的過程を通して当事者の力と主体性を重視
9.(自然)環境、
「持続可能な発展」
10. 社会的結束・安定
→ 相談支援はソーシャルワークであり、相談支援専門員はソーシャルワーカーである
1.相談支援の基本姿勢
相談支援において重視すべき理念等について説明することができる
(1)ノーマライゼーション
ノーマルとは →「想像力」と「創造力」
→「多様な選択肢があること」
「YES も NO も言えること」
(2)ソーシャルインクルージョン
インクルーシブな支援とは → (障害)福祉施策だけではなく、
「一般施策」を視野に入れて
(3)エンパワメントとストレングス
「生活のしづらさ」を把握するだけではなく、「強み」を見極め、取戻し、強化する
(4)ICFの理念に基づく支援の展開
「客観的次元(国際生活機能分類;ICF)
」
心身構造・機能(Impairment)
↓↑
環境
健康状態
活動(Activity)
背景因子
個人
↓↑
参加(Participation)
※「促進因子」と「阻害因子」
「医学モデル(問題志向型)
」 と 「社会生活モデル(目標志向型)
」
「主観的次元(体験としての障害)
」の重要性
2.障害児者の地域生活支援
障害児者の地域生活における社会資源の役割や支援内容を説明することができる
地域生活支援とは、
相談支援の「目的」であり、
① 個別性を重視した地域生活の総合的支援
住まいの場、日中活動、余暇支援等、個々の置かれた状況により多様な視点での支援が必要
② 地域移行・地域定着支援の推進
長期にわたり入院している人や施設に入所している人が、地域で普通に暮らすための支援プロセ
スを理解することが必要
③ ライフステージを視野に入れた継続的な支援(移行期の重要性) around 6・18・40・65
3.ケアマネジメント概論
ケアマネジメントのプロセスと技術について説明することができる
ケアマネジメントとは、
障害者の地域生活を支援するための「技法」であり、
計画そのものを作る「プランニング」だけではなく、本人と事業所とが出会う「インテーク」
、計画作成
に当たっての「アセスメント」
、計画に基づく「実施」
、サービス提供による変化を確認する「モニタリ
ング」
、事業所の変更やライフステージの移行に伴う「終了と事後評価」を行う
一連の相互連関的循環プロセス
三種の神器としての「本人ニーズ中心」 「チームアプローチ」 「社会資源の改善・開発」
4.計画作成とサービス提供のプロセス
サービス提供の一連のプロセスを説明することができる
(1)サービス等利用計画・個別支援計画・相談支援専門員の位置と役割
・サービス等利用計画は、
「地域生活総合支援計画」であること(
「等」の意味)
・本人が望む生活とその実現に必要なものの探索、それを本人に結びつける方法の検討
・ストレングスを見極め、エンパワーの方法を探り、サービス提供により変化を促し、
「自立」へ向かう
・サービス等利用計画(生活トータルプラン)と個別支援計画(活動プラン)との丁寧な相互確認
・相談支援専門員とサービス管理責任者の協働作業
(2)サービス等利用計画(個別支援計画)の質向上(質担保)のために
①ニーズ把握(アセスメントは、どのような視点で、誰が、どのように行うのか)
・本人の思いと家族の考え、そして相談支援専門員(やサービス管理責任者)の見立て
・アセスメントシートの功罪
・社会参加や地域生活はオプションか
・障害の重い人たちのこと
・多角的な視点で…ケース会議の重要性①
・「地域を知ること」 と 「サービス事業所等を知ること」
②目標設定と役割分担
・本人の思いと家族の考え、そして専門員(やサビ管)の見立て
・障害があると夢をみてはいけないのか
・誰が最後の決断をするのか、責任の所在は
・目標の共有と実現への決断…ケース会議の重要性②
③目標レベルと取り組み期間の設定
・本人の思いと家族の考え、そして専門員(やサビ管)の見立て
・高すぎる目標と低すぎる目標
・努力目標と支援目標
・目標達成の期間設定…短中長期目標を立てられますか
・誰がその支援を担当するのか
④実施と振り返り…モニタリングの恒常化を目指して
・本人の思いと家族の考え、そして専門員(やサビ管)の見立て
・顔の見えない「サービス等利用計画」
・サービス事業所等に対する「指示書(アセスメントや支援の伝達)
」としてのサービス等利用計画
「量(種類や時間数)
」だけではなく、
「質(具体的支援内容と方法)
」をどう記述するのか
