リバースモーゲージの有効活用術

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高齢者が安心できる住まいの実現に向けて
リバースモーゲージの有効活用術
住宅ローンアドバイザー
淡河 範明(おごう のりあき)
1990 年銀行入行、2000 年外資系証券会社入社、2007年に住宅ローン専業のコンサルティング会社であるホームロ
ーンドクター株式会社設立。約 500 社の工務店と提携し、主に戸建住宅を希望するお客様のための資金計画、住
宅ローン選択のサポートを行い、実務面までサポートを行うのが特徴。
日本モーゲージサービス、ジェイ・モーゲージバンク、ファミリーライフサービスの代理店。
著書、コラム執筆など複数のメディアで情報発信を行う。
『家を購入したらずっと住み続ける』と、誰もが漠
は次のようになっています【表1】
。
然と考えているかもしれません。しかし、それを自
このような状況で、高齢期になってどのような家に
分が死ぬまで実現できるとしたら、多大な努力と奇
住みたいと考えるのでしょうか。平成26年度の高齢
跡が必要だと考えます。
者白書には表2のように高齢期に住みたい住居形態
たとえば、家族構成の変化、進学先の選択、就
というアンケート結果があり、高齢期に住みたい住
業状態・収入の変化、はたまた離婚、ケガ・病気な
宅形態は持ち家が75.2%圧倒的に多いことがわかり
ど、ずっと住み続けられなくなる要因を上げたらきり
ます。表1の90%前後の高い持ち家比率にくらべて、
はありません。すべての困難を乗り越える準備をし、
表2の住みたい住居形態は75%となっていて、この
あとは運もなければ、安心しながら永く住み続けら
差である約15%は、サービス付き高齢者向け住宅や
れないからです。
有料老人ホームを希望する13.5%に振り替わっている
統計局の家計調査から高齢者の資産負債の状況
可能性が考えられます【表2】
。
表1 家計調査<貯蓄・負債>貯蓄及び負債の1世帯
当り現在残高の世帯主の年齢階級別(抜粋)
持ち家に住み続けたい75%の方も、そうでない25
50∼59才 60∼69才
持 ち 家 比 率
70才∼
87.2%
91.6%
93.5%
一定のお金の準備が必要となりますが、それはどの
806万円
577万円
445万円
くらいの資金が必要となるのかを検討してみたいと
年
間
収
入
金
融
資
産 1595万円 2385万円 2385万円
住宅・土地の負債
%の方も、安心して思い通り住み続けるためには、
923万円
526万円
165万円
思います。
出所:統計局2013年
表2 高齢期に住みたい住居形態
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●持ち家の場合
表4によると、必然性の高いものだけでなく、快
持ち家は、約90%の人が取得済みであるため、こ
適に暮らすための必要なリフォームもあるようです。
れから取得する人は少ないという前提で考えます。よ
表3からは、それらの費用が、少なくとも300万円以
って、これから住居費としてかかるお金は、リフォー
上、およそ500∼1000万円前後かかっているようです。
ム費用や固定資産税等、そして場合によっては住宅
【持ち家マンション】
ローンの返済となるでしょう。ここでは、リフォーム
マンションの場合は、戸建てと違って共用部分に
費用に特化して検討してみましょう。
対して修繕積立金がありますので、戸建てよりもリフ
ォーム金額が少ないことが予想されますが、前出の
【持ち家戸建てのリフォーム費用について】
「平成25年度 住宅リフォーム実例調査(平成26
住宅リフォーム実例調査によれば、次のようになって
年3月 一般社団法人住宅リフォーム推進協議会)」
いて、戸建てのそれとくらべても、やや安いといっ
によれば、60代、70代は、次のようなリフォームの
た程度でしかありません【表5】
。
契約額の分布となっています【表3】
。
表5 リフォーム契約金額:マンション
表3 リフォーム契約金額:戸建て
100万円
以下
100万円超 300万円超 500万円超
1000万円
不明
300万円 500万円 1000万円
超
以下
以下
以下
60代
2.7%
16.7%
15.3%
30.7%
31.7% 2.9%
70代
7.9%
20.6%
13.9%
30.9%
24.2% 2.4%
リフォームは、損傷や経年劣化等を直すための必
100万円超 300万円超 500万円超
100万円
1000万円
不明
300万円 500万円 1000万円
以下
超
以下
以下
以下
60才∼ 5.1%
19.2%
15.2%
37.4%
22.2% 1.0%
マンションのリフォームの目的についても前出の調
査結果をみてみましょう【表6】
。
表6 リフォーム工事の目的:マンション(複数回答)
要不可欠なリフォームと、設備交換や性能向上など
のやや大がかりで必要性は高くないが、実行した方
が快適になるリフォーム、利用目的の変更等も含む
増改築など種類があります。
その内容を見てみましょう。リフォームの目的は、
使い勝手の改善、自分の好みに変更するため
住宅、設備の老朽化や壊れたため
老後に備えたり、同居する高齢者等が暮らしや
すくするため
省エネルギー可、冷暖房効率の向上等を図るため
耐久性向上のため
耐震性や災害かあの安全性の向上を図るため
60才以上
80.8%
68.7%
41.4%
26.3%
13.1%
2.0%
同調査によれば、次のようなものが多いようです【表
リフォームの目的は、戸建てと大きく異なり、使い
4】
。
やすさなど快適に暮らすためのものと、老朽化など
表4 リフォーム工事の目的:戸建て(複数回答)
60代
使い勝手の改善、自分の好みに変更する
ため
住宅、設備の老朽化や壊れたため
老後に備えたり、同居する高齢者等が暮
らしやすくするため
省エネルギー可、冷暖房効率の向上等を
図るため
耐久性向上のため
耐震性や災害かあの安全性の向上を図る
ため
70代
68.9% 53.3%
への対応など必然性の高いものが中心となっていて、
住宅性能の向上を目的とするものが少ないことが確
65.5% 57.6%
認できます。そうであっても、少なくとも300万円以上、
46.2% 47.9%
およそ500∼1000万円前後の金額がかかることを覚
39.0% 30.3%
悟しなければならないようです。
35.5% 38.8%
23.1% 33.9%
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高齢者が安心できる住まいの実現に向けて
●持ち家でない場合
から数千万円の資金を準備しておかなければならな
持ち家でない住処とは、賃貸か老人ホーム等のよ
いことがわかりました。これらの準備の必要性は、
うです。
なんとなくはわかっていても、予め正確に把握し、
賃貸は、おそらく現在も住んでいる賃貸住宅、公
それを目的とした資金を準備している人は少ないでし
営住宅のことで、これまで家計で対応してきている
ょう。
ので、退職後の家計での支払が可能かどうかを確
表1によれば、50∼59才は平均1595万円、60∼
認する必要があります。また、更新料や駐車場代な
79才で2385万円の金融資産があることは確認できま
ども注意しておきたいところです。
すので、この金額で十分なのかどうかを検証しまし
老人ホーム等とは、サービス付高齢者向け住宅や
ょう。
有料老人ホームになります。おそらくこれから入居す
実際の必要金額は、個別事情により大きく変わる
ることとなるので、いずれも入居費用等の初期費用
ため、家庭ごとに精査しなければ正確には把握でき
と、月額費用が必要となります。入居費用といっても
ません。そこで、前述のリフォーム費用、住宅ローン、
様々で、サービス付高齢者向け住宅は0∼数百万円
入居費用等の他には、生活費の補填などの住宅に
ですが、有料老人ホームであれば、数十万円から数
関わる費用を以下の通り仮定したケースを作り、資
千万円まで、場合によっては1億円超えもあるようです。
金の過不足額を試算してみます。前提条件としては、
ただし、持ち家があっても健康上の理由で有料老
25年間の夫婦とも生き続けるという前提で、健康状
人ホームを利用することになることもあります。
態は良好なままとします。また、家計収支は、家計
調査(2014年)から表7を基にします。
●資金需要の試算
① リフォーム費用