・サービス提供によって変化した本人の力や周囲の環境を確認し、調整を行う「モニタリング」
(3)これからしなくてはならないこと
① サービス等利用計画作成と実施は「契約」です…だから一緒に作りましょう
② 本人の思いに耳を傾けていますか…「来年の今頃、どこでどうしていたい?」
③「していること」と「していないこと」…自分の業務アセスメントの客観性
④「あるもの」と「ないもの」…社会資源(サービス事業所等)のアセスメント
⑤「本人」を変えるのか、
「環境」を変えるのか
…私たちの支援の目的は、本人を矯正することではない
⑥誰に寄り添って支援していくのか…家族との関わり方
⑦自分たちのしていることを「説明できること」 と その証拠として「記録に残すこと」
…「個々の生活」と「地域」の“Before”&“After” の可視化
5.相談支援における権利擁護と虐待防止
権利擁護の視点と虐待防止などにおいて果たすべき役割を説明
することができる
(1)「障害者の権利に関する条約」を批准して
・2014 年 1 月 20 日、140 番目の締約国となり、2 月 19 日、国内で発効
・2016 年 2 月 障害者の権利に関する条約第1回日本政府報告 提出(障害者基本計画の見直し)
・「私たち抜きにして、私たちのことを決めないで(
“Nothing about us without us”
)
」
・障害の社会モデル
「機能障害のある人と態度及び環境に関する障壁との相互作用であって、機能障害のある人が他
の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずる」
(2)「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」は機能しているか
・
『平成 24 年度・25 年度・26 年度「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法
律」に基づく対応状況等に関する調査結果報告書』
・3年後見直し スキームの再検討、通報義務の範囲再考、通報制度の周知啓発、虐待防止法間の
移行と連携、養護者に対する支援 → 法改正にとどまらずその運用上の工夫や体制整備が重要
(3)「「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」いよいよ施行
・2013 年 6 月成立。準備期間を経て、2016 年 4 月 1 日施行
・2015 年 2 月 24 日「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」
(閣議決定)
「対応要領」と「対応指針」
、障害者差別解消支援地域協議会を始めとする支援措置のあり方
…「基礎的環境整備」と「合理的配慮の提供」
合理的配慮の具体例を検索できるウェブサイト「合理的配慮サーチ」
(4)意思決定支援と相談支援専門員
・「合理的配慮」としての意思決定支援…本人と支援者との協働作業
・支援者とは本人の意思決定を支援する環境の一部かつ重要なものであり
支援は意思決定と分離せず、本人が選択可能なものとして意思決定過程に組み込んでおくべきもの
・本人の判断能力の最大化のために必要な支援
「環境への間接的支援」 と 「意思決定場面への直接的支援」
「制度化された支援」 と 「日常生活場面における支援」
6.相談支援体制の確立
協議会の必要性と運営方法について説明することができる
(1)「基幹相談支援センター」の機能
・基盤としての「指定相談支援」…計画相談支援の実践を積み重ねること
・指定相談支援を応援し、フォローする「委託相談支援」
・一般的な相談支援(障害者相談支援事業)
・基本相談の重要性
→相談支援専門員の実践を支え、地域全体の相談支援体制の実態を把握し、行政との連携を担保
(2)人材育成の方法論としてのスーパービジョン
・求める人材は「スーパーマン」ではなく、
「コーディネーター」
・「スーパーバイザー」は、どこにいるのか
→事例検討会やピアスーパービジョンを効果的に行うためには
互いの実践を率直に評価し合う前提として、実践の「ガイドライン」 と「同僚性」の構築
(3)「協議会」の役割
・「地域で暮らす」 を 「地域で支える」
・地域移行・地域定着支援をどう実現するのか
・個々の事例から地域課題を抽出、解決への協働
・社会資源は、質量ともに不足…「開発すること」 と 「有効活用すること」