これまで高齢期でも快適に暮らすためには、持
前述の通り、少なくとも300万円、通常では500∼
家であれば300∼1000万円程度はリフォーム費用を、
1000万円程度の費用がかかることが見込まれます。
有料老人ホーム等を検討している場合には数十万円
ここでは500万円かかるとします。
表7
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② 老人ホーム等の入居費用
前述の通り、入居費用として数十万円から数百万
円かかることが見込まれます。ここでは、500万円と
します。月額費用は14万円としますが、これはこれ
までの家計収支から賄えるものとします。
③ 住居費
表8 費用の合計
(単位:万円)
過不足
①リフ ②老人
④生活
ォーム ホーム ③住居費
合計 (2385万円)
費補填
費用 入居
との差分
1
500
−
500 1788 2788
▲403
2
500
300
500 1788 3088
▲703
3
500
−
− 1788 2288
97
4
500
300
− 1788 2588
▲203
5
−
300
900 1788 2988
▲603
6
−
−
1500 1788 3288
▲903
持ち家がある場合、住宅ローン残高が残っている
※数字のない欄は、費用がかからないということ
可能性があります。表1をみると50代でも900万円以
60∼79才の金融資産が2385万円であれば、かな
上、60代で500万円以上、70代で100万円以上の残
りのケースで不足しています。あくまでも、前提条件
高があるようです。住宅ローン残高がある場合には、
をおいた試算ですが、資金が不足しないように、コ
500万円とします。
ントロールすることが重要であることがわかります。
毎月の返済額は、借入金額、借入期間、金利に
そして、これよりも長生きしたり、病気をしたりする
よりほぼ決まりますが、表7の家計収支を見ると、
場合の試算は、資金がもっと足りなくなることを意味
住居費が7.2%で約15千円弱であり、住宅ローン返済
しますし、年金支給額の減少が予見されていること
には不足なので、預貯金の取り崩しでの対応が必要
から、生活費補填額は数百万円単位で増加し、資
となるでしょう。
金不足は更に深刻化するでしょう。
固定資産税等は、表7の住居費でまかなえている
と仮定します。
●資金需要のあるセグメント
持ち家がない場合、賃借契約は個々に異なります
これで、資金需要が潜在化しているセグメントが
が、契約ごとに異なってくるので一概には言えませ
見えてきました。生活資金の補填のために、金融資
んが、表7の住居費からの超過負担分が5万円とし
産の大部分を使ってしまうので、資金的な余裕がほ
て試算します。また、賃貸で老人ホームに入る場合、
とんどなく、何かしらまとまった資金需要があると、
定年退職直後から10年経過して入居したと仮定する
金融資産では対応できないようです。
と、15年間で900万円となります。ずっと賃貸の場合
① 持ち家があれば、持ち主にとって修繕の必要性
であれば25年間で1500万円、いずれも更新料はか
と正確な見積もりをしてもらいましょう。建築後
からない前提です。
から一定期間経過していれば、リフォーム費用は
④ 生活費の補填
300∼1000万円くらいかかることが予想され、そ
表7によれば、生活費が平均で59,610円不足して
の金額を準備している人は少ないでしょう。現実
います。これは、25年間であれば1788万円の現金
に、工事が必要だと気がついても、資金の準備
が必要であるということを試算されます。
ができていなければ、なかなか借入金をしてまで
上記をもとにして、必要金額は次のようなパターン
工事をしたいと考える人は少ないでしょう。高齢
ごとに異なるものと考えられます【表8】
。
者であれば、なおさら借入に対してネガティブに
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高齢者が安心できる住まいの実現に向けて
反応すると思います。
② 持ち家があれば、戸建て、マンションにかかわら
がら融資先にはならない可能性が高く、対象外のセ
グメントといえます。
ず、老人ホームの入居準備を若い頃から準備をし
いずれにしても、定年退職直後は退職金等をもら
ていないでしょう。持ち家がない場合には、ある
って、目先は一時的に金銭的なゆとりがある方が多
いは準備をしているかもしれません。また、老人
いと考えられます。長生きリスクや年金減少リスクを
ホーム等の入居費用は、選択すれば安い先を選
説明し、預貯金を取り崩すよりは、資金をキープして
択することが可能なのですが、自分が望むまたは
おくことの重要性がわかっておらず、簡単で便利で、
必要なサービスを提供しているところが、どれくら
負担が小さい資金調達方法があると知らないので、
いの費用がかかるのか、具体的な数字を見なけ
有望なセグメントであっても、資金調達を検討する可
れば、準備が必要とは考えないでしょう。
能性は低いでしょう。
③ 住居費は、持ち家がある場合は、住宅ローン残
高があるとその分、資金が必要となるので、資金
●資金調達について
需要が大きいと考えられます。しかしながら、家
資金不足が生じた人はどのような対応を考えるべ
を担保に家を借りようとしても、既に担保が設定
きでしょうか。
されているので、借り入れすることは難しいと思わ
金融資産が十分でなかったという場合、支出を抑
れます。
制する、親族からの援助を受けるか、資産を売却す
持ち家がない場合には、年金生活では賃貸料
るか、新たな収入を作るか、借入する、のいずれか
の負担が相対的に大きいようで、生活費の補填が必
となるでしょう。ただ、高齢期であるため、採用で
要だと思われます。
きる方法が限られています。資産売却や借入はなる
まとめると次のようになります。
べく避けたいところです。それらは、他の手段を講
持ち家があれば、リフォーム費用が必要だという
じてもどうしても資金不足となる場合の最後の手段
ことは、どの時点でも説明すれば理解できるでしょ
だといえます。
う。これが最も有望なセグメントだと考えます。
今回は、借入金の種類を見ていきます。
老人ホームの費用の準備は、持ち家の人には、お
① 借入金の種類
客様にそのニーズが顕在化しない限り、準備の必要
高齢になれば金融機関からまとまったお金を借り
性を訴えても、届かない可能性が高く、有望なセグ
るのは簡単ではありません。以下、可能性がある選
メントとはいえないでしょう。
択肢の比較表を作成してみました【表9】
。
賃貸の方は、老人ホームの必要性をある程度は理
返済を安定的に行うには、高齢者であれば出来
解できるから、二番目に有望なセグメントかもしれま
る限り返済額を小さくしなければなりませんが、借
せん。
入期間が短くなってしまうため、まとまった金額を借
住居費用は、持ち家があって退職後も住宅ローン
りると返済負担は重くなりがちです。
が残る人には、高い資金需要がありますが、残念な
不動産担保ローンやキャッシング等は、特に金利
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表9 高齢者向け融資商品の概要
不動産
担保ローン
住宅ローン
年齢制限
融資金額
なし
100万円∼10億円
資金使途
自由
期間
∼30年
子供が70∼80才まで
8000万円∼1億円まで
銀行は住宅購入・増改築
フラット35は住宅購入のみ
∼35年
返済方法
元金一括、
元利均等
元利均等、元金均等
金利
3.0∼8.76%
手数料
融資額×2.0%
担保
不動産
0.35∼3%程度
定額:∼5万円
定率:∼2%
不動産
連帯
保証人等
原則不要
連帯保証または連帯債務
高齢者向け
返済特例制度
(住宅金融支援機構)
60才∼
∼1000万円
部分的バリアフリー工
事または耐震改修工事
∼20年
55∼80才
100∼1億円
・フリー
・住宅のみ
終身
不要
不要
0∼10.8万円
不要
不動産
不動産
機関保証
ただし火災保険に質権 機関保証等
設定
カードローン・
キャッシング
69∼79才まで
∼500万円
自由
リバース
モーゲージ
−
残高スライドリボ 元 利 均 等 、 元 金 均 等 、
ルビング、元利定 元金一括
元金一括
額リボルビング
4.6∼14.6%
1.18∼1.56%
2.475∼5.25%
不要
※各商品には、高齢者向け返済特例制度以外には複数の金融機関が提供しているため、特定の商品を中心にいくつかの金融機関の商品性
を反映させて記載してあります
が高く、負担が重くなります。
ば、なかなか商品としてありません。高齢者に融資
住宅ローンについては、銀行系の場合は、収入
したがらない理由は次のようなものが考えられます。
が年金のみであれば対象となりにくいので注意が必
・退職後に返済期間がある場合、安定的に返済で
要です。フラット35は、年金受給者でも融資対象で
ある上、親子リレーであれば子供の年齢に応じて借
入期間が設定できます。2015年4月に中古住宅の購
入とあわせて行うリフォームとの一体型がリリースさ
れ、これからは有望な商品でしょう。
高齢者向け返済特例制度は住宅金融支援機構が
きるという確証がもてないから
・さらに年金収入は、貸金業法上返済原資としてみ
なせないから(一部例外を除く)
・返済期間が短く返済金額が大きくなるため、家計
には負担が大きくなりやすいから
「自宅の売却資金で資金回収」
取り扱っていますが、資金使途が限定されているた
ローンは、収入をベースにした返済計画の妥当性
め、自由に利用することができません。
を判断して貸出しするのが一般的です。担保は、あ
② リバースモーゲージ
くまでも万が一のための保全措置という位置づけで
表9を比較検討すると、リバースモーゲージはとて
す。しかし、自宅を売却した資金を返済原資とする
も有効な商品であるように見えます。
のは、あまり例がありません。蛇足ながら、あくまで
それは、高齢者の方が自宅を担保として終身利
も自宅のみが担保の対象であって、他の不動産を持
用できるよう、特別に作られた融資制度だからです。
っていても、それを担保により多くの資金を借りられ
残念ながら、まだ十分に普及しているとはいいがた
るという訳ではありません。
いのですが、その特徴を簡単に解説しましょう。
また、必然的に自宅の担保価値の範囲内での貸
「高齢者向け」
出しとなります。建物価値の評価は金融機関(また
通常のローンであれば、55∼60才以上に融資は、
は保証会社)が行いますが、土地の担保評価の40
スルガ銀行や親子リレーローンのような例外を除け
∼80%を上限とします。つまり、土地の評価額があ
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2
高齢者が安心できる住まいの実現に向けて
る程度大きくなければ、借入金額は伸びない、とい
言えます。
うことです。また、取扱い地域を限定する銀行や、
また、
「物件が限定」される点も特徴です。
取扱い物件の担保評価額の下限額を設定している
リバースモーゲージは、ほとんどの場合、一戸建
銀行もあります。
てのみが対象です。それだけでなく、地域も首都圏
「貸す方法が3パターン」
などの都市部に限定されています。これは、担保価
貸す方法は、目的によって、そして金融機関によ
値が高く、流動性が高い地域でなければ回収リスク
り異なっています。
があると考えてのことでしょう。
・一定の年数にわたって定額を借りている年金方
東京スター銀行のみマンションを対象としているよ
式:主に生活資金を目的
・契約時にまとめて借り入れる一括方式:老人ホー
うです。
今度は、リバースモーゲージの問題点について事
ム入居費用、リフォーム費用など特定目的や自由
例にそって解説しましょう。
に使ってよい(事業性資金を除く)
事例1
・融資限度額までは自由に借入ができる極度額方
式:自由に使ってよい(事業性資金を除く)
年齢:78才
職業:自営業(個人事業主)
金融機関はすべてを扱っている訳ではなく、1種
年収:350万円
類のところもあれば、複数扱っているとこともありま
資金使途:リフォーム(配偶者の病気を機に、自
宅のバリアフリー化と壊れた屋根等の修繕)
す。
「返済方法は2パターン」
希望額:1500万円
通常は、元金と利息を毎月返済するケースが多い
場所:東京都江戸川区:40㎡
のですが、次のパターンとなります。
まず、不動産評価額は、坪単価100万円とすると
・元金と利息を契約終了時に一括返済する
(利息は、
約1200万円となります。担保価値の50%までが融資
毎月元金に組入れていく)
・利息は毎月返済し、元金は契約終了時に一括返
済する
可能額だとすると、希望額には全く届きません。土
地の担保評価が低かったり、十分な広さがなかった
りすることで、希望の借入ができない典型的な例で
前者は、契約期間中の返済負担がないため、家
す。
計にとってはとても楽な商品です。後者は、利息だ
資金使途であるバリアフリー化と修繕は、できな
けなので、返済はしなければならないものの負担は
ければ自宅に住むことを諦めなければならないとい
とても小さくなります。東京スター銀行の場合は預
う切実なものです。
金連動型であるため、預金を積めば返済額を更に軽
たまたま、千葉県にある工場の土地と建物があり、
減することが可能となります。
担保評価額で3000万円以上ではあったのですが、
このように返済負担が抑えられているため、収入
リバースモーゲージではそれは対象とすることはでき
が少ない高齢者にとって受け入れ易い商品であると
ませんでした。ただ、職場である土地建物を売却す
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る訳にもいかず、資金調達の相談がありました。相
囲内です。
談者はこれまで設備のローンを月25万円返済してい
問題は、住宅ローン残高があることで、リバース
て、それが終わったばかりで返済能力は十分にある
モーゲージの利用が難しいことです。
と考えていて、何か調達手段がないかと悩んでいま
融資の条件を抵当権設定第1順位としているため、
した。
住宅ローンが残っていると融資が難しいのです。た
問題点としては、自宅の土地の担保評価額で融資
だ、住宅ローン残高がないような家計は、どちらか
上限額が決まってしまう点です。
といえば家計管理能力が高いことが予想され、資
自宅の建物は、これからリフォームするので一定
金調達ニーズが低いと考えられます。
の価値があると考えられます。建物に投資をするの
誤解を恐れずに言えば、住宅ローン残高がある人
にそれが評価されないので、今回のように土地の面
ほど資金調達ニーズは強く、団信があるため死亡時
積が狭いと利用が難しいのです。また、自宅を担保
の債権回収リスクは小さいと考えられます。住宅ロー
にするのは前提として、自宅以外の物件が担保とし
ン残高がある場合でも、団信があること、抵当権順
て認められるのであれば、より利用する人が増える
位は第二順位であることを条件づけするなどの商品
のではないでしょうか。
性を改定することで、リバースモーゲージの利用は増
結果としては、工事代を抑え、リバースモーゲー
えるのではないかと考えます。
ジを借りられるだけ借りて、カードで資金を調達しま
また、生活費の補填のための資金需要は、非常
した。正直な感想としては、親族からの援助(子供
にリスクが高い取引です。長生きすると、担保余力
の連帯保証等や金銭提供)があれば、もっと簡単に
がなくなり途中から融資ができなくなるリスクがある
普通のローンを借り入れすることができるのですが、
からです。また、物件評価額が査定替えで下がり、
「子供の世話にはなりたくない」と頑なに主張される
融資残高を下回る場合には、その差額分の返済を
ので、他の手段の検討が難しかったのです。
しなければならないというリスクもあります。補填を
事例2
あてにしないような家計づくりをするのがよいのです
年齢:66才
が、それができずにリバースモーゲージに依存してし
職業:無職
まうことは、家計としては危ういとしか言いようがあ
年収:180万円(年金収入)
りません。資金調達ができなくなれば、他を探さな
資金使途:生活費
ければならないのですが、その時点ではもう選択肢
希望額:500万円
が見つからないかもしれません。
場所:東京都狛江市:50㎡
最後に、リバースモーゲージは、自宅を資金調達
その他:住宅ローン残高あり
の担保として利用するため、最終的には売却される
まず、不動産評価額は、坪単価100万円とすると
可能性が高い、という特徴があり、配偶者、相続
約1500万円となります。担保価値が70%までが融資
人達の納得を得る必要があるため、取扱いには注
可能額だとすると1050万円で、融資希望額は許容範
意が必要です。
